説明

新規光増感剤および光起電力素子

【課題】可視光から赤外光までの広い範囲で光を吸収し、極薄い薄膜においても、光吸収率が高くなる吸光係数の大きな光増感剤およびこの光増感剤を用いた光起電力素子を提供する。
【解決手段】光起電力素子は、透明導電性基板1上に光増感剤を吸着させた半導体層3が配置され、半導体層3と対向電極基板2の間に電解質層4が配置され、周辺がシール材5で密封されている。なお、リード線は透明導電性基板1と対向電基板2の導電部分に接続され、電力を取り出すことができる。光増感剤は、可視光のみならず赤外域にも吸収を有し、吸光係数の大きな金属錯体色素で、特定構造単位を有する化合物を含む。この特定構造単位は、Ru、Os、Fe、ReおよびRhから選ばれた遷移金属を含み、少なくとも一つのCOOHを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規光増感剤、さらに詳しくは色素増感型太陽電池に用いる新規光増感剤に関する。
【背景技術】
【0002】
1991年にグレッツェルらが発表した色素増感型太陽電池素子は、ルテニウム錯体によって分光増感された酸化チタン多孔質薄膜を作用電極とする湿式太陽電池であり、シリコン太陽電池並みの性能が得られることが報告されている(非特許文献1参照)。この方法は、チタニア等の安価な酸化物半導体を高純度に精製することなく用いることができるため、安価な色素増感型太陽電池素子を提供でき、しかも色素の吸収がブロードであるため、可視光線のほぼ全波長領域の光を電気に変換できるという利点があり注目を集めている。しかしながら、公知のルテニウム錯体色素は、可視光は吸収するものの700nmより長波長の赤外光はほとんど吸収しないため赤外域での光電変換能は低い。したがって更に変換効率を上げるためには可視光のみならず赤外域に吸収を有する色素の開発が望まれていた。
一方、ブラックダイに関して、920nmまで光を吸収することができるが、吸光係数が、小さいため、高電流値を得るためには、酸化チタン多孔質薄膜に吸着する量を多くする必要があった。酸化チタン多孔質薄膜への吸着量を増加する方法は、種々の方法があるが、一般的には、薄膜の厚みを増加することで可能である(非特許文献2参照)。薄膜の厚みを増加すると、逆電子移動の増加、薄膜中の電子密度の減少などによって、開放電圧値の減少、FFの低下などが生ずるため、変換効率は大きく増加することはできない。
【非特許文献1】オレガン(B. O’Regan)、グレツェル(M.Gratzel),「ネイチャー(Nature)」,(英国),1991年,353巻,p.737
【非特許文献2】グレツェル(M.Gratzel),「ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサイアティー」,2001年,123巻,p.1613
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
可視光から赤外光までの広い範囲で光を吸収し、極薄い薄膜においても、光吸収率が高くなる吸光係数の大きな色素が望まれていた。
本発明者らは前記課題について鋭意検討した結果、可視光のみならず赤外域にも吸収を有し、吸光係数の大きな新規金属錯体色素を見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は、1分子中に、式(I)および式(II)の構造単位を含む光増感剤に関する。
【化7】

【0005】
(式(I)中、Mは、Ru、Os、Fe、ReおよびRhから選ばれた遷移金属である。式(I)および式(II)中、R〜R16は、それぞれ独立に、H、カルボニル含有基、リン酸エステル基、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のアミノアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数7〜30のアラルキル基、またはカルボニル含有基を有するアルキル基、アルケニル基、アリール基もしくはアラルキル基を表し、またRとRn+1(nは1〜15の整数、ただし、8、10、12を除く)が結合して芳香環を形成していてもよい。ただし、式(I)または式(II)中に、少なくとも一つのCOOHを有する。式(I)中、個々のXは、独立に、−NCS、ハロゲン原子、−CN、−NCO、−OHおよび−NCNより選ばれる単座配位子である。Xは、X同士が結合していてもよく、一般式(IIIa)または(IIIb)で表される二座配位子でもよい。式(IIIa)中、R31〜R33は、それぞれ独立に、H、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数7〜30のアラルキル基を表わす。式(IIIb)中、R34は、H、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基、または炭素数6〜15のアリール基を表し、またR34同士が結合して環を形成していてもよい。)
【0006】
【化8】

【0007】
また本発明は、式(IV)の構造を有することを特徴とする前記の光増感剤に関する。
【化9】

【0008】
(式(IV)中、Mは、Ru、Os、Fe、ReおよびRhから選ばれる遷移金属である。
式(IV)中、R〜R17は、それぞれ独立に、H、カルボニル含有基、リン酸エステル基、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のアミノアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数7〜30のアラルキル基、またはカルボニル含有基を有するアルキル基、アルケニル基、アリール基もしくはアラルキル基を表し、またRとRn+1(nは1〜15の整数、ただし、8、10、12を除く)が結合して芳香環を形成していてもよい。ただし、R〜RおよびR14〜R16のうち、少なくとも一つはCOOHを有する。式(IV)中、個々のXは、独立に、−NCS、ハロゲン原子、−CN、−NCO、−OHおよび−NCNより選ばれる単座配位子である。Xは、X同士が結合していてもよく、一般式(IIIa)または(IIIb)で表される二座配位子でもよい。式(IIIa)中、R31〜R33は、それぞれ独立に、H、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数7〜30のアラルキル基を表わす。式(IIIb)中、R34は、H、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基、または炭素数6〜15のアリール基を表し、またR34同士が結合して環を形成していても良い。)
【0009】
【化10】

【0010】
また本発明は、式(V)の構造を有することを特徴とする前記の光増感剤に関する。
【化11】

【0011】
(式(V)中、Mは、Ru、Os、Fe、ReおよびRhから選ばれた遷移金属である。
式(V)中、R〜R16は、それぞれ独立に、H、カルボニル含有基、リン酸エステル基、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のアミノアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数7〜30のアラルキル基、またはカルボニル含有基を有するアルキル基、アルケニル基、アリール基もしくはアラルキル基を表し、またRとRn+1(nは1〜15の整数、ただし、8、10、12を除く)が結合して芳香環を形成していてもよい。ただし、R〜RおよびR14〜R16のうち、少なくとも一つはCOOHを有する。式(V)中、個々のXは、独立に、−NCS、ハロゲン原子、−CN、−NCO、−OH、およびNCNより選ばれる単座配位子である。Xは、X同士が結合していてもよく、一般式(IIIa)または(IIIb)で表される二座配位子でもよい。式(IIIa)中、R31〜R33は、それぞれ独立に、H、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数7〜30のアラルキル基を表わす。式(IIIb)中、R34は、H、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基、または炭素数6〜15のアリール基を表し、またR34同士が結合して環を形成していても良い。)
【0012】
【化12】

【0013】
さらに本発明は、前記の光増感剤を吸着した半導体層を有する光起電力素子に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の新規増感剤は、可視領域のみならず、赤外領域も吸収するため、光起電力セルの変換効率を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の新規光増感剤は、1分子中に下記一般式(I)および(II)で表される構造単位を含む化合物である。
【化13】

【0016】
一般式(I)において、Mは、Ru、Os、Fe、ReおよびRhから選ばれた遷移金属であり、なかでもRuが好ましい。
〜R10は、それぞれ独立に、H、カルボニル含有基、リン酸エステル基、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のアミノアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数7〜30のアラルキル基、またはカルボニル含有基を有するアルキル基、アルケニル基、アリール基もしくはアラルキル基から選ばれる基を表す。
【0017】
本発明においてカルボニル含有基とは、−COOH、−CHO、ケトン類から誘導される基(例えば、−CHCOCH、−CHCOCなど)、アシル基(例えば、−COCH、−COCなど)などを表す。またリン酸エステル基とは、−PO(OH)、−PO(OR)(OH)(式中、Rはアルキル基またはアリール基を表す)などを表す。
【0018】
炭素数1〜30のアルキル基としては、直鎖状でも分岐状でもよく、具体的にはメチル基、エチル基、i−プロピル基、n−プロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、ドデシル基、イコシル基、ドコシル基が挙げられる。炭素数2〜30のアルケルニ基としては、具体的にはビニル基、アリル基などが挙げられる。炭素数2〜30のアルコキシアルキル基としては、具体的にはメトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシメチル基、エトキシブチル基、エトキシヘキシル基、エトキシノニル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、ヘキシロキシメチル基、ノニロキシメチル基、ドデシロキシエチル基が挙げられる。炭素数1〜30のアミノアルキル基としては、具体的にはアミノメチル基、ジメチルアミノメチル基、アミノエチル基、ジメチルアミノメチル基、ジプロピルアミノメチル基、ジブチルアミノメチル基、ジオクチルアミノメチル基、ジメチルアミノエチル基、ジプロピルアミノエチル基、ジブチルアミノエチル基、ジオクチルアミノエチル基が挙げられる。炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基としては、具体的には−CF、−C、−iCが挙げられる。炭素数6〜30のアリール基としては、具体的にはフェニル基、ナフチル基が挙げられ、炭素数7〜30のアラルキル基としては、具体的にはベンジル基、フェネチル基、フェニルブチル基、フェニルノニル基、ナフチルノニル基が挙げられる。
さらにカルボニル含有基を有するアルキル基、アルケニル基、アリール基もしくはアラルキル基としては、具体的には、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシブチル基、カルボキシビニル基、4−カルボキシフェニル基、3−カルボキシフェニル基が挙げられる。
【0019】
また、RとRn+1(nは1〜11の整数、ただし、8、10を除く)が結合して芳香環を形成してもよい。具体的には、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR10、R11とR12のいずれかが、結合し芳香環を形成する。環を形成する場合、限定はされないが、具体的には、下記一般式(VIa)〜(VIh)で表される構造が挙げられる。それぞれの環は、カルボニル含有基、リン酸エステル基、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のアミノアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数7〜30のアラルキル基、さらにカルボニル含有基を有するアルキル基、アルケニル基、アリール基もしくはアラルキル基で表される官能基を有していても良い。
【0020】
【化14】

【化15】

【0021】
式(I)中、個々のXは、独立に、−NCS、ハロゲン原子、−CN、−NCO、−OH、および−NCNより選ばれる単座配位子である。
また、Xは、X同士が結合していてもよく、一般式(IIIa)で表されるジケトン誘導体、あるいは一般式(IIIb)で表される1,2−ジチオレン誘導体で表される二座配位子でもよい。
【0022】
【化16】

【0023】
一般式(IIIa)の場合、R31〜R33は、それぞれ独立に、H、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数7〜30のアラルキル基を表す。
炭素数1〜30のアルキル基としては、直鎖上でも分岐上でもよく、具体的にはメチル基、エチル基、i−プロピル基、n−プロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、ドデシル基、イコシル基、ドコシル基が挙げられる。炭素数2〜30のアルコキシアルキル基としては、具体的にはメトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシメチル基、エトキシブチル基、エトキシヘキシル基、エトキシノニル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、ヘキシロキシメチル基、ノニロキシメチル基、ドデシロキシエチル基が挙げられる。炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基としては、具体的には−CF、−C、−iCが挙げられる。炭素数6〜30のアリール基としては、具体的にはフェニル基、ナフチル基が挙げられる。炭素数7〜30のアラルキル基としては、具体的にはベンジル基、フェネチル基、フェニルブチル基、フェニルノニル基、ナフチルノニル基が挙げられる。さらに具体的には、以下に示す官能基が挙げられる。
【0024】
【化17】

【0025】
一般式(IIIb)の場合、R34は、H、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基、または炭素数6〜15のアリール基を表す。または、R34同士が結合して環を形成してもよい。
炭素数1〜30のアルキル基としては、直鎖状でも分岐状でもよく、具体的にはメチル基、エチル基、i−プロピル基、n−プロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、ドデシル基が挙げられる。炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基としては、具体的には−CF、−C、−iCが挙げられる。炭素数6〜15のアリール基としては、具体的にはフェニル基、ナフチル基が挙げられる。具体的には、以下に示す官能基が挙げられる。
【0026】
【化18】

【0027】
34同士が結合して環を形成する場合の具体例としては、以下に示す官能基が挙げられる。
【化19】

【0028】
一般式(II)において、R13〜R16は、それぞれ独立に、H、カルボニル含有基、リン酸エステル基、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のアミノアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数7〜30のアラルキル基、またはカルボニル含有基を有するアルキル基、アルケニル基、アリール基もしくはアラルキル基を表す。
カルボニル含有基としては、−COOH、−CHO、ケトン類から誘導される基(例えば、−CHCOCH、−CHCOCなど)、アシル基(例えば、−COCH、−COCなど)などが挙げられる。リン酸エステル基としては、−PO(OH)、−PO(OR)(OH)(式中Rはアルキル基またはアリール基を表す)などが挙げられる。
【0029】
炭素数1〜30のアルキル基としては、直鎖状でも分岐状でもよく、具体的にはメチル基、エチル基、i−プロピル基、n−プロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、ドデシル基、イコシル基、ドコシル基が挙げられる。炭素数2〜30のアルケルニ基としては、具体的にはビニル基、アリル基などが挙げられる。炭素数2〜30のアルコキシアルキル基としては、具体的にはメトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシメチル基、エトキシブチル基、エトキシヘキシル基、エトキシノニル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、ヘキシロキシメチル基、ノニロキシメチル基、ドデシロキシエチル基が挙げられる。炭素数1〜30のアミノアルキル基としては、具体的にはアミノメチル基、ジメチルアミノメチル基、アミノエチル基、ジメチルアミノメチル基、ジプロピルアミノメチル基、ジブチルアミノメチル基、ジオクチルアミノメチル基、ジメチルアミノエチル基、ジプロピルアミノエチル基、ジブチルアミノエチル基、ジオクチルアミノエチル基が挙げられる。炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基としては、具体的には−CF、−C、−iCが挙げられる。炭素数6〜30のアリール基としては、具体的にはフェニル基、ナフチル基が挙げられ、炭素数7〜30のアラルキル基としては、具体的にはベンジル基、フェネチル基、フェニルブチル基、フェニルノニル基、ナフチルノニル基が挙げられる。さらにカルボニル含有基を有するアルキル基、アルケニル基、アリール基もしくはアラルキル基として、具体的には、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシブチル基、カルボキシビニル基、4−カルボキシフェニル基、3−カルボキシフェニル基が挙げられる。
【0030】
また、RとRn+1(nは13〜15の整数)が結合して芳香環を形成してもよい。具体的には、R13とR14、R14とR15、R15とR16のいずれかが、結合し芳香環を形成する。環を形成する場合、限定はされないが、具体的には、一般式(VIIa)〜(VIIc)で表される構造が挙げられる。それぞれの環は、カルボニル含有基、リン酸エステル基、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のアミノアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数7〜30のアラルキル基、またはカルボニル含有基を有するアルキル基、アルケニル基、アリール基もしくはアラルキル基で表される官能基を有していても良い。
【0031】
【化20】

【0032】
本発明においては、金属酸化物半導体層に本発明の光増感剤が容易に吸着するため、式(I)および式(II)中に、少なくとも一つのCOOHを有している。
また式(I)と式(II)の結合は、通常直接または芳香族または芳香族複素環を介して行われる。具体的には下記のものが挙げられる。
【0033】
【化21】

【0034】
以下に一般式(IV)および一般式(V)の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
(1)一般式(IV)の具体例
【化22】

【化23】

【0036】
(2)一般式(V)の具体例
【化24】

【化25】

【化26】

【化27】

【0037】
つぎに本発明の光起電力素子について説明する。
本発明の光起電力素子の例としては、例えば、図1に示す断面を有する素子を挙げることができる。この素子は、透明導電性基板1上に本発明の光増感剤を吸着させた半導体層3が配置され、半導体層3と対向電極基板2の間に電解質層4が配置され、周辺がシール材5で密封されている。なお、リード線は透明導電性基板1と対向電基板2の導電部分に接続され、電力を取り出すことができる。
【0038】
透明導電性基板は、通常、透明基板上に透明電極層を積層させて製造される。透明基板としては、特に限定されず、材質、厚さ、寸法、形状等は目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無色あるいは有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、無色あるいは有色の透明性を有する樹脂でも良い。かかる樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテンなどが挙げられる。なお、本発明における透明とは、10〜100%の透過率を有することであり、また、本発明における基板とは、常温において平滑な面を有するものであり、その面は平面あるいは曲面であってもよく、また応力によって変形するものであってもよい。
【0039】
電極の導電層を形成する透明導電層としては、本発明の目的を果たすものである限り特に限定されなく、例えば、金、銀、クロム、銅、タングステンなどの金属薄膜、金属酸化物からなる導電膜などが挙げられる。金属酸化物としては、例えば、酸化錫や酸化亜鉛に、他の金属元素を微量ドープしたIndium Tin Oxide(ITO(In:Sn))、Fluorine doped Tin Oxide(FTO(SnO:F))、Aluminum doped Zinc Oxide(AZO(ZnO:Al))などが好適なものとして用いられる。
膜厚は通常、10nm〜10μm、好ましくは100nm〜2μmである。また、表面抵抗(抵抗率)は、本発明の基板の用途により適宜選択されるところであるが、通常、0.5〜500Ω/sq、好ましくは2〜50Ω/sqである。
【0040】
対向電極は通常、白金、カーボン電極などを用いることができる。基板の材質は、特に限定されず、材質、厚さ、寸法、形状等は目的に応じて適宜選択することができ、例えば無色あるいは有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、無色あるいは有色の透明性を有する樹脂でも良い。かかる樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテンなどが挙げられる。また、金属プレートなどを基板として用いることもできる。
【0041】
本発明の光起電力素子において用いられる半導体層としては、特に限定されないが、例えば、TiO、ZnO、SnO、Nbからなる層等が挙げられ、なかでもTiO、ZnOからなる層が好ましい。
本発明に用いられる半導体は単結晶でも多結晶でも良い。結晶系としては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型などが主に用いられるが、好ましくはアナターゼ型である。
半導体層の形成には公知の方法を用いることができる。半導体層の形成方法としては、上記半導体のナノ粒子分散液、ゾル溶液等を、公知の方法により基板上に塗布することで得ることが出来る。この場合の塗布方法としては特に限定されずキャスト法による薄膜状態で得る方法、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法のほか、スクリーン印刷法を初めとした各種の印刷方法を挙げることができる。
半導体層の厚みは任意であるが0.5μm〜50μm、好ましくは1μm〜20μmである。
【0042】
本発明の光増感剤を半導体層に吸着させる方法としては、例えば、溶媒に光増感剤を溶解させた溶液を、半導体層上にスプレーコートやスピンコートなどにより塗布した後、乾燥する方法により形成することができる。この場合、適当な温度に基板を加熱しても良い。または光増感剤を溶解させた溶液に半導体層を浸漬して吸着させる方法を用いることもできる。浸漬する時間は光増感剤が十分に吸着すれば特に制限されることはないが、好ましくは10分〜30時間、より好ましくは1〜20時間である。また、必要に応じて浸漬する際に溶媒や基板を加熱しても良い。溶液にする場合の光増感剤の濃度としては、0.01〜100mmol/L、好ましくは0.1〜50mmol/L程度である。
溶媒としては、アルコール類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、炭化水素など用いることができる。
【0043】
また、光増感剤間の凝集等の相互作用を低減するために、界面活性剤としての性質を持つ無色の化合物を添加し、半導体層に共吸着させてもよい。このような無色の化合物の例としては、カルボキシル基やスルホ基を有するコール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、タウロデオキシコール酸等のステロイド化合物やスルホン酸塩類等が挙げられる。
未吸着の光増感剤は、吸着工程後、速やかに洗浄により除去するのが好ましい。洗浄は湿式洗浄槽中でアセトニトリル、アルコール系溶媒等を用いて行うのが好ましい。
【0044】
光増感剤の吸着量は、強アルカリ溶液にて、半導体層から光増感剤を脱着し、アルカリ溶液の光吸収量から算出される。
また、吸着量は、半導体表面積に対し、1.0×10−8mol/cm〜1.0×10−6mol/cmの範囲で吸着することができる。
【0045】
光増感剤を吸着させた後、アミン類、4級アンモニウム塩、少なくとも1つのウレイド基を有するウレイド化合物、少なくとも1つのシリル基を有するシリル化合物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等を用いて、半導体層の表面を処理してもよい。好ましいアミン類の例としては、ピリジン、4−t−ブチルピリジン、ポリビニルピリジン等が挙げられる。好ましい4級アンモニウム塩の例としては、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラヘキシルアンモニウムヨージド等が挙げられる。これらは有機溶媒に溶解して用いてもよく、液体の場合はそのまま用いてもよい。
【0046】
本発明において用いられる電解質としては、特に限定されず、液体系でも固体系のいずれでもよく、可逆な電気化学的酸化還元特性を示すものが望ましい。ここで、可逆な電気化学的酸化還元特性を示すということは、光起電力素子の作用する電位領域において、可逆的に電気化学的酸化還元反応を起こし得ることをいう。典型的には、通常、水素基準電極(NHE)に対して−1〜+2Vvs NHEの電位領域で可逆的であることが望ましい。
電解質のイオン伝導度は、通常室温で1×10−7S/cm以上、好ましくは1×10−6S/cm以上、さらに好ましくは1×10−5S/cm以上であることが望ましい。
電解質層の厚さは、特に制限されないが、1μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上であり、また、3mm以下が好ましく、より好ましくは1mm以下である。
かかる電解質としては、上記の条件を満足すれば特に制限されるものでなく、液体系および固体系とも、本技術分野で公知のものを使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
(a)光増感剤1の合成
ジクロロ(p−サイメン)ルテニウム2量体(1.22g;2mmol)と2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸(0.49g;2mmol)をエタノールに溶解し、3時間加熱還流した。反応終了後、溶媒を留去し、化合物Aを得た。
一方、フェナントロリンジアミンを文献(Tetrahedron letters 38,8159(1997))に記載の方法にて合成した。フェナントロリンジアミン(0.21g;1.0mmol)とサリチルアルデヒド(0.24g;2.0mmol)をエタノールに溶解し、オルトギ酸エステル(0.1ml)を添加し、3時間加熱還流を行った。反応終了後、ろ過にて、化合物Bを得た。
化合物Aおよび化合物BをDMFに溶解し、135℃にて4時間加熱攪拌し化合物Cを得た後、アンモニウムチオシアネート(0.4g)を添加し、4時間加熱還流を行った。
反応終了後、減圧濃縮し、水に分散し、ろ過した、得られた固形物をカラムクロマトグラフィー(充填剤:Sephadex LH−20、溶離液DMF)にて精製し、光増感剤1を0.3g(0.3mmol)得た。
(b)元素分析
計算値 C,54.60;H,2.98;N,12.74
実験値 C,54.40;H,2.85;N,12.50
MS(ESI/MS) m/z:880
【0049】
【化28】

【0050】
(実施例2)
(a)光増感剤2の合成
ジピリドフェナジン誘導体(0.31g,1.0mmol)とジブチルサリチルアルデヒド(0.48g,2.0mmol)をエタノールに溶解し、オルトギ酸エステル(0.1ml)を添加し、3時間加熱還流を行った。反応終了後、ろ過にて、化合物Dを得た。
化合物Aおよび化合物DをDMFに溶解し、135℃にて4時間過熱攪拌し化合物Eを得た後、アンモニウムチオシアネート(0.4g)を添加し、4時間加熱還流を行った。
反応終了後、減圧濃縮し、水に分散し、ろ過した、得られた固形物をカラムクロマトグラフィー(充填剤:Sephadex LH−20、溶離液DMF)にて精製し、光増感剤2を0.24g(0.2mmol)得た。
(b)元素分析
計算値 C,61.73;H,5.01;N,11.61
実験値 C,61.40;H,5.05;N,11.40
MS(ESI/MS) m/z:1206
【0051】
【化29】

【0052】
[光起電力セルの作製および変換効率の測定]
導電性基板上に支持された二酸化チタン膜の増感に基づく光起電力セルを以下のように作製した。
導電性ガラス(フッ素ドープSnO,10Ω)上にコロイド状TiO粒子(粒径:20〜30nm)を塗布し、450℃、30分間焼成(膜厚:10μm)し、その上に光を散乱させるためTiO粒子(粒径:300〜400nm)を塗布し、520℃、1時間焼成(膜厚:6〜8μm)した。これら2層の膜を、30分間TiCl溶液に浸漬した後、450℃、30分間加熱した。
得られた膜を、上記光増感剤/エタノール溶液(3.0×10―4mol/L)に15時間浸し、色素層(光増感剤層)を形成した。得られた基板とPt薄膜のついたガラスのPt面を合わせ、0.3mol/Lのヨウ化リチウムと0.03mol/Lのヨウ素を含むアセトニトリル溶液を毛細管現象によって染み込ませ、周辺をエポキシ接着剤で封止した。なお、透明導電基板の導電層部分と対向電極にはリード線を接続した。
なお、比較のために、色素として一般的に光起電力セルに用いられるルテニウム色素(Rutenium535−bisTBA:SOLARONIX社製)を用いた光起電力素子を作製した(比較例1)。810nmの波長において、IPCEは0%である
このようにして得たセルに疑似太陽光810nmの単色光を照射し、入射フォトン−電流変換効率(IPCE)を測定した結果を表1に示した。
表1より、従来のルテニウム色素を用いた場合は、赤外領域である810nmにおいて、吸収を示さなかったが、本発明の光増感剤1〜2を用いた場合(実施例1〜2)、同領域において明らかな吸収を示した。また、吸光係数(λmax)も、表1に示すように、本発明の光増感剤は、比較例1のルテニウム色素に比較して大きかった。
【0053】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】光起電力素子の断面の例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に、式(I)および式(II)の構造単位を含む光増感剤。
【化1】

(式(I)中、Mは、Ru、Os、Fe、ReおよびRhから選ばれた遷移金属である。式(I)および式(II)中、R〜R16は、それぞれ独立に、H、カルボニル含有基、リン酸エステル基、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のアミノアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数7〜30のアラルキル基、またはカルボニル含有基を有するアルキル基、アルケニル基、アリール基もしくはアラルキル基を表し、またRとRn+1(nは1〜15の整数、ただし、8、10、12を除く)が結合して芳香環を形成していてもよい。ただし、式(I)または式(II)中に、少なくとも一つのCOOHを有する。式(I)中、個々のXは、独立に、−NCS、ハロゲン原子、−CN、−NCO、−OHおよび−NCNより選ばれる単座配位子である。Xは、X同士が結合していてもよく、一般式(IIIa)または(IIIb)で表される二座配位子でもよい。式(IIIa)中、R31〜R33は、それぞれ独立に、H、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数7〜30のアラルキル基を表わす。式(IIIb)中、R34は、H、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基、または炭素数6〜15のアリール基を表し、またR34同士が結合して環を形成していてもよい。)
【化2】

【請求項2】
式(IV)の構造を有することを特徴とする請求項1記載の光増感剤。
【化3】

(式(IV)中、Mは、Ru、Os、Fe、ReおよびRhから選ばれる遷移金属である。
式(IV)中、R〜R17は、それぞれ独立に、H、カルボニル含有基、リン酸エステル基、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のアミノアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数7〜30のアラルキル基、またはカルボニル含有基を有するアルキル基、アルケニル基、アリール基もしくはアラルキル基を表し、またRとRn+1(nは1〜15の整数、ただし、8、10、12を除く)が結合して芳香環を形成していてもよい。ただし、R〜RおよびR14〜R16のうち、少なくとも一つはCOOHを有する。式(IV)中、個々のXは、独立に、−NCS、ハロゲン原子、−CN、−NCO、−OHおよび−NCNより選ばれる単座配位子である。Xは、X同士が結合していてもよく、一般式(IIIa)または(IIIb)で表される二座配位子でもよい。式(IIIa)中、R31〜R33は、それぞれ独立に、H、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数7〜30のアラルキル基を表わす。式(IIIb)中、R34は、H、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基、または炭素数6〜15のアリール基を表し、またR34同士が結合して環を形成していても良い。)
【化4】

【請求項3】
式(V)の構造を有することを特徴とする請求項1記載の光増感剤。
【化5】

(式(V)中、Mは、Ru、Os、Fe、ReおよびRhから選ばれた遷移金属である。
式(V)中、R〜R16は、それぞれ独立に、H、カルボニル含有基、リン酸エステル基、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のアミノアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数7〜30のアラルキル基、またはカルボニル含有基を有するアルキル基、アルケニル基、アリール基もしくはアラルキル基を表し、またRとRn+1(nは1〜15の整数、ただし、8、10、12を除く)が結合して芳香環を形成していてもよい。ただし、R〜RおよびR14〜R16のうち、少なくとも一つはCOOHを有する。式(V)中、個々のXは、独立に、−NCS、ハロゲン原子、−CN、−NCO、−OH、およびNCNより選ばれる単座配位子である。Xは、X同士が結合していてもよく、一般式(IIIa)または(IIIb)で表される二座配位子でもよい。式(IIIa)中、R31〜R33は、それぞれ独立に、H、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数7〜30のアラルキル基を表わす。式(IIIb)中、R34は、H、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基、または炭素数6〜15のアリール基を表し、またR34同士が結合して環を形成していても良い。)
【化6】

【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の光増感剤を吸着した半導体層を有する光起電力素子。

【図1】
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【公開番号】特開2009−64680(P2009−64680A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231937(P2007−231937)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】