説明

新規芳香族化合物およびその製造方法、ポリアリーレンエーテルおよびプロトン伝導膜

【課題】スルホン酸が局所的かつ高密度に存在することにより、保水力が高く、低湿度条件下でもプロトン伝導度が高いプロトン伝導膜を提供可能な、新規芳香族化合物および該化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】下記式で代表される芳香族化合物。


フェニルフェノール化合物とフッ化ベンゼン化合物とを反応させる工程を含む前記芳香族化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規芳香族化合物に関する。より詳しくは、スルホン酸が局所的かつ高密度に存在することにより、保水力が高く、低湿度条件下でもプロトン伝導度が高いプロトン伝導膜を提供可能な、新規芳香族化合物および該化合物を用いたポリアリーレンエーテル、これらの製造方法および用途に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池はクリーンで高効率な次世代のエネルギー源として精力的な研究が行われている。プロトン伝導膜を構成するプロトン伝導性材料としては、たとえば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)などに代表されるパーフルオロアルキルスルホン酸ポリマーや、ポリベンゾイミダゾールまたはポリエーテルエーテルケトンなどの耐熱性高分子にスルホン酸基等を導入したポリマーなどが挙げられる。
【0003】
プロトン交換膜として一般的に用いられるパーフルオロスルホン酸系膜の代替材料として炭化水素系膜の開発が行われているが、近年、燃料電池に用いられるプロトン伝導膜が注目されている。
【0004】
このようなプロトン伝導膜として、ハイパーブランチポリマーが、球形構造、低粘性、高い溶解性、多くの末端官能基を有するなどの特徴を有していることから、本発明者らは、特開2007-332334号公報(特許文献1)でプロトン伝導膜に好適な、新規なハイパーブ
ランチポリマーを提案している。
【0005】
また、非特許文献1(Macromolecules 2008, 41, 281-284)には、ポリマー末端周辺に高濃度のスルホン酸を有するポリエーテルスルホンも提案されている。
従来より提案されていたプロトン伝導膜では、低湿度条件下におけるプロトン伝導度が必ずしも高くないという問題を有している。
【特許文献1】特開2007-332334号公報
【非特許文献1】Macromolecules 2008, 41, 281-284
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
炭化水素系膜の性能を改善するため、様々な研究が行われているが、その一つとしてマルチブロックコポリマーを用い、親水・疎水の明確なドメインを形成させる手法がある。
そこで、本発明者らは、親水・疎水の差をより明確として、親水性ユニットに多くのスルホン酸を有するポリマーを使用することによって、スルホン酸が局所的かつ高密度に存在することにより、保水力が高まり低湿度条件下におけるプロトン伝導度の改善が期待されると考えた。
【0007】
そして、さらに検討した結果、特定の芳香族化合物であれば、8個のスルホン酸基が導入可能であり、局所的にスルホン酸濃度を高めることによって、低湿度下でのプロトン伝導性を向上できること見出した。すなわち、本発明の課題は、プロトン伝導膜材料として好適な親水・疎水の明確なドメインを形成可能な新規芳香族化合物および該芳香族化合物を用いたポリアリーレンエーテル、およびこれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構成は、以下のとおりである。
[1]下記式(1)で表されることを特徴とする芳香族化合物。
【0009】
【化1】

【0010】
(式(1)中、BおよびYは互いに独立に酸素原子または硫黄原子であり、Zは直接結合ま
たは、−(CH2)h−(hは1〜10の整数である)、−C(CH3)2−、−O−、−S−から
なる群より選ばれた少なくとも1種の基を示し、Ar1は芳香族基を示す。Xは、−CO−または−SO2−を示す。))
[2]下記式(2)で表される化合物と下記式(3)で表される化合物とを反応させる工程
、および、得られた反応生成物と、下記式(4)で表される化合物とを反応させる工程を含むことを特徴とする[1]の芳香族化合物の製造方法。
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、B、Y、ZおよびAr1は前記式(1)と同様である。Raは炭素数1〜10のアルキル
基を示す。)
[3]下記一般式(I)で表されるスルホン酸構造単位を有することを特徴とするポリアリーレンエーテル。
【0013】
【化3】

【0014】
(式(I)中、BおよびYは、互いに独立に、酸素原子または硫黄原子であり、Zは直接結
合または、−(CH2)h−(hは1〜10の整数である)、−C(CH3)2−、−O−、−S−
からなる群より選ばれた少なくとも1種の基を示し、Ar2はスルホン酸基を有する芳香
族基を示す。Dは独立に直接結合または、−CO−、−SO2−、−SO−、−(CF2)l
−(lは1〜10の整数である)、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示
す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。R1〜R8は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、ニトリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。sは0〜4の整数を示す。)
[4]前記式(I)で表される構造単位とともに、下上記一般式(II)で表される構造を有する[3]のポリアリーレンエーテル。
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、一般式(II)において、A、Dは独立に直接結合または、−CO−、−SO2
、−SO−、−(CF2)l−(lは1〜10の整数である)、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハ
ロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
【0017】
Bは独立に酸素原子または硫黄原子であり、R1〜R16は、互いに同一でも異なってい
てもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、ニトリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。
【0018】
s、tは0〜4の整数を示す。rは0または1以上の整数を示す。)
[5]下記式(1)で表される芳香族化合物と、式(2-1)および(2-2)で表される化合物とを
反応させたのち、スルホン化することを特徴とするポリアリーレンエーテルの製造方法。
【0019】
【化5】

【0020】
(式(1)は前記したとおり。式(2-1)および(2-2)中、Halはハロゲン原子、Hは水素原子を示す。A、B、DおよびR1〜R16、s、tは前記したとおりである)
[6]前記[3]〜[4]のポリアリーレンエーテルを含有することを特徴とするプロトン伝導
膜。
【発明の効果】
【0021】
本発明の芳香族化合物(モノマー)はスルホニル化反応性に優れることから、プロトン伝導膜材料として好適な芳香族ポリマーを効率的に製造することができる。本発明のポリアリーレンエーテルは、スルホン酸基を局所的かつ高密度に存在することにより、親水・疎水の差をより明確となっているために、保水力が高まり低湿度条件下におけるプロトン伝導性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る芳香族化合物(モノマー)ポリアリーレンエーテルおよびこれらの製造方法について詳細に説明する。
<新規芳香族化合物>
本発明の芳香族化合物は、下記式(1)で表される(以下「モノマー(1)」ともいう)

【0023】
【化6】

【0024】
式(1)中、BおよびYは、互いに独立に酸素原子または硫黄原子である。これらのなか
でも、酸素原子が好ましい。
Zは直接結合または、−(CH2)h−(hは1〜10の整数である)、−C(CH3)2−、−
O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の基を示す。これらのなかでも、直接結合が好ましい。
【0025】
Ar1は芳香族基を示し、具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基な
どであり、これらの芳香族基は、水素原子が、メチル基などの炭化水素基で置換されていてもよい。Ar1としては、フェニル基が好ましい。
【0026】
このような芳香族化合物は、スルホニル化反応性が高く、また、スルホニル化が、8つの芳香族環に行うことができるので、プロトン伝導膜材料として好適な芳香族ポリマーを効率的に製造することができる。このため、スルホン化ポリアリーレンエーテルを形成する場合に、親水・疎水の差をより明確にできるので、低湿度条件下でのプロトン伝導性を高くすることができる。
【0027】
-Z-Ar1および-BHの置換位置は特に制限されないが、通常、Yに対する-Z-Ar1の置換位置は、o位が好ましく、-BHの置換位置は、p位が好ましい。
製造方法
上記新規芳香族化合物は、下記式(2)で表される化合物と下記式(3)で表される化合物とを反応させる工程(工程(i))、および、
得られた反応生成物と、下記式(4)で表される化合物とを反応させる工程(工程(ii))から製造することができる。
工程(i):式(2)と(3)で表される化合物との反応工程
【0028】
【化7】

【0029】
(式中、BおよびYは前記式(1)と同様である。Raは炭素数1〜10のアルキル基を示す
。)
-BRaの置換位置は特に制限されないが、通常、YHに対するp位が好ましい。
【0030】
式(2)および(3)の反応は、芳香族求核置換反応である。この工程(i)における反応は、スルホラン、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチ
ルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン等の反応溶媒中、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、あるいは、水素化アルカリ金属、水酸化アルカリ金属、アルカリ金属炭酸塩などのアルカリ金属化合物(以下、これらを総称して「アルカリ金属等」という。)の存在下で行われる。具体的には、炭酸カリウムが好適に使用される。
【0031】
前記アルカリ金属等は、上記化合物(2)のYH基に対し、過剰気味で反応させ、通常、1〜2倍当量、好ましくは1.2〜1.8倍当量で用いられる。この反応は、比較的に低温で進むので、余計な反応が進まないようにするため、温度は低めとすることが好ましい
。このため、反応条件として、具体的には、60〜120℃で、6〜12時間、反応させることが望ましい。
【0032】
化合物(2)のYH基は、任意の化合物(3)のフッ素原子と反応する。通常、p位にあるフッ素原子と反応する。
得られた生成物は、式(5)で表される。
工程(ii):式(5)の反応生成物と式(4)化合物との反応
この式(5)で表される反応生成物を、式(4)で表される化合物と反応させる。
【0033】
かかる反応によって、下記式(1’)の反応生成物が得られる。
【0034】
【化8】

【0035】
(式中、B、ZおよびAr1は前記式(1)と同様である。-Z-Ar1の置換位置は特に制限されな
いが、通常、YHに対するo位が好ましい。
この反応は、芳香族求核置換反応であり、通常、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(
DMI)やトルエンなどの溶媒の存在下に行われる。また、塩基としては、前記同様にK2CO3などのアルカリ金属等が使用される。前記アルカリ金属等は、YH基に対し、過剰気味で反応させ、通常、1〜2倍当量、好ましくは1.2〜1.8倍当量で用いられる。このとき、トルエン、キシレン、ベンゼンなどの水と共沸する溶媒を共存させて、反応によって生成する水を系外へ除去しながら反応を行うことが好ましい。この反応は、式(4)の
化合物による立体障害を受けるため、比較的高温で長時間かけて行うことが好ましく、具体的には、200〜240℃で、36〜48時間、反応させることが望ましい。
【0036】
得られた反応生成物(1')をジクロロメタンなどの反応溶媒中、三臭化ホウ素と反応させることで、末端RaB基がBH基となり、本発明の新規芳香族化合物が製造される。
芳香族化合物は、1H-NMR、13-C-NMRおよびIRスペクトルなどの公知の方法によって同
定される。
<ポリアリーレンエーテル>
本発明に係るポリアリーレンエーテルは、上記モノマー(1)から導かれる下記式(I
)で表される構造単位を有する共重合体であり、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。
【0037】
【化9】

【0038】
上記式(I)中、BおよびYは互いに独立に、酸素原子または硫黄原子である。
Zは直接結合または、−(CH2)h−(hは1〜10の整数である)、−C(CH3)2−、−
O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の基を示す。
【0039】
Ar2はスルホン酸基を有する芳香族基を示し、具体的にはスルホフェニル、スルホナ
フチル、スルホフェナンチル等が挙げられる。また、芳香族基はスルホン酸基を2個以上
有していてもよい。なお、スルホン酸基の結合位置は特に制限されない。
【0040】
Dは独立に直接結合または、−CO−、−SO2−、−SO−、−(CF2)l−(lは1
〜10の整数である)、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−CR’2−(
R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。ここで、−CR’2−で表される構造の具体的な例として、メチ
ル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、プロピル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基、フェニル基、トリフルオロメチル基、などが挙げられる。これらのうち、直接結合または、−CO−、−SO2−、−C
R’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示
す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−が好ましい。
【0041】
Bは独立に酸素原子または硫黄原子であり、酸素原子が好ましい。
1〜R8は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、ニトリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。
【0042】
sは0〜4の整数を示す。なお、D、R1〜R8およびsは後述する式(II)と同様である

また、本発明では、前記式(I)で表される構造単位とともに、上記一般式(II)で表
される構造を有することが好ましい。このように、(II)で表される構造単位を有することで、親水・疎水の差がより明確となり、スルホン酸が局所的かつ高密度に存在することになるため、保水力が高まり低湿度条件下におけるプロトン伝導性を高くすることができる。
【0043】
【化10】

【0044】
一般式(II)において、A、Dは独立に直接結合または、−CO−、−SO2−、−S
O−、−(CF2)l−(lは1〜10の整数である)、−(CH2)l−(lは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化
炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。ここで、−CR’2−で表される構造
の具体的な例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、プロピル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基、フェニル基、トリフルオロメチル基、などが挙げられる。これらのうち、直接結合または、−CO−、−SO2−、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−が好ましい。
【0045】
Bは独立に酸素原子または硫黄原子であり、酸素原子が好ましい。
1〜R16は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル
基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、ニトリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。
【0046】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。ハロゲン化アルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基などが挙げられる。アリル基としては、プロペニル基などが挙げられ、アリール基としては、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基などが挙げられる。
【0047】
s、tは0〜4の整数を示す。rは0または1以上の整数を示し、上限は通常100、好ましくは1〜80である。
上記式(II)で表される構造単位として具体的には、以下のものが挙げられる。
【0048】
【化11】

【0049】
(上記式中、A、Dは前記式(II)と同様である)
本発明に係るポリアリーレンエーテルは、上記一般式(I)で表される構造単位が10〜
30モル%、一般式(II)で表される構造単位が70〜90モル%の比率で含有することが好ましく、より好ましくは、(I)で表される構造単位が18〜28モル%、(II)で表され
る構造単位が72〜82モル%の割合で含有することが望ましい。
【0050】
この範囲で各構造単位(I)および(II)を含んでいると、プロトン伝導性が高く、機械的
強度や、耐湿性や耐熱性、耐薬品性などの化学的安定性にも優れたプロトン伝導膜を作製
できる。
【0051】
本発明のポリアリーレンエーテルの構造は、例えば、赤外線吸収スペクトルによって、1,119cm-1のスルホン酸の吸収などにより確認でき、また、核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)により、6.7〜7.2ppmのピークの減少、7.5ppm近傍での新たな信号の出現、および7.3〜7.6ppmおよび7.8〜8.1ppmの間の積分比からその構造を確認することができる。
製造方法
本発明にかかるポリアリーレンエーテルは、上記式(1)で表される芳香族化合物と、下
記式(2-1)および(2-2)で表される化合物とを反応させたのち、スルホン化することによって製造される。
【0052】
【化12】

【0053】
(式(2-1)および(2-2)中、Halはハロゲン原子、Hは水素原子を示す。A、B、DおよびR1〜R16、s、tは前記したとおりである)
化合物(2-1)として、具体的には、下記式(2-1-1)が挙げられ、化合物(2-2)として、具
体的には、下記式(2-2-1)が挙げられる。
【0054】
【化13】

【0055】
(上記式中、A、Dは前記式(II)と同様である。)
この反応は、スルホラン、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、シクロヘキサン等の反応溶媒中、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、あるいは、水素化アルカリ金属、水酸化アルカリ金属、アルカリ金属炭酸塩などのアルカリ金属化合物(以下、これらを総称して「アルカリ金属等」という。)の存在下で行われる。具体的には、炭酸カリウムが好適に使用される。
【0056】
前記アルカリ金属等は、BH基に対し、通常、1〜2倍当量、好ましくは1.2〜1.8倍当量で用いられる。
上記重合反応における反応温度は10〜250℃、好ましくは50〜200℃、より好ましくは80〜180℃であり、反応時間は0.5〜48時間、好ましくは1〜24時間、より好ましくは2〜18時間である。
【0057】
次に得られた生成物(スルホン酸基を有しないポリアリーレンエーテル系共重合体)に、スルホン化剤を用い、常法によりスルホン酸基導入する。
スルホン酸基を導入する方法としては、例えば、上記スルホン酸基を有しないポリアリーレンエーテル系共重合体を、無水硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸、硫酸、亜硫酸水素ナトリウムなどの公知のスルホン化剤を用いて、公知の条件でスルホン化することができる〔Polymer Preprints,Japan,Vol.42,No.3,p
.730(1993);Polymer Preprints,Japan,Vol.4
2,No.3,p.736(1994);Polymer Preprints,Jap
an,Vol.42,No.7,p.2490〜2492(1993)〕。
【0058】
すなわち、このスルホン化の反応条件としては、上記スルホン酸基を有しないポリアリーレンエーテル系共重合体を、無溶剤下、あるいは溶剤存在下で、上記スルホン化剤と反応させる。なお、塩化スルホニル基が残っている場合、トリエチルアミンおよび水を使用して加水分解してスルホン酸基にしてもよい。溶剤としては、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドのような非プロトン系極性溶剤のほか、テトラクロロエタン、ジクロロエタン、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。反応温度は特に制限はないが、通常、−50〜200℃、好ましくは−10〜100℃である。また、反応時間は、通常、0.5〜1,000時間、好ましくは1〜200時間である。
【0059】
以上のようなスルホン化剤を使用する代りに、スルホン化金属塩を導入した後、イオン交換してもよく、さらにスルホエステル基やスルホニルクロリド基を導入したのち、脱エステル化(加水分解)してもよい。加水分解は、たとえば得られたポリマーを溶媒に溶解し、トリエチルアミンや水酸化ナトリウム水溶液などの塩基で処理することにより行うことができる。
【0060】
スルホン酸基を導入する反応は求電子反応であるため、高電子密度の芳香族環に選択的にスルホン酸基が導入される。このため、スルホン化を行うと、式(1)の芳香族化合物に由来する芳香族環にするスルホン酸基が導入される。
【0061】
上記のようにして得られる本発明のポリアリーレンエーテルの分子量は、ゲルパーミエションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算数平均分子量(Mn)で、10000〜300000、好ましくは20000〜200000である。この分子量範囲にあれば、成形フィルムにクラックが発生することもなく、被膜化が可能であり、溶解性も高く、また強度も高く、さらに加工性にも優れている。本発明のポリアリーレンエーテルは、分子中に多くのスルホン酸基を有し、しかも、疎水・親水部分が明確に分かれていることから、プロトン伝導膜材料として好適である。
【0062】
かかるポリマーは、THF(テトラヒドロフラン)や非プロトン性極性溶媒に溶解する。
<用途>
本発明に係るプロトン伝導膜は、スルホン酸基を有するポリアリーレンエーテルを含有する。また、プロトン伝導性を損なわない範囲で、フェノール性水酸基含有化合物、アミン系化合物、有機リン化合物、有機イオウ化合物などの酸化防止剤などを含んでもよい。
【0063】
本発明のプロトン伝導膜は、上記スルホン酸基含有ポリアリーレンエーテルを溶剤中で溶解または膨潤させ、それを基体上に流延してフィルム状に成形するキャスティング法などにより成膜することができる。
【0064】
上記基体としては、通常の溶液キャスティング法に用いられる基体であれば特に限定されず、たとえばプラスチック製、金属製などの基体が用いられ、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの熱可塑性樹脂からなる基体が用いられる。
【0065】
上記スルホン酸基含有ポリアリーレンエーテルを溶解または膨潤させる溶剤としては、たとえば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラ
クトン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチル尿素、ジメチ
ルイミダゾリジノン、アセトニトリル等の非プロトン系極性溶剤;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、iso−プロピルアルコール、sec−ブチアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、γーブチルラクトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン等のエーテル類などが挙げられる。これらの溶剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、溶解性および溶液粘度の観点から、N−メチル−2−ピロリドン(以下「NMP」ともいう)が好ましい。
【0066】
また、上記溶剤として、非プロトン系極性溶剤と他の溶剤との混合物を用いる場合、該混合物の組成は、非プロトン系極性溶剤が95〜25重量%、好ましくは90〜25重量%、他の溶剤が5〜75重量%、好ましくは10〜75重量%(ただし、合計を100重量%とする)である。他の溶剤の量が上記範囲内にあると、溶液粘度を下げる効果に優れる。このような非プロトン系極性溶剤と他の溶剤との組み合わせとしては、非プロトン系極性溶剤としてNMP、他の溶剤として幅広い組成範囲で溶液粘度を下げる効果があるメタノールが好ましい。
【0067】
スルホン酸基含有ポリアリーレンエーテルを溶解させた溶液のポリマー濃度は、該ポリマーの分子量にもよるが、通常、5〜40重量%、好ましくは7〜25重量%である。ポリマー濃度が上記範囲よりも低いと、厚膜化し難く、また、ピンホールが生成しやすい傾向にあり、上記範囲を超えると、溶液粘度が高すぎてフィルム化し難く、また、表面平滑性に欠けることがある。
【0068】
なお、溶液粘度は、ポリマーの分子量、ポリマー濃度、添加剤の濃度などによっても異なるが、通常、2,000〜100,000mPa・s、好ましくは3,000〜50,000mPa・sである。溶液粘度が上記範囲よりも低いと、成膜中の溶液の滞留性が悪く、基体から流れてしまうことがあり、上記範囲を超えると、粘度が高過ぎて、ダイからの押し出しができず、流延法によるフィルム化が困難となることがある。
【0069】
上記のようにして成膜した後、得られた未乾燥フィルムを水に浸漬すると、未乾燥フィルム中の有機溶媒を水と置換することができ、膜中の残留溶媒量を低減することができる。なお、成膜後、未乾燥フィルムを水に浸漬する前に、未乾燥フィルムを予備乾燥してもよい。予備乾燥は、未乾燥フィルムを通常50〜150℃の温度で、0.1〜10時間保持することにより行われる。
【0070】
未乾燥フィルム(予備乾燥後のフィルムも含む。以下同じ。)を水に浸漬する際は、枚葉を水に浸漬するバッチ方式でもよく、基板フィルム(たとえば、PET)上に成膜された状態の積層フィルムのまま、または基板から分離した膜を、水に浸漬させて巻き取っていく連続方式でもよい。また、バッチ方式の場合は、処理後のフィルム表面に皺が形成されることを抑制するために、未乾燥フィルムを枠にはめるなどの方法で、水に浸漬させることが好ましい。
【0071】
未乾燥フィルムを水に浸漬する際の水の使用量は、未乾燥フィルム1重量部に対して、10重量部以上、好ましくは30重量部以上、より好ましくは50重量部以上である。水の使用量が上記範囲であれば、得られるプロトン伝導膜の残存溶媒量を少なくすることができる。また、浸漬に使用する水を交換したり、オーバーフローさせたりして、常に水中の有機溶媒濃度を一定濃度以下に維持しておくことも、得られるプロトン伝導膜の残存溶媒量を低減することに有効である。さらに、プロトン伝導膜中に残存する有機溶媒量の面
内分布を小さく抑えるためには、水中の有機溶媒濃度を撹拌等によって均質化させることが効果的である。
【0072】
未乾燥フィルムを水に浸漬する際の水の温度は、置換速度および取り扱いやすさの点から、通常5〜80℃、好ましくは10〜60℃の範囲である。高温ほど、有機溶媒と水との置換速度は速くなるが、フィルムの吸水量も多くなるので、乾燥後に得られるプロトン伝導膜の表面状態が悪化することがある。また、フィルムの浸漬時間は、初期の残存溶媒量、水の使用量および処理温度にもよるが、通常10分〜240時間、好ましくは30分〜100時間の範囲である。
【0073】
上記のように未乾燥フィルムを水に浸漬した後乾燥すると、残存溶媒量が低減された膜が得られるが、このようにして得られる膜の残存溶媒量は、通常5重量%以下である。また、浸漬条件によっては、得られる膜の残存溶媒量を1重量%以下とすることができる。このような条件としては、たとえば、未乾燥フィルム1重量部に対する水の使用量が50重量部以上であり、浸漬する際の水の温度が10〜60℃、浸漬時間が10分〜10時間である。
【0074】
上記のように未乾燥フィルムを水に浸漬した後、フィルムを30〜100℃、好ましくは50〜80℃で、10〜180分、好ましくは15〜60分乾燥し、次いで、50〜150℃で、好ましくは500mmHg〜0.1mmHgの減圧下、0.5〜24時間真空乾燥することにより、プロトン伝導膜を得ることができる。
【0075】
本発明のプロトン伝導膜は、その乾燥膜厚が、通常10〜100μm、好ましくは20〜80μmである。本発明のプロトン伝導膜は、老化防止剤、好ましくは分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物を含有してもよく、老化防止剤を含有することでプロトン伝導膜としての耐久性をより向上させることができる。
【0076】
本発明で使用することのできる分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物としては、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 245)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商
品名:IRGANOX 259)、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−3,5−トリアジン(商品名:IRGANOX 565)、ペンタエ
リスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プ
ロピオネート](商品名:IRGANOX 1010)、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 1035)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネー
ト(商品名:IRGANOX 1076)、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)(IRGAONOX 1098)、1,3,5−トリメチル−2,4,
6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(商品名:IRGANOX 1330)、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシ
アヌレイト(商品名:IRGANOX 3114)、3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−
ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−
2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(商品名:Sumilizer GA-80)
などを挙げることができる。
【0077】
本発明において、スルホン酸基含有ポリアリーレンエーテル100重量部に対して分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物は0.01〜10重量部の量で使用することが好ましい。
【0078】
本発明のプロトン伝導膜は、たとえば、一次電池用電解質、二次電池用電解質、燃料電池用高分子固体電解質、表示素子、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサー、イオン交換膜などのプロトン伝導膜として好適に用いることができる。
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、各種物性は以下のようにして測定した。
<イオン交換容量>
プロトン伝導膜を十分に水洗して乾燥した後、所定量を秤量して水に投入した。次に、NaOHの標準液にて滴定し、中和点からイオン交換容量を求めた。
<プロトン伝導度>
1cm幅の短冊状のプロトン伝導膜を恒温恒湿装置中に試料を保持し、5Hzから100kHzの周波数で、白金線間の電気化学的インピーダンス測定(Hioki3532-80)から求めた。すなわち、2つの白金平板電極を有するtwo-point-probe伝導率セルを組立て、かかる、セ
ルを恒温恒湿装置に配置しインピーダンスを測定した。電極間距離(d)、膜厚(Ls)、膜
幅(Ws)および、測定された抵抗値から、下記式によって、プロトン伝導度(σ)を算
出した。
プロトン伝導度(σ)=d/(Ls・Ws・R)
湿度依存性の評価
プロトン伝導度の湿度依存性を評価するために、相対湿度を50%、70%、95%として、評価した。
<吸水率>
3cm四方の正方形のプロトン伝導膜を室温で24時間水中に浸漬したのち、膜を取り出し、すぐに水分を拭き取った後、重さを秤量して、重量変化から算出した。
【0079】
吸水率=(Ws−Wd)/Wd×100 (wt%)
(Wsは浸漬後の重量、Wdは浸漬前の乾燥重量)
湿度依存性の評価
吸水率の湿度依存性を評価するために、相対湿度を50%、70%、95%として、評価した。
【0080】
寸法変化
同様に、プロトン伝導膜を室温で24時間水中に浸漬したのち、取り出し、水浸漬に伴う寸法変化(厚さと直径)を以下のようにして評価した。
【0081】
Δt(厚さ)=(t-ts)/ts (tは浸漬後、tsは浸漬前の乾燥状態)
Δl(直径)=(l-ls)/ls (lは浸漬後、lsは浸漬前の乾燥状態)
<酸化安定性>
3cm四方の正方形に加工した、プロトン伝導膜サンプルを、フェントン試薬(2ppmのFeSO4を含む3%過酸化水素水溶液)に80℃で1時間浸漬し、サンプルの重量および見かけの変化を評価した。
<分子量>
スルホン酸基含有ポリアリーレンエーテルの数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、1.0mL/minの流速で、溶剤として臭化リチウム(0.01mol/L)を含むジメチルホルムアミド(DMF)を溶離液として使用し、2本のポリスチレンゲルカラムを供えたJASCO PU-2080Plusを用いたGPCによってポリスチレン換算の分子量を求めた。
<熱分析>
Seiko EXSTAR 6000 TG/DTA 6300 サーマルアナライザーを用いて、10℃/minで示差熱-熱重量(TGおよびDTA)を測定し、Seiko EXSTAR 6000 DSC 6200 サーマルアナライザー
を用いて、10℃/minで窒素下、示差走査熱量(DSC)を測定した。
〔実施例1〕
4-メトキシフェノールとヘキサフルオロベンゼンとから合成した1,2,4,5-テトラフルオロ-3,6-ビス(4-メトキシフェノキシ)ベンゼン(以後化合物(1)という)およびカルシウムハイドライドで蒸留したジクロロメタンとN-メチル-2-ピロリドンを用意した。
1,2,4,5-テトラキス([1,1'-ビフェニル]-2-イロキシ)-3,6-ビス(4-メトキシフェノキシ)
ベンゼン(以後化合物(2)という)の合成
【0082】
【化14】

【0083】
Dean-stark管および還流冷却器を備えた50mLの丸底フラスコに、化合物1 0.79g
(2mmol)、2−フェニルフェノール2.04g(12mmol)、炭酸カリウム1.66g(12mmol)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン 8mLおよびトルエン5mLをはかりとった。窒素置換後、反応混合物を150℃で2時間加熱した。その後、トルエンを留去し、反応混合物を220℃で48時間加熱した。反応終了後、室温(28℃)に冷却し、反応混合
物を10%NaOH水溶液中に注いだ。沈殿物を濾過し、ジメチルホルムアミドに溶解させ、得られた溶液を、再度10%NaOH水溶液中に注いだ。生成した固形物を取り出し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:ヘキサン=1:1)によって、白色固体が得られるまで精製した。
【0084】
収率は、1.73 g (87 %)であった。
IR (KBr, n, cm-1); 1250 (-O-), 2939 (-CH3).
1H NMR (CDCl3, d, ppm): 3.67 (s, 6 H), 6.38-6.49 (m, 8 H), 6.57 (d,
J = 8.0 Hz, 4 H), 6.87-6.97 (m, 12 H), 6.99-7.17 (m, 20 H).
13C NMR (CDCl3, d, ppm): 55.77, 114.13, 114.47, 117.18, 122.68, 126.65, 127.70, 128.06, 129.55, 130.70, 130.98, 137.62, 139.29, 140.18, 151.65, 154.01, 155.00.
組成式:(C68H50O8)であり、計算上C, 82.07 %、H, 5.06 %であり、元素分析では、C, 81.73 %、H, 5.25 %であった。
1,2,4,5-テトラキス([1,1'-ビフェニル]-2-イロキシ)-3,6-ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン(以後化合物(3)という)の合成
【0085】
【化15】

【0086】
化合物2 (1.20 g、1.2 mmol) の乾燥ジクロロメタン(21 mL)溶液に、BBr3 ジクロロメタン溶液(2.9 mL, 2.9 mmol) を-78 oCで添加した。反応混合物は、-78 oCで1時間攪拌し、ついで、室温に加温した。反応は12時間続け混合物は、 CH2Cl2で希釈したのち、
水中で洗浄、MgSO4上で乾燥したのち、真空中で濃縮した。得られた固体を、シリカゲル
カラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)によって、白色固体が得られるまで精製した。
【0087】
収率は、1.07 g (92 %)であった。
IR (KBr, n, ); 1250 (-O-), 3417 (-OH).
1H NMR (CDCl3, d, ppm): 4.44 (s, 2 H), 6.32-6.42 (m, 8 H), 6.56 (d, J = 8.0 Hz, 4 H), 6.86-6.97 (m, 12 H), 6.98-7.19 (m, 20 H).
13C NMR (CDCl3, d, ppm): 114.48, 115.56, 117.38, 122.72, 126.66, 127.72, 128.06, 129.54, 130.70, 130.98, 137.60, 139.28, 140.15, 150.77, 151.71, 153.99.
組成式はC66H46O8であり、計算上C, 81.97 %; H, 4.79 %であり、元素分析では、C, 82.15 %; H, 5.06 %であった。
ポリエーテルエーテルスルホンの合成
【0088】
【化16】

【0089】
Dean-stark管および還流冷却器を備えた30mLの丸底フラスコに、4,4'-ジクロロジフェニルスルホンを0.43 g(1.5 mmol)、上記化合物3を0.29g(0.3 mmol)、2,2-ビス(4-ヒ
ドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン0.40g(1.2 mmol)およびK2CO3 を0.62 g(4.5 mmol) 供給し、窒素置換後N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)3 mLおよびシクロヘキ
サン(3 mL)を添加した。反応混合物を100℃で2時間加熱した。シクロヘキサンを除去し
たのち、反応温度を165℃ に上げ、さらに16時間反応を継続した。室温に冷却後、混合物をメタノールに注いだ。得られた繊維状ポリマーは、濾過したのち水および熱メタノール
で洗浄した。得られたポリマーは、100℃で8時間真空乾燥して、ポリエーテルエーテルスルホンを調製した。収率は、0.96 g (95 %)であった。
【0090】
IRスペクトルデータは以下のとおりであり、1H−NMRスペクトルを図1に示す。
IRスペクトルおよび1H−NMRスペクトルから、得られたポリマーは、上記式で表さ
れる構造単位を有するものであることを確認した。
IR (KBr, n, cm-1); 1250 (-O-), 1327 (-SO2-).
ポリマーのスルホン化
【0091】
【化17】

【0092】
滴下注入器を備えた丸底フラスコに、前記のポリマー0.3gを入れ、乾燥ジクロロメタン9 mLを添加して、混合物を0℃に冷却した。ついで、混合物に、クロルスルホン酸(0.19 mL, 2.8 mmol)の乾燥ジクロロメタン(2mL)溶液を0℃で滴下しながら加え、室温で5時間攪
拌した。反応終了後、混合物はヘキサンに注入した。得られたポリマーは、DMAcに溶解し、数滴の水およびトリメチルアミンを溶液に添加した。かかる溶液は室温で2時間攪拌し
たのち、2 M H2SO4 水溶液に注入した。得られたポリマーは、2 M H2SO4 水溶液および水で洗浄した。その後、ポリマーは、100℃で10時間真空乾燥した。得られたポリマーのI
Rスペクトルデータは以下のとおりであり、1H−NMRスペクトルを図2に示す。IR
スペクトルおよび1H−NMRスペクトルから、得られたポリマーは、上記式で表される
構造単位を有するものであることを確認した。IRスペクトルからは1119 cm-1にスルホン
酸由来の吸収が観測され、スルホン化の進行が確認された。
IR (KBr, n, cm-1); 1250 (-O-), 1327 (-SO2-), 1119 (-SO3H).
プロトン伝導膜の作製
得られたスルホン化ポリマーをNMPに溶解したのち、得られた溶液を濾過し、該溶液を
ガラス平板上に塗布し、60℃で3時間、80℃で3時間、100℃で3時間、120℃で1時間加熱した。その後、得られたフィルムを100℃で12時間真空乾燥した。
【0093】
乾燥フィルムは、2Mの硫酸水溶液中に60℃3時間浸漬し、その後80℃で水洗して、強固な可塑性のプロトン伝導膜を作製した。
こうして作製されたプロトン伝導膜について、プロトン伝導度、吸水率、酸化安定性、熱分析評価を行った。結果を表1、図3および4に示す。
〔実施例2〕
実施例1において、4,4'-ジクロロジフェニルスルホンの代りに、4,4'-ジフルオロジフェニルケトン0.33g(1.5mmol)使用した以外は、実施例1と同様にして、スルホン化ポリマーを作製した。
【0094】
得られたポリマーについて、実施例1と同様にプロトン伝導膜を形成し評価した。結果を表1、図3および4に示す。
〔実施例3〕
実施例1において、上記化合物3を0.25g(0.26mmol)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを0.42g(1.24mmol)とした以外は、実施例1と同様にして、ス
ルホン化ポリマーを作製した。
【0095】
得られたポリマーについて、実施例1と同様にプロトン伝導膜を形成し評価した。結果を表1、図3および4に示す。
〔実施例4〕
実施例2において、上記化合物3を0.36g(0.38mmol)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを0.38g(1.12mmol)とした以外は、実施例2と同様にして、ス
ルホン化ポリマーを作製した。
【0096】
得られたポリマーについて、実施例2と同様にプロトン伝導膜を形成し評価した。結果を表1、図3および4に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
表1に示すように、イオン交換容量は、計算より求めたもののと、実測値(滴定)によるものとが良い一致を示したことから選択的なスルホン化が進行し、目的とする構造になっていることが示唆された。
【0099】
吸水率は同程度のIECで比較した場合、実施例2および4の方が小さくなった。これは、ポリエーテルケトンの方がポリエーテルスルホンよりも疎水性が高いことに起因すると考えられる。実施例のどちらの場合においてもIECが高くなると吸水率が高くなる傾向が見
られた。同様に寸法変化に関しても同程度のIECで比較した場合、実施例1および3の方
が高い値を示し、IECの高いものが大きな寸法変化を示した。
【0100】
図3の80 oCにおける吸水率の相対湿度依存性から、すべての実施例において相対湿度
が低下するに従って吸水率の減少が見られた。また、表1の結果と同様に実施例1および3のポリエーテルスルホンを有するものの方が高い吸水率を示した。
【0101】
図4には、参考のために、Nafion117でも同様の評価を行ったものも示す。その結果、
いずれも実施例も従来より使用されていたNafion117と同程度ないしそれ以上のプロトン
伝導度を有しており、特に実施例1および4は、50%から95%の広い相対湿度範囲で、Nafion117と同等の優れたプロトン伝導性が発揮された。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】実施例1で得られたポリマー(スルホン化前)の1H−NMRスペクトルである。
【図2】実施例1で得られたポリマー(スルホン化前)の1H−NMRスペクトルである。
【図3】実施例におけるプロトン伝導膜の吸水率の湿度による変化を示す図である。
【図4】実施例におけるプロトン伝導膜のプロトン伝導率の湿度による変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されることを特徴とする芳香族化合物。
【化1】

(式(1)中、BおよびYは、互いに独立に、酸素原子または硫黄原子であり、Zは直接結
合または、−(CH2)h−(hは1〜10の整数である)、−C(CH3)2−、−O−、−S−
からなる群より選ばれた少なくとも1種の基を示し、Ar1は芳香族基を示す。)
【請求項2】
下記式(2)で表される化合物と下記式(3)で表される化合物とを反応させる工程、および、得られた反応生成物と、下記式(4)で表される化合物とを反応させる工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の芳香族化合物の製造方法。
【化2】

(式中、B、Y、ZおよびAr1は前記式(1)と同様である。Raは炭素数1〜10のアルキル
基を示す。)
【請求項3】
下記一般式(I)で表されるスルホン酸構造単位を有することを特徴とするポリアリー
レンエーテル。
【化3】

(式(I)中、BおよびYは、互いに独立に、酸素原子または硫黄原子であり、Zは直接結
合または、−(CH2)h−(hは1〜10の整数である)、−C(CH3)2−、−O−、−S−
からなる群より選ばれた少なくとも1種の基を示し、Ar2はスルホン酸基を有する芳香
族基を示す。Dは独立に直接結合または、−CO−、−SO2−、−SO−、−(CF2)l
−(lは1〜10の整数である)、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示
す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。R1〜R8は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、ニトリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。sは0〜4の整数を示す。)
【請求項4】
前記式(I)で表される構造単位とともに、下記一般式(II)で表される構造を有する
ことを特徴とする請求項3に記載のポリアリーレンエーテル。
【化4】

(式中、一般式(II)において、A、Dは独立に直接結合または、−CO−、−SO2
、−SO−、−(CF2)l−(lは1〜10の整数である)、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハ
ロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
Bは独立に酸素原子または硫黄原子であり、R1〜R16は、互いに同一でも異なってい
てもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、ニトリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。
s、tは0〜4の整数を示す。rは0または1以上の整数を示す。)
【請求項5】
下記式(1)で表される芳香族化合物と、式(2-1)および(2-2)で表される化合物とを反
応させたのち、スルホン化することを特徴とするポリアリーレンエーテルの製造方法。
【化5】

(式(1)は前記したとおり。式(2-1)および(2-2)中、Halはハロゲン原子、Hは水素原子を示す。A、B、DおよびR1〜R16、s、tは前記したとおりである)
【請求項6】
請求項3〜4のいずれかに記載のポリアリーレンエーテルを含有することを特徴とするプロトン伝導膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−59129(P2010−59129A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228602(P2008−228602)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】