説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】ピロール系化合物のホール輸送材料を用いて、光発光効率の青色リン光有機EL素子を提供する。
【解決手段】基板上に陽極および陰極を備え、陽極と陰極との間に、少なくとも1層の有機層を備えた有機EL素子において、有機層の少なくとも1層がイリジウム錯体材料を含む発光層であり、発光層にホストとして含まれる化合物の孤立分子状態のイオン化ポテンシャルが6.0以上かつ分子量が400以上であり、発光層よりも陽極側に位置する少なくとも1層が、下記一般式(1)で表される化合物を含有しているものとする。



(R1:アルキル基、アラルキル基、脂環式もしくは芳香族炭化水素基、芳香族複素環基。R2〜R4:水素原子、アルキル基、脂環式もしくは芳香族炭化水素基、芳香族複素環基で、少なくとも1つは、芳香族炭化水素基。L:芳香族炭化水素の1〜6価基、芳香族複素環化合物の1〜6価基。n:1〜6で、Lの価数と同一。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青色系リン光用のホール輸送材料として有用なピロール系化合物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と略称する)に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、自発光体であるため視野角が広いこと、応答速度が速いこと、直流電流で駆動すること、及び、水銀等の環境に有害な物質を含まないこと等の特長を備えていることから、液晶やプラズマ等の次世代の表示ディスプレイや、蛍光灯に代わる照明光源として注目を集めいている。
しかしながら、既存のディスプレイや蛍光灯等の代替として使用するためには、消費電力の低減及び有機EL素子の長寿命化が必須の課題として挙げられている。
【0003】
上記課題を解決するために、近年、リン光材料を用いた有機EL素子の検討がなされている。リン光材料を使用した場合、電荷の再結合で生成する一重項励起子のほか、この時同時に生成する三重項励起子も発光に寄与するため、蛍光材料に比べて、より発光効率の高い有機EL素子の作製が可能になる。すなわち、再結合により生成した励起子が100%発光に関係するため、光取り出し効率を考慮した場合であっても、外部量子効率が最大20%となり、上述したような有機EL素子の特長を最大限に発揮することができる。
【0004】
有機EL素子にリン光材料を最初に用いたのは、プリンストン大学のBaldoらであり、白金錯体を用いることにより、高効率の赤色発光が可能であることが報告されている(非特許文献1参照)。
その後、室温で緑色発光するイリジウム錯体等が開発され、リン光材料の開発は活発になってきた(非特許文献2,3参照)。
【0005】
前記有機EL素子は、発光層に、ゲストであるリン光材料とこれにエネルギーを与えるホスト材料の混合物を使用したことを特徴とするものであり、この素子において用いられたホスト材料は、アミン系の材料の4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)であった。
【0006】
ここで、ホスト材料に重要なことは、リン光材料に十分なエネルギーを与えることができる能力を備えていることである。この能力の程度の予測には、ホスト材料が持つHOMOとLUMOの間のバンドギャップ値が目安にされている。
この値によると、CBPは、比較的長波長の緑から赤にかけては十分に機能するものであったが、エネルギーレベルの高い青色系のリン光材料に対しては、これを機能させるのに十分なエネルギーを有していなかった。
【0007】
このため、ホスト材料のワイド(バンド)ギャップ化が求められ、その後、種々のワイドギャップホスト材料の開発により、青色リン光有機EL素子の外部量子効率は向上した(非特許文献4参照)。さらに、発光層に隣接するホール輸送層や電子輸送層に含まれる材料もワイドギャップ化することにより、青色リン光有機EL素子の発光効率はより一層向上した(特許文献1等参照)。
【0008】
なお、特許文献2,3には、ホスト材料や電子輸送層へのホールの突き抜けを阻止するホールブロック層に、ピロール環を有する化合物を使用することが開示されているが、これらは、ピロール環の特徴である6π電子系5員環のホール輸送能力を活かしたものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−35524号公報
【特許文献2】特開2004−146368号公報
【特許文献3】特開2005−232159号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Nature, Vol.395,p.151 (1998)
【非特許文献2】Appl.Phys.Lett.,Vol.75, p.4 (1999)
【非特許文献3】Appl.Phys.Lett.,Vol.77, p.904 (2000)
【非特許文献4】Appl.Phys.Lett.,Vol.83, p.569 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、ワイドギャップ材料を用いることにより、青色リン光有機EL素子の高効率化は着実に進んできている。
しかしながら、青色リン光有機EL素子の発光効率は、実用化の観点からは未だ十分とは言えず、新規材料の開発が求められている。
【0012】
そこで、本発明者らは、ワイドギャップ材料として、上記に挙げられているようなピロール環を有する化合物に着目して検討を重ねたところ、ホール輸送材料として有用であるピロール系化合物を見出した。
【0013】
したがって、本発明は、ピロール系化合物を用いることにより、従来のホール輸送材料を用いた有機EL素子よりも、高発光効率の青色リン光有機EL素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る有機EL素子は、基板上に陽極および陰極を備え、前記陽極と陰極との間に、少なくとも1層の有機層を備えた有機EL素子であって、前記有機層の少なくとも1層がリン光錯体材料を含む発光層であり、前記発光層にホストとして含まれる化合物の孤立分子状態のイオン化ポテンシャルが6.0以上かつ分子量が400以上であり、前記有機層のうちの発光層よりも陽極側に位置する少なくとも1層が、下記一般式(1)で表される化合物を単独で、又は、混合物として含有していることを特徴とする。
【0015】
【化1】

【0016】
前記一般式(1)において、R1は、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数7〜12の置換もしくは無置換のアラルキル基、炭素数6〜20の脂環式炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、及び、置換もしくは無置換の芳香族複素環基の群の中から選ばれた置換基である。R2〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数6〜20の脂環式炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、及び、置換もしくは無置換の芳香族複素環基の群の中から選ばれた置換基である。ただし、R2〜R4のうちの少なくとも1つは、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基である。Lは、炭素数6〜45の置換もしくは無置換の芳香族炭化水素の1〜6価基、及び、炭素数4〜40の置換もしくは無置換の芳香族複素環化合物の1〜6価基の群の中から選ばれた置換基である。nは、1〜6から選ばれた整数であり、Lの価数と同一である。
上記のようなピロール系化合物は、青色リン光用ホール輸送材料として有用であり、高発光効率の長寿命の青色発光素子を構成することができる。
【0017】
前記有機EL素子は、前記一般式(1)において、nが2、Lが2価基であることが好ましい。Lは、置換もしくは無置換の炭素数6〜45の芳香族炭化水素の2価基であることがより好ましく、特に、置換もしくは無置換のビフェニレン基であることが好ましい。
【0018】
また、前記リン光錯体材料は、フッ素原子を少なくとも1つ含んでおり、また、孤立分子状態のイオン化ポテンシャルが7.0以上のイリジウム錯体であることが好ましい。
【0019】
前記リン光錯体材料は、特に、下記(化2)に示すビス[2−(4,6−ジフルオロフェニル)ピリジネート−N,C2’]イリジウム(III)ピコリネート(FIrpic)であることが好ましい。
【0020】
【化2】

【0021】
また、前記発光層にホストとして含まれる化合物が、下記(化3)に示すトリス−(4−カルバゾリル−9−イル−フェニル)−アミン(TCTA)であることが好ましい。
【0022】
【化3】

【発明の効果】
【0023】
本発明に係るピロール系化合物は、青色リン光用ホール輸送材料として有用であり、従来のN3,N3,N3’’’,N3’’’−テトラ−p−トリル−[1,1’;2’,1’’;2’’,1’’’]クウォーターフェニル−3,3’’’−ジアミン(3DTAPBP)等の青色リン光用ホール輸送材料の代替として使用することにより、高い発光効率かつ長寿命で発光する有機EL素子が得られる。
したがって、本発明に係る有機EL素子は、近年、より優れた色再現性が求められるOAコンピュータ用や壁掛けテレビ用のフラットパネル・ディスプレイ、さらに、照明機器、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源等の面発光体としての特長を活かした光源、表示板、標識灯への応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る有機EL素子の層構造を模式的に示した概略断面図である。
【図2】実施例における有機EL素子の寿命特性の評価結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
本発明に係る有機EL素子は、基板上に陽極および陰極を備え、前記陽極と陰極との間に、少なくとも1層の有機層を備えており、前記有機層の少なくとも1層がリン光錯体材料を含む発光層を含んでいる。そして、前記発光層にホストとして含まれる化合物の孤立分子状態のイオン化ポテンシャルが6.0以上かつ分子量が400以上である。また、前記有機層のうちの発光層よりも陽極側に位置する少なくとも1層が、下記一般式(1)で表される化合物を単独で、又は、混合物として含有していることを特徴とするものである。
上記のようなピロール系化合物は、青色系リン光用のホール輸送材料として好適であり、高い発光効率かつ長寿命で発光する有機EL素子を構成することができる。
【0026】
前記発光層にホストとして含まれる化合物は、孤立分子状態のイオン化ポテンシャル(Ig)が6.0以上かつ分子量が400以上であれば、ワイドギャップホスト材料として機能し、前記リン光錯体材料を高効率で青色発光させることができる。
なお、イオン化ポテンシャルとは、中性状態の分子から1個の電子を引き抜いてイオン化するために必要なエネルギー、すなわち、中性状態の分子とプラス電荷を帯びた分子との間の全エネルギー差である。また、孤立分子状態とは、その分子の周囲に、他の原子や分子が存在しない状態を言う。
孤立分子状態のイオン化ポテンシャル(Ig)は、真空紫外光電子分光器を用いて測定したり、分子軌道法等での計算により算出したりして求めることができるが、本発明におけるIgは、ハイブリッド密度汎関数法B3LYPによる分子軌道計算から得られた値である。
【0027】
また、前記一般式(1)において、R1は、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数7〜12の置換もしくは無置換のアラルキル基、炭素数6〜20の脂環式炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、及び、置換もしくは無置換の芳香族複素環基の群の中から選ばれた置換基である。R2〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数6〜20の脂環式炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、及び、置換もしくは無置換の芳香族複素環基の群の中から選ばれた置換基である。ただし、R2〜R4のうちの少なくとも1つは、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基である。Lは、炭素数6〜45の置換もしくは無置換の芳香族炭化水素の1〜6価基、及び、炭素数4〜40の置換もしくは無置換の芳香族複素環化合物の1〜6価基の群の中から選ばれた置換基である。nは、1〜6から選ばれた整数であり、Lの価数と同一である。
【0028】
上記置換基のうち、アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の飽和脂肪族炭化水素基を示し、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
アラルキル基とは、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等の芳香族アルキル基を示し、無置換であっても置換されていてもよい。
脂環式炭化水素基とは、例えば、アダマンチル基、ノルボルニル基、パーヒドロアントラセニル基、パーヒドロナフチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、シクロ、ビシクロ、トリシクロ環等を有しており、これらの誘導体であってもよい。
芳香族炭化水素基とは、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられ、無置換であっても置換されていてもよい。
芳香族複素環基とは、例えば、オキサゾール、オキサジアゾール、チアゾール、チアジアゾール、フラン、フラザン、チオフェン、ピラン、チオピラン、ピロール、ピラゾール、イミダゾリン、イミダゾール、ピラジン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、トリアゾール、トリアジン等の炭素以外に窒素、酸素または酸素のいずれかを環構成元素として含む基を示し、無置換であっても置換されていてもよい。
【0029】
前記一般式(1)で表される化合物は、前記有機層のうちの発光層よりも陽極側に位置する少なくとも1層に含まれていればよく、この化合物は、単独であっても、あるいはまた、混合物として含まれていてもよい。
また、前記一般式(1)で表される化合物は、具体的には、後述する実施例における合成法に準じた方法で、原料の化合物を適宜選択することにより合成することができる。
【0030】
本発明に係る有機EL素子においては、前記一般式(1)で表される化合物の中でも、nが2、Lが2価基であることが好ましい。Lは、置換もしくは無置換の炭素数6〜45の芳香族炭化水素の2価基であることがより好ましく、特に、置換もしくは無置換のビフェニレン基であることが好ましい。
【0031】
また、前記リン光錯体材料は、より高効率で青色発光させる観点から、フッ素原子を少なくとも1つ含んでおり、また、孤立分子状態のイオン化ポテンシャルが7.0以上のイリジウム錯体であることが好ましい。
【0032】
前記リン光錯体材料としては、具体的には、ビス[2−(4,6−ジフルオロフェニル)ピリジネート−N,C2’]イリジウム(III)ピコリネート(FIrpic)であることが好ましい。構造式は、前記(化2)に示したとおりである。
なお、前記リン光錯体材料は、前記発光層においてドーパントとして通常用いられる程度の添加量でよいが、分子同士の会合体を形成することなく、該イリジウム錯体材料由来の青色リン光を発光させる観点から、0.01〜40重量%程度の添加量とすることが好ましい。
【0033】
一方、前記発光層にホストとして含まれる化合物としては、具体的には、後述する実施例において用いたトリス−(4−カルバゾリル−9−イル−フェニル)−アミン(TCTA)が好ましい。構造式は、前記(化3)に示したとおりである。
【0034】
上記のようなホスト材料およびドーパントを含む発光層を備えた本発明に係る有機EL素子の層構造は、基板上に陽極および陰極を備え、前記陽極と陰極との間に、前記発光層を含む少なくとも1層の有機層を備えた構造からなる。
前記有機EL素子は、発光効率向上の観点から、前記陽極と発光層との間に、ホール輸送層、ホール注入層が配置されていることが好ましい。また、前記陰極と発光層との間に、電子輸送層、電子注入層、ホール阻止層が配置されていることが好ましい。
これらの層構造を具体的に示すと、陽極/発光層/陰極、陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極、陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極、陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/ホール阻止層/電子輸送層/電子注入層/陰極等の構造が挙げられる。
さらに、ホール輸送発光層、電子輸送発光層等をも含む公知の積層構造とすることもできる。
【0035】
前記ホール輸送層、ホール注入層、ホール輸送性発光層、電子輸送層、電子注入層、ホール阻止層、電子輸送性発光層に用いられる材料は、特に限定されるものではなく、公知のものから適宜選択して用いることができ、低分子系又は高分子系のいずれであってもよい。
なお、プロセス効率化の観点から、低温プロセスによる成膜が可能な材料を選択することが好ましい。
【0036】
上記各層の形成は、真空蒸着法、スパッタリング法等などの乾式法、インクジェット法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法により行うことができる。好ましくは、真空蒸着により膜形成を行う。
また、前記各層の膜厚は、各層同士の適応性や求められる全体の層厚さ等を考慮して、適宜状況に応じて定められるが、通常、5nm〜5μmの範囲内であることが好ましい。
【0037】
本発明に係る有機EL素子の電極は、透明基板上に透明導電性薄膜が形成されたものであることが好ましい。
前記基板は、有機EL素子の支持体となるものであり、基板側が発光面となる場合、可視光において透光性を有する透明基板を用いることが好ましい。光透過率は80%以上であることが好ましく、85%以上であることが好ましい。より好ましくは、90%以上である。
前記透明基板としては、一般に、BK7、BaK1、F2等の光学ガラス、石英ガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス等のガラス基板、PMMA等のアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホネート、ポリスチレン、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等のポリマー基板が用いられる。
前記基板の厚さは、通常、0.1〜10mm程度のものが用いられるが、機械的強度、重量等を考慮して、0.3〜5mmであることが好ましく、0.5〜2mmであることがより好ましい。
【0038】
前記基板上には、通常、陽極が形成される。この陽極は、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、導電性化合物等により構成されるが、前記透明基板上に透明電極として形成されることが好ましい。
この透明電極には、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛、酸化亜鉛等の金属酸化物が一般的に用いられ、特に、透明性や導電性等の観点から、ITOが好適に用いられる。
この透明電極の膜厚は、透明性および導電性の確保のため、80〜400nmであることが好ましく、100〜200nmであることがより好ましい。
陽極の形成は、通常、スパッタリング法、真空蒸着法等により行われ、透明導電性薄膜として形成されることが好ましい。
【0039】
一方、前記陽極に対向する陰極は、仕事関数の小さい(4eV以下)金属、合金、導電性化合物により構成される。例えば、アルミニウム、アルミニウム−リチウム合金、マグネシウム−銀合金、フッ化リチウム等が挙げられ、単層であっても、あるいはまた、仕事関数の異なる材料を組み合わせた複層としてもよい。
前記陰極の膜厚は、10〜500nmであることが好ましく、50〜200nmであることがより好ましい。
前記陰極の形成は、スパッタリング法やイオンプレーティング法、蒸着法等の通常用いられる方法で成膜することにより形成することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づいて、さらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
まず、本実施例の有機EL素子のホール輸送材料として用いる8種類のピロール系化合物Pyr1〜8を、下記に示す合成例により、それぞれ合成した。
[合成例1]
(3,3’−ビス(1,2−ジフェニル−1H−ピロール−3−イル)ビフェニル(Pyr1)の合成)
以下に、合成スキームを示す。
【0041】
【化4】

【0042】
3方コックを装着した300ml4口フラスコに、ナトリウムtert−ブトキシド25.4g(264mmol)、酢酸パラジウム0.27g(1.2mmol)を加え、脱気及び窒素置換を3回繰り返した。次いで、脱水THF120ml、P(t−Bu)0.32ml(1.2mmol)を加え、5分間撹拌した。その後、3−ブロモクロロベンゼン23.0g(120mmol)、アセトフェノン14.4g(120mmol)を順次加え、反応を開始した。系内は、オレンジ色から赤褐色へと変化していった。
20時間後、反応を停止させ、反応溶液を酢酸溶液(酢酸14ml、水100ml)に滴下して中和した後、トルエン160mlを加え、飽和塩化ナトリウム水溶液で分液を行った。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、エバポレータで濃縮して、茶色のオイルを得た。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製し、2−(3−クロロフェニル)−1−フェニルエタノン18.0g(78.2mmol、収率65.1%)を得た。
【0043】
次に、500ml4口フラスコに、脱水DMF250ml、上記で得られた2−(3−クロロフェニル)−1−フェニルエタン18.0g(78.2mmol)、ナトリウムtert−ブトキシド9.01g(93.8mmol)を加え、室温で撹拌し、さらに、ブロモアセトアルデヒドジエチルアセタール18.5g(93.8mmol)を滴下し、その後、65〜70℃に昇温した。
24時間後、エバポレータでDMFを留去し、クロロホルム200ml、塩化アンモニウム水溶液100ml×2回、水100ml×1回で分液洗浄を行った。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ濃縮して、油状物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製し、2−(3−クロロフェニル)−4,4−ジエトキシ−1−フェニル−ブタン−1−オン12.8g(36.8mmol、収率47.1%)を得た。
【0044】
続いて、100ml2口フラスコに、上記で得られた2−(3−クロロフェニル)−4,4−ジエトキシ−1−フェニル−ブタン−1−オン3.83g(12.0mmol)、アニリン1.12g(12.0mmol)、p−トルエンスルホン酸一水和物0.11g(0.6mmol)、トルエン50mlを加え、還流温度まで昇温した。
18時間後、反応を停止させ、反応溶液をエバポレータで濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製し、3−(3−クロロフェニル)−1,2−ジフェニル−1H−ピロール2.91g(8.82mmol、収率73.5%)を得た。
【0045】
次に、50ml2口フラスコに、上記で得られた3−(3−クロロフェニル)−1,2−ジフェニル−1H−ピロール1.2g(3.63mmol)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(Ni(cod))1.52g(5.24mmol)、2,2’−ビピリジン0.82g(5.24mmol)、脱水DMF20mlを加え、55〜60℃で窒素気流下、加熱撹拌した。
19時間後、原料が完全に消失したため、反応を停止した。反応溶液にクロロホルム200mlを加え、1M塩酸100ml、水100ml×3回で分液洗浄を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過した。さらに、シリカゲル75gを敷き詰めた桐山ロートでろ過し、クロロホルム50mlでシリカゲルを洗浄した。ろ液を濃縮した後、n−ヘキサン50mlで撹拌洗浄した。不溶物をろ過した後、乾燥させて、3,3’−ビス(1,2−ジフェニル−1H−ピロール−3−イル)ビフェニル(Pyr1)0.99g(1.68mmol、収率92.6%)を微黄色固体で得た。
なお、構造確認は、1H−NMR、MSスペクトルにより行った。
【0046】
[合成例2]
(3,3’−ビス(2−フェニル−1−(4−トリル)−1H−ピロール−3−イル)ビフェニル(Pyr2)の合成)
以下に、合成スキームを示す。
【0047】
【化5】

【0048】
100ml2口フラスコに、合成例1で得られた2−(3−クロロフェニル)−4,4−ジエトキシ−1−フェニル−ブタン−1−オン5.05g(15.84mmol)、p−トルイジン1.70g(15.84mmol)、p−トルエンスルホン酸一水和物0.15g(0.8mmol)、トルエン70mlを加え、還流温度まで昇温した。
16時間後反応を停止させ、反応溶液をエバポレータで濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製し、3−(3−クロロフェニル)−2−フェニル−1―4−トリル−1H−ピロール4.4g(12.80mmol、収率80.8%)を得た。
【0049】
次いで、50ml2口フラスコに、上記で得られた3−(3−クロロフェニル)−2−フェニル−1−4−トリル−1H−ピロール1.2g(3.48mmol)、Ni(cod)1.52g(5.24mmol)、2,2’−ビピリジン0.82g(5.24mmol)、脱水DMF20mlを加え、55〜60℃で窒素気流下、加熱撹拌した。
19時間後、原料が完全に消失したため、反応を停止させた。反応溶液にクロロホルム200mlを加え、さらに、1M塩酸100ml、水100ml×3回で分液洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過した。さらに、シリカゲル75gを敷き詰めた桐山ロートでろ過し、クロロホルム50mlでシリカゲルを洗浄した。ろ液を濃縮した後、n−ヘキサン50mlで撹拌洗浄した。不溶物をろ過した後、乾燥させて、3,3’−ビス(2−フェニル−1−(4−トリル)−1H−ピロール−3−イル)ビフェニル(Pyr2)0.99g(1.61mmol、92.5%)を微黄色固体で得た。
【0050】
[合成例3]
(3,3’−ビス(1−(4−tert−ブチルフェニル)−2−フェニル−1H−ピロール−3−イル)ビフェニル(Pyr3)の合成)
以下に、合成スキームを示す。
【0051】
【化6】

【0052】
200ml2口フラスコに、合成例1で得られた2−(3−クロロフェニル)−4,4−ジエトキシ−1−フェニル−ブタン−1−オン5.02g(14.47mmol)、4−tert−ブチルアニリン2.16g(14.47mmol)、p−トルエンスルホン酸一水和物0.14g(0.72mmol)、トルエン70mlを加え、還流温度(108〜109℃)まで昇温した。
19時間後反応を停止させ、反応溶液をエバポレータで濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製し、1−(4−tert−ブチルフェニル)−3−(3−クロロフェニル)−2−フェニル−1H−ピロール5.1g(13.21mmol、収率91.3%)を得た。
【0053】
次いで、100ml2口フラスコに、上記で得られた1−(4−tert−ブチルフェニル)−3−(3−クロロフェニル)−2−フェニル−1H−ピロール2.0g(5.18mmol)、Ni(cod)2.25g(7.77mmol)、2,2’−ビピリジン1.21g(7.77mmol)、脱水DMF30mlを加え、55〜60℃で窒素気流下、加熱撹拌した。
2.5時間後、原料が完全に消失したため、反応を停止した。反応溶液にクロロホルム200mlを加え、1M塩酸100ml、重曹水100ml、水100mlで順次、分液洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過した。さらに、シリカゲル75gを敷き詰めた桐山ロートでろ過し、クロロホルム400mlでシリカゲルを洗浄した。ろ液を濃縮した後、n−ヘキサン50mlで撹拌洗浄した。不溶物をろ過した後、乾燥させて、3,3’−ビス(1−(4−tert−ブチルフェニル)−2−フェニル−1H−ピロール−3−イル)ビフェニル(Pyr3)1.40g(2.0mmol、収率77.2%)を微黄色固体で得た。
【0054】
[合成例4]
(3,3’−ビス(1−(4−tert−ブチルフェニル)−2−(4−トリル)−1H−ピロール−3−イル)ビフェニル(Pyr4)の合成)
以下に、合成スキームを示す。
【0055】
【化7】

【0056】
3方コックを装着した300ml4口フラスコに、ナトリウムtert−ブトキシド21.5g(223.7mmol)、酢酸パラジウム0.21g(0.9mmol)を加え、脱気、窒素置換を3回繰り返した。次いで、脱水THF100ml、P(t−Bu)0.25ml(0.9mmol)を加え、5分間撹拌した。その後、3−ブロモクロロベンゼン17.8g(93.2mmol)、4−トリルエタノン12.5g(93.2mmol)を順次加え、反応を開始した。系内はオレンジ色から赤褐色へと変化していった。
40時間後、反応を停止させ、反応溶液を酢酸溶液(酢酸14.6ml、水200ml)に滴下して中和した後、トルエン100mlを加え、飽和塩化ナトリウム水溶液で分液を行った。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、エバポレータで濃縮して、2−(3−クロロフェニル)−1−(4−トリル)エタノンを茶色のオイルで得た。
【0057】
次に、500ml4口フラスコに、脱水DMF200ml、上記で得られた2−(3−クロロフェニル)−1−(4−トリル)エタノン22.8g(93.2mmol)、ナトリウムtert−ブトキシド10.7g(111.8mmol)を加え、60℃付近まで昇温した。56℃の時点で、ブロモアセトアルデヒドジエチルアセタール22.0g(111.8mmol)を滴下し、その後、80〜85℃で23時間反応を行った。なお、反応の終了は、薄層クロマトグラフィ(TLC)(展開溶媒:ヘキサン/クロロホルム=1/3)で確認した。
エバポレータでDMFを留去し、クロロホルム300ml、水100ml×4回で分液洗浄を行った。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮して油状物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製して、2−(3−クロロフェニル)−4,4−ジエトキシ−1−(4−トリル)−ブタン−1−オン9.01g(25.0mmol、収率26.8%)を褐色油状物で得た。
【0058】
続いて、100ml2口フラスコに、上記で得られた2−(3−クロロフェニル)−4,4−ジエトキシ−1−(4−トリル)−ブタン−1−オン3.0g(8.31mmol)、4−tert−ブチルアニリン1.24g(8.31mmol)、p−トルエンスルホン酸一水和物0.08g(0.42mmol)、トルエン50mlを加え、還流温度まで昇温した。
4時間後、TLCで反応を確認したところ、原料が消失していたため、反応を停止させた。反応溶液をエバポレータで濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製し、1−(4−tert−ブチルフェニル)−3−(3−クロロフェニル)−2−(4−トリル)−1H−ピロール2.47g(6.18mmol、収率74.4%)を得た。
【0059】
次に、100ml2口フラスコに、上記で得られた1−(4−tert−ブチルフェニル)−3−(3−クロロフェニル)−2−(4−トリル)−1H−ピロール2.47g(6.18mmol)、Ni(cod)22.55g(9.27mmol)、2,2’−ビピリジン1.45g(9.27mmol)、脱水DMF30mlを加え、55〜60℃で窒素気流下、加熱撹拌した。
18時間後、反応を停止させ、クロロホルム200mlを加え、1M塩酸100ml、重曹水100ml、水100mlで順次、分液洗浄を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレータで濃縮して、粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製した後、n−ヘキサン200mlで洗浄し、60℃で減圧乾燥して、3,3’−ビス(1−(4−tert−ブチルフェニル)−2−(4−トリル)−1H−ピロール−3−イル)ビフェニル(Pyr4)1.55g(2.13mmol、収率68.9%)を得た。
【0060】
[合成例5]
(3,3’−ビス(1−(4−tert−ブチルフェニル)−2−(3−トリル)−1H−ピロール−3−イル)ビフェニル(Pyr5)の合成)
以下に、合成スキームを示す。
【0061】
【化8】

【0062】
3方コックを装着した300ml4口フラスコに、ナトリウムtert−ブトキシド21.5g(223.7mmol)、酢酸パラジウム0.21g(0.9mmol)を加え、脱気、窒素置換を3回繰り返した。次に、脱水THF100ml、P(t−Bu)0.25ml(0.9mmol)を加え、5分間撹拌した。その後、3−ブロモクロロベンゼン17.8g(93.2mmol)、3−トリルエタノン12.5g(93.2mmol)を順次加え、反応を開始した。系内はオレンジ色から赤褐色へと変化していった。
16時間後、TLCで確認したところ、原料がほぼ消失していたため、反応を停止させた。反応溶液を酢酸溶液(酢酸13.4ml、水200ml)に滴下して中和した後、トルエン100mlを加え、飽和塩化ナトリウム水溶液で分液を行った。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、エバポレータで濃縮して、2−(3−クロロフェニル)−1−(3−トリル)エタノンを茶色のオイルで得た。
【0063】
次に、500ml4口フラスコに、乾燥DMF200ml、上記で得られた未精製の2−(3−クロロフェニル)−1−(3−トリル)エタノン21.9g(89.3mmol)、ナトリウムtert−ブトキシド10.3g(107.2mmol)を加え、60℃付近まで昇温した。60℃の時点で、ブロモアセトアルデヒドジエチルアセタール21.1g(107.2mmol)を滴下し、その後、60〜65℃で18時間反応を行った。エバポレータでDMFを留去し、クロロホルム300ml、水100ml×4回で分液洗浄を行った。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、エバポレータで濃縮して、油状物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製して、2−(3−クロロフェニル)−4,4−ジエトキシ−1−(3−トリル)−ブタン−1−オン5.31g(14.7mmol、収率16.5%)を褐色油状物で得た。
【0064】
続いて、100ml2口フラスコに、上記で得られた2−(3−クロロフェニル)−4,4−ジエトキシ−1−(3−トリル)−ブタン−1−オン3.0g(8.31mmol)、4−tert−ブチルアニリン1.24g(8.31mmol)、p−トルエンスルホン酸一水和物0.08g(0.42mmol)、トルエン50mlを加え、還流温度まで昇温した。
20時間後、TLCで反応を確認したところ、原料が消失していたため、反応を停止させた。反応溶液をエバポレータで濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィで2回精製して、1−(4−tert−ブチルフェニル)−3−(3−クロロフェニル)−2−(3−トリル)−1H−ピロール2.5g(6.25mmol、収率75.2%)を得た。
【0065】
次に、100ml2口フラスコに、1−(4−tert−ブチルフェニル)−3−(3−クロロフェニル)−2−(3−トリル)−1H−ピロール2.50g(6.25mmol)、Ni(cod)21.90g(6.9mmol)、2,2’−ビピリジン1.08g(6.9mmol)、脱水DMF30mlを加え、55〜60℃で窒素気流下、加熱撹拌した。
19時間後、反応を停止させ、クロロホルム300mlを加え、1M塩酸100ml、重曹水100ml、水100mlで分液洗浄を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレータで濃縮して、粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製し、3,3’−ビス(1−(4−tert−ブチルフェニル)−2−(3−トリル)−1H−ピロール−3−イル)ビフェニル(Pyr5)1.81g(2.48mmol、収率79.4%)を得た。
【0066】
[合成例6]
(3,3’−ビス(1−シクロヘキシル−2−フェニル−1H−ピロール−3−イル)ビフェニル(Pyr6)の合成)
以下に、合成スキームを示す。
【0067】
【化9】

【0068】
100ml4口フラスコに、合成例1で得られた2−(3−クロロフェニル)−4,4−ジエトキシ−1−フェニル−ブタン−1−オン5.1g(16.0mmol)、シクロヘキシルアミン4.75g(47.9mmol)、12M塩酸2ml(23.9mmol)、トルエン80ml、酢酸5.8g(95.8mmol)を加え、還流温度まで昇温した。
32時間後、TLCで反応を確認したところ、目的物と思われるスポットが出現していたため、反応を停止させた。反応溶液にトルエン200mlを加え、水100ml、重曹水100ml、水100mlで順次、分液洗浄を行った。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、ろ過濃縮して、粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製し、3−(3−クロロフェニル)−1−シクロヘキシル−2−フェニル−1H−ピロールを得た。
【0069】
次に、100ml2口フラスコに、上記で得られた3−(3−クロロフェニル)−1−シクロヘキシル−2−フェニル−1H−ピロール1.52g(4.53mmol)、Ni(cod)21.37g(4.98mmol)、2,2’−ビピリジン0.78g(4.98mmol)、脱水DMF20mlを加え、55〜60℃で窒素気流下、加熱撹拌した。
21時間後、反応を停止させ、クロロホルム200mlを加え、1M塩酸100ml、重曹水100ml、水100mlで順次、分液洗浄を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレータで濃縮して、粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製し、3,3’−ビス(1−シクロヘキシル−2−フェニル−1H−ピロール−3−イル)ビフェニル(Pyr6)1.26g(2.10mmol、収率92.8%)を得た。
【0070】
[合成例7]
(3,3’−ビス(1−(4−tert−ブチルフェニル)−5−メチル−2−フェニル−1H−ピロール−3−イル)ビフェニル(Pyr7)の合成)
以下に、合成スキームを示す。
【0071】
【化10】

【0072】
100ml4口フラスコに、脱水DMF40ml、合成例1で得られた2−(3−クロロフェニル)−1−フェニルエタノン2.0g(8.67mmol)、ナトリウムtert−ブトキシド0.85g(8.67mmol)を加え、さらに、ブロモアセトン1.46g(9.54mmol、90%)のDMF溶液20mlを5分で滴下した。
3時間後に、TLCで反応を確認したところ、原料が消失していたため、反応を停止させ、水200ml、クロロホルム50ml加え、分液抽出を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレータで濃縮して、粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製して、2−(3−クロロフェニル)−1−フェニル−ペンタン−1,4−ジオン2.14g(7.46mmol、収率86.0%)を得た。
【0073】
次に、ディーンスターク管を装着した300mlナスフラスコに、上記で得られた2−(3−クロロフェニル)−1−フェニル−ペンタン−1,4−ジオン2.14g(7.46mmol)、4−tert−ブチルアニリン1.11g(7.46mmol)、p−トルエンスルホン酸一水和物0.07g(0.37mmol)、トルエン35mlを加え、還流温度まで昇温した。
18時間後、TLCで反応を確認したところ、原料がほぼ消失していたため、反応を停止させた。反応溶液をエバポレータで濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製し、1−(4−tert−ブチルフェニル)−3−(3−クロロフェニル)−5−メチル−2−フェニル−1H−ピロール2.74g(6.85mmol、収率91.8%)を得た。
【0074】
続いて、100ml2口フラスコに、上記で得られた1−(4−tert−ブチルフェニル)−3−(3−クロロフェニル)−5−メチル−2−フェニル−1H−ピロール2.74g(6.85mmol)、Ni(cod)22.45g(8.91mmol)、2,2’−ビピリジン1.39g(8.91mmol)、脱水DMF30mlを加え、55〜60℃で窒素気流下、加熱撹拌した。
16時間後、TLCで反応を確認したところ、原料が消失していたため、反応を停止させた。反応溶液をエバポレータで濃縮し、残渣にクロロホルム100mlを加え、1M塩酸100ml、重曹水100ml、水100mlで順次、分液洗浄を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレータで濃縮して、粗生成物を得た。これにトルエン70mlを加え、60℃まで加熱して溶解させ、シリカゲル25gを加えて、60℃で30分間分散撹拌した。その後、シリカゲルをろ過し、熱(50〜60℃)トルエン70mlで洗浄した。トルエン溶液をエバポレータで濃縮し、得られた残渣をトルエンで再結晶して、3,3’−ビス(1−(4−tert−ブチルフェニル)−5−メチル−2−フェニル−1H−ピロール−3−イル)ビフェニル(Pyr7)1.64g(2.26mmol、収率65.9%)を白色微結晶で得た。
【0075】
[合成例8]
(3,3’−ビス(1−(4−tert−ブチルフェニル)−5−メチル−2−(4−トリル)−1H−ピロール−3−イル)ビフェニル(Pyr8)の合成)
以下に、合成スキームを示す。
【0076】
【化11】

【0077】
3方コックを装着した300ml4口フラスコに、ナトリウムtert−ブトキシド17.9g(178.8mmol)、酢酸パラジウム0.17g(0.745mmol)を加え、脱気、窒素置換を3回繰り返した。次いで、脱水THF85ml、3−ブロモクロロベンゼン14.3g(74.5mmol)、4−トリルエタノン10g(74.5mmol)を加え、5分間撹拌した後、P(t−Bu)30.2ml(0.745mmol)を加え、反応を開始した。系内はオレンジ色から赤褐色へと変化していった。1時間後、系内を50℃まで昇温した。
反応開始3時間後、TLCで反応を確認したところ、アセトフェノンがほぼ消失したため、反応を停止させた。溶液を酢酸溶液(酢酸10.3ml(180mmol)、水350ml)に滴下し中和した後、トルエン200mlを加えて分液抽出した。さらに、重曹水200ml、水200mlで分液洗浄を行った。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、エバポレータで濃縮して、茶色のオイルを得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製して、2−(3−クロロフェニル)−1−(4−トリル)エタノン10.0g(40.9mmol、収率54.9%)をロウ状の白色固体で得た。
【0078】
次いで、100ml4口フラスコに、脱水DMF30ml、上記で得られた2−(3−クロロフェニル)−1−(4−トリル)エタノン2.5g(10.2mmol)、ナトリウムtert−ブトキシド1.0g(10.2mmol)を加えた。さらに、ブロモアセトン1.7g(11.2mmol、90%)のDMF溶液20mlを5分で滴下した。
18時間後、TLCで反応を確認したところ、原料が消失していたため、反応を停止させた。反応系内に水100ml、クロロホルム50ml加え、分液抽出を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレータで濃縮して、粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製して、2−(3−クロロフェニル)−1−(4−トリル)−ペンタン−1,4−ジオン2.33g(7.75mmol、収率76.0%)を無色油状物で得た。
【0079】
続いて、ディーンスターク管を装着した300mlナスフラスコに、上記で得られた2−(3−クロロフェニル)−1−(4−トリル)−ペンタン−1,4−ジオン2.33g(7.75mmol)、4−tert−ブチルアニリン1.16g(7.75mmol)、p−トルエンスルホン酸一水和物0.08g(0.4mmol)、トルエン35mlを加え、還流温度まで昇温した。
24時間後、TLCで反応を確認したところ、ほぼ原料が消失していたため、反応溶液をエバポレータで濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製し、1−(4−tert−ブチルフェニル)−3−(3−クロロフェニル)−5−メチル−2−(4−トリル)−1H−ピロール2.90g(7.01mmol、収率90.5%)を得た。
【0080】
次に、100ml2口フラスコに、上記で得られた1−(4−tert−ブチルフェニル)−3−(3−クロロフェニル)−5−メチル−2−(4−トリル)−1H−ピロール2.90g(7.01mmol)、Ni(cod)22.50g(9.10mmol)、2,2’−ビピリジン1.42g(9.10mmol)、脱水DMF30mlを加え、55〜60℃で窒素気流下、加熱攪拌した。
16時間後、TLCで反応を確認したところ、原料が消失していたため、反応を停止させた。反応溶液にクロロホルム150mlを加え、1M塩酸50ml、重曹水50ml、水50mlで順次、分液洗浄を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレータで濃縮して、粗生成物を得た。これにトルエン150mlを加え、60℃まで加熱して溶解させ、シリカゲル50gを加えて、60℃で30分間分散撹拌した後、シリカゲルをろ過し、熱トルエン70mlで洗浄した。トルエン溶液をエバポレータで濃縮し、得られた残渣をトルエンで再結晶して、3,3’−ビス(1−(4−tert−ブチルフェニル)−5−メチル−2−(4−トリル)−1H−ピロール−3−イル)ビフェニル(Pyr8)1.98g(2.62mmol、収率74.6%)を白色微結晶で得た。
【0081】
[有機EL素子の作製]
上記により合成したPyr1〜8のうち、Pyr4〜6(実施例1〜3)及びN3,N3,N3’’’,N3’’’−テトラ−p−トリル−[1,1’;2’,1’’;2’’,1’’’]クウォーターフェニル−3,3’’’−ジアミン(3DTAPBP)(比較例1)をホール輸送材料として用い、図1に示すような層構成からなる青色リン光素子をそれぞれ作製した。
前記素子において、ホール注入層にはMoO3が20wt%ドープされた前記各ホール輸送材料(Pyr4〜6又は3DTAPBPのいずれか)を用い、電子輸送材料にはKLET03(ケミプロ化成株式会社製)を用いた。発光層のホスト材料にはTCTA、ドーパントにはFIrpicを用いた。電子注入材料には、8−ヒドロキシキノリノラトリチウム(Liq)を用いた。
【0082】
具体的な素子の作製方法は、以下のとおりである。
まず、パターニング済みのITO基板(膜厚110nm)を純水と界面活性剤による超音波洗浄、純水による流水洗浄、純水とイソプロピルアルコールの1:1混合溶液による超音波洗浄、イソプロピルアルコールによる煮沸洗浄の順で洗浄した。この基板を沸騰中のイソプロピルアルコールからゆっくり引き上げ、イソプロピルアルコール蒸気中で乾燥させ、最後にUVオゾン洗浄を行った。
洗浄済みの前記基板を真空チャンバ内に配置し、1×10-6Torrまで真空排気し、該真空チャンバ内には、蒸着材料をそれぞれ充填した各モリブテン製ボートと、所定のパターンで製膜するための蒸着用マスクを設置しておき、前記ボートを通電加熱して、順次、所定の蒸着材料を蒸発させることにより、各有機層を製膜した。
最後に、真空チャンバを真空に保ったまま、マスクを交換し、陰極蒸着用のマスクを設置して、アルミニウム層を形成した。
そして、真空チャンバを大気圧に戻し、上記により各層を蒸着した基板を取り出し、窒素置換されたグローブボックスに移し、UV硬化樹脂を用いて、ガラス板により封止し、有機EL素子を得た。
【0083】
上記のようにして作製した、図1に示すような層構成の素子の各材料を簡略化して表すと、基板1/ITO(110nm、陽極2)/MoO3:ホール輸送材料(20nm、20:80、ホール注入層3)/ホール輸送材料(20nm、ホール輸送層4)/TCTA:FIrpic(10nm、84:16、発光層5)/KLET03(70nm、電子輸送層6)/Liq(0.5nm、電子注入層7)/Al(100nm、陰極8)となる。
【0084】
[素子効率特性の評価]
上記各実施例及び比較例で作製した各素子について、それぞれ、電流密度が1A/m2、25A/m2のときの外部量子効率、視感効率、エネルギー変換効率の測定を行った。
これらの測定結果をまとめて表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
いずれの実施例においても、FIrpic由来の青色発光を得られたことから、本発明に係るピロール系化合物は、ホール輸送材料として機能することが認められた。
上記表1に示したように、特に、実施例3(Pyr6)において、外部量子効率、視感効率、エネルギー変換効率が優れており、比較例1(3DTAPBP)を上回ることが認められた。
【0087】
[素子寿命特性の評価]
上記各実施例及び比較例で作製した各素子について、電流密度が25A/m2のとき、発光輝度が半分になるまでの時間(半減寿命)を測定した。
図2に、これらの素子寿命特性の評価結果を示す。図2のグラフにおいて、縦軸は輝度を初期輝度で割った値、横軸は時間を表す。
【0088】
図2のグラフに示した結果から分かるように、実施例1〜3のいずれの素子も、比較例1の素子の半減寿命を上回った。このことから、本発明に係るピロール系化合物が、素子寿命を向上させる効果があることが認められた。
【符号の説明】
【0089】
1 基板
2 陽極
3 ホール注入層
4 ホール輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 電子注入層
8 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に陽極および陰極を備え、前記陽極と陰極との間に、少なくとも1層の有機層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記有機層の少なくとも1層がリン光錯体材料を含む発光層であり、
前記発光層にホストとして含まれる化合物の孤立分子状態のイオン化ポテンシャルが6.0以上かつ分子量が400以上であり、
前記有機層のうちの発光層よりも陽極側に位置する少なくとも1層が、下記一般式(1)で表される化合物を単独で、又は、混合物として含有していることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】

(式(1)中、R1は、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数7〜12の置換もしくは無置換のアラルキル基、炭素数6〜20の脂環式炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、及び、置換もしくは無置換の芳香族複素環基の群の中から選ばれた置換基である。R2〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数6〜20の脂環式炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、及び、置換もしくは無置換の芳香族複素環基の群の中から選ばれた置換基である。ただし、R2〜R4のうちの少なくとも1つは、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基である。Lは、炭素数6〜45の置換もしくは無置換の芳香族炭化水素の1〜6価基、及び、炭素数4〜40の置換もしくは無置換の芳香族複素環化合物の1〜6価基の群の中から選ばれた置換基である。nは、1〜6から選ばれた整数であり、Lの価数と同一である。)
【請求項2】
前記一般式(1)において、nが2、Lが2価基であることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記一般式(1)において、Lが置換もしくは無置換の炭素数6〜45の芳香族炭化水素の2価基であることを特徴とする請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記一般式(1)において、Lが置換もしくは無置換のビフェニレン基であることを特徴とする請求項3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記リン光錯体材料が、フッ素原子を少なくとも1つ含むイリジウム錯体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記リン光錯体材料が、孤立分子状態のイオン化ポテンシャルが7.0以上のイリジウム錯体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記リン光錯体材料が、下記(化2)に示すビス[2−(4,6−ジフルオロフェニル)ピリジネート−N,C2’]イリジウム(III)ピコリネート(FIrpic)、であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化2】

【請求項8】
前記発光層にホストとして含まれる化合物が、下記(化3)に示すトリス−(4−カルバゾリル−9−イル−フェニル)−アミン(TCTA)であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化3】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−171532(P2011−171532A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34325(P2010−34325)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー産業技術総合開発機構、「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー使用合理化技術実用化開発/高効率有機EL照明の実用化研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504265754)財団法人山形県産業技術振興機構 (60)
【Fターム(参考)】