説明

新規プロトン型βゼオライト

【課題】本発明の課題は、一価フェノール類を酸化して、二価フェノール類を製造するために使用される、調製が簡便であり、低温側でも高い反応性を示す新規プロトン型βゼオライト及びその調整方法を提供することである。
【解決手段】本発明の課題は、アンモニア昇温脱離法(NH−TPD)のスペクトルにおいて、330℃を中心としてプラスマイナス100℃の範囲の脱離ピークを示す酸点が存在し、且つ500℃以上の脱離ピークを示す強い酸点の量が2.5μmol/g以下である新規プロトン型βゼオライトによって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規プロトン型βゼオライトとその調製方法、及び同ゼオライトとケトンの存在下、一価フェノール類を過酸化物で酸化して二価フェノール類を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトを触媒とし、一価フェノール類を酸化して二価フェノール類を製造する技術として、例えば特許文献1には希土類金属を含有したフォージャサイトあるいはモルデナイトを用いた例が、また特許文献2にはプロトン型ZSM−5を用いた例がそれぞれ記載されている。また特許文献3にはシャバザイト等の天然ゼオライト、或いはUS−Y、ZSM−5等の合成ゼオライトが報告されている。しかしながら、これらの技術において目的生成物の収率は充分でなかった。また、これらゼオライト上に存在する酸点の強度と二価フェノール製造における触媒活性との相関については何ら言及されていない。
【0003】
非特許文献1には、TS−1(ZSM−5の格子中にチタン含むもの)を用いた例が記載されている。しかしながら非特許文献2に示されているように、TS−1は、その調製の再現性がしばしば問題となっているうえ、目的生成物の収率も充分ではないという問題点がある。
【0004】
また、非特許文献3にはTS−1とチタンを格子中に含むβゼオライトの比較が記載されているが、TS−1過酸化水素基準の収率が71.5%、チタンを含むβゼオライトで62.8%と、その収率は充分でない。
【0005】
特許文献4および特許文献5には、βゼオライトを用いた例が記載されており、更に、アルカリ金属イオンを導入したβゼオライトを用いることで、二価フェノール類の収率が向上することが記載されているが、これらの文献に記載されたβゼオライトでは反応収率の温度依存性が高く、90℃以下の低温側での収率は充分でなかった。従って反応実施において温度範囲が制限されてしまうことから、更なる改良が求められていた。
【0006】
【特許文献1】米国特許第3580956号明細書。
【特許文献2】米国特許第4578521号明細書。
【特許文献3】仏国特許出願公開第2693457号明細書。
【特許文献4】米国特許第6441250号明細書。
【特許文献5】特開2003−26623号公報。
【非特許文献1】AdvancesinCatalysis,41(1996),p.253−334.
【非特許文献2】AccountsofChemicalResearch,31(8),(1998)p.485−493.
【非特許文献3】JournalofPhysicalChemistry,203,(2001)p.201−212.
【非特許文献4】JournalofPhysicalChemistry,104(2000),p.2853−2859.
【非特許文献5】触媒調製化学、講談社(1980)p.61−73.
【非特許文献6】MicroporousandMesoporousMatarials,40(2000)p.271−281.
【非特許文献7】Keulemans,“GasChromatography”,Reinhold,NewYork,1957,p.39.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、調製が簡便であり、低温側でも高い反応性を示す新規プロトン型βゼオライト、及びそれを使用する一価フェノール類を酸化して、高収率で二価フェノール類を製造する工業的な製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の課題を解決するために検討した結果、新規プロトン型βゼオライトを見出すと共に、同ゼオライトを用いて、一価フェノール類を酸化して、高収率で二価フェノール類を製造する工業的な二価フェノール類の製造法を見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は次の通りである。
【0009】
第一の発明は、アンモニア昇温脱離法(NH−TPD)のスペクトルにおいて、330℃を中心としてプラスマイナス100℃の範囲の脱離ピークを示す酸点が存在し、且つ500℃以上の脱離ピークを示す強い酸点の量が2.5μmol/g以下に制御されたプロトン型βゼオライトに関するものである。
【0010】
第二の発明は、Al:Si(原子比)が1:25〜1:10000であるβゼオライトをpHが0から6の酸性水溶液に浸漬した後、水洗した後、乾燥し、更に焼成処理する第一の発明のプロトン型βゼオライトの調製方法に関するものである。
【0011】
第三の発明は、第一の発明のプロトン型βゼオライト及びケトンの存在下、一価フェノール類を過酸化物で酸化することを特徴とする二価フェノール類の製造方法に関するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明を詳しく説明する。
本発明のプロトン型βゼオライトは、βゼオライトを、酸性水溶液に浸漬した後、取り出して、水洗し、乾燥後、焼成処理して得られる。
ここで、βゼオライトとしては、Al:Si(原子比)が1:25〜1:10000であるβゼオライトが好ましく使用される。なお、この比率は、βゼオライトの原料であるSi化合物とAl化合物、例えば珪酸ナトリウムとアルミン酸ナトリウムの組成で制御可能である。
【0013】
このβゼオライトとしては、本発明の酸性水溶液による処理が施されていないプロトン型βゼオライト、アンモニウムイオン交換型βゼオライト、又はアルカリ金属イオン交換型βゼオライト等を使用することができる。
本発明の酸性水溶液による処理が施されていないプロトン型βゼオライトとしては、市販のもの、或いは非特許文献4に記載の方法により新に調製されたプロトン型βゼオライトを使用することができる。
アンモニウムイオン交換型βゼオライトは、市販のものを使用することができる。またアルカリ金属イオン交換型βゼオライトは、プロトン型βゼオライトをアルカリ金属の硝酸塩、塩酸塩又は硫酸塩などの前記金属イオン含有水溶液に浸漬処理する非特許文献5に記載の方法により調整することができる。
これらβゼオライトのうちでは、本発明の酸性水溶液による処理が施されていないプロトン型βゼオライトが好適に用いられる。
【0014】
本発明の酸性水溶液で使用される酸としては、特に制限されないが、脂肪族カルボン酸(蟻酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸等)、芳香族カルボン酸(安息香酸等)、アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸等)、又はスルホン酸(トリフルオロメチルスルホン酸等)などの有機酸、或は無機酸(硝酸、燐酸、弗酸、塩酸、硫酸等)が挙げられるが、無機酸が好ましく、更には硝酸が好ましい。
【0015】
前記酸性水溶液としては、pH0〜6に調製されたものが使用される。また、使用量は、前記βゼオライトが充分に浸漬する量であれば良く、特に限定されない。
【0016】
本発明のβゼオライトの酸性水溶液への浸漬温度は、室温から120℃の範囲であり、好ましくは40〜90℃である。また、浸漬時間は1〜12時間である。この浸漬操作は、攪拌しながら行うことが好ましいが、静置しても十分同様な効果が得られる。
【0017】
次に、酸性水溶液に浸漬されたβゼオライトは、取り出されて、水洗される。ここで取り出し方法は、特に限定されないが、例えば、濾過等の方法によって行われる。また、水洗に使用される水としては、イオン交換水が好ましい。
【0018】
前記の水洗されたβゼオライトは乾燥される。乾燥の温度範囲は、90〜150℃である。乾燥時間は、前記βゼオライトの量によるが、1時間〜2日である。
この乾燥後、前記βゼオライトは焼成処理される。焼成の温度範囲は、350〜950℃であるが、450〜850℃が好ましい。焼成時間は、1〜24時間である。
【0019】
上記の酸性水溶液処理を施して得られる本発明のプロトン型βゼオライトは、アンモニア昇温脱離法(NH−TPD、昇温速度20℃/分、測定範囲100℃〜700℃)のスペクトルを未処理のものと比較した場合、330℃を中心としてプラスマイナス100℃の範囲の脱離ピークを示す酸点が存在し、且つ500℃以上の脱離ピークを示す強い酸点の量が2.5μmol/g以下、更には0.0005μmol/g(同脱離ピークの検出限界から算出)以上、2.5μmol/g以下であるという特徴がある。なお、未処理のものの200℃付近の脱離ピークは、βゼオライト構造上に存在する、分散力等に基づく物理吸着アンモニアに由来するものであり、酸性水溶液によって顕著に減少している。(図2参照)ここで、強い酸点の量は、前記アンモニア昇温脱離法(NH−TPD)での、脱離アンモニア量から計算される(非特許文献6参照)。
また、この脱離アンモニア量の計算は、非特許文献7に記載の定量方法に従って、330℃を中心とした主ピークの裾にのった500℃以上の脱離ピークを、先の主ピークの延長線によって区切り、その面積から定量した。(図1及び下式1参照)
【0020】
【数1】

【0021】
(式中のAは、330℃を中心とする主ピーク、Bは、500℃以上の脱離ピークを表す。図1参照。)
【0022】
また、本発明のプロトン型βゼオライトは、そのFT−IRスペクトルを未処理のものと比較した場合、3782cm−1の吸収が検出限界以下である特徴を有する。(図3参照)
【0023】
本発明のプロトン型βゼオライトは、ケトンの存在下、一価フェノール類を過酸化物で酸化する二価フェノール類の製造において好適に使用される。
【0024】
ここで使用される一価フェノールとしては、例えば、フェノール、一価モノアルキルフェノール、一価ハロゲン化フェノール、一価ポリアルキルフェノールが挙げられる。
【0025】
一価モノアルキルフェノールが有するアルキル基としては、直鎖又は分岐状の炭素原子数1〜6個のアルキル基が挙げられる。アルキル基の位置は、反応に関与しなければ特に限定されない。これら化合物としては、例えば、o−,m−又はp−クレゾール、o−m−又はp−エチルフェノール、o−プロピルフェノール、p−イソプロピルフェノール、m−ブチルフェノール、p−イソブチルフェノール、p−t−ブチルフェノール、m−イソブチルフェノール、p−ペンチルフェノール、p−ヘキシルフェノールが挙げられる。
【0026】
一価ハロゲン化フェノールが有するハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。ハロゲン原子の数及び位置は、反応に関与しなければ特に限定されない。
これら化合物としては、例えば、o−,m−又はp−フルオロフェノール、o−,m−又はp−クロロフェノール、o−,m−又はp−ブロモフェノール、o−,m−又はp−ヨウ化フェノール、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−又は3,5−ジクロロフェノール、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−又は3,5−ジブロモロフェノール、2,3,4−、2,3,5−、2,3,6−、2,4,5−、2,4,6−又は3,4,5−トリクロロフェノールが挙げられる。
【0027】
一価ポリアルキルフェノールが有するアルキル基としては、直鎖又は分岐状の炭素原子数1〜6個のアルキル基が挙げられる。アルキル基の数及び位置は、反応に関与しなければ、特に限定されない。
これら化合物としては、例えば、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,5−又は3,4−ジメチルフェノール、2,3,4−、2,3,5−、2,3,6−又は3,4,5−トリメチルフェノール、2,4,5−トリメチルフェノール、2,3,4,5−又は2,3,5,6−テトラメチルフェノール、2−エチル−3−メチルフェノール、3−t−ブチル−4−メチルフェノール、2−イソプロピル−5−メチルフェノール、2−ペンチル−6−メチルフェノール、3−ヘキシル−5−メチルフェノールが挙げられる。
【0028】
本発明のプロトン型βゼオライトを用いた二価フェノールの製法において使用されるケトンとしては、例えば、モノケトン、ジケトンが挙げられる。モノケトンとしては、非環式又は環式モノケトンが挙げられる。非環式モノケトンとしては、例えば、炭素原子数3〜20個、好ましくは3〜10個の直鎖状又は分岐状脂肪族モノケトンや芳香族モノケトンを挙げることができる。これら化合物の水素原子はハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子)で置換されてもよい。ハロゲン原子の数及び位置は、反応に関与しなければ特に限定されない。
【0029】
直鎖状脂肪族モノケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、2−オクタノン、2−ノナノン、3−デカンノン、6−ウンデカノン、2−トリデカノン、7−トリデカノン、2−テトラデカノン、2−ペンタデカノン、2−ヘキサデカノン、2−ヘプタデカノン、3−オクタデカノン、4−ノナデカノン、1−クロロ−2−プロパノン、1−クロロ−3−ヘプタノン、1−ブロモ−3−ヘプタノンが挙げられる。
【0030】
分岐状脂肪族モノケトンとしては、例えば、3−メチル−2−ブタノン、3−メチル−2−ペンタノン、4−メチル−2−ペンタノン、3,3−ジメチル−2−ブタノン、2,4−ジメチル−3−ペンタノン、6−メチル−2−ヘプタノン、2,6−ジメチル−4−ヘプタノン、2,2,4,4−テトラメチル−3−ヘプタノンが挙げられる。芳香族モノケトンとしては、例えば、アセトフェノン、ベンゾフェノン、1−フェニル−3−プロパノン、1−フェニル−1−ブタノン、1−フェニル−3−ブタノン、1−フェニル−3−ペンタノン、1,3−ジフェニル−2−プロパノンが挙げられる。
【0031】
環式モノケトンとしては、例えば、炭素原子数5〜12個のシクロアルキルモノケトンを挙げることができる。これら化合物の水素原子はハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子)、或いは炭素原子数1〜6個の直鎖状又は分岐状のアルキル基などの置換基で置換されてもよい。置換基の数及び位置は、反応に関与しなければ特に限定されない。
これら化合物としては、例えば、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロドデカノン、2−クロロシクロヘキサノン、2−エチル−1−シクロペンタノン、2−メチル−1−シクロヘキサノンを挙げることができる。
【0032】
ジケトンとしては、非環式又は環式ジケトンが挙げられる。非環式ジケトンとしては、例えば、炭素原子数5〜21個、好ましくは5〜12個の直鎖状又は分岐状脂肪族ジケトンや芳香族ジケトンを挙げることができる。これら化合物の水素原子はハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子)で置換されてもよい。ハロゲン原子の数及び位置は、反応に関与しなければ特に限定されない。
直鎖状脂肪族ジケトンとしては、例えば、2,3−ブタンジオン、2,4−ペンタンジオン、2,5−ヘキサンジオンが挙げられる。分岐状脂肪族ジケトンとしては、例えば、2,5−ジメチル−3,4−ヘキサンジオンが挙げられる。芳香族ジケトンとしては、例えば、1,2−ジフェニルエタン−1,2−ジオンが挙げられる。
【0033】
環式ジケトンとしては、例えば、炭素原子数5〜12個の環式ジケトンを挙げることができる。これら化合物の水素原子はハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子)、又は炭素原子数1〜6個の直鎖状又は分岐状のアルキル基などの置換基で置換されてもよい。置換基の数及び位置は、反応に関与しなければ特に限定されない。環式ジケトンとしては、例えば、1,4−シクロヘキサンジオンが挙げられる。
【0034】
本発明のプロトン型βゼオライトを用いた二価フェノールの製法において使用されるケトンとして好ましいものは、直鎖状又は分岐状脂肪族モノケトン、或いは環式モノケトンであり、更に好ましいものは、直鎖状又は分岐状脂肪族モノケトンであり、その中でも4−メチル−2−ペンタノン、3−ペンタノンが特に好ましい。
【0035】
ケトンの使用量は、過酸化物に対するケトンのモル比(ケトン:過酸化物)が0.2:1〜5:1になるような割合であることが好ましい。
【0036】
本発明のプロトン型βゼオライトを用いた二価フェノールの製法では、必ずしも必須ではないが、微量の鉄イオン等の溶存金属イオンが反応に及ぼす悪影響を避けるため、少量の燐酸を添加しても構わない。燐酸としては、オルト燐酸、ピロ燐酸、メタ燐酸、三燐酸、四燐酸、ポリ燐酸、無水燐酸、燐酸性水溶液が挙げられるが、燐酸性水溶液が好ましい。燐酸性水溶液の濃度としては、0.001〜100重量%が好ましい。
【0037】
燐酸の使用量は、一価フェノールに対する燐酸の重量比(燐酸:一価フェノール)が0.0001:1〜0.05:1になるような割合であることが好ましい。
【0038】
本発明のプロトン型βゼオライトを用いた二価フェノールの製法において使用される過酸化物は、過酸化水素などの無機過酸化物、又はケトンパーオキサイド、脂肪族過カルボン酸などの有機過酸化物が挙げられる。
【0039】
ケトンパーオキサイドとしては、例えば、炭素原子数が3〜20個、好ましくは3〜10個であるジアルキルケトンパーオキサイドが挙げられる。
これら化合物としては、例えば、ジメチルケトンパーオキサイド、ジエチルケトンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチル−n−プロピルケトンパーオキサイド、メチルイソプロピルケトンパーオキサイド、及びメチルイソブチルケトンパーオキサイドなどを挙げられる。
【0040】
脂肪族過カルボン酸としては、例えば、過酢酸、過プロピオン酸などを挙げられる。
【0041】
過酸化水素としては、0.1重量%以上、好ましくは0.1〜90重量%の過酸化水素水を使用することができるが、30〜80重量%の過酸化水素水が更に好ましい。
【0042】
本発明のプロトン型βゼオライトを用いた二価フェノールの製法において使用される過酸化物としては、過酸化水素またはケトンパーオキサイドか好ましい。このケトンパーオキサイドはケトンと過酸化水素の接触により合成可能であり、ここで使用されるケトンは前記と同様のものである。
【0043】
過酸化物の使用量は、一価フェノールに対する過酸化物のモル比(過酸化物:一価フェノール)が1:1〜1:100、更には1:5〜1:20になるような範囲であることが好ましい。
【0044】
過酸化物の反応系内への添加方法としては、一括して反応開始時に添加しても構わないが、副反応の併発を抑制して、高収率で反応を進行させるために、数回に分割して添加するか、または送液ポンプを用いて微量ずつ連続的に添加するのが好ましい。分割添加の場合は、一回あたりの過酸化物の一価フェノールに対する添加量は、モル比(過酸化物:一価フェノール)で0.05:100〜2:100、更に好ましくは0.1:100〜2:100である。また、分割添加、連続添加いずれの場合においても、反応系内における過酸化物の一価フェノールに対する量はモル比で0.05:100〜2:100の範囲が好ましく、更には0.1:100〜1:100の範囲が好ましい。
【0045】
前記の二価フェノールの製造において使用される本発明のプロトン型βゼオライトの形状としては、粉体、粒体、ペレット、ハニカム状成形体などを挙げることができる。
【0046】
前記の二価フェノールの製造に応じた形状としては、例えば、液相バッチ式反応器を用いて製造する時には、粉体、粒体などを使用するのが好ましく、液相流通式反応器を用いた時には、ペレット、ハニカム状成形体などが好ましい。
【0047】
前記の二価フェノールの製造において、プロトン型βゼオライトの使用量は、一価フェノールに対するプロトン型βゼオライトの重量比(βゼオライト:一価フェノール)が1:1〜1:500、更には1:5〜1:100になるような範囲であることが好ましい。
【0048】
前記の二価フェノールの製造における反応温度は、20〜300℃、更には40〜200℃であることが好ましい。反応時間は、例えば、プロトン型βゼオライトのAl:Si(原子比)の違いや反応温度によって異なるが、特に制限は無い。また、反応は大気圧で行えるが減圧又は加圧下で行ってもよい。反応は、液相で、バッチ式、流通式、トリクルベッド方式などで行うことができる。
【0049】
前記の二価フェノールの製造の方法としては、例えば、一価フェノール、過酸化水素、ケトン及び燐酸を、βゼオライトをあらかじめ充填した反応器に供給して、一価フェノールを酸化してニ価フェノールを生成させ、反応器から反応混合物を排出させる反応などが挙げられる。
【0050】
前記の二価フェノールの製造で得られる二価フェノールは、原料の一価フェノールの構造に対応して、1種類あるいは数種類のものの混合物として得られる。また、これらの二価フェノールは、常法にて分離、精製して得ることができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例及び比較例によって具体的に説明する。なお、本発明はこれら実施例で制限されるものではない。
【0052】
二価フェノールの収率は、次式に従って求めたものである。なお、分析はガスクロマトグラフィーにより行った。
【0053】
【数2】

【0054】
実施例1.(H/βHNO(38)の調製)
Al:Si=1:38であるゼオリスト製のプロトン型βゼオライト粉体(以下、H/β(38)と記載)5.0gを、硝酸性水溶液(pH=1.35)が40ml入ったナスフラスコに入れ、これをオイルバスで80℃に加熱して、攪拌を行った。2時間後、ゼオライトを濾過して、イオン交換水で洗浄した後、110℃で乾燥し、550℃で2.5時間空気焼成した。得られたプロトン型βゼオライト(以下、H/βHNO(38)と記載)のICP発光分析を行ったところ、同βゼオライト中のAl:Si(原子比)は、Al:Si=1:78であった。また、NH−TPD測定(昇温速度20℃/分、測定範囲100℃〜700℃)を行ったところ、未処理を行わなかったものと比べ500℃以上の強い酸点に帰属される脱離ピークが著しく減少していた(図2参照)。この図に示したNH−TPDスペクトルから、500℃以上の温度領域に存在する強い酸点の量を、前記式1から計算したところ、0.55μmol/gであったのに対し、硝酸未処理のもの(H/β(38))では3.0μmol/gと顕著な差が認められた。またFT−IRスペクトルを比較したところ、H/β(38)で検出された3782cm−1の吸収は検出されなかった(図3参照)。
【0055】
実施例2.(H/βHNO(13)の調製)
Al:Si=1:13であるゼオリスト製のプロトン型βゼオライト粉体(以下H/β(13)と記載)5.0gを、硝酸性水溶液(pH=1.30)が40ml入ったナスフラスコに入れ、これをオイルバスで80℃に加熱して、攪拌を行った。2時間後、ゼオライトを濾過して、イオン交換水で洗浄した後、110℃で乾燥し、550℃で2.5時間空気焼成した。得られたプロトン型βゼオライト(以下H/βHNO(13)と記載)のICP発光分析を行ったところ、βゼオライト中のAl:Si(原子比)は、Al:Si=1:69であった。また、NH−TPD測定(昇温速度20℃/分、測定範囲100℃〜700℃)を行ったところ、未処理のもの(H/β(13))と比べ500℃以上の強い酸点に帰属される脱離ピークが著しく減少していた。実施例1と同様にして算出した強い酸点の量は、H/βHNO(13)では1.8μmol/gであったのに対し、H/β(13)では4.2μmol/gと顕著な差が認められた。
また、FT−IRスペクトルを比較したところ、H/β(13)で検出された3782cm−1の吸収は検出されなかった。
【0056】
実施例3.(ニ価フェノールの合成)
実施例1で調製されたH/βHNO3(38)0.20g、フェノール10.0g、3−ペンタノン0.27g、85重量%燐酸性水溶液0.02gを300mlのフラスコに入れて、窒素雰囲気に置換した後、攪拌しながら60℃まで昇温した。次いで、この温度において、60%重量過酸化水素水を0.10g滴下し、1.5分後更に0.10g、3分後更に0.10g滴下して、最初の滴下から5分になるまで反応させた。
その結果、ニ価フェノールの収率は、カテコールが52.8%、ハイドロキノンが41.5%で、カテコールとハイドロキノンの合計収率は94.3%であった。
【0057】
実施例4.(ニ価フェノールの合成)
反応温度を100℃とした以外は実施例3と同様に反応させた。
その結果、ニ価フェノールの収率は、カテコールが54.9%、ハイドロキノンが41.1%で、カテコールとハイドロキノンの合計収率は96.0%であった。
【0058】
比較例1.(ニ価フェノールの合成)
H/βHNO(38)をH/β(38)とした以外は実施例3と同様に反応させた。その結果、ニ価フェノールの収率は、カテコールが50.0%、ハイドロキノンが34.7%で、カテコールとハイドロキノンの合計収率は84.7%であった。
【0059】
比較例2.(ニ価フェノールの合成)
反応温度を100℃とした以外は比較例4と同様に反応させた。
その結果、ニ価フェノールの収率は、カテコールが51.4%、ハイドロキノンが33.6%で、カテコールとハイドロキノンの合計収率は85.0%であった。
【0060】
実施例5(ニ価フェノールの合成)
H/βHNO(38)をH/βHNO(13)とした以外は実施例4と同様に反応させた。その結果、ニ価フェノールの収率は、カテコールが52.6%、ハイドロキノンが39.1%で、カテコールとハイドロキノンの合計収率は91.7%であった。
【0061】
比較例3(ニ価フェノールの合成)
H/βHNO(38)をH/β(13)とした以外は実施例4と同様に反応させた。その結果、ニ価フェノールの収率は、カテコールが49.3%、ハイドロキノンが33.8%で、カテコールとハイドロキノンの合計収率は83.1%であった。
【0062】
[表1]

【0063】
実施例6.(ニ価フェノールの合成)
実施例1で調製したH/βHNO(38)0.20g、フェノール10.0g、3−ペンタノン0.27gを300mlのフラスコに入れ、窒素雰囲気に置換した後、攪拌しながら100℃まで昇温した。次いで、この温度において、60%重量過酸化水素水を0.10g滴下し、1.5分後更に0.10g、3分後更に0.10g、4.5分後に0.1g、6分後に0.1g、7.5分後に0.1g滴下して、最初の滴下から10分になるまで反応させた。
その結果、ニ価フェノールの収率は、カテコールが48.4%、ハイドロキノンが43.7%で、カテコールとハイドロキノンの合計収率は92.1%であった。
【0064】
実施例7.(ニ価フェノールの合成)
反応前原料に85%燐酸性水溶液0.02gを加えた以外は実施例6と同様に反応させた。その結果、ニ価フェノールの収率は、カテコールが50.4%、ハイドロキノンが40.4%で、カテコールとハイドロキノンの合計収率は90.8%であった。
【0065】
比較例3.(ニ価フェノールの合成)
H/βHNO(38)をH/β(38)とした以外は実施例6と同様に反応させた。
その結果、ニ価フェノールの収率は、カテコールが45.1%、ハイドロキノンが37.9%で、カテコールとハイドロキノンの合計収率は83.1%であった。
【0066】
比較例4.(ニ価フェノールの合成)
H/βHNO(38)をH/β(38)とした以外は実施例7と同様に反応させた。
その結果、ニ価フェノールの収率は、カテコールが47.7%、ハイドロキノンが33.0%で、カテコールとハイドロキノンの合計収率は80.7%であった。
【0067】
[表2]

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、新規プロトン型βゼオライトとその調製方法、及び同ゼオライトとケトンの存在下、一価フェノール類を過酸化物で酸化して二価フェノール類を製造する方法に関するものである。本発明の新規プロトン型βゼオライトを用いて製造される二価フェノール類は、例えば、医農薬原料、及び重合防止剤として有用な化合物である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】プロトン型βゼオライトのアンモニア昇温脱離法(NH−TPD)のスペクトル(模式図)。
【図2】H/β(38)及びH/βHNO(38)のアンモニア昇温脱離法(NH−TPD)のスペクトル。
【図3】H/β(38)及びH/βHNO(38)のFT−IRスペクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al:Si(原子比)が1:25〜1:10000であるβゼオライトをpHが0から6の酸性水溶液に浸漬した後、水洗した後、乾燥し、更に541℃から950℃にて焼成処理して得られる、アンモニア昇温脱離法(NH−TPD)のスペクトルにおいて、330℃を中心としてプラスマイナス100℃の範囲の脱離ピークを示す酸点が存在し、且つ500℃以上の脱離ピークを示す強い酸点の量が2.5μmol/g以下であるプロトン型βゼオライト。
【請求項2】
ケトンの存在下、一価フェノール類を過酸化物で酸化して得られる二価フェノール類の製造に使用される、請求項1に記載のプロトン型βゼオライト。
【請求項3】
請求項1に記載のAl:Si(原子比)が1:25〜1:10000であるβゼオライトをpHが0から6の酸性水溶液に浸漬した後、水洗した後、乾燥し、更に541℃から950℃にて焼成処理する、プロトン型βゼオライトの調製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−73736(P2009−73736A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287471(P2008−287471)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【分割の表示】特願2003−153842(P2003−153842)の分割
【原出願日】平成15年5月30日(2003.5.30)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】