説明

方位検出装置

【課題】様々な環境で、適切に各ターゲットの方位を検出可能な方位検出装置を提供すること。
【解決手段】本発明が適用されたレーダ装置は、車速情報が示す自車の車速Vsが、閾値Vsth以上であるか否かを判断し(S120)、車速Vsが閾値Vsth以上であると(S120でYes)、通常検出処理を実行して、空間平均法を適用せずに、受信アンテナが受信した反射波発生元の各ターゲットに関し、自車を基準としたターゲットの方位Θを検出する(S130)。そして、この情報を出力する(S150)。一方、車速Vsが閾値Vsth未満であると判断すると(S120でNo)、空間平均検出処理を実行して、空間平均法を用い、受信アンテナが受信したレーダ波の反射波発生元の各ターゲットに関し、ターゲットの方位Θを検出する(S140)。そして、この情報を出力する(S150)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ波を用いて前方物体の方位を検出する方位検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、方位検出装置としては、車載用のレーダ装置であって、レーダ波を発射し、反射波を受信することにより、自車前方に存在する車両までの距離や方位、この車両と自車との相対速度を検出するレーダ装置が知られている。また、この種のレーダ装置としては、FMCW方式のレーダ装置(以下、「FMCWレーダ装置」と表現する)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
FMCWレーダ装置では、図9上段に実線で示すように、三角波上の変調信号により周波数変調され周波数が時間に対して直線的に漸次増減する送信信号Ssをレーダ波として送信し、図10に示すように、ターゲットにより反射されたレーダ波(以下では「反射波」ともいう)を受信する。
【0004】
この時、受信信号Srは、図9上段に点線で示すように、レーダ波がターゲットとの間を往復するのに要する時間、即ち、ターゲットまでの距離に応じた時間Trだけ遅延し、ターゲットとの相対速度に応じた周波数fdだけドップラシフトする。
【0005】
FMCWレーダ装置では、このような受信信号Srと送信信号Ssとをミキサで混合することにより、両信号Sr,Ssの差の周波数成分であるビート信号BT(図9下段参照)を生成する。尚、送信信号Ssの周波数が増加する時のビート信号BTの周波数fb1と、送信信号Ssの周波数が減少する時のビート信号BTの周波数fb2とから、遅延時間Trに基づく周波数frは、式(1)、ドップラシフト周波数fdは、式(2)に従って算出することができる。
【0006】
また、ターゲットとの距離R及び相対速度Vは、これらの周波数fr,fdに基づき、式(3)及び式(4)に従って、算出することができる。但し、cは電波伝搬速度,fmは送信信号の変調周波数、ΔFは送信信号の周波数変動幅、F0は送信信号の中心周波数である。
【0007】
【数1】

【0008】
従って、FMCWレーダ装置では、ビート信号BTをフーリエ変換して、周波数解析することで、前方に位置するターゲットまでの距離及び相対速度を検出することができる。
また、ターゲットの方位については、受信アンテナであるアレーアンテナの各アンテナ素子が受信する反射波に、到来方向に応じた位相差が生じることを利用して検出する。複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナを用いて、物体の方位を検出する方法としては、各アンテナ素子が受信した受信信号間の相関を表す相関行列に基づき、角度スペクトラムを生成し、この角度スペクトラムを解析することで、方位を検出する方法が知られている。
【0009】
ここで、方位の検出方法として広く知られているMUSIC法について、概要を説明する。尚、アレーアンテナは、M個のアンテナ素子を一直線上に等間隔で配置した、所謂リニアアレーアンテナであるものとする(図1参照)。
【0010】
まず、アレーアンテナの各アンテナ素子が受信した反射波のビート信号BTをフーリエ変換し、パワーのピークが立つピーク周波数での各アンテナ素子のフーリエ変換値を配列して、式(5)に示す受信ベクトルXを構成する。次に、この受信ベクトルXを用いて、式(6)に示すM行M列の相関行列Rxxを求める。
【0011】
【数2】

【0012】
ここで、受信ベクトルXの要素xm(m=1,…,M)は、M個の各アンテナ素子について共通して得られたピーク周波数におけるm番目のアンテナ素子のフーリエ変換値(複素数)である。上式において、Tは、ベクトル転置を示し、Hは、複素共役転置を示す。
【0013】
相関行列Rxxを求めた後には、相関行列Rxxの固有値λ1〜λM(但し、λ1≧λ2≧…λM)を求め、熱雑音電力より大きい固有値の数から到来波数Lを推定すると共に、固有値λ1〜λMに対応する固有ベクトルe1〜eMを算出する。
【0014】
そして、熱雑音電力以下となる(M−L)個の固有値に対応した固有ベクトルからなる雑音固有ベクトルENを、式(7)で定義し、自車進行方向を基準とした方位Θに対するアレーアンテナの複素応答をa(Θ)で表すものとして、式(8)に示す評価関数PMU(Θ)を求める。
【0015】
【数3】

【0016】
評価関数PMU(Θ)から得られる角度スペクトラム(MUSICスペクトラム)は、方位Θが到来波の到来方向と一致すると発散して、鋭いピークが立つように設定されているため、到来波の推定方位Θ1〜ΘL、即ち、反射波を発生させたターゲットの方位は、MUSICスペクトラムのピーク(ヌルポイント)を検出することにより求めることができる。
【0017】
但し、MUSIC法は、各到来波が互いに無相関であることを前提としているため、相関の強い到来波の複数をアレーアンテナで受信する際には、方位の検出精度が劣化する。
従って、方位検出に際しては、三角波上の変調信号により周波数変調される送信信号Ssの生成サイクルに合わせて、相関行列Rxxを、複数サイクル分求め、これを時間平均して、相関行列E[Rxx]を求め、この相関行列E[Rxx]の固有値・固有ベクトルから、MUSICスペクトラム(評価関数)を導出し、反射波を発生させたターゲットの方位を求めるといった手法が、広く採用されている。
【0018】
このような手法によれば、時間平均を求めるため、各ターゲットが独立して移動している場合、図10(a)に示すように、MUSICスペクトラムにおいて、鋭いピークが立ち、自車前方のターゲット(車両)の方位を、精度よく検出することができる。尚、図10(a)は、自車から同一距離に位置する複数のターゲットについて、各ターゲットの相関が高速走行時等で弱い場合のMUSICスペクトラムの態様を表す図である。
【特許文献1】特開2001−221842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、上述の時間平均を採る手法で方位を検出しても、自車前方において、停止しているターゲット(他の車両)が複数ある場合には、ターゲットの位置に変化がないため、車両間の相関が強く、各車両の方位を、正確に検出することができないといった問題があった。尚、図10(b)は、複数のターゲットが同一距離の地点に停止している場合のMUSICスペクトラムの態様を表す図である。このように、複数のターゲットが停止している状況では、MUSICスペクトラムにおいて鋭いピークが立たず、各車両の真の方位を検出することができないのである。
【0020】
従って、低速でのクルーズコントロール(ACC:Adaptive Cruise Control system)等では、上記手法による方位検出結果を用いて、適切に車両制御を行うことができないといった問題があった。
【0021】
また、方位の検出精度を向上させる技術としては、上記時間平均を採る手法の他、空間平均を採る手法(所謂、空間平均法)が知られているが、この空間平均法を採用しても、方位の検出性能の点で問題があった。
【0022】
空間平均法では、M素子のアレーアンテナから、(M−J+1)素子サブアレーを、アンテナ素子を一つずつずらしながら、J個取り出し、サブアレー毎に、サブアレーを構成する各アンテナ素子のピーク周波数のフーリエ変換値を配列して、式(9)に示す受信ベクトルXsj(但し、jは、サブアレーの識別番号であって、j=1,…,J)を構成する。次に、この受信ベクトルXs1〜XsJを用いて、式(10)に示す(M−J+1)行(M−J+1)列の相関行列SRxxを求める。
【0023】
【数4】

【0024】
そして、この相関行列SRxxの固有値・固有ベクトルを求めて、MUSICスペクトラム(評価関数)を導出し、反射波を発生させたターゲットの方位を求める。このように空間平均法では、サブアレーとターゲットとの位置関係がサブアレー毎に異なる事を利用して、各ターゲットの方位を検出するため、精度よくターゲットまでの方位を検出することができる。即ち、このように、方位を検出すれば、自車前方において、停止しているターゲット(他の車両)が複数ある場合でも、空間平均を採らない場合と比較して、精度よく、ターゲットを検出することができる。
【0025】
しかしながら、空間平均法では、受信ベクトル及び相関行列SRxxの要素数が減少することに伴って、相関行列の固有ベクトル数が減少するため、検出可能なターゲット(到来波)の個数Lが減少する。即ち、評価関数PMU(Θ)を求めるためには、最低1つの固有ベクトルからなる雑音固有ベクトルENを定義しなければならないため、相関行列がM行M列から、(M−J+1)行(M−J+1)列になると、ピーク周波数が重なる同一距離のターゲットに関して、検出可能なターゲット数は、(M−1)個から、(M−J)個に減ってしまう。このため、空間平均法を用いた方位検出装置では、自車から同一距離に、検出可能な(M−J)個を超える車両が並んでいる場合、各車両の方位を正確に検出することができないのである。
【0026】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、空間平均法を用いてターゲットの方位を検出する従来装置、及び、空間平均法によらずにターゲットの方位を検出する従来装置の夫々に存在する上記欠点を補い、様々な環境で、適切に各ターゲットの方位を検出することが可能な方位検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
かかる目的を達成するためになされた請求項1記載の方位検出装置では、周波数変調された送信信号に従って送信したレーダ波の反射波をアレーアンテナで受信し、このアレーアンテナを構成する各アンテナ素子からの受信信号に、上記送信信号を混合して、各アンテナ素子毎のビート信号を生成する。そして、生成した各アンテナ素子のビート信号に基づき、アレーアンテナが受信した反射波の発生元である物体の方位を検出する。
【0028】
方位を検出するに際しては、まず、アレーアンテナを構成する各アンテナ素子のビート信号を、変換手段にて、フーリエ変換する。また、自装置の運動状態、及び、自装置周囲に位置する物体の配置状態の少なくとも一方に基づき、角度スペクトラムの算出に用いる相関行列を、相関行列選択手段にて選択する。
【0029】
本発明の方位検出装置は、第一相関行列生成手段及び第二相関行列生成手段を有しており、第一相関行列生成手段では、変換手段の変換結果に基づき、アレーアンテナを構成する各アンテナ素子が共通して有するピーク周波数における、各アンテナ素子のフーリエ変換値、を配列してなる受信ベクトルを生成し、この受信ベクトルの相関行列R1を生成する。
【0030】
また、第二相関行列生成手段では、変換手段の変換結果に基づき、アレーアンテナを構成するサブアレー毎に、アレーアンテナを構成する各アンテナ素子が共通して有するピーク周波数における、サブアレーを構成する各アンテナ素子のフーリエ変換値、を配列してなる受信ベクトルを生成し、サブアレー毎に生成した受信ベクトルの相関行列を加算して、相関行列R2を生成する。
【0031】
即ち、相関行列選択手段では、角度スペクトラムの算出に用いる相関行列として、自装置の運動状態、及び、自装置周囲に位置する物体の配置状態の少なくとも一方に基づき、第一相関行列生成手段が生成する相関行列R1、及び、第二相関行列生成手段が生成する相関行列R2のいずれか一方を選択する。
【0032】
そして、この方位検出装置では、相関行列選択手段によって選択された相関行列R1、又は、相関行列R2を用いて、方位検出手段により、受信強度の角度スペクトラムを算出し、この角度スペクトラムを解析して、アレーアンテナが受信した反射波の発生元である物体の方位を検出する。
【0033】
このように、本発明では、自装置の運動状態、及び、自装置周囲に位置する物体の配置状態の少なくとも一方に基づき、方位の検出手法を切り替えるので、空間平均による方位検出が適した状況では、空間平均による方位検出を行い、空間平均による方位検出が適さない状況では、空間平均による方位検出を実行しないようにすることができる。
【0034】
従って、例えば、方位検出装置が設置された車両(自車)の走行速度が低く、自車前方に停止車両が存在していることが推定される場合、角度スペクトラムの算出に用いる相関行列として、相関行列R2を選択するように、方位検出装置を構成すれば、自車周囲に位置する複数の停止車両の方位を、夫々、正確に検出することができる。
【0035】
また、自車前方に車両が多く存在する状況では、検出可能な車両数が少ない空間平均での方位検出が適さない状況も考えられるので、その場合には、相関行列R1を、角度スペクトラムの算出に用いる相関行列として選択することで、上記状況においても、各車両の方位を、正確に検出することができる。
【0036】
尚、本発明の方位検出装置は、具体的に、請求項2記載のように構成することができる。請求項2記載の方位検出装置は、相関行列選択手段が、自装置の運動状態を表す情報として、自装置の移動速度を表す情報を取得する速度情報取得手段を備え、速度情報取得手段の取得情報が示す自装置の移動速度に基づき、第一相関行列生成手段が生成する相関行列R1、及び、第二相関行列生成手段が生成する相関行列R2のいずれか一方を、角度スペクトラムの算出に用いる相関行列として選択する構成にされたものである。
【0037】
方位検出装置が設置された車両(自車)において、低速でのクルーズコントロールを実現する際には、自車前方に、信号待ち等で停車している車両の方位等を正確に検出する必要があるが、本発明によれば、方位検出手法の切替により、自車前方に並んで位置する同一距離の複数の停止車両の方位を、正確に検出することができるので、低速でのクルーズコントロール等に好適な方位検出装置を構成することができる。
【0038】
具体的に、速度情報取得手段の取得情報が示す自装置の移動速度が閾値以上であると、第一相関行列生成手段が生成する相関行列R1を選択し、自装置の移動速度が閾値未満であると、第二相関行列生成手段が生成する相関行列R2を選択するように、相関行列選択手段を構成すれば(請求項3)、低速走行時に、空間平均の手法により、停車中の車両も含めて、自車前方の車両を精度よく検出することができ、この検出結果を用いて、低速でのクルーズコントロール等を適切に実現することができる。
【0039】
また、相関行列選択手段は、請求項4記載のように構成されてもよい。請求項4記載の方位検出装置は、相関行列選択手段が、自装置周囲に位置する物体の配置状態として、自装置周囲に位置する各物体の位置情報を取得する位置情報取得手段を備え、位置情報取得手段が取得した各物体の位置情報に基づき、角度スペクトラムの算出に用いる相関行列として、第一相関行列生成手段が生成する相関行列R1、及び、第二相関行列生成手段が生成する相関行列R2のいずれか一方を選択する構成にされたものである。
【0040】
このように構成された請求項4記載の方位検出装置によれば、自装置周囲における物体(車両等)の配置状況に基づいて、方位の検出手法を切り替えるので、自装置の前方に数多くの車両が存在する場合には、空間平均の手法によらず、方位検出を行うといったことができ、周囲の車両数が多い場合でも、各車両の方位を、正確に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の実施例について、図面と共に説明する。但し、本発明の方位検出装置は、以下に説明する実施例に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
【実施例1】
【0042】
図1は、本発明が適用された第一実施例の車載用レーダ装置1の構成を表すブロック図である。本実施例の車載用レーダ装置1は、時間に対して周波数が直線的に増加する上り区間及び周波数が直線的に減少する下り区間を有するように変調されたミリ波帯の高周波信号を生成する発振器11と、発振器11が生成する高周波信号を増幅する増幅器13と、増幅器13の出力を送信信号Ss(図9参照)とローカル信号Lとに電力分配する分配器15と、送信信号Ssに応じたレーダ波を放射する送信アンテナ17と、ターゲット(前方車両)により反射されたレーダ波(反射波)を受信するM個のアンテナ素子からなる受信アンテナ19と、を備える。
【0043】
また、この車載用レーダ装置1は、受信アンテナ19を構成するアンテナ素子のいずれかを順次選択し、選択されたアンテナ素子からの受信信号Srを後段に供給する受信スイッチ21と、受信スイッチ21から供給される受信信号Srを増幅する増幅器23と、増幅器23にて増幅された受信信号Sr及びローカル信号Lを混合して、ビート信号BTを生成(図9参照)するミキサ25と、ミキサ25が生成したビート信号BTから不要な信号成分を除去するフィルタ27と、フィルタ27の出力をサンプリングし、ディジタルデータに変換するA/D変換器29と、発振器11の起動/停止や、A/D変換器29を介してビート信号BTのサンプリングを制御すると共に、そのサンプリングデータを用いた信号処理や、車間制御ECU40との通信を行い、信号処理に必要な情報(車速情報)、及び、その信号処理の結果として得られるターゲットの位置・相対速度・方位等の情報を送受信する処理を行う信号処理部30と、を備える。
【0044】
具体的に、受信アンテナ19は、M個のアンテナ素子が、一列に等間隔で配置されたリニアアレーアンテナであり、各アンテナ素子は、ビーム幅がいずれも送信アンテナのビーム幅全体を含むように設定されている。また、各アンテナ素子に対しては、順に、第一チャンネル(CH_1)〜第Mチャンネル(CH_M)が割り当てられている。
【0045】
また、信号処理部30は、周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、更に、A/D変換器29を介して取り込んだデータについて高速フーリエ変換(FFT)処理等を実行するための演算処理装置(例えば、DSP)を備える。
【0046】
このように構成された本実施例の車載用レーダ装置1では、信号処理部30からの指令に従って発振器11が起動すると、その発振器11が生成し増幅器13が増幅した高周波信号を、分配器15が電力分配することにより、送信信号Ss及びローカル信号Lが生成され、送信信号Ssが、送信アンテナ17を介して、レーダ波として送出される。
【0047】
そして、送信アンテナ17から送出されターゲットに反射して戻ってきたレーダ波(反射波)は、受信アンテナ19を構成する各アンテナ素子にて受信され、受信スイッチ21によって選択されたチャンネルCH_m(m=1,…,M)の受信信号Srのみが増幅器23で増幅された後、ミキサ25に供給される。ミキサ25では、受信信号Srに分配器15からのローカル信号が混合されて、ビート信号BTが生成される。このビート信号BTは、フィルタ27にて不要な信号成分が除去された後、A/D変換器29にてサンプリングされ、信号処理部30に取り込まれる。
【0048】
尚、受信スイッチ21は、レーダ波の一変調周期の間に、全てのチャンネルCH_1〜CH_Mを所定回(例えば、512回)ずつ選択するように、切り替えられ、A/D変換器29は、この切替タイミングに同期してサンプリングを行う。即ち、信号処理部30では、レーダ波の一変調周期の間に、各チャンネルCH_1〜CH_M毎、且つ、レーダ波の上り/下りの各区間毎に、サンプリングデータが蓄積される。
【0049】
また、信号処理部30は、プログラムの実行等によって、FFT処理部31及び信号解析部33として機能し、FFT処理部31は、一変調周期が経過する度に、その間に蓄積されたサンプリングデータを、各チャンネルCH_1〜CH_M毎、且つ、レーダ波の上り/下りの各区間毎に、FFT処理して、各区間毎及び各チャンネル毎に、サンプリングデータDmに対応するフーリエ変換値F[Dm]を算出する。尚、mは、チャンネル番号を表す。
【0050】
また、信号解析部33は、図2に示す主検出処理を実行して、自車からターゲットまでの距離R、及び、自車を基準としたターゲットの相対速度V、自車進行方向を基準としたターゲットの方位Θを検出する。図2は、信号解析部33が、変調周期に合わせて繰返し(具体的には、変調周期がK回経過する毎に)実行する主検出処理を表すフローチャートである。
【0051】
信号解析部33は、主検出処理を開始すると、まず、車速情報を車間制御ECU40を介して、車速センサ50から取得する(S110)。図1に示すように、車間制御ECU40は、車速を検出する車速センサ50と、CAN(Controller Area Network)を通じて接続されており、車速センサ50から常時車速情報を取得する。S110において、信号解析部33は、この車速情報を、車間制御ECU40を介して取得する。
【0052】
また、この処理を終えると、信号解析部33は、車速情報が示す自車の車速Vsが、予め定められた閾値Vsth以上(例えば、時速50km以上)であるか否かを判断し(S120)、車速Vsが閾値Vsth以上であると判断すると(S120でYes)、図3に示す通常検出処理を実行して、受信アンテナ19が受信した反射波発生元の各ターゲットに関し、自車からターゲットまでの距離R、自車を基準としたターゲットの相対速度V、自車進行方向を基準としたターゲットの方位Θを検出する(S130)。そして、これらの情報(距離R、相対速度V、方位Θ)を含んだターゲット情報を、車間制御ECU40に送信する(S150)。その後、当該主検出処理を一旦終了し、変調周期に合わせて、再び主検出処理を実行する。
【0053】
これに対し、車速Vsが閾値Vsth未満であると判断すると(S120でNo)、信号解析部33は、図5に示す空間平均検出処理を実行して、受信アンテナ19が受信したレーダ波の反射波発生元の各ターゲットに関し、自車からターゲットまでの距離R、自車を基準としたターゲットの相対速度Vを検出すると共に、空間平均法を用いて、自車進行方向を基準としたターゲットの方位Θを検出する(S140)。そして、これらの情報(距離R、相対速度V、方位Θ)を含むターゲット情報を、車間制御ECU40に送信する(S150)。尚、ターゲットが自車前方に存在しない場合、信号解析部33は、S150にて、ターゲットが存在しない旨のターゲット情報を、車間制御ECU40に送信する。その後、信号解析部33は、当該主検出処理を一旦終了し、変調周期に合わせて、再び、主検出処理を実行する。
【0054】
次に、通常検出処理について説明する。図3は、信号解析部33が実行する通常検出処理を表すフローチャートである。
通常検出処理を開始すると、信号解析部33は、変調周期を1サイクルとして、現在から過去Kサイクル分のFFT処理結果(Kサイクル分のフーリエ変換値F[Dm])を、各チャンネル毎及び各区間毎に、FFT処理部31から取得する(S210)。
【0055】
また、この処理を終えると、信号解析部33は、Kサイクル分のFFT処理結果に基づき、上り区間及び下り区間の各区間毎に、各チャンネルに共通するピーク周波数を検出する(S220)。図4は、ピーク周波数の検出方法に関する説明図であり、各チャンネルの周波数スペクトラムを示したものである。この図では、検出するピーク周波数に対応するピークを、太線で囲んで示す。尚、ここでいうピーク周波数とは、周波数スペクトラムにおいて、パワーが所定の閾値を超えて突出するピークの周波数のことである。ピーク周波数は、最新サイクルのFFT処理結果から得られた周波数スペクトラムに基づき検出されてもよいし、Kサイクル分のFFT処理結果から得られた周波数スペクトラムを積算し、積算したスペクトラムに基づいて検出されてもよい。
【0056】
また、S220の処理を終えると、信号解析部33は、一対以上の上記共通するピーク周波数が検出されたか否かを判断する(S230)。即ち、S220で上記共通するピーク周波数が各区間毎に1以上検出されたか否かを判断する。S220で上記共通するピーク周波数が各区間毎に1以上検出されている場合、信号解析部33は、S230でYesと判断し、S240に移行する。一方、上記共通するピーク周波数が各区間毎に1以上検出されていない場合、信号解析部33は、S230でNoと判断し、S235に移行する。そして、S235では、ターゲットが存在しないと判定して、ターゲットが存在しない旨のターゲット情報を生成し(S235)、当該通常検出処理を終了する。
【0057】
また、S240に移行すると、信号解析部33は、S220で検出した複数のピーク周波数の中から、ピーク周波数を一つ選択し(S240)、これに対応する処理対象区間を設定する(S250)。即ち、S240で選択したピーク周波数の検出元が上り区間の周波数スペクトラムである場合には、処理対象区間として、上り区間を設定し、S240で選択したピーク周波数の検出元が下り区間の周波数スペクトラムである場合には、処理対象区間として、下り区間を設定する。また、S250での処理を終えると、信号解析部33は、サイクル番号を表すパラメータkを、k=1に設定して(S260)、S270に移行する。
【0058】
S270に移行すると、信号解析部33は、第kサイクルの受信ベクトルX(k)として、式(11)に示すX(k)を生成する。尚、ここでは、過去Kサイクルの内、最も過去のサイクルを、第1サイクルとして、時間方向に順に、サイクル番号を割り当てるものとする。
【0059】
【数5】

【0060】
また、受信ベクトルX(k)の各要素xm(k)は、第kサイクルの処理対象区間(上り区間又は下り区間)における第mチャンネルのフーリエ変換値(複素数)であって、S240で選択したピーク周波数のフーリエ変換値(複素数)を示すものとする。
【0061】
そして、S270での処理を終えると、信号解析部33は、上記S270で生成した受信ベクトルX(k)についての相関行列Rxx(k)を生成する(S280)。
【0062】
【数6】

【0063】
また、S280での処理を終えると、信号解析部33は、パラメータkの値を1加算し(S290)、加算後のパラメータkの値が、スナップショット数Kより大きいか否かを判断する(S300)。そして、パラメータkの値が、スナップショット数K以下であると判断すると(S300でNo)、S270に移行し、現在のパラメータkの値を用いて、第kサイクルの受信ベクトルX(k)を生成し、この受信ベクトルX(k)についての相関行列Rxx(k)を生成する(S280)。
【0064】
この他、信号解析部33は、パラメータkの値がスナップショット数Kより大きいと判断すると(S300でYes)、S310に移行する。
S310に移行すると、信号解析部33は、S280で求めた第1サイクルから第Kサイクルまでの各相関行列Rxx(k)と、前回の主検出処理の実行時にS310で算出した相関行列Raと、に基づき、新たな相関行列Raを算出する。但し、γは、0<γ<1の定数である。
【0065】
【数7】

【0066】
尚、今回が、当該レーダ装置1の起動後に実行する初回の主検出処理である場合、又は、前回の主検出処理でS140に移行している場合、信号解析部44は、式(13)右辺に示す相関行列Raを、初期値ゼロとして取扱い、新規に相関行列Raを算出する。そして、算出した相関行列Raを、次回のS310で用いることができるように、信号処理部30が有するRAMに保存する。
【0067】
また、この処理を終えると、信号解析部33は、S320に移行し、相関行列Raを用いて、MUSIC法により、ターゲットの方位を検出する。
即ち、相関行列Raの固有値λ1〜λM(但し、λ1≧λ2≧…λM)を求め、熱雑音電力より大きい固有値の数から到来波数Lを推定すると共に、固有値λ1〜λMに対応する固有ベクトルe1〜eMを算出する。そして、熱雑音電力以下となる(M−L)個の固有値に対応した固有ベクトルeL+1〜eMからなる雑音固有ベクトルENを、式(7)で定義し、方位Θに対するアレーアンテナの複素応答をa(Θ)で表すものとして、式(8)に示す評価関数PMU(Θ)を求める。
【0068】
そして、評価関数PMU(Θ)から得られる角度スペクトラム(MUSICスペクトラム)から、閾値を超えるピークを検出して、ピークに対応する方位Θを、反射波を発生させたターゲットの方位として検出する。
【0069】
また、このようにして、方位を検出すると、信号解析部33は、S330に移行し、S220で検出した上り/下り各区間のピーク周波数の一群の中に、S240にて未選択のピーク周波数が存在するか否かを判断し、未選択のピーク周波数が存在すると判断すると(S330でYes)、S240に移行して、未選択のピーク周波数を選択し、S250以降の処理を実行する。
【0070】
一方、未選択のピーク周波数が存在しないと判断すると(S330でNo)、信号解析部33は、S340に移行し、上り区間及び下り区間の各区間で検出した各ターゲットの方位の情報を手掛かりに、上り区間及び下り区間における適切なピーク周波数の組を求める。即ち、S340では、周知のペアマッチ処理を実行する。その後、信号解析部33は、ペアマッチ処理によりペアであると判定した上り区間及び下り区間のピーク周波数のペアに基づき、自車からターゲットまでの距離R、及び、自車を基準としたターゲットの相対速度Vを、式(1)〜(4)に従って算出する(S350)。
【0071】
そして、この算出結果に基づき、レーダ波の反射波発生元の各ターゲットについて、ターゲットまでの距離R、及び、ターゲットとの相対速度V、並びに、ターゲットの方位Θを記述したターゲット情報を生成する(S360)。その後、当該通常検出処理を終了する。
【0072】
次に、空間平均検出処理について説明する。図5は、信号解析部33が実行する空間平均検出処理を表すフローチャートである。
空間平均検出処理を開始すると、信号解析部33は、まず通常検出処理と同様に、現在から過去Kサイクル分のFFT処理結果(Kサイクル分のフーリエ変換値F[Dm])を、各チャンネル毎及び各区間毎に、FFT処理部31から取得し(S410)、このKサイクル分のFFT処理結果に基づき、上り区間及び下り区間の各区間毎に、各チャンネルに共通するピーク周波数を検出する(S420)。
【0073】
また、この処理を終えると、信号解析部33は、S420の処理にて一対以上の上記共通するピーク周波数が検出されたか否かを判断し(S430)、S420の処理で上記共通するピーク周波数が各区間毎に1以上検出されている場合、S430でYesと判断して、S440に移行する。一方、上記共通するピーク周波数が各区間毎に1以上検出されていない場合、信号解析部33は、S430でNoと判断し、S435に移行する。また、S435では、ターゲットが存在しないと判定して、ターゲットが存在しない旨のターゲット情報を生成し(S435)、当該空間平均検出処理を終了する。
【0074】
これに対し、S440に移行すると、信号解析部33は、検出したピーク周波数の一群の中から、一つのピーク周波数を選択し(S440)、これに対応する処理対象区間を設定する(S450)。即ち、S440で選択したピーク周波数の検出元が上り区間の周波数スペクトラムである場合には、処理対象区間として、上り区間を設定し、S440で選択したピーク周波数の検出元が下り区間の周波数スペクトラムである場合には、処理対象区間として、下り区間を設定する。また、S450での処理を終えると、k=1に設定して(S460)、S470に移行する。
【0075】
S470に移行すると、信号解析部33は、第kサイクルの処理対象区間における各チャンネルのフーリエ変換値であって、S440で選択したピーク周波数のフーリエ変換値x1(k),…,xM(k)を用い、J個のサブアレーに関して、サブアレー毎の受信ベクトルXsj(k)を、式(14)に従って生成する。但し、jは、サブアレーの識別番号であり、j=1,…,Jである。
【0076】
【数8】

【0077】
即ち、M素子のアレーアンテナである受信アンテナから、(M−J+1)素子サブアレーを、アンテナ素子を一つずつずらしながら、J個取り出し、サブアレー毎に、サブアレーを構成する各アンテナ素子のピーク周波数のフーリエ変換値を配列して、式(14)に示す受信ベクトルXsjを構成する。
【0078】
そして、S470での処理を終えると、信号解析部33は、S470で生成したサブアレー毎の受信ベクトルXsj(k)を加算して、空間平均法により、相関行列SRxx(k)を生成する(S480)。
【0079】
【数9】

【0080】
尚、図6は、通常検出処理における相関行列Rxxの生成方法を上段に示し、下段に、J=2として、空間平均検出処理における相関行列SRxxの生成方法を示した説明図である。
【0081】
J=2である場合には、第1チャンネルから第(M−1)チャンネルのアンテナ素子の一群を、第一のサブアレーに設定して、第2チャンネルから第Mチャンネルのアンテナ素子の一群を、第二のサブアレーに設定する。
【0082】
そして、フーリエ変換値x1(k),…,xM-1(k)を配列してなる受信ベクトルXs1(k)を、第一のサブアレーの受信ベクトルXs1(k)として構成し、フーリエ変換値x2(k),…,xM(k)を配列してなる受信ベクトルXs2(k)を、第二のサブアレーの受信ベクトルXs2(k)として構成する。そして、受信ベクトルXs1(k),Xs2(k)の相関行列を加算して、相関行列SRxxを生成する。
【0083】
また、S480での処理を終えると、信号解析部33は、パラメータkの値を1加算し(S490)、パラメータkの値が、スナップショット数Kより大きいか否かを判断する(S500)。そして、パラメータkの値が、スナップショット数K以下であると判断すると(S500でNo)、S470に移行し、現在のパラメータkの値を用いて、第kサイクルの受信ベクトルXsj(k)を生成する。更に、この受信ベクトルXsj(k)に基づき、相関行列SRxx(k)を生成する(S480)。また、S500で、パラメータkの値がスナップショット数Kより大きいと判断すると(S500でYes)、S510に移行する。
【0084】
S510に移行すると、信号解析部33は、S480で求めた第1サイクルから第Kサイクルまでの各相関行列SRxx(k)と、前回の主検出処理の実行時にS510で算出した相関行列SRaと、に基づき、新たな相関行列SRaを算出する。但し、γは、0<γ<1の定数である。
【0085】
【数10】

【0086】
尚、今回が、当該レーダ装置1の起動後に実行する初回の主検出処理である場合、又は、前回の主検出処理でS130に移行している場合、信号解析部44は、式(16)右辺に示す相関行列SRaを、初期値ゼロとして取扱い、新規に相関行列SRaを算出する。そして、算出した相関行列SRaを、次回のS510で用いることができるように、信号処理部30が有するRAMに保存する。
【0087】
また、この処理を終えると、信号解析部33は、S520に移行し、相関行列SRaを用いて、MUSIC法により、ターゲットの方位を検出する。即ち、相関行列SRaの固有値λ1〜λM-J+1を求め、熱雑音電力より大きい固有値の数から到来波数Lを推定すると共に、固有値λ1〜λM-J+1に対応する固有ベクトルe1〜eM-J+1を算出する。そして、熱雑音電力以下となる(M−J+1−L)個の固有値に対応した固有ベクトルからなる雑音固有ベクトルENを、式(7)で定義し(但し、式(7)のMは、M−J+1に置き換える)、方位Θに対するアレーアンテナの複素応答をa(Θ)で表すものとして、式(8)に示す評価関数PMU(Θ)を求める。
【0088】
そして、評価関数PMU(Θ)から得られる角度スペクトラム(MUSICスペクトラム)から、ピークを検出して、ピークに対応する方位Θを、反射波を発生させたターゲットの方位として検出する。
【0089】
また、このようにして、方位を検出すると、信号解析部33は、S530に移行し、S420で検出した上り/下り各区間のピーク周波数の一群の中に、S440にて未選択のピーク周波数が存在するか否かを判断し、未選択のピーク周波数が存在すると判断すると(S530でYes)、S440に移行して、未選択のピーク周波数を選択し、S450以降の処理を実行する。
【0090】
一方、未選択のピーク周波数が存在しないと判断すると(S530でNo)、信号解析部33は、上り区間及び下り区間の各区間におけるピーク周波数のフーリエ変換値から導出した各ターゲットの方位の情報を手掛かりに、上り区間及び下り区間における適切なピーク周波数の組を求める(S540)。その後、信号解析部33は、ペアマッチ処理によりペアであると判定した上り区間及び下り区間のピーク周波数のペアに基づき、自車からターゲットまでの距離R、及び、自車を基準としたターゲットの相対速度Vを、式(1)〜(4)に従って算出する(S550)。
【0091】
そして、この算出結果に基づき、レーダ波の反射波発生元の各ターゲットについて、ターゲットまでの距離R、及び、ターゲットとの相対速度V、並びに、ターゲットの方位Θを記述したターゲット情報を生成する(S560)。その後、当該空間平均検出処理を終了する。
【0092】
以上、第一実施例の車載用レーダ装置1について説明したが、本実施例の車載用レーダ装置1によれば、自車(自装置)の移動速度Vsが閾値Vsth以上である場合、空間平均法を適用せずに、前方に位置する各ターゲットの方位検出を行い、自車の移動速度Vsが閾値Vsth未満である場合には、空間平均法を適用して、前方に位置する各ターゲットの方位検出を行う。このため、本実施例の車載用レーダ装置1によれば、様々な状況下で、前方車両の方位を、適切に検出することができる。
【0093】
即ち、前方車両が信号待ち等で、自車から同一距離の位置に並んで停止し、自車も、後方で低速走行等している際には、前方車両の相関が強く、角度スペクトラムに鋭いピークが現れなくなることから、本実施例では、空間平均法を用いて、この問題を解消し、各車両の方位を正確に検出できるようにした。従って、本実施例によれば、低速でのクルーズコントロール等を、車間制御ECU40等にて正確に実行することができる。
【0094】
また、空間平均法を用いると、検出可能な車両の数(到来波の数)が減少するが、高速でのクルーズコントロール時には、自車と共に、前方車両も高速走行しており、前方車両の複数が自車から同一距離に位置していても、角度スペクトラムにて各車両の方位を正確に検出できることから、本実施例では、自車が高速走行している際、検出可能な車両の数が減る空間平均法を適用せずに、各車両の方位を検出することで、自車前方に位置する多くの車両を検出できるようにした。
【0095】
従って、本実施例によれば、様々な環境において、前方車両の方位を適切に検出することができ、本実施例のレーダ装置1で生成されるターゲット情報に基づいて、クルーズコントロールを行う車間制御ECU40では、高速でのクルーズコントロール及び低速でのクローズコントロールを、夫々適切に実行することができる。
【0096】
尚、本発明の変換手段は、本実施例において、FFT処理部31にて実現され、第一相関行列生成手段は、S210〜S310の処理にて実現され、第二相関行列生成手段は、S410〜S510の処理にて実現されている。その他、方位検出手段は、S320,S520の処理にて実現され、相関行列選択手段は、S110〜S120の処理にて実現されている。
【実施例2】
【0097】
続いて、第二実施例について説明する。第二実施例の車載用レーダ装置1は、第一実施例の車載用レーダ装置1に対して、主検出処理の内容を変更した程度のものである。従って、以下では、信号解析部33が実行する第二実施例の主検出処理、及び、この主検出処理内で実行されるターゲット運動予測処理についてのみ説明し、その他の説明を省略することにする。
【0098】
尚、図7は、第二実施例の信号解析部33が実行する主検出処理を表すフローチャートであり、図8は、この信号解析部33が実行するターゲット運動予測処理を表すフローチャートである。
【0099】
ターゲット運動予測処理は、第二実施例における主検出処理のS680で実行されるが、理解を簡単にするため、以下では、まず先に、ターゲット運動予測処理について説明する。このターゲット運動予測処理は、αβトラッカの手法を用いてターゲットの運動を予測するものであり、レーダ波の反射波に基づき、自車前方のターゲットまでの距離R、相対速度V、方位Θが検出される度に実行される。
【0100】
ターゲット運動予測処理を開始すると、信号解析部33は、まず、直前の通常検出処理又は空間平均検出処理にて、反射波に基づき一以上のターゲットが検出されたか否かを判断し(S700)、一以上のターゲットが検出されたと判断すると(S700でYes)、S710に移行し、ターゲットが一つも検出されていないと判断すると(S700でNo)、当該ターゲット運動予測処理を終了する。
【0101】
S710に移行すると、信号解析部33は、検出された一又は複数のターゲットの中から、処理対象のターゲット(処理対象ターゲット)を一つ選択し、この処理を終えると、選択した処理対象ターゲットまでの距離R及び自車を基準としたターゲットの相対速度Vを、前回予測したか否かを判断する(S720)。尚、前回予測している場合には、信号処理部30が有するRAMに、距離Rの予測値Rpp、相対速度VのVppが保存されているので(S820参照)、S720では、選択した処理対象ターゲットに対応する予測値Rpp,VppがRAMに記憶されているか否かを判断することにより、距離R及び相対速度Vを前回予測したか否かを判断する。
【0102】
そして、前回予測していないと判断すると(S720でNo)、信号解析部33は、S730に移行し、パラメータVpreに、今回の主検出処理で反射波に基づき得られた処理対象ターゲットの相対速度V(観測値)をセットし、パラメータRpreに、今回の主検出処理で反射波に基づき得られた処理対象ターゲットの距離R(観測値)をセットする。その後、S750に移行する。
【0103】
これに対し、前回予測したと判断すると(S720でYes)、信号解析部33は、S740に移行し、パラメータVpreに、処理対象ターゲットに対応する前回予測値Vppをセットし、パラメータRpreに、処理対象ターゲットに対応する前回予測値Rppをセットする。その後、S750に移行する。
【0104】
また、S750に移行すると、信号解析部33は、式(17)(18)に従って、値Vn,Rnを算出する。尚、α1,β1は、所定の定数であり、Tsは、当該ターゲット運動予測処理の実行周期である。
【0105】
【数11】

【0106】
また、値Vn,Rnを算出すると、信号解析部33は、S760に移行し、次回の当該ターゲット運動予測処理実行時における処理対象ターゲットの距離Rの予測値Rppを、式(19)に従って算出する。
【0107】
【数12】

【0108】
その他、S760の処理を終えると、信号解析部33は、S770に移行し、上記選択した処理対象ターゲットの相対加速度Aを、前回予測したか否かを判断する。尚、前回予測している場合には、信号処理部30が有するRAMに、相対加速度Aの予測値Appが保存されているので(S820参照)、S770では、選択した処理対象ターゲットに対応する予測値AppがRAMに記憶されているか否かを判断することによって、相対加速度Aを前回予測したか否かを判断する。
【0109】
そして、前回予測していないと判断すると(S770でNo)、信号解析部33は、S780に移行し、パラメータApreに、値ゼロをセットする(Apre=0)。その後、S800に移行する。
【0110】
これに対し、前回予測したと判断すると(S770でYes)、信号解析部33は、S790に移行し、パラメータApreに、処理対象ターゲットに対応する前回予測値Appをセットする。その後、S800に移行する。
【0111】
また、S800に移行すると、信号解析部33は、式(20)(21)に従って、値An,Vnを算出する。尚、α2,β2は、所定の定数である。
【0112】
【数13】

【0113】
また、値An,Vnを算出すると、信号解析部33は、S810に移行し、次回の当該ターゲット運動予測処理実行時におけるターゲットの相対速度Vpp、及び、相対加速度Appを、式(22)(23)に従って、算出する。
【0114】
【数14】

【0115】
その他、S810の処理を終えると、信号解析部33は、S820に移行し、処理対象ターゲットの予測値として、RAMの保存領域に、当該処理にて算出した予測値Rpp,Vpp,Appを書き込み、その後、S830に移行する。また、S830に移行すると、信号解析部33は、直前の通常検出処理又は空間平均検出処理にて、反射波に基づき検出されたターゲット群の中に、S710で処理対象ターゲットとして未選択のターゲットが存在するか否かを判断し、未選択のターゲットが存在すると判断すると(S830でYes)、S710に移行して、未選択のターゲットを、新たに処理対象ターゲットに選択する。そして、このターゲットに関し、S720以降の処理を実行する。
【0116】
一方、未選択のターゲットが存在しないと判断すると(S830でNo)、信号解析部33は、当該ターゲット運動予測処理を終了する。
続いて、第二実施例の主検出処理について、図7を用いて説明する。尚、主検出処理は、第一実施例と同様、変調周期に合わせて繰返し(具体的には、変調周期がK回経過する毎に)実行される。
【0117】
主検出処理を開始すると、信号解析部33は、まず、車速情報を、車間制御ECU40を介して、車速センサ50から取得する(S610)。また、この処理を終えると、車速情報が示す自車の車速Vsが、予め定められた閾値Vsth以上(例えば、時速50km以上)であるか否かを判断し(S620)、車速Vsが閾値Vsth以上であると判断すると(S620でYes)、S630に移行し、車速Vsが閾値Vsth未満であると判断すると(S620でNo)、S660で、図5に示す空間平均検出処理を実行した後、S670に移行する。
【0118】
S630に移行すると、信号解析部33は、前回のS680で導出した予測値に基づき、前回検出された各ターゲットについて、今回、このターゲット(以下、「基準ターゲット」とする)を中心とした半径D内に存在すると予測されるターゲット(以下、「他ターゲット」とする)を検索する。即ち、基準ターゲットの予測値Rppとの差が値D未満である予測値Rpp0が設定された他ターゲットを検索する。
【0119】
【数15】

【0120】
そして、この検索結果に基づき、基準ターゲットの半径D内に他ターゲットが規定数より多く集合している地域が存在するか否かを判断し(S640)、該当地域が存在すると判断すると(S640でYes)、信号解析部33は、S650に移行して、図3に示す通常検出処理を実行した後、S670に移行する。尚、S640で用いる規定数としては、空間平均法によるターゲットの検出可能数である値(M−J)を挙げることができる。
【0121】
これに対し、信号解析部33は、S640で該当地域が存在しないと判断すると(S640でNo)、S660で図5に示す空間平均検出処理を実行した後、S670に移行する。
【0122】
また、S670に移行すると、信号解析部33は、S650又はS660で生成されたターゲット情報を、車間制御ECU40に送信する(S670)。その後、S680に移行し、S650又はS660で検出された各ターゲットの距離R、相対速度Vを観測値として用いて、上述したターゲット運動予測処理(図8参照)を実行する。そして、このターゲット運動予測処理を終了すると、当該主検出処理を一旦終了し、変調周期に合わせて、再び主検出処理を実行する。
【0123】
以上、第二実施例の車載用レーダ装置1について説明したが、本実施例の車載用レーダ装置1によれば、低速走行時に限らず、高速走行時にも、基本的には、空間平均法を適用して、前方車両の方位を検出するが、高速走行時に限って、前方車両が、自車から同一距離の地域に密集している場合には、空間平均法による方位検出であると、検出されるべき車両の個数が、空間平均法にて検出可能な車両の個数(到来波の個数)を越える可能性があるので、空間平均法を適用せずに、方位の検出を行う。
【0124】
従って、本実施例の車載用レーダ装置1によれば、様々な環境に合わせて、適切に方位検出を行うことができ、このレーダ装置1で生成されるターゲット情報に基づいて、クルーズコントロール等を行う車間制御ECU40では、高速でのクルーズコントロール及び低速でのクローズコントロールを、夫々適切に実行することができる。
【0125】
尚、本発明の相関行列選択手段は、本実施例において、S630〜S640,S680の処理にて実現され、位置情報取得手段は、S680の処理にて実現されている。
また、以上に説明したレーダ装置1においては、相関行列がエルミート行列(複素数)であるため、算出した相関行列Ra及び相関行列SRaの固有値及び固有ベクトルを、直接求めると、演算量が多く、信号処理部30に必要な演算処理能力も高くなる。従って、相関行列Ra及び相関行列SRaの固有値及び固有ベクトルを求めるに際しては、次のように、固有値及び固有ベクトルを求めると、演算量を減らすことができて、好ましい。
【0126】
以下には、ユニタリ変換を用いて相関行列を実数化し、演算量を削減する方法について説明する。
一般に、等間隔リニアアレーアンテナの方向ベクトル(複素応答)a(Θ)は、式(25)で表される。但し、dは、アンテナ素子の配置間隔、λは、信号(レーダ波)の波長、iは、虚数を表す。
【0127】
【数16】

【0128】
式(25)では、位相の中心を、第1アンテナ素子に設定しているが、これを第W素子に置くと、方向ベクトルa(Θ)は、式(26)に変形することができる。但し、アレーアンテナを構成するアンテナ素子の個数は、奇数M=2W+1であるものとする。
【0129】
【数17】

【0130】
この方向ベクトルa(Θ)に、式(28)で表されるユニタリ行列Qを作用させて、新しい方向ベクトルd(Θ)を求めると、方向ベクトルd(Θ)の各要素は、実数で表すことができる。
【0131】
【数18】

【0132】
一方、相関行列Rxxは、信号相関行列S、方向行列A、単位行列Iを用いて、式(29)で表すことができる。但し、σ2は、熱雑音電力である。
【0133】
【数19】

【0134】
ここで、式(29)に、式(28)で表されるユニタリ行列Qを作用させる(式(30))。
【0135】
【数20】

【0136】
D=QHAとすると、式(30)は、式(31)で表すことができる。
【0137】
【数21】

【0138】
また、行列Dは、先程説明した方向ベクトルd(Θ)を用いて、式(32)で表すことができる。
【0139】
【数22】

【0140】
上述したように、方向ベクトルd(Θ)の各要素は実数である。従って、信号相関行列Sが実行列であれば、当然に、式(31)の左辺は実行列となる。信号相関行列Sは、到来波が互いに無相関であれば、実数対角行列となるため、相関行列Ryyを、式(33)に示すように設定すれば、相関行列Ryyは、実数対称行列となる。
【0141】
【数23】

【0142】
よって、相関行列Rxxに代え、新たに相関行列Ryyを用いて、固有値・固有ベクトルを算出すれば、演算量を抑えて、MUSICスペクトラムを得ることができるのである。但し、実際にはスナップショット数Kが少なく、信号相関行列Sが完全な実数対角行列にならないため、行列Ryyの実数部分を用いることによって固有値計算を行う。
【0143】
以上をまとめると、上記実施例では、受信ベクトルX(k),Xsj(k)にユニタリ行列Qを作用させて、新たに受信ベクトルY(k),Ysj(k)を設定し、この受信ベクトルY(k),Ysj(k)を、受信ベクトルX(k),Xsj(k)に代替して用い、式(34)(35)に従って、相関行列Ra,SRaを求めることで、少なく演算量で、MUSICスペクトラムを求めることができる。
【0144】
【数24】

【0145】
尚、アレーアンテナのアンテナ素子数が偶数M=2Wである場合、式(28)に示すユニタリ行列Qに代えて、次式に表すユニタリ行列Qを用いることで、同様に、MUSICスペクトラムを求めることができる。
【0146】
【数25】

【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】車載用レーダ装置1の構成を表すブロック図である。
【図2】信号解析部33が実行する主検出処理を表すフローチャートである。
【図3】信号解析部33が実行する通常検出処理を表すフローチャートである。
【図4】ピーク周波数の検出方法に関する説明図である。
【図5】信号解析部33が実行する空間平均検出処理を表すフローチャートである。
【図6】相関行列Rxx,SRxxの生成方法を示した説明図である。
【図7】第二実施例の主検出処理を表すフローチャートである。
【図8】信号解析部33が実行するターゲット運動予測処理を表すフローチャートである。
【図9】レーダ波の送信信号Ss及び受信信号Srを示したグラフ(上段)及びビート信号BTを示したグラフ(下段)である。
【図10】従来技術の問題点を説明した説明図である。
【符号の説明】
【0148】
1…車載用レーダ装置、11…発振器、13,23…増幅器、15…分配器、17…送信アンテナ、19…受信アンテナ、21…受信スイッチ、25…ミキサ、27…フィルタ、29…A/D変換器、30…信号処理部、31…FFT処理部、33…信号解析部、40…車間制御ECU、50…車速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調された送信信号に従って送信したレーダ波の反射波をアレーアンテナで受信し、このアレーアンテナを構成する各アンテナ素子からの受信信号に、前記送信信号を混合して、前記各アンテナ素子毎のビート信号を生成し、前記生成した各アンテナ素子のビート信号に基づき、前記アレーアンテナが受信した反射波の発生元である物体の方位を検出する方位検出装置であって、
アレーアンテナを構成する各アンテナ素子のビート信号を、フーリエ変換する変換手段と、
前記変換手段の変換結果に基づき、前記アレーアンテナを構成する各アンテナ素子が共通して有するピーク周波数における、前記各アンテナ素子のフーリエ変換値、を配列してなる受信ベクトルを生成し、この受信ベクトルの相関行列を生成する第一相関行列生成手段と、
前記変換手段の変換結果に基づき、前記アレーアンテナを構成するサブアレー毎に、前記アレーアンテナを構成する各アンテナ素子が共通して有するピーク周波数における、前記サブアレーを構成する各アンテナ素子のフーリエ変換値、を配列してなる受信ベクトルを生成し、前記サブアレー毎に生成した受信ベクトルの相関行列を加算してなる相関行列を生成する第二相関行列生成手段と、
前記第一相関行列生成手段が生成した相関行列、又は、前記第二相関行列生成手段が生成した相関行列を用いて、受信強度の角度スペクトラムを算出し、この角度スペクトラムを解析して、前記アレーアンテナが受信した反射波の発生元である物体の方位を検出する方位検出手段と、
自装置の運動状態、及び、自装置周囲に位置する物体の配置状態の少なくとも一方に基づき、前記角度スペクトラムの算出に用いる相関行列として、前記第一相関行列生成手段が生成する相関行列、及び、前記第二相関行列生成手段が生成する相関行列のいずれか一方を選択する相関行列選択手段と、
を備え、
前記方位検出手段は、前記相関行列選択手段によって選択された相関行列を用いて、前記角度スペクトラムを算出することを特徴とする方位検出装置。
【請求項2】
前記相関行列選択手段は、
自装置の運動状態を表す情報として、自装置の移動速度を表す情報を取得する速度情報取得手段
を備え、前記速度情報取得手段の取得情報が示す自装置の移動速度に基づき、前記角度スペクトラムの算出に用いる相関行列として、前記第一相関行列生成手段が生成する相関行列、及び、前記第二相関行列生成手段が生成する相関行列のいずれか一方を選択する構成にされていることを特徴とする請求項1記載の方位検出装置。
【請求項3】
前記相関行列選択手段は、前記速度情報取得手段の取得情報が示す自装置の移動速度が閾値以上であると、前記第一相関行列生成手段が生成する相関行列を選択し、前記自装置の移動速度が閾値未満であると、前記第二相関行列生成手段が生成する相関行列を選択する構成にされていることを特徴とする請求項2記載の方位検出装置。
【請求項4】
前記相関行列選択手段は、
自装置周囲に位置する物体の配置状態として、自装置周囲に位置する各物体の位置情報を取得する位置情報取得手段
を備え、前記位置情報取得手段が取得した各物体の位置情報に基づき、前記角度スペクトラムの算出に用いる相関行列として、前記第一相関行列生成手段が生成する相関行列、及び、前記第二相関行列生成手段が生成する相関行列のいずれか一方を選択する構成にされていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の方位検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−240313(P2007−240313A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62708(P2006−62708)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】