説明

新規魚介調味料及びその製造方法

【課題】原料魚介類に、原料由来の分解酵素、タンパ質分解酵素、及び熟成上有効量の酵母を、腐敗防止上有効でありかつ酵母生育を抑制しない塩分濃度で、原料分解上有効な期間作用させて分解処理物を得て、そして分解物から液汁を得る工程を含む、調味料組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】酵母を、適切な塩濃度において外来のプロテアーゼとともに原料魚介類に作用させることにより、従来とは異なる調味料組成物が得られる。酵母の特に好ましい例は、パン酵母であり、原料魚介類の特に好ましい例は、カキである。
【効果】魚介類を原料として、従来の魚醤に感じられるようなアミン臭の少ない調味料組成物を製造することができる。カキ等の繊細な風味を有する魚介類は、その風味が失われるために従来の魚醤様調味料組成物の原料とはされなかったが、それが可能になった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介を原料とする調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
魚醤(魚醤油)は、いわし等の原料魚類に食塩を20〜30%になるように添加し、6ヶ月から2年間の発酵・熟成期間を経て得られる調味料の一種である。熟成期間中は、塩分濃度が高いので腐敗菌は生育せずに、原料魚類が元来有していた酵素で自己分解が進む。熟成後得られた分解物から液汁を分離し、加熱殺菌して製品と成されている。
【0003】
魚醤はアミノ酸が豊富であり、呈味に優れた調味料として知られている。しかしながら魚醤は熟成中に発生するアミン等に起因する不快臭も有し、使用される料理はごく限られたものとなっていた。
【0004】
不快臭の少ない魚醤を得る方法として、(1)加熱、減圧等の物理的手法により魚臭さの元となる成分を除去する、(2)魚臭さをマスキングする成分を添加する、(3)乳酸菌や酵母などの微生物を添加する、の三方から検討されてきた。
【0005】
(1)としては、例えば、特許文献1は、魚醤の特徴的な香気を損なわずに不快な臭気を除去する方法として、魚醤油をイオン交換膜を用いて電気透析処理することを特徴とする魚醤油の製造方法を提案している。
【0006】
また(2)としては、例えば、特許文献2は、魚醤油に配合しても沈殿を生じない酵母エキスを魚醤油に配合することにより、呈味性の増強と魚臭の抑制を達成した魚醤油調味料を提案している。また、特許文献3は、魚醤油の特徴的な香気や旨味を損なわずに不快な香気のみを改良することを目的に、魚醤油に香気物質又はその処理物を添加することを特徴とする魚醤油の製造方法を提案している。
【0007】
そして(3)としては、例えば、特許文献4は、魚のくさみがなく色がうすい魚醤油を、新たな特別の処理工程を加えず通常の醸造工程だけで短期間で製造する方法として、魚介肉原料に食塩、水及び耐塩性乳酸菌スターターを加えて混合し、これに固体麹を加えて混合してもろみとなし、このもろみを仕込み直後から加温すると共にもろみの発酵熟成途中pH下降時に耐塩性酵母スターターを添加することにより、短期間にもろみを発酵熟成させることを特徴とする魚醤油の製造法を提案する。また、特許文献5は、魚介類、特に鮭を原料として、天然アミノ酸の多く含まれていてコクと深みのある味とマイルドな風味のある魚醤油を効率よく短期間に製造する方法として、粗砕した魚介類にパパイン溶液を添加し、撹拌しながら温度を上昇させて分解させ、その身肉が溶解した後、食塩を添加するとともに有機酸を添加してpHを5.0〜5.5となるように調整し、常温にまで冷却した後、乳酸菌と酵母と米麹とを添加し、撹拌しながら必要に応じてデキストリンを添加したり塩分調整したもろみを分解・発酵・熟成させたことを特徴とする魚醤油の製造方法を提案する。さらに特許文献6は、万人向きの魚醤油として、もろみ仕込み時に魚介類に食塩及び麹を加えてから、さらに乳酸菌及び酵母を添加し、その後、もろみを低温で発酵熟成させることを特徴とする魚醤油の製造法を提案する。乳酸菌添加は、通常有機酸を生成させるが、有機酸に関連し、特許文献7は、魚介類を、食塩、有機酸を含有するアルコ−ル水溶液からなる浸漬液に浸漬し、しかる後浸漬液から取り出した魚介類に加熱処理を施し、得られた加熱処理済み魚介類を、魚醤油製造工程の仕込み工程に適用することを特徴とする魚醤油の製造方法を提案する。さらに特許文献8は、魚介類に食塩及び麹を原料とし、耐塩性を有する乳酸菌とチゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)属酵母、ならびにカンジダ(Candida)属酵母の3種の微生物全てを併用して、もろみを30〜40℃に加温しながら発酵させることによって得られる水産発酵調味料を提案する。
【0008】
一方、魚醤において、酵母を用いることに関し、非特許文献1は、味噌・醤油用の耐塩性酵母Zygosaccharomyces rouxiiを多量に添加することにより、低食塩魚醤油を製造する方法を提案する。この方法においては、酵母により生成されるエタノールにより腐敗が防止されることで低塩化が達成され、また腐敗臭、酸化臭等の異臭が感じられないと報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開H11-196815号公報
【特許文献2】特開2001-025373号公報
【特許文献3】特開H11-075764号公報
【特許文献4】特開2002-191321号公報
【特許文献5】特開H11-318383号公報
【特許文献6】特開H08-256727号公報
【特許文献7】特開2006-280280号公報
【特許文献8】特開2004-313138号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Food Research 2005.12 p.12〜15
【発明の概要】
【0011】
しかしながら上記のような従来法は、次のような問題点を有していた。すなわち、(1)の方法においては電気透析処理を行なうため、装置への投資金額が大きく、処理過程で香気や塩とともに、わずかだとしても味成分が失われるために、魚醤本来の独特な味質を維持できない。また(2)の方法は、マスキングのために本来の魚醤には含まれない物質を添加するため、添加物由来の臭いや味が、魚醤そのものの望ましい香気や独特の味質を失わせる恐れがある。さらに(3)の方法は、乳酸菌を添加した場合は、その生成物である有機酸が魚醤の香気及び呈味に影響を与える恐れがあり、また耐塩性の醤油酵母を用いた場合は、醤油様の香気により素材の香気が生かされない。
【0012】
そして、原料魚類に関しても、何を用いても似たような香気及び食味になるために、比較的安価な魚類が中心であり、繊細な香味を有するカキ等の高級な原料を用いようとする検討はされてなかった。
【0013】
本発明者らは、魚介類を原料とする新規な調味料組成物、及びその製造方法について検討してきた。その結果、酵母を、適切な塩濃度において外来のプロテアーゼとともに原料魚介類に作用させることにより、従来とは異なる調味料組成物が得られることをみいだし、本発明を完成した。
1)本発明は、以下を提供する:
(a)原料魚介類に、
(b)原料由来の分解酵素、
(c)タンパク質分解酵素、及び
(d)熟成上有効量の酵母を、
腐敗防止上有効でありかつ酵母生育を抑制しない塩分濃度で、原料分解上有効な期間作用させて分解処理物を得て、そして分解物から液汁を得る工程を含む、調味料組成物の製造方法。
2)塩分濃度が、8〜18重量%である、請求項1に記載の製造方法。
3)酵母が、サッカロマイセス・セレビィジェである、1)又は2)に記載の製造方法。
4)酵母が、パン酵母である、1)又は2)に記載の製造方法。
5)魚介類が、いわし、さば、あじ、さんま、かつお、まぐろ、かき、ほたて、あわび、はまぐり、あさり、しじみ、いか、たこ、えび及びかにからなる群から選択される1種または2種以上である、1)〜4)のいずれか一に記載の製造方法。
6)魚介類が、非加熱のものと加熱加工物との混合物である、1)〜5)のいずれか一に記載の製造方法。
7)魚介類が、かきを含む、5)又は6)に記載の製造方法。
8)パン酵母を用いることを特徴とする、魚介類から熟成工程を経て製造された調味料組成物において不快臭を低減する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、魚介類を原料として、従来の魚醤に感じられるようなアミン臭の少ない調味料組成物を製造することができる。
酵母としてサッカロマイセス属に属する酵母を用いた態様においては、チゴサッカロミセス属に属する酵母を用いた方法における醤油様の香味を有さず、原料魚介類本来の香味を生かした新規な調味料組成物を製造することができる。カキ等の繊細な風味を有する魚介類は、その風味が失われるために従来の魚醤様調味料組成物の原料とはされなかったが、本発明により、それが可能になった。
【0015】
本発明の製造方法によれば、これまで6カ月以上要してきた魚醤様調味料組成物の製造を、約1か月程度の短期間で実施することができる。
【発明の実施の形態】
【0016】
<原料魚介類>
本発明の調味料組成物の製造方法は、原料として、魚介類を用いる。本発明で「魚介類」というときは、魚類及び貝類並びにその他の水産動物を含む。原料魚介類は特に限定されず、例えば、いわし、さば、あじ、さんま、かつお、まぐろ、はがつお、まるそうだ、ひらそうだ、すまかつお、さけ、ます、たら、うぐい(あかはた)、はたはた、いかなご等の魚類、かき、ほたて、あわび、はまぐり、あさり、しじみ等の貝類、いか、たこ、えび、かに等のその他の水産動物である。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0017】
本発明においては、本来繊細な香味を有するかきを、特に好適に用いることができる。本発明に用いることのできるかきは特に限定されず、マガキ属に属するものでもイタボガキ属に属するものでもよい。特に好ましい例は、マガキ(和名)(Oyster(英名)、Crassostrea gigas(学名))である。
【0018】
本発明には、原料として、魚介類の全体又は一部を用いる。可食部のみ、また原料魚介類が魚類である場合は、頭、ひれ、尾、骨、内蔵等の不可食部若しくは水産加工品の未利用物も用いることができる。
【0019】
魚介類は、必要に応じて切断、粗砕、細断(ミンチ)等の前処理を行うことができる。仕込みの際、食塩や酵母との混合が容易となり、熟成が効率よく進行するから、原料はミンチにすることが好ましい。
【0020】
本発明においては、原料魚介類の分解には、後述する外来のタンパク質分解酵素とともに、原料魚介類由来の酵素が作用する(自己消化)。したがって、本発明においては、原料魚介類のすべてが加熱処理され、原料由来の分解酵素が完全に失活していることは適さない。原料由来の分解酵素が失活する加熱処理は、原料によりそれぞれ異なるが、当業者であれば、原料に応じて適宜理解することができる。例えば、原料としてカキを用いる場合は、95℃以上で10分以上加熱することにより、通常、カキの元来有する分解酵素は失活するであろう。
【0021】
本発明においては、非加熱の原料魚介類とその加熱加工物(元来有する分解酵素が失活していてもよい。)とを混合して用いることができる。加熱加工物には、熱水抽出によりエキスを抽出した後の魚介類が含まれる。本発明において、非加熱の原料魚介類と熱水抽出によりエキスを抽出した後の魚介類とを用いる場合、非加熱原料1重量部に対し、エキス抽出後の魚介類を20重量部程度まで用いることができると考えられる。
【0022】
加熱加工物、特に熱水抽出によりエキスを抽出した後の魚介類を用いる場合、最終的に得られる調味料において、旨み成分やアミノ酸含量が異なることがある。例えば、カキの場合、非加熱物(生カキ、冷凍カキ)のみを使用したカキ調味料に比較して、非加熱物と加熱加工物(熱水抽出によりエキスを抽出した後のカキ)を使用した調味料は、チロシンが多くシスチンが少ない場合がある。非加熱物のみを用いた場合は、加熱加工物を併用した場合より、カキの特徴であるタウリン含量が高い場合があると考えられる。
【0023】
<酵母>
本発明には、酵母を用いる。「酵母」には、サッカロミセス属酵母、トルラスポラ属酵母、チゴサッカロミセス属酵母、クルベロマイセス属酵母、カンジダ属酵母が含まれる。より具体的には、サッカロミセス・セレビジエ、サッカロミセス・ロゼイ、サッカロミセス・ウバルム、サッカロミセス・シバリエリ、トルラスポラ・デルブルーキー、ジゴサッカロミセス・ロキシー(Zygosaccharomyces rouxii)、クルベロマイセス・サーモトレランスが含まれる。
【0024】
本発明へは、食経験が豊富な酵母を用いることが好ましい。本発明へは、アルコール産生が比較的少ないパン酵母を好適に用いることができる。パン酵母の例として、サッカロミセス・セレビジエを挙げることができるが、特に限定されるものではなく、本発明に用いることのできるパン酵母は、サッカロミセス属に属する種々の酵母でありうる。
【0025】
本発明に用いるには、パン酵母の中でも、酵母特有の異味、異臭が弱いものが好ましい。このような酵母は、WO2004/005490に開示された方法で得ることができる。酵母特有の異味、異臭が弱いものの例として、イーストYT(加ト吉株式会社)を挙げることができる。この菌株は、日本国つくば市東1丁目1番地1中央第6の独立行政法人産業技術総合研究所へ2002年6月20日付けで寄託され、FERM BP−8081の受託番号が付与されている。
【0026】
本発明においては、パン酵母以外に、醤油酵母も用いうる。醤油酵母の例として、ジゴサッカロミセス・ロキシーを挙げることができる。
本発明においては、パン酵母は、魚介類を原料とする熟成工程を経て製造される調味料組成物の塩分を低減するためではなく、菌叢を優位に保つことにより、一般生菌の増殖を抑えて不快な臭いの発生を抑制する目的で用いられる。パン酵母を用いる場合、パン酵母は通常、耐塩性酵母ではなく、生育できる塩分濃度には上限があることに留意することが好ましい。
【0027】
本発明においては、酵母は、仕込み時に熟成上有効量添加される。熟成上有効量は、酵母が他の生菌に比較して優位であり、熟成により異臭を生じない量を意味し、通常、104〜109ヶ/g(原料総重量)好ましくは105〜108ヶ/g、例えば、106ヶ/g以上である。熟成上有効量は、酵母の種類に依存することがある。
【0028】
本発明者らの検討によると、酵母の仕込み量が少ない場合であても、塩濃度が一定以上であれば、腐敗しないことが分かっている。
<塩分濃度>
本発明においては、仕込み時には塩分(食塩)が腐敗防止上有効でありかつ酵母生育を抑制しない濃度で添加される。
【0029】
本発明で塩分濃度に関し、「腐敗防止上有効」とは、熟成中に一般生菌の増殖を抑制するのに有効であることをいう。通常、6%を超える濃度であり、好ましくは8%以上である。なお、本明細書で塩分の濃度に関し、x%というときは、その値は重量に基づいており、原料の総重量に対する割合を示したものである。
【0030】
本発明で塩分濃度に関し、「酵母生育を抑制しない」濃度というときは、その濃度は用いる酵母の種類に応じて決定されるものである。「生育を抑制しない」とは、熟成中の酵母の菌数が、一般生菌の増殖を抑制することができないほどには減じないことをいう。これは、仕込みの際には熟成上有効量添加された酵母が、熟成期間を通じ、一般生菌の約1000倍以上の菌数で存在し、優位を保っているかどうかで判断することができる。酵母として、耐塩性ではない酵母を用いる場合、生育を抑制しない塩分濃度は、通常、25%以下の濃度であり、好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは18%以下である。
【0031】
本発明において好ましい塩分濃度は8〜20%、より好ましくは8〜18%、さらに好ましくは10〜16%である。この範囲は、パン酵母を用いる場合に特に適している。
<タンパク質分解酵素>
本発明においては、原料魚介類の分解に、タンパク質分解酵素を添加して併用する。本明細書でタンパク質分解酵素というときは、特に記載した場合を除き、ペプチダーゼ及び/又はプロテアーゼ活性を有する酵素をいう。タンパク質分解酵素は、調味料の熟成条件(温度、pH)において、充分に活性があるものが好ましい。例えば、4〜40℃、好ましくは約25〜35℃、好ましくは28〜31℃で、また中性付近のpHで、充分な活性があることが好ましい。
【0032】
タンパク質分解酵素の使用量は、当業者であれば適宜設計しうるが、好ましい量は0.1〜5%、より好ましくは0.25〜2.5%、さらに好ましくは0.5〜2%である。本明細書でタンパク質分解酵素の添加量に関し、x%というときは、その値は重量に基づいており、原料の総重量に対する割合を示したものである。
【0033】
<熟成条件>
本発明においては、(a)原料魚介類、タンパク質分解酵素、熟成上有効量の酵母及び食塩を充分に混合して仕込み、一定期間(例えば、約2週間〜約7年間)熟成させる。発酵熟成の際、必要に応じ温度管理を行い、約4〜40℃、好ましくは約25〜35℃、好ましくは28〜31℃の雰囲気に保つ。熟成期間中に、必要に応じ、撹拌してもよい。
【0034】
熟成が進行すると、原料固形物が可溶化してくる。熟成の終点は、通常の魚醤を製造する場合と同様により決定することができる。例えば、性状(色、におい、濁りの程度、原料の外観等)、分解物中に含まれるアミノ酸等の物質の濃度、分解物のpH等を指標とすることができる。ヒスタミンの生成量から決定してもよい。
【0035】
充分に熟成したところで、圧搾、遠心分離、ろ過等の方法により液体を得る。得られた液体は、特定の臭いを除くために、減圧処理等の操作を行ってもよく、また、活性炭、合成吸着剤、吸着樹脂、イオン交換樹脂等で処理することにより、脱色してもよい。
【0036】
得られた液体は、酵素類を失活させるため、また殺菌のため加熱することができる。またミクロフィルターろ過により、菌体及び微細な固形成分(おり)の除去操作を行ってもよい。
【0037】
得られた液体は、そのまま魚醤様の調味料組成物として用いてもよく、また、必要に応じ、添加剤を加えることもでき、濃縮、乾燥、造粒等の処理を行い、ペースト、粉末、顆粒等の形態とすることができる。
【0038】
このようにして得られた本発明の調味料組成物は、種々の食品に対して用いることができる。酵母としてサッカロマイセス属に属する酵母を用い、また原料魚介類としてカキを用いた本発明の調味料組成物は、カキ由来の繊細な風味を有するので、これまでの魚醤とは異なる用い方が可能である。
【0039】
本発明の調味料を用いることのできる食品の例としては、各種調味料(オイスターソース、甜麺醤、豆板醤等)、スープの素(鶏がらスープの素等)、たれ(ギョーザのたれ等)、うどんつゆ、そばつゆ、特定食品用調味料(炒飯の素等)、各種の料理、インスタント食品、レトルト食品及び冷凍食品(例えば、炒飯、ガーリックライス、ドライカレー、チキンライス、しお炒め、しょうゆ炒め、青椒肉絲、回鍋肉、干焼蝦仁、あんかけ、ギョーザ、スープ(各種ポタージュ、オニオンスープ、マッシュルームスープ、トマトスープ、クラムチャウダー、ミネストローネ)等が挙げられる。
【実施例1】
【0040】
[パン酵母添加量×塩分濃度の検討]
生のカキ400gをチョッパーにて破砕し、これに、最終濃度が所定の量になるように加えた食塩、パン酵母(イーストYF 加ト吉製)25g及びフレーバーザイム(ノボエンザイム製 プロテアーゼ)0.5gをミキサーにて混合したものをタンクにつめ、30日間、雰囲気温30℃に調節された部屋に静置した。30日目にテフロン(登録商標)袋につめた後圧搾ろ過を行い、搾汁液を回収した後、フィルタープレスにろ過助剤(セライト600)とともに供し、澄明な調味料を得た。
【0041】
その官能評価を下表に示す。官能評価は5名で行った。
【0042】
【表1】

【0043】
塩濃度が6%のものについては、酵母の添加量に関わらず、腐敗が進み評価にはいたらなかった。逆に、塩濃度が24%の場合には、酵母が生育することができずカキの分解が進まず、呈味が弱く、カキの生臭みを強く感じた。さらに、8%から18%の塩分濃度においては、いずれも良好に魚醤を生成することができたが、塩分濃度8%などの低塩分の条件においては、酵母の添加量が低いものでは嫌気性菌の増加が見られ、腐敗臭様の臭気を感じ、不良であった。また、酵母濃度を増加させることにより、酵母が増殖し、酵母がほぼ独占的に増殖することが観察され、特に塩分濃度10%から12%の状態で、パン酵母を108ヶ/g添加したときには、異臭を感じず、カキ特有の臭いや呈味を強く感じる良好な魚醤を得ることができた。
【実施例2】
【0044】
[カキの前処理法の検討]
まず、はじめに一切の加熱をしていない生のまま冷凍したカキを自然解凍したもの(以下、非加熱解凍カキ、得られた試料がカキ調味料A)、冷凍したカキを冷凍のまま仕込んだもの(カキ調味料B)、95℃で60分間加熱したカキと非加熱解凍カキが5:5の比率のもの(カキ調味料C)、95℃で60分間加熱したカキと非加熱解凍カキが5:1の比率のもの(カキ調味料D)をそれぞれ調製した。次にこの原料をチョッパーにより破砕し、食塩10%、ウマミザイムG(天野エンザイム)1%、酵母(イーストYF 加ト吉製)5%(原料1g当たりの菌数は、約1010ヶ/gであり、5%の添加で原料中の酵母数は108ヶ/g以上と想定される。)を添加して30日間、雰囲気温30度に調節された部屋に静置した。30日間、タンク内の該スラリーは4日目以降よりほぼ25〜30度を維持され、カビ発生や腐敗の問題もなく良好な自己消化の環境が維持された。31日目にテフロン(登録商標)袋につめた後、圧搾ろ過を行い、搾汁液を回収し、フィルタープレスにろ過助剤(セライト600)とともに供し、澄明な調味料(カキ調味料A〜D)を得た。なお、全量を95℃60分間加熱したもののみを原料として供した場合には、分解が進まず、圧搾処理をすることができず、調味料液を得ることができなかった。このことは、カキの分解は、添加した酵母や酵素のみでは進まず、カキ内の分解酵素が必要であることを示唆している。
【0045】
次いで、得られた調味料中の遊離アミノ酸組成を、アミノ酸アナライザー(日立、L-8500 A)を用いて分析した。比較対照は、市販のカキエキス(カクサン製)とした。カキエキスは熱水抽出液を濃縮して得られたものである。結果を下表に示した。
【0046】
【表2】

【0047】
今回得られたカキ調味料について比較すると、生カキ、冷凍カキを使用したカキ調味料においてシスチンが多くチロシンが少なく、逆に加熱したカキと生カキを使用したカキ調味料において、チロシンが多くシスチンが少ない以外はほぼ同様のアミノ酸組成であった。また、市販のカキエキスの特徴であるタウリン含量の高さは、今回のカキ調味料の場合はそれほどでもなく、1/4程度の量に留まっていた。
【0048】
以上のように全量加熱した場合にはカキ調味料は得られないが、生であっても冷凍であっても、また、一部を加熱したものを使っても同様の品質のカキ調味料を得ることができた。
【実施例3】
【0049】
[カキ調味料中の微生物挙動及び市販魚醤との比較]
実施例2における、カキ調味料A調製中の微生物の挙動について調べた。結果を下表に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
今回の試験時においても、実施例1と同様に酵母が優勢に増殖しており、実施例1の状況を再現できていることが示されている。
タイ産のカタクチイワシを原料とした市販魚醤(Pichia社製)についても同様に遊離アミノ酸組成について分析し、カキ調味料Aと比較した遊離アミノ酸組成を下表に示した。なお、Pichai社製の魚醤は、食塩存在下でカタクチイワシを1年間自己消化することによって得られたものである。
【0052】
【表4】

【0053】
今回試作したカキ調味料Aは一般的なイワシ魚醤である、Pichai社製の魚醤と比較すると、30日間の短期間の発酵であるにもかかわらず、1年間発酵の市販魚醤よりも多くの遊離アミノ酸含量を示していた。特に、タウリンを多く含むとともに、グリシン、グルタミン酸、アラニンなどの甘味系のアミノ酸も多く、呈味も優れていることが示唆された。また、異臭の原因でもあるアンモニア(NH3)が、市販魚醤では検出されているものの、今回のカキ調味料Aからは検出されなかった。
【0054】
下表に、カキ調味料A及び市販魚醤の分解率及び分子量分布を示す。分解率は全窒素量に対するアミノ態窒素量を測定した。分子量分布については、ゲルろ過法により測定した。
【0055】
【表5】

【0056】
まず、分解率について検討すると、カキを原料として作成されたカキ調味料Aは分解率が非常に高く、市販の魚醤よりも低分子にまで分解されていることが確認できる。さらに分子量分布についても市販の魚醤と同様に分子量2000以下にまで分解されていることが明らかになった。以上のような結果より、カキ調味料Aは短期間の発酵でありながら、長期間の発酵工程を要する市販の魚醤と同様の分解が進んでいることを示唆している。
【0057】
訓練されたパネラー10名により実施例2で製造したカキ調味料Aについて官能検査を実施したところ、市販のイワシ魚醤には無いカキの独特の香ばしい香気と、市販の魚醤と同様のアミノ酸の旨味を有していた。また、魚醤特有の不快臭がなく、良好な評価を得ることができた。
【実施例4】
【0058】
[異なる酵母での製造]
実施例2のカキ調味料Aと同様の方法で、パン酵母の代わりに粉末のパン酵母、5g(フェルミパン(1010ヶ/g以上の酵母生菌を含む。5%の添加で原料中の酵母数は108ヶ/g以上と想定される。)、DSM社製)又は醤油酵母(秋田今野商店製、Zygosaccharomyces. rouxii)を用いて、カキ調味料を製造した。それらの官能検査結果を示す。
【0059】
【表6】

【0060】
魚醤のような調味料の製造においては、耐塩性の醤油酵母を用いることが提案されていたが、酵母臭の少ないパン酵母(イーストYF、加ト吉社製冷凍酵母)を適切な条件下で用いることにより、醤油酵母に由来する醤油様の香気を付与することなく、カキの風味を生かした調味料が得られることが分かった。また、他のパン酵母でも同様の結果が得られることがわかった。
【実施例5】
【0061】
[パン酵母を用いたいわし調味料の製造方法の検討]
生のいわし400gをチョッパーにて破砕し、これに、食塩50g、パン酵母(イーストYF 加ト吉製)25g及びフレーバーザイム(ノボエンザイム製 プロテアーゼ)0.5gを混合したものをタンクに入れ、気温30℃に調節された部屋に50日間静置した。タンク内の該スラリーは4日目以降よりほぼ25〜30℃に維持された。製造工程中には腐敗などは見られなかった。51日目にテフロン(登録商標)袋につめ、圧搾ろ過を行い、搾汁液を回収した後、ろ過助剤(セライト600)によるフィルタープレスによって、澄明な調味料(いわし調味料A)を得た。
【0062】
下表に、その製造工程における遊離アミノ酸組成の変化を示す。
【0063】
【表7】

【0064】
アミノ酸の遊離量は40日目まで増加していき、その間分解が進んでいることが示唆される。一方、アレルギーなどの原因物質であるヒスタミンは33日まで緩やかに増加していくのに対し、その後は急激に増加しており、分解を進めつつ、ヒスタミンの増加を抑えるためには33日程度で分解を停止することが好ましいことが明らかになった。
【0065】
下表に、いわし調味料Aにおける菌相の変化を示す。
【0066】
【表8】

【0067】
ヒスタミンは微生物により生成されることが知られているが、本結果より、発酵過程においては他の菌や嫌気性菌は増殖せずに、酵母のみが優勢のまま熟成が進んだことが分かる。
【実施例6】
【0068】
[いわし調味料の比較評価]
いわし調味料B:
実施例5と同様に仕込み、31日目にテフロン(登録商標)袋につめた後圧搾ろ過を行い、搾汁液を回収した後、フィルタープレスにろ過助剤(セライト600)とともに供し、澄明な調味料(いわし調味料B)を得た。
【0069】
いわし調味料C:
生のいわし400gをチョッパーにて破砕し、これに、食塩50g、酵母(イーストYF 加ト吉製)、25gをミキサーにて混合したものをタンクにつめ、30日間、雰囲気温30℃に調節された部屋に静置した。31日目にテフロン(登録商標)袋につめた後圧搾ろ過を行ったが、(いわし調味料C)充分な液量を得ることは出来なかった。
【0070】
酵母無添加、塩10%ケース、途中腐敗のケース:
生のいわし450gをチョッパーで破砕し、これに食塩50gをミキサーにて混合したものをタンクにつめ30日間、雰囲気温30℃に調整された部屋に静置した。15日を経過した時点で微生物の増殖による腐敗臭の発生及び熟成容器の壁部にカビの発生が認められたため、試験を中止した。
【0071】
下表に、遊離アミノ酸含量を示した。
【0072】
【表9】

【0073】
以上の結果より、発酵や自己消化によりいわし調味料を製造する場合、塩分濃度10%で酵母も酵素も入れない場合には腐敗するものを、パン酵母を加えることによって腐敗を抑えられることが分かる。このことは塩濃度が低い場合にもパン酵母を加えることよって腐敗が抑えられることを示している。
【0074】
さらに、いわし調味料Bと酵母のみを加えたいわし調味料Cを比較すると、いずれも腐敗は起こらないものの、酵素を加えていないいわし調味料Cではアミノ酸の遊離が少なく、呈味が強い調味料は得られなかった。この結果より、いわしからのアミノ酸をより多く遊離させるためには酵素(プロテアーゼ)を添加する必要があることが分かる。
【実施例7】
【0075】
[いわし調味料の官能評価]
実施例5の方法で、パン酵母の代わりに醤油酵母(秋田今野商店製、Zygosaccharomyces. rouxii)を用いて仕込み、31日目にテフロン(登録商標)袋につめた後、圧搾ろ過を行い、搾汁液を回収した後、フィルタープレスにろ過助剤(セライト600)とともに供し、澄明な調味料(いわし調味料D)を得た。
【0076】
官能検査結果を以下に示す。
【0077】
【表10】

【0078】
パン酵母を使用したものは、醤油酵母特有の醤油様の旨味・香りはなく、いわしの香りを感じることができる調味料を製造できた。
【実施例8】
【0079】
[醤油酵母の使用]
実施例2に示されたカキ調味料Aと同様の方法で、下記の配合及び条件で、調味料を2種調製した。
【0080】
【表11】

【0081】
得られた調味料についての評価結果を下表に示した。
【0082】
【表12】

【0083】
【表13】

【0084】
いずれの酵母でも良好な調味料が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)原料魚介類に、
(b)原料由来の分解酵素、
(c)タンパク質分解酵素、及び
(d)熟成上有効量の酵母を、
腐敗防止上有効でありかつ酵母生育を抑制しない塩分濃度で、原料分解上有効な期間作用させて分解処理物を得て、そして分解物から液汁を得る工程を含む、調味料組成物の製造方法。
【請求項2】
塩分濃度が、8〜18重量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
酵母が、サッカロマイセス・セレビィジェである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
酵母が、パン酵母である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
魚介類が、いわし、さば、あじ、さんま、かつお、まぐろ、かき、ほたて、あわび、はまぐり、あさり、しじみ、いか、たこ、えび及びかにからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
魚介類が、非加熱のものと加熱加工物との混合物である、請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
魚介類が、かきを含む、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
パン酵母を用いることを特徴とする、魚介類から熟成工程を経て製造された調味料組成物において不快臭を低減する方法。

【公開番号】特開2011−120484(P2011−120484A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278459(P2009−278459)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000140650)テーブルマーク株式会社 (55)
【Fターム(参考)】