説明

新規細菌及びその使用法

一酸化炭素を含有する基質の嫌気的発酵によるエタノール製造において改良された効率を有する新規クラスの細菌を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にガスの微生物発酵の分野に関する。本発明は、さらに詳しくは、一酸化炭素(CO)を含有する基質の嫌気的発酵によるエタノール生成において改良された効率を有する新規クラスの細菌に関する。
【背景技術】
【0002】
エタノールは急速に世界中で主要な水素豊富液体輸送用燃料になりつつある。2005年におけるエタノールの世界的消費は推定122億ガロンであった。燃料エタノール産業に関する世界市場も、ヨーロッパ、日本、米国、及びいくつかの発展途上国でエタノールへの関心が高まっているため、将来的に急成長すると予測されている。
【0003】
例えば、米国では、エタノールは、エタノール10%混合ガソリンであるE10の製造に使用されている。E10ブレンドでは、エタノール成分は酸素化剤として作用し、燃焼効率を改良し、大気汚染物質の生成を削減する。ブラジルでは、エタノールは、ガソリンにブレンドされる酸素化剤として及びそれ自体でも純燃料として輸送用燃料需要の約30%を満たしている。ヨーロッパでも、温室効果ガス(GHG)排出の結果を取り巻く環境的懸念が刺激となり、欧州連合(EU)は、加盟国に対してバイオマス由来エタノールなどの持続可能な(地球に優しい)輸送用燃料の消費に関して義務的目標を設定している。
【0004】
燃料エタノールの大部分は、サトウキビから抽出されたショ糖又は穀類作物から抽出されたデンプンなどの作物由来炭水化物を主要炭素源として使用する伝統的な酵母ベースの発酵プロセスから製造されている。しかしながら、これらの炭水化物原料のコストは、人間の食料又は動物飼料としてのそれらの価値によって影響され、他方で、エタノール製造用のデンプン又はショ糖を生産する作物の耕作は、すべての地域で経済的に維持可能とは限らない。そこで、より低コスト及び/又はより豊富な炭素資源を燃料エタノールに変換するための技術開発に関心が寄せられている。
【0005】
COは、石炭又は石油及び石油製品のような有機材料の不完全燃焼の主たる、遊離した、高エネルギー副産物である。例えば、オーストラリアの鉄鋼業は、年間500,000トンを超えるCOを生成し、大気中に放出していると報告されている。
【0006】
接触プロセスを使用すれば、主としてCO及び/又はCOと水素(H)からなるガスを様々な燃料及び化学物質に変換することができる。微生物もこれらのガスを燃料及び化学物質に変換するのに使用することができる。
【0007】
COを唯一の炭素源として増殖する微生物の能力は1903年に初めて発見された。これは後に、独立栄養増殖のアセチル補酵素A(アセチルCoA)生化学的経路(ウッド・ユングダール経路及び一酸化炭素デヒドロゲナーゼ/アセチルCoAシンターゼ(CODH/ACS)経路としても知られている)を使用する生物の特性と断定された。カルボキシド栄養性 (carboxydotrophic) 生物、光合成生物、メタン生成及び酢酸生成生物を含む多数の嫌気性生物は、COを様々な最終生成物、すなわちCO、H、メタン、n−ブタノール、アセテート及びエタノールに代謝することが示されている。COを唯一の炭素源として使用しながら、すべてのそのような生物はこれらの最終生成物の少なくとも二つを生成する。
【0008】
嫌気性細菌、例えばクロストリジウム属(genus Clostridium)の細菌は、アセチルCoA生化学的経路を介してCO、CO及びHからエタノールを生成することが示されている。例えば、ガスからエタノールを生成する様々なクロストリジウム・リュングダリイ(Clostridium ljungdahlii)株が、WO00/68407、EP117309、米国特許第5,173,429号、5,593,886号及び6,368,819号、WO98/00558及びWO02/08438に記載されている。細菌のクロストリジウム・オートエタノゲナム種(Clostridium autoethanogenum sp)もガスからエタノールを生成することが知られている(Abriniら、Archives of Microbiology 161,pp345−351(1994))。
【0009】
しかしながら、微生物によるガスの発酵によるエタノール生成は常にアセテート及び/又は酢酸の同時生成を伴う。利用可能な炭素の一部はエタノールではなくアセテート/酢酸に変換されてしまうので、そのような発酵プロセスを用いるエタノールの製造効率は望ましいとは言い難い。また、アセテート/酢酸の副産物が何か他の目的に使用できない限り、それは廃棄物処理問題を提起しうる。アセテート/酢酸は微生物によってメタンに変換されるので、GHG排出に寄与する可能性もある。
【0010】
存在下でのCOの微生物発酵は、実質的に完全な炭素のアルコールへの移行をもたらすことができる。しかしながら、十分なHがないと、一部のCOはアルコールに変換されるが、相当部分は下記式に示すようにCOに変換される。
【0011】
6CO+3HO→COH+4CO
12H+4CO→2COH+6H
COの生成は、総体的な炭素捕捉の効率の悪さを表しており、放出されると、これも温室効果ガス排出に寄与する可能性がある。
【0012】
WO2007/117157に、一酸化炭素含有ガスの嫌気的発酵によってアルコール、特にエタノールを製造する方法が記載されている。発酵プロセスの副産物として生成するアセテートは、水素ガス及び二酸化炭素ガスに変換され、このいずれか又は両方は嫌気的発酵プロセスに使用できる。
【0013】
WO2008/115080はに、多発酵段階でアルコール(一つ又は複数)を製造する方法が記載されている。第一のバイオリアクターでガス(一つ又は複数)の嫌気的発酵の結果として生成する副産物は、第二のバイオリアクターで生成物を製造するのに使用できる。さらに、第二の発酵段階の副産物は第一のバイオリアクターに生成物を製造するためにリサイクルすることができる。
【0014】
増大された効率でそのようなガスのエタノールへの発酵が可能な微生物、すなわち、同じ基質から先行技術の微生物よりも多くのエタノール及び/又は大きいエタノール対アセテート比を生じることが可能な微生物を提供できたら有益であろう。
【0015】
さらに、高レベルのエタノール及び/又は高いエタノール対アセテート比を生じる先行技術のCO含有ガスのエタノールへの細菌発酵法では、使用されるガス状基質は典型的には約30〜65体積%のCO及び約20〜30体積%のHを含んでいる(WO00/68407)。
【0016】
エタノールを生成する微生物発酵のための有望な基質であるCO含有廃ガスは、高レベルのCO及び低レベルのHのいずれか又はその両方を含有しうる。そこで、例えば65体積%より多いCO及び又は20体積%未満のHを有するCO含有ガスのエタノールへの効率的な発酵を実施できる利用可能な細菌株があれば有益であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】WO00/68407
【特許文献2】EP117309
【特許文献3】米国特許第5,173,429号
【特許文献4】米国特許第5,593,886号
【特許文献5】米国特許第6,368,819号
【特許文献6】WO98/00558
【特許文献7】WO02/08438
【特許文献8】WO2007/117157
【特許文献9】WO2008/115080
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Abrini et al., Archives of Microbiology 161, pp345-351(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、COを含有するガス源のエタノールへの変換において、先行技術の一つ又は複数の限界を克服する新規クラスの細菌を提供すること、又は少なくとも有用な選択肢をを公に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
第一の側面において、本発明は、COを含む基質の嫌気的発酵によってエタノール及び場合によりアセテートを含む生成物を製造できる生物学的に純粋な細菌の分離株であって、前記生成物は少なくとも1.0のエタノール対アセテート比で製造される、生物学的に純粋な細菌の分離株を提供する。
【0021】
別の側面において、本発明は、COを含有する基質、特に、
(a)約65体積%より多いCO
(b)約20体積%未満のH、又は
(c)約65体積%より多いCO及び約20体積%未満のH
を含むCO含有ガス状基質を供給された水性培地中での嫌気的発酵によって、エタノール及びアセテートを、少なくとも約1.0のエタノール対アセテート比で生成できる、生物学的に純粋な細菌の分離株を提供する。
【0022】
一つの特定の態様において、前記エタノール対アセテート比は、少なくとも約1.1、さらに好ましくは少なくとも約1.2、さらに好ましくは少なくとも約1.3、最も好ましくは少なくとも約1.4である。
【0023】
更なる態様において、前記細菌は、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.0gのエタノールの濃度でエタノールを生成することが可能である。
特定の態様において、前記濃度は、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.1gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.2gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.3gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.4gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.5gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.6gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.7gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.8gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約3.0gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約3.2gのエタノール、又は1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約3.4gのエタノールである。
【0024】
特定の態様において、前記細菌の生産性は、少なくとも約1.2gのエタノール/発酵ブロスのL/日、少なくとも約1.6g/L/日、少なくとも約1.8g/L/日又は少なくとも2.0g/L/日である。
【0025】
一定の態様において、前記細菌の特異的エタノール生産性は、少なくとも約0.7g/L/グラムの細菌細胞/日、少なくとも約0.9g/L/グラムの細菌細胞/日、少なくとも約1.1g/L/グラムの細菌細胞/日、又は少なくとも約1.3g/L/グラムの細菌細胞/日である。
【0026】
別の側面において、本発明は、COを含む基質の嫌気的発酵によってアルコール及び場合によりアセテートを含む生成物を生成できる生物学的に純粋な細菌の分離株であって、前記細菌の生産性は少なくとも約1.2gのエタノール/発酵ブロスのL/日である、生物学的に純粋な細菌の分離株を提供する。
【0027】
更なる側面において、本発明は、COを含有する基質、特に、
(a)約65体積%より多いCO
(b)約20体積%未満のH、又は
(c)約65体積%より多いCO及び約20体積%未満のH
を含むCO含有ガス状基質を供給された水性培地中での嫌気的発酵によって、エタノールを、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.0gのエタノールのエタノール濃度で生成できる、生物学的に純粋な細菌の分離株を提供する。
【0028】
特定の態様において、前記濃度は、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.1gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.2gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.3gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.4gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.5gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.6gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.7gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.8gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約3.0gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約3.2gのエタノール、又は1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約3.4gのエタノールである。
【0029】
特定の態様において、前記細菌の生産性は、少なくとも約1.2gのエタノール/発酵ブロスのL/日、少なくとも約1.6g/L/日、少なくとも約1.8g/L/日又は少なくとも2.0g/L/日である。
【0030】
一定の態様において、前記細菌の比エタノール生産性は、少なくとも約0.7g/L/グラムの細菌細胞/日、少なくとも約0.9g/L/グラムの細菌細胞/日、少なくとも約1.1g/L/グラムの細菌細胞/日、又は少なくとも約1.3g/L/グラムの細菌細胞/日である。
【0031】
一態様において、アセテートは発酵の副産物として生成する。
特定の態様において、エタノールは、少なくとも約1.0のエタノール対アセテート比で生成する。特定の態様において、前記エタノール対アセテート比は、少なくとも約1.1、少なくとも約1.2、少なくとも約1.3、又はさらに特に少なくとも約1.4である。
【0032】
別の側面において、本発明は酢酸生成細菌を提供し、前記細菌は下記の定義的特徴の一つ又は複数を有している。すなわち、
・酵母エキスの存在下又は不在下、最小培地中で増殖する能力;
・酵母エキスが存在する培地と比べて酵母エキスが存在しない培地中で、より迅速に増殖し、より高いエタノール対アセテート比を生じ、及び/又はより高濃度のエタノールを生成する能力;
・ほとんど又は全くない胞子形成能力;
・グラム陽性;
・桿状;
・非運動性。
【0033】
一態様において、前記細菌はさらに、
(a)約65体積%より多いCO
(b)約20体積%未満のH、又は
(c)約65体積%より多いCO及び約20体積%未満のH
を含むCO含有基質を供給された水性培地中での嫌気的発酵によって、エタノールを、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.0gのエタノールのエタノール濃度及び/又は少なくとも約1.0のエタノール対アセテート比で生成することができる。
【0034】
特定の態様において、前記エタノール対アセテート比は、少なくとも約1.1、少なくとも約1.2、少なくとも約1.3、又はさらに特に少なくとも約1.4である。
特定の態様において、生成するエタノールの濃度は、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.1gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.2gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.3gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.4gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.5gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.6gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.7gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.8gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約3.0gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約3.2gのエタノール、又は1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約3.4gのエタノールである。
【0035】
特定の態様において、前記細菌の生産性は、少なくとも約1.2gのエタノール/発酵ブロスのL/日、少なくとも約1.6g/L/日、少なくとも約1.8g/L/日又は少なくとも2.0g/L/日である。
【0036】
一定の態様において、前記細菌の比エタノール生産性は、少なくとも約0.7g/L/グラムの細菌細胞/日、少なくとも約0.9g/L/グラムの細菌細胞/日、少なくとも約1.1g/L/グラムの細菌細胞/日、又は少なくとも約1.3g/L/グラムの細菌細胞/日である。
【0037】
一態様において、本発明の細菌は、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)から誘導される。
特定の態様において、前記細菌は、上記定義的特徴の二つ以上、最も好ましくはすべてを有している。
【0038】
特定の態様において、前記細菌は、受入番号DSM19630でDSMZに寄託されたクロストリジウム・オートエタノゲナム株LBS1560の定義的特徴を有している。一態様において、前記細菌は、受入番号DSM19630でDSMZに寄託されたクロストリジウム・オートエタノゲナム株LBS1560である。
【0039】
更なる側面において、本発明は、受入番号DSM19630でDSMZに寄託されたクロストリジウム・オートエタノゲナム株LBS1560の生物学的に純粋な分離株を提供する。
【0040】
一態様において、前記基質は、少なくとも約70体積%のCO、少なくとも約75体積%のCO、少なくとも約80体積%のCO、少なくとも約85体積%のCO、少なくとも約90体積%のCO又は少なくとも約95体積%のCOを含む。
【0041】
更なる態様において、前記基質は約20体積%未満のHを含む。特定の態様において、前記基質は、約15体積%未満のH、約10体積%未満のH、約5体積%未満のH、約4体積%未満のH、約3体積%未満のH、約2体積%未満のH、約1体積%未満のHを含むか、又は実質的にHを含まない。
【0042】
更なる態様において、前記基質は約20体積%以下のCOを含む。特定の態様において、前記基質は、約15体積%以下のCO、約10体積%以下のCO、又は約5体積%以下のCOを含む。
【0043】
特定の態様において、前記基質は、少なくとも約85体積%のCO及び最大約15体積%のCO、少なくとも約90%のCO及び最大約10%のCO、又は約95体積%のCO及び約5体積%のCOを含む。
【0044】
一定の態様において、水性培地は、本明細書中に定義されているLM23又はLM33から選ばれるが、これらに限定されない最少嫌気性微生物増殖培地である。
一態様において、前記培地は酵母エキスを補給されていない。
【0045】
更なる側面において、本発明は、COを含有する基質から一つ又は複数のアルコールの製造法を提供し、前記方法は、基質の存在下で本発明の一つ又は複数の細菌分離株の培養物を維持し、前記一つ又は複数の細菌分離株による基質の一つ又は複数のアルコールへの嫌気的発酵を含む。
【0046】
別の側面において、本発明は、本明細書中で前述した一つ又は複数の細菌を用いてCO含有基質を発酵することを含む、一つ又は複数のアルコールの製造法を提供する。
一態様において、前記方法は、
(a)COを含有する基質を、本明細書中で前述した細菌の培養物を含有するバイオリアクターに供給し;そして
(b)バイオリアクター中の培養物を嫌気的に発酵し、一つ又は複数のアルコールを製造する
ステップを含む。
【0047】
更なる側面において、本発明は、産業プロセスからの大気中への総炭素排出を削減するための方法を提供し、前記方法は、
(a)産業プロセスの結果発生するCO含有ガスを、該ガスが大気中に放出される前に捕捉し;
(b)本発明の一つ又は複数の細菌分離株を含有する培養物によってCO含有ガスを嫌気的発酵し、一つ又は複数のアルコールを製造する
ことを含む。
【0048】
方法側面の一定の態様において、アセテートは発酵の副産物として生成する。好ましくは、生成する一つ又は複数のアルコールはエタノールを含む。
方法側面の特定の態様において、前記細菌又は分離株は水性培地中で維持される。
【0049】
方法側面の特定の態様において、前記基質の発酵はバイオリアクター内で行われる。
一定の態様において、前記基質は、約15体積%未満のH、例えば約10%未満のH、例えば約5%未満のHを含有する。
【0050】
一定の態様において、前記基質は、約65体積%より多いCO、好ましくは体積で約70%のCO〜約95%のCOを含む。
一態様において、前記基質は少なくとも約70体積%のCOを含む。特定の態様において、前記基質は、少なくとも約80体積%のCO、少なくとも約85体積%のCO、少なくとも約90体積%のCO又は少なくとも約95体積%のCOを含む。
【0051】
一態様において、前記基質は約20体積%未満のHを含む。特定の態様において、前記基質は、約15体積%未満のH、約10体積%未満のH、約5体積%未満のH、約4体積%未満のH、約3体積%未満のH、約2体積%未満のH、約1体積%未満のHを含むか、又は実質的にHを含まない。
【0052】
一態様において、前記基質は約20体積%以下のCOを含む。特定の態様において、前記基質は、約15体積%以下のCO、約10体積%以下のCO、又は約5体積%以下のCOを含む。
【0053】
一定の態様において、前記基質は、少なくとも約85体積%のCO及び最大約15体積%のCO、少なくとも約90%のCO及び最大約10%のCO、又は約95体積%のCO及び約5体積%のCOを含む。
【0054】
一定の態様において、CO含有基質は、COを含有するガス状基質である。
一定の態様において、前記ガス状基質は、産業プロセスの副産物として得られるガスを含む。
【0055】
一定の態様において、前記産業プロセスは、鉄金属製品製造、非鉄製品製造、石油精製プロセス、バイオマスのガス化、石炭のガス化、発電、カーボンブラック製造、アンモニア製造、メタノール製造及びコークス製造からなる群から選ばれる。
【0056】
一態様において、前記ガス状基質は製鋼所から得られるガスを含みうる。
別の態様において、前記ガス状基質は自動車の排ガスを含みうる。
方法側面の一定の態様において、アルコールは発酵ブロスから回収される。前記発酵ブロスは、細菌細胞とアルコールを含む水性培地である。
【0057】
一定の態様において、アセテートは発酵の副産物として生成する。
更なる態様において、アルコールとアセテートはブロスから回収される。
別の側面において、本発明は、一つ又は複数の酸を生成する一つ又は複数の微生物の選別法を提供する。前記方法は、バイオリアクター内の栄養培地中で微生物を培養し;前記栄養培地が実質的に一定のpHで維持されるように、前記栄養培地より高いpHの新鮮培地を加え;そしてバイオリアクター内の培地が実質的に一定容量で維持されるように、前記栄養培地及び微生物の少なくとも一部分を除去することを含む。
【0058】
特定の態様において、前記方法は、速く増殖する微生物を選別するためのものである。一態様において、一つ又は複数の酸はアセテートを含む。
別の側面において、本発明は、前記選別法によって得られた生物学的に純粋な細菌の分離株を提供する。一態様において、前記分離株は胞子形成能力をほとんど又は全く持たない。
【0059】
本発明を上記のように広く定義してきたが、本発明はそれらに限定されず、以下の説明でその例を提供する態様も含む。
【図面の簡単な説明】
【0060】
次に、本発明を添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【図1】図1は、迅速微生物増殖を選別するために適合されたシステムの概略図である。
【図2】図2は、クロストリジウム・オートエタノゲナムLBS1560によるエタノール(四角形)及びアセテート(菱形)の生成を示す。バイオマス濃度は三角形のデータポイントによって示されている。
【発明を実施するための形態】
【0061】
広く言うと、一側面において、本発明は、嫌気的発酵プロセスにおいて増大した効率を有する新規細菌及び生物学的に純粋な細菌の分離株に関する。一側面において、前記細菌は、アルコール、好ましくはエタノールを、
(a)約65体積%より多いCO
(b)約20体積%未満のH、又は
(c)約65体積%より多いCO及び約20体積%未満のH
を含む基質から生成することができる。
【0062】
更なる側面において、本発明は、本発明の細菌によるCO含有基質の嫌気的発酵によってアルコール、好ましくはエタノールを製造するための方法に関する。
定義
別途記載のない限り、本明細書全体にわたって使用されている下記用語は以下のように定義される。
【0063】
“COを含有する基質”及び類似用語は、基質中の一酸化炭素が例えば増殖及び/又は発酵のために細菌に利用可能なあらゆる基質を含むと理解されるべきである。本発明の特定の態様において、“COを含有する基質”はガス状である。そのような基質は、本明細書中では“COを含有するガス状基質”などと言われることもある。
【0064】
以下の説明において、本発明の態様は、“COを含有するガス状基質”の送達及び発酵に関して記載される。しかしながら、ガス状基質は代替的な形態でも供給できることは理解されるべきである。例えば、COを含有するガス状基質は、液体中に溶解して供給することもできる。本質的には、液体を一酸化炭素含有ガスで飽和した後、該液体をバイオリアクターに添加する。これは標準的な方法論を用いて達成できる。例えば、マイクロバブル分散物発生装置(Hensirisakら、Scale−up of microbubble dispersion generator for aerobic fermentation;Applied Biochemstry and Biotechnology Volume 101,Number 3/October,2002)を使用することができる。更なる例を挙げると、COを含有するガス状基質は、固体の担体上に吸着させることもできる。そのような代替法も、“COを含有する基質”という用語の使用によって包含される。
【0065】
“効率を増大する”、“増大した効率”などの用語は、発酵プロセスとの関連で使用される場合、以下の一つ又は複数を増大することを含むが、これらに限定されない。すなわち、発酵を触媒する微生物の増殖速度、消費される基質(例えばCO)の体積あたり生成する所望生成物(例えばアルコール)の体積、培地中で生成する所望生成物(例えばアルコール)の濃度、所望生成物の生成速度又は生成量、及び生成した所望生成物を発酵の他の副産物と比較した場合の相対的割合。
【0066】
“アセテート”という用語は、酢酸塩単独及び分子状又は遊離酢酸と酢酸塩の混合物の両方を含む。例えば本明細書中に記載のように発酵ブロス中に存在する酢酸塩と遊離酢酸の混合物などである。発酵ブロス中の分子酢酸対アセテートの比率は系のpHに依存する。
【0067】
“バイオリアクター”という用語は、一つ又は複数の容器及び/又は塔又は配管からなる発酵装置を含む。例えば、連続撹拌槽リアクター(Continuous Stirred Tank Reactor, CSTR)、固定化細胞リアクター(Immobilized Cell Reactor, ICR)、細流床リアクター(Trickle Bed Reactor, TBR)、バブルカラム(Bubble Column)、ガスリフト発酵槽(Gas Lift Fermenter)、静的ミキサー(Static Mixer)、又は気液接触に適切なその他の容器又はその他の装置などである。
【0068】
本発明の細菌、又はその培養物もしくは分離株は、“分離された”又は“生物学的に純粋な”形態であると記載されうる。これらの用語は、前記細菌が環境から分離されている又は前記細菌が天然又はそれ以外で見出される場合にそれらに随伴しうる細胞性又はそれ以外の一つ又は複数の要素から分離されていることを意味するものとする。“分離された”又は“生物学的に純粋な”という用語は、前記細菌が精製されている程度を示していると取られるべきではない。しかしながら、一態様において、前記細菌の分離株又は培養物は、本発明の細菌を優位に含有する。
【0069】
本発明は、
(a)約65体積%より多いCO
(b)約20体積%未満のH、又は
(c)約65体積%より多いCO及び約20体積%未満のH
を含むガス状のCO含有基質を供給された水性培地中での嫌気的発酵によって、エタノール及びアセテートを、少なくとも約1.0のエタノール対アセテート比で生成できる、生物学的に純粋な細菌の分離株を提供する。一態様において、前記細菌は、本明細書中の他の場所に記載のようにC.オートエタノゲナム(C.autoethanogenum)から誘導される。
【0070】
一定の態様において、前記エタノール対アセテート比は、少なくとも約1.1、又は少なくとも約1.2、又は少なくとも約1.3又は少なくとも約1.4である。
更なる態様において、前記細菌は、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.1gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.2gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.3gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.4gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.5gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.6gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.7gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.8gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約3.0gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約3.2gのエタノール、又は1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約3.4gのエタノールの濃度でエタノールを生成することが可能である。
【0071】
エタノールの生産性はエタノールの体積生産性で、エタノール濃度と、バッチシステムでその濃度を生産するのに必要な時間との比率として計算される。生産性は、連続システムにおける微生物発酵についても計算できる。本発明の特定の態様において、前記細菌の生産性は、少なくとも1.2gのエタノール/発酵ブロスのL/日、又は少なくとも1.6g/L/日又は少なくとも1.8g/L/日又は少なくとも2.0g/L/日である。
【0072】
微生物培養物の比エタノール生産性は、微生物培養物内の生存活性微生物の割合による。本発明の一定の態様において、比エタノール生産性は、少なくとも0.7g/L/グラムの細菌細胞/日、又は少なくとも0.9g/L/グラムの細菌細胞/日、又は少なくとも1.1g/L/グラムの細菌細胞/日、又は少なくとも約1.3g/L/グラムの細菌細胞/日である。
【0073】
本発明は、
(a)約65体積%より多いCO
(b)約20体積%未満のH、又は
(c)約65体積%より多いCO及び約20体積%未満のH
を含むガス状のCO含有基質を供給された水性培地中での嫌気的発酵によって、エタノールを、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも2.0gのエタノールのエタノール濃度で生成できる、生物学的に純粋な細菌の分離株も提供する。一態様において、前記細菌は、本明細書中の他の場所に記載のようにC.オートエタノゲナムから誘導される。
【0074】
更なる態様において、前記細菌は、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.1gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.2gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.3gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.4gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.5gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.6gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.7gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.8gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約3.0gのエタノール、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約3.2gのエタノール、又は1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約3.4gのエタノールの濃度でエタノールを生成することが可能である。
【0075】
本発明の特定の態様において、前記細菌の生産性は、少なくとも1.2gのエタノール/発酵ブロスのL/日、又は少なくとも1.6g/L/日又は少なくとも1.8g/L/日又は少なくとも2.0g/L/日である。
【0076】
本発明の一定の態様において、比エタノール生産性は、少なくとも0.7g/L/グラムの細菌細胞/日、又は少なくとも0.9g/L/グラムの細菌細胞/日、又は少なくとも1.1g/L/グラムの細菌細胞/日、又は少なくとも約1.3g/L/グラムの細菌細胞/日である。
【0077】
典型的には、アセテートは発酵の副産物として生成する。一態様において、エタノールは、少なくとも約1.0のエタノール対アセテート比で生成される。特定の態様において、前記エタノール対アセテート比は、少なくとも約1.1、又は少なくとも約1.2、又は少なくとも約1.3又は少なくとも約1.4である。
【0078】
本発明はまた、本明細書中で後述する実験条件下で観察された下記の定義的特徴の一つ又は複数を有する酢酸生成細菌も提供する。すなわち、酵母エキスの存在下又は不在下、最小培地中で増殖する能力;酵母エキスが存在する培地と比べて酵母エキスが存在しない培地中で、より迅速に増殖し、より高いエタノール対アセテート比を生じ、及び/又はより高濃度のエタノールを生成する能力;ほとんど又は全くない胞子形成能力;グラム陽性;桿状;非運動性。
【0079】
一態様において、前記細菌は実質的に胞子形成能力を持たない。一態様において、本明細書中で後述する条件下で実質的にどの細菌集団も胞子を提示しない。
一態様において、前記酢酸生成細菌はさらに、約65体積%より多いCO;約20体積%未満のH;又は、約65体積%より多いCO及び約20体積%未満のHを含むCO含有基質を供給された水性培地中での嫌気的発酵によって、エタノールを、1リットルの発酵ブロスあたり少なくとも約2.0gのエタノールのエタノール濃度及び/又は少なくとも約1.0のエタノール対アセテート比で生成することができる。
【0080】
本発明の細菌は、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)から誘導できる。
本発明の一定の態様の細菌は胞子形成能力をほとんど乃至全く持たないという観察は驚くべきことである。このことは、クロストリジウム・オートエタノゲナムを含むクロストリジウムの他の株に優る思いがけない利益を提供する。胞子形成は活性の制限された停滞期である。胞子形成能力を削減又は改善することはいくつかの利点を有する。例えば、1個の細菌細胞は、非胞子形成状態にある間だけ分裂し代謝産物(例えばアセテート及び/又はエタノール)を産生することができる。従って、細菌が胞子を形成しない場合、分裂及び代謝産物産生のタイムスケールを延長することができる。胞子形成能力の欠如は、全生存集団を長期間増殖及び/又は代謝産物産生を促進するように適合させられるという、培養全体に対する更なる制御も提供しうる。従って、本発明の細菌の使用は、アセテート及び/又はエタノールのような生成物を製造するための発酵プロセスの総体的効率を増大することができる。
【0081】
本発明の一定の態様において、前記細菌は、前述の特徴の二つ以上、さらに好ましくはすべてを有する。本発明のある態様において、前記細菌は、ブダペスト条約に従って2007年10月19日にドイツのDSMZに寄託され、受入番号DSM19630を割り当てられたクロストリジウム・オートエタノゲナム株LBS1560の定義的特徴を有する。特定の態様において、前記細菌は、クロストリジウム・オートエタノゲナム株LBS1560、すなわちDSM19630である。
【0082】
本発明は、本発明の細菌から誘導された細菌にも関する。
一定の態様において、本発明の細菌は、高レベルのガス状基質中COで前述のエタノールの濃度、及びエタノール対アセテート比をもたらすことができる。前記ガス状基質は少なくとも約70体積%のCOを含みうる。一定の態様において、前記ガス状基質は、少なくとも約80体積%のCO、又は少なくとも約85体積%のCO、又は少なくとも約90体積%のCO又は少なくとも約95体積%のCOを含む。
【0083】
同様に、低〜非存在レベルのガス状基質中Hで前述のエタノール濃度、及びエタノール対アセテート比が一定の態様において達成できる。前記ガス状基質は約20体積%未満のHを含みうる。特定の態様において、前記ガス状基質は約15体積%未満のHを含むか、又は前記ガス状基質は約10体積%未満のHを含むか、又は前記ガス状基質は約5体積%未満のHを含むか、又は前記ガス状基質は約4体積%未満のHを含むか、又は前記ガス状基質は約3体積%未満のHを含むか、又は前記ガス状基質は約2体積%未満のHを含むか、又は前記ガス状基質は約1体積%未満のHを含むか、又は前記ガス状基質はHを含まない。
【0084】
一定の態様において、本発明の細菌は、比較的少ないCOを含むガス状基質を供給された場合にも、エタノール濃度、及びエタノール対アセテート比をもたらすことができる。一態様において、前記ガス状基質は約20体積%以下のCOを含む。一定の態様において、前記ガス状基質は、約15体積%以下のCO、又は約10体積%以下のCO、又は約5体積%以下のCOを含む。
【0085】
一定の態様において、前記ガス状基質は約85体積%のCO及び約15体積%のCOを含むか、又は前記ガス状基質は少なくとも約90%のCO及び最大約10%のCOを含むか、又は前記ガス状基質は約95体積%のCO及び約5体積%のCOを含む。
【0086】
一定の態様において、培養物は水性培地中で維持される。好ましくは、前記水性培地は最少嫌気性微生物増殖培地である。適切な培地は当該技術分野で公知であり、例えば米国特許第5,173,429号及び5,593,886号並びにWO02/08438、及びKlassonら[(1992).Bioconversion of Synthesis Gas into Liquid or Gaseous Fuels.Enz.Microb.Technol.14:602−608]、Najafpour及びYounesi[(2006).Ethanol and acetate synthesis from waste gas using batch culture of Clostridium ljungdahlii.Enzyme and Microbial Technology,Volume 38,Issues 1−2,p.223−228]及びLewisら[(2002).Making the connection−conversion of biomass−generated producer gas to ethanol.Abst.Bioenergy,p.2091−2094.]に記載されている。本発明の特定の態様において、最少嫌気性微生物増殖培地は、本明細書中に定義されているLM23又はLM33である。
【0087】
一定の態様において、培地は追加の成分、例えばアミノ酸及びトリプチケース(これらに限定されない)を補給される。好ましくは培地は追加の成分を補給されない。
一定の態様において、培地に酵母エキスを補給してもよい。一定の態様において、培養物は、培地に酵母エキスが補給されている場合よりも培地に酵母エキスが補給されていない場合のほうがより迅速に増殖する。更なる態様において、生じるエタノール対アセテート比は、培地に酵母エキスが補給されている場合よりも培地に酵母エキスが補給されていない場合のほうが高い。更なる態様において、培地1リットルあたり生成するエタノールの濃度は、培地に酵母エキスが補給されている場合よりも培地に酵母エキスが補給されていない場合のほうが高い。特定の態様において、培地に酵母エキスは補給されない。
【0088】
本発明は、COを含むガス状基質から一つ又は複数のアルコールを製造する方法も提供する。前記方法は、ガス状基質の存在下での本発明の一つ又は複数の細菌分離株の培養物の維持、及び一つ又は複数の細菌分離株によるガス状基質の一つ又は複数のアルコールへの嫌気的発酵を含む。
【0089】
本発明はまた、産業プロセスからの大気中への総炭素排出を削減するための方法も提供する。前記方法は、
(a)産業プロセスの結果発生するCO含有ガスを、該ガスが大気中に放出される前に捕捉し;
(b)本発明の一つ又は複数の細菌分離株を含有する培養物によってCO含有ガスを嫌気的発酵し、一つ又は複数のアルコールを製造する
ことを含む。
【0090】
本発明の方法の一定の態様において、アセテートは発酵の副産物として生成する。生成するアルコールはエタノールである。
一定の態様において、培養物は液体栄養体地中で維持される。
【0091】
発酵は任意の適切なバイオリアクター、例えば、連続撹拌槽リアクター(CSTR)、バブルカラムリアクター(BCR)又は細流床リアクター(TBR)中で実施できる。また、本発明のある好適な態様において、バイオリアクターは、微生物が培養される第一の増殖リアクターと、増殖リアクターからの発酵ブロスが供給され、ほとんどの発酵生成物(エタノール及びアセテート)が製造される第二の発酵リアクターとを含みうる。
【0092】
前述のように、発酵反応のための炭素源はCOを含有するガス状基質である。ガス状基質は、産業プロセスの副産物として、又は自動車の排ガスのような何らかのその他の供給源から得られるCO含有廃ガスでありうる。一定の態様において、産業プロセスは、製鋼所のような鉄金属製品製造、非鉄製品製造、石油精製プロセス、石炭のガス化、発電、カーボンブラック製造、アンモニア製造、メタノール製造及びコークス製造からなる群から選ばれる。これらの態様において、CO含有ガスは、それが大気中に排出される前に何らかの好都合な方法を用いて産業プロセスから捕捉されうる。ガス状CO含有基質の組成によっては、それを発酵に導入する前に何らかの望まざる不純物、例えばダスト粒子を除去するために処理するのも望ましいであろう。例えば、ガス状基質を公知の方法を用いてろ過又はスクラブすることができる。
【0093】
さらに、基質ストリームのCO濃度(又はガス状基質中のCO分圧)を増大し、ひいてはCOを基質とする発酵反応の効率を増大するのが望ましいことも多い。ガス状基質中のCO分圧の増大は、発酵培地へのCOの物質移動を増大する。発酵反応に供給するのに使用されるガスストリームの組成は、該反応の効率及び/又はコストに顕著な影響を与えうる。例えばOは嫌気的発酵プロセスの効率を低下させうる。発酵プロセスの段階で発酵の前又は後に望まざる又は不必要なガスを処理することは、そのような段階における負担を増大しかねない(例えば、ガスストリームがバイオリアクターに入る前に圧縮される場合、発酵に必要でないガスの圧縮のために不必要なエネルギーが使用されうる)。そこで、基質ストリーム、特に産業発生源由来の基質ストリームを処理して、望まざる成分を除去し、所望成分の濃度を増大させるのが望ましいであろう。
【0094】
産業発生源由来の基質ストリームは、通常、組成に変動がある。さらに、高CO濃度(例えば少なくとも50%CO又は少なくとも65%)を含む産業発生源由来の基質ストリームはH成分が少ないことが多い(例えば20%未満又は10%未満又は0%)。従って、微生物は、ある範囲のCO及びH濃度、特に高CO濃度及び低H濃度を含む基質の嫌気的発酵によって生成物を製造できるのが特に望ましい。発明者らは、C.オートエタノゲナム(DSMZから受入番号DSM10061で入手)を試験したところ、H成分なしにはCOを含むガス状基質上で増殖も生成物産生もしないことが分かった。しかしながら、本発明の細菌は、増殖し、COを含む(Hは含まない)基質の発酵によって生成物(エタノール及びアセテート)を産生する驚くべき能力を有している。
【0095】
基質ストリーム中に水素が存在すると、総体的炭素捕捉及び/又はエタノール生産性の効率に改良をもたらしうる。例えば、WO02/08438は、様々な組成のガスストリームを用いたエタノールの製造について記載している。WO02/08438は、微生物の増殖及びエタノール産生を促進するためにバイオリアクター内のC.リュングダリイ(C. ljungdahlii)培養物に供給された、63%H、32%CO及び5%CHを含む基質ストリームについて報告している。培養物が定常状態に達して、微生物増殖がもはや主目的でなくなったら、わずかに過剰のCOを供給してエタノール生成を促進するために、基質ストリームを15.8%のH、36.5%のCO、38.4%のN及び9.3%のCOに切り替えている。この文献は、高い及び低いCO及びH濃度を有するガスストリームについても記載している。
【0096】
本明細書中に記載したように、本発明のプロセスは、産業プロセスからの大気中への総炭素排出を、そのようなプロセスの結果発生するCO含有ガスを捕捉し、それらを本明細書中に記載の発酵プロセスのための基質として使用することによって削減するのに使用できることは理解されるであろう。
【0097】
あるいは、本発明の他の態様において、CO含有ガス状基質はバイオマスのガス化から供給されてもよい。ガス化プロセスは、制限された空気又は酸素供給の中でバイオマスを部分燃焼させることを含む。得られたガスは、典型的には、主にCO及びH、それに最少量のCO、メタン、エチレン及びエタンを含む。例えば、サトウキビから砂糖、又はトウモロコシや穀物からデンプンなどの食料の抽出及び加工中に得られるバイオマス副産物、又は林業によって生じる非食料バイオマス廃棄物をガス化すれば、本発明での使用に適切なCO含有ガスを製造することができる。
【0098】
CO含有ガス状基質は主成分としてCOを含有するのが一般的に好適である。特定の態様において、ガス状基質は、体積で少なくとも約65%、又は少なくとも約70%〜約95%のCOを含む。ガス状基質が何らかの水素を含有する必要はない。ガス状基質は、場合によりいくらかのCO、例えば体積で約1%〜約30%、例えば約5%〜約10%のCOも含有する。
【0099】
当然のことながら、細菌の増殖とCOからエタノールへの発酵を起こすためには、CO含有基質ガスの他に、適切な液体栄養培地をバイオリアクターに供給することも必要である。栄養培地は、使用される微生物を増殖させるのに十分なビタミン及びミネラルを含有する。COを唯一の炭素源として使用するエタノールの発酵に適切な嫌気性培地は当該技術分野で公知である。例えば、適切な培地は、米国特許第5,173,429号及び5,593,886号並びにWO02/08438のほか、本明細書中で前に引用した他の出版物に記載されている。本発明の一態様において、培地は以下の実施例に記載されているようなLM23である。
【0100】
発酵は、望ましくは、COからエタノールへの発酵が起こるのに適切な条件下で実施されるべきである。考慮されるべき反応条件は、圧力、温度、ガス流速、液体流速、培地pH、培地の酸化還元電位、撹拌速度(連続撹拌槽リアクターを使用する場合)、植菌量、液相中のCOが制限的にならないような最大のガス基質濃度、及び生成物抑制を回避するための最大の生成物濃度などである。
【0101】
最適な反応条件は、一部は使用される本発明の特定の微生物に左右される。しかしながら、一般的に、発酵は周囲圧力より高い圧力で実施されるのが好適である。高めた圧力での運転は、気相から液相へのCOの移動速度を著しく増加させる。COは液相で微生物にエタノール生成のための炭素源として取り込まれる。このことは、ひいては、バイオリアクターが大気圧より高い圧力に維持された場合、滞留時間(バイオリアクター中の液量÷流入ガス流速として定義される)を削減できることを意味している。
【0102】
また、所定のCO−エタノール変換速度は一部は基質の滞留時間の関数であり、所望の滞留時間の達成はバイオリアクターの必要容量を決定するので、加圧システムの使用は必要なバイオリアクターの容量を大きく削減でき、その結果、発酵装置の資本コストも削減できる。米国特許第5,593,886号に示されている実施例によれば、リアクターの容量はリアクターの運転圧力の増加に線形比例して削減できる。すなわち、10気圧の圧力で運転されるバイオリアクターは、1気圧の圧力で運転されるリアクターの容量の10分の1しか必要ない。
【0103】
ガスからエタノールへの発酵を高圧で実施することの利益は他の場所でも記載されている。例えば、WO02/08438には、30psig及び75psigの圧力下で実施されたガス−エタノール発酵で、それぞれ150g/l/日及び369g/l/日のエタノール生産性が得られたことが記載されている。しかしながら、類似の培地及び流入ガス組成を用いて大気圧で実施された発酵例では、1日あたり1リットルにつき10〜20分の1のエタノールしか生産されないことが分かった。
【0104】
CO含有ガス状基質の導入速度は、液相中のCO濃度が決して制限的にならないようなものであることも望ましい。なぜならば、COが制限された条件だと、エタノール生成物が培養物によって消費されるという結果になりうるからである。
【0105】
一定の態様において、上記の本発明による発酵プロセスの結果、水性培地中にエタノール及び細菌細胞を含む発酵ブロスが得られる。方法の好適な態様において、エタノールは発酵ブロスから回収される。
【0106】
一定の態様において、エタノールの回収は、ブロスの一部分を連続的に取り出し、取り出されたブロス部分から該アルコールを回収することを含む。
特定の態様において、エタノールの回収は、エタノールを含有する取り出されたブロス部分を分離装置に通して、ブロスから細菌細胞を分離し、細胞の除去された(無細胞)アルコール含有透過物を得、そして細菌細胞をバイオリアクターに戻すことを含む。
【0107】
一定の態様において、本発明の方法は連続法である。
特定の態様において、アセテートは発酵の副産物として生成する。
更なる態様において、エタノール及びアセテートはブロスから回収される。
【0108】
一定の態様において、エタノール及びアセテートの回収は、ブロスの一部分を連続的に取り出し、取り出されたブロス部分からエタノールとアセテートを別々に回収することを含む。
【0109】
ある態様において、エタノール及びアセテートの回収は、エタノール及びアセテートを含有する取り出されたブロス部分を分離装置に通して、エタノール及びアセテートから細菌細胞を分離し、細胞の除去された(無細胞)エタノール及びアセテート含有透過物を得、そして細菌細胞をバイオリアクターに戻すことを含む。
【0110】
上記態様において、エタノール及びアセテートの回収は、好ましくは、最初にエタノールを無細胞透過物から取り出し、その後アセテートを無細胞透過物から取り出すことを含む。好ましくは、無細胞透過物はその後バイオリアクターに戻される。
【0111】
一定の態様において、本発明の方法は連続法である。
エタノールは発酵の好適な所望最終生成物である。エタノールは、分別蒸留又は蒸発、及び抽出発酵のような当該技術分野で公知の方法によって発酵ブロスから回収できる。発酵ブロスからエタノールの蒸留によってエタノールと水の共沸混合物(すなわちエタノール95%及び水5%)が得られる。無水エタノールは、その後、同じく当該技術分野で周知の分子ふるいエタノール脱水技術を用いて得ることができる。抽出発酵法は、発酵生体に対する毒性リスクの低い水混和性溶媒を使用して、エタノールを希釈発酵ブロスから回収する方法である。例えば、オレイルアルコールは、このタイプの抽出プロセスに使用できる溶媒である。オレイルアルコールを発酵槽に連続的に導入すると、この溶媒が上昇し、発酵槽の上部に層が形成される。これを連続的に抽出し、遠心分離機に送り込む。すると、水と細胞は該オレイルアルコールから容易に分離されて発酵槽に戻される。一方、エタノールを含んだ溶媒はフラッシュ蒸発装置に送り込まれる。ほとんどのエタノールは蒸発し凝結するが、オレイルアルコールは非揮発性なので、発酵での再使用のために回収される。
【0112】
アセテートも、当該技術分野で公知の方法を用いて発酵ブロスから回収できる。アセテートの回収法は、WO2007/117157及びWO2008/115080に詳細に記載されている。
【0113】
本発明の一定の態様において、エタノール及びアセテートは、発酵バイオリアクターからブロスの一部分を連続的に取り出し、該ブロスから微生物細胞を分離し(都合よくはろ過によって)、そして最初にエタノールを、次いでアセテートを該ブロスから回収することによって発酵ブロスから回収される。エタノールは、都合よくは蒸留によって回収でき、アセテートは上記方法を用いて活性炭上への吸着によって回収できる。分離された微生物細胞は好ましくは発酵バイオリアクターに戻される。エタノール及びアセテートが除去された後に残った無細胞透過物も、好ましくは発酵バイオリアクターに戻される。バイオリアクターに戻す前に追加の栄養素(例えばビタミンB類)を無細胞透過物に加えて栄養培地を補充してもよい。また、酢酸の活性炭への吸着を増強するために上記のようにブロスのpHを調整した場合、そのpHは、バイオリアクターに戻す前に発酵バイオリアクターのブロスのpHと類似したpHに再調整されるべきである。
【0114】
反応化学量論
理論に拘束されたくはないが、本発明のプロセスにおいてCOからエタノール(a)及び酢酸(b)への発酵の化学反応は、次のようであると考えられる。
【0115】
(a)18CO+9HO→3CHCHOH+12CO
(b)12CO+6HO→3CHCOOH+6CO
次に、本発明を以下の非制限的実施例を参照しながらさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0116】
培地
以下の実施例で使用された培地成分の組成を表1及び2に示す。
【0117】
【表1】

【0118】
【表2】

【0119】
LM17、LM23及びLM33培地をpH5.5で以下のように調製した。システインHCLを除く全成分をdHO中で混合し、総容量1Lとした。この溶液を、95%CO、5%COガスの一定流量下で沸騰するまで加熱し、室温に放冷することによって嫌気性にした。冷却したら、システインHCLを加え、溶液のpHを5.5に調整した。嫌気性は実験の間ずっと維持された。
【0120】
エタノール及びアセテートの測定
以下の実施例におけるエタノールとアセテートの測定はガスクロマトグラフHP5890シリーズIIを用いて実施した。水素炎イオン化検出器(FID)、着脱可能な不活性化ガラス製の注入口ライナー、付属レギュレーター、ガスライン、及びサンプル自動注入器HP7673A付きセプタムを利用した。分離は、キャピラリーGCカラムEC1000−Alltech EC1000 30m×0.25mm×0.25μmで実施した。
【0121】
ガスクロマトグラフは、スプリットモード、水素の総流量50mL/分に5mLのパージフロー(1:10スプリット)、カラムヘッド圧20psigの結果の線速度45cm/秒で運転された。温度プログラムは60℃で開始し、1分間保持、その後30℃/分で170℃に上昇させた。この結果、総運転時間は4.65分となった。注入器(インジェクター)温度は180℃、検出器温度は225℃であった。
【0122】
使用された試薬は、プロパン−1−オール試薬グレード−Scharlau AL0437、GCによる最小アッセイ99.5%;無水エタノール−Scharlau ET0015、GCによる最小アッセイ99.9%;酢酸(100%氷酢酸)−BDH 100015N、GCによる最小アッセイ99.8%;オルトリン酸−BDH 294214Q、GCによる最小アッセイ99.0%;窒素−BOC酸素除去GCメイクアップガス;水素−BOC酸素除去GCキャリヤーガス及びFID燃料;ゼロエア−FID酸化剤;水−脱イオンであった。
【0123】
細胞密度
これらの実験における細胞密度を測定するために、サンプルの吸光度を600nmで測定し(分光光度計)、乾燥質量を公表手順に従って計算することによって決定した。代謝産物のレベルは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及び場合によってはガスクロマトグラフィー(GC)を用いて特徴付けした。
【0124】
HPLC
HPLCシステム Agilent 1100シリーズ。移動相:0.0025N 硫酸。流量及び圧力:0.800mL/分。カラム:Alltech IOA;カタログ番号9648、150×6.5mm、粒径5μm。カラム温度:60℃。検出器:屈折率。検出器の温度:45℃。
【0125】
HPLC用のサンプル調製法は次の通りであった。400μLのサンプル及び50μLの0.15M ZnSO及び50μLの0.15M Ba(OH)をエッペンドルフ管に装填する。該管を12,000rpm、4℃で10分間遠心分離する。200μLの上清をHPLCバイアルに移し、5μLをHPLC器具に注入する。
【0126】
実施例1:本発明の新規細菌分離株の生成
クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)の新規株LBS1560を、親のC.オートエタノゲナム培養物(DSMZ10061)から出発して18ヶ月間にわたる微生物培養物の選別及び増殖の専用プログラムによって生成した。
【0127】
方法
C.オートエタノゲナム10061(DSMZより入手)の凍結ストックをまず解凍し、これを使用して、95%CO及び5%COの存在下、5g/リットルの酵母エキスを用いて調製されたLM23培地に植菌した。この培養物は、酵母エキス不在のLM23培地では増殖させることができなかった。培養物の酵母エキス依存性を克服しようと数ヶ月間にわたって努力する中で、最多のエタノールと最高のエタノール対アセテート比を生じることが観察された活発に増殖する微生物培養物を、常時95%CO及び5%CO上部空間ガスの存在下、酵母の濃度を徐々に減少させた培地中で繰り返し継代培養した。この期間後、酵母エキスの不在下で増殖し、エタノール及びアセテートを生成する培養物が観察できた。この選別プロトコルを積極的に維持し、
i)最も迅速に増殖した;
ii)最多のエタノールを生成した;
iii)最高のエタノール対アセテート比を生じた;そして
iv)液体培地中、酵母エキスの不在下で増殖した
培養物をさらに確認及び選別した。
【0128】
実施例1.1:迅速増殖の選別
迅速増殖培養物を選別するために、連続95%CO及び5%COガスストリーム上での増殖期間中にエネルギー代謝の副産物として酢酸を生成する微生物の性向を利用した。増殖培地中の酢酸の蓄積は、プロセスのpHを下げる効果を有する。そこで、最速増殖集団を強制的に選別できるような圧力を導入するために増殖依存的に培養物を希釈する発酵槽の構成を開発した。例示的構成を図1に示す。ここでは、微生物の培養物はバイオリアクター1中で発酵させた。栄養培地2のpHは、従来式pHプローブ3でモニターした。設定点5.5からpHの読みにずれが生じるとポンプ4が起動するようにした。しかしながら、プローブからの信号を塩基又は酸溶液を投入するポンプに伝えるのではなく、この場合、ポンプは、pH5.8の新鮮な嫌気性LM17培地を含有するボトル5に接続されていた。従って、培養物が増殖し、酢酸が生成すると、培地2のpHが低下し始め、pH5.8の培地を導入するポンプ4の動作が誘起された。ポンプ4は、培地のpHが5.5以上に戻った場合にのみ動作停止した。リアクター1中の液体レベルは、レベルプローブ6を用いて維持された。これは、バイオリアクター1中の液体レベルを一定レベル以下に維持するために働く第二のポンプ7に接続されていた。バイオリアクター1から汲み出された培地は廃棄物容器/手段8に送られた。従って、増殖中の培養物集団は増殖と連動した様式で希釈されたため、集団の増殖が速いほどより多くの酢酸が生成され、より多くの新鮮培地が導入されて、ついに、最終的には、pHを維持するために比較的大量の培地が発酵槽に導入され、最速増殖集団が効果的に選別された。これは、容器の液量を一定レベルに維持しようとしたために、これらの集団が洗い流されなかったからである。この発酵槽の構成は、迅速増殖培養物を分離するために、連続培養として数ヶ月間維持された。14日毎に、培養物の一部を取り出し、50mlの培地及び上部空間に35psigの95%COと5%COを含有する250mlの血清ボトル中で増殖させた。活発に増殖したら、該培養物を元の培養物ストックとの比較研究のために、グリセロールストックとして調製及び貯蔵した。
【0129】
結果
上記の18ヶ月間にわたる選別と継代培養プロセスの結果、上記i)〜iv)の各特徴に関して最適の成績を示す新規株LBS1560が得られた。新規細菌株は、グラム陽性(グラム染色で陽性)、非運動性であり、桿菌の形状を有し、そして驚くべきことに胞子形成能力をほとんど乃至全く示さない(以下でさらに説明する)ことが観察された。
【0130】
LBS1560は、ブダペスト条約に従って2007年10月19日にドイツのDSMZに寄託され、受入番号DSM19630を割り当てられた。
実施例2:LBS1560の培養及び貯蔵
C.オートエタノゲナムLBS1560は以下の条件を用いて培養できる。すなわち、95%COガス(5%CO)35psi、LM23培地中、37℃、pH5.5、撹拌(200rpm振盪)、嫌気性条件下で増殖。増殖は600nmでのODの測定及び顕微鏡分析によってモニターできる。
【0131】
貯蔵の場合、LM23+20%グリセロール中の対数期のLBS1560培養物を急速冷凍し、その後−80℃で貯蔵する。
実施例3:新規C.オートエタノゲナムLBS1560と親株のC.オートエタノゲナムDSMZ10061との比較
本実験では、CO含有ガス状基質のエタノールへの嫌気的発酵に関する新規株LBS1560の改良された効率を、親株のC.オートエタノゲナムDSMZ10061と比較して示している。本実験はまた、高レベルのCOの存在下及びHの不在下での新規株LBS1560によるCO含有ガスのエタノールへの効率的な発酵も示している。
【0132】
方法
選別された微生物培養物LBS1560及び元の親培養物DSMZ10061の凍結ストックを取り出して解凍し、これを使用して、0.1%(w/v)酵母エキス(YE)の存在下又は不在下いずれかの最少液体嫌気性微生物増殖培地(LM23)5mlを含有する15mlの密閉ハンゲート(Hungate)管に植菌した。すべてのハンゲート管は95%CO及び5%COガス雰囲気下で維持された。各ハンゲート管について、微生物増殖、エタノール及びアセテート生成を7日間の培養期間にわたってモニターした。
【0133】
結果
結果を以下の表3に示す。
【0134】
【表3】

【0135】
表3に示されたデータは、株LBS1560と親株DSMZ10061との間のいくつかの再現性のある相違を浮かび上がらせている。DSMZ10061は酵母エキスを欠く最少培地中では増殖できなかった。一方、LBS1560は酵母エキスが存在する培地でもしない培地でも増殖できたが、酵母エキスを欠く最少培地でベストの成績であった。最少培地で増殖したLBS1560は、酵母エキス含有培地で増殖したDSMZ10061よりも、増殖、エタノール生成、及びエタノール対アセテート比に関して良好な成績であった。
【0136】
実施例4:LBS1560の胞子形成の特徴
胞子形成の特徴を確認するために、LBS1560を、細菌に胞子形成を誘導することが知られている様々な条件に、下記の方法論に従って暴露した。
・飢餓:LBS1560の培養物を無菌蒸留水中に懸濁した。
・酸素への暴露:無菌空気を増殖中の培養物5mlを含有するハンゲート管の上部空間に注入した後、当該管を振盪器上に置き、37℃でインキュベートした。
・低pH培地への暴露(pH3):微生物をLM23(pH5.5)中で高細胞濃度にまで増殖させた後、培地をpH3の新鮮な増殖培地と交換した。
・酸素と、炭素源及びエネルギー源としてのフルクトースへの暴露:5g/Lのフルクトースを含有し、還元剤(すなわちシステイン−HCl)は含有しない液体培地に酸素を飽和させ、この培地中に高濃度の細胞を2日間懸濁させた。
【0137】
LBS1560の胞子形成能力は顕微鏡検査によって測定した。細菌サンプルを胞子の観察を容易にするクーマシーブルーで染色した。LBS1560は何度も観察された。本質的にどの細菌集団も胞子の提示は観察されなかった。顕微鏡検査で孤立した胞子が観察されることもあったが、それらは総微生物集団の0.1%より著しく少ないと見積もられた。このことは、クロストリジウムの親株及び関連株は胞子を形成することが知られているということを考えれば、驚くべきことであり思いがけないことであった。胞子形成不能性は、以下に記載するように本発明の細菌に利益を提供する。
【0138】
実施例5:LBS1560によるエタノール生成
本実施例は、LBS1560による長期間にわたる連続エタノール生成について記載する。図2に、2週間にわたるアセテート、エタノール及びバイオマスの濃度をまとめたものを示す。
【0139】
手順
1.1リットルのCSTR中、嫌気性LM33発酵培地の1L培地に、活発に増殖中のクロストリジウム・オートエタノゲナム(LBS1560)培養物(DSMZ19630)を5%(v/v)のレベルで植菌した。70%CO及び15%CO 1%H 14%Nガスの連続フローを発酵槽容器の底部に拡散スパージャーから19ml/分の体積流速で導入した。発酵槽の初期pHは5.5に設定し、撹拌速度は400rpmに調整した。
【0140】
2.大部分の実験について、培養物の酢酸濃度は、細胞リサイクル及び培地交換システムによって4g/L未満に維持した。細胞をクロスフロー膜Viva 2000に通してろ液を回収し、細胞はリアクター容器に戻した。ろ液は新鮮培地で置き換えて、リアクター内の培地体積が必ず一定に保たれるようにした。
【0141】
3.培養は少なくとも14日間連続して実施した。細胞リサイクルシステムにより、細菌をバイオリアクターから除去することなく、1〜1.5Lの液体栄養培地を1〜2日毎に除去した。除去された培地は一定体積を維持するために新鮮培地で置き換えられた。
【0142】
4.発酵槽のpHは、実験の最初の4日間にわたって5.6から6.0に上昇した。
結果
酢酸生成細菌(例えばC.オートエタノゲナム)の迅速増殖期は、通常、制御された発酵環境中で高いアセテート生成を伴う。新規株LBS1560を用いた本実験では、増殖期中(第0〜3日)、当該培養物は平均0.3g/L/日のアセテート及び0.16g/L/日のエタノールを生成した。増殖期の後(第3〜13日)、当該培養物は平均1.03g/L/日のアセテート及び平均1.4g/L/日のエタノールを生成した。アルコール生成期間にわたって生成された総エタノールは14g/Lであった。結果は、予想レベルよりも低いアセテート生成及び著しく高いエタノール生成を示している。
【0143】
本明細書中に記載された特定の方法及び組成は、好適な態様の代表及び例示であって、本発明の範囲に対する制限として意図されたものではない。本明細書を考慮すれば、当業者にはその他の目的、側面及び態様が思い浮かぶであろうが、それらも本発明の範囲及び精神の中に包含される。当業者には、本明細書中に開示された発明に対して様々な置換及び変更が本発明の範囲及び精神から離れることなく為されうることは容易に分かるであろう。本明細書中で適切に説明的に記載された本発明は、本明細書中に必須であるとして具体的に開示されていない構成要素(一つ又は複数)、又は制限(一つ又は複数)がなくとも実施できる。従って、例えば、本明細書における各場合において、本発明の態様又は実施例において、“含む(comprising)”、“含む(including)”、“含有する(containing)”などの用語は、制限なしに拡大的に読まれるものとする。さらに、表題、見出しなどは、本文献に対する読者の理解を増進するために提供されるものであって、本発明の範囲を制限するものとして読まれるべきでない。
【0144】
以上及び以下で引用されたすべての出願、特許及び出版物は、もしあれば、それらの全開示内容を引用によって本明細書に援用する。しかしながら、本明細書におけるいずれの出願、特許及び出版物の引用も、それらが有効な先行技術を構成していること又は世界中のどの国においても共通の一般的知識の一部を形成していることの承認又は何らかの形態の示唆であるとは受け取られないし、受け取られるべきでない。
【符号の説明】
【0145】
1 バイオリアクター
2 培地
3 pHプローブ
4 ポンプ
5 ボトル
6 レベルプローブ
7 第二のポンプ
8 廃棄物容器/手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
COを含む基質の嫌気的発酵によってエタノール及び場合によりアセテートを含む生成物を生成できる生物学的に純粋な細菌の分離株であって、前記生成物は少なくとも1.0のエタノール対アセテート比で生成される、生物学的に純粋な細菌の分離株。
【請求項2】
前記比が少なくとも1.2である、請求項1に記載の生物学的に純粋な分離株。
【請求項3】
前記細菌の生産性が少なくとも約1.2gのエタノール/発酵ブロスのL/日である、請求項1又は2に記載の生物学的に純粋な分離株。
【請求項4】
前記細菌の生産性が少なくとも約2.0gのエタノール/発酵ブロスのL/日である、請求項3に記載の生物学的に純粋な分離株。
【請求項5】
COを含むガス状基質の嫌気的発酵によってアルコール及び場合によりアセテートを含む生成物を生成できる生物学的に純粋な細菌の分離株であって、前記細菌の生産性は少なくとも約1.2gのエタノール/発酵ブロスのL/日である、生物学的に純粋な細菌の分離株。
【請求項6】
前記細菌の生産性が少なくとも約2.0gのエタノール/発酵ブロスのL/日である、請求項5に記載の生物学的に純粋な分離株。
【請求項7】
エタノールが少なくとも約1.0のエタノール対アセテート比で生成される、請求項5又は請求項6に記載の生物学的に純粋な細菌の分離株。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の生物学的に純粋な細菌の分離株であって、前記細菌は、
(a)約65体積%より多いCO
(b)約20体積%未満のH、又は
(c)約65体積%より多いCO及び約20体積%未満のH
を含むCO含有基質を供給された水性培地中での嫌気的発酵によって、エタノール及びアセテートを生成できる生物学的に純粋な細菌の分離株。
【請求項9】
下記の定義的特徴、すなわち、酵母エキスの存在下又は不在下、最小培地中で増殖する能力;酵母エキスが存在しない培地中で、酵母エキスが存在する培地と比べてより迅速に増殖し、より高いエタノール対アセテート比を生じ、及び/又はより高濃度のエタノールを生成する能力;ほとんど乃至全くない胞子形成能力;グラム陽性;桿状;非運動性の一つ又は複数を有している酢酸生成細菌。
【請求項10】
前記細菌が、約65体積%より多いCO;約20体積%未満のH;又は約65体積%より多いCO及び約20体積%未満のHを含むCO含有基質を供給された水性培地中での嫌気的発酵によってエタノールを生成でき、前記細菌の生産性は少なくとも約1.2gのエタノール/発酵ブロスのL/日であり、及び/又は前記細菌はエタノールを少なくとも約1.0のエタノール対アセテート比で生成できる、請求項9に記載の細菌。
【請求項11】
前記細菌がクロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)から誘導される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の生物学的に純粋な分離株。
【請求項12】
前記細菌が、DSMZに受入番号DSM19630で寄託されたクロストリジウム・オートエタノゲナム株の定義的特徴を有している、請求項1〜11のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項13】
前記細菌が、DSMZに受入番号DSM19630で寄託されたクロストリジウム・オートエタノゲナム株である、請求項12に記載の細菌。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の一つ又は複数の細菌を用いてCOを含有する基質を発酵することを含む、一つ又は複数のアルコールの製造法。
【請求項15】
(a)COを含有する基質を、請求項1〜12のいずれか1項に記載の細菌の培養物を含有するバイオリアクターに供給し;そして
(b)バイオリアクター中の培養物を嫌気的に発酵し、一つ又は複数のアルコールを製造する
ステップを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記一つ又は複数のアルコールがエタノールを含み、エタノール製造の生産性が少なくとも約1.2gのエタノール/発酵ブロスのL/日であり、及び/又は前記エタノールが少なくとも約1.0のエタノール対アセテート比で製造される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
COを含有する基質がCOを含有するガス状基質である、請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
COを含有するガス状基質が産業プロセスの副産物として得られるガスである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記産業プロセスが、鉄金属製品製造、非鉄製品製造、石油精製プロセス、バイオマスのガス化、石炭のガス化、発電、カーボンブラック製造、アンモニア製造、メタノール製造及びコークス製造からなる群から選ばれる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ガス状基質が製鋼所から得られるガスを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ガス状基質が自動車の排ガスを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
基質が、約65体積%より多いCO、約20体積%未満のH、又は約65体積%より多いCO及び約20体積%未満のHを含む、請求項14〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
基質が、少なくとも約70体積%のCO、少なくとも約75体積%のCO、少なくとも約80体積%のCO、少なくとも約85体積%のCO、少なくとも約90体積%のCO又は少なくとも約95体積%のCOを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
基質が、約20体積%未満のH、約15体積%未満のH、約10体積%未満のH、約5体積%未満のH、約4体積%未満のH、約3体積%未満のH、約2体積%未満のH、約1体積%未満のHを含むか、又は実質的にHを含まない、請求項22又は請求項23に記載の方法。
【請求項25】
基質が、約20体積%以下のCO、約15体積%以下のCO、約10体積%以下のCO、又は約5体積%以下のCOを含む、請求項22〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
基質が、少なくとも約85体積%のCO及び最大約15体積%のCO、少なくとも約90%のCO及び最大約10%のCO、又は約95体積%のCO及び約5体積%のCOを含む、請求項22〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
産業プロセスからの大気中への総炭素排出を削減するための方法であって、
(a)産業プロセスの結果発生するCO含有ガスを、該ガスが大気中に放出される前に捕捉し;
(b)請求項1〜13のいずれか1項に記載の一つ又は複数の細菌を含有する培養物によってCO含有ガスを嫌気的発酵し、一つ又は複数のアルコールを製造する
ことを含む方法。
【請求項28】
一つ又は複数の酸を生成する一つ又は複数の微生物の選別法であって、
バイオリアクター内の栄養培地中で微生物を培養し;
前記栄養培地が実質的に一定のpHで維持されるように、前記栄養培地より高いpHの新鮮培地を加え;そして
バイオリアクター内の培地が実質的に一定容量で維持されるように、前記栄養培地及び微生物の少なくとも一部分を除去することを含む方法。
【請求項29】
前記方法が速く増殖する微生物を選別するためのものである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記一つ又は複数の酸がアセテートを含む、請求項28又は請求項29に記載の方法。
【請求項31】
請求項28〜30のいずれか1項に記載の方法によって得られた生物学的に純粋な細菌の分離株。
【請求項32】
前記分離株が胞子形成能力をほとんど又は全く持たない、請求項31に記載の生物学的に純粋な分離株。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−502533(P2011−502533A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533986(P2010−533986)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際出願番号】PCT/NZ2008/000305
【国際公開番号】WO2009/064200
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(510119555)ランザテク・ニュージーランド・リミテッド (6)
【Fターム(参考)】