説明

新規エタノール生産酵母

【課題】35℃以上の温度条件下でも効率よくエタノールの発酵生産が可能であり、且つ、従来発酵原料として適していないとされていた原料からでもエタノールの発酵生産が可能な新規エタノール生産酵母及びこれを用いた工業用エタノール等の生産方法を提供する。
【解決手段】新規エタノール生産酵母であるサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)MY17株(NITE P−893)又はこの株を親株とした形質転換体を用いて、廃糖蜜などを原料として35℃以上の温度で発酵させてエタノール生産を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノール生産酵母、及び、エタノール生産酵母を用いたバイオエタノール生産方法等に関する。詳細には、耐熱性、耐塩性、高凝集性などの優良形質を有する新規エタノール生産酵母、及び、当該酵母を使用したエタノール生産方法、酵母含有飼料生産方法、発酵食品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題、石油資源枯渇問題等を背景として、バイオエタノール生産に関する取り組みが多くなされている。バイオエタノールとは、砂糖製造の際の副産物(廃糖蜜、バガスなど)や廃木材、大麦、とうもろこしなどの植物を原料として得られる、主に燃料用として用いられるエタノールであり、上記原料に含まれるグルコース等を酵母などによって発酵させて生産される。
【0003】
しかし、世界的な食糧不足等の問題もあり、大麦やとうもろこしなどの食糧をバイオエタノール生産原料に使用するのはあまり好ましくなく、したがって、廃糖蜜や廃木材などの従来利用価値があまり高くなかったものを主な原料としたバイオエタノール生産方法の開発の必要性が強く主張されている。けれども、これらの使用には、酵素等でのセルロース含有材料の液化・糖化や着色物質の除去などの原料前処理が必要であるなど様々な問題点がある(特許文献1〜3)。
【0004】
特に、サトウキビ由来の製糖副産物である廃糖蜜は、近年の製糖技術向上などによりエタノール生産原料という意味での品質がより低下している。つまり、廃糖蜜中に含まれる糖類の含有量が低く、且つ、塩類、ポリフェノールなどの糖以外の成分の含有量がより高くなる傾向にある。また、その粘性もより高くなる傾向にある。また、産地毎の品質のばらつきもある。
【0005】
一例としては、沖縄県の宮古島でサトウキビからの製糖時にでる宮古島産廃糖蜜は、総灰分(塩分やポリフェノールなどの糖以外の成分)が14〜19重量%と外国産廃糖蜜の約2〜3倍も含まれ、糖濃度は40〜50重量%と外国産廃糖蜜(糖濃度は60重量%前後)よりも1割以上低い。このような廃糖蜜では、例えば、廃糖蜜を全糖濃度15重量%に希釈して酵母によるエタノール発酵生産を行う場合でも、総灰分が高すぎる等の原因で発酵が進まず、総灰分を一般的な廃糖蜜希釈液と同程度となるまで調整(さらなる希釈)して使用した場合でも、今度は糖濃度が低すぎて発酵後のエタノール濃度が低くなりすぎ蒸留で問題が生じる。よって、従来このような廃糖蜜は好ましくない発酵基質として敬遠されてきた。
【0006】
また、サトウキビが栽培されている比較的温暖な地域において、サトウキビ廃糖蜜を原料としてエタノール発酵生産を行う場合、発酵生産に用いる通常酵母の耐熱性から発酵温度の上限は30℃前後であるため、温暖な地域でこの上限温度を超えないようにするにはチラー水などによって発酵槽を冷却する必要がある。これは、エネルギー効率や作業性という点で好ましくない。
【0007】
このような背景技術の中で、例えば高い灰分含量且つ低い糖含量の廃糖蜜などの従来敬遠されてきた原料から簡便にエタノール発酵生産をすることができ、かつ、温暖な地域においても厳密な温度管理の必要がない耐熱性を備えた、バイオエタノール発酵生産に用いる新規酵母の開発が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−291154号公報
【特許文献2】特開2009−284867号公報
【特許文献3】特開2009−095282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、35℃以上、例えば35〜40℃という高温条件下でも効率よくエタノールの発酵生産が可能であり、且つ、全糖濃度を15重量%に調整した際の総灰分が3.5重量%以上の廃糖蜜などの従来発酵原料として適していないとされていた原料からでもエタノールの発酵生産が可能な新規エタノール生産酵母及びこれを用いた工業用エタノール等の生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を行い、高温条件下における増殖能、エタノール生産能、耐塩性などを指標としたスクリーニング行程を経て選抜された、バガスより単離した38〜40℃でのエタノール生産能や耐塩性、凝集性などに優れた新規エタノール生産酵母、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)MY17株(NITE P−893)を見いだし、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)エタノール生産酵母、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)MY17株(NITE P−893)。
(2)(1)に記載のエタノール生産酵母において、1又は数個の遺伝子を遺伝子工学的手法、薬剤処理や紫外線処理などの突然変異誘発法等により改変、導入若しくは欠失して得られ、耐熱性、耐塩性、全糖濃度(糖度)を15重量%に調整した際の総灰分が3.5重量%以上(例えば4.0重量%以上)の廃糖蜜からのエタノール生産性、高凝集性のいずれの形質も有する形質転換体。
(3)(1)又は(2)に記載の酵母を発酵菌として使用して、全糖濃度を15重量%に調整した際の総灰分が3.5重量%以上の廃糖蜜を原料として用い(酵素等による液化・糖化を行うことなく)、35℃以上、好ましくは38〜40℃の温度で発酵させることを特徴とする、エタノールの生産方法。
(4)全糖濃度を15重量%に調整した際の総灰分が4.5重量%以上の廃糖蜜(例えば宮古島産廃糖蜜)を用いることを特徴とする、(3)に記載のエタノールの生産方法。
(5)(3)又は(4)に記載の方法において得られる、発酵後に上清(エタノール含有液)を除去した発酵残渣を配合することを特徴とする、酵母含有飼料の製造方法。
【0012】
(6)(1)又は(2)に記載の酵母を発酵菌として使用し、35℃以上、好ましくは38〜40℃の温度で発酵させることを特徴とする、エタノール含有発酵食品(泡盛、焼酎など)の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の酵母をエタノール生産に用いることで、35℃以上、例えば38℃という高温条件下でも(つまり温暖な地域においても冷却操作を行うことなく)効率よくエタノールの発酵生産が可能であり、且つ、全糖濃度を15重量%に調整した際の総灰分が3.5重量%以上、更には4.5重量%以上の廃糖蜜からでもエタノールの発酵生産を行うことができる。また、当該酵母は十分な凝集性を有するため、エタノール発酵後の分離操作が非常に簡便である。そして、この分離後のエタノール発酵残渣は、再度エタノール発酵菌として利用することもできるし、これを配合材料として用いることで、新規な酵母含有飼料を製造することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)MY17株(NITE P−893)のrDNAのITS領域(ITS1及びITS2)塩基配列を示す。
【図2】MY17株を用いて全糖濃度15%に調整した宮古島産廃糖蜜を発酵させた際の生成エタノール濃度(縦軸:重量%)を示す。三角は12時間後、菱形は18時間後、四角は24時間後の、各発酵温度(横軸:℃)における希釈廃糖蜜中のエタノール濃度を表す。
【図3】38℃での半回分発酵試験によるMY17株の発酵性能を示す。縦軸はエタノール濃度(重量%)、横軸は経過時間(時間)を表す。
【図4】主要な各種清酒酵母、焼酎酵母のYM改変15%スクロース培地(白地)及び2.5倍希釈宮古島産廃糖蜜(黒地)でのエタノール生産性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明においては、新規エタノール生産酵母サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)MY17株(NITE P−893)を使用する。このMY17株は、宮古島のバガスから単離されたものであり、耐熱性、耐塩性、高凝集性などの有用形質を有する。そして、全糖濃度を15重量%に調整した際の総灰分が3.5重量%以上の廃糖蜜からのエタノール生産性が非常に高いという特徴を有する株である。
【0016】
本発明においては、MY17株を遺伝子工学的手法(ベクター等の利用による人為的改変)や突然変異処理(化学薬剤処理、紫外線照射処理など)により、1又は数個の遺伝子を改変、導入若しくは欠失して得られ、MY17株が有する上記有用形質をいずれも有する形質転換体を使用しても良い。また、MY17株と別の株を細胞融合することによって得られる、上記有用形質をいずれも有する細胞融合株を使用しても良い。
【0017】
なお、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)MY17株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構・特許微生物寄託センター(〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に、2010年(平成22年)2月1日付けで寄託されており、その受託番号はNITE P−893である。
【0018】
サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)MY17株の主な菌学的性質を示すと、以下の通りである。
(a)YM液体培地で生育させたときの菌の形態
(1)栄養細胞の大きさ:5〜10μm程度
(2)栄養細胞の形状:楕円形
(3)増殖の形式:出芽
(b)胞子形成の有無
胞子形成する。
【0019】
本発明においては、MY17株又はその形質転換体を用いてエタノール発酵を行う。エタノール発酵の発酵原料としては、砂糖製造の際の副産物(廃糖蜜、バガスなど)や廃木材、大麦、とうもろこしなどの植物原料等が幅広く使用でき、特に限定はされない。なお、上記菌株は、上述の通り、全糖濃度を15重量%に調整した際の総灰分が3.5重量%以上の廃糖蜜からでもエタノール生産性が非常に高いという特徴を有しているため、従来は敬遠されてきた発酵基質である上記のような廃糖蜜でも原料として使用できる。
【0020】
例えば、全糖濃度を15重量%に調整した際の総灰分が3.5重量%以上の廃糖蜜だけでなく、全糖濃度を15重量%に調整した際の総灰分が4.0重量%以上の廃糖蜜、あるいは宮古島産廃糖蜜のような全糖濃度を15重量%に調整した際の総灰分が4.5重量%以上の廃糖蜜でも使用することができる。範囲としては、全糖濃度を15重量%に調整した際の総灰分が3.5〜8.0重量%、更には4.5〜8.0重量%が例示される。糖度調整前の廃糖蜜では、例えば、全糖濃度35〜50重量%、総灰分10〜19重量%のものが使用できる。そして本発明において、これらの廃糖蜜は、従来のように吸着カラム等での着色物質の除去などの原料前処理は全く必要なく、そのまま、あるいは単に希釈するだけで使用できる。
【0021】
エタノール発酵条件は、バイオエタノール生産を行う際の定法で行うことができ、特に限定はされない。例えば、上記菌株を前培養した後に基質に加え、33〜38℃で20〜48時間発酵させる方法が例示される。なお、MY17株又はその形質転換体は、上述の通り35℃以上、例えば38〜40℃でも高い発酵性、増殖性を有しているため、発酵温度を35℃以上(例えば35〜40℃)で設定しても問題はない。そのため、宮古島のようなサトウキビが栽培されている温暖な地域でもエタノール生産が可能である。
【0022】
そして、上述のとおり、MY17株又はその形質転換体は例えば廃糖蜜培地における凝集性(菌体の沈降性)が十分に高いため、エタノール発酵終了後に上清と菌体を含む発酵残渣の分離が非常に容易である。つまり、エタノール発酵終了後に遠心分離などの分離工程を設ける必要がなく、単に一定時間静置するのみで分離が可能であるため、非常に簡便かつ効率的である。
【0023】
なお、発酵後に上清を除去した発酵残渣は、エタノール発酵生産の種菌として再度用いることもできるし、これを乾燥等させて飼料に配合することで新規な酵母を含む配合飼料(酵母含有飼料)を製造することもできる。
【0024】
さらには、本発明のMY17株又はその形質転換体を用いて、35℃以上の温度で発酵させることで、泡盛や焼酎などに代表されるエタノールを含む発酵食品を製造することもできる。この発酵食品の製造においても、宮古島のような温暖な地域でも生産が可能であることが特徴である。
【0025】
このように、本発明の新規な酵母(MY17株又はその形質転換体)は、温暖な地域での発酵困難であった廃糖蜜からのバイオエタノール生産、当該発酵残渣を用いた酵母含有飼料生産、発酵食品生産において特に有用である。
【0026】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
(新規エタノール生産酵母のスクリーニング)
宮古島のサトウキビ、バガス、土壌、草花や廃糖蜜等を中心に計155点の試料を採取し、これらから合計1,122株の酵母を分離した。酵母の分離は次のように行った。採取試料を、3倍希釈した廃糖蜜を用いて、33℃での気泡発生を観察し、廃糖蜜液中のエタノール濃度測定を行った。試料5点について、特にエタノール生成能が高かったことから、3倍希釈廃糖蜜寒天培地(塩化カリウムにより塩濃度を高めたものも併用)に塗布し、35℃、48時間後にできたコロニーのうち、塩濃度の高い廃糖蜜培地で増殖がよく、大きなコロニーとなった株を、試料ごとに4個ずつ選択した。
【0028】
前述の20株について、3倍希釈糖蜜を用いて、35℃、静置条件での72時間後のエタノール生成能から10株を選択した。選択した10株について、同様の条件で、温度を38℃に上げたときのエタノール生成能を確認するとともに、38℃での撹拌培養時、24時間でのエタノール生成能を複数回にわたり確認し、最も発酵能の高い株1株(MY17株と命名)を選択した。
【0029】
前述の選択株(MY17株)については、ゲノムDNAを抽出し、ITS(internal transcribed spacer)領域の塩基配列を確認することで菌株の同定を行ったところ、Saccharomyces cerevisiaeと同定された。なお、MY17株のITS領域の塩基配列は配列表(ITS1:配列番号1、ITS2:配列番号2)及び図1に示した。これらの配列は、Saccharomyces cerevisiaeの標準株であるS288c株と3塩基の違いが見られ、過去に解析した産業酵母(Bioscience, Biotechnology and Biochemistry,71,1616−1620(2007))と比較すると清酒酵母や焼酎酵母等と完全に一致する配列であったが、ワイン酵母やウイスキー酵母とは一致しなかった。
【実施例2】
【0030】
(MY17株の発酵温度特性評価)
YPD培地50ml、30℃、48時間の条件で前培養したMY17株を、糖度15%に調整した宮古島産廃糖蜜450mlに添加し、撹拌子(500rpm)により撹拌し、12時間後、18時間後、24時間後のエタノール生成能を測定した。温度は、30℃、33℃、35℃、38℃、40℃とした。
【0031】
図2に、これらの温度条件でのエタノール生成能を示す。グラフは、それぞれ、30℃、33℃、35℃、38℃、40℃における、それぞれ、12時間後、18時間後、24時間後の希釈廃糖蜜中でのエタノール濃度(縦軸:重量%)の温度依存性(横軸:発酵温度)として表した。12時間後のエタノール濃度から、至適発酵温度は33℃から38℃であった。一方、24時間後では、40℃であっても、至適温度の時と変わらぬ、ほぼ理論収率どおりのエタノールを生産することができた。
【実施例3】
【0032】
(38℃での半回分連続発酵試験による発酵性能の安定性の確認)
糖度15%に調整した糖蜜を用いて、21時間の撹拌と3時間の静置凝集による酵母回収、新規糖蜜添加を繰り返す、38℃での連続した回分発酵試験を行った。
MY17株は、YPD培地6ml、30℃、24時間、振とう培養したのち、糖度10%に調整した廃糖蜜54mlに添加、30℃、24時間、振とう培養したものを用いた。発酵試験は、前述の前培養液約60mlを、糖度15%に調整した廃糖蜜450mlに添加し、撹拌子(500rpm)により撹拌した。
【0033】
図3に、半回分発酵試験におけるMY17株のエタノール生成能を示す。グラフは、MY17株のエタノール生成能を、希釈廃糖蜜中のエタノール濃度(縦軸:重量%)の経時変化として表した。24時間を1サイクルとして、21時間から3時間静置し、菌体を凝集させた。静置後、上清480mlを新しい廃糖蜜と交換したため、静置凝集後のエタノール濃度は減少している。MY17株は、38℃という高温においても、少なくとも5回以上安定して発酵することができた。
【実施例4】
【0034】
(MY17株の耐塩性及び凝集性評価)
実施例2において38℃でエタノール発酵生産したMY17株について、発酵終了後の凝集性を比較確認した。
MY17株は、単にYPD培地で培養を行った場合、培養後に凝集性は示さなかった。しかし、38℃での廃糖蜜発酵終了後には、極めて短時間で凝集沈殿すること(つまり十分な凝集性を示すこと)が明らかとなった。
【0035】
さらに、総灰分19%の宮古島産廃糖蜜を2.5倍希釈した培地(総灰分7.6重量%、塩分約5重量%)において、37℃の温度条件でMY17株及び協会酵母K7号の増殖性(耐塩性)を確認した。この結果、MY17株は高い増殖性(耐塩性)を示したが、協会酵母K7号はほとんど増殖することができなかった。
【0036】
(比較例:各種酵母での宮古島産廃糖蜜からのエタノール発酵性確認)
比較例として、清酒酵母(K7株、K9株)及び焼酎酵母(AW101株、SH4株、SH5株、KF−1株、KF−3株、CAN1株、MKO21株、I33株、C14株、C4株、H5株、K2株)を用いて、YM培地の糖をスクロース15%に変えたYM改変15%スクロース培地と、総灰分19%の宮古島産廃糖蜜を2.5倍希釈して全糖濃度を15%とした培地でエタノール生産試験を行った。いずれの培地も、OD660を0.5とした菌含有液を加え、37℃で48時間静置培養を行った。
【0037】
この結果、いずれの菌株も、YM改変15%スクロース培地では48時間後に6〜7重量%のエタノールが培地中に含まれていたが、宮古島産廃糖蜜培地ではほとんどエタノール生産ができなかった(図4)。よって、宮古島産廃糖蜜が、通常の酵母ではほとんどエタノール発酵できない原料であることが示された。
【0038】
このように本発明は、有用形質を有する新規エタノール生産酵母に関するものであり、特にMY17株は、遺伝子組み換え、紫外線照射、薬品処理など全く人為的な変異を加えていない野生からの分離株であるため極めて安全性が高く、食品を含む様々な分野の要望に応えるものである。
【0039】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0040】
本発明は、35℃以上の温度条件下でも効率よくエタノールの発酵生産が可能であり、且つ、従来発酵原料として適していないとされていた原料からでもエタノールの発酵生産が可能な新規エタノール生産酵母及びこれを用いた工業用エタノール等の生産方法を提供することを目的とする。
【0041】
そして、新規エタノール生産酵母であるサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)MY17株(NITE P−893)又はこの株を親株とした形質転換体を用いて、廃糖蜜などを原料として35℃以上の温度で発酵させてエタノール生産を行う。
【0042】
本発明において寄託されている微生物の受託番号を下記に示す。
(1)サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)MY17株(NITE P−893)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノール生産酵母、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)MY17株(NITE P−893)。
【請求項2】
請求項1に記載のエタノール生産酵母において、1又は数個の遺伝子を改変、導入若しくは欠失して得られ、耐熱性、耐塩性、全糖濃度を15重量%に調整した際の総灰分が3.5重量%以上の廃糖蜜からのエタノール生産性、高凝集性のいずれの形質も有する形質転換体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酵母を発酵菌として使用して、全糖濃度を15重量%に調整した際の総灰分が3.5重量%以上の廃糖蜜を原料として用い、35℃以上の温度で発酵させることを特徴とする、エタノールの生産方法。
【請求項4】
全糖濃度を15重量%に調整した際の総灰分が4.5重量%以上の廃糖蜜を用いることを特徴とする、請求項3に記載のエタノールの生産方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の方法において得られる発酵残渣を配合することを特徴とする、酵母含有飼料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−55166(P2012−55166A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198376(P2010−198376)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 日本農芸化学会 発行,「日本農芸化学会2010年度(平成22年度)大会講演要旨集」,平成22年3月5日発行
【出願人】(301025634)独立行政法人酒類総合研究所 (55)
【Fターム(参考)】