説明

新規フラバノール化合物及びその製造方法

【課題】抗酸化作用により生体内に生成した活性酸素や過酸化脂質によって引き起こされる障害を抑制する能力を有し、医薬品、化粧品、健康食品、食品添加物などとして利用することができる、新規化合物の提供。
【解決手段】下記式(1)で表されるフラバノール化合物。


該化合物は、リンゴ未熟果実由来のプロシアニジン2量体と、アセチルシステイン及びその塩からなる群より選ばれる求核剤とを反応させることによって製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化活性を有し、医薬品、化粧品、健康食品、食品添加物などとして利用することができる新規フラバノール化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抗酸化化合物としては、例えばビタミン−C(アスコルビン酸)などの水溶性抗酸化化合物、ビタミン−E(α−トコフェロール)などの脂溶性抗酸化化合物が知られているが、ポリフェノールの中でも幅広い植物に含まれるプロアントシアニジン(PA)の機能性が健康食品分野において近年関心を集めている。PAは、フラバンユニットから構成され、酸性条件下分解してフラバンユニットの4位にカルボカチオンが生成するという化学的性質を持っており、トルエン−α−チオール、フロログルシノールなどの求核剤を共存させると、それらがカチオンをトラップしてフラバンユニットとの結合物質が生成することが知られている。
【0003】
【特許文献1】国際公開第2003/024951号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2004/103988号パンフレット
【非特許文献1】Torres, J.L., et al., 2005. Conjugation of Catechins with Cysteine Generates Antioxidant Compounds with Enhanced Neuroprotective Activity. Phytochemistry 66, 2032-2037.
【非特許文献2】Selga, A. & Torres, J.L., 2005. Efficient Preparation of Catechin Thio Conjugates by One Step Extraction/Depolymerization of Pine (Pinus pinaster) Bark Procyanidins. J. Agric. Food Chem. 53, 7760-7765.
【非特許文献3】Lozano, C., et al., 2005. Effect of New Antioxidant Cysteinyl-Flavanol Conjugates on Skin Cancer Cells. FEBS Letters 579, 4219-4225.
【非特許文献4】Selga, A., et al., 2004. Efficient One Pot Extraction and Depolymerization of Grape (Vitis vinifera) Pomace Procaynidins for the Preparation of Antioxidant Thio-Conjugates. J. Agric. Food Chem. 52, 467-473.
【非特許文献5】Mitjans, M., et al., 2004. Immunomodulatory Activity of a New Family of Antioxidants Obtained from Grape Polyphenols. J. Agric. Food Chem. 52, 7297-7299.
【非特許文献6】Torres, J.L., et al., 2002. Cysteinyl-flavan-3-ol Conjugates from Grape Procyanidins. Antioxidant and Antiproliferative Properties. Bioorganic & Medicinal Chemistry 10, 2497-2509.
【非特許文献7】Torres, J.L. and Bobet, R., 2001. New Flavanol Derivatives from Grape (Vitis vinifera) Byproducts. Antioxidant Aminoethylthio-Flavan-3-ol Conjugates from a Polymeric Waste Fraction Used as a Source of Flavanols. J. Agric. Food Chem. 49, 4627-4634.
【非特許文献8】Tanaka, T., et al., 1994. Chemical Evidence for the De-astringency (Insolubilization of Tannins) of Persimmon Fruit. J. Chem. Soc. Perkin Trans. I. 20, 3013-3022.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、医薬品、化粧品、健康食品、食品添加物などとして利用することができる、新規化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、リンゴ未熟果実由来のプロシアニジン2量体画分とSH基を有するアミノ酸であるアセチルシステインを求核剤として反応させ、新規フラバノール類化合物として4β−(N−アセチル−S−L−システイニル)−(−)−エピカテキン(NAC−EPC)を単離し、この化合物がビタミンCを上回る強い抗酸化活性を有することを見いだし、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記式(1)で表されるフラバノール化合物を提供する。
【化1】

また、本発明は、リンゴ果実由来のプロシアニジン2量体画分と求核剤とを反応させることを含む、前記フラバノール化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、抗酸化作用を有する新規フラバノール化合物を提供することができる。この新規フラバノール化合物は、抗酸化作用を有するので、生体内に生成した活性酸素や過酸化脂質によって引き起こされる障害を抑制する能力を有し、健康上の障害、美容上の障害の予防、治療に有効であり、医薬品、飲食品、化粧品などに応用、加工ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
上記式(1)で表されるフラバノール化合物は、例えばプロシアニジン2量体と、アセチルシステイン及びその塩からなる群より選ばれる求核剤とを反応させることによって製造することができる。ここで用いるプロシアジンは、2量体以外にも3〜15量体のいずれか、あるいは混合体であってもよい。
プロシアニジン2量体は、例えばリンゴ果実由来のプロシアニジン2量体画分であってもよく、好ましくはリンゴ未熟果実由来のプロシアニジン2量体画分である。ここで、「リンゴ未熟果実」とは、リンゴの果実が成熟する前に人為的に摘果したもの、あるいは落下などにより自然にリンゴ果樹より脱落したものをいう。
プロシアニジン2量体と、アセチルシステイン及びその塩からなる群より選ばれる求核剤との反応は、好ましくは酸性条件下で行う。用いる酸としては、有機酸又は無機酸のいずれであってもよい。有機酸としては、酢酸、クエン酸、アスコルビン酸、蓚酸、リンゴ酸、ギ酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、エリソルビン酸などが挙げられる。好ましくは、アスコルビン酸である。無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられる。好ましくは、塩酸である。これらの酸は、単独で、又は2種以上混合して用いてもよい。
プロシアニジン2量体と、アセチルシステイン及びその塩からなる群より選ばれる求核剤との反応は、好ましくは20〜95℃、より好ましくは50〜90℃、最も好ましくは70℃である。
プロシアニジン2量体と、アセチルシステイン及びその塩からなる群より選ばれる求核剤との反応に用いられる溶媒としては、好ましくは水、メタノール、エタノールなどが用いられる。医薬品、化粧品、健康食品、食品添加物などに使用することを考えると、溶媒は、好ましくは水、エタノールである。これらの溶媒は、単独で、又は2種以上混合して用いてもよい。
【0008】
前記反応後、残渣を濾別して、濾液を濃縮したあと常法により精製する。濃縮液の精製は、濃縮液を膜処理(限外濾過や逆浸透など)又は吸着剤処理などにより行うことができる。吸着剤としては、メタクリル酸吸着剤、ポリアクリルアミドゲル、スチレン−ジビニルベンゼン吸着剤、修飾デキストランゲル、親水性ビニルポリマー、逆相シリカゲル、イオン交換樹脂などが挙げられる。これらの吸着剤を用いる場合、本発明の新規フラバノール化合物は、吸着剤に吸着する画分に含まれる。この画分をメタノールなどのアルコール又は含水アルコール、アセトンなどで溶出させることにより、本発明の新規フラバノール化合物を得ることができる。
以下、NAC−EPCの製造方法の例を記載する。これらの実施例は本発明を詳細に説明する目的で特に好ましい様態を示したものであるが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【実施例】
【0009】
(実施例1)
リンゴ未熟果実由来のポリフェノールより得られたプロシアニジン2量体画分2.8g、アセチルシステイン(還元型)(和光純薬工業(株)製)56g、アスコルビン酸(和光純薬工業(株)製)0.5g、1%塩酸300mlを混合し、70℃で1時間反応させた。この反応液を冷水で冷却した後Sephadex LH−20(ファルマシア(株)製)を充填したカラム(容量約200ml)に負荷し、非吸着物質を水200mlで洗浄した後、40%メタノール300mlずつで溶出する画分をそれぞれ回収し、ロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮し、凍結乾燥して褐色粉末の画分1(収量2.48g)を得た。画分1をさらに下記の条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供し、類白色粉末として下記式のNAC−EPC(収量0.95g)を分取精製した。
【0010】
HPLC条件:
装置:Hitachi HPLCシステム(Hitachi Ltd., Tokyo, Japan)
カラム:Inertsil ODS−3(φ20×250mm、GL Sciences Inc., Tokyo, Japan)
カラム温度:40℃;流速:12ml/min;注入量:50〜100mg/mlメタノール;UV検出:280nm
移動相:18%メタノール
【0011】
(実施例2 DPPHラジカル消去活性)
新規フラバノール化合物であるNAC−EPCのDPPH(1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル)ラジカル消去活性を測定した。すなわち、96穴ウェルプレート中でサンプルの希釈系列を調製し(1ウェル100μL)、750μMのDPPHのエタノール溶液100μLを加え、暗黒条件下、室温で30分間インキュベーションした後にプレートリーダーを用いて517nmでの吸光度を測定した。吸光度を半減させる供試物質の最終濃度(IC50)を求め、これを抗酸化活性の指標とした。対照化合物として、ビタミンC(Vc)を用いた。結果を図1に示す。
図1の結果から、本発明の新規フラバノール化合物の活性(IC50(mM))は、Vcに比べて非常に強いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の新規フラバノール化合物のDPPHラジカル消去活性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるフラバノール化合物。
【化1】

【請求項2】
リンゴ果実由来のプロシアニジン2量体画分と、アセチルシステイン及びその塩からなる群より選ばれる求核剤とを反応させることを含む、請求項1記載のフラバノール化合物の製造方法。
【請求項3】
リンゴ果実由来のプロシアニジン2量体画分と求核剤との反応を70℃で行う、請求項2記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−201745(P2008−201745A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41250(P2007−41250)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】