説明

方向検出装置

【課題】マルチパスの影響を軽減して好適な方向検出を実現する方向検出装置を提供する。
【解決手段】複数のアンテナ素子26により構成されるアレイアンテナ16と、それらアンテナ素子26それぞれに対応する位相を制御することでアレイアンテナ16の送信及び/又は受信指向性を制御する指向性制御部54と、その指向性制御部54によりアレイアンテナ16の送信及び/又は受信指向性を第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号と、その第1の角度から所定角度ずらした第2の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号とを、比較することで無線タグ14の方向を検出する方向検出部60とを、備えたものであることから、マルチパスの影響が少ない角度に対応する受信結果を用いることで、無線タグ14の方向を好適に検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線端末に対して無線信号の送信及び/又は受信を行い、その無線信号に基づいてその無線端末の方向を検出する方向検出装置に関し、特に、マルチパス(multipath)の影響を軽減するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の情報が記憶された小型の無線タグ(応答器)から所定の無線タグ通信装置(質問器)により非接触にて情報の読み出しを行うRFID(Radio Frequency Identification)システムが知られている。このRFIDシステムは、無線タグが汚れている場合や見えない位置に配置されている場合であっても無線タグ通信装置との通信によりその無線タグに記憶された情報を読み出すことが可能であることから、商品管理や検査工程等の様々な分野において実用が期待されている。
【0003】
斯かる無線タグ通信装置の一形態として、無線タグからの応答波に基づいてその無線タグの方向を検出する方向検出装置としての利用が提案されている。例えば、特許文献1に記載された無線タグ位置検知システムがそれである。この技術によれば、検出の対象となる無線タグに向けて質問波を送信すると共に、その質問波に応じて上記無線タグから返信される応答波を受信してその無線タグとの間で無線通信を行うことで、その無線タグの方向乃至は位置を検出することができるとされている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−105723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前述したような従来の技術においてPAA(Phased Array Antenna)処理により無線端末の方向検出を行う場合、障害物に起因する反射や回折等により複数の電波受信経路が生じてしまう所謂マルチパスの影響によって、検出の対象となる無線端末に対応する方向からの無線信号が弱くなったり、或いは無線端末が存在しない方向からの無線信号が強くなる等して、無線端末の方向の検出が困難になるおそれがあった。このため、マルチパスの影響を軽減して好適な方向検出を実現する方向検出装置の開発が求められていた。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、マルチパスの影響を軽減して好適な方向検出を実現する方向検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
斯かる目的を達成するために、本発明の要旨とするところは、無線端末に対して無線信号の送信及び/又は受信を行い、その無線信号に基づいてその無線端末の方向を検出する方向検出装置であって、前記無線端末への無線信号を送信するため及び/又はその無線端末からの無線信号を受信するための、複数のアンテナ素子により構成されるアレイアンテナと、それら複数のアンテナ素子それぞれに対応する位相を制御することで前記アレイアンテナの送信指向性及び/又は受信指向性を制御する指向性制御部と、その指向性制御部により前記アレイアンテナの送信指向性及び/又は受信指向性を第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号と、その第1の角度から所定の偏差角度ずらした第2の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号とを、比較することで前記無線端末の方向を検出する方向検出部とを、備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、前記無線端末への無線信号を送信するため及び/又はその無線端末からの無線信号を受信するための、複数のアンテナ素子により構成されるアレイアンテナと、それら複数のアンテナ素子それぞれに対応する位相を制御することで前記アレイアンテナの送信指向性及び/又は受信指向性を制御する指向性制御部と、その指向性制御部により前記アレイアンテナの送信指向性及び/又は受信指向性を第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号と、その第1の角度から所定の偏差角度ずらした第2の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号とを、比較することで前記無線端末の方向を検出する方向検出部とを、備えたものであることから、前記受信信号を比較してマルチパスの影響が少ない角度に対応する指向性方向における受信結果を用いることで、前記無線端末の方向を好適に検出することができる。すなわち、マルチパスの影響を軽減して好適な方向検出を実現する方向検出装置を提供することができる。
【0009】
ここで、好適には、前記アレイアンテナにより受信される受信信号の信号強度を検出する信号強度検出部を備え、前記方向検出部は、その信号強度検出部により検出される信号強度に応じて前記無線端末の方向を検出するものである。このようにすれば、実用的な態様で前記無線端末の方向を検出することができる。
【0010】
また、好適には、前記方向検出部は、前記第1の角度を所定角度ずつ段階的に変化させつつその第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号又はその信号強度と、前記第2の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号又はその信号強度とを、所定の記憶装置に記憶し、その記憶装置に記憶された受信信号又はその信号強度を比較することで前記無線端末の方向を検出するものである。このようにすれば、マルチパスの影響が少ない角度に対応する指向性方向を実用的な態様で判定することができ、前記無線端末の方向を好適に検出することができる。
【0011】
また、好適には、前記偏差角度は、前記第1の角度の段階的な変化分である所定角度の1/10以上1/5以下である。一般にアレイアンテナの指向性方向を十分に小さな角度だけずらしても直接波による受信信号強度はほとんど変わらないが、直接波と間接波との経路差が変化することからマルチパスの影響は大きく変化する。従って、前記アレイアンテナの指向性方向を前記所定角度に比べて十分に小さい偏差角度だけずらして各指向性方向に対応する受信信号を比較することで、マルチパスの影響が少ない角度に対応する指向性方向を判定することができ、前記無線端末の方向を好適に検出することができる。
【0012】
また、好適には、前記偏差角度は、1乃至2°の範囲内である。一般にアレイアンテナの指向性方向を1乃至2°の範囲内でずらしても直接波による受信信号強度はほとんど変わらないが、直接波と間接波との経路差が変化することからマルチパスの影響は大きく変化する。従って、前記アレイアンテナの指向性方向を1乃至2°の範囲内でずらして各指向性方向に対応する受信信号を比較することで、マルチパスの影響が少ない角度に対応する指向性方向を判定することができ、前記無線端末の方向を好適に検出することができる。
【0013】
また、好適には、前記偏差角度は、前記無線端末の方向検出における許容誤差角度以下である。このようにすれば、前記アレイアンテナの指向性方向を方向検出における許容誤差角度以下の範囲内でずらして各指向性方向に対応する受信信号を比較することで、マルチパスの影響が少ない角度に対応する指向性方向を判定することができ、前記無線端末の方向を好適に検出することができる。
【0014】
また、好適には、前記方向検出部は、先ず、前記第1の角度を所定角度ずつ段階的に変化させつつ前記指向性制御部により前記アレイアンテナの送信指向性及び/又は受信指向性をそれぞれの第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号又はその信号強度を前記記憶装置に記憶し、次に、前記第1の角度を所定角度ずつ段階的に変化させつつ前記指向性制御部により前記アレイアンテナの送信指向性及び/又は受信指向性をそれぞれの第1の角度から所定の偏差角度ずらした第2の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号又はその信号強度を前記記憶装置に記憶し、その記憶装置に記憶された受信信号又はその信号強度を比較することで前記無線端末の方向を検出するものである。このようにすれば、マルチパスの影響が少ない角度に対応する指向性方向を実用的な態様で判定することができ、前記無線端末の方向を好適に検出することができる。
【0015】
また、好適には、前記方向検出部は、前記第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号の信号強度が所定値以下だった場合には、その第1の角度から所定の偏差角度ずらした第2の角度に対応する指向性制御及び前記無線信号の送信及び/又は受信制御を行わないものである。このようにすれば、障害物が存在する等の理由で好適な通信を行い得ない方向について第2の角度に対応する制御を省くことで、前記無線端末の方向検出に要する時間を短縮することができる。
【0016】
また、好適には、前記方向検出部は、前記記憶装置に記憶された各受信信号について前記信号強度検出部により検出される検出結果を一通り比較し、その検出結果が最大値をとる送信指向性及び/又は受信指向性に対応する方向を前記無線端末の方向として検出するものである。このようにすれば、実用的な態様で前記無線端末の方向を検出することができる。
【0017】
また、好適には、前記方向検出部は、前記記憶装置に記憶された各受信信号について前記信号強度検出部により検出される検出結果を比較し、その検出結果が前記第1の角度に対応する指向性方向及び第2の角度に対応する指向性方向の何れにおいても所定の閾値以上となる送信指向性及び/又は受信指向性に対応する方向を前記無線端末の方向として検出するものである。このようにすれば、実用的な態様で前記無線端末の方向を検出することができる。
【0018】
また、好適には、前記方向検出部は、前記記憶装置に記憶された各受信信号について前記信号強度検出部により検出される検出結果を比較し、前記第1の角度に対応する指向性方向の検出結果と第2の角度に対応する指向性方向の検出結果との差が最も小さい角度に対応する方向を前記無線端末の方向として検出するものである。このようにすれば、実用的な態様で前記無線端末の方向を検出することができる。
【0019】
また、好適には、前記方向検出部は、前記記憶装置に記憶された各受信信号について前記第1の角度に対応する指向性方向及び第2の角度に対応する指向性方向それぞれに関して前記信号強度検出部により検出される検出結果を平均し、その平均の大きな角度に対応する指向性方向において前記検出結果が最大値をとる送信指向性及び/又は受信指向性に対応する方向を前記無線端末の方向として検出するものである。このようにすれば、実用的な態様で前記無線端末の方向を検出することができる。
【0020】
また、好適には、前記記憶装置に記憶された各受信信号又は信号強度を比較することで障害物の存在する方向を検出する障害物方向検出部、又は障害物の方向が既知である場合その障害物の方向を設定する障害物方向設定部を備え、前記方向検出部は、その障害物方向検出部により障害物が検出された方向、又は前記障害物方向設定部に設定された方向を除外して前記無線端末の方向を検出するものである。このようにすれば、マルチパス発生の原因となる障害物が存在する方向を避けることで、前記無線端末の方向を好適に検出することができる。
【0021】
また、好適には、前記方向検出装置は、検出対象である無線タグに向けて所定の送信信号を送信すると共に、その送信信号に応答して前記無線タグから返信される返信信号を受信することで前記無線タグの方向を検出する無線タグ方向検出装置である。このようにすれば、マルチパスの影響を軽減して好適な無線タグ方向の検出を実現する無線タグ方向検出装置を提供することができる。
【0022】
また、好適には、前記方向検出部は、前記送信信号の搬送波の周波数を変化させ、各周波数に対応して受信される受信信号を比較することで前記無線タグの方向を検出するものである。このようにすれば、複数の搬送波周波数それぞれにおける各指向性方向に対応して受信される受信信号を比較してマルチパスの影響が少ない搬送波周波数による受信結果を用いることで、前記無線タグの方向を更に好適に検出することができる。
【0023】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0024】
図1は、本発明の方向検出装置が好適に用いられる無線タグ通信システム10について説明する図である。この無線タグ通信システム10は、本発明の方向検出装置の一実施例である無線タグ通信装置12と、その無線タグ通信装置12の検出対象の無線端末である単数乃至は複数(図1では単数)の無線タグ14とから構成される所謂RFID(Radio Frequency Identification)システムであり、上記無線タグ通信装置12はそのRFIDシステムの質問器として、上記無線タグ14は応答器としてそれぞれ機能する。すなわち、上記無線タグ通信装置12から質問波F(送信信号)が上記無線タグ14に向けて送信されると、その質問波Fを受信した上記無線タグ14において所定のコマンド(送信データ)によりその質問波Fが変調され、応答波F(返信信号)として上記無線タグ通信装置12に向けて返信されることで、その無線タグ通信装置12と無線タグ14との間で情報の通信が行われる。斯かる通信により、上記無線タグ通信装置12に対する無線タグ14の方向乃至は位置が検出される。この無線タグ通信システム10は、例えば、所定の通信領域内における物品の管理等に用いられるものであり、上記無線タグ14は、好適には、管理対象である物品に貼られる等してその物品と一体的に設けられている。
【0025】
図2は、上記無線タグ通信装置12の構成を説明する図である。この図2に示すように、本実施例の無線タグ通信装置12は、後述する方向検出部60からの指令に応じて所定の周波数の搬送波を発生させる搬送波発生部20と、その搬送波発生部20から出力される搬送波を増幅する搬送波増幅部22と、その搬送波増幅部22から供給される搬送波に基づく送信信号を対応するアンテナ素子26から送信すると共にそのアンテナ素子26により受信される受信信号を処理する複数(図2では3つ)の送受信モジュール24a、24b、24c(以下、特に区別しない場合には単に送受信モジュール24と称する)と、各送受信モジュール24a、24b、24cに対応して設けられた送受信共用のアンテナ素子26a、26b、26c(以下、特に区別しない場合には単にアンテナ素子26と称する)と、上記複数の送受信モジュール24から供給される受信信号を合成(加算)する合波部である受信信号合成部28と、その受信信号合成部28から供給される合成信号を増幅する可変増幅部30と、その可変増幅部30から供給される合成信号をホモダイン検波するホモダイン検波回路32と、そのホモダイン検波回路32から出力されるI相信号(同相成分)のうち所定の周波数帯域の信号のみ通過させるI相LPF(Low Pass Filter)34と、そのI相LPF34を通過したI相信号をディジタル変換するI相A/D変換部36と、そのI相A/D変換部36によりディジタル変換された信号を記憶するI相メモリ部38と、上記ホモダイン検波回路32から出力されるQ相信号(直交成分)のうち所定の周波数帯域の信号のみ通過させるQ相LPF40と、そのQ相LPF40を通過したQ相信号をディジタル変換するQ相A/D変換部42と、そのQ相A/D変換部42によりディジタル変換された信号を記憶するQ相メモリ部44とを、備えて構成されている。また、前記無線タグ14の方向を検出する方向検出制御を行うために、送信データ生成部50、指向性制御部54、信号強度検出部56、障害物方向検出部58、障害物方向設定部59、及び方向検出部60を備えている。
【0026】
前記アンテナ素子26は、例えば、ダイポールアンテナ等の直線状アンテナ素子であり、好適には、複数の直線状アンテナ素子26が同一平面内に互いに平行を成すように且つ等間隔で配設されている。本実施例の無線タグ通信装置12においては、それら複数の直線状アンテナ素子26により送受信共用のアレイアンテナ16が構成される。また、好適には、前記アレイアンテナ16を構成する複数本の直線状アンテナ素子26のうち、相互に最も離れて配設された直線状アンテナ素子26相互間の距離すなわちアンテナ素子26a及び26c相互間の距離は、前記搬送波発生部20により発生させられる搬送波の波長以下とされる。
【0027】
図3は、前記送受信モジュール24の構成を詳しく説明する図である。この図3に示すように、前記送受信モジュール24は、前記搬送波増幅部22から供給される搬送波の位相を制御するための可変移相器である送信移相部62と、その送信移相部62から出力される搬送波を所定の送信データにより変調して前記送信信号を出力するための可変ゲインアンプである送信アンプ64と、その送信アンプ64と前記アンテナ素子26との間の信号伝達経路に設けられたフィルタ68と、上記送信アンプ64から出力される送信信号をそのフィルタ68を介して前記アンテナ素子26へ供給すると共に、そのアンテナ素子26により受信されて上記フィルタ68を介して供給される受信信号を受信アンプ70へ供給する送受信分離部66と、その送受信分離部66から供給される受信信号の位相を制御するための可変移相器である受信移相部70とを、備えている。
【0028】
図4は、前記無線タグ14に備えられた無線タグ回路素子72の構成を説明する図である。この図4に示すように、上記無線タグ回路素子72は、前記無線タグ通信装置12との間で信号の送受信を行うためのアンテナ部74と、そのアンテナ部74により受信された信号を処理するためのIC回路部76とを、備えて構成されている。そのIC回路部76は、上記アンテナ部74により受信された前記無線タグ通信装置12からの質問波Fを整流する整流部78と、その整流部78により整流された質問波Fのエネルギを蓄積するための電源部80と、上記アンテナ部74により受信された搬送波からクロック信号を抽出して制御部88に供給するクロック抽出部82と、所定の情報信号を記憶し得る情報記憶部として機能するメモリ部84と、上記アンテナ部74に接続されて信号の変調及び復調を行う変復調部86と、上記整流部78、クロック抽出部82、及び変復調部86等を介して上記無線タグ回路素子72の作動を制御するための制御部88とを、機能的に含んでいる。この制御部88は、前記無線タグ通信装置12と通信を行うことにより上記メモリ部84に上記所定の情報を記憶する制御や、上記アンテナ部74により受信された質問波Fを上記変復調部86において上記メモリ部84に記憶された情報信号に基づいて変調したうえで応答波Fとして上記アンテナ部74から反射返信する制御等の基本的な制御を実行する。
【0029】
図2に戻って、前記送信データ生成部50は、前記搬送波発生部20により発生させられる搬送波に乗せて前記無線タグ14へ送信するための送信データを生成して各送受信モジュール24における送信アンプ64へ供給する。その送信アンプ64では、上記送信データ生成部50から供給される送信データに基づいて変調が行われて送信信号とされ、前記フィルタ68等を介して前記アンテナ素子26から送信される。
【0030】
前記指向性制御部54は、前記複数のアンテナ素子26から構成されるアレイアンテナ16の送信指向性及び/又は受信指向性を制御する。具体的には、各送受信モジュール24における送信移相部62を介してそれぞれ対応するアンテナ素子26から送信される送信信号の位相を制御することで、前記アレイアンテナ16の送信指向性を制御する。また、各送受信モジュール24における受信移相部70を介してそれぞれ対応するアンテナ素子26により受信される受信信号の位相を制御することで、前記アレイアンテナ16の受信指向性を制御する。
【0031】
前記信号強度検出部56は、前記アレイアンテナ16により受信される受信信号の信号強度を検出する。具体的には、前記I相メモリ部38に記憶されたI相信号及びQ相メモリ部44に記憶されたQ相信号を読み出し、それらI相信号及びQ相信号それぞれの二乗の和の平方根を算出すること等によりそれらI相信号及びQ相信号に相当する受信信号の信号強度を検出する。
【0032】
前記障害物方向検出部58は、前記アレイアンテナ16により送信あるいは受信を行った結果、受信される受信信号を比較することで障害物の存在する方向を検出する。この検出は、好適には、前記信号強度検出部56の検出結果に基づいて行われる。すなわち、前記障害物方向検出部58は、前記アレイアンテナ16により送信あるいは受信を行った結果、受信される受信信号の信号強度が極小又は極大となる方向を上記障害物が存在する方向として検出する。また、前記障害物方向設定部59は障害物方向が既知のときにその方向が設定される。
【0033】
前記方向検出部60は、前記指向性制御部54により前記アレイアンテナ16の送信指向性及び/又は受信指向性を第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号と、その第1の角度から所定の偏差角度(微小角度)ずらした第2の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号とを、比較することで前記無線タグ14の方向を検出する。以下、この方向検出部60による無線タグ14の方向検出制御について詳述する。
【0034】
図5は、前記無線タグ通信システム10が室90内において運用される場合に発生するマルチパスについて説明する図である。この図5に示すように、前記無線タグ通信システム10が四方に障害物(検出対象である無線タグ14以外の電波反射体)である壁92を有する室90内において運用される場合、その壁92に起因する反射や回折等により直接波の経路とは別に所謂マルチパスが発生することが考えられる。図5では、前記アレイアンテナ16の送信指向性及び/又は受信指向性を所定の第1の角度に対応する指向性方向とした場合における直接波及びマルチパスを実線矢印で、その第1の角度から所定の偏差角度ずらした第2の角度に対応する指向性方向とした場合における直接波及びマルチパスを破線矢印でそれぞれ示している。このようにマルチパスが発生した場合、そのマルチパスと直接波とは経路によって異なった位相となるため、その直接波経路の信号がマルチパス経路の信号により強められたり、弱められたりする。また、マルチパスにより直接波の届かない場所にも電波が届くようになる。
【0035】
図6は、前記第1の角度を所定角度ずつ段階的に変化させつつその第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号の信号強度と、各第1の角度から所定の偏差角度ずらした第2の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号の信号強度とを対比して示す図であり、前記第1の角度に対応する受信信号強度を実線で、第2の角度に対応する受信信号強度を破線でそれぞれ示している。この図6は、前記第1の角度を所定の基準方向例えばアンテナ素子26が配設された平面に垂直且つ中央に配設されたアンテナ素子26bを通る直線で示される方向に対して−40°から40°まで10°ずつ段階的に変化させた場合を示しており、そのように、前記方向検出部60は、好適には、予め定められた所定の相対角度範囲に対応して前記指向性制御部54により前記アレイアンテナ16の送信指向性及び/又は受信指向性を所定角度ずつ段階的に変化させる制御を行い、各送信指向性及び/又は受信指向性に対応して受信される受信信号を比較することで前記無線タグ14の方向を検出する。また、前記偏差角度すなわち前記第2の角度の第1の角度からのずれは、好適には、上記第1の角度の段階的な変化分である所定角度の1/10以上1/5以下であり、図6に示す例では1°である。一般にアレイアンテナの指向性方向を1乃至2°の範囲内でずらしても直接波による受信信号強度はほとんど変わらないが、直接波と間接波との経路差が変化することからマルチパスの影響は大きく変化し、図6に示すように各指向性に対応する受信信号の信号強度には顕著な差が発生する。本実施例の無線タグ通信装置12における方向検出部60は、このように前記アレイアンテナ16の指向性方向を1乃至2°の範囲内でずらして各指向性方向に対応する受信信号を比較することで、マルチパスの影響が少ない角度に対応する指向性方向を判定する。また、前記偏差角度は、好適には、前記無線タグ14の方向検出における許容誤差角度以下とされる。
【0036】
前記方向検出部60は、具体的には、前記指向性制御部54により前記第1の角度を所定角度ずつ(例えば、上記基準となる方向に対して−40°から40°まで10°ずつ)段階的に変化させつつその第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号又はその信号強度と、その第1の角度から所定の偏差角度(例えば、1乃至2°程度)ずらした第2の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号又はその信号強度とを、比較することで前記無線タグ14の方向を検出する。好適には、先ず、前記第1の角度を所定角度ずつ段階的に変化させつつ前記指向性制御部54により前記アレイアンテナ16の送信指向性及び/又は受信指向性をそれぞれの第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号又はその信号強度を前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44等の記憶装置に記憶し、次に、前記第1の角度を所定角度ずつ段階的に変化させつつ前記指向性制御部54により前記アレイアンテナ16の送信指向性及び/又は受信指向性をそれぞれの第1の角度から所定の偏差角度ずらした第2の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号又はその信号強度を前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44等の記憶装置に記憶し、その記憶装置に記憶された受信信号又はその信号強度を読み出して比較することで前記無線タグ14の方向を検出する。換言すれば、先ず、前記第1の角度に対応して前記指向性制御部54により前記アレイアンテナ16の指向性を前記所定の角度範囲で所定角度ずつ一通り変化させて受信信号又はその信号強度を記憶する制御を行い、その後、前記第2の角度に対応して前記指向性制御部54により前記アレイアンテナ16の指向性を前記所定の角度範囲で所定角度ずつ一通り変化させて受信信号又はその信号強度を記憶する制御を行う。また、この第2の角度に対応する制御において、好適には、先に行われた第1の角度に対応する制御の結果が考慮され、図7を用いて後述するように一部の制御が省かれる。以下、斯かる無線タグ14の方向検出制御を、図8乃至図14のフローチャートを用いて説明する。なお、それら図8乃至図14のフローチャートに示す制御において、共通するステップは同一の符号を付してその説明を省略する。
【0037】
前記方向検出部60は、好適には、前記第1の角度及び第2の角度にそれぞれ対応して前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶された各受信信号について前記信号強度検出部56により検出される検出結果を一通り比較し、その検出結果が最大値をとる送信指向性及び/又は受信指向性に対応する方向を前記無線タグ14の方向として検出する。図8は、斯かる態様のタグ方向検出制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0038】
図8の制御では、先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、指向性方向を示す角度θが初期値であるθstartとされる。次に、S2において、指向性方向を示す角度がθとなるように前記送信移相部62及び/又は受信移相部70の設定が行われ、検出対象である無線タグ14に向けて送信信号を送信すると共に、その送信信号に応答して前記無線タグ14から返信される返信信号を受信する送受信処理が行われる。次に、S3において、S2の送受信処理により受信された受信信号の信号強度が検出されると共に、その検出結果Sθが前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶される。次に、S4において、指向性方向を示す角度θが所定値θendであるか否かが判断される。このS4の判断が否定される場合には、S5において、指向性方向を示す角度θにΔθが加算された後、S2以下の処理が再び実行されるが、S4の判断が肯定される場合には、S6において、指向性方向を示す角度θが初期値であるθstartとされる。次に、S7において、指向性方向を示す角度がθ+1となるように前記送信移相部62及び/又は受信移相部70の設定が行われ、検出対象である無線タグ14に向けて送信信号を送信すると共に、その送信信号に応答して前記無線タグ14から返信される返信信号を受信する送受信処理が行われる。次に、S8において、S7の送受信処理により受信された受信信号の信号強度が検出されると共に、その検出結果Sθ+1が前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶される。次に、S9において、指向性方向を示す角度θが所定値θendであるか否かが判断される。このS9の判断が否定される場合には、S10において、指向性方向を示す角度θにΔθが加算された後、S7以下の処理が再び実行されるが、S9の判断が肯定される場合には、前記方向検出部60の動作に対応するS11において、前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶された受信信号強度Sθ、Sθ+1が読み出されて全て比較され、最大値をとる受信信号強度に対応するθが前記無線タグ14の方向として検出された後、本ルーチンが終了させられる。以上の制御において、S2及びS7が前記指向性制御部54の動作に、S3及びS8が前記信号強度検出部56の動作にそれぞれ対応する。
【0039】
また、前記方向検出部60は、好適には、前記第1の角度及び第2の角度にそれぞれ対応して前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶された各受信信号についてに前記信号強度検出部56により検出される検出結果を比較し、その検出結果が前記第1の角度に対応する指向性方向及び第2の角度に対応する指向性方向の何れにおいても所定の閾値以上となる送信指向性及び/又は受信指向性に対応する方向を前記無線タグ14の方向として検出する。図9は、斯かる態様のタグ方向検出制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。この制御において上述したS9の判断が肯定される場合には、前記方向検出部60の動作に対応するS12において、前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶された受信信号強度Sθ、Sθ+1が読み出されて比較され、そのいずれもが所定の閾値A以上である角度θに対応する方向が前記無線タグ14の方向として検出された後、本ルーチンが終了させられる。
【0040】
また、前記方向検出部60は、好適には、前記第1の角度及び第2の角度にそれぞれ対応して前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶された各受信信号について前記信号強度検出部56により検出される検出結果を比較し、前記第1の角度に対応する指向性方向の検出結果と第2の角度に対応する指向性方向の検出結果との差が最も小さい角度に対応する方向を前記無線タグ14の方向として検出する。図10は、斯かる態様のタグ方向検出制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。この制御において前述したS9の判断が肯定される場合には、前記方向検出部60の動作に対応するS13において、前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶された受信信号強度Sθ、Sθ+1が読み出されてそれぞれ対応するSθ、Sθ+1の差が算出され、その差が最も小さい角度θに対応する方向が前記無線タグ14の方向として検出された後、本ルーチンが終了させられる。
【0041】
また、前記方向検出部60は、好適には、前記第1の角度及び第2の角度にそれぞれ対応して前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶された各受信信号について前記第1の角度に対応する指向性方向及び第2の角度に対応する指向性方向それぞれに関して前記信号強度検出部56により検出される検出結果を平均し、その平均の大きな角度に対応する指向性方向において前記検出結果が最大値をとる送信指向性及び/又は受信指向性に対応する方向を前記無線タグ14の方向として検出する。図11は、斯かる態様のタグ方向検出制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。この制御において前述したS9の判断が肯定される場合には、前記方向検出部60の動作に対応するS14において、前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶された受信信号強度Sθ、Sθ+1が読み出されてSθ、Sθ+1それぞれについて平均値(相加平均)が算出され、Sθ、Sθ+1のうちその平均値が大きかった方において受信信号強度が最大値をとる角度θに対応する方向が前記無線タグ14の方向として検出された後、本ルーチンが終了させられる。
【0042】
また、前記方向検出部60は、好適には、前記障害物方向検出部58により障害物が検出された方向、又は前記障害物方向設定部59に設定された方向に基づき、例えばその方向を除外して前記無線タグ14の方向を検出する。図12は、斯かる態様のタグ方向検出制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。この制御において前述したS9の判断が肯定される場合には、前記障害物方向検出部58の動作に対応するS15において、前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶された受信信号強度Sθ、Sθ+1が読み出され、それら受信信号強度Sθ、Sθ+1を比較することで障害物の存在する方向が検出(判定)される。次に、前記方向検出部60の動作に対応するS16において、S15にて検出された障害物方向、又は前記障害物方向設定部59に設定された方向から所定角度以上離れた角度範囲に対応するSθ、Sθ+1が比較され、最大値をとる受信信号強度に対応する角度θに対応する方向が前記無線タグ14の方向として検出された後、本ルーチンが終了させられる。
【0043】
また、前記方向検出部60は、好適には、前記第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号の信号強度Sθが所定値以下だった場合には、その第1の角度から所定の偏差角度ずらした第2の角度に対応する受信信号強度Sθ+1の検出すなわち指向性制御及び前記無線信号の送信及び/又は受信制御を省略する。図7は、斯かる制御について説明する図であり、前記第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号の信号強度Sθが所定値以下である角度−20°、30°、40°については第2の角度−21°、29°、39°に対応する受信信号強度Sθ+1の検出が省略されている。また、図13は、斯かる態様のタグ方向検出制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。この制御では、前述したS6の処理に続くS17において、その時点における角度θに対応して前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶された受信信号強度Sθが読み出され、その受信信号強度Sθが所定値以上であるか否かが判断される。このS17の判断が肯定される場合には、前述したS7以下の処理が実行されるが、S17の判断が否定される場合には、前述したS9以下の処理が実行される。そして、そのS9の判断が肯定される場合には、前記方向検出部60の動作に対応するS18において、前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶された受信信号強度Sθ、Sθ+1が読み出され、それら受信信号強度Sθ、Sθ+1の比較により前記無線タグ14の方向が検出された後、本ルーチンが終了させられる。
【0044】
また、前記方向検出部60は、好適には、前記送信信号の搬送波すなわち前記搬送波発生部20により発生させられる搬送波の周波数を変化させ、各周波数に対応して受信される受信信号を比較することで前記無線タグ14の方向を検出する。図14は、斯かる態様のタグ方向検出制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。この制御では、先ず、S19において、前記搬送波発生部20により発生させられる搬送波の周波数設定値fがf1とされた後、S1以下の処理が実行される。また、前述したS9の判断が肯定される場合には、S20において、前記搬送波発生部20により発生させられる搬送波の周波数設定値fがfendであるか否かが判断される。このS20の判断が否定される場合には、S21において、周波数設定値fにΔfが加算された後、S1以下の処理が再び実行されるが、S20の判断が肯定される場合には、前記方向検出部60の動作に対応するS22において、前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶された受信信号強度Sθ、Sθ+1が読み出され、それら受信信号強度Sθ、Sθ+1の比較により前記無線タグ14の方向が検出された後、本ルーチンが終了させられる。
【0045】
このように、本実施例によれば、無線端末である前記無線タグ14への無線信号を送信するため及び/又はその無線タグ14からの無線信号を受信するための、複数のアンテナ素子26により構成されるアレイアンテナ16と、それら複数のアンテナ素子26それぞれに対応する位相を制御することで前記アレイアンテナ16の送信指向性及び/又は受信指向性を制御する指向性制御部54(S2及びS7)と、その指向性制御部54により前記アレイアンテナ16の送信指向性及び/又は受信指向性を第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号と、その第1の角度から所定の偏差角度ずらした第2の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号とを、比較することで前記無線タグ14の方向を検出する方向検出部60(S11、S12、S13、S14、S16、S18、S22)とを、備えたものであることから、前記受信信号を比較してマルチパスの影響が少ない角度に対応する指向性方向における受信結果を用いることで、前記無線タグ14の方向を好適に検出することができる。すなわち、マルチパスの影響を軽減して好適な方向検出を実現する方向検出装置を提供することができる。
【0046】
また、前記アレイアンテナ16により受信される受信信号の信号強度を検出する信号強度検出部56(S3及びS8)を備え、前記方向検出部60は、その信号強度検出部により検出される信号強度に応じて前記無線タグ14の方向を検出するものであるため、実用的な態様で前記無線タグ14の方向を検出することができる。
【0047】
また、前記方向検出部60は、前記第1の角度を所定角度ずつ段階的に変化させつつその第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号又はその信号強度と、前記第2の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号又はその信号強度とを、記憶装置である前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶し、その記憶装置に記憶された受信信号又はその信号強度を比較することで前記無線タグ14の方向を検出するものであるため、マルチパスの影響が少ない角度に対応する指向性方向を実用的な態様で判定することができ、前記無線タグ14の方向を好適に検出することができる。
【0048】
また、前記偏差角度は、前記第1の角度の段階的な変化分である所定角度の1/10以上1/5以下であるため、前記アレイアンテナ16の指向性方向を前記所定角度に比べて十分に小さい偏差角度だけずらして各指向性方向に対応する受信信号を比較することで、マルチパスの影響が少ない角度に対応する指向性方向を判定することができ、前記無線タグ14の方向を好適に検出することができる。
【0049】
また、前記偏差角度は、1乃至2°の範囲内であるため、前記アレイアンテナ16の指向性方向を1乃至2°の範囲内でずらして各指向性方向に対応する受信信号を比較することで、マルチパスの影響が少ない角度に対応する指向性方向を判定することができ、前記無線タグ14の方向を好適に検出することができる。
【0050】
また、前記偏差角度は、前記無線タグ14の方向検出における許容誤差角度以下であるため、前記アレイアンテナ16の指向性方向を方向検出における許容誤差角度以下の範囲内でずらして各指向性方向に対応する受信信号を比較することで、マルチパスの影響が少ない角度に対応する指向性方向を判定することができ、前記無線タグ14の方向を好適に検出することができる。
【0051】
また、前記方向検出部60は、先ず、前記第1の角度を所定角度ずつ段階的に変化させつつ前記指向性制御部54により前記アレイアンテナ16の送信指向性及び/又は受信指向性をそれぞれの第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号又はその信号強度を前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶し、次に、前記第1の角度を所定角度ずつ段階的に変化させつつ前記指向性制御部54により前記アレイアンテナ16の送信指向性及び/又は受信指向性をそれぞれの第1の角度から所定の偏差角度ずらした第2の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号又はその信号強度を前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶し、そのI相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶された受信信号又はその信号強度を比較することで前記無線タグ14の方向を検出するものであるため、マルチパスの影響が少ない角度に対応する指向性方向を実用的な態様で判定することができ、前記無線タグ14の方向を好適に検出することができる。
【0052】
また、前記方向検出部60は、前記第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号の信号強度が所定値以下だった場合には、その第1の角度から所定の偏差角度ずらした第2の角度に対応する指向性制御及び前記無線信号の送信及び/又は受信制御を行わないものであるため、障害物が存在する等の理由で好適な通信を行い得ない方向について第2の角度に対応する制御を省くことで、前記無線タグ14の方向検出に要する時間を短縮することができる。
【0053】
また、前記方向検出部60(S11)は、前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶された各受信信号について前記信号強度検出部56により検出される検出結果を一通り比較し、その検出結果が最大値をとる送信指向性及び/又は受信指向性に対応する方向を前記無線タグ14の方向として検出するものであるため、実用的な態様で前記無線タグ14の方向を検出することができる。
【0054】
また、前記方向検出部60(S12)は、前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶された各受信信号について前記信号強度検出部56により検出される検出結果を比較し、その検出結果が前記第1の角度に対応する指向性方向及び第2の角度に対応する指向性方向の何れにおいても所定の閾値以上となる送信指向性及び/又は受信指向性に対応する方向を前記無線タグ14の方向として検出するものであるため、実用的な態様で前記無線タグ14の方向を検出することができる。
【0055】
また、前記方向検出部60(S13)は、前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶された各受信信号について前記信号強度検出部56により検出される検出結果を比較し、前記第1の角度に対応する指向性方向の検出結果と第2の角度に対応する指向性方向の検出結果との差が最も小さい角度に対応する方向を前記無線タグ14の方向として検出するものであるため、実用的な態様で前記無線タグ14の方向を検出することができる。
【0056】
また、前記方向検出部60(S14)は、前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶された各受信信号について前記第1の角度に対応する指向性方向及び第2の角度に対応する指向性方向それぞれに関して前記信号強度検出部56により検出される検出結果を平均し、その平均の大きな角度に対応する指向性方向において前記検出結果が最大値をとる送信指向性及び/又は受信指向性に対応する方向を前記無線タグ14の方向として検出するものであるため、実用的な態様で前記無線タグ14の方向を検出することができる。
【0057】
また、前記I相メモリ部38及び/又はQ相メモリ部44に記憶された各受信信号又は信号強度を比較することで障害物の存在する方向を検出する障害物方向検出部58(S15)を備え、前記方向検出部60(S16)は、その障害物方向検出部58により障害物が検出された方向、又は前記障害物方向設定部59に設定された方向を除外して前記無線タグ14の方向を検出するものであるため、マルチパス発生の原因となる障害物が存在する方向を避けることで、前記無線タグ14の方向を好適に検出することができる。
【0058】
また、前記方向検出装置は、検出対象である無線タグ14に向けて所定の送信信号を送信すると共に、その送信信号に応答して前記無線タグ14から返信される返信信号を受信することで前記無線タグ14の方向を検出する無線タグ通信装置(無線タグ方向検出装置)12であるため、マルチパスの影響を軽減して好適な無線タグ14の方向検出を実現する無線タグ通信装置12を提供することができる。
【0059】
また、前記方向検出部60(S22)は、前記送信信号の搬送波の周波数を変化させ、各周波数に対応して受信される受信信号を比較することで前記無線タグ14の方向を検出するものであるため、複数の搬送波周波数それぞれにおける各指向性方向に対応して受信される受信信号を比較してマルチパスの影響が少ない搬送波周波数による受信結果を用いることで、前記無線タグ14の方向を更に好適に検出することができる。
【0060】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
【0061】
例えば、前述の実施例において、前記指向性制御部54、信号強度検出部56、障害物方向検出部58、及び方向検出部60等は、何れも個別に設けられたものであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、それらと同等の制御機能がCPU、ROM、RAM等を含んでディジタル信号処理を実行するDSP(Digital Signal Processor)等に機能的に備えられたものであっても構わない。また、それら制御装置による制御は、ディジタル信号処理であるとアナログ信号処理であるとを問わない。
【0062】
また、前述の実施例において、前記無線タグ通信装置12に備えられたアンテナ素子26は、何れもダイポールアンテナ等の直線状アンテナ素子であり、それら複数本の直線状アンテナ素子26から複数組のアレイアンテナ16が構成されるものであったが、例えばパッチアンテナ等の平板状(平面)アンテナ素子からアレイアンテナが構成されるものであってもよく、斯かるアンテナを備えた通信装置にも本発明は好適に適用され得る。
【0063】
また、前述の実施例では、前記第1の角度毎にその第1の角度から所定の偏差角度ずらした単一の第2の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号を検出し、その第2の角度に対応する受信信号と第1の角度に対応する受信信号とを比較することで前記無線タグ14の方向を検出する態様について説明したが、例えば、前記第1の角度がθである場合、その角度θ±1を前記第2の角度とするといったように、前記第1の角度毎にその第1の角度から所定の偏差角度ずらした複数の第2の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号を検出し、それら複数の第2の角度に対応する受信信号と第1の角度に対応する受信信号とを比較することで前記無線タグ14の方向を検出するものであってもよい。このようにすれば、マルチパスの影響を可及的に軽減して更に好適な方向検出を実現することができる。
【0064】
また、前述の実施例では、前記無線タグ14に向けて送信信号を送信すると共に、その送信信号に応じてその無線タグ14から返信される返信信号を受信するために用いられる送受信共用のアンテナ素子26を有する送受信共用のアレイアンテナ16を備えた無線タグ通信装置12に本発明が適用された例について説明したが、前記送信信号を送信するための送信アンテナ及び受信信号を受信するための受信アンテナを別々に備えた無線タグ通信装置にも本発明は好適に適用される。
【0065】
また、前述の実施例では、通信対象である無線タグ14に向けて所定の送信信号を送信すると共に、その送信信号に応答して前記無線タグ14から返信される返信信号を受信することで前記無線タグ14との間で情報の通信を行う無線タグ通信装置12に本発明が適用された例について説明したが、例えば携帯電話機や移動体通信装置をはじめとする他の無線通信装置における通信端末の方向検出にも本発明は好適に適用され得る。
【0066】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の方向検出装置が好適に用いられる無線タグ通信システムについて説明する図である。
【図2】本発明の方向検出装置の好適な実施例である無線タグ通信装置の構成を説明する図である。
【図3】図2の無線タグ通信装置に備えられた送受信モジュールの構成を詳しく説明する図である。
【図4】図2の無線タグ通信装置の検出対象の無線端末である無線タグに備えられた無線タグ回路素子の構成を説明する図である。
【図5】図1の無線タグ通信システムが室内において運用される場合に発生するマルチパスについて説明する図である。
【図6】図2の無線タグ通信装置により第1の角度を所定角度ずつ段階的に変化させつつその第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号の信号強度と、各第1の角度から所定の偏差角度ずらした第2の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号の信号強度とを対比して示す図である。
【図7】図2の無線タグ通信装置による方向検出制御において第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号の信号強度が所定値以下だった場合には、その第1の角度から所定の偏差角度ずらした第2の角度に対応する指向性制御及び無線信号の送信及び/又は受信制御を行わないことを説明する図である。
【図8】図2の無線タグ通信装置によるタグ方向検出制御の一例の要部を説明するフローチャートである。
【図9】図2の無線タグ通信装置によるタグ方向検出制御の他の一例の要部を説明するフローチャートである。
【図10】図2の無線タグ通信装置によるタグ方向検出制御の更に別の一例の要部を説明するフローチャートである。
【図11】図2の無線タグ通信装置によるタグ方向検出制御の更に別の一例の要部を説明するフローチャートである。
【図12】図2の無線タグ通信装置によるタグ方向検出制御の更に別の一例の要部を説明するフローチャートである。
【図13】図2の無線タグ通信装置によるタグ方向検出制御の更に別の一例の要部を説明するフローチャートである。
【図14】本発明の方向検出装置の他の好適な実施例である無線タグ通信装置の構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0068】
12:無線タグ通信装置(方向検出装置)
14:無線タグ(無線端末)
16:アレイアンテナ
26:アンテナ素子
38:I相メモリ部(記憶装置)
44:Q相メモリ部(記憶装置)
54:指向性制御部
56:信号強度検出部
58:障害物方向検出部
59:障害物方向設定部
60:方向検出部
92:壁(障害物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線端末に対して無線信号の送信及び/又は受信を行い、該無線信号に基づいて該無線端末の方向を検出する方向検出装置であって、
前記無線端末への無線信号を送信するため及び/又は該無線端末からの無線信号を受信するための、複数のアンテナ素子により構成されるアレイアンテナと、
それら複数のアンテナ素子それぞれに対応する位相を制御することで前記アレイアンテナの送信指向性及び/又は受信指向性を制御する指向性制御部と、
該指向性制御部により前記アレイアンテナの送信指向性及び/又は受信指向性を第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号と、該第1の角度から所定の偏差角度ずらした第2の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号とを、比較することで前記無線端末の方向を検出する方向検出部と
を、備えたものであることを特徴とする方向検出装置。
【請求項2】
前記アレイアンテナにより受信される受信信号の信号強度を検出する信号強度検出部を備え、前記方向検出部は、該信号強度検出部により検出される信号強度に応じて前記無線端末の方向を検出するものである請求項1の方向検出装置。
【請求項3】
前記方向検出部は、前記第1の角度を所定角度ずつ段階的に変化させつつ該第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号又はその信号強度と、前記第2の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号又はその信号強度とを、所定の記憶装置に記憶し、該記憶装置に記憶された受信信号又はその信号強度を比較することで前記無線端末の方向を検出するものである請求項2の方向検出装置。
【請求項4】
前記偏差角度は、前記第1の角度の段階的な変化分である所定角度の1/10以上1/5以下である請求項3の方向検出装置。
【請求項5】
前記偏差角度は、1乃至2°の範囲内である請求項1から4の何れかの方向検出装置。
【請求項6】
前記偏差角度は、前記無線端末の方向検出における許容誤差角度以下である請求項1から5の何れかの方向検出装置。
【請求項7】
前記方向検出部は、先ず、前記第1の角度を所定角度ずつ段階的に変化させつつ前記指向性制御部により前記アレイアンテナの送信指向性及び/又は受信指向性をそれぞれの第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号又はその信号強度を前記記憶装置に記憶し、次に、前記第1の角度を所定角度ずつ段階的に変化させつつ前記指向性制御部により前記アレイアンテナの送信指向性及び/又は受信指向性をそれぞれの第1の角度から所定の偏差角度ずらした第2の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号又はその信号強度を前記記憶装置に記憶し、該記憶装置に記憶された受信信号又はその信号強度を比較することで前記無線端末の方向を検出するものである請求項3から6の何れかの方向検出装置。
【請求項8】
前記方向検出部は、前記第1の角度に対応する指向性方向とした場合において受信される受信信号の信号強度が所定値以下だった場合には、該第1の角度から所定の偏差角度ずらした第2の角度に対応する指向性制御及び前記無線信号の送信及び/又は受信制御を行わないものである請求項7の方向検出装置。
【請求項9】
前記方向検出部は、前記記憶装置に記憶された各受信信号について前記信号強度検出部により検出される検出結果を一通り比較し、該検出結果が最大値をとる送信指向性及び/又は受信指向性に対応する方向を前記無線端末の方向として検出するものである請求項2から8の何れかの方向検出装置。
【請求項10】
前記方向検出部は、前記記憶装置に記憶された各受信信号について前記信号強度検出部により検出される検出結果を比較し、該検出結果が前記第1の角度に対応する指向性方向及び第2の角度に対応する指向性方向の何れにおいても所定の閾値以上となる送信指向性及び/又は受信指向性に対応する方向を前記無線端末の方向として検出するものである請求項2から8の何れかの方向検出装置。
【請求項11】
前記方向検出部は、前記記憶装置に記憶された各受信信号について前記信号強度検出部により検出される検出結果を比較し、前記第1の角度に対応する指向性方向の検出結果と第2の角度に対応する指向性方向の検出結果との差が最も小さい角度に対応する方向を前記無線端末の方向として検出するものである請求項2から8の何れかの方向検出装置。
【請求項12】
前記方向検出部は、前記記憶装置に記憶された各受信信号について前記第1の角度に対応する指向性方向及び第2の角度に対応する指向性方向それぞれに関して前記信号強度検出部により検出される検出結果を平均し、該平均の大きな角度に対応する指向性方向において前記検出結果が最大値をとる送信指向性及び/又は受信指向性に対応する方向を前記無線端末の方向として検出するものである請求項2から8の何れかの方向検出装置。
【請求項13】
前記記憶装置に記憶された各受信信号又は信号強度を比較することで障害物の存在する方向を検出する障害物方向検出部、又は障害物の方向が既知の場合その方向を設定する障害物方向設定部を備え、前記方向検出部は、該障害物方向検出部により障害物が検出された方向、又は前記障害物方向設定部に設定された方向を除外して前記無線端末の方向を検出するものである請求項1から12の何れかの方向検出装置。
【請求項14】
前記方向検出装置は、検出対象である無線タグに向けて所定の送信信号を送信すると共に、該送信信号に応答して前記無線タグから返信される返信信号を受信することで前記無線タグの方向を検出する無線タグ方向検出装置である請求項1から13の何れかの方向検出装置。
【請求項15】
前記方向検出部は、前記送信信号の搬送波の周波数を変化させ、各周波数に対応して受信される受信信号を比較することで前記無線タグの方向を検出するものである請求項14の方向検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−45953(P2008−45953A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220698(P2006−220698)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】