説明

新規イソロンギフォレン−9−オン誘導体およびその製造方法

【課題】本発明は、新規なイソロンギフォレン−9−オン誘導体、好ましくはチロシナーゼ阻害活性を有する新規なイソロンギフォレン−9−オン誘導体、及び当該誘導体の製造方法、並びに当該誘導体を有効成分として含有するチロシナーゼ活性阻害剤を提供することを目的とする。
【解決手段】イソロンギフォレン−9−オンをアスペルギルス属またはグロメレーラ属に属する微生物で処理することにより微生物変換して、得られたイソロンギフォレン−9−オン誘導体を採取することによって、新規なイソロンギフォレン−9−オン誘導体を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なイソロンギフォレン−9−オン誘導体およびその製造方法、並びに当該イソロンギフォレン−9−オン誘導体を有効成分として含有するチロシナーゼ活性阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
イソロンギフォレン−9−オン((+)-isolongifolene−9−one;化合物〔1〕)は、ロンギフォレン骨格を有するセスキテルペンケトンである。イソロンギフォレン−9−オンは、1960年に初めてイソロンギフォレンから合成された。イソロンギフォレン−9−オンは、アスペルギルス ニガー(ATCC10549)、フサリウム リニ(NRRC875、NRRL68751)などの微生物変換により誘導体化されることが知られている(非特許文献1参照)。
【0003】
微生物変換とは、目的の化合物を得るために、生物触媒として生体中の酵素類を使用した生物学的な合成プロセスであり、穏和な条件下で位置特異的に化合物を産生することを特徴とする。ゆえに微生物変換は、生物活性化合物の選択的製造のための有利な方法である。
【0004】
微生物変換に用いられる微生物としては、グロメレーラ シングラータやアスペルギルス ニガーが挙げられる。
【0005】
例えば、グロメレーラ シングラータは、(-)-グロブロール(M. Miyazawa, T. Uemura, and H. Kameoka (1994). Phytochemistry, 37, 1027-1030)、(-)-α-ビサボロール(M. Miyazawa, H. Nankai and H. Kameoka (1995). Phytochemistry, 39, 1077-1080)、(+)-セドロール(M. Miyazawa, H. Nankai and H. Kameoka (1993). Chem. Express., 8, 573-576)、(+)-アロマデンドレンおよび(-)-アロアロマデンドレン(M. Miyazawa, H. Nankai and H. Kameoka (1995). Phytochemistry, 40, 793-796)、β-セリネン(M. Miyazawa, Y. Honjo and H. Kameoka (1997). Phytochemistry, 44, 433-436)、(+)-γ-ガジュネン(M. Miyazawa, Y. Honjo and H. Kameoka (1998). Phytochemistry, 49, 1283-1285)、(+)-ボルニルアセテートおよび(-)-ボルニルアセテート(M. Miyazawa, Y. Miyasato (2001). J. Chem. Technol. Biotechnol., 76, 220-224)、α-ブルネセン(M. Miyazawa, A. Sugawara (2005). Nat. Pro. Res., 2, 111-115)などの化合物を立体選択的に酸化して新規テルペノイド類に変換する。
【0006】
また、真菌の一種であるアスペルギルス ニガーは、(+)-フェンコン(M.Miyazawa, K.Yamamoto, Y.Noma and H.Kameoka, (1990), Chemistry Express, 5, 237-430)、1,4-シネオール(M.Miyazawa, Y.Noma, K.Yamamoto and H.Kameoka, (1992), Chemistry Express, 7, 305-308)、(-)-α-ビサボロール(M.Miyazawa, Y.Funatsu and H Kameoka, (1992), Chemistry Express, 7,573-576)、(-)-cis-ローズオキサイド(M.Miyazawa, K.Yokote and H.Kameoka (1995), Phytochemistry, 39, 85-89)、(+)-trans-ローズオキサイド(M.Miyazawa, K.Yokote and H.Kameoka (1995), Phytochemistry, 39, 85-89)等の種々の天然テルペノイド類を立体選択的に酸化し、新規なテルペノイド誘導体に微生物変換することが知られている。
【0007】
【非特許文献1】M. Choudhary et al. "Microbial Transformation of Isolongifolen-4-one" Helvetica Chimica Acta, Vol. 86 (2003) pp.3450-60
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、新規なイソロンギフォレン−9−オン誘導体、好ましくはチロシナーゼ活性阻害作用を有するイソロンギフォレン−9−オン誘導体を提供することを目的とする。また、本発明は、当該イソロンギフォレン−9−オン誘導体の位置特異的かつ立体選択的な製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、当該イソロンギフォレン−9−オン誘導体を有効成分とするチロシナーゼ活性阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、微生物の生物変換能力に着目し、グロメレーラ シングラータ(NBRC5257)やアスペルギルス ニガー(NBRC4414)のような異なる菌種および株種を用いたイソロンギフォレン−9−オンの微生物変換による新規生理活性テルペノイド類の産生を試み、その代謝産物を探索した。
【0010】
その結果、(+)−イソロンギフォレン−9−オンを基質としたグロメレーラ属またはアスペルギルス属に属する微生物の培養物中に、強いチロシナーゼ活性阻害作用を有する物質が産生されていることを見出した。
【0011】
本発明者らは、この(+)−イソロンギフォレン−9−オンを基質としたグロメレーラ属またはアスペルギルス属に属する微生物の培養物中に産生されるチロシナーゼ活性阻害物質を詳細に検討した結果、イソロンギフォレン−9−オン骨格を有する一連の化合物であることを確認すると共に、それらの単離、精製に成功した。
【0012】
したがって、第1の態様において、本発明は、
【化1】

のいずれかで表されるイソロンギフォレン−9−オン誘導体の製造方法であって、
(1)イソロンギフォレン−9−オンを基質として、当該イソロンギフォレン−9−オン誘導体を生産する能力を有するアスペルギルス属またはグロメレーラ属に属する微生物によりイソロンギフォレン−9−オンを処理する工程、そして
(2)当該誘導体を採取する工程
を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0013】
また、別の態様において、本発明は、
【化2】

のいずれかで表される遊離形または塩形のイソロンギフォレン−9−オン誘導体を提供する。
【0014】
さらに別の態様において、本発明は有効成分として上記イソロンギフォレン−9−オン誘導体を含有するチロシナーゼ活性阻害剤を提供する。
【本発明の効果】
【0015】
本発明で得られるイソロンギフォレン−9−オン誘導体は、チロシナーゼに対して顕著な活性抑制作用を示す。したがって、本発明のイソロンギフォレン−9−オン誘導体は白斑や黒皮症などの色素疾患の治療薬や美白化粧品の原料、食品などの褐変抑制剤、さらには病害虫駆除薬として極めて有用である。
【0016】
チロシナーゼは、動物、植物、微生物界に広く分布する酵素であり、シミやソバカスの原因物質であるメラニン色素の合成を触媒する酵素である。従って、チロシナーゼ阻害剤は、白斑や黒皮症などの色素疾患の治療薬や美白化粧品の原料、食品などの褐変抑制剤、さらには病害虫駆除薬などに極めて有用である。従来、チロシナーゼ阻害活性を有する化合物としては、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、グルタチオン、コウジ酸、アルブチン等が知られている。しかし、これらの化合物には低い経時安定性、低い黒色防止作用、強い細胞毒性、水分存在下の酸化による活性低下等の欠点があり(例えば、特開昭60−56912号公報、特開2001−316268号公報)、このような不都合を持たないチロシナーゼ活性阻害作用を有する化合物が求められていた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
用語の定義
本明細書中において使用される用語は、指示がない限り、当業者によって通常理解される通りの意味で用いられている。
【0018】
イソロンギフォレン−9−オン誘導体の製造方法
本発明の目的物質であるイソロンギフォレン−9−オン誘導体を製造するには、イソロンギフォレン−9−オンを基質として、グロメレーラ属またはアスペルギルス属に属するイソロンギフォレン−9−オン誘導体産生菌またはその生体内酵素によりイソロンギフォレン−9−オンを処理し、当該イソロンギフォレン−9−オン誘導体を採取すればよい。ここで言う「処理」とは、イソロンギフォレン−9−オンと菌体との接触、イソロンギフォレン−9−オンを菌体の培養培地に含有させて行う培養、発酵等の常套の微生物変換手段を含む意味で用いられており、「採取」とは、常套の分離、抽出及び精製手段を含む工程を意味している。
【0019】
ここでイソロンギフォレン−9−オン誘導体の製造に使用されるグロメレーラ属微生物の一例としては、グロメレーラ シングラータ(Glomerella cingulata)があり、これは独立行政法人製品評価技術基盤機構にNBRC5257として寄託されている。
【0020】
ここでイソロンギフォレン−9−オン誘導体の製造に使用されるアスペルギルス属微生物の一例としては、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)があり、これは独立行政法人製品評価技術基盤機構にNBRC4414として寄託されている。
【0021】
生体内酵素とは、菌が当該反応工程に利用している酵素として同定されるあらゆる酵素を意味し、適当な条件下、例えば菌体内の条件下におくことにより、菌そのものを利用している場合と同様に反応を進行させることが可能である。
【0022】
イソロンギフォレン−9−オン誘導体生産菌の培養に用いられる培地としては、使用する菌の育成あるいは所望の微生物変換に適した常套の培地を適宜選択することができ、当該菌が利用し得る栄養源を含むものであれば液体状でも固体状でもよいが、大量のイソロンギフォレン−9−オン誘導体を得るためには液体培地を用いるのが好ましい。
【0023】
この培地には、当該菌を培養するために必要な物質、例えば当該菌が同化し得る炭素源、消化し得る窒素源および無機物等が適宜配合される。炭素源としては、ブドウ糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖、デンプンなどが、窒素源としては、酵母エキス、肉エキス、ペプトン、ポリペプトン、マルトエキストラクト、硝酸ナトリウムなどが用いられる。また培地にはナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの塩類が含まれ得る。
【0024】
培地のpH及び温度条件は使用する菌の育成に好適な範囲であればどのような条件でも使用することができ、このような条件は公知であるか、当業者であれば常套の手段により適宜設定することができる。例えば菌がグロメレーラ シングラータまたはアスペルギルス ニガーである場合、初発pHは約3〜約4、好ましくは3.5であり、培養温度は約15〜約35℃、好ましくは25〜30℃、特に好ましくは約27℃である。
【0025】
グロメレーラ シングラータを用いて微生物変換を行う場合、攪拌培養が望ましい。培養期間は一定しないが、生産されるべきイソロンギフォレン−9−オン誘導体の濃度が最大となるまで培養するのが望ましい。これに要する日数は、液体培地を用いる攪拌培養の場合、通常7日間前後が適当である。
【0026】
アスペルギルス ニガーは静止した物体に付着して増殖する性質があるので静置培養が望ましく、また、当該菌が付着するような物体、例えばアルミ箔を液体培地中に入れておくと増殖が促進される。培養期間は一定しないが、生産されるべきイソロンギフォレン−9−オン誘導体の濃度が最大となるまで培養するのが望ましい。これに要する日数は、液体培地を用いる静置培養の場合、通常10日間前後が適当である。
【0027】
得られた培養液は遠心分離または濾過などの手段により、菌体と培養液とに分離される。この両者は共にチロシナーゼ活性阻害作用を示すが、イソロンギフォレン−9−オン誘導体は培養液により多く含まれている。集められた培養液からイソロンギフォレン−9−オン誘導体を抽出するには、塩化ナトリウム等の飽和溶液とした後、水と混和する有機溶媒、例えばメタノール、エタノールなどの低級アルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどを使用すればよい。また、水と混和しない有機溶媒、例えばクロロホルム、塩化メチレン、酢酸エチルなどを使用してもよい。
【0028】
このようにして得られた抽出液から減圧下に溶媒を留去すれば、イソロンギフォレン−9−オン誘導体を含む粗抽出物を得ることができる。
【0029】
この粗抽出物からイソロンギフォレン−9−オン誘導体を単離、精製するには、通常の脂溶性低分子物質の単離、精製手段を適用することができる。すなわち、セファデックスLH−20(ファルマシア製、登録商標)などを用いるゲル濾過型クロマトグラフィー、シリカゲルなどの吸着剤を用いる吸着クロマトグラフィー、シリカゲルなどの順相系担体を用いる高速液体クロマトグラフィーなどを単独または組み合わせて実施すればよい。
【0030】
セファデックスLH−20を用いる場合は、一般に極性有機溶媒と非極性有機溶媒との組み合わせ、例えばメタノールとクロロホルムまたは塩化メチレンなどの混合溶媒により溶出される。
【0031】
シリカゲルを用いる吸着クロマトグラフィーを使用する場合は、ヘキサンとクロロホルム、酢酸エチルまたは塩化メチレンなどの混合溶媒を溶出溶媒とするのが適している。
【0032】
シリカゲルを担体とする高速液体クロマトグラフィーの場合には、塩化メチレンとベンゼンまたはメタノールの混合溶媒あるいは塩化メチレン単独を溶出溶媒として用いる。このような精製手段を適用することにより、前記に示されるイソロンギフォレン−9−オン誘導体の1種またはそれ以上が単離される。
【0033】
代替的方法として、イソロンギフォレン−9−オンを、アスペルギルス属またはグロメレーラ属に属する微生物から単離された生体内酵素と接触させることにより、イソロンギフォレン−9−オン誘導体を得ることが可能である。
【0034】
イソロンギフォレン−9−オン誘導体
本発明で得られるイソロンギフォレン−9−オン誘導体は、好ましくは、
【化3】

即ち、
(−)−(2S)−13−ヒドロキシイソロンギフォレン−9−オン〔1−1〕
(−)−(2R)−12−ヒドロキシイソロンギフォレン−9−オン〔1−2〕
(−)−(4R)−4−ヒドロキシイソロンギフォレン−9−オン〔1−3〕
(−)−(3R,6R)−9−オキソ−2,2,7,7,−テトラメチル−3,6,7,8,9,11−ヘキサヒドロ−1H−インデン−3−アセトアルデヒド〔1−4〕、または、
(+)−(3R)−9−オキソ−2,2,7,7−テトラメチル−3,7,8,9,10,11−ヘキサヒドロ−1H−インデン−3−アセトアルデヒド〔1−5〕
のいずれかである。
【0035】
本発明で得られるイソロンギフォレン−9−オン誘導体は、好ましくは、
【化4】

である。
【0036】
本発明で得られるイソロンギフォレン−9−オン誘導体は、遊離形または塩形であり得る。塩は、本発明のイソロンギフォレン−9−オン誘導体の、常套の無機または有機酸との酸付加塩、または常套の無機または有機塩基との塩基塩であり、好ましくは、生理的に許容し得る塩である。
【0037】
本発明で得られるイソロンギフォレン−9−オン誘導体は、チロシナーゼに対して顕著な活性抑制作用を示す。当該活性は適当なin vitroあるいはin vivo試験、例えば実施例2に記載の試験により容易に確認することができる。本発明のイソロンギフォレン−9−オン誘導体は、好ましくは化合物0.5mMをチロシナーゼ(シグマ製)溶液(528ユニット/mL)に加え、37℃で60分間インキュベートしたとき、チロシナーゼの活性を好ましくは50%以上、特に好ましくは70%以上阻害することができる。本発明の化合物は、好ましくは0.5mM以下、より好ましくは0.25mM以下のIC50値でチロシナーゼを阻害することができる。
【0038】
したがって、本発明のイソロンギフォレン−9−オン誘導体はチロシナーゼ活性阻害剤として使用することができる。好ましくは、本発明のロンギシクレン誘導体は、常套の製剤化手段により、賦形剤、pH調整剤、香料、界面活性剤、キレート剤、増粘剤、防腐剤等の常套の助剤を適宜使用して、液体、乳液、粉末、顆粒、錠剤、ローション、軟膏、注射溶液、クリームなど、任意の剤型に調製して用いることができる。例えば化粧料として本発明のロンギシクレン誘導体を製剤するとき、ローション、乳液、クリーム等の剤型が好ましい。
【0039】
また、本発明のイソロンギフォレン−9−オン誘導体を含有するチロシナーゼ活性阻害剤は、動物に投与することを意図するとき、任意の形態で、例えば経口、経腸、非経腸、局所または経皮投与することができ、食品に配合することを意図するとき、常套の混合等の手段により食品中に配合することができる。
【0040】
本発明のイソロンギフォレン−9−オン誘導体は、チロシナーゼ活性阻害剤として、液体状、粉末状、顆粒状、錠剤など、任意の剤型に調製して用いることができる。さらに賦形剤、pH調整剤、香料、界面活性剤、キレート剤、増粘剤、防腐剤などの任意の助剤を適宜使用することができる。
【実施例1】
【0041】
実験手法
NMRは500MHz(H)、125MHz(13C)を用い、TMSを内部標準としCDClで測定した。
【0042】
GCは水素炎イオン化型検出器、キャピラリーカラム(DB−5、島津製作所製:長さ30m×内径0.25mm)、及び20:1のスプリット注入ユニットを備えたHP 5890Aガスクロマトグラフ(ヒューレット・パッカード製)を使用した。移動相はヘリウムガスを1mL/分の流量で用いた。オーブン温度は4℃/分の昇温速度で90℃〜230℃にプログラムされた。注入口温度は270℃、検出器温度は280℃に設定した。ピーク面積は HP 3396 Series2 検出器(ヒューレット・パッカード製)により計算した。
【0043】
GC/MSは、スプリット注入ユニット、キャピラリーカラム(HP−5MS、ヒューレット・パッカード製:長さ30m×内径0.25mm)を備えたガスクロマトグラフ(HP 5890A、ヒューレット・パッカード製)を質量分析計(HP 5972A、ヒューレット・パッカード製)に直結した。昇温プログラムはGCと同一である。移動相はヘリウムガスを1mL/分の流量で用いた。イオン源部温度は280℃、電子エネルギーは70電子ボルト(eV)であった。イオン化法は電子衝撃法(EI)を使用した。
【0044】
IRスペクトルはパーキン・エルマー製1760X型分光器により得た。
TLCは、CHClを展開溶媒としてシリカゲル60F254を塗布したTLCプレート(メルク製:層厚0.25mm)を用いた。
シリカゲルカラムクロマトの展開溶媒は、ヘキサン-酢酸エチル系を用いた。
【0045】
微生物の培養および代謝産物の単離の方法
グロメレーラ シングラータの前培養
低温で保存されたグロメレーラ シングラータの胞子を、滅菌した培養培地(ショ糖1.5%、グルコース1.5%、ポリペプトン0.5%、硫酸マグネシウム(七水和物)0.05%、塩化カリウム0.05%、リン酸二カリウム0.1%、硫酸第一鉄(七水和物)0.001%、及び蒸留水、pH7.2)を入れた振盪フラスコ中に植え付け、27℃で5日間培養した。
【0046】
アスペルギルス ニガーの前培養
低温で保存されたアスペルギルス ニガーの胞子を、滅菌した培養培地(ショ糖1.5%、グルコース1.5%、ポリペプトン0.5%、硫酸マグネシウム(七水和物)0.05%、塩化カリウム0.05%、リン酸二カリウム0.1%、硫酸第一鉄(七水和物)0.001%、及び蒸留水、pH7.2)を入れた振盪フラスコ中に植え付け、27℃で1日間培養した。
【0047】
経時変化実験(グロメレーラ シングラータ)
前培養したグロメレーラ シングラータを200mLの培養培地を入れた300mL容の三角フラスコに移植し、27℃で3日間、攪拌条件下で培養した。グロメレーラ シングラータが成長した後、(+)−イソロンギフォレン−9−オン〔1〕60mgを培地に加えて15日間培養を続けた。その後、塩化ナトリウムで飽和し、酢酸エチルで抽出した。抽出物をGCにより分析した。〔1〕と代謝産物間の比率は、GCとGC/MSのピーク面積に基づいて決定した(図1)。
【0048】
経時変化実験(アスペルギルス ニガー)
前培養したアスペルギルス ニガーを培養培地(50mLのペトリ皿中20mL)に移植し、27℃で1日間(菌糸体が培養培地の表面積の60〜80%を占めるまで)、静置条件下で培養した。アスペルギルス ニガーが成長した後、(+)−イソロンギフォレン−9−オン〔1〕60mgを培地に加えて5日間培養を続けた。その後、塩化ナトリウムで飽和し、酢酸エチルで抽出した。抽出物をGCにより分析した。〔1〕と代謝産物間の比率は、GCとGC/MSのピーク面積に基づいて決定した(図1)。
【0049】
(+)−イソロンギフォレン−9−オンの3日間の微生物変換(グロメレーラ シングラータ)
前培養したグロメレーラ シングラータを培養培地800mLに移植し、27℃で曝気条件下にて3日間攪拌培養した。グロメレーラ シングラータが成長した後、(+)−イソロンギフォレン−9−オン240mgを培地に添加し、3日間培養を続けた。
【0050】
(+)−イソロンギフォレン−9−オンの10日間の微生物変換(アスペルギルス ニガー)
前培養したアスペルギルス ニガーを培養培地1800mLに移植し、27℃で曝気条件下にて1日間攪拌培養した。アスペルギルス ニガーが成長した後、(+)−イソロンギフォレン−9−オン600mgを培地に添加し、10日間培養を続けた。
【0051】
代謝産物の単離(グロメレーラ シングラータ)
3日間の微生物変換の後、ろ過により培地と菌糸体を分離した。培地を塩化ナトリウムで飽和し、酢酸エチルで抽出した。さらに、菌糸体を酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル抽出液を混ぜ、硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒除去し、粗抽出物を得た。抽出物をヘキサン−酢酸エチル混液と300メッシュのシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーに供し、各代謝産物を単離した。
【0052】
代謝産物の単離(アスペルギルス ニガー)
10日間の微生物変換の後、ろ過により培地と菌糸体を分離した。培地を塩化ナトリウムで飽和し、酢酸エチルで抽出した。さらに、菌糸体を酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル抽出液を混ぜ、硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒除去し、粗抽出物を得た。抽出物をヘキサン−酢酸エチル混液と300メッシュのシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーに供し、各代謝産物を単離した。
【0053】
グロメレーラ シングラータおよびアスペルギルス ニガーによる(+)−イソロンギフォレン−9−オンの代謝産物の単離と同定
少量の(+)−イソロンギフォレン−9−オン〔1〕をグロメレーラ シングラータとは15日間、アスペルギルス ニガーとは5日間共培養し、経時変化実験に供した。〔1〕はグロメレーラ シングラータにより5種、アスペルギルス ニガーにより2種の代謝産物に変換された。代謝産物は薄層クロマトグラフ(TLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)及びガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)で検出された。これらの生成物は、基質を全く添加しなかった微生物培養培地のTLC、GC及びGC−MS分析では検出されなかった。代謝産物の経時変化を図2に示す。
【0054】
代謝産物を単離するために、〔1〕を添加した微生物の大規模培養が実施された。そして、「代謝産物の単離」の項で記載するように培地を抽出した。代謝産物は酢酸エチル抽出で単離され、スペクトルデータにより構造決定された。
【0055】
化合物〔1−1〕および〔1−2〕は、過去に報告されたMS法、赤外分光、およびNMRデータ[Choudhary et al.、前掲]と比較して、(−)−(2S)−13−ヒドロキシイソロンギフォレン−9−オン〔1−1〕および(−)−(2R)−12−ヒドロキシイソロンギフォレン−9−オン〔1−2〕であると同定された。化合物〔1−3〕は、IR、H−および13C−NMR、並びにNOE分析により、(−)−(4R)−4−ヒドロキシイソロンギフォレン−9−オンと決定された。
【0056】
化合物〔1−4〕は、高分解能電子衝撃質量分析(HR−EIMS)により分子式C1522、m/z値234.1618であった。〔1−4〕のIRと13C−NMRスペクトルでは、カルボニル基(IR:1723cm−1、δ200.0ppm(C))およびアルデヒド基(IR:1658cm−1、δ201.5ppm(C))の存在が示された。H−及び13C−NMRシグナルは基質と異なっており、環の開裂が示唆された。このことは、二次元NMR(COSY(correlation spectroscopy)、HMQC(heteronuclear multiple quantum correlation)、およびHMBC(heteronuclear multiple bond correlation))の帰属により確認された。特徴的なHMBCスペクトル相関では、メチンプロトン(δ2.06−2.08ppm;H−10)およびメチレン炭素(δ53.3ppm;C−8)を有する2個のメチルプロトン(δ0.82,1.17ppm;H−14,H−15)、新規のメチンプロトン(δ2.72ppm;H−6)を有する2個のメチル炭素(δ19.7,29.5ppm;C−14,C−15)が観測された。このことより〔1−4〕は、6位の炭素が開裂していると考えられる。そして、HMBCでは、メチン炭素(δ42.6ppm;C−3)とメチレン炭素(δ29.7ppm;C−11)を有する新規のメチンプロトン(δ2.72ppm;H−6)、メチンプロトン(δ2.19−2.22ppm;H−3)を有する非プロトン炭素(δ44.1ppm;C−2)、および2個のメチレンプロトン(δ2.36,2.62ppm;H−4,2.06−2.08ppm;H−11)が観測された。このことより〔1−4〕は、5位と6位の炭素が開裂していると考えられる。HMBCは、メチンプロトン(δ2.19−2.22ppm;H−3)とメチレンプロトン(δ2.36,2.62ppm;H−4)を有する非プロトン炭素(δ201.5ppm;C−5)が観測された。このことより〔1−4〕は、〔1〕の5位の炭素がアルデヒド化して生じた化合物であると推察された。
【0057】
更に、〔1−4〕の3位および6位の炭素の絶対配置がR体であることをNOE分析により推測した。〔1−4〕の13位のメチル基の共鳴をデカップリングパルスで照射して飽和させたとき、4位および6位の水素のシグナル強度の増強が観察された。しかしながら、12位のメチル基と4位および6位の水素間のNOE分析では、3位のアセトアルデヒド基がα位であり、6位の炭素がβ位であることを示した。比旋光度は(−)−体を示した。これらのデータから、〔1−4〕の構造は、新規化合物である(−)−(3R,6R)−9−オキソ−2,2,7,7,−テトラメチル−3,6,7,8,9,11−ヘキサヒドロ−1H−インデン−3−アセトアルデヒドと決定された。
【0058】
化合物〔1−5〕は、HR−EIMSにより分子式C1522、m/z値234.1632であった。〔1−5〕のIR、H−および13C−NMRスペクトルでは、カルボニル基(IR:1721cm−1、δ210.5ppm(C))およびアルデヒド基(IR:1659cm−1、δ202.4ppm(C)、δ9.84ppm)の存在が示された。H−及び13C−NMRシグナルは〔1−4〕と同様に、6位での環の開裂が示唆された。このことは、二次元NMR(COSY、HMQC、及びHMBC)の帰属により確認された。特徴的なHMBCスペクトル相関では、メチンプロトン(δ2.19−2.22ppm;H−3)およびメチレンプロトン(δ2.36,2.62ppm;H−4)を有する非プロトン炭素(δ201.5ppm;C−5)が観測された。このことより〔1−5〕は、〔1〕の5位の炭素がアルデヒド化して生じた化合物であると推察された。HMBCは、2個のメチルプロトン(δ0.82,1.17ppm;H−14,H−15)とメチンプロトン(δ2.19−2.22ppm;H−3)を有する非プロトン炭素(δ140.2ppm;C−6)が観測された。このことより〔1−5〕は、〔1〕の10位の二重結合が6位に転移した化合物であると推察された。更に、〔1−5〕の3位の炭素の絶対配置がR体であることを〔1−4〕の結果と同様にしてNOE分析により推測した。比旋光度は(+)−体を示した。これらのデータから、〔1−5〕の構造は、新規化合物である(+)−(3R)−9−オキソ−2,2,7,7−テトラメチル−3,7,8,9,10,11−ヘキサヒドロ−1H−インデン−3−アセトアルデヒドと決定された。
【0059】
グロメレーラ シングラータおよびアスペルギルス ニガーによる微生物変換の代謝経路を図1に示す。また経時変化を図2に示す。
【0060】
化合物〔1−1〕
化合物〔1−1〕:無色油状、[α]D19.7 -162(CHCl3;c=0.4)、EIMS m/z:[M]+ 234(66), 203(55), 176(100), 147(14), 119(17), 91(66), 55(33)、IR(KBr法)νmaxcm-1:3429, 2965, 1653、1H及び13C-NMRを表1、2に示す。
【0061】
化合物〔1−2〕
化合物〔1−2〕:EIMS m/z:[M]+ 234(66), 203(49), 176(100), 147(49), 119(60), 91(48), 55(21)
【0062】
化合物〔1−3〕
化合物〔1−3〕:無色油状、[α]D19.7 -74.6(CHCl3;c=1.0)、EIMS m/z:[M]+ 234(63), 216(16), 178(58), 160(51), 150(59), 135(80), 85(100), 41(90)、IR(KBr法)νmaxcm-1:3420, 2963, 1652、1H及び13C-NMRを表1、2に示す。
【0063】
化合物〔1−4〕
化合物〔1−4〕:無色結晶、[α]D22.5 -20.1(CHCl3;c=1.1)、HR-FABMS:m/z 234.1618 [M]+、分子式C15H22O2、EIMS m/z:[M]+ 234(23), 219(5), 175(22), 148(10), 134(100), 107(20), 91(55), 41(57)、IR(KBr法)νmaxcm-1:2959, 1723, 1658、1H及び13C-NMRを表1、2に示す。
【0064】
化合物〔1−5〕
化合物〔1−5〕:無色結晶、[α]D22.5 +5.8(CHCl3;c=0.4)、HR-FABMS:m/z 234.1632 [M]+、分子式C15H22O2、EIMS m/z:[M]+ 234(6), 220(1), 219(9), 190(70), 175(100), 148(24), 133(49), 91(39), 41(37)、IR(KBr法)νmaxcm-1:2958, 1721, 1659, 1463、1H及び13C-NMRを表1、2に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【実施例2】
【0067】
チロシナーゼ阻害活性
L−チロシンおよびL−ドーパを基質としたチロシナーゼ活性を分光光度法により測定した。0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)680μL、20%ポリオキシエチレン−ノニル−フェニルエーテル80μL、0.03%L−チロシンまたはL−ドーパ100mL、および化合物〔1−1〕(DMSO溶液)40μLを試験管に加え、37℃で10分間インキュベートした。その後、チロシナーゼ(シグマ製)溶液(528ユニット/mL、0.1Mリン酸緩衝液に溶解)を加え、37℃で60分間インキュベートした。酵素活性はチロシナーゼにより合成されるメラニンの吸光度変化(475nm)を測定することにより決定した。比較対照物質にはアルブチンを使用した。他の代謝産物についても同様に試験した。チロシナーゼ活性は以下の式により得られる。
チロシナーゼ活性(%)=[(A−B)/(Cp−Cn)]×100
この式において、Aは試験物質(0.1Mリン酸緩衝液、ポリオキシエチレン−ノニル−フェニルエーテル、L−チロシンまたはL−ドーパ、化合物溶液、およびチロシナーゼ)の吸光度、Bはブランク(0.1Mリン酸緩衝液、ポリオキシエチレン−ノニル−フェニルエーテル、蒸留水、化合物溶液、およびチロシナーゼ)の吸光度、Cpは陽性対照(0.1Mリン酸緩衝液、ポリオキシエチレン−ノニル−フェニルエーテル、L−チロシンまたはL−ドーパ、DMSO、およびチロシナーゼ)の吸光度、Cnは陰性対照(0.1Mリン酸緩衝液、ポリオキシエチレン−ノニル−フェニルエーテル、蒸留水、およびチロシナーゼ)の吸光度を示す。結果を表3および図3に示す。
【0068】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】(+)−イソロンギフォレン−9−オン〔1〕をアスペルギルス ニガーまたはグロメレーラ シングラータによって微生物変換したときの構造の変化を示す。
【図2】(+)−イソロンギフォレン−9−オン〔1〕をアスペルギルス ニガーまたはグロメレーラ シングラータによって微生物変換したときの、(+)−イソロンギフォレン−9−オン〔1〕および化合物〔1−1〕〜〔1−5〕それぞれの相対存在量についての経時変化を示す。
【図3】(+)−イソロンギフォレン−9−オン〔1〕および化合物〔1−3〕〜〔1−5〕、並びにアルブチン(対照)のチロシナーゼ阻害活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化1】

のいずれかで表されるイソロンギフォレン−9−オン誘導体の製造方法であって、
(1)イソロンギフォレン−9−オンを基質として、当該イソロンギフォレン−9−オン誘導体を生産する能力を有するアスペルギルス属またはグロメレーラ属に属する微生物によりイソロンギフォレン−9−オンを処理する工程、そして
(2)当該誘導体を採取する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
イソロンギフォレン−9−オン誘導体を生産する能力を有するアスペルギルス属に属する微生物がアスペルギルス ニガーである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
アスペルギルス ニガーが寄託番号NBRC4414の株種である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
当該誘導体が
【化2】

である、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
当該誘導体が
【化3】

である、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
イソロンギフォレン−9−オン誘導体を生産する能力を有するグロメレーラ属に属する微生物がグロメレーラ シングラータである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
グロメレーラ シングラータが寄託番号NBRC5257の株種である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
当該誘導体が
【化4】

である、請求項1、請求項6または請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の製造方法により製造される、遊離形または塩形のイソロンギフォレン−9−オン誘導体。
【請求項10】
【化5】

のいずれかで表される遊離形または塩形のイソロンギフォレン−9−オン誘導体。
【請求項11】
【化6】

で表される遊離形または塩形のイソロンギフォレン−9−オン誘導体。
【請求項12】
チロシナーゼ活性阻害作用を有する、請求項9ないし請求項11のいずれかに記載の誘導体。
【請求項13】
請求項9ないし請求項12のいずれかに記載のイソロンギフォレン−9−オン誘導体を有効成分として含有するチロシナーゼ活性阻害剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−178309(P2008−178309A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12690(P2007−12690)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年11月6日 香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会本部事務局発行の「創立50周年記念 香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会講演要旨集」に発表
【出願人】(000238201)扶桑薬品工業株式会社 (42)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】