説明

曝気槽の制御方法

【課題】処理後の汚泥を再利用する排水処理系の曝気槽における汚泥と排水の混合液が内生呼吸状態となることを利用して曝気槽を制御する曝気槽の制御方法において、内生呼吸状態への遷移する位置がとるべき最適な条件を特定できないという課題があった。
【解決手段】押し出し流れ型の場気槽において、曝気槽内における複数の位置の酸素消費速度を測定し、測定値中、内生呼吸の酸素消費速度と値が一致する最上流側の測定点を内政呼吸への遷移の位置と判断し、この位置が常に最下流部になるように制御することにより、最適な状態で汚泥を再利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理施設において、下水道や工場などから排出される有機物を含んだ被処理水である排水を微生物によって酸化分解処理する主要処理工程である曝気槽の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下水処理場や事業所等の排水処理施設での有機性排水処理は、活性汚泥法を用いた微生物の酸化分解処理によりなされている。
【0003】
この工程において、活性汚泥中の微生物(細菌、原生動物など)は排水中の有機物を生物活動に必要なエネルギー源として体内に取り込んで浄化し、酸素を消費しながら取り込んだ有機物を二酸化炭素と水に分解する。
【0004】
微生物は様々な要因により有機物の分解特性が変化するため、連続かつ安定に処理を行うには適正な運転管理を行う必要がある。
【0005】
一方、排水処理施設における消費電力の最大の発生要因は曝気槽へ送風するためのブロアの電力であり、省エネルギーの観点からも曝気風量が必要最低限になるよう制御することも望まれている。
【0006】
特に事業所等の排水処理施設では下水処理施設に比べ操業状況により流入負荷の変動差が大きく、負荷の変動に対応する為に人員を常時配置して適宜制御する必要があり、人員を配置しない場合は安全をみて曝気風量を多めに設定してエネルギー消費が増える状況となっており、省メンテ、コスト削減からも排水処理の制御に対する要望は大きい。
【0007】
排水処理における制御対象の項目としては、曝気槽に供給する空気の量(以下曝気風量)で行うのが一般的であり、その他、汚泥濃度や流入する負荷量の調整など様々である。
【0008】
一方、計測対象の項目としては溶存酸素濃度(DO)、pH、酸化還元電位、汚泥濃度(MLSS)が代表的であり、これ以外に、水温、流入水量、汚泥沈降率なども測定され、最低限これらのデータは一定時間毎に記録され、管理されている。
【0009】
また、これらの計測対象項目を監視対象として測定するだけでなく、これらの値から曝気槽を最適に制御する試みも行われており、排水処理の形式、制御の目的、処理場の規模、排水の性状等により様々な制御方法が考案されている。
【0010】
最も基本的な曝気槽の制御方法としては、溶存酸素濃度を一定に保持するように曝気風量を制御する方法である。
【0011】
曝気槽内の溶存酸素濃度は、曝気槽への酸素供給量と曝気槽内の微生物の酸素消費速度から決定され、酸素供給量が一定であれば、酸素消費速度により増減する。
【0012】
すなわち、最も基本的な曝気風量の制御方法は、この溶存酸素濃度を常に一定量になるように(通常1〜2mg/Lに)制御するもので、例えば流入負荷が低く溶存酸素濃度が高いときは曝気風量を絞り、逆に流入負荷が増大し、溶存酸素濃度が低いときは曝気風量を増やして、常に必要最低限の曝気風量となるように制御する方法である。
【0013】
しかし、このような最も基本的な溶存酸素濃度による曝気槽の制御は、曝気槽への酸素供給量が常に一定であるという仮定に基づいており、この仮定が成り立たないと正しく曝気槽の状態を制御できなくなる。
【0014】
曝気槽の酸素供給能力は総括酸素移動容量係数(KLa)で表されるが、この値は汚泥の性状や散気管の目詰まり等の影響により変化するうえ、測定自体もかなりの手間と労力を要するため、曝気槽が稼動中に総括酸素移動容量係数を正確に測定することは困難である。
【0015】
このような理由により、曝気槽の溶存酸素濃度の値で曝気風量の制御を行うことは信頼性が低いとみなされ、結局は管理者が溶存酸素濃度その他の計測項目を頼りに経験と勘で運転しているケースが多いのが実情である。
【0016】
以上のような曝気槽の溶存酸素濃度を用いた制御に対し、曝気槽に流入する負荷の大小を測定し、負荷の大きさに応じて制御を行う方法が提案されている。
【0017】
曝気槽に流入する負荷の大小を測定する方法としては、BOD計測器やCOD計測器を用いて流入原水の負荷を直接測定する方法も存在するが、BOD計測器やCOD計測器は高価かつ複雑で、廃水処理の現場で使用するには耐久性に問題があり、また、BOD測定は再現性が低く、COD測定はBOD値との相関が必ずしも一定ではないという課題もあって現在のところ実用化は困難な状況である。
【0018】
一方、曝気槽の混合液の酸素消費速度(Rr)を用いて負荷の大小を間接的に測定する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0019】
この方法は、曝気槽内の混合液の酸素消費速度を計測することにより流入負荷の大小を判断し曝気槽を制御するもので、活性汚泥の酸素消費速度と流入負荷量に相関があることを前提としており、酸素消費速度の計測値から流入負荷量を推定し、負荷量に応じた曝気風量等の制御を行う方法である。この方法において酸素消費速度による測定は、従来から使用されており信頼性、安定性が高く、かつ安価である溶存酸素濃度計で測定が行える点がCOD計測器等と比較して有利である。
【0020】
この測定方法を基本とし、酸素消費速度の測定精度を向上させるため、ATU(アリルチオ尿素)を添加して硝化菌による影響を排除するものや、グルコース等による基準負荷を定期的に測定して汚泥の活性度の変化の影響を排除するものなどが提案されており、酸素消費速度の測定方法も、曝気槽内で直接測定する場合や溶存酸素濃度の測定値と総括酸素移動容量係数(KLa)から計算するものや、処理系外の別槽に汚泥を採取して計測するもの等様々なものが様々な見地から考案されている。
【0021】
しかしながら、このような曝気槽の酸素消費速度の値から流入負荷を推定して制御を行う方法の場合、流入負荷と酸素消費速度の相関が常に一定であることを前提としているが、現実的には酸素消費速度と流入負荷の相関が必ずしも一定ではなく、負荷の種類、汚泥の馴致状況や活性度などにより相関が変化してしまい、相関係数を一義的に定義できるものではない。
【0022】
また、流入負荷の大小を曝気槽の酸素消費速度で計測しているので測定対象と制御対象が同一になり、測定値を負荷に変換し制御量を決定するフローとなるため急激な負荷の変化には常に応答の遅れを生じさせることになり、適切に制御を行えない課題を抱えており、現在においても主流にはなっていない。
【0023】
ところで、これらの酸素消費速度を測定する制御方法における別の考え方として、流入負荷の大小を測定して制御にフィードバックするのではなく、曝気槽の状態を直接測定し、常に最適な状態になるよう制御する考え方がある。
【0024】
ところで負荷が連続的に流入、流出する押し出し流れ型の活性汚泥法の場合、曝気槽へ流入した負荷により、最上流部では高い酸素消費速度が測定されるが、その値は流れ方向に対して急激に減少した後、徐々に減少し最終的には負荷の消費を伴わない内生呼吸の酸素消費速度となって安定する。
【0025】
この考え方に基づき、曝気槽内の混合液の内生呼吸への遷移を、常に適正な位置に来るよう制御する方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0026】
この方法は、曝気槽内の流れ方向に対し複数の酸素消費速度を測定し、その傾きが変化する変曲点を特定して、この点を内生呼吸への遷移と判断し、この内生呼吸へ遷移する位置が所定の位置に来るように曝気風量を調整し曝気槽を制御する方法である。
【0027】
この方法によれば、酸素消費速度から負荷を推定して制御する方法と比較して、負荷の大小、負荷の種類や汚泥の活性度によらず、また負荷の変動に対しても応答の遅れを生じさせること無く、適正な曝気槽の制御方法が得られる。
【特許文献1】特開平03−181396号公報
【特許文献2】特開昭56−130296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
しかしながら、上記従来の特許文献2に記載のものは、内生呼吸遷移点を所定の位置に制御するという方法であり、所定の位置がどのような条件であるかは特に言及されておらず、また、所定の位置は負荷や汚泥の活性度で変化するため、適正な処理の条件を定義できないという課題があった。
【0029】
そこで本発明は、負荷の変動や汚泥の活性の変化があっても適正な処理の条件を明確に定義できる曝気槽の制御方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明は上記目的を達成するため、処理後の汚泥を再利用する排水処理系の曝気槽における汚泥と排水の混合液が内生呼吸状態となることを利用して曝気槽を制御する曝気槽の制御方法において、内生呼吸状態の利用は内生呼吸への遷移を曝気処理の完了と判断して行うものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、負荷の変動や汚泥の活性度の変動によらず、省エネ、省メンテで曝気槽を常に最適な状態に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の第1の実施の形態による曝気槽の制御方法は、処理後の汚泥を再利用する排水処理系の曝気槽における汚泥と排水の混合液が内生呼吸状態となることを利用して曝気槽を制御する曝気槽の制御方法において、内生呼吸状態の利用は内生呼吸への遷移を曝気処理の完了と判断して行うものである。
【0033】
本実施の形態によれば、内生呼吸への遷移を微生物が有機物を酸化分解する処理の終点と判断することにより、常に最適な状態で汚泥を再利用することができるため、負荷の変動や汚泥の活性の変化によらず、曝気槽を最適な状態に制御することができる。
【0034】
本発明の第2の実施の形態は、押し出し流れ型の曝気槽において、内生呼吸への遷移の位置が前記曝気槽内の最下流部に来るように制御するものである。
【0035】
本実施の形態によれば、曝気槽の最下流部の位置で処理が完了するため常に最適な状態で汚泥を返送し再利用することができる。
【0036】
本発明の第3の実施の形態は、内生呼吸への遷移の位置が、前記曝気槽内の最下流部に来ているかどうか判断するものである。
【0037】
本実施の形態によれば、正確に最下流部の位置に内生呼吸の遷移があるか判断することができる。
【0038】
本発明の第4の実施の形態は、内生呼吸への遷移の位置が、前記曝気槽内の最下流部に来ているかどうかの判断は、曝気槽内における混合液の流れ方向に沿って複数の位置の酸素消費速度を測定し、各測定値を内生呼吸の酸素消費速度の値と比較して行うものである。
【0039】
本実施の形態によれば、現在の曝気槽の処理状態が適正なのか、不足なのか、過剰なのかを判断することができる。
【0040】
本発明の第5実施の形態は、比較した結果、測定値中、内生呼吸の酸素消費速度と値が一致する最上流側の測定点を内生呼吸への遷移の位置とするものである。
【0041】
本実施の形態によれば、より正確に内生呼吸へ遷移する位置を特定することができる。
【0042】
本発明の第6の実施の形態は、酸素消費速度の測定値が内生呼吸の酸素消費速度の値より低いとき、酸素消費速度の測定値を内生呼吸の酸素消費速度の値とするものである。
【0043】
本実施の形態によれば、活性度が下がり測定した酸素消費速度が内生呼吸の酸素消費速度よりも低い値が測定されたときも、この値を内生呼吸の酸素消費速度として更新することにより、活性度の変化に追従した最新の内生呼吸の酸素消費速度を得ることができる。
【0044】
本発明の第7の実施の形態は、酸素消費速度と同時に汚泥濃度を測定して酸素利用速度係数を算出し、酸素利用速度係数を酸素消費速度の代わりに用いて行うものである。
【0045】
本実施の形態によれば、汚泥の濃度変動による酸素消費速度の変化の影響を除去でき、より正確に曝気槽の内生呼吸遷移点を得ることができる。
【0046】
本発明の第8の実施の形態は、曝気槽内における混合液の流れ方向に沿って複数の位置の酸素消費速度を測定し、負荷の有無を判断するものである。
【0047】
本実施の形態によれば、曝気槽における負荷の有無を判断することができ、無負荷時における内生呼吸の酸素消費速度を得ることができる。
【0048】
本発明の第9の実施の形態は、複数の位置は、最上流部とその下流側であるものである。
【0049】
本実施の形態によれば、最も酸素消費速度の差が大きい最上流部とその下流側の測定値を用いることにより、負荷の有無だけでなく、負荷の大小を得ることができる。
【0050】
本発明の第10の実施の形態は、回分式の曝気槽において、内生呼吸への遷移の時間が曝気処理の終了時となるように制御するものである。
【0051】
本実施の形態によれば、内生呼吸の遷移を処理時間で判断することにより、回分式の曝気槽おいても本発明を適用することができる。
【0052】
以下、本発明による実施例の曝気槽の制御方法について、図面を参照して説明する。
【0053】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態における曝気槽の制御方法の1例を示すシステム図で、制御対象を含んだ排水処理系10と計測制御装置20を示している。
【0054】
排水処理系10は排水を貯留する調整槽1と、有機物を活性汚泥と混合した混合液を曝気することにより微生物によって酸化・分解する曝気槽2と、曝気槽2で処理された混合液を重力によって汚泥と処理水とに分離する沈殿槽3で構成されている。
【0055】
ここで、矢印の方向は排水の流れを表している。
【0056】
処理対象の排水が流入する調整槽1は押し出し流れ型の曝気槽2に接続されている。
【0057】
曝気槽2の底部には有酸素気泡が発生する散気管4が流れ方向に沿って複数配置されており、各散気管4はそれぞれ散気管制御弁5を介して曝気槽2の外部に接続された曝気ブロア6と空気配管によって接続されている。
【0058】
また、曝気槽2の最下流部は沈殿槽3と接続されている。
【0059】
沈殿槽3は処理系外へと接続されると共に、調整槽1と曝気槽2の間に液体配管で接続されている。
【0060】
次に計測制御装置20について説明する。計測制御装置20は曝気槽2に近接して設置されており、内部に計測槽11と制御部12を有している。
【0061】
計測槽11内には溶存酸素濃度計13、温度センサ14が配置されており、それぞれの測定信号線(図中、破線)が制御部12に接続されている。
【0062】
計測槽11の底部には計測槽散気管15が配置されており、計測槽散気管15は計測槽11の外部に設置された計測槽曝気ブロア16と空気配管によって接続されている。
【0063】
また、計測槽11には混合液を攪拌する攪拌機17が配置されている。また、計測槽曝気ブロア16は制御部12と電気的に接続されている。
【0064】
また、曝気槽2には混合液採取ポンプ7が流れ方向に沿って最上流部と最下流部を含む複数箇所に配置されおり、各混合液採取ポンプ7は混合液採取弁8を介して計測槽11の流入口18と接続されている。
【0065】
また、計測槽11の底部には流出口19があり、流出口19は液体配管によって曝気槽2の最上流部近傍と接続されている。
【0066】
制御部12は計測槽曝気ブロア16、曝気ブロア6、散気管制御弁5、混合液採取ポンプ7、混合液採取弁8および攪拌機17と電気的に接続されており、制御部12から各機器を動作できるようになっている。
【0067】
また、特に図示していないが流出口19の下方には排出用の弁があり制御装置から開閉できるようになっている。
【0068】
尚、図1において、便宜上散気管制御弁5、混合液採取ポンプ7、混合液採取弁8の信号線は1本で表示してあるが、全て各機器を個別に制御できるようになっている。
【0069】
次に、本実施の形態の処理動作について説明する。
【0070】
被処理対象の有機物を含んだ排水は調整槽1に流入して貯留され、ここである程度の負荷の変動は平均化されほぼ一定の流量となって曝気槽2へと送られる。
【0071】
曝気槽2では排水と汚泥が混合され混合液となると共に曝気ブロア6から空気が散気管4を介して送り込まれ、散気管4から発生した有酸素気泡は曝気槽2内部の混合液中を浮力により上昇しながら酸素を混合液中に供給すると共に混合液を攪拌する。
【0072】
曝気槽2内部では、微生物が酸素を消費しながら有機物を体内に取り込み、続いて有機物を酸化分解して二酸化炭素と水に分解する。
【0073】
特に、曝気槽2は流入位置から流出位置までの距離がある押し出し流れ型の曝気槽であり、微生物による有機物の酸化分解は曝気槽2の最上流部から最下流部に流れるに従い進行し、最下流部から流出した混合液は沈殿槽3へと送り込まれる。
【0074】
沈殿槽3に送り込まれた混合液は静置され重力により下層の汚泥と上層の上澄み液に分離され、上澄み液は浄化された処理水として系外へ放流される。
【0075】
下層の汚泥の一部は返送汚泥として曝気槽2の最上流部へ戻され生物処理に再利用される。
【0076】
尚、特に図示していないが残りの汚泥は余剰汚泥として処理系外へと排出されて別途処理される。
【0077】
以上が排水処理の基本的な流れであるが、ここで、曝気槽2の内部での処理状況について図2を用いてさらに詳しく説明する。
【0078】
押し出し流れ型の曝気槽2の内部に流入した有機物を含んだ排水は曝気槽2の最上流部で汚泥と混合されるが、ここで、汚泥の中の微生物は、まず負荷である有機物を急速に体内に取り込む。
【0079】
この時、微生物は多量に酸素を消費するため酸素消費速度は最上流部で最も高い値を示す(図中のA部)。
【0080】
押し出し流れのため混合液は曝気槽2を下流に向かって進みつつ微生物は体内に取り込んだ有機物を少しずつ酸素を消費しながら酸化分解していき、酸素消費速度は下流に行くに従い徐々に低下していく。
【0081】
微生物が体内に取り込んだ有機物が全て消費されたとき、微生物は有機物の消費を伴わない呼吸、いわゆる内生呼吸状態となり、内生呼吸の酸素消費速度となって安定する。
【0082】
すなわち内生呼吸への遷移が曝気処理の完了であり、図2のaにあるように内生呼吸への遷移の位置が曝気槽2の最下流部と一致する場合が最も効率が良い処理といえる。
【0083】
もし、図2のbのように内生呼吸への遷移の位置が曝気槽2の最下流部より前にあった場合は、内生呼吸への遷移の位置より後ろの汚泥は酸化分解の処理をしていないことになり、この部分の曝気処理は無駄となり、これは負荷に対して処理が過剰であることを意味している。
【0084】
一方、図2のCのように内生呼吸への遷移の位置が曝気槽2の最下流部より後ろ、すなわち曝気槽2内で内生呼吸への遷移に到達しない場合、最下流部でも微生物の体内に有機物が残留している事になり、処理が未完であることを示している。
【0085】
ここで、処理過剰が進行した状態では微生物の体外物質の生産不足により汚泥の沈降性が悪化して沈殿槽で固液分離できなくなり処理水質が悪化し、逆に処理不足が進行した状態で汚泥を返送して再利用すると汚泥の微生物体内には有機物が残存しているため、有機物の吸収能力が低下して処理水質が悪化する。
【0086】
つまり、曝気槽2を適正に運転するためには、常に最適な状態で汚泥を返送して再利用することが必要であり、そのためには最下流部で処理が完了することが重要であり、内生呼吸への遷移の位置を曝気槽2の最下流部に常に位置するように制御することが最善である。
【0087】
さて、本実施の形態の曝気槽の制御方法では、曝気槽2に対し流れ方向に複数箇所の混合液採取ポンプ7を配置し、各位置の酸素消費速度を計測制御装置20の計測槽11で測定するようになっている。
【0088】
まず、混合液採取ポンプ7を動作させ、そのポンプに対応した混合液採取弁8を開いて、その近傍だけの混合液を流入口18から計測槽11へ流入させる。
【0089】
混合液は計測槽11に一定量貯留され、次いで計測槽曝気ブロア16を作動させ計測槽散気管15より有酸素気泡が計測槽11内に送り込まれると同時に攪拌機17を作動させ、計測槽11内の混合液を攪拌させ、溶存酸素濃度計13、温度センサ14による測定も開始する。
【0090】
この時、制御部12には溶存酸素濃度計13、温度センサ14の測定値が一定時間ごとに逐次記録され、計測槽11内の混合液の溶存酸素濃度が曝気により上昇し、安定したところで攪拌を続けたまま計測槽曝気ブロア16の運転を停止することにより、計測槽11内の混合液の酸素消費速度を溶存酸素濃度の減少曲線から算出する。
【0091】
尚、酸素消費速度は温度による影響が大きいので、制御部12にて温度の変化分を補償することにより、温度の影響を排除することが出来る。
【0092】
次に、溶存酸素濃度が酸素消費速度を適正に算出できる値まで低下したところで酸素消費速度及び温度の計測を停止し、計測槽11内部の混合液を流出口19より曝気槽2に返送する。
【0093】
ここで、曝気槽2に返送する位置は処理水への影響を考慮し曝気槽2の最上流部であることが望ましい。
【0094】
上記のようにして酸素消費速度を測定するが、この測定を曝気槽2の最上流部から最下流部まで順次に測定していくことにより、曝気槽2内の酸素利用速度の分布が得られる。
【0095】
次に本実施の形態における内生呼吸への遷移の位置が最下流部に位置しているかどうか判断する方法について説明する。
【0096】
まず、曝気槽2の最上流部の酸素消費速度の測定値とその下流側の酸素消費速度の測定値を比較し、最上流部の方が大きければ、曝気槽に流入する負荷があると判断する。
【0097】
二つの測定値に差異が無い、すなわち分布の傾きが水平であれば流入する負荷が無い状態と判断でき、無負荷状態に対応した最低曝気風量で運転するよう制御する。
【0098】
また、このとき曝気槽2全体が無負荷状態と判断でき、この時の最下流部の酸素消費速度を内生呼吸の酸素消費速度の値として制御部に記憶する。
【0099】
次に、負荷があると判断された場合は、最下流部の酸素消費速度の測定値と制御部に記憶された内生呼吸の酸素消費速度の値を比較して最下流部の酸素消費速度の測定値の方が大きい場合は、処理が未完と判断でき、曝気風量を増加するように制御する。
【0100】
比較した結果、値が一致する場合は、最下流部より上流側の酸素消費速度の測定値と内生呼吸の酸素消費速度の値を比較して、さらに一致する場合は内生呼吸遷への遷移の位置がその位置を含めた上流側にあることを意味し、処理が過剰と判断し、曝気風量を絞るように制御する。
【0101】
比較した結果、酸素消費速度の測定値の方が大きい場合は、内生呼吸への遷移の位置が最下流部の位置であり、処理が適正であると判断でき、曝気風量は現在の条件を維持する。
【0102】
尚、内生呼吸への遷移の位置が最下流部の上流側、下流側のどちらにあるか判断するだけでも制御の方向を決定できるが、さらに上流側の酸素消費速度の測定値を内生呼吸の酸素消費速度の値と比較することにより、上流側から数えて最初に内生呼吸の酸素消費速度と一致する位置を見出すことにより、内生呼吸への遷移の位置を特定することができ、例えば特定した位置が最下流部からの距離が離れるほど曝気風量を少なくするなどにより、より緻密に曝気槽2を制御できる。
【0103】
尚、酸素消費速度の測定値が、内生呼吸の酸素消費速度の値より低いというケースも考えられる。
【0104】
これは汚泥の活性度が低下したことによる影響と判断でき、その時の最下流部の酸素消費速度の測定値を内生呼吸の酸素消費速度の値として更新して制御部に記憶し、上記の処理により内生呼吸への遷移の位置を特定する。
【0105】
尚、本実施の形態では測定位置を4箇所で説明したが、測定箇所数は処理場の設置状況や処理の要求精度、コスト等により決定すればよく、設置箇所が多い方が緻密な制御が行えるがその分コストが上昇する。
【0106】
次に、ある事業所の排水処理施設における酸素消費速度分布について説明する。
【0107】
図3は、ある事業所の排水処理施設における酸素消費速度の流れ方向の分布の測定結果である。
【0108】
ここでは、事業所が稼動している日と非稼動日において計測を行い、非稼働日は流入負荷が0であった。
【0109】
図3にあるように稼働日における酸素消費速度は曝気槽の最上流部のおける測定値が非常に高い値を示し、下流に行くに従い急激に低下し、最下流部の手前でほぼ安定した状態となった。ここでは最上流部の酸素消費速度の測定値とその下流側の酸素消費速度の測定値を比較し、最上流部の方が大きいので稼働日に負荷があることが図3からも判断できる。
【0110】
また、流入負荷が0の非稼働日における酸素消費速度は、曝気槽の位置によらず一定であり、無負荷状態であることが判断でき、この値が内生呼吸の酸素消費速度となる。
【0111】
この内生呼吸の酸素消費速度の値を稼働日の酸素消費速度の分布と比較することにより、内生呼吸への遷移の位置は図3の5の位置であることがわかり、稼働日においては少しではあるが曝気過剰であり曝気量を低減することにより省エネルギー化できる余地があることがわかった。このように、本発明の曝気槽の制御方法は実際の処理施設に適用可能である。
【0112】
このように、本実施の形態によれば、常に最下流部に内生呼吸への遷移の位置が来るように曝気槽を制御することができるようになり、事業所等での繁忙期や休日、夜間など、負荷量が急激に変動するような場合でも管理者の経験と勘の操作を不要とし、従来のように安全を見て曝気過多で運転する必要も無くなり省エネルギーが図れる。
【0113】
尚、本実施の形態では酸素消費速度で内生呼吸への遷移の位置を判断する方法で説明したが、通常、曝気槽は汚泥濃度を一定に保つように運転されているのでこの方法で問題は無い。
【0114】
しかし、より正確な検知を行うには計測槽に汚泥濃度計を設置し、酸素消費速度と同時に汚泥濃度を測定して酸素消費速度を汚泥濃度で除した単位汚泥重量あたりの酸素消費速度いわゆる酸素利用速度係数(Kr)を用いる方がより正確に内生呼吸への遷移の位置を判断できる。
【0115】
尚、本実施の形態において、制御対象を曝気風量として説明したが、曝気槽2の制御対象は曝気風量に限定されるものではなく、曝気槽2への返送汚泥量や、負荷の流入量などを制御対象としてもよい。
【0116】
また、酸素消費速度の測定を計測槽11を用いて測定する方法で説明したが、曝気槽2内で直接測定する方法を用いてもよい。
【0117】
また、本実施の形態では、無負荷状態の判別を曝気槽2の酸素消費速度の分布の傾きが水平であることで判断すると説明したが、例えば曝気槽2に負荷が流入しない日や時間があらかじめわかっており特定できる場合などにおいては、酸素消費速度の分布の傾きを判断する必要は無く、無負荷状態になる時間の酸素消費速度の測定値を内生呼吸の酸素消費速度とすればよい。
【0118】
以上のように、本実施の形態によれば、適正な処理の条件を明確に定義でき、負荷の変動幅が大きく、急激に変化する事業所等の排水処理施設の曝気槽などにも適用でき、汚泥の活性度の変化にも対応可能な曝気槽の制御方法が得られる。
【0119】
(実施の形態2)
図4は、本発明の曝気槽の制御方法における他の実施形態を示している。なお、実施の形態1と同様の構成や作用を有するものについては同一符号を付し、その説明を省略する。
【0120】
本実施の形態は、実施の形態1のうち排水処理系を押し出し流れ型の曝気槽ではなく、回分式の排水処理系としたものである。
【0121】
図4において、曝気槽2は回分処理槽21となっており、回分処理槽21は曝気槽2としての機能以外に沈殿槽3としての機能も併せ持っており、時間により曝気槽2と沈殿槽3の機能を切り替えて不連続に排水を処理するところに特徴がある。
【0122】
また、実施の形態1では複数の位置の酸素消費速度を測定したが、本実施の形態では1箇所となっており、それに伴い散気管制御弁5や混合液採取ポンプ7、混合液採取弁8もそれぞれ1箇所となっている。
【0123】
次に、本実施の形態の処理動作について説明する。
【0124】
被処理対象の有機物を含んだ排水は調整槽1に流入して貯留され、ここである程度の負荷の変動は平均化され所定の量だけ回分処理槽21へと送られる。
【0125】
回分処理槽21では排水と汚泥が混合され混合液となると共に曝気ブロア6から空気が散気管4を介して送り込まれ、散気管4から発生した有酸素気泡は曝気槽2内部の混合液中を浮力により上昇しながら酸素を混合液中に供給すると共に混合液を攪拌する。
【0126】
曝気槽2の内部では、微生物が酸素を消費しながら有機物を体内に取り込み、続いて有機物を酸化分解して二酸化炭素と水に分解する。
【0127】
回分処理槽21の内部では完全混合状態となる為、内部で酸素消費速度の分布はないが、曝気処理中は負荷の流入はないため、酸素消費速度の測定値は酸化分解の処理が進むに従い時間と共に低下する。
【0128】
ここで、溶存酸素濃度が酸素消費速度を適正に算出できる値まで低下したところで酸素消費速度及び温度の計測を停止し、回分処理槽21内の混合液は静置され重力により下層の汚泥と上層の上澄み液に分離され、上澄み液は浄化された処理水として系外へ放流される。
【0129】
下層の汚泥はそのまま回分処理槽21に保持され、次の処理用の汚泥として生物処理に再利用される。
【0130】
ここで、回分処理槽内部での処理状況について図5を用いてさらに詳しく説明する。
【0131】
回分処理槽21の内部に流入した有機物は汚泥と混合されるが、ここで、汚泥の中の微生物は、まず負荷である有機物を急速に体内に取り込む。
【0132】
この時、微生物は多量に酸素を消費するため酸素消費速度は処理時間の早い段階で最も高い値を示す(図中のB部)。
【0133】
この時、酸素消費の主体が易分解性成分の分解であるため酸素消費速度は急激に低下するが、ほぼ全ての易分解性成分が消費されると、酸素消費は難分解性成分の加水分解による分解と内生呼吸に支配されるため酸素消費速度は緩やかに低下する(図中Cの部分)。
【0134】
さらに加水分解による分解が終了すると内生呼吸への遷移と移行する(図中Dの部分)。
【0135】
すなわち内生呼吸への遷移が曝気処理の完了であり、この時、つまり図5のdの位置で曝気処理時間が終了するのが最適な処理である。
【0136】
通常、回分式は曝気時間があらかじめ設定された時間に固定されているが、本実施の形態のように酸素消費速度が内生呼吸へ遷移したことを判断できれば処理の過剰や処理の不足が生じることなく常に適正に曝気槽を制御することができる。
【0137】
同様に、処理時間を固定した場合は曝気風量を制御することにより常に内生呼吸への遷移する時間を処理の終了時間と一致するようにすることもできる。
【0138】
尚、本実施の形態において、負荷の有無の判断は曝気処理中に酸素消費速度が一定であれば無負荷と判断でき、無負荷の時の酸素消費速度を内生呼吸の酸素消費速度の値とすれば、実施の形態1と同様にして内生呼吸への遷移を判断することができる。
【0139】
以上のように、本実施の形態によれば、回分式の排水処理系においても適正に処理できる曝気槽の制御方法を提供することができる。
【0140】
尚、本発明を適用できる排水処理系は、標準活性汚泥法や回分式のように処理が完了した汚泥を再利用すること、酸素消費速度の内生呼吸への遷移が位置や時間等で定量的に判断できることが条件であり、この条件を満たせば上記で説明した2つの排水処理系以外の方法にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明による曝気槽制御方法は、下水処理場、事業所等における有機性排水の処理施設における曝気槽の制御に対して適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】本発明の実施の形態1の曝気槽の制御システムを示すブロック図
【図2】本発明の実施の形態1の曝気槽内における酸素消費速度の分布を示す図
【図3】一般的な排水処理施設における酸素消費速度の分布を示す図
【図4】本発明の実施の形態2の曝気槽の制御システムを示すブロック図
【図5】本発明の実施の形態2の曝気槽内における酸素消費速度の時間変化を示す図
【符号の説明】
【0143】
1 調整槽
2 曝気槽
3 沈殿槽
4 散気管
5 散気管制御弁
6 曝気ブロア
7 混合液採取ポンプ
8 混合液採取弁
10 排水処理系
11 計測槽
12 制御部
13 溶存酸素濃度計
14 温度センサ
15 計測槽散気管
16 計測槽曝気ブロア
17 攪拌機
18 流入口
19 流出口
20 計測制御装置
21 回分処理槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理後の汚泥を再利用する排水処理系の曝気槽における汚泥と排水の混合液が内生呼吸状態となることを利用して曝気槽を制御する曝気槽の制御方法において、内生呼吸状態の利用は内生呼吸への遷移を曝気処理の完了と判断して行うことを特徴とする曝気槽の制御方法。
【請求項2】
押し出し流れ型の曝気槽において、内生呼吸への遷移の位置が前記曝気槽内の最下流部に来るように制御することを特徴とする請求項1記載の曝気槽の制御方法。
【請求項3】
内生呼吸への遷移の位置が、前記曝気槽内の最下流部に来ているかどうか判断することを特徴とする請求項2記載の曝気槽の制御方法。
【請求項4】
内生呼吸への遷移の位置が、前記曝気槽内の最下流部に来ているかどうかの判断は、曝気槽内における混合液の流れ方向に沿って複数の位置の酸素消費速度を測定し、各測定値を内生呼吸の酸素消費速度の値と比較して行うことを特徴とする請求項3記載の曝気槽の制御方法。
【請求項5】
比較した結果、測定値中、内生呼吸の酸素消費速度と値が一致する最上流側の測定点を内生呼吸への遷移の位置とする請求項4記載の曝気槽の制御方法。
【請求項6】
酸素消費速度の測定値が内生呼吸の酸素消費速度の値より低いとき、酸素消費速度の測定値を内生呼吸の酸素消費速度の値とする請求項4記載の曝気槽の制御方法。
【請求項7】
酸素消費速度と同時に汚泥濃度を測定して酸素利用速度係数を算出し、酸素利用速度係数を酸素消費速度の代わりに用いて行う請求項4記載の曝気槽の制御方法。
【請求項8】
曝気槽内における混合液の流れ方向に沿って複数の位置の酸素消費速度を測定し、負荷の有無を判断する請求項3記載の曝気槽の制御方法。
【請求項9】
複数の位置は、最上流部とその下流側である請求項8記載の曝気槽の制御方法。
【請求項10】
回分式の曝気槽において、内生呼吸への遷移の時間が曝気処理の終了時となるように制御することを特徴とした請求項1記載の曝気槽の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−168187(P2008−168187A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1956(P2007−1956)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】