説明

易重合性物質含有物の精製方法およびその装置

【課題】易重合性物質含有物の重合を防止しながら、易重合性物質を精製する方法に関する。
【解決手段】易重合性物質含有物を、再沸器を備える蒸留塔を用いて精製、分離する際に、前記蒸留塔と前記再沸器との間の連結管における蒸気の線速度を毎秒20〜60mでかつ滞留時間を3秒以下とすることを特徴とする易重合性物質含有物の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易重合性物質含有物を精製する方法およびその装置に関し、特に気相部における(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクリル酸エステルの重合を防止しながら精製する方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
不純物を含む(メタ)アクリル酸などの易重合性物質は、従来、次のように精製されていた。
【0003】
凝縮器および再沸器を備える蒸留塔において、蒸留塔の塔頂部から連結管を介して凝縮器と結ばれており、蒸留塔の下部に近い位置に再沸器が取り付けられている。ここで、不純物を含んだ(メタ)アクリル酸などの供給液が蒸留塔に供給され、蒸留される。凝縮器において、連結管を介して凝縮器に入った(メタ)アクリル酸などの留出蒸気が凝縮され、一部は蒸留塔に戻され、残部は留出液Dとして回収、またはさらに次の処理を受ける。一方、蒸留塔の塔底から抜き出された(メタ)アクリル酸などを含む液は再沸器に供給され、再沸して(メタ)アクリル酸を含む蒸気が連結管を介して蒸留塔に戻される。
【0004】
(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクリル酸エステルは、非常に重合しやすく、精製などの製造工程においてしばしば重合が発生し、装置の停止を余儀なくされることはよく知られている。このための対策として、(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクリル酸エステルの製造時には、ハイドロキノン・フェノチアジンなどの重合禁止剤を添加し、液相部における重合防止を施すことはよく知られている。
【0005】
特許文献1には、蒸留塔にジャケットを設け、ビニル化合物の蒸気の凝縮または重合を防止する方法が記載されている。
【0006】
さらに、特許文献2には、トレイ塔壁近くに開口させることによって塔壁を濡らし、ビニル単量体の重合を防止する蒸留塔が記載されている。
【特許文献1】米国特許第3988213号明細書
【特許文献2】米国特許第3717553号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、易重合性物質の蒸留の際に、蒸気の、または気相部における蒸気再凝縮時に発生する重合を完全に防止することは未だ達成されていない。
【0008】
本発明は、(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクリル酸エステルなどの易重合性物質含有物を精製する際に、蒸留塔と熱交換器との間に設けられた連結管の気相部での重合を効率的に防止し、効率よく精製する方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らの検討によれば、(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクリル酸エステルを蒸留する際に、蒸留塔に付随する竪型多管式熱交換器を蒸留塔に支持させ、これらを連結する蒸気ラインを蒸留塔直胴部から取り出すこと、または蒸留塔の塔頂に凝縮器を直接設置し、気相容積を小さくすることで重合防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の目的は、易重合性物質含有物を熱交換器を備える蒸留塔を用いて精製、分離する際に、前記蒸留塔と前記熱交換器との間の連結管における蒸気の線速度を毎秒5m以上でかつ滞留時間を3秒以下とすることを特徴とする易重合性物質含有物の精製方法によって、達成される。
【0011】
本発明のその他の目的は、熱交換器を備える蒸留塔において、前記熱交換器が凝縮器であって、前記凝縮器が前記蒸留塔の塔頂部に直接的に設けられていることを特徴とする易重合性物質含有物の精製装置によって、達成される。
【0012】
また、本発明のその他の目的は、熱交換器を備える蒸留塔において、前記熱交換器が再沸器であって、その降液管が加熱管の外部に設けられかつ前記加熱管上方に前記蒸留塔気相部に開口する蒸気ガイドを備えてなる再沸器が前記蒸留塔の下部に直接設置されてなることを特徴とする易重合性物質含有物の精製装置によって、達成される。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、易重合性物質含有物を熱交換器を備える蒸留塔を用いて精製、分離する際に、前記蒸留塔と前記熱交換器との間の連結管における蒸気の線速度を毎秒5m以上でかつ滞留時間を3秒以下とすることにより、易重合性物質含有物の蒸気の重合を効果的に防止できる。
【0014】
また、本発明の易重合性物質含有物の精製装置を用いることにより、易重合性物質含有物の蒸気の重合を効果的に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で使用する易重合性物質とは、重合し易い物質であれば特に限定はされないが、例えば重合性ビニル化合物を挙げることができる。ここで、重合性ビニル化合物には、(メタ)アクロレイン;(メタ)アクリル酸;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート又はそれらの混合物を挙げることができる。
【0016】
本発明における易重合性物質含有物とは、上記の易重合性物質と易重合性物質の合成または生成時の副生物との混合物である。例えば、アクリル酸およびアクリル酸エステルの場合には、アクリル酸を接触気相酸化反応で得る際に副生する酢酸、プロピオン酸、アクロレイン、マレイン酸、水、ホルマリンなどを含むアクリル酸およびアクリル酸エステルの溶液をいう(特開平9−227445号公報など)。また、例えば、メタクリル酸およびメタクリル酸エステルの場合には、メタクリル酸を接触氣相酸化反応で得る際に副生するメタクロレイン、アクリル酸、酢酸などを含むメタクリル酸およびメタクリル酸エステルの溶液をいう(特開平3−24459号公報など)。
【0017】
本発明で使用する蒸留塔は、易重合性物質含有物を蒸留できれば特に限定されないが、充填塔、棚段塔(トレイ塔)、濡壁塔、スプレー塔などを挙げることができる。なかでも、重合防止、塔効率の観点から、棚段塔(トレイ塔)が好ましい。
【0018】
また、本発明で使用する多管式熱交換器は、蒸留塔の塔頂からの蒸気を冷却するまたは塔底液から蒸気を発生させる目的で用いるものであって、通常の多管式熱交換器を用いることできる。また、本発明にいう多管式熱交換器とは、凝縮器および再沸器(リボイラー)を意味する。通常、多管式熱交換器は円筒の胴の内部に、細く、肉厚の薄い、多数の伝熱管を1本に束ねた管束を配置した構造で伝熱管の内外部に接触する流体間で熱交換を行う。一般に、胴側流体の流れが、伝熱管に対して最も有効に流れるようにし、伝熱効率を向上させると共に、伝熱管を保持するために、邪魔板を設ける。なかでも、重合防止の観点から、竪型で管内がプロセス流体の熱交換器が好ましい。
【0019】
本発明では、蒸留塔と熱交換器との間の連結管または連結管相当部における蒸気の線速度を毎秒5m以上、好ましくは5〜60m、さらに好ましくは20〜60m、かつ、滞留時間を3秒以下、好ましくは2秒以下とすることが望ましい。ここで、蒸気とは、蒸気状または窒素ガスなどの同伴ガスを含む易重合性物質含有物を意味する。ただし、蒸気の線速度は、蒸留の開始時および終了時を除く、定常的な操作または運転時の条件である。蒸気の線速度は、蒸留塔と熱交換器との間を連結管で結合する場合にはその連結管の入口から出口までにおける線速度をいう。言うまでもないことであるが、蒸留塔の連結管への接ぎ手までの距離、および熱交換器の連結管への接ぎ手までの距離は、本発明の趣旨から接ぎ手の取り外しに支障のない限りできる限り短くする。蒸気の線速度が毎秒5m以下の場合には、易重合性物質含有物の管壁への付着が認められるようになり、一方、蒸気の線速度が毎秒60m以上の場合には、圧力損失の増大、温度上昇が認められるために好ましくない。また、蒸気の滞留時間が3秒を越える場合には、易重合性物質含有物の管壁への付着が認められるようになり、好ましくない。
【0020】
本発明で用いる滞留時間は次に定める方法により計算で求める。
【0021】
滞留時間=A/(B×C)
ここで、式中、A:連結管内容積 [m
B:連結管における蒸気線速度 [m/s]
C:連結管断面積 [m] を示す。
【0022】
本発明では、蒸留塔と熱交換器との間の蒸気の通過する距離が実質的にゼロであることが好ましい。ここで、実質的にゼロとは蒸留塔と熱交換器との間に連結管などのその他の部材または部品を用いることなく、熱交換器を蒸留塔に直接的に設けられてなることをいう。熱交換器が凝縮器の場合には、凝縮器が蒸留塔の塔頂部に直接的に設けられてなり、熱交換器が再沸器の場合に、再沸器が蒸留塔の直胴部の下部、好ましくは最下部に直接的に設けられていることをいう。
【0023】
ここで、蒸留塔の下部に直接設けられた前記再沸器は、例えば、
側面に加熱媒体用の入口および出口を有する、上部および下部が密封された円筒状容器と、
前記円筒状容器内の上下間に設けられた、内部が上下に貫通する複数の加熱管と、
前記円筒状容器の上方に設けられた、蒸気出口が蒸留塔の略中心部に位置する蒸気ガイドと、
前記蒸気出口上部または上方に設けられた非密閉蓋と、
前記加熱管の外部に、前記円筒状容器の上方および下方を結んで設けられた降液管とを備える構成である。
【0024】
次に、本発明を図面を用いて説明する。
【0025】
図1は凝縮器および再沸器を備える蒸留塔の正面図である。凝縮器を蒸留塔の直胴部の上部に連結して支持させ、連結管の気相容積を小さくして、被処理物の滞留時間を短くし、さらに再沸器を蒸留塔の直胴部の下部に連結して支持させ、連結管の気相容積を小さくしたものである。ここで、凝縮器としては竪型熱交換器、再沸器としては竪型熱交換器および蒸留塔としては棚段塔などの公知のものを用いることができる。図1において、蒸留塔1出口と凝縮器5入口との距離をできる限り短くして、連結管9の気相容積をできる限り小さくしてある。そのために、凝縮器(多管式熱交換器)5への連結管9は蒸留塔1の塔頂の直胴部から取り出し、蒸留塔1に支持させてある(図1において、蒸留塔に凝縮器支持のためのサポートは図示せず)。なお、接続部材の形状(曲率半径、曲がり角度、拡がり角度など)に特に制限はないが、効果を高めるためには接続距離が短くなることが望ましい。具体的には、蒸留塔と凝縮器を90゜曲管/肘管または短管/細まり管で連結することが好ましい。不純物を含む(メタ)アクリル酸などの易重合性物質Fを蒸留塔1に供給し、(メタ)アクリル酸を蒸留する。蒸留塔1の塔頂部から凝縮器5までの連結管9の距離が従来のものよりも短いので、連結管9での(メタ)アクリル酸などの易重合性物質の蒸気の重合を低減できる。もちろん、この連結管9での蒸気の線速度は毎秒5m以上であり、その滞留時間は3秒以下であることが必要である。凝縮器5で水、冷却液などの公知の冷媒で間接的に冷却された(メタ)アクリル酸などの液は、還流液Rまたは留出液Dとして取り扱われる。
【0026】
また、再沸器7が蒸留塔1のサイド下部に連結管を介して設けられている。再沸器7の出口と蒸留塔1の入口との距離をできる限り短くして、連結管6の気相容積をできる限り小さくしてある。そのために、再沸器7の出口は、蒸留塔1のボトム付近の直胴部と連結されている(図1において、蒸留塔に再沸器支持の為のサポートは図示せず)。なお、接続部材の形状(曲率半径、曲がり角度、拡がり角度など)に特に制限はないが、効果を高めるためには接続距離が短くなることが望ましい。具体的には、蒸留塔と再沸器を90゜曲管/肘管または短管/細まり管で連結することが好ましい。蒸留塔1の塔底部の(メタ)アクリル酸などの易重合性物質の液は、連結管2を経由して再沸器7に入る。再沸器7で再沸された液の蒸気は連結管6を経由して蒸留塔1の気相部に入る。連結管6において、蒸気の線速度は毎秒5m以上であり、その滞留時間は3秒以下であるので、蒸気の重合が防止または低減される。また、再沸器7での濃縮液は連結管2を経由して排出される(B)。
【0027】
図2は、凝縮器および再沸器を設置した蒸留塔を示す一部破断した正面図である。凝縮器を蒸留塔の直胴部の上部に連結して支持させ、連結管の気相容積を小さくして、被処理物の滞留時間を短くし、さらに自然循環式再沸器を蒸留塔の直胴部の下部に直接的に設けたものである。ここで、凝縮器および蒸留塔としては、特に限定されるものではなく、それぞれ竪型熱交換器および棚段塔などの公知のものを用いることができる。以下、同一部材又は部分は図1と同一の符号で表す。図2において、蒸留塔1出口と凝縮器5入口との距離をできる限り短くして、連結管9の気相容積をできる限り小さくしてある。そのために、凝縮器(多管式熱交換器)5への連結管9は蒸留塔1の塔頂の直胴部から取り出し、蒸留塔1に支持させてある(図2において、蒸留塔に凝縮器支持のためのサポートは図示せず)。なお、接続部材の形状(曲率半径、曲がり角度、拡がり角度など)に特に制限はないが、効果を高めるためには接続距離が短くなることが望ましい。具体的には、蒸留塔と凝縮器を90゜曲管/肘管または短管/細まり管で連結することが好ましい。不純物を含む(メタ)アクリル酸などの易重合性物質Fを蒸留塔1に供給し、(メタ)アクリル酸を蒸留する。蒸留塔1の塔頂部から凝縮器5までの連結管9の距離が従来のものよりも短いので、連結管9での(メタ)アクリル酸などの易重合性物質の蒸気の重合を低減できる。もちろん、この連結管9での蒸気の線速度は毎秒5m以上であり、その滞留時間は3秒以下であることが必要である。凝縮器5で水、冷却液などの公知の冷媒で間接的に冷却された(メタ)アクリル酸などの液は、還流液Rまたは留出液Dとして取り扱われる。
【0028】
また、再沸器(リボイラー)は蒸留塔1内の下部に直接設けられている。蒸留塔が棚段塔の場合には、最下段の棚の下に位置することとなる。こで、蒸留塔1の下部に直接設けられた前記再沸器は、側面に(加)熱媒体用の入口14および出口15を有する、上部および下部が密封された円筒状容器8と、前記円筒状容器8内の上下間に設けられた、内部が上下に貫通する複数の加熱管11と、前記円筒状容器8の上方に設けられた、蒸気出口17が蒸留塔の気相部に開口する蒸気ガイド12と、前記蒸気出口17上部または上方に設けられた非密閉蓋16と、前記加熱管11の外部に、前記円筒状容器8の上方および下方を結んで設けられた降液管13とを構成であることが好ましい。
【0029】
不純物を含む(メタ)アクリル酸などの易重合性物質Fを蒸留塔1に供給し、(メタ)アクリル酸を蒸留する。蒸留塔1の塔底からの(メタ)アクリル酸を含む液が再沸器の加熱管11に供給される。ここで、液は再沸器外部に設置された降液管(ダウンテーク)13を通り加熱管11内を沸騰しつつ上昇し、自然循環する。蒸気ガイド12が蒸留塔気相部に開口するため、循環液量を多量とすることができ、液の滞留時間が短く、(メタ)アクリル酸などの部分的な温度上昇を防止でき、それにより重合性物質の重合防止を図ることができる。沸騰した蒸気は上昇して、蒸気ガイド12を経て蒸留塔1に入り、通常の蒸留処理を受ける。再沸器の加熱管11の出口では、通常、気液混相である。また、非密閉蓋16および蒸気ガイド12を設けることにより、蒸留塔からの液が直接再沸器の加熱管11に直接入ることがなく、再沸器の加熱管11上面の液面通過抵抗を低減またはなくすことが可能である。上記沸騰のための加熱は、スチーム入口14からスチームなどの熱媒体を導入することにより行い、熱交換後の熱媒体は出口15から排出される。また、再沸器の濃縮液は出口17から排出される(B)。再沸器が直接蒸留塔1に直接設けられかつ再沸器の加熱管11から発生する蒸気を集束する蒸気ガイド12が設けられているので、蒸気の線速度は毎秒5m以上であり、その滞留時間は3秒以下であり、再沸器と蒸留塔1との間で(メタ)アクリル酸などの易重合性物質の蒸気の重合の低減を図ることができる。
【0030】
このように、(メタ)アクリル酸などの易重合性物質含有物の連結管における重合を効果的に防止することができる。
【0031】
図3は、凝縮器を蒸留塔の塔頂部に直接設置するとともに再沸器を蒸留塔の横側下部に取り付けた構成を示す蒸留塔の正面図である。ここで、凝縮器および蒸留塔としては、特に限定されるものではなく、それぞれ竪型熱交換器および棚段塔などの公知のものを用いることができる。以下、同一部材又は部分は図1と同一の符号で表す。図3において、蒸留塔1の塔頂部3に竪型多管式熱交換器5が直接設けられている。不純物を含む(メタ)アクリル酸などの易重合性物質Fを蒸留塔1に供給し、(メタ)アクリル酸を蒸留する。蒸留塔1内において、(メタ)アクリル酸などの易重合性物質の蒸気が凝縮器5に入る。凝縮器5に入った易重合性物質の蒸気は、水、冷却液などの公知の冷媒で間接的に冷却されて凝縮し(冷却のための導管は図示せず)、凝縮した液は蒸留塔1上部の液受4に受けられ、蒸留塔1へ還流液Rとして還流または回収、必要によりさらに処理される(D)。このように、凝縮器5が蒸留塔1の塔頂部3に直接設けられており、蒸気の線速度は毎秒5m以上であり、その滞留時間は3秒以下である条件を満たすので、蒸留塔1と凝縮器5との間の(メタ)アクリル酸などの易重合性物質の蒸気の重合の低減を図ることができる。
【0032】
また、再沸器7が蒸留塔1のサイド下部に連結管を介して設けられている。ここで、再沸器としては、特に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。再沸器7の出口と蒸留塔1の入口との距離をできる限り短くして、連結管6の気相容積をできる限り小さくしてある。そのために、再沸器7の出口は、蒸留塔1のボトム付近の直胴部と連結されている(図3において、蒸留塔に再沸器支持の為のサポートは図示せず)。なお、接続部材の形状(曲率半径、曲がり角度、拡がり角度など)に特に制限はないが、効果を高めるためには接続距離が短くなることが望ましい。具体的には、蒸留塔と再沸器を90゜曲管/肘管または短管/細まり管で連結することが好ましい。蒸留塔1の塔底部の(メタ)アクリル酸などの易重合性物質の液は、連結管2を経由して再沸器7に入る。再沸器7で再沸された液の蒸気は連結管6を経由して蒸留塔1の気相部に入る。連結管6において、蒸気の線速度は毎秒5m以上であり、その滞留時間は3秒以下であるので、蒸気は重合する防止または低減される。また、再沸器7での濃縮液は連結管2を経由して排出される(B)。
【0033】
このように、(メタ)アクリル酸などの易重合性物質含有物の連結管における重合を効果的に防止することができる。
【0034】
上記には、凝縮器を蒸留塔の上部の直胴部に設けるとともに再沸器を蒸留塔の下部の直胴部に設けた例、凝縮器を蒸留塔の上部の直胴部に設けるとともに再沸器を蒸留塔に下部に直接設けた例、および凝縮器を蒸留塔の塔頂部に直接設けるとともに再沸器を蒸留塔の下部の直胴部に設けた例を示したが、本発明はこれらに限定されることなく、凝縮器と再沸器とは、単独でまたは任意に組み合わせることが可能である。
【0035】
このような構成により、蒸留塔と熱交換器との間の蒸気の通過する距離が実質的にゼロまたは蒸留塔と熱交換器との間の連結管における蒸気の線速度を毎秒5m以上でかつ滞留時間を3秒以下を達成することができ、アクリル酸と酢酸、プロピオン酸、アクロレイン、マレイン酸および/またはホルマリンなどとを含む液体混合物を蒸留しても、長期間蒸留操作を継続しても滞留時間の影響による重合物の連結管接液部への付着は実質的に認められない。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例により具体的に説明する。
【0037】
[実施例1]
内径1100mm、段数50段のステンレス鋼製(SUS316)のシーブトレーを内装した蒸留塔を用い、アクリル酸の精製を行った。蒸留は、アクリル酸98重量%、酢酸2重量%でフィードし、塔頂圧力40mmHg、温度63℃、塔底90mmHg、温度84℃、還流比7の条件で1週間連続運転したのち停止した。なお、凝縮器(竪型多管式熱交換器)は塔頂直胴部から蒸気ラインを取り出し、塔に支持させた。この場合、蒸気ラインにおける蒸気の線速度は20m/sで、滞留時間は0.1秒であった。(ここで、滞留時間は上記の式から求めた。滞留時間=A/(B×C)=2.1/(20×1.1)=0.1)蒸留中の塔頂から凝縮器間の圧力損失は一定で、開放点検の結果、塔頂から凝縮器管板面に重合物の付着は見られなかった。
【0038】
さらに、再沸器も塔底の直胴部に蒸気ラインを設置し、塔に支持させた。ここで、蒸気ラインは蒸留塔の気相部に入る。蒸気ラインにおける蒸気線速は約40m/sで、滞留時間は0.1秒であった(A/(B×C)=1.2/(40x0.3)=0.1)。開放点検の結果、再沸器蒸気ラインの重合物の付着は見られなかった。
【0039】
[比較例1]
塔頂蒸気を塔頂部から取り出し、架台に設置(塔頂蒸気滞留時間3.5秒)した凝縮器に連結した、および架台に設置した(蒸気滞留時間3.2秒)の再沸器を用いた以外は、実施例1と同一条件で蒸留した。(なお、滞留時間は上記の式から求めた。凝縮器滞留時間=A/(B×C)=77/(20x1.1)=3.5、再沸器滞留時間=38/(40x0.3)=3.2) 蒸留中の塔頂から凝縮器間の圧力損失は1週間で2mmHg上昇し、停止後の開放点検の結果、塔頂から凝縮器管板面から約100リットルの重合物が確認された。また、塔底部において、圧力損失の上昇は認められなかったが、開放点検の結果、再沸器蒸気ラインに約130リットルの重合物が確認された。
【0040】
[実施例2] (再沸器を蒸留塔の下部に直接設置した例)
内径1400mm、段数10段のステンレス鋼製のシーブトレーを内装した蒸留塔を用い、アクリル酸の精製を行った。蒸留はアクリル酸99%、アクリル酸二量体などの不純物1%で供給し、塔頂圧力35mmHg、温度63℃、環流比0.3の条件で3週間連続して運転した後、停止した。
【0041】
なお、再沸器は蒸留塔に自然循環式の加熱管外部に降液管が設置され、塔気相部に開口する蒸気ガイドを有するものを直接設置した。開放点検した結果、重合物の付着は見られなかった。
【0042】
[実施例3] (凝縮器を蒸留塔の塔頂部に直接設置した例)
凝縮器を塔頂に設置する以外は、実施例1と同一条件で蒸留した。2週間連続稼働した後停止し、開放し、点検したが、塔頂部および凝縮器に重合物の付着の見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に用いられる熱交換器を備える蒸留塔の一例を示す説明図である。
【図2】本発明に用いられる熱交換器を備える蒸留塔の一例を示す一部破断部を有する説明図である。
【図3】本発明に用いられる熱交換器を備える蒸留塔の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1 蒸留塔、
3 塔頂部、
5 凝縮器、
7 再沸器(リボイラー)、
9 連結管、
11 加熱管、
13 降液管、
14 熱媒体入口、
15 熱媒体出口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
易重合性物質含有物を、再沸器を備える蒸留塔を用いて精製、分離する際に、前記蒸留塔と前記再沸器との間の連結管における上記の線速度を毎秒20〜60mでかつ滞留時間を3秒以下とすることを特徴とする易重合性物質含有物の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−46492(P2009−46492A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229586(P2008−229586)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【分割の表示】特願平11−97893の分割
【原出願日】平成11年4月5日(1999.4.5)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】