説明

有機エレクトロルミネッセント素子、露光装置および画像形成装置

【課題】露光装置のような高い輝度が要求される光源として有機エレクトロルミネッセント素子を応用する場合には、発熱が少なくなり寿命が延びる等、信頼性を高めるために素子の発光効率をなるべく高くする必要があった。
【解決手段】陽極3と陰極9からなる一対の電極と、これらの電極の間に少なくとも発光層を含む機能層8と中間層5が配置され、中間層5を表面抵抗率が10Ω/□よりも大きく1012Ω/□よりも小さくなるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種光源などに用いられる電気的発光素子である有機エレクトロルミネッセント素子、この有機エレクトロルミネッセント素子を光源として用いた露光装置およびこの露光装置を搭載した画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセント素子は固体蛍光性物質の電界発光現象を利用した発光デバイスであり、小型のディスプレイとして既に一部で実用化されている。
【0003】
有機エレクトロルミネッセント素子は発光層に用いられる材料の違いからいくつかのグループに分類することができる。代表的なものの一つは発光層に低分子量の有機化合物を用いる低分子有機エレクトロルミネッセント素子で、主に真空蒸着法を用いて作製される。そして今一つは発光層に高分子化合物を用いる高分子有機エレクトロルミネッセント素子である。
【0004】
高分子有機エレクトロルミネッセント素子は少なくとも発光層を含む機能層を構成する材料を、溶媒に溶解した溶液を用いることで、スピンコート法やインクジェット法、スリットコート法、ディップコート法、印刷法等による製膜工程(以降このように液体材料を薄膜状に塗布する手段を用い、高分子エレクトロルミネッセント素子の作製プロセスの特徴である簡便性をもった製膜工程を「湿式プロセス」と呼称する。これに対し真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法などに代表される製膜工程を「乾式プロセス」と呼称する。)を採用することが可能であり、その簡便なプロセスから低コスト化や大面積化が期待できる技術として注目されている。
【0005】
図12は従来の高分子有機エレクトロルミネッセント素子の構造を示す断面図である。
【0006】
以降図12を用いて従来の高分子有機エレクトロルミネッセント素子の構造およびその作成手順について説明する。
【0007】
典型的な有機エレクトロルミネッセント素子11は陽極13および陰極19の間に電荷注入層(後述するPEDOT層10)、発光層等の複数の層を積層した機能層を配置することで作製される。
【0008】
まず陽極13としてITO(インジウム錫酸化物)を製膜した後にエッチングによって所定の形状にパターニングし、所望の発光面形状が得られるように絶縁層14を配置するなどしたガラス基板12上に、電荷注入層としてのPEDOT:PSS(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸の混合物、以下PEDOTと記載する。)薄膜からなるPEDOT層10を湿式プロセスであるスピンコート法などによって製膜する。PEDOT層10は電荷注入層として事実上の標準となっている材料であり、陽極13側に配置されることでホール注入層として機能する。
【0009】
PEDOT層10の上に機能層18を構成する発光層として例えばポリフェニレンビニレン(以下PPVと表す)およびその誘導体、またはポリフルオレンおよびそれらの誘導体が湿式プロセスであるスピンコート法などによって製膜される。このPPVおよびポリフルオレンは高分子有機エレクトロルミネッセント素子11に用いられる発光層用の材料として代表的なものであり、通常はトルエンやキシレンなどの有機溶媒に溶解させて塗布される。そして機能層18上に真空蒸着法によって陰極19としての金属電極が製膜され有機エレクトロルミネッセント素子11が完成する。
【0010】
さて従来の有機エレクトロルミネッセント素子に関して、特に低分子有機エレクトロルミネッセント素子の信頼性向上のための工夫として、たとえば特許文献1に開示されたようなシリコンを主な材料とする中間層を導入する技術が提案されている。しかしながら、これらの物質からなる中間層は、第一イオン化ポテンシャルが大きいために電極との間に著しい電位ギャップを生じる。その結果これら中間層は電気抵抗が著しく高くなってしまい、低電圧で電荷を注入するためにはその厚みを極力小さくする必要があった。またこれらの中間層は、基板の表面粗さの改善や電極面からの不純物の機能層内への拡散を阻止するなどの作用はあるものの、本質的には電荷のバリア層として作用するため、有機エレクトロルミネッセント素子の発光効率を向上できるものではなかった。
【特許文献1】特開2002−280186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般的なディスプレイ装置等に応用される有機エレクトロルミネッセント素子の発光輝度は高々1000cd/m程度でよいのに対し、電子写真装置等の画像形成装置の露光装置に応用される有機エレクトロルミネッセント素子には、例えば画像形成装置の仕様として600dpi(dot per inch)、20ppm(pages per minute)程度を想定すると10000cd/m以上の発光輝度が要求され、その駆動条件は高電圧、大電流の非常に過酷なものとなる。このような環境下において有機エレクトロルミネッセント素子の動作を長期間にわたって安定して行なうためには、有機エレクトロルミネッセント素子の発光効率を大幅に向上させる必要がある。有機エレクトロルミネッセント素子の発光効率が高いと、駆動のために必要となる電圧電流の条件は緩和され、有機エレクトロルミネッセント素子の発熱が少なくなり寿命が延びる等、結果的に有機エレクトロルミネッセント素子の長期にわたる信頼性を向上させることが可能となる。
【0012】
このように露光装置のような高い輝度が要求される光源に有機エレクトロルミネッセント素子を応用する場合には、信頼性を高めるために有機エレクトロルミネッセント素子の発光効率をなるべく高くする必要がある。
【0013】
本発明は、ディスプレイ装置の表示用途等に用いられる低輝度から画像形成装置の露光光源用途等に用いられる高輝度まで幅広い範囲で駆動可能であって、幅広い輝度の範囲にわたって安定に動作し、かつ寿命特性に優れた有機エレクトロルミネッセント素子、およびこれを用いた長期間にわたって安定して動作する露光装置、およびこの露光装置を用いた高画質な画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の有機エレクトロルミネッセント素子は上記課題に鑑みてなされたもので、一対の電極と、これらの電極の間に少なくとも発光層を含む機能層と中間層が配置され、この中間層を表面抵抗率が10Ω/□以上1012Ω/□以下になるように構成したものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、有機エレクトロルミネッセント素子の発光効率が向上するため有機エレクトロルミネッセント素子をより低電圧で駆動できるようになり、有機エレクトロルミネッセント素子を駆動するためのコストを低減することができる。また隣接する有機エレクトロルミネッセント素子間の電気的なクロストークを抑えることができる。また投入電力も少なくて済むため発熱が小さくなり有機エレクトロルミネッセント素子の寿命を延ばすことができる。
【0016】
この有機エレクトロルミネッセント素子を露光装置に応用することによって、長期にわたって安定して動作する露光装置を提供できる。またこの露光装置を搭載することによって長期にわたって高画質を維持可能な画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の有機エレクトロルミネッセント素子は、一対の電極と、これらの電極の間に少なくとも発光層を含む機能層と中間層が配置され、この中間層を表面抵抗率が10Ω/□以上1012Ω/□以下になるように構成したものである。これによって有機エレクトロルミネッセント素子の発光効率が向上するため有機エレクトロルミネッセント素子をより低電圧で駆動できるようになり、有機エレクトロルミネッセント素子を駆動するためのコストを低減することができる。また隣接する有機エレクトロルミネッセント素子間の電気的なクロストークを抑えることができる。また投入電力も少なくて済むため発熱が小さくなり有機エレクトロルミネッセント素子の寿命を延ばすことができ、長期にわたって信頼性の高い有機エレクトロルミネッセント素子を提供することができる。
【0018】
また本発明は、有機エレクトロルミネッセント素子における中間層の厚みを1nm以上50nm以下に構成したものである。これによって有機エレクトロルミネッセント素子の駆動時の印加電圧を低く抑え、有機エレクトロルミネッセント素子を駆動するためのコストを低減することができるとともに、中間層が色を呈している場合でも中間層による光の吸収の影響をほぼ無視することができ、有機エレクトロルミネッセント素子の発光効率を更に高めることができる。
【0019】
また本発明は、有機エレクトロルミネッセント素子における中間層の第一イオン化ポテンシャルをIPeV、一方の電極の第一イオン化ポテンシャルをIPeVとするとき、中間層をIP−0.5eV≦IP≦IP+0.5eVの関係を満たすように構成したものである。これによって中間層と電極との電位ギャップを小さくすることができ、駆動時の印加電圧を低く抑えることができ、有機エレクトロルミネッセント素子を駆動するためのコストを低減することができる。
【0020】
また本発明は、有機エレクトロルミネッセント素子における中間層を乾式プロセスを用いて形成したものである。乾式プロセスによる製膜は原理的に基板の表面状態による膜厚の不均一化が発生しないため均一な中間層を得ることができ、均一な発光特性を持った信頼性の高い有機エレクトロルミネッセント素子を得ることができる。
【0021】
また本発明は、有機エレクトロルミネッセント素子における中間層を酸化物、窒化物、酸窒化物、複合酸化物のいずれかで構成したものである。これらの物質は真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法などの乾式プロセスを用いて製膜するのに好適であり、濡れ性の異なる部分が混在する基板上にも均一な膜を形成することが可能となるので、均一な発光特性を持ったエレクトロルミネッセント素子を実現することが可能となる。また酸化物、窒化物、酸窒化物、複合酸化物は化学的に安定であり、有機エレクトロルミネッセント素子が形成されたガラス基板等を好適に保護することができる。
【0022】
また本発明は、有機エレクトロルミネッセント素子における中間層をモリブデン、タングステン、バナジウムのいずれかの酸化物で構成したものである。酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化バナジウム等は十分に安定であり、かつ導電率が高く、効率的なキャリア注入を行なうことができ、しかも光透過率が比較的高い。本発明の中間層は単に有機エレクトロルミネッセント素子の発光効率を改善するのみにとどまらず、機能層が塗布される面の濡れ性を改善することで中間層の上に形成される機能層を均一に形成し、均一な発光特性を持った有機エレクトロルミネッセント素子を実現することが可能となる。
【0023】
また本発明は、有機エレクトロルミネッセント素子における機能層を湿式プロセスを用い高分子系材料によって形成したものである。これによって有機エレクトロルミネッセント素子を簡便な湿式プロセスによって形成することができ、製造設備のコストが下がり、また製膜に要する時間も短くてよいことから、有機エレクトロルミネッセント素子の製造コストを低減することが可能となる。
【0024】
本発明の露光装置は、上述した有機エレクトロルミネッセント素子を列状に配置し、個々の有機エレクトロルミネッセント素子を独立して点灯/消灯制御可能に構成したものである。本発明の有機エレクトロルミネッセント素子は中間層が奏する効果によって発光効率が高いために寿命が長い。また中間層は乾式プロセスによって均一な厚みに形成されているため、中間層の上に形成される機能層の膜厚が均一となり発光面内の発光強度分布が均一である。これによって長期にわたって安定した潜像を形成することが可能となる。
【0025】
本発明の画像形成装置は、上述した露光装置と、この露光装置によって静電潜像が形成される感光体と、この感光体上に形成された静電潜像を顕画化する現像手段とを有するものである。本発明の露光装置は長期にわたって安定した潜像を形成できることから、これによって画像形成装置の画質を長期にわたって維持することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の具体的な内容について実施例を用いて説明する。
【0027】
(実施例1)
図1は本発明の実施例1における有機エレクトロルミネッセント素子の断面図である。
【0028】
以降の説明において高分子有機エレクトロルミネッセント素子を単に「有機エレクトロルミネッセント素子」と呼称する。
【0029】
図1において1は有機エレクトロルミネッセント素子である。2は有機エレクトロルミネッセント素子1を支持する透光性を有する例えばガラス基板である。有機エレクトロルミネッセント素子1を製造する工程の詳細については後述するが、実施例1ではガラス基板2上に一対の電極の一方として透光性の例えばITO等によって構成された陽極3が形成され、その少なくとも一部が絶縁層4で覆われている。その上方全面に中間層5として酸化モリブデンの層が乾式プロセスを用いて形成され、次いで少なくとも高分子系材料によって構成される発光層を含む機能層8が湿式プロセスによって形成され、最後に一対の電極の他方としての陰極9が真空蒸着法で形成される。
【0030】
このように実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子1は、陽極3および陰極9からなる一対の電極と、これらの電極の間に少なくとも発光層を含む機能層8と中間層5が配置されており、後に詳細に説明するように中間層5を表面抵抗率が10Ω/□よりも大きく1012Ω/□よりも小さくなるように構成したことが最大の特徴である。
【0031】
さて有機エレクトロルミネッセント素子1の陽極3をプラス極として、また陰極9をマイナス極として直流電圧または直流電流を印加すると、機能層8には陽極3から中間層5を介してホールが注入されるとともに陰極9から電子が注入される。機能層8に含まれる発光層においてこのようにして注入されたホールと電子とが再結合し、これに伴って生成される励起子が励起状態から基底状態へ移行する際に発光現象が起るというわけである。
【0032】
以降図1を用いて実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子1の製造工程を詳細に説明する。
【0033】
まずガラス基板2上への陽極3の形成から絶縁層4の形成までの工程について説明する。
【0034】
ガラス基板2上にスパッタリング法により150〜200nm程度の厚さでITOの薄膜を形成し、フォトリソグラフィー法とエッチング法を用いるなどして所定の形状の電極パターンを作製し陽極3を形成する。続いて感光性ポリイミドからなる1μm程度の絶縁材料をスピンコート法で全面に塗布し、やはりフォトリソグラフィー法で所定の形状にパターニングして絶縁層4を形成する。絶縁層4のパターニングは陽極3とガラス基板2の境界部分を覆うように行われ、この絶縁層4によって発光面の形状を規制する。
【0035】
発光面の形状を絶縁層4で規制する理由は用途によってさまざまであるが、例えば露光装置を想定した場合は、発光面の位置と形状を正確に決めるために行われる。有機エレクトロルミネッセント素子1は前述した原理によって対向する陽極3と陰極9の重なった部位が発光するため、陽極3と陰極9の形状によって直接的に発光面の位置と形状を規制することも可能であるが、露光装置では個々の発光面が大変小さなものとなるため、これを陽極3と陰極9といった電極のみで規制するには個々の電極線が細くなりすぎ、結果的に抵抗値が増大するという問題が生じる。よって抵抗値が大きくならないようある程度の幅の電極を作製した上で、その一部を絶縁層4によって規制して発光面を規制するという方法が一般的に用いられている。
【0036】
このようにして陽極3、絶縁層4が形成されたガラス基板2の上に中間層5が形成される。以下に中間層5を形成する工程について詳細に説明する。
【0037】
実施例1では中間層5として1〜50nmの厚みを持つ三酸化モリブデン(MoO)から構成される層を乾式プロセスである真空蒸着法によって形成した。なお以降の説明において単に「酸化モリブデン」と言うときは、この三酸化モリブデン(MoO)を意味するものとし、モリブデンの酸化数について特に区別が必要な場合は適宜その旨を記載することとする。中間層5は図示するように陽極3および絶縁層4の両方と接するように構成されている。中間層5は陽極3と絶縁層4という互いに濡れ性の異なる面に形成されるが、乾式プロセスの特性上基板面の濡れ性に関係なく均一な厚さで製膜することができる。この中間層5による膜の形成はガラス基板2の全面に対して行ってもよいし、あるいは真空蒸着時にマスクを使用してガラス基板2の一部に対して製膜してもよい。
【0038】
いずれにしても本発明の効果を得るためには少なくとも陽極3は酸化モリブデン層で覆われていればよいが、上述したように陽極3を絶縁層4で規制して発光領域とする構成を有する有機エレクトロルミネッセント素子1の場合は、異なる濡れ性を持つ構造物の表面を均一化するという観点から、陽極3と絶縁層4の境界部分、あるいは陽極3と絶縁層4を合わせた全面を酸化モリブデン層で覆うことが望ましい。
【0039】
さて中間層5を構成する酸化モリブデン層は、モリブデンで作られた蒸着用ボート(BU−6:日本バックスメタル社製)に酸化モリブデン粉末を充填し、抵抗加熱方式の真空蒸着装置を用いて蒸着速度をおおむね0.1nm/秒から10nm/秒の範囲として蒸着を行なうことで形成した。本発明者等の実測によれば、その表面抵抗率は1010Ω/□から1011Ω/□であった。この表面抵抗率は、たとえばアドバンテスト社のR8340等の機器を使用することによって測定可能である。
【0040】
このように実施例1では中間層5を形成するに際して真空蒸着法を用いたが、もちろん製膜方法はこれに限られるものではなく、スパッタ法や電子ビーム蒸着装置等一般的な乾式製膜装置であれば上記特性を持った酸化モリブデン膜を得ることは容易であることは言うまでもない。
【0041】
さて前述したように本発明で述べるところの酸化モリブデンは三酸化モリブデンであるが、たとえば三酸化モリブデンの一部を二酸化モリブデンに代えて両者が混在した膜を作製することにより中間層5の表面抵抗率を10Ω/□以上1012Ω/□以下の範囲で容易に制御することができる。
【0042】
三酸化モリブデン単体は本質的に絶縁体であり、純粋な三酸化モリブデン膜の表面抵抗率は1012Ω/□を大きく上回る。それに対して二酸化モリブデンはある種の金属と同等の低い抵抗率(8.8×10−6Ωcm)を有している。これらを所望の比率で混在させた膜を作製することにより中間層5の表面抵抗率を制御することができる。ここで三酸化モリブデンと二酸化モリブデンを混在させた膜を製膜するためには、スパッタ法を用いて雰囲気をコントロールするか、あるいは電子ビーム蒸着法を用いて共蒸着を行なうなどいくつかの方法があり、いずれも容易に実施可能である。
【0043】
さらに窒化チタンや窒化ジルコニウム等も二酸化モリブデンと同レベルの抵抗率を有しており、これらの物質を二酸化モリブデンに代用する、または他のよりいっそう高抵抗な物質と組み合わせて製膜することによっても10Ω/以上1012Ω/□以下の範囲の表面抵抗率をもった中間層5を形成することができる。
【0044】
以降実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子1において、中間層5の表面抵抗率を10Ω/□以上1012Ω/□以下の範囲としたことの根拠について詳細に説明する。
【0045】
中間層5の表面抵抗率が大きく、酸化モリブデンの絶縁体としての特性が支配的になると中間層5そのものの絶縁性が高くなり、有機エレクトロルミネッセント素子1としての電気抵抗が増加する。酸化モリブデン層によって構成された中間層5は有効にホールを注入できるため、駆動電流に対する発光効率はよくても駆動に必要な電圧が高くなり、有機エレクトロルミネッセント素子1を駆動するために必要となるドライバ等のコストの増大を招く。このドライバについては一般に0.5μmのCMOSプロセスルールを用いた場合、20V耐圧を超えるとコストが約1.3倍上昇すると言われている。また有機エレクトロルミネッセント素子1を駆動する電源電圧が上昇することで電源コストもアップするため、安易な駆動電圧の上昇は好ましくない。
【0046】
図2は本発明の実施例1において中間層5の厚みを30nmとし、有機エレクトロルミネッセント素子1を10000cd/mの一定輝度で発光させた際の、中間層5の表面抵抗率と有機エレクトロルミネッセント素子1に印加される電圧の関係を示した特性図である。
【0047】
以降図2に図1を併用して実施例1における表面抵抗率の設定範囲について説明する。
【0048】
図2において有機エレクトロルミネッセント素子1に印加される電圧は、中間層5の表面抵抗率が1011Ω/□を超えない範囲ではそれほど大きくなく5V程度であるが、1011Ω/□を越えた付近から急激に高くなっていくのがわかる。これは中間層5の表面抵抗率が1010Ω/□付近以下では、中間層5の抵抗より機能層8等中間層5以外の部分の抵抗が相対的に大きくなるため印加電圧が中間層5以外の部分の抵抗に支配されていることを示している。また中間層5の表面抵抗率が1010Ω/□を越えると、中間層5の抵抗が有機エレクトロルミネッセント素子1全体の抵抗を支配するようになる結果、有機エレクトロルミネッセント素子1に印加される電圧が急激に上昇することを示している。
【0049】
図2によれば表面抵抗率が1012Ω/□では有機エレクトロルミネッセント素子1の印加電圧は17〜18V程度であり、上述したCMOSで構成されるドライバは低コストのものが使用できるが、表面抵抗率が1013Ω/□では印加電圧は32V程度まで上昇してしまい、上述のごとくコストアップを招くので好ましくない。
【0050】
このようなことを鑑みると中間層5の表面抵抗率は1012Ω/□を超えないことが望ましい。
【0051】
一方中間層5そのものの絶縁性が低くなり電気抵抗が低下すると、中間層5を介して意図しない回路が隣接する有機エレクトロルミネッセント素子1との間に形成され、いわゆるリーク電流が問題となる。
【0052】
(表1)は有機エレクトロルミネッセント素子1の膜厚方向の抵抗値と、隣接する有機エレクトロルミネッセント素子間(以降単に「隣接素子間」と呼称する)の抵抗値の比を計算したものである。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例1の露光装置には後に詳細に説明するように、多数の有機エレクトロルミネッセント素子1が密接して配置されている。プリンタとして一般的に用いられる解像度である600dpi(dot per inch)の場合、露光光源である有機エレクトロルミネッセント素子1の配置ピッチは42.3μmである。
【0055】
(表1)の各数値は有機エレクトロルミネッセント素子1の一辺のサイズM=40.3μm、配置ピッチである42.3μmから上記Mを差し引いた隣接する有機エレクトロルミネッセント素子1の間隔S=2μm、機能層8の膜厚方向の抵抗値R2=1010Ωとし、中間層5の表面抵抗率R1Ω/□と中間層5の厚みLμmをパラメータとしたとき、(数1)に基づいて膜厚方向の抵抗値と隣接素子間の抵抗値の比を計算したものである。
【0056】
【数1】

【0057】
以降(表1)に基づいてリーク電流が問題となる例を説明する。
【0058】
まず一例として中間層5の厚みとして10nm{(表1)において「中間層厚み」0.01μmの行を参照}の場合を説明する。このとき中間層5の表面抵抗率が1010Ω/□以上であれば、有機エレクトロルミネッセント素子1の膜厚方向の抵抗値と隣接画素間の抵抗値の比は80万を超えることがわかる。
【0059】
これは有機エレクトロルミネッセント素子1を発光させるために流れる電流の高々80万分の1が隣接画素に流れることを示しており、事実上無視できる値であるといってよい。しかしながら中間層5の表面抵抗率が10Ω/□であると、有機エレクトロルミネッセント素子1の膜厚方向の抵抗は中間層5以外の部分が支配するためあまり変化しないのに対し、隣接画素間の抵抗値は中間層5の抵抗値の低下に応じて低下していくため、結果的に80あまりの抵抗比となる{(表1)において「中間層厚み」0.01μmの行の表面抵抗率=1.00E+06の数値を参照}。これは有機エレクトロルミネッセント素子1を発光させるための電流の80分の1が隣接画素に流れることを示している。一般的な有機エレクトロルミネッセント素子1は電流値と発光輝度の間に直線的な関係を持っているため、80分の1のリーク電流は80分の1の発光強度で隣接画素が発光することを意味している。
【0060】
一般に例えばディスプレイ等の表示装置においては、多値の階調画像を表示する必要性から画像データとして6bit、即ち64ステップ以上必要とされており、80分の1のリーク電流はこのステップ幅以下であるため許容範囲であると言える。よって中間層5の表面抵抗率は最低限10Ω/□を下回らないように構成すべきである。
【0061】
更に有機エレクトロルミネッセント素子1を露光装置に応用する場合、実施例1では後に説明するように露光装置を搭載した画像形成装置において、有機エレクトロルミネッセント素子1の経時劣化に対して光量補正を行っている。この光量補正の精度は上述の表示装置よりも厳しく8bit、即ち256ステップとしている。上述の80分の1というリーク電流は光量補正の1ステップの3倍以上に相当するため、このような過大なリーク電流が生じる場合は光量補正が実質的に困難となる。少なくとも8bitの光量補正精度を活かすためには、有機エレクトロルミネッセント素子1の膜厚方向の抵抗値と隣接画素間の抵抗値の比は256以上が必要であり、光量補正の精度への影響を無視するためには512以上あることが望ましい。
【0062】
さて(表1)によれば、この条件を満たす範囲として中間層5の厚みが1nm(=0.001μm)と非常に薄いものであっても、表面抵抗率が10Ω/□であれば抵抗比は806であり理論的には光量補正の精度を確保することができる。しかしながら有機エレクトロルミネッセント素子1の製造歩留りをより重視すると、中間層5の厚みは5nm(=0.005μm)以上に形成することが望ましく、これを考慮すると表面抵抗率として10Ω/□{(表1)における数値は322}以上を確保することが必要である。
【0063】
以上述べてきたように中間層5の表面抵抗率には許容できる範囲が存在し、その値の範囲は10Ω/□よりも大きく1012Ω/□よりも小さな範囲である。
【0064】
また、有機エレクトロルミネッセント素子1の製造歩留りを優先するような際に、より厚く、したがってリーク電流の面からは不利となる中間層5の厚みを採用するような場合が考えられる。これは例えば中間層5の厚みとして20nm〜50nmを選択するような場合である。(表1)によればこれらの範囲においては表面抵抗率にはさらに望ましい領域が存在し、それは10Ω/□以上の範囲である。中間層5の厚みが20nm〜50nmの範囲において表面抵抗率が10Ω/□以上であれば、有機エレクトロルミネッセント素子1の膜厚方向の抵抗値と隣接画素間の抵抗値の比は全て256を上回っており、電気的なクロストークのない高精度な光量補正が可能となる。
【0065】
また実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子1は、中間層5の第一イオン化ポテンシャルをIPeV、一方の電極である陽極3の第一イオン化ポテンシャルをIPeVとするとき、中間層5をIP−0.5eV≦IP≦IP+0.5eVの関係を満たすように構成している。
【0066】
第一イオン化ポテンシャルの値は物質に固有のものであり本来であれば製膜条件等に左右される性質のものではない。しかしながら実際に製膜、測定を行なうと第一イオン化ポテンシャル値はある程度の範囲を持つ。これは製膜された材料の配列、即ち結晶性であるか非晶質であるか、あるいは不純物が存在しているとか、さらに酸化物などの化合物の場合にはその結合状態が異なるなどによって第一イオン化ポテンシャルが変化しているためであると考えられる。
【0067】
特に実施例1のように真空蒸着によって酸化物の製膜を行なう場合は、真空状態という還元性の雰囲気で酸化物を加熱することで、化合物の一部が還元性の物質、即ち酸化数のより小さな状態に変化している可能性が考えられる。一般に酸化物は酸化数が大きくなるほどに、即ち二酸化物よりも三酸化物の方が第一イオン化ポテンシャルは大きくなる傾向である。よって、たとえば抵抗加熱を用いた真空蒸着の際に酸化物をより強く加熱する、即ち高い蒸着速度で蒸着すると、還元側への分解が生じ第一イオン化ポテンシャルは小さくなる傾向であり、また逆にスパッタリングなどにおいて反応容器内に酸素を導入し、酸化雰囲気下で製膜を行なうことにより(もちろん製膜される物質がさらに酸化できる場合であるが)膜の一部はより酸化数の大きな状態となって、全体として第一イオン化ポテンシャルの大きな状態を実現できる。
【0068】
つまり前述したような陽極3と中間層5の第一イオン化ポテンシャルの関係を実現するためには、基本的には適切な材料系の組み合わせを選択する必要があるが、たとえば±0.5eV程度の範囲であれば上述したように製膜条件によってコントロールすることが可能である。
【0069】
さて第一イオン化ポテンシャルの測定にはいくつかの方法があり、測定方法によって若干のばらつきの範囲があるが、実施例1に基づく有機エレクトロルミネッセント素子1では、表面分析装置AC−1(理研計器社製)を用いて第一イオン化ポテンシャルを測定した。
【0070】
ITOから構成される陽極3と中間層5の第一イオン化ポテンシャルの差は、その大小関係によってオーミック接合とショットキー接合を生じる。接合面を電荷が通過する際、オーミックに接合されている場合は問題なく通過するが、ショットキー接合の場合には接合面は電荷にとって障壁となる。このような接合面の電気的な状態については、一般的な半導体理論における基礎事項であり、ここでは詳細の説明を省略するが、その障壁の高さは接合面を構成する物質の第一イオン化ポテンシャルの差異に比例する。つまり高い障壁を乗り越えるためにはそれだけ高いエネルギーが必要となり、これは即ち有機エレクトロルミネッセント素子1に高い電圧を印加する必要があることを意味している。
【0071】
このように陽極3と中間層5の第一イオン化ポテンシャルの差は電位のギャップとなって印加電圧の増大を招くため、あまり大きな値にならないように材料選択をすることが望ましい。ITOによって構成された一般的な陽極3の第一イオン化ポテンシャルは5eV付近にあり、電位ギャップを考慮すると中間層5の第一イオン化ポテンシャルは5.5eVを上回らないことが望ましい。実際に実施例1で採用した酸化モリブデン層の第一イオン化ポテンシャルは、上述の計測器によれば5.5eVであった。前述した考え方によれば、たとえ第一イオン化ポテンシャルの差が大きくとも、それに見合った電圧を印加しさえすればよいように思われるが、既に説明したように実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子1はたいへん薄い膜で構成されており、またその構成材料は有機物であって本質的に電荷の良導体ではない。よって有機エレクトロルミネッセント素子1に対してあまりに高い電圧を印加すると、発光という有機エレクトロルミネッセント素子1本来の動作よりも前に層間の絶縁破壊が生じてしまうものである。
【0072】
また実施例1では中間層5の厚みを1nm以上50nm以下に構成している。以下にその理由について詳細に説明する。
【0073】
実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子1における中間層5である酸化モリブデン層は若干灰色を呈している。よって中間層5として極端な厚膜を形成した場合には発光した光の一部が吸収され、外部に取り出される光が少なくなるため、実質的な発光効率が低下することになる。そのため中間層5はなるべく薄く形成されることが望ましいが、あまりに膜厚を薄くすると均一な膜が形成されず、結果的に中間層の効果を十分に得ることができない。有機エレクトロルミネッセント素子1として絶縁破壊がなされず、かつ陽極3の表面を均一に被覆可能な膜厚を得るためには中間層5の膜厚は最低限1nm以上であることが望ましい。また、あまりに膜厚が厚くなると望ましくない光吸収が増大するほか、有機エレクトロルミネッセント素子1に印加される電圧の増大を招く。
【0074】
ここで再び図2を併用し、表面抵抗率が1011Ω/□付近の酸化モリブデン層を形成した有機エレクトロルミネッセント素子1を想定して説明を行なう。図2において10000cd/mという一定輝度で有機エレクトロルミネッセント素子1を駆動させた際、中間層5として表面抵抗率が1011Ω/□付近の酸化モリブデン層を形成した有機エレクトロルミネッセント素子1に必要となる印加電圧は8〜9Vである。これは酸化モリブデン層の厚みを30nmとした場合であり、前述のように製造歩留り向上等を目的として酸化モリブデン層の膜厚を50nmまで増大した場合は、表面抵抗率は膜厚の増加によって低下するものの{(表1)を参照}、有機エレクトロルミネッセント素子1の厚み方向の抵抗は厚みに応じて増大し、印加電圧は12V程度まで上昇すると予想される。しかもこの説明は表面抵抗率が1011Ω/□付近である酸化モリブデン層の場合であって、表面抵抗率が1012Ω/□に近づいていくと電圧の上昇はより顕著なものとなり、印加電圧は20V程度となる可能性がある。
【0075】
このような印加電圧の上昇は既に述べたように有機エレクトロルミネッセント素子1を駆動するために必要となるドライバ等のコストの増大を招く。よって中間層5の膜厚はある一定の値以下に維持されることが望ましく、上記の考察から最大でも50nm以下に留めるべきものである。
【0076】
また実施例1では真空蒸着法を用いて中間層5を形成したが、もちろんこれはスパッタリング法を始めとする前述した他の乾式プロセスを用いてもよい。たとえば酸化モリブデン、酸化バナジウムは昇華性を持っており一般的な真空蒸着による製膜が可能であるが、酸化タングステンについてはスパッタリングによる製膜が必要である。また前述した他の酸化物等についても真空蒸着できないものが多く、それらについてはむしろスパッタリング法の方が好適である。
【0077】
次に機能層8を形成する工程について説明する。
【0078】
上述のプロセスを経て陽極3、絶縁層4、および中間層5が形成されたガラス基板2上に、湿式プロセスであるスピンコート法により高分子材料からなる機能層8を塗布形成するにあたり、実施例1では高分子系有機エレクトロルミネッセント材料としてトルエンに溶解したMEH−PPVを用い、膜厚は120nmとしている。MEH−PPVは高分子系有機エレクトロルミネッセント材料としてきわめて一般的であり、たとえば日本シーベルヘグナー社にて購入可能である。
【0079】
高分子系有機エレクトロルミネッセント材料そのものはMEH−PPVに限定されるものではない。現在様々な特性と発光色を持った高分子系有機エレクトロルミネッセント材料が提案されており、これらの中から適宜選択して機能層8を構成することができる。
【0080】
なお実施例1では機能層8をMEH−PPVからなる単層膜としたが、後述するようにこれはいくつかの材料からなる積層膜であってもよい。たとえばMEH−PPV層内に注入された電荷を閉じ込め再結合効率を向上させるために、電子ブロック機能やホールブロック機能をもった材料からなる層を追加するのは有機エレクトロルミネッセント素子1の特性向上につながり望ましいものである。
【0081】
図3は本発明の実施例1において機能層8を複数の層によって構成した例の断面図である。
【0082】
図3において6は電子ブロック層としての機能を有する有機物層であり、7は高分子系有機エレクトロルミネッセント材料によって構成された発光層である。発光層7は上述のようにMEH−PPVを用いている。
【0083】
以下図3を用いて機能層8を複数の層で構成した場合の有機エレクトロルミネッセント素子1の構造、機能を説明する。
【0084】
有機物層6は中間層5を形成した後に例えばスピンコート法といった湿式プロセスで形成される。その塗布面全面あるいは少なくとも陽極3と絶縁層4の境界部分は上述の中間層5である酸化モリブデン層で覆われているため、有機物層6を均一性高く製膜することが可能である。即ち有機物層6を形成する際に既に中間層5によって塗布面は均一な無機物膜で覆われているため、湿式プロセスによっても均一性が高い有機物層6を製膜することが可能となる。
【0085】
さて有機物層6は、これが塗布される面が中間層5で覆われているものの、この両者の濡れ性は異なるために若干ながら膜厚の不均一を生じる可能性がある。しかしながら有機物層6は後に説明するように非常に薄く製膜されるため、膜厚に多少の不均一が生じても事実上発光の均一性に影響を与えることはない。
【0086】
実施例1では有機物層6の材料としてポリ[9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−コ−1,4−ベンゾ−{2,1‘−3}−チアジアゾール](Poly[9,9−dioctylfluorenyl−2,7−diyl]−co−1,4−benzo−{2,1’−3}−thiadiazole)])を用いている。これを10nmの厚みを持つ薄膜として湿式プロセスであるスピンコート法によって形成する。
【0087】
この材料は前述した発光層7の材料であるMEH−PPVとの組み合わせにおいて電子ブロック層として機能し、陰極9から注入された電子が陽極3にすり抜けるのを防止するため、有機エレクトロルミネッセント素子1の発光効率を向上させる効果がある。
【0088】
有機物層6は10nmという薄膜に形成するためにスピンコート法に用いる溶液の濃度を下げ粘度を低くすることが望ましい。実施例1では10nmといった薄い有機物層6を形成するために溶液の濃度は0.5%としている。しかしこの濃度は代表的な値であって、この値にとらわれるものではない。有機物層6の膜厚は溶液の濃度のほか、有機物の分子量、溶媒の種類、スピンコート時の回転数、スピンコート雰囲気等の影響を受ける。多少溶液の濃度が高い、あるいは溶解している有機物の分子量が大きい等により溶液の粘度が高いといった場合であれば、スピンコート時の回転数を高くすることによりある程度の薄膜を形成することが可能である。
【0089】
上述の0.5%という溶液濃度は、有機物層6を構成する材料の分子量として20万付近と、一般的なスピンコート条件である1000から5000rpmの回転数を想定した際の代表的な値である。この材料の平均分子量は10万から50万程度の値であり、好ましくは20万付近である。このような有機物を0.1から2.0%程度の範囲の溶液とし、スピンコート法を適用する際のスピンコータの回転数などの条件を調整することによって10nmの膜厚を容易に得ることができる。
【0090】
以上説明したように、乾式プロセスで形成された中間層5の上に湿式プロセスで形成された有機物層6および発光層7からなる二層膜を機能層8として形成することで、湿式プロセスを用いて機能層8を塗布するにあたって有機物層6と発光層7の膜厚を合計した機能層8の厚みの分布が均一なエレクトロルミネッセント素子1を製造することができる。
【0091】
このように機能層8は中間層5の上面に湿式プロセスで塗布されるが、機能層8の内部において発光層7が形成される面が既に有機物層6という均一な濡れ性の膜で覆われていることはもとより、発光層7の材料を溶解した溶液の濡れ性と有機物層6によって形成された膜の濡れ性はきわめて近いために、機能層8トータルでの厚みを非常に均一性が高く製膜することができる。このように機能層8の厚みの分布を均一にすると、機能層8内の電界分布が均一となるため、有機エレクトロルミネッセント素子1は発光面における発光輝度分布が均一なものとなる。
【0092】
以降図1に戻って説明を続ける。
【0093】
そして最後に陰極9を形成するが、実施例1において陰極9はバリウムと銀で構成された積層電極を用いている。バリウムは陰極9からの電子注入を助け、有機エレクトロルミネッセント素子1の駆動電圧を低下させるのに効果がある。同様の目的でカルシウムや、フッ化リチウムなどの化合物を用いてもよい。また銀は反射率が極めて高いため、最上層として用いることで陰極9側に出射された光を効率よくガラス基板2側に戻し、有機エレクトロルミネッセント素子1の発光効率を実質的に高める効果がある。
【0094】
図4および図5は本発明の実施例1に基づく中間層5としての酸化モリブデン層を持った有機エレクトロルミネッセント素子1(図1参照、以降「中間層素子」と呼称する)と、従来技術に基づく中間層を欠いた有機エレクトロルミネッセント素子11(図12参照、以降「PEDOT素子」と呼称する)の発光特性を比較した特性図である。
【0095】
以降図4および図5を用いて本発明の実施例1に基づく中間層素子と従来技術に基づくPEDOT素子の発光特性の差異について説明する。
【0096】
図4において横軸は電流密度であり有機エレクトロルミネッセント素子に流れた電流を単位面積あたりの値に換算したもの、そして縦軸はその電流を流すために有機エレクトロルミネッセント素子に印加した電圧である。また図中の(a)はPEDOT素子の特性を、そして(b)は中間層素子の特性をそれぞれ示している。図4から中間層5の有無にかかわらず、同一の電流を流すために必要な電圧はほとんど同じであることがわかる。これは中間層5として形成された酸化モリブデン層が非常に薄く、また酸化モリブデン層の第一イオン化ポテンシャル(上述のごとく5.5eV)とITOによって構成された陽極の第一イオン化ポテンシャル(上述のごとく5.0eV)の差が比較的小さいためと思われる。
【0097】
次に図5を用いて有機エレクトロルミネッセント素子に流れた電流とそのときに得られる発光強度の関係を説明する。図5において横軸は上述した電流密度であり、縦軸は有機エレクトロルミネッセント素子の発光強度即ち輝度である。また図4と同様に図中の(a)はPEDOT素子の特性を、そして(b)は中間層素子の特性をそれぞれ示している。どちらの有機エレクトロルミネッセント素子も電流密度、即ち有機エレクトロルミネッセント素子の駆動電流と発光輝度の関係はリニアな特性を有している。
【0098】
発光効率が高いとは同一の電流を流した際に得られる光の量が多い、即ち明るいということである。図5においては特性を示す線がより縦軸に近い物ほど効率が高いことを示している。
【0099】
さて図5によれば中間層素子(b)がPEDOT素子(a)と比較してより縦軸に近い特性を有する、即ち電流に対する発光の効率が高くなっているのがわかる。前述したように発光効率の高い素子は、同一の光強度を得るために流さねばならない電流値がより小さくなる。ここで図4に示したようにPEDOT素子と中間層素子に流れる電流値が同じとき、両有機エレクトロルミネッセント素子に印加されている電圧はほぼ同じであるから、これは両有機エレクトロルミネッセント素子に投入される電力が同じであって、その条件下で中間層5を備えた素子がより強い発光をしていることを示している。
【0100】
同一の発光強度、即ち輝度を得るために必要となる電力が小さくなると、発光に伴う有機エレクトロルミネッセント素子の発熱は低減し、発熱に起因する劣化が低減する。またPEDOT素子と中間層素子の両有機エレクトロルミネッセント素子が同一輝度で駆動される場合、中間層素子に印加される電圧はPEDOT素子に比較してより低くなり、有機エレクトロルミネッセント素子を構成する各層に作用する電界が弱くなるために、電界に起因する不純物イオンの拡散などが低減される。このように中間層素子は、PEDOT素子に比較して発光効率が高いために、より温和な条件での駆動が可能となり、結果的に素子の安定動作と信頼性の向上をなすことができるのである。
【0101】
さて実施例1では中間層5として酸化モリブデン層を用いたが、これは酸化モリブデン層が十分に安定であり、効率的なキャリア注入を行なうことができ、しかも光透過率が比較的高いからである。材料特性上の観点から同様の効果を得ることができる材料として、タングステンやバナジウムの酸化物を用いることが可能である。
【0102】
また、さらに中間層5を構成する無機物の層として酸化物、窒化物、酸窒化物、複合酸化物のいずれかで構成しても、上述してきた酸化モリブデン層と同様の効果を得ることができる。
【0103】
酸化物としては、クロム(Cr)、タングステン(W)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、トリウム(Tr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)あるいは、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までのいわゆる希土類元素などの酸化物を挙げることができる。
【0104】
また窒化物としては、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)、窒化珪素(SiN)、窒化マグネシウム(MgN)、窒化モリブデン(MoN)、窒化カルシウム(CaN)、窒化ニオブ(NbN)、窒化タンタル(TaN)、窒化バナジウム(BaN)、窒化亜鉛(ZnN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化鉄(FeN)、窒化銅(CuN)、窒化バリウム(BaN)、窒化ランタン(LaN)、窒化クロム(CrN)、窒化イットリウム(YN)、窒化リチウム(LiN)、窒化チタン(TiN)、およびこれらの複合窒化物等を挙げることができる。
【0105】
また、前述した酸窒化物としては、バリウムサイアロン(BaSiAlON)、カルシウムサイアロン(CaSiAlON)、セリウムサイアロン(CeSiAlON)、リチウムサイアロン(LiSiAlON)、マグネシウムサイアロン(MgSiAlON)、スカンジウムサイアロン(ScSiAlON)、イットリウムサイアロン(YSiAlON)、エルビウムサイアロン(ErSiAlON)、ネオジムサイアロン(NdSiAlON)などのIA、IIA、IIIB族の元素を含むサイアロン、または多元サイアロン等の酸窒化物を挙げることができ、また窒化珪素酸ランタン(LaSiON)、窒化珪素酸ランタンユーロピウム(LaEuSi)、酸窒化珪素(SiON)等も適用可能である。
【0106】
さらに、前述した複合酸化物としては、チタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)の他、チタン酸カルシウム(CaTiO)、ニオブ酸カリウム(KNbO)、ビスマス酸化鉄(BiFeO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、バナジウム酸ナトリウム(NaVO)、バナジウム酸鉄(FeVO)、チタン酸バナジウム(TiVO)、クロム酸バナジウム(CrVO)、バナジウム酸ニッケル(NiVO)、バナジウム酸マグネシウム(MgVO)、バナジウム酸カルシウム(CAVO)、バナジウム酸ランタン(LaVO)、モリブデン酸バナジウム(VMoO)、モリブデン酸バナジウム(VMoO)、バナジウム酸リチウム(LiV)、珪酸マグネシウム(MgSiO)、珪酸マグネシウム(MgSiO)、チタン酸ジルコニウム(ZrTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、マグネシウム酸鉛(PbMgO)、ニオブ酸鉛(PbNbO)、ホウ酸バリウム(BaB)、クロム酸ランタン(LaCrO)、チタン酸リチウム(LiTi)、銅酸ランタン(LaCuO)、チタン酸亜鉛(ZnTiO)、タングステン酸カルシウム(CaWO)等を挙げることができる。
【0107】
なお、上記化合物はあくまで適用可能なものの一部であり、また上記化合物においては価数の異なる化合物も存在し易く、例示したもの以外にも価数の異なる化合物の形をとるものも含まれる。
【0108】
前述した化合物には絶縁性の高いものも含まれているが、一般的には絶縁体とされている物質であっても、その膜厚を1nmから5nm程度と薄くすることにより通電が可能となり本発明に示すところの中間層5として適用可能となる。また前述した化合物のうち色を呈するものについても、形成する膜の厚さを数nmとすることで事実上の問題を回避することができ、本発明の効果を奏することができる。
【0109】
なお前述したように有機エレクトロルミネッセント素子1の機能層8とは、単に発光機能のみを有した層に限定されるものではなく、電荷輸送機能など、他の機能を有しているもの、あるいはそれらを含む複数材料からなる積層膜であってもよい。
【0110】
有機物層6についても同様に、実施例1で用いられた材料に限定されるものではない。機能層8の材料との濡れ性を始めとする適合性を考慮して適宜最適な選択がなされるべきものである。
【0111】
さて、このような均一な発光強度分布を持った有機エレクトロルミネッセント素子1を露光装置に応用した例について以下に詳細に説明する。
【0112】
図6は本発明の実施例1における露光装置の構成図である。以降露光装置の構造について図6を用いて詳細に説明する。
【0113】
図6において、33は図示しない画像形成装置に搭載された露光装置であり、感光体28の表面に静電潜像を形成する部材である。なお感光体28上への静電潜像の形成過程および画像形成装置の構成および動作については後に詳細に説明する。
【0114】
2は既に説明したガラス基板であり、ガラス基板2の面Aには露光光源として有機エレクトロルミネッセント素子1が図面と垂直な方向(主走査方向)に600dpi(dot/inch)の解像度で形成されている。
【0115】
71はプラスティックまたはガラスで構成される棒レンズ(図示せず)を列状に配置したレンズアレイであり、ガラス基板2の面Aに形成された有機エレクトロルミネッセント素子1の出射光を正立等倍の像として、潜像が形成される感光体28の表面に結像させる。レンズアレイ71の一方の焦点はガラス基板2の面Aであり、もう一方の焦点は感光体28の表面となるようにガラス基板2、レンズアレイ71、感光体28の位置関係が調整されている。即ち面Aからレンズアレイ71の近い方の面までの距離L1と、レンズアレイ71の他方の面と感光体28の表面までの距離L2とするとき、L1=L2となるように設定される。
【0116】
72は例えばガラスエポキシ基板上に電子部品によって回路を構成した中継基板である。73aはコネクタA、73bはコネクタBであり、中継基板72には少なくともコネクタA 73aおよびコネクタB 73bが実装されている。中継基板72は例えばフレキシブルフラットケーブルなどのケーブル76によって露光装置33に外部から供給される画像データや光量補正データ、及びその他の制御信号をコネクタB 73bを介して一旦中継し、これらの信号をガラス基板2に渡す。
【0117】
ガラス基板2の表面にコネクタを直接実装することは接合強度や、露光装置33が置かれる多様な環境における信頼性を考慮すると困難であるため、実施例1では中継基板72のコネクタA 73aとガラス基板2との接続手段としてFPC(フレキシブルプリント回路)を採用し(図示せず、詳細は後述する)、ガラス基板2とFPCの接合は例えばACF(異方性導電フィルム)を用いて、予めガラス基板2上に形成された例えばITO電極に直接接続する構成としている。
【0118】
一方コネクタB 73bは露光装置33を外部と接続するためのコネクタである。一般的にACF等による接続は接合強度が問題となる場合が多いが、このように中継基板72上にユーザが露光装置33を接続するためのコネクタB 73bを設けることで、ユーザが直接アクセスするインタフェースに十分な強度を確保することができる。
【0119】
74aは筐体Aであり金属板を例えば折り曲げ加工により成型したものである。筐体A 74aの感光体28に対向する側にはL字状部位75が形成されており、L字状部位75に沿ってガラス基板2およびレンズアレイ71が配設されている。筐体A 74aの感光体28側の端面とレンズアレイ71の端面を同一面に合わせ、更に筐体A 74aによってガラス基板2の一端部を支持する構造とすることで、L字状部位75の成型精度を確保すれば、ガラス基板2とレンズアレイ71の成す位置関係を精度よく合わせ込むことが可能となる。このように筐体A 74aは寸法精度を要求されるため、金属にて構成することが望ましい。また筐体A 74aを金属製とすることで、ガラス基板2上に形成される制御回路およびガラス基板2上に表面実装されるICチップ等の電子部品へのノイズの影響を抑制することが可能である。
【0120】
74bは樹脂を成型して得られる筐体Bである。筐体B 74bのコネクタB 73bの近傍には切欠き部(図示せず)が設けられており、ユーザはこの切欠き部からコネクタB 73bにアクセスが可能となっている。コネクタB 73bに接続されたケーブル76を介して露光装置33の外部から露光装置33に画像データ、光量補正データ、クロック信号やライン同期信号等の制御信号、制御回路の駆動電源、発光素子である有機エレクトロルミネッセント素子の駆動電源などが供給される。
【0121】
図7(a)は本発明の実施例1の露光装置33に係るガラス基板2の上面図であり、図7(b)は同要部拡大図である。以降図7に図6を併用して実施例1におけるガラス基板2の構成について詳細に説明する。
【0122】
図7において、ガラス基板2は厚みが約0.7mmの、少なくとも長辺と短辺を有する長方形形状の基板であり、その長辺方向(主走査方向)には複数の有機エレクトロルミネッセント素子1が列状に形成されている。実施例1ではガラス基板2の長辺方向には少なくともA4サイズ(210mm)の露光に必要な有機エレクトロルミネッセント素子1が配置され、ガラス基板2の長辺方向は後述する駆動制御部78の配置スペースを含め250mmとしている。また実施例1では簡単のためにガラス基板2を長方形として説明するが、ガラス基板2を筐体A 74aに取り付ける際の位置決め用などのために、ガラス基板2の一部に切り欠きを設けるような変形を伴っていてもよい。
【0123】
78はガラス基板2の外部から供給される制御信号(有機エレクトロルミネッセント素子1を駆動するための信号)を受け取り、この制御信号に基づいて有機エレクトロルミネッセント素子1の駆動を制御する駆動制御部であり、後述するように制御信号をガラス基板2の外部から受け取るインタフェース手段とインタフェース手段を介して受け取った制御信号に基づき有機エレクトロルミネッセント素子1の駆動を制御するICチップ(ソースドライバ81)を含んでいる。
【0124】
80は中継基板72のコネクタA 73aとガラス基板2とを接続するインタフェース手段としてのFPC(フレキシブルプリント回路)であり、コネクタ等を介さずガラス基板2に設けられた図示しない回路パターンに直接接続されている。既に説明したように、露光装置33に外部から供給された画像データ、光量補正データ、クロック信号やライン同期信号等の制御信号、制御回路の駆動電源、有機エレクトロルミネッセント素子1の駆動電源は、図6に示す中継基板72を一旦経由した後にFPC80を介してガラス基板2に供給される。
【0125】
実施例1では露光装置33の光源としての有機エレクトロルミネッセント素子1は、主走査方向に600dpiの解像度で5120個が列状に形成されており、個々の有機エレクトロルミネッセント素子1はそれぞれ独立に後述のTFT回路によって点灯/消灯を制御される。
【0126】
81は有機エレクトロルミネッセント素子1の駆動を制御するICチップとして供給されるソースドライバであり、ガラス基板2上にフリップチップ実装されている。ガラス面へ表面実装を行なうことを考慮しソースドライバ81はベアチップ品を採用している。ソースドライバ81には露光装置33の外部からFPC80を介して、電源、クロック信号、ライン同期信号等の制御関連信号および光量補正データ(例えば8ビットの多値データ)が供給される。ソースドライバ81は有機エレクトロルミネッセント素子1に対する駆動パラメータ設定手段であり、より具体的にはFPC80を介して受け渡された光量補正データに基づき個々の有機エレクトロルミネッセント素子1の駆動電流値を設定するためのものである。
【0127】
ガラス基板2においてFPC80の接合部とソースドライバ81は、例えば表面にメタルを形成したITOの回路パターン(図示せず)を介して接続されており、駆動パラメータ設定手段たるソースドライバ81にはFPC80を介して光量補正データ、クロック信号、ライン同期信号等の制御信号が入力される。このようにインタフェース手段としてのFPC80および駆動パラメータ設定手段としてのソースドライバ81は駆動制御部78を構成している。
【0128】
82はガラス基板2上に形成されたTFT(Thin Film Transistor)回路である。TFT回路82はシフトレジスタ、データラッチ部など、有機エレクトロルミネッセント素子1の点灯/消灯のタイミングを制御するゲートコントローラ、および個々の有機エレクトロルミネッセント素子1に駆動電流を供給する駆動回路(以降ピクセル回路と呼称する。)とを含んでいる。ピクセル回路は各有機エレクトロルミネッセント素子1に対して1つずつ設けられ、有機エレクトロルミネッセント素子1が形成する発光素子列と並列に配置されている。駆動パラメータ設定手段であるソースドライバ81によって、個々の有機エレクトロルミネッセント素子1を駆動するための駆動電流値がピクセル回路に設定される。
【0129】
TFT回路82には露光装置33の外部からFPC80を介して、電源、クロック信号、ライン同期信号等の制御信号および画像データ(1ビットの2値データ)が供給され、TFT回路82はこれらの電源および信号に基づいて個々の有機エレクトロルミネッセント素子1の点灯/消灯タイミングを制御する。
【0130】
84は封止ガラスである。有機エレクトロルミネッセント素子1は水分の影響を受けると発光領域が経時的に収縮(シュリンキング)したり、発光領域内の微小な非発光部位(ダークスポット)が拡大する等して発光特性が極端に劣化するため、水分を遮断するための封止が必要である。実施例1ではガラス基板2に接着剤を介して封止ガラス84を貼り付けるベタ封止法を採用しているが、封止領域における水分を吸着するため、封止ガラス84とガラス基板2の間に図示しない乾燥剤を配置してもよい。封止領域は一般に有機エレクトロルミネッセント素子1が構成する発光素子列から副走査方向に数mmから数cm必要とされており、実施例1では封止しろとして2000μmを確保している。
【0131】
77はアモルファスシリコンなどで構成される複数の光量センサをガラス基板2に沿って主走査方向に配置した光量センサユニットである。光量センサユニット77によって個々の有機エレクトロルミネッセント素子1の発光光量が計測される。光量センサユニット77の出力は図示しない配線によって一旦TFT回路82に取り込まれ図示しない信号処理手段によって増幅、アナログ−ディジタル変換などの信号処理を経た後、FPC80、中継基板72(図6参照)、ケーブル76(図6参照)を介して露光装置33の外部に出力される。
【0132】
この信号は画像形成装置の有するコントローラ(図示せず)にて受信、信号処理されて光量補正データ(例えば8ビット=256ステップ)が生成されるが、光量センサユニット77によって計測されるのは個々の有機エレクトロルミネッセント素子1のトータルの発光光量であって、発光領域の発光輝度分布ではない。従って光量補正データに基づく補正によって有機エレクトロルミネッセント素子1のトータルの発光光量は回復させることができるが、例えば経時劣化によって変化した発光領域における発光強度分布を回復させることは困難である。
【0133】
実施例1においては既に述べたように、機能層8(図1または図3参照)の厚みは均一化され、有機エレクトロルミネッセント素子1の発光強度分布は均一となっているため、有機エレクトロルミネッセント素子1の劣化は均一に発生し、劣化が生じた場合でも発光領域における発光輝度の分布は変化しない。
【0134】
このため実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子1を用いた露光装置33は、上述したように光量センサユニット77によって個々の有機エレクトロルミネッセント素子1の発光光量を計測し、計測した発光光量に基づいて例えば有機エレクトロルミネッセント素子1を駆動する駆動電流を再設定するだけで、有機エレクトロルミネッセント素子1のトータルの発光光量と発光領域における発光輝度分布の双方を確実に回復させることができるという極めて顕著な効果を奏する。
【0135】
さて実施例1では駆動制御部78を構成するインタフェース手段たるFPC80、および駆動パラメータ設定手段たるソースドライバ81を、有機エレクトロルミネッセント素子1が形成する発光素子列の延長線上(EL_dir)の位置に設けるようにした。
【0136】
このような配置とすると、ガラス基板2の長辺方向(主走査方向)の任意位置において、駆動制御部78は発光素子列とオーバーラップしない位置に配置されることとなる。同時にこの構成では、ガラス基板2の長辺方向(主走査方向)の任意位置において、駆動制御部78は発光素子列と並列に形成されたTFT回路82(ピクセル回路を含む。)ともオーバーラップしない位置に配置されることとなる。このような配置によってガラス基板2のサイズを小さくすることが可能となる。
【0137】
図8は本発明の実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子1を応用した露光装置33によって感光体28を露光している状況を示す説明図である。
【0138】
図8において20は有機エレクトロルミネッセント素子1から照射された光の伝播経路である。有機エレクトロルミネッセント素子1はガラス基板2の面A(図6参照)に形成されており、ガラス基板2の下面が光取り出し面である。
【0139】
以降図8を用いて実施例1の露光装置33による潜像形成過程を詳細に説明する。
【0140】
なお図8では説明を簡単にするために、説明に必要な部分のみを抜粋して記載しており、ガラス基板2、レンズアレイ71等は図6に示す筐体A 74aに支持されており、感光体28との位置関係も適切に保たれているものとして説明を行なう。
【0141】
また実施例1では感光体28上に正立等倍像を結像する光学系として、既に説明したレンズアレイ71を使用しているが、この光導系は有機エレクトロルミネッセント素子1からの出射光を適切に感光体28上に結像できるものであればどのようなものでもよく、たとえばマイクロレンズアレイや平面型の光学系を用いてもよく、また例えば有機エレクトロルミネッセント素子1の最大径(実施例1は600dpiを想定しているため、最大径は約40μm程度)以下の厚みのガラス基板2に有機エレクトロルミネッセント素子1を形成し、いわゆるレンズレスの接触露光系を構成してもよい。
【0142】
図8に図示されている有機エレクトロルミネッセント素子1は、ガラス基板2上に600dpiの解像度で5120個配置された有機エレクトロルミネッセント素子1のうちの一つである。実際の露光にあたってはこれら多数配置されている有機エレクトロルミネッセント素子1が既に図7を用いて説明したように連携して制御され二次元の印刷像を作成するものである。
【0143】
感光体28上に潜像を形成し、これを現像して顕画化されたトナー像を用紙上に転写し、次いで熱定着を行なういわゆる電子写真プロセスの全体については後に説明するものとし、ここでは有機エレクトロルミネッセント素子1からの光が感光体28上に結像し、潜像と呼ばれる静電的な分布が形成された後、トナーが付着されるまでの過程についての説明を行なう。
【0144】
まず感光体28の表面をスコロトロンチャージャ、ローラ帯電器等の図示しない帯電手段を用いて帯電させる。次いで有機エレクトロルミネッセント素子1からの放射光をレンズアレイ71を用いて伝播させた後に感光体28の表面に結像させる。この際レンズアレイ71は正立等倍レンズであるので、有機エレクトロルミネッセント素子1からの放射光は伝播経路20を通って発光面形状、及び発光強度分布を保ったままで感光体28上に像を結ぶ。つまり有機エレクトロルミネッセント素子1の発光面の発光強度分布がそのまま感光体28上に反映されることになる。
【0145】
感光体28上で光を受けた領域はそこだけ電位を開放し、目視できない静電的な像、即ち潜像を形成する。これは感光体28が光導電性を持った材料で構成されているためである。光が照射されることによりその部分のみ導電性が上昇し、結果として光を受けた部分の電荷は感光体28の裏面に形成された導電部分を通過してアースへと開放されることになる。このとき感光体28上の表面電荷開放の度合いは、一定時間のもとでは照射される光の強度に依存し、強い光が当たったところほど表面電位はアースの電位に近づく。よって潜像は照射される光の強度分布、即ち有機エレクトロルミネッセント素子1の発光強度分布を反映した形となる。
【0146】
潜像の形成後、やはり図示しない現像手段によって感光体28の表面にトナーの付着がなされる。トナーはあらかじめ所定の電位に帯電されており、図示しない現像手段に所定のバイアス電位を印加することで感光体28の表面電位と静電的相互作用を行い、その表面電位に基づくクーロン力に応じて感光体28の潜像が形成された部分に付着する。このときもトナーの感光体28上への付着の度合いは潜像の状態に依存、即ち有機エレクトロルミネッセント素子1の発光強度分布に依存する。
【0147】
このように露光装置33の光源である有機エレクトロルミネッセント素子1の発光強度分布は最終的に感光体28上へのトナーの付着状態を左右し、これはそのまま印刷結果に反映されるのである。
【0148】
さて、このように感光体28上の潜像の状態は有機エレクトロルミネッセント素子1の発光状態をそのまま反映するため、高い画質を維持するためには、有機エレクトロルミネッセント素子1の発光状態が長期にわたって安定していることが不可欠である。
【0149】
以降図1を併用して説明を続ける。
【0150】
実施例1で説明した有機エレクトロルミネッセント素子1は中間層5を備え、その発光効率が向上しているため発熱が非常に小さく、長期にわたって安定した信頼性の高い動作が可能となる。このような有機エレクトロルミネッセント素子1を光源として露光装置を構成することで、長期にわたって安定動作が可能な信頼性の高い露光装置を提供することが可能となる。
【0151】
このように湿式プロセスを用いて機能層5を製膜する有機エレクトロルミネッセント素子1において、陽極3と陰極9からなる一対の電極の間に少なくとも発光層を含む機能層8と中間層5が配置され、この中間層5の表面抵抗率を所定の範囲に構成することで、低コストで電気的クロストークがなく、更に発光効率が高く、その結果発熱が小さく発熱による劣化が少ない長期にわたって安定動作する優れた有機エレクトロルミネッセント素子1を得ることができる。またこのような有機エレクトロルミネッセント素子1を露光装置33に用いることで、感光体28上の潜像形成が安定して行なわれ、鮮明で正しい印刷出力をなす露光装置38を実現することができる。
【0152】
更に図3を用いて説明したように機能層8を構成する有機物層6、発光層7は簡便な湿式プロセスによって形成されることから、製造設備のコストを下げることができ、また製膜に要する時間も短くてよいことから、有機エレクトロルミネッセント素子1の製造コストが低下し、露光装置33を安価に提供できる。
【0153】
図9は本発明の実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子1を応用した露光装置33を搭載した画像形成装置の構成図である。
【0154】
図9において、画像形成装置21は装置内にイエロー現像ステーション22Y、マゼンタ現像ステーション22M、シアン現像ステーション22C、ブラック現像ステーション22Kの4色分の現像ステーションを縦方向に階段状に配列し、その上方には記録紙23が収容される給紙トレイ24を配設すると共に、各現像ステーション22Y〜22Kに対応した箇所には給紙トレイ24から供給された記録紙23の搬送路となる記録紙搬送路25を上方から下方の縦方向に配置したものである。
【0155】
現像ステーション22Y〜22Kは、記録紙搬送路25の上流側から順に、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのトナー像を形成するものであり、イエロー現像ステーション22Yは感光体28Y、マゼンタ現像ステーション22Mには感光体28M、シアン現像ステーション22Cには感光体28C、ブラック現像ステーション22Kには感光体28Kが含まれ、更に各現像ステーション22Y〜22Kには図示しない現像スリーブ、帯電器等、一連の電子写真方式における現像プロセスを実現する部材が含まれている。
【0156】
更に各現像ステーション22Y〜22Kの下部には感光体28Y〜28Kの表面を露光して静電潜像を形成するための露光装置33Y、33M、33C、33Kが配置されている。
【0157】
さて現像ステーション22Y〜22Kは充填された現像剤の色が異なっているが、構成は現像色に関わらず同一であるため、以降の説明を簡単にするため特に必要がある場合を除いて現像ステーション22、感光体28、露光装置33のごとく特定の色を明示せずに説明する。
【0158】
図10は本発明の実施例1の画像形成装置21における現像ステーション22の周辺を示す構成図である。図10において現像ステーション22の内部にはキャリアとトナーを混合物である現像剤26が充填されている。27a、27bは現像剤26を攪拌する攪拌パドルであり、攪拌パドル27aと27bの回転によって現像剤26中のトナーはキャリアとの摩擦によって所定の電位に帯電されると共に、現像ステーション22の内部を巡回することでトナーとキャリアが十分に攪拌混合される。感光体28は図示しない駆動源によって方向D3に回転する。29は帯電器であり感光体28の表面を所定の電位に帯電する。30は現像スリーブ、31は薄層化ブレードである。現像スリーブ30は内部に複数の磁極が形成されたマグネットロール32を有している。薄層化ブレード31によって現像スリーブ30の表面に供給される現像剤26の層厚が規制されると共に、現像スリーブ30は図示しない駆動源によって方向D4に回転し、この回転およびマグネットロール32の磁極の作用によって現像剤26は現像スリーブ30の表面に供給され、後述する露光装置によって感光体28に形成された静電潜像を現像するとともに、感光体28に転写されなかった現像剤26は現像ステーション22の内部に回収される。
【0159】
33は既に説明した露光装置である。実施例1の露光装置33を応用した画像形成装置21は、既に述べたように実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子1は個々の有機エレクトロルミネッセント素子1における発光強度分布が極めて均一であり、かつ発光効率が高く長期にわたって発光特性が安定していることから、実施例1の露光装置33は所望の形状の静電潜像を長期にわたって安定して得られる。従ってこれを搭載した画像形成装置21は常に高画質の画像を形成することができる。さて実施例1における露光装置33は有機エレクトロルミネッセント素子1を600dpi(dot/inch)の解像度で直線状に配置したもので、帯電器29によって所定の電位に帯電した感光体28に対し、画像データに応じて選択的に有機エレクトロルミネッセント素子1をON/OFFすることで、最大A4サイズの静電潜像を形成する。この静電潜像部分に現像スリーブ30の表面に供給された現像剤26のうちトナーのみが付着し、静電潜像が顕画化される。この顕画化の過程は図8を用いて既に詳細に説明したので、ここでは省略する。
【0160】
感光体28に対し記録紙搬送路25と対向する位置には転写ローラ36が設けられており、図示しない駆動源により方向D5に回転する。転写ローラ36には所定の転写バイアスが印加されており、感光体28上に形成されたトナー像を、記録紙搬送路25を搬送されてきた記録紙に転写する。
【0161】
以降図9に戻って説明を続ける。
【0162】
これまで説明してきたように、実施例1における画像形成装置21は複数の現像ステーション22Y〜22Kを縦方向に階段状に配列したタンデム型のカラー画像形成装置であり、カラーインクジェットプリンタと同等クラスのサイズを目指すものである。現像ステーション22Y〜22Kは複数のユニットが配置されるため、画像形成装置21の小型化を図るためには現像ステーション22Y〜22Kそのものの小型化と共に、現像ステーション22Y〜22Kの周辺に配置される作像プロセスに関与する部材を小さくし、現像ステーション22Y〜22Kの配置ピッチを極力小さくする必要がある。
【0163】
オフィス等においてデスクトップに画像形成装置21を設置した際のユーザの使い勝手、特に給紙時や排紙時の記録紙23へのアクセス性を考慮すると、画像形成装置21の底面から給紙口65までの高さは250mm以下にすることが望ましい。これを実現するためには画像形成装置21の全体の構成の中で現像ステーション22Y〜22K全体の高さを100mm程度に抑える必要がある。
【0164】
しかしながら既存の例えばLEDヘッドは厚みが15mm程度あり、これを現像ステーション22Y〜22K間に配置すると目標を達成することが困難である。本発明者等の検討結果によれば露光装置33の厚みを7mm以下とすると、現像ステーション22Y〜22K間の隙間に露光装置33Y〜33Kを配置しても現像ステーション全体の高さを100mm以下に抑えることが可能である。
【0165】
37はトナーボトルであり、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのトナーが格納されている。トナーボトル37から各現像ステーション22Y〜22Kには、図示しないトナー搬送用のパイプが配設され、各現像ステーション22Y〜22Kにトナーを供給している。
【0166】
38は給紙ローラであり、図示しない電磁クラッチを制御することで方向D1に回転し、給紙トレイ24に装填された記録紙23を記録紙搬送路25に送り出す。
【0167】
給紙ローラ38と最上流のイエロー現像ステーション22Yの転写部位との間に位置する記録紙搬送路25には、入口側のニップ搬送手段としてレジストローラ39、ピンチローラ40対が設けられている。レジストローラ39、ピンチローラ40対は、給紙ローラ38により搬送された記録紙23を一時的に停止させ、所定のタイミングでイエロー現像ステーション22Yの方向に搬送する。この一時停止によって記録紙23の先端がレジストローラ39、ピンチローラ40対の軸方向と平行に規制され、記録紙23の斜行を防止する。
【0168】
41は記録紙通過検出センサである。記録紙通過検出センサ41は反射型センサ(フォトリフレクタ)によって構成され、反射光の有無で記録紙23の先端および後端を検出する。
【0169】
さてレジストローラ39の回転を開始すると(図示しない電磁クラッチによって動力伝達を制御し、回転ON/OFFを行なう)記録紙23は記録紙搬送路25に沿ってイエロー現像ステーション22Yの方向に搬送されるが、レジストローラ39の回転開始のタイミングを起点として、各現像ステーション22Y〜22Kの近傍に配置された露光装置33Y〜33Kによる静電潜像の書き込みタイミングが独立して制御される。
【0170】
最下流のブラック現像ステーション22Kの更に下流側に位置する記録紙搬送路25には出口側のニップ搬送手段として定着器43が設けられている。定着器43は加熱ローラ44と加圧ローラ45から構成されている。加熱ローラ44は表面から近い順に、発熱ベルト、ゴムローラ、芯材(共に図示せず)から構成されている多層構造のローラである。このうち発熱ベルトは更に3層構造を有するベルトであり、表面に近い方から離型層、シリコンゴム層、基材層(共に図示せず)から構成される。離型層は厚み約20〜30μmのフッ素樹脂からなり、加熱ローラ44に離型性を付与する。シリコンゴム層は約170μmのシリコンゴムで構成され、加圧ローラ45に適度な弾性を与える。基材層は鉄・ニッケル・クロム等の合金である磁性材料によって構成されている。
【0171】
26は励磁コイルが内包された背面コアである。背面コア46の内部には表面が絶縁された銅製の線材(図示せず)を所定本数束ねた励磁コイルを加熱ローラ44の回転軸方向に延伸し、かつ加熱ローラ44の両端部において、加熱ローラ44の周方向に沿って周回して形成されている。励磁コイルに半共振型インバータである励磁回路(図示せず)から約30kHzの交流電流を印加すると、背面コア46と加熱ローラ44の基材層によって構成される磁路に磁束が生じる。この磁束によって加熱ローラ44の発熱ベルトの基材層に渦電流が形成され基材層が発熱する。基材層で生じた熱はシリコンゴム層を経て離型層まで伝達され、加熱ローラ44の表面が発熱する。
【0172】
47は加熱ローラ44の温度を検出するための温度センサである。温度センサ47は金属酸化物を主原料とし、高温で焼結して得られるセラミック半導体であり、温度に応じて負荷抵抗が変化することを応用して接触した対象物の温度を計測することができる。温度センサ47の出力は図示しない制御装置に入力され、制御装置は温度センサ47の出力に基づいて背面コア46内部の励磁コイルに出力する電力を制御し、加熱ローラ44の表面温度が約170゜Cとなるように制御する。
【0173】
この温度制御がなされた加熱ローラ44と加圧ローラ45によって形成されるニップ部に、トナー像が形成された記録紙23が通紙されると、記録紙23上のトナー像は加熱ローラ44と加圧ローラ45によって加熱および加圧され、トナー像が記録紙23上に定着される。
【0174】
48は記録紙後端検出センサであり、記録紙23の排出状況を監視するものである。52はトナー像検出センサである。トナー像検出センサ52は発光スペクトルの異なる複数の発光素子(共に可視光)と単一の受光素子を用いた反射型センサユニットであり、記録紙23の地肌と画像形成部分とで、画像色に応じて吸収スペクトルが異なることを利用して画像濃度を検出するものである。またトナー像検出センサ52は画像濃度のみならず、画像形成位置も検出できるため、実施例1における画像形成装置21ではトナー像検出センサ52を画像形成装置21の幅方向に2ヶ所設け、記録紙23上に形成した画像位置ずれ量検出パターンの検出位置に基づき、画像形成タイミングを制御している。
【0175】
53は記録紙搬送ドラムである。記録紙搬送ドラム53は表面を200μm程度の厚さのゴムで被覆した金属製ローラであり、定着後の記録紙23は記録紙搬送ドラム53に沿って方向D2に搬送される。このとき記録紙23は記録紙搬送ドラム53によって冷却されると共に、画像形成面と逆方向に曲げられて搬送される。これによって記録紙全面に高濃度の画像を形成した場合などに発生するカールを大幅に軽減することができる。その後、記録紙23は蹴り出しローラ55によって方向D6に搬送され、排紙トレイ59に排出される。
【0176】
54はフェイスダウン排紙部である。フェイスダウン排紙部54は支持部材56を中心に回動可能に構成され、フェイスダウン排紙部54を開放状態にすると、記録紙23は方向D7に排紙される。このフェイスダウン排紙部54は閉状態では記録紙搬送ドラム53と共に記録紙23の搬送をガイドするように、背面に搬送経路に沿ったリブ57が形成されている。
【0177】
58は駆動源であり、実施例1ではステッピングモータを採用している。駆動源58によって、給紙ローラ38、レジストローラ39、ピンチローラ40、感光体(28Y〜28K)、および転写ローラ(36Y〜36K)を含む各現像ステーション22Y〜22Kの周辺部、定着器43、記録紙搬送ドラム53、蹴り出しローラ55の駆動を行っている。
【0178】
61はコントローラであり、外部のネットワークを介して図示しないコンピュータ等からの画像データを受信し、プリント可能な画像データを展開、生成する。
【0179】
62はエンジン制御部である。エンジン制御部62は画像形成装置21のハードウェアやメカニズムを制御し、コントローラ61から転送された画像データに基づいて記録紙23にカラー画像を形成すると共に、画像形成装置21の制御全般を行っている。
【0180】
63は電源部である。電源部63は、露光装置33Y〜33K、駆動源58、コントローラ61、エンジン制御部62へ所定電圧の電力供給を行なうと共に、定着器43の加熱ローラ44への電力供給を行っている。また感光体28の表面の帯電、現像スリーブ(図10における図番30を参照)に印加する現像バイアス、転写ローラ36に印加する転写バイアス等のいわゆる高圧電源系もこの電源部に含まれている。
【0181】
また電源部63には電源監視部64が含まれ、少なくともエンジン制御部62に供給される電源電圧をモニタできるようになっている。このモニタ信号はエンジン制御部62おいて検出され、電源スイッチのオフや停電等の際に発生する電源電圧の低下を検出している。
【0182】
以上の説明においては本発明をカラー画像形成装置に適用した場合について説明したが、たとえばブラックなど単色の画像形成装置に適用することもできる。また、カラー画像形成装置に適用した場合、現像色はイエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの4色に限定されるものではない。
【0183】
(実施例2)
図11は本発明の実施例2における有機エレクトロルミネッセント素子の断面図である。以降図11を用いて実施例2における有機エレクトロルミネッセント素子1の構造について詳細に説明するが、有機エレクトロルミネッセント素子1を応用した露光装置およびこの露光装置を搭載した画像形成装置については、構成や動作に差異がないため説明を省略する。
【0184】
実施例2における有機エレクトロルミネッセント素子1は発光面を規制する絶縁層4(図1参照)を含まない点で実施例1と異なるが、その他の構成については実施例1と実質的に変わりがない。
【0185】
図11において1は有機エレクトロルミネッセント素子である。2は有機エレクトロルミネッセント素子1を支持する透光性を有する例えばガラス基板である。実施例2ではガラス基板2上に一対の電極の一方として透光性の例えばITO等によって構成された陽極3が形成され、その上方全面に中間層5として酸化モリブデンの層が乾式プロセスを用いて形成され、次いで高分子系材料によって構成される発光層を含む機能層8が湿式プロセスによって形成され、最後に一対の電極の他方としての陰極9が真空蒸着法で形成される。
【0186】
このように実施例2の有機エレクトロルミネッセント素子1は、陽極3および陰極9からなる一対の電極と、これらの電極の間に少なくとも発光層を含む機能層8と中間層5が配置されており、実施例1と同様に中間層5を表面抵抗率が10Ω/□よりも大きく1012Ω/□よりも小さくなるように構成している。
【0187】
このように絶縁層4(図1参照)がないシンプルな構造であっても、上述の表面抵抗率を有する中間層5が存在することによる効果は実施例1で詳細に説明したものと全く同様であり、この中間層5によって有機エレクトロルミネッセント素子の発光効率が向上するため有機エレクトロルミネッセント素子をより低電圧で駆動できるようになり、有機エレクトロルミネッセント素子を駆動するためのコストを低減することができる。また隣接する有機エレクトロルミネッセント素子間の電気的なクロストークを抑えることができる。また投入電力も少なくて済むため発熱が小さくなり有機エレクトロルミネッセント素子の寿命を延ばすことができる。
【0188】
また実施例2においても実施例1で説明したのと同様に、機能層8が発光層6(図3参照)の他に電子ブロック層等を含む多層の構造を有していても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0189】
本発明にかかる有機エレクトロルミネッセント素子は、その駆動に要するコストが低廉で、隣接画素間のクロストークが少なく、発光効率が高く長寿命化が図れ、かつ発光面内の発光強度分布が均一であるので、露光装置を始めとして、フラットパネルディスプレイや表示素子、その他光源などを含む広範な応用において有用である。また本発明にかかる有機エレクトロルミネッセント素子を応用した露光装置は長期にわたって安定した潜像を形成できるため、プリンタや複写機といった電子写真装置、あるいは印画紙を画像データに基づいて直接的に露光するフォトプリンタへの応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0190】
【図1】本発明の実施例1における有機エレクトロルミネッセント素子の断面図
【図2】同実施例1において中間層の厚みを30nmとし有機エレクトロルミネッセント素子を10000cd/mの一定輝度で発光させた際の、中間層の表面抵抗率と有機エレクトロルミネッセント素子に印加される電圧の関係を示した特性図
【図3】同実施例1において機能層を複数の層によって構成した例の断面図
【図4】同実施例1に基づく中間層としての酸化モリブデン層を持った有機エレクトロルミネッセント素子と、従来技術に基づく中間層を欠いた有機エレクトロルミネッセント素子の発光特性を比較した特性図
【図5】同実施例1に基づく中間層としての酸化モリブデン層を持った有機エレクトロルミネッセント素子と、従来技術に基づく中間層を欠いた有機エレクトロルミネッセント素子の発光特性を比較した特性図
【図6】同実施例1における露光装置の構成図
【図7】(a)は本発明の実施例1の露光装置に係るガラス基板の上面図、(b)は同要部拡大図
【図8】同実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子を応用した露光装置によって感光体を露光している状況を示す説明図
【図9】同実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子を応用した露光装置を搭載した画像形成装置の構成図
【図10】同実施例1の画像形成装置における現像ステーションの周辺を示す構成図
【図11】本発明の実施例2における有機エレクトロルミネッセント素子の断面図
【図12】従来の高分子有機エレクトロルミネッセント素子の構造を示す断面図
【符号の説明】
【0191】
1 有機エレクトロルミネッセント素子
2 ガラス基板
3 陽極
4 絶縁層
5 中間層
6 有機物層
7 発光層
8 機能層
9 陰極
10 PEDOT層
11 有機エレクトロルミネッセント素子
12 ガラス基板
13 陽極
14 絶縁層
18 機能層
19 陰極
20 伝播経路
21 画像形成装置
22,22Y,22M,22C,22K 現像ステーション
28,28Y,28M,28C,28K 感光体
33,33Y,33M,33C,33K 露光装置
71 レンズアレイ
77 光量センサユニット
78 駆動制御部
81 ソースドライバ
82 TFT回路
84 封止ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、これらの電極の間に少なくとも発光層を含む機能層と中間層が配置され、この中間層を表面抵抗率が10Ω/□以上1012Ω/□以下になるように構成したことを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項2】
前記中間層の厚みを1nm以上50nm以下に構成したことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項3】
前記中間層の第一イオン化ポテンシャルをIPeV、前記電極の一方の第一イオン化ポテンシャルをIPeVとするとき、前記中間層をIP−0.5eV≦IP≦IP+0.5eVの関係を満たすように構成したことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項4】
前記中間層を乾式プロセスを用いて形成したことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項5】
前記中間層を酸化物、窒化物、酸窒化物、複合酸化物のいずれかで構成したことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項6】
前記中間層をモリブデン、タングステン、バナジウムのいずれかの酸化物で構成したことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項7】
前記機能層を湿式プロセスを用い高分子系材料によって形成したことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項8】
請求項1〜請求項7いずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子を列状に配置し、個々の有機エレクトロルミネッセント素子を独立して点灯/消灯制御可能に構成した露光装置。
【請求項9】
少なくとも請求項8記載の露光装置と、前記露光装置によって静電潜像が形成される感光体と、前記感光体上に形成された静電潜像を顕画化する現像手段とを有する画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−80911(P2007−80911A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263406(P2005−263406)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】