説明

最適化された騒音抑制部が設けられた内接ギヤポンプ

【課題】内接ギヤポンプの寸法を増加させないで、キャビテーションやノイズの抑制を行う。
【解決手段】ハウジング2内の、一対のギヤとしての、駆動されるポンプギヤおよび中空ギヤにより流体を供給するための内接ギヤポンプ1であって、ポンプギヤおよび中空ギヤは、ある領域で互いに噛み合って、シール領域を形成しているような内接ギヤポンプが提案される。シール領域に略対向するように存在する間隙空間をシールするための、断面において略三日月形状の部材5が設けられており、部材の第1端部12は、低圧力領域に割り当てられ、部材の第2端部13は、高圧力領域に割り当てられている。本発明によれば、部材の2つの端部は、異なる形状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求の範囲の請求項1の上位概念部分により詳しく規定されたタイプに従う、流体を供給するための内接ギヤポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
内接ギヤポンプは、主に、ハウジングから構成されており、一対のギヤが、できるだけ小さい軸方向および半径方向の遊びを伴って噛み合い状態にあり、流体、例えば、好ましくはギヤ装置用の圧力媒体等、を供給するようになっている。ここで、内接ギヤポンプの吸引側ないし低圧力側が液体容器に接続されているとともに、圧力側ないし高圧力側が、供給対象である油圧システムに接続されている。一対のギヤは、内側のロータギヤおよび中空ギヤによって形成されている。内側のロータギヤは、例えばモータにより駆動され、その際に、ロータギヤは、噛み合い状態にある噛み合い歯により、外側の中空ギヤと連れ回る(連動して回転する)。このような回転運動によって、各ギヤ(の歯)が互いに離れる方向に移動し、歯と歯の間の隙間が再び自由となる。このことにより生じる負圧と追加の大気圧とが、流体容器の液面上にもたらされる。これにより、液体が吸引される。吸引された流体は、ギヤの歯と歯の間の隙間を通るように形成された空間を充填する。この空間は、更なる動作において、ハウジング及び三日月形状部と共に、毎回閉塞された充填空間を形成する。この際、圧力側に更に移動される。そこで、一対のギヤの歯は、再び互いの中に再び捕らえられて、充填空間から流体を排出する。互いに噛み合うギヤの歯は、圧力側から吸引側への流体の逆流を阻止する。更に、高圧力領域は、三日月形状部においてシール作用を有するギヤの歯により、低圧力領域から分離される。
【0003】
例えば、DE 34 48 252 C2により、油圧流体のための内接ギヤポンプが知られている。そこでは、交差する(schreidenden)歯先円を有する噛み合い歯が用いられており、噛み合い歯の各歯のシール面の平面接触が保証されている。さらに、歯先円の交差点間の自由空間内に、分離三日月形状部が配置されている。この分離三日月形状部は、公知の内接ギヤポンプに設けられていて、両方の端部領域が同じ形状となっており、すなわち、対称形状の分離三日月形状部が形成されている。
【0004】
上述のような内接ギヤポンプの問題点は、キャビテーションの発生である。この問題は、入込領域を拡大することによって、充満の条件および時間的な条件を改善することによって、及び/または、追加のポンプ入口を設けることよって、解決することができる。しかし、上述のような方法によれば、特に自動変速機においては、当該方法の結果として生じる必要設置空間および製造コストの増加により、欠点が生み出される。さらに、内接ギヤポンプが組み込まれることによって、変速機システムの更なる制限が生み出されてしまう。この制限は、ポンプの構造にも影響を与える。そして、内接ギヤポンプの寸法を増加させないで、キャビテーションやノイズの抑制に関して内接ギヤポンプを最適化することは困難である。
【発明の概要】
【0005】
このため、本発明の課題は、必要な設置空間を増加させることなく、不所望のノイズが抑制されるような、冒頭に述べたタイプの内接ギヤポンプを提供することである。
【0006】
前記課題は、特許請求の範囲の請求項1の特徴によって解決される。更なる有利な実施の形態が、従属請求項および図面より明らかにされる。
【0007】
本発明は、このような課題に基づいており、当該課題は、ハウジング内の、駆動されるポンプギヤないしロータギヤ、ならびに中空ギヤにより流体を供給するための内接ギヤポンプであって、ポンプギヤおよび中空ギヤが、ある領域で互いに噛み合って、シール領域を形成するような内接ギヤポンプにより解決される。さらに、シール領域に略対向するように存在する間隙空間をシールするための、断面において略三日月形状(sichelformigen)の部材等が少なくとも設けられており、この部材の第1端部は、低圧力領域に割り当てられ、この部材の第2端部は、高圧力領域に割り当てられている。本発明は、前記部材の2つの端部が、異なる形状に形成されていることを特徴としている。
【0008】
略三日月形状の部材の両端部の形状が異なっていることにより、低圧力領域ないし吸引側の充満、および、高圧力領域ないし圧力側の流出、を十分に改善することができ、従って、本発明による内接ギヤポンプでは、キャビテーションおよびそれに関連するノイズの発生が、防止または少なくとも減少される。略三日月形状の部材の両端部の形状が異なっていることにより、キャビテーションの開始が、より高い回転数の方にずれる。
【0009】
本発明の有利な実施形態によれば、略三日月形状の部材等の低圧力領域側の端部において、入込領域が次のように修正される。すなわち、充填空間の充満が十分に改善され、より高いポンプの回転数の際に充填空間の充満を完全にかつ可能な限り速く行うことが保証されるよう、入込領域が修正される。
【0010】
好ましくは、このような改善において、少なくとも1つの、接線方向の入込領域を設けることができる。例えば、入込領域は、略三日月形状の部材の内側半径の接線方向に連続するように延びていてもよい。このような延びにより、特に良好な流体の流れ状態が可能となることがわかる。このようにして、流体の流れにおける乱流(の発生)が抑制される。入込領域の延びは、ポンプ配置の変化による影響を受けて、変化され得る。
【0011】
あるいは、追加的に、(略三日月形状の)部材の低圧力領域の側の端部に、例えば軸方向に延びる少なくとも1つの充填チャンネル等が設けられていてもよい。このことにより、特に回転数が高い場合に、発生する吸引抵抗に基づく圧力の低下が、軸方向に延びている充填チャンネルにより防止される。例えば、これらの充填チャンネルのうちの第1の充填チャンネルは、前記部材に対して半径方向における内側に配置され得る。また、好ましくは、これらの充填チャンネルのうちの第2の充填チャンネルは、前記部材に対して半径方向における外側に配置され得る。複数の充填チャンネルの配置は、これと異なるという可能性も考えられる。
【0012】
充填チャンネルの軸方向の延びは、予め設定された角度とすることができる。この際、できるだけ乱流が生じないように流体の流入が行われるよう、当該角度が選択される。
【0013】
本発明による内接ギヤポンプにおける圧力側ないし高圧力領域の変更ないし修正により、圧力調整を迅速に行うことができる。また、このような措置により、キャビテーションおよびそれに関連するノイズの発生が、提案されたポンプにおいて防止または少なくとも減少され得る。
【0014】
例えば、(略三日月形状の)部材の高圧力領域の側の端部に、少なくとも1つの、軸方向に延びる傾斜面部等を出口領域として設けることができる。このような傾斜面部は、好ましくは、予め設定された角度で、例えばハウジング内で軸方向に、連続的な延びを有し、ている。もっとも、非連続的な延び等が用いられる場合もある。
【0015】
本発明の好適な実施形態においては、例えば、傾斜面部の寸法に関して、ロータギヤにおける2つ分の充填空間の幅にほぼ等しい長さが特に有利である、ということが示される。しかし、傾斜面部の長さないし寸法は、これと異なる可能性もある。ここで、内接ギヤポンプの特徴である傾斜面部の寸法が考慮されることが好ましい。例えば、内接ギヤポンプのロータギヤおよび/または中空ギヤにおけるシールを行う歯の数が考慮され得る。
【0016】
内接ギヤポンプの略三日月形状の部材について提案された修正は、充填および低減されたキャビテーションの両方を改善し、この際に、バランスのとれた流体の性質が保たれる。各々の提案された措置は、キャビテーションやノイズの発生に関して、内接ギヤポンプそれ自体について最適化を行う。前記部材の両端部の形状の変化は、入口(入込)圧力、出口圧力、流体温度および/またはポンプ回転数の各々に基づいて選択され得る。また、本発明による措置によって、内接ギヤポンプのより高い回転数領域における仕事容量が増加する。さらに、出口領域における圧力傾斜を減少させることができ、このため、内接ギヤポンプの十分なノイズ低減が達成される。
【0017】
本発明に従って構成された内接ギヤポンプは、従来技術から知られた内接ギヤポンプと比較して、高い回転数の範囲内でより小さなノイズの発生で、ないし、対向するより高い目標回転数において同一ないし少なくとも類似の大きさのノイズの発生で、動作され得る。三日月形状の部材、入込領域および出口領域の本発明による形状により、内接ギヤポンプは、ポンプ回転数が低い場合と高い場合の両方で、最小限の流体容量損失に関連する最小限のノイズで、動作され得る。
【0018】
本発明を、図面に基づいて更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による内接ギヤポンプにおける、ポンプギヤおよび中空ギヤが設けられていないときの、ハウジングの内部の部分斜視図である。
【図2】図1に示す三日月形状の部材の、低圧力側の端部の斜視図である。
【図3】ポンプギヤおよび中空ギヤが設けられたときの、三日月形状の部材の低圧力側の端部の断面図である。
【図4】三日月形状の部材の高圧力側の端部を側方から見た斜視図である。
【図5】ポンプギヤおよび中空ギヤが設けられたときの、三日月形状の部材の高圧力側の端部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1〜図5に、本発明による内接ギヤポンプ1のある実施の形態の様々な部分斜視図が示されている。例えば、内接ギヤポンプ1は、車両の自動変速機に使用することができ、回転している軸の駆動トルクの形態の機械的な力を油圧力に変換するようになっている。このような態様により、例えばオイル(油)のような流体の場合、予め設定された、より高い圧力レベルを得ることができる。例示的に示された内接ギヤポンプ1においては、ポンプギヤ3が時計回りとは逆の方向に回転するよう配置される。このため、図面において、内接ギヤポンプ1の低圧力側ないし吸引側は右側に、高圧力領域ないし圧力側は左側に、配置されている。
【0021】
内接ギヤポンプ1は、ハウジング2を含んでおり、その中に、駆動軸を介して駆動されるポンプギヤ3および中空ギヤ4が軸支(軸受)されている。ポンプギヤ3および中空ギヤ4は、ある領域で互いに噛み合って、シール領域を形成している。ポンプギヤ3および中空ギヤ4の各噛み合い歯の各歯先円の交点の間にある、前記シール領域に対向するように存在する間隙空間が、断面において略三日月形状の部材5によりシールされている。
【0022】
前記部材5の第1端部12は、内接ギヤポンプ1の低圧力領域ないし吸引側に割り当てられている。前記部材5の第2端部13は、内接ギヤポンプ1の高圧力領域ないし圧力側に割り当てられている。
【0023】
本発明によれば、三日月形状の部材5の2つの端部12、13は、異なる形状に形成されている。このような内接ギヤポンプ1によれば、必要な設置空間を増加させることなく、キャビテーションおよびそれにより生じるノイズ発生を回避することができる。
【0024】
特に図1および図2から明らかなように、前記部材5の低圧力領域の側の端部12に、略接線方向の入込領域6が設けられ得る。この入込領域6は、特に図3から明らかなように、三日月形状の部材5の内側半径に(連続するように)延びるように構成されている。このような、入込領域6としての半月形状、三日月形状の入込(入口)側チャンネルにより、流れている流体の流れ特性が改善され得る。それによって、充満を改善するとともに乱流を減少ないし回避することができる。
【0025】
本発明による更なる措置は、前記部材5の低圧力領域の側の端部12に、第1の充填チャンネル7が前記部材5に対して半径方向における内側に配置され、また、第2の充填チャンネル8が前記部材5に対して半径方向における外側に配置されることによって達成される。2つの充填チャンネル7、8は、軸方向に対して斜めに、ないし予め設定された角度で、延びている。このことにより、内接ギヤポンプ1のポンプギヤ3および中空ギヤ4の各充填空間9、10における充填がさらに最適化される。充填チャンネル7、8の各々の長さは、内接ギヤポンプ1の特徴および使用される流体の特性に適合すべきである。
【0026】
本発明による更に他の措置は、特に図3〜図5に示されている。特に前記部材5の高圧力領域の側(内接ギヤポンプ1の圧力側)の端部13の部分斜視図が示されている。前記部材5の高圧力領域の側の端部13に、少なくとも1つの、軸方向に傾けられた傾斜面部11が出口領域として設けられている。傾斜面部11、ないし、上述のような面は、予め設定された角度αでの連続的な延びを示す。このことは、特に図4に示されている。傾斜面部11の長さは、2つの充填空間9、10の幅にほぼ等しい。
【0027】
出口領域として半月形状または三日月形状の出口側チャンネルが設けられている。これにより、流出する流体の特性が改善され、圧力勾配が低減される。このことにより、内接ギヤポンプ1における運転ノイズが低減され得る。また、より高い回転数の際の内接ギヤポンプ1の効率が、改善され得る。
【符号の説明】
【0028】
1 内接ギヤポンプ
2 ハウジング
3 ポンプギヤ
4 中空ギヤ
5 三日月形状の部材
6 入込領域
7 第1の充填チャンネル
8 第2の充填チャンネル
9 ポンプギヤの充填空間
10 中空ギヤの充填空間
11 傾斜面部
12 部材の低圧力領域の側の第1の端部
13 部材の高圧力領域の側の第2の端部
α 傾斜面部の角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(2)内の、駆動されるポンプギヤ(3)および中空ギヤ(4)により流体を供給するための内接ギヤポンプ(1)であって、
前記ポンプギヤ(3)および前記中空ギヤ(4)は、ある領域で互いに噛み合って、シール領域を形成しており、
前記シール領域に略対向するように存在する間隙空間をシールするための、断面において略三日月形状(sichelformigen)の部材(5)を備えており、
前記部材(5)の第1端部(12)は、低圧力領域に割り当てられ、
前記部材(5)の第2端部(13)は、高圧力領域に割り当てられ、
前記部材(5)の前記2つの端部(12、13)は、異なる形状に形成されている
ことを特徴とする内接ギヤポンプ(1)。
【請求項2】
前記部材(5)の前記低圧力領域の側の端部(12)に、少なくとも1つの、接線方向の入込領域(6)が設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の内接ギヤポンプ(1)。
【請求項3】
前記入込領域(6)は、前記部材(5)の内側半径の接線方向に連続するように延びている
ことを特徴とする請求項2記載の内接ギヤポンプ(1)。
【請求項4】
前記部材(5)の前記低圧力領域の側の端部(12)に、軸方向に対して予め設定された角度に延びる少なくとも1つの充填チャンネル(7、8)が配置されている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の内接ギヤポンプ(1)。
【請求項5】
前記充填チャンネル(7、8)のうちの第1の充填チャンネル(7)は、前記部材(5)に対して半径方向における内側に配置されている
ことを特徴とする請求項4記載の内接ギヤポンプ(1)。
【請求項6】
前記充填チャンネル(7、8)のうちの第2の充填チャンネル(8)は、前記部材(5)に対して半径方向における外側に配置されている
ことを特徴とする請求項4または5記載の内接ギヤポンプ(1)。
【請求項7】
前記部材(5)の前記高圧力領域の側の端部(13)に、少なくとも1つの、軸方向に延びる傾斜面部(11)が出口領域として設けられている
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の内接ギヤポンプ(1)。
【請求項8】
前記傾斜面部(11)は、ハウジング(2)の内部で、予め設定された角度(α)で軸方向に連続的に延びている
ことを特徴とする請求項7記載の内接ギヤポンプ(1)。
【請求項9】
前記傾斜面部(11)の長さは、ポンプギヤ(3)における約2つ分の充填空間(9)の幅にほぼ等しい
ことを特徴とする請求項7または8記載の内接ギヤポンプ(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−138905(P2010−138905A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279548(P2009−279548)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(592179300)ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト (56)
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】