説明

曲げ部材の製造装置

【課題】安全かつ効率的に稼働しながら、曲げ部材を量産することができる曲げ部材の製造装置を提供する。
【解決手段】長手方向へ送られる鋼管16の外周面から離間して配置される誘導加熱コイル12aと、誘導加熱コイル12aを冷却するコイル冷却機構とを備える金属材加熱機構12と、金属材加熱機構12により加熱された高温部の外面に冷却水13bを吹き付けることによって、鋼管16の軸方向へ向けて移動する高温部16dを形成する金属材冷却機構13と、第1の支持機構14−1および第2の支持機構14−2からなり、高温部16dを境としてその両側に位置する二つの部分を支持するとともに、第2の支持機構14−2により支持される部分の位置を二次元または三次元で変更することにより、高温部16dに曲げモーメントを与える金属材支持機構14と、一の鋼管の曲げ加工時に、全停止、送り完了後停止、および、警報出力のうちのいずれか一の動作を選択し、選択した動作を実行する信号を出力する制御機構15を備える製造装置10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げ部材の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、高強度、軽量かつ小型であること等が、屈曲した形状を有する金属製の自動車用や各種機械用の強度部材、補強部材または構造部材に、求められる。この種の曲げ部材は、これまで、例えばプレス加工品の溶接、厚板の打ち抜きさらには鍛造等により製造されてきた。しかし、これらの製造方法により達成される、曲げ部材の軽量化および小型化は限界に達しており、その実現は容易でない。
【0003】
近年、いわゆるチューブハイドロフォーミングによりこの種の曲げ部材を製造することが積極的に検討されている(例えば非特許文献1参照)。非特許文献1の28頁には、素材となる材料の開発や成形可能な形状の自由度の拡大等といった様々な課題がチューブハイドロフォーミングに存在するので、今後よりいっそうの技術開発が必要であることが、記載されている。
【0004】
本出願人は、先に特許文献1により曲げ加工装置を開示した。図2は、この曲げ加工装置0の概略を示す説明図である。
図2に示すように、曲げ加工装置0は、基本的に、支持機構2によりその軸方向へ移動自在に支持された鋼管1を上流側から下流側へ向けて例えばボールネジを用いた送り機構3により送りながら、支持機構2の下流で誘導加熱コイル5により鋼管1を部分的にAc点以上に急速に加熱するとともに誘導加熱コイル5の下流に配置される水冷装置6により冷却水を噴射して鋼管1を急冷する。これにより、鋼管1の長手方向の一部に、Ac点以上に加熱された高温部1aを形成する。なお、符号7は鋼管1をその軸方向へ移動自在に支持する支持機構である。
【0005】
そして、鋼管1を送りながら支持可能であるロール対4aを少なくとも一組有する可動ローラーダイス4の位置を二次元または三次元で変更して鋼管1の高温部に曲げモーメントを付与することにより、二次元または三次元に屈曲する曲げ加工部と焼入れ部とを長手方向および/またはこの長手方向と交叉する面内の周方向へ向けて断続的または連続的に有する曲げ部材8を、十分な曲げ加工精度を確保しながら高い作業能率で製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2006/093006号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】自動車技術 Vol.57,No.6,2003 23〜28頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、曲げ加工装置0は、誘導加熱コイル5により鋼管1を部分的にAc点以上の高温に急速に加熱するとともに水冷装置6により鋼管1を急冷する。このため、曲げ加工装置0により曲げ部材を安全かつ効率的に量産するためには、鋼管1のみならず誘導加熱コイル5の溶損を確実に防止することによる火災の発生防止に充分配慮する必要がある。
【0009】
また、誘導加熱コイル5が適正に作動しない場合には、所望の温度の高温部1aを形成することができなくなり、高温部1aの変形抵抗が所望の程度に低下しなくなるために、可動ローラーダイス4を二次元または三次元で駆動する駆動装置を損傷するおそれがある。
【0010】
また、鋼管1の送り機構3が適正に作動しない場合には、鋼管1の高温部1aの加熱時間が増加して高温部1aの温度が異常に高まり、鋼管1が溶損するおそれがある。
また、鋼管1の先端部または後端部を把持する把持部材による把持が適正に行われないと、鋼管1のチャック装置が外れ、鋼管1の先端部または後端部が暴れ、周辺に配置された各種の設備と衝突するおそれがある。
【0011】
さらに、例えば産業用ロボットや各装置によって加工する鋼管1を次工程に引き継ぐ時に、産業用ロボットや各装置と鋼管1とが衝突したりして互いに破損するおそれがある。
このように、曲げ加工装置0は、誘導加熱コイル5、鋼管1の送り機構3、鋼管1のチャック装置、さらには産業用ロボット等が適正に作動しないと、各装置や鋼管1を損傷する可能性がある。
【0012】
このため、曲げ加工装置0により曲げ部材を、安全かつ効率的に、各装置や鋼管1を損傷することなく量産するためには、鋼管1のみならず誘導加熱コイル5の溶損による火災の発生防止や、各装置の損傷防止に充分配慮する必要がある。
【0013】
本発明の目的は、安全かつ効率的に、各装置や金属材を損傷することなく稼働しながら、曲げ部材を量産することができる曲げ部材の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、下記金属材加熱機構、金属材冷却機構、金属材支持機構および制御機構を備えることを特徴とする曲げ部材の製造装置である。
金属材加熱機構:長手方向へ送られる金属材の外周面から離間して配置され、この金属材の一方の端部の側から他方の端部の側へ向けてこの金属材を加熱する誘導加熱コイルと、この誘導加熱コイルを冷却するコイル冷却機構とを備える。
【0015】
金属材冷却機構:金属材加熱機構により加熱された金属材の高温部の外面に冷却媒体を吹き付けることによって、金属材の軸方向の一部に、金属材の軸方向へ向けて移動する高温部を形成する。
【0016】
金属材支持機構:高温部を境として金属材の軸方向の両側に位置する第1の部分および第2の部分を支持するとともに、第1の部分および第2の部分のうちの一方または双方の位置が二次元または三次元で変更自在に構成される。
【0017】
制御機構;一の金属材の曲げ加工時に、(a)金属材加熱機構、金属材冷却機構および金属材支持機構の全てに停止信号を直ちに出力する全停止、(b)金属材加熱機構、金属材冷却機構および金属材支持機構の全てに停止信号を、一の金属材に対する曲げ加工が終了した時に出力する送り完了後停止、および、(c)コイル冷却機構に起動信号を出力し続けながら警報信号を出力する警報出力のうちのいずれか一の動作を選択し、選択した動作を実行する信号を出力する。
【0018】
本発明では、さらに、金属材をその長手方向へ送る送り装置を備えてもよいし、あるいは、金属材支持機構が、金属材をその長手方向へ送る機能を有していてもよい。
これらの本発明において、全停止は、コイル冷却機構が原因であれば、高周波盤冷却水の流量低下、高周波変成器冷却水の流量低下、コイルリード冷却水の流量低下、加熱コイル冷却水の流量低下、コイル冷却水(戻り)温度計の温度高、コイル冷却水の圧力低下、金属材冷却機構が原因であれば、冷却水タンクの水量レベル低下、また、前記誘導加熱コイルの加熱出力の低下、金属材の送り速度低下または停止、金属材の前端部または後端部の把持機構の作動不良、または、金属材の所定位置への不在席の場合に選択されることが好ましい。
【0019】
さらに、これらの本発明において、警報出力は、コイル冷却機構のコイル冷却水タンクの水量レベル上昇または低下、金属材冷却機構の冷却水タンクの水量レベル上昇、または、冷却水温度計の温度高の場合に選択されることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、安全かつ効率的に稼働しながら、曲げ部材を量産することができる曲げ部材の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明に係る曲げ部材の製造装置の構成の一例を示す斜視図である。
【図2】図2は、特許文献1により開示された曲げ加工装置の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以降の説明では、鋼材が、閉じた横断面形状を有する部材の代表例である鋼管である場合を例にとる。しかし、本発明は、鋼管に限定されるものではなく、閉じた横断面形状を有する鋼材であれば等しく適用される。
【0023】
図1は、本発明に係る曲げ部材の製造装置10の構成の一例を示す斜視図である。
図1に示すように、この製造装置10は、送り機構11、金属材加熱機構12、金属材冷却機構13、金属材支持機構14、制御機構15および変形抑制機構32を備えるので、これらの構成要素を順次説明する。
【0024】
「送り機構11」
はじめに、鋼管16の把持部材17、18および産業用ロボット19〜20を簡単に説明する。
【0025】
鋼管16は、第1の端部16aの内部に、把持部材(チャック)17を挿設されている。また、第2の端部16bの内部にも、把持部材(チャック)18を挿設されている。把持部材17は、鋼管16の外径よりも大きい外径を有する筒状の大径部17aと、鋼管15の内径よりも小さい外径を有して鋼管16の内部に挿設される筒状の小径部とを有し、同様に、把持部材18も、鋼管16の外径よりも大きい外径を有する筒状の大径部18aと、鋼管15の内径よりも小さい外径を有して鋼管16の内部に挿設される筒状の小径部とを有する。大径部17aの端面が鋼管15の第1の端部16aの端面に付き当てられるとともに、大径部18aの端面が鋼管15の第2の端部16bの端面に付き当てられる。製造装置10では、把持部材17は第3の産業用ロボット22により支持されるとともに、把持部材18は第1の産業用ロボット19により支持される。
【0026】
送り機構11は、汎用の6軸多関節型の第1の産業用ロボット19により構成される。製造装置10は、第1の産業用ロボット19のみならず、誘導加熱コイル支持ロボット20、第2の産業用ロボット21さらには第3の産業用ロボット22にも、第1の産業用ロボット19と同様のロボットを用いる。
【0027】
製造装置10で用いる第1の産業用ロボット19、誘導加熱コイル支持ロボット20、第2の産業用ロボット21さらには第3の産業用ロボット22は、いずれも、第1〜6軸を有するいわゆる垂直多関節ロボットである。第1軸は、上腕23を水平面内で旋回させる。第2軸は、上腕23を前後に旋回させる。第3軸は、前腕24を上下に旋回させる。第4軸は、前腕24を回転させる。第5軸は、手首を上下に旋回させる。第6軸は、手首を回転させる。必要に応じて、これらに加えて、上腕23を旋回させる第7軸を有していてもよい。第1〜7軸は、いずれも、ACサーボモーターにより駆動される。
【0028】
第1の産業用ロボット19、誘導加熱コイル支持ロボット20、第2の産業用ロボット21さらには第3の産業用ロボット22は、他の汎用の産業用ロボットと同様に、いずれも、各軸の動作を総合的に制御するコントローラおよび動作を教示するための入力装置(いずれも図示しない)が設けられている。
【0029】
第1の産業用ロボット19の手首の先端には、第1の産業用ロボット19の側方近傍の床に配置されたパレット(図示しない)に収容された素材である鋼管16を把持するとともに把持した鋼管16を、後述する支持機構14および加熱機構13にそれぞれ設けられた貫通孔を貫通させるための効果器(エンドエフェクタ)として、把持部材18が設けられている。
【0030】
また、鋼管16の第1の端部16aの内部に挿設された把持部材17は、第3の産業用ロボット22の手首によって支持される。
把持部材18は、この送り機構11においてのみならず、後述する支持機構14を構成する可動ローラーダイスを用いずに第2の産業用ロボット21によって鋼管16を直接掴持する場合や、変形防止機構32においても用いられる。把持部材18は、製造装置10により製造される曲げ部材の寸法精度や生産性に大きく影響する。
【0031】
この製造装置10では、図示しないパレットから製造装置10への鋼管16の移動や製造装置10へのセットを第1の産業用ロボット19で行うので、サイクルタイムの低減を図ることができ、生産性を高めることができる。
【0032】
次に、送り機構11を説明する。送り機構11は、曲げ部材の素材である鋼管16をその長手方向へ送るための機構である。
送り機構11は、第1の端部16aの内部に把持部材17を挿設された鋼管16を、第1の端部16aを先頭としてこの鋼管16の長手方向へ、すなわち図1中の白抜き矢印方向へ送るためのものである。
【0033】
送り機構11は、鋼管16をその長手方向へ送ることができる機構を用いればよく、特定の装置には限定されない。この製造装置10では、送り機構11として、把持部材18を鋼管16の送り方向へ移動自在に支持する6軸の多関節型の第1の産業用ロボット19により、構成した。しかし、第1の産業用ロボット19に替えて、例えばボールネジ等の公知の送り装置を用いてもよい。この場合、曲げ部材を製造するためには、この送り機構11と加熱機構12との間の鋼管16を送りながら所定の位置に位置決めするために、一対のローラ等からなる支持機構を配置することが望ましい。
【0034】
また、送り機構11を配置せずに製造装置10を構成することも可能である。後述する金属材支持機構14として、例えば、第1の端部16aを把持する多関節型の産業用ロボットと、第2の端部16bを把持する多関節型の産業用ロボットとを組み合わせて用いれば、送り専用の装置を配置しなくとも、これらの産業用ロボットの動作により、鋼管16をその長手方向へ送ることができるからである。すなわち、金属材支持機構14が、鋼管16をその長手方向へ送る機能を有していてもよい。
【0035】
「金属材加熱機構12」
金属材加熱機構12は、誘導加熱コイル12aと、コイル冷却機構12bとを備える。
誘導加熱コイル12aは、長手方向へ送られる鋼管16の外周面16cから離間して第1の位置Aに配置される環状の本体を有し、鋼管16の第1の端部16aの側から第2の端部16bの側へ向けて鋼管16をその長手方向へ加熱する。誘導加熱コイル12aには図示していないが高周波変成器等の周知の附帯機構が設けられている。
【0036】
また、コイル冷却機構12bは、コイル冷却水循環タンク12cと、コイル冷却水送り管12dと、コイル冷却水戻り管12eとが設けられている。コイル冷却水循環タンク12cに収容されたコイル冷却水を、コイル冷却水送り管12dを介して誘導加熱コイル12aの内部に供給して誘導加熱コイル12aを冷却し、誘導加熱コイル12aを冷却したコイル冷却水をコイル冷却水戻り管12eによりコイル冷却水循環タンク12cに戻すように構成される。
【0037】
金属材加熱機構12は、送られる鋼管16を、鋼管15のAc点以上の例えば焼入れ可能温度域に急速に加熱する能力を有する。
金属材加熱機構12は、後述する金属材冷却機構13と一体として、誘導加熱コイル支持ロボット20により移動自在に支持される。
【0038】
図示していないが、誘導加熱コイル12a、高周波変成器、コイル冷却水循環タンク12c、コイル冷却水送り管12dさらにはコイル冷却水戻り管12e等といった、金属材加熱機構12の構成要素の適宜位置に、高周波盤冷却水の流量の低下、高周波変成器の流量の低下、コイルリード冷却水の流量の低下、加熱コイル冷却水の流量の低下、さらにはコイル冷却水循環タンク12cの水量レベルの低下、コイル冷却水(戻り)温度計の温度高、コイル冷却水の圧力低下を、検出することができる各種センサーが配置されている。これらの各種センサーの検出値は、製造装置10の全稼働時間において後述する制御装置15に出力される。制御装置15は、この検出値に基づいて後述する全停止、送り完了後停止、および警報出力のうちのいずれか一の動作を選択し、選択した動作を実行する信号を出力する。
【0039】
「金属材冷却機構13」
金属材冷却機構13は、第1の位置Aよりも鋼管16の送り方向の下流の第2の位置Bに配置される。金属材加熱機構12により加熱された鋼管16の高温部の外面16cに冷却媒体を吹き付けることによって、鋼管16の軸方向の一部に、Ac点以上に加熱された高温部16dを形成する。高温部16dは、鋼管16がその軸方向へ送られているので、鋼管16の軸方向へ向けて移動する。
【0040】
製造装置10では、金属材冷却機構13として水冷機構を用いることが望ましい。水冷機構13は、冷却水噴射ノズル13aと、冷却水噴射ノズル13aに冷却水13bを供給する冷却水供給管13cおよび冷却水供給タンク13dを備える。
【0041】
水冷機構13から冷却水13bを鋼管16の外面16cに吹き付けることによって、例えばAc点以上の温度に加熱された鋼管16を急速に冷却して、鋼管16を焼入れることができる。
【0042】
金属材冷却機構13は、上述したように金属材加熱機構13と一体として、誘導加熱コイル支持ロボット20により移動自在に支持される。
図示していないが、冷却水噴射ノズル13aと、冷却水噴射ノズル13aに冷却水13bを供給する冷却水供給管13cおよび冷却水供給タンク13d等の、金属材冷却機構13の構成要素の適宜位置に、冷却水供給タンク13dの水量レベル低下、冷却水温度計の温度高、冷却水供給タンク13dの水量レベル上昇を、検出することができる各種センサーが配置されている。これらの各種センサーの検出値は、製造装置10の全稼働時間において後述する制御装置15に出力される。制御装置15は、この検出値に基づいて後述する全停止、送り完了後停止、および警報出力のうちのいずれか一の動作を選択し、選択した動作を実行する信号を出力する。
【0043】
「金属材支持機構14」
金属材支持機構14は、第1の支持機構14−1と第2の支持機構14−2とにより構成される。
【0044】
第1の支持機構14−1は、第1の位置Aよりも鋼管16の送り方向の上流の位置A’、すなわち送り機構11と加熱機構12との間に配置され、送り機構11により送られる鋼管16を送りながら支持するためのものであり、鋼管16を送りながら支持可能である一対のロール25、25を少なくとも一組(図示例ではロール対26、26をもう一組有し、合計二組)有するダイス27により構成される。
【0045】
ダイス27は、支持台28に固定されて搭載されるが、これに限定されるものではなく、例えば汎用の6軸多関節型の産業用ロボットにより移動自在に支持されてもよい。
このようなダイス27は、当業者にとっては周知慣用であるので、第1の支持機構14−1に関するこれ以上の説明は省略する。
【0046】
第2の支持機構14−2は、冷却機構13よりも鋼管16の送り方向の下流の位置Cに配置されて、送られる鋼管16を移動自在に支持する。また、第2の支持機構14−2は、鋼管16の少なくとも一箇所を支持しながら二次元または三次元の方向へ移動する。これにより、第2の支持機構14−2は、鋼管16における位置A〜B間の、加熱されて変形抵抗が大幅に低下した高温部16dに曲げモーメントを与えて、鋼管16を所望の形状に曲げ加工するためのものである。
【0047】
第2の支持機構14−2として、鋼管16を送りながら支持可能である一対のロール29を少なくとも一組有する可動ローラーダイス30を用いた。しかし、これとは異なり、上述したように、第2の支持機構14−2として可動ローラーダイス30を用いずに第2の産業用ロボット21に持たせたグリッパー等の効果器によって鋼管16を直接掴持するようにしてもよい。
【0048】
可動ローラーダイス30は、第2の産業用ロボット21により支持される。第2の産業用ロボット21の手首の先端には、可動ローラーダイス30を保持するための効果器(エンドエフェクタ)として、グリッパー31が設けられている。なお、効果器としては、グリッパー31以外の型式のものを用いてもよいことはいうまでもない。
【0049】
このように、金属材支持機構14は、鋼管16の高温部16dを境として鋼管16の軸方向の両側の二つの部分を支持するとともに、これら二つの部分のうち第2の支持機構14−2により支持される部分の位置を二次元または三次元で変更することによって、鋼管16の高温部16dに曲げモーメントを与えて、鋼管16を所望の形状に曲げ加工する。
【0050】
[変形抑制機構32]
変形抑制機構32は、必ずしも設ける必要はないが、曲げ加工後の鋼管16の変形を抑制できるので、曲げ部材の寸法精度を高めることができる。
【0051】
変形抑制機構32は、鋼管16の送り方向について位置B’よりも下流の位置Dに配置されて、送られる鋼管16の変形を防止するためのものである。
製造装置10では、変形防止機構32を、第3の産業用ロボット22により構成した。第3の産業用ロボット22の手首は、鋼管16の第1の端部16aの内部に挿設された把持部材17を支持する。
【0052】
なお、本発明に係る製造装置10では、曲げ加工を、温間または熱間で行うことが望ましい。温間とは常温に比べて金属材の変形抵抗が低下する加熱温度域であり、例えば、ある鉄鋼材料ではおよそ500℃から800℃の温度域である。熱間とは常温に比べて金属材の変形抵抗が低下し、かつ、金属材が焼入れされるのに必要な加熱温度域であり、例えば、ある鉄鋼材料では800℃以上の温度域である。特に、熱間で行う場合には焼入れの所定の温度になった後に所定の冷却速度で冷却することにより焼入れ処理を行うことができ、また温間で行う場合には曲げ加工部を冷却することにより熱歪み等の加工上の歪みの発生を防止することができる。
【0053】
「制御機構15」
制御機構15は、製造装置10によって一の鋼管16−1の製造時に、
(a)送り装置11、金属材加熱機構12、金属材冷却機構13、金属材支持機構14および変形抑制機構32の全てに停止信号を直ちに出力する全停止、
(b)送り装置11、金属材加熱機構12、金属材冷却機構13、金属材支持機構14および変形抑制機構32の全てに停止信号を、一の鋼管16−1に対する曲げ加工が終了した時に出力する送り完了後停止、および、
(c)金属材冷却機構13の附帯設備であるコイル冷却機構に起動信号を出力し続けながら警報信号を出力する警報出力
のうちのいずれか一の動作を選択し、選択した動作を実行する信号を出力する。
【0054】
制御装置15による動作の選択は、上述したように、製造装置10の全稼働時間における、金属材加熱機構12の構成要素の適宜位置に配置された各種センサーの検出値、および金属材冷却機構13の構成要素の適宜位置に配置された各種センサーの検出値に基づいて、行われる。
【0055】
制御装置15は、コイル冷却機構が原因であれば、高周波盤冷却水の流量低下、高周波変成器の冷却水の流量低下、コイルリード冷却水の流量低下、誘導加熱コイル冷却水の流量低下、誘導加熱コイル冷却水(戻り)温度計の温度高、誘導加熱コイル冷却水の圧力低下の場合に、また、金属材冷却機構が原因であれば、コイル冷却水循環タンク12cの水量レベル低下、また、誘導加熱コイル12aの加熱出力の低下、鋼管16の送り速度低下または停止、鋼管16の前端部または後端部に設けられた把持部材17、18の作動不良、または、鋼管16の所定位置への不在席の場合に、全停止を選択する。
【0056】
ここで、「高周波盤冷却水の流量低下」とは、高周波電流を生成するための高周波盤の中で発生する熱を冷却するために制御していた「高周波盤冷却水の流量」が、基準値未満に低下することを意味する。
【0057】
「高周波変成器冷却水の流量低下」とは、高周波変成器の中で発生する熱を冷却するために制御していた「高周波変成器冷却水の流量」が、基準値未満に低下することを意味する。
【0058】
「コイルリード冷却水の流量低下」とは、コイルリードで発生する熱を冷却するために制御していた「コイルリード冷却水の流量」が、基準値未満に低下することを意味する。
「加熱コイル冷却水の流量低下」とは、誘導加熱コイル12aで発生する熱を冷却するために制御していた「誘導加熱コイル冷却水の流量」が、基準値未満に低下することを意味する。
【0059】
「コイル冷却水(戻り)温度計の温度高」とは、誘導加熱コイル12aの異常発熱により誘導加熱コイル12aの冷却が十分にできなくなることを監視している「コイル冷却水(戻り)温度計の温度」が、基準値超に上昇することを意味する。
【0060】
「コイル冷却水の圧力低下」とは、コイル冷却水ポンプの異常により冷却水圧力が低下し、冷却水系統循環水量を十分に確保できなくなることを監視している「コイル冷却水圧力」が、基準値未満に低下することを意味する。
【0061】
「コイル冷却水循環タンク12cの水量レベル低下」とは、冷却水ポンプが空運転することにより冷却水ポンプが故障しないように監視している「コイル冷却水循環タンク12cの水量レベル」が、基準値未満に低下することを意味する。
【0062】
また、制御装置15は、コイル冷却水温度計の温度高の場合に、送り完了後停止を選択する。
ここで、「冷却水温度計の温度高」とは、冷却水の温度が高いため冷却および/または焼入れに不具合が生じることを防止するために監視していた「冷却水温度計の温度」が、基準値超に上昇することを意味する。
【0063】
さらに、制御装置15は、冷却水供給タンク13dの水量レベル上昇、冷却水供給タンク13dの水量レベル低下、または、コイル冷却水循環タンク12cのレベルの水量レベル上昇の場合に、警報出力を選択する。
【0064】
ここで、「冷却水供給タンク13dの水量レベル上昇」とは、冷却水供給タンク13dから冷却水が溢れることを防止するために監視している「冷却水供給タンク13dの水量レベル」が、基準値超に上昇することを意味する。
【0065】
「冷却水供給タンク13dの水量レベル低下」とは、冷却水が不足することを防止するために監視している「冷却水供給タンク13dの水量レベル」が、基準値未満に低下することを意味する。
【0066】
「コイル冷却水循環タンク12cの水量レベル上昇」とは、コイル冷却水循環タンク12cから冷却水が溢れることを防止するために監視している「コイル冷却水循環タンク12cの水量レベル」が、基準値超に上昇することを意味する。
【0067】
「誘導加熱コイル12aの加熱出力の低下(加熱出力が零)」を説明する。鋼管16を誘導加熱していない状況で曲げ加工すると、第2の産業用ロボット21に異常に大きい負荷が作用するため、第2の産業用ロボット21の破損や曲損の恐れがある。そこで、制御装置15によって、鋼管16が充分に誘導加熱されていない状況下では、第2の産業用ロボット21による曲げ加工を行わないように、インターロックを設定する。
【0068】
具体的には、(i)第2の産業用ロボット21への加工パターン(移動軌跡)の入力の際に、誘導加熱コイル12aの加熱出力が無い時に曲げ加工するデータが入力された時は、ロボット加工ジョブへの変換処理を中止すると同時に警報を出力するか、または(ii)誘導加熱コイル12aへの加熱指令が出力されていて第2の産業用ロボット21が曲げ加工をする動きをしようとしているものの、誘導加熱コイル12aにより加熱している出力信号が例えば故障等により出力されていない、または、既定の値が出力されていない時は、製造装置10を非常停止させる。
【0069】
「鋼管16の送り速度の低下または停止」を説明する。鋼管16の送りが不良(低速、または停止状況)である時に誘導加熱コイル12aの加熱出力が維持されたままであると、鋼管16の高温部(高周波加熱部)が異常に高温になり、鋼管16が溶損してしまう。そこで、鋼管16の送りが不良となった時点で製造装置10に非常停止を掛けるインターロックを設定する。
【0070】
具体的には、(i)鋼管16を送る第1の産業用ロボット19の異常(駆動装置故障、駆動系チェーンの破断、電気・制御系の故障)が発生した場合には、製造装置10の非常停止とするか、または(ii)第1の産業用ロボット19の故障および、第3の産業用ロボット22が支持する把持部材17のチャッキング外れを検出した場合に製造装置10の非常停止とする。
【0071】
「鋼管16の前端部または後端部の把持部材17、18の作動不良」を説明する。第1の産業用ロボット19に装着した把持部材18や、第3の産業用ロボット22に装着した把持部材19のチャッキングが不十分な状況で曲げ加工を開始すると、チャッキングが外れて鋼管16の先端または尾端が拘束されずに振れ回って周辺の各種設備と衝突し、鋼管16や周辺の各種設備を破損させる。このため、把持部材17、18のチャッキング不十分な状況が発生した時に製造装置10を非常停止させるインターロックを設定する。
【0072】
具体的には、(i)鋼管16を送る第1の産業用ロボット19の油圧式の把持部材18の圧力やロッドの前後進機構のストローク位置においてチャック/アンチャック位置を検出する。ロッドの前後進機構では、チャック動作をしても鋼管16が存在せず、ストロークエンドまでロッドが進んだことを検知しても鋼管16が在席していないことを検知することも可能である。また(ii)上記(i)項と同様に第3の産業用ロボット22の把持部材17の圧力やロッドの前後進機構のストローク位置においてチャック/アンチャック位置を検出する。なお、加工開始前に検知したときには加工開始をせずに警報を出力し、加工中に検知したときには製造装置10を非常停止させることが好ましい。
【0073】
鋼管16の所定位置への不在席により衝突破損防止のための鋼管検知インターロックを説明する。
産業用ロボットや各装置間で加工する鋼管16を加工次工程に引き継ぐ時に、産業用ロボットや装置と材料である鋼管16とが衝突して互いに破損することを防止するために鋼管検知センサーを設置し、衝突を防止するインターロックを設定する。
【0074】
具体的には、(a)鋼管16を送る第1の産業用ロボット19への鋼管16の挿入場所、(b)加工前の鋼管16の先端への把持部材17の挿入場所、(c)加工終了後の出側製品搬送装置への引き渡し場所等に設定する。
【0075】
また、製造装置10の出側に鋼管16の在席が検知されている状況で製造装置10の入側より次の鋼管16を挿入する場合には、衝突防止のために非常停止させるか、自動運転で出側の鋼管16が払い出しされ、材料検知しない状況後に次の鋼管16を挿入する。
【0076】
この製造装置10は以上のように構成される。次に、この製造装置10により、焼入れ鋼材を製造する状況を説明する。
はじめに、送り装置11である第1の産業用ロボット19を動作させることによって、第1の端部16aの内部に把持部材17が挿設された鋼管16を、第1の端部16aを先頭としてその長手方向へ送る。
【0077】
次に、以下に列記する動作を行う。
(1)送られる鋼管16を第1の支持機構14−1により移動自在に支持する。
(2)送られる鋼管16を、加熱機構12により焼入れ可能温度域に加熱した後に、水冷機構13の冷却水噴射ノズル13aから外面16cに冷却水13bを吹き付けることにより鋼管16を冷却する。この際、誘導加熱コイル支持ロボット20は停止させた状態としておけばよい。
【0078】
(3)第2の産業用ロボット23を動作させることによって、送られる鋼管16を支持する第2の支持機構14−2の位置を、三次元または二次元で変更することにより、加熱機構12と冷却機構13との間の鋼管16に形成される高温部16dに、曲げモーメントを与える。
【0079】
送られる鋼管16の第1の端部16aの内部に挿設された把持部材17の位置を、第3の産業用ロボット22を動作させることにより、鋼管16の曲げ形状を変形させないように移動させる。
【0080】
この製造装置10では、制御装置15によって、全稼働時間において上述した内容が判断され、これに基づいて、制御信号が出力されるので、鋼管16のみならず加熱コイル12aの溶損を確実に防止することによる火災の発生防止が図られるので、曲げ部材を安全かつ効率的に量産することが可能になる。
【0081】
また、製造装置10では、制御装置15によって、誘導加熱コイル12aの加熱出力の低下、鋼管16の送り速度低下または停止、鋼管16の前端部または後端部に設けられた把持部材17、18の作動不良、または、鋼管16の所定位置への不在席の場合に、全停止信号が出力されるので、鋼管16を誘導加熱していない状況で曲げ加工が実施されること、鋼管16の送りが不良(低速、または、停止状況)である時における鋼管16の溶損、把持部材17、18のチャッキング不十分な状況での曲げ加工の実施、さらには、鋼管16の所定位置への不在席により衝突破損が、いずれも防止される。
【0082】
このようにして、本発明により所定の屈曲形状を有する焼入れ部材である曲げ部材を、安全に製造することができる。
この本発明により製造される曲げ部材は、例えば、以下に例示する用途(i)〜(vii)に対して適用可能である。
【0083】
(i)自動車のサスペンションのロアーアームやブレーキペダルといった自動車の強度部材、
(ii)自動車の各種レインフォース、ブレース等の補強部材、
(iii)バンパー、ドアインパクトビーム、サイドメンバー、サスペンションマウントメンバー、ピラー、サイドシル等の自動車の構造部材、
(iv)自転車や自動二輪車等のフレーム、クランク
(v)電車等の車輛の補強部材、台車部品(台車枠、各種梁等)
(vi)船体等のフレーム部品、補強部材、
(vii)家電製品の強度部材、補強部材または構造部材
【符号の説明】
【0084】
0 曲げ加工装置
1 鋼管
2 支持機構
3 送り機構
4 可動ローラーダイス
4a ロール
5 加熱機構
6 冷却機構
7 支持機構
8 曲げ部材
10 本発明に係る曲げ部材の製造装置
11 送り機構
12 金属材加熱機構
12a 高周波誘導加熱コイル
12b コイル冷却機構
12c コイル冷却水循環タンク
12d コイル冷却水送り管
12e コイル冷却水戻り管
13 金属材冷却機構
13a 冷却水噴射ノズル
13b 冷却水
13c 冷却水供給管
13d 冷却水供給タンク
14 金属材支持機構
14−1 第1の支持機構
14−2 第2の支持機構
15 制御機構
16 鋼管
16a 第1の端部
16b 第2の端部
16c 外面
16d 高温部
17、18把持部材
17a、18a 大径部
19 第1の産業用ロボット
20 誘導加熱コイル支持ロボット
21 第2の産業用ロボット
22 第3の産業用ロボット
23 上腕
24 前腕
25、26 ロール
27 ダイス
28 支持台
29 ロール
30 可動ローラーダイス
31 グリッパー
32 変形抑制機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記金属材加熱機構、金属材冷却機構、金属材支持機構および制御機構を備えることを特徴とする曲げ部材の製造装置;
金属材加熱機構:長手方向へ送られる金属材の外周面から離間して配置され、該金属材の一方の端部の側から他方の端部の側へ向けて該金属材を加熱する誘導加熱コイルと、該誘導加熱コイルを冷却するコイル冷却機構とを備える、
金属材冷却機構:前記金属材加熱機構により加熱された金属材の高温部の外面に冷却媒体を吹き付けることによって、前記金属材の軸方向の一部に、該金属材の軸方向へ向けて移動する高温部を形成する、
金属材支持機構:前記高温部を境として前記金属材の軸方向の両側に位置する第1の部分および第2の部分を支持するとともに、該第1の部分および第2の部分のうちの一方または双方の位置が二次元または三次元で変更自在に構成される、
制御機構;一の金属材の曲げ加工時に、(a)前記金属材加熱機構、前記金属材冷却機構および前記金属材支持機構の全てに停止信号を直ちに出力する全停止、(b)前記金属材加熱機構、前記金属材冷却機構および前記金属材支持機構の全てに停止信号を、前記一の金属材に対する曲げ加工が終了した時に出力する送り完了後停止、および、(c)前記コイル冷却機構に起動信号を出力し続けながら警報信号を出力する警報出力のうちのいずれか一の動作を選択し、選択した動作を実行する信号を出力する。
【請求項2】
さらに、前記金属材をその長手方向へ送る送り装置を備える請求項1に記載された曲げ部材の製造装置。
【請求項3】
金属材支持機構は、前記金属材をその長手方向へ送る機能を有する請求項1に記載された曲げ部材の製造装置。
【請求項4】
前記全停止は、高周波盤冷却水の流量低下、高周波変成器冷却水の流量低下、コイルリード冷却水の流量低下、加熱コイル冷却水の流量低下、コイル冷却水(戻り)温度計の温度高、コイル冷却水の圧力低下、コイル冷却水タンクの水量レベル低下の場合に選択される請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された曲げ部材の製造装置。
【請求項5】
前記送り完了後停止は、冷却水温度計の温度高の場合とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された曲げ部材の製造装置。
【請求項6】
前記警報出力は、コイル冷却水タンクの水量レベル上昇、冷却水タンクの水量レベル低下、または、冷却水タンクの水量レベル上昇の場合に選択される請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された曲げ部材の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−240087(P2012−240087A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112669(P2011−112669)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】