新規酵素活性組成物の製造方法、新規酵素活性組成物、並びに、新規酵素活性組成物を用いてマルトース及びγ−アミノ酪酸を同時に製造する方法
【課題】一度の操作でマルトースとγ−アミノ酪酸とを同時に製造可能とする新規酵素活性組成物、当該新規酵素活性組成物の製造方法、及び、当該新規酵素活性組成物を用いて、マルトースとγ−アミノ酪酸とを高収率で同時に製造する方法を提供する。
【解決手段】少なくとも赤糠浸出物と麦芽浸出物とを備えてなる酵素活性組成物を、例えば、少なくとも赤糠と麦芽とを溶媒に含浸させて、赤糠由来の粗酵素と麦芽由来の粗酵素とを溶媒中に浸出させ、複合浸出物を得る工程を備える、酵素活性組成物の製造方法により得るものとし、さらに、白糠と、グルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩と、赤糠浸出物と、麦芽浸出物と、水とを混合して混合液とし、当該混合液の温度を30〜50℃とするとともにpHを4〜6に調整して酵素反応させることで、マルトース及びγ−アミノ酪酸を同時に製造するものとする。
【解決手段】少なくとも赤糠浸出物と麦芽浸出物とを備えてなる酵素活性組成物を、例えば、少なくとも赤糠と麦芽とを溶媒に含浸させて、赤糠由来の粗酵素と麦芽由来の粗酵素とを溶媒中に浸出させ、複合浸出物を得る工程を備える、酵素活性組成物の製造方法により得るものとし、さらに、白糠と、グルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩と、赤糠浸出物と、麦芽浸出物と、水とを混合して混合液とし、当該混合液の温度を30〜50℃とするとともにpHを4〜6に調整して酵素反応させることで、マルトース及びγ−アミノ酪酸を同時に製造するものとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の粗酵素を含む新規酵素活性組成物及びその製造方法、並びに、当該新規酵素活性組成物を用いてマルトース及びγ−アミノ酪酸を同時に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素は我々の生活に密着している重要な物質の一つであり、日用品から医薬品にわたる幅広い物質の製造に応用されている。例えば、グルタミン酸脱炭酸酵素によって製造されるγ−アミノ酪酸は、血圧の降下作用を示すアミノ酸の一つとして着目され、近年種々の経口物質への応用が図られている。この他、グルコース感受性の高い糖尿病患者向けにβ−アミラーゼを用いてマルトースを生産し健康食品への添加、輸液への応用なども行われている。
【0003】
一方、米を精米する過程で生じる米糠中には様々な酵素が存在し、特に赤糠中にはグルタミン酸脱炭酸酵素の他、α−アミラーゼなど複数の酵素の存在が指摘されている。そのため、これまで農産廃棄物として扱われ、その利用価値の低かった米糠を用いて還元糖を含むγ−アミノ酪酸を製造する手法、技術について研究が行われている(例えば特許文献1−3)。
【0004】
また、この他に、工業的に有用な酵素は米糠に限らず多く存在し、例えば麦由来の酵素の一つであるβ−アミラーゼはマルトースの生産さらにはビールの醸造過程で広く用いられ、現在でも様々な研究が行われている(例えば特許文献3−6)。
【0005】
しかし、米糠中に含まれる酵素群を利用してγ−アミノ酪酸を含む還元糖溶液を生産しようとする場合、米糠の赤糠に含まれるアミラーゼの含有量が比較的少ないことから、高濃度の還元糖を得ることは困難である。また、生成される主な還元糖はグルコースが主成分であることから、グルコース感受性の高い人であっても問題のない機能性食品とする観点から、グルコースのかわりにマルトースを含む糖類の生産が強く望まれる。
【0006】
また、マルトースの生産を行うために麦芽を酵素源として利用する場合、赤糠の場合とは異なりβ−アミラーゼが多量に含まれていることからマルトースを生産する場合には最適な酵素源となり得る。しかし、麦芽中にはグルタミン酸をγ−アミノ酪酸を生産するためのグルタミン酸脱炭酸酵素はほとんど含有されていないことから、麦芽のみを利用してγ−アミノ酪酸を含むマルトトース溶液を1度の反応操作で同時に得ることは不可能である。
【0007】
さらに、麦芽を用いる場合には通常、殻付きの麦芽を破砕した状態で用いることが多いが、この状態で基質を含む溶液に添加して反応操作を行うと、製品に麦芽の色が移り、見た目上の品質の低下が懸念される。
【0008】
その上、米などの基質を高効率で糖類へ転換する際には、米を高温水により加熱し、基質が酵素の作用を受けやすくする操作(α化)を行わないと転化率は下がる等の問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−162006
【特許文献2】特開2006−067963
【特許文献3】特開2008−050269
【特許文献4】特開平07−079704
【特許文献5】特表平08−500375
【特許文献6】特表平10−506781
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】PATINDOL J. J Food Sci Vol.72、 No.9、 PageC516-C521
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1−3及び非特許文献1には、赤糠を多く含む米糠を用いてγ−アミノ酪酸、さらには還元糖を製造する方法について開示されているが、マルトース(マルトースを含むマルトオリゴ糖)を含有する溶液を得る技術については論じられていない。また特許文献4―6に示されるような麦芽を用いた還元糖の生産方法にあっては、マルトースを生産した例は開示されているものの、γ−アミノ酪酸を生産した例については示されていない。
【0012】
さらに、麦芽を用いて米由来のでんぷん質を糖化する場合、一般に、米でんぷんに対し熱処理を行い、β−アミラーゼを作用させ易くする必要があり、また、複数の酵素、複数の基質を含む操作をする場合には複雑な工程を組む必要があると考えられ、一度の操作で多元系の複合酵素反応を行うことは困難と考えられていた。より具体的には、例えば、米由来のでんぷん質を糖化させる場合には酵素が作用しやすくするためにでんぷん質の構造を変化させてから操作を行うが(一般にα化処理と呼ばれるもので、すなわちβ型のでんぷん質をα型のでんぷん質に転換する処理をいう。)、このα化には米の炊飯時と同程度の温度下における操作が必要となる。しかし、この反応は、操作終了後に温度を常温更には冷蔵庫程度の低温までに低下させると、可逆反応により再びβ化したでんぷん質に戻る特徴がある。したがって、でんぷんの糖化反応と他の酵素反応を同時にかつ効率的に進行させるためには、高温下においても酵素の活性が維持されることが必要となるが、水の沸点においても活性を維持するような酵素はほとんど存在しないため、このような場合には、糖化反応を十分に進行させてから次の反応を行う逐次的反応操作を行う必要があり、工程の多段化を必要とする。またこの他に、使用する酵素間の至適温度、至適pHが異なる場合にも同様にそれぞれの特性に合わせた反応を逐次的に行うことが必要となる。さらに、反応の効率を度外視し、純粋な酵素同士を混合させた複合酵素系において反応を行う場合には、一般に高い効率で操作することは困難となる。なぜならば、反応操作時には酵素と基質の他に酵素反応を促進するための補酵素、活性発現物質の添加を要する場合が多いためである。そのため、複合酵素系で物質生産を行うためにはそれぞれの酵素反応が阻害されることなく進行するような系の構築が非常に重要となる。
【0013】
そこで本発明は、一度の操作でマルトースとγ−アミノ酪酸とを同時に製造可能とする新規酵素活性組成物、当該新規酵素活性組成物の製造方法、及び、当該新規酵素活性組成物を用いてマルトースとγ−アミノ酪酸とを高収率で同時に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、米糠中の赤糠と麦芽との双方を酵素源の原料として用いることで、γ−アミノ酪酸とマルトース(マルトースを主成分とする組成物。その他マルトオリゴ糖をも含み得る。)とを含む物質を一度の反応により高収率で得ることができることを知見し本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明の第1の態様は、少なくとも赤糠と麦芽とを溶媒に含浸させて、赤糠由来の粗酵素と麦芽由来の粗酵素とを溶媒中に浸出させることにより複合浸出物を得る工程を備える、酵素活性組成物の製造方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0016】
本発明において、「少なくとも赤糠と麦芽とを溶媒に含浸させて」とは、赤糠のみと麦芽のみとを溶媒に含浸させる形態の他、赤糠及び赤糠以外の成分を含む米糠や、麦芽及び麦芽以外の成分を含む麦芽混合物を溶媒に含浸させる形態をも含む概念である。例えば、赤糠を溶媒に含浸させる場合、玄米の外側に存在する10wt%程度の外皮(すなわち、赤糠を含む米糠)を溶媒に含浸させる形態であってもよい。このような赤糠を含む米糠としては、一般の業務用精米機さらには家庭用精米機から排出されるものを用いることができる。「麦芽」とは、麦を発芽させ、その後熱処理あるいは乾燥処理を施した固形物を指し、特定の品種で縛られるものではない。「溶媒」とは、水、有機溶媒などの一般的な液体を用いることができるが、経口摂取を考える場合には水であることが望ましい。「複合浸出物」とは少なくとも赤糠と麦芽とを溶媒に含浸させ、所定の粗酵素を浸出させて得られるもの(すなわち、少なくとも赤糠浸出物と麦芽浸出物を含んでなるもの)であればよく、コロイド状物質等の不溶性物質を含む溶液の他、溶液を凍結させた固体さらには溶媒を除去した固体などをも含む概念である。また、赤糠の含浸・浸出と、麦芽の含浸・浸出とを個別に行い、得られた赤糠浸出物と麦芽浸出物とを混合して、複合浸出物としてもよい。
【0017】
尚、本発明において、赤糠を含む米糠を用いる場合は、精米度が100未満〜80程度までのものを用いることが好ましい。複合浸出物ひいては酵素活性組成物におけるグルタミン酸脱炭酸酵素の濃度を高くすることができるからである。また、本発明において、麦芽としては、ビール醸造用大麦麦芽などの一般的な麦を発芽させてその後乾燥したもの、またさらには熱処理等によりロースト麦芽として得たものでも良い。また使用に際しては、殻付きのまま破砕、粉砕したものを用いても良い。
【0018】
本発明の第1の態様において、さらに、複合浸出物を凍結乾燥する工程を備えていてもよい。
【0019】
本発明においては、少なくとも赤糠と麦芽とを溶媒に含浸させることにより、溶媒中にグルタミン酸脱炭酸酵素、α−アミラーゼ、β−アミラーゼを浸出させることができる。
【0020】
本発明第2の態様は、本発明の第1の態様にかかる製造方法により製造された酵素活性組成物を提供して前記課題を解決するものである。具体的には、少なくとも赤糠浸出物と麦芽浸出物とを含んでなる、酵素活性組成物である。すなわち、本発明に係る酵素活性組成物は、少なくともグルタミン酸脱炭酸酵素、α−アミラーゼ、β−アミラーゼを含むものであり、その形態は液状であっても固体状(乾燥粉末或いは氷結体等)であってもよい。また、赤糠浸出物や麦芽浸出物は液状であっても良いが氷結あるいは凍結乾燥されてなるものであってもよい。温度あるいは含水率を制御することにより,含有酵素群の活性低下を防ぐことができるからである。
【0021】
本発明の第3の態様は、白糠と、グルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩と、赤糠浸出物と、麦芽浸出物と、水とを混合して混合液とし、当該混合液の温度を30℃以上50℃以下とするとともにpHを4以上6以下に調整して酵素反応させる、マルトース及びγ−アミノ酪酸を同時に製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0022】
尚、本願において、「白糠」とは玄米を外側の糠層から米粒中心に向かって連続的に研磨する過程で得られる精米度80%以下の米の粉を指し、一般に、精米後に洗米しさらに水に浸せきした後に乾燥操作により含水率を調整し、その後に乾式あるいは湿式粉砕操作を行って得られる「米粉」とは異なるものである。
【0023】
本発明の第3の態様において、「…赤糠浸出物と、麦芽浸出物と、水とを混合し」とは、赤糠浸出物と麦芽浸出物とを、それぞれ個別に水に混合する形態の他、赤糠浸出物と麦芽浸出物とが予め混合されてなる組成物(すなわち、本発明の第2の態様に係る酵素活性組成物)を水に混合する形態をも含む概念である。
【0024】
本発明の第3の態様において、白糠は一度α化したものを用いてもよいが、エネルギーコスト、工程の簡略化を考慮に入れると白糠がα化されていないものを用いることが好ましい。
【0025】
ここで、「白糠がα化されていない」とは、白糠に糖化反応の収率を増加させるための熱処理(例えば熱水を用いるβでんぷん質のαでんぷん質化)が行われていないことを意味する。例えば精米機から得られた白糠そのものをも含む概念である。
【0026】
本発明の第3の態様において、グルタミン酸塩がグルタミン酸ナトリウムであり、上記混合液とする際、グルタミン酸とグルタミン酸ナトリウムとを双方混合し、且つ、グルタミン酸とグルタミン酸ナトリウムとの比率及び添加量を調節することにより、混合液のpHを4以上6以下に調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、γ−アミノ酪酸とマルトースとを一段の反応で同時に製造するための、新規酵素活性組成物を製造することができる。また、本発明によれば、でんぷん質及びグルタミン酸を基質とすることで複合酵素系の機能を発現させ、でんぷん質をあらかじめ熱処理する等のα化の処理を行わずとも、高収率でγ−アミノ酪酸とマルトースとを同時に製造することができる。さらに、本発明によれば、有害物質等を含ませず簡易な方法でγ−アミノ酪酸とマルトースとを同時に製造できるため、製造物を食品等に好適に用いることが可能であり、グルコース感受性の高い人向けの素材の提供が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】酵素源を加えない場合の白糠からの糖類の生成挙動を示す図である。
【図2】麦芽浸出物からの糖類の生成挙動を示す図である。
【図3】麦芽浸出物と白糠を用いた場合の糖類の生成挙動を示す図である。
【図4】図3で得られた溶液をHPLCにて分析した結果を示す図である。
【図5】麦芽浸出物の反応特性に与える温度の影響を示す図である。
【図6】麦芽浸出物の反応特性に与えるpHの影響を示す図である。
【図7】赤糠と麦芽浸出物(6:4)から調製した物質を用いて糖類の生成とγ−アミノ酪酸の同時生成を行った場合の濃度の経時変化を示す図である。
【図8】赤糠と麦芽浸出物(8:2)から調製した物質を用いて糖類の生成とγ−アミノ酪酸の同時生成を行った場合の濃度の経時変化を示す図である。
【図9】赤糠と麦芽浸出物(9:1)から調製した物質を用いて糖類の生成とγ−アミノ酪酸の同時生成を行った場合の濃度の経時変化を示す図である。
【図10】赤糠から調製した物質を用いて糖類の生成とγ−アミノ酪酸の同時生成を行った場合の濃度の経時変化を示す図である。
【図11】麦芽浸出物および赤糠浸出物のFT−IR分析を行った結果を示す図である。
【図12】破砕処理した白米を基質とし、麦芽浸出物を用いて糖類の生成挙動を調べた結果を示す図である。
【図13】白糠を基質とし、麦芽浸出物を用いて糖類の生成挙動を調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態について詳述する。
【0030】
<酵素活性組成物、酵素活性組成物の製造方法>
本発明に係る酵素活性組成物は、少なくとも赤糠浸出物と麦芽浸出物とを含んでなる。当該酵素活性組成物は、例えば、少なくとも赤糠と麦芽とを溶媒に含浸させて、赤糠由来の粗酵素と麦芽由来の粗酵素とを溶媒中に浸出させ、複合浸出物を得る工程を経て製造することができる。
【0031】
具体的には、例えば、赤糠を含む米糠と麦芽とを任意の割合で混合して溶媒に含浸させ、所定時間静置した後、固液分離操作により浸出液(複合浸出物)を回収することにより、本発明に係る酵素活性組成物を得ることができる。ここで、米糠と麦芽とを含浸させる溶媒としては特に限定はされず、米糠および麦芽から酵素を浸出できるものであればよく、水や有機溶媒を用いればよい。ただし、食品や医療・医薬品への応用を考えると、安全性の観点から水を用いることが望ましい。また、米糠及び麦芽と溶媒との比率、含浸温度、含浸時間等については、赤糠由来の粗酵素及び麦芽由来の粗酵素を溶媒中に浸出させ得る条件であれば特に限定されるものではない。ただし、含浸温度については目的の酵素が失活しない温度域となるように制御する。そして、赤糠を含む米糠と麦芽とを含浸させることで所定の粗酵素を浸出させた後、残渣を分離することで酵素を含有する浸出液(複合浸出物)とされる。固液分離操作については特に制限はなく、例えば遠心分離や圧搾操作が挙げられる。なお、赤糠由来の粗酵素と麦芽由来の粗酵素とを双方含有する複合浸出物は、米糠と麦芽とを別々に浸出した後、得られた浸出液を混合することでも得ることが可能である。
【0032】
赤糠を含む米糠及び麦芽を溶媒に含浸する際は、あらかじめ米糠と麦芽とを網状の物体に内包させておくと固液分離の操作が容易となるため好ましい。網状の物体としては、例えば200メッシュのナイロン網などが上げられるが、溶媒に対して溶解せず、固体残渣がメッシュから漏れないようなものであれば、材質、メッシュサイズはこれに限るものではない。米糠及び麦芽を網状の物体に内包させている場合において、溶媒含浸物から米糠・麦芽残渣を分離することによって浸出液を得たい場合、分離操作としては遠心分離による脱水操作が簡便であり好ましい。ただし、他に圧搾操作によって浸出液を回収することも可能である。得られる浸出液は米糠・麦芽残渣の分離方法にもよるが、通常コロイド状態の微小固体が含有された白濁溶液であり、米糠の混合割合が少なくなるほど無色透明に近づく。
【0033】
得られた浸出液には上記のようにコロイド状物質が含有されていることから、その溶液の塩濃度あるいはpHを調整してコロイド状物質の析出量を増加させ、または溶解させることでコロイド状物質の濃度を低下させても良い。また、pHの調整によって蛋白質を除去することもできる。蛋白質を除去する場合には、溶液のpHを除去対象である蛋白質の等電点に調製するとその除去効率が増加する。特に、γ−アミノ酪酸の生成速度が速くなるpH付近において等電点沈殿操作を行うと、γ−アミノ酪酸の製造を効率よく行うことができると共にγ−アミノ酪酸製造時にタンパク質含有量が抑制された製品を得ることができる。この場合において、pHは5以上7以下の範囲に調整されることが望ましい。米由来のタンパク質の濃度を低減することでアレルギーのリスクを低下させ、最終製品の品質を向上させる事ができる。
【0034】
得られた浸出液(複合浸出物)は、溶液のまま本発明に係る酵素活性組成物とされる他、浸出液を乾燥させて粉末状の酵素活性組成物とすることもでき、さらには浸出液を凍結させてなる酵素活性組成物とすることもできる。浸出液を乾燥させる場合には、凍結乾燥を行うことが望ましく、予備冷凍としてメタノール−水程度の寒剤で凍結操作を行うことも可能である。これらの各形態の酵素活性組成物は、高い酵素活性を有すると共に、マルトース(マルトースを主成分とするマルトース組成物、マルトースの他、マルトオリゴ糖を含んでいてもよい。)とγ−アミノ酪酸とを1段の反応により同時に生成するための、各種酵素反応に好適に用いることができる。尚、この操作で得られた酵素活性組成物には、γ−アミノ酪酸及びマルトースを生産するための酵素のみならず、反応の進行を促進する補酵素、ビタミン類、アミノ酸類等の活性発現物質も含有されていることから、純粋な酵素を混合して得られる物質とは異なる組成物である。
【0035】
次に上記工程により得られた酵素活性組成物を用いて、マルトースとγ−アミノ酪酸とを同時に製造する方法について説明する。
【0036】
<マルトース及びγ−アミノ酪酸を同時に製造する方法>
本発明に係るマルトース及びγ−アミノ酪酸を同時に製造する方法においては、白糠と、グルタミン酸成分と、赤糠由来の粗酵素を有する赤糠浸出物と、麦芽由来の粗酵素を有する麦芽浸出物とを用いて、液中で、所定条件にて酵素反応に供することに特徴を有する。例えば、白糠と、グルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩と、赤糠浸出物と、麦芽浸出物と、水とを混合して混合液とし、該混合液の温度を30℃以上50℃以下とするとともにpHを4以上6以下に調整して酵素反応させることで、マルトース及びγ−アミノ酪酸を同時且つ高収率で製造することができる。
【0037】
特に、赤糠浸出物及び麦芽浸出物として、当該赤糠浸出物と麦芽浸出物とを双方備える上記酵素活性組成物を用いるとよい。また、白糠としてはα化されていないものを用いると、α化による白糠の粘度の上昇を気にせずに反応操作を行うことができる。また、本発明に係る同時製造方法において、基質としてα化していない白糠を用いることで、多元系複合酵素反応においてもマルトースを一層適切かつ高収率で生成させることができる。下記実施例にて詳述するが、本発明者らが鋭意研究したところ、基質として、従来の破砕白米やいわゆる米粉を用いた場合と比較して、α化していない白糠を用いると、本願条件におけるマルトースの生成量を著しく増大させることが可能となることが分かった。
【0038】
具体的には、例えば、上記酵素活性組成物と、基質であるグルタミン酸水溶液と、α化処理を施していない白糠とを混合し、混合液として、2元系複合酵素反応を行うことで、γ−アミノ酪酸とマルトースとを1度の反応で同時に製造する。ここで、当該2元系複合酵素反応を行うためには、混合液を、複合酵素系においても酵素反応の活性を示すpH・温度としなければならない。本発明者らが鋭意研究したところ、混合液のpHを4以上6以下、特に好ましくはpH5.5とし、混合液の温度を30℃以上50℃以下とすると、γ−アミノ酪酸とマルトースとを1度の反応で同時に製造することができることを知見した。例えば、当該pH・温度に調製したグルタミン酸水溶液中に、所定量のα化処理を施していない白糠と酵素活性組成物とを適量添加し、所定時間反応操作を行うと、2元系複合酵素反応を適切に行うことができる結果、γ−アミノ酪酸とマルトースとを1度の反応で同時に製造することができる。反応操作は、連続型・回分型を問わず、いずれの反応器でも実施可能であるが、中でも高濃度の製品を得るためには回分型反応とすることが好ましい。また、得られるγ−アミノ酪酸の濃度は基質として添加したグルタミン酸および白糠の濃度、該物質の添加量、反応時間等の操作条件を変えることで制御が可能である。
【0039】
本発明にかかる酵素活性組成物を用いてγ−アミノ酪酸とマルトースとを生産する際、酵素反応前の混合溶液あるいは酵素反応後の混合溶液に対して陰イオン交換樹脂又は活性炭による吸着操作を行うと、米糠由来の糠臭を選択的に除去することが可能となり、食品への応用に際し、一層好適な形態となる。また、マルトース(より具体的には、マルトースを主成分とするマルトオリゴ糖)を含むことから、γ−アミノ酪酸の生成による苦みを和らげる効果もあり、様々な食品開発への応用も期待される。さらに得られた物質は、乾燥操作により固体とすることも可能である。
【0040】
以上のように、本発明によれば、酵素源として赤糠浸出物及び麦芽浸出物を用いる(特に、少なくとも赤糠浸出物及び麦芽浸出物を含んでなる新規酵素活性組成物を用いる)とともに、基質としてグルタミン酸及び白糠を用い、限定された条件下で酵素反応に供しているため、適切に2元系複合酵素反応を行うことができる結果、マルトースとγ−アミノ酪酸とを高収率で同時に製造することが可能となる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに詳述する。
【0042】
図1に、食用米の白糠を50kg/m3の濃度となるように水に分散し、温度50℃のもとで撹拌を行い、種々の糖の生成挙動について調べた結果を示す。図より、いずれの時間においてもマルトース、グルコース、スクロースの生成量はわずかであり、白糠中には糖化反応を促進する酵素はほとんど存在していないことが分かる。
【0043】
図2に、市販の破砕ロースト麦芽のみを用いて、温度50℃、破砕ロースト麦芽濃度5kg/m3の下で糖化反応を行った場合のグルコース、マルトース、スクロースの生成挙動を示す。図より、若干の糖類の生成が認められるものの、この麦芽濃度における麦由来のでんぷん質を基質とした糖化反応はほとんど進行しないことが分かる。
【0044】
図3に、麦芽濃度5kg/m3に相当する麦芽浸出物を用いて、白糠濃度50kg/m3、温度50℃の下で酵素反応を行った場合のマルトース、スクロース、グルコースの生成挙動を調べた結果を示す。図より、酵素源としてβ−アミラーゼを含む麦芽浸出物を用いたことによりマルトースが選択的に生成する事が分かる。この他に、グルコース、スクロースなども生成している。なお、実験終了後の溶液は白濁した色を呈し、麦芽からの色の移りはほとんど認められなかった。
【0045】
図4に、図3の条件の下で生成した各糖類をHPLCにより分析した結果を示す。図より、グルコース、スクロース、マルトースに由来するピークの存在が確認できるが、溶液中にはこの他にマルトトリオースなどに起因するマルトオリゴ糖由来のピークも観測される。よって、麦芽浸出物により白糠の糖化反応を行う場合には、マルトース由来のマルトオリゴ糖も含有されていることがわかる。
【0046】
図5にマルトースの生成初速度に及ぼす温度の影響について示す。図より、基質として食用米由来の白糠、酒造好適米の白糠いずれの白糠を用いた場合においても反応速度は温度の上昇と共に増加するが、53℃以上ではその速度が低下することが分かる。
【0047】
図6にマルトースの生成初速度に及ぼすpHの影響について調べた結果を示す。図より、麦芽浸出物を用いてマルトースを生産する場合の至適pHのレンジは比較的広く、pH7以下であれば酒造好適米、食用米由来どちらの白糠を用いても比較的迅速に反応が進行することが分かる。なお、グルタミン酸脱炭酸酵素の至適pHは5.5付近であることから、二元系複合酵素を用いてγ−アミノ酪酸とマルトースを同時に生産させる場合には、pHを5.5付近に調整して反応を行うことが望ましいと考えられる。
【0048】
図7に、麦芽と赤糠とを重量比6:4で混合した粉体を、総重量の二倍量の水で浸出し、さらに凍結乾燥処理を施して得られた二元系複合酵素粉末(本発明に係る酵素活性組成物)を用いてγ−アミノ酪酸を含むマルトース含有水溶液を生産した結果を示す。なお、反応は、グルタミン酸脱炭酸酵素の至適温度、pHである温度40℃、pH5.5で行い、複合酵素粉末濃度は50kg/m3、その他グルタミン酸濃度0.14kg/m3、白糠濃度20kg/m3の下で行った。図より、時間の経過と共にマルトース及びγ−アミノ酪酸が生成し、麦芽および赤糠から調製した物質の機能が十分に発揮されていることがわかる。
【0049】
図7に係る手法と同様の手法により赤糠と麦芽の重量比をそれぞれ8:2、9:1として浸出物を調製し、図7に係る条件と同様の反応条件の下でγ−アミノ酪酸とマルトースを含む糖類の生産を同時に行った。結果をそれぞれ図8、9に示す。いずれの場合においてもγ−アミノ酪酸とマルトース等の糖類とは同時に生産されることが分かる。
【0050】
図10に赤糠のみを酵素源として用いて調製した粉末を用いて図7−9に係る条件と同様の条件の下でγ−アミノ酪酸とマルトースを含む溶液の生産を行った場合の濃度の経時変化を示す。図より、麦芽を酵素源として利用せずに赤糠のみで粉末を調製したことから、マルトースの生成量はかなり少なく、結果若干のグルコース、スクロースを含むγ−アミノ酪酸水溶液が得られたことがわかる。図7−10の結果より、赤糠の混合割合が高くなるにつれγ−アミノ酪酸の生成速度が高くなる傾向を示していることから、赤糠と麦芽の混合割合を変化させることにより、任意の活性を示す複合酵素系を設計できる事が示唆される。
【0051】
図11に赤糠水浸出物と麦芽水浸出物を凍結乾燥して得られる酵素活性組成物について、FT−IRスペクトル測定を行った結果を示す。麦芽水浸出物、赤糠水浸出物の主成分は、強度比は異なるものの主にセルロース由来の物質であることがわかる。なお、図7―10で用いた赤糠と麦芽を混合して得られる2元系の酵素を含む酵素活性組成物粉末のスペクトルは、図11で示すスペクトルを任意の比率で合成したスペクトルとして得られると推測される。
【0052】
図12に、白糠の代わりにα化の処理を行っていない破砕白米を用いて麦芽浸出物を用いて酵素反応を行った場合における各糖類の生成挙動を示す。図より、破砕白米を用いた場合はマルトースの生成量は少なく、グルコースが最も生成されることが分かる。これを図13に示す白糠を用いて酵素反応を行った場合と比較すると、マルトース生成量は1/9程度に減少していることが分かる。これらの結果より、米を用いてマルトースを生産する場合には、精米の過程で得た白糠を利用することで安価にかつエネルギー消費を少なくしてマルトース類の生産を行うことができる事が示唆された。一般に、白米を利用してマルトースを生産する場合には炊飯あるいは加熱操作を行ってから糖化反応をおこなうが、本手法によるマルトースを含む物質の生産はそれらの操作を必要としない点で優れていると言える。なお、破砕白米と白糠を用いた場合の反応特性の違いは、主に精米過程で生じる剪断力、熱などによるメカノケミカル現象が寄与しているものと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、高い酵素活性を有する二元系複合酵素を含む新規酵素活性組成物を製造でき、また、当該新規酵素活性組成物を用いて酵素反応に供することで、一度の操作で、γ−アミノ酪酸およびマルトース(特にマルトースを主成分とするマルトオリゴ糖)を同時に製造することができる。すなわち、本発明によれば、γ−アミノ酪酸とマルトースとを食品用途に適した状態で効果的に生成することができる。また、反応後の白糠固体残渣についても、主に巨大な分子量を有するデキストリン分子であることから、そのまま乾燥、固化させても各種アミノ酸およびγ−アミノ酪酸さらにはマルトースを含む食品成分としての利用が期待される他、さらには各種機能性食品開発のための食品母材としても有用である。すなわち、本発明により製造されたγ−アミノ酪酸及びマルトースは、残渣処理をせずとも、そのまま種々の食品製造の際に適用できるものと考えられ、特に、グルコース感受性の高い人に向けた有用な機能性食品を製造する際に好適に用いることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の粗酵素を含む新規酵素活性組成物及びその製造方法、並びに、当該新規酵素活性組成物を用いてマルトース及びγ−アミノ酪酸を同時に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素は我々の生活に密着している重要な物質の一つであり、日用品から医薬品にわたる幅広い物質の製造に応用されている。例えば、グルタミン酸脱炭酸酵素によって製造されるγ−アミノ酪酸は、血圧の降下作用を示すアミノ酸の一つとして着目され、近年種々の経口物質への応用が図られている。この他、グルコース感受性の高い糖尿病患者向けにβ−アミラーゼを用いてマルトースを生産し健康食品への添加、輸液への応用なども行われている。
【0003】
一方、米を精米する過程で生じる米糠中には様々な酵素が存在し、特に赤糠中にはグルタミン酸脱炭酸酵素の他、α−アミラーゼなど複数の酵素の存在が指摘されている。そのため、これまで農産廃棄物として扱われ、その利用価値の低かった米糠を用いて還元糖を含むγ−アミノ酪酸を製造する手法、技術について研究が行われている(例えば特許文献1−3)。
【0004】
また、この他に、工業的に有用な酵素は米糠に限らず多く存在し、例えば麦由来の酵素の一つであるβ−アミラーゼはマルトースの生産さらにはビールの醸造過程で広く用いられ、現在でも様々な研究が行われている(例えば特許文献3−6)。
【0005】
しかし、米糠中に含まれる酵素群を利用してγ−アミノ酪酸を含む還元糖溶液を生産しようとする場合、米糠の赤糠に含まれるアミラーゼの含有量が比較的少ないことから、高濃度の還元糖を得ることは困難である。また、生成される主な還元糖はグルコースが主成分であることから、グルコース感受性の高い人であっても問題のない機能性食品とする観点から、グルコースのかわりにマルトースを含む糖類の生産が強く望まれる。
【0006】
また、マルトースの生産を行うために麦芽を酵素源として利用する場合、赤糠の場合とは異なりβ−アミラーゼが多量に含まれていることからマルトースを生産する場合には最適な酵素源となり得る。しかし、麦芽中にはグルタミン酸をγ−アミノ酪酸を生産するためのグルタミン酸脱炭酸酵素はほとんど含有されていないことから、麦芽のみを利用してγ−アミノ酪酸を含むマルトトース溶液を1度の反応操作で同時に得ることは不可能である。
【0007】
さらに、麦芽を用いる場合には通常、殻付きの麦芽を破砕した状態で用いることが多いが、この状態で基質を含む溶液に添加して反応操作を行うと、製品に麦芽の色が移り、見た目上の品質の低下が懸念される。
【0008】
その上、米などの基質を高効率で糖類へ転換する際には、米を高温水により加熱し、基質が酵素の作用を受けやすくする操作(α化)を行わないと転化率は下がる等の問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−162006
【特許文献2】特開2006−067963
【特許文献3】特開2008−050269
【特許文献4】特開平07−079704
【特許文献5】特表平08−500375
【特許文献6】特表平10−506781
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】PATINDOL J. J Food Sci Vol.72、 No.9、 PageC516-C521
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1−3及び非特許文献1には、赤糠を多く含む米糠を用いてγ−アミノ酪酸、さらには還元糖を製造する方法について開示されているが、マルトース(マルトースを含むマルトオリゴ糖)を含有する溶液を得る技術については論じられていない。また特許文献4―6に示されるような麦芽を用いた還元糖の生産方法にあっては、マルトースを生産した例は開示されているものの、γ−アミノ酪酸を生産した例については示されていない。
【0012】
さらに、麦芽を用いて米由来のでんぷん質を糖化する場合、一般に、米でんぷんに対し熱処理を行い、β−アミラーゼを作用させ易くする必要があり、また、複数の酵素、複数の基質を含む操作をする場合には複雑な工程を組む必要があると考えられ、一度の操作で多元系の複合酵素反応を行うことは困難と考えられていた。より具体的には、例えば、米由来のでんぷん質を糖化させる場合には酵素が作用しやすくするためにでんぷん質の構造を変化させてから操作を行うが(一般にα化処理と呼ばれるもので、すなわちβ型のでんぷん質をα型のでんぷん質に転換する処理をいう。)、このα化には米の炊飯時と同程度の温度下における操作が必要となる。しかし、この反応は、操作終了後に温度を常温更には冷蔵庫程度の低温までに低下させると、可逆反応により再びβ化したでんぷん質に戻る特徴がある。したがって、でんぷんの糖化反応と他の酵素反応を同時にかつ効率的に進行させるためには、高温下においても酵素の活性が維持されることが必要となるが、水の沸点においても活性を維持するような酵素はほとんど存在しないため、このような場合には、糖化反応を十分に進行させてから次の反応を行う逐次的反応操作を行う必要があり、工程の多段化を必要とする。またこの他に、使用する酵素間の至適温度、至適pHが異なる場合にも同様にそれぞれの特性に合わせた反応を逐次的に行うことが必要となる。さらに、反応の効率を度外視し、純粋な酵素同士を混合させた複合酵素系において反応を行う場合には、一般に高い効率で操作することは困難となる。なぜならば、反応操作時には酵素と基質の他に酵素反応を促進するための補酵素、活性発現物質の添加を要する場合が多いためである。そのため、複合酵素系で物質生産を行うためにはそれぞれの酵素反応が阻害されることなく進行するような系の構築が非常に重要となる。
【0013】
そこで本発明は、一度の操作でマルトースとγ−アミノ酪酸とを同時に製造可能とする新規酵素活性組成物、当該新規酵素活性組成物の製造方法、及び、当該新規酵素活性組成物を用いてマルトースとγ−アミノ酪酸とを高収率で同時に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、米糠中の赤糠と麦芽との双方を酵素源の原料として用いることで、γ−アミノ酪酸とマルトース(マルトースを主成分とする組成物。その他マルトオリゴ糖をも含み得る。)とを含む物質を一度の反応により高収率で得ることができることを知見し本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明の第1の態様は、少なくとも赤糠と麦芽とを溶媒に含浸させて、赤糠由来の粗酵素と麦芽由来の粗酵素とを溶媒中に浸出させることにより複合浸出物を得る工程を備える、酵素活性組成物の製造方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0016】
本発明において、「少なくとも赤糠と麦芽とを溶媒に含浸させて」とは、赤糠のみと麦芽のみとを溶媒に含浸させる形態の他、赤糠及び赤糠以外の成分を含む米糠や、麦芽及び麦芽以外の成分を含む麦芽混合物を溶媒に含浸させる形態をも含む概念である。例えば、赤糠を溶媒に含浸させる場合、玄米の外側に存在する10wt%程度の外皮(すなわち、赤糠を含む米糠)を溶媒に含浸させる形態であってもよい。このような赤糠を含む米糠としては、一般の業務用精米機さらには家庭用精米機から排出されるものを用いることができる。「麦芽」とは、麦を発芽させ、その後熱処理あるいは乾燥処理を施した固形物を指し、特定の品種で縛られるものではない。「溶媒」とは、水、有機溶媒などの一般的な液体を用いることができるが、経口摂取を考える場合には水であることが望ましい。「複合浸出物」とは少なくとも赤糠と麦芽とを溶媒に含浸させ、所定の粗酵素を浸出させて得られるもの(すなわち、少なくとも赤糠浸出物と麦芽浸出物を含んでなるもの)であればよく、コロイド状物質等の不溶性物質を含む溶液の他、溶液を凍結させた固体さらには溶媒を除去した固体などをも含む概念である。また、赤糠の含浸・浸出と、麦芽の含浸・浸出とを個別に行い、得られた赤糠浸出物と麦芽浸出物とを混合して、複合浸出物としてもよい。
【0017】
尚、本発明において、赤糠を含む米糠を用いる場合は、精米度が100未満〜80程度までのものを用いることが好ましい。複合浸出物ひいては酵素活性組成物におけるグルタミン酸脱炭酸酵素の濃度を高くすることができるからである。また、本発明において、麦芽としては、ビール醸造用大麦麦芽などの一般的な麦を発芽させてその後乾燥したもの、またさらには熱処理等によりロースト麦芽として得たものでも良い。また使用に際しては、殻付きのまま破砕、粉砕したものを用いても良い。
【0018】
本発明の第1の態様において、さらに、複合浸出物を凍結乾燥する工程を備えていてもよい。
【0019】
本発明においては、少なくとも赤糠と麦芽とを溶媒に含浸させることにより、溶媒中にグルタミン酸脱炭酸酵素、α−アミラーゼ、β−アミラーゼを浸出させることができる。
【0020】
本発明第2の態様は、本発明の第1の態様にかかる製造方法により製造された酵素活性組成物を提供して前記課題を解決するものである。具体的には、少なくとも赤糠浸出物と麦芽浸出物とを含んでなる、酵素活性組成物である。すなわち、本発明に係る酵素活性組成物は、少なくともグルタミン酸脱炭酸酵素、α−アミラーゼ、β−アミラーゼを含むものであり、その形態は液状であっても固体状(乾燥粉末或いは氷結体等)であってもよい。また、赤糠浸出物や麦芽浸出物は液状であっても良いが氷結あるいは凍結乾燥されてなるものであってもよい。温度あるいは含水率を制御することにより,含有酵素群の活性低下を防ぐことができるからである。
【0021】
本発明の第3の態様は、白糠と、グルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩と、赤糠浸出物と、麦芽浸出物と、水とを混合して混合液とし、当該混合液の温度を30℃以上50℃以下とするとともにpHを4以上6以下に調整して酵素反応させる、マルトース及びγ−アミノ酪酸を同時に製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0022】
尚、本願において、「白糠」とは玄米を外側の糠層から米粒中心に向かって連続的に研磨する過程で得られる精米度80%以下の米の粉を指し、一般に、精米後に洗米しさらに水に浸せきした後に乾燥操作により含水率を調整し、その後に乾式あるいは湿式粉砕操作を行って得られる「米粉」とは異なるものである。
【0023】
本発明の第3の態様において、「…赤糠浸出物と、麦芽浸出物と、水とを混合し」とは、赤糠浸出物と麦芽浸出物とを、それぞれ個別に水に混合する形態の他、赤糠浸出物と麦芽浸出物とが予め混合されてなる組成物(すなわち、本発明の第2の態様に係る酵素活性組成物)を水に混合する形態をも含む概念である。
【0024】
本発明の第3の態様において、白糠は一度α化したものを用いてもよいが、エネルギーコスト、工程の簡略化を考慮に入れると白糠がα化されていないものを用いることが好ましい。
【0025】
ここで、「白糠がα化されていない」とは、白糠に糖化反応の収率を増加させるための熱処理(例えば熱水を用いるβでんぷん質のαでんぷん質化)が行われていないことを意味する。例えば精米機から得られた白糠そのものをも含む概念である。
【0026】
本発明の第3の態様において、グルタミン酸塩がグルタミン酸ナトリウムであり、上記混合液とする際、グルタミン酸とグルタミン酸ナトリウムとを双方混合し、且つ、グルタミン酸とグルタミン酸ナトリウムとの比率及び添加量を調節することにより、混合液のpHを4以上6以下に調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、γ−アミノ酪酸とマルトースとを一段の反応で同時に製造するための、新規酵素活性組成物を製造することができる。また、本発明によれば、でんぷん質及びグルタミン酸を基質とすることで複合酵素系の機能を発現させ、でんぷん質をあらかじめ熱処理する等のα化の処理を行わずとも、高収率でγ−アミノ酪酸とマルトースとを同時に製造することができる。さらに、本発明によれば、有害物質等を含ませず簡易な方法でγ−アミノ酪酸とマルトースとを同時に製造できるため、製造物を食品等に好適に用いることが可能であり、グルコース感受性の高い人向けの素材の提供が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】酵素源を加えない場合の白糠からの糖類の生成挙動を示す図である。
【図2】麦芽浸出物からの糖類の生成挙動を示す図である。
【図3】麦芽浸出物と白糠を用いた場合の糖類の生成挙動を示す図である。
【図4】図3で得られた溶液をHPLCにて分析した結果を示す図である。
【図5】麦芽浸出物の反応特性に与える温度の影響を示す図である。
【図6】麦芽浸出物の反応特性に与えるpHの影響を示す図である。
【図7】赤糠と麦芽浸出物(6:4)から調製した物質を用いて糖類の生成とγ−アミノ酪酸の同時生成を行った場合の濃度の経時変化を示す図である。
【図8】赤糠と麦芽浸出物(8:2)から調製した物質を用いて糖類の生成とγ−アミノ酪酸の同時生成を行った場合の濃度の経時変化を示す図である。
【図9】赤糠と麦芽浸出物(9:1)から調製した物質を用いて糖類の生成とγ−アミノ酪酸の同時生成を行った場合の濃度の経時変化を示す図である。
【図10】赤糠から調製した物質を用いて糖類の生成とγ−アミノ酪酸の同時生成を行った場合の濃度の経時変化を示す図である。
【図11】麦芽浸出物および赤糠浸出物のFT−IR分析を行った結果を示す図である。
【図12】破砕処理した白米を基質とし、麦芽浸出物を用いて糖類の生成挙動を調べた結果を示す図である。
【図13】白糠を基質とし、麦芽浸出物を用いて糖類の生成挙動を調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態について詳述する。
【0030】
<酵素活性組成物、酵素活性組成物の製造方法>
本発明に係る酵素活性組成物は、少なくとも赤糠浸出物と麦芽浸出物とを含んでなる。当該酵素活性組成物は、例えば、少なくとも赤糠と麦芽とを溶媒に含浸させて、赤糠由来の粗酵素と麦芽由来の粗酵素とを溶媒中に浸出させ、複合浸出物を得る工程を経て製造することができる。
【0031】
具体的には、例えば、赤糠を含む米糠と麦芽とを任意の割合で混合して溶媒に含浸させ、所定時間静置した後、固液分離操作により浸出液(複合浸出物)を回収することにより、本発明に係る酵素活性組成物を得ることができる。ここで、米糠と麦芽とを含浸させる溶媒としては特に限定はされず、米糠および麦芽から酵素を浸出できるものであればよく、水や有機溶媒を用いればよい。ただし、食品や医療・医薬品への応用を考えると、安全性の観点から水を用いることが望ましい。また、米糠及び麦芽と溶媒との比率、含浸温度、含浸時間等については、赤糠由来の粗酵素及び麦芽由来の粗酵素を溶媒中に浸出させ得る条件であれば特に限定されるものではない。ただし、含浸温度については目的の酵素が失活しない温度域となるように制御する。そして、赤糠を含む米糠と麦芽とを含浸させることで所定の粗酵素を浸出させた後、残渣を分離することで酵素を含有する浸出液(複合浸出物)とされる。固液分離操作については特に制限はなく、例えば遠心分離や圧搾操作が挙げられる。なお、赤糠由来の粗酵素と麦芽由来の粗酵素とを双方含有する複合浸出物は、米糠と麦芽とを別々に浸出した後、得られた浸出液を混合することでも得ることが可能である。
【0032】
赤糠を含む米糠及び麦芽を溶媒に含浸する際は、あらかじめ米糠と麦芽とを網状の物体に内包させておくと固液分離の操作が容易となるため好ましい。網状の物体としては、例えば200メッシュのナイロン網などが上げられるが、溶媒に対して溶解せず、固体残渣がメッシュから漏れないようなものであれば、材質、メッシュサイズはこれに限るものではない。米糠及び麦芽を網状の物体に内包させている場合において、溶媒含浸物から米糠・麦芽残渣を分離することによって浸出液を得たい場合、分離操作としては遠心分離による脱水操作が簡便であり好ましい。ただし、他に圧搾操作によって浸出液を回収することも可能である。得られる浸出液は米糠・麦芽残渣の分離方法にもよるが、通常コロイド状態の微小固体が含有された白濁溶液であり、米糠の混合割合が少なくなるほど無色透明に近づく。
【0033】
得られた浸出液には上記のようにコロイド状物質が含有されていることから、その溶液の塩濃度あるいはpHを調整してコロイド状物質の析出量を増加させ、または溶解させることでコロイド状物質の濃度を低下させても良い。また、pHの調整によって蛋白質を除去することもできる。蛋白質を除去する場合には、溶液のpHを除去対象である蛋白質の等電点に調製するとその除去効率が増加する。特に、γ−アミノ酪酸の生成速度が速くなるpH付近において等電点沈殿操作を行うと、γ−アミノ酪酸の製造を効率よく行うことができると共にγ−アミノ酪酸製造時にタンパク質含有量が抑制された製品を得ることができる。この場合において、pHは5以上7以下の範囲に調整されることが望ましい。米由来のタンパク質の濃度を低減することでアレルギーのリスクを低下させ、最終製品の品質を向上させる事ができる。
【0034】
得られた浸出液(複合浸出物)は、溶液のまま本発明に係る酵素活性組成物とされる他、浸出液を乾燥させて粉末状の酵素活性組成物とすることもでき、さらには浸出液を凍結させてなる酵素活性組成物とすることもできる。浸出液を乾燥させる場合には、凍結乾燥を行うことが望ましく、予備冷凍としてメタノール−水程度の寒剤で凍結操作を行うことも可能である。これらの各形態の酵素活性組成物は、高い酵素活性を有すると共に、マルトース(マルトースを主成分とするマルトース組成物、マルトースの他、マルトオリゴ糖を含んでいてもよい。)とγ−アミノ酪酸とを1段の反応により同時に生成するための、各種酵素反応に好適に用いることができる。尚、この操作で得られた酵素活性組成物には、γ−アミノ酪酸及びマルトースを生産するための酵素のみならず、反応の進行を促進する補酵素、ビタミン類、アミノ酸類等の活性発現物質も含有されていることから、純粋な酵素を混合して得られる物質とは異なる組成物である。
【0035】
次に上記工程により得られた酵素活性組成物を用いて、マルトースとγ−アミノ酪酸とを同時に製造する方法について説明する。
【0036】
<マルトース及びγ−アミノ酪酸を同時に製造する方法>
本発明に係るマルトース及びγ−アミノ酪酸を同時に製造する方法においては、白糠と、グルタミン酸成分と、赤糠由来の粗酵素を有する赤糠浸出物と、麦芽由来の粗酵素を有する麦芽浸出物とを用いて、液中で、所定条件にて酵素反応に供することに特徴を有する。例えば、白糠と、グルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩と、赤糠浸出物と、麦芽浸出物と、水とを混合して混合液とし、該混合液の温度を30℃以上50℃以下とするとともにpHを4以上6以下に調整して酵素反応させることで、マルトース及びγ−アミノ酪酸を同時且つ高収率で製造することができる。
【0037】
特に、赤糠浸出物及び麦芽浸出物として、当該赤糠浸出物と麦芽浸出物とを双方備える上記酵素活性組成物を用いるとよい。また、白糠としてはα化されていないものを用いると、α化による白糠の粘度の上昇を気にせずに反応操作を行うことができる。また、本発明に係る同時製造方法において、基質としてα化していない白糠を用いることで、多元系複合酵素反応においてもマルトースを一層適切かつ高収率で生成させることができる。下記実施例にて詳述するが、本発明者らが鋭意研究したところ、基質として、従来の破砕白米やいわゆる米粉を用いた場合と比較して、α化していない白糠を用いると、本願条件におけるマルトースの生成量を著しく増大させることが可能となることが分かった。
【0038】
具体的には、例えば、上記酵素活性組成物と、基質であるグルタミン酸水溶液と、α化処理を施していない白糠とを混合し、混合液として、2元系複合酵素反応を行うことで、γ−アミノ酪酸とマルトースとを1度の反応で同時に製造する。ここで、当該2元系複合酵素反応を行うためには、混合液を、複合酵素系においても酵素反応の活性を示すpH・温度としなければならない。本発明者らが鋭意研究したところ、混合液のpHを4以上6以下、特に好ましくはpH5.5とし、混合液の温度を30℃以上50℃以下とすると、γ−アミノ酪酸とマルトースとを1度の反応で同時に製造することができることを知見した。例えば、当該pH・温度に調製したグルタミン酸水溶液中に、所定量のα化処理を施していない白糠と酵素活性組成物とを適量添加し、所定時間反応操作を行うと、2元系複合酵素反応を適切に行うことができる結果、γ−アミノ酪酸とマルトースとを1度の反応で同時に製造することができる。反応操作は、連続型・回分型を問わず、いずれの反応器でも実施可能であるが、中でも高濃度の製品を得るためには回分型反応とすることが好ましい。また、得られるγ−アミノ酪酸の濃度は基質として添加したグルタミン酸および白糠の濃度、該物質の添加量、反応時間等の操作条件を変えることで制御が可能である。
【0039】
本発明にかかる酵素活性組成物を用いてγ−アミノ酪酸とマルトースとを生産する際、酵素反応前の混合溶液あるいは酵素反応後の混合溶液に対して陰イオン交換樹脂又は活性炭による吸着操作を行うと、米糠由来の糠臭を選択的に除去することが可能となり、食品への応用に際し、一層好適な形態となる。また、マルトース(より具体的には、マルトースを主成分とするマルトオリゴ糖)を含むことから、γ−アミノ酪酸の生成による苦みを和らげる効果もあり、様々な食品開発への応用も期待される。さらに得られた物質は、乾燥操作により固体とすることも可能である。
【0040】
以上のように、本発明によれば、酵素源として赤糠浸出物及び麦芽浸出物を用いる(特に、少なくとも赤糠浸出物及び麦芽浸出物を含んでなる新規酵素活性組成物を用いる)とともに、基質としてグルタミン酸及び白糠を用い、限定された条件下で酵素反応に供しているため、適切に2元系複合酵素反応を行うことができる結果、マルトースとγ−アミノ酪酸とを高収率で同時に製造することが可能となる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに詳述する。
【0042】
図1に、食用米の白糠を50kg/m3の濃度となるように水に分散し、温度50℃のもとで撹拌を行い、種々の糖の生成挙動について調べた結果を示す。図より、いずれの時間においてもマルトース、グルコース、スクロースの生成量はわずかであり、白糠中には糖化反応を促進する酵素はほとんど存在していないことが分かる。
【0043】
図2に、市販の破砕ロースト麦芽のみを用いて、温度50℃、破砕ロースト麦芽濃度5kg/m3の下で糖化反応を行った場合のグルコース、マルトース、スクロースの生成挙動を示す。図より、若干の糖類の生成が認められるものの、この麦芽濃度における麦由来のでんぷん質を基質とした糖化反応はほとんど進行しないことが分かる。
【0044】
図3に、麦芽濃度5kg/m3に相当する麦芽浸出物を用いて、白糠濃度50kg/m3、温度50℃の下で酵素反応を行った場合のマルトース、スクロース、グルコースの生成挙動を調べた結果を示す。図より、酵素源としてβ−アミラーゼを含む麦芽浸出物を用いたことによりマルトースが選択的に生成する事が分かる。この他に、グルコース、スクロースなども生成している。なお、実験終了後の溶液は白濁した色を呈し、麦芽からの色の移りはほとんど認められなかった。
【0045】
図4に、図3の条件の下で生成した各糖類をHPLCにより分析した結果を示す。図より、グルコース、スクロース、マルトースに由来するピークの存在が確認できるが、溶液中にはこの他にマルトトリオースなどに起因するマルトオリゴ糖由来のピークも観測される。よって、麦芽浸出物により白糠の糖化反応を行う場合には、マルトース由来のマルトオリゴ糖も含有されていることがわかる。
【0046】
図5にマルトースの生成初速度に及ぼす温度の影響について示す。図より、基質として食用米由来の白糠、酒造好適米の白糠いずれの白糠を用いた場合においても反応速度は温度の上昇と共に増加するが、53℃以上ではその速度が低下することが分かる。
【0047】
図6にマルトースの生成初速度に及ぼすpHの影響について調べた結果を示す。図より、麦芽浸出物を用いてマルトースを生産する場合の至適pHのレンジは比較的広く、pH7以下であれば酒造好適米、食用米由来どちらの白糠を用いても比較的迅速に反応が進行することが分かる。なお、グルタミン酸脱炭酸酵素の至適pHは5.5付近であることから、二元系複合酵素を用いてγ−アミノ酪酸とマルトースを同時に生産させる場合には、pHを5.5付近に調整して反応を行うことが望ましいと考えられる。
【0048】
図7に、麦芽と赤糠とを重量比6:4で混合した粉体を、総重量の二倍量の水で浸出し、さらに凍結乾燥処理を施して得られた二元系複合酵素粉末(本発明に係る酵素活性組成物)を用いてγ−アミノ酪酸を含むマルトース含有水溶液を生産した結果を示す。なお、反応は、グルタミン酸脱炭酸酵素の至適温度、pHである温度40℃、pH5.5で行い、複合酵素粉末濃度は50kg/m3、その他グルタミン酸濃度0.14kg/m3、白糠濃度20kg/m3の下で行った。図より、時間の経過と共にマルトース及びγ−アミノ酪酸が生成し、麦芽および赤糠から調製した物質の機能が十分に発揮されていることがわかる。
【0049】
図7に係る手法と同様の手法により赤糠と麦芽の重量比をそれぞれ8:2、9:1として浸出物を調製し、図7に係る条件と同様の反応条件の下でγ−アミノ酪酸とマルトースを含む糖類の生産を同時に行った。結果をそれぞれ図8、9に示す。いずれの場合においてもγ−アミノ酪酸とマルトース等の糖類とは同時に生産されることが分かる。
【0050】
図10に赤糠のみを酵素源として用いて調製した粉末を用いて図7−9に係る条件と同様の条件の下でγ−アミノ酪酸とマルトースを含む溶液の生産を行った場合の濃度の経時変化を示す。図より、麦芽を酵素源として利用せずに赤糠のみで粉末を調製したことから、マルトースの生成量はかなり少なく、結果若干のグルコース、スクロースを含むγ−アミノ酪酸水溶液が得られたことがわかる。図7−10の結果より、赤糠の混合割合が高くなるにつれγ−アミノ酪酸の生成速度が高くなる傾向を示していることから、赤糠と麦芽の混合割合を変化させることにより、任意の活性を示す複合酵素系を設計できる事が示唆される。
【0051】
図11に赤糠水浸出物と麦芽水浸出物を凍結乾燥して得られる酵素活性組成物について、FT−IRスペクトル測定を行った結果を示す。麦芽水浸出物、赤糠水浸出物の主成分は、強度比は異なるものの主にセルロース由来の物質であることがわかる。なお、図7―10で用いた赤糠と麦芽を混合して得られる2元系の酵素を含む酵素活性組成物粉末のスペクトルは、図11で示すスペクトルを任意の比率で合成したスペクトルとして得られると推測される。
【0052】
図12に、白糠の代わりにα化の処理を行っていない破砕白米を用いて麦芽浸出物を用いて酵素反応を行った場合における各糖類の生成挙動を示す。図より、破砕白米を用いた場合はマルトースの生成量は少なく、グルコースが最も生成されることが分かる。これを図13に示す白糠を用いて酵素反応を行った場合と比較すると、マルトース生成量は1/9程度に減少していることが分かる。これらの結果より、米を用いてマルトースを生産する場合には、精米の過程で得た白糠を利用することで安価にかつエネルギー消費を少なくしてマルトース類の生産を行うことができる事が示唆された。一般に、白米を利用してマルトースを生産する場合には炊飯あるいは加熱操作を行ってから糖化反応をおこなうが、本手法によるマルトースを含む物質の生産はそれらの操作を必要としない点で優れていると言える。なお、破砕白米と白糠を用いた場合の反応特性の違いは、主に精米過程で生じる剪断力、熱などによるメカノケミカル現象が寄与しているものと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、高い酵素活性を有する二元系複合酵素を含む新規酵素活性組成物を製造でき、また、当該新規酵素活性組成物を用いて酵素反応に供することで、一度の操作で、γ−アミノ酪酸およびマルトース(特にマルトースを主成分とするマルトオリゴ糖)を同時に製造することができる。すなわち、本発明によれば、γ−アミノ酪酸とマルトースとを食品用途に適した状態で効果的に生成することができる。また、反応後の白糠固体残渣についても、主に巨大な分子量を有するデキストリン分子であることから、そのまま乾燥、固化させても各種アミノ酸およびγ−アミノ酪酸さらにはマルトースを含む食品成分としての利用が期待される他、さらには各種機能性食品開発のための食品母材としても有用である。すなわち、本発明により製造されたγ−アミノ酪酸及びマルトースは、残渣処理をせずとも、そのまま種々の食品製造の際に適用できるものと考えられ、特に、グルコース感受性の高い人に向けた有用な機能性食品を製造する際に好適に用いることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも赤糠と麦芽とを溶媒に含浸させて、前記赤糠由来の粗酵素と前記麦芽由来の粗酵素とを前記溶媒中に浸出させることにより複合浸出物を得る工程を備える、酵素活性組成物の製造方法。
【請求項2】
さらに、前記複合浸出物を凍結乾燥する工程を備える、請求項1に記載の酵素活性組成物の製造方法。
【請求項3】
少なくとも赤糠浸出物と麦芽浸出物とを含んでなる、酵素活性組成物。
【請求項4】
前記赤糠浸出物及び前記麦芽浸出物が凍結乾燥されてなる、請求項3に記載の酵素活性組成物。
【請求項5】
白糠と、グルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩と、赤糠浸出物と、麦芽浸出物と、水とを混合して混合液とし、
該混合液の温度を30℃以上50℃以下とするとともにpHを4以上6以下に調整して酵素反応させる、
マルトース及びγ−アミノ酪酸を同時に製造する方法。
【請求項6】
前記白糠がα化されていないことを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記グルタミン酸塩がグルタミン酸ナトリウムであり、
混合液とする際、前記グルタミン酸と前記グルタミン酸ナトリウムとを双方混合し、且つ、前記グルタミン酸と前記グルタミン酸ナトリウムとの比率及び添加量を調節することにより、前記混合液のpHを4以上6以下に調整することを特徴とする、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項1】
少なくとも赤糠と麦芽とを溶媒に含浸させて、前記赤糠由来の粗酵素と前記麦芽由来の粗酵素とを前記溶媒中に浸出させることにより複合浸出物を得る工程を備える、酵素活性組成物の製造方法。
【請求項2】
さらに、前記複合浸出物を凍結乾燥する工程を備える、請求項1に記載の酵素活性組成物の製造方法。
【請求項3】
少なくとも赤糠浸出物と麦芽浸出物とを含んでなる、酵素活性組成物。
【請求項4】
前記赤糠浸出物及び前記麦芽浸出物が凍結乾燥されてなる、請求項3に記載の酵素活性組成物。
【請求項5】
白糠と、グルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩と、赤糠浸出物と、麦芽浸出物と、水とを混合して混合液とし、
該混合液の温度を30℃以上50℃以下とするとともにpHを4以上6以下に調整して酵素反応させる、
マルトース及びγ−アミノ酪酸を同時に製造する方法。
【請求項6】
前記白糠がα化されていないことを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記グルタミン酸塩がグルタミン酸ナトリウムであり、
混合液とする際、前記グルタミン酸と前記グルタミン酸ナトリウムとを双方混合し、且つ、前記グルタミン酸と前記グルタミン酸ナトリウムとの比率及び添加量を調節することにより、前記混合液のpHを4以上6以下に調整することを特徴とする、請求項5又は6に記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−65608(P2012−65608A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214194(P2010−214194)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(510255543)有限会社伊藤食品販売 (1)
【出願人】(510255554)株式会社小岩井ミルヒ (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(510255543)有限会社伊藤食品販売 (1)
【出願人】(510255554)株式会社小岩井ミルヒ (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]