説明

新規エステル及びその製造方法

【課題】新規なエステル、その製造方法、該エステルを用いたペルフルオロカルボニル化合物、ペルフルオロカルボニル化合物を用いた官能基を有するモノマーの製造方法を提供する。
【解決手段】酸フッ化物とエポキシドとを金属フッ化物の存在下に反応させてエステルを製造することを特徴とするエステルの製造方法。例えば、下式(C11)で表される化合物とエチレンオキサイド(O11)をフッ化カリウムの存在下に反応させてエステル(E11)を得る。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエステル、その製造方法、エステルより得られるアルコール又はペルフルオロカルボニル化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸ハロゲン化物はその反応性から様々な化合物の中間体として有用に用いられている。なかでも酸フッ化物はその特異的な物性から、有用な化合物の中間体として古くから用いられてきた。しかし、一般的に酸フッ化物と反応して得られる化合物はエステル、アミドなどに限られており、新たな反応ルートの探索が求められてきた。
【0003】
酸フッ化物を用いた反応としては、下式に表すように、アルカリ金属フッ化物(フッ化カリウム又はフッ化セシウム等)を触媒とし、酸フッ化物にペルフルオロエポキシ化合物を付加させる反応が知られていた(特許文献1参照)。
【0004】
【化1】

【0005】
【特許文献1】米国特許第4526948号明細書(カラム7第10〜29行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1におけるペルフルオロエポキシ化合物は、その合成が容易でなく、高価であった。また、酸フッ化物から、より自由に広範な構造の化合物をより安価に製造する方法が必要であった。本発明は、酸フッ化物を原料化合物として有用な化合物を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、酸フッ化物とエポキシドとを金属フッ化物の存在下に反応させてエステルを製造することを特徴とするエステルの製造方法を提供する。
【0008】
また本発明は、上記の製造方法によりエステルを得て、該エステルを加水分解してアルコールを得ることを特徴とするアルコールの製造方法を提供する。
【0009】
また本発明は、上記の製造方法によりエステルを得て、該エステルをフッ素化してペルフルオロエステルを得た後、熱分解しペルフルオロカルボニル化合物を得ることを特徴とするペルフルオロカルボニル化合物の製造方法を提供する。
【0010】
また本発明は、下式(E10)で表されるエステルを提供する。ただし、式中、Zは水素原子又はメチル基を示す。
【0011】
【化2】

【0012】
また本発明は、下式(FC10)で表されるペルフルオロカルボニル化合物を提供する。ただし、式中、Zはフッ素原子又はトリフルオロメチル基を示す。
【0013】
【化3】

【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、容易に入手可能な原料から新規なエステルを得ることができ、該エステルからアルコールやペルフルオロカルボニル化合物等の新規な官能基含有化合物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本明細書において、式(C)で表される化合物を化合物(C)と記すことがある。他式で表される化合物も同様に記す。
【0016】
本発明に用いられる酸フッ化物は、分子内に−COF基を1又は2以上有する化合物であり、特に制限されるものではないが、好ましくは下式(C)で表される。式(C)中、Qは、フッ素原子又は1価の有機基である。
【0017】
【化4】

【0018】
酸フッ化物は、反応性の観点から、Qはフッ素原子であるか、カルボニル炭素に結合する末端原子として少なくとも1個のフッ素原子が結合した炭素原子を含む1価の有機基であることが好ましい。カルボニル炭素に結合する末端原子として少なくとも1個のフッ素原子が結合した炭素原子を含む1価の有機基である場合、酸フッ化物は、下式(C1)で表される化合物が例示される。
【0019】
【化5】

【0020】
式(C1)中、Qはフッ素原子又は−Rf5Xを示し、Qは1価の有機基を示す。Rf5はエーテル性酸素原子又は塩素原子を含んでいてもよい炭素数1〜8のペルフルオロアルキレン基を、Xは水素原子、塩素原子、フッ素原子、−SOF、−COOR、−CN、又は−SR基を示す。Rは1価の炭化水素基を示す。
【0021】
化合物(C1)のなかでも、下式(C2)で表される化合物は反応性に優れ、本発明の方法により得られるエステル又はその誘導体が官能基を有することから特に好ましい。式(C2)中、Q21はフッ素原子又は−Rf7SOFを示し、Rf7はエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜8のペルフルオロアルキレン基を示す。
【0022】
【化6】

【0023】
化合物(C2)の具体例としては下記の化合物が挙げられる。
【0024】
【化7】

【0025】
化合物(C2)は、下式の様にして得られる4員環化合物(S2)を例えばKF等の金属フッ化物と接触させると容易に得られる。
【0026】
【化8】

【0027】
特に、4フッ化エチレンと無水硫酸との反応で得られる化合物(S11)が入手が容易であり、反応性に優れることから好ましい。
【0028】
【化9】

【0029】
本発明に用いられるエポキシドは、分子内にエポキシ基を1又は2以上有する化合物であり、特に制限されるものではないが、好ましくは下式(O)で表される。式(O)中、R、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子若しくは1価の有機基を示す、又は、R及びRは共同で2価の有機基を形成し、R、Rはそれぞれ独立に水素原子若しくは1価の有機基を示す。
【0030】
【化10】

【0031】
化合物(O)としては、例えば、下記の(1)〜(3)で表される化合物が挙げられる。
【0032】
(1)R、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子若しくは炭素数1〜10の1価の炭化水素基を示す、又は、R及びRは共同で炭素数3〜10の2価の炭化水素基を形成し、R、Rはそれぞれ独立に水素原子若しくは炭素数1〜10の1価の炭化水素基を示す。
具体的には、アルキレンオキシド類:エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド、1,2−エポキシドデカン、2,3−エポキシブテン、スチレンオキシド等。特に入手のしやすさ、反応性の高さの点からエチレンオキシド、プロピレンオキシドが好ましい。
【0033】
(2)R、R及びRは水素原子であり、Rはエーテル性酸素原子を含む炭素数1〜10のアルキル基。
具体的には、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルグリシドール等。
【0034】
(3)R、R及びRは水素原子であり、Rは−RYを示し、Rはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜10の含フッ素アルキレン基、Yは水素原子、塩素原子、フッ素原子、−SOF、−COOR、−CN、−SR基から選ばれる基(Rは1価の炭化水素基)であることが好ましい。
具体的には、以下に示す含フッ素エポキシド。
【0035】
【化11】

【0036】
なお、R〜Rのうち少なくとも1つがフッ素原子である場合、酸フッ化物との反応によりエステルが得られにくいため好ましくない。
【0037】
本発明においては酸フッ化物とエポキシドとを金属フッ化物の存在下に反応させることにより、下記に示す第1式、第2式及び第3式に示す機構でエステルが得られるものと推定される。なお、下記の機構は金属フッ化物が1価の金属のフッ化物である場合を示す。
【0038】
【化12】

【0039】
上記の機構に示したように、エステルを製造するにあたっては、酸フッ化物の−COF基がエポキシドのエポキシ基の2倍等量以上となる量の酸フッ化物とエポキシドとを使用することが好ましい。これより少ないと、未反応のアルコキシドが残ることとなる。
【0040】
該反応は、金属フッ化物の存在下に行う。金属フッ化物としては、KF、KHF、NaHF、NaF又はCsFが好ましい。中でもNaF、KF、CsFなどのアルカリ金属フッ化物が好ましい。金属フッ化物の量としては、特に限定されるものではないが、−COF基1モルに対して、0.001〜2モルで使用することが好ましい。より好ましくは0.01〜1モル、特に好ましくは0.05〜0.5モルで使用することが好ましい。これより多くても特に問題はないが、多量の反応に関与しない金属フッ化物を使用することになるので使用効率が良くない。これより少ない場合、反応速度が遅くなることや、例えば使用する酸フッ化物中に含まれる微量の酸分などの影響で金属フッ化物が失活し、反応が阻害される影響が考えられる。
【0041】
反応温度についても特に限定されるものではないが、好ましくは−20〜200℃、より好ましくは−10〜150℃、特に好ましくは0〜100℃の範囲で行われる。
【0042】
本発明における反応を円滑に進行させるために、溶媒を用いることが好ましい。好ましい溶媒としては、活性水素を有さない溶媒、なかでも酸フッ化物と金属フッ化物から生成されるアルコキシドを溶解又は溶媒和により活性化が期待できるような溶媒を使用することが好ましい。
【0043】
具体的には例えば、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル化合物;アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル2−ピロリジノン等の溶媒が好ましい。特に反応基質の溶解性、反応系に対する不活性性の点からアセトニトリルやエーテル化合物が好ましい。
【0044】
上記の溶媒は1種又は2種以上を混合して使用してもよく、またここに挙げた以外の他の溶剤を使用してもよい。酸フッ化物がポリフルオロ化合物、特にペルフルオロ化合物の場合には含ハロゲン化合物系の溶剤を併用して使用することが好ましい。
【0045】
本発明により得られるエステルを、加水分解を行うことにより新規なアルコールを得ることが可能である。式(E)で表されるエステルからは、公知の手法により、下式(A)で表されるアルコールが得られる。式中、Q、R、R、R、Rは上述のとおりである。
【0046】
【化13】

【0047】
Qがフッ素原子又はペルフルオロの1価の有機基である場合には、アルコール(A)は撥水材の原料であるパーフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの原料として有用である。
【0048】
本発明により得られるエステルは、新規なペルフルオロ化合物の中間体としても有用である。例えばエステルをフッ素ガスとの接触等の公知の方法によりペルフルオロ化した場合、得られるペルフルオロエステルを塩基性の化合物の存在下熱分解することにより、以下の(1)、(2)に示すようにペルフルオロ化合物が得られる。
【0049】
(1)化合物(E)のR、R、Rがそれぞれ独立に水素原子若しくは1価の有機基であり、かつRが水素原子である場合、又は、R及びRが共同で2価の有機基を形成し、Rが水素原子若しくは1価の有機基であり、かつRが水素原子である場合、下式(FC)で表されるペルフルオロカルボニル化合物が得られる。
ただし、式(FC)中の記号は以下の意味を示す。
はフッ素原子又はQがペルフルオロ化された1価のペルフルオロの有機基である。
f1、Rf2、Rf3はそれぞれ独立にフッ素原子若しくはR、R、Rがペルフルオロ化された1価のペルフルオロの有機基である、又は、Rf1及びRf3はR及びRが共同で2価の有機基を形成した場合の該2価の有機基がペルフルオロ化された2価のペルフルオロの有機基であり、Rf2はフッ素原子又はRがペルフルオロ化された1価の有機基である。
【0050】
(2)R、Rがそれぞれ独立に水素原子若しくは1価の有機基であり、R、Rがそれぞれ独立に1価の有機基である場合、又は、R及びRが共同で2価の有機基を形成し、Rが水素原子若しくは1価の有機基であり、Rが1価の有機基である場合、下式(FA)で表されるペルフルオロアルコールが得られる。
ただし、式(FA)中の記号は以下の意味を示す。
はフッ素原子又はQがペルフルオロ化された1価のペルフルオロの有機基。
f1、Rf2はそれぞれ独立にフッ素原子又はR、Rがペルフルオロ化されたペルフルオロの1価の有機基であり、Rf3、Rf4はR、Rがペルフルオロ化された1価のペルフルオロの有機基である、又は、Rf1及びRf3はR及びRが共同で2価の有機基を形成した場合の該2価の有機基がペルフルオロ化された2価のペルフルオロの有機基であり、Rf2はフッ素原子又はRがペルフルオロ化された1価の有機基であり、Rf4はRがペルフルオロ化された1価の有機基である。
【0051】
【化14】

【0052】
エステルのフッ素化反応は、電気化学的フッ素化法(ECF法)、コバルトフッ素化法、気相フッ素化法、または液相フッ素化法を用いるのが好ましく、反応収率の観点から液相フッ素化法を用いるのが特に好ましい。液相フッ素化法は、溶媒中のエステルとフッ素とを反応せしめる方法によって実施できる。
【0053】
ペルフルオロエステルの熱分解反応は、公知の手法を用いることができる。熱分解に使用する触媒としては、特に限定されるものではないが、塩基性の化合物が好ましい。より好ましくはアミン化合物やフッ化金属、特に好ましくはアルカリ金属フッ化物(フッ化カリウム等)である。
【0054】
上述のなかでも、酸フッ化物として酸フッ化物(C11)を、エポキシドとしてエチレンオキシド(O11)を用い、反応させて得られるエステル(E11)をペルフルオロ化した後、熱分解して得られる下式(FC11)で表されるペルフルオロカルボニル化合物は、特に反応性が高く有用な化合物である。
【0055】
【化15】

【0056】
また、酸フッ化物として酸フッ化物(C11)を、エポキシドとしてプロピレンオキシド(O12)を用い、反応させて得られるエステルをペルフルオロ化した後、熱分解して得られる下式(FC12)で表されるペルフルオロカルボニル化合物又は下式(FC12’)で表されるペルフルオロカルボニル化合物も、反応性が高く有用な化合物である。なお、プロピレンオキシドのような非対称エポキシドを使用した場合、エポキシ基の酸素−炭素結合の解裂のしかたで最終的に2種類の化合物を得ることができる。
【0057】
【化16】

【0058】
また、化合物(FC13)や化合物(FC13’)のような官能基を有するペルフルオロ化合物も特に有用な化合物として例示できる。
【0059】
【化17】

【0060】
上述のペルフルオロカルボニル化合物より新規のモノマーを製造することができる。本モノマーは、例えば4フッ化エチレンと共重合することにより、イオン交換基を有するペルフルオロポリマー材料を提供することができ、イオン交換膜、燃料電池、イオン伝導材料等への応用が可能となる。
【実施例】
【0061】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
例1、例2、例3は下記に示すスキームにしたがって、実施した。
【0062】
【化18】

【0063】
【化19】

【0064】
【化20】

【0065】
[例1]エステル(E11)の製造例
乾燥した粉末状フッ化カリウム(3.8g)とエチレングリコールジメチルエーテル(19g)を冷却したフラスコに加えてから、サルトン(120g)をさらにフラスコに加えた。得られたフラスコ内容物をオートクレーブに加え、エチレンオキサイド(15g)をフィードし、内温を90℃に保持して3時間、撹拌して反応を行った。
【0066】
オートクレーブの内温を25℃にしてからオートクレーブ内容物を回収し、ろ過してろ液を得た。ろ液を分析した結果、上記エステル(E11)の生成を確認した。ろ液を水洗し硫酸マグネシウムで乾燥してから減圧蒸留して、100℃/650Paの留分を得た。収率90%。留分を分析した結果、留分はエステル(E11)であることを確認した。
【0067】
留分の19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):48ppm(1F)、42ppm(1F)、−83ppm(2F)、−103ppm(2F)、−111ppm(2F)。
留分のH−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:Si(CH
4.4ppm(2H)4.7ppm(2H)。
【0068】
[例2]ペルフルオロカルボニル化合物(FC11)の製造例
(例2−1)ペルフルオロエステル(FE11)の製造例
オートクレーブ(内容積3000mL、ニッケル製)に、1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン(以下、R−113という)(1600g)を加えた後に撹拌して25℃に保った。オートクレーブガス出口には、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、及び−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。また−10℃に保持した冷却器からは凝集した液をオートクレーブに戻すための液体返送ラインを設置した。
【0069】
オートクレーブに窒素ガスを室温で1時間吹き込んだ後、窒素ガスで20%に希釈したフッ素ガス(以下、20%希釈フッ素ガスと記す。)を室温で流速14.36L/hで60分吹き込んだ。つぎに20%希釈フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、例1で得た生成物(160g)をR−113(800g)に溶解した溶液を24.5時間かけて注入した。
【0070】
つぎに、20%希釈フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながらオートクレーブ内圧力を0.15MPa(ゲージ圧)まで昇圧して、ベンゼン濃度が0.01g/mLであるR−113溶液を25℃から40℃にまで昇温しながら30mL注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉め、0.3時間撹拌を続けた。
【0071】
つぎに反応器内圧力を0.15MPa(ゲージ圧)に、反応器内温度を40℃に保ちながら、前記ベンゼン溶液を20mL注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉め、0.3時間撹拌を続けた。さらに同様の操作を1回実施した。つぎに、R−113を20mL送液し、配管内のベンゼン溶液を全て反応器に注入した。ベンゼンの注入総量は0.7g、R−113の注入総量は68mLであった。
【0072】
さらに20%希釈フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間撹拌を続けた。つぎに、反応器内圧力を常圧にして、窒素ガスを1時間吹き込んだ。生成物を19F−NMRを用いて分析した結果、上記ペルフルオロエステル(FE11)が収率93%で含まれていることを確認した。
【0073】
ペルフルオロエステル(FE11)の19F−NMR(282.7MHz、溶媒CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):45.5(1F)、43.1(1F)、−82.5(2F)、−88.2(2F)、−91.5(2F)、−104.7(2F)、−112.7(2F)。
【0074】
(例2−2)ペルフルオロカルボニル化合物(FC11)の製造例
例2−1で得た反応液中のR−113を留去した液とフッ化カリウム(3g)を還流器を備えたフラスコに加えてから、内温を80℃に保持して、3時間加熱した。その後蒸留を行い、沸点82℃の留分を得た(109g)。留分を分析した結果、留分は上記ペルフルオロカルボニル化合物(FC11)であることを確認した。
【0075】
ペルフルオロカルボニル化合物(FC11)の19F−NMR(282.7MHz、溶媒CDCl3、基準:CFCl3)δ(ppm):44ppm(1F)、14ppm(1F)、−76ppm(2F)、−82ppm(2F)、−112ppm(2F)。
【0076】
[例3]モノマー(M1)の製造例
乾燥したフッ化セシウム5g(0.033モル)及びジエチレングリコールジメチルエーテル50gをオートクレーブに投入し冷却しながら上記で得られた化合物(FC11)104gをゆっくり投入した。その後ヘキサフルオロプロピレンオキシド22.4gを投入し、5〜10℃にて3時間撹拌した。内容物を抜き出し、蒸留により化合物(M1−1)を127g得た。
【0077】
この化合物(M1−1)をエチレングリコールジメチルエーテル中で炭酸水素カリウムと反応させ、溶媒を留去・乾燥し、化合物(M1−1)の−COF基を−COOK基カルボン酸カリウム塩に変換したものを得た。これをさらに粉砕乾燥した後200℃で3時間加熱し、発生する熱分解物をトラップに回収し、蒸留を行い、62℃/13.3kPaの留分(73g)を得た。留分を分析した結果、上記モノマー(M1)の生成を確認した。
【0078】
モノマー(M1)の19F−NMR(282.7MHz、溶媒CDCl3、基準:CFCl3)δ(ppm):44ppm(1F)、−82ppm(2F)、−87.5ppm(2F)、−90ppm(2F)、−112ppm(2F)、−113ppm(1F)、−121ppm(1F)、−135ppm(1F)。
【0079】
例4、例5、例6は下記に示すスキームにしたがって、実施した。
【0080】
【化21】

【0081】
【化22】

【0082】
【化23】

【0083】
[例4]エステル(E12)の製造例
乾燥した粉末状フッ化カリウム(58g)とジエチレングリコールジメチルエーテル(465g)を冷却したフラスコに加えてから、サルトン(1800g)をさらにフラスコに加えた。得られたフラスコ内容物とプロピレンオキサイド(290g)をオートクレーブに加え、内温を90℃に保持して5時間、撹拌して反応を行った。
【0084】
オートクレーブの内温を25℃にしてからオートクレーブ内容物を回収し、ろ過してろ液を得た。ろ液を分析した結果、上記エステル(E12)とエステル(E12’)(FSOCFCFOCH(CH)CHOC(O)CFSOF)の生成を確認した。ろ液を水洗し硫酸マグネシウムで乾燥してから減圧蒸留して、(61〜63)℃/(17.7〜35.5)kPaの留分(1200g)を得た。留分を分析した結果、留分は上記エステル(E12)とエステル(E12’)を、約1:1(質量比)の比で含む混合物であることを確認した。
【0085】
留分のうちエステル(E12)の19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):43〜44ppm(1F)、41〜41.5ppm(1F)、−84.5〜85.5ppm(2F)、−104.2〜−104.5ppm(2F)、−111.5〜−112.0(2F)。
留分のうちエステル(E12’)の19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):43〜44ppm(1F)、41〜41.5ppm(1F)、−82.2〜−82.7ppm(2F)、−103.8〜−104.1ppm(2F)、−111.5〜−112.0(2F)。
【0086】
留分のうちエステル(E12)のH−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:Si(CH)δ(ppm):5.4〜5.4ppm(1H)4.2〜4.3ppm(2H)1.4〜1.6ppm(3H)。
留分のうちエステル(E12’)のH−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:Si(CH)δ(ppm):4.8〜5.0ppm(1H)、4.5〜4.6ppm(2H)、1.4〜1.6ppm(3H)。
【0087】
[例5]ペルフルオロカルボニル化合物(FC12)の製造例
(例5−1)ペルフルオロエステル(FE12)の製造例
オートクレーブ(内容積3000mL、ステンレス鋼製)に、(HFPO)(4200g)を加えて撹拌した。オートクレーブのガス出口には、熱交換器、NaFペレット充填層、及び凝集した液体をオートクレーブに戻す液体返送ラインを直列に配置した循環路を設置した。さらに300L/時間の能力を有するベローズポンプを使用してオートクレーブ内の(HFPO)を循環させてオートクレーブの内温を10℃に保持した。
【0088】
窒素ガスで20%希釈フッ素ガスを循環路に設置したイジェクタ(ステンレス製)から88.5L/時間の流速で連続的に供給し1時間循環させた。
【0089】
つぎに20%希釈フッ素ガスの供給を継続しながら、例4で得た混合物(200g)をR−113(1000g)に希釈した原料溶液を循環路に設置した原料供給管から85g/時間の流速で連続的に供給しながら、オートクレーブ内容物の液体体積を一定に保持するためにオートクレーブ内容物を連続的に抜き出した。原料溶液の供給後、さらに20%希釈フッ素ガスを同じ流量で16時間、供給した。
【0090】
窒素ガスをオートクレーブに3時間、吹き込んでからオートクレーブ内容液を抜き出して反応液を得た。反応液を19F−NMRを用いて分析した結果、上記ペルフルオロエステル(FE12)とペルフルオロエステル(FE12’)(FSOCFCFOCF(CF)CFOC(O)CFCFSOF)の生成を確認した。
【0091】
(例5−2)ペルフルオロカルボニル化合物(FC12)の製造例
例5−1と同様の方法で得た反応液(1200g)中の(HFPO)を留去した反応液とフッ化カリウム(7g)を還流器を備えたフラスコに加えてから、内温を80℃に保持して3時間、加熱した。つぎにフラスコの内圧を除々に減圧しフラスコの内温を昇温させて、(70〜82)℃/(13〜35)kPaの留分(360g)を得た。留分を分析した結果、留分は上記ペルフルオロカルボニル化合物(FC12)とペルフルオロカルボニル化合物(FC12’)(FSOCFCFOCF(CF)COF)を8:2(質量比)の比で含む混合物であることを確認した。
【0092】
ペルフルオロカルボニル化合物(FC12)の19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):45.3〜45.6ppm(1F)、−74.5〜−74.8ppm(3F)、−77.5〜−78ppm(2F)、−81.6〜−81.9ppm(2F)、−112.4〜−112.7(2F)。
【0093】
[例6]モノマー(M2)の製造例
(例6−1)化合物(M2−3)の製造例
例5−2で得た留分(350g)とNaF(130g)をフラスコに加え、フラスコ内を撹拌しながらCH(OH)CHBr(258g)を滴下した。滴下終了後、フラスコの内温を25℃に保持して、さらに3時間、フラスコ内を撹拌した。つぎにフラスコ内容物をろ過して得たろ液を水洗してから硫酸マグネシウムで乾燥して反応粗液(500g)を得た。
【0094】
反応粗液(250g)、炭酸水素カリウム(210g)及びアセトニトリル(465g)をフラスコに加えてフラスコ内を撹拌しながら、25℃にて3時間、撹拌した。フラスコ内溶液をろ過したろ液を過剰の水中に投入して得られた2層分離液の下層の液を分離した。同様の反応を計2回行って得られた下層の液を合わせて水洗し、硫酸マグネシウムで乾燥してから減圧蒸留して、(52〜55)℃/(400〜530)Paの留分(160g)を得た。留分を分析した結果、上記化合物(M2−3)の生成を確認した。
【0095】
化合物(M2−3)のH−NMR(300.4MHz、溶媒CDCl、基準:Si(CH)δ(ppm):4.31ppm(4H)。
化合物(a21−3)の19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):45.18ppm(1F)、−79.96ppm(3F)、−82.30ppm(2F)、−82.65ppm(2F)、−112.31ppm(2F)。
【0096】
(例6−2)化合物(M2−1)の製造例
水銀UVランプの照射下、40〜50℃にて例6−1で得た留分(160g)に塩素ガスをバブリングしてから、過剰の塩素ガスをパージして粗生成物を得た。還流器を備えた反応器に、この粗生成物と5塩化アンチモン(25g)及び3フッ化アンチモン(74g)を加えて、150℃にて4時間、加熱還流した。つぎに反応器内を減圧留去して得た粗生成物を水で2回洗浄し、さらに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で1回洗浄して、硫酸マグネシウムで乾燥した。粗生成物を減圧蒸留して化合物(M2−1)を得た。留分を分析した結果、上記化合物(M2−1)の生成を確認した。
【0097】
化合物(M2−1)の19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):45.65ppm(1F)、−49.8〜−58.1ppm(2F)、−79.1〜−80.0ppm(3F)、−81.5〜−83.2ppm(4F)、−112.2〜−112.8ppm(2F)。
【0098】
(例6−3)モノマー(M2)の製造例
塩酸水溶液を用いて活性化した乾燥亜鉛(28g)とN,N−ジメチルホルムアミド(90mL)を反応器に加え、反応器の内温を50℃に保持しながらジブロモエタン(4g)を反応器に除々に滴下した。滴下終了後、反応器の内温を60℃に保持しながら反応器の内圧を3.6kPaまで減圧し、例6−2で得た留分(35g)を反応器に滴下した。
【0099】
反応器から留出する液体の留出が停止するまで留出液を補集した。さらに内圧を2kPaまで減圧し留出する液体を該留出液と併せて補集して反応粗液を得た。反応粗液を水洗し硫酸マグネシウムで乾燥してから反応液を得た。
【0100】
この反応液を、スピニングバンド型蒸留機を用いて減圧蒸留してモノマー(M2)を得た。
モノマー(M2)の19F−NMR(282.7MHz、溶媒CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):45.20ppm(1F)、−82.20ppm(3F)、−82.45ppm(2F)、−85.08ppm(2F)、−112.63ppm(2F)、−158.43ppm(2F)。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の製造方法により得られるエステルからアルコールやペルフルオロカルボニル化合物等の新規な官能基含有化合物を提供することができる。例えば、このような官能基含有化合物から得られるモノマーを重合することにより、イオン交換基を有するポリマーを提供することができ、イオン交換膜、燃料電池、イオン伝導材料等への応用が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸フッ化物とエポキシドとを金属フッ化物の存在下に反応させてエステルを製造することを特徴とするエステルの製造方法。
【請求項2】
下式(C)で表される酸フッ化物と下式(O)で表されるエポキシドとを金属フッ化物の存在下に反応させて下式(E)で表されるエステルを製造する請求項1に記載の製造方法。
【化1】

ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
Qは、フッ素原子又は1価の有機基である。
、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子若しくは1価の有機基である、又は、R及びRは共同で2価の有機基を形成し、R、Rはそれぞれ独立に水素原子若しくは1価の有機基である。
【請求項3】
前記1価の有機基である場合のQは、カルボニル炭素に結合する末端原子として少なくとも1個のフッ素原子が結合した炭素原子を含む1価の有機基である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記酸フッ化物は、下式(C11)で表される請求項2又は3に記載の製造方法。
【化2】

【請求項5】
下式(S11)で表される化合物を用いて式(C11)で表される酸フッ化物を生成させる請求項4に記載の製造方法。
【化3】

【請求項6】
前記エステルは、下式(E1)で表される請求項2に記載の製造方法。
【化4】

【請求項7】
前記エポキシドは、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドである請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記酸フッ化物の−COF基が前記エポキシドのエポキシ基の2倍等量以上となる量の酸フッ化物とエポキシドとを使用する請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
下式(E10)で表されるエステル。
ただし、式中、Zは水素原子又はメチル基を示す。
【化5】

【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法によりエステルを得て、該エステルを加水分解してアルコールを得ることを特徴とするアルコールの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法によりエステルを得て、該エステルをフッ素化してペルフルオロエステルを得た後、熱分解しペルフルオロカルボニル化合物を得ることを特徴とするペルフルオロカルボニル化合物の製造方法。
【請求項12】
請求項2〜8のいずれかに記載の製造方法によりエステルを得て、該エステルをフッ素化してペルフルオロエステルを得た後、熱分解し下式(FC)で表されるペルフルオロカルボニル化合物を得ることを特徴とするペルフルオロカルボニル化合物の製造方法。
【化6】

ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
はフッ素原子又はQがペルフルオロ化された1価のペルフルオロの有機基である。
f1、Rf2、Rf3はそれぞれ独立にフッ素原子若しくはR、R、Rがペルフルオロ化された1価のペルフルオロの有機基である、又は、Rf1及びRf3はR及びRが共同で2価の有機基を形成した場合の該2価の有機基がペルフルオロ化された2価のペルフルオロの有機基であり、Rf2はフッ素原子又はRがペルフルオロ化された1価の有機基である。
【請求項13】
下式(FC10)で表されるペルフルオロカルボニル化合物。
ただし、式中、Zはフッ素原子又はトリフルオロメチル基を示す。
【化7】


【公開番号】特開2006−151949(P2006−151949A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292460(P2005−292460)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】