説明

新規シルフェニレン化合物およびその製造方法

【課題】新規なシルフェニレン化合物およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表されることを特徴とするシルフェニレン化合物。
【化1】


[式(1)中、R1〜R4は独立して水素原子または炭素数1〜6の一価炭化水素基を表す。R5、R6は独立して炭素数2〜8の二価炭化水素基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なシルフェニレン化合物に関し、特に、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂等の改質剤として有用な新規シルフェニレン化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性、耐燃性、電気・機械的特性などを有する樹脂としてポリイミド樹脂などが公知とされており、これは銅板積層板、多層プリント配線板材料などの複合材料として多用されている。ポリイミド樹脂はまた、LSIの多層配線用パッシベーション膜、メモリー素子用α線遮断膜、磁気ヘッドなどの多層配線絶縁膜、液晶配線向膜などのワニスとして、またフレキシブルプリント配線板基板などのフィルムとしても利用されている。
【0003】
しかし、このポリイミド樹脂はけい素や銅といった金属およびガラスなどの無機物との自己接着性に欠けており、またその溶解性が高沸点の極性溶剤にのみ限定され、かつワニス粘度が高く、さらには硬化物の融点が高く、成形性、加工性に欠けるという欠点があることから、より多くの用途に使用するための改質が望まれている。
【0004】
従来、コハク酸無水物を有するケイ素系化合物として、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと不飽和基を有するコハク酸無水物とをヒドロシリレーションにより付加反応させたコハク酸無水物変性シリコーンが知られている(特許文献1、2)。
【特許文献1】特開昭61−157531号公報
【特許文献2】特開平5―331291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はシルフェニレン化合物にアリルコハク酸無水物誘導体を付加した新規なシルフェニレン化合物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、下記一般式(1)で表されるシルフェニレン化合物およびその製造方法をなすに至った。
[1] 下記一般式(1)で表されることを特徴とするシルフェニレン化合物。
【0007】
【化4】

【0008】
[式(1)中、R1〜R4は独立して水素原子または炭素数1〜6の一価炭化水素基を表す。R5、R6は独立して炭素数2〜8の二価炭化水素基を表す。]
[2] 下記一般式(2)で表されるシラン化合物と下記一般式(3)で表されるコハク酸無水物誘導体とを付加反応させることを特徴とする上記[1]記載のシルフェニレン化合物の製造方法。
【0009】
【化5】

【0010】
[式(2)中、R1〜R4は独立して水素原子または炭素数1〜6の一価炭化水素基を表す。]
【0011】
【化6】

【0012】
[式(3)中、R7は炭素数2〜8の不飽和基含有一価炭化水素基を表す。]
[3]上記[1]に記載のシルフェニレン化合物をモノマーとして製造したことを特徴とする、ポリイミド樹脂。
【発明の効果】
【0013】
本発明の新規シルフェニレン化合物はポリイミド、ポリアミド、エポキシ樹脂等に用いることにより基材密着性、耐熱性、機械強度の向上に寄与する。したがって、フレキシブルプリント配線板材料、ICチップの保護膜、液晶用パネル材料として有用である。本発明の新規シルフェニレン化合物は、構造上シルフェニレン骨格を有することから、耐熱性の点で優れていると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の新規シルフェニレン化合物は下記一般式(1)で表される。
【0015】
【化7】

【0016】
式(1)中、R1〜R4は独立して水素原子または炭素数1〜6の一価炭化水素基を表す。かかる一価炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、オクチル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基が挙げられる。これらの中でも原料入手の点からメチル基が好ましい。
【0017】
式(1)中、R5、R6は独立して炭素数2〜8の二価炭化水素基を表す。かかる二価炭化水素基としては、エチレン基、n−プロピレン基、isoプロピレン基、n−ブチレン基、n−オクチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基などが挙げられる。これらの中でも経済性の点からエチレン基、n−プロピレン基が好ましい。
【0018】
本発明の製造方法は下記一般式(2)で表されるシラン化合物と下記一般式(3)で表されるアリルコハク酸無水物誘導体とをヒドロシリレーションにより付加反応させ、上記シルフェニレン化合物(1)を得る方法である。
【0019】
【化8】

【0020】
【化9】

【0021】
式(2)中、R1〜R4は式(1)と同様であり、独立して水素原子または炭素数1〜6の一価炭化水素基を表す。シラン化合物(2)の具体例としては、1,4−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン、1,4−ビス(ジエチルシリル)ベンゼン、1,4−ビス(ジフェニルシリル)ベンゼン、1,4−ビス(メチルフェニルシリル)ベンゼンなどが挙げられる。
【0022】
式(3)中、R7は炭素数2〜8の不飽和基含有一価炭化水素基を表す。かかる炭化水素基としては、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基、アクロイルプロピル基、アクロイルメチル基、メタクリロイルプロピル基、シクロヘキセニルエチル基などが挙げられる。これらの中でも経済性の点からビニル基、アリル基が好ましい。なお、R7は式(1)におけるR5およびR6にそれぞれ対応するものである。式(3)で表される化合物の具体例としては、アリルコハク酸無水物、ビニルコハク酸無水物などが挙げられる。
【0023】
当該ヒドロシリレーション反応に際して用いられる触媒は、従来より公知の触媒でよく、例えば、白金カーボン、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、白金のカルボニル錯体等の白金系触媒;トリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム等のロジウム系触媒;ビス(シクロオクタジエニル)ジクロロイリジウム等のイリジウム系触媒が好適に用いられる。前記付加反応用触媒の使用量は、触媒としての有効量でよく特に限定されないが、通常、上記シラン化合物とアリルコハク酸無水物の合計量 100重量部に対して 0.0001〜20重量部、好ましくは、0.001〜5重量部程度である。
【0024】
上記付加反応は溶媒を用いなくても進行するが、溶媒を用いることにより穏和な条件で反応を行うことができる。溶媒としてはトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒などが挙げられ、これらは単独であるいは2種以上組み合わせて用いることができる。反応温度は20℃〜150℃、好ましくは50℃〜120℃であり、反応時間は1時間〜24時間程度でよい。シラン化合物中のSi−H基1モルに対してアリルコハク酸無水物の使用量は1.0〜1.2モルの範囲でよい。
【0025】
このようにして得られる本発明のシルフェニレン化合物は、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂の改質剤として有用である。本発明のシルフェニレン化合物をモノマーとして上記樹脂を製造することで、各樹脂において特に耐熱性が向上する。なお、上記樹脂中における本発明のシルフェニレン化合物の含有量は、5〜80質量%であることが好ましい。
【0026】
本発明のシルフェニレン化合物をモノマーとして各種樹脂を製造する方法としては様々な方法が挙げられるが、例えば付加反応、重縮合反応等の方法が挙げられる。
【実施例】
【0027】
<実施例1:シルフェニレン化合物の合成>
攪拌機、温度計およびコンデンサーを備えた500mlフラスコにアリルコハク酸無水物101.6g(0.726モル)、2質量%塩化白金酸のエタノール溶液1gおよびトルエン150gを投入し、オイルバスを用いて内温が70℃になるように加熱撹拌した。次に1,4−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン58.2g(0.33モル)を20分かけて滴下した。滴下終了後、90℃で3時間撹拌した。得られた反応物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、原料の1,4−ビス(ジメチルシリル)ベンゼンに由来するピークは消失していた。反応液を120℃/10hPaの条件で5時間減圧濃縮して白色固体143g(収率95%)を得た。この白色固体をH―NMRで分析した結果、下記構造で示される化合物であることがわかった。
H―NMRチャートを表1および図1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【化10】

【0030】
<実施例2:シルフェニレン含有ポリイミド樹脂の合成>
撹拌機、温度計及び窒素置換装置を備えたフラスコ内に、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン 102.5g(0.25モル)およびシクロヘキサノン500gを仕込んだ。ついで、4,4’−ヘキサフルオロプロピリデンビスフタル酸二無水物55.5g(0.125モル)、実施例1で得られたシルフェニレン化合物59.3g(0.125モル)を反応系の温度が50℃を超えないように調節しながら、上記フラスコ内に添加した。さらに室温で8時間攪拌した。つぎに、該フラスコに水分受容器付き還流冷却器を取り付けた後、キシレン 100gを加え、150℃に昇温させてその温度を6時間保持したところ、黄褐色の溶液が得られた。こうして得られた溶液を室温(25℃)まで冷却した後、メタノール中に投じて再沈澱させた。得られた沈降物を乾燥し、NMRによって分析したところ、下記式を繰り返し単位とするシルフェニレン含有ポリイミド樹脂を得た。H―NMRチャートを図2に示す。
N,N―ジメチルホルムアミドを溶媒とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、この樹脂の重量平均分子量(ポリスチレン換算)を測定したところ、25000であった。
【0031】
【化11】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の新規シルフェニレン化合物はポリイミド、ポリアミド、エポキシ樹脂等に用いることにより基材密着性、耐熱性、機械強度の向上に寄与する。したがって、フレキシブルプリント配線板材料、ICチップの保護膜、液晶用パネル材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1のシルフェニレン化合物のH―NMRチャートである。
【図2】実施例2のシルフェニレン含有ポリイミド樹脂のH―NMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とするシルフェニレン化合物。
【化1】

[式(1)中、R1〜R4は独立して水素原子または炭素数1〜6の一価炭化水素基を表す。R5、R6は独立して炭素数2〜8の二価炭化水素基を表す。]
【請求項2】
下記一般式(2)で表されるシラン化合物と下記一般式(3)で表されるコハク酸無水物誘導体とを付加反応させることを特徴とする請求項1記載のシルフェニレン化合物の製造方法。
【化2】

[式(2)中、R1〜R4は独立して水素原子または炭素数1〜6の一価炭化水素基を表す。]
【化3】

[式(3)中、R7は炭素数2〜8の不飽和基含有一価炭化水素基を表す。]
【請求項3】
請求項1に記載のシルフェニレン化合物をモノマーとして製造したことを特徴とする、ポリイミド樹脂。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−143848(P2009−143848A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323032(P2007−323032)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】