説明

易裂性収縮フィルム、易裂性ラミネートフィルム、易裂性袋、および易裂性収縮フィルムの製造方法

【課題】優れた直線カット性を有すると共に、延伸フィルム層において層内剥離を引き起こすことのない易裂性収縮フィルム、これを用いた易裂性ラミネートフィルム、易裂性袋、および易裂性収縮フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】易裂性収縮フィルムは、ナイロン6(以下、Ny6という)60〜85質量部、メタキシリレンアジパミド(以下、MXD6という)15〜40質量部(両者の合計は100質量部)を原料として含み、この原料は、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部からなるバージン原料と、Ny6およびMXD6を溶融混練して、MXD6の融点を233〜238℃とした熱履歴品とを含み、この熱履歴品の含有量は、原料全量基準で5〜40質量%であり、該易裂性収縮フィルムを95℃の熱水中に30分間保持した場合に、該フィルムの収縮率が3〜20%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易裂性収縮フィルム、易裂性ラミネートフィルム、易裂性袋、および易裂性収縮フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本では、高齢化社会を迎えた事情も手伝い、高齢者や障害者が若年者や健常者とともに快適な社会生活を送れるようにするため、さまざまな分野でバリア(障害)となるものを取り除く「バリアフリー」の概念が脚光を浴び始めている。
一方、食品、薬品等の包装袋のシール基材(シーラント)フィルムとしては、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)等のフィルムが多用されている。しかし、このL−LDPEフィルムは、シール強度が優れているため安全であるが、引き裂き抵抗が大きいため使用時に切れ目に沿って真っ直ぐに切れず、開封しにくいという問題があった。
それ故、包装分野においても、「バリアフリー」への要請が非常に高まり、具体的には、各種食品用包材、医療用包材に関して、易開封性(易裂性)への要望が一層高まっている。
そこで、袋を構成するフィルムに易裂性、特に直線カット性を付与するための種々の提案がなされている。
例えば、一軸延伸フィルムを中間層として有するラミネートフィルムとした構成(特許文献1)や、表基材フィルムとしてナイロン6(以後、Ny6ともいう)とメタキシリレンアジパミド(以後、MXD6ともいう)とのブレンド樹脂からなる二軸延伸フィルムを用いた例が知られている(特許文献2、特許文献3)。さらには、ハム、ソーセージ等の包装用として収縮(シュリンク)特性を持たせた例も知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭58―38302号公報
【特許文献2】特開平5−220837号公報
【特許文献3】特開平5−200958号公報
【特許文献4】特開平11−91052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に係る構成では、中間層に一軸延伸フィルムを介在させており、直線カット性は優れているが、この一軸延伸フィルムは、強度面で余り寄与するものとはなっていない。一方、特許文献2〜4に係る構成では、直線カット性に優れた表基材を与え、ラミネートフィルムとしたときでも、その優れた直線カット性を維持できるため、易裂性袋として実用上の価値が高い。しかしながら、Ny6とMXD6とのブレンド樹脂からなる二軸延伸フィルムは、ラミネートフィルムを構成した後に過酷な条件下に置かれると、二軸延伸フィルムの層内で、いわゆる層内剥離を引き起こすおそれがある。このような、層内剥離が起こると、ラミネートフィルムの強度が不安定となり、袋を構成した場合に実用上の問題が生ずる。特に、ボイルやレトルト時にラミネートフィルムの収縮を起こさせる収縮包装袋の場合には、このような層内剥離が大きな問題となる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、優れた直線カット性を有すると共に、延伸フィルム層において層内剥離を引き起こすことのない易裂性収縮フィルム、これを用いた易裂性ラミネートフィルム、易裂性袋、および易裂性収縮フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の易裂性収縮フィルムは、原料として、Ny6を60〜85質量部と、MXD6を15〜40質量部(両者の合計は100質量部)含む易裂性収縮フィルムであって、前記原料は、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部からなるバージン原料と、Ny6およびMXD6を溶融混練して、MXD6の融点を233〜238℃とした熱履歴品とを含み、前記熱履歴品の含有量は、前記原料全量基準で5〜40質量%であり、該易裂性収縮フィルムを95℃の熱水中に30分間保持した場合に、該フィルムの収縮率がMD方向およびTD方向についていずれも3〜20%であることを特徴とする。この収縮率は、好ましくは6〜20%、より好ましくは10〜20%である。
ここで、前記Ny6の化学式を下記の化1に示し、またMXD6の化学式を下記の化2に示す。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
上述のバージン原料とは、通常は、Ny6とMXD6とが互いに混合され溶融混練された履歴を持つ混合原料ではない状態の原料を意味する。例えば、Ny6やMXD6が各々単独で溶融混練された履歴があっても(例えばリサイクル品)、これらが混合され溶融混練されていない場合は、バージン原料である。ただし、易裂性収縮フィルムとなったときの物性の面からは、リサイクル回数のできるだけ少ないバージン原料を用いることが好ましい。なお、Ny6とMXD6とが互いに混合され溶融混練された履歴を持っていても、その混練が弱いため、MXD6の融点降下があまりなく、238℃を超えていれば、これらのNy6とMXD6は依然としてバージン原料を構成するものであって、熱履歴品を構成するものではない。
すなわち、本発明では、バージン原料を構成するNy6とMXD6に熱履歴品を加えた三者(あるいは二者)がいわゆるドライブレンドされた後に溶融混練されて易裂性収縮フィルムを構成する。
また、熱履歴品とは、Ny6とMXD6の配合品で、一度押出機を通過したものをいい、本発明については、示差走査熱量計(DSC)でMDX6樹脂の融点が233〜238℃の範囲に保持されたものを意味する。
【0010】
ここで、層内剥離とは、易裂性収縮フィルムを適当なシーラントフィルムとラミネートした後に過酷な条件で使用すると、易裂性収縮フィルム(ナイロン層)内で剥離を引き起こす現象をいう。層内剥離の機構は必ずしも明確ではないが、易裂性収縮フィルム内では、Ny6とMXD6が層状に配向しており、その界面で剥離が起こるものと考えられる。
このような層内剥離が起こると、ラミネートフィルムの強度が不安定となり、袋を構成した場合に破袋等の問題を生ずるおそれがある。特に、ボイル処理やレトルト処理における収縮時に問題が大きい。このような層内剥離は、例えば、ラミネートフィルムのラミネート強度(剥離強度)を測定する試験により再現することができる。
【0011】
本発明の易裂性収縮フィルムによれば、バージン原料におけるNy6とMXD6の配合割合は、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部であるので、直線カット性に優れている。そして、原料全体に対して、Ny6およびMXD6を溶融混練してなる熱履歴品が5〜40質量%含まれているので、易裂性収縮フィルムを過酷な条件下で使用しても層内剥離を起こしにくい。
また、熱履歴品におけるMXD6の融点は233〜238℃であり、好ましくは235〜237℃である。熱履歴品におけるMXD6の融点が233℃未満になると、易裂性収縮フィルムの直線カット性と耐衝撃性が低下する。また、熱履歴品におけるMXD6の融点が238℃以上であると、層内剥離を防止する効果が低下する。
なお、熱履歴品が製造される過程で、混練時の温度や圧力が高いと熱履歴品中のMXD6の融点はより大きく下がる。ここで、熱履歴品におけるMXD6の融点とは、バージン原料と溶融混練される前の状態で測定された融点をいう。
【0012】
この易裂性収縮フィルムは、ラミネート袋の表基材として利用する場合には、二軸延伸されていることが耐衝撃性向上の点で好ましい。また、二軸延伸は、縦横の強度バランスの点で、チューブラー法による同時二軸延伸により行うことが好ましい。
また、易裂性の点では、該易裂性収縮フィルム面内の少なくとも一方向の引裂強度が70N/cm以下であることが好ましいが、該フィルムが二軸延伸されたものである場合は、特に、MD方向およびTD方向の少なくともいずれかの方向について引裂強度が70N/cm以下であることがより好ましい。
【0013】
本発明では、前記熱履歴品におけるNy6とMXD6の配合割合が、Ny6:MXD6=60〜85質量部:15〜40質量部であることが好ましい。
本発明によれば、熱履歴品におけるNy6とMXD6の配合割合が、Ny6:MXD6=60〜85質量部:15〜40質量部であるので、直線カット性、耐衝撃性および層内剥離防止効果により優れた易裂性収縮フィルムとすることができる。
【0014】
本発明の易裂性ラミネートフィルムは、上述の易裂性収縮フィルムが複数層の少なくとも一層として形成されていることを特徴とする。
本発明の易裂性ラミネートフィルムによれば、上述の易裂性収縮フィルムが複数層の少なくとも一層として形成されているので、ラミネートフィルムとして、直線カット性や耐衝撃性に優れた収縮フィルムとなる。
【0015】
本発明の易裂性袋は、上述の易裂性ラミネートフィルムを使用したことを特徴とする。
本発明の易裂性袋によれば、前記した易裂性ラミネートフィルムを使用して構成されているので、開封性(直線カット性)に優れるとともに、ナイロンフィルム層で層内剥離が起こらないため、強度面でも安定した実用性の高い易裂性袋となる。また、ボイルやレトルトといった過酷な収縮条件下で使用されても、ナイロン層に層内剥離を起こしにくくなる。
【0016】
本発明の易裂性収縮フィルムの製造方法は、Ny6とMXD6とを原料として含む原反フィルムをMD方向(フィルムの移動方向)およびTD方向(フィルムの幅方向)にともに2.8倍以上の延伸倍率で延伸する易裂性収縮フィルムの製造方法であって、前記原料は、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部(両者の合計は100質量部)からなるバージン原料に対し、Ny6およびMXD6を溶融混練して、MXD6の融点を233〜238℃とした熱履歴品を前記原料全量基準で5〜40質量%含有し、前記延伸後の熱処理温度を150〜205℃とすることを特徴とする。
【0017】
本発明の易裂性収縮フィルムの製造方法によれば、Ny6とMXD6とを原料として含み、所定の延伸倍率で延伸しているため、製造後のフィルムは、直線カット性に優れ、ラミネートフィルムを構成した場合であっても、その良好な直線カット性を維持できる。また、MD方向およびTD方向への二軸延伸であるので耐衝撃性にも優れる。さらに、原料中に、所定の熱履歴品を含有しているため、ラミネートフィルム(袋)を過酷な条件で取り扱っても、ナイロン層が層内剥離を起こすことはない。
また、MD方向および/またはTD方向の延伸倍率は、ともに2.8倍以上とするが、好ましくは3.0倍以上とする。延伸倍率が2.8倍より小さい場合には、直線カット性が劣るようになる。また二軸延伸であっても、耐衝撃性が低下して実用性に問題が生ずる。なお、延伸は、チューブラー法による同時二軸延伸により行うことが、MD方向とTD方向の強度バランスの点で好ましい。
そして、延伸後の熱処理温度を150〜205℃として易裂性収縮フィルムとするので、該易裂性収縮フィルムから易裂性ラミネートフィルムおよび易裂性袋を製造して、ボイルやレトルト等による収縮処理を行ったときに適度な収縮率を示し、しかもナイロン層の層内剥離が生じにくいという特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る二軸延伸装置の概略図。
【図2】前記実施形態における易裂性ラミネートフィルム(2層構成)の断面図。
【図3】前記実施形態における易裂性ラミネートフィルム(3層構成)の断面図。
【図4】前記実施形態における易裂性ラミネートフィルム(3層構成)の断面図。
【図5】前記実施形態における易裂性袋を示す正面図。
【図6】本発明の実施例に係る直線カット性の評価方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[易裂性収縮フィルム]
本発明の易裂性収縮フィルムは、上述したように、原料中のNy6とMXD6の配合量等の条件を満たし、該フィルムを95℃の熱水中に30分間保持した場合に、該フィルムの収縮率がMD方向およびTD方向いずれも3〜20%であるかぎり製造方法には特に限定されない。この収縮率は、好ましくは6〜20%、より好ましくは10〜20%である。
以下に、本発明を実施するための最良の形態について詳述する。
【0020】
本発明の易裂性フィルムにおいて、バージン原料におけるNy6とMXD6の配合割合は、製膜後のフィルムの直線カット性と耐衝撃性の観点から、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部であることが必要である。バージン原料におけるMXD6が15質量部より少ない場合には、直線カット性が劣るようになる。また、MXD6が40質量部より多い場合には、耐衝撃性(衝撃強度)が大幅に低下して実用性に乏しくなる。
バージン原料を構成するNy6とMXD6は、いずれもペレット状のものをドライブレンドして使用することが好ましい。
【0021】
原料中には、Ny6およびMXD6を溶融混練してなる熱履歴品が含まれていることが必要である。また、熱履歴品におけるMXD6の融点は233〜238℃であり、好ましくは235〜237℃である。熱履歴品におけるMXD6の融点が233℃未満になると、易裂性収縮フィルムの直線カット性と衝撃強度が低下する。また、熱履歴品におけるMXD6の融点が238℃以上になると、層内剥離を防止する効果が低くなる。
【0022】
さらにまた、原料全体に対して、Ny6およびMXD6を溶融混練してなる熱履歴品が5〜40質量%、好ましくは10〜35質量%含まれていることが必要である。熱履歴品が5質量%未満では、易裂性収縮フィルムをラミネートフィルムとした後に、過酷な条件下で使用すると層内剥離を起こしやすくなる。また、熱履歴品が40質量%を超えると、易裂性収縮フィルムの直線カット性や衝撃強度が低下する。
なお、熱履歴品におけるNy6とMXD6の配合割合は、Ny6:MXD6=60〜85質量部:15〜40質量部であることが好ましい。
熱履歴品におけるNy6とMXD6の配合割合は、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部であるので、直線カット性、衝撃強度および層内剥離防止効果により優れた易裂性収縮フィルムとすることができる。
熱履歴品におけるMXD6の配合割合が15質量部未満(Ny6の配合割合が85質量部より多い)であると、易裂性収縮フィルムとした場合に層内剥離防止効果が低くなる。熱履歴品におけるMXD6の配合割合が40質量部を越えると(Ny6の配合割合が60質量部未満)であると易裂性収縮フィルムの直線カット性、衝撃強度が低下する。
【0023】
この熱履歴品は、本実施形態により得られた易裂性収縮フィルムをリサイクルしたものでもよい。また、熱履歴品を、Ny6のペレットおよびMXD6のペレットとうまくドライブレンドするには、熱履歴品の形状をペレット状に加工して用いることが望ましい。例えば、本実施形態により得られた易裂性収縮フィルムを細かく切断・圧縮してそのような形状としてもよい。
【0024】
この易裂性収縮フィルムは、ラミネート袋の表基材として利用する場合には、二軸延伸されていることが好ましい。二軸延伸は、縦横の強度バランスの点で、チューブラー法による同時二軸延伸により行うことが好ましい。また、MD方向およびTD方向のいずれの方向についても引裂強度が70N/cm以下であることが直線カット性を向上させる点で好ましい。
【0025】
なお、易裂性収縮フィルムには、必要な添加剤を適宜添加することができる。このような添加剤として、例えばアンチブロッキング剤(無機フィラー等)、はっ水剤(エチレンビスステアリン酸エステル等)、滑剤(ステアリン酸カルシウム等)を挙げることができる。
【0026】
上述した本発明の易裂性収縮フィルムによれば、バージン原料におけるNy6とMXD6の配合割合を、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部としており、これにNy6およびMXD6を溶融混練してなる熱履歴品とを含み、この熱履歴品におけるMXD6の融点が233〜238℃で、かつ、熱履歴品の含有量が原料全量基準で5〜40質量%であるので、直線カット性と衝撃強度に優れる。
また、該易裂性収縮フィルムを95℃の熱水中に30分間保持した場合に、該フィルムの収縮率をMD方向およびTD方向いずれも3〜20%、好ましくは6〜20%、より好ましくは10〜20%としているので、後述する易裂性ラミネートフィルム、さらには易裂性袋としたときに適度の収縮特性を発揮することができる。この収縮率が3%未満では、易裂性袋をボイル・レトルト等により収縮させた場合に収縮不足となって好ましくない。例えば、未加熱のソーセージ用原料を充填後に加熱処理を行って収縮させても内容物と該易裂性袋との密着が不十分となってしまい、該袋の外観が悪化してしまう。逆に、収縮率が20%を越えると、収縮過多となってしまい、該易裂性袋の変形を引き起こしてしまうおそれもある。
そして、このような易裂性収縮フィルムは、ボイルやレトルトといった過酷な条件下で使用してもナイロン層が層内剥離を起こしにくい。
【0027】
本発明の易裂性収縮フィルムは、例えば、図1に示すようなチューブラー方式の二軸延伸装置1を用いて製造することができる。例えば、Ny6のペレット、MXD6のペレットおよび熱履歴品をドライブレンドした混合物を溶融押出しした後、冷却した原反フィルムをMD方向およびTD方向共に2.8倍以上の倍率で二軸延伸し、延伸後の熱処理温度を150〜205℃、好ましくは160〜195℃とすることにより製造できる。延伸後の熱処理温度をこのような範囲とすることで、該易裂性収縮フィルムを95℃の熱水中に30分間保持した場合の該フィルムの収縮率を3〜20%に容易に制御することができる。
【0028】
[易裂性ラミネートフィルム]
本発明の易裂性ラミネートフィルムは、易裂性収縮フィルムを少なくとも1層として含み、2層、3層等何層であってもよい。図2〜図4に、本実施形態に係る易裂性ラミネートフィルム100、200、300を示した。ここで、例えば、図2に示すように、第1層を易裂性収縮フィルム18、第2層を各種シーラントフィルム19とした2層構造、図3に示すように、第1層を各種基材フィルム20、第2層を易裂性収縮フィルム18、第3層を各種シーラントフィルム19とした3層構造、図4に示すように、第1層を易裂性収縮フィルム18、第2層を各種基材フィルム20、第3層を各種シーラントフィルム19とした3層構造としてもよい。
【0029】
基材フィルム20の材料としては、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、EVOH(エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物)、PVA(ポリビニルアルコール)、PP(ポリプロピレン)、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、PS(ポリスチレン)等の二軸若しくは一軸延伸フィルムまたは無延伸フィルムを使用できる。なお、このような樹脂系フィルムの他、アルミニウム箔のような金属フィルムを使用してもよい。
【0030】
シーラントフィルム19の材料としては、L−LDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)、PB(ポリブテン−1)、CPP(未延伸ポリプロピレン)、アイオノマー、PMMA(ポリメチルメタクリレート)等およびこれらの混合物を使用できる。前記易裂性ラミネートフィルムのラミネート方式としては、例えばエクストルージョンラミネート、ホットメルトラミネート、ドライラミネート、ウエットラミネート等がある。
【0031】
本実施形態によれば、易裂性ラミネートフィルム100、200、300は、上述の易裂性収縮フィルム18が複数層の少なくとも一層として形成されているので、ラミネートフィルムとしても直線カット性(易裂性)および衝撃強度に優れた収縮フィルムとなる。また、過酷な条件下で使用されても、ナイロン層に層内剥離を起こすことがない。すなわち、この易裂性ラミネートフィルム100、200、300を用いて袋を製造すれば、その特性を生かした易裂性袋400(図5)として利用できる。具体的には、内容物を充填後にボイルやレトルト等により該袋を収縮させた後であっても、ナイロン層に層内剥離を起こすことがほとんどない。
【0032】
それ故、本発明の易裂性ラミネートフィルムおよび易裂性袋は、ハム・ソーセージ類の収縮包装に好適に用いることができる。
例えば、従来のソーセージ包装としては、ビニリデンケーシングとアルミかしめによるタイプが一般的であるが、非常に開封しにくかった。それに対して、本発明の易裂性袋を用いれば、単にVノッチあるいはIノッチを該袋の一端に設けるだけで、ユーザが簡単に開封(直線カット)できるという特徴もある。また、本発明の易裂性袋では、金属を用いる必要がないので、金属探知機の使用も可能となり、また、ヒートシールが可能であるので内容物の密封性にも優れる。そして、未加熱のソーセージ原料を該袋に充填して、レトルト処理を行うと、原料の加熱硬化・殺菌と同時に該袋の収縮賦形も可能となるため非常に好ましい。なお、内容物(ソーセージ等)と易裂性袋との密着性を向上させるためには、易裂性袋を構成するシーラントフィルムのシール面(袋の内面側)にコロナ処理を施しておくことも有効である。
【0033】
本発明を実施するための最良の構成などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
したがって、上記に開示した材質、層構成などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの材質などの限定の一部若しくは全部の限定を外した名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【0034】
例えば、本実施形態では、易裂性収縮フィルムとして、二軸延伸フィルムを製造したが、一軸延伸フィルムでもよい。例えば、図5の易裂性袋で、TD方向に配向した一軸延伸フィルムを表基材フィルムとして使用してもよい。直線カット性が特に重視される場合に好適である。
また、本実施形態では、二軸延伸方法としてチューブラー方式を採用したが、テンター方式でもよい。さらに、延伸方法としては同時二軸延伸でも逐次二軸延伸でもよい。
【実施例】
【0035】
次に、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの例によって何等限定されるものではない。
[実施例1]
(易裂性収縮フィルムの製造)
Ny6ペレットおよびMXD6ペレットをそれぞれ70質量部および30質量部の割合で混合したものに対して、すでに一度、この配合比で溶融混合してペレット化した熱履歴品(MXD6の融点が236℃のもの)を原料全量に対して15質量%配合した。このドライブレンド品を押出機中、270℃で溶融混練した後、溶融物をダイスから円筒状のフィルムとして押出し、引き続き水で急冷して原反フィルムを作製した。
ここで、MXD6の融点は、パーキンエルマー社製示差走査熱量測定装置(DSC)を用い、昇温速度10℃/minで50℃から280℃まで昇温を行って測定した。いずれもファーストランにおける値を融点とした。
【0036】
Ny6として使用したものは、宇部興産(株)製ナイロン6〔UBEナイロン 1023FD(商品名)、相対粘度 ηr=3.6〕であり、MXD6として使用したものは、
三菱ガス化学(株)製メタキシリレンアジパミド〔MXナイロン 6007(商品名)、相対粘度ηr=2.7〕である。
なお、Ny6とMXD6の配合割合を、それぞれ70質量部と30質量部とし、40φEX、シングルスクリュー(株式会社山口製作所製)を用い、270℃で押出したものを熱履歴品として使用した。
【0037】
次に、図1に示すように、この原反フィルム11を一対のニップロール12間に挿通した後、中に気体を圧入しながらヒータ13で加熱すると共に、延伸開始点にエアーリング14よりエアー15を吹き付けてバブル16に膨張させ、下流側の一対のニップロール17で引き取ることにより、チューブラー法によるMD方向およびTD方向の同時二軸延伸を行った。この延伸の際の倍率は、MD方向に3.0倍、TD方向に3.2倍であった。
次に、この延伸フィルムをテンター式熱処理炉(図示せず)に入れ、160℃で熱処理(熱固定)を施して本実施例に係る易裂性収縮フィルム18(以後、延伸フィルム18ともいう)を得た。また、この延伸フィルムを、95℃の熱水中に30分間保持したときの収縮率は、MD方向、TD方向ともに19%であった。
【0038】
(易裂性ラミネートフィルムの製造)
次に、この延伸フィルム18(厚さ15μm)を表基材フィルム、L−LDPEフィルム〔ユニラックス LS−711C(商品名)、出光ユニテック(株)製、厚さ50μm〕をシーラントフィルムとして、両者をドライラミネートして、図2に示すような易裂性ラミネートフィルム(以後、ラミネートフィルムともいう)100を得た。なお、ドライラミネート用の接着剤としては、三井タケダケミカル製のタケラックA−615/タケネートA−65の配合品(配合比16/1)を用いた。また、ドライラミネート後のラミネートフィルムは、40℃で3日間エージングを行った。
【0039】
[評価方法]
(延伸成形性)
延伸フィルム18の製膜時におけるバブルの安定性を延伸成形性として評価した。具体的には、バブルが安定しているものをA、バブルの揺れがあって不安定なものをCとして評価した。なお、当初、バブルの揺れがあっても、微調節でバブルを安定化できたものは、Bとした。
【0040】
(収縮率)
MD、TD方向に沿って100mmの標線を記入した延伸フィルム18を用意し、このフィルムを95℃の熱水中に30分間放置した後、23℃、湿度50%RHに状態調整した上で、MD方向およびTD方向の収縮率を測定した。この収縮率は、最初の長さをL、収縮後の長さをLとして、(L−L)/L×100(%)の式により求めた。
【0041】
(耐衝撃性)
延伸フィルム18について、以下のようにして衝撃強度を測定した。
東洋精機(株)製のフィルム・インパクト・テスターを使用し、固定されたリング状のフィルム18に半円球状の振り子(直径1/2インチ)を打ち付けて、フィルム18の打ち抜きに要した衝撃強度を測定することにより行った。そして、衝撃強度が45,000J/m以上をA、45,000J/m未満をCとして評価した。この衝撃強度が45,000J/mより小さくなると、表基材としての性能が低下してゆき、収縮包装用基材としての実用性が乏しくなる。
【0042】
(直線カット性)
延伸フィルム18の易裂性の尺度として、以下のようにして直線カット性を測定した。
図6に示すように、20cm幅のフィルム18に所定間隔Ws(例えば2cm間隔)で切れ目21を入れ、これらの切れ目21に沿ってフィルム18を引き裂いた後、フィルム片18Aの他端22の幅Weを測定し、元の間隔Wsとの偏差αを下記の式で求める。
α=〔|Ws−We|/Ws〕×100
この測定を10枚のフィルム片18Aに対して行い、その平均値のα(%)が±10%未満のものをA(直線カット性が非常に良好)、±10%≦α≦±30%のものをA(直線カット性が良好)、α(%)が±30%を越えるものをC(直線カット性が不良)として評価した。α(%)が±30%を越えるとフィルム18を真っ直ぐに切ることが困難になる。
【0043】
(引裂強度)
延伸フィルム18について、以下のようにして引裂強度を測定した。
エレメンドルフ引裂強度試験(JIS K 7128)に準拠して、延伸フィルム18のMD方向およびTD方向の引裂強度を測定した。そして、引裂強度が70N/cm以下をA、70N/cmを越えるもの(引裂抵抗大)をCとして評価した。この引裂強度は、70N/cm以下であることが直線カット性を向上させる点で好ましい。引裂強度が70N/cmを越えると、引裂抵抗が高くなり直線カット性が低下してしまって、易裂性包装用基材としての実用性能が乏しくなる。
【0044】
(層内剥離)
上述のラミネートフィルム100から15mm幅の短冊状試験片を切り出し、その端部を手で数cmほど界面剥離を行い、表基材フィルム(延伸フィルム18)とシーラントフィルムとに分離した。その後、各々のフィルム片を引張り試験機(インストロン万能試験機 1123型)にセットして、300mm/minの速度でラミネート部分の剥離試験を行った(90度剥離)。
剥離試験の最中に表基材フィルム内部で層内剥離が生ずると剥離強度が急激に減少するため、そのような挙動が発現したか否かで層内剥離発生の有無を判別できる。例えば、剥離試験の開始時は、剥離強度が7N/15mm幅程度であったものが、剥離試験の途中で急激に1〜2N/15mm幅程度に減少すれば、層内剥離が生じたと判断できる。
そして、表基材フィルム内部で層内剥離の挙動を示さないものをA、層内剥離の挙動を示したものをCとして評価した。
【0045】
(製品外観)
ラミネートフィルム100を用いて、ハム、ソーセージ用ケーシング三方袋を作製し、内容物を充填後、熱水によりボイル処理(95℃、30分間)を行って、袋と内容物との密着性を評価した。袋と内容物との密着性が良好な場合をA、袋と内容物との密着性が不良だったり、反ったりした場合をCとした。
【0046】
(総合評価)
上述した延伸成形性、収縮率、耐衝撃性(衝撃強度)、直線カット性、引裂強度、層内剥離、および製品外観の8項目すべてにA以上がつくものを総合評価でAとした。上述の8項目のうち、一つでもCがあれば総合評価でCとした。
【0047】
[実施例2〜8、比較例1〜7]
上記実施例1において、Ny6ペレット、MXD6ペレット、および熱履歴品の混合量、さらに、熱履歴品におけるMXD6の融点を変えるとともに、延伸後の熱固定条件を変えて、実施例1と同様の製造工程により製膜を行った。評価試験も実施例1と同様に行った。表1に実施例、表2に比較例の製造条件および評価結果を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
[評価結果]
表1に示すように、本実施例に係る延伸フィルム18は、原料中のNy6とMXD6の配合量等が所定の条件を満たし、該フィルムを95℃の熱水中に30分間保持した場合に、該フィルムの収縮率がMD方向およびTD方向についていずれも3〜20%の範囲にあるので、延伸成形性、衝撃強度、直性カット性、引裂強度、および層内剥離防止効果のいずれについても優れる。さらに、熱水収縮性が適度であるため、ラミネートフィルム10と、内容物との密着性が良く、袋の製品外観が良好であった。
【0051】
一方、表2に示すように、比較例は、上述の条件を満たしていないため、いずれも、延伸フィルム18の物性に問題がある。具体的には、比較例1は、原料として熱履歴品を含有していないため、フィルム18(ナイロン層)が層内剥離を起こしていた。また、比較例2は、熱履歴品の含有量が45質量%と多いため、衝撃強度、直線カット性、および引裂強度に劣っていた。比較例3は、該フィルムの収縮率(95℃、30分間)がMD方向およびTD方向ともに2%と非常に小さいため、ラミネートフィルム10から作成したケーシング三方袋のボイル時の収縮が十分ではなく袋の製品外観が悪く、また内容物との密着性も不十分であった。比較例4は、熱履歴品におけるMXD6の融点が232℃と低いため、直線カット性に劣っていた。比較例5は、熱履歴品の含有量が少ないため、比較例1と同じく、フィルム18(ナイロン層)が層内剥離を起こしていた。比較例6では、熱履歴品の融点が210℃とかなり低いため衝撃強度と直線カット性、および引裂強度がともに劣っていた。また延伸成形性も不良であった。比較例7では、Ny6の含有量が多すぎるため、引裂抵抗が高く(引裂強度大)、直線カット性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、易裂性(直線カット性)や耐衝撃性(衝撃強度)に優れるとともに、ナイロン層が層内剥離を起こすことのない収縮包装用の易裂性袋として利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 …二軸延伸装置
11…原反フィルム
12…ニップロール
13…ヒータ
14…エアーリング
15…エアー
16…バブル
17…ニップロール
18…易裂性収縮フィルム
19…シーラントフィルム
20…基材フィルム
100、200、300…易裂性ラミネートフィルム
400…易裂性袋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン6(以後、Ny6ともいう)60〜85質量部と、メタキシリレンアジパミド(以後、MXD6ともいう)15〜40質量部(両者の合計は100質量部)とを原料として含む易裂性収縮フィルムであって、
前記原料は、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部からなるバージン原料と、
Ny6およびMXD6を溶融混練して、MXD6の融点を233〜238℃とした熱履歴品とを含み、
前記熱履歴品の含有量は、前記原料全量基準で5〜40質量%であり、
該易裂性収縮フィルムを95℃の熱水中に30分間保持した場合に、該フィルムの収縮率が、MD方向およびTD方向についていずれも3〜20%であることを特徴とする易裂性収縮フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の易裂性収縮フィルムにおいて、
該易裂性収縮フィルム面内の少なくとも一方向の引裂強度が70N/cm以下であることを特徴とする易裂性収縮フィルム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の易裂性収縮フィルムにおいて、
前記熱履歴品におけるNy6とMXD6の配合割合は、Ny6:MXD6=60〜85質量部:15〜40質量部であることを特徴とする易裂性収縮フィルム。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の易裂性収縮フィルムが複数層の少なくとも一層として形成されていることを特徴とする易裂性ラミネートフィルム。
【請求項5】
請求項4に記載の易裂性ラミネートフィルムを使用したことを特徴とする易裂性袋。
【請求項6】
Ny6とMXD6とを原料として含む原反フィルムをMD方向(フィルムの移動方向)およびTD方向(フィルムの幅方向)にともに2.8倍以上の延伸倍率で延伸する易裂性収縮フィルムの製造方法であって、
前記原料は、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部(両者の合計は100質量部)からなるバージン原料に対し、Ny6およびMXD6を溶融混練して、MXD6の融点を233〜238℃とした熱履歴品を前記原料全量基準で5〜40質量%含有し、
前記延伸後の熱処理温度を150〜205℃とすることを特徴とする易裂性収縮フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−211339(P2012−211339A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−163849(P2012−163849)
【出願日】平成24年7月24日(2012.7.24)
【分割の表示】特願2006−195526(P2006−195526)の分割
【原出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(500163366)出光ユニテック株式会社 (128)
【Fターム(参考)】