説明

有機−無機複合物およびその製造方法

【課題】複合樹脂に対する無機材料の割合が少なくても、優れた放熱性や導電性を確保することのできる、有機−無機複合物およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】第1樹脂と、第1樹脂と相異する第2樹脂の硬化性前駆体と、無機材料と、溶剤とを配合して、混合溶液を調製し、次いで、混合溶液を加熱することにより、溶剤を除去し、硬化性前駆体を硬化して、第1樹脂からなり、三次元的に連続する第1相、および、第2樹脂からなり、三次元的に連続する第2相から形成される共連続相分離構造を有する複合樹脂と、第1相と第2相との界面に偏在する無機材料とを含有する有機−無機複合物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機−無機複合物およびその製造方法、詳しくは、放熱性材料や導電性材料として好適に用いられる有機−無機複合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッドデバイス、高輝度LEDデバイス、電磁誘導加熱デバイスなどは、大電流を動力・光・熱に変換しており、デバイスの小型化に従って、狭い領域に大電流が流れるため、単位体積当りの発熱が増大している。そのため、上記デバイスには、高い耐熱性、耐電圧性、絶縁性、熱伝導性(放熱性)または導電性を有する放熱性材料や導電性材料が要求されている。
【0003】
上記放熱性材料として、パワーエレクトロニクスに向けては、例えば、アルミナ、シリカ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、金属粒子などの熱伝導性の良好なフィラーが、樹脂材料に混入される有機−無機複合材料が知られている。
例えば、球状アルミナ粉末と、その球状アルミナ粉末よりも微粒かつ平均球形度の大きい球状シリカ粉末とを含む無機質粉末を、エポキシ樹脂組成物に充填することにより、封止材を調製することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この封止材では、大粒子の間に小粒子が埋められるので、充填率の向上により、熱伝導性の向上が図られている。
【0004】
また、上記導電性材料として、例えば、カーボンブラック、黒鉛などの導電性の良好な炭素系材料が、樹脂材料に混入される有機−無機複合材料が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−306594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、上記放熱性材料や上記導電性材料では、フィラーや炭素系材料を、樹脂材料に単に混入するため、放熱性や導電性を向上させるためには、フィラーや炭素系材料の混入割合を多くする必要がある。しかし、混入割合を多くすると、コストの増大や機械強度の低下を生じる。
また、フィラーや炭素系材料の混入割合をいくら多くしても、上記した耐熱性、耐電圧性、絶縁性、熱伝導性(放熱性)または導電性の向上を図るには限界がある。
【0007】
本発明の目的は、複合樹脂に対する無機材料の割合が少なくても、優れた放熱性や導電性を確保することのできる、有機−無機複合物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を解決するために、本発明の有機−無機複合物は、第1樹脂からなり、三次元的に連続する第1相、および、前記第1樹脂と相異する第2樹脂からなり、三次元的に連続する第2相から形成される共連続相分離構造を有する複合樹脂と、前記第1相と前記第2相との界面に偏在する無機材料とを含有することを特徴としている。
また、本発明の有機−無機複合物では、前記無機材料の表面が、化学修飾されていることが好適である。
【0009】
また、本発明の有機−無機複合物では、前記第1樹脂が、熱可塑性樹脂であり、前記第2樹脂が、熱硬化性樹脂であることが好適である。
また、本発明の有機−無機複合物では、前記熱可塑性樹脂が、ポリイミド樹脂またはアクリル樹脂であり、前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂であることが好適である。
また、本発明の有機−無機複合物の製造方法は、第1樹脂と、前記第1樹脂と相異する第2樹脂の硬化性前駆体と、無機材料と、溶剤とを配合して、混合溶液を調製する工程と、前記混合溶液を加熱することにより、前記溶剤を除去し、前記硬化性前駆体を硬化して、前記第1樹脂からなり、三次元的に連続する第1相、および、前記第2樹脂からなり、三次元的に連続する第2相から形成される共連続相分離構造を有する複合樹脂と、前記第1相と前記第2相との界面に偏在する前記無機材料とを含有する有機−無機複合物を得る工程とを備えることを特徴としている。
【0010】
また、本発明の有機−無機複合物の製造方法では、前記第1樹脂が、熱可塑性樹脂であり、前記第2樹脂が、前記熱可塑性樹脂と非相溶の熱硬化性樹脂であり、前記無機材料が、前記熱可塑性樹脂および前記熱硬化性樹脂と非相溶であり、前記有機−無機複合物を得る工程は、前記混合溶液を、前記熱可塑性樹脂が軟化する温度以上、かつ、前記硬化性前駆体が硬化する温度未満の温度に加熱することにより、前記溶剤を除去して、前記熱可塑性樹脂と前記硬化性前駆体とが相溶し、前記無機材料がそれらに分散する複合物前駆体を調製する工程と、前記複合物前駆体を、前記硬化性前駆体が硬化する温度以上の温度に加熱することにより、三次元的に連続する前記熱可塑性樹脂の第1相中で前記硬化性前駆体を架橋させて、三次元的に連続する前記熱硬化性樹脂の第2相を形成し、それと同時に前記熱可塑性樹脂および前記熱硬化性樹脂の界面に前記無機材料を偏在させる工程とを備えることが好適である。
【0011】
また、本発明の有機−無機複合物の製造方法では、前記混合溶液を調製する工程において、さらに、界面活性剤を配合することが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の有機−無機複合物およびその製造方法では、三次元的に連続する第1相と、その第1相中において三次元的に連続する第2相との界面に、無機材料が偏在化するので、三次元的に連続する無機材料のパスが形成されている。そのため、かかるパスに熱や電気を通過させることにより、効率的に放熱または導電させることができる。また、無機材料は、三次元的に連続する第1相と、三次元的に連続する第2相との界面に偏在化するので、複合樹脂に対する無機材料の割合が少なくても、無機材料が有する放熱性や導電性を効率的に発現させることができる。
【0013】
その結果、本発明の有機−無機複合物の製造方法により得られる、本発明の有機−無機複合物は、コストの増大や機械強度の低下を防止することができながら、放熱性材料や導電性材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、有機−無機複合物は、複合樹脂と、無機材料とを含有し、具体的には、第1相および第2相から形成される共連続相分離構造(二相構造)を有する複合樹脂と、第1相と第2相との界面に偏在する無機材料とを含有している。
第1相は、複合樹脂において、三次元的に連続して形成されている。
第1相を形成する樹脂(第1樹脂)としては、例えば、熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0015】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、フッ化樹脂、液晶ポリマー、オレフィン−ビニルアルコール共重合体、アイオノマー樹脂、ポリアリレート樹脂、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体などが挙げられる。好ましくは、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂が挙げられる。
【0016】
ポリイミド樹脂としては、例えば、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂などが挙げられる。好ましくは、ポリエーテルイミド樹脂が挙げられる。
アクリル樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂などが挙げられる。
【0017】
これら熱可塑性樹脂は、単独使用または2種類以上併用することができる。
このような熱可塑性樹脂のガラス転移温度(測定法:DMA(dynamic mechanical analysis)法)は、例えば、−130〜300℃、好ましくは、50〜250℃であり、また、軟化温度(測定法:TMA(thermomechanical analysis)法)は、例えば、−100〜400℃、好ましくは、80〜350℃である。
【0018】
第2相は、第1樹脂と相異する樹脂(第2樹脂)からなり、複合樹脂において、三次元的に連続して形成されている。つまり、複合樹脂は、第1相および第2相からなる共連続相分離構造を有している。そのため、第2相を形成する樹脂(第2樹脂)は、第1相を形成する樹脂(第1樹脂)と非相溶である。つまり、第2樹脂は、第1樹脂と相溶せず、これにより、第1相と第2相との境に界面が形成されている。
【0019】
第2相を形成する樹脂(第2樹脂)としては、例えば、熱硬化性樹脂が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂などが挙げられる。好ましくは、エポキシ樹脂が挙げられる。
【0020】
熱硬化性樹脂は、硬化性前駆体が三次元架橋された重合体である。硬化性前駆体は、熱硬化性樹脂の硬化前の成分からなり、例えば、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合には、例えば、エポキシオリゴマー、硬化剤、および、必要により硬化触媒を含有している。
エポキシオリゴマーとしては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂(例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂など)、ノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂などの芳香族系エポキシ樹脂、例えば、トリエポキシプロピルイソシアヌレート(トリグリシジルイソシアヌレート)、ヒダントインエポキシ樹脂などの含窒素環エポキシ樹脂、例えば、脂肪族系エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂(例えば、ジシクロ環型エポキシ樹脂など)、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂などが挙げられる。好ましくは、脂環式エポキシ樹脂、芳香族系エポキシ樹脂が挙げられる。
【0021】
このようなエポキシオリゴマーは、一般に市販されているものを用いることができ、例えば、セロキサイド2021P、EHPE−3150CE(以上、ダイセル化学社製)、jER−828、jER−1002、jER−1010(以上、ジャパンエポキシレジン社製)などが挙げられる。
また、エポキシオリゴマーの重量平均分子量は、例えば、100〜1000、好ましくは、200〜500である。
【0022】
これらエポキシオリゴマーは、単独使用または2種類以上併用することができる。
硬化剤は、例えば、酸無水物系化合物、フェノール系化合物などのエポキシ樹脂硬化剤が挙げられる。
酸無水物系化合物としては、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物などが挙げられる。
【0023】
フェノール系化合物としては、例えば、ポリビニルフェノールなどが挙げられる。
これら硬化剤は、単独使用あるいは2種類以上併用することができる。
硬化剤は、エポキシオリゴマーに対して、例えば、0.8〜1.2当量、好ましくは、0.9〜1.1当量の割合で配合される。
硬化触媒としては、例えば、塩基系化合物などの公知の硬化触媒が挙げられる。このような硬化触媒としては、例えば、イミダゾール系化合物、ジアザビシクロ系化合物などが挙げられる。
【0024】
イミダゾール系化合物としては、例えば、メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、エチルイミダゾール、フェニルイミダゾール(例えば、2−フェニルイミダゾールなど)、ウンデシルイミダゾールなどが挙げられる。
ジアザビシクロ系化合物としては、例えば、ジアザビシクロウンデセン(DBU)などが挙げられる。
【0025】
これら硬化触媒は、単独使用あるいは2種類以上併用することができる。
硬化触媒の配合割合は、エポキシオリゴマー100重量部に対して、例えば、1〜5重量部、好ましくは、2〜4重量部である。
硬化性前駆体の硬化温度は、必要により配合される硬化剤などにもよるが、例えば、60〜200℃、好ましくは、70〜180℃である。
【0026】
本発明において、無機材料としては、例えば、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂と非相溶の無機材料が挙げられ、より具体的には、例えば、炭化物、窒化物、酸化物、金属、炭素系材料などが挙げられる。
炭化物としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化タングステンなどが挙げられる。
【0027】
窒化物としては、例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化クロム、窒化タングステン、窒化マグネシウム、窒化モリブデン、窒化リチウムなどが挙げられる。
酸化物としては、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化セリウム(セリア:例えば、CeO、Ceなど)、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。さらに、酸化物として、金属イオンがドーピングされている、例えば、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズが挙げられる。
【0028】
金属としては、例えば、銅、金、ニッケル、錫、鉄、または、それらの合金が挙げられる。
炭素系材料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、ダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、ナノホーン、カーボンマイクロコイル、ナノコイルなどが挙げられる。
【0029】
そして、無機材料は、好ましくは、その表面が化学修飾されている。無機材料を化学修飾するには、無機材料の表面に、化学修飾剤(表面修飾剤)を反応させる。そのような化学修飾剤としては、例えば、無機材料の表面を疎水化するための疎水性導入化合物や、無機材料の表面を親水化するための親水性導入化合物などが挙げられる。
疎水性導入化合物は、疎水性基と、無機材料の表面に存在する水酸基などと反応する官能基とを併有する化合物であって、例えば、ヘキサン酸、デカン酸、オレイン酸などのカルボン酸、例えば、ヘキシルアミン、デシルアミンなどのアミン、例えば、アミノヘキサン酸などのアミノカルボン酸などが挙げられる。
【0030】
親水性導入化合物は、親水性基と、無機材料の表面に存在する水酸基などと反応する官能基とを併有する化合物であって、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、4−オキソ吉草酸、4−ヒドロキシフェニル酢酸、セバシン酸、5−オキソヘキサン酸、3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(4−カルボキシフェニル)プロピオン酸、7−オキソオクタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などが挙げられる。
【0031】
そして、無機材料と、化学修飾剤とを反応させるには、無機材料の塩(硝酸塩、硫酸塩など)または水酸化物と、上記した化学修飾剤とを、水中に配合する。
なお、反応条件としては、反応温度が、例えば、380〜420℃、好ましくは、390〜410℃である。また、反応圧力が、例えば、30〜50MPa、好ましくは、35〜45MPaである。また、反応時間が、例えば、5〜20分間、好ましくは、10〜15分間である。また、上記の反応には、公知の水熱合成装置などが用いられる。
【0032】
なお、各成分の配合割合は、無機粒子の塩または水酸化物100重量部に対して、化学修飾剤が、例えば、10〜5000重量部、好ましくは、200〜1000重量部である。
通常の常温常圧の条件で反応させた場合には、無機粒子が凝集し易いため、無機粒子の表面を、効率よく化学修飾しにくいのに対し、このような方法によれば、無機粒子の表面を、無機粒子が微細であるうちに、化学修飾させることができる。そのため、高分散性の微細な無機粒子を得ることができる。
【0033】
これにより、疎水性基や親水性基を導入して、無機材料の表面に疎水性または親水性を付与して、無機材料を確実に界面に偏在化させることができる。
また、無機材料は、用途および目的により、適宜選択され、例えば、本発明の有機−無機複合物を、放熱性材料として用いる場合には、耐熱性、熱伝導性が要求され、さらに必要に応じて、耐電圧性、絶縁性が要求される。そのため、この場合には、無機材料として、例えば、炭化物、窒化物、酸化物、金属から選択される。また、放熱性材料として用いる場合には、無機材料の熱伝導率は、例えば、10W/m・K以上、好ましくは、30W/m・K以上、通常、2000W/m・K以下である。また、絶縁性も併せて求められる場合、無機材料の体積抵抗率は、例えば、10Ω・cm以上、好ましくは、1012Ω・cm以上、通常、1016Ω・cm以下である。
【0034】
また、本発明の有機−無機複合物を、導電性材料として用いる場合には、耐熱性、導電性が要求される。そのため、この場合には、無機材料として、例えば、金属、炭素系材料から選択される。また、導電性材料として用いる場合には、無機材料の体積抵抗率は、例えば、10−3Ω・cm以下、好ましくは、10−4Ω・cm以下、通常、10−7Ω・cm以下である。
【0035】
また、無機材料は、好ましくは、無機粒子として形成されている。
無機粒子は、上記無機材料からなる粒子としてそのまま得ることができ、あるいは、上記無機材料を、粉砕法などの公知の方法で、粒子に成形することにより、得ることもできる。
無機粒子の平均粒子径は、例えば、3〜5000nmであり、好ましくは、10〜500nmである。
【0036】
次に、本発明の有機−無機複合物の製造方法について説明する。
まず、この方法では、熱可塑性樹脂と、硬化性前駆体と、無機材料と、溶剤とを配合して、十分に撹拌することにより、混合溶液を調製する。
溶剤としては、熱可塑性樹脂および硬化性前駆体を溶解できる溶剤であれば特に制限されず、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン(以下、MEK)などの有機溶剤が挙げられる。これら溶剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0037】
混合溶液における、各成分の配合割合は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、硬化性前駆体が、例えば、50〜400重量部、好ましくは、60〜350重量部、無機材料が、例えば、10〜2000重量部、好ましくは、100〜500重量部、溶剤が、例えば、400〜10000重量部、好ましくは、450〜8000重量部である。また、無機粒子の配合割合は、熱可塑性樹脂と硬化性前駆体と溶剤との総量100体積部に対して、例えば、3〜100体積部、好ましくは、5〜50体積部である。
【0038】
なお、混合溶液には、必要に応じて、例えば、界面活性剤や、その他、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、染料、防黴剤、難燃剤などの添加剤を添加する。
界面活性剤は、第1相と第2相との界面活性を制御するために添加され、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0039】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、カルボン酸塩、アルキル・スルフォネート、アルキル・アリル・スルフォネート、アルキル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸エステルなどが挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アミン塩、テトラアルキル第4級アンモニウム塩、トリアルキルベンジル第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルスルフォニウム塩などが挙げられる。
【0040】
両性界面活性剤としては、例えば、ベタイン、スルフォベタイン、サルフェートベタインなどが挙げられる。
ノニオン性界面活性剤として、例えば、脂肪酸モノグリセリンエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、脂肪酸ソルビタンエステル、脂肪酸蔗糖エステル、脂肪酸アルカノールアミド、脂肪酸ポリエチレングリコール縮合物、脂肪酸アミドポリエチレングリコール縮合物、アルキルフェノールポリエチレングリコール縮合物、ポリプロピレングリコールポリエチレングリコール縮合物などが挙げられる。
【0041】
これら界面活性剤は、単独使用または2種以上併用することができる。これら界面活性剤のうち、好ましくは、両性界面活性剤が挙げられる。
なお、界面活性剤の配合割合は、熱可塑性樹脂と硬化性前駆体との総量100重量部に対して、例えば、0.1〜1重量部、好ましくは、0.15〜0.8重量部である。
界面活性剤の配合割合が、上記範囲に満たない場合には、共連続相分離構造を形成しにくくなる場合があり、また、上記範囲を超える場合には、熱硬化性樹脂の第2相が、三次元的に連続する構造を形成しにくい場合がある。
【0042】
次いで、この方法では、混合溶液を加熱する。
具体的には、まず、混合溶液を加熱して、複合物前駆体を調製し、次いで、この複合物前駆体を、さらに加熱して、有機−無機複合物を得る。
より具体的には、まず、上記した配合割合にて調製した混合溶液を、熱可塑性樹脂が軟化する温度(軟化温度)以上、かつ、硬化性前駆体が硬化する温度(硬化温度)未満の温度に加熱する。
【0043】
混合溶液の加熱条件は、目的および用途によるが、加熱温度が、例えば、60〜100℃、好ましくは、70〜90℃であり、加熱時間が、15〜60分間、好ましくは、20〜40分間である。
加熱温度が、上記範囲に満たない場合には、溶剤を除去しにくく、また、熱可塑性樹脂と硬化性前駆体とが相溶しにくく、さらに、無機粒子をそれらに分散しにくくなる場合がある。また、上記範囲を超える場合には、硬化性前駆体が、硬化する場合がある。
【0044】
これにより、溶剤を除去し、熱可塑性樹脂と硬化性前駆体とを相溶させ、無機粒子をそれらに分散させる。このようにして、複合物前駆体を得ることができる。
次いで、この方法では、得られた複合物前駆体をさらに加熱し、有機−無機複合物を形成する。
具体的には、上記により得られた複合物前駆体を、硬化性前駆体が硬化する温度以上の温度に加熱する。
【0045】
複合物前駆体の加熱条件は、加熱温度が、例えば、100℃以上、好ましくは、140℃以上であって、例えば、180℃未満、好ましくは、160℃未満である。また、加熱時間が、例えば、30〜120分間、好ましくは、50〜70分間である。
加熱温度が、上記範囲に満たない場合には、硬化性前駆体が硬化しない場合があり、また、上記範囲を超える場合には、熱硬化性樹脂からなる第2相が、三次元的に連続する構造を形成しにくい場合がある。
【0046】
これにより、三次元的に連続する熱可塑性樹脂の第1相中で硬化性前駆体を架橋させて、三次元的に連続する熱硬化性樹脂の第2相を形成し、それと同時に熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂との界面に無機材料を偏在させる。
そして、このようにして、硬化性前駆体を硬化することにより、熱可塑性樹脂からなり、三次元的に連続する第1相、および、熱硬化性樹脂からなり、三次元的に連続する第2相から形成される共連続相分離構造を有する複合樹脂と、その第1相と第2相との界面に偏在する無機粒子とを含有する有機−無機複合物を得ることができる。
【0047】
具体的には、有機−無機複合物成形体を、例えば、シート(皮膜)状あるいはバルク状(塊状)の成形体として得ることができる。
このようにして得られた有機−無機複合物成形体を、放熱性材料として用いる場合には、その熱伝導率は、例えば、0.5〜50W/m・K、好ましくは、1〜30W/m・Kである。
【0048】
熱伝導率が上記範囲であれば、効率的に放熱させることができる。
また、有機−無機複合物成形体に絶縁性が要求される場合には、その体積抵抗率は、例えば、10〜1016Ω・cm、好ましくは、1012〜1016Ω・cmである。
体積抵抗率が上記範囲であれば、効率的に絶縁することができる。
また、有機−無機複合物成形体を、導電性材料として用いる場合には、その電気導電率は、例えば、10−6〜10Ω・cm、好ましくは、10−5〜1Ω・cmである。
【0049】
電気導電率が上記範囲であれば、効率的に導電させることができる。
そして、このようにして得られた有機−無機複合物は、三次元的に連続する第1相と、三次元的に連続する第2相との界面に、無機材料が偏在化するので、三次元的に連続する無機材料のパスが形成されている。そのため、かかるパスに熱や電気を通過させることにより、効率的に放熱または導電させることができる。また、無機材料は、三次元的に連続する第1相と、三次元的に連続する第2相との界面に偏在化するので、複合樹脂に対する無機材料の割合が少なくても、無機材料が有する放熱性や導電性を効率的に発現させることができる。
【0050】
その結果、この有機−無機複合物は、コストの増大や機械強度の低下を防止することができながら、放熱性材料や導電性材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されることはない。
なお、実施例および比較例において、熱伝導率の測定は、下記の通り実施した。
すなわち、熱伝導率の測定には、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置(TC−9000、アルバック理工社製)を使用した。
【0052】
熱伝導率λは、試料の密度P、比熱容量c、そして熱拡散率aより、次式から求めた。
λ=P×c×a
密度Pは、試料の重量および形状寸法から求めた。
比熱容量cは、上記装置により、試料加熱のために照射されたパルス状レーザーの出力とそのときの試料の温度上昇から求めた。
【0053】
熱拡散率aは、パルス状レーザーで加熱された試料裏面の温度応答をハーフタイム法で解析することにより求めた。
また、実施例および比較例において、体積抵抗率は、抵抗率計(MCP−T610型、および、MCP−HT450型、三菱化学アナリテック社製)を用いて測定した。
(化学修飾された無機粒子の調製)
調製例1
水酸化セリウムの水溶液(0.02mol/L)2600μLと、デカン酸53.7mgとの混合液を、回分式高圧反応器に投入し、400℃、40MPaにおいて、10分間反応させた。次いで、反応器を急冷し、混合液をメタノールで遠心分離洗浄して未反応のデカン酸を除去し、デカン酸により表面が化学修飾された酸化セリウム粒子を得た。
【0054】
調製例2
調製例1において、デカン酸53.7mgを、オレイン酸88.1mgに変更した以外は、調製例1と同様に処理して、オレイン酸により表面が化学修飾された酸化セリウム粒子を得た。
調製例3
調製例1において、デカン酸53.7mgを、オレイン酸146.9mgに変更した以外は、調製例1と同様に処理して、オレイン酸により表面が化学修飾された酸化セリウム粒子を得た。
【0055】
調製例4
水189μLと、蟻酸銅43mg、蟻酸359.7μL、および、デカン酸32.6mgの混合液を、回分式高圧反応器に投入し、400℃、10MPaにおいて、10分間反応させた。次いで、反応器を急冷し、混合液を水とエタノールとでそれぞれ遠心分離洗浄して未反応のデカン酸を除去し、デカン酸により表面が化学修飾された銅粒子を得た。
【0056】
調製例5
水1297μLと、硫酸銅455.9mg、蟻酸135.9μL、および、デカン酸307.7mgの混合液を、回分式高圧反応器に投入し、400℃、30MPaにおいて、10分間反応させた。次いで、反応器を急冷し、混合液を水とエタノールとでそれぞれ遠心分離洗浄して未反応のデカン酸を除去し、デカン酸により表面が化学修飾された銅粒子を得た。
【0057】
実施例1
ウルテム1000(ポリエーテルイミド樹脂、日本GEプラスチックス社製)の20重量%NMP溶液5gに、セロキサイド2021P(脂環式エポキシ樹脂、ダイセル化学社製)2g、リカシッドMH700(エポキシ樹脂硬化剤、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸およびヘキサヒドロ無水フタル酸の混合物(重量比で70/30)、新日本理化社製)1.29g、キュアゾール2PZ(エポキシ樹脂硬化剤、2−フェニルイミダゾール、四国化成社製)の5重量%NMP溶液1.37gを配合し、撹拌して均一化し、透明の混合溶液を得た。
【0058】
次いで、この混合溶液に、NIKKOL AM−301(両性界面活性剤、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン水溶液、日光ケミカルズ社製)の1重量%NMP溶液1gを配合し、ハイブリッドミキサーで十分に撹拌した。
次いで、この混合溶液に、調製例1の無機粒子を、配合前の混合溶液に対して、10体積%となるように配合した。
【0059】
次いで、この混合溶液を、ソーダガラス上にスピンコーターを用いて、乾燥後の膜厚が100μmとなるように塗布し、80℃で30分間加熱して複合物前駆体を調製し、続いて、150℃で60分間加熱し、有機−無機複合物のシートを得た。
得られたシートの熱伝導率は、0.7W/m・Kであった。また、得られたシートは、機械強度に優れていた。
【0060】
実施例2
ポリメタクリル酸メチル樹脂(和光純薬工業社製)の20重量%MEK(メチルエチルケトン)溶液3.23gに、jER(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン社製)1g、リカシッドMH700(エポキシ樹脂硬化剤、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸およびヘキサヒドロ無水フタル酸の混合物(重量比で70/30)、新日本理化社製)0.85g、キュアゾール2PZ(エポキシ樹脂硬化剤、2−フェニルイミダゾール、四国化成社製)の5重量%MEK溶液0.37gを配合し、ハイブリッドミキサーで十分に撹拌して均一化し、透明の混合溶液を得た。
【0061】
次いで、この混合溶液に、調製例1の無機粒子を、配合前の混合溶液に対して、10体積%となるように配合した。
次いで、この混合溶液を、ソーダガラス上にスピンコーター(500min−1)を用いて、乾燥後の膜厚が100μmとなるように塗布し、80℃で30分間加熱して複合物前駆体を調製し、続いて、150℃で60分間加熱し、有機−無機複合物のシートを得た。
【0062】
得られたシートの熱伝導率は、1.3W/m・Kであった。また、得られたシートは、機械強度に優れていた。
実施例3
ウルテム1000(ポリエーテルイミド樹脂、日本GEプラスチックス社製)の20重量%NMP溶液5gに、セロキサイド2021P(脂環式エポキシ樹脂、ダイセル化学社製)2g、リカシッドMH700(エポキシ樹脂硬化剤、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸およびヘキサヒドロ無水フタル酸の混合物(重量比で70/30)、新日本理化社製)1.29g、キュアゾール2PZ(エポキシ樹脂硬化剤、2−フェニルイミダゾール、四国化成社製)の5重量%NMP溶液1.37gを配合し、撹拌して均一化し、透明の混合溶液を得た。
【0063】
次いで、この混合溶液に、NIKKOL AM−301(両性界面活性剤、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン水溶液、日光ケミカルズ社製)の1重量%NMP溶液1gを配合し、ハイブリッドミキサーで十分に撹拌した。
次いで、この混合溶液に、調製例4の無機粒子を、配合前の混合溶液に対して、10体積%となるように配合した。
【0064】
次いで、この混合溶液を、ソーダガラス上にスピンコーターを用いて、乾燥後の膜厚が100μmとなるように塗布し、80℃で30分間加熱して複合物前駆体を調製し、続いて、150℃で60分間加熱し、有機−無機複合物のシートを得た。
得られたシートの体積抵抗率は、10−2Ω・cmで導電性を示した。また、得られたシートは、機械強度に優れていた。
【0065】
実施例4
ポリメタクリル酸メチル樹脂(和光純薬工業社製)の20重量%MEK(メチルエチルケトン)溶液3.23gに、jER(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン社製)1g、リカシッドMH700(エポキシ樹脂硬化剤、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸およびヘキサヒドロ無水フタル酸の混合物(重量比で70/30)、新日本理化社製)0.85g、キュアゾール2PZ(エポキシ樹脂硬化剤、2−フェニルイミダゾール、四国化成社製)の5重量%MEK溶液0.37gを配合し、ハイブリッドミキサーで十分に撹拌して均一化し、透明の混合溶液を得た。
【0066】
次いで、この混合溶液に、調製例5の無機粒子を、配合前の混合溶液に対して、10体積%となるように配合した。
次いで、この混合溶液を、ソーダガラス上にスピンコーター(500min−1)を用いて、乾燥後の膜厚が100μmとなるように塗布し、80℃で30分間加熱して複合物前駆体を調製し、続いて、150℃で60分間加熱し、有機−無機複合物のシートを得た。
【0067】
得られたシートの体積抵抗率は、10−2Ω・cmで導電性を示した。また、得られたシートは、機械強度に優れていた。
比較例1
MEK(メチルエチルケトン)5gに、jER828(エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン社製)2.00g、NC3000H(エポキシ樹脂、日本化薬社製)55g、リカシッドMH700(エポキシ樹脂硬化剤、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸およびヘキサヒドロ無水フタル酸の混合物(重量比で70/30)、新日本理化社製)1.7g、キュアゾール2PZ(エポキシ樹脂硬化剤、2−フェニルイミダゾール、四国化成社製)の5重量%MEK溶液0.74gを添加してハイブリッドミキサーで十分に撹拌して均一化し、透明の混合溶液を得た。
【0068】
次いで、この混合溶液に、調製例1の無機粒子を、配合前の混合溶液に対して、10体積%となるように配合した。
次いで、この混合溶液を、ソーダガラス上にスピンコーターを用いて、乾燥後の膜厚が100μmとなるように塗布し、80℃で30分間加熱して複合物前駆体を調製し、続いて、150℃で60分間加熱し、有機−無機複合物のシートを得た。
【0069】
得られたシートの熱伝導率は、0.3W/m・Kであった。また、得られたシートは、機械強度に優れていた。
比較例2
MEK(メチルエチルケトン)5gに、jER828(エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン社製)2.00g、リカシッドMH700(エポキシ樹脂硬化剤、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸およびヘキサヒドロ無水フタル酸の混合物(重量比で70/30)、新日本理化社製)1.7g、キュアゾール2PZ(エポキシ樹脂硬化剤、2−フェニルイミダゾール、四国化成社製)の5重量%MEK溶液0.74gを添加してハイブリッドミキサーで十分に撹拌して均一化し、透明の混合溶液を得た。
【0070】
次いで、この混合溶液に、調製例1の無機粒子を、配合前の混合溶液に対して、30体積%となるように配合した。
次いで、この混合溶液を、ソーダガラス上にスピンコーターを用いて、乾燥後の膜厚が100μmとなるように塗布し、80℃で30分間加熱して複合物前駆体を調製し、続いて、150℃で60分間加熱し、有機−無機複合物のシートを得た。
【0071】
得られたシートの熱伝導率は、0.6W/m・Kであった。しかし、得られたシートは、機械強度が弱く、脆いものであった。
比較例3
MEK(メチルエチルケトン)5gに、jER828(エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン社製)2.00g、NC3000H(エポキシ樹脂、日本化薬社製)55g、リカシッドMH700(エポキシ樹脂硬化剤、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸およびヘキサヒドロ無水フタル酸の混合物(重量比で70/30)、新日本理化社製)1.7g、キュアゾール2PZ(エポキシ樹脂硬化剤、2−フェニルイミダゾール、四国化成社製)の5重量%MEK溶液0.74gを添加してハイブリッドミキサーで十分に撹拌して均一化し、透明の混合溶液を得た。
【0072】
次いで、この混合溶液に、調製例4の無機粒子を、配合前の混合溶液に対して、10体積%となるように配合した。
次いで、この混合溶液を、ソーダガラス上にスピンコーターを用いて、乾燥後の膜厚が100μmとなるように塗布し、80℃で30分間加熱して複合物前駆体を調製し、続いて、150℃で60分間加熱し、有機−無機複合物のシートを得た。
【0073】
得られたシートの体積抵抗率は、1013Ω・cmで絶縁性を示した。また、得られたシートは、機械強度に優れていた。
比較例4
MEK(メチルエチルケトン)5gに、jER828(エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン社製)2.00g、リカシッドMH700(エポキシ樹脂硬化剤、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸およびヘキサヒドロ無水フタル酸の混合物(重量比で70/30)、新日本理化社製)1.7g、キュアゾール2PZ(エポキシ樹脂硬化剤、2−フェニルイミダゾール、四国化成社製)の5重量%MEK溶液0.74gを添加してハイブリッドミキサーで十分に撹拌して均一化し、透明の混合溶液を得た。
【0074】
次いで、この混合溶液に、調製例5の無機粒子を、配合前の混合溶液に対して、30体積%となるように配合した。
次いで、この混合溶液を、ソーダガラス上にスピンコーターを用いて、乾燥後の膜厚が100μmとなるように塗布し、80℃で30分間加熱して複合物前駆体を調製し、続いて、150℃で60分間加熱し、有機−無機複合物のシートを得た。
【0075】
得られたシートの体積抵抗率は、10−1Ω・cmで導電性を示した。しかし、得られたシートは、機械強度が弱く、脆いものであった。
(評価)
各実施例および各比較例で得られたシートの断面を、SEMにて観察した。
実施例1および3では、三次元的に連続するポリエーテルイミド樹脂の第1相と、三次元的に連続するエポキシ樹脂の第2相との界面に、無機粒子が偏在していることを確認した。
【0076】
また、実施例2および4では、三次元的に連続するポリメタクリル酸メチル樹脂の第1相と、三次元的に連続するエポキシ樹脂の第2相との界面に、無機粒子が偏在していることを確認した。
一方、比較例1〜4では、エポキシ樹脂中に、無機粒子が不連続かつ均一に分散していることを確認した。
【0077】
参考実施例1および2
(表面が化学修飾された無機粒子の、二相界面への偏在化)
本発明において、無機粒子が、第1相と第2相との界面に偏在する原理について参考となる参考実施例を示す。この参考実施例では、有機溶媒および水の二相液に無機粒子を投入し、二相液における無機粒子の存在位置を確認した。
【0078】
すなわち、まず、容器に表1に記載される各有機溶媒(ヘキサン、デカン、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、デカノール、酢酸エチル)と、水とをそれぞれ投入し、有機溶媒と水とからなる二相液をそれぞれ調製した。次いで、それら二相液に、調製例2および3の無機粒子をそれぞれ投入した。その後、レーザーポインターの光を照射し、有機溶媒、水およびそれらの界面のいずれかにおいて生じたチンダル現象を観察し、それにより、無機粒子の存在位置を確認した。
【0079】
なお、無機粒子として、調製例2の無機粒子を用いたものを参考実施例1とし、調製例3の無機粒子を用いたものを参考実施例2とした。
参考実施例1および2の結果を、有機溶媒の溶解度パラメータ(SP値)と、併せて表1に示す。
表1に示される記号を、以下に示す。
【0080】
○:無機粒子の存在を確認した。
△:無機粒子の存在をわずかに確認した。
×:無機粒子の存在を確認できなかった。
【0081】
【表1】

【0082】
表1から分かるように、参考実施例1では、有機溶媒としてSP値が9.0である酢酸メチルを用いた二相液においては、有機溶媒中および水中には、無機粒子の存在を確認できず、無機粒子が、有機溶媒と水との界面に偏在化していた。
一方、参考実施例1では、有機溶媒としてSP値が9.0よりも低いヘキサン、デカンおよびトルエンを用いた二相液においては、無機粒子が、有機溶媒中に存在することが確認された。
【0083】
また、参考実施例1では、有機溶媒としてSP値が9.0よりも高いクロロホルム、ジクロロメタンおよびデカノールを用いた二相液においては、無機粒子が、有機溶媒と水との界面と、有機溶媒中との両方に存在することが確認された。
参考実施例2では、有機溶媒としてSP値が7.3であるヘキサン、および、SP値が9.0である酢酸メチルを用いた二相液においては、有機溶媒中および水中には、無機粒子の存在を確認できず、無機粒子が、有機溶媒と水との界面に偏在化していた。
【0084】
一方、参考実施例2では、有機溶媒として、SP値が7.8であるデカン、SP値が8.9であるトルエン、SP値が9.2であるクロロホルムおよびSP値が9.8であるジクロロメタンを用いた二相液においては、無機粒子が、有機溶媒と水との界面と、有機溶媒中との両方に存在することが確認された。
また、参考実施例2では、有機溶媒として、SP値が11.5であるデカノールを用いた二相液においては、無機粒子が、有機溶媒と水との界面と、有機溶媒中と、水との全てに存在することが確認された。
【0085】
このように、有機溶媒の溶解度パラメータと、無機粒子の表面の化学修飾とを適宜選択することにより、無機粒子を、有機溶媒および水のいずれからも分離させ(非相溶として)、それら二相液の界面に偏在させることができる。
この参考実施例は、無機粒子を、二相液に適用した原理であるから、無機粒子を、共連続相分離構造を有する複合樹脂に適用することができると推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1樹脂からなり、三次元的に連続する第1相、および、前記第1樹脂と相異する第2樹脂からなり、三次元的に連続する第2相から形成される共連続相分離構造を有する複合樹脂と、
前記第1相と前記第2相との界面に偏在する無機材料と
を含有することを特徴とする、有機−無機複合物。
【請求項2】
前記無機材料の表面が、化学修飾されていることを特徴とする、請求項1に記載の有機−無機複合物。
【請求項3】
前記第1樹脂が、熱可塑性樹脂であり、
前記第2樹脂が、熱硬化性樹脂であることを特徴とする、請求項1または2に記載の有機−無機複合物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ポリイミド樹脂またはアクリル樹脂であり、
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂であることを特徴とする、請求項3に記載の有機−無機複合物。
【請求項5】
第1樹脂と、前記第1樹脂と相異する第2樹脂の硬化性前駆体と、無機材料と、溶剤とを配合して、混合溶液を調製する工程と、
前記混合溶液を加熱することにより、前記溶剤を除去し、前記硬化性前駆体を硬化して、前記第1樹脂からなり、三次元的に連続する第1相、および、前記第2樹脂からなり、三次元的に連続する第2相から形成される共連続相分離構造を有する複合樹脂と、前記第1相と前記第2相との界面に偏在する前記無機材料とを含有する有機−無機複合物を得る工程と
を備えることを特徴とする、有機−無機複合物の製造方法。
【請求項6】
前記第1樹脂が、熱可塑性樹脂であり、
前記第2樹脂が、前記熱可塑性樹脂と非相溶の熱硬化性樹脂であり、
前記無機材料が、前記熱可塑性樹脂および前記熱硬化性樹脂と非相溶であり、
前記有機−無機複合物を得る工程は、
前記混合溶液を、前記熱可塑性樹脂が軟化する温度以上、かつ、前記硬化性前駆体が硬化する温度未満の温度に加熱することにより、前記溶剤を除去して、前記熱可塑性樹脂と前記硬化性前駆体とが相溶し、前記無機材料がそれらに分散する複合物前駆体を調製する工程と、
前記複合物前駆体を、前記硬化性前駆体が硬化する温度以上の温度に加熱することにより、三次元的に連続する前記熱可塑性樹脂の第1相中で前記硬化性前駆体を架橋させて、三次元的に連続する前記熱硬化性樹脂の第2相を形成し、それと同時に前記熱可塑性樹脂および前記熱硬化性樹脂の界面に前記無機材料を偏在させる工程と
を備えることを特徴とする、請求項5に記載の有機−無機複合物の製造方法。
【請求項7】
前記混合溶液を調製する工程において、さらに、界面活性剤を配合することを特徴とする、請求項5または6に記載の有機−無機複合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−132894(P2010−132894A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249004(P2009−249004)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】