説明

既製杭の施工方法

【課題】 固化材の使用量や廃棄物が少ない既製杭の施工方法を提供する。
【解決手段】 既製杭の沈設後に、既製杭の下端まで沈降させた噴射口2aから固化材を吹き付けながら、この噴射管2を上方に引き上げる。これにより、必要な部分にのみ固化材が充填されるため経済的であり、また排土に固化材が混入しないため廃棄物量も低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は既製杭の施工方法に関し、特に経済的な既製杭の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレボーリング(先掘り)工法では、掘削液を注入しながら掘削することで地盤を泥土化して掘削穴を形成し、その掘削穴に既製杭を沈設する。この際、掘削穴と既製杭との間隙を埋めるために、既製杭の沈設前に掘削穴にミルクセメント等の固化材を注入し、撹拌することで泥土をソイルセメントにしておく。これにより、既製杭の沈設後には、ソイルセメントが硬化することで、杭と地盤の間の摩擦力が確保され、杭が支持される。
【特許文献1】特開昭62−253817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
杭を支持するのに必要な杭周面摩擦力を確保するためには、杭の外周面と地盤との間に固化材が充填されれば十分である。しかしながら、従来のように掘削穴に固化材を注入、土砂と撹拌後に杭を沈設する場合には、杭の外周のみでなく杭の中空部にも固化材の混ざった土砂が充填されることとなり、固化材消費の観点から不経済であった。特に、大径杭を施工する場合には、大量の固化材が杭の中空部に充填されることとなり、非常に不経済であった。また、固化材を注入した後の排土は、もはや自然土ではなく、産業廃棄物として処理しなければならないため、廃棄物低減の観点からも好ましくない。
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、固化材の使用量や廃棄物が少ない既製杭の施工方法及び杭を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するためには、既製杭と掘削穴の間隙のみに固化材を注入すればよいのだが、この場合、大きな問題点が一つある。
既製杭と掘削穴の間隙に既製杭上端部(あるいは地表)から固化材を注入した場合、既製杭と掘削穴の間隙にある土砂は逃げ道がないので、固化材は前記間隙の既製杭上端部に滞留するだけで既製杭下端部までうまく充填できない。
【0005】
また、既製杭と掘削穴の間隙に既製杭と共に固化材注入手段(例えば、後述する噴出管)を沈降させながら、該固化材注入手段より固化材を吐出した場合は、既製杭と掘削穴の間隙にある土砂の逃げ道は、既製杭下方を回り込み既製杭内を通って地表に出るしかない。よって、上方で既に充填された固化材が下方に充填された固化材によって地表に押し出されるか、あるいは固化材の一部が下方に逃げ、既製杭を回り込んで既製杭内の土砂と混ざるかしてしまい、既製杭と掘削穴の間隙のみに既製杭下端部まで問題なく固化材を充填することは難しい。
【0006】
上記問題点を解決するために、本発明の請求項1による既製杭の施工方法は、既製杭を埋設するための掘削穴を先掘りし、その掘削穴に既製杭を沈設する既製杭の施工方法であって、前記掘削穴に前記既製杭を所定の深さまで沈設させた後に、既製杭の外周と掘削穴の間隙に、前記既製杭の下端から固化材を充填することを特徴とする。
ここで、所定の深さまで沈設させた後とは、杭の沈設の完了をいい、例えば掘削穴の下端、あるいは、例えば支持層に根固め球根を形成する場合には、この根固め球根を形成した部分まで沈降させた後である。
【0007】
また、本発明の請求項2による既製杭の施工方法は、請求項1において、前記固化材を吐出する噴出管を前記既製杭の下端部から杭頭部に向かって移動させながら、該噴出管より前記固化材を噴出することで、該固化材を充填することを特徴とする。
また、本発明の請求項3による既製杭の施工方法は、請求項1又は2において、前記固化材を吐出する噴出管を前記既製杭とともに前記掘削穴に沈降させ、前記既製杭を所定の深さまで沈設させた後に、前記噴出管から固化材を吐出することで、当該固化材を充填することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の既製杭の施工方法によれば、固化材の使用量や産業廃棄物を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
(第一実施形態)
図1は第一実施形態に係る既製杭の施工方法を説明する図、図2及び図3は第一実施形態に係る既製杭を説明する図である。
まず、第一実施形態に係る既製杭について説明する。
【0010】
既製杭は、鋼管で形成される既製杭本体1と、この既製杭本体1の外周面に円周方向全周にわたって所定間隔で取り付けられた噴射管2と、を備えるものである。噴射管2は、既製杭本体1の先端よりやや上方まで延びた下端には噴射口2aを下方に向けてノズルが取り付けられ、このノズルから杭周固定液(固化材を含んだ液)を吐出可能になっている(図3(a)参照)。また、噴射管2は、既製杭本体1に対して着脱可能に取り付けられており、既製杭の沈設後に杭周固定液を吐出しながら、上方に引き上げられる。なお、この引き上げ時に、杭周固定液が均等に吐出されるように、噴射管2の引き上げ方向に沿って複数のガイド2bが既製杭本体1に設けられている。
【0011】
なお、噴射管2の構成材料は特に限定されず、金属製あるいは合成樹脂製のパイプ、ホース等を用いることができる。また、既製杭本体1への取り付け方法も着脱可能であれば特に限定されず、例えば、着脱可能な専用の取付金具を既製杭本体1に設置する。
また、既製杭は、鋼管杭以外に金属製、コンクリート製、鉄筋コンクリート製、あるいは現状流通しているRC杭、PC杭、PHC杭、SC杭でも、特に拘らない。
【0012】
次に、前記既製杭の施工方法について説明する。
まず、掘削機5により既製杭を埋設する掘削穴を設けるために掘削を行う。図1では、先端部に掘削刃としてのビット53及び公知の拡大ビット54を備えるとともに、軸方向に沿って複数の撹拌翼55が設けられた掘削ロッド51を、掘削機の回転駆動部52により駆動することで、掘削を行う。撹拌翼55は杭径よりもやや大きく突出させ、掘削の際には掘削ロッド51の先端部に設けられた噴出孔(図示せず)から掘削穴3内へ掘削液(例えば、水)を注入することで、杭径よりもやや大きい径の範囲に泥土化した掘削穴3が形成される(図1(a)及び(b)参照)。この掘削穴3の形成過程では、従来技術のように杭周固定液を掘削穴3内に注入しない。また、掘削液の導入によりあふれ出る排土以外は、土はできる限りそのまま掘削穴中にとどめておく。
【0013】
支持層まで掘削が進むと、図1(b)のように、拡大ビット54を拡径して掘削穴3の下端部を拡径し、掘削ロッド51先端部の噴出孔から掘削穴3内に根固め液を注入することで、杭先端支持力を確保するための根固め球根部31を形成する。ここでは、根固め液として、水と固化材としてのセメントが水固化材比((水の質量/固化材の質量)×100)60%程度の割合で配合されたセメントミルクを用い、セメントミルクの注入後に土砂と撹拌混練することで、ソイルセメントにする。図1にソイルセメントの部分を斜線で示す。
【0014】
掘削が完了したら、図1(c)のように、掘削ロッドを引き抜く。
上記のようにして掘削穴3を形成した後、図1(d)のように、既製杭を、全周回転機を用いた回転沈設によって、掘削穴3内に建て込んでいく。第一実施形態では、既製杭の沈降速度を一定としている。
1本目の既製杭の沈設が完了すると、2本目の既製杭の沈設を開始する。ここで、2本目の既製杭の沈設の開始時には、1本目の既製杭の頭部と2本目の既製杭の下端を溶接により接続する。これとともに、1本目の既製杭の噴射管2の上端にも、やはり2本目の既製杭の既製杭本体1に着脱可能に取り付けられた両端開放のパイプ21を継ぎ、これらの開放端部をパッキング6で接続する(図2(b)参照)。これにより、既製杭の先端が根固め球根部31に至るまで既製杭の沈降が続けられる。
【0015】
そして、既製杭の沈設が完了すると噴射管2の沈設も完了する。そこで、パイプ21の上端に接続した送液ポンプ4より杭周固定液を噴射管2に供給し、既製杭の下端部近傍にある噴射口2aから杭周固定液を吐出することで杭周固定液の充填を開始する(図1(e)参照)。この杭周固定液としては、水固化材比が100%のセメントミルクを用いる。これにより、杭周固定液は杭外周面と掘削穴3の壁面3a(掘削した部分と掘削していない地盤の境界面)との間の領域に充填され、掘削穴3の土砂と混ざり合い、この領域にソイルセメントが形成される(図1では斜線で示す)。
【0016】
さらに、図1(f)に示すように、杭周固定液を吐出し始めるのと同時に、杭周固定液を吐出しながらパイプ21及び噴射管2を徐々に上方に引き上げる。これにより、既製杭の下端部から杭頭部に向かって、杭外周面と掘削穴3の壁面3aとの間の領域に順次杭周固定液が充填されていき、最終的には、杭外周面と掘削穴3の壁面3aとの間の全領域にソイルセメントが形成される。このとき、杭周固定液の比重が土砂よりも重い場合には、ほぼ杭周固定液のみが杭外周面と掘削穴3の壁面3aとの間の領域に充填され、掘削穴3中の土砂は杭周固定液に押し出されるようにして地上部に排出される。このため、既製杭の外周にはほぼ杭周固定液のみの良好な固化材が充填され、既製杭と地盤の一体化が強固に図られる。なお、杭周固定液は、合計で、掘削穴3中の土砂量等を考慮し、杭外周面と掘削穴3の壁面3aとの間の全領域の体積の10%〜100%の適切な量を注入する。
【0017】
上述のように、既製杭の沈設後、既製杭の下端から杭周固定液(固化材を含んだ液)を充填することで、杭周面摩擦力を確保するのに必要な領域(既製杭の外周と掘削穴3の壁面3aとの間隙)にのみ杭周固定液(つまりは固化材)が充填される。すなわち、掘削穴3内の土砂全体に、杭周固定液を注入、混合していた従来と比べ、本発明による方法では既製杭の中空部に入り込む土砂には杭周固定液が混入しないので大幅に固化材の使用量を低減でき、経済的である。また、既製杭の沈設過程までは杭周固定液が充填されないため、掘削穴3の形成過程で排出される土砂は、杭周固定液が混入しない自然土である。このため、産業廃棄物の量も低減できる。
【0018】
なお、上述の実施形態では、全周回転機を用いた回転沈設の場合について述べているが、本発明に係る既製杭の施工方法は、これに限定されず、三点式杭打機にモータを組み合わせて回転沈設する場合や、先掘り(プレボーリング)後に既製杭を自重沈設する場合にも、適用可能である。
また、既製杭の沈設過程で吹き付ける杭周固定液は、上述したものに限定されず、従来の杭周固定液と同様に、水固化材比が比較的高いものを用いることができる。また、杭周固定液の土砂中への拡散、浸透状態等に応じて水固化材比を調整することで、より質の良いソイルセメントの形成が可能である。また、既製杭の沈降後に杭周固定液を充填するので、杭周固定液の充填後に既製杭を沈降させる従来の方法を用いる場合よりも硬化遅延剤の配合量を少ないものとすることも可能である。
【0019】
また、杭周固定液の吐出方向も、上記実施形態のように既製杭の外側に水平に吐出する場合に限定されず、既製杭の外側であって斜め上方に向けて吐出したり(図2(c)参照)、あるいは、水平に(図2(d)参照)吐出したりしてもよい。
また、吐出方向に応じてノズルの位置を適切に設定することが好ましい。一般的に、下向きに吐出する場合には、杭先端よりノズルの位置を上方に設置し、杭先端から既製杭の中空に杭周固定液が流入しないようにする。水平方向や上向きに吐出する場合には、杭先端から既製杭の中空に杭周固定液が流入しにくくなるため、ノズルの位置は杭先端に近い位置とすることができる。ノズルが下向きの場合には杭先端から杭径Dの2倍程度上方に取り付け、水平の場合には杭径D程度、上向きの場合には杭先端近傍に取り付けることが好ましい。
【0020】
また、杭周固定液の単位時間あたりの吹き付け量、吹き付け時の圧力(実施形態ではノズル圧力)等は、掘削穴3内の土砂量、噴射管2の引き上げ速度や杭周固定液の吐出時の深さ等に応じて設定することができる。例えば、土圧は深度が大きいほど大きくなるので、吐出時の圧力は深い部分ほど大きくしてもよい。また、杭周固定液の浸透を考慮して、浅い部分ほど吐出量を多くしてもよい。
なお、噴射管を引き上げることなく、下端に固定して、既製杭の下端から上方に向かって杭周固定液を充填してもよい。
【0021】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態における既製杭の施工方法は前記第一実施形態と同じであるが、杭周固定液を吐出する噴射装置の構成が若干異なっている。
図4は第二実施形態に係る杭周固定液を吐出する噴射装置を説明する図である。図4(a)に示すように、噴射装置は、既製杭本体1に沿って着脱可能に取り付けられる杭周固定液供給管71と、杭周固定液供給管71の下端に接続しかつ既製杭本体1の周囲に着脱可能取り付けられる噴射リング73と、を備える。杭周固定液供給管71は、例えば、小径のフレキシブルパイプやゴム管で構成することができる。噴射リング73は、掘削穴3の径よりも小さくかつ既製杭本体1の径よりも大きいものであり、既製杭本体1に装着した状態で掘削穴との間、及び、既製杭本体1との間に若干の余裕(例えば20mm〜50mm)ができる程度の大きさとなっている。また、噴射リング73には、内周側及び外周側の双方に噴射口73aが設けられており、杭周固定液供給管71から杭周固定液の供給を受けて噴射口73aより掘削穴及び既製杭本体1に向けて杭周固定液が吐出されるようになっている(図4(b)参照)。また、この噴射口73aは、円周方向全周にわたって所定間隔で設けられているため、既製杭本体1の全周にわたって均等に杭周固定液を充填することができる。そして、杭周固定液の吐出時には、噴射リング73に取り付けられたワイヤー72と、杭周固定液供給管71と、を上方に引き上げることで、杭下端から杭頭部に至るまで杭周固定液を充填することができる。なお、この引き上げ時に噴射リング73が回転することで、ワイヤー72が絡まったり、充填状態が不均一になるのを防止するために、図4(d)に示すような回転防止機構を設置してもよい。図4(d)では、既製杭本体1の外周に外側に向かって突出した凸部1bを長手方向に沿って設けるとともに、噴射リング73の内側にはこの凸部1bを挟み込むように突出した一対のレールを設置している。
【0022】
噴射装置をこのように構成することで、杭周固定液供給管71の引き上げ作業を容易にすることができる。また、噴射リング73を用いているので、全周にわたって均等な重点を行うことができる。これとともに、掘削穴及び既製杭本体の両方に杭周固定液を吐出するので、既製杭本体に付着した土砂などをクリーニングしながら、また地盤面に柔らかい層が残らないように、杭周固定液(つまりは固化材)を充填することができる。従って、既製杭と地盤が強固に一体化される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第一実施形態に係る既製杭の施工方法を説明する図である。
【図2】第一実施形態に係る既製杭を説明する図である。
【図3】第一実施形態に係る噴射管のノズルを説明するために、既製杭本体と1つの噴射管を取り出して示した図である。
【図4】(a)は第二実施形態に係る噴射装置を既製杭に取り付けた状態を説明する図、(b)は既製杭本体を長手方向に切断した図、(c)は噴射装置のみを示す斜視図、(d)は噴射装置に設置された回転防止レールを説明する図である。
【符号の説明】
【0024】
1 既製杭本体
2 噴射管
2a 噴射口
2b ガイド
21 パイプ
3 掘削穴
3a 壁面
31 根固め球根部
4 送液ポンプ
5 掘削機
51 掘削ロッド
52 回転駆動部
53 ビット
54 拡大ビット
55 撹拌翼
6 パッキング
71 杭周固定液供給管
72 ワイヤー
73 噴射リング
73a 噴射口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既製杭を埋設するための掘削穴を先掘りし、その掘削穴に既製杭を沈設する既製杭の施工方法であって、
前記掘削穴に前記既製杭を所定の深さまで沈設させた後に、
既製杭の外周と掘削穴の間隙に、前記既製杭の下端から固化材を充填することを特徴とする既製杭の施工方法。
【請求項2】
前記固化材を吐出する噴出管を前記既製杭の下端部から杭頭部に向かって移動させながら、該噴出管より前記固化材を噴出することで、該固化材を充填することを特徴とする請求項1に記載の既製杭の施工方法。
【請求項3】
前記固化材を吐出する噴出管を前記既製杭とともに前記掘削穴に沈降させ、前記既製杭を所定の深さまで沈設させた後に、前記噴出管から固化材を吐出することで、当該固化材を充填することを特徴とする請求項1又は2に記載の既製杭の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−183319(P2006−183319A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−377543(P2004−377543)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】