説明

新規配糖体

【課題】抗腫瘍剤、強心剤および抗癌剤感受性増強剤として有用な新規物質および該物質の植物からの製造方法を提供する。
【解決手段】キョウチクトウの有機溶媒(特に、アルコール類)抽出液より得られた一般式(1)で表される新規なステロイド型強心配糖体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規ステロイド配糖体、その製造方法、並びに該配糖体を有効成分とする抗腫瘍剤、強心剤または抗癌剤感受性増強剤に関する。
配糖体のうち、特にステロイド配糖体は、心筋に作用して心筋の収縮力を増大させる強心作用を有しており、うっ血性心不全の治療薬として広く使用されている。また、細胞増殖阻害作用も有することから、抗腫瘍剤としての用途も期待されている。
【背景技術】
【0002】
ステロイド配糖体のうち、特に心筋に作用して心筋の収縮力を増大させる強心配糖体は、ゴマノハグサ科、キョウチクトウ科、ガガイモ科、ユリ科、キンポウゲ科、トウダイグサ科、クワ科、ニシキギ科、ナタネ科、アヤメ科、ミツバナ科など広く植物界に存在している。ゴマノハグサ科ジギタリス葉から得られるジギトキシンは、最も広範に使用されている強心配糖体である。
【0003】
キョウチクトウはキョウチクトウ科に属する常緑低木で、キョウチクトウ(Nerium indicum Mill.)とセイヨウキョウチクトウ(Nerium oleander Linne.)に大別される。そのうち、キョウチクトウ(Nerium indicum Mill.)は多くの種類のステロイド配糖体を含み、もっとも多く含まれているのは、オレアンドリンである。また、G−ストロファンチンはキョウチクトウ科のストロファンタスに含まれるステロイド配糖体であり、水溶性に富むことから静注用の強心剤として用いられる。
【0004】
また、ステロイド配糖体は多種多様な細胞系で細胞増殖を阻害することが示されている。ステロイド配糖体を抗腫瘍剤として使用する試みは、従来からなされてきた(例えば、非特許文献1、2参照)。最近になって、例えば特許文献1に示すように、細胞毒性が現れる濃度以下で使用することにより、顕著な抗腫瘍性を示すことに基づく治療法が示された。
【0005】
キョウチクトウの成分研究は、これまでにも数多くなされてきたが(例えば、非特許文献3〜5参照)、今回、発明者らが見出したステロイド配糖体、およびその生理作用については全く報告されていない。
【0006】
【特許文献1】特表2002−536415号公報
【非特許文献1】Johansson S.,et al.,Acticancer Drugs.,12,475-483(2001)
【非特許文献2】Lopez-Lazaro M.,et al., J.Nat.Prod.,68,1642(2005)
【非特許文献3】Yamauchi.T.,et al.,Phytochemistry,22,2211-2214(1983)
【非特許文献4】Abe.F.,et al.,Phytochemistry,31,2459-2463(1992)
【非特許文献5】Begum.S.,et al.,Phytochemistry,50,435-438(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、キョウチクトウに由来する新規ステロイド配糖体、その製造方法、それを有効成分とする抗腫瘍剤、強心剤または抗癌剤感受性増強剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、抗腫瘍活性を有する新規物質を見出すべく、植物由来の物質について鋭意検討を図った。その結果、キョウチクトウの枝または葉から得られる有機溶媒抽出物中に、極めて高い抗腫瘍活性を有する成分が認められ、それが一般式(1)で示される、ステロイド骨格を有する新規な配糖体であることを突き止めた。また、該新規配糖体が多剤耐性を獲得した癌細胞に対する抗癌剤感受性増強剤としての活性を有することも突き止めた。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(8)に示す新規配糖体、並びにその製造方法および用途に関する。
一般式(1)で表されるステロイド配糖体。
【化1】

(式中、Rは水酸基、RおよびRは水素原子を表し、Rは水素原子またはβ配位に結合したアセトキシ基を表す。また、RとRはエポキシ基を形成してもよく、RとRはα配位のエポキシ基を形成してもよい。さらに、RとRの水素原子は、脱離してC16−C17炭素が二重結合を形成してもよい。)
(2)式(A)の3β-O-D-sarmentosyl-14β-hydroxy-5β-card-20(22)-enolide、式(B)の3β-O-D-sarmentosyl-8β,14β-epoxy-5β-card-16,20(22)-dienolide、式(C)の3β-O-D-diginosyl-8β,14β,16α,17α-diepoxy-5β-card-20(22)-enolide、式(D)の3β-O-D-diginosyl-16β-acetoxy-5α-card-20(22)-enolideで表される、(1)記載の配糖体。
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

(3)キョウチクトウを抽出原料として用いる、(1)または(2)に記載の配糖体の製造方法。
(4)キョウチクトウがNerium indicum Mill.である、(3)記載の配糖体の製造方法。
(5)抽出用の溶剤としてアルコール類を用いる、(3)記載の配糖体の製造方法。
(6)抽出液中の含水率が1から20重量%となる範囲で抽出する、(3)記載の配糖体の製造方法。
(7)(1)または(2)に記載の配糖体を有効成分とする抗腫瘍剤。
(8)(1)または(2)に記載の配糖体を有効成分とする強心剤。
(9)(1)または(2)に記載の配糖体を有効成分とする抗癌剤感受性増強剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、一般式(1)で表される新規ステロイド配糖体、並びにその製造方法および製造物を提供することが可能となる。より具体的には、原料のキョウチクトウからアルコール等の有機溶媒を含む溶剤で抽出した溶液を、カラムクロマト、高速液体クロマト等のクロマト分離法を用いた分画手段で精製することにより、抗腫瘍活性または抗癌剤感受性増強活性を有するステロイド骨格を持った新規強心配糖体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、キョウチクトウより見出した新規なステロイド配糖体、該物質を製造するための分離精製法、およびその方法によって得られる製造物に関するものであって、キョウチクトウの枝または葉を乾燥し、有機溶媒で抽出した画分をカラムクロマト、高速液体クロマト等のクロマトによる分画精製手段を用いることによって、高い抗腫瘍活性または抗癌剤感受性増強活性を有する配糖体を得ることを特徴とする。
【0011】
本発明で用いる原料としては、キョウチクトウが好ましく、特にindicum種のキョウチクトウ(Nerium indicum Mill.)を用いることが好ましい。採取時期および部位としては、特に初夏に出芽成長した新梢部の枝葉を刈り取り、通風のよい場所で陰干しするなどして乾かした後、枝と葉に分け、必要に応じ細断し使用する。枝葉のうち特に枝の方が本発明の新規配糖体の含有量が高く抽出原料として優れる。
【0012】
用いる抽出溶媒としては、メタノール、エタノールその他の低級アルコールを単独または緩衝液や水と組み合わせて用いることができる。中でもメタノールが操作的に取り扱い易く、しかも高い回収率を与える点で好ましい。抽出溶媒量としては、原料キョウチクトウの乾物重量に対して、2.0〜15.0倍重量、好ましくは3.0〜10倍重量を使用して抽出する方法が適当である。抽出溶媒中の水分含量は、目的物質である一般式(1)で表される配糖体の抽出率若しくは抽出純度の点で、1〜20重量%、より好ましくは2〜10重量%に管理されることが望ましい。その意味においては、抽出原料は完全に乾燥させたものであっても、いわゆる生乾きの状態のものであってもよい。抽出温度は20〜25℃、好ましくは22〜24℃が望ましい。20℃よりも低いと抽出率の低下をもたらし、25℃より高いと分解と思われる副反応の発生によって、かえって抽出率の低下と不純物の増加による純度低下を招く。抽出方法としては、バッチによる単回若しくは複数回抽出、または向流による連続抽出等を用いることができるが、目的物質である一般式(1)で表される配糖体が効果的に抽出できる方法を適宜選択して使用すればよい。
【0013】
次いで、得られた抽出液を30〜40℃の温度で減圧または常圧下で濃縮し溶媒を留去する。この濃縮物をヘキサン等の非極性溶媒で洗浄し油脂等の不純物を除去した後、酢酸エチル等の極性有機溶媒で順次抽出を行なう。さらに、得られた抽出液を必要に応じて濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに掛け精製分画する。
【0014】
最初(第1回目)のシリカゲルカラムクロマトグラフィーの溶出溶媒としては特に制限はなく、非極性溶媒、非極性溶媒と極性溶媒との組み合わせ、または極性溶媒のみを単独で使用することができる。本発明においては、特にn−へキサン/酢酸エチル、酢酸エチル/メタノールなどの混合溶媒を順次使用し展開する。これによってより良好な分離効率を得ることができる。溶出フラクション数、各フラクションの液量については特に制限はないが、抗腫瘍活性または抗癌剤感受性増強活性の高い画分が1フラクションにまとまるような条件、例えば、全体を5フラクション程度に分ける条件が効率的に優れ好ましい。
【0015】
より高純度の比活性の高い抗腫瘍活性画分または抗癌剤感受性増強活性画分を単離する場合、得られた画分を再度カラムクロマトに掛け精製する操作を加えればよい。この場合もフラクションの分画数、および液量については特に制限はなく、目的とする抗腫瘍活性または抗癌剤感受性増強活性を有するステロイド配糖体が高純度かつ収率よく分画できる条件を適宜選択すればよい。
【0016】
次に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分画した画分を高速液体クロマトグラフィーに掛け、活性成分を単一成分とする画分を得る。使用する担体は順相または逆相、あるいは両方を組み合わせることが望ましい。充填カラムの種類、カラム長、展開溶媒の組成、展開溶媒の流速、圧力、温度等の条件については、目的に適ったものであればよく適宜選択して決めればよい。
【0017】
本発明の方法によって、キョウチクトウより精製分離される抗腫瘍活性または抗癌剤感受性増強活性を有する新規配糖体は、種々の物理化学的測定結果(融点、旋光度測定、分子量測定、質量分析、赤外線共鳴吸収スペクトル、核磁気共鳴吸収スペクトルその他の化学構造分析方法等に基づく)により、一般的式(1)で表される構造の新規なステロイド配糖体であることが判明した。
【化6】

(式中、Rは水酸基、RおよびRは水素原子を表し、Rは水素原子またはβ配位に結合したアセトキシ基を表す。また、RとRはエポキシ基を形成してもよく、RとRはα配位のエポキシ基を形成してもよい。さらに、RとRの水素原子は、脱離してC16−C17炭素が二重結合を形成してもよい。)
【0018】
キョウチクトウより見出した本発明にかかる新規なステロイド配糖体は、強心活性の他に強い抗腫瘍活性または抗癌剤感受性増強活性を持つことを特徴とするものである。すなわち、上記の方法で得られた一般式(1)で表される配糖体は、腫瘍細胞、特に抗癌剤に対する耐性を獲得した腫瘍細胞の増殖に対しても顕著な阻害活性を有するものであり、そのまま、または公知の抗腫瘍剤や抗炎症剤等と組み合わせて使用することができる。また、公知の賦形剤と共に錠剤、カプセル剤、注射剤、坐剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、ローション剤、エアゾール剤、口腔剤、硬膏剤、シップ剤、または点眼剤等の剤型をとることも可能である。
【実施例】
【0019】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの例によって制限されるものではない。
実施例1
キョウチクトウ(Nerium indicum Mill.)の枝葉を採取し、通風乾燥した後、葉を除いた枝19.5kgにメタノール85Lを加え、22〜24℃の温度範囲で20日間浸漬抽出した。なお、その際の浸漬抽出液中の含水率は約5重量%であった。得られた抽出液を4Lまで40℃で減圧濃縮した後、この濃縮液を各回1Lのn−ヘキサンで計8回洗浄しn−ヘキサン可溶性成分の除去を行った。ついで、洗浄後の濃縮液を各回3Lの酢酸エチルで計3回抽出し、0.3Lの水で2回、さらに0.4Lの水で1回洗浄した。洗浄後の酢酸エチル抽出液を減圧濃縮し、酢酸エチル可溶性画分96.5gを得た。
次いで、この酢酸エチル可溶性画分をシリカゲルクロマトグラフィーで精製した。まず、この酢酸エチル可溶性画分を第1段目のシリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラムサイズ:80×400mm,充填剤:Silica ge1 60,63〜100μm,Merck社製)に供し、展開溶媒としてn−へキサン3.0L、1:1のn−へキサン/酢酸エチル3.0L、酢酸エチル5.0L、1:1の酢酸エチル/メタノール5.0L、メタノール5.0Lと漸次極性を増加させたものを用い、1:1のn−ヘキサン/酢酸エチルによる溶出部分(FB画分)5.0Lを分離した。
このFB画分を第2段目のシリカゲルクロマトグラフィー(カラムサイズ:50×250mm、充填剤:Silica ge1 60,63〜100μm,Merck)に供し、展開溶媒として酢酸エチルを用い、FB−3画分を回収した。
さらに第2段目のシリカゲルクロマトグラフィーと同じ条件で再度クロマトを繰り返し、FB-3-1溶出部分を回収した。
次いで、回収した試料を、溶出溶媒として4:6のn−ヘキサン/酢酸エチル1.4Lを使用し、カラム固定相をシリカカラム(カラムサイズ:10×250mm,充填剤:Inertsil prep sil, GL Science社製)とし、溶出溶媒の流速を5ml/min、紫外スペクトル測定器の波長を254nmに設定した順相高速液体クロマトグラフィーにより分離した。
さらには、回収した試料を、溶出溶媒として1:9:10のメタノール:アセトニトリル:水を使用し、カラム固定相を逆相シリカカラム(10x250mm,Inertsil prep ODS, GL Science社製)とし、溶出溶媒の流速を5ml/min、紫外スペクトル測定器の波長を210nmに設定した逆相高速液体クロマトグラフィーで分離することにより、本発明にある一般式(1)の化合物のうち、次式(A)の3β-O-D-sarmentosyl-14β-hydroxy-5β-card-20(22)-enolide、(B)の3β-O-D-sarmentosyl-8β,14β-epoxy-5β-card-16,20(22)-dienolideで表される化合物を得た。
【化7】

【化8】

得られた活性成分化合物は以下の物理化学的性質を満たすものである。
化合物(A)
(1)m.p. :105―110℃
(2)[α]D20=-1.29°(c=0.231, CHCl3)
(3)分子式:C30H4607
(4)高分解能質量分析(m/z): 518.3258(実験値) / 518.3244(理論値)
(5)IR(KBr)νmax:3613, 3591, 3009, 2939, 2883, 1784, 1745 cm-1
(6)3C-NMR(125 MHz, CDCl3) δppm :表1
化合物(B)
(1)m.p. :104―114℃
(2)[α]D20=+52.87°(c=0.662, CHCl3)
(3)分子式:C30H4207
(4)高分解能質量分析(m/z): 514.2927(実験値) / 514.2931(理論値)
(5)IR(KBr)νmax:3572, 3011, 2984, 2887, 1749, 1626, 1446 cm-1
(6)3C-NMR(125 MHz, CDCl3) δppm :表1
実施例2
【0020】
キョウチクトウ(Nerium indicum Mill.)の枝葉を採取し、通風乾燥した後、葉を除いた枝19.5kgにメタノール85Lを加え、22〜24℃の温度範囲で20日間浸漬抽出した。なお、その際の浸漬抽出液中の含水率は約5重量%であった。得られた抽出液を4Lまで40℃で減圧濃縮した後、この濃縮液を各回1Lのn−ヘキサンで計8回洗浄しn−ヘキサン可溶性成分の除去を行った。ついで、洗浄後の濃縮液を各回3Lの酢酸エチルで計3回抽出し、0.3Lの水で2回、さらに0.4Lの水で1回洗浄した。洗浄後の酢酸エチル抽出液を減圧濃縮し、酢酸エチル可溶性画分96.5gを得た。
次いで、上記酢酸エチル抽出画分を第1段目のシリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラムサイズ:80×400mm,充填剤:Silica ge1 60,63〜100μm,Merck社製)に掛け分画精製を行った。なお、展開溶媒としてはn−へキサン3.0L、1:1のn−へキサン/酢酸エチル3.0L、酢酸エチル、1:1の酢酸エチル/メタノール5.0L、メタノール5.0Lと順次展開溶媒の極性が増加するようにさせながらグラジエントを掛け、1:1のn−ヘキサン/酢酸エチルによる溶出部分(FB)5.0Lを分離した。
次いで、FB画分を第2段階目のシリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラムサイズ:50×250mm、充填剤:Silica ge1 60,63〜100μm,Merck)に供し、溶出溶媒に酢酸エチル1.6Lを用い、FB-3の溶出部分を回収した。
さらに、第2段目のシリカゲルクロマトグラフィーと同じ条件で再度クロマトを繰り返し、FB3-2の溶出部分を回収した。
次いで、回収した試料を、溶出溶媒として1:6:9のメタノール:アセトニトリル:水1.6Lを使用し、カラム固定相をシリカカラム(カラムサイズ:10×250mm,充填剤:Inertsil prep ODS, GL Science社製)とし、溶出溶媒の流速を5ml/min、紫外スペクトル測定器の波長を210nmに設定した逆相高速液体クロマトグラフ
ィーにより分離した。
さらには、回収した試料を、溶出溶媒として1:9:10のメタノール:アセトニトリル:水1.6Lを使用し、カラム固定相を逆相シリカカラム(10x250mm,Inertsil prep ODS, GL Science社製)とし、溶出溶媒の流速を5ml/min、紫外スペクトル測定器の波長を210nmに設定した逆相高速液体クロマトグラフィーで分離することにより、本発明にある一般式(1)の化合物のうち、次式(C)の3β-O-D-diginosyl-8β,14β,16α,17α-diepoxy-5β-card-20(22)-enolideで表される化合物を得た。
【化9】

得られた活性成分化合物は以下の物理化学的性質を満たすものである。
化合物(C)
(1)m.p. :118―123℃
(2)[α]D20=+95.66°(c=0.277, CHCl3)
(3)分子式:C30H4208
(4)高分解能質量分析(m/z): 530.2890(実験値) / 530.2880(理論値)
(5)IR(KBr)νmax:3481, 2940, 2880, 1784, 1755, 1637, 1446 cm-1
(6)3C-NMR(125 MHz, CDCl3) δppm :表1
実施例3
【0021】
キョウチクトウ(Nerium indicum Mill.)の枝葉を採取し、通風乾燥した後、葉を除いた枝19.5kgにメタノール85Lを加え、22〜24℃の温度範囲で20日間浸漬抽出した。なお、その際の浸漬抽出液中の含水率は約5重量%であった。得られた抽出液を4Lまで40℃で減圧濃縮した後、この濃縮液を各回1Lのn−ヘキサンで計8回洗浄しn−ヘキサン可溶性成分の除去を行った。ついで、洗浄後の濃縮液を各回3Lの酢酸エチルで計3回抽出し、0.3Lの水で2回、さらに0.4Lの水で1回洗浄した。洗浄後の酢酸エチル抽出液を減圧濃縮し、酢酸エチル可溶性画分96.5gを得た。
次いで、この酢酸エチル可溶画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラムサイズ:80×400mm,充填剤:Silica ge1 60,63〜100μm,Merck社製)に供し、展開溶媒としてn−へキサン3.0L、1:1のn−へキサン/酢酸エチル3.0L、酢酸エチル5.0L、1:1の酢酸エチル/メタノール5.0L、メタノール5.0Lと漸次極性を増加させたものを用い、1:1のn−ヘキサン/酢酸エチルによる溶出画分(FB)5.0Lを分離した。
次いで、FB画分を第2段階目のシリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラムサイズ:50×250mm、充填剤:Silica ge1 60,63〜100μm,Merck)に供し、溶出溶媒に酢酸エチル0.6LLを用い、FB-4の溶出部分0.6Lを回収した。
さらに、展開液を0.6Lの酢酸エチルとしたシリカゲルクロマトグラフィー(カラムサイズ:32×160mm、充填剤:Silica ge1 60,63〜100μm,Merck)に供し、FB4-4の溶出部分0.5Lを回収した。
次いで、回収した試料を、溶出溶媒として1:6:8のメタノール:アセトニトリル:水1.7Lを使用し、カラム固定相をシリカカラム(カラムサイズ:10×250mm,充填剤:Inertsil prep ODS, GL Science社製)とし、溶出溶媒の流速を5ml/min、紫外スペクトル測定器の波長を210nmに設定した逆相高速液体クロマトグラフィーにより分離し、本発明にある一般式(1)の化合物のうち、次式(D)の3β-O-D-diginosyl-16β-acetoxy-5α-card-20(22)-enolide表される化合物Dが得られた。
【化10】

得られた活性成分化合物は以下の物理化学的性質を満たすものである。
化合物(D)
(1)m.p. :135℃
(2)[α]D20=-21.44°(c=0.415, CHCl3)
(3)分子式:C32H4809
(4)高分解能質量分析(m/z): 576.3298(実験値) / 576.3298(理論値)
(5)IR(KBr)νmax:3501, 2874, 1780, 1738 cm-1
(6)3C-NMR(125 MHz, CDCl3) δppm :表1

【表1】

実施例4
【0022】
キョウチクトウ(Nerium indicum Mill.)より抽出した化合物の抗腫瘍活性を調べるため、ヒト肺繊維芽細胞由来の培養細胞WI−38、WI−38をSV−40ウィルスに感染させて悪性形質転換した腫瘍細胞モデルVA−13およびヒト肝臓癌由来培養細胞HepG2を用いて増殖抑制作用の検討を行なった。
抗腫瘍活性測定は下記の如く行った。即ち、96穴マイクロプレートの各ウエルに細胞約5,000個含む培養液を100μLずつ注加し、培養温度37℃、雰囲気中の炭酸ガス濃度5%で24時間培養し細胞を付着させた。
試験化合物は予めジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させておき、その10μLを培養液に加えて更に48時間同条件で培養した。生細胞を数えるため、WST−8試薬を10μL添加し、4時間後にマイクロプレートリーダーで波長450nmでの吸光度を測定し、コントロールに対する生細胞の割合すなわち、生存率を次式により算出した。
生存率(%)=(試験区の吸光度―試験区のネガティブコントロールの吸光度)/(コントロールの吸光度―コントロールのネガティブコントロールの吸光度)×100
なお、ネガティブコントロールは細胞を播かず、他は全て前述と同じ方法をとった。比較対照の、抗癌剤として一般的に用いられているアドリアマイシンの結果とともに、表2に示す。
表2に示したごとく、化合物(A)〜(D)、特に化合物Aが腫瘍細胞に対して極めて高い増殖阻害活性を示した。
【0023】
【表2】

実施例5
【0024】
キョウチクトウ(Nerium indicum Mill.)より抽出した化合物のうち、化合物Dについて抗癌剤感受性増強剤としての効果を、ヒト卵巣癌由来の抗癌剤多剤耐性培養細胞2780AD細胞を用いて検討した。2780AD細胞は、薬剤排出ポンプであるP-糖タンパクが通常の癌細胞とくらべて過剰に発現しているため、種々の抗癌剤を細胞の内から外へと排出して抗癌剤の効果が低下することが知られている。試験化合物がこのP-糖タンパクの活性を阻害すれば、抗癌剤を細胞中に高濃度で保持可能となり、抗癌剤の効果が低下した多剤耐性細胞に対しても、効果的な抗癌剤として用いることが可能となり得る。
抗癌剤感受性増強効果を調べるための簡便な試験として、抗癌剤代替物質として潜在的蛍光化合物カルセインAMを用いたカルセインアッセイ法が知られている。
カルセインAMは細胞に取り込まれた後、細胞内エステラーゼの作用によって加水分解されカルセインとなり蛍光を発する。試験化合物共存下と非共存下でのカルセインの蛍光強度変化量を比較することにより、試験化合物のカルセイン蓄積増強効果を判定し、抗癌剤感受性増強剤としての能力を評価する。
化合物Dについて上記のカルセイン蓄積増強効果を調べた。陽性対照として、抗癌剤多剤耐性克服剤として知られているベラパミルを用いた。即ち、96穴マイクロプレートの各ウエルに細胞約1x10個含む培養液を100μLずつ注加し、培養温度37℃、雰囲気中の炭酸ガス濃度5%で2日間培養し細胞を付着させた。化合物DまたはベラパミルをDMSOに溶解させたのちリン酸緩衝液(PBS:1L中にNaCl8g,KCl0.2g,Na2HPO4・12H2O2.9g,KH2PO40.2gを含む)で希釈し、その50μLを添加して37℃で15分間培養した。カルセインAM(1μM)を50μL添加し、60分後に上清を除いた後、200μLのPBSで洗浄した。マイクロプレートリーダーで励起波長494nm、測定波長517nmにおける蛍光強度を測定した。結果を表3に示す。
表3に示したごとく、コントロールに比べ化合物D存在下での蛍光強度が高く、2.5μg/mLの濃度で同濃度のベラパミルよりも高い蛍光強度を示した。
【0025】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、キョウチクトウの枝から本発明にある配糖体を抽出、精製するフローチャート例を示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるステロイド配糖体。
【化1】

(式中、Rは水酸基、RおよびRは水素原子を表し、Rは水素原子またはβ配位に結合したアセトキシ基を表す。また、RとRはエポキシ基を形成してもよく、RとRはα配位のエポキシ基を形成してもよい。さらに、RとRの水素原子は、脱離してC16−C17炭素が二重結合を形成してもよい。)
【請求項2】
式(A)の3β-O-D-sarmentosyl-14β-hydroxy-5β-card-20(22)-enolide、式(B)の3β-O-D-sarmentosyl-8β,14β-epoxy-5β-card-16,20(22)-dienolide、式(C)の3β-O-D-diginosyl-8β,14β,16α,17α-diepoxy-5β-card-20(22)-enolide、式(D)の3β-O-D-diginosyl-16β-acetoxy-5α-card-20(22)-enolideで表される、請求項1記載の配糖体。
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【請求項3】
キョウチクトウを抽出原料として用いる、請求項1または2に記載の配糖体の製造方法。
【請求項4】
キョウチクトウがNerium indicum Mill.である、請求項3に記載の配糖体の製造方法。
【請求項5】
抽出用の溶剤としてアルコール類を用いる、請求項3に記載の配糖体の製造方法。
【請求項6】
抽出液中の含水率が1から20重量%となる範囲で抽出する、請求項3に記載の配糖体の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の配糖体を有効成分とする抗腫瘍剤。
【請求項8】
請求項1または2に記載の配糖体を有効成分とする強心剤。
【請求項9】
請求項1または2に記載の配糖体を有効成分とする抗癌剤感受性増強剤。

【図1】
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【公開番号】特開2007−326855(P2007−326855A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127292(P2007−127292)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】