新規乳酸菌
【課題】乳酸菌またはその培養物を有効成分とする肝機能障害予防改善組成物、ならびにかかる乳酸菌として用いられる新規乳酸菌を提供する。また乳酸菌を利用した発酵食品の離水抑制方法を提供する。
【解決手段】乳酸菌としてラクトバチルス ヘルベチカスまたはストレプトコッカス サーモフィラスの少なくとも1方に属する乳酸菌、好ましくはLactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)またはStreptococcus thermophilus SC-1(FERM P-20601)の少なくとも一方の乳酸菌を用いて発酵乳、乳酸菌飲料、またはこれらを加工したサプリメントを調製する。
【解決手段】乳酸菌としてラクトバチルス ヘルベチカスまたはストレプトコッカス サーモフィラスの少なくとも1方に属する乳酸菌、好ましくはLactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)またはStreptococcus thermophilus SC-1(FERM P-20601)の少なくとも一方の乳酸菌を用いて発酵乳、乳酸菌飲料、またはこれらを加工したサプリメントを調製する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳酸菌を有効成分とする肝機能障害予防用組成物に関する。また本発明は、肝機能障害予防用組成物の調製に有効に使用される新規乳酸菌に関する。さらに本発明は、乳酸菌を利用した、発酵食品の離水抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は生体内で解毒作用、糖質、蛋白質の代謝や貯蔵およびホルモン調節等の重要な役割を果たしており、その機能障害は生体にとって致命的な結果を招くことも少なくない。肝炎に代表される肝機能障害の原因はアルコール飲料の過剰摂取、暴飲、暴食や不規則な生活、ストレスなどの生活習慣に基づくものもあるが、肝炎ウイルスに因るものも多いことがわかってきている。特にウイルス性肝炎は、慢性化すると肝硬変を経て肝癌に移行することが多く、予防改善法の確立が切望されている。
【0003】
一方、近年の健康志向を反映して、食品は単に栄養補強のためだけでなく、より積極的な健康保持機能が求められるようになっている。特に、発酵乳などの乳酸菌含有食品は、健康食品や保健用食品として注目されており、事実、乳酸菌含有食品が整腸作用、免疫賦活作用および抗がん作用などの様々な有効な生理作用を有することが報告されている(例えば、抗変異原性を有する乳酸菌については特許文献1〜4等を参照のこと)。
【0004】
しかしながら、乳酸菌の肝機能障害予防作用については知られていない。
【特許文献1】特開平5−236945号公報
【特許文献2】特開平5−236872号公報
【特許文献3】特開平8−56650号公報
【特許文献4】特開平11−113564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安全性が高く長期摂取可能な肝機能障害予防用組成物を提供することを目的とする。特に本発明は抗変異原作用と肝機能障害予防作用とを有し、癌化予防とともに肝機能障害の予防を目的として使用される上記組成物を提供することを目的とする。さらに本発明は、抗変異原作用に加えて肝機能障害予防作用を有する乳酸菌として新規な乳酸菌、ならびにそれを利用して調製される食品を提供することを目的とする。さらにまた本発明は、当該新規乳酸菌が固有に有する粘性多糖産生能を利用して、製造過程や流通保存工程で生じ得る離水やホエー分離が有意に抑制された、品質に優れた発酵乳製品を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究をしていたところ、乳酸菌、特にラクトバチルス属に属する乳酸菌およびストレプトコッカス属に属する乳酸菌から調製される発酵乳に、肝機能障害を有意に予防する作用があることを見出した。さらに本発明者らは、肝機能障害予防作用を発揮する乳酸菌として単離したラクトバチルス属およびストレプトコッカス属に属する新規菌株に、さらに抗変異原性があることを見出し、かかる菌株によれば、肝機能障害予防作用および抗変異原作用(抗癌作用)などの優れた生理作用に基づいて、健康増進および健康維持に極めて有効な健康食品が提供できることを確信した。また、本発明者らは、上記新規菌株のうちラクトバチルス属に属する菌株が粘性多糖を産生することを見出し、かかる菌株を利用することにより、製造過程や流通保存工程で問題となる離水やホエー分離が有意に抑制された発酵乳製品が調製できることを確認した。
【0007】
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、下記の態様を包含する。
項1.乳酸菌またはその培養物を有効成分とする肝機能障害予防用組成物。
項2.乳酸菌が抗変異原性を有するものであることを特徴とする項1に記載する肝機能障害予防用組成物。
項3.乳酸菌が、ラクトバチルス ヘルベチカスまたはストレプトコッカス サーモフィラスの少なくとも1方に属する乳酸菌である項1または2に記載する肝機能障害予防用組成物。
項4.有効成分としてLactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)またはStreptococcus thermophilus SC-1(FERM P-20601)の少なくとも一方の乳酸菌を含有する項1乃至3のいずれかに記載する組成物。
項5.肝機能障害予防作用を有する経口用医薬品または食品である、項1乃至4のいずれかに記載の肝機能障害予防用組成物。
項6.上記食品が発酵乳、乳酸菌飲料、またはこれらを加工して調製されるサプリメントである項5に記載する肝機能障害予防用組成物。
【0008】
項7.ラクトバチルス ヘルベチカスに属する新規乳酸菌:Lactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)。
項8.ストレプトコッカス サーモフィラスに属する新規乳酸菌:Streptococcus thermophilus SC-1(FERM P-20601)。
【0009】
項9.Lactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)またはStreptococcus thermophilus SC-1(FERM P-20601)の少なくとも一方の乳酸菌を用いて調製される食品組成物。
項10.乳酸菌としてLactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)を用いることを特徴とする、離水またはホエー分離が抑制された発酵乳製品の調製方法。
項11.乳酸菌としてLactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)を用いて発酵乳を調製することを特徴とする、発酵乳製品の離水またはホエー分離の抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、食品成分として摂取される安全性の高い乳酸菌を有効成分とする肝機能障害予防を目的とした製品を提供することができる。本発明の肝機能障害予防用組成物は、副作用の心配なく長期摂取が可能であり、当該摂取により肝炎など、特にウイルス性肝炎に伴う肝機能障害を予防ないし軽減することができる。また当該乳酸菌として抗変異原作用を有する乳酸菌を用いることにより、肝機能障害予防作用に加えて癌予防作用を有する組成物を提供することができる。
【0011】
また本発明によれば、肝機能障害予防作用に加えて、癌化に関連する各種の変異原物質に対して強い抗変異原作用を発揮する新規な乳酸菌を提供することができる。当該乳酸菌を発酵乳や乳酸菌飲料などの食品形態で摂取することにより、肝機能障害の発生を予防し、また変異原物質を除去若しくは不活性化、または変異原作用を低減して癌化を未然に防ぐことが可能となる。従って、本発明の新規乳酸菌は健康食品(機能性食品、特定保健用食品など)またはその調製材料として有用である。
【0012】
さらに本発明が提供するラクトバチルス属に属する新規乳酸菌は粘性多糖産生能を有しており、この特性を利用することにより、製造、流通および保存工程で問題となるホエー分離や離水が有意に抑制された発酵乳製品を調製することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(1)肝機能障害予防用組成物
本発明の肝機能障害予防用組成物は、乳酸菌またはその培養物を有効成分とすることを特徴とする。
【0014】
ここで乳酸菌は、乳酸発酵を行うことのでき、かつ肝機能障害予防作用を発揮する微生物であれば特に制限されず、ラクトバチルス カゼイ、ラクトバチルス ヘルベチカス、ラクトバチルス ラクチス、ラクトバチルス デルブルッキィ、ラクトバチルス ブルガリカス、ラクトバチルス アシドフィラスなどのラクトバチルス属に属する微生物;ストレプトコッカス サーモフィラスなど のストレプトコッカス属に属する微生物;ラクトコッカス ラクチス、ラクトコッカス クレモリスなどのラクトコッカス属に属する微生物;ロイコノストック メッセンテロイデスなどのロイコノストック属に属する微生物;ビフィドバクテリウム ビフィダム、ビフィドバクテリウム ロンガム、ビフィドバクテリウム ブレーベなどのビフィドバクテリウム属に属する微生物を挙げることができる。好ましくは、ラクトバチルス属に属する乳酸菌およびストレプトコッカス属に属する乳酸菌である。中でもラクトバチルス属に属するラクトバチルス ヘルベチカス、またストレプトコッカス属に属するストレプトコッカス サーモフィラスを好適に挙げることができる。
【0015】
なお、乳酸菌の肝機能障害予防作用は、乳酸菌(菌体)そのものに基づく作用であっても、また菌体産生物に基づく作用のいずれであってもよい。すなわち、肝機能障害予防作用を有する(発揮する)微生物の中には、微生物そのものが肝機能障害予防作用を有する場合と肝機能障害予防作用を有する物質を産生する能力を有する微生物の両方が含まれる。
【0016】
乳酸菌が発揮する肝機能障害予防作用は、乳酸菌または乳酸菌を用いて調製される乳酸発酵食品を、肝障害モデル動物に経口投与することによって評価することができる。肝障害モデル動物としては、D−ガラクトサミン誘発肝障害モデルラット、D−ガラクトサミンおよびリポポリサッカライド誘発肝障害モデルラット、および四塩化炭素誘発肝障害モデル動物を用いることができる。なお、D−ガラクトサミン誘発肝障害モデルラットは、ガラクトサミンによって引き起こされる肝炎がヒトのウイルス性肝炎の症状と比較的よく似ているため、肝炎、とくにウイルス性肝炎のモデル動物として汎用されているモデル動物である。
【0017】
本発明の肝機能障害予防作用は、乳酸菌または乳酸発酵食品(例えば、発酵乳や乳酸菌飲料)を所定期間経口投与した被験動物に対して、上記D−ガラクトサミンを単独またはリポポリサッカライドと組み合わせて経口投与するか、または四塩化炭素を皮下投与し、発生する肝機能障害の有無や程度を、肝機能の指標である血清中のトランスアミラーゼ(GOT、GPT)活性や乳酸脱水素酵素(LDH)活性、または肝臓組織の炎症反応(細胞浸潤や壊死巣)に基づいて評価することができる。乳酸菌または乳酸発酵食品を投与(摂取)するにより、ガラクトサミンなどの上記薬物によって本来誘発される肝機能障害の発症やその程度が抑制される場合に、当該乳酸菌に肝機能障害予防作用があると評価することができる。
【0018】
かかる肝機能障害予防作用を発揮する乳酸菌は、天然中または発酵食品や発酵食品スターターから、単離採取することができる。本発明において好適に用いられる乳酸菌は、かかる肝機能障害予防作用を発揮する乳酸菌であって、さらに抗変異原性を有するものである。より好ましくは生菌および死菌の別なく、菌体そのものに抗変異原性を備えた乳酸菌である。
【0019】
抗変異原性を有する乳酸菌は、例えば抗変異原性の評価法であるエイムス法を用いてスクリーニングすることができる。具体的には、まず、被験乳酸菌を適当な菌数(例えば、2〜3億個/ml程度)になるように調製し、これに変異原物質を加え、さらに必要に応じてS9-mixを加える。その後、突然変異検定菌(例えば、サルモネラ・チフィムリウム[Salmonella typhimurium]TA100株やTA98株、大腸菌[Escherichia coli]WP2uvrA)を添加し、この混合物をプレインキュベートした後、更に個体培地で培養する。培養終了後、突然変異検定菌に生じた復帰突然変異コロニーを検出し、そのコロニー数に基づいて各被験乳酸菌の抗変異原作用を評価し、抗変異原性の高い乳酸菌を選択する。かかるスクリーニングでは、比較対照として、変異原物質を添加しない系および被験乳酸菌を添加しない系についても同様の試験を行い、上記と同様にして復帰突然変異コロニーを検出することが必要である。
【0020】
これらの結果から、下式により被験乳酸菌の抗変異原性を評価することができる。
【0021】
【数1】
【0022】
なお、上記において使用される変異原物質としては、当業界で公知のものであればよく、特に制限されない。例えば、4-ニトロキノリン-N-オキシド(4NQO)やN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)などの塩基置換型の変異原物質;3-アミノ-1,4-ジメチル-5H-ピリド[4,3-b]インドール(Trp-P-1)、2-アミノ-6-メチルイミダ-5H-ピリド[1,2-a-3’,2’-d]-イミダゾール(Glu-P-1)、および2-アミノ-3,4-ジメチルイミダゾ[4,5-f]キノリン(MeIQ)などのフレームシフト型の変異原物質を挙げることができる。本発明が対象とする乳酸菌は、制限はされないが、好ましくは塩基置換型の変異原物質、より好ましくは4NQOに対して、強い抗変異原作用を有するものである。特にかかる塩基置換型の変異原物質に対して50%以上、好ましくは55%以上の抗変異原活性を示す乳酸菌が好適である。
【0023】
本発明は、上記の肝機能障害予防作用と抗変異作用を有する新規乳酸菌を提供する。当該乳酸菌は、上記の如くして天然界から単離して得られたものである。本発明の新規乳酸菌のうち一つであるSR-1乳酸菌(Lactobacillus helveticus SR-1)は、図1に示す菌学的特性を有している。
【0024】
当該SR-1乳酸菌は、MicroSeqを用いたDNA解析の結果、その16S rDNA塩基配列は、相同率99.93%もの高い割合で、公知のLactobacillus helveticus(NCIMB11971株、Accession No.AY369116)の16S rDNAに対して相同性を示し、両者の16S rDNA間の相違は混合塩基(IUBコードY=CまたはT)で1塩基だけであった。分子系統樹上でも当該SR-1乳酸菌の16S rDNAは、Lactobacillus helveticusの16S rDNAと系統枝を形成し、近縁であることが示された。BLASTを用いたGenBank/DDBJ/EMBLに対する相同性検索(国際塩基配列データベースに対する相同性検索)の結果も、SR-1乳酸菌の16S rDNAは相同率99.9%で、上記L. helveticus(NCIMB11971株)の16S rDNAに対して最も高い相同性を示した。以上、菌学的特性および16S rDNA-Full塩基配列解析の結果から、当該SR-1乳酸菌は、ラクトバチルス属に属するLactobacillus helveticusに帰属する乳酸菌であると判断された。
【0025】
当該乳酸菌の菌株は、茨城県つくば市東1-1-1つくばセンター中央第6に住所を有する独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに「Lactobacillus helveticus SR-1」(寄託者が付した識別のための表示)として、平成17年7月21日に寄託されている(受託番号:FERM P-20600)。
【0026】
また、本発明の新規乳酸菌のもう一つのSC-1乳酸菌(Streptococcus thermophillus SC-1)は、図2に示す菌学的特性を有している。
【0027】
当該SC-1乳酸菌は、MicroSeqを用いた解析の結果、その16S rDNA塩基配列は相同率100%でStreptococcus thermophillus(ATCC19258株, Accession No.AY188354およびDL1株, Accession No.AB200871)の16S rDNAと一致した。分子系統樹上でもSC-1乳酸菌の16S rDNAは、Streptococcus thermophillusの16S rDNAと系統枝を形成し、近縁であることが示された。BLASTを用いたGenBank/DDBJ/EMBLに対する相同性検索(国際塩基配列データベースに対する相同性検索)の結果においても、SC-1乳酸菌の16S rDNAは相同率100%で、Streptococcus thermophillusの基準株であるATCC 19258株 の16S rDNAと一致した。以上、菌学的特性および16S rDNA-Full塩基配列解析の結果から、当該SC-1乳酸菌は、ストレプトコッカス属に属し、Streptococcus thermophillusに帰属する乳酸菌であると判断された。
【0028】
この菌株は、茨城県つくば市東1-1-1つくばセンター中央第6に住所を有する独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに「Streptococcus thermophillus SC-1」(寄託者が付した識別のための表示)として、平成17年7月21日に寄託されている(受託番号:FERM P-20601)。
【0029】
本発明が対象とする肝機能障害予防用組成物には、上記乳酸菌またはその培養物を、肝機能障害を予防し得る有効量含有する経口用医薬品および食品が含まれる。使用する乳酸菌は1種だけでもよいし、2種以上の組み合わせからなるものであってもよい。好ましい組み合わせは、ラクトバチルス属に属する乳酸菌とストレプトコッカス属に属する乳酸菌との組み合わせ、中でもラクトバチルス ヘルベチカスとストレプトコッカス サーモフィラスとの組合せが好ましい。上記乳酸菌は、M.R.S(de Man, Rogosa, Sharpe)培地などの慣用の乳酸菌培養用培地を用いて、適宜培養増殖させた後、生菌のまままたは殺菌処理し、また必要に応じて凍結乾燥あるいはスプレードライして粉末化して、本発明の組成物の有効成分として使用することができる。
【0030】
本発明が対象とする経口用医薬品は、上記有効成分を薬学的に許容される担体(賦形剤、結合剤、崩壊剤、崩壊補助剤、滑沢剤など)や添加剤などと混合し、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などの所望の形態に製剤化することにより調製することができる。薬学的に許容される担体としては、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、乳糖、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガカント、メリルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カカオバターなどを挙げることができる。添加剤としては、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などを例示することができる。医薬組成物の投与量は、患者の性別、体重、年齢、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。例えば、乳酸菌の菌数で表示すると、1日あたりの服用量が1×107個以上、好ましくは1×108個以上、より好ましくは5×108個以上となるような割合を挙げることができる。
【0031】
本発明が対象とする食品は、上記有効成分を飲食物の製造原料の一つとして配合することによって調製することができる。食品の種類は特に制限されず、乳製品(飲料を含む)、発酵食品、飲料(粉末飲料を含む)、菓子、パン、魚肉加工品、畜肉加工品、麺類、スープ類、総菜などを例示することができる。好ましくは、肝機能障害予防作用を有する乳酸菌を用いて調製される乳製品、発酵製品および飲料である。乳製品および発酵製品の例として、牛乳などの獣乳や乳原料(ミックス)を、肝機能障害予防作用を有する乳酸菌を用いて発酵させて調製されるヨーグルトなどの発酵乳(無脂乳固形分が8%以上で、乳酸菌数または酵母菌数が1mlあたり1,000万以上含まれているもの)、クミスやケフィアなどの発酵酒、および乳製品乳酸菌飲料(無脂乳固形分が3%以上8%未満)を挙げることができる。飲料の例として、果物ジュースや野菜ジュースなどの中に肝機能障害予防作用を有する乳酸菌を添加することにより調製される、乳酸菌飲料(無脂乳固形分が3%未満)、乳酸菌入り飲料(乳酸菌入りジュース)等を挙げることができる。本発明の組成物の調製に際して、添加する乳酸菌の数に制限はないが、乳酸菌数が多いほど優れた生理作用が期待できるので好ましい。この意味では、発酵により乳酸菌を増加せしめることのできる発酵食品が好ましい。かかる食品は、乳酸菌として前述のものを用いる以外は、通常の方法により実施でき、食品の種類に応じた各種の製品や添加物、例えば、乳、乳製品、例えば乳、乳製品、砂糖、果汁、野菜汁、ゲル化剤、香料などを任意に加えることができる。
【0032】
また本発明が対象とする食品には、上記有効成分をそのまま又は食品として使用可能な担体や添加剤とともに、顆粒剤、粉末剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、またはドリンク剤(溶液、乳化液または懸濁液)などの形態に調製したサプリメントが含まれる。担体や添加剤としては、経口医薬品に関して使用されるものを同様に使用することができる。
【0033】
食品の摂取量は、摂取者の性別、体重、年齢、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。例えば、乳酸菌の菌数で表示すると、1日あたりの摂取量が1×107個以上、好ましくは1×108個以上、より好ましくは5×108個以上となるような割合を挙げることができる。通常、一日摂取される量の食品に対して、上記割合の乳酸菌を配合することによって調製される。例えば、ヨーグルト等の発酵乳の場合、成人1日摂取量50〜500g、好ましくは60〜200g中に上記割合で肝機能障害予防作用を有する乳酸菌が含まれるように設定される。
【0034】
本発明の食品は、肝機能障害予防機能、好ましくはさらに抗変異原機能(癌化予防機能)を有する健康食品、機能性食品、特定保健用食品、あるいは病者用食品として提供することができる、
(2)新規乳酸菌およびそれを利用した食品組成物
本発明は、肝機能障害予防作用を有する新規乳酸菌として、前述するラクトバチルス属に属するSR-1乳酸菌(「Lactobacillus helveticus SR-1」、受託番号:FERM P-20600)およびスタフィロコッカス属に属するSC-1乳酸菌(「Streptococcus thermophillus SC-1」、受託番号:FERM P-20601)を提供する。
【0035】
当該乳酸菌は、肝機能障害予防作用に加えて、抗変異原作用、特に生菌および死菌に関わらず塩基置換型の変異原物質(例えば、4NQOやMNNGなど)に対して強い抗変異原作用を有している。このため、当該乳酸菌またはその培養物は、肝機能障害予防作用、好ましくはさらに抗変異原作用(癌化予防作用)を有する経口医薬品として、また食品(健康食品、機能性食品、特定保健用食品、あるいは病者用食品)として有効に利用することができる。なお、経口医薬品や食品の調製にあたり、これらの新規乳酸菌は、単独で使用しても、両者を組み合わせて使用してもよい。また本発明の効果を損なわないことを限りに、他の乳酸菌や酵母を併用することもできる。
【0036】
経口医薬品や食品の種類、その形態、および投与(摂取)量などは(1)の記載に従って設定することができる。食品として好ましくは発酵乳などの乳製品、乳酸菌飲料、またはこれらを製剤加工したサプリメントを挙げることができる。
【0037】
(3)ホエー分離および離水が抑制された発酵乳製品の調製方法
本発明の新規乳酸菌であるラクトバチルス属に属するSR-1乳酸菌(「Lactobacillus helveticus SR-1」、受託番号:FERM P-20600)は、上記肝機能障害予防作用および抗変異原作用に加えて、粘性多糖産生能を有している。そこで、本発明は、当該SR-1乳酸菌を用いることを特徴とする、ホエー分離および離水が抑制された発酵乳製品の調製方法を提供する。発酵乳としては、好適にはヨーグルト(ハードタイプのヨーグルト、ソフトタイプのヨーグルト)を挙げることができる。
【0038】
かかる発酵乳製品の調製方法は、SR-1乳酸菌をスターター菌として用いることを特徴とし、この点を除いて他は慣用方法に従って行うことができる。
【0039】
具体的には、脱脂乳、脱脂粉乳、およびショ糖、ならびに必要に応じて安定剤を含むヨーグルトミックスを乳化、殺菌および冷却した後、これにSR-1乳酸菌を含むスターター菌を1〜3%程度の割合で接種し、常法に従って発酵する。ここで発酵から製品化の工程はハードタイプとソフトタイプで異なり、例えばハードタイプのヨーグルトは、小売り容器に充填後30〜45℃で2.5〜12時間程度発酵させ、0.5〜1.5%程度の酸度を目安に終了させて製品とする。一方、ソフトタイプのヨーグルトは、タンクで同様の発酵を行い、冷却後、小売り容器に充填し製品とする。
【0040】
斯くして発酵乳製品は、従来安定剤として使用される寒天、ゼラチン、カラギーナン、グアガム、ローカストビーンガム、およびペクチンを使用しないか、または通常の使用量よりも少ない量で、離水やホエー分離が抑制され、きめが細かく組織が安定した発酵乳(ヨーグルト)として調製することができる。
【0041】
なお、スターター菌は、SR-1乳酸菌を含むものであればよく、SR-1乳酸菌単独でも、他の乳酸菌または酵母菌を混合して使用することもできる。好ましくは肝機能障害予防作用を有する乳酸菌、またはさらに抗変異原作用を有する乳酸菌(例えば、本発明のSC-1乳酸菌)を組み合わせて、混合乳酸菌として用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実験例および実施例により本発明をより詳細に説明する。但し、これらの実施例などは一例であり、本発明はこれらの実施例に制限されることはない。なお、下記の実験例および実施例において、乳酸菌としてラクトバチルス属に帰属する「Lactobacillus helveticus SR-1」(受託番号:FERM P-20600)(以下、単に「SR-1乳酸菌」という)、およびストレプトコッカス属に属する「Streptococcus thermophillus SC-1」(受託番号:FERM P-20601)(以下、単に「SC-1乳酸菌」という)を使用した。
【0043】
実験例1 肝機能予防改善効果
(1)被験試料の調製
被験試料として、SR-1乳酸菌およびSC-1乳酸菌をそれぞれ用いて調製したヨーグルトを使用した(便宜上、以下、SR-1乳酸菌を用いて調製したヨーグルトを「SR-1ヨーグルト」、SC-1乳酸菌を用いて調製したヨーグルトを「SC-1ヨーグルト」ともいう)。具体的にはヨーグルトは、加熱殺菌して調製した12%還元脱脂乳に、乳酸菌スターターとして、SR-1乳酸菌またはSC-1乳酸菌を1%接種して発酵させ(42℃)、乳酸酸度が0.80〜0.85%に達した時点で発酵を停止し、10℃以下に冷却することによって調製した(生菌数1.0×108〜5.2×108、pH4.6程度)。
【0044】
(2)実験方法
(2-1) ヨーグルトの投与およびガラクトサミンによる肝障害の誘発
実験には3週齢ウイスター雄ラット(CrJ:Wistar,チャールズリバー)18頭を使用した。具体的には1週間馴化飼育した後、これらのラットを3群(コントロール群、SR-1ヨーグルト投与群、SC-1ヨーグルト投与群)に分け、コントロール群(n=6)には通常飼料(粉末MF、オリエンタル酵母)を、SR-1ヨーグルト投与群およびSC-1ヨーグルト投与群(各n=6)には、通常飼料にそれぞれ上記で調製したSR-1ヨーグルトおよびSC-1ヨーグルトを混合した飼料を十分量与え、自由摂取させた。なお、通常飼料へのヨーグルトの混合割合は、飼料中のヨーグルト含有量を乾物重量として15重量%とした。混合飼料は毎日作成し交換した。毎週1回、全個体(n=18)の体重を測定した。
【0045】
2ヶ月後、各群のラットをエーテルで麻酔し、ガラクトサミン(D-(+)galactosamine hydrochloride)を、300mg/kg体重の割合で腹腔内投与した。なお、ガラクトサミンは、滅菌したリン酸緩衝液で、150mg/mlの濃度に溶解して注射液として調製した。
【0046】
(2-2) 採血および肝機能検査
ガラクトサミン投与の21時間後、各群のラットをエーテルおよびネンブタールで麻酔し、腹大静脈から血液を3ml採取し、遠心分離により血清標本を得た。得られた血清標本から、臨床検査装置(SPOTCHEM SP-4430、アークレイ(株)製)を用いて、血清中のGOT活性、GPT活性、γ−GTP活性、LDH活性、ALP活性および総ビリビン量を測定した。
【0047】
(2-3)肝臓の組織標本
採血と同時に、肝臓の組織を採取し、直ちに10%ホルマリンにいれて固定化した。これをヘマトキシリンエオジン染色して肝組織標本とし、顕微鏡観察を行った。
【0048】
(3)結果
各群(コントロール群、SR-1ヨーグルト投与群、SC-1ヨーグルト投与群)の通常飼料およびヨーグルト摂取による体重の推移を図3に示す。また各群(コントロール群、SR-1ヨーグルト投与群、SC-1ヨーグルト投与群)のガラクトサミン投与後の肝機能検査結果(血清中のGOT、GPT、γ−GTP、LDH、ALP活性および総ビリビン量)を図4に示す。
【0049】
図4からわかるように、通常飼料により飼育したラット群の血清GOT活性、GPT活性、LDH活性およびALP活性は、ガラクトサミン投与により極度に上昇し、また総ビリルビン量も0.6mg/dlとわずかに増加しており、ガラクトサミンによって肝障害が誘発された。これに対してヨーグルト混合飼料を投与したラット群(SR-1ヨーグルト投与群、SC-1ヨーグルト投与群)はいずれも、ガラクトサミン投与によるこれらの増加は明らかに抑制されていた(ガラクトサミン誘発肝障害の抑制)。このことから、乳酸菌から調製されるヨーグルト(発酵食品)には肝機能障害を予防する効果があることが示された。なお、図3に示すように、いずれの群のラットの体重も、成長に従って増加し、SR-1ヨーグルト投与およびSC-1ヨーグルト投与による影響は見られなかった。
【0050】
実験例2 抗変異原性試験(発酵乳)
SR-1乳酸菌およびSC-1乳酸菌の抗変異原性をエイムス法に従って評価した。具体的には、SR-1乳酸菌およびSC-1乳酸菌をそれぞれ用いて発酵乳を調製し、発酵乳およびその濾液、ならびに菌体そのもの(生菌体、死菌体)について抗変異原性を測定した。
【0051】
(1)実験方法
(1-1) 被験試料の調製
(i) 発酵乳
SR-1乳酸菌およびSC-1乳酸菌を、それぞれTYLG液体培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%ラクトース、0.5%グルコース、0.1%Tween80、0.01% L-システイン塩酸塩を含む)で継代して調製した乳酸菌培養液(発酵乳のスターター)を殺菌処理された10%還元脱脂乳に1%の割合で接種し、37℃で24時間培養して発酵乳を調製した。SR-1乳酸菌から調製された発酵乳を「SR-1発酵乳」、SC-1乳酸菌から調製された発酵乳を「SC-1発酵乳」と称する。
【0052】
(ii) 発酵乳の濾液
上記で得られた発酵乳(SR-1発酵乳、SC-1発酵乳)を濾紙で濾過した後、さらにフィルター(0,2μm)で濾過して、菌体を完全に除去して、濾液を取得した。
【0053】
(1-2) 抗変異原性の測定
抗変異原性の測定にあたり使用した変異原物質を表1に示す。測定には、各変異原物質をDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解して変異原溶液として用いた。
【0054】
【表1】
【0055】
抗変異原性の測定は、指標菌として突然変異検定菌であるサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)TA98株およびTA100株を用いて、エイムス法に従って下記の手順により行った。
【0056】
(a)滅菌試験管に、被験試料100μl、変異原溶液100μl、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)700μl、及び指標菌培養液100μlを順次加え混合する。但し、変異原としてTrp-P1、MeIQまたはGlu-P1を使用する場合は、滅菌試験管に、被験試料100μl、変異原溶液100μl、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)600μl、S9-mix 100μl、及び指標菌培養液100μlを順次加え混合する。
【0057】
(b)37℃で20分間振盪培養し、その後、これにトップアガー(ビオチン及びL-ヒスチジンをそれぞれ約0.05mM含有する軟寒天)2ml添加し、よく混合した後、最小グルコース個体培地静の重層する。これを37℃で48時間培養する。
【0058】
(c)培養終了後、培地上に形成されたヒスチジン非要求性のコロニーを検出し、そのコロニー数に基づいて、下式により各被験試料の抗変異原性を評価する。なお、各被験試料の抗変異原性の評価にあたり、上記と並行して、被験試料を配合しない系、および被験試料と変異原溶液の両方とも配合しない系についても同様に試験を行い、コロニー数を測定した。
【0059】
【数2】
【0060】
(2)結果
(2-1) 各変異原物質に対する各発酵乳(SR-1発酵乳、SC-1発酵乳)の抗変異原性を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表からわかるように、SR-1乳酸菌から調製されたSR-1発酵乳、およびSC-1乳酸菌から調製されたSC-1発酵乳は、フレームシフト型の変異原物質よりも、塩基置換型の変異原物質に対して高い抗変異原性を示した。
【0063】
(2-2)上記で最も高い抗変異原性を示した4NQOを指標変異原物質を用いて、各発酵乳(SR-1発酵乳、SC-1発酵乳)とその濾液の抗変異原性を評価した結果を図5に示す。図からわかるように、濾液の抗変異原性は、発酵乳に比して有意に低下した(p<0.05)。この結果から、発酵乳の抗変異原性には菌体が大きく関わっていることが示唆された。
【0064】
実験例3 抗変異原性試験(菌体)
前述の通り、実験例2の結果から発酵乳の抗変異原性には菌体が大きく関わっていることが示唆されたため、ここでは菌体そのものの抗変異原性を評価した。供試用の菌体として、SR-1乳酸菌およびSC-1乳酸菌をそれぞれ凍結乾燥して調製した菌体粉末(生菌体粉末、死菌体粉末)を使用した。なお、生菌体粉末は、SR-1乳酸菌またはSC-1乳酸菌をTYLG液体培地で数回継代した後、5000rpmで10分間遠心分離して菌体を回収し、これをリン酸緩衝液で2回洗浄した後に凍結乾燥することによって調製した。また死菌体粉末は、上記操作のリン酸緩衝液での洗浄後に、オートクレーブで121℃、15分間処理し、次いで凍結乾燥することによって調製した。
【0065】
これらの乳酸菌粉体(生菌体粉末、死菌体粉末)を、4NQO溶液(2.5μg/ml)に、5mg/mlとなるように溶解し、これを37℃で24時間振盪培養した。この培養液を3000rpmで10分間遠心し、上清をさらにフィルター濾過した濾液の変異原性を実験例2の方法(エイムス法)に従って測定した。なお、コントロールとして、菌体無添加の4NQO溶液の変異原性を測定し、下式により、菌体の抗変異原性を算出した。
【0066】
【数3】
【0067】
結果を図6に示す。図からわかるように、SR-1乳酸菌およびSC-1乳酸菌のいずれにも抗変異原性が認められた。こうした菌体による抗変異原性は、菌体の変異原物質結合作用によるものと言われている(Rajam Rajendran and Yoshiyuki Ohta, Canadian Journal of Microbiology Vol.44:109-115(1998);宮本拓ら、Japanese Journal of Dairy and Food Science Vol.40, No.3 (1991))。
【0068】
従って、本発明の乳酸菌(SR-1乳酸菌およびSC-1乳酸菌)はその変異原結合性に基づいて(特に塩基置換型の変異原物質に対する変異原結合性)、抗変異原作用を発揮するものと考えられる。また、図に示すように、生菌体のみならず、死菌体にも抗変異原性が認められた。このことから、本発明の乳酸菌(SR-1乳酸菌およびSC-1乳酸菌)によれば、その生存に関わらず、仮に消化管の胃酸や胆汁酸の影響で菌が死んでも、腸管内で変異原物質を結合させて体外に排出させることができるものと思われる。
【0069】
実験例4 抗変異原性試験(粘性多糖類)
SR-1乳酸菌は、粘性多糖物質を産生する能力を有している。そこで当該乳酸菌が産生する粘性多糖類について実験例2に従って抗変異原作用を調べた。
【0070】
(1)粘性多糖類の調製
10%還元脱脂乳に、SR-1乳酸菌の培養液を1%添加して37℃で24時間培養した。培養後、10000rpmで30分間遠心して上清を回収し、次いで減圧濾過により濃縮した後、10%トリクロロ酢酸を等量加え、氷冷下で一晩静置した。これを10000rpmで30分間遠心し、タンパク質を沈殿させて上清を回収し、さらにこれにエタノールを添加して、沈殿物(多糖類)を回収した。これを再度蒸留水に溶解し、エタノール沈殿を繰り返し洗浄した。得られた洗浄物を凍結乾燥し、粘性多糖物質を白色の凍結乾燥物として調製した。
【0071】
(2)抗変異原性試験
上記凍結乾燥物を50mg/mlになるように蒸留水に溶解して調製した多糖類水溶液を被験試料として実験例2と同様にして、4NQOを変異原物質として、抗変異原性を評価した。結果を図7に示す。図から、SR-1乳酸菌が産生する粘性多糖物質にも抗変異原作用が認められた。
【0072】
実験例4 離水抑制試験(SR-1乳酸菌)
85℃達温で殺菌した牛乳にスターター菌としてSR-1乳酸菌を1%接種し、滅菌した目盛り付スピッチ遠心管に分注した。これを42℃で発酵させて、乳酸酸度が0.8%に達した時点で発酵を停止し、一晩冷却して離水の割合(離水率)を測定した。離水率は、スピッチ遠心管に入った発酵乳を遠心分離し、発酵乳全量に対する離水の割合を算出することで求めた。また、比較試験として、SR-1乳酸菌に変えて、同じラクトバチルス ヘルベティカに属する標準菌株Lactobacillus helveticus NBRC 15019株を用いて同様に離水率を評価した。
【0073】
結果を図8に示す。この結果からわかるように、SR-1乳酸菌を用いて調製した発酵乳の方が優れた離水防止効果を示した。SR-1乳酸菌には粘性多糖産生能があることから、SR-1乳酸菌が産生する粘性多糖物質によって発酵乳の組織が安定化するものと考えられた。このため、SR-1乳酸菌を発酵乳のスターター菌として用いることにより、発酵乳製造過程もしくは保存・流通過程で起こり得る離水やホエー分離を防止することができる。
【0074】
以下、本発明が対象とする食品の例として、発酵乳、発酵乳(ドリンクタイプ)、乳酸菌飲料、発酵乳などを加工して調製されるサプリメントの製造方法を挙げる。これらの食品の調製には、スターター菌として本発明のSR-1乳酸菌及びSC-1乳酸菌を単独または組み合わせて使用することができる。
【0075】
実施例1 発酵乳
発酵乳の調製工程を図9に示す。具体的には、原料(牛乳、脱脂乳、脱脂粉乳、およびショ糖、ならびに必要に応じて香料、安定剤)を調合して調製したヨーグルトミックスを均質圧130kg・f/cm2で均質化し、122℃で2秒間殺菌する。これを45℃まで冷却した後、乳酸菌スターターとしてSR-1乳酸菌及びSC-1乳酸菌を単独または両方組み合わせて接種し、42℃で発酵させる。乳酸酸度が0.85%に達した時点で発酵を停止し、10℃以下に冷却して発酵乳を調製する。
【0076】
実施例2 発酵乳(ドリンクタイプ)
発酵乳(ドリンクタイプ)の調製工程を図10に示す。具体的には、原料(牛乳、脱脂乳、脱脂粉乳、およびショ糖、ならびに必要に応じて香料、安定剤)を調合して調製したヨーグルトミックスを均質圧130kg・f/cm2で均質化し、122℃で2秒間殺菌する。これを45℃まで冷却牛乳、した後、乳酸菌スターターとしてSR-1乳酸菌及びSC-1乳酸菌を単独または両方組み合わせて接種し、42℃で発酵させる。乳酸酸度が0.60%に達した時点で発酵を停止する。これを均質圧100kg・f/cm2で均質化後、容器に充填して10℃以下で冷却して発酵乳(ドリンクタイプ)とする。
【0077】
実施例3 乳酸菌飲料
乳酸菌飲料の調製工程を図11に示す。具体的には、調合した原料(脱脂乳、脱脂粉乳)を95℃で90分間殺菌し、36.5℃まで冷却する。乳酸菌としてSR-1乳酸菌及びSC-1乳酸菌を単独または両方組み合わせて添加・発酵させ、冷却(10℃以下)したものを均質化(150kg・f/cm2)し、これをカードとする。別に調製したシロップ(果糖ブドウ糖液糖、上白糖)をカードと混合し、香料を添加後、均質化(150kg・f/cm2)したものを乳酸菌飲料原液とする。これに殺菌水を混合し再度均質化(120kg・f/ cm2)を行い、充填後、10℃以下にて冷蔵して、乳酸菌飲料を調製する。
【0078】
実施例4 サプリメント(フリーズドライ粉末)
サプリメント(粉末形態)の調製工程を図12に示す。具体的には、例えば実施例1で調製した発酵乳(原料)を1トレー当たり4kg盛り、-20℃以下で8時間以上の予備凍結を行う。続いて、真空凍結乾燥機で、最高棚温80℃、最終棚温50℃、真空度0.5torr以下の条件で24時間真空凍結乾燥を行い、次いでパワーミルで粉砕後、スクリーン0.8mmで篩分けし粉末化する。斯くして調製したサプリメント(フリーズドライ粉末)は、金属探知を行った後、乾燥剤を入れたアルミ包装に供して製品とする。
【0079】
実施例5 サプリメント(錠剤)
サプリメント(錠剤形態)の調製工程を図13に示す。具体的には、例えば実施例4で調製したフリーズドライ化した発酵乳(原料)をその他の原料(マルチトール)と混合する。これをバインダーとして増粘多糖類(プルラン)の水溶液を噴霧しながら流動させ、同時に熱風乾燥し造粒する。残りの原料(香料、ミルクカルシウム、ショ糖脂肪酸エステル)を混合し、打錠機で打錠する。斯くして調製したサプリメント(錠剤)を容器に充填・包装して製品とする。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の新規乳酸菌「Lactobacillus helveticus SR-1」(受託番号:FERM P-20600)の菌学的特性を纏めた図である。
【図2】本発明の新規乳酸菌「Streptococcus thermophillus SC-1」(受託番号:FERM P-20601)の菌学的特性を纏めた図である。
【図3】SR-1ヨーグルト(図中、Lと標記)、SC-1ヨーグルト(図中、Sと標記)を投与したラットの体重変化(g)を、コントロール群(図中、Controlと標記)の体重変化とともに示す結果である(実験例1)。
【図4】SR-1ヨーグルト(図中、Lと標記)、SC-1ヨーグルト(図中、Sと標記)を投与したラットの肝機能結果〔血清中のGOT活性(GOT)、GPT活性(GPT)、γ−GTP活性(GGT)、LDH活性(LDH)、ALP活性(ALP)および総ビリビン量(T-Bil)〕を、コントロール群(図中、Controlと標記)の肝機能結果とともに示す(実験例1)。
【図5】Lactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)またはStreptococcus thermophilus SC-1(FERM P-20601)を用いて調製した発酵乳とその濾液について抗変異原性(%)を測定した結果を示す(実験例2)。
【図6】Lactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)またはStreptococcus thermophilus SC-1(FERM P-20601)の菌体(生菌体、死菌体)について4NQOに対する抗変異原性(%)を測定した結果を示す(実験例3)。
【図7】Lactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)が産生する粘性多糖物質について4NQOに対する抗変異原性(%)を測定した結果を示す(実験例4)。
【図8】Lactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)による発酵乳の離水率(%)を、Lactobacillus helveticusに属する標品菌株Lactobacillus helveticus NBRC 15019株と比較した結果を示す(実験例5)。
【図9】発酵乳の製造工程を示す図である。
【図10】発酵乳(ドリンクタイプ)の製造工程を示す図である。
【図11】乳酸菌飲料の製造工程を示す図である。
【図12】発酵乳を加工したサプリメント(フリーズドライ粉末)の製造工程を示す図である。
【図13】発酵乳を加工したサプリメント(錠剤)の製造工程を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は乳酸菌を有効成分とする肝機能障害予防用組成物に関する。また本発明は、肝機能障害予防用組成物の調製に有効に使用される新規乳酸菌に関する。さらに本発明は、乳酸菌を利用した、発酵食品の離水抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は生体内で解毒作用、糖質、蛋白質の代謝や貯蔵およびホルモン調節等の重要な役割を果たしており、その機能障害は生体にとって致命的な結果を招くことも少なくない。肝炎に代表される肝機能障害の原因はアルコール飲料の過剰摂取、暴飲、暴食や不規則な生活、ストレスなどの生活習慣に基づくものもあるが、肝炎ウイルスに因るものも多いことがわかってきている。特にウイルス性肝炎は、慢性化すると肝硬変を経て肝癌に移行することが多く、予防改善法の確立が切望されている。
【0003】
一方、近年の健康志向を反映して、食品は単に栄養補強のためだけでなく、より積極的な健康保持機能が求められるようになっている。特に、発酵乳などの乳酸菌含有食品は、健康食品や保健用食品として注目されており、事実、乳酸菌含有食品が整腸作用、免疫賦活作用および抗がん作用などの様々な有効な生理作用を有することが報告されている(例えば、抗変異原性を有する乳酸菌については特許文献1〜4等を参照のこと)。
【0004】
しかしながら、乳酸菌の肝機能障害予防作用については知られていない。
【特許文献1】特開平5−236945号公報
【特許文献2】特開平5−236872号公報
【特許文献3】特開平8−56650号公報
【特許文献4】特開平11−113564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安全性が高く長期摂取可能な肝機能障害予防用組成物を提供することを目的とする。特に本発明は抗変異原作用と肝機能障害予防作用とを有し、癌化予防とともに肝機能障害の予防を目的として使用される上記組成物を提供することを目的とする。さらに本発明は、抗変異原作用に加えて肝機能障害予防作用を有する乳酸菌として新規な乳酸菌、ならびにそれを利用して調製される食品を提供することを目的とする。さらにまた本発明は、当該新規乳酸菌が固有に有する粘性多糖産生能を利用して、製造過程や流通保存工程で生じ得る離水やホエー分離が有意に抑制された、品質に優れた発酵乳製品を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究をしていたところ、乳酸菌、特にラクトバチルス属に属する乳酸菌およびストレプトコッカス属に属する乳酸菌から調製される発酵乳に、肝機能障害を有意に予防する作用があることを見出した。さらに本発明者らは、肝機能障害予防作用を発揮する乳酸菌として単離したラクトバチルス属およびストレプトコッカス属に属する新規菌株に、さらに抗変異原性があることを見出し、かかる菌株によれば、肝機能障害予防作用および抗変異原作用(抗癌作用)などの優れた生理作用に基づいて、健康増進および健康維持に極めて有効な健康食品が提供できることを確信した。また、本発明者らは、上記新規菌株のうちラクトバチルス属に属する菌株が粘性多糖を産生することを見出し、かかる菌株を利用することにより、製造過程や流通保存工程で問題となる離水やホエー分離が有意に抑制された発酵乳製品が調製できることを確認した。
【0007】
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、下記の態様を包含する。
項1.乳酸菌またはその培養物を有効成分とする肝機能障害予防用組成物。
項2.乳酸菌が抗変異原性を有するものであることを特徴とする項1に記載する肝機能障害予防用組成物。
項3.乳酸菌が、ラクトバチルス ヘルベチカスまたはストレプトコッカス サーモフィラスの少なくとも1方に属する乳酸菌である項1または2に記載する肝機能障害予防用組成物。
項4.有効成分としてLactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)またはStreptococcus thermophilus SC-1(FERM P-20601)の少なくとも一方の乳酸菌を含有する項1乃至3のいずれかに記載する組成物。
項5.肝機能障害予防作用を有する経口用医薬品または食品である、項1乃至4のいずれかに記載の肝機能障害予防用組成物。
項6.上記食品が発酵乳、乳酸菌飲料、またはこれらを加工して調製されるサプリメントである項5に記載する肝機能障害予防用組成物。
【0008】
項7.ラクトバチルス ヘルベチカスに属する新規乳酸菌:Lactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)。
項8.ストレプトコッカス サーモフィラスに属する新規乳酸菌:Streptococcus thermophilus SC-1(FERM P-20601)。
【0009】
項9.Lactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)またはStreptococcus thermophilus SC-1(FERM P-20601)の少なくとも一方の乳酸菌を用いて調製される食品組成物。
項10.乳酸菌としてLactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)を用いることを特徴とする、離水またはホエー分離が抑制された発酵乳製品の調製方法。
項11.乳酸菌としてLactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)を用いて発酵乳を調製することを特徴とする、発酵乳製品の離水またはホエー分離の抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、食品成分として摂取される安全性の高い乳酸菌を有効成分とする肝機能障害予防を目的とした製品を提供することができる。本発明の肝機能障害予防用組成物は、副作用の心配なく長期摂取が可能であり、当該摂取により肝炎など、特にウイルス性肝炎に伴う肝機能障害を予防ないし軽減することができる。また当該乳酸菌として抗変異原作用を有する乳酸菌を用いることにより、肝機能障害予防作用に加えて癌予防作用を有する組成物を提供することができる。
【0011】
また本発明によれば、肝機能障害予防作用に加えて、癌化に関連する各種の変異原物質に対して強い抗変異原作用を発揮する新規な乳酸菌を提供することができる。当該乳酸菌を発酵乳や乳酸菌飲料などの食品形態で摂取することにより、肝機能障害の発生を予防し、また変異原物質を除去若しくは不活性化、または変異原作用を低減して癌化を未然に防ぐことが可能となる。従って、本発明の新規乳酸菌は健康食品(機能性食品、特定保健用食品など)またはその調製材料として有用である。
【0012】
さらに本発明が提供するラクトバチルス属に属する新規乳酸菌は粘性多糖産生能を有しており、この特性を利用することにより、製造、流通および保存工程で問題となるホエー分離や離水が有意に抑制された発酵乳製品を調製することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(1)肝機能障害予防用組成物
本発明の肝機能障害予防用組成物は、乳酸菌またはその培養物を有効成分とすることを特徴とする。
【0014】
ここで乳酸菌は、乳酸発酵を行うことのでき、かつ肝機能障害予防作用を発揮する微生物であれば特に制限されず、ラクトバチルス カゼイ、ラクトバチルス ヘルベチカス、ラクトバチルス ラクチス、ラクトバチルス デルブルッキィ、ラクトバチルス ブルガリカス、ラクトバチルス アシドフィラスなどのラクトバチルス属に属する微生物;ストレプトコッカス サーモフィラスなど のストレプトコッカス属に属する微生物;ラクトコッカス ラクチス、ラクトコッカス クレモリスなどのラクトコッカス属に属する微生物;ロイコノストック メッセンテロイデスなどのロイコノストック属に属する微生物;ビフィドバクテリウム ビフィダム、ビフィドバクテリウム ロンガム、ビフィドバクテリウム ブレーベなどのビフィドバクテリウム属に属する微生物を挙げることができる。好ましくは、ラクトバチルス属に属する乳酸菌およびストレプトコッカス属に属する乳酸菌である。中でもラクトバチルス属に属するラクトバチルス ヘルベチカス、またストレプトコッカス属に属するストレプトコッカス サーモフィラスを好適に挙げることができる。
【0015】
なお、乳酸菌の肝機能障害予防作用は、乳酸菌(菌体)そのものに基づく作用であっても、また菌体産生物に基づく作用のいずれであってもよい。すなわち、肝機能障害予防作用を有する(発揮する)微生物の中には、微生物そのものが肝機能障害予防作用を有する場合と肝機能障害予防作用を有する物質を産生する能力を有する微生物の両方が含まれる。
【0016】
乳酸菌が発揮する肝機能障害予防作用は、乳酸菌または乳酸菌を用いて調製される乳酸発酵食品を、肝障害モデル動物に経口投与することによって評価することができる。肝障害モデル動物としては、D−ガラクトサミン誘発肝障害モデルラット、D−ガラクトサミンおよびリポポリサッカライド誘発肝障害モデルラット、および四塩化炭素誘発肝障害モデル動物を用いることができる。なお、D−ガラクトサミン誘発肝障害モデルラットは、ガラクトサミンによって引き起こされる肝炎がヒトのウイルス性肝炎の症状と比較的よく似ているため、肝炎、とくにウイルス性肝炎のモデル動物として汎用されているモデル動物である。
【0017】
本発明の肝機能障害予防作用は、乳酸菌または乳酸発酵食品(例えば、発酵乳や乳酸菌飲料)を所定期間経口投与した被験動物に対して、上記D−ガラクトサミンを単独またはリポポリサッカライドと組み合わせて経口投与するか、または四塩化炭素を皮下投与し、発生する肝機能障害の有無や程度を、肝機能の指標である血清中のトランスアミラーゼ(GOT、GPT)活性や乳酸脱水素酵素(LDH)活性、または肝臓組織の炎症反応(細胞浸潤や壊死巣)に基づいて評価することができる。乳酸菌または乳酸発酵食品を投与(摂取)するにより、ガラクトサミンなどの上記薬物によって本来誘発される肝機能障害の発症やその程度が抑制される場合に、当該乳酸菌に肝機能障害予防作用があると評価することができる。
【0018】
かかる肝機能障害予防作用を発揮する乳酸菌は、天然中または発酵食品や発酵食品スターターから、単離採取することができる。本発明において好適に用いられる乳酸菌は、かかる肝機能障害予防作用を発揮する乳酸菌であって、さらに抗変異原性を有するものである。より好ましくは生菌および死菌の別なく、菌体そのものに抗変異原性を備えた乳酸菌である。
【0019】
抗変異原性を有する乳酸菌は、例えば抗変異原性の評価法であるエイムス法を用いてスクリーニングすることができる。具体的には、まず、被験乳酸菌を適当な菌数(例えば、2〜3億個/ml程度)になるように調製し、これに変異原物質を加え、さらに必要に応じてS9-mixを加える。その後、突然変異検定菌(例えば、サルモネラ・チフィムリウム[Salmonella typhimurium]TA100株やTA98株、大腸菌[Escherichia coli]WP2uvrA)を添加し、この混合物をプレインキュベートした後、更に個体培地で培養する。培養終了後、突然変異検定菌に生じた復帰突然変異コロニーを検出し、そのコロニー数に基づいて各被験乳酸菌の抗変異原作用を評価し、抗変異原性の高い乳酸菌を選択する。かかるスクリーニングでは、比較対照として、変異原物質を添加しない系および被験乳酸菌を添加しない系についても同様の試験を行い、上記と同様にして復帰突然変異コロニーを検出することが必要である。
【0020】
これらの結果から、下式により被験乳酸菌の抗変異原性を評価することができる。
【0021】
【数1】
【0022】
なお、上記において使用される変異原物質としては、当業界で公知のものであればよく、特に制限されない。例えば、4-ニトロキノリン-N-オキシド(4NQO)やN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)などの塩基置換型の変異原物質;3-アミノ-1,4-ジメチル-5H-ピリド[4,3-b]インドール(Trp-P-1)、2-アミノ-6-メチルイミダ-5H-ピリド[1,2-a-3’,2’-d]-イミダゾール(Glu-P-1)、および2-アミノ-3,4-ジメチルイミダゾ[4,5-f]キノリン(MeIQ)などのフレームシフト型の変異原物質を挙げることができる。本発明が対象とする乳酸菌は、制限はされないが、好ましくは塩基置換型の変異原物質、より好ましくは4NQOに対して、強い抗変異原作用を有するものである。特にかかる塩基置換型の変異原物質に対して50%以上、好ましくは55%以上の抗変異原活性を示す乳酸菌が好適である。
【0023】
本発明は、上記の肝機能障害予防作用と抗変異作用を有する新規乳酸菌を提供する。当該乳酸菌は、上記の如くして天然界から単離して得られたものである。本発明の新規乳酸菌のうち一つであるSR-1乳酸菌(Lactobacillus helveticus SR-1)は、図1に示す菌学的特性を有している。
【0024】
当該SR-1乳酸菌は、MicroSeqを用いたDNA解析の結果、その16S rDNA塩基配列は、相同率99.93%もの高い割合で、公知のLactobacillus helveticus(NCIMB11971株、Accession No.AY369116)の16S rDNAに対して相同性を示し、両者の16S rDNA間の相違は混合塩基(IUBコードY=CまたはT)で1塩基だけであった。分子系統樹上でも当該SR-1乳酸菌の16S rDNAは、Lactobacillus helveticusの16S rDNAと系統枝を形成し、近縁であることが示された。BLASTを用いたGenBank/DDBJ/EMBLに対する相同性検索(国際塩基配列データベースに対する相同性検索)の結果も、SR-1乳酸菌の16S rDNAは相同率99.9%で、上記L. helveticus(NCIMB11971株)の16S rDNAに対して最も高い相同性を示した。以上、菌学的特性および16S rDNA-Full塩基配列解析の結果から、当該SR-1乳酸菌は、ラクトバチルス属に属するLactobacillus helveticusに帰属する乳酸菌であると判断された。
【0025】
当該乳酸菌の菌株は、茨城県つくば市東1-1-1つくばセンター中央第6に住所を有する独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに「Lactobacillus helveticus SR-1」(寄託者が付した識別のための表示)として、平成17年7月21日に寄託されている(受託番号:FERM P-20600)。
【0026】
また、本発明の新規乳酸菌のもう一つのSC-1乳酸菌(Streptococcus thermophillus SC-1)は、図2に示す菌学的特性を有している。
【0027】
当該SC-1乳酸菌は、MicroSeqを用いた解析の結果、その16S rDNA塩基配列は相同率100%でStreptococcus thermophillus(ATCC19258株, Accession No.AY188354およびDL1株, Accession No.AB200871)の16S rDNAと一致した。分子系統樹上でもSC-1乳酸菌の16S rDNAは、Streptococcus thermophillusの16S rDNAと系統枝を形成し、近縁であることが示された。BLASTを用いたGenBank/DDBJ/EMBLに対する相同性検索(国際塩基配列データベースに対する相同性検索)の結果においても、SC-1乳酸菌の16S rDNAは相同率100%で、Streptococcus thermophillusの基準株であるATCC 19258株 の16S rDNAと一致した。以上、菌学的特性および16S rDNA-Full塩基配列解析の結果から、当該SC-1乳酸菌は、ストレプトコッカス属に属し、Streptococcus thermophillusに帰属する乳酸菌であると判断された。
【0028】
この菌株は、茨城県つくば市東1-1-1つくばセンター中央第6に住所を有する独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに「Streptococcus thermophillus SC-1」(寄託者が付した識別のための表示)として、平成17年7月21日に寄託されている(受託番号:FERM P-20601)。
【0029】
本発明が対象とする肝機能障害予防用組成物には、上記乳酸菌またはその培養物を、肝機能障害を予防し得る有効量含有する経口用医薬品および食品が含まれる。使用する乳酸菌は1種だけでもよいし、2種以上の組み合わせからなるものであってもよい。好ましい組み合わせは、ラクトバチルス属に属する乳酸菌とストレプトコッカス属に属する乳酸菌との組み合わせ、中でもラクトバチルス ヘルベチカスとストレプトコッカス サーモフィラスとの組合せが好ましい。上記乳酸菌は、M.R.S(de Man, Rogosa, Sharpe)培地などの慣用の乳酸菌培養用培地を用いて、適宜培養増殖させた後、生菌のまままたは殺菌処理し、また必要に応じて凍結乾燥あるいはスプレードライして粉末化して、本発明の組成物の有効成分として使用することができる。
【0030】
本発明が対象とする経口用医薬品は、上記有効成分を薬学的に許容される担体(賦形剤、結合剤、崩壊剤、崩壊補助剤、滑沢剤など)や添加剤などと混合し、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などの所望の形態に製剤化することにより調製することができる。薬学的に許容される担体としては、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、乳糖、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガカント、メリルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カカオバターなどを挙げることができる。添加剤としては、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などを例示することができる。医薬組成物の投与量は、患者の性別、体重、年齢、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。例えば、乳酸菌の菌数で表示すると、1日あたりの服用量が1×107個以上、好ましくは1×108個以上、より好ましくは5×108個以上となるような割合を挙げることができる。
【0031】
本発明が対象とする食品は、上記有効成分を飲食物の製造原料の一つとして配合することによって調製することができる。食品の種類は特に制限されず、乳製品(飲料を含む)、発酵食品、飲料(粉末飲料を含む)、菓子、パン、魚肉加工品、畜肉加工品、麺類、スープ類、総菜などを例示することができる。好ましくは、肝機能障害予防作用を有する乳酸菌を用いて調製される乳製品、発酵製品および飲料である。乳製品および発酵製品の例として、牛乳などの獣乳や乳原料(ミックス)を、肝機能障害予防作用を有する乳酸菌を用いて発酵させて調製されるヨーグルトなどの発酵乳(無脂乳固形分が8%以上で、乳酸菌数または酵母菌数が1mlあたり1,000万以上含まれているもの)、クミスやケフィアなどの発酵酒、および乳製品乳酸菌飲料(無脂乳固形分が3%以上8%未満)を挙げることができる。飲料の例として、果物ジュースや野菜ジュースなどの中に肝機能障害予防作用を有する乳酸菌を添加することにより調製される、乳酸菌飲料(無脂乳固形分が3%未満)、乳酸菌入り飲料(乳酸菌入りジュース)等を挙げることができる。本発明の組成物の調製に際して、添加する乳酸菌の数に制限はないが、乳酸菌数が多いほど優れた生理作用が期待できるので好ましい。この意味では、発酵により乳酸菌を増加せしめることのできる発酵食品が好ましい。かかる食品は、乳酸菌として前述のものを用いる以外は、通常の方法により実施でき、食品の種類に応じた各種の製品や添加物、例えば、乳、乳製品、例えば乳、乳製品、砂糖、果汁、野菜汁、ゲル化剤、香料などを任意に加えることができる。
【0032】
また本発明が対象とする食品には、上記有効成分をそのまま又は食品として使用可能な担体や添加剤とともに、顆粒剤、粉末剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、またはドリンク剤(溶液、乳化液または懸濁液)などの形態に調製したサプリメントが含まれる。担体や添加剤としては、経口医薬品に関して使用されるものを同様に使用することができる。
【0033】
食品の摂取量は、摂取者の性別、体重、年齢、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。例えば、乳酸菌の菌数で表示すると、1日あたりの摂取量が1×107個以上、好ましくは1×108個以上、より好ましくは5×108個以上となるような割合を挙げることができる。通常、一日摂取される量の食品に対して、上記割合の乳酸菌を配合することによって調製される。例えば、ヨーグルト等の発酵乳の場合、成人1日摂取量50〜500g、好ましくは60〜200g中に上記割合で肝機能障害予防作用を有する乳酸菌が含まれるように設定される。
【0034】
本発明の食品は、肝機能障害予防機能、好ましくはさらに抗変異原機能(癌化予防機能)を有する健康食品、機能性食品、特定保健用食品、あるいは病者用食品として提供することができる、
(2)新規乳酸菌およびそれを利用した食品組成物
本発明は、肝機能障害予防作用を有する新規乳酸菌として、前述するラクトバチルス属に属するSR-1乳酸菌(「Lactobacillus helveticus SR-1」、受託番号:FERM P-20600)およびスタフィロコッカス属に属するSC-1乳酸菌(「Streptococcus thermophillus SC-1」、受託番号:FERM P-20601)を提供する。
【0035】
当該乳酸菌は、肝機能障害予防作用に加えて、抗変異原作用、特に生菌および死菌に関わらず塩基置換型の変異原物質(例えば、4NQOやMNNGなど)に対して強い抗変異原作用を有している。このため、当該乳酸菌またはその培養物は、肝機能障害予防作用、好ましくはさらに抗変異原作用(癌化予防作用)を有する経口医薬品として、また食品(健康食品、機能性食品、特定保健用食品、あるいは病者用食品)として有効に利用することができる。なお、経口医薬品や食品の調製にあたり、これらの新規乳酸菌は、単独で使用しても、両者を組み合わせて使用してもよい。また本発明の効果を損なわないことを限りに、他の乳酸菌や酵母を併用することもできる。
【0036】
経口医薬品や食品の種類、その形態、および投与(摂取)量などは(1)の記載に従って設定することができる。食品として好ましくは発酵乳などの乳製品、乳酸菌飲料、またはこれらを製剤加工したサプリメントを挙げることができる。
【0037】
(3)ホエー分離および離水が抑制された発酵乳製品の調製方法
本発明の新規乳酸菌であるラクトバチルス属に属するSR-1乳酸菌(「Lactobacillus helveticus SR-1」、受託番号:FERM P-20600)は、上記肝機能障害予防作用および抗変異原作用に加えて、粘性多糖産生能を有している。そこで、本発明は、当該SR-1乳酸菌を用いることを特徴とする、ホエー分離および離水が抑制された発酵乳製品の調製方法を提供する。発酵乳としては、好適にはヨーグルト(ハードタイプのヨーグルト、ソフトタイプのヨーグルト)を挙げることができる。
【0038】
かかる発酵乳製品の調製方法は、SR-1乳酸菌をスターター菌として用いることを特徴とし、この点を除いて他は慣用方法に従って行うことができる。
【0039】
具体的には、脱脂乳、脱脂粉乳、およびショ糖、ならびに必要に応じて安定剤を含むヨーグルトミックスを乳化、殺菌および冷却した後、これにSR-1乳酸菌を含むスターター菌を1〜3%程度の割合で接種し、常法に従って発酵する。ここで発酵から製品化の工程はハードタイプとソフトタイプで異なり、例えばハードタイプのヨーグルトは、小売り容器に充填後30〜45℃で2.5〜12時間程度発酵させ、0.5〜1.5%程度の酸度を目安に終了させて製品とする。一方、ソフトタイプのヨーグルトは、タンクで同様の発酵を行い、冷却後、小売り容器に充填し製品とする。
【0040】
斯くして発酵乳製品は、従来安定剤として使用される寒天、ゼラチン、カラギーナン、グアガム、ローカストビーンガム、およびペクチンを使用しないか、または通常の使用量よりも少ない量で、離水やホエー分離が抑制され、きめが細かく組織が安定した発酵乳(ヨーグルト)として調製することができる。
【0041】
なお、スターター菌は、SR-1乳酸菌を含むものであればよく、SR-1乳酸菌単独でも、他の乳酸菌または酵母菌を混合して使用することもできる。好ましくは肝機能障害予防作用を有する乳酸菌、またはさらに抗変異原作用を有する乳酸菌(例えば、本発明のSC-1乳酸菌)を組み合わせて、混合乳酸菌として用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実験例および実施例により本発明をより詳細に説明する。但し、これらの実施例などは一例であり、本発明はこれらの実施例に制限されることはない。なお、下記の実験例および実施例において、乳酸菌としてラクトバチルス属に帰属する「Lactobacillus helveticus SR-1」(受託番号:FERM P-20600)(以下、単に「SR-1乳酸菌」という)、およびストレプトコッカス属に属する「Streptococcus thermophillus SC-1」(受託番号:FERM P-20601)(以下、単に「SC-1乳酸菌」という)を使用した。
【0043】
実験例1 肝機能予防改善効果
(1)被験試料の調製
被験試料として、SR-1乳酸菌およびSC-1乳酸菌をそれぞれ用いて調製したヨーグルトを使用した(便宜上、以下、SR-1乳酸菌を用いて調製したヨーグルトを「SR-1ヨーグルト」、SC-1乳酸菌を用いて調製したヨーグルトを「SC-1ヨーグルト」ともいう)。具体的にはヨーグルトは、加熱殺菌して調製した12%還元脱脂乳に、乳酸菌スターターとして、SR-1乳酸菌またはSC-1乳酸菌を1%接種して発酵させ(42℃)、乳酸酸度が0.80〜0.85%に達した時点で発酵を停止し、10℃以下に冷却することによって調製した(生菌数1.0×108〜5.2×108、pH4.6程度)。
【0044】
(2)実験方法
(2-1) ヨーグルトの投与およびガラクトサミンによる肝障害の誘発
実験には3週齢ウイスター雄ラット(CrJ:Wistar,チャールズリバー)18頭を使用した。具体的には1週間馴化飼育した後、これらのラットを3群(コントロール群、SR-1ヨーグルト投与群、SC-1ヨーグルト投与群)に分け、コントロール群(n=6)には通常飼料(粉末MF、オリエンタル酵母)を、SR-1ヨーグルト投与群およびSC-1ヨーグルト投与群(各n=6)には、通常飼料にそれぞれ上記で調製したSR-1ヨーグルトおよびSC-1ヨーグルトを混合した飼料を十分量与え、自由摂取させた。なお、通常飼料へのヨーグルトの混合割合は、飼料中のヨーグルト含有量を乾物重量として15重量%とした。混合飼料は毎日作成し交換した。毎週1回、全個体(n=18)の体重を測定した。
【0045】
2ヶ月後、各群のラットをエーテルで麻酔し、ガラクトサミン(D-(+)galactosamine hydrochloride)を、300mg/kg体重の割合で腹腔内投与した。なお、ガラクトサミンは、滅菌したリン酸緩衝液で、150mg/mlの濃度に溶解して注射液として調製した。
【0046】
(2-2) 採血および肝機能検査
ガラクトサミン投与の21時間後、各群のラットをエーテルおよびネンブタールで麻酔し、腹大静脈から血液を3ml採取し、遠心分離により血清標本を得た。得られた血清標本から、臨床検査装置(SPOTCHEM SP-4430、アークレイ(株)製)を用いて、血清中のGOT活性、GPT活性、γ−GTP活性、LDH活性、ALP活性および総ビリビン量を測定した。
【0047】
(2-3)肝臓の組織標本
採血と同時に、肝臓の組織を採取し、直ちに10%ホルマリンにいれて固定化した。これをヘマトキシリンエオジン染色して肝組織標本とし、顕微鏡観察を行った。
【0048】
(3)結果
各群(コントロール群、SR-1ヨーグルト投与群、SC-1ヨーグルト投与群)の通常飼料およびヨーグルト摂取による体重の推移を図3に示す。また各群(コントロール群、SR-1ヨーグルト投与群、SC-1ヨーグルト投与群)のガラクトサミン投与後の肝機能検査結果(血清中のGOT、GPT、γ−GTP、LDH、ALP活性および総ビリビン量)を図4に示す。
【0049】
図4からわかるように、通常飼料により飼育したラット群の血清GOT活性、GPT活性、LDH活性およびALP活性は、ガラクトサミン投与により極度に上昇し、また総ビリルビン量も0.6mg/dlとわずかに増加しており、ガラクトサミンによって肝障害が誘発された。これに対してヨーグルト混合飼料を投与したラット群(SR-1ヨーグルト投与群、SC-1ヨーグルト投与群)はいずれも、ガラクトサミン投与によるこれらの増加は明らかに抑制されていた(ガラクトサミン誘発肝障害の抑制)。このことから、乳酸菌から調製されるヨーグルト(発酵食品)には肝機能障害を予防する効果があることが示された。なお、図3に示すように、いずれの群のラットの体重も、成長に従って増加し、SR-1ヨーグルト投与およびSC-1ヨーグルト投与による影響は見られなかった。
【0050】
実験例2 抗変異原性試験(発酵乳)
SR-1乳酸菌およびSC-1乳酸菌の抗変異原性をエイムス法に従って評価した。具体的には、SR-1乳酸菌およびSC-1乳酸菌をそれぞれ用いて発酵乳を調製し、発酵乳およびその濾液、ならびに菌体そのもの(生菌体、死菌体)について抗変異原性を測定した。
【0051】
(1)実験方法
(1-1) 被験試料の調製
(i) 発酵乳
SR-1乳酸菌およびSC-1乳酸菌を、それぞれTYLG液体培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%ラクトース、0.5%グルコース、0.1%Tween80、0.01% L-システイン塩酸塩を含む)で継代して調製した乳酸菌培養液(発酵乳のスターター)を殺菌処理された10%還元脱脂乳に1%の割合で接種し、37℃で24時間培養して発酵乳を調製した。SR-1乳酸菌から調製された発酵乳を「SR-1発酵乳」、SC-1乳酸菌から調製された発酵乳を「SC-1発酵乳」と称する。
【0052】
(ii) 発酵乳の濾液
上記で得られた発酵乳(SR-1発酵乳、SC-1発酵乳)を濾紙で濾過した後、さらにフィルター(0,2μm)で濾過して、菌体を完全に除去して、濾液を取得した。
【0053】
(1-2) 抗変異原性の測定
抗変異原性の測定にあたり使用した変異原物質を表1に示す。測定には、各変異原物質をDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解して変異原溶液として用いた。
【0054】
【表1】
【0055】
抗変異原性の測定は、指標菌として突然変異検定菌であるサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)TA98株およびTA100株を用いて、エイムス法に従って下記の手順により行った。
【0056】
(a)滅菌試験管に、被験試料100μl、変異原溶液100μl、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)700μl、及び指標菌培養液100μlを順次加え混合する。但し、変異原としてTrp-P1、MeIQまたはGlu-P1を使用する場合は、滅菌試験管に、被験試料100μl、変異原溶液100μl、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)600μl、S9-mix 100μl、及び指標菌培養液100μlを順次加え混合する。
【0057】
(b)37℃で20分間振盪培養し、その後、これにトップアガー(ビオチン及びL-ヒスチジンをそれぞれ約0.05mM含有する軟寒天)2ml添加し、よく混合した後、最小グルコース個体培地静の重層する。これを37℃で48時間培養する。
【0058】
(c)培養終了後、培地上に形成されたヒスチジン非要求性のコロニーを検出し、そのコロニー数に基づいて、下式により各被験試料の抗変異原性を評価する。なお、各被験試料の抗変異原性の評価にあたり、上記と並行して、被験試料を配合しない系、および被験試料と変異原溶液の両方とも配合しない系についても同様に試験を行い、コロニー数を測定した。
【0059】
【数2】
【0060】
(2)結果
(2-1) 各変異原物質に対する各発酵乳(SR-1発酵乳、SC-1発酵乳)の抗変異原性を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表からわかるように、SR-1乳酸菌から調製されたSR-1発酵乳、およびSC-1乳酸菌から調製されたSC-1発酵乳は、フレームシフト型の変異原物質よりも、塩基置換型の変異原物質に対して高い抗変異原性を示した。
【0063】
(2-2)上記で最も高い抗変異原性を示した4NQOを指標変異原物質を用いて、各発酵乳(SR-1発酵乳、SC-1発酵乳)とその濾液の抗変異原性を評価した結果を図5に示す。図からわかるように、濾液の抗変異原性は、発酵乳に比して有意に低下した(p<0.05)。この結果から、発酵乳の抗変異原性には菌体が大きく関わっていることが示唆された。
【0064】
実験例3 抗変異原性試験(菌体)
前述の通り、実験例2の結果から発酵乳の抗変異原性には菌体が大きく関わっていることが示唆されたため、ここでは菌体そのものの抗変異原性を評価した。供試用の菌体として、SR-1乳酸菌およびSC-1乳酸菌をそれぞれ凍結乾燥して調製した菌体粉末(生菌体粉末、死菌体粉末)を使用した。なお、生菌体粉末は、SR-1乳酸菌またはSC-1乳酸菌をTYLG液体培地で数回継代した後、5000rpmで10分間遠心分離して菌体を回収し、これをリン酸緩衝液で2回洗浄した後に凍結乾燥することによって調製した。また死菌体粉末は、上記操作のリン酸緩衝液での洗浄後に、オートクレーブで121℃、15分間処理し、次いで凍結乾燥することによって調製した。
【0065】
これらの乳酸菌粉体(生菌体粉末、死菌体粉末)を、4NQO溶液(2.5μg/ml)に、5mg/mlとなるように溶解し、これを37℃で24時間振盪培養した。この培養液を3000rpmで10分間遠心し、上清をさらにフィルター濾過した濾液の変異原性を実験例2の方法(エイムス法)に従って測定した。なお、コントロールとして、菌体無添加の4NQO溶液の変異原性を測定し、下式により、菌体の抗変異原性を算出した。
【0066】
【数3】
【0067】
結果を図6に示す。図からわかるように、SR-1乳酸菌およびSC-1乳酸菌のいずれにも抗変異原性が認められた。こうした菌体による抗変異原性は、菌体の変異原物質結合作用によるものと言われている(Rajam Rajendran and Yoshiyuki Ohta, Canadian Journal of Microbiology Vol.44:109-115(1998);宮本拓ら、Japanese Journal of Dairy and Food Science Vol.40, No.3 (1991))。
【0068】
従って、本発明の乳酸菌(SR-1乳酸菌およびSC-1乳酸菌)はその変異原結合性に基づいて(特に塩基置換型の変異原物質に対する変異原結合性)、抗変異原作用を発揮するものと考えられる。また、図に示すように、生菌体のみならず、死菌体にも抗変異原性が認められた。このことから、本発明の乳酸菌(SR-1乳酸菌およびSC-1乳酸菌)によれば、その生存に関わらず、仮に消化管の胃酸や胆汁酸の影響で菌が死んでも、腸管内で変異原物質を結合させて体外に排出させることができるものと思われる。
【0069】
実験例4 抗変異原性試験(粘性多糖類)
SR-1乳酸菌は、粘性多糖物質を産生する能力を有している。そこで当該乳酸菌が産生する粘性多糖類について実験例2に従って抗変異原作用を調べた。
【0070】
(1)粘性多糖類の調製
10%還元脱脂乳に、SR-1乳酸菌の培養液を1%添加して37℃で24時間培養した。培養後、10000rpmで30分間遠心して上清を回収し、次いで減圧濾過により濃縮した後、10%トリクロロ酢酸を等量加え、氷冷下で一晩静置した。これを10000rpmで30分間遠心し、タンパク質を沈殿させて上清を回収し、さらにこれにエタノールを添加して、沈殿物(多糖類)を回収した。これを再度蒸留水に溶解し、エタノール沈殿を繰り返し洗浄した。得られた洗浄物を凍結乾燥し、粘性多糖物質を白色の凍結乾燥物として調製した。
【0071】
(2)抗変異原性試験
上記凍結乾燥物を50mg/mlになるように蒸留水に溶解して調製した多糖類水溶液を被験試料として実験例2と同様にして、4NQOを変異原物質として、抗変異原性を評価した。結果を図7に示す。図から、SR-1乳酸菌が産生する粘性多糖物質にも抗変異原作用が認められた。
【0072】
実験例4 離水抑制試験(SR-1乳酸菌)
85℃達温で殺菌した牛乳にスターター菌としてSR-1乳酸菌を1%接種し、滅菌した目盛り付スピッチ遠心管に分注した。これを42℃で発酵させて、乳酸酸度が0.8%に達した時点で発酵を停止し、一晩冷却して離水の割合(離水率)を測定した。離水率は、スピッチ遠心管に入った発酵乳を遠心分離し、発酵乳全量に対する離水の割合を算出することで求めた。また、比較試験として、SR-1乳酸菌に変えて、同じラクトバチルス ヘルベティカに属する標準菌株Lactobacillus helveticus NBRC 15019株を用いて同様に離水率を評価した。
【0073】
結果を図8に示す。この結果からわかるように、SR-1乳酸菌を用いて調製した発酵乳の方が優れた離水防止効果を示した。SR-1乳酸菌には粘性多糖産生能があることから、SR-1乳酸菌が産生する粘性多糖物質によって発酵乳の組織が安定化するものと考えられた。このため、SR-1乳酸菌を発酵乳のスターター菌として用いることにより、発酵乳製造過程もしくは保存・流通過程で起こり得る離水やホエー分離を防止することができる。
【0074】
以下、本発明が対象とする食品の例として、発酵乳、発酵乳(ドリンクタイプ)、乳酸菌飲料、発酵乳などを加工して調製されるサプリメントの製造方法を挙げる。これらの食品の調製には、スターター菌として本発明のSR-1乳酸菌及びSC-1乳酸菌を単独または組み合わせて使用することができる。
【0075】
実施例1 発酵乳
発酵乳の調製工程を図9に示す。具体的には、原料(牛乳、脱脂乳、脱脂粉乳、およびショ糖、ならびに必要に応じて香料、安定剤)を調合して調製したヨーグルトミックスを均質圧130kg・f/cm2で均質化し、122℃で2秒間殺菌する。これを45℃まで冷却した後、乳酸菌スターターとしてSR-1乳酸菌及びSC-1乳酸菌を単独または両方組み合わせて接種し、42℃で発酵させる。乳酸酸度が0.85%に達した時点で発酵を停止し、10℃以下に冷却して発酵乳を調製する。
【0076】
実施例2 発酵乳(ドリンクタイプ)
発酵乳(ドリンクタイプ)の調製工程を図10に示す。具体的には、原料(牛乳、脱脂乳、脱脂粉乳、およびショ糖、ならびに必要に応じて香料、安定剤)を調合して調製したヨーグルトミックスを均質圧130kg・f/cm2で均質化し、122℃で2秒間殺菌する。これを45℃まで冷却牛乳、した後、乳酸菌スターターとしてSR-1乳酸菌及びSC-1乳酸菌を単独または両方組み合わせて接種し、42℃で発酵させる。乳酸酸度が0.60%に達した時点で発酵を停止する。これを均質圧100kg・f/cm2で均質化後、容器に充填して10℃以下で冷却して発酵乳(ドリンクタイプ)とする。
【0077】
実施例3 乳酸菌飲料
乳酸菌飲料の調製工程を図11に示す。具体的には、調合した原料(脱脂乳、脱脂粉乳)を95℃で90分間殺菌し、36.5℃まで冷却する。乳酸菌としてSR-1乳酸菌及びSC-1乳酸菌を単独または両方組み合わせて添加・発酵させ、冷却(10℃以下)したものを均質化(150kg・f/cm2)し、これをカードとする。別に調製したシロップ(果糖ブドウ糖液糖、上白糖)をカードと混合し、香料を添加後、均質化(150kg・f/cm2)したものを乳酸菌飲料原液とする。これに殺菌水を混合し再度均質化(120kg・f/ cm2)を行い、充填後、10℃以下にて冷蔵して、乳酸菌飲料を調製する。
【0078】
実施例4 サプリメント(フリーズドライ粉末)
サプリメント(粉末形態)の調製工程を図12に示す。具体的には、例えば実施例1で調製した発酵乳(原料)を1トレー当たり4kg盛り、-20℃以下で8時間以上の予備凍結を行う。続いて、真空凍結乾燥機で、最高棚温80℃、最終棚温50℃、真空度0.5torr以下の条件で24時間真空凍結乾燥を行い、次いでパワーミルで粉砕後、スクリーン0.8mmで篩分けし粉末化する。斯くして調製したサプリメント(フリーズドライ粉末)は、金属探知を行った後、乾燥剤を入れたアルミ包装に供して製品とする。
【0079】
実施例5 サプリメント(錠剤)
サプリメント(錠剤形態)の調製工程を図13に示す。具体的には、例えば実施例4で調製したフリーズドライ化した発酵乳(原料)をその他の原料(マルチトール)と混合する。これをバインダーとして増粘多糖類(プルラン)の水溶液を噴霧しながら流動させ、同時に熱風乾燥し造粒する。残りの原料(香料、ミルクカルシウム、ショ糖脂肪酸エステル)を混合し、打錠機で打錠する。斯くして調製したサプリメント(錠剤)を容器に充填・包装して製品とする。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の新規乳酸菌「Lactobacillus helveticus SR-1」(受託番号:FERM P-20600)の菌学的特性を纏めた図である。
【図2】本発明の新規乳酸菌「Streptococcus thermophillus SC-1」(受託番号:FERM P-20601)の菌学的特性を纏めた図である。
【図3】SR-1ヨーグルト(図中、Lと標記)、SC-1ヨーグルト(図中、Sと標記)を投与したラットの体重変化(g)を、コントロール群(図中、Controlと標記)の体重変化とともに示す結果である(実験例1)。
【図4】SR-1ヨーグルト(図中、Lと標記)、SC-1ヨーグルト(図中、Sと標記)を投与したラットの肝機能結果〔血清中のGOT活性(GOT)、GPT活性(GPT)、γ−GTP活性(GGT)、LDH活性(LDH)、ALP活性(ALP)および総ビリビン量(T-Bil)〕を、コントロール群(図中、Controlと標記)の肝機能結果とともに示す(実験例1)。
【図5】Lactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)またはStreptococcus thermophilus SC-1(FERM P-20601)を用いて調製した発酵乳とその濾液について抗変異原性(%)を測定した結果を示す(実験例2)。
【図6】Lactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)またはStreptococcus thermophilus SC-1(FERM P-20601)の菌体(生菌体、死菌体)について4NQOに対する抗変異原性(%)を測定した結果を示す(実験例3)。
【図7】Lactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)が産生する粘性多糖物質について4NQOに対する抗変異原性(%)を測定した結果を示す(実験例4)。
【図8】Lactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)による発酵乳の離水率(%)を、Lactobacillus helveticusに属する標品菌株Lactobacillus helveticus NBRC 15019株と比較した結果を示す(実験例5)。
【図9】発酵乳の製造工程を示す図である。
【図10】発酵乳(ドリンクタイプ)の製造工程を示す図である。
【図11】乳酸菌飲料の製造工程を示す図である。
【図12】発酵乳を加工したサプリメント(フリーズドライ粉末)の製造工程を示す図である。
【図13】発酵乳を加工したサプリメント(錠剤)の製造工程を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌またはその培養物を有効成分とする肝機能障害予防用組成物。
【請求項2】
乳酸菌が抗変異原性を有するものであることを特徴とする請求項1に記載する肝機能障害予防用組成物。
【請求項3】
乳酸菌が、ラクトバチルス ヘルベチカスまたはストレプトコッカス サーモフィラスの少なくとも1方に属する乳酸菌である請求項1または2に記載する組成物。
【請求項4】
有効成分としてLactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)またはStreptococcus thermophilus SC-1(FERM P-20601)の少なくとも一方の乳酸菌を含有する請求項1乃至3のいずれかに記載する組成物。
【請求項5】
肝機能障害予防作用を有する経口用医薬品または食品である、請求項1乃至4のいずれかに記載の肝機能障害予防用組成物。
【請求項6】
上記食品が発酵乳、乳酸菌飲料、またはこれらを加工して調製されるサプリメントである請求項5に記載する肝機能障害予防用組成物。
【請求項7】
ラクトバチルス ヘルベチカスに属する新規乳酸菌:Lactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)。
【請求項8】
ストレプトコッカス サーモフィラスに属する新規乳酸菌:Streptococcus thermophilus SC-1(FERM P-20601)。
【請求項9】
Lactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)またはStreptococcus thermophilus SC-1(FERM P-20601)の少なくとも一方の乳酸菌を用いて調製される食品組成物。
【請求項10】
乳酸菌としてLactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)を用いることを特徴とする、離水またはホエー分離が抑制された発酵乳製品の調製方法。
【請求項11】
乳酸菌としてLactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)を用いて発酵乳を調製することを特徴とする、発酵乳製品の離水またはホエー分離の抑制方法。
【請求項1】
乳酸菌またはその培養物を有効成分とする肝機能障害予防用組成物。
【請求項2】
乳酸菌が抗変異原性を有するものであることを特徴とする請求項1に記載する肝機能障害予防用組成物。
【請求項3】
乳酸菌が、ラクトバチルス ヘルベチカスまたはストレプトコッカス サーモフィラスの少なくとも1方に属する乳酸菌である請求項1または2に記載する組成物。
【請求項4】
有効成分としてLactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)またはStreptococcus thermophilus SC-1(FERM P-20601)の少なくとも一方の乳酸菌を含有する請求項1乃至3のいずれかに記載する組成物。
【請求項5】
肝機能障害予防作用を有する経口用医薬品または食品である、請求項1乃至4のいずれかに記載の肝機能障害予防用組成物。
【請求項6】
上記食品が発酵乳、乳酸菌飲料、またはこれらを加工して調製されるサプリメントである請求項5に記載する肝機能障害予防用組成物。
【請求項7】
ラクトバチルス ヘルベチカスに属する新規乳酸菌:Lactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)。
【請求項8】
ストレプトコッカス サーモフィラスに属する新規乳酸菌:Streptococcus thermophilus SC-1(FERM P-20601)。
【請求項9】
Lactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)またはStreptococcus thermophilus SC-1(FERM P-20601)の少なくとも一方の乳酸菌を用いて調製される食品組成物。
【請求項10】
乳酸菌としてLactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)を用いることを特徴とする、離水またはホエー分離が抑制された発酵乳製品の調製方法。
【請求項11】
乳酸菌としてLactobacillus helveticus SR-1(FERM P-20600)を用いて発酵乳を調製することを特徴とする、発酵乳製品の離水またはホエー分離の抑制方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−236227(P2007−236227A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−59980(P2006−59980)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年2月25日 社団法人日本畜産学会発行の「日本畜産学会報第77巻第1号」に発表
【出願人】(594013066)四国乳業株式会社 (3)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年2月25日 社団法人日本畜産学会発行の「日本畜産学会報第77巻第1号」に発表
【出願人】(594013066)四国乳業株式会社 (3)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
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