説明

有機カルボニル化合物のシアノシリル化触媒

【課題】高い触媒活性を有し、かつ分離・回収が容易な新規シアノシリル化用固体触媒を提供すること、及びこの触媒を用いてシアノヒドリンシリルエーテル化合物を高収率かつ簡便に製造する方法を提供すること。
【解決手段】有機カルボニル化合物とシアン化トリアルキルシリル化合物とを反応させてシアノヒドリンシリルエーテル化合物を製造する方法であって、アルミニウムを含有したメソポーラスシリカを触媒として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な有機カルボニル化合物のシアノシリル化触媒およびこれを用いるシアノヒドリンシリルエーテル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機カルボニル化合物に対するシアノシリル化は、重要な1炭素増炭反応として有機合成において広く利用されている。また、シアノシリル化の生成物であるシアノヒドリンシリルエーテル類は、α−アミノ酸類、β−アミノアルコール類などへ誘導できる中間体として有用なものである。
【0003】
このようなシアノヒドリンシリルエーテル類は、たとえば、触媒量のルイス酸またはルイス塩基の存在下、有機カルボニル化合物とシアン化トリアルキルシリル化合物を反応させる、所謂シアノシリル化反応により製造できることが知られている(非特許文献1)。
また、最近では、リチウム塩類が高い触媒活性を有するシアノシリル化触媒であることも報告されている(特許文献1)。
しかしながら、均一系触媒をもちいた場合、一般に、触媒の分離・回収は困難である。
【0004】
このような問題点を解消するために、触媒の分離・回収が容易な、固体酸あるいは固体塩基を用いた、有機カルボニル化合物のシアノシリル化反応が報告されているが、基質である有機カルボニル化合物に対して同量あるいは過剰量の触媒を用いる必要があった(非特許文献2)。
【0005】
また、アミノ基で修飾したメソポーラスシリカ(非特許文献3)、シリカゲルに担持されたトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム(非特許文献4)が、回収再利用可能なシアノシリル化触媒として報告されているが、いずれの場合も脂肪族アルデヒド類やケトン類を原料として用いた際に収率が低く、あるいは長い反応時間を要するなどの課題が残されている。
【特許文献1】特開2006−219457号
【非特許文献1】Synlett, 2005, p892-899
【非特許文献2】Bull. Chem. Soc. Jpn., 1993, 66, p892-899
【非特許文献3】Green Chem., 2000, 2, p47-48
【非特許文献4】Org. Lett., 2004, 6, p4813-4815
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みなされたものであり、高い触媒活性を有し、かつ分離・回収が容易な新規なシアノシリル化用固体触媒を提供すること、及びこの触媒を用いてシアノヒドリンシリルエーテル化合物を高収率かつ簡便に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、有機カルボニル化合物とシアン化トリアルキルシリル化合物とを反応させてシアノヒドリンシリルエーテル化合物を製造するにあたり、アルミニウムを含むメソポーラスシリカが極めて高活性なシアノシリル化触媒であることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、種々の有機カルボニル化合物とシアン化トリアルキルシリル化合物から、シアノヒドリンシリルエーテル化合物を効率的に製造することができる。また、本発明方法は、安価な原料から簡便に調製でき、かつ回収再利用が可能な固体触媒を用いるという点で反応原価の観点で有利であり、さらに、穏和な条件下、極めて短時間かつ高収率でシアノヒドリンシリルエーテル化合物を得ることができ、しかも反応副生物がなく反応後の処理が極めて容易であるという優れた特徴を有する。
【0009】
すなわち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
〈1〉アルミニウムを含むメソポーラスシリカを主成分とする、有機カルボニル化合物のシアノシリル化触媒。
〈2〉アルミニウムを含むメソポーラスシリカが1〜20 nmの規則性細孔を有するものであることを特徴とする〈1〉に記載のシアノシリル化触媒。
〈3〉アルミニウムを含むメソポーラスシリカに含まれるケイ素とアルミニウムのモル比Si/Alが1〜100であることを特徴とする〈1〉または〈2〉に記載のシアノシリル化触媒。
〈4〉有機カルボニル化合物とシアン化トリアルキルシリル化合物とを、〈1〉〜〈3〉のいずれかに記載のシアノシリル化触媒の存在下で反応させることを特徴とするシアノヒドリンシリルエーテル化合物の製造方法。
〈5〉前記有機カルボニル化合物が、一般式(1)
【化1】

(式中、R1は、置換基を有してもよい、鎖状アルキル基、環状アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基またはヘテロ環;R2は水素、置換基を有してもよい、アルキル基、アリール基またはヘテロ環を示す。ただしR1とR2は互いに結合して環を形成していてもよい)
で示される化合物であることを特徴とする〈4〉に記載のシアノヒドリンシリルエーテル化合物の製造方法。
〈6〉シアン化トリアルキルシリル化合物が、一般式(2)
【化2】

(式中、R3, R4, R5は同じであっても互いに異なっていてもよい、置換基を有してもよいアルキル基またはアリール基を示す)
で示される化合物であることを特徴とする〈4〉に記載のシアノヒドリンシリルエーテル化合物の製造方法。
【0010】
すなわち、本発明の有機カルボニルのシアノシリル化触媒は、アルミニウムを含むメソポーラスシリカを主成分とすることを特徴とする。ここで、メソポーラスシリカとは、一般に界面活性剤を鋳型として調製される、細孔径分布の小さい均一な大きさのメソ細孔が空間的に規則正しく配列したシリカであり、アルミニウムを含むメソポーラスシリカとは、シリカ骨格内外にアルミニウム元素が導入されたものを意味する。
【0011】
このようなアルミニウムを含むメソポーラスシリカは、メソポーラスシリカと同様、規則性細孔を有し、その平均細孔径は、1〜20 nmが好ましく、2〜10 nmがより好ましい。アルミニウムの含有形態としては、アルミニウムがシリカ骨格内に4配位の状態で存在することが好ましいが、アルミニウムの一部がシリカ骨格外に存在していてもよい。アルミニウムを含むメソポーラスシリカは、その規則構造に特に制限はなく、MCM-41やSBA-15に代表される2d六方構造を有するものでもよく、MCM-48やSBA-16に代表される立方構造を有するものでもよい。また、アルミニウムを含むメソポーラスシリカに含有するケイ素とアルミニウムのモル比Si/Alは、1〜100が好ましく、10〜50がより好ましい。
【0012】
本発明で好ましく使用されるアルミニウムを含むメソポーラスシリカとして、入手容易なものとしては、たとえば、J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1995, p711-712やMicropor. Mesopor. Mater.,2000, 34, p43-54に記載されているような、アルキルトリメチルアンモニウムからなる界面活性剤の集合体をテンプレートとして用い、水熱合成によって得られるアルミニウム含有メソポーラスシリカ(Al-MCM-41)等があげられるが、上述したように、アルミニウムを含有したメソポーラスシリカであれば、その原料、合成方法や規則構造、対カチオンに特に制限を受けるものではない。
【0013】
また、本発明のシアノシリル化触媒の形態に特に制限はないが、通常は微粉状、あるいは粒子状である。
【0014】
本発明のシアノヒドリンシリルエーテル化合物の製造方法は、上述したシアノシリル化触媒の存在下、有機カルボニル化合物とシアン化トリアルキルシリル化合物を反応させることを特徴とする。
【0015】
有機カルボニル化合物としては、特に制約されないが、好ましくは、下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1は、置換基を有してもよい、鎖状アルキル基、環状アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基またはヘテロ環;R2は水素、置換基を有してもよい、アルキル基、アリール基またはヘテロ環を示す。ただしR1とR2は互いに結合して環を形成していてもよい)
で表される有機カルボニル化合物が用いられる。
【0016】
一般式(1)で示される有機カルボニル化合物としては、たとえば、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、バレロアルデヒド、カプロンアルデヒド、エナントアルデヒド、カプリルアルデヒド、ペラルゴンアルデヒド、カプリンアルデヒド、ピバルアルデヒド、シクロヘキサンカルボアルデヒドなどの脂肪族アルデヒド及びそれらの各種置換体、ベンズアルデヒド、トルアルデヒド、クミンアルデヒド、アニスアルデヒド、ナフトアルデヒド、フルフラール、チオフェンアルデヒドなどの芳香族アルデヒド及びそれらの各種置換体、アクロレイン、クロトンアルデヒド、シンナムアルデヒドなどの不飽和アルデヒド及びそれらの置換体、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、ジブチルケトン、シクロヘキシルメチルケトン、ジイソプロピルケトン、ベンジルアセトンなどの脂肪族ケトン及びそれらの各種置換体、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノンなどの環状ケトン及びそれらの各種置換体、アセトフェノン、プロピオフェノン、ブチロフェノン、バレロフェノン、ピバロフェノン、カプロフェノン、カプリロフェノン、カプリフェノン、アセトナフトン、ベンゾフェノンなどの芳香族ケトン及びそれらの各種置換体、シクロへキセノン、ベンザルアセトン、カルコンなどの不飽和ケトン及びそれらの各種置換体が例示される。
【0017】
また、他方の原料であるシアン化トリアルキルシリル化合物としては、特に制約されないが、好ましくは、下記一般式(2)
【化2】

(式中、R3, R4, R5は同じであっても互いに異なっていてもよい、置換基を有してもよいアルキル基またはアリール基を示す)
で示される化合物が用いられる。
【0018】
一般式(2)で示されるシアン化トリアルキルシリル化合物としては、たとえば、シアン化トリメチルシリル、シアン化トリエチルシリル、シアン化トリイソプロピルシリル、シアン化ジメチルイソプロピルシリル、シアン化ジエチルイソプロピルシリル、シアン化tert-ブチルジメチルシリル、シアン化tert-ブチルジフェニルシリルが例示される。
【0019】
一般式(1)表される有機カルボニルと一般式(2)で示されるシアン化トリアルキルシリル化合物とを反応させると下記の合成反応式(4)に示されるように、一般式(3)
【化3】

(式中、R1, R2, R3, R4, R5は前記と同じ)
で表されるシアノヒドリンシリルエーテル化合物が得られる。
【0020】
【化4】

(式中、R1, R2, R3, R4, R5は前記と同じ)
【0021】
この一般式(3)で示されるシアノヒドリンシリルエーテル化合物は、α−アミノ酸類、β−アミノアルコール類などの合成中間体として有用なものである。たとえば、この化合物を酸加水分解することによりα−アミノ酸類が得られる。また、シアノヒドリンシリルエーテル化合物に水素化リチウムアルミニウムを反応させることによりβ−アミノアルコール類が得られる。
【0022】
本発明のシアノシリル化反応を具体的に実施するには、たとえば、シアノシリル化触媒を入れた容器に、シアン化トリアルキルシリル化合物とカルボニル化合物を加えて攪拌することにより、反応させればよい。ここで、シアノシリル化触媒はあらかじめ有機溶媒に懸濁させて用いてもよく、また、シアン化トリアルキルシリル化合物とカルボニル化合物は有機溶媒に溶解して加えてもよい。
【0023】
反応系内に添加するシアノシリル化触媒の添加量は特に制限はないが、有機カルボニル化合物に対して0.1〜100重量%の範囲が好ましく、1〜10重量%がより好ましい。有機カルボニル化合物とシアン化トリアルキルシリル化合物の割合は特に限定されないが、例えば、カルボニル化合物1モルに対して1〜数モル、好ましくは1〜1.5モルのシアン化トリアルキルシリルを用いることができる。
【0024】
また、シアノシリル化反応は、アルゴンなどの不活性雰囲気下、常圧で行うのが好ましい。また、このシアノシリル化反応は、無溶媒であっても溶媒中であっても進行する。反応溶媒としては、反応に関与しないものであれば特に制限はないが、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン含有炭化水素類が好ましい。反応温度は特に限定されないが、室温で十分に反応が進行する。必要に応じて加温下または氷冷下で反応を行うことも可能である。反応時間は特に制限はないが、通常数分程度である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
[参考例1]
(アルミニウムを含有したメソポーラスシリカ(Al-MCM-41, Si/Al = 20)の合成)
臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(15.1 g)、アルミン酸ナトリウム(1.14 g)、アンモニア水(1 mL)および蒸留水(100 mL)の混合溶液に、水酸化ナトリウム(3.1 g)、コロイダルシリカ(56.3 g)および蒸留水(135 mL)の混合溶液を加え、97 ℃で1日攪拌した。室温に冷却後、酢酸水溶液を用いて、pHを10.2に調整した。加熱、pH調整の操作は、さらに2回繰り返した。97 ℃で1日攪拌後、生じた白色の固体を回収し、蒸留水で洗浄した。乾燥後、空気中550 ℃で焼成し、Al-MCM-41(Si/Al = 20)を得た。元素分析より、該Al-MCM-41の組成は、ケイ素:42.5 wt%, アルミニウム:1.8 wt%, ナトリウム:0.2 wt%であった。また、該Al-MCM-41の窒素吸着法から求めた比表面積は969 m2/g、細孔容量は1.14 cm3/g、平均細孔径は2.7 nmであった。
【0027】
[参考例2]
(アルミニウムの含有量の異なるメソポーラスシリカ(Al-MCM-41, Si/Al = 10)の合成)
参考例1と同様な操作により、アルミン酸ナトリウムの量を変えることによりAl-MCM-41(Si/Al = 10)を得た。元素分析より、該Al-MCM-41の組成は、ケイ素:40.1 wt%, アルミニウム:3.5 wt%, ナトリウム:0.8 wt%であった。また、該Al-MCM-41の窒素吸着法から求めた比表面積は854 m2/g、細孔容量は1.19 cm3/g、平均細孔径は2.8nmであった。
【0028】
[参考例3]
(アルミニウムの含有量の異なるメソポーラスシリカ(Al-MCM-41, Si/Al = 50)の合成)
参考例1と同様な操作により、アルミン酸ナトリウムの量を変えることによりAl-MCM-41(Si/Al = 50)を得た。元素分析より、該Al-MCM-41の組成は、ケイ素:44.4 wt%, アルミニウム:0.7 wt%, ナトリウム:0.1 wt%であった。また、該Al-MCM-41の窒素吸着法から求めた比表面積は1039 m2/g、細孔容量は1.06 cm3/g、平均細孔径は2.9 nmであった。
【0029】
[参考例4]
(アルミニウムを含有しないメソポーラスシリカ(MCM-41)の合成)
アルミニウム源であるアルミン酸ナトリウムを加えずに、参考例1と同様な操作により、MCM-41を得た。該MCM-41の窒素吸着法から求めた比表面積は1056 m2/g、細孔容量は1.06 cm3/g、平均細孔径は2.7nmであった。
【0030】
[実施例1〜3、比較例1〜2]
(触媒活性の比較)
触媒として参考例1〜3で合成したAl-MCM-41(実施例1〜3)、規則性細孔を有さないアモルファスのシリカアルミナ(触媒学会の参照触媒、JRC-SAH-1)(比較例1)、および参考例4で合成したMCM-41(比較例2)を用いて、触媒活性の比較を行った。
【0031】
すなわち、テフロン(登録商標)でコートされた攪拌子を入れたガラス製シュレンクフラスコに、参考例1で合成したAl-MCM-41(5.0 mg)を加え、減圧下、120 ℃で1時間乾燥させた。室温に冷却した後、アルゴン雰囲気とし、内部標準物質としてフェナントレン(100 mg)の塩化メチレン(10 mL)溶液を加えた。引き続きシアン化トリメチルシリル(0.68 mL, 5.1 mmol)を加え、攪拌下0 ℃に冷却した後、ベンズアルデヒド(106.6 mg, 1.01 mmol)を加えた。0℃で攪拌下、一定時間毎に反応混合物の一部を抜き取り、目的物であるシアノヒドリンシリルエーテル(α−トリメチルシロキシ−フェニルアセトニトリル)の収率をガスクロマトグラフィーにより分析した(実施例1)。
【0032】
また、参考例2で合成したAl-MCM-41(実施例2)、参考例3で合成したAl-MCM-41(実施例3)、規則性細孔を有さないシリカアルミナ(触媒学会の参照触媒、JRC-SAH-1)(5 mg)(比較例1)、および参考例4で合成したMCM-41(30 mg)(比較例2)を用い、同様な操作により、触媒活性を比較した。収率、および偽一次反応速度定数を表1に示す。また、実施例1、比較例1および比較例2の収率の経時変化を図1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例1〜3と比較例1の結果から、シアノシリル化触媒としては、規則性細孔を有することが重要であることが分かる。また、実施例1〜3と比較例2の結果から、シアノシリル化触媒には、アルミニウムを含むことが必要であることが分かる。すなわち、本発明のシアノシリル化触媒は、アルミニウムを含有し、かつ規則性細孔を有するメソポーラスシリカであることで、高い触媒活性を発現していることが示唆される。
【0035】
[参考例5]
(アルミニウムを含有したメソポーラスシリカ(Al-MCM-41)の別法による合成)
臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(20.8 g)、濃塩酸(15.2 g)および蒸留水(100 mL)の混合溶液に、テトラエトキシシラン(40.0 g)、アルミニウムトリイソプロポキシド(2.0 g)の混合溶液を加え、室温で75分間攪拌した。2%アンモニア水(130 mL)を加え、引き続き室温で一晩攪拌を続けた。生じた白色の固体を回収し、蒸留水で洗浄した。乾燥後、空気中550 ℃で焼成し、Al-MCM-41を得た。
【0036】
[実施例4]
実施例1の方法と同様にして、参考例5で合成したAl-MCM-41(5 mg)を用いて反応を行った。5分後のシアノヒドリンシリルエーテルの収率は98%であり、また偽一次反応速度定数kは、0.75 min-1であった。この結果から、本発明のシアノシリル化触媒は、その原料および合成方法に制限を受けず、高い触媒活性を発現することが示唆される。
【0037】
[比較例3]
実施例1の方法と同様にして、合成ゼオライトであるH-Y(5 mg)を用いて反応を行った。1時間後のシアノヒドリンシリルエーテルの収率は4%であった。
【0038】
[比較例4]
実施例1の方法と同様にして、合成ゼオライトであるH-ZSM-5(5 mg)を用いて反応を行った。1時間反応を行ったが、シアノヒドリンシリルエーテルは全く得られなかった。
【0039】
[比較例5]
実施例1の方法と同様にして、固体酸触媒であるナフィオン−H(Nafion-H;登録商標)(5 mg)を用いて反応を行った。5分後のシアノヒドリンシリルエーテルの収率は7%であったが、経時的に生成物の分解が見られ、1時間後の収率は2%に低下した。
【0040】
[比較例6]
実施例1の方法と同様にして、イオン交換樹脂であるアンバーリスト−15(Amberlyst-15;登録商標)(5 mg)を用いて反応を行った。1時間後のシアノヒドリンシリルエーテルの収率は6%であった。
【0041】
[比較例7]
実施例1の方法と同様にして、均一系塩基触媒であるトリエチルアミン(5 μL, ベンズアルデヒドに対して5 mol %)を用いて反応を行った。1時間後のシアノヒドリンシリルエーテルの収率は14%であった。
【0042】
[実施例5]
(ベンズアルデヒドのシアノシリル化)
テフロンでコートされた攪拌子を入れたガラス製シュレンクフラスコに、参考例1で合成したAl-MCM-41(5.0 mg)を加え、減圧下、120 ℃で1時間乾燥させた。室温に冷却した後、アルゴン雰囲気とし、塩化メチレン(1 mL)を加え攪拌し、触媒懸濁液とした。ここに蒸留したシアン化トリメチルシリル(158 μL, 1.19 mmol)を加え、引き続きベンズアルデヒド(104.4 mg, 0.98 mmol)を滴下した後、室温で1分間攪拌した。触媒を濾別した後、溶媒を留去して、目的物であるα−トリメチルシロキシ−フェニルアセトニトリルを単一生成物として得た。単一生成物であることは、1H NMR分析により確認した。内部標準物質として、1,1,2,2-テトラクロロエタン(20μL, 0.189 mmol)を用いて、1H NMR(400 MHz)で定量した結果、収率は100%であった。
1H NMR (CDCl3, δ): 0.23 (s, 9H), 5.50 (s, 1H), 7.38-7.48 (m, 5H).
13C NMR (CDCl3, δ): -0.31, 63.60, 119.14, 126.31, 128.89, 129.29, 136.21.
【0043】
[実施例6〜19]
実施例5の方法と同様にして、下記の表2に示す各種有機カルボニル化合物を用いてシアノシリル化を行った。その結果、いずれの有機カルボニル化合物を用いた場合においても、短時間で定量的に目的とするシアノヒドリンシリルエーテル化合物が単一生成物として得られた。また、実施例14〜19の結果から、本発明のシアノシリル化触媒は、従来法では困難であった、脂肪族アルデヒドやケトンに対しても、収率の低下や大幅な反応時間の増加は見られず、非常に高い触媒活性を有することが示唆される。
【0044】
【表2】

【0045】
[実施例20]
(シアン化tert-ブチルジメチルシリルによるベンズアルデヒドのシアノシリル化)
テフロンでコートされた攪拌子を入れたガラス製シュレンクフラスコに、参考例1で合成したAl-MCM-41(5.1 mg)を加え、減圧下、120 ℃で1時間乾燥させた。室温に冷却した後、アルゴン雰囲気とし、シアン化tert-ブチルジメチルシリル(175 mg, 1.24 mmol)の塩化メチレン(1.5 mL)溶液を加え、引き続きベンズアルデヒド(105.3 mg, 0.99 mmol)を滴下した。室温で10分間攪拌した後、触媒を濾別し、溶媒を留去した。シリカゲルクロマトグラフィーにより分離精製を行い、目的物であるα−tert-ブチルジメチルシロキシ−フェニルアセトニトリル(239.0 mg)を得た。単離収率は97%であった。
1H NMR (CDCl3, δ): 0.15 (s, 3H), 0.23 (s, 3H), 0.94 (s, 9H), 5.52 (s, 1H), 7.39-7.48 (m, 5H).
13C NMR (CDCl3, δ): -5.19, -5.08, 18.16, 25.52, 64.00, 119.26, 126.09, 128.90, 129.23, 136.48.
【0046】
[実施例21]
(シアン化tert-ブチルジメチルシリルによるベンジルアセトンのシアノシリル化)
実施例20の方法と同様にして、カルボニル化合物としてベンジルアセトンを用いて反応を行った。目的物である2−tert-ブチルジメチルシロキシ−4−フェニルブタンニトリルの単離収率は97%であった。
1H NMR (CDCl3, δ): 0.24 (s, 3H), 0.29 (s, 3H), 0.92 (s, 9H), 1.62 (s, 1H), 1.98-2.06 (m, 2H), 2.75-2.94 (m, 5H), 7.18-7.32 (m, 5H).
13C NMR (CDCl3, δ): -3.89, -3.18, 18.02, 25.48, 38.92, 30.75, 45.52, 69.30, 121.87, 126.16, 128.35, 128.54, 140.75.
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、例えば、α−アミノ酸類、β−アミノアルコール類などへ誘導できる合成中間体(シアノヒドリンシリルエーテル化合物)の製造方法として極めて有効に利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1、比較例1および比較例2で用いた触媒活性の比較図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを含むメソポーラスシリカを主成分とする、有機カルボニル化合物のシアノシリル化触媒。
【請求項2】
アルミニウムを含むメソポーラスシリカが1〜20 nmの規則性細孔を有するものであることを特徴とする請求項1に記載のシアノシリル化触媒。
【請求項3】
アルミニウムを含むメソポーラスシリカに含まれるケイ素とアルミニウムのモル比Si/Alが1〜100であることを特徴とする請求項1または2に記載のシアノシリル化触媒。
【請求項4】
有機カルボニル化合物とシアン化トリアルキルシリル化合物とを、請求項1〜3のいずれかに記載のシアノシリル化触媒の存在下で反応させることを特徴とするシアノヒドリンシリルエーテル化合物の製造方法。
【請求項5】
前記有機カルボニル化合物が、一般式(1)
【化1】

(式中、R1は、置換基を有してもよい、鎖状アルキル基、環状アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基またはヘテロ環;R2は水素、置換基を有してもよい、アルキル基、アリール基またはヘテロ環を示す。ただしR1とR2は互いに結合して環を形成していてもよい)
で示される化合物であることを特徴とする請求項4に記載のシアノヒドリンシリルエーテル化合物の製造方法。
【請求項6】
シアン化トリアルキルシリル化合物が、一般式(2)
【化2】

(式中、R3, R4, R5は同じであっても互いに異なっていてもよい、置換基を有してもよいアルキル基またはアリール基を示す)
で示される化合物であることを特徴とする請求項4に記載のシアノヒドリンシリルエーテル化合物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−264762(P2008−264762A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236610(P2007−236610)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年独立行政法人新エネルギー産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発・省エネルギー技術開発プログラム/革新的マイクロ反応場利用部材技術開発」委託研究  産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】