説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

本発明は、異なる光の波長を発する少なくとも2つの相互に画定された発光層を備える有機エレクトロルミネッセンスデバイスに関する。このエレクトロルミネッセンスデバイスは発光層の少なくとも1つが少なくとも1つの燐光発光層を含むことを特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセント素子についての新たなタイプの設計原理およびそれに基づくディスプレーにおけるその使用を記載する。
【0002】
最も広い意味で電子産業の範疇に分類され得る一連の異なるタイプの用途においては、機能性材料としての有機半導体の使用は、近時、現実となってきているか、あるいは近い将来、期待されている。
【0003】
例えば、感光性有機材料(例えば、フタロシアニン)および有機電荷輸送材料(一般的にトリアリールアミン系正孔輸送体)は、すでに、複写機械において数年前から用途を見出されてきた。
【0004】
いくつかが可視スペクトル領域での発光も可能である特定の半導体有機化合物の使用が、ちょうど、市場に、例えば有機エレクトロルミネッセント装置において、導入され始めている。それらの個別の部品、有機発光ダイオード(OLED)は、以下のようなきわめて広範な用途を有する。
【0005】
1.白黒または多色ディスプレー素子のための白色または着色バックライト(例えば、卓上計算機、携帯電話および他の携帯用途において)、
2.大表面積ディスプレー(例えば、交通標識、広告板および他の用途)、
3.すべての色彩と形態のイルミネーション素子。
【0006】
4.携帯用途のための白黒またはフルカラーパッシブマトリックスディスプレー(例えば、携帯電話、PDA、VTR一体型カメラおよび他の用途)、
5.広範な用途のためのフルカラー大表面積高解像度アクティブマトリックスディスプレー(例えば、携帯電話、PDA、ラップトップ型コンピューター、テレビジョンおよび他の用途)。
【0007】
それらの用途の一部の開発はすでにきわめて進展している。しかしながら、さらなる技術的改善についての大きな必要性が存在している。
【0008】
比較的単純なOLEDを含むデバイスは、すでに、パイオニア製のカーラジオ、SNMD製の携帯電話または有機ディスプレーを有するコダック製のデジタルカメラにより例証されるようにマーケットに導入されてきた。しかしながら、緊急の改善の必要があるさらに重要な問題が存在する。
【0009】
1.例えば、特にOLEDの稼動寿命はいまだ短いので、現在まで、単純な用途を商業的に実現することしか可能でなかった。
【0010】
2.この比較的短い寿命はさらなる問題を提起する。具体的には、フルカラー用途(フルカラーディスプレー)、すなわち、いかなるセグメンテーションも有さないが、表面全体にわたってすべての色を表し得るディスプレーについては、現在問題となっているように、個別の色が異なる速さで劣化するとき非常に悪い結果をもたらす。このことは、上記寿命の終わる(出発時点での輝度の50%までの低下により一般的に定義される)前でさえ、白色点の明確なシフトをもたらし、すなわち、ディスプレーにおける表示の色の中実さはきわめて貧弱になる。このことを回避するために、一部のディスプレー製造者は、70%または90%寿命(すなわち、出発時の輝度の70%または90%までの出発時の輝度の減少)として寿命を定義する。しかしながら、このことは、寿命がさらに短くなることをもたらす。
【0011】
3.OLEDの効率は許容可能であるけれども、改善は、もちろん、いまだ具体的には携帯製品用途のために今でも所望されている。
【0012】
4.OLED、具体的にはすべての3色の基本色からなる広帯域白色発光OLEDの色座標は十分に良好ではない。特に、良好な色座標と高効率の組み合わせが改善されなければならない。
【0013】
5.劣化プロセスは、一般的に、電圧の上昇を伴う。この効果は、電圧駆動型有機エレクトロルミネッセント装置、例えばディスプレーまたはディスプレー素子を困難もしくは不可能とさせる。しかしながら、電圧駆動による対処は、より複雑であり、この場合はまさにコスト高となる。
【0014】
6.必要とされる操作電圧は、特に、効果的な燐光性OLEDの場合には極めて高く、それゆえ、電力効率を改善するためには減少させなければならない。このことは、携帯製品について特に非常に意味がある。
【0015】
7.必要とされる操作電流は、同様に、ここ数年間減少されたが、しかし、電力効率を改善するためにさらに減少させなければならない。このことは、特に携帯製品のために特に重要である。
【0016】
1〜7の下で上に述べた理由は、OLEDの製造における改善を必要なものとしている。
【0017】
近年出現したこの方向の展開は、蛍光の代わりに燐光を発する有機金属錯体の使用である[M.A.バルドー、S.ラマンスキー、P.E.バローズ、M.E.トンプソン、S.R.フォレスト、Appl.Phys.Lett.1999、75、4〜6]。
【0018】
量子力学的な理由のために、有機金属化合物を用いると、量子効率の4倍までのエネルギー効率および電力効率が可能となる。この新たな展開がそれ自体確立し得るかどうかは、まず、OLEDにおけるそれらの利点(三重項発光=一重項発光と比較しての燐光=蛍光)も利用しうる対応するデバイス組成が見出され得るかどうかに強く依存する。ここでの実際的な使用のための必須の条件は、特に、携帯用途を可能とするための長い稼動寿命、熱応力と少ない使用に対する高い安定性および操作電圧である。
【0019】
有機エレクトロルミネッセント装置の一般的構造は、例えば、米国特許第4,539,507号および米国特許第5,151,629号およびまたEP01202358に記載されている。典型的には、有機エレクトロルミネッセント装置は、真空的方法またはさまざまの印刷方法、特に、インクジェット印刷のような溶液系印刷方法、または熱転写印刷もしくはLITI(レーザー誘導型熱画像形成)のような無溶媒印刷方法により適用される複数の層からなる。
【0020】
それらの層は、具体的には、以下の通りである。
【0021】
1.担体プレート=基板(典型的にはガラスまたはプラスチックフィルム)。
2.透明アノード(典型的にはインジウムスズ酸化物、ITO)。
3.正孔注入層(Hole Injection Layer=HIL):例えば、銅−フタロシアニン(CuPc)、またはポリアニリン(PANI)もしくはポリチオフェン誘導体(PEDOTのような)のような導電性ポリマーに基づく。
4.1以上の正孔輸送層(Hole Transport Layer=HTL):典型的には、例えば、第1の層としての4,4’,4”−トリス(N−1−ナフチル−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(NaphDATA)および第2の正孔輸送層としてのN,N’−ジ(ナフト−1−イル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(NPB)のようなトリアリールアミン誘導体に基づく。
【0022】
5.1以上の発光層(Emission Layer=EML):この層は、層4〜8に部分的に一致するものであるが、しかし、典型的には、蛍光染料例えばN,N’−ジフェニルキナクリドン(QA)または燐光染料例えばトリス(2−フェニルピリジル)イリジウム(Ir(PPy)3 )もしくはトリス(2−ベンゾチオフェニルピリジル)イリジウム(Ir(BTP)3 )をドープされた4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)ビフェニル(CBP)のようなマトリックス材料からなる。しかしながら、発光層は、また、ポリマー、ポリマーの混合物、ポリマーと低分子量化合物の混合物または異なる低分子量化合物の混合物からなり得る。
【0023】
6.正孔遮蔽層(Hole Blocking Layer=HBL):この層は、層7および8と部分的に一致し得る。それは、典型的には、BCP(2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナンスロリン=バソキュープロイン)またはビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム(III)(BAlq)からなる。
【0024】
7.電子輸送層(Electron Transport Layer=ETL):通常、アルミニウムトリス−8−ヒドロキシキノレート(AlQ3 )に基づく。
8.電子注入層(Electron Injection Layer=EIL):この層は、層4、5、6および7と部分的に一致し得、またはカソードの小部分は特別に処理されるかまたは特別に堆積される。
9.さらなる電子注入層(Electron Injection Layer=EIL):例えば、LiF、Li2 O、BaF2 、MgO、NaFのような高い誘電定数を有する材料からなる薄層。
10.カソード:ここでは、一般的に、低い仕事関数を有する金属、金属の組み合わせまたは金属合金が用いられる。例えば、Ca、Ba、Cs、Mg、Al、In、Mg/Ag。
【0025】
このデバイス全体は、適切に(用途に応じて)構築され、接触がとられ、そして最終的に、気密的に封止される。そのようなデバイスの寿命は、一般的に、水および/または空気の存在下で急激に短縮するからである。同じことはまた、光がカソードから発される反転構造として知られるものにも当てはまる。それらの反転したOLEDにおいて、アノードは、例えば、5eVより大きなHOMOを有するAl/Ni/NiOx またはAl/Pt/PtOx または他の金属/金属酸化物の組み合わせからなる。カソードは、例えば、Ca、Ba、Mg、Al、In等の金属が極めて薄く、したがって透明であるという違いを伴って、ポイント9および10において記載されているのと同じ材料からなる。層の厚さは、50nm未満、より好ましくは30nm未満、さらに好ましくは10nm未満である。さらなる透明材料、例えば、ITO(インジウムスズ酸化物)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)等をこの透明カソードに適用することもできる。2以上の層が発光全体に寄与し混合色を発生させる有機エレクトロルミネッセント装置が知られているのと同様に、発光層(EML)が2以上の物質からなる有機エレクトロルミネッセント装置は、先般来、すでに知られている。
【0026】
・EP1182244は、白色光を発し、蛍光化合物がフルオランテン、ペンタセンまたはペリレンの群に由来のOLEDを記載する。この場合に、白色の発光は、青色と黄色−橙色の2つのスペクトル成分から構成される層で発生する。このことは、白色発光OLEDを、カラーフィルターの補助によるRGBディスプレーを製造するためには不適切なものとさせている。スベクトルの赤色部分があまりにも小さすぎるからである。
【0027】
さらに、0.1〜2.6%という小さなドーパント濃度が、EMLの製造において特定されている。白色発光OLEDの工業的製造において、このことは十分な再現性を持って達成され得ない。絶対的および相対的観点の両方において、濃度の極めて小さな変化でさえ、白色に対してきわめて大きな影響を有するからである。例えば、発光色は、黄色−橙色または青色に容易にシフトし得る。
【0028】
ドーピングの程度に加えて、OLEDの色は、また低濃度のドーパントの場合には操作電圧に大きく依存する。例えば輝度を増加させるために必要とされるような電圧の上昇の場合には、発光の青色への明確なシフトが頻繁に観察され、このことは、比較的大きな明るさの範囲にわたって白色点の維持を全く不可能にする。
【0029】
・EP1286569は、白色光を発し、蛍光化合物がアントラセン、ペリレン、テトラセンまたは他の縮合環芳香族の群に由来するOLEDを記載する。この場合、白色発光は、2〜3のスペクトル成分、青色、黄色−橙色およびいくつかの場合にはまた緑色から得られる。ここではまた、このことは、白色発光OLEDを、カラーフィルターの補助を伴うRGBディスプレーを作るためには不適切なものとさせている。スペクトルの赤色部分があまりにも小さすぎるからである。
【0030】
さらに、0.12〜3%という少量のドーパント濃度が、EMLの製造において特定されている。白色発光OLEDの工業的製造において、このことは、十分な再現性を持って達成され得ない。濃度の小さな変化は、白色に対してきわめて大きな影響を有するからである。例えば、発光色は、黄色−橙色または青色に容易にシフトし得る。ここでの最大効率は、5cd/Aである。蛍光OLEDについては、7.5Vまでという比較的高い電圧が観察される。この高い電圧は、ここでは、HTLまたはETLが、蛍光発光体でドープされるので、生じている。これは、輸送を意図されたこの層の輸送特性を明確に悪化させ、操作電圧を増加させるトラップとして知られているものを形成する。
【0031】
・US2003/0099860は、白色光を発光し、蛍光化合物がフェニレン−ビニレン誘導体(DPVBi)、DCM2およびC6であるOLEDを記載する。この場合、白色発光は、2〜3のスペクトル成分、青色、黄色−橙色および緑色から発生する。ここでもまた、このことは、白色発光OLEDを、カラーフィルターの補助を伴うRGBディスプレーを製造するためには不適切なものとさせている。スペクトルの赤色部分があまりにも小さいからである。
【0032】
さらに、0.01〜0.2%という少量のドーパント濃度がEMLの製造において特定されている。白色発光OLEDの工業的製造において、このことは、十分な再現性を持っては達成され得ない。濃度の小さな変動は、白色に対してきわめて大きな影響を有するからである。例えば、発光色は、容易に黄色−橙色または青色にシフトし得る。ドーピングの程度に加えて、OLEDの色は、また、低濃度のドーパントの場合に操作電圧に大きく依存する。例えば明るさを増加させるために必要とされるように電圧が上昇する場合には、発光の青色への明確なシフトがしばしば観察され、このことは、比較的大きな明るさの範囲にわたって白色点の維持を全く不可能とする。
【0033】
ここでもまた、ETLは蛍光発光体をドープされ、そのことが電子輸送の悪化と操作電圧の不必要な増加をもたらす。
【0034】
・WO03/103341は、発光層中に、少なくとも1つの化合物が燐光を発するところの2以上の発光化合物を含む白色発光OLEDを記載する。ここでもまた、EML中の少ないドーパント濃度が特定される。白色発光OLEDの工業的製造において、このことは、十分な再現性を持って実現され得ない。OLEDが白色光を発光することも述べられているが、色座標も効率も報告されていないので、それらは十分に良好ではないものと推測され得る。
【0035】
当該技術のこの記載から、具体的には、白色光(または広帯域発光)の十分な発生は、現在まで、十分な程度には可能ではなかったことが明らかである。驚くべきことに、本明細書で以下に詳細に記載される本発明の特徴を有するOLEDは、この先行技術に対して明確な改善を有することが見出されている。
【0036】
それゆえ、本発明は、カソード、アノード、および異なる光波長を発する2つの相互に画定された発光層を備え、少なくとも1つの燐光発光体が少なくとも1つの発光層中に存在する有機エレクトロルミネッセント装置(以下、OLEDと称される)を提供する。
【0037】
少なくとも2つの発光層とは別に、有機エレクトロルミネッセント装置は、また、さらなる有機層も含み得る。それらは、例えば、1以上の正孔注入層および/または正孔輸送層であり得る。1以上の電子注入層および/または電子輸送層が存在することは、等しく可能である。
【0038】
本発明のOLEDを、以下の図式により例示するが、上記のように、ETL、HTLおよび/またはHILは必須的に存在する必要はなく、または、他方、複数のそのような層が存在することも可能である。
【数1】

【0039】
これらの発光層中の発光物質が少なくとも1つの青色、緑色および赤色、好ましくは少なくとも1つの深い青色、深い緑色および深い赤色成分が存在するように選択されるとき、すべての所望される色を特別に効率的に設定することが可能である。個々の層の厚さの変化により、基本色によって存在するすべての色を発生させ調整することが可能である。
【0040】
本発明の文脈において、「発光が可能な」とは、純粋なフィルムとしての、または適切であればOLED中のマトリックス材料中のドーパントとしての発光物質が380nm〜750nmの範囲内の光を発することを意味する。
【0041】
好ましくは、各発光層単独が正確に1つの発光体の発光を示す。
【0042】
好ましい態様は、3つの相互に画定された発光層を有する上記OLEDである。
【0043】
この本発明のOLEDを、以下の図式により例示するが、上記のように、ETL、HTLおよび/またはHILは必須的に存在する必要はなく、または、他方、複数のそのような層が存在することも可能である。
【数2】

【0044】
個々の層の厚さの変化により、この色のトライアングル中に存在するすべての色が発生され得、設定され得る。
【0045】
好ましい態様は、赤色、緑色および青色の発光層を有する上記セクションで記載したOLEDである。青色、緑色および/または赤色の層の個々の層の厚さの変化により、この色のトライアングル中に存在するすべての色が発生され得、設定され得る。このようにして、白色の印象が特に効率的に発生され得る。
【0046】
本発明の文脈において、発光層(EML)は、発光体が純粋な材料として存在する層と複数の化合物がドーパント−マトリックス系において存在する層の両方を含み、マトリックス材料対発光体の重量比は99:1〜1:99、好ましくは95:5〜5:95である。
【0047】
好ましい態様は、存在する燐光発光体が38を超え84未満の原子番号、好ましくは56を超え80未満の原子番号の少なくとも1つの原子を有する化合物であることを特徴とする上記OLEDである。
【0048】
特に好ましい態様は、発光体として56を超え80未満の原子番号の元素が、例えば特許出願WO98/01011、US02/0034656、US03/0022019、WO00/70655、WO01/41512、WO02/02714、WO02/15645、EP1191613、EP1191612、EP1191614、WO03/040257およびWO03/084972に従ってモリブデン、タングステン、レニウム、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、銀、金またはユーロピウムであることを特徴とする少なくとも1つの化合物を含む上記OLEDである。
【0049】
好ましい態様は、燐光発光体が特許出願WO00/057676、EP01/202358、WO02/074015、DE10317556.3およびDE10330761.3に開示される1以上のマトリックスにドープされることを特徴とする上記OLEDである。上記材料に加えて、シランもまたさらなるマトリックス材料として適切である。
【0050】
さらなる好ましい態様は、発光層の少なくとも1つが非燐光発光体を有することを特徴とする上記OLEDである。この文脈においては、エレクトロフルオレッセンスに基づく発光層、特に青のスペクトル領域におけるものが特に好ましい。この文脈における特に好ましい態様は、例えば特許出願EP01314715およびEP1167488によるスチリルアミンの、例えば特許出願EP1182244、EP1286569およびWO00/0121729によるクマリン、アントラセン、ピレン、ペリレン、オリゴアセン、ジシアノメタンの、例えば特許出願EP676461およびWO99/40051によるスピロ化合物の、例えば特許出願WO04/002970によるヘテロ環化合物の、または特許出願DE10310887.4に記載される錯体およびさらなる蛍光発光体のクラス由来の非燐光発光体を含むOLEDである。
【0051】
特に好ましい態様は、少なくとも1つの正孔遮蔽層(HBL)が、少なくとも2つの発光層の間にさらに存在することを特徴とする上記OLEDである。
【0052】
この態様を、以下の図式により例示するが、上記のように、ETL、HTLおよび/またはHILは必須的に存在する必要はなく、または、他方、複数のそのような層が存在することも可能である。
【数3】

【0053】
好ましい態様は、用いられる正孔遮蔽材料(HBM)が、例えば特許出願US02/0034656によるアザフェナントレン(例えば、BCP)の、例えば特許出願EP01308494およびWO03/022007による金属キレート錯体(例えば、B−Alq)の、例えば特許出願DE10310887.4によるある種の金属錯体の、例えば特許出願EP676461、WO99/40051およびDE10357317.8によるスピロフェニレンのクラス由来の化合物であることを特徴とする上記OLEDである。
【0054】
好ましい態様は、少なくとも1つの電子遮蔽層(EBL)が、少なくとも2つの発光層の間にさらに損座することを特徴とする上記OLEDであるが、上記のように、ETL、HTLおよび/またはHILは必須的に存在する必要はなく、または、他方、複数のそのような層が存在することも可能である。
【数4】

【0055】
好ましい態様は、少なくとも1つの電子遮蔽層(EBL)および少なくとも1つの正孔遮蔽層(HBL)が少なくとも2つの発光層の間にさらに存在することを特徴とする上記OLEDである。
【0056】
この態様を、以下の図式により例示するが、上記のように、ETL、HTLおよび/またはHILは必須的に存在する必要はなく、または、他方、複数のそのような層が存在することも可能である。
【数5】

【数6】

【0057】
好ましい態様は、用いられる電子遮蔽材料(EBM)が、例えば特許出願EP01314715およびEP1167488によるトリアリールアミンの、例えば特許出願WO97/10617、WO99/12888およびEP968175によるスピロトリアリールアミンの、および例えばWO03/022007によるフタロシアニンのクラス由来の化合物であることを特徴とする上記OLEDである。
【0058】
先行の段落において引用された出願は、参照により本出願の一部であるとみなされる。
【0059】
本発明のOLEDにおいて、相互に画定された発光層の層厚さは、一般的に1〜150nmの範囲、好ましくは3〜100nmの範囲、より好ましくは5〜50nmの範囲で選択される。
【0060】
本発明のOLEDにおいて、正孔輸送層、およびまた電子輸送層および正孔遮蔽層の層厚さは、存在する場合、一般的に1〜150nmの範囲で選択される。
【0061】
本発明のOLEDの好ましい態様は、ドーパントのガラス転移温度Tg が90℃を超え、好ましくは100℃を超え、より好ましくは120℃を超えるものである。
【0062】
同様の好ましい態様は、マトリックスのガラス転移温度Tg が90℃を超え、好ましくは120℃を超え、より好ましくは130℃を超えるものである。
【0063】
記載された高いガラス転移温度が、マトリックス材料および正孔遮蔽材料と、発光材料およびドーパントとの両方について同時に存在するときには、それは特に好ましい。
【0064】
上記広帯域発光デバイスは、先行技術に対し以下の驚くべき利点を有する。
【0065】
1.対応するデバイスの効率は、本発明の設計に従わない系と比較してより高くなる。
【0066】
2.演色評価数(CRI)により記述される色座標および色の再現性がよりすぐれたものとなる。深い青色から深い赤色に広がる広帯域発光が発生するからである。RGBディスプレーを発生させるためのカラーフィルターの使用が容易に可能となる。
【0067】
3.ドーパントの濃度は色座標にほとんど影響しない。
【0068】
4.操作電流と操作電圧に関する発光色の許容範囲はきわめて大きい。
【0069】
5.操作電圧が増加しない。
【0070】
6.深い赤色と効率的な燐光発光体(例えば、Ir(piq)3 )については、赤色についてのフィルター損失はきわめて小さく、したがって効率はきわめて高い。
【0071】
7.深い緑色と効率的な燐光発光体(例えば、Ir(PPy)3 )については、緑色についてのフィルター損失はきわめて小さく、したがって効率はきわめて高い。
【0072】
8.青色と効率的な燐光発光体(例えばIr(F2 CNPPy)3 )については、青色についてのフィルター損失はきわめて小さく、したがって効率はきわめて高い。
【0073】
9.深い青色と効率的な蛍光発光体については、青色についてのフィルター損失はきわめて小さく、したがって効率はきわめて高い。
【0074】
本発明のデバイス構造はさまざまの適用方法により達成され得る。一方では真空中ですべての層を適用することが可能であり、他方では、個々の層は溶液から適用され得、次には真空中で適用される層が続く。溶液からすべての層を適用することもまた可能である。真空中での適用の場合には、シャドウマスクは構築に役立ち、一方、特に、異なる印刷プロセスは溶液から用いることができる。本発明の文脈においては、印刷プロセスはまた、熱転写印刷もしくはLITIのような固体状態から出発するものも含む。溶媒系プロセスの場合には、用いられる物質を溶解する溶媒が用いられる。物質のタイプは、本発明にとって重要ではない。真空での適用が選択されるとき、<1500g/molの分子量を有する物質を好ましく用いることが可能である。MW>1500g/molのとき、ポリマー物質(直鎖、分岐鎖、超分岐鎖、樹状、大環状)を用いることが可能である。架橋性の物質を用いることが有用であることも見出されており、その場合には、光による合成の可能性が存在する。
【0075】
ここでなされる記載事項の詳細は以下に記載される例において見いだすことができる。
【0076】
本出願および以下に記載される例は、有機発光ダイオードおよび対応するディスプレーのみを目的としている。記載のこの限定にもかかわらず、対応する本発明の構造を、また、他の関連デバイス、例えば、2,3のさらなる用途を挙げると、有機太陽電池(O−SC)、有機電界効果トランジスタ(O−FET)または有機レーザーダイオード(O−レーザー)のために、用いることは、さらなる発明性を有することなく当業者に可能である。
【0077】

本発明の構造に対応する有機エレクトロルミネッセント装置の製造と特徴決定。
【0078】
OLEDを、例えば公開されていない出願DE10317556.3に記載されている一般的方法により製造した。その方法は、それぞれの場合において、個々の状況(例えば、最適な効率と色を達成するための層厚さの変化)に適合させなければならない。
【0079】
本発明に必須の発光層(Emission Layer=EML)は、それぞれ異なる発光色を有し、互いに対して適用される少なくとも2つの個別の層を含む。さらなる層、例えば、正孔遮蔽層もまた上記これらの個別の層の間に存在し得る。個別の層は、例えば、低分子量ホスト材料と低分子量ゲスト材料、発光ドーパント例えばCBPまたはホスト材料としての他のマトリックス材料および緑色発光層の場合のドーパントとしてのIr(PPy)3 からなる。低分子量発光化合物の代わりに、高分子量発光化合物(ポリマー)を用いることもまた可能であり、その場合には、ホスト−ゲスト系の一方または両方の成分が高分子量を有し得る。
【0080】
装置の例:
これらの例において、種々のOLEDの結果が提示されている。用いられる材料および層の厚さのような基本構造は、EMLおよびHBLのほかは、よりよい比較のために、同一であった。もっぱら、EMLと随伴するHBLの構造を、例において変化させた。
【0081】
上記一般的方法に類似して、以下の構造を有する広帯域発光OLEDを得た。
【0082】
PEDOT 60nm(水からスピンコーティングされた;H.C.スタークから購入されたPEDOT;ポリ[3,4−エチレンジオキシ−2,5−チオフェン]
NaphDATA 20nm(気相堆積により適用;SynTecから購入されるNaphDATA;4,4’,4”−トリス(N−2−ナフチル)−N−フェニルアミノ)−トリフェニルアミン
S−TAD 20nm(気相堆積により適用;WO99/12888により調製されるS−TAD;2,2’,7,7’−テトラキス(ジフェニルアミノ)スピロビフルオレン)
発光層: 正確な構造については例を参照されたい
HBM 例を参照されたい
AlQ3 10nm(気相堆積により適用;Syn Tecから購入されるAlQ3 ;トリス(キノリノラト)アルミニウム(III))
Ba−Al カソードとして3nmのBa、その上の150nmのAl。
【0083】
なお最適化されるべきであったこれらのOLEDは、標準的な方式で特徴付けられた。この目的のために、エレクトロルミネッセンススペクトル、電流−電圧−明るさ特性(IUL特性)から計算される、明るさの関数としての効率(cd/Aで測定)、および寿命を測定した。
【0084】
表1は例1〜4の結果をまとめている。対応する層の厚さを含むEMLとHBLのすべての組成がリストされている。ドープされた燐光EMLはすべて、マトリックス材料としてビス(9,9’−スピロビフルオレン−2−イル)ケトン(DE10317556.3により合成)を含む。表1には、発光体のみがリストされている。表1に用いられる略号は、以下の化合物に対応する。
【化1】

【表1】

【0085】
要約として、存在するすべての発光体に由来する純粋な白色発光がすべてのOLEDについて観察されたことが証言され得る。対応する発光スペクトルが以下に示される(図1〜3)。
【0086】
例5:電流の関数としての色
例として、電圧または電流の増加に関する色彩の安定性が発光スペクトルに関連して示される。この例において、例2によるOLEDが用いられた。図4は、電流が1mA〜3mAを介して5mAに増加した3つのスペクトルを示す。このことは、x=0.36、y=0.39からx=0.33、y=0.36にCIE座標を変化させ、それは単に極めて小さな変化に相当するに過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】OLEDの発光スペクトルを示す。
【図2】OLEDの発光スペクトルを示す。
【図3】OLEDの発光スペクトルを示す。
【図4】OLEDについての電流の増加に関するスペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード、アノード、および異なる光波長を発する少なくとも2つの相互に画定された発光層を備え、少なくとも1つの燐光発光体が少なくとも1つの発光層に存在する有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項2】
さらなる層が存在することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項3】
前記さらなる層が、正孔注入層および/または正孔輸送層であることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項4】
前記さらなる層が、電子注入層および/または電子輸送層であることを特徴とする請求項2および/または3に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項5】
380nm〜750nmの範囲内の発光を示すことを特徴とする請求項1〜4の1またはそれ以上に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項6】
3つの相互に画定された発光層を有することを特徴とする請求項1〜5の1またはそれ以上に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項7】
前記3つの相互に画定された発光層が、赤、緑および青の発光色を有することを特徴とする請求項1〜6の1またはそれ以上に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項8】
前記発光層が、発光体が純粋な材料として存在する層と、複数の化合物がドーパント−マトリックス系において存在する層との両方を含み、マトリックス材料対発光体の重量比が99:1〜1:99であることを特徴とする請求項1〜7の1またはそれ以上に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項9】
存在する燐光発光体が、38を超え、84未満の原子番号の少なくとも1つの原子を有する化合物であることを特徴とする請求項1〜8の1またはそれ以上に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項10】
前記燐光発光体が、モリブデン、タングステン、レニウム、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、銀、金またはユーロピウムを含むことを特徴とする請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項11】
前記発光層の少なくとも1つが、少なくとも1種の非燐光発光体を含むことを特徴とする請求項1〜10の1またはそれ以上に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項12】
スチリルアミン、クマリン、アントラセン、ピレン、ペリレン、オリゴアセン、ジシアノメタン、スピロ中心を有する化合物、ヘテロ環化合物または金属錯体のクラスからの少なくとも1種の非燐光発光体を含む請求項11に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項13】
少なくとも1つの正孔遮蔽層(HBL)が少なくとも2つの発光層の間に存在することを特徴とする請求項1〜12の1またはそれ以上に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項14】
用いられる正孔遮蔽材料(HBM)がアザフェナントレン、金属キレート錯体、金属錯体またはスピロフェニレンのクラスからの化合物であることを特徴とする請求項13に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項15】
少なくとも1つの電子遮蔽層(EBL)が少なくとも2つの発光層の間に存在することを特徴とする請求項1〜14の1またはそれ以上に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項16】
用いられる電子遮蔽材料(EBM)が、トリアリールアミン、スピロトリアリールアミンまたはフタロシアニンのクラスからの化合物であることを特徴とする請求項15に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項17】
少なくとも1つの電子遮蔽層(EBL)と少なくとも1つの正孔遮蔽層(HBL)が少なくとも2つの発光層の間に存在することを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項18】
前記相互に画定された発光体層の層厚さが、1〜150nmの厚さを有することを特徴とする請求項1〜17の1またはそれ以上に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項19】
前記電子輸送層および正孔遮蔽層の層厚さが1〜150nmの厚さを有することを特徴とする請求項1〜18の1またはそれ以上に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項20】
前記電子輸送層および正孔遮蔽層および発光体層の層厚さが、それぞれ、1〜150nmの範囲内で異なる厚さを有することを特徴とする請求項1〜19の1またはそれ以上に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項21】
前記発光体のガラス転移温度Tg が90℃を超えることを特徴とする請求項1〜20の1またはそれ以上に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項22】
前記発光層のマトリックス材料のガラス転移温度Tg が100℃を超えることを特徴とする請求項1〜21の1またはそれ以上に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。
【請求項23】
(すべての層に)用いられるすべての材料のガラス転移温度Tg が90℃を超えることを特徴とする請求項1〜22の1またはそれ以上に記載の有機エレクトロルミネッセント装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−528421(P2006−528421A)
【公表日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520763(P2006−520763)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【国際出願番号】PCT/EP2004/008070
【国際公開番号】WO2005/011013
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(597035528)メルク パテント ゲーエムベーハー (209)
【Fターム(参考)】