説明

昇降運転室付作業車

【課題】昇降運転室付作業車の運転者に地震の発生を早急に認識させるとともに、運転室が「下降位置」を離れ「上昇位置」の側にあるときには自動的に運転室を「下降位置」に降ろすようにした昇降運転室付作業車を提供する。
【解決手段】運転室12を「上昇位置」および「下降位置」の間で昇降させる昇降手段10と、緊急地震速報の受信手段を有したコントローラ18と、運転室12に設けられた地震警報手段20を備え、コントローラ18は、緊急地震速報を受信したときには、警報手段20を作動させ、さらに運転室12が「下降位置」を離れ「上昇位置」の側にあるときには昇降手段10を作動させて運転室12を「下降位置」に降ろす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降運転室付作業車、さらに詳しくは、地震の発生に対応する手段を備えた昇降運転室付作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
運転室を「上昇位置」と「下降位置」の間で作業の形態に応じて任意の高さに位置付けることができる作業車、例えば油圧ショベルの運転室を昇降可能にした昇降運転室付作業車が開発され実用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−256048号公報(図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の昇降運転室付作業車には、次のとおりの解決すべき課題がある。
【0005】
すなわち、「上昇位置」の運転室は、昇降リンク機構を介して高位置に位置付けられているので、作業車の重心位置は「下降位置」に比較して高くなっている。したがって、運転室「上昇位置」の状態において万一大きな地震が発生した場合には、運転室を含めて作業車全体が転倒する可能性が大きくなる。
【0006】
突然の地震が発生した場合、運転室内の運転者は、「上昇位置」の運転室を、多くの操縦操作手段であるレバー、ペダル、スイッチ等の中から、咄嗟に運転室昇降用の手段を操作し、「上昇位置」の運転室を安定した重心位置の「下降位置」に降ろすのは実際上難しい。
【0007】
本発明は上記事実に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、昇降運転室付作業車の運転者に地震の発生を早急に認識させるとともに、運転室が「下降位置」を離れ「上昇位置」の側にあるときには自動的に運転室を「下降位置」に降ろす手段を備えた、昇降運転室付作業車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る昇降運転室付作業車は、運転室を車体に対して「上昇位置」および「下降位置」の間で昇降させる昇降手段と、緊急地震速報の受信手段を有したコントローラと、運転室に設けられた地震警報手段とを備え、コントローラは、緊急地震速報を受信したときには警報手段を作動させ、さらに運転室が「下降位置」を離れ「上昇位置」の側にあるときには昇降手段を作動させて運転室を「下降位置」に降ろす、ことを特徴としている。
【0009】
好適には、昇降手段は、油圧シリンダと、この油圧シリンダに作動油を給排する方向制御弁と、油圧シリンダ内に閉じ込められた作動油を前記コントローラの指令により解放し運転室を降ろす電磁解放弁と、を備えている。また、地震警報手段は、警報の発音手段および表示手段を備えている。さらに、運転室の底部に取付けられ運転室を降ろすときに運転室が障害物と所定の距離接近したことを検知する障害物センサを備え、この障害物センサが障害物との接近を検知すると、前記コントローラは前記昇降手段の作動を止め運転室の降下を止める。
【発明の効果】
【0010】
本発明に従って構成された昇降運転室付作業車は、コントローラによって緊急地震速報を受信したときには、コントローラは地震警報手段を作動させ、さらに運転室が「下降位置」を離れ「上昇位置」の側にあるときには昇降手段を作動させ運転室を「下降位置」に降ろす。したがって、地震の発生に先立って運転者に地震の発生を認識させるとともに運転室が「上昇位置」にあるときには運転室を自動的に安定した重心位置の「下降位置」に降ろすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に従って構成された昇降運転室付作業車の構成の要部を示す説明図。
【図2】図1に示すコントローラの制御手順を示すフローチャート。
【図3】本発明に従って構成された昇降運転室付作業車である油圧ショベルの側面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に従って構成された昇降運転室付作業車について、油圧ショベルにおける好適実施形態を図示している添付図面を参照して、さらに詳細に説明する。
【0013】
図3を参照して説明する。番号2で示す油圧ショベルは、下部走行体4と、下部走行体4上に鉛直に延びる軸線5を中心に旋回自在に取付けられた上部旋回体6を備え、上部旋回体6には、エンジン等を収容した上部車体8および昇降手段10を介して「下降位置」および「上昇位置」の間を昇降自在に取付けられた運転室12を備えている。昇降手段10は、運転室12を車体である上部旋回体6に上下に平行移動を自在に支持する昇降リンク機構14と、昇降リンク機構14の両側(図3の紙面に直角の方向)に昇降用の油圧シリンダ16を一対備えている。
【0014】
図3とともに図1、主として図1を参照して説明する。油圧ショベル2は、運転室12に設けられた、緊急地震速報の受信手段を有したコントローラ18と、地震警報手段20を備えている。コントローラ18は、緊急地震速報を受信したときには、地震警報手段20を作動させるとともに、運転室12が「下降位置」を離れ「上昇位置」の側にあるときには昇降手段10を作動させて運転室12を「下降位置」に降ろさせる。
【0015】
昇降手段10は、一対の油圧シリンダ16,16に油圧ポンプ22の作動油を給排する方向制御弁24と、油圧シリンダ16のヘッド側の油室と方向制御弁24とを結ぶ油路26に設けられ油圧シリンダ16のヘッド側の油室の作動油をコントローラ18の指令に基づいてタンク28に解放する電磁解放弁30を備えている。油圧シリンダ16のロッド側の油室と方向制御弁24を結ぶ油路32には、油路32を分岐してタンク28に油路32の方向への流れのみを許容して接続する逆止弁34を備えている。
【0016】
方向制御弁24は、3位置の電磁切換弁で構成され、通電されない中立位置(図1に示す位置)においては、油圧ポンプ22およびタンク28と油圧シリンダ16との接続を断ち、通電されいずれかの方向に切換えられると、油圧シリンダ16のヘッド側(運転室を上昇させる側)あるいはロッド側(運転室を下降させる側)の油室に油圧ポンプ22の吐出油を供給し、他方の油室の作動油をタンク28に排出する。方向制御弁24を操作する電気スイッチ(図示していない)は運転室12に設置されている。
【0017】
電磁解放弁30は、常時開の2位置の切換弁で構成され、通電され切換えられると、油圧シリンダ16のヘッド側の油室と方向制御弁24を結ぶ油路26を閉じ、ヘッド側の油室をタンク28に連通させる。このタンク28への油路36には可変絞り弁38が備えられている。
【0018】
運転室12において方向制御弁24の電気スイッチを操作し、方向制御弁24をいずれかの位置に切換えると、油圧シリンダ16に作動油が給排され、油圧シリンダ16が伸縮し、昇降リンク機構14が駆動され、運転室12は、油圧シリンダ16を伸張させた「上昇位置」と収縮させた「下降位置」の間で昇降される(図3参照)。
【0019】
運転室12が「下降位置」を離れ「上昇位置」の側にある状態で、電磁解放弁30がコントローラ18の指令によって切換えられると、油圧シリンダ16のヘッド側の油室の運転室12を保持している作動油は、油路36そして可変絞り弁38を介してタンク28に解放される。このとき油圧シリンダ16のヘッド側の油室には、油路32そして逆止弁34を介してタンク28の作動油が充填される。かくして、油圧シリンダ16は収縮し運転室12は降ろされる。可変絞り弁38の開度を変えることにより運転室12の下降速度を運転室の質量、昇降手段の形態、などに応じて任意に変えることができる。
【0020】
運転室12が「下降位置」にあるか否かを検出する下降位置検出スイッチ40が、油圧シリンダ16に備えられている。下降位置検出スイッチ40は、例えば周知のリミットスイッチによって構成され、油圧シリンダ16のロッドの収縮位置で「下降位置」を検出しコントローラ18に出力する。
【0021】
地震警報手段20は、警告音を発声する発音手段としてのブザー20aと、警告を表示する表示手段としての運転室12の操縦用モニターパネル(図示していない)に発光表示する発光体20bを備えている。ブザー20aの音量、音質、発音間隔、発光体20bの輝度、点滅、発光表示種類などは、緊急地震速報による地震の大きさに応じて変わるようにするとよい。
【0022】
運転室12の底部外面には、運転室12を降ろすときに運転室12が障害物と所定の距離接近したことを検知する障害物センサ42が備えられている。障害物センサ42は障害物との接近を検知すると、そのことをコントローラ18に出力し、コントローラ18は昇降手段10の作動を止め運転室12の降下を止める。障害物センサ42の近くには、障害物センサ42が障害物との接近を検知すると、コントローラ18の指令により警告音を発する障害物警報手段としてのブザー44が備えられている。
【0023】
障害物センサ42は、周知の例えば超音波を用いた障害物センサで構成することができるが、超音波以外の手段を用いたものでもよい。障害物との接近を検知する距離は、例えば運転室12の「下降位置」における下部走行体4との距離H(図3参照)以内の距離に設定すれば、「下降位置」では下部走行体4を障害物として検知作動しないので、システムを簡単にすることができる。
【0024】
次に、コントローラ18の制御手順について主として図2を参照して説明する。
【0025】
スタートすると、ステップS1において、「緊急地震速報」の受信の有無を判定する。「緊急地震速報」を受信したとき(Y判定)はステップS2に進む。「緊急地震速報」を受信しない(N判定)ときにはステップS1に戻り判定を繰り返す。
【0026】
ステップS2において、地震警報手段20を作動させ、ステップS3に進む。
【0027】
ステップS3においては、下降位置検出スイッチ40の出力に基づいて運転室12が「下降位置」から離れているか否かを判定し、「下降位置」を離れているときにはステップS4に進む。「下降位置」にあるときはステップS10に進む。
【0028】
ステップS4においては、昇降手段10の油圧シリンダ16を、運転室12を降ろす方向に収縮作動させ、ステップS5に進む。
【0029】
ステップS5においては、運転室12の下方の所定の距離Hに障害物が有るか否かを、障害物センサ42の出力によって判定し、所定の距離に障害物の有るときにはステップS6に進む。障害物のないときにはステップS7に進む。
【0030】
ステップS6においては、昇降手段10の油圧シリンダ16の作動を止め、運転室12の降下を止めるとともに、ステップS8に進んで障害物警報手段のブザー44を作動させ、ステップS10に進む。
【0031】
ステップS7においては、運転室12が「下降位置」に有るか否かを下降位置検出スイッチ40の出力に基づいて判定し、「下降位置」にあるときはステップS9に進み昇降手段10の油圧シリンダ16の作動を止め、運転室12の降下を止め、ステップS10に進む。「下降位置」でないときにはステップS5に戻る。
【0032】
ステップ10においては、緊急地震速報を受信してからの時間が所定の時間(例えば数分)経過したか否かを判定し、所定の時間経過している場合はステップS11に進み、地震警報手段20および障害物警報手段44(作動していれば)の作動を止め、ステップS1に戻る。所定の時間経過していない場合にはステップS10に戻る。
【0033】
上述したとおりの昇降運転室付作業車2の作用効果について説明する。
【0034】
本発明に従って構成された昇降運転室付作業車2は、コントローラ18が緊急地震速報を受信すると、コントローラ18は地震警報手段20を作動させ、さらに運転室12が「下降位置」を離れ「上昇位置」の側にあると昇降手段10を作動させて運転室12を「下降位置」に降ろす。したがって、地震の発生に先立って運転者に地震の発生を認識させるとともに、運転室12が「上昇位置」にあると運転室12を自動的に重心位置の低い安定した「下降位置」に降ろすことができ、運転室12を含めて作業車2全体の転倒の可能性を除くことができる。
【0035】
昇降手段10は、油圧シリンダ16に閉じ込められ運転室12を保持している作動油をコントローラ18の指令により解放し運転室12を降ろす電磁解放弁30を備えている。したがって、簡単な構成で早急に運転室12を降ろすことができる。
【0036】
また、地震警報手段20は、警報の発音手段20aおよび表示手段20bを備えているので、作業中の運転者および周囲の作業者に、地震到着前に地震の発生を容易に知らせることができる。
【0037】
さらに、運転室12の底部に取付けられ運転室12を降ろすときに運転室12が障害物と所定の距離接近したことを検知する障害物センサ40を備え、障害物との接近を検知すると昇降手段10の作動を止め、運転室12の降下を止めるので、障害物との衝突を防止できる。なおこの場合においては、運転者は障害物が移動してなくなったこと、あるいは排除されたことを確認して、あるいは障害物と衝突状態でも降下可能であるかを確認して、通常の運転室昇降用の方向制御弁24の電気スイッチを手動操作し運転室を降下させればよい。
【0038】
以上、本発明を実施例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、例えば下記のように、本発明の範囲内においてさまざまな変形あるいは修正ができるものである。
【0039】
本発明の実施の形態においては、昇降運転室付作業車として油圧ショベル2が示されているが、本発明は油圧ショベルに限定されるものではなく、例えば、昇降運転室を備えた高所作業車のような作業車にも適用することができる。
【0040】
本発明の実施の形態においては、昇降手段10に備えた電磁解放弁30を作動させて運転室12を「下降位置」に降ろすようにしたが、電磁解放弁30を備えないで、油圧シリンダ16を昇降させる方向制御弁24をコントローラ18によって操作するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
2:油圧ショベル(昇降運転室付作業車)
10:昇降手段
12:運転室
16:油圧シリンダ
18:コントローラ
20:地震警報手段
20a:ブザー(発音手段)
20b:発光体(表示手段)
24:方向制御弁
30:電磁解放弁
42:障害物センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転室を車体に対して「上昇位置」および「下降位置」の間で昇降させる昇降手段と、
緊急地震速報の受信手段を有したコントローラと、
運転室に設けられた地震警報手段と、を備え、
コントローラは、
緊急地震速報を受信したときには地震警報手段を作動させ、さらに運転室が「下降位置」を離れ「上昇位置」の側にあるときには昇降手段を作動させて運転室を「下降位置」に降ろす、
ことを特徴とする昇降運転室付作業車。
【請求項2】
昇降手段が、
昇降用の油圧シリンダと、
この油圧シリンダに作動油を給排する方向制御弁と、
油圧シリンダ内に閉じ込められた作動油を前記コントローラの指令により解放し運転室を降ろす電磁解放弁と、を備えている、
ことを特徴とする請求項1記載の昇降運転室付作業車。
【請求項3】
地震警報手段が、
警報の発音手段および表示手段を備えている、
ことを特徴とする請求項1または2記載の昇降運転室付作業車。
【請求項4】
運転室の底部に取付けられ運転室を降ろすときに運転室が障害物と所定の距離接近したことを検知する障害物センサを備え、
この障害物センサが障害物との接近を検知すると、前記コントローラは前記昇降手段の作動を止め運転室の降下を止める、
ことを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の昇降運転室付作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−254022(P2010−254022A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104021(P2009−104021)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(505236469)キャタピラー エス エー アール エル (144)
【Fターム(参考)】