説明

有機エレクトロルミネッセンス素子、導電積層体及び表示装置

陰極50と、陽極20と、陰極50と陽極20の間に介在する発光層40からなり、陽極20の少なくとも発光層40に接する部分が、ランタン、セリウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウムから選ばれる少なくとも1つ以上の元素と、クロム、タングステン、タンタル、ニオブ、銀、パラジウム、銅、ニッケル、コバルト、モリブデン、白金、シリコンから選ばれる少なくとも1つ以上の元素を含む有機エレクトロルミネッセンス素子。この素子では、陽極から発光層に正孔が効率よく注入され、有機EL素子の駆動電圧のさらなる低電圧化、及び低電圧駆動による長寿命化が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、導電積層体、導電積層体の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子用電極基板及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、陽極と、陰極と、両者の間に保持された発光層からなる。発光層には、陽極から供給される正孔と陰極から供給される電子との再結合によって発光する発光媒体層が含まれる。通常、陽極から供給される正孔の注入を促進するために、正孔注入層や正孔輸送層が、陽極と発光媒体層の間に設けられる。また、陰極から供給される電子の注入を促進するために、電子注入層や電子輸送層が、陰極と発光媒体層の間に設けられる。
【0003】
発光層に電荷を効率よく注入するためには、陽極及び陰極が重要であり、その構成材料が盛んに研究されている。
正孔注入電極(陽極)に関して、一般に、用いられるITO(錫ドープ酸化インジウム)の仕事関数は4.6〜5.0eVであるのに対し、TPD(トリフェニルジアミン)に代表される多くの正孔輸送材料のイオン化ポテンシャルは5.6eVと大きい。このため、ITOからTPDに正孔が注入する際に、0.4〜1.0eVのエネルギー障壁が存在する。従って、陽極から正孔注入層への正孔注入を促進するためには、陽極表面の仕事関数を高くする方法が有効である。
【0004】
ITOの仕事関数を高める手段としてITO表面を酸素リッチにする方法が提案されている。例えば、特開平8−167479号公報には、ITOを室温製膜した後に、酸化性雰囲気で加熱又は酸素プラズマ照射する方法が開示されており、4.6〜5.0eVの仕事関数が5.1〜6.0eVに上昇する。また、特開2000−68073号公報には、スパッタ雰囲気ガスの組成をITO表面側で酸素リッチにすることで、仕事関数を5.0〜6.0eVに増加した透明電極が開示されている。
しかしながら、これらの方法は、時間の経過とともに仕事関数が低下するという難点があった。
【0005】
そこで空気中放置による仕事関数の減少を防止するため、特開2001−284060号公報では、ITO製膜後に酸素イオン注入を行う方法が開示されている。具体的には、高周波放電によって生成された酸素プラズマを用い、加速電圧5kV、15分という条件でITOにイオン注入を行うと、5.2eV〜6.0eVに増加させることができる。この方法によれば、酸素イオン注入後60分空気中に放置された後であっても高い仕事関数6.0eVを保持することが可能である。しかしながら、この方法は、高濃度のプラズマを発生させ、制御電極によって基板上に均一にイオンを照射するための装置が必要になる上、大面積にわたって均一に酸素イオンを照射することが容易でなく、一定の品質を保証しがたいという難点があった。
【0006】
一方、特開2001−043980号公報においては、陰極に透明電極を用いれば陽極は必ずしも透明である必要はなく、材料の選択の幅が広がることが示されている。好適な材料として、In−Zn−O、In−Sn−O、ZnO−Al、Zn−Sn−O等の導電性酸化物はもちろん、Au,Pt,Ni,Pd等の金属や、Cr,Pr,NiO,Mn,MnO等の黒色の半導体酸化物も使用可能である。特に、Crを用いれば仕事関数が4.5eVと比較的小さくても、十分に正孔を供給でき、陽極材料として優れていると記載されている。
【0007】
しかしながら、正孔注入性をさらに上げるためには、仕事関数は原理的に高いほうが好ましい。即ち、陽極から発光層にスムースに正孔が注入できれば、有機EL素子の駆動電圧のさらなる低電圧化、及び低電圧駆動による有機EL素子の長寿命化が可能になる。
【0008】
一方、有機EL素子の陰極に関して、発光層からの発光を陰極側から取り出す場合、効率よく外部に取り出すため、陰極は、低抵抗であることに加えて透明性が高いことが要求される。このため、可視光領域の光線透過率等の光学特性が優れている銀(Ag)が多用されている。例えば、特開2001−043980号公報には、Mg−Ag合金からなる陰極を用いた有機EL素子が開示されている。
【0009】
しかしながら、Agは拡散(マイグレーション)しやすい金属であり、EL素子を形成する発光層等に拡散するため、有機EL素子の劣化や、ショート等を引き起こす原因となっていた。
【発明の開示】
【0010】
本発明の目的は、正孔注入性の高い陽極、及び/又は拡散等を起こさずに安定な陰極を有する有機EL素子及び表示装置を提供することである。
【0011】
上述したように、特開2001−043980号公報では、陽極として、仕事関数が高い金属(Au、Pt、Ni、Pd等)ではなく、仕事関数が低い5族又は6族に属する金属(Cr,Mo,W,Ta,Nb等)でも使用できることが開示されている。本発明者らは、このような仕事関数が低い5族又は6族に属する金属に、ランタン、セリウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウムから選ばれる少なくとも1つ以上の元素を加えることによって、5族、6族金属に特有の密着性や微細加工性を活かしながら、仕事関数を上昇させ、正孔の注入効率をさらに上げることが可能になることを見出した(第一発明)。
【0012】
また、Ceを含む酸化物焼結体をターゲットとして、特定の条件下、即ち、酸素分圧が0.1Pa以下であるスパッタ雰囲気中で、スパッタリングを行えば、仕事関数が大きく、正孔注入効率の大きな導電積層体が得られることを見出した(第二発明)。
【0013】
さらに、陰極に関し、陰極層に二種の金属を組み合わせて使用し、これら金属の標準酸化還元電位が一定の関係を満たすときに、素子内における金属原子の拡散を抑制できることを見出した(第三発明)。
【0014】
本発明によれば、以下の有機EL素子、導電積層体、導電積層体の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子用電極基板及び表示装置が提供される。
1.陰極と、陽極と、前記陰極と陽極の間に介在する発光層からなり、前記陽極の少なくとも前記発光層に接する部分が、ランタン、セリウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウムから選ばれる少なくとも1つ以上の元素と、クロム、タングステン、タンタル、ニオブ、銀、パラジウム、銅、ニッケル、コバルト、モリブデン、白金、シリコンから選ばれる少なくとも1つ以上の元素を含む有機エレクトロルミネッセンス素子。
2.前記ランタン、セリウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウムから選ばれる少なくとも1つ以上の元素の合計濃度が0.1〜50wt%である1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
3.前記陽極の少なくとも発光層に接する部分が、セリウムを含む1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
4.前記陽極の少なくとも発光層に接する部分の仕事関数が5.0eV以上である1〜3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0015】
5.電気絶縁性の透明基材と、前記透明基材上に形成された透明導電膜と、を有する導電積層体であって、前記透明導電膜が、少なくともセリウム(Ce)を含有する酸化物を含み、前記透明導電膜の表面のセリウム3d軌道にある電子の結合エネルギーを、X線光電子分光法によって測定したグラフにおいて、前記結合エネルギーが877eV〜922eVの間の全ピーク面積をSAとし、前記結合エネルギーが914eV〜920eVの間の全ピーク面積をSBとした場合に、前記SA及び前記SBの面積比であるSB/SAの値が下記式(1)を満たす導電積層体。
SB/SA<0.13・・・(1)
6.前記透明導電膜が、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ガリウム(Ga)からなる金属元素群より選ばれた少なくとも1種の金属元素と、セリウム(Ce)及び酸素(O)と、を含む5に記載の導電積層体。
7.上記5又は6に記載の導電積層体を製造する方法であって、前記透明導電膜をスパッタリング法により形成し、スパッタ雰囲気中の酸素分圧を0.1Pa以下とする導電積層体の製造方法。
8.上記5〜7のいずれかに記載の導電積層体と、前記導電積層体上に設けられた金属導体と、を含む有機エレクトロルミネッセンス素子用電極基板であって、前記透明導電膜が有機電界発光層を駆動する有機エレクトロルミネッセンス素子用電極基板。
9.上記8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用電極基板と、前記有機エレクトロルミネッセンス素子用電極基板上に設けられた有機電界発光層と、を含む有機エレクトロルミネッセンス素子。
10.上記5〜7のいずれかに記載の導電積層体と、前記導電積層体上に設けられた有機電界発光層と、を含む有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0016】
11.少なくとも陽極層、有機発光層及び陰極層をこの順に積層した有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記陰極層が少なくとも第一の金属と第二の金属を含み、前記第一の金属の25℃における標準酸化還元電位(E(A))が−1.7(V)以上であり、前記第二の金属の25℃における標準酸化還元電位(E(B))が下記式(2)を満たす有機エレクトロルミネッセンス素子。
E(A)−1.1≦E(B) (2)
12.少なくとも陽極層、有機発光層、陰極層及び透明導電層をこの順に積層した有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記陰極層が少なくとも第一の金属と第二の金属を含み、前記第一の金属の25℃における標準酸化還元電位(E(A))が−1.7(V)以上であり、前記第二の金属の25℃における標準酸化還元電位(E(B))が下記式(2)を満たす有機エレクトロルミネッセンス素子。
E(A)−1.1≦E(B) (2)
13.前記陰極層が前記第一の金属を主成分とする11又は12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
14.前記第一の金属が、Al,Cr,Ta,Zn,Fe,Ti,In,Co,Ni,Ge,Cu,Re,Ru,Ag,Pd,Pt,Auからなる群から選ばれる金属である11〜13のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
15.前記第二の金属が、Bi,Te,Sn,V,Mo,Nd,Nb,Zrからなる群から選ばれる金属である11〜14のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
16.前記陰極層がアルカリ金属又はアルカリ土類金属を0.1重量%〜5.0重量%含む11〜15のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
17.前記陰極層の波長380nm〜780nmにおける光線透過率が10%以上である11〜16のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
18.前記第一の金属がAgである11〜17のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
19.上記1〜4、9、10及び14〜21のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を含んで構成される表示装置。
【0017】
本発明によれば、陽極から発光層に正孔が効率よく注入され、有機EL素子の駆動電圧のさらなる低電圧化、及び低電圧駆動による長寿命化が可能になる。
また、本発明の導電積層体及び有機EL素子用電極基板は、高い仕事関数を有するので、導電積層体又は有機EL素子用電極基板を有機EL素子の電極として使用することで、定電流駆動時の電圧上昇が小さく、長寿命で、かつ高輝度な有機EL素子を実現することが可能となる。また、本発明の導電積層体の製造方法によれば、上記導電積層体を効率よく得ることができる。
また、本発明の有機EL素子は、陰極層として使用する金属の素子内における拡散を抑制できるので、金属原子の拡散に起因する素子の劣化やショートが防止できるため、EL素子の長寿命化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1の有機EL素子を示す図である。
【図2】実施形態2の一画素の等価回路を示す図である。
【図3】実施形態2のアクティブマトリクス型表示装置を示す図である。
【図4】実施形態2の一画素の断面構造を示す図である。
【図5】実施形態3の有機EL素子を示す図である。
【図6】本発明に該当するセリウム3d軌道の結合エネルギースペクトルの一例を示すグラフである。
【図7】本発明に該当しないセリウム3d軌道の結合エネルギースペクトルの一例を示すグラフである。
【図8】実施形態4の有機EL素子を示す図である。
【図9】透明導電基板の製造工程を示す説明図である
【図10】実施例における製膜材料の化学式を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下図面を参照して第一発明〜第三発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれら実施形態に限定されない。
[第一発明]
実施形態1
図1は、本発明の有機EL素子の一実施形態を示す図である。基板10上に、陽極20、絶縁層30、発光層40、陰極50が形成され、発光層40は、正孔注入層42、正孔輸送層44、発光媒体層46からなり、陰極20は、金属層22、透明導電層24からなる。絶縁層30は必要不可欠なものでないが、陽極20−陰極50間ショートを防ぐためには設けることが望ましい。
発光媒体層46において、陽極20から供給される正孔と陰極から供給される電子が再結合し発光する。その発光は、陰極50を通って上から取り出される。
【0020】
本実施形態では、陽極40の少なくとも正孔注入層42に接する部分には、ランタン、セリウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウムから選ばれる少なくとも1つ以上の元素と、クロム、タングステン、タンタル、ニオブ、銀、パラジウム、銅、ニッケル、コバルト、モリブデン、白金、シリコンから選ばれる少なくとも1つ以上の元素が含まれる。ランタン、セリウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウムから選ばれる少なくとも1つ以上の元素の合計濃度は、好ましくは、この部分の全元素の0.1〜50wt%、より好ましくは、1〜30wt%である。
【0021】
この陽極20では、比較的仕事関数が低い元素に、ランタン、セリウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウムから選ばれる少なくとも1つ以上の元素を加えることにより、仕事関数が高くなっている。そのため、陽極20から発光層40への正孔の注入効率が上がる。その結果、有機EL素子の駆動電圧が低くなり、低電圧駆動による長寿命化が可能になる。好ましくは仕事関数は5.0eV以上である。
【0022】
また、本実施形態では、発光層40の発光媒体層46で発生した発光は、一部は直接陰極50からそのまま外へ放出され、一部は陽極20方向に向かう。陽極20は、ランタン、セリウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウムから選ばれる少なくとも1つ以上の元素と、クロム、タングステン、タンタル、ニオブ、銀、パラジウム、銅、ニッケル、コバルト、モリブデン、白金、シリコンから選ばれる少なくとも1つ以上の元素から構成されているため、発光媒体層46で発生した発光が陽極20との界面で一部反射されて逆進し、陰極50側から放射する。従って、発光層40で発生した発光を上面から効率的に取り出すことができる。
【0023】
尚、本実施形態の有機EL素子は、トップエミッションタイプであるが、陽極20はボトムエミッションタイプの有機EL素子にも使用できる。
また、本実施形態は、発光層に正孔注入層、正孔輸送層を含むが、これらの層を略することができる。また、他の層として電子注入層、電子輸送層、付着改善層、障壁層等を含むこともできる。
【0024】
実施形態2
図2,3,4は、本発明の有機EL素子を用いた表示装置の一実施形態を示す図である。
図2は、アクティブマトリクス型表示装置の一画素分の等価回路を示す図である。
アクティブマトリクス型の表示装置では、多数の画素をマトリクス状に並べ、与えられた輝度情報に応じて画素毎に光強度を制御することによって画像を表示する。アクティブマトリクス方式は、各画素に設けた有機EL素子に流れる電流を画素内部に設けた能動素子(一般には、絶縁ゲート型電界効果トランジスタの一種である薄膜トランジスタ(TFT))によって制御する。
【0025】
画素PXLは有機EL素子OLED、第一の能動素子としての薄膜トランジスタTFT1、第二の能動素子としての薄膜トランジスタTFT2及び保持容量Csからなる。有機EL素子は多くの場合整流性があるため、OLED(有機発光ダイオード)と呼ばれることがあり、図ではダイオードの記号を用いている。図示の例では、TFT2のソースSを基準電位(接地電位)とし、OLEDの陰極KはVdd(電源電位)に接続される一方、陽極20はTFT2のドレインDに接続されている。一方、TFT1のゲートGは走査線Xに接続され、ソースSはデータ線Yに接続され、ドレインDは保持容量Cs及びTFT2のゲートGに接続されている。
【0026】
PXLを動作させるために、まず、走査線Xを選択状態とし、データ線Yに輝度情報を表すデータ電位Vdataを印加すると、TFT1が導通し、保持容量Csが充電又は放電され、TFT2のゲート電位はデータ電位Vdataに一致する。走査線Xを非選択状態とすると、TFT1がオフになり、TFT2は電気的にデータ線Yから切り離されるが、TFT2のゲート電位は保持容量Csによって安定に保持される。TFT2を介して有機EL素子OLEDに流れる電流は、TFT2のゲート/ソース間電圧Vgsに応じた値となり、OLEDはTFT2から供給される電流量に応じた輝度で発光し続ける。
【0027】
上述したように、図2に示した画素PXLの回路構成では、一度Vdataの書き込みを行えば、次に書き換えられるまで一フレームの間、OLEDは一定の輝度で発光を継続する。このような画素PXLを図3のようにマトリクス状に多数配列すると、アクティブマトリクス型表示装置を構成することができる。
【0028】
図3に示すように、本表示装置は、画素PXLを選択するための走査線X1乃至XNと、画素PXLを駆動するための輝度情報(データ電位Vdata)を与えるデータ線Yとがマトリクス状に配設されている。走査線X1乃至XNは走査線駆動回路60に接続される一方、データ線Yはデータ線駆動回路62に接続される。走査線駆動回路60によって走査線X1乃至XNを順次選択しながら、データ線駆動回路62によってデータ線YからVdataの書き込みを繰り返すことにより、所望の画像を表示することができる。単純マトリクス型の表示装置では、各画素PXLに含まれる発光素子は、選択された瞬間にのみ発光するのに対し、図3に示したアクティブマトリクス型表示装置では、書き込み終了後も各画素PXLの有機EL素子が発光を継続するため、単純マトリクス型に比べ有機EL素子のピーク輝度(ピーク電流)を下げられるなどの点で、とりわけ大型高精細のディスプレイでは有利となる。
【0029】
図4は、図2に示した画素PXLの断面構造を模式的に表している。但し、図示を容易にするため、OLEDとTFT2のみを表している。OLEDは、陽極20、発光層40及び陰極50を順に重ねたものである。陽極20は画素毎に分離しており、基本的に光反射性である。陰極50は画素間で共通接続されており、基本的に光透過性である。
【0030】
一方、TFT2はガラス等からなる基板70の上に形成されたゲート電極72と、その上面に重ねられたゲート絶縁膜74と、このゲート絶縁膜74を介してゲート電極72の上方に重ねられた半導体薄膜76とからなる。この半導体薄膜76は例えば多結晶シリコン薄膜からなる。TFT2はOLEDに供給される電流の通路となるソースS、チャネルCh及びドレインDを備えている。チャネルChはゲート電極72の直上に位置する。このボトムゲート構造のTFT2は層間絶縁膜78により被覆されており、その上にはソース電極80及びドレイン電極82が形成されている。これらの上には別の層間絶縁膜84を介して前述したOLEDが成膜されている。
尚、本実施形態はアクティブマトリクス方式であるが、単純マトリクス方式でもよい。また、本発明の表示装置は公知の他の構成をとることもできる。
【0031】
[第二発明]
実施形態3
図5は、本発明の有機EL素子の一実施形態を示す図である。
有機EL素子134は、特許請求の範囲に記載の有機EL素子の一例に相当するものである。この有機EL素子134は、ガラス基板110及び透明導電膜112からなる透明導電基板138と、正孔輸送層126と、有機発光層128と、電子注入層130と、陰極層132と、から構成される。
本実施形態において特徴的なことは、仕事関数の大きい透明導電膜112を有する透明導電基板138を製造することである。また、このような透明導電基板138を電極として使用することにより、定電流駆動時の電圧上昇が小さく、長寿命で、かつ高輝度な有機EL素子134を製造することも、本実施形態における特徴である。
以下、各構成部材及び製造方法について説明する。
【0032】
A.導電積層体
本発明の導電積層体は、電気絶縁性の透明基材と、前記透明基材上に形成された透明導電膜と、を有する導電積層体であって、前記透明導電膜が、少なくともセリウム(Ce)を含有する酸化物、を含み、前記透明導電膜の表面のセリウム3d軌道にある電子(以下、単に3d電子と記載することもある)の結合エネルギーを、X線光電子分光法(以下、XPS法と記載することもある)によって測定したグラフ(以下、Ce3dピークと称する場合がある。)において、前記結合エネルギーが877eV〜922eVの間の全ピーク面積をSAとし、前記結合エネルギーが914eV〜920eVの間の全ピーク面積をSBとした場合に、前記SA及び前記SBの面積比であるSB/SAの値が、下記式(1)を満たすことを特徴とする導電積層体である。
【0033】
SB/SA<0.13・・・(1)
ここで、上記SAの対象範囲である877eV〜922eVは、Ce3+及びCe4+の3d電子の結合エネルギーを表している。さらに、上記SBの対象範囲である914eV〜920eVは、Ce4+の3d電子の結合エネルギーを表している。従って、SA及びSBのそれぞれの結合エネルギーのピーク面積の比を計算することで、上記透明導電膜のCe中のCe4+の濃度をSB/SAの値にて相対的に規定することが可能となる。即ち、上記透明導電膜のCe中のCe4+濃度を低く規定することが可能となる。
【0034】
透明導電膜表面のXPS法によるセリウム3d軌道の結合エネルギースペクトルの一例を図6及び図7に示す。尚、図6及び図7の横軸は、Ceの3d電子の結合エネルギーの大きさ(eV)を表しており、縦軸は、任意の相対値を表している。尚、XPS法によるCeの3d電子の結合エネルギースペクトルの測定条件については、実施例にて詳述する。
【0035】
これらの図6及び図7には、Ceの3d電子の結合エネルギースペクトルにおいて、877eV〜922eVの間の全ピーク面積であるSAと、914eV〜920eVの間の全ピーク面積であるSBと、が示されている。ここで、全ピーク面積とは、図6及び図7に示す上記各範囲(877eV〜922eV、又は914eV〜920eV)において、X軸と、Ceの3d電子の結合エネルギースペクトルに囲まれた面積のことである。この面積は、図6のCeの3d電子の結合エネルギースペクトルについて、877eV〜922eV(又は914eV〜920eV)まで積分した値に等しいことはいうまでもない。
【0036】
尚、図6に示す「Ceの3d電子の結合エネルギースペクトル」は、特許請求の範囲に記載された「前記透明導電膜の表面のセリウム3d軌道にある電子の結合エネルギーを、X線光電子分光法によって測定したグラフ」の一例に相当する。
【0037】
図6には、SB及びSAの面積比であるSB/SAの値が、0.13未満である場合のセリウム3d軌道の結合エネルギースペクトルの一例が示されている。一方、図7には、SB及びSAの面積比であるSB/SAの値が、0.13より大きい場合のセリウム3d軌道の結合エネルギースペクトルの一例が示されている。
本発明の透明導電膜は、図6に示すように、SB及びSAの面積比であるSB/SAの値が、0.13未満となっていることを特徴とする。透明導電膜がこの条件を満たす場合には、高い仕事関数を有するのである。
【0038】
上記(1)式で規定される透明導電膜を含む導電積層体を有機EL素子(以下、有機電界発光素子と記載することもある)の陽極に使用することで、定電流駆動時の電圧上昇が小さく、長寿命で、かつ高輝度な有機EL素子を提供することができる。上記の通り、導電積層体のSB/SAの値は、0.13未満であればよいが、好ましい値は0.08未満であり、より好ましい値は0.03未満である。
【0039】
X線光電子分光分析装置(以下、XPSと記載することもある)を用いて、透明導電膜の表面のセリウム3d軌道にある電子の結合エネルギーを測定したグラフにおいて、測定されたピークが上記式(1)を満たせば、この透明導電膜表面の仕事関数が5.6eV以上となると考えられる。尚、この透明導電膜表面の仕事関数は、紫外光電子分光法により測定する。尚、仕事関数の測定条件については、実施例にて詳述する。
【0040】
本発明の導電積層体において、紫外光電子分光法により測定した仕事関数の値を5.6eV以上とする理由は、仕事関数が5.6eV未満の透明導電膜を導電積層体が有する場合には、その導電積層体を用いて製造した有機EL素子は、発光輝度が低下するほか、有機EL素子の駆動電圧を高くして、その寿命の延長を図ることができなくなる場合があるからである。
【0041】
本発明は、上記透明導電膜が、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ガリウム(Ga)からなる金属元素群より選ばれた少なくとも1種の金属元素と、セリウム(Ce)及び酸素(O)と、を含むことを特徴とする導電積層体である。尚、ここで、「含む」の典型的な一例は、透明導電膜が上記金属原子を構成元素として含有することである。
【0042】
B.導電積層体の製造方法
本発明は、上記導電積層体を製造する方法であって、透明導電膜をスパッタリング法により形成し、スパッタ雰囲気中の酸素分圧を0.1Pa以下とすることを特徴とする導電積層体の製造方法である。
【0043】
本発明の導電積層体における透明導電膜は、スパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法により、透明基材上に形成される。そして、このスパッタリング法による製膜を行うに際しては、各種のスパッタリング装置を用いて行うことができるが、特にマグネトロンスパッタリング装置が好適に用いられる。
【0044】
このマグネトロンスパッタリング装置を用いて、透明基材上に上記透明導電膜を製膜する際の条件は以下の通りである。まず、プラズマの出力は、用いるターゲットの表面積や、積層する透明導電膜の膜厚により、変動する。本発明においては、このプラズマ出力をターゲットの表面積1cmあたり、0.3〜4Wの範囲とすることが好ましい。また、この時、製膜時間を5〜120分間とすることにより、所望の膜厚を有する透明導電膜を得ることができる。即ち、上記製膜時間を採用することにより、有機EL素子に用いるのに好適な膜厚を得ることができるのである。
【0045】
この時、スパッタリング時の雰囲気ガスとしては、アルゴン、窒素、ヘリウム等の不活性ガス、及びこれらのガスと酸素との混合ガスを用いることが好ましい。また、スパッタリング圧力については、スパッタリング装置の種類や、透明基材−ターゲット間の距離、透明基材の温度等によって、最適値は変動するが、酸素分圧については、0.1Pa以下であるのが好ましい。さらに好ましくは、0.02Pa以下であるのが好ましい。
【0046】
このように、酸素分圧を0.1Pa以下とする理由は、酸素分圧が0.1Paを超える場合、透明導電膜中に含まれるCe3+がCe4+と比較して少なくなり、SB/SAの値が、0.13以上になってしまうことがあるからである。
尚、上述したように、SAは、透明導電膜の表面について、XPSによって測定されたCe3dピークにおいて、結合エネルギーが877eV〜922eVの間の全ピーク面積であり、SBは、結合エネルギーが914eV〜920eVの間の全ピーク面積である。
【0047】
また、この導電積層体における透明基材については特に制限はなく、公知の透明ガラス、石英、透明プラスチック、透明セラミックス等からなる板状部材やフィルム状部材を用いることができる。
尚、上記透明ガラスの具体例としては、ソーダ石灰ガラス、鉛硅酸塩ガラス、硼硅酸塩ガラス、硅酸塩ガラス、高硅酸ガラス、無アルカリガラス、燐酸塩ガラス、アルカリ硅酸塩ガラス、石英ガラス、アルミノ硼硅酸ガラス、バリウム硼硅酸ガラス、ナトリウム硼硅酸ガラス等が挙げられる。
【0048】
また、前記透明プラスチックの具体例としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン系樹脂、アモルファスポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリイミド、ポリホスファゼン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、ポリアセタール系樹脂等が挙げられる。
【0049】
前記透明セラミックスの具体例としては、サファイア、PLZT、CaF、MgF、ZnS等が挙げられる。因みに、透明基材の材質や厚さ等は、目的とする導電性透明基材、即ち導電積層体の用途や、当該導電性透明基材に要求される透明性等に応じて適宜選択される。
上記の透明基材の上には、少なくともセリウム(Ce)を含む酸化物を含有する酸化物ターゲットを用いて、スパッタリング法により透明導電膜を製膜する。この酸化物ターゲットは、例えば、酸化物焼結体からなることが好ましい。
【0050】
ここで、製膜された透明導電膜を構成する組成物については、従来公知の透明導電性金属酸化物(In、SnO、ZnO、CdO、Cd−In−O系、Zn−Al−O系、In−Sn−O系、In−Zn−O系、Zn−Sn−O系、Cd−Sn−O系等)に、セリウムが混合していることが必要となる。
【0051】
このようにして得られた導電積層体を有機EL素子用の電極として使用するにあたり、この導電積層体における透明導電膜の導電性が充分に高くない場合には、金属導体をこの透明導電膜上に積層することで、駆動時のオーム損を低減させ、導電性を向上させることが期待される。特にパッシブマトリックス型の有機EL素子の場合、順次走査によって表示電極部を光らせる方式を採用しているため、アクティブ型の有機EL素子と比較して、その効果はより大きいと考えられる。
【0052】
C.有機電界発光(EL)素子用電極基板
本発明は、上記導電積層体と、前記導電積層体上に設けられた金属導体と、を含む有機電界発光素子用電極基板であって、前記透明導電膜が有機電界発光層を駆動することを特徴とする有機電界発光素子用電極基板である。
【0053】
この金属導体に用いる金属は、透明導電膜の導電性を向上させるために、透明導電膜上に積層するものであり、電気伝導度が透明導電膜と比較して大きな金属であれば、特に制限はない。ただし、透明導電膜と、金属との界面における酸化還元反応により、透明導電膜上の金属をエッチングした後の透明導電膜表面の仕事関数が小さくなることがある。このため、金属導体に用いる金属の仕事関数は、おおむね4.0eV以上であることが好ましい。また、金属導体に用いる金属のより好ましい仕事関数は、4.5eV以上である。
【0054】
金属導体は、有機発光層からの光を効率よく取り出すために、金属細線であることが好ましい。以下、この金属細線について説明する。
金属細線の作成方法は、導電積層体の透明導電膜の上面に、スパッタリング法や真空蒸着法等の真空プロセスで金属の製膜を行った後、エッチングにより、この製膜された金属を細線パターンに加工するのが一般的である。本発明は、この一般的な手法で、透明導電膜の上面に金属細線を作成する。
【0055】
また、この金属のエッチング液には、特に制限はないが、製膜された金属の下方にある透明導電膜に、ほとんどダメージを与えないエッチング液を選択するのが望ましい。このようなエッチング液は、例えば、燐酸、酢酸、硝酸の混酸である。尚、この混酸にスルホン酸、ポリスルホン酸等を添加することも好ましい。
【0056】
また、この金属細線の構成は、2層、3層等と多層になることも好ましいし、2種以上の合金からなることも好ましい。その多層構造の構成例としては、Ti/Al/Ti,Cr/Al/Cr,Mo/Al/Mo,In/Al/In,Zn/Al/Zn,Ti/Ag/Ti等が挙げられる。また、2種以上の合金としては、Al−Si、Al−Cu、Al−Nd、Cu−Zr、Cu−Ni、Cu−Cr、Mo−V、Mo−Nb、Ag−Au−Cu、Ag−Pd−Cu等が挙げられる。
【0057】
D.有機EL素子
本発明は、上記有機EL素子用電極基板と、前記有機EL素子用電極基板上に設けられた有機電界発光層と、を含むことを特徴とする有機EL素子である。
【0058】
また、本発明は、上記導電積層体と、前記導電積層体上に設けられた有機電界発光層と、を含むことを特徴とする有機EL素子である。
【0059】
本発明の有機EL素子は、上述したように、仕事関数の大きい導電積層体(又は有機EL素子用電極基板)を含んでいる。このため、この有機EL素子は、定電流駆動時の電圧上昇が小さく、長寿命で、かつ高輝度となることが期待される。
また、本発明の効果は、瞬時の高輝度動作が求められるパッシブ駆動方式の有機EL素子においてとくに有効であるが、アクティブ駆動方式の有機EL素子においても同様に、高輝度、長寿命の効果を期待することができる。
【0060】
[第三発明]
本発明の有機EL素子は、少なくとも陽極層、有機発光層、陰極層をこの順に積層した構成を有し、陰極層が少なくとも第一の金属と第二の金属を含んでいる。
【0061】
陰極層で使用する第一の金属の、25℃における標準酸化還元電位(E(A))は、−1.7(V)以上である。
第一の金属の好ましい例としては、Al,Cr,Ta,Zn,Fe,Ti,In,Co,Ni,Ge,Cu,Re,Ru,Ag,Pd,Pt,Au等が挙げられる。好ましくは、Ag,Cr,Cu,Pt又はAuであり、特に、Agが好ましい。
【0062】
第二の金属は、その25℃における標準酸化還元電位(E(B))が、第一の金属との関係で下記式(2)を満たす。
E(A)−1.1≦E(B) (2)
第二の金属の標準酸化還元電位E(B)は、好ましくは、
E(A)−0.5≦E(B)を満たし、より好ましくは、
E(A)−0.3≦E(B)を満たす。
【0063】
第二の金属は、第一の金属に合わせて適宜選択すればよい。好ましくは、Bi,Te,Sn,Ni,V,Mo,Nd,Nb,Zr等の金属であり、特に好ましくはBi,Te,Ni又はNbである。
【0064】
本発明において、上述した第一の金属と第二の金属を組み合わせて使用することにより、透明性に優れ、かつ耐久性に優れた陰極を得ることができる。従って、耐久性に優れた有機EL素子を製造することができる。これは、第一の金属のマイグレーションや溶出が第二の金属によって抑制されるためと推定している。
【0065】
尚、本明細書において、標準酸化還元電位は、25℃、1気圧下の水中における平衡電位(対標準水素電極)を意味する。
【0066】
陰極層は、第一の金属を主成分とすることが好ましい。「主成分」とは、陰極層中に含まれる第一の金属以外の配合成分の各配合量よりも第一の金属量が多いことを意味する。陰極層に占める第一の金属の量は、好ましくは、60重量%〜99.9重量%であり、特に好ましくは80重量%〜99重量%である。
【0067】
陰極層は、上記第一及び第二の金属の他に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を0.1重量%〜5.0重量%含むことが好ましい。これにより、陰極層の仕事関数を低下させることができ、電子輸送層への電子注入がスムーズになるからである。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の陰極層に占める配合量は、好ましくは1重量%〜10重量%であり、特に好ましくは2重量%〜5重量%である。
アルカリ金属又はアルカリ土類金属のなかでも、Li,Mg、Ca又はCsが特に好ましい。
【0068】
陰極層の波長380nm〜780nmにおける光線透過率は10%以上であることが好ましい。光線透過率が10%未満では、発光層で発生した光を充分に取り出すことができないため、素子の発光効率が低下するおそれがある。光線透過率は、好ましくは20%以上であり、特に好ましくは30%以上である。尚、本明細書において光線透過率は、波長380nm〜780nmにおける平均光線透過率を意味する。
【0069】
陰極層は、公知の方法、例えば、各金属を一定の比率で同時に蒸着する方法、各金属を同時にスパッタリングする等の方法により形成することができる。
陰極層の厚さは、0.1〜10nmが好ましく、0.1〜5nmがより好ましい。
【0070】
本発明の有機EL素子において、陽極層、有機発光層等の他の構成要素に関しては、有機EL素子に使用されている公知のものが特に制限なく使用できる。以下、本発明の有機EL素子の具体例について説明する。尚、本発明の有機EL素子は、この実施形態に限定されるものではない。
【0071】
実施形態4
図8は、本発明の一実施形態である有機EL素子を示す図である。
有機EL素子90は、基板91の上に、陽極層92、正孔輸送層93、有機発光層94、電子輸送層95、陰極96、及び透明導電層97を、この順で積層した構成をしている。
基板91は、有機EL素子を支持するものである。陽極層92は正孔を素子内に供給し、陰極層96及び透明導電層97は電子を供給する。正孔輸送層93は、陽極92から正孔を受け取り、有機発光層94への正孔輸送を助ける層である。同様に、電子輸送層95は、陰極96から電子を受け取り、有機発光層94への電子輸送を助ける層である。有機発光層94は、電子と正孔の再結合によって光を発生する層である。
有機EL素子90は、陽極92及び陰極96間に電圧を印加し、電子及び正孔を有機発光層94に供給することにより発光する。その光を陰極層96側から取り出す。
【0072】
有機EL素子90では、上述した金属の組み合わせを含む陰極層96を有している。従来のEL素子では、陰極層96に使用した金属、例えば、Ag等が、素子の駆動により変質し、電子輸送層95や有機発光層94等に拡散するため、有機層を劣化させたり、陽極層2と短絡することによるショート等の原因となっていた。
本発明の有機EL素子では、陰極層に使用する金属の拡散を抑制できるため、金属の拡散に起因する素子の劣化を有効に防止できる。従って、素子の長寿命化が可能となる。
【0073】
有機EL素子90において、基板91には、ガラス、ポリエステル等の高分子フィルム又はアモルファスシリコン等を使用できる。
陽極層92には、酸化インジウム−酸化錫(ITO)、酸化インジウム−酸化亜鉛(IZO)等の透明電極、Cr,Au等の金属が用いられる。膜厚は100nm〜200nmが好ましい。
【0074】
正孔輸送層93には、公知のもの、例えば、ポリ−N−ビニルカルバゾール誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフェニレン、ポリチオフェン、ポリメチルフェニルシラン、ポリアニリン、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、カルバゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ポルフィリン誘導体(フタロシアニン等)、芳香族三級アミン化合物、スチリルアミン誘導体、ブタジエン化合物、ベンジジン誘導体、ポリスチレン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、テトラフェニルベンゼン誘導体、スターバーストポリアミン誘導体等が使用できる。
【0075】
有機発光層94は、ホスト化合物とドーパントからなるものが好ましい。ホスト化合物は、電子又は正孔の少なくとも一方の電荷を輸送する。ホスト化合物の好ましい例として、公知のカルバゾール誘導体、窒素原子を有する縮合ヘテロ環骨格を有する化合物等を挙げることができる。ホスト化合物は高分子化合物であってもよい。ホストになる高分子化合物としては、カルバゾールを含むモノマー、ダイマー、トリマー等のオリゴマー、カルバゾール基を有する高分子化合物等を挙げることができる。
【0076】
電子輸送層95には、公知のオキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ニトロ置換フルオレノン誘導体、トピランジオキサイド誘導体、ジフェニルキノン誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、アントロン誘導体、ペリレン誘導体、オキシン誘導体、キノリン錯体誘導体等が使用できる。
【0077】
透明導電層97には、公知の透明導電材料、例えば、酸化錫、ITO、IZO等を使用できる。また、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポロピロール、又はそれらの誘導体等の有機材料も使用できる。特に、IZOを150℃以下の低温で製膜したものが好ましい。
[実施例]
【0078】
第一発明
実施例1
図1に示す構成の有機EL素子を製造した。
陽極20としてクロムとセリウムの合金(仕事関数:5.3eV)を用いた。ガラス基板10上に、この合金を膜厚200nmでDCスパッタリングにより成膜した。スパッタガスとしてアルゴン(Ar)を用い、圧力は0.2Pa、DC出力は300Wであった。リソグラフィー技術を用いて、所定の形状にパターニングして、陽極20を得た。エッチング液としてETCH−1(三洋化成工業(株)製)を用いた。クロムはこのエッチング液により高精度かつ再現性よく加工できる。さらに、加工精度が要求される場合は、ドライエッチングによる加工も可能である。エッチングガスとしては、塩素(C1)と酸素(O)の混合ガスを用いることができる。特に、リアクティブイオンエッチング(RIE)を用いれば、高精度な加工ができ、かつエッチング面の形状の制御が可能である。所定の条件でエッチングすれば、テーパー状の加工が可能で、陰極50−陽極20間ショートを低減できる。
【0079】
次に、この基板10上に、絶縁層30として、二酸化珪素(SiO)をスパッタリングにより膜厚200nmに形成した。リソグラフィー技術を用いて、陽極20上に開口を設ける様にSiOを加工した。SiOのエッチングには、フッ酸とフッ化アンモニウムの混合液を使用した。この開口部が、有機EL素子の発光部分となる。
【0080】
続いて、このガラス基板10を、真空蒸着装置に入れ、発光層40及び陰極50の金属層52を蒸着により形成した。発光層40については、正孔注入層42として4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、正孔輸送層44としてビス(N−ナフチル)−N−フェニルベンジジン(α−NPD)、発光媒体層46として8−キノリノールアルミニウム錯体(Alq)を用いた。陰極50の金属層52には、マグネシウムと銀の合金(Mg:Ag)を用いた。発光層40に属する各材料は、それぞれ0.2gを抵抗加熱用のボートに充填して真空蒸着装置の所定の電極に取り付けた。金属層52については、マグネシウム0.1g、銀0.4gをボートに充填して、真空蒸着装置の所定の電極に取り付けた。真空チャンバを、1.0x10−4Paまで減圧した後、各ボートに電圧を印加し、順次加熱して蒸着した。金属マスクを用いることにより所定の部分のみ発光層40及び金属層52を蒸着させた。所定の部分とは、基板10上で、陽極20が露出している部分である。陽極20の露出している部分だけに高精度に蒸着することは困難であるので、陽極20の露出している部分全体を覆うように(絶縁層30の縁にかかるように)蒸着マスクを設計した。まず、正孔注入層42としてMTDATAを30nm、正孔輸送層44としてα−NPDを20nm、発光媒体層46としてAlqを50nm蒸着した。さらに、マグネシウム及び銀の共蒸着して、発光媒体層46上に金属層52を成膜した。マグネシウムと銀は、成膜速度の比を9:1、膜厚をl0nmとした。
【0081】
最後に、別の真空チャンバに移し、同じマスクを通して、In−Zn−O系の透明導電層54を成膜した。成膜にはDCスパッタリングを用いた。成膜条件は、スパッタガスとしてアルゴンと酸素の混合ガス(体積比Ar:O=1000:5)を用いて、圧力0.3Pa、DC出力40W、膜厚200nmであった。
【0082】
ガラス基板10上に陽極20を成膜し、その反射率を測定したところ、波長460nmで65%であった。また、波長460nmで積層陰極50の透過率を測定したところ、52%であった。
【0083】
本実施例の有機EL素子の陽極−陰極間に25mA/cmの電流を印加したところ、駆動電圧は7Vとなり、陰極50側から930cd/mの発光輝度が観測された。陽極20方向に向かった発光の相当量が反射されて逆進し、陰極50側から放射していた。良好なキャリア注入特性及び発光特性を確認することができた。また、発光面にダークスポットは見られなかった。このようにして得られたEL素子の評価結果を表1に示す。
尚、仕事関数は理研計器(株)製AC−1を用いて測定した。
【0084】
実施例2
ガラス基板10上に陽極20として、クロムとランタンの合金(Cr:La=90:10)を膜厚200nmで成膜した他は実施例1と全く同様にEL素子を作製した。このようにして得られたEL素子の評価結果を表1に示す。
【0085】
実施例3
ガラス基板10上に陽極20として、銀とネオジウムの合金(Ag:Nd=90:10)を膜厚200nmで成膜した他は実施例1と全く同様にEL素子を作製した。このようにして得られたEL素子の評価結果を表1に示す。
【0086】
実施例4
ガラス基板10上に陽極20として、モリブデンとサマリウムの合金(Mo:Sm=95:5)を膜厚200nmで成膜した他は実施例1と全く同様にEL素子を作製した。このようにして得られたEL素子の評価結果を表1に示す。
【0087】
実施例5
ガラス基板10上に陽極20として、タングステンとユーロピウムの合金(W:Eu=95:5)を膜厚200nmで成膜した他は実施例1と全く同様にEL素子を作製した。このようにして得られたEL素子の評価結果を表1に示す。
【0088】
実施例6
ガラス基板10上に陽極20として、銀、パラジウム、銅とセリウムの合金(Ag:Pd:Cu:Ce=95:0.5:1:3.5)を膜厚200nmで成膜した他は実施例1と全く同様にEL素子を作製した。このようにして得られたEL素子の評価結果を表1に示す。
【0089】
実施例7
ガラス基板10上に陽極20として、タンタルとネオジウム(Ta:Nd=50:50)の合金を膜厚200nmで成膜した他は実施例1と全く同様にEL素子を作製した。このようにして得られたEL素子の評価結果を表1に示す。
【0090】
実施例8
ガラス基板10上に陽極20として、ニオブとセリウムの合金(Nb:Ce=50:50)を膜厚200nmで成膜した他は実施例1と全く同様にEL素子を作製した。このようにして得られたEL素子の評価結果を表1に示す。
【0091】
実施例9
ガラス基板10上に陽極20として、ニッケル、コバルトとセリウムの合金(Ni:Co:Ce=60:20:20)を膜厚200nmで成膜した他は実施例1と全く同様にEL素子を作製した。このようにして得られたEL素子の評価結果を表1に示す。
【0092】
実施例10
ガラス基板10上に陽極20として、白金とサマリウムの合金(Pt:Sm=95:5)を膜厚200nmで成膜した他は実施例1と全く同様にEL素子を作製した。このようにして得られたEL素子の評価結果を表1に示す。
【0093】
実施例11
ガラス基板10上に陽極20として、シリコンとネオジウムの合金(Si:Nd=90:10)を膜厚200nmで成膜した他は実施例1と全く同様にEL素子を作製した。このようにして得られたEL素子の評価結果を表1に示す。
【0094】
実施例12
ガラス基板10上に陽極20として、銀をスパッタリング法で190nm成膜した後、酸化クロムと酸化セリウムの合金(CrO:CeO=90:10)を膜厚10nmで成膜した他は実施例1と全く同様にEL素子を作製した。このようにして得られたEL素子の評価結果を表1に示す。
【0095】
比較例1
ガラス基板10上に陽極20として、透明導電膜のITOを200nm成膜した他は実施例1と全く同様にEL素子を作製した。このように作製した有機EL素子の陽極−陰極間に25mA/cmの電流を印加したところ、駆動電圧は8.5Vとなり、陰極50側からの発光輝度は250cd/mと実施例1の有機EL素子に比べると小さかった。これは陽極20方向に伝搬した発光がほとんど反射せずにガラス基板10側に放出されたことを示している。
【0096】
比較例2
ガラス基板10上に陽極20として、銀とアルミニウムの合金(Ag:Al=50:50)を膜厚200nmで成膜した他は実施例1と全く同様にEL素子を作製した。このようにして得られたEL素子の評価結果を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
表1から明らかな様に、実施例の有機EL素子は、正孔の注入性が高いので駆動電圧が低く、素子の発熱が抑えられたため発光輝度が高いと考えられる。また、発光層40で発生した発光を上面から効率的に取り出すことができるので、良好な上面発光を得ることが可能である。
【0099】
第二発明
本発明に関する実施例において、セリウム3d軌道の結合エネルギーの測定は、X線光電子分光分析装置(アルバックファイ社製、ESCA5400、X線源:Mg−Kα)を用いて行った。このX線光電子分光分析装置の検出器として、静電半球型の検出器を用い、その検出器のパスエネルギーを35.75eVに設定し、ピークの基準は、C1sを284.6eVに設定して測定した。尚、図6及び図7に示す透明導電膜表面のセリウム3d軌道の結合エネルギースペクトルも、この条件で測定した。
【0100】
また、下記の実施例において測定された「透明導電膜表面のセリウム3d軌道の結合エネルギースペクトル」はいずれも、特許請求の範囲に記載された「前記透明導電膜の表面のセリウム3d軌道にある電子の結合エネルギーを、X線光電子分光法によって測定したグラフ」の一例に相当する。
【0101】
また、下記のいずれの実施例においても、SAは、セリウム3d軌道の結合エネルギースペクトルにおける877eV〜922eVの間の全ピーク面積を意味し、SBは、このスペクトルにおける914eV〜920eVの間の全ピーク面積を意味する。
また、透明導電膜の仕事関数の値は、透明導電膜をUV(紫外線)洗浄した後、空気中、光電子分光装置(理研計器社製、AC−1)で測定した。
【0102】
実施例13
(1)透明導電基板の製造準備(ターゲット1の作成)
酸化インジウムと、酸化錫と、酸化セリウムと、の粉末(いずれの粉末も平均粒子系1μm以下である)を、インジウムのモル比であるIn/(In+Sn+Ce)の値が、0.9であり、錫のモル比であるSn/(In+Sn+Ce)の値が、0.05であり、かつセリウムのモル比であるCe/(In+Sn+Ce)の値が、0.05になるような比率で、各材料を準備し、湿式ボールミル容器内に収容した。この湿式ボールミル容器内に収容された上記粉末を72時間に渡って混合粉砕し、粉砕物を得た。
尚、上記の通り、Sn、In、Ce等の元素記号を数式中で用いる場合には、各元素記号は、その元素のモル数を表す。また、下記の実施例において、数式中にZn、Ga等を用いる場合も、同様に、各元素記号は、その元素のモル数を表す。
【0103】
次いで、得られた粉砕物を造粒してから直径4インチ、厚さ5mmの寸法にプレス成形し、成形体を得た。この成形体を焼成炉に収容した後、1400℃の温度で36時間加熱焼成し、透明導電膜112用のターゲット1を作成した。
【0104】
(2)透明導電基板の製造
図9には、本実施例における透明導電基板138の製造工程を表す説明図が示されている。まず、高周波スパッタリング装置の真空槽内に、厚さ1.1mm、縦25mm、横75mmの透明なガラス基板110、及び作成した上記ターゲット1を配置した。高周波スパッタリング装置を稼働して、上記真空槽内の到達真空度が、5×10−4Paになるまで減圧した状態で、スパッタ圧力が0.1Paとなるように、アルゴンガス及び酸素(その体積比は80:20である)を、上記真空槽内に導入した。この時、酸素の分圧は、0.02Paである。図9(1)は、このガラス基板110の様子を示しており、このガラス基板110は、特許請求の範囲における透明基材の一例に相当する。尚、これらのスパッタガスの成分比及びスパッタガス中の酸素分圧は、表2中に示されている。
【0105】
【表2】

【0106】
上記雰囲気中において、真空槽内のガラス基板110の温度を200℃とし、投入電力を100Wとし、製膜時間14分間という条件下で、上記ターゲット1を用いてスパッタリングを行った。この結果、ガラス基板110上に、厚さ110nmの透明導電膜112を形成することにより、導電積層体136を得た。この様子が図9(2)に示されている。
次に引き続いて、アルゴンガス中で、Alターゲットを用いて、厚さ120nmのAl薄膜からなる金属膜114を透明導電膜112上に形成した。この様子が図9(3)に示されている。
【0107】
続いて、燐酸−硝酸−酢酸水溶液(燐酸:硝酸:酢酸=16:1:1)からなるエッチング液を用いて、透明導電膜112/金属膜114をエッチングし、金属膜114の幅を20μmとすることにより、透明導電膜112上に、Alからなる金属細線116を形成した。この様子が図9(4)に示されている。
【0108】
その後、図9(5)に示すように、上記ターゲット1を用いてガラス基板110上に製膜した透明導電膜112を、蓚酸水溶液によってエッチングした。このエッチングにより、1本のAlからなる金属細線116が、透明導電膜112の一端に配置するように、パターニングを行った。以下、このようにパターニングを行って作成した金属細線116及び透明導電膜112を総称して、パターニング電極118と呼ぶ。
【0109】
また、以下、ガラス基板110と、このパターニング電極118と、を総称して透明導電基板138と呼ぶ。この透明導電基板138は、特許請求の範囲に記載の有機電界発光素子用電極基板の一例に相当する。この透明導電基板138が、図9(5)に示されている。
尚、ターゲット1を用いて製膜した透明導電膜112の幅は、90μmであった。また、上記エッチングで得られたAlからなる金属細線116は、特許請求の範囲に記載の金属導体の一例に相当する。
この透明導電基板138をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄し、さらにN(窒素ガス)雰囲気中で乾燥させた後、UV(紫外線)及びオゾンを用いて、10分間洗浄した。
【0110】
(3)透明導電基板の物性の測定結果
ターゲット1を用いて製膜した透明導電膜112の比抵抗を測定したところ、その値は5.4×10−3Ω・cmであった。また、パターニング電極118の光透過率(波長550nmにおける光透過率)を測定したところ、その値は89%であった。また、UV洗浄後における透明導電基板138中の透明導電膜112の仕事関数を、光電子分光装置(理研計器社製、AC−1)で測定したところ、その値は5.6eVであった。尚、これらの測定結果は、表2中に示されている。
次に、上記パターニング電極118表面におけるCe3dピークをXPSを用いて測定した。この測定の結果、上記SB及び上記SAの面積比であるSB/SAの値が、0.12であった。この測定結果も表2中に示されている。
【0111】
(4)有機EL素子の形成
真空蒸着装置における真空槽内の基板ホルダに、透明導電基板138を装着し、次いで、この真空槽内を1×10−6Torr以下の真空度となるまで減圧した。この状態で、透明導電基板138のパターニング電極118上に、正孔輸送層126、有機発光層128、電子注入層130、及び陰極層132を順次積層して、有機EL素子134を得た。この様子が図5に示されている。尚、上記有機発光層128から、上記陰極層132を形成するまでの間、真空槽内では真空状態を維持した。このように、本実施の形態では、一定の真空条件下で製膜を行った。また、この有機EL素子134は、特許請求の範囲に記載の有機電界発光素子の一例に相当する。
【0112】
このような有機EL素子134を真空蒸着法により形成するにあたっての条件(材料及び手順)を順に説明する。
まず、正孔輸送層126の材料としてTBDBを用いて、透明導電基板138の透明導電膜112上に、60nmの正孔輸送層126を真空蒸着した。次に、有機発光層128の材料としてDPVDPAN及びD1を用いて、上記正孔輸送層126上に、真空下で40nmの有機発光層128を共蒸着した。この時のDPVDPANの蒸着速度は、40nm/sであり、D1の蒸着速度は1nm/sであった。
【0113】
次に、電子注入層130の材料としてAlqを用いて、上記有機発光層128上に、20nmの電子注入層130を真空蒸着した。最後に、Al及びLiを真空蒸着し、電子注入層130上に陰極層132を形成することにより、有機EL素子134を形成した。この時のAlの蒸着速度は、1nm/sであり、Liの蒸着速度は、0.01nm/sであり、Al/Liの膜厚は200nmであった。
尚、上記各層の材料及びこれらの膜厚は、表2中に示されている。また、TBDBやDPVDPAN、D1、Alqの化学式が図10に示されている。
【0114】
(5)製造した有機EL素子の評価
得られた有機EL素子134における陰極層132をマイナス電極とし、透明導電膜112をプラス電極として、両電極間に5.0Vの直流電圧を印加した。
この時の電流密度は、1.8mA/cmであり、有機EL素子134の発光輝度を測定したところ、その値は141nit(cd/m)であった。また、その発光色は青色であることを確認した。
さらに耐久性評価として、有機EL素子134を10mA/cmで定電流駆動したところ、最初の電圧をVとし、1000時間経過後の電圧をVとした場合に、電圧上昇率(=V/V)は1.7に抑えられた。
【0115】
実施例14
(1)透明導電基板の製造準備(ターゲット2の作成)
酸化インジウムと、酸化セリウムと、の粉末(いずれの粉末も平均粒子系1μm以下である)を、インジウムのモル比であるIn/(In+Ce)の値が、0.95であり、かつセリウムのモル比であるCe/(In+Ce)の値が、0.05になるような比率で、各材料を準備し、湿式ボールミル容器内に収容した。この湿式ボールミル容器内に収容された上記粉末を72時間に渡って混合粉砕し、粉砕物を得た。
この粉砕物を、上記実施例13(1)と同様の処理によって、造粒し、プレス成形し、加熱焼成することにより、透明導電膜112用のターゲット2を作成した。
【0116】
(2)透明導電基板の製造
まず、高周波スパッタリング装置の真空槽内に、実施例13と同様のガラス基板110及び上記ターゲット2を配置した。高周波スパッタリング装置を稼働して、上記真空槽内の到達真空度が、5×10−4Paになるまで減圧した状態で、スパッタ圧力が0.1Paとなるように、アルゴンガスを真空槽内に導入した。図9(1)は、このガラス基板110の様子を示している。尚、この時、上記真空槽内において、スパッタリングガスの成分は、アルゴン100%であり、酸素分圧は0Paであることはいうまでもない(表2)。
【0117】
上記雰囲気中において、真空槽内のガラス基板110の温度を200℃とし、投入電力を100Wとし、製膜時間14分間という条件下で、上記ターゲット2を用いてスパッタリングを行った。この結果、ガラス基板110上に、厚さ110nmの透明導電膜12を形成することにより、導電積層体136を得た。この様子が図9(2)に示されている。
【0118】
次に引き続いて、Agターゲットを用いて、透明導電膜112上に、厚さ120nmのAg薄膜からなる金属膜114をアルゴンガス中で形成した。この様子が図9(3)に示されている。
続いて、燐酸−硝酸−酢酸水溶液(燐酸:硝酸:酢酸=8:1:8)からなるエッチング液を用いて、透明導電膜112/金属膜114をエッチングし、金属膜114の幅を20μmとすることにより、透明導電膜112上に、Agからなる金属細線116を形成した。この様子が図9(4)に示されている。
【0119】
その後、図9(5)に示すように、実施例13と同様のパターンとするべく、上記ターゲット2を用いて製膜した透明導電膜112を蓚酸水溶液にてエッチングし、その幅を90μmとした。このようにパターニングを行って作成した金属細線116及び透明導電膜112を総称して、パターニング電極118と呼ぶ。
また、以下、ガラス基板110と、このパターニング電極118と、を総称して透明導電基板138と呼ぶ。この透明導電基板138は、特許請求の範囲に記載の有機電界発光素子用電極基板の一例に相当する。この透明導電基板138が、図9(5)に示されている。また、上記エッチングで得られたAgからなる金属細線116は、特許請求の範囲に記載の金属導体の一例に相当する。
この透明導電基板138をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄し、さらにN(窒素ガス)雰囲気中で乾燥させた後、UV(紫外線)及びオゾンを用いて、10分間洗浄した。
【0120】
(3)透明導電基板の物性の測定結果
ターゲット2を用いて製膜した透明導電膜112の比抵抗を測定したところ、その値は7.7×10−4Ω・cmであった。また、パターニング電極118の光透過率(波長550nmにおける光透過率)を測定したところ、その値は89%であった。また、UV洗浄後における透明導電基板138中の透明導電膜112の仕事関数を、光電子分光装置(理研計器社製、AC−1)で測定したところ、その値は5.8eVであった。尚、これらの測定結果は、表2中に示されている。
次に、上記パターニング電極118表面におけるCe3dピークをXPSを用いて測定した。この測定の結果、上記SB及び上記SAの面積比であるSB/SAの値が、0.02であった。この測定結果も表2中に示されている。
【0121】
(4)有機EL素子の形成
図5に示すように、実施例13と同様にして、透明導電基板138のパターニング電極118上に、正孔輸送層126、有機発光層128、電子注入層130、及び陰極層132を順次積層して、有機EL素子134を得た。また、この有機EL素子134は、特許請求の範囲に記載の有機電界発光素子の一例に相当する。
【0122】
(5)製造した有機EL素子の評価
得られた有機EL素子134における陰極層132をマイナス電極とし、透明導電膜112をプラス電極として、両電極間に5.0Vの直流電圧を印加した。
この時の電流密度は、2.0mA/cmであり、有機EL素子134の発光輝度を測定したところ、その値は160nit(cd/m)であった。また、その発光色は青色であることを確認した。
さらに耐久性評価として、有機EL素子134を10mA/cmで定電流駆動したところ、最初の電圧をVとし、1000時間経過後の電圧をVとした場合に、電圧上昇率(=V/V)は1.4に抑えられた。
【0123】
実施例15
(1)導電積層体の製造準備(ターゲット3の作成)
酸化インジウムと、酸化亜鉛と、酸化セリウムと、の粉末(いずれの粉末も平均粒子系1μm以下である)を、インジウムのモル比であるIn/(In+Zn+Ce)の値が、0.90であり、亜鉛のモル比であるZn/(In+Zn+Ce)の値が、0.05であり、かつセリウムのモル比であるCe/(In+Zn+Ce)の値が、0.05になるような比率で、各材料を準備し、湿式ボールミル容器内に収容した。この湿式ボールミル容器内に収容された上記粉末を72時間に渡って混合粉砕し、粉砕物を得た。
この粉砕物を、上記実施例13(1)と同様の処理によって、造粒し、プレス成形し、加熱焼成することにより、透明導電膜112用のターゲット3を作成した。
【0124】
(2)導電積層体の製造
まず、高周波スパッタリング装置の真空槽内に、実施例13と同様のガラス基板110及び上記ターゲット3を配置した。高周波スパッタリング装置を稼働して、上記真空槽内の到達真空度が、5×10−4Paになるまで減圧した状態で、スパッタ圧力が0.1Paとなるように、アルゴンガス及び酸素(その体積比は95:5である)を、真空槽内に導入した。この時、酸素の分圧は、0.005Paである。図9(1)は、このガラス基板110の様子を示している。尚、これらのスパッタガスの成分比及びスパッタガス中の酸素分圧は、表2中に示されている。
【0125】
上記雰囲気中において、真空槽内のガラス基板110の温度を200℃とし、投入電力を100Wとし、製膜時間14分間という条件下で、上記ターゲット3を用いてスパッタリングを行った。この結果、ガラス基板110上に、厚さ110nmの透明導電膜112を形成することにより、導電積層体136を得た。この様子が図9(2)に示されている。
【0126】
その後、上記ターゲット3を用いて製膜した透明導電膜112を蓚酸水溶液にてエッチングし、その幅を90μmとした。このように、その幅を90μmにパターニングして作成した透明導電膜112をパターニング電極118と呼ぶ。
また、ガラス基板110と、このパターニング電極118と、を総称して導電積層体136と呼ぶ。この導電積層体136は、特許請求の範囲に記載の導電積層体の一例に相当する。
この導電積層体136をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄し、さらにN(窒素ガス)雰囲気中で乾燥させた後、UV(紫外線)及びオゾンを用いて、10分間洗浄した。
【0127】
(3)導電積層体の物性の測定結果
ターゲット3を用いて製膜した透明導電膜112の比抵抗を測定したところ、その値は4.9×10−4Ω・cmであった。また、パターニング電極118の光透過率(波長550nmにおける光透過率)を測定したところ、その値は89%であった。また、UV洗浄後における導電積層体136中の透明導電膜112の仕事関数を、光電子分光装置(理研計器社製、AC−1)で測定したところ、その値は5.9eVであった。尚、これらの測定結果は、表2中に示されている。
次に、上記パターニング電極118表面におけるCe3dピークをXPSを用いて測定した。この測定の結果、上記SB及び上記SAの面積比であるSB/SAの値が、0.025であった。この測定結果も表2中に示されている。
【0128】
(4)有機EL素子の形成
実施例13と同様にして、導電積層体136のパターニング電極118上に、正孔輸送層126、有機発光層128、電子注入層130、及び陰極層132を順次積層して、有機EL素子134を得た。また、この有機EL素子134は、特許請求の範囲に記載の有機電界発光素子の一例に相当する。
【0129】
(5)製造した有機EL素子の評価
得られた有機EL素子134における陰極層132をマイナス電極とし、透明導電膜112をプラス電極として、両電極間に5.0Vの直流電圧を印加した。
この時の電流密度は、1.0mA/cmであり、有機EL素子34の発光輝度を測定したところ、その値は160nit(cd/m)であった。また、その発光色は青色であることを確認した。
さらに耐久性評価として、有機EL素子134を10mA/cmで定電流駆動したところ、最初の電圧をVとし、1000時間経過後の電圧をVとした場合に、電圧上昇率(=V/V)は1.6に抑えられた。
【0130】
実施例16
(1)透明導電基板の製造準備(ターゲット4の作成)
酸化インジウムと、酸化錫と、酸化セリウムと、の粉末(いずれの粉末も平均粒子系1μm以下である)を、インジウムのモル比であるIn/(In+Sn+Ce)の値が、0.90であり、錫のモル比であるSn/(In+Sn+Ce)の値が、0.05であり、かつセリウムのモル比であるCe/(In+Sn+Ce)の値が、0.05になるような比率で、各材料を準備し、湿式ボールミル容器内に収容した。この湿式ボールミル容器内に収容された上記粉末を72時間に渡って混合粉砕し、粉砕物を得た。
この粉砕物を、上記実施例13(1)と同様の処理によって、造粒し、プレス成形し、加熱焼成することにより、透明導電膜112用のターゲット4を作成した。
【0131】
(2)透明導電基板の製造
まず、高周波スパッタリング装置の真空槽内に、実施例13と同様のガラス基板110及び上記ターゲット4を配置した。高周波スパッタリング装置を稼働して、上記真空槽内の到達真空度が、5×10−4Paになるまで減圧した状態で、スパッタ圧力が0.1Paとなるように、アルゴンガスを真空槽内に導入した。図9(1)は、このガラス基板10の様子を示している。尚、この時、上記真空槽内において、スパッタリングガスの成分は、アルゴン100%であり、酸素分圧は0Paであることはいうまでもない(表2)。
【0132】
上記雰囲気中において、真空槽内のガラス基板110の温度を200℃とし、投入電力を100Wとし、製膜時間14分間という条件下で、上記ターゲット4を用いてスパッタリングを行った。この結果、ガラス基板110上に、厚さ110nmの透明導電膜112を形成することにより、導電積層体136を得た。この様子が図9(2)に示されている。
【0133】
次に引き続いて、アルゴンガス中で、Moターゲットを用いて、厚さ120nmのMo薄膜からなる金属膜114を透明導電膜112上に形成した。この様子が図9(3)に示されている。
続いて、ヘキサシアノ鉄(III)カリウムと水酸化ナトリウムの水溶液を用いて、透明導電膜112/Mo薄膜114をエッチングし、20μm幅のMoからなる金属細線116を透明導電膜112上に形成した。この様子が図9(4)に示されている。
【0134】
その後、図9(5)に示すように、実施例13と同様のパターンとするべく、このターゲット4を用いて製膜した透明導電膜112を、蓚酸水溶液にてエッチングし、その幅を90μmとした。このようにパターニングを行って作成した金属細線116及び透明導電膜112を総称して、パターニング電極118と呼ぶ。
また、以下ガラス基板110と、このパターニング電極118と、を総称して透明導電基板138と呼ぶ。この透明導電基板138は、特許請求の範囲に記載の有機電界発光素子用電極基板の一例に相当する。この透明導電基板138が、図9(5)に示されている。また、上記エッチングで得られたMoからなる金属細線116は、特許請求の範囲に記載の金属導体の一例に相当する。
この透明導電基板138をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄し、さらにN(窒素ガス)雰囲気中で乾燥させた後、UV(紫外線)及びオゾンを用いて、10分間洗浄した。
【0135】
(3)透明導電基板の物性の測定結果
ターゲット4を用いて製膜した透明導電膜112の比抵抗を測定したところ、その値は5.0×10−4Ω・cmであった。また、パターニング電極118の光透過率(波長550nmにおける光透過率)を測定したところ、その値は89%であった。また、UV洗浄後における透明導電基板138中の透明導電膜112の仕事関数を、光電子分光装置(理研計器社製、AC−1)で測定したところ、その値は5.6eVであった。尚、これらの測定結果は、表2中に示されている。
次に、上記パターニング電極118表面におけるCe3dピークをXPSを用いて測定した。この測定の結果、上記SB及び上記SAの面積比であるSB/SAの値が、0.029であった。この測定結果も表2中に示されている。
【0136】
(4)有機EL素子の形成
図5に示すように、実施例13と同様にして、透明導電基板138のパターニング電極118上に、正孔輸送層126、有機発光層128、電子注入層130、及び陰極層132を順次積層して、有機EL素子134を得た。また、この有機EL素子134は、特許請求の範囲に記載の有機電界発光素子の一例に相当する。
【0137】
(5)製造した有機EL素子の評価
得られた有機EL素子134における陰極層132をマイナス電極とし、透明導電膜112をプラス電極として、両電極間に5.0Vの直流電圧を印加した。
この時の電流密度は、2.0mA/cmであり、有機EL素子134の発光輝度を測定したところ、その値は141nit(cd/m)であった。また、その発光色は青色であることを確認した。
さらに耐久性評価として、有機EL素子134を10mA/cmで定電流駆動したところ、最初の電圧をVとし、1000時間経過後の電圧をVとした場合に、電圧上昇率(=V/V)は1.7に抑えられた。
【0138】
実施例17
(1)透明導電基板の製造準備(ターゲット5の作成)
酸化インジウムと、酸化ジルコニウムと、酸化セリウムと、の粉末(いずれの粉末も平均粒子系1μm以下である)を、インジウムのモル比であるIn/(In+Zr+Ce)の値が、0.90であり、ジルコニウムのモル比であるZr/(In+Zr+Ce)の値が、0.05であり、かつセリウムのモル比であるCe/(In+Zr+Ce)の値が、0.05になるような比率で、各材料を準備し、湿式ボールミル容器内に収容した。この湿式ボールミル容器内に収容された上記粉末を72時間に渡って混合粉砕し、粉砕物を得た。
この粉砕物を、上記実施例13(1)と同様の処理によって、造粒し、プレス成形し、加熱焼成することにより、透明導電膜112用のターゲット5を作成した。
【0139】
(2)透明導電基板の製造
まず、高周波スパッタリング装置の真空槽内に、実施例13と同様のガラス基板110及び上記ターゲット5を配置した。高周波スパッタリング装置を稼働して、上記真空槽内の到達真空度が、5×10−4Paになるまで減圧した状態で、スパッタ圧力が0.1Paとなるように、アルゴンガスを真空槽内に導入した。図9(1)は、このガラス基板110の様子を示しており、特許請求の範囲に記載の透明基材の一例に相当する。尚、この時、上記真空槽内において、スパッタリングガスの成分は、アルゴン100%であり、酸素分圧は0Paであることはいうまでもない(表2)。
【0140】
上記雰囲気中において、真空槽内のガラス基板110の温度を200℃とし、投入電力を100Wとし、製膜時間14分間という条件下で、上記ターゲット5を用いてスパッタリングを行った。この結果、ガラス基板110上に、厚さ110nmの透明導電膜112を形成することにより、導電積層体136を得た。この様子が図9(2)に示されている。
【0141】
次に引き続いて、アルゴンガス中で、Crターゲットを用いて、厚さ120nmのCr薄膜からなる金属膜114を透明導電膜112上に形成した。この様子が図9(3)に示されている。
続いて、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸の水溶液を用いて、透明導電膜112/Cr薄膜114をエッチングし、金属膜114の幅を20μmとすることにより、透明導電膜112上に、Crからなる金属細線116を形成した。この様子が図9(4)に示されている。
【0142】
その後、図9(5)に示すように、実施例13と同様のパターンとするべく、このターゲット5を用いて製膜した透明導電膜112を蓚酸水溶液にてエッチングし、その幅を90μmとした。このようにパターニングを行って作成した金属細線116及び透明導電膜112を総称して、パターニング電極118と呼ぶ。
また、以下ガラス基板110と、このパターニング電極118と、を総称して透明導電基板138と呼ぶ。この透明導電基板138は、特許請求の範囲に記載の有機電界発光素子用電極基板の一例に相当する。この透明導電基板138が、図9(5)に示されている。また、上記エッチングで得られたCrからなる金属細線116は、特許請求の範囲に記載の金属導体の一例に相当する。
この透明導電基板138をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄し、さらにN(窒素ガス)雰囲気中で乾燥させた後、UV(紫外線)及びオゾンを用いて、10分間洗浄した。
【0143】
(3)透明導電基板の物性の測定結果
ターゲット5を用いて製膜した透明導電膜112の比抵抗を測定したところ、その値は5.0×10−4Ω・cmであった。また、パターニング電極118の光透過率(波長550nmにおける光透過率)を測定したところ、その値は89%であった。また、UV洗浄後における透明導電基板138中の透明導電膜112の仕事関数を、光電子分光装置(理研計器社製、AC−1)で測定したところ、その値は5.6eVであった。尚、これらの測定結果は、表2中に示されている。
次に、上記パターニング電極118表面におけるCe3dピークをXPSを用いて測定した。この測定の結果、上記SB及び上記SAの面積比であるSB/SAの値が、0.029であった。この測定結果も表2中に示されている。
【0144】
(4)有機EL素子の形成
図5に示すように、実施例13と同様にして、透明導電基板138のパターニング電極118上に、正孔輸送層126、有機発光層128、電子注入層130、及び陰極層132を順次積層して、有機EL素子134を得た。また、この有機EL素子134は、特許請求の範囲に記載の有機電界発光素子の一例に相当する。
【0145】
(5)製造した有機EL素子の評価
得られた有機EL素子134における陰極層132をマイナス電極とし、透明導電膜112をプラス電極として、両電極間に5.0Vの直流電圧を印加した。
この時の電流密度は、2.0mA/cmであり、有機EL素子134の発光輝度を測定したところ、その値は140nit(cd/m)であった。また、その発光色は青色であることを確認した。
さらに耐久性評価として、有機EL素子134を10mA/cmで定電流駆動したところ、最初の電圧をVとし、1000時間経過後の電圧をVとした場合に、電圧上昇率(=V/V)は1.4に抑えられた。
【0146】
実施例18
(1)透明導電基板の製造準備(ターゲット6の作成)
酸化インジウム、酸化ガリウム、及び酸化セリウム、の粉末(いずれの粉末も平均粒子系1μm以下である)を、インジウムのモル比であるIn/(In+Ga+Ce)の値が、0.90であり、ガリウムのモル比であるGa/(In+Ga+Ce)の値が、0.05であり、かつセリウムのモル比であるCe/(In+Ga+Ce)の値が、0.05になるような比率で、各材料を準備し、湿式ボールミル容器内に収容した。この湿式ボールミル容器内に収容された上記粉末を72時間に渡って混合粉砕し、粉砕物を得た。
この粉砕物を、上記実施例13(1)と同様の方法で、成形し、加熱焼成することにより、透明導電膜112用のターゲット6を作成した。
【0147】
(2)透明導電基板の製造
まず、高周波スパッタリング装置の真空槽内に、実施例13と同様のガラス基板110及び上記ターゲット6を配置した。高周波スパッタリング装置を稼働して、上記真空槽内の到達真空度が、5×10−4Paになるまで減圧した状態で、スパッタ圧力が0.1Paとなるように、アルゴンガスを真空槽内に導入した。図9(1)は、このガラス基板110の様子を示している。尚、この時、上記真空槽内において、スパッタリングガスの成分は、アルゴン100%であり、酸素分圧は0Paであることはいうまでもない(表3)。
【0148】
【表3】

【0149】
上記雰囲気中において、真空槽内のガラス基板110の温度を200℃とし、投入電力を100Wとし、製膜時間14分間という条件下で、上記ターゲット6を用いてスパッタリングを行った。この結果、ガラス基板110上に、厚さ110nmの透明導電膜112を形成することにより、導電積層体136を得た。この様子が図9(2)に示されている。
【0150】
次に引き続いて、Moターゲット及びAlターゲットを用いて、Mo(10nm)/Al(100nm)/Mo(10nm)の金属膜114をアルゴンガス中で形成した。
続いて、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムと水酸化ナトリウムの水溶液を用いて、Mo薄膜をエッチングし、燐酸−硝酸−酢酸水溶液(燐酸:硝酸:酢酸=16:1:1)を用いてAl薄膜をエッチングして、(Mo/Al/Mo)の金属膜14の幅を20μmとすることにより、透明導電膜112上に、(Mo/Al/Mo)からなる金属細線116を形成した。
【0151】
その後、実施例13と同様のパターンとするべく、このターゲット6を用いて製膜した透明導電膜112を蓚酸水溶液にてエッチングし、その幅を90μmとした。このようにパターニングを行って作成した金属細線116及び透明導電膜112を総称して、パターニング電極118と呼ぶ。
また、以下ガラス基板110と、このパターニング電極118と、を総称して透明導電基板138と呼ぶ。この透明導電基板138は、特許請求の範囲に記載の有機電界発光素子用電極基板の一例に相当する。また、上記エッチングで得られた(Mo/Al/Mo)からなる金属細線116は、特許請求の範囲に記載の金属導体の一例に相当する。
この透明導電基板138をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄し、さらにN(窒素ガス)雰囲気中で乾燥させた後、UV(紫外線)及びオゾンを用いて、10分間洗浄した。
【0152】
(3)透明導電基板の物性の測定結果
ターゲット6を用いて製膜した透明導電膜112の比抵抗を測定したところ、その値は5.0×10−4Ω・cmであった。また、パターニング電極118の光透過率(波長550nmにおける光透過率)を測定したところ、その値は90%であった。また、UV洗浄後における透明導電基板138中の透明導電膜112の仕事関数を、光電子分光装置(理研計器社製、AC−1)で測定したところ、その値は5.6eVであった。尚、これらの測定結果は、表3中に示されている。
次に、上記パターニング電極118表面におけるCe3dピークをXPSを用いて測定した。この測定の結果、上記SB及び上記SAの面積比であるSB/SAの値が、0.029であった。この測定結果も表3中に示されている。
【0153】
(4)有機EL素子の形成
実施例13と同様にして、透明導電基板138のパターニング電極118上に、正孔輸送層126、有機発光層128、電子注入層130、及び陰極層132を順次積層して、有機EL素子134を得た。また、この有機EL素子134は、特許請求の範囲に記載の有機電界発光素子の一例に相当する。
【0154】
(5)製造した有機EL素子の評価
得られた有機EL素子134における陰極層132をマイナス電極とし、透明導電膜112をプラス電極として、両電極間に5.0Vの直流電圧を印加した。
この時の電流密度は、2.0mA/cmであり、有機EL素子134の発光輝度を測定したところ、その値は135nit(cd/m)であった。また、その発光色は青色であることを確認した。
さらに耐久性評価として、有機EL素子134を10mA/cmで定電流駆動したところ、最初の電圧をVとし、1000時間経過後の電圧をVとした場合に、電圧上昇率(=V/V)は1.4に抑えられた。
【0155】
実施例19
(1)透明導電基板の製造準備(ターゲット7の作成)
酸化インジウム、酸化錫、及び酸化セリウム、の粉末(いずれの粉末も平均粒子系1μm以下である)を、インジウムのモル比であるIn/(In+Sn+Ce)の値が、0.90であり、錫のモル比であるSn/(In+Sn+Ce)の値が、0.05であり、かつセリウムのモル比であるCe/(In+Sn+Ce)の値が、0.05になるような比率で、各材料を準備し、湿式ボールミル容器内に収容した。この湿式ボールミル容器内に収容された上記粉末を72時間に渡って混合粉砕し、粉砕物を得た。
この粉砕物を、上記実施例13(1)と同様の処理によって、造粒し、プレス成形し、加熱焼成することにより、透明導電膜112用のターゲット7を作成した。
【0156】
(2)透明導電基板の製造
まず、高周波スパッタリング装置の真空槽内に、実施例13と同様のガラス基板110及び上記ターゲット7を配置した。高周波スパッタリング装置を稼働して、上記真空槽内の到達真空度が、5×10−4Paになるまで減圧した状態で、スパッタ圧力が0.5Paとなるように、アルゴンガス及び酸素(その体積比は80:20である)を、上記真空槽内に導入した。この時、酸素の分圧は、0.1Paである。図9(1)は、このガラス基板110の様子を示している。尚、これらのスパッタガスの成分比及びスパッタガス中の酸素分圧は、表3中に示されている。
【0157】
上記雰囲気中において、真空槽内のガラス基板110の温度を200℃とし、投入電力を100Wとし、製膜時間14分間という条件下で、上記ターゲット7を用いてスパッタリングを行った。この結果、ガラス基板110上に、厚さ110nmの透明導電膜112を形成することにより、導電積層体136を得た。この様子が図9(2)に示されている。
【0158】
次に引き続いて、アルゴンガス中で、Alターゲットを用いて、厚さ120nmのAl薄膜からなる金属膜114を透明導電膜112上に形成した。この様子が、図9(3)に示されている。
続いて燐酸−硝酸−酢酸水溶液(燐酸:硝酸:酢酸=16:1:1)を用いて、透明導電膜112/金属膜114をエッチングし、金属膜114の幅を20μmとすることにより、透明導電膜112上に、Alからなる金属細線116を形成した。この様子が図9(4)に示されている。
【0159】
その後、図9(5)に示すように、実施例13と同様のパターンとするべく、このターゲット7を用いて製膜した透明導電膜112を蓚酸水溶液にてエッチングし、その幅を90μmとした。このようにパターニングを行って作成した金属細線116及び透明導電膜112を総称して、パターニング電極118と呼ぶ。
また、以下ガラス基板110と、このパターニング電極118と、を総称して透明導電基板138と呼ぶ。この透明導電基板138は、特許請求の範囲に記載の有機電界発光素子用電極基板の一例に相当する。この透明導電基板138が、図9(5)に示されている。また、上記エッチングで得られたAlからなる金属細線116は、特許請求の範囲に記載の金属導体の一例に相当する。
この透明導電基板138をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄し、さらにN(窒素ガス)雰囲気中で乾燥させた後、UV(紫外線)及びオゾンを用いて、10分間洗浄した。
【0160】
(3)透明導電基板の物性の測定結果
ターゲット7を用いて製膜した透明導電膜112の比抵抗を測定したところ、その値は5.0×10−3Ω・cmであった。また、パターニング電極118の光透過率(波長550nmにおける光透過率)を測定したところ、その値は89%であった。また、UV洗浄後における透明導電基板138中の透明導電膜112の仕事関数を、光電子分光装置(理研計器社製、AC−1)で測定したところ、その値は5.6eVであった。尚、これらの測定結果は、表3中に示されている。
次に、上記パターニング電極118表面におけるCe3dピークをXPSを用いて測定した。この測定の結果、上記SB及び上記SAの面積比であるSB/SAの値が、0.12であった。この測定結果も表3中に示されている。
【0161】
(4)有機EL素子の形成
図5に示すように、実施例13と同様にして、透明導電基板138のパターニング電極118上に、正孔輸送層126、有機発光層128、電子注入層130、及び陰極層132を順次積層して、有機EL素子134を得た。また、この有機EL素子134は、特許請求の範囲に記載の有機電界発光素子の一例に相当する。
【0162】
(5)製造した有機EL素子の評価
得られた有機EL素子134における陰極層132をマイナス電極とし、透明導電膜112をプラス電極として、両電極間に5.0Vの直流電圧を印加した。
この時の電流密度は、1.6mA/cmであり、有機EL素子134の発光輝度を測定したところ、その値は108nit(cd/m)であった。また、その発光色は青色であることを確認した。
さらに耐久性評価として、有機EL素子134を10mA/cmで定電流駆動したところ、最初の電圧をVとし、1000時間経過後の電圧をVとした場合に、電圧上昇率(=V/V)は1.9に抑えられた。
【0163】
比較例3
(1)透明導電基板の製造準備(ターゲット8の作成)
酸化インジウムと、酸化セリウムと、の粉末(いずれの粉末も平均粒子系1μm以下である)を、インジウムのモル比であるIn/(In+Ce)の値が、0.95であり、かつセリウムのモル比であるCe/(In+Ce)の値が、0.05になるような比率で、各材料を準備し、湿式ボールミル容器内に収容した。この湿式ボールミル容器内に収容された上記粉末を72時間に渡って混合粉砕し、粉砕物を得た。
この粉砕物を、上記実施例13(1)と同様の処理によって、造粒し、プレス成形し、加熱焼成することにより、透明導電膜112用のターゲット8を作成した。
【0164】
(2)透明導電基板の製造
まず、高周波スパッタリング装置の真空槽内に、実施例13と同様のガラス基板110及び上記ターゲット8を配置した。高周波スパッタリング装置を稼働して、上記真空槽内の到達真空度が、5×10−4Paになるまで減圧した状態で、スパッタ圧力が0.5Paとなるように、アルゴンガス及び酸素(その体積比は70:30である)を、上記真空槽内に導入した。この時、酸素の分圧は、0.15Paである。図9(1)は、このガラス基板110の様子を示している。尚、これらのスパッタガスの成分比及びスパッタガス中の酸素分圧は、表3中に示されている。
【0165】
上記雰囲気中において、真空槽内のガラス基板110の温度を200℃とし、投入電力を100Wとし、製膜時間14分間という条件下で、上記ターゲット8を用いてスパッタリングを行った。この結果、ガラス基板110上に、厚さ110nmの透明導電膜112を形成することにより、導電積層体136を得た。この様子が図9(2)に示されている。
【0166】
次に引き続いて、アルゴンガス中で、Alターゲットを用いて、厚さ120nmのAl薄膜からなる金属膜114を透明導電膜112上に形成した。この様子が図9(3)に示されている。
続いて燐酸−硝酸−酢酸水溶液(燐酸:硝酸:酢酸=16:1:1)を用いて、透明導電膜112/金属膜114をエッチングし、金属膜114の幅を20μmとすることにより、透明導電膜112上に、Alからなる金属細線116を形成した。この様子が図9(4)に示されている。
【0167】
その後、図9(5)に示すように、このターゲット8を用いて製膜した透明導電膜12を、実施例13と同様のパターンとするべく、蓚酸水溶液にてエッチングした。このようにパターニングを行って作成した金属細線116及び透明導電膜112を総称して、パターニング電極118と呼ぶ。
また、以下ガラス基板110と、このパターニング電極118と、を総称して透明導電基板138と呼ぶ。この透明導電基板138が、図9(5)に示されている。
この透明導電基板138をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄し、さらにN(窒素ガス)雰囲気中で乾燥させた後、UV(紫外線)及びオゾンを用いて、10分間洗浄した。
【0168】
(3)透明導電基板の物性の測定結果
ターゲット8を用いて製膜した透明導電膜112の比抵抗を測定したところ、その値は8.0×10−3Ω・cmであった。また、パターニング電極118の光透過率(波長550nmにおける光透過率)を測定したところ、その値は89%であった。また、UV洗浄後における透明導電基板138中の透明導電膜112の仕事関数を、光電子分光装置(理研計器社製、AC−1)で測定したところ、その値は4.9eVであった。尚、これらの測定結果は、表3中に示されている。
次に、上記パターニング電極118表面におけるCe3dピークをXPSを用いて測定した。この測定の結果、上記SB及び上記SAの面積比であるSB/SAの値が、0.13であった。この測定結果も表3中に示されている。
【0169】
(4)有機EL素子の形成
図5に示すように、実施例13と同様にして、透明導電基板138のパターニング電極118上に、正孔輸送層126、有機発光層128、電子注入層130、及び陰極層132を順次積層して、有機EL素子134を得た。
【0170】
(5)製造した有機EL素子の評価
得られた有機EL素子134における陰極層132をマイナス電極とし、透明導電膜112をプラス電極として、両電極間に5.0Vの直流電圧を印加した。
この時の電流密度は、1.3mA/cmであり、有機EL素子134の発光輝度を測定したところ、その値は60nit(cd/m)であった。また、その発光色は青色であることを確認した。
さらに耐久性評価として、有機EL素子134を10mA/cmで定電流駆動したところ、最初の電圧をVとし、1000時間経過後の電圧をVとした場合に、電圧上昇率(=V/V)は3.0と大きく変化した。
【0171】
比較例4
(1)透明導電基板の製造準備(ターゲット9の作成)
酸化インジウムと、酸化錫と、の粉末(いずれの粉末も平均粒子系1μm以下である)を、インジウムのモル比であるIn/(In+Sn)の値が、0.95であり、かつ錫のモル比であるSn/(In+Sn)の値が、0.05になるような比率で、各材料を準備し、湿式ボールミル容器内に収容した。この湿式ボールミル容器内に収容された上記粉末を72時間に渡って混合粉砕し、粉砕物を得た。
この粉砕物を、上記実施例13(1)と同様の処理によって、造粒し、プレス成形し、加熱焼成することにより、透明導電膜112用のターゲット9を作成した。
【0172】
(2)透明導電基板の製造
まず、高周波スパッタリング装置の真空槽内に、実施例13と同様のガラス基板110及び上記ターゲット9を配置した。高周波スパッタリング装置を稼働して、上記真空槽内の到達真空度が、5×10−4Paになるまで減圧した状態で、スパッタ圧力が0.1Paとなるように、アルゴンガス及び酸素(その体積比は90:10である)を、上記真空槽内に導入した。この時、酸素の分圧は、0.01Paである。図9(1)は、このガラス基板110の様子を示している。尚、これらのスパッタガスの成分比及びスパッタガス中の酸素分圧は、表3中に示されている。
【0173】
上記雰囲気中において、真空槽内のガラス基板110の温度を200℃とし、投入電力を100Wとし、製膜時間14分間という条件下で、上記ターゲット9を用いてスパッタリングを行った。この結果、ガラス基板110上に、厚さ110nmの透明導電膜112を形成することにより、導電積層体136を得た。この様子が図9(2)に示されている。
【0174】
次に引き続いて、アルゴンガス中で、Alターゲットを用いて、厚さ120nmのAl薄膜からなる金属膜114を透明導電膜112上に形成した。この様子が図9(3)に示されている。
続いて、燐酸−硝酸−酢酸水溶液(燐酸:硝酸:酢酸=16:1:1)を用いて、透明導電膜112/金属膜114をエッチングし、金属膜114の幅を20μmとすることにより、透明導電膜112上に、Alからなる金属細線116を形成した。この様子が図9(4)に示されている。
【0175】
その後、図9(5)に示すように、このターゲット9を用いて製膜した透明導電膜112を、実施例13と同様のパターンとするべく、蓚酸水溶液にてエッチングした。このようにパターニングを行って作成した金属細線116及び透明導電膜112を総称して、パターニング電極118と呼ぶ。
また、以下ガラス基板110と、このパターニング電極118と、を総称して透明導電基板138と呼ぶ。この透明導電基板138が、図9(5)に示されている。
この透明導電基板138をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄し、さらにN(窒素ガス)雰囲気中で乾燥させた後、UV(紫外線)及びオゾンを用いて、10分間洗浄した。
【0176】
(3)透明導電基板の物性の測定結果
ターゲット9を用いて製膜した透明導電膜112の比抵抗を測定したところ、その値は2.0×10−4Ω・cmであった。また、パターニング電極118の光透過率(波長550nmにおける光透過率)を測定したところ、その値は91%であった。また、UV洗浄後における透明導電基板138中の透明導電膜112の仕事関数を、光電子分光装置(理研計器社製、AC−1)で測定したところ、その値は4.8eVであった。尚、これらの測定結果は、表3中に示されている。また、当該透明導電膜112中には、Ceは含まれていないため、XPSの測定は実施しなかった。
【0177】
(4)有機EL素子の形成
図5に示すように、実施例13と同様にして、透明導電基板138のパターニング電極118上に、正孔輸送層126、有機発光層128、電子注入層130、及び陰極層132を順次積層して、有機EL素子134を得た。
【0178】
(5)製造した有機EL素子の評価
得られた有機EL素子134における陰極層132をマイナス電極とし、透明導電膜112をプラス電極として、両電極間に5.0Vの直流電圧を印加した。
この時の電流密度は1.4mA/cmであり、有機EL素子134の発光輝度を測定したところ、その値は80nit(cd/m)であった。また、その発光色は青色であることを確認した。
さらに耐久性評価として、有機EL素子134を10mA/cmで定電流駆動したところ、最初の電圧をVとし、1000時間経過後の電圧をVとした場合に、電圧上昇率(=V/V)は1.5となった。
【0179】
比較例5
(1)透明導電基板の製造準備(ターゲット10の作成)
酸化インジウムと、酸化亜鉛と、の粉末(いずれの粉末も平均粒子系1μm以下である)を、インジウムのモル比であるIn/(In+Zn)の値が、0.93であり、かつ亜鉛のモル比であるZn/(In+Zn)の値が、0.07になるような比率で、各材料を準備し、湿式ボールミル容器内に収容した。この湿式ボールミル容器内に収容された上記粉末を72時間に渡って混合粉砕し、粉砕物を得た。
この粉砕物を、上記実施例13(1)と同様の処理によって、造粒し、プレス成形し、加熱焼成することにより、透明導電膜112用のターゲット10を作成した。
【0180】
(2)透明導電基板の製造
まず、高周波スパッタリング装置の真空槽内に、実施例13と同様のガラス基板110及び上記ターゲット110を配置した。高周波スパッタリング装置を稼働して、上記真空槽内の到達真空度が、5×10−4Paになるまで減圧した状態で、スパッタ圧力が0.1Paとなるように、アルゴンガスを上記真空槽内に導入した。図9(1)は、このガラス基板110の様子を示している。尚、この時、上記真空槽内において、スパッタリングガスの成分は、アルゴン100%であり、酸素分圧は0Paであることはいうまでもない(表3)。
【0181】
上記雰囲気中において、真空槽内のガラス基板110の温度を200℃とし、投入電力を100Wとし、製膜時間14分間という条件下で、上記ターゲット110を用いてスパッタリングを行った。この結果、ガラス基板110上に、厚さ110nmの透明導電膜112を形成することにより、導電積層体136を得た。この様子が図9(2)に示されている。
【0182】
次に引き続いて、アルゴンガス中で、Alターゲットを用いて、厚さ120nmのAl薄膜からなる金属膜114を形成した。この様子が図9(3)に示されている。
続いて、燐酸−硝酸−酢酸水溶液(燐酸:硝酸:酢酸=16:1:1)を用いて、透明導電膜112/金属膜114をエッチングし、金属膜114の幅を20μmとすることにより、透明導電膜112上に、Alからなる金属細線116を形成した。この様子が図9(4)に示されている。
【0183】
その後、図9(5)に示すように、このターゲット10を用いて製膜した透明導電膜112を、実施例13と同様のパターンとするべく、蓚酸水溶液にてエッチングした。このようにパターニングを行って作成した金属細線116及び透明導電膜112を総称して、パターニング電極118と呼ぶ。
また、以下ガラス基板110と、このパターニング電極118と、を総称して透明導電基板138と呼ぶ。この透明導電基板138が、図9(5)に示されている。
この透明導電基板138をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄し、さらにN(窒素ガス)雰囲気中で乾燥させた後、UV(紫外線)及びオゾンを用いて、10分間洗浄した。
【0184】
(3)透明導電基板の物性の測定結果
ターゲット10を用いて製膜した透明導電膜112の比抵抗を測定したところ、その値は4.0×10−4Ω・cmであった。また、パターニング電極118の光透過率(波長550nmにおける光透過率)を測定したところ、その値は89%であった。また、UV洗浄後における透明導電基板138中の透明導電膜112の仕事関数を、光電子分光装置(理研計器社製、AC−1)で測定したところ、その値は4.9eVであった。尚、これらの測定結果は、表3中に示されている。また、当該透明導電膜112中には、Ceは含まれていないため、XPSの測定は実施しなかった。
(4)有機EL素子の形成
図5に示すように、実施例13と同様にして、透明導電基板138のパターニング電極118上に、正孔輸送層126、有機発光層128、電子注入層130、及び陰極層132を順次積層して、有機EL素子34を得た。
【0185】
(5)製造した有機EL素子の評価
得られた有機EL素子134における陰極層132をマイナス電極とし、透明導電膜112をプラス電極として、両電極間に5.0Vの直流電圧を印加した。
この時の電流密度は1.4mA/cmであり、有機EL素子134の発光輝度を測定したところ、その値は90nit(cd/m)であった。また、その発光色は青色であることを確認した。
さらに耐久性評価として、有機EL素子134を10mA/cmで定電流駆動したところ、最初の電圧をVとし、1000時間経過後の電圧をVとした場合に、電圧上昇率(=V/V)は1.5となった。
【0186】
第三発明
実施例20
図8に示す有機EL素子を以下の手順によって作製した。
基板91として1.1mm厚のガラスを使用し、その上に、陽極層92として50nmのCrをスパッタにより成膜した。このCr付ガラスをイソプロピルアルコールで5分間超音波洗浄した後、純水で5分間洗浄し、最後に再びイソプロピルアルコールで5分間超音波洗浄した。
【0187】
洗浄後の基板を市販の真空蒸着装置(日本真空技術(株)製)の基板ホルダーに固定し、モリブデン製抵抗加熱ボートにN,N′−ジフェニル−N,N′−ビス−(3−メチルフェニル)−(1,1′−ビフェニル)−4,4′−ジアミン(以下、TPDAという)を200mg入れ、また別のモリブデン製抵抗加熱ボートに4,4′−(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル(以下、DPVBiという)を200mg入れて、真空チャンバー内を1×10−4Paまで減圧した。
【0188】
次に、TPDAを入れた前記抵抗加熱ボートを215〜220℃まで加熱して、TPDAを蒸着速度0.1〜0.3nm/secでCr付ガラス基板上に堆積させて、膜厚60nmの正孔輸送層93を成膜した。このときの基板温度は室温(約25℃)であった。
これを真空チャンバーから取り出すことなく、DPVBiを入れた前述のモリブデン製抵抗加熱ボートを220℃に加熱し、DPVBiを0.1〜0.2nm/secの蒸着速度で正孔輸送層93上に堆積させて、膜厚40nmの有機発光層94を成膜した。このときの基板温度も室温であった。
【0189】
上述のように、陽極層92、正孔輸送層93、有機発光層94を順次成膜した基板を真空チャンバーから取り出して、上記発光層の上にステンレススチール製のマスクを設置し、再び基板ホルダーに固定した。
次に、モリブデン製抵抗加熱ボートにアルミキレート錯体(Alq:トリス(8−キノリノール)アルミニウム)を200mg入れて真空チャンバー内に装着した。
【0190】
さらに、アルミナ被覆タングステン製バスケットに銀(Ag)のインゴットを8g入れ、また、別のモリブデン製ボートにビスマス(Bi)のリボンを1g、さらに別のモリブデン製ボートにマグネシウム(Mg)1gを入れた。その後、真空チャンバー内を2×10−4Paまで減圧して、まずAlqの入ったボートを280℃に通電加熱してAlqを0.3nm/secの蒸着速度で20nm蒸着して、電子輸送層95を成膜した。
【0191】
次に、Agを9nm/sec、Biを0.8nm/sec、Mgを0.2nm/secの速度でそれぞれ同時蒸着させて、膜厚2nmのAg−Bi−Mg蒸着膜からなる陰極層96を得た。陰極層に占めるAg,Bi,Mgの含有量を高周波誘導プラズマ発光分光分析装置(ICP)により測定したところ、それぞれ、90重量%、8重量%、2重量%であった。
最後に透明導電層97として、膜厚150nmのITOを通常のスパッタリング法により形成し、図8に示す有機EL素子を作製した。
【0192】
実施例21〜実施例34、及び比較例6〜比較例8
陰極層の構成を表4〜6に示すように変更した他は、実施例20と同様にして有機EL素子を作製した。
【0193】
実施例21−34及び比較例6−8で作製した有機EL素子について、陰極層の組成、各金属の標準酸化還元電位、陰極層の光線透過率、及び性能評価の結果を表4−6に示す。尚、評価は以下の方法により行なった。
(1)金属の標準酸化還元電位
各実施例で作製した陰極と同じ条件にて、ガラス基板上に金属を蒸着した。この試料を標準水素電極(半電池)と塩橋で接続した0.1M過塩素酸リチウムの水溶液に浸漬し、ポテンシオスタッド(北斗電工社製)にて電位測定した。
(2)陰極層の光線透過率
有機EL素子の形成時に、EL基板ホルダーの近傍にガラス基板を設置し、陰極成膜時のみャッターを開にすることで、ガラス基板上にAg−Bi−Mg蒸着膜を単層膜(2nm)として形成した。この蒸着膜付基板の、380nm〜780nmにおける光線透過率を分光光度計(UV−3100:島津製作所製)により測定し、この波長領域の平均光線透過率を評価した。
(3)発光強度
電極間の電流を30mA/cmとしたときの、素子の初期の発光輝度をCS−1000(ミノルタ製)によって測定した。
(4)寿命試験
(3)の条件で、素子を室温下、2000時間連続駆動した後の、素子の発光強度を評価した。
(5)素子の劣化評価
(4)の寿命試験後の素子について、光学顕微鏡(倍率:20倍)で素子の表面を陰極側から観察し、試験前後の外観変化を評価した。
(6)評価
寿命試験後の発光強度が、初期の発光強度の0.5倍以上であり、かつ、劣化評価において、金属電極に変化が認められない場合を○、それ以外を×として評価した。
【0194】
【表4】

【0195】
【表5】

【0196】
【表6】

【0197】
表4−6に示した結果から、本発明の有機EL素子は、陰極層の劣化が抑制されているため、比較例の素子と比べて寿命の長いことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明の有機EL素子及び表示装置は、様々な民生用及び工業用のディスプレイ、具体的には、携帯電話、PDA、カーナビ、モニター、TV等のディスプレイとして利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と、
陽極と、
前記陰極と陽極の間に介在する発光層からなり、
前記陽極の少なくとも前記発光層に接する部分が、ランタン、セリウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウムから選ばれる少なくとも1つ以上の元素と、クロム、タングステン、タンタル、ニオブ、銀、パラジウム、銅、ニッケル、コバルト、モリブデン、白金、シリコンから選ばれる少なくとも1つ以上の元素を含む有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記ランタン、セリウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウムから選ばれる少なくとも1つ以上の元素の合計濃度が0.1〜50wt%である請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記陽極の少なくとも発光層に接する部分が、セリウムを含む請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記陽極の少なくとも発光層に接する部分の仕事関数が5.0eV以上である請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
電気絶縁性の透明基材と、前記透明基材上に形成された透明導電膜と、を有する導電積層体であって、
前記透明導電膜が、少なくともセリウム(Ce)を含有する酸化物を含み、
前記透明導電膜の表面のセリウム3d軌道にある電子の結合エネルギーを、X線光電子分光法によって測定したグラフにおいて、前記結合エネルギーが877eV〜922eVの間の全ピーク面積をSAとし、前記結合エネルギーが914eV〜920eVの間の全ピーク面積をSBとした場合に、前記SA及び前記SBの面積比であるSB/SAの値が下記式(1)を満たす導電積層体。
SB/SA<0.13・・・(1)
【請求項6】
前記透明導電膜が、
インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ガリウム(Ga)からなる金属元素群より選ばれた少なくとも1種の金属元素と、
セリウム(Ce)及び酸素(O)と、
を含む請求項5に記載の導電積層体。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の導電積層体を製造する方法であって、
前記透明導電膜をスパッタリング法により形成し、スパッタ雰囲気中の酸素分圧を0.1Pa以下とする導電積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の導電積層体と、
前記導電積層体上に設けられた金属導体と、
を含む有機エレクトロルミネッセンス素子用電極基板であって、
前記透明導電膜が有機電界発光層を駆動する有機エレクトロルミネッセンス素子用電極基板。
【請求項9】
請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用電極基板と、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子用電極基板上に設けられた有機電界発光層と、
を含む有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
請求項5又は6に記載の導電積層体と、
前記導電積層体上に設けられた有機電界発光層と、
を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
少なくとも陽極層、有機発光層及び陰極層をこの順に積層した有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陰極層が少なくとも第一の金属と第二の金属を含み、
前記第一の金属の25℃における標準酸化還元電位(E(A))が−1.7(V)以上であり、
前記第二の金属の25℃における標準酸化還元電位(E(B))が下記式(2)を満たす有機エレクトロルミネッセンス素子。
E(A)−1.1≦E(B) (2)
【請求項12】
少なくとも陽極層、有機発光層、陰極層及び透明導電層をこの順に積層した有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陰極層が少なくとも第一の金属と第二の金属を含み、
前記第一の金属の25℃における標準酸化還元電位(E(A))が−1.7(V)以上であり、
前記第二の金属の25℃における標準酸化還元電位(E(B))が下記式(2)を満たす有機エレクトロルミネッセンス素子。
E(A)−1.1≦E(B) (2)
【請求項13】
前記陰極層が前記第一の金属を主成分とする請求項11又は12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項14】
前記第一の金属が、Al,Cr,Ta,Zn,Fe,Ti,In,Co,Ni,Ge,Cu,Re,Ru,Ag,Pd,Pt,Auからなる群から選ばれる金属である請求項11又は12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項15】
前記第二の金属が、Bi,Te,Sn,V,Mo,Nd,Nb,Zrからなる群から選ばれる金属である11又は12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項16】
前記陰極層がアルカリ金属又はアルカリ土類金属を0.1重量%〜5.0重量%含む請求項11又は12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項17】
前記陰極層の波長380nm〜780nmにおける光線透過率が10%以上である請求項11又は12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項18】
前記第一の金属がAgである請求項11又は12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項19】
請求項1〜4、及び9〜12のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を含んで構成される表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【国際公開番号】WO2005/062678
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516452(P2005−516452)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018263
【国際出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】