説明

既存建物の耐震補強工法

【課題】鉄筋コンクリート造ないし鉄骨鉄筋コンクリート造の既存建物の耐震補強工法を提供する。
【解決手段】低降伏点鋼ないし極低降伏点鋼から成り塑性変形することで地震エネルギを吸収する細長く少なくともその長手方向中間部分が一定断面を有するエネルギ吸収鋼材10を梁端部に設置し、その際に、そのエネルギ吸収鋼材の第1端を柱の柱梁接合部に近接した位置に接合し、そのエネルギ吸収鋼材を梁端部に沿わせて梁14の長手方向に延在させ、そのエネルギ吸収鋼材10の第2端を梁端部の柱梁接合部から離隔した位置に接合する。地震が発生して柱梁接合部及び/または梁端部が変形した際に、エネルギ吸収鋼材が長手方向の引張荷重及び圧縮荷重を受けて伸縮塑性変形するようにする。更に、エネルギ吸収鋼材が座屈するのを防止するべくエネルギ吸収鋼材の長手方向中間部分を囲繞してエネルギ吸収鋼材を補剛する座屈拘束用の補剛材30を梁端部に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は既存建物の耐震補強工法に関し、より詳しくは鉄筋コンクリート造(RC造)ないし鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の既存建物の耐震補強工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
RC造ないしSRC造の高層建物は1次固有周期が長いため、長周期地震動を受けた際に梁端部の圧壊や柱梁接合部の損傷が顕著となる。RC造ないしSRC造の建物の耐震補強工法には様々なものがあり、その代表的なものを挙げるならば、建物の架構の開口部に補強ブレースを設置する工法(例えば特許文献1、2など)、建物の柱や梁の外周に繊維材を巻装する工法(例えば特許文献3、4など)、それに、建物の外壁に外付フレームを取り付ける工法(例えば特許文献5など)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−242392
【特許文献2】特開平11−071906
【特許文献3】特開2001−152676
【特許文献4】特開平09−203218
【特許文献5】特開2005−155139
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建物の架構の開口部に補強ブレースを設置する工法には、補強ブレースが設置されることで開口部の開口面積が減少するという問題や、動線の変更を余儀なくされるという問題があり、また、耐震補強工事の施工中に建物の使用が制限されるという問題もある。繊維材を巻装する工法は、柱や梁の長手方向中間部分のせん断耐力を向上させる上では大きな効果があるものの、長周期地震動を受けた際の梁端部の圧潰や柱梁接合部の損傷を抑制する上では効果が乏しい。外付フレーム工法では、開口部の開口面積が減少するという問題や施工中に建物の使用が制限されるという問題は存在しないが、大掛かりな工事とならざるを得ないという問題がある。
【0005】
本発明は上記課題を解決するべくなされたものであり、本発明の目的は、従来の耐震補強工法に付随していた様々な制約ないし問題を解決及び緩和することのできる、RC造ないしSRC造の既存建物の耐震補強工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る耐震補強工法は、柱梁接合部において接合された柱及び梁を有する鉄筋コンクリート造ないし鉄骨鉄筋コンクリート造の既存建物の耐震補強工法において、低降伏点鋼ないし極低降伏点鋼から成り塑性変形することで地震エネルギを吸収する細長く少なくともその長手方向中間部分が一定断面を有するエネルギ吸収鋼材を前記梁の梁端部に設置し、その際に、該エネルギ吸収鋼材の第1端を前記柱の前記柱梁接合部に近接した位置に接合し、該エネルギ吸収鋼材を前記梁端部に沿わせて前記梁の長手方向に延在させ、該エネルギ吸収鋼材の第2端を前記梁端部の前記柱梁接合部から離隔した位置に接合することで、地震が発生して前記柱梁接合部及び/または前記梁端部が変形した際に該エネルギ吸収鋼材が長手方向の引張荷重及び圧縮荷重を受けて伸縮塑性変形するようにし、長手方向の圧縮荷重を受けた前記エネルギ吸収鋼材が座屈するのを防止するべく前記エネルギ吸収鋼材の長手方向中間部分を囲繞して前記エネルギ吸収鋼材を補剛する座屈拘束用の補剛材を前記梁端部に設けることを特徴とする。
【0007】
また本発明においては、前記梁の上側に床スラブが一体に設けられており、前記エネルギ吸収鋼材を前記床スラブの上面及び/または前記梁端部の下面に設けることを特徴とする。
【0008】
また本発明においては、前記柱に第1ベースプレートを固設し、前記梁端部に第2ベースプレートを固設し、前記第1プレート及び前記第2プレートに前記エネルギ吸収鋼材の前記第1端及び前記第2端を取外し可能に連結することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る耐震補強工法によれば、建物の架構の開口部を殆ど塞ぐことがなく、補強箇所が外観に及ぼす影響は軽微である。また、梁端部の近傍領域に施工するだけであるため、従来の耐震補強工法と比べて工期が短く、施工中の建物の使用制限も緩和される。更には、低コストで容易に施工できる上に、耐震補強設計も非常に簡易である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係る耐震補強工法を施工したRC造建物の補強部位を示した模式図である。
【図2】図1の2−2線に沿った梁の横断面図である。
【図3】図1の3−3線に沿った梁の横断面図である。
【図4】図1に示した耐震補強構造の作用を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る耐震補強工法は、柱梁接合部において接合された柱及び梁を有するRC造ないしSRC造の既存建物に耐震補強を施す工法である。本発明に係る耐震補強工法は、エネルギ吸収鋼材を用いるものであり、このエネルギ吸収鋼材は、低降伏点鋼ないし極低降伏点鋼から成り、塑性変形することで地震エネルギを吸収する細長く少なくともその長手方向中間部分が一定断面を有する鋼材である。低降伏点鋼ないし極低降伏点鋼材としては、例えば「LY100」鋼材や、「LY225」鋼材などを用いることができる。このエネルギ吸収鋼材を既存建物の梁の梁端部に設置し、その際に、このエネルギ吸収鋼材の第1端を柱の柱梁接合部に近接した位置に接合し、このエネルギ吸収鋼材を梁端部に沿わせて梁の長手方向に延在させ、そして、このエネルギ吸収鋼材の第2端を梁端部の柱梁接合部から離隔した位置に接合することで、地震が発生して柱梁接合部及び/または梁端部が変形した際にこのエネルギ吸収鋼材が長手方向の引張荷重及び圧縮荷重を受けて伸縮塑性変形するようにする。
【0012】
図1の模式図において、参照符号10を付して示したのがエネルギ吸収鋼材である。また、耐震補強を施す既存建物は、柱梁接合部において接合された柱12及び梁14を有するRC造ないしSRC造の建物である。図示した実施の形態では、エネルギ吸収鋼材10を梁14の梁端部に設置するために、柱12に第1ベースプレート16を取付け、梁14の梁端部に第2ベースプレート18を取付けている。より詳しくは、第1ベースプレート16は、図1に示したように柱12の柱梁接合部に近接した位置にあと施工アンカー20を打ち、そのあと施工アンカー20に結合することで、柱12の柱梁接合部に近接した位置に固定して取付けられる。また第2ベースプレート18は、図1及び図3に示したようにその背面にアンカー筋22を植設する一方で、梁14の梁端部の柱梁接合部から離隔した位置にあと施工アンカー24を打ち、そしてそれらアンカー筋22及びあと施工アンカー24を包持するようにコンクリートもしくはモルタル26を打設することで、梁端部の柱梁接合部から離隔した位置に固定して取付けられる。尚、以上の説明からも明らかなように、本発明に関して使用する「梁端部」という用語は、梁の先端面のことではなく、梁の長手方向における端部近傍の長さを有する部分を意味している。
【0013】
更に、第1ベースプレート16及び第2ベースプレート18に、エネルギ吸収鋼材10の第1端及び第2端を接合することにより、既述のごとく、エネルギ吸収鋼材10の第1端を柱梁接合部の近傍において柱12に接合し、エネルギ吸収鋼材10を梁端部に沿わせて梁14の長手方向に延在させ、エネルギ吸収鋼材10の第2端を梁端部の柱梁接合部から離隔した位置に接合している。ここで、第1ベースプレート16及び第2ベースプレート18とエネルギ吸収鋼材10の第1端及び第2端との接合形態は、例えばボルトなどの適宜の連結手段を用いてそれらを取外し可能に連結した接合形態としておくとよく、そうしておけば、大きな地震が発生した後などに、必要に応じてエネルギ吸収鋼材10を交換することが容易となる。
【0014】
また、エネルギ吸収鋼材10を設置する位置は、梁端部の上面及び/または下面とするのがよい。ただし実際の建物では、図示例のように梁14の上側に床スラブ28が一体に設けられていることが多く、そのような場合には、床スラブ28を介して第2ベースプレート18を梁端部に固設することになるため、エネルギ吸収鋼材10を床スラブの上面及び/または梁端部の下面に設けることになる。
【0015】
既述のごとく、エネルギ吸収鋼材10は細長く少なくともその長手方向中間部分が一定断面を有する部材である。そして、本発明に係る耐震補強工法では、地震発生時に長手方向の圧縮荷重を受けたエネルギ吸収鋼材10が座屈するのを防止するべく、エネルギ吸収鋼材10の長手方向中間部分を囲繞してエネルギ吸収鋼材10を補剛する座屈拘束用の補剛材30を梁端部に設けるようにしている。特に図示例では、図2に示すように、エネルギ吸収鋼材10の表面をアンボンド材32で被覆し、その周りを鋼管34で囲繞し、その鋼管34の中にコンクリートもしくはモルタル36を充填して補剛材30を構成することにより、エネルギ吸収鋼材10の座屈を防止するようにしている。また図示例では、断面形状が扁平な長方形のエネルギ吸収鋼材10を、その側面が鉛直方向に延展するようにして2本並設した構成としているが、エネルギ吸収鋼材の断面形状、本数、及び側面の延展方向は図示例のものに限られず、様々なものとすることができる。
【0016】
また、添付図面には明示していないが、補剛材30の端面と第1ベースプレートないし第2ベースプレートの端面との間には隙間を確保してあり、その隙間によって、エネルギ吸収鋼材10が長手方向の圧縮荷重を受けてその長さが短縮したときに、補剛材30の端面が第1ベースプレートないし第2ベースプレートと衝突するのを回避している。
【0017】
以上の構成において、地震が発生していないときには、エネルギ吸収鋼材10の長さは図4(A)に示したようにLとなっている。そして、地震が発生して柱梁接合部及び/または梁端部が変形した際に、エネルギ吸収鋼材10が長手方向の引張荷重及び圧縮荷重を受けて伸縮塑性変形することで、その長さが図4(B)に示したようにL+ε×L及びL−ε×Lとなる。この伸縮塑性変形によって地震エネルギが吸収される。また、エネルギ吸収鋼材10が長手方向の圧縮加重を受けたときには、エネルギ吸収鋼材10の長手方向中間部分を囲繞している補剛材30がエネルギ吸収鋼材10の座屈を防止する。尚、エネルギ吸収鋼材10の長さLは、地震発生時の梁14の梁主筋(不図示)の変形量が弾性範囲に収まり、エネルギ吸収鋼材10だけが塑性変形するような長さに設定することが好ましい。
【0018】
以上から明らかなように、本発明に係る耐震補強工法によれば、建物の架構の開口部を殆ど塞ぐことがなく、補強箇所が外観に及ぼす影響は軽微である。また、梁端部の近傍領域に施工するだけであるため、従来の耐震補強工法と比べて工期が短く、施工中の建物の使用制限も緩和される。更には、低コストで容易に施工できる上に、耐震補強設計も非常に簡易である。
【符号の説明】
【0019】
10 エネルギ吸収鋼材
12 柱
14 梁
16 第1ベースプレート
18 第2ベースプレート
20 あと施工アンカー
22 アンカー筋
24 あと施工アンカー
26 コンクリートもしくはモルタル
28 床スラブ
30 補剛材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱梁接合部において接合された柱及び梁を有する鉄筋コンクリート造ないし鉄骨鉄筋コンクリート造の既存建物の耐震補強工法において、
低降伏点鋼ないし極低降伏点鋼から成り塑性変形することで地震エネルギを吸収する細長く少なくともその長手方向中間部分が一定断面を有するエネルギ吸収鋼材を前記梁の梁端部に設置し、その際に、該エネルギ吸収鋼材の第1端を前記柱の前記柱梁接合部に近接した位置に接合し、該エネルギ吸収鋼材を前記梁端部に沿わせて前記梁の長手方向に延在させ、該エネルギ吸収鋼材の第2端を前記梁端部の前記柱梁接合部から離隔した位置に接合することで、地震が発生して前記柱梁接合部及び/または前記梁端部が変形した際に該エネルギ吸収鋼材が長手方向の引張荷重及び圧縮荷重を受けて伸縮塑性変形するようにし、
長手方向の圧縮荷重を受けた前記エネルギ吸収鋼材が座屈するのを防止するべく前記エネルギ吸収鋼材の長手方向中間部分を囲繞して前記エネルギ吸収鋼材を補剛する座屈拘束用の補剛材を前記梁端部に設ける、
ことを特徴とする耐震補強工法。
【請求項2】
前記梁の上側に床スラブが一体に設けられており、前記エネルギ吸収鋼材を前記床スラブの上面及び/または前記梁端部の下面に設けることを特徴とする請求項1記載の耐震補強工法。
【請求項3】
前記柱に第1ベースプレートを固設し、前記梁端部に第2ベースプレートを固設し、前記第1プレート及び前記第2プレートに前記エネルギ吸収鋼材の前記第1端及び前記第2端を取外し可能に連結することを特徴とする請求項2記載の耐震補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−207389(P2012−207389A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71995(P2011−71995)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】