説明

有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法、および製造装置

【課題】画素領域間における発光材料の混色による発光色不良を防止し、かつ、画素領域における発光層の欠損の防止、および、画素領域間および画素領域内における、発光層の厚みムラを低減した、高品位な有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法を提供する
【解決手段】本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示装置に製造方法は、基板3上にバンク31で区画された画素領域30に、発光材料を含む発光層液滴54を吐出することによって、発光層56を形成する、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法であって、発光層液滴54に可溶であり、かつ、発光層液滴54に比べ粘度の低い溶媒液滴52を、画素領域30の全域に塗布する可溶溶液塗布工程と、上記可溶溶液塗布工程によって、溶媒液滴52が塗布された画素領域30に、発光層液滴54を吐出する発光溶液吐出工程とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に発光層を形成する有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法、および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置は多種多様な分野でフラットパネルディスプレイとして盛んに用いられているが、視野角によりコントラストや色味が大きく変化したり、パックライトなどの光源を備えることによって低消費電力化が困難であることや、薄型化や軽量化に限界があることなど、依然として大きな課題を有している。
【0003】
そこで、近年では、液晶表示装置に代わる表示装置として、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELとする)を用いた自発光型の表示装置が期待されている。
【0004】
この有機ELを構成する有機EL素子は、陽極と陰極に挟まれた有機EL層に電流を流すことにより、有機EL層を構成する有機分子(機能性材料)が発光するものであり、この有機EL素子を用いた有機EL表示装置は、自発光型であることから、薄型化,軽量化および低消費電力化の点で優れている。また、広視野角であるため、次世代のフラットパネルディスプレイの候補として大きな注目を集めいている。また、この薄型化や広視野角という利点を生かし、携帯型音楽機器や携帯電話のサブディスプレイとして実用化が広がりつつある。
【0005】
この有機EL素子は、それを形成している機能性材料の種類によって、一般的に製造方法が異なってくる。例えば、機能性材料として高分子有機化合物を用いる場合、機能性材料はスピンコート方式,スクリーン印刷方式,インクジェット方式,およびスプレーコート法などの湿式法によって製膜される。一方、機能性材料として低分子有機化合物を用いる場合には、真空蒸着方式やスパッタリング方式などの乾式法によって製膜される場合が多い。
【0006】
上述した複数の製膜方法において、インクジェット方式は、他の製膜方法に比べて、一般的に製膜材料の使用効率が高く、マスクを用いずにパターニングが可能であることや、大面積の有機EL表示装置の製造に対して、容易に対応できる等の優れた点を有している。したがって、従来よりインクジェット方式を用いた有機EL素子の作製に関する研究が積極的になされている。
【0007】
例えば、特許文献1には、基板状にバンク(隔壁)によって区画された画素領域ごとに、インクジェット方式を用いて、電極間に導電性分子を含んだ正孔注入輸送層、および、発光性の有機分子を含む発光層を有する有機EL素子を作製する方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されている、従来のインクジェット方式を用いた発光層の形成においては、以下に説明する問題点を有している。
【0009】
まず、インクジェット方式には、隣接する画素領域間における液材の混色が発生するという問題点がある。具体的には、インクジェット方式においては、青色発光画素、緑色発光画素、赤色発光画素の順に規則配列した表示領域を形成するために、基板上に、発光層を形成するための機能性材料を含む液材(液滴)を、画素領域内に保持するための隔壁(バンク)が形成される。ここで、各画素領域に、発光色に対応した液滴を吐出して充填する場合、その充填中もしくは充填後に、液材が隔壁を乗り越えて隣接する画素領域に漏れ出し、異なる発光色の液材と混色して、所望の色を発光できない発光層が形成されることがある。
【0010】
上記の液材の混色という問題点を解決するために、隔壁に撥液性を付与する方法がある。例えば、特許文献2に開示されている方法においては、フッ素化合物などを含むガスを用いて隔壁にプラズマ処理を行うことにより、隔壁の非親和性(撥液性)を画素領域内に形成された電極よりも高め、機能性材料を含む液材を画素領域内に閉じ込めることができる。
【0011】
さらに他の例として、隔壁にプラズマ処理を施すことなく、フッ素化合物を含有する材料によって隔壁を形成することにより、機能性材料を含む液材に対する撥液性を、隔壁に付与できる。さらに、隔壁に囲まれた基板上に、UV処理や酸素ガスなどによるプラズマ処理を行い、液材との親液性を付与すれば、画素領域内における、隔壁と基板表面との液材に対する親和性の差異が顕著になり、画素領域内における液材の保持が一層確実なものとなる。
【0012】
しかしながら、隔壁に撥液性を付与することによって、新たな問題点が発生する。それは、隔壁を形成する工程において、隔壁材質を画素領域の表面上から完全に除去できず、または、撥液化された隔壁表層の成分が後工程において一部飛散し、これにより、画素領域の表面上において撥液性が発現し、機能性材料を含む液材が行き渡らないことがある。このような場合は、画素領域内の基板表面上において、発光層が形成されない箇所、つまり発光層の欠損が出現することになる。
【0013】
なお、上記の発光層の欠損という問題は、隔壁の撥液性によってのみ引き起こされ得るものでなく、他の要因によっても引き起こされる。以下に他の要因について具体的に説明する。
【0014】
まず、有機EL素子には、発光層に十分な電解が印加されるようにするためのキャリア輸送層(正孔輸送層および電子輸送層)が形成される。このキャリア輸送層は、一般的に発光層に比べて電気抵抗が低く、導電性が高い。さらに、キャリアが発光に寄与せずに発光層を通過するのを防止するための、キャリアブロッキング層と呼ばれる、キャリアを発光層内に閉じ込める機能性材料層が、キャリア輸送層と発光層との間に形成されることがある。このキャリアブロッキング層は一般的に導電率が低いため、発光層に比べて非常に薄膜に形成されることが多い。
【0015】
ここで、隔壁によって囲まれた画素領域に、インクジェット方式を用いて、正孔輸送層,発光層,および陰極を積層する有機EL素子の製造方法を考える。正孔輸送層となる機能性材料を含んだ液材を画素領域内に吐出し、乾燥および加熱によって液材の溶媒除去を行うことにより、正孔輸送層が、画素領域内の基板表面に形成される。次に、その正孔輸送層上に、発光層となる機能性材料を含む液材を吐出することになるが、このとき、正孔輸送層の表面上において、発光層を形成する液材に対する正孔輸送層の新液性が不十分な場合や、発光層となる液滴の表面張力が高い場合、さらに、隔壁の形状によっても、発光層が陽極または正孔輸送層を完全に被膜できないことがある。
【0016】
以上のように、画素領域内の基板表面上において、発光層の欠損が出現すると、結果、発光層を挟むように形成される、陽極または正孔輸送層と、陰極または電子輸送層とが短絡することになる。
【0017】
この短絡が発生すると、有機EL素子に電流を流して発光を得る場合に、発光層が発光不良となる、言い換えれば、短絡を有する画素が黒点となる。さらには、電流損失による輝度の低下やリーク電流による発熱、および、消費電力の増加などが発生し、電力効率や素子寿命に重大な問題を引き起こす。
【0018】
次に、インクジェット方式が有する、さらなる問題点として、発光層の厚みムラがある。以下にこの厚みムラの発生について説明する。
【0019】
まず、インクジェット方式においては、複数配列された画素領域に対して、インクジェットヘッドを走査し、画素領域ごとに発光層を形成する液材を順次充填することが一般的である。このとき、画素領域ごとに、液材が充填されてから乾燥および加熱されるまでの保持時間に差異が生じる。例えば、基板上の全ての画素領域に対する液材の充填動作時間が30秒であった場合、最初に液材が充填された画素領域は、最後に液材が充填された画素領域に比べ、30秒の保持時間の差が生じる。この30秒の保持時間の差において、最初に液材が充填された画素領域は、常温下において溶媒の一部が揮発しつづけることになる。また、常温下における揮発速度についても、隣接する画素に液材が充填されているかどうかによって異なることになる。
【0020】
このように、保持時間の差や隣接する画素の液材充填状況によって、各画素領域における溶媒の揮発状態が異なることにより、画素領域ごとに乾燥ムラが発生し、結果、発光層の厚みムラが発生する。
【0021】
また、1つの画素領域内に発光層を形成する液材を充填するにあたり、発光層を形成する液滴を複数吐出する際、液滴の濡れ広がり性をよくするために、1つの画素領域内において、異なる位置に液滴を吐出するのが一般的である。このとき、1つの画素領域内において、液滴の吐出タイミングや吐出速度の違いによって、画素領域の表面上における、液滴の着弾タイミングは異なる。このとき、1つの画素領域内において、最初に着弾した液滴は、着弾した位置を中心に略円形に広がることになるが、次に着弾する液滴は、すでに着弾した液滴の表面張力によって、先に着弾した液滴側に引き込まれることになる。その結果、画素領域内における液材の表面が、着弾順序に起因する凸凹状になり、1つの画素領域内において、発光層の厚みムラや発光層の欠損が発生する。
【0022】
以上のように、発光層の厚みムラや欠損が発生すると、画素ごとにおける輝度ムラや、発光不良が発生し、有機EL表示装置の表示品質が低下する。
【0023】
上述したような、発光層の厚みムラや欠損を改善するために、特許文献3には、インクジェット方式を用いて発光層を形成した後、発光層を構成する機能性材料を溶解可能な溶剤をスプレーし、発光層を平坦化する、有機EL素子の製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開2000−106278号公報(昭和60年12月19日公開)
【特許文献2】特開2006−162881号公報(平成18年6月22日公開)
【特許文献3】特開2003−142261号公報(平成14年5月9日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、特許文献3に開示された製造方法は、隣接する画素領域における、発光材料を含む液材の混色に起因する、発光色不良を助長する虞が大きく、実使用上は困難な点が多い。
【0025】
なお、発光層の欠損を解決する方法としては、正孔輸送層を発光層によって完全に被覆するために、発光層となる液材の量を増やすことも考えられるが、適切な量以上の液材を画素領域内に吐出すると、液材が隔壁を超えて、隣接する画素領域に漏出したり、所望とする発光層の厚みを超えることになる。
【0026】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、画素領域間における発光材料の混色による発光色不良を防止し、かつ、画素領域における発光層の欠損の防止、および、画素領域間および画素領域内における、発光層の厚みムラを低減した、高品位な有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法は、上記の課題を解決するために、
基板上に隔壁で区画された区画領域に、発光材料を含む第1の溶液を吐出することによって、発光層を形成する、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法であって、上記第1の溶液に可溶であり、かつ、上記第1の溶液に比べ粘度の低い第2の溶液を、上記区画領域の全域に塗布する可溶溶液塗布工程と、上記第2の溶液が塗布された上記区画領域に、上記第1の溶液を吐出する発光溶液吐出工程と、を含むことを特徴としている。
【0028】
上記の構成によれば、可溶溶液塗布工程において、第2の溶液が区画領域の全域に塗布された後、発光溶液吐出工程において、第1の溶液が区画領域に吐出される。ここで、第2の溶液は、第1の溶液に可溶であるため、第1の溶液が区画領域に吐出されると、第1の溶液と第2の溶液は混ざり合う。さらに、第2の溶液は区画領域の全域に塗布されているため、吐出される第1の溶液が、すでに吐出された第1の溶液の表面張力に引き込まれるようなことや、隔壁の撥液性に影響されることなく、第1の溶液は、区画領域全域に塗布された第2の溶液と混和し、区画領域全域を均一な厚みによって覆うことになる。
【0029】
これにより、この後、一般的な有機エレクトロルミネッセンス表示装置(以下、有機EL表示装置と略称する)の製造方法と同様に、第1と第2との溶液が混ざり合った溶液を、加熱および乾燥することにより、区画領域の全域を発光層が均一な厚みで被膜することになる。
【0030】
さらに、複数の区画領域を備える有機EL表示装置の場合、本発明の有機EL表示装置の製造の方法においては、第2の溶液を区画領域に塗布した後に、発光材料を含む第1の溶液を区画領域に塗布するため、区画領域間における発光材料の混色による発光色不良を防止できる。
【0031】
以上のように、本発明の有機EL表示装置の製造方法は、区画領域間における発光材料の混色による発光色不良を防止し、かつ、区画領域における発光層の欠損の防止、および、発光層の厚みムラを低減できる。結果、本発明の有機EL表示装置の製造方法は、高品位な有機EL表示装置を製造できるという効果を奏する。
【0032】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法は、さらに、
上記区画領域における基板表面は、水性溶液の固化物によって形成されていることが好ましい。
【0033】
上記構成を備えたことにより、有機溶媒である第1の溶液および第2の溶液によって、区画領域における基板表面が溶出することを抑制でき、また、電極間のリーク電流を抑制した、信頼性の高い有機EL表示装置を製造可能となる効果を奏する。
【0034】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法は、さらに、
上記第2の溶液の主成分は第1の有機溶媒であり、上記第1の溶液は、上記第1の有機溶媒を含んでいることが好ましい。
【0035】
上記構成を備えたことにより、第2の溶液と第1の溶液との混和性が向上し、結果、第1の溶液は、区画領域全域をより均一に覆うことになる。これにより、加熱および乾燥によって形成される発光層は、区画領域全域をより均一に被膜できるという効果を奏する。
【0036】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法は、さらに、
上記区画領域は、略長方形であり、上記発光溶液吐出工程において、上記1つの区画領域内に上記第1の溶液を吐出する際、上記区画領域の一方の短辺側から他方の短辺側に向かって、上記区画領域内の複数の異なる位置に、上記第1の溶液の液滴を、順次吐出することが好ましい。
【0037】
上記構成を備えたことにより、1つの区画領域において、第1の溶液の液滴を、複数の箇所に分散して吐出することになる。これにより、予め区画領域に塗布された第2の溶液と、第1の溶液との混和性が高まり、より、均一な厚みの発光層を形成できるという効果を奏する。
【0038】
さらに、上記構成を備えたことにより、上記第1の溶液を吐出するノズル列を、区画領域に対して走査する走査方向に対して、傾斜させたとしても、画素領域内の発光層の厚みを均一に保持できるため、画素領域の配列ピッチと上記ノズルの配置ピッチを整合することが可能となり、製造タクトが向上することになる。
【0039】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法は、さらに、
上記第1の溶液は、上記第2の溶液の主成分である第1の有機溶媒と、第1の有機溶媒に可溶な第2の有機溶媒とを含み、上記第1の有機溶媒は、沸点が200度以下であり、上記第2の有機溶媒は、沸点が200度以上かつ300度以下であることが好ましい。
【0040】
上記の構成によれば、第1の溶液は、第2の溶液の主成分である第1の有機溶媒とは異なる沸点の、第2の有機溶媒を含んでいる。これにより、区画領域内に充填する第1の溶液と、第2の溶液との比率を調整することにより、第1の溶液と第2の溶液とが混和した液体の揮発速度を調整することができる。結果、区画領域ごとにおける、形成される発光層の厚みの均一性が向上するという効果を奏する。
【0041】
また、第2の溶液は、沸点が低く、区画領域内の基板表面上に対して、濡れ広がり性がよいため、区画領域全体を第2の溶液が覆うことができる。これにより、第2の溶液に混和する第1の溶液も、区画領域全体を覆うことになり、加熱および乾燥によって形成される発光層に欠損が生じることを防ぐことになる。
【0042】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法は、さらに、
上記有機エレクトロルミネッセンス表示装置は、複数の上記区画領域を備えており、上記可溶溶液塗布工程において、吐出する上記第2の溶液の量を、上記区画領域ごとに調整することが好ましい。
【0043】
上記構成を備えたことにより、区画領域ごとに、充填する第2の溶液の量を変化させることができる。これにより、区画領域ごとに、第1および第2の溶液が充填されてから乾燥および加熱されるまでの保持時間に差異が生じたとしても、第2の溶液の量を調整することにより、保持時間の差異に起因する乾燥ムラを低減することが可能となる。結果、区画領域ごとにおける、発光層の厚みムラを低減することになり、高品質な有機EL表示装置を製造できるという効果を奏する。
【0044】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法は、さらに、
上記可溶溶液塗布工程において、上記区画領域に上記第2の溶液の液滴を吐出し、上記第2の溶液の液滴の数を制御することによって、上記区画領域に吐出する上記第2の溶液の量を調整することが好ましい。
【0045】
上記構成を備えたことにより、区画領域に充填する第2の溶液の量を調整するにあたり、吐出する液滴の数を調整するだけでよいため、吐出する第2の溶液の量を、容易に制御できるという効果を奏する。
【0046】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法は、さらに、
上記第1の溶液は、上記第2の溶液の主成分である第1の有機溶媒と、第2の有機溶媒とを含み、上記第1の有機溶媒は、沸点が200度以上かつ300度以下であり、上記第2の有機溶媒は、沸点が100度以上かつ200度以下であることが好ましい。
【0047】
上記の構成によれば、第1の溶液は、第2の溶液の主成分である第1の有機溶媒とは異なる沸点の、第2の有機溶媒を含んでいる。これにより、区画領域内に充填する第1の溶液と、第2の溶液との比率を調整することにより、第1の溶液と第2の溶液とが混和した液体の揮発速度を調整することができる。結果、区画領域ごとにおける、形成される発光層の厚みの均一性が向上するという効果を奏する。
【0048】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造装置は、上記の課題を解決するために、
基板上に隔壁で区画された区画領域に、発光材料を含む第1の溶液を吐出し、発光層を形成する、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造装置であって、上記区画領域に、上記第1の溶液を吐出する第1のインクジェットヘッドと、上記第1の溶液に可溶であり、かつ、上記第1の溶液に比べ粘度の低い第2の溶液を、上記区画領域に吐出する第2のインクジェットヘッドとを備え、上記第2のインクジェットヘッドが上記第2の溶液を上記区画領域に吐出した後、上記第1のインクジェットヘッドが、上記区画領域に上記第1の溶液を吐出することを特徴としている。
【0049】
上記構成を備えたことにより、区画領域に対して、第2のインクジェットヘッドが第2の溶液を吐出した後、第1のインクジェットヘッドが第1の溶液を吐出する。これにより、本発明に係る有機EL表示装置の製造方法と同様の効果を奏する。
【0050】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造装置は、さらに、
上記区画領域を複数備えた有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造装置であって、上記区画領域ごとに対応した、上記第2のインクジェットヘッドが吐出する第2の溶液の液滴の数を記憶する記憶手段と、上記記憶手段が記憶する液滴の数に基づいて、第2のインクジェットヘッドが吐出する液滴を制御する制御手段と、を備えていることが好ましい。
【0051】
上記構成を備えたことにより、記憶手段が記憶する、区画領域ごとの吐出する第2の溶液の液滴数に基づいて、制御手段が、第2のインクジェットヘッドを制御し、区画領域ごとに、充填する第2の溶液の量を調整できる。
【0052】
これにより、区画領域ごとにおける、第1の溶液と第2の溶液とが充填されてから、乾燥および加熱されるまでの保持時間に差異に起因する乾燥ムラを低減でき、結果、乾燥ムラにに起因する発光層の厚みムラを低減できるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0053】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法は、以上のように、上記第1の溶液に可溶であり、かつ、上記第1の溶液に比べ粘度の低い第2の溶液を、上記区画領域の全域に塗布する可溶溶液塗布工程と、上記可溶溶液塗布工程によって、上記第2の溶液が塗布された上記区画領域に、上記第1の溶液を吐出する発光溶液吐出工程と、を含んでいる。
【0054】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造装置は、以上のように、上記区画領域に、上記第1の溶液を吐出する第1のインクジェットヘッドと、上記第1の溶液に可溶であり、かつ、上記第1の溶液に比べ粘度の低い第2の溶液を、上記区画領域に吐出する第1のインクジェットヘッドとを備えている。
【0055】
したがって、画素領域における発光層の欠損を防止し、かつ、画素領域間および画素領域内における、発光層の厚みムラを低減が可能な、高品位な有機エレクトロルミネッセンス表示装置を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。
【0057】
〔実施形態1〕
(インクジェット装置1の概略構成)
まず、図2(a)および(b)を参照して、本発明の第1の実施形態に係る、インクジェット装置1(有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造装置)の構成を説明する。図2(a)は、インクジェット装置1の概略構成を示す平面図であり、図2(b)は、インクジェット装置1の概略構成を示す側面図である。
【0058】
まず、インクジェット装置1は、有機エレクトロルミネッセンス表示装置(以下、有機EL表示装置とする)を構成する基板3上に、発光層を、インクジェット方式によって形成する装置である。より具体的には、基板3上にバンク31(隔壁)によって区画された画素領域(区画領域)30に、インクジェットヘッド群2より、発光層を形成する発光材料を含むインクを吐出し、発光層を形成する装置である。
【0059】
図2(a)および(b)に示すように、インクジェット装置1は、基体10と、インクジェットヘッド群2を備えたヘッドガントリ11と、ヘッドガントリ11を、図2(a)に示すA方向にスライドさせるリニアモータ方式のスライド機構12と、基板3を吸着保持する吸着盤13と、吸着盤13を図2(a)に示すB方向にスライドさせるためのリニアモータ方式の吸着盤スライド機構14とを備えている。
【0060】
(インクジェット装置1の基本動作)
次に、インクジェット装置1の基本動作を、図2(a)を参照して説明する。
【0061】
インクジェット装置1においては、ヘッドガントリ11が、スライド機構12によって、図2(a)に示すX方向、言い換えれば、同図面上における左側から右側に略等速で移動する。このヘッドガントリ11の移動に合わせて、インクジェットヘッド群2が、基板3上の画素領域30に対して、インクの液滴を吐出する。次に、ヘッドガントリ11が、同図面上における右側から左側に移動した後、吸着盤13が吸着盤スライド機構14によって、同図に示すB方向に移動し、任意の位置に位置決めされる。吸着盤13の位置決めが完了した後、ヘッドガントリ11は、スライド機構12によって、同図面上に示す右側から左側に移動する。このヘッドガントリ11の移動に合わせて、インクジェットヘッド群2が、基板上の画素領域30に対して、インクの液滴を吐出する。以上のように、ヘッドガントリ11の移動と、インクジェットヘッド群2からのインクの吐出と、吸着盤13の移動を、インクジェット装置1が繰り返し行うことにより、基板3上の全ての画素領域30に対して、発光層を形成するためのインクの吐出を行う。
【0062】
(インクジェットヘッド群2の概略構成)
次に、インクジェットヘッド群2の構成について、図2(a)を参照して説明する。
【0063】
図2(a)に示すように、インクジェットヘッド群2は、発光層を形成するための発光材料を含む発光層用インク(第1の溶液)を、画素領域30に吐出するための複数の発光層用インクジェットヘッド21(第1のインクジェットヘッド)と、発光層用インクに可溶な溶媒用インク(第2の溶液)を吐出する溶媒用インクジェットヘッド20(第2のインクジェットヘッド)とを備えている。
【0064】
この溶媒用インクジェットヘッド20においては、同図(a)中のB方向に沿って、複数のノズル孔200が直列に配置されている。さらに、各溶媒用インクジェットヘッド20は、同図(a)に示すように、B方向に千鳥配列されている。これより、溶媒用インクジェットヘッド20は、基板3のY方向における任意の画素領域30に対して、溶媒用インクの液滴を吐出できる。
【0065】
一方、発光層用インクジェットヘッド21は、青色の発光層を形成する発光層用インクを吐出する青色用インクジェットヘッド21Aと、緑色の発光層を形成する発光層用インクを吐出する緑色用インクジェットヘッド21Bと、赤色の発光層を形成する発光層用インクを吐出する赤色用インクジェットヘッド21Cとを備えている。また、青色用インクジェットヘッド21Aと緑色用インクジェットヘッド21Bと赤色用インクジェットヘッド21Cとは、図2(a)に示すように、Y方向に傾きを有し、かつ、それぞれがY方向とは垂直な方向、言い換えれば、X方向に沿って平行に配置されている。さらに、各発光層用インクジェットヘッド21は、自身の傾きに沿って、直列に配置された複数のノズル孔210を備えている。
【0066】
ここで、発光層用インクジェットヘッド21および溶媒用インクジェットヘッド20は、圧電体変形方式またはバブルジェット(登録商標)方式などの公知のインクジェットヘッドを用いることが可能である。なお、インクジェット装置1には、図示しないインクジェットヘッドのメンテナンス機構部分を内在しており、例えば、インクジェットヘッドのノズル孔及びノズル面するワイプ機構、装置が稼動していないときにノズル孔を塞ぐキャップ機構、ノズル孔毎の不吐出(液滴を吐出させる指令を与えても飛ばない)の有無をチェックする不吐検出機構、などの公知技術を用いたシステムが搭載されている。
【0067】
(インクジェットヘッド群2の詳細構成)
次に、インクジェットヘッド群2の詳細な構成について、図3を参照して以下に説明する。図3は、基板3上に形成された画素領域30と、インクジェットヘッド群2の詳細な構成を示す説明図である。
【0068】
図3において、発光層用インクジェットヘッド21には、発光層を形成する発光材料を含む発光層用インクが充填されており、溶媒用インクジェットヘッド20には、発光層用インクに可溶な溶媒である溶媒用インクが充填されている。さらに詳細には、青色用インクジェットヘッド21Aには青色の発光層を形成する発光層用インク(以下、青色発光層用インクとする)、緑色用インクジェットヘッド21Bには緑色の発光層を形成する発光層用インク(以下、緑色発光層用インクとする)、赤色用インクジェットヘッド21Cには、赤色の発光層を形成する発光層用インク(以下、赤色発光層用インクとする)がそれぞれ充填されている。なお、発光層用インクおよび溶媒用インクの具体例については後述とする。
【0069】
(画素領域30への、インク吐出動作)
さらに、図3を参照して、画素領域30に対する、インクジェットヘッド群2からのインクの吐出動作について説明する。
【0070】
まず、インクジェット装置1は、第1の工程(可溶溶液塗布工程)として、溶媒用インクジェットヘッド20を用いて、基板3上にバンクで区画された画素領域30A〜画素領域30Fに対して、溶媒用インクを吐出し充填する。次に、インクジェット装置1は、第2の工程(発光溶液吐出工程)として、溶媒用インクが充填された画素領域30Aおよび30Dに対して、青色用インクジェットヘッド21Aを用いて、青色発光層用インクを吐出し、溶媒用インクが充填された画素領域30Bおよび30Eに対して、緑色用インクジェットヘッド21Bを用いて、緑色発光層用インクを吐出し、溶媒用インクが充填された画素領域30Cおよび30Fに対して、赤色用インクジェットヘッド21Cを用いて、赤色発光層用インクを吐出する。これにより、各画素領域30には、対応する色の発光層用インクが充填される。
【0071】
より具体的には、ヘッドガントリ11(図2(a)参照)のX方向の移動に伴い、インクジェットヘッド群2もX方向に等速移動する。そして、溶媒用インクジェットヘッド20の3つのノズル孔200A〜200Cが、画素領域30Aの真上に到達したときに、ノズル孔200A〜200Cより、溶媒用インクの液滴が吐出される。さらに、ノズル孔200A〜200Cは、画素領域30B〜30Fに対しても、画素領域30Aの場合と同様に、溶媒用インクの液滴を吐出する。
【0072】
なお、溶媒用インクジェットヘッド20は、基板3のY方向(図2(a)参照)における全幅に渡って複数設置されており、基板3のY方向に連なる複数の画素領域30の各々に、それぞれノズル孔200を割り当てて、一括して溶媒用インクを塗布できるようになっている。例えば、画素領域30は、Y方向に対して240μmピッチで規則配列されており、ノズル孔が80μmピッチで規則配列している。なお、溶媒用インクジェットヘッド20は、粘度が低い溶媒を吐出するため、画素領域30における着弾間隔をさほど密にしなくとも、1つの画素領域30内の全域に溶媒用インクは濡れ広がることになる。よって、溶媒用インクジェットヘッド20の走査方向であるX方向に対して、直交する方向にノズル孔200を配置し、さらに、一つの溶媒用インクジェットヘッド20が受け持つ画素領域数を増やすことにより、必要となる溶媒用インクジェットヘッド20の数を削減することが可能である。
【0073】
次に、青色用インクジェットヘッド21Aが備えるノズル孔211A〜215Aの各々は、溶媒用インクジェットヘッド20より遅れて画素領域30Aの真上に順次到達する。このとき、溶媒用インクジェットヘッド20により、溶媒用インクが充填された画素領域30Aに対して、ノズル孔211A〜215Aは、青色発光層用インクの液滴を吐出する。同様に、溶媒用インクが充填された画素領域30Dに対しても、ノズル孔211A〜215Aによって、青色発光層用インクの液滴が吐出される。なお、ノズル孔211A〜215Aは、画素領域30B,30C,30E,30Fの真上に到達したとしても、青色発光層用インクを吐出することはない。
【0074】
次に、緑色用インクジェットヘッド21Bが備えるノズル孔211B〜215Bの各々は、溶媒用インクが充填された画素領域30Bの真上に順次到達したときに、緑色発光層用インクの液滴を画素領域30Bに吐出する。同様に、溶媒用インクが充填された画素領域30Eに対しても、ノズル孔211B〜215Bによって、緑色発光層用インクの液滴が吐出される。なお、ここでも、ノズル孔211B〜215Bは、画素領域30A,30C,30D,30Fの真上に到達したとしても、緑色発光層用インクを吐出することはない。
【0075】
さらに、赤色用インクジェットヘッド21Cが備えるノズル孔211C〜215Cの各々は、溶媒用インクが充填された画素領域30Cの真上に順次到達したときに、赤色発光層用インクの液滴を画素領域30Cに吐出する。同様に、溶媒用インクが充填された画素領域30Fに対しても、ノズル孔211C〜215Cによって、赤色発光層用インクの液滴が吐出される。なお、ここでも、ノズル孔211C〜215Cは、画素領域30A,30B,30D,30Eの真上に到達したとしても、赤色発光層用インクを吐出することはない。
【0076】
なお、発光層用インクジェットヘッド21は、図2(a)に示すように、同図上に示すY方向に複数配置されており、発光層用インクジェットヘッド21が備えるノズル孔は、前述と同様の動作によって、画素領域30のそれぞれに、対応する発光層用インクを吐出する。ここで、上述のように、1つの画素領域30に対して、5つのノズル孔を割り当てるためには、Y方向対して、画素領域30を240μmピッチで配列し、ノズル孔が80μmピッチで直列に規則配列されている場合、発光層用インクジェットヘッド21のそれぞれは、自身の長手方向を、Y方向に対して約64.5度傾ければよい。
【0077】
このように、ノズル孔の配列、言い換えれば、発光層用インクジェットヘッド21のぞれぞれの長手方向を、基板3を平面視した状態において、画素領域30のY方向における配列に対して傾けることにより、画素領域30の配列ピッチとノズル孔の配列ピッチの整数倍とを一致させることが可能となる。さらに、図3に示すように、1つの画素領域30Aを受け持つ複数のノズル孔211A〜215Aのように、X方向に対して位置をずらすことにより、画素領域30Aに対して発光層用インクの液滴を吐出する際に、211A、212A、213A、214A、215Aの順に、時間差をもって液滴が着弾することになる。
【0078】
(発光層56の形成の概略工程)
次に図4(a)〜(d)を参照して、画素領域30における発光層56の形成過程について説明する。図4(a)〜(d)は、発光層56が形成される過程を説明するための基板3の断面を示す模式図である。なお、図4(a)〜(d)は、図3におけるC−C´線における断面を示している。
【0079】
まず、図4(a)は、基板3上に複数のバンク31によって区画された画素領域30A〜30Fに、溶媒用インクである溶媒41が充填される前の状態を示している。次に、図4(b)に示すように、発光層用インクジェットヘッド20が、溶媒用インクである溶媒41が全画素領域30A〜30Fに充填する。この溶媒41には、後述するように、粘度が低く、1つの画素領域30内において、その全域に濡れ広がりやすい液体を用いており、第1の工程において、溶媒41は、1つの画素領域30内の全域に濡れ広がる。
【0080】
次に、溶媒用インクジェットヘッド20が、溶媒41を画素領域30A〜30Fの各々における全域に塗布した後、発光層用インクジェットヘッド21が、発光層用インクを画素領域30A〜30Fに吐出し、その結果、図4(c)に示すように、画素領域30A〜30Fの各々に、発光層用インクと溶媒41とが混和した液溜り42を形成する。
【0081】
次に、図示しない乾燥硬化装置が、液溜り42中の不要な溶媒成分を揮発させて固化させることにより、図4(d)に示すように、画素領域30A〜30Fのぞれぞれに、発光層43が形成される。なお、同図に示す、発光層43Aは青色発光の発光層であり、発光層43Bは緑色発光の発光層であり、発光層43Cは赤色発光の発光層である。
【0082】
以上のように、第1の工程において溶媒42を画素領域30の全域に充填した後、第2の工程において発光層用インクを充填することにより、画素領域30間の乾燥ムラを改善できる。なお、溶媒42である溶媒用インクは、発光材料を含む発光層用インクに対して可溶な溶媒であればよく、特に、発光層用インクが複数の有機溶媒の混合物である場合、そのうちの沸点の低い有機溶媒を、溶媒用インクとする。これにより、発光層用インクと溶媒用インクとの混和性が高まることになり、より厚みが均一かつ欠損のない発光層を形成できる。
【0083】
なお、上記の溶媒用インクには、発光層となる成分、言い換えれば、発光材料を含まないことが好ましい。理由としては、一般に、発光材料を添加しない方が、有機溶媒の粘度は低くなり、より有機溶媒の濡れ広がり性は向上する。つまり、吐出された溶媒用インクは、区画領域内における濡れ広がり性が向上するため、結果、より厚みが均一かつ欠損のない発光層を形成できる。
【0084】
(機能性材料層の材料)
以下に、本実施形態に係る、基板3上の画素領域30に形成される、機能性材料層を構成する各層の材料について説明する。
【0085】
まず、本実施形態において製造される有機EL表示装置が備える有機EL素子の構造を説明する。有機EL素子は、基板3(図4(a)参照)上に、複数の薄膜トランジスタおよび信号線が形成され、薄膜トランジスタおよび信号線が形成された面側の上方に平坦化層および第1の電極が形成されたアクティブマトリクス基板上、または、基板3上に複数の信号線と第1の電極が形成されたパッシブマトリクス基板上と、このアクティブマトリクス基板またはパッシブマトリックス基板上に形成される、インクジェット方式により塗布されるインクを保持するための絶縁性の隔壁(バンク)と、このアクティブマトリクス基板またはパッシブマトリックス基板上に形成される、少なくとも有機化合物のキャリア輸送層および発光層を含む機能性材料層と、この機能性材料層上に形成される第2の電極とによって構成されている。
【0086】
アクティブマトリクス基板上のTFT等のアクティブ素子部と有機EL部とは、平坦化層の機能を有する層間絶縁膜で分離されており、層間絶縁膜に穿たれたコンタクトホールを通して、コンタクトホールを埋める接続用の導電体を介して下層のアクティブ素子部と上層の第1の電極が接続されている。前記接続用の導電体として有機EL素子の第1の電極を用いることも可能である。
【0087】
前述の、キャリア輸送層および発光層を含む機能性材料層は、低分子材料でも高分子材料でも構わず、さらに、機能性材料層を構成する層として、下記の層構成(1)〜(7)が挙げられる。なお、上記のキャリア輸送層とは、正孔輸送層または電子輸送層を指す。さらに、電子ブロッキング層はキャリアブロッキング層の一つである。本発明においては、下記(1)〜(7)に挙げる、第1の電極と第2の電極との間に形成される各層を総称して機能性材料層と称している。
層構成(1):有機発光層(発光層)
層構成(2):正孔輸送層/有機発光層(発光層)
層構成(3):有機発光層(発光層)/電子輸送層
層構成(4):正孔輸送層/有機発光層(発光層)/電子輸送層
層構成(5):正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層(発光層)/電子輸送層
層構成(6):正孔輸送層/電子ブロッキング層/有機発光層(発光層)/電子輸送層
層構成(7):正孔輸送層/電子ブロッキング層/有機発光層(発光層)/電子輸送層/電子注入層。
【0088】
図4(a)〜(d)においては、説明の簡略化のために、上記(1)の構成について説明した。なお、上記有機発光層は、一層でも多層構造でもよい。また母体材料にドーパントをドープした層であってもよい。
【0089】
以下、発光層として高分子有機発光層を用いた有機EL素子を、本実施形態として説明をするが、本発明はこれに何ら限定されるものではなく、発光層として低分子有機発光層を用いるものであってもよい。
【0090】
(インク材料)
本実施形態における発光層用インクである有機発光層用インクは、少なくとも発光材料を含有した溶液であり、一種類もしくは、複数種類の発光材料を含有していてもよい。さらに、その他に膜保持材(バインダー)、レベリング材、発光アシスト材、添加材(ドナー、アクセプター等)キャリア輸送材、発光性のドーパント等が含有されていてもよい。
【0091】
(発光層の材料)
本実施形態における発光層用インクに含まれる発光材料としては、有機LED素子用の公知の発光材料を用いることができる。このような発光材料には高分子発光材料、高分子発光材料の前駆体等に分類される。以下に、これらの具体的な化合物を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0092】
発光材料である高分子発光材料としては、例えば、ポリ(2−デシルオキシ−1、4−フェニレン)(DO−PPP)、ポリ[2、5−ビス−[2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)エトキシ]−1、4−フェニル−アルト−1、4−フェニレン]ジブロマイド(PPP−NEt3+)、ポリ[2−(2’−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1、4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)等が挙げられる。
【0093】
また、高分子発光材料の前駆体としては、例えば、ポリ(p−フェニレンビニレン)前駆体(Pre−PPV)、ポリ(p−ナフタレンビニレン)前駆体(Pre−PNV)等が挙げられる。
【0094】
(溶媒の材料)
次に、本実施形態における溶媒としては、発光材料を溶解または分散できる溶媒であり、例えば、純水、メタノール、エタノール、THF(テトラヒドロフラン)、クロロホルム、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等である。
【0095】
(キャリア輸送層の材料)
本発明によって製造される有機EL素子が、正孔輸送層および電子輸送層(総称して、キャリア輸送層とする)を備える場合、正孔輸送層および電子輸送層のそれぞれは、単層構造または多層構造のどちらであってもよく、また、正孔輸送層および電子輸送層のそれぞれが、正孔注入層または電子注入層としての機能を兼ねていてもよい。なお、キャリア輸送層は、発光層と同様に、インクジェット方式だけでなく、他の公知の方法によって製膜されてもよい。
【0096】
さらに、キャリア輸送層を形成する材料としては、公知の材料が使用可能である。以下にこれらの具体的な化合物を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0097】
まず、正孔輸送層を形成する材料としては、例えば、ポルフィリン化合物、N,N’ −ビス−(3−メチルフェニル) −N,N’−ビス−(フェニル) −ベンジジン(TPD)、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(NPD)等の芳香族第3級アミン化合物、ヒドラゾン化合物、キナクリドン化合物、スチルアミン化合物等の低分子材料、ポリアニリン、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンサルフォネート(PEDOT/PSS)、ポリ(トリフェニルアミン誘導体)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等の高分子材料、ポリ(p−フェニレンビニレン)前駆体、ポリ(p-ナフタレンビニレン)前駆体等の高分子材料前駆体が挙げられる。
【0098】
また、電子輸送層を形成する材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、フルオレン誘導体等の低分子材料、ポリ[オキサジアゾール]等の高分子材料が挙げられる。
【0099】
(キャリアブロッキング層の材料)
本発明によって製造される有機EL素子が、キャリアブロッキング層を備える場合、キャリアブロッキング層は単層構造または多層構造のどちらであってもよい。なお、キャリアブロッキング層は、発光層と同様に、インクジェット方式だけでなく、他の公知の方法によって製膜されてもよい。
【0100】
キャリアブロッキング層を形成する材料としては、公知の材料が使用可能である。以下にこれらの具体的な化合物を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0101】
まず、電子ブロッキング層を形成する材料として、N,N’−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)等の低分子材料、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等の高分子材料が挙げられる。また、正孔ブロッキング層を形成する材料として、オキサジアゾール誘導体等の高分子材料が挙げられる。
【0102】
なお、溶媒としては、発光層の形成に使用する溶媒が使用可能である。但し、例えば正孔輸送層の上にインクジェット方式にて発光層を積層する場合、発光材料に使用する溶媒に可溶な正孔輸送材料は発光層製膜時に発光材料の溶剤に溶解し、膜均一性が悪化する。
【0103】
したがって、前段の機能性材料としては、後段に積層される機能性材料に使用されている溶媒には不溶な材料を使用することが望ましい反面、正孔輸送層上に発光材料が均一に濡れ広がらないという新たな課題が発生し、本発明の一つは、この点を解決するものである。
【0104】
(電極の材料)
本発明によって製造される有機EL素子における第1および第2の電極には、公知の電極材料を用いることができる。なお、電極と機能性材料との境界面には、必要に応じてキャリア注入層(正孔注入層および電子注入層)等の膜を挿入してもよい。
【0105】
ここで、第1の電極である陽極と、第2の電極である陰極について、それぞれ以下にその材料および構成を説明する。
【0106】
まず、陽極としては、仕事関数の大きな金属材料(Au,Ni,Pt等)や導電性金属酸化物(ITO,IZO,ZnO,SnO2等)を単層あるいは複数の材料の積層膜として用いることができる。また、これらの陽極上に導電性を大きく妨げない程度の厚み(例えば1nm程度)の酸化物を機能性材料層に接する側に積層したものを用いてもよい。
【0107】
一方、陰極として用いる電極材料は、仕事関数が4.0eV以下の低仕事関数を有するCa、Ce、Cs、Rb、Sr、Ba、Mg、Li等を用いることが可能であるが、高分子有機発光層に対してはCa、Baが好適に用いられる。陰極は、前述の低仕事関数の電極が酸素や水等による変質を抑えるために、Ni、Os、Pt、Pd、Al、Au、Rh、Ag等の、科学的に比較的安定な金属との合金あるいは積層構造が好適に用いられる。
【0108】
さらに、トップエミッション型の有機ELにおいては、前述の陰極には透光性を与えるために薄く形成する必要があるため、電極として十分な導電性を確保するためにITO、IZO、ZnO、SnO2等の導電性金属酸化物を、透明電極層として透光性を有する金属層上に形成することができる。透明電極層は、単層あるいは複数の材料の積層膜としてもよい。
【0109】
本発明によって製造される有機EL素子は、第1の電極と、少なくとも発光層を含む有機層と、第2の電極とを、少なくとも備えていればよく、例えば、前述の酸化物層のように、第1の電極、少なくとも発光層を含む単層または複数層の機能性材料層、および第2の電極以外の層を含んでいてもよい。
【0110】
(機能性材料層の具体例)
次に、図1(a)〜(f)を参照して、本実施形態に係る、基板3上の画素領域30に形成される、機能性材料層の具体例と、発光層56の形成工程を説明する。図1(a)〜(f)は、発光層56が形成される工程を説明するための、画素領域30を拡大した基板3の断面を示す模式図である。なお、図1(a)〜(f)は、図3に示すD−D´線における、画素領域30の断面を示している。なお、図1(a)〜(f)の製造工程によって作製される有機EL素子は、陽極と陰極との間に形成される機能性材料層として、正孔輸送層と発光層を備えるものである。言うまでもないが、本発明はこれに限るものではなく、機能性材料層として、正孔輸送層および発光層以外の層を有する有機EL素子にも適用できる。
【0111】
図1(a)に示す基板3は、図示しないアモルファスシリコン膜や多結晶シリコン膜によって作製された薄膜トランジスタが、マトリクス状に配置されたガラス基板である。さらに、スパッタリング方式によってITO膜を100nmの膜厚に形成し、フォトリソグラフィー技術を用いて、塩化第2鉄水溶液をエッチング液として、上記ITO膜のパターニングを行って、バンク31によって区画された画素領域30の基板3上に、陽極300が形成されている。
【0112】
画素領域30毎に区切られたこの陽極300は、図示しない薄膜トランジスタと平坦化層の機能を有する層間絶縁膜によって基板3と分離されており、層間絶縁膜に穿たれたコンタクトホールを通して、その下のマトリクス状に形成された薄膜トランジスタに各々接続されている。さらに、陽極300を含む基板3の表面に、感光性アクリル樹脂を厚さがほぼ2μmとなるように、スピンコート法によって塗布し、露光及び現像を行って、隣接する陽極300の間にバンク31を形成し、図3に示すような行列状の画素パターンを形成している。
【0113】
このバンク31によって囲まれた画素領域30の、自身の長手方向、言い換えれば、図3に示すY方向の長さは、220μmであり、隣接する画素間のピッチPは240μmである。また短手方向の画素領域の幅は70μmであり、長手方向の両端は、半径35μmの半円状になっている。なお、1画素領域の面積は、約14300(μm)である。
【0114】
まず、図1(a)に示すように、インクジェット装置1(図2参照)とは異なる別の装置が、正孔輸送層を形成する材料を含む下地層液滴50を、画素30に向けて滴下し、陽極300上に濡れ広がらせる。この下地層液滴50は、正孔輸送層を形成する材料として、PEDOT/PSS(ポリエチレンジオキシチオフェンとポリエチレンスルホン酸との混合物)を用い、該PEDOT/PSSを分散又は溶解させる溶媒として水を用いて調製された、PEDOT/PSS水溶液を用いた。ここで、PEDOT/PSS水溶液は、粘度が約8cp、表面張力が約30dyn/cmとなるように調製している。1滴あたり6plの液滴量で、1画素あたり下地層液滴を3滴充填する作業を、基板3上の全画素領域30対して行う。その後、基板3を減圧乾燥機(図示しない)にて室温下、1Torr下で20分放置し、該下地層液滴50の溶媒成分である水を乾燥除去した後、ホットプレート上で200℃にて5分間焼成を行う。これにより、図4(b)に示すような、正孔輸送層である下地層51を、画素領域30における基板3上に形成する。
【0115】
次に、発光層用インクと、溶媒用インクについて説明する。本実施形態においては、発光層用インクが含む、発光層を形成する材料としては、ポリフルオレン系発光材料を使用し、溶媒としては、芳香族系の混合溶媒を使用している。
【0116】
なお、蒸気圧vp{Pa}(25℃)と溶媒の沸点bp{℃}との間には下記の式(1)の経験則があり、沸点が低いほど、その溶媒の蒸気圧が高い傾向がある。そして、例えば、沸点160℃の溶媒の25℃における蒸気圧はおよそ340Pa程度、沸点200℃ではおよそ60Pa程度、沸点300℃ではおよそ1Pa程度と推定することが可能である。
Vp=278276e−0.0419bp (1)
ここで、発光層用インクに用いる混合溶媒を具体的に述べると、以下の第1の有機溶媒と第2の有機溶媒の混合物が好適である。
【0117】
第1の有機溶媒としては、沸点が200℃以下の、例えば、1,2,4−トリメチルベンゼン(沸点;168℃)、1,3,5−トリメチルベンゼン(165℃)、クメン(152℃)、アニソール(156℃)、キシレン(140℃)の単体、若しくは混合物である。
【0118】
次に、第2の有機溶媒としては、沸点が200℃以上、300℃以下の、例えば、1,3,5−トリエチルベンゼン(大気圧下での沸点;215℃)、テトラリン(49.1Pa、207℃)、プレーニテン(48.1Pa、205℃)、シクロへキシルベンゼン(240.1℃)、ジイソプロピルベンゼン(33.3Pa、204−207℃)、ジフェニルメタン(1.07Pa、265℃)、ジフェニルエーテル(3.00Pa、259℃)、エチルフェニルスルフィド(204−205℃)、フェニルスルフィド(1.01Pa、295℃)の単体、若しくは混合物である。
【0119】
以下に、本発明に好適な、発光層用インクおよび溶媒用インクの組み合わせについて、いくつかの例を説明する。
【0120】
まず、1つ目の組み合わせ例として、発光層用インクは、発光材料を、第1の有機溶媒に属する1,3,5−トリメチルベンゼン20%と、第2の有機溶媒に属するシクロへキシルベンゼン80%との混合溶媒で溶かして作成したものを使用する。なお、使用する発光層用インクとして、この混合溶媒1ml当たり発光材料が7〜10mg溶解するように調整し、このときの粘度は15〜17cp、表面張力が約40dyn/cmである。
【0121】
さらに、溶媒用インクは、第1の有機溶媒に属する1,3,5−トリメチルベンゼン90%と、第2の有機溶媒に属するシクロへキシルベンゼン10%との混合溶媒であり、このときの粘度は2〜4cpである。(組み合わせA)
また、2つ目の組み合わせ例として、第1の有機溶媒として1,3,5−トリメチルベンゼン、第2の有機溶媒としてフェニルスルフィドを用いて、上記の組み合わせAと同一の混合比によって、発光層用インク、および溶媒用インクを作成したものを用いてもよい。(組み合わせB)
さらに、3つ目の組み合わせ例として、発光層用インクは、発光材料を、第2の有機溶媒に属するジフェニルメタン100%によって溶かして作製し、また、溶媒用インクは、第1の有機溶媒に属するキシレン100%としたものを用いてもよい。(組み合わせC)
以上の組み合わせA、組み合わせB、組み合わせCのいずれの組み合わせを用いたとしても、本発明に係る製造方法においては、良好な発光層を形成することができる。
【0122】
なお、溶媒用インクは沸点が200℃以下の有機溶媒を主成分とし、発光層用インクは、沸点が200℃以上、300℃以下の有機溶媒を含むことが好ましい。
【0123】
さらに、発光層用インクの溶媒は、沸点が200℃以上、300℃以下である第2の有機溶媒と、沸点が200℃以下である第1の有機溶媒の混合物とし、溶媒用インクは第1の有機溶媒を主成分とすることが好ましい。
【0124】
但し、発光層用インクと溶媒用インクとを、第2の有機溶媒に属する有機溶媒のみで作製したとしても、発光材料を溶解して粘度が高くなった発光層用インクに対し、第2の有機溶媒のみからなる溶媒用インクは粘度が低いため、発光層用インクに比べて濡れ広がり性は良好である。したがって、溶媒用インクを画素領域30の全域に濡れ広がるように諸条件を調製すれば、本発明の効果を発揮することは可能である。
【0125】
なお、図1(c)〜(f)に示す、発光層用インクおよび溶媒用インクの組み合わせは、上述した組み合わせAを用いるものとする。
【0126】
次に、図1(c)〜(f)を参照して、基板3上に形成された正孔輸送層である下地層51上に、発光層を形成する過程を説明する。
【0127】
図1(c)に示すように、溶媒用インクからなる溶媒液滴52(第2の溶液)は、溶媒用インクジェットヘッド20(図3参照)によって、画素領域30内の正孔輸送層である下地層51に向けて吐出される。このとき、溶媒用インクジェットヘッド20は、1つの画素領域30あたり、3つのノズル孔200(図3参照)を用いて、1つのノズル孔200あたり1滴または2滴の溶媒液滴52を吐出し、計5滴の溶媒液滴52を、下地層51に着弾させる。なお、本実施形態においては、溶媒液滴52は、1滴あたり5plであり、1画素領域30あたり4滴以上でないと、1つの画素領域30の全域を、溶媒用インクが覆うことができなかった。なお、画素領域30に対する溶媒用インクの濡れ広がり性は、下地層51と吐出される溶媒液滴52との接触角度、溶媒用インクの表面張力、画素領域30の画素サイズ、さらには、溶媒液滴52の大きさによって異なるために、溶媒液滴52の滴数および1滴あたりの量については、予備実験を行ない、適宜設定すればよい。
【0128】
次に、図1(d)に示すように、溶媒用インクジェットヘッド20によって吐出された溶媒液滴52が、画素領域30内の下地層51の全域を覆うように濡れ広がり、下地層51の全域を覆う溶媒溜り53が形成される。なお、溶媒液滴52を画素領域30に吐出する前に、予め、バンク31に対して撥液化処理を施すことが好ましい。この撥液化処理を施すことにより、発光層用インクの液滴、または、後述する発光層用インク溜りが、バンク31を越えて、隣接する他の画素領域30に漏れ出すことを、より防止できる。
【0129】
さらに、図1(d)に示すように、溶媒溜り53が形成された画素領域30に対して、発光層用インクジェットヘッド21は、発光層用インクからなる発光層液滴54(第1の溶液)を吐出する。なお、発光層液滴54は1滴あたり4plであり、1画素領域30あたり、発光層用インクジェットヘッド21が備える5つのノズル孔210が、1ノズル孔210あたり2滴、計10滴の発光層液滴54を吐出する。なお、図2を参照して説明したように、1つの画素領域30を受け持つノズル孔210が、画素領域の配置列、言い換えれば、図2に示すY方向に対して、基板3を平面視した状態において、傾いているため、図1(d)のように、ノズル孔210より吐出される発光層液滴54は、溶媒溜り53に対して、時間差を有して着弾することになる。
【0130】
次に、図1(e)に示すように、発光層液滴54は溶媒溜り53に混和し、画素領域30内における下地層51上の全域に発光層インク溜り55が形成される。なお、発光層液滴54と溶媒溜り53との混和についての詳細な説明は、後述とする。
【0131】
さらに、画素領域30内に発光層インク溜り55が形成された基板3を、図示しないN雰囲気内のホットプレートにおいて、200℃の環境によって60分間乾燥する。これにより、発光層インク溜り55中の溶媒成分は乾燥除去され、下地層51上に発光層56が形成される。
【0132】
次に、公知の技術を用いて、正孔輸送層および発光層が形成された基板3上に陰極60として、BaとAlを積層することにより、図1(f)に示すような、有機EL表示装置(有機EL素子)が完成する。
【0133】
以上の図1(a)〜(f)を参照して説明した手順によって、作製した有機EL表示装置は、正孔輸送層である下地層51に対して、発光層56が完全に覆われており、発光層56上に陰極60が形成されるため、正孔輸送層である下地層51と陰極60とが接触することはなく、結果、リーク電流の発生は抑制される。
【0134】
なお、作製される有機EL表示装置が、電子輸送層を備える場合も同様に、本実施形態の製造方法を用いることにより、正孔輸送層である下地層51と電子輸送層とが接触すること、または、電子輸送層と陽極300とが接触することがなくなり、リーク電流の発生は抑制される。
【0135】
(比較例1)
以下に、本実施形態に対する比較例として、正孔輸送層を形成した後、その表面上に直接、発光層を形成する複数のインクを順次吐出し、発光層を形成する製造方法(従来法)を、図5(a)〜(c)を参照して説明する。図5(a)〜(c)は、従来法における発光層の形成工程の一例を示す説明図である。
【0136】
まず、図5(a)に示すように、公知技術により正孔輸送層である下地層51を形成したのち、その上に直接、発光層液滴54A、54B、54C、54D、54Eを順に画素領域30に向けて吐出する。まず初めに、発光層液滴54Aが下地層51に着弾すると、下地層51上においては、基板を平面視した場合、基板上面から見て略円形に濡れ広がり、点線で示した着弾溜まり57Aを形成する。次に、発光層液滴54Bが、発光層液滴54Aが下地層51上に濡れ広がった着弾溜まり57A上に着弾すると、着弾溜まり57Aの表面張力により、発光層液滴54Bの一部が着弾溜まり57A側に引き寄せられ、発光層液滴54Bが、下地層51上において十分に濡れ広がらなかった。
【0137】
このような現象が、発光層液滴54A、54B、54C、54D、54Eに対して順次に起こることにより、図5(b)に示すように、最初に着弾した発光層液滴54Aの位置に応じて、発光層インク溜まり55の形状が不均一となり、結果、下地層51上に、発光層用インクが完全に行き渡らないことになる。この状態において、発光層用インクを乾燥し、その上に陰極60を形成すると、図5(c)に示すように、正孔輸送層である下地層51と陰極60とが電気的に短絡し、短絡によるリーク電流が発生するリーク領域70が形成されてしまう。また、このリーク領域70が形成されなくとも、発光層の厚みが画素領域30内で不均一となり、発光ムラが生じてしまう。
【0138】
(比較例2)
さらに、本実施形態に対するさらなる比較例として、正孔輸送層を形成した後、その表面上に直接、発光層を形成する複数のインクを同時に吐出し、発光層を形成する製造方法(従来法)を、図6(a)〜(c)を参照して説明する。図6(a)〜(c)は、従来法における発光層の形成工程の他の一例を示す説明図である。
【0139】
比較例1においては、発光層液滴54A〜54Eが時間差を有して下地層51に着弾した場合を説明したが、この比較例2においては、発光層液滴54A、54B、54C、54D、54Eがほぼ同時に、下地層51上に着弾する場合について説明する。
【0140】
まず、図6(a)に示すように、発光層液滴54A〜54Eが、下地層51上に同時に着弾した場合、発光層液滴54A〜54Eは、下地層51の表面に平行な横方向に濡れ広がる前に、下地層51上で隣接する他の発光層液滴と連結してしまう。その結果、図6(b)に示すように、着弾した発光層用インクの表面張力により、中央が大きく盛り上がった発光層インク溜まり55が形成されてしまう。さらに、同図(b)に示すように、正孔輸送層である下地層51上に発光層用インクが、完全に行き渡らないまま発光層用インクを乾燥させ、その上に陰極60を形成すると、図5(c)に示すように、正孔輸送層である下地層51と陰極60とが電気的に短絡し、短絡によるリーク電流が発生するリーク領域70が形成されてしまう。
【0141】
上記比較例1および2に記載した有機EL表示装置は、正孔輸送層上に発光層を形成し、さらに発光層上に陰極を形成している。比較例1および2において発生した問題点は、機能性材料層として、正孔輸送層と発光層のみを備えた場合に限らず、正孔輸送層の代わりに、電子輸送層を発光層上に積層した場合も同様の問題が発生する。つまり、電子輸送層が発光層に比べて低抵抗であるために、陽極が発光層で完全に覆われておらず、陽極が露出した部分がある場合、電子輸送層は発光層を介さずに直接陽極と接触する。その結果、該部での電流損失による輝度の低下やリーク電流による発熱、消費電力の増加が発生してしまう。
【0142】
また、機能性材料層として、正孔輸送層と電子輸送層の両方を用いた場合も同様に、発光層を介さない、正孔輸送層と電子輸送層の接触、正孔輸送層と陰極の接触、および電子輸送層と陽極の接触が上記問題を発生させることになる。
【0143】
(発光層56の詳細な形成過程)
次に、比較例1および比較例2に対する、本実施形態1における、発光層液滴54の下地層51への着弾から、発光層56が形成されるまでの詳細な過程を、図7(a)〜(c)を参照して説明する。図7(a)〜(c)は、発光層液滴54の下地層51への着弾から、発光層56の形成の過程を示す説明図である。
【0144】
上述した比較例1および2に対して、本実施形態1における、有機EL表示装置の製造方法は、発光層液滴54を、画素領域30に吐出する前に、予め溶媒液滴を吐出し、下地層51上に溶媒溜り53を形成している。
【0145】
これにより、図7(a)に示すように、溶媒溜り53上に発光層液滴54が着弾すると、着弾位置において両者は混和し、発光層インク溜まり55を形成する。一方、画素領域30内における端部分、言い換えれば、バンク31付近については、発光層液滴54が着弾した当初は、溶媒溜まり53だけの状態となる。ここで、時間が経つにつれ、沸点が低く蒸気圧も高い溶媒溜まり53の溶媒は、同図中の黒矢印のように、画素領域30内の中央部分、言い換えれば、発光層用インクと溶媒溜り53とが混和した部分に比べて、早く蒸発する。
【0146】
これにより、溶媒の拡散作用により中央部の発光層インク溜り55を引き込もうとする。また、発光層インク溜まり55から、端部分の溶媒溜まり53部分に向けて発光材料が液中拡散する。この両者の作用により、同図中の白矢印の方向に向けて、言い換えれば、画素領域30内の中央部分から端部分に向けて、発光材料は液中輸送されて、画素領域30内の端部においても発光材料を行き渡らせることが可能となる。発光層インク溜り55と溶媒溜り53とが混和すると、画素領域30内からの蒸発は図7(b)の黒矢印に示すように、ほぼ一定となる。この状態において、発光層インク溜り55を乾燥すると、図7(c)に示すように、正孔輸送層である下地層51を均一に覆う発光層56を形成することが可能となる。
【0147】
特に、発光層液滴が着弾する下地層51の表面が、固形分を含んだ水性溶液を硬化させてなる場合には、本発明が顕著な効果をもたらす。例えば、PEDOT/PSS(ポリエチレンジオキシチオフェンとポリエチレンスルホン酸との混合物)を用いて、該PEDOT/PSSを分散又は溶解させる溶媒として水を用いて調製された、PEDOT/PSS水溶液のような固形分を含む水溶液を、乾燥して正孔輸送層を形成し、その上にPEDOT/PSSが不溶な有機溶剤から構成される発光層用インクを、着弾させる場合が挙げられる。
【0148】
なお、溶媒用インクに用いる第1の有機溶媒として、沸点が100℃以下の、例えば、アセトン、イソプロピルアルコール、メチルエーテルケトン、メタノール等を用いた場合、揮発速度が速すぎて、良好な結果が得られない場合がある。また、第1の有機溶媒としては、沸点が140℃から170℃の溶媒が特に良好であった。
【0149】
(画素領域間の乾燥ムラ)
次に、基板上の全ての画素領域30に、発光層インクを塗布する際の、画素間の乾燥ムラについて、図8を参照して説明する。図8は、従来の方法である、溶媒用インクジェットヘッド20(図2参照)を備えないインクジェット装置によって、マトリックス状に配置された画素領域40に、発光層液滴54(図1(d)参照)を吐出した場合の、画素領域40ごとの状態を示す説明図である。なお、ここでは、本実施形態に係るインクジェット装置1(図2参照)が備える部材と同じものについては、同じ部材番号を付して、その説明を省略する。
【0150】
まず、図8に示すように、発光層用インクジェットヘッド21は、同図中の矢印F方向に走査し、同図中のI−I´の破線よりも、図面の上側の画素領域40に対して、発光層用インクを充填する。次に、発光層用インクジェットヘッド21A〜21Cは、図面中の矢印G方向に移動したのち、図面中のH方向に走査する。この矢印H方向に走査する過程において、発光層用インクジェットヘッド21は、同図中のI−I´の破線よりも、図面の下側の画素領域40(同図中の領域Eにおける画素領域)に対して、発光層用インクを充填する。ここで、この領域Eにおける画素領域40の状態は、概して、以下の状態(1)〜(5)の5つのグループに分けることができる。
状態(1):Y方向に隣接する画素領域40が、F方向の走査においてすでに発光層用インクが充填された画素領域40である、画素領域40A。
状態(2):X方向に隣接する画素領域40の両方に、発光層用インクが充填されていない状態において、発光層用インクジェットヘッド21Aによって、発光層用インクが充填される、画素領域40B。
状態(3):X方向に隣接する画素領域40の片方のみに、発光層用インクが充填された状態において、発光層用インクジェットヘッド21Bによって、発光層用インクが充填される、画素領域40C。
状態(4):X方向に隣接する画素領域40の両方に、発光層用インクが充填された状態において、発光層用インクジェットヘッド21Cによって、発光層用インクが充填される、画素領域40D。
状態(5):Y方向に隣接する画素領域40に、発光層用インクが充填されていない状態において、発光層用インクジェットヘッド21によって、発光層用インクが充填される、画素領域40E。
【0151】
なお、厳密には、画素領域40Aおよび画素領域40Eは、X方向に対しても画素領域40B、40C、40Dの状態と同じ状態を兼ねる。
【0152】
まず、発光層用インクジェットヘッド21A〜21Cによって、発光層用インクが充填された画素領域40においては、隣接する画素領域40に発光層用インクが充填されているかどうかによって、発光層用インクに含まれる溶媒の揮発速度が異なる。具体的には、発光層用インクを充填している画素領域40においては、隣接画素領域40に発光層用インクが充填されているほど、自身の発光層用インクの揮発速度は遅くなる。
【0153】
ここで、上記状態(1)〜(5)に示したように、発光層用インクジェットヘッド21が発光層用インクを充填した画素領域40は、その配置される位置によって、隣接する画素領域40の充填状態が異なり、その結果、画素領域40A〜40Eの乾燥速度は異なることになる。これにより、画素領域40A〜40Eの間に、乾燥ムラが発生し、結果、形成される発光層の厚みにムラが乗じることになる。
【0154】
具体的に説明すると、発光層全体が薄く形成される傾向にある画素領域の順序としては、画素領域40E、画素領域40B、画素領域40C、画素領域40D、画素領域40Aとなる傾向がある。ここで、画素領域40Aと画素領域40Eは、Y方向に対して互いに隣接しているにも関わらず、その乾燥の状態が大きく異なることとなり、発光層の厚みと発光特性に差が生じ、この継ぎ目部分がライン状に強調される、いわゆるスジムラを発生してしまう。
【0155】
また、各色毎の発光層用インクジェットヘッド21は、走査方向にオフセットして設けられているために、画素領域40B、40C、40Dに示すような、色毎に隣接する画素領域40の充填状態に違いが生じ、色毎の発光層の厚みと発光特性とに差が生じ、その結果、有機EL表示装置の色再現性が悪化する。
【0156】
これに対して、本発明に係る実施形態1においては、発光層用インクジェットヘッド21の他に、溶媒用インクジェットヘッド20(図2参照)を搭載し、X方向への1走査によって、基板3(図2参照)上にある、ほぼ全ての画素領域30(図2参照)に、溶媒用インクを充填することできる。
【0157】
具体的には、最初の1走査目に、溶媒用インクジェットヘッド20が、基板3内にある全ての画素領域30に溶媒用インクを充填し、その後、発光層用インクジェットヘッド21A〜21Cが、それぞれの発光色に対応する発光層用インクを充填する。これにより、製造される有機EL表示装置は、スジムラの少ない良好なパネルを得ることができた。
【0158】
なお、従来の方法においては、図5にて説明したように、走査方向に対してノズル列を傾けて配置した際に、画素領域内の着弾タイミングずれが生じ、複数の発光層液滴間の表面張力による引き込み形状ずれが発生していた。そして、この形状ずれが、隣接画素の影響による乾燥差による影響を強調し、スジムラの発生を増大、強調していることも明らかとなった。よって、特に走査方向に対してノズル列を傾けて配置する場合には、本発明のように溶媒用インクを先に画素領域内に濡れ広がらせることにより、単に隣接する画素領域の影響による乾燥差を緩和するだけでなく、画素領域内の発光層厚の均一性を向上することになる。これにより、従来の有機EL表示装置の製造方法の課題であった、有機EL表示装置におけるスジムラを顕著に改善できることになる。また、本発明の実施形態1においては、最初の1走査目、及び2走査目の往復走査の中で、基板内にある画素領域の全てに溶媒用インクを充填しても、同様の結果が得られた。
【0159】
〔実施形態2〕
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態2は、実施形態1の変形例であり、具体的には、画素領域30に溶媒用インクを充填する際の吐出方法を変化させたものである。なお、以下の実施形態2では、上記の実施形態1と異なる箇所について説明し、重複する箇所についてはその説明を省略する。
【0160】
(溶媒用インクの吐出量の調整)
上記の実施形態1において説明したように、画素領域30に対して、溶媒用インクを充填した後、発光層用インクを充填することにより、図8を参照して説明した、画素領域30間における乾燥ムラを抑制できる。
【0161】
ここで、画素領域30が基板3の端部に近いほど、また、溶媒インクジェットヘッド20が画素領域30内に溶媒用インクを充填してから、発光層用インクジェットヘッド21が、発光層用インクを吐出するまでの時間が長いほど、さらに、溶媒用インクと発光層用インクとが混和した後に、混和した発光層インク溜り55の乾燥工程に至るまでの時間が長いほど、形成される発光層56の厚みが薄くなる傾向がある。
【0162】
したがって、より画素領域30間における乾燥ムラを抑制するために、本実施形態2においては、画素領域30ごとの発光層用インクの吐出から発光層用インクの乾燥工程までの時間、基板3上における各画素領域30の配置位置を考慮した、溶媒用インクの吐出量を調整する。
【0163】
(有機EL表示パネル製造装置70の構成)
図9を参照して、本実施形態2における有機EL表示パネル製造装置70の構成を以下に説明する。図9は、有機EL表示パネル製造装置70の構成を示す模式図である。
【0164】
同図に示すように、有機EL表示パネル製造装置70は、実施形態1におけるインクジェット装置1に対して、さらに、溶媒用インクジェットヘッド20が吐出する溶媒液滴52(図1(c)参照)の滴数を制御する滴数制御部8(制御手段)と、滴数制御部8に接続する制御コンピュータ9とを備えている。
【0165】
さらに、滴数制御部8は、画素領域30ごとの充填する溶媒液滴52(図1(c)参照)の滴数を記憶する滴数記憶部81(記憶手段)と、滴数記憶部81からの情報に基づいて、画素領域30ごとの、溶媒液滴52の吐出位置である吐出パターンを決定する、パターン決定部82とを備えている。
【0166】
(有機EL表示パネル製造装置70の動作)
制御コンピュータ9は、製造する有機EL表示装置が備える有機EL表示パネルの基板3上における、画素領域30の配列情報を記憶しており、この配列情報に基づいて、発光層用インクジェットヘッド21および溶媒用インクジェットヘッド20を選定する。具体的には、制御コンピュータ9は、基板3上の画素領域30の大きさ、さらに、配列ピッチの情報に基づき、対応するノズル孔の配列ピッチとなる、発光層用インクジェットヘッド21および溶媒用インクジェットヘッド20を選定する。
【0167】
まず、滴数制御部8は、制御コンピュータ9より、基板3上の画素領域30に、溶媒用インクを吐出する指示を受けると、滴数制御部8は、滴数記憶部81より、画素領域30ごとの滴数を読み出す。さらに、読み出した画素領域30ごとの滴数に基づき、パターン決定部82が、画素領域30ごとにおける、溶媒液滴52の吐出パターンを決定する。
【0168】
次に、滴数制御部8は、画素領域30ごとの溶媒液滴52の滴数および吐出パターンの情報を、インクジェット装置1に出力する。これにより、インクジェット装置1は、滴数制御部8より入力した、画素領域30ごとの溶媒液滴52の滴数および吐出パターンの情報に基づき、溶媒用インクジェットヘッド20を動作させる。
【0169】
以下に、本実施形態2における、具体的な実施例に基づいて、溶媒用インクの吐出量の調整について説明する。
【0170】
〔実施例〕
(予備情報の生成)
まず、予め、滴数制御部8が記憶する画素領域30ごとの溶媒液滴52の滴数の情報を求めるために、全ての画素領域30に、同じ量の溶媒用インクを塗布して形成された、テスト用の有機EL表示装置を製造する。具体的には、溶媒用インクジェットヘッド20を、溶媒液滴52の1滴あたりの量が3plとなる溶媒用インクジェットヘッド20を用いて、1つの画素領域30あたり8滴の溶媒液滴52を、全ての画素領域30に吐出する。次に、実施形態1にて説明したように、発光層用インクを画素領域30に吐出し、乾燥工程、および電極形成の工程を経て、発光可能なテスト用の有機EL表示パネルを製造する。
【0171】
ここで、公知のCCDカメラシステムを用いて、テスト用の有機EL表示パネル領域内の全ての画素領域30に対して、その輝度を各々計測し、画素領域30のそれぞれを3つの輝度レンジにクラス分けを行った。なお、明るい輝度レンジに属する画素を輝度クラスA、中間の輝度レンジに属する画素を輝度クラスB、暗い輝度レンジに属する画素を輝度クラスCとする。
【0172】
このように、予め画素領域30ごとの輝度を計測し、上記輝度クラスA〜Cのクラス分けの情報に基づいて、滴数制御部81が記憶する、画素領域30ごとの溶媒液滴52の滴数の情報を求める。本実施例においては、輝度が高い輝度クラスAに対応する画素領域30には、溶媒液滴52の滴数を9滴とし、輝度が低い輝度クラスCに対応する画素領域30には、溶媒液滴52の滴数を7滴とし、輝度が中間の輝度クラスBに対応する画素領域30には、溶媒液滴52の滴数を8滴とした。
【0173】
この、テスト用の有機EL表示パネルを用いて得た、画素領域30ごとの輝度クラスの情報は、予め、外部より滴数記憶部81に入力しておく。
【0174】
ここで、図10(a)および(b)を参照して、有機EL表示パネル製造装置70が製造する有機EL表示パネルにおける、画素領域ごとの位置と輝度クラスとの関係について説明する。図10(a)は、有機EL表示パネルの基板3上にマトリクス状に配置された画素領域30の一部を示したものであり、図10(b)は、図10(a)に示す各画素領域30における、輝度クラスと充填する溶媒液滴52の滴数とを示す説明図である。
【0175】
まず、図10(a)に示すように、マトリックス状の配置された画素領域30に対して、列方向の配置をX1〜X6とし、行方向の配置をY1〜Y4とする。なお、1つの画素領域30の位置を示す際、以下の説明においては、例えば、画素領域(X1、Y1)というように、1つの画素領域30の位置を示すものとする。
【0176】
まず、本実施例においては、制御コンピュータ9より、溶媒用インクを吐出する指示を、滴数制御部8が入力すると、滴数制御部8は、画素領域30の位置ごとの輝度クラスを、滴数記憶部81が記憶する情報と照合して取得する。例えば、図10(b)においては、画素領域(X2、Y1)は輝度クラスA、画素領域(X2、Y2)は輝度クラスB、画素領域(X2、Y3)は輝度クラスCとなる。次に、滴数制御部8は、取得した画素領域30ごとの輝度クラスの情報を、パターン決定部82に出力する。
【0177】
画素領域30ごとの輝度クラスの情報を入力したパターン決定部82は、画素領域30ごとの、輝度クラスに対応した吐出パターンを決定する。以下に、図11(a)〜(c)を参照して、輝度クラスA〜Cに対応する、吐出パターンについて説明する。図11(a)は、輝度クラスAに対応する吐出パターンを示す説明図であり、図11(b)は、輝度クラスBに対応する吐出パターンを示す説明図であり、図11(c)は、輝度クラスCに対応する吐出パターンを示す説明図である。
【0178】
図11(a)に示すように、輝度クラスAの画素領域30に対しては、同図(a)中の破線によって囲まれた9つの吐出位置60に、9滴の溶媒液滴52を吐出するように、滴数制御部8が溶媒用インクジェットヘッド20を制御する。また、図11(b)に示すように、輝度クラスBの画素領域30に対しては、8つの吐出位置60に、8滴の溶媒液滴52を吐出するように、滴数制御部8が溶媒用インクジェットヘッド20を制御する。さらに、図11(c)に示すように、輝度クラスCの画素領域30に対しては、7つの吐出位置60に、7滴の溶媒液滴52を吐出するように、滴数制御部8が溶媒用インクジェットヘッド20を制御する。
【0179】
以上のように、本発明に係る有機EL表示装置の製造方法および製造装置においては、画素領域30ごとに、溶媒用インクの充填量を制御することにより、発光層の厚みムラを調整でき、輝度ムラを低減した高品位の有機EL表示装置を製造し得る。
【0180】
なお、輝度ムラは乾燥速度に依存して発生しており、乾燥の速い画素領域30については、溶媒用インクの液滴数を増やすことによって、溶媒量が増加し、結果、乾燥の速い画素領域30の乾燥速度を下げることができる。
【0181】
なお、本実施形態においては、溶媒用インクの充填量を調整していたが、発光層用インクの充填量を調整し、有機EL表示装置における輝度ムラを改善することもできる。
【0182】
これは、従来例においては、下地層を完全に被覆する必要から、余分に発光層用インクを充填する必要があったものが、本発明の方法では、少ない液滴数でも下地層を被覆することが可能となるためである。
【0183】
さらに、従来例においては、画素領域への発光層用インクの液滴の滴数を減らすと、濡れ広がり不足などが発生していたが、本発明の製造方法においては、溶媒用インクを先に塗布しているために、滴数を減らしても濡れ広がり不足が発生せず、発光層用インクを適切に制御できる。これにより、図5(b)に示すような画素領域30内における、発光層の厚みムラの発生を抑制し、1つの画素領域30内において、均一な発光層の形成が可能となり、結果、発光層が発光する光の輝度が均一化する。
【0184】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0185】
なお、本発明の有機EL表示装置の製造方法および製造装置を以下のように構成してもよい。
【0186】
(第1構成)
基板上の隔壁で区画された領域に、発光層となる成分を溶媒中に内在させた第1のインクをインクジェット法により塗布して有機エレクトロルミネッセンス表示装置を製造する方法であって、前記第1のインクに可溶で、かつ前記第1のインクに対して粘度の低い第2のインクを前記領域の全域に濡れ広がらせる第1の工程と、前記第1のインクを前記領域に向けて吐出する第2の工程とを含む、有機エレクトロミネッセンス表示装置の製造方法。
【0187】
(第2構成)
前記領域は表面が水性溶液の固化物からなる、第1構成に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【0188】
(第3構成)
前記第2のインクは、前記第1のインクの構成成分の一部からなり、沸点が200℃以下である第1構成または第2構成に記載の機有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【0189】
(第4構成)
前記領域は略長方形状であり、前記第2の工程では、前記領域内の長辺方向に沿った複数の位置に、前記第1のインクの液滴を前記複数の位置の一端側から順次着弾させる第1構成〜第3構成のいずれか1つに記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【0190】
(第5構成)
前記第1のインクの溶媒は、互いに可溶な、少なくとも沸点が200℃以上、300℃以下である第1の有機溶媒と、沸点が200℃以下である第2の有機溶媒を含み、前記第2のインクは前記第2の有機溶媒を主成分とする第1構成〜第4構成のいずれか1つに記載の有機エレクトロミネッセンス表示装置の製造方法。
【0191】
(第6構成)
基板は複数の前記領域を有し、前記第1の工程において、前記領域毎に付与する前記第2のインクの量を調整する、第1構成〜第5構成のいずれか1つに記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【0192】
(第7構成)
前記第1の工程において、前記第2のインクは発光層となる成分を含まない溶媒のみで構成され、かつ、前記第2のインクは、インクジェット法により形成される複数の液滴からなり、前記第2のインクの量の調整は前記液滴の前記領域に対する着弾数を制御することで行われる第6構成に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【0193】
(第8構成)
基板上の隔壁で区画された領域に、発光層となる成分を溶媒中に内在させた第1のインクをインクジェット法により塗布して有機エレクトロミネッセンス表示装置を製造する方法であって、前記第1のインクに可溶で、かつ前記第1のインクに対して粘度の低い第2のインクを前記領域の全域に濡れ広がらせる第1の工程と、前記第1のインクを前記領域に向けて吐出する第2の工程とを含み、前記領域は、表面が水性溶液の固化物からなる略長方形状であり、前記第2の工程では、前記領域内の長辺方向に沿った複数の位置に、前記第1のインクの液滴を前記複数の位置の一端側から順次着弾させるとともに、前記第1のインクの溶媒は互いに溶解する沸点が100℃以上、200℃以下である第1の有機溶媒と、沸点が200℃以上、300℃以下である第2の有機溶媒からなり、前記第2のインクは前記第1の有機溶媒である有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【0194】
(第9構成)
発光層となる成分を溶媒中に内在させた第1のインクを吐出する第1のインクジェットヘッドと、前記第1のインクに可溶で、かつ前記第1のインクに対して粘度の低い第2のインクを吐出する複数の第2のインクジェットヘッドと、を有する有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造装置。
【0195】
(第10構成)
画素毎の前記第2のインクの着弾すべき数を記憶する記憶手段と、前記着弾数に基づいて画素毎の着弾パターンを決定する決定手段とを有し、前記決定手段からの情報に基づいて、前記第2のインクジェットヘッドが吐出制御される第9構成に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造装置。
【産業上の利用可能性】
【0196】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法において、画素領域において、欠損がなく厚みが均一な発光層を形成でき、特に、インクジェット方式によって、発光層を含む機能性材料層を形成する有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法などに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の実施形態1における、正孔輸送層上に発光層を形成する過程を示す模式図である。
【図2】(a)は、本発明の実施形態1における、インクジェット装置の構成を示す平面図であり、(b)は、上記インクジェット装置の断面を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態1における、インクジェットヘッド群の構成を示す説明図である。
【図4】(a)〜(d)は、本発明の実施形態1における、基板上に発光層を形成する過程を示す模式図である。
【図5】(a)〜(c)は、従来例における、正孔輸送層上に発光層を形成する過程を示す模式図である。
【図6】(a)〜(c)は、他の従来例における、正孔輸送層上に発光層を形成する過程を示す模式図である。
【図7】(a)〜(c)は、本発明の実施形態1における、発光層用インクと溶媒用インクとの混和および揮発との関係を示す模式図である。
【図8】従来例における、各画素領域間の乾燥ムラが生じた画素領域の状態を示す模式図である。
【図9】本発明の実施形態2における、有機EL表示パネル製造装置70の構成を示す模式図である。
【図10】(a)および(b)は、本発明の実施形態1における、画素領域ごとの輝度クラスおよび、充填する溶媒用インクの量を示す説明図である。
【図11】(a)〜(c)は、本発明の実施形態2における、画素領域ごとの輝度クラスに対応する、溶媒液滴の滴数および吐出位置を示す説明図である。
【符号の説明】
【0198】
1 インクジェット装置(有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造装置)
3 基板
8 滴数制御部(制御手段)
20 溶媒用インクジェットヘッド(第2のインクジェットヘッド)
21 発光層用インクジェットヘッド(第1のインクジェットヘッド)
21A 青色用インクジェットヘッド(第1のインクジェットヘッド)
21B 緑色用インクジェットヘッド(第1のインクジェットヘッド)
21C 赤色用インクジェットヘッド(第1のインクジェットヘッド)
30 画素領域(区画領域)
31 バンク(隔壁)
43A 発光層
43B 発光層
43C 発光層
52 溶媒液滴(第2の溶液)
54 発光層液滴(第1の溶液)
56 発光層
81 滴数記憶部(記憶手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に隔壁で区画された区画領域に、発光材料を含む第1の溶液を吐出することによって、発光層を形成する、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法であって、
上記第1の溶液に可溶であり、かつ、上記第1の溶液に比べ粘度の低い第2の溶液を、上記区画領域の全域に塗布する可溶溶液塗布工程と、
上記第2の溶液が塗布された上記区画領域に、上記第1の溶液を吐出する発光溶液吐出工程と、を含むことを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【請求項2】
上記区画領域における基板表面は、水性溶液の固化物によって形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の有機エレクトロルミンネッセンス表示装置の製造方法。
【請求項3】
上記第2の溶液の主成分は第1の有機溶媒であり、
上記第1の溶液は、上記第1の有機溶媒を含んでいることを特徴とする、請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【請求項4】
上記区画領域は、略長方形であり、
上記発光溶液吐出工程において、
上記1つの区画領域内に上記第1の溶液を吐出する際、上記区画領域の一方の短辺側から他方の短辺側に向かって、上記区画領域内の複数の異なる位置に、上記第1の溶液の液滴を、順次吐出することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【請求項5】
上記第1の溶液は、上記第2の溶液の主成分である第1の有機溶媒と、該第1の有機溶媒に可溶な第2の有機溶媒とを含み、
上記第1の有機溶媒は、沸点が200度以下であり、
上記第2の有機溶媒は、沸点が200度以上かつ300度以下であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【請求項6】
上記有機エレクトロルミネッセンス表示装置は、複数の上記区画領域を備えており、
上記可溶溶液塗布工程において、吐出する上記第2の溶液の量を、上記区画領域ごとに調整することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【請求項7】
上記可溶溶液塗布工程において、
上記区画領域に上記第2の溶液の液滴を吐出し、
上記第2の溶液の液滴の数を制御することによって、上記区画領域に吐出する上記第2の溶液の量を調整することを特徴とする、請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【請求項8】
上記第1の溶液は、上記第2の溶液の主成分である第1の有機溶媒と、該第1の有機溶媒に可溶な第2の有機溶媒とを含み、
上記第1の有機溶媒は、沸点が200度以上かつ300度以下であり、
上記第2の有機溶媒は、沸点が100度以上かつ200度以下であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【請求項9】
基板上に隔壁で区画された区画領域に、発光材料を含む第1の溶液を吐出し、発光層を形成する、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造装置であって、
上記区画領域に、上記第1の溶液を吐出する第1のインクジェットヘッドと、
上記第1の溶液に可溶であり、かつ、上記第1の溶液に比べ粘度の低い第2の溶液を、上記区画領域に吐出する第2のインクジェットヘッドとを備え、
上記第2のインクジェットヘッドが上記第2の溶液を上記区画領域に吐出した後、上記第1のインクジェットヘッドが、上記区画領域に上記第1の溶液を吐出することを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造装置。
【請求項10】
上記区画領域を複数備えた有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造装置であって、
上記区画領域ごとに対応した、上記第2のインクジェットヘッドが吐出する第2の溶液の液滴の数を記憶する記憶手段と、
上記記憶手段が記憶する液滴の数に基づいて、第2のインクジェットヘッドが吐出する液滴を制御する制御手段と、を備えていることを特徴とする、請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−64642(P2009−64642A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−230763(P2007−230763)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】