説明

昆虫性フェロモン薬液の放散装置

【課題】 蒸散しにくい昆虫性フェロモン薬液を効率良く霧化して広範囲に均一に放散させることのできる放散装置を提案すること。
【解決手段】 昆虫性フェロモン薬液の放散装置1では、薬液供給部3から薬液噴霧器2に薬液が供給される。薬液噴霧器2の容器11内には薬液霧化ノズル24の先端の噴霧口24dを横切る状態に圧縮空気を吹き付ける圧縮空気噴射ノズル21が配置されている。圧縮空気によって薬液霧化ノズル24の噴霧口24dから吸い出された薬液が霧化され、当該圧縮空気流に乗って薬液放出口16から外部に噴霧される。粒径の大きな霧化薬液は屈曲円筒部内周面14aに捕捉され、細かな霧化薬液のみが大気中に放出され、広範囲に亘って均一に薬液が放散される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫の交信かく乱剤や誘引剤などの昆虫性フェロモン薬液を、効率良く霧化して放散可能な昆虫性フェロモン薬液の放散装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農場などにおいては、殺虫剤を用いる代わりに、昆虫性フェロモンなどの誘引剤を空気中に放散して、害虫に交信かく乱を引き起こして産卵数を減少させることにより害虫の発生を減少させる害虫駆除方法が知られている。例えば、圃場施設に所定間隔で多数の昆虫性フェロモンディスペンサを設置して、昆虫性フェロモンを自然放散させるものが知られている。昆虫性フェロモンディスペンサとしては、プラスチック製のチューブに性フェロモンを封入したものが知られており、これを育成植物の枝やビニールハウスの骨組に掛けて、性フェロモンをチューブを介して空気中に自然放散させるようにしている(特許文献1)。しかし、このディスペンサでは、昆虫が交尾をしない日中も昆虫性フェロモンが継続放散され、気温の高い日中の方が放散量も多いので、薬液の無駄な放散が多い。また、性フェロモンのうち二重結合をもつものは紫外線劣化や酸化を起こしやすいので、安定剤を混合する必要があり、その分コスト高になっている。さらには、近隣の果樹園などの影響で想定しなかった害虫が存在する場合に、そのような想定外の害虫に即応できない。
【0003】
そこで、ヒータやファンなどによって揮発性の薬液を強制的に放散させる薬液放散装置を利用すること(特許文献2、3、4)、遠隔制御によるスプレー式の薬液放散装置を利用すること(特許文献5)、あるいは、インクジェットプリンタに用いられるインクジェッドヘッドと同様な液滴吐出ヘッドを用いて薬液を放散すること(特許文献6)等が考えられる。
【特許文献1】特開平8−322447号公報
【特許文献2】実開昭58−110288号公報
【特許文献3】実用新案登録第3021119号公報
【特許文献4】特開平9−74969号公報
【特許文献5】米国特許第6182904号公報
【特許文献6】米国特許第6339897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような強制式あるいはオンデマンド式の薬液放散装置は、一般に、圃場施設などに立てた支柱に取り付けられ、必要な時間帯に合わせて、薬液を蒸発皿やメッシュ状素材などの薬液放散部材の表面に滴下あるいは吐出して、薬液を外部に放散させている。
【0005】
しかしながら、昆虫性フェロモン薬液の放散量は極めて微量でよく、しかも拡散性・展開性に乏しい。このため、蒸発皿やメッシュ状素材の表面に滴下あるいは吐出された微量の薬液の液滴は、それらの表面において、滴下あるいは吐出された状態のままで揮発して空気中に放散していく。点状のままでは空気との接触面積が少ないので、放散効率が極めて悪い。また、風が強い場合などには、蒸発皿やメッシュ状素材の表面に滴下した薬液が風によって飛ばされて地上にそのまま落ちてしまうことがある。この場合には、散布領域の全体に薬液を放散することができない。
【0006】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、昆虫性フェロモン薬液を速やかに霧化して、効率良く対象領域に放散させることのできる昆虫性フェロモン薬液の放散装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の昆虫性フェロモン薬液の放散装置は、昆虫性フェロモンからなる薬液を霧化して外部に放散する薬液噴霧器と、この薬液噴霧器に前記薬液を供給する薬液供給部と、前記薬液を霧化するために用いる圧縮ガスを前記薬液噴霧器に供給する圧縮ガス供給部とを有し、前記薬液噴霧器は、圧縮ガス噴射ノズルと、この圧縮ガス噴射ノズルから噴射されるガス流がノズル先端を横切るように配置されている薬液霧化ノズルとを備え、前記ガス流によって前記薬液霧化ノズルの先端に吸い上げられた薬液が霧化されて放散されるようになっていることを特徴としている。
【0008】
薬液霧化ノズルの先端を横切るようにガス流が流れると、当該薬液霧化ノズルの先端側が負圧状態となり、薬液が先端側に吸い上げられ、ガス流によって霧化され、当該ガス流によって放散される。飽和蒸気圧の低い昆虫性フェロモン薬液がガス流によって霧化されるので、昆虫性フェロモン薬液を効率良く対象領域に放散することができる。また、蒸発皿のように熱を加えて蒸散させる場合に比べて、霧化のための消費エネルギを抑制することができ、また、薬液が加熱されないので薬効が変化することもない。
【0009】
ここで、薬液霧化ノズルの先端から発生した霧化薬液の粒径が大きい場合には空気中に浮遊せずに落下しやすい。対象領域全体の広範囲に薬液を放散するためには、空気中に浮遊可能な細かな粒径の霧化薬液を外部に放出することが望ましい。このために、前記薬液噴霧器は、前記薬液霧化ノズルの先端から発生した霧化薬液から、粒径が所定以上のものが外部に放散されないように捕捉するための捕捉手段を備えていることが望ましい。
【0010】
前記捕捉手段としては、前記薬液霧化ノズルの先端から発生した霧化薬液が通過し、前記ガス流の方向に対して傾斜した方向に延びている筒状部の内周面を用いることができる。大きな粒径の薬液は筒状部の内周面に当たり、そこに付着して回収される。よって、細かな粒径の霧化薬液のみを外部に放出することができる。筒状部内周面の代わりに、前記薬液霧化ノズルの先端から発生した霧化薬液が通過するメッシュ部材を用いることもできる。メッシュ部材のメッシュを適切な大きなとしておけば、大きな粒径の霧化薬液がここで捕捉され、細かな粒径の霧化薬液のみを外部に放出できる。
【0011】
前記薬液噴霧器としては、底付きの噴霧器容器と、この噴霧器容器の底を貫通する状態に取り付けられた前記圧縮ガス噴射ノズルと、前記噴霧器容器の内部に配置され、当該噴霧器容器の底面に溜まった薬液を前記ノズル先端に吸い上げ可能な前記薬液霧化ノズルと、前記霧化薬液を外部に放散するために前記噴霧器容器に形成した放散口と、前記噴霧器容器の内周面、および/または、前記放散口に形成されている前記捕捉手段と、前記薬液供給部から供給される前記薬液を前記噴霧器容器内に導入するために当該噴霧器容器に形成した薬液供給口とを備えた構成のものを用いることができる。
【0012】
また、前記薬液供給部としては、薬液カートリッジの装着部と、この装着部に装着された前記薬液カートリッジから薬液を吸引して前記噴霧器に吐出する薬液ポンプとを備えた構成のものを用いることができる。薬液カートリッジを気密性のものとし、薬液ポンプを介して実質的に気密状態の下で、薬液を噴霧器に供給すれば、空気や水分などによって薬効が変化し易い昆虫性フェロモン薬液を、長期に亘って良好な状態で放散することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の昆虫性フェロモン薬液の放散装置は、圧縮ガス流を用いて、蒸発しにくい昆虫性フェロモン薬液を強制的に霧化して外部に放出するようにしている。したがって、効率良く対象領域全体に亘って薬液を放散することができる。また、蒸発皿などを用いて薬液を加熱して気化する場合に比べて、消費エネルギを抑制でき、加熱による薬効の変化も発生しないという利点もある。さらに、粒径の大きな霧化薬液の捕捉手段を設けた場合には、空気中に浮遊可能な細かな粒径の霧化薬液のみを放出できるので、広範囲に亘って均一に薬液を放散できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した昆虫性フェロモン薬液の放散装置の一例を説明する。
【0015】
(全体構成)
図1は本例の昆虫性フェロモン薬液の放散装置(以下、単に「放散装置」と呼ぶ。)を示す斜視図であり、図2はその一部を分解した状態で示す部分分解斜視図であり、図3はその噴霧器を示す縦断面図である。これらの図を参照して説明すると、放散装置1は、薬液噴霧器2と、この薬液噴霧器2に昆虫性フェロモン薬液を供給する薬液供給部3と、昆虫性フェロモン薬液を霧化するための圧縮空気を薬液噴霧器2に供給する空気ポンプ5(圧縮ガス供給部)を有している。薬液供給部3からは、薬液供給チューブ6を介して、薬液噴霧器2に薬液が供給され、空気ポンプ5からは、圧縮空気供給チューブ7を介して、薬液噴霧器2の圧縮空気が供給される。
【0016】
図3から分かるように、薬液噴霧器2は円筒状の噴霧器容器11を備えており、この噴霧器容器11は、底の付いた垂直円筒部12と、この垂直円筒部12の上端に先細りのテーパ部13を介して連続している小径の屈曲円筒部14とを備えている。屈曲円筒部14は、その下端部分においてほぼ45度湾曲しており、上端には、先細りのテーパ部15を介して円筒状の薬液放出口16が形成されている。屈曲円筒部14とテーパ部15の間には仕切り壁17が形成されており、ここには、双方を連通している複数個の連通孔18が形成されている。
【0017】
垂直円筒部12の底部19の中心には、同軸状態で、圧縮空気噴射ノズル21が貫通した状態で一体形成されている。圧縮空気噴射ノズル21は同一径の垂直円筒部分21aと、この先端に形成された先細りのノズル先端部分21bとを備え、当該ノズル先端部分21bの先端開口が圧縮空気噴射口21cとされている。また、円筒部分21aの後端開口部21dは、圧縮空気供給チューブ7を介して、空気ポンプ5の吐出口に連通している。
【0018】
垂直円筒部12の内部において、圧縮空気噴射ノズル21の円筒部分21aの側方には、水平連結リブ23を介して、薬液霧化ノズル24が一体形成されている。薬液霧化ノズル24は水平連結リブ23に連結されている円筒部分24aを備え、この円筒部分24aの先端側の部分は、圧縮空気噴射ノズル21の側に向けてほぼ45度の角度なるように湾曲した湾曲部分24bとなっている。この湾曲部分24bの先端が先細りのノズル先端部分24cとされ、当該ノズル先端部分24cの先端開口が霧化薬液の噴霧口24dとされている。この噴霧口24dは、圧縮空気噴射ノズル21の圧縮空気噴射口21cのほぼ真上に位置している。また、薬液霧化ノズル24の円筒部分24aの後端開口24eは、噴霧器容器11の垂直円筒部12における底部19の近傍の高さ位置にある。
【0019】
垂直円筒部12の外周壁20には、昆虫性フェロモン薬液を内部に導入するための薬液供給管25が水平に貫通した状態で一体形成されている。この薬液供給管25は、薬液供給チューブ6を介して、薬液供給部3に連通している。
【0020】
ここで、圧縮空気噴射ノズル21のノズル径(圧縮空気噴射口21cの内径)は、薬液霧化ノズル24のノズル径(噴霧口24dの内径)よりも大きな寸法となるように設定されている。
【0021】
次に、この構成の噴霧器2に昆虫性フェロモン薬液を供給する薬液供給部3は、空気ポンプ4の上面に水平に配置された扁平な直方体形状をしたカートリッジ装着部30と、この上面に取り付けた薬液ポンプ40とを備えている。カートリッジ装着部30の後端開口部32からは、水平方向に着脱可能な状態で、扁平な直方体形状をした薬液カートリッジ33が装着される。薬液カートリッジ33は、図2に示すように、直方体形状のプラスチック製のケース34と、この中に収納されている薬液封入袋35とを備えている。薬液封入袋35は、気密性のある可撓性素材、例えばアルミニウム蒸着フィルムから形成されており、この中に、昆虫性フェロモン薬液が気密状態で封入されている。薬液封入袋35の前縁の中央部分にはプラスチック製の円筒状の薬液取り出し口36が取り付けられており、この薬液取り出し口36はゴムパッキン(図示せず)で封鎖されている。カートリッジ装着部31の前端壁37の中央部分には薬液供給針38が取り付けられている。カートリッジ装着部31に薬液カートリッジ33が装着されると、その薬液取り出し口36に、薬液供給針38の後半部分が差し込まれた状態になる。薬液供給針38の前端壁37の中央部には薬液供給チューブ39の前端39aが接続されており、この内部に、薬液供給針38の前半部分が差し込まれた状態となっている。
【0022】
図4は薬液ポンプ40を示す正面図およびb−b線の位置で切断した場合の断面図である。この図も参照して説明すると、本例の薬液ポンプ40の基本構成は一般的なチューブポンプと同様であり、金属製のシャーシ41の表面に積層したプラスチック製のケース42の裏面に半円形内周側面43が形成されており、この半円形内周側面43に沿って可撓製のチューブ44が配置されている。チューブ44は耐薬品性に優れたフッ素系ゴム、例えばVAITON(商品名)から形成することができる。このチューブ44は、内周側面43の中心回りに公転運動するローラ45によって内周側面43の側に押し潰され、その押し潰し位置が円周方向に移動することにより、チューブ44内の薬液がローラ45の公転方向に押し出されるようになっている。ローラ45の公転運動は、シャーシ41に取り付けた駆動モータ50によって行われる。
【0023】
チューブ44は、ケース42の裏面側において、半円形内周側面43に沿ってU字状に配置されており、その一方の端が、ケース42に取り付けた薬液吸引口40aに接続され、他方の端が、同じくケース42に取り付けた薬液吐出口40bに接続されている。薬液吐出口40bの内部には、薬液が吐出側から逆流することを阻止するための逆止弁48が内蔵されている。本例の逆止弁48はダックビルバルブを用いており、例えばフロロシリコンゴムから形成されている。薬液吐出口40bには薬液供給チューブ6の後端が接続されている。薬液吸引口40aには、薬液供給チューブ39の後端39bが接続されている。
【0024】
この構成の薬液ポンプ40では、ローラ45がチューブ44から外れた回転角度位置に待機している。制御ユニット(図示せず)によって駆動モータ50が駆動されると、ローラ45が矢印で示すように、薬液吸引口40aから薬液吐出口40bに向けて回転し、所定の回転角度範囲ではチューブ44を押し潰しながら公転する。この結果、チューブ44内の薬液が薬液吐出口40bに向けて押し出され、ここに内蔵されている逆止弁48を通って吐出する。駆動モータ50を止めるタイミングは、ローラ45がチューブ44から外れた回転角度位置とされ、チューブ44が押し潰されたまま次の駆動まで待機するという状態を回避している。
【0025】
非駆動状態においては、チューブ44からローラ45が外れた回転角度位置に保持される。チューブ44が押し潰されたまま長時間放置されると、内部に残っている薬液が原因となって、チューブが押し潰された状態のまま貼り付いてしまい、円形断面に復帰できないおそれがあるが、このような貼り付きが回避される。また、チューブ44が押し潰されていない状態において、薬液吐出口40bに作用する背圧が薬液供給口40aに作用する背圧よりも高くなると、チューブ44に残っている薬液が逆流するおそれがある。しかし、薬液吐出口40bに逆止弁48が内蔵されているので、このような圧力状態が発生しても、薬液が逆流することがない。よって、チューブ44内から薬液が無くなり、次の薬液吐出動作の初期状態において薬液が吐出されない空吐出状態の発生を確実に防止できる。この結果、常に、所定量の薬液を吐出することが可能になる。このことは、昆虫性フェロモンなどにように放散量が微小量である薬液を放散する場合に極めて有効である。
【0026】
なお、薬液ポンプ40としてはチューブポンプ以外のポンプを用いることも可能である。例えば、歯車ポンプやピストンポンプを用いることができる。
【0027】
(薬液放散動作)
図3を参照して、本例の放散装置1の薬液放散動作を説明する。不図示のタイマ機能を備えた制御ユニットによって、予め定まった時刻になると、薬液ポンプ40を所定時間駆動し、しかる後に、空気ポンプ5を所定時間駆動する。
【0028】
薬液ポンプ40が所定時間駆動されると、薬液カートリッジ33内の薬液が薬液供給チューブ39を介して吸引され、薬液ポンプ40の吐出口40bから薬液供給チューブ6を介して薬液噴霧器2内に供給される。薬液噴霧器2内に供給された薬液8は、図3(a)に示すように、その噴霧器容器11の底に溜まる。底近傍には薬液霧化ノズル24の後端開口部24eが位置しているので、毛細管力によって薬液は、その先端の噴霧口24dまで吸い上げられる。
【0029】
所定量の薬液が供給された後は薬液ポンプ40が停止し、代わって、空気ポンプ5が駆動する。空気ポンプ5が駆動すると、圧縮空気供給チューブ7を介して、圧縮空気が薬液噴霧器2の圧縮空気噴射ノズル21に供給される。この結果、図3(b)に示すように、圧縮空気噴射ノズル21の先端の圧縮空気噴射口21cから圧縮空気が吹き出される。吹き出された圧縮空気9は、前方に位置している薬液霧化ノズル24の先端の噴霧口24dを包含する状態で、当該噴霧口24dを横切って流れる。この結果、噴霧口24dの部分が負圧状態になり、ここから吸い出された薬液が圧縮空気の空気流によって霧化され、当該空気流に乗って屈曲円筒部14の側に放出される。
【0030】
ノズル24の噴霧口24dから発生した霧化薬液8aの放出方向の前方には、屈曲円筒部14の内周面14aが位置している。したがって、霧化薬液は当該内周面14aに向けて放出され、当該内周面14aに当る。霧化薬液8aのうち、粒径の大きな薬液8bは内周面14aに当ると、そこに付着して捕捉される。また、屈曲円筒部14の先端側の仕切り壁17に形成されている連通孔18(メッシュトラップ)を通過する際にも粒径の大きな霧化薬液8bが捕捉される。よって、屈曲円筒部14の先端の薬液放出口16からは粒径が小さく空気中に浮遊可能な霧化薬液8cが大気中に放出される。連通孔18の部分および内周面14aに捕捉された薬液は内周面14aに沿って流下して、その底部19に戻る。このようにして、薬液放出口16から薬液が大気中に噴霧される。
【0031】
以上説明したように、本例の放散装置1では、圧縮空気によって飽和水蒸気圧の低い薬液を霧化して大気中に放出している。また、霧化薬液に含まれている粒径の大きな薬液を屈曲円筒部内周面14a、および仕切り壁17の連通孔18において捕捉し、細かな霧化薬液のみを薬液放出口16から大気中に放散している。したがって、粘度の高い薬液を非常に微細な霧、例えば直径が1〜10μm程度の細かな霧として大気中に放散できる。また、蒸発しにくい薬液を微細な霧にして表面積を大きくすることにより、その蒸発を早めることができる。換言すると、大きな粒径の霧が薬液噴霧器容器内に捕捉されるので、蒸発しにくい大きな粒径の霧が外部に放散されることを防止できる。
【0032】
さらに、薬液カートリッジ34は気密性のものであり、ここから吸引された薬液は気密性の高いチューブポンプ式の薬液ポンプ40によって薬液噴霧器2に供給される。したがって、薬液が空気や湿気に触れて薬効が劣化するおそれが少ない。また、放散に必要な薬液のみを、薬液ポンプ40によって薬液噴霧器2に補充しているので、貯留されている薬液が酸化等して劣化することがない。よって、長期に亘って、薬効変化のない昆虫性フェロモン薬液を放散することができる。
【0033】
さらにまた、圧縮空気噴射ノズルから噴射される圧縮空気の圧力を調整することにより、薬液の霧化量を自由に制御できる。すなわち、少量ずつ霧化する場合には低い圧力の圧縮空気を供給すればよく、短時間で大量の霧化薬液を放出する場合には高圧力の圧縮空気を供給すればよい。
【0034】
なお、本例では、霧化薬液に含まれている粒径の大きな薬液を屈曲円筒部内周面14aと、メッシュトラップである連通孔18の双方によって捕捉している。一方の捕捉手段のみを用いてもよい。また、メッシュトラップとして、所定の目の粗さを備えたメッシュ部材を用いてもよい。この場合、メッシュ部材を薬液噴霧器2の薬液放出口16に直接に取り付けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明を適用した放散装置の外観斜視図である。
【図2】図1の放散装置を一部分解した状態で示す部分分解斜視図である。
【図3】図1の薬液噴霧器の縦断面図である。
【図4】図1の薬液ポンプを示す正面図および断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 放散装置、2 薬液噴霧器、3 薬液供給部、5 空気ポンプ、6 薬液供給チューブ、7 圧縮空気供給チューブ、11 容器、12 垂直円筒部、14 屈曲円筒部、14a 内周面、16 薬液放出口、18 連通孔(メッシュトラップ)、19 底部、21 圧縮空気噴射ノズル、24 薬液霧化ノズル、25 薬液供給管、30 カートリッジ装着部、33 薬液カートリッジ、40 薬液ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昆虫性フェロモンからなる薬液を霧化して外部に放散する薬液噴霧器と、
前記薬液噴霧器に前記薬液を供給する薬液供給部と、
前記薬液を霧化するために用いる圧縮ガスを前記薬液噴霧器に供給する圧縮ガス供給部とを有し、
前記薬液噴霧器は、圧縮ガス噴射ノズルと、この圧縮ガス噴射ノズルから噴射されるガス流がノズル先端を横切るように配置されている薬液霧化ノズルとを備え、前記ガス流によって前記薬液霧化ノズルの先端に吸い上げられた薬液が霧化されて放散されるようになっていることを特徴とする昆虫性フェロモン薬液の放散装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記薬液噴霧器は、前記薬液霧化ノズルの先端から発生した霧化薬液から、粒径が所定以上のものが外部に放散されないように捕捉するための捕捉手段を備えていることを特徴とする昆虫性フェロモン薬液の放散装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記捕捉手段は、
前記薬液霧化ノズルの先端から発生した霧化薬液が通過し、前記ガス流の方向に対して傾斜した方向に延びている筒状部の内周面、および/または、
前記薬液霧化ノズルの先端から発生した霧化薬液が通過する所定孔径のメッシュ部材であることを特徴とする昆虫性フェロモン薬液の放散装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちのいずれかの項において、
前記薬液噴霧器は
底付きの噴霧器容器と、
この噴霧器容器の底を貫通する状態に取り付けられた前記圧縮ガス噴射ノズルと、
前記噴霧器容器の内部に配置され、当該噴霧器容器の底面に溜まった薬液を前記ノズル先端に吸い上げ可能な前記薬液霧化ノズルと、
前記霧化薬液を外部に放散するために前記噴霧器容器に形成した放散口と、
前記噴霧器容器の内周面、および/または、前記放散口に形成されている前記捕捉手段と、
前記薬液供給部から供給される前記薬液を前記噴霧器容器内に導入するために当該噴霧器容器に形成した薬液供給口とを備えていることを特徴とする昆虫性フェロモン薬液の放散装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちのいずれかの項において、
前記薬液供給部は、薬液カートリッジの装着部と、この装着部に装着された前記薬液カートリッジから薬液を吸引して前記噴霧器に吐出する薬液ポンプとを備えていることを特徴とする昆虫性フェロモン薬液の放散装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−55048(P2006−55048A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239091(P2004−239091)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】