説明

有害ガス難発生敷物

【課題】本発明は、難燃性及び耐火性はもとより耐炎性及び有害ガス難発生性である敷物の提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係る有害ガス難発生敷物Aは、バッキング材層10と表皮材層20とを接着材層30を介して接着してなり、前記バッキング材層10が酸化アクリル繊維30〜80重量%とポリエステル系繊維20〜70重量%とを含有する繊維よりなる不織繊維集合体であり、接着材層30が、ポリエステル繊維からなるメッシュ地31を内在させた非晶性オレフィン重合体組成物32よりなる有害ガス難発生素材よりなり、表皮材層20が、ポリエステル繊維製不織布よりなる一次基布21の表面に羊毛100%のパイル糸によりパイル22が形成され、その裏面に糸抜け防止のために非晶性オレフィン重合体組成物よりなる接着剤23が塗布され、表面に液状不燃剤が付着している敷物生機よりなる有害ガス難発生素材である有害ガス難発生敷物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、敷物に関し、特に耐炎性であって難燃性であり、かつ、加熱されても有害ガスが発生しにくい有害ガス難発生敷物に関する。なお、本発明での有害ガス難発生敷物とは、発煙性・燃焼毒性試験の試験方法で認定された敷物をいう。
【背景技術】
【0002】
火災発生による被害を極力減少させるために、家屋、家具、敷物などに難燃性及び耐火性の素材が使用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、火災により家屋、家具、敷物などが加熱されることによって有害ガスが発生し、この有害ガスを吸い込んでしまったために火災現場から逃げ出すことができなくなり、このようなことに起因して死傷するなどの人的被害が多発している。そのため、有害ガスが発生しない難燃耐火性の素材を使用することが望まれている。特に、船舶などの逃げ場のない場所で火災が発生した場合には、死傷者が多数発生する大災害に発展し、深刻な事態に陥るため、難燃性及び耐火性はもとより耐炎性及び有害ガス発生について厳しい基準が設けられている。
【0004】
そこで、本発明者は、難燃性及び耐火性はもとより耐炎性に優れ、有害ガスが発生しにくい敷物を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る有害ガス難発生敷物は、バッキング材層と表皮材層とを接着材層を介して接着してなり、前記バッキング材層が酸化アクリル繊維及びカーボン繊維のいずれか一方又は双方混合の繊維にポリエステル系繊維及びアラミド繊維のいずれか一方又は双方混合の繊維を混合した不織繊維集合体よりなり、前記接着材層がポリエステル繊維布及びガラス繊維布から選択される一層又は複数層の布地を内在させた非晶性オレフィン重合体組成物よりなり、前記表皮材層がポリエステル繊維製不織布よりなる一次基布の表面に羊毛100%のパイル糸によりパイルを形成し、その裏面に糸抜け防止のための非晶性オレフィン重合体組成物よりなる接着剤を塗布し、該表皮材層の表面に液状不燃材を付着させてなることを特徴とするものである。
【0006】
上記のように構成すると、素材全体が有害ガスが発生し難い材質のものであり、難燃性及び耐火性はもとより耐炎性を備えるものとなる。
【0007】
また、バッキング材層にポリエステル系繊維及びアラミド繊維のいずれか一方又は双方混合の繊維が含有するため、熱セット性が向上し、高密度となるのでバッキング材としての強度が高まる。
【0008】
さらに、接着材層がポリエステル繊維布及びガラス繊維布から選択される一層又は複数層の布地を内在させた非晶性オレフィン重合体組成物よりなるため、接着性が良好であり、寸法安定性が高く、耐久性が増大する。
【0009】
さらにまた、表皮材層が、ポリエステル繊維製不織布よりなる一次基布の表面に羊毛100%のパイル糸によりパイルを形成し、その裏面に糸抜け防止のための接着剤を塗布してなるため、クッション性豊かな表皮材層が得られ、かつ、表皮材層全体が、強固に一体化されているので、糸抜けや破断が生じにくい。
【0010】
また、表皮材層の表面に液状不燃剤を付着させてなるため、さらに不燃性が向上し、難燃性、耐火性及び耐炎性がより一層向上する。
【0011】
なお、本発明に係る有害ガス難発生敷物の製造方法は、下記の工程A〜Cにより製造される。
【0012】
A.酸化アクリル繊維及びカーボン繊維のいずれか一方又は双方混合の繊維にポリエステル系繊維及びアラミド繊維のいずれか一方又は双方混合の繊維を混合して絡合させた不織繊維集合体よりなるバッキング材を形成する。したがって、バッキング材を構成する繊維の種類としては、酸化アクリル繊維+ポリエステル系繊維、酸化アクリル繊維+アラミド繊維、カーボン繊維+ポリエステル系繊維、カーボン繊維+アラミド繊維、酸化アクリル繊維+カーボン繊維+ポリエステル系繊維、酸化アクリル繊維+カーボン繊維+アラミド繊維、酸化アクリル繊維+ポリエステル系繊維+アラミド繊維、カーボン繊維+ポリエステル系繊維+アラミド繊維、酸化アクリル繊維+カーボン繊維+ポリエステル系繊維+アラミド繊維のいずれかの組み合わせとなる。
【0013】
B.ポリエステル繊維製不織布を一次基布とし、該一次基布の表面に羊毛100%のパイル糸によりパイルを形成し、その裏面に糸抜け防止のために非晶性オレフィン重合体組成物よりなる接着剤を塗布し、パイル面に液状不燃剤を付着させてなる表皮材を形成する。
【0014】
C.上記バッキング材に非晶性オレフィン重合体組成物のペースト状体をコーティングしてポリエステル繊維布及びガラス繊維布から選択される一層又は複数層の布地を重ね合わせ、これを加熱して非晶性オレフィン重合体組成物のペースト状体を溶融し、その上に上記表皮材を重ね合わせ、これを加圧後、加熱して形状及び寸法を安定させ、これを加圧後、冷却することにより溶融した非晶性オレフィン重合体組成物のペースト状体を固化させてバッキング材と表皮材とを接着し、これを所定のサイズに裁断する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、難燃性及び耐火性を有することはもとより十分な耐炎性を有しており、かつ、有害ガスが発生し難い敷物の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施例を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は本実施例に係る敷物の一部切欠斜視図であり、図2は、本実施例に係る敷物の概略断面図であり、図3は、本実施例に係る敷物の製造工程を示す概略図である。
【0018】
図1及び図2において、Aは本実施例に係る敷物を示し、敷物Aはバッキング材層10と表皮材層20とを接着材層30を介して接着して構成されている。
【0019】
上記バッキング材層10は、酸化アクリル繊維とポリエステル系繊維(熱接着性繊維を含む)とからなる不織繊維集合体である。
【0020】
上記バッキング材層10に使用する酸化アクリル繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)系の前駆体繊維(プリカーサ)を酸化性雰囲気中で加熱処理して得られるものである。この酸化アクリル繊維を使用すると発火してもバッキング材自体の燃焼・溶融による損傷が軽微である。しかも、酸化アクリル繊維が適度な強度と伸度とを備えているため、製造工程において不織繊維集合体を形成することができる。
【0021】
本実施例における不織繊維集合体は、熱セット性を高めるために、上記酸化アクリル繊維にポリエステル系繊維を混綿したものを使用している。このようにすると、製造工程において、ニードリングの後工程で加熱後、加圧冷却することで熱セット性がポリエステル系繊維の収縮交絡により向上するため、プレス後の密度を高く維持し、寸法安定性と共に難燃性を高めることができる。前記の酸化アクリル繊維だけでは剛性が十分でないため、単独では高い密度状態に維持することが難しく、高い剛性を有するポリエステル系繊維を混綿することにより不織繊維集合体が所要の密度に保持され、バッキング材としての優れた性能を果たす。このように、ポリエステル系繊維(熱接着性繊維を含む)を使用すると十分な熱セット性を得ることができると共に比較的高い耐熱性を有することから、バッキング材の耐熱性を損なう不都合を回避し、耐熱温度150℃〜200℃といった比較的高い耐熱性を有するバッキング材を得ることができる。なお、本実施例において酸化アクリル繊維に混綿する繊維としてポリエステル系繊維を採用しているが、これに代えてアラミド繊維を使用してもよい。
【0022】
上記酸化アクリル繊維とポリエステル系繊維との配合割合は、望ましくは重量比で、酸化アクリル繊維を30〜80%、ポリエステル系繊維を20〜70%とするのがよい。この程度にポリエステル系繊維の配合比率を抑えると、耐炎性をさほど低下させることなく熱セット性を格段に向上させたバッキング材を得ることができる。
【0023】
上記のようなバッキング材を使用して敷物Aのバッキング材層10を構成すれば、高い難燃性・耐炎性を有しているので、直接火炎に曝されても有害なガスが発生せず、かつ、瞬時に自己消火して燃え上がるようなことがなく、燃えないので、発火を起こしてもバッキング材自体の燃焼・溶融による損傷が軽微で済む。
【0024】
接着材層30は、ポリエステル繊維のマルチフィラメント糸からなるメッシュ地31を内在させた非晶性オレフィン重合体組成物32よりなる有害ガス難発生素材から構成される。非晶性オレフィン重合体組成物は、その燃焼時に有毒ガスの発生が少ない接着材料であり、非晶性オレフィン重合体と共に副ポリマーとしての結晶性ポリプロピレンや粘着付与剤、溶融粘度低下剤、および充填剤を含ませた組成物が好ましく、また、難燃剤や着色剤等の各種添加剤を必要に応じて配合してもよい。非晶性オレフィン重合体としては、APAO(アモルファスポリオレフィン)、APP(アモルファスポリプロピレン)、非晶性ブテン重合体等が例示される。また重合体組成物中には、主ポリマーの非晶性オレフィン重合体と共に、副ポリマーとしての結晶性ポリプロピレンのようなハロゲン元素をもたない他の樹脂成分を含ませることができる。また前記副ポリマーに加えて脂肪族系石油樹脂の如き粘着付与剤、ワックスの如き溶融粘度低下剤、各種の充填剤、各種の難燃剤等の種々の添加剤を必要に応じ混入してもよい。
【0025】
前記接着剤層30に内在する前記ポリエステル繊維は、引張強度が高くかつ伸び難い特性を有することから、強度が高く寸法安定性に優れた敷物Aを得ることができる。
【0026】
また、上記のメッシュ地31として、ポリエステル繊維のマルチフィラメント糸からなる平織を使用することで、縦横のいずれに対しても、高い強度と寸法安定性が得られる。
【0027】
なお、本実施例においては、接着剤層30にポリエステル繊維のマルチフィラメント糸からなるメッシュ地31を内在させているが、これに限られるものではなく、ポリエステル繊維布及びガラス繊維布から選択される一層又は複数層の布地を内在させて接着剤層を構成してもよい。
【0028】
以上のように敷物Aの接着材層を構成すると、非晶性オレフィン重合体組成物32により接着性が良好であり、ポリエステル繊維のマルチフィラメント糸から構成されるメッシュ地31により引張強度が大きく、寸法安定性の良い、耐久性が増大した敷物Aが得られる。
【0029】
表皮材層20は、ポリエステル繊維製不織布よりなる一次基布21の表面に羊毛100%のパイル糸によりパイル22が形成され、その裏面に糸抜け防止のために非晶性オレフィン重合体組成物よりなる接着剤23が塗布された有害ガス難発生素材よりなる敷物生機である。この表皮材層20の表面には、液状不燃剤がスプレーにより付着されている。
【0030】
以上のように、敷物Aの表皮材層20を構成すると、クッション性豊かな表皮材層が得られ、かつ、表皮材層全体が、強固に一体化されているので、糸抜けや破断が生じず、また、より一層不燃性が向上し、難燃性、耐火性及び耐炎性が向上する。
【0031】
次に、上記のように構成したバッキング材層10及び表皮材層20を接着材層30を介して接着して本実施例の敷物Aを製造する工程について説明する。
【0032】
まず、ポリエステル繊維製不織布よりなる一次基布21の表面に羊毛100%のパイル糸によりパイル22が形成され、その裏面に糸抜け防止のために非晶性オレフィン重合体組成物よりなる接着剤23が塗布され、表面には液状不燃剤が付着されている表皮材20を用意しておく。
【0033】
そして、上述した酸化アクリル繊維30〜80重量%とポリエステル繊維20〜70重量%とからなる長尺状の不織繊維集合体からなるバッキング材10を、ベルトコンベアー上に載せ、図の左から右方向に一定速度で搬送する。
【0034】
次に非晶性オレフィン重合体組成物32のペースト状体を、ベルトコンベアー上の上記バッキング材10にコーティングしてドクターナイフで一定量に均す。この一定量に均された非晶性オレフィン重合体組成物32のペースト状体上に、ポリエステル繊維からなるメッシュ地31を重ね合わせ、加熱装置を用いてバッキング材10にコーティングされた非晶性オレフィン重合体組成物32のペースト状体を加熱溶融させる。なお、ポリエステル繊維のマルチフィラメント糸からなるメッシュ地31に代えて、ポリエステル繊維布及びガラス繊維布から選択される一層又は複数層の布地を使用してもよい。
【0035】
この加熱溶融した非晶性オレフィン重合体組成物32上に、先に用意した前記表皮材20を重ね合わせながら加圧ロールで加圧する。
【0036】
その後、この重合物をドライヤー装置に通して加熱することにより寸法を安定させ、ドライヤー装置内で再度加圧ロールで加圧し、冷却装置により冷風冷却し、冷却ロールで溶融した非晶性オレフィン重合体組成物32のペースト状体を固化する。また、必要に応じて裁断機でタイル敷物サイズに裁断する。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る有害ガス難発生敷物は、難燃性、耐火性及び耐炎性に優れているので、一般家庭において火を扱う場所、発火が生じる工場内はもちろん、船舶、航空機、自動車等の防火に対する基準が厳しい乗り物に適している。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例に係る敷物の一部切欠斜視図である。
【図2】本発明の実施例に係る敷物の概略断面図である。
【符号の説明】
【0039】
A・・・敷物
10・・バッキング材層
20・・表皮材層
21・・一次基布
22・・パイル
23・・接着剤
30・・接着材層
31・・メッシュ地
32・・非晶性オレフィン重合体組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッキング材層と表皮材層とを接着材層を介して接着してなり、
前記バッキング材層が酸化アクリル繊維及びカーボン繊維のいずれか一方又は双方混合の繊維にポリエステル系繊維及びアラミド繊維のいずれか一方又は双方混合の繊維を混合した不織繊維集合体よりなり、
前記接着材層がポリエステル繊維布及びガラス繊維布から選択される一層又は複数層の布地を内在させた非晶性オレフィン重合体組成物よりなり、
前記表皮材層がポリエステル繊維製不織布よりなる一次基布の表面に羊毛100%のパイル糸によりパイルを形成し、その裏面に糸抜け防止のための非晶性オレフィン重合体組成物よりなる接着剤を塗布し、該表皮材層の表面に液状不燃材を付着させてなることを特徴とする有害ガス難発生敷物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−223238(P2007−223238A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49342(P2006−49342)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(592222857)吉田房織物株式会社 (5)
【Fターム(参考)】