説明

有機スイッチング素子の製造方法

【課題】有機スイッチング素子のスイッチング特性のばらつきを抑制し、再現性を高めた素子を提供すること。
【解決手段】金属微粒子を含有する有機薄膜を2つの電極で挟んだ構造のスイッチング素子を製造する方法において、A)下側電極の上に、第一の高分子化合物を含有する有機下膜を形成する段階と、B)該有機下膜の上に、第一の金属微粒子を蒸着する段階と、C)続いて、その上に、前記第一の金属微粒子と同じ又は異なる第二の金属微粒子が前記第一の高分子化合物と同種又は異種の分散剤としての第二の高分子化合物によって分散されている有機上膜を形成する段階と、D)該有機上膜及び該有機下膜からなる金属微粒子を含有する有機薄膜を上側電極及び下側電極で挟んだ構造に作り上げる段階とを含み、前記第一の高分子化合物及び第二の高分子化合物は、ジチオカルバメート基を有する高分子化合物である、有機スイッチング素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機メモリ素子などへの応用が期待される、2つの電極間に有機双安定性材料を挟み込んだスイッチング素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の半導体材料に対して、低コスト、高い柔軟性などの特性を有する有機電子材料の特性は目覚しい進展をみせている。特に、材料に電圧を印加していくと、ある電圧以上で急激に回路の電流が増加してスイッチング現象が観測される有機双安定材料は、高密度な有機メモリ素子などへの適用が検討されている。
【0003】
このような素子の動作機構は二つの抵抗状態での可逆的なスイッチングによってなされる。例えば、Yang Yangらは、アミノイミダゾールジカーボニトリル(AIDCN)、ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq)などの有機半導体やポリスチレン、PMMA等の有機絶縁体中に、アルミニウム、銅、銀、金、ニッケル、マグネシウム、インジウム、カルシウム、リチウム等などの高導電率材料を薄膜形成、もしくは微粒子として分散させることにより、電圧印加によって高抵抗状態と低抵抗状態の双安定性を得ることができ、電圧をゼロにしても情報が保持される不揮発性メモリであることを示した(特許文献1、2、非特許文献1参照)。
【0004】
また、特許文献3には、一つの分子内に電子供与性の官能基と電子受容性の官能基とを有する有機双安定材料層中に、導電性微粒子として平均粒径5nm以下の白金またはロジウム微粒子が分散したスイッチング素子が記載されている。そしてこれにより、粒径にばらつきの少ない微粒子を膜厚の薄い微粒子分散層中に均一に分散することができるので、安定した特性のスイッチング素子が得られることが記載される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来提案されている金属微粒子を分散させた有機双安定材料において、その素子特性の安定化や低コスト化は重要な課題であり、有機半導体又は有機絶縁体における金属微粒子の分散性を高めることにより達せられるものと考えられる。これに対し、上記特許文献1、2及び非特許文献1に記載の技術は、有機半導体又は有機絶縁体における金属微粒子の分散剤について具体的に提案していない。また、特許文献3に記載の発明は、一つの分子内に電子供与性の官能基と電子受容性の官能基とを有する有機双安定材料を採用することを記載しているけれども、その採用により導電性微粒子の含有量が低減し得るとともに素子が電流双安定性を有することについては何ら記載するものではない。
また従来のスイッチング素子は、スイッチング特性のばらつきが大きく、アレイ化した際の歩留まりが大きく低下するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ジチオカルバメート基を含有する高分子化合物を金属微粒子分散剤として採用したことにより有機半導体及び有機絶縁体中での分散性を高め、これにより、金属微粒子の含有量を低減させるとともに、スイッチング素子の安定性を高めることに成功した。
とりわけ、スッチング素子の下側電極の上に予め金属微粒子を配置させることにより、即ち、下側電極の表面上に又はその近くに金属微粒子をより高濃度に存在させることにより、該素子のスイッチング特性のばらつきを抑制し、再現性を高めることに成功した。
【0007】
すなわち、本発明は、第1観点として金属微粒子を含有する有機薄膜を2つの電極で挟んだ構造のスイッチング素子を製造する方法において、
A)下側電極の上に、第一の高分子化合物を含有する有機下膜を形成する段階と、
B)該有機下膜の上に、第一の金属微粒子を蒸着する段階と、
C)続いて、その上に、前記第一の金属微粒子と同じ又は異なる第二の金属微粒子が前記第一の高分子化合物と同種又は異種の分散剤としての第二の高分子化合物によって分散されている有機上膜を形成する段階と、
D)該有機上膜及び該有機下膜からなる金属微粒子を含有する有機薄膜を上側電極及び下側電極で挟んだ構造に作り上げる段階とを含み、
前記第一の高分子化合物及び第二の高分子化合物は、ジチオカルバメート基を有する重量平均分子量が500〜5,000,000である高分子化合物である、
有機スイッチング素子の製造方法に関する。
第2観点として、前記B)の蒸着段階は、アークプラズマガンを用いて行われる、第1観点に記載の製造方法に関する。
第3観点として、前記A)段階で形成される有機下膜は、厚さ10nm以下の極薄膜である、第1観点に記載の製造方法に関する。
第4観点として、前記上側電極及び下側電極は、導電性金属の蒸着膜である、第1観点に記載の製造方法に関する。
第5観点として、前記第一の金属微粒子及び第二の金属微粒子は、金、銀、白金、銅、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム及びイリジウムよりなる群より選択される少なくとも1種である、第1観点に記載の製造方法に関する。
第6観点として、前記第一の金属微粒子及び第二の金属微粒子は、平均粒径が1nm以上500nm以下の金属微粒子である、第1観点に記載の製造方法に関する。
第7観点として、前記第一の高分子化合物及び第二の高分子化合物は、分岐状高分子化合物である、第1観点に記載の製造方法に関する。
第8観点として、前記第一の高分子化合物及び第二の高分子化合物は、式(1)で表される分岐状高分子化合物である、第1観点に記載の製造方法に関する。
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2及びR3は、それぞれ、炭素原子数1乃
至5のアルキル基、炭素原子数1乃至5のヒドロキシアルキル基又は炭素原子数7乃至12のアリールアルキル基を表し、又は、R2とR3は互いに結合し、窒素原子と共に環を形成していてもよい。A1は式(2)又は式(3):
【化2】

(式中、A2はエーテル結合又はエステル結合を含んでいても良い炭素原子数1乃至30
の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、Y1、Y2、Y3又はY4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至20のアルキル基、炭素原子数1乃至20のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基又はシアノ基を表す。)を表し、nは繰り返し単位構造の数であって2乃至100,000の整数を表す。)
【発明の効果】
【0008】
微粒子分散型の有機メモリ素子等の本発明に従う有機スイッチング素子においては、金属微粒子を予め下側電極の上に配置させること、詳細には、アークプラズマガンを用いて下側電極の上に金属微粒子を蒸着させることにより、スイッチング特性のばらつきを低減でき、特にON状態における電流値の再現性を向上できる。
加えて、本発明の有機スイッチング素子にあっては、分散剤としてのジチオカルバメート基を有する高分子化合物により分散された金属微粒子を用いることにより、金属微粒子の分散性が高いためスイッチング特性の安定性が高く、且つ金属微粒子の使用量を低減させることができ、スイッチング素子の低コスト化を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明のスイッチング素子の実施形態を示す図である。
【図2】図2は、実施例1においてアークプラズマガンにて蒸着した金微粒子のTEM画像(図2(a))と粒径分布(図2(b)を示す図である。
【図3】図3は、実施例で用いた2種の電圧操作(鋸歯状掃引(図3(a))、三角波掃引(図3(b)))を示す図である。
【図4】図4は、実施例1で作製したスイッチング素子の電流密度対電圧(J−V)特性を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例1の素子(図5(a))と比較例1の素子(図5(b))を10回ずつON/OFF切替を行った際に測定された電流密度の範囲を示すグラフである。図中、四角と丸はそれぞれ高導電状態と低導電状態の電流密度平均値を示し、一組ごとに1回の切替に対応する。エラーバーは各測定で観測された電流密度の範囲を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための詳細を説明する。
本発明の金属微粒子を含有する有機薄膜を2つの電極で挟んだ構造の有機スイッチング素子の製造方法は、
A)下側電極の上に、第一の高分子化合物を含有する有機下膜を形成する段階と、
B)該有機下膜の上に、第一の金属微粒子を蒸着する段階と、
C)続いて、その上に、前記第一の金属微粒子と同じ又は異なる第二の金属微粒子が前記
第一の高分子化合物と同種又は分散剤としての異種の第二の高分子化合物によって分散されている有機上膜を形成する段階と、
D)該有機上膜及び該有機下膜からなる金属微粒子を含有する有機薄膜を上側電極及び下側電極で挟んだ構造に作り上げる段階
とを含みてなる。
【0011】
図1に本発明の製造方法によって作製されるスイッチング素子1の実施形態を示す模式図を挙げる。スイッチング素子1は、基板上に下側電極2、有機下膜3、金属微粒子4、有機上膜5、上側電極6を積層した構造となっており、下側電極2及び上側電極6は、電気結線7及び8によってそれぞれ、電子制御ユニット9に接続されている。このうち、有機上膜5には金属微粒子10が分散されている。
【0012】
<A)段階>
まず、下側電極の上に、第一の高分子化合物を含有する有機下膜を形成する。
なお、下側電極の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、インクジェット法、印刷法、ゾルゲル法等が挙げることができ、更にそのパターニング方法としては、フォトリソグラフィー法、インクジェット法、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法、シャドーマスクを用いた蒸着法及びこれらの手法を複数組み合わせた方法が挙げることができる。
下側電極材料としては、Au、Pt、Ag、Al、Cu、Rh、Ir、In、Ni、Pd、As、Se、Te、Mo、W、Mg、Zn等の金属、Mg/Cu、Mg/Ag、Mg/Al、Mg/In等の合金、SnO2、InO2、ZnO、InO2・SnO2(ITO)、Sb2O5・SnO2(ATO)等の金属酸化物、導電性ポリアニリン、導電性ポリピロール、導電性ポリチオフェン等の導電性高分子、カーボン等が挙げられる。
【0013】
本発明において使用される第一の高分子化合物は、ジチオカルバメート基を有する高分子化合物からなり、ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwが500乃至5,000,000の範囲のものが使用される。好ましくは1,000乃至1,000,000の重量平均分子量を有し、より好ましくは2,000乃至500,000であり、特に好ましくは3,000乃至200,000である。また、第一の高分子化合物の分散度Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)としては1.0ないし7.0であり、好ましくは1.1ないし6.0であり、より好ましくは1.2ないし5.0である。
【0014】
上記第一の高分子化合物を含有する有機下膜を形成する方法としては、蒸着法又は溶液塗布法から適宜選択することができる。
溶液塗布法を選択した場合、第一の高分子化合物並びに所望によりその他の高分子化合物を、適当な溶媒に溶解して溶液の形態とし、該溶液を下側電極上に塗布し、アニーリングを行い、有機下膜を形成する。
【0015】
上記溶液塗布法の具体例としては、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、印刷法(凸版、凸版、平板、スクリーン印刷等)が挙げられ、中でも、単時間で塗布することができるために、揮発性の高い溶液であっても利用でき、また、均一性の高い塗布を行うことができ、且つ低コストであるという利点からスピンコート法を採用することが好ましい。
また溶液塗布法で用いられる溶媒としては、トルエン、キシレン、ジクロロベンゼン等の芳香族系溶媒、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒から選択して用いられる。
【0016】
また、その他の高分子化合物を用いる場合、ポリスチレン、ポリエステル類、ポリビニ
ルアルコール、ポリカーボネート、ポリアクリル酸メチル等のポリアクリル酸類、ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリル酸類、ポリオレフィン類、ポリアミド類、ポリイミド類、ポリウレタン類、ポリアセタール類、ポリシリコーン類、ポリビニルピリジン、下記式(4)で表されるハイパーブランチポリマー等の材料が適用可能であり、好ましくは、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルなどが用いられる。
【0017】
なお、第一の高分子化合物(及び所望によりその他の高分子化合物)を溶解した溶液の濃度は特に限定されないが、溶液の総質量に対して前記第一の高分子化合物(及び所望によりその他の高分子化合物)の総質量(合計質量)は好ましくは0.1乃至80質量%、より好ましくは1乃至50質量%である。
【0018】
こうして形成された有機下膜は、その後の金属微粒子の蒸着によって下側電極に損傷を与えないようにする保護膜としての役割を担うものである。
該有機下膜は、10nm以下の極薄膜であることが好ましい。
【0019】
<B)段階>
次に、<A)段階>で作製した該有機上膜の上に、第一の金属微粒子を蒸着する。
ここで用いられる第一の金属微粒子の金属種としては、Au、Pt、Ag、Al、Cu、Rh、Ir、In、Ni、Pd、As、Se、Te、Mo、W、Mg、Zn等が挙げられ、好ましくはAu、Ag、Pt及Cuが挙げられる。
また、該金属微粒子は、平均粒径が1乃至500nm、好ましくは1乃至100nm、
より好ましくは、1乃至10nmのものが使用できる。
【0020】
前記第一の金属微粒子は、前記金属のイオンを還元することにより得られる。金属イオンを還元する方法としては、例えば、高圧水銀灯により光照射する方法、還元作用を有する化合物(還元剤)を添加する方法等があるが、後者の方法、すなわち、金属塩を溶解した水溶液に還元剤を添加する方法が、特別な装置を必要とせず製造上有利である。
前記金属塩としては、塩化金酸、硝酸銀、硫酸銅、硝酸銅、塩化第一白金、Pt(dba)2[dba=ジベンジリデンアセトン]、Pt(cod)2[cod=1,5−シクロオクタジエン]、PtMe2(cod)、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジ
ウム、Pd(dba)2、塩化ロジウム、酢酸ロジウム、塩化ルテニウム、酢酸ルテニウ
ム、Ru(cod)(cot)[cot=シクロオクタトリエン]、塩化イリジウム、酢酸イリジウム、Ni(cod)2等が挙げられる。
上記還元剤としては、特に限定されるものではなく、通常使用される各種のものを使用することができ、含有させる金属種等により還元剤を選択することが好ましい。例えば、従来、還元剤として使用されている水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素アルカリ金属塩、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムカリウム、水素化アルミニウムセシウム、水素化アルミニウムベリリウム、水素化アルミニウムマグネシウム、水素化アルミニウムカルシウム等の水素化アルミニウム塩、ヒドラジン化合物、クエン酸又はその塩、コハク酸又はその塩、アスコルビン酸又はその塩等を使用することができる。
上記還元剤の添加量は、上記金属イオン1molに対して1乃至50molが好ましい。1mol未満であると、還元が充分に行われず、50molを超えると、対凝集安定性が低下する。より好ましくは、1.5乃至10molである。
なお、金属微粒子中に含まれるナトリウム、カリウム、カルシウムイオン等の不純物イオンは、より少ない方が素子の繰り返し再現性が向上するため望ましい。これらの不純物イオンは、水やアルコールなどの溶媒による再沈澱法や金属微粒子を水と相溶しない有機溶媒に溶解させ、水と分液させる方法、また、イオン交換樹脂を用いた方法などによって洗浄、除去することができる。
【0021】
上記第一の金属微粒子の有機上膜への蒸着は、好ましくはアークプラズマガンを用いて行われる。
アークプラズマガンとは真空アーク蒸着源の一種であり、アーク放電により電極材料を蒸発させる仕組みをもつ。円筒状のアノードの内側に円柱状のカソードを同軸上に配し、アノードとカソード間にパルス電圧を印加することでカソード材料をナノメーターサイズの微粒子として供することができる。パルス電圧によって微粒子の粒径が、パルス数によって粒子数を制御することができる。パルス電圧を100−300V、パルス数を10〜500回として得られる粒径1〜10nmのナノ粒子層を好適に使用できる。
【0022】
<C)段階>
続いて、第二の金属微粒子が分散剤としての第二の高分子化合物によって分散されている有機上膜を、蒸着された金属微粒子の上に形成する。
ここで用いられる第二の金属微粒子の金属種としては、<B)段階>で用いた第一の金属微粒子と同じ金属種が挙げられ、第一の金属微粒子として用いた金属種と同じ又は異なる金属種を用いることができる。
また、第二の高分子化合物としては、<A)段階>で用いたジチオカルバメート基を有する重量平均分子量が500〜5,000,000である高分子化合物を用いることができ、第一の高分子化合物と同種の又は異種の化合物を用いることができる。
【0023】
上記第二の金属微粒子が第二の高分子化合物によって分散されている有機上膜を、蒸着された金属微粒子の上に形成する方法としては、蒸着法又は溶液塗布法から適宜選択することができる。
溶液塗布法を選択した場合、例えば第二の高分子化合物で処理された第二の金属微粒子並びに所望によりその他の高分子化合物を溶媒に溶解(又は分散)して溶液(又は分散液)の形態とし、該溶液(又は分散液)を蒸着された金属微粒子の上に塗布し、アニーリングを行い、有機上膜を形成する。
【0024】
第二の高分子化合物で処理された第二の金属微粒子の溶液(又は分散液)は、第二の高分子化合物と金属塩を混合し、得られた混合物に還元剤を添加し、金属イオンを還元することによって得られる。
ここで使用する金属塩、還元剤は前記<B)段階>で挙げたものから適宜選択して使用できる。
第二の金属微粒子に対する第二の高分子化合物の配合割合は、上記第二の金属微粒子100質量部に対して50〜2000質量部が好ましい。50質量部未満であると、第二の金属微粒子の分散性が不充分であり、2000質量部を超えると、有機物含有量が多くなり、物性等に不具合が生じやすくなる。より好ましくは、100〜1000質量部である。
【0025】
また、ここで使用する溶液塗布法の具体例、使用する溶媒、所望により添加できるその他の高分子化合物、溶液(又は分散液)の濃度は、<A)段階>で挙げたものから適宜採用することができる。
【0026】
こうして形成された有機上膜において、第二の金属微粒子は第二の高分子化合物によって分散安定化され、平均粒径が10nm以下、例えばおよそ3.5nmの金属微粒子に対しての分散状態を作り出すことができる。
【0027】
<D)段階>
続いて、該有機上膜及び該有機下膜からなる金属微粒子を含有する有機薄膜を上側電極と下側電極で挟んだ構造に作り上げる。
具体的には、<C)段階>で形成した有機上膜の上に上側電極を形成する。ここで用い
る形成方法、上側電極材料としては、<A)段階>で下側電極の形成方法・電極材料として挙げたものから適宜選択できる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0029】
[合成例1:ジチオカルバメート含有高分子化合物で処理された金微粒子(HPS−Au)の製造]
下記式(4)で表される分岐状高分子(HPS)0.5gをテトラヒドロフラン(THF)200mlに溶解し、これに30mM塩化金酸水溶液6.7mLを加えた。次いで0.1M水素化ホウ素ナトリウム水溶液10mLを5分間程度かけて滴下した。滴下に伴って溶液は褐色へと変化した。30分間攪拌を行った後、THFを減圧により留去すると水に不溶の黒色の沈殿が析出した。これを濾過してイオン交換水で洗浄した後、THF20mlを加えて溶解させ、メタノールにより再沈殿を行った。得られた粉末を回収し、乾燥を行った。
誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP−AES)により組成物中のナトリウム及び金含有量を求めた結果、夫々、150ppm及び6.4wt%であった。また、イオンクロマトグラフィー[ダイオネックス社製 ICS−500]によって、塩素含有量を求めた
結果、63ppmであった。
【化3】

(上記式(4)中、Etはエチル基を表す。)
【0030】
[実施例1]
図1に示すようなスイッチング素子を以下の手順により作成した。
(1)ガラス洗浄
2cm×2cm程度にカットしたマイクロスライドガラス(岩城硝子(株)(現:AGCテクノグラス(株))を3%中性洗剤(ホワイト−7:ユーアイ化成(株))→イオン交換水→アセトン→エタノールの順で、それぞれ3回(5分・10分・15分間)ずつ超音波洗浄した。素子作成に使用する直前にエタノールによる煮沸洗浄、並びにUV−オゾン洗浄を20分行った。
(2)下側電極の形成
下部電極の形成は(株)アルバック製真空蒸着装置を用い、Al((株)ニラコ)を真空度4×10-4Pa以下、蒸着レート3〜4Å/分で70nm製膜した。また、蒸着源ボードにはフルウチ化学(株)製Wボートを使用した。
(3)有機下膜の形成
上記式(4)で表されるHPS 1.7wt%のジクロロベンゼン溶液を調製し、一晩攪拌した後、フィルタを通して4,500rpm、30秒の条件でスピンコートを行い、
その後、150℃、30分間アニール処理を行った。
(4)アークプラズマガンによる金微粒子の蒸着
ハイパーアークプラズマガンARL−300(アルバック(株)製)を用いて金微粒子を上記有機下膜の上部に蒸着した。製膜は真空度7.0×10-6Torr(9.3×10-4Pa)以下にて、パルス電圧100V、パルス間隔1回/秒、パルス回数20回で行った。
図2にアークプラズマガンにて蒸着した金微粒子のTEM画像(図2(a))と粒径分布(図2(b))を示す。これによると、平均粒径1.8nm、粒径の標準偏差は0.4nmと粒径のそろった金微粒子が蒸着できたことが確認された。
(5)有機上膜の形成
上記式(4)で表されるHPS 3wt%、合成例1で調製したHPS−Au 1wt%のジクロロベンゼン溶液を調製し、一晩攪拌した後、フィルタを通して3,000rpm、30秒の条件でスピンコートを行い、150℃、30分間アニール処理を行った。有機上膜を形成した後の素子の膜厚は120nm程度となった。
(6)上側電極の形成
上側電極の形成を下側電極の形成と同じ真空蒸着装置を用い、Al((株)ニラコ)を真空度4×10-4Pa以下、蒸着レート3〜4Å/secで70nm製膜した。また、蒸着源ボードにはフルウチ化学(株)製Wボートを使用した。
【0031】
[比較例1]
(4)アークプラズマガンによる金微粒子の蒸着を行わない以外は、実施例1と同じ手順にて比較例1のスイッチング素子を作製した。
【0032】
[電流密度対電圧(J−V)特性の測定]
実施例1において得られた素子のJ−V特性の測定は、Agilent E5260/E5270とGRAILシリーズ極低温プローバー(GRAIL−ENTRY)を用い、該素子を真空チャンバーに入れ、1pa以下に減圧して測定を行った。
ここで電圧操作は、図3に示すように、鋸歯状掃引(saw tooth−sweep、図3(a))及び三角波掃引(triangle−sweep、図3(b))の2種類の操作を行った。
図4に、実施例1の素子のJ−V特性を示す。
実施例1のスイッチング素子についてまず鋸歯状掃引を行うと、0.1〜3.0Vの低電圧領域において高抵抗状態(低導電状態、OFF状態)を示し、およそ3.0Vになると、急激に電流が流れ低抵抗状態(高導電状態、ON状態)を示した。このときの閾電圧(Vth)は2.75Vであった。さらに電圧を上げていくと電流値が低下するNDR(Negative differential resistance:負性微分抵抗)現象が見られた。鋸歯状掃引を行う限り、電流値はほぼ同じ挙動を示した。また、素子に対して初めて電圧操作を行ったとき、2回目以降よりもさらに低い電流値を示した。この素子に対する初めての電圧操作は「素子化」と呼ぶことができ、有機層内で初回と2回目以降とは異なる現象が起きている事が推測される結果となった。
実施例1のスイッチング素子について三角波掃引を行うと、0.0Vから10.0Vまでの電圧を上昇させる掃引時は鋸歯状掃引と同じ挙動を示し、10.0Vから0.0Vまでの電圧を下降させる電圧操作では、0.1〜3.0Vの低電圧領域においても低抵抗状態を維持し、すなわち、電流双安定特性を示した。
【0033】
[再現性の測定]
実施例1及び比較例1で作製したスイッチング素子の夫々について、10回連続でON/OFF切替を行い、電流値のばらつきを測定した。なお、また、ON/OFF状態を判別する「読込」操作は、1.8Vのときの電流値を読み取った。得られた結果を図5並びに表1に示す。
【表1】

【0034】
図5及び表1に示すように、ON電流に関して、比較例1の素子と比べて実施例1の素子の電流値のばらつきが小さいことが確認され、再現性に優れる素子であるとする結果が得られた。
【符号の説明】
【0035】
1・・・スイッチング素子
2・・・下側電極
3・・・有機下膜
4・・・金属微粒子
5・・・有機上膜
6・・・上側電極
7、8・・・電気結線
9・・・電子制御ユニット
10・・・金属微粒子
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【特許文献1】特表2004−513513号公報
【特許文献2】特開2005−101594号公報
【特許文献3】特開2004−200569号公報
【非特許文献】
【0037】
【非特許文献1】PROCEEDINGS OF THE IEEE,93,7(2005)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属微粒子を含有する有機薄膜を2つの電極で挟んだ構造のスイッチング素子を製造する方法において、
A)下側電極の上に、第一の高分子化合物を含有する有機下膜を形成する段階と、
B)該有機下膜の上に、第一の金属微粒子を蒸着する段階と、
C)続いて、その上に、前記第一の金属微粒子と同じ又は異なる第二の金属微粒子が前記第一の高分子化合物と同種又は異種の分散剤としての第二の高分子化合物によって分散されている有機上膜を形成する段階と、
D)該有機上膜及び該有機下膜からなる金属微粒子を含有する有機薄膜を上側電極及び下側電極で挟んだ構造に作り上げる段階とを含み、
前記第一の高分子化合物及び第二の高分子化合物は、ジチオカルバメート基を有する重量平均分子量が500〜5,000,000である高分子化合物である、
有機スイッチング素子の製造方法。
【請求項2】
前記B)の蒸着段階は、アークプラズマガンを用いて行われる、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記A)段階で形成される有機下膜は、厚さ10nm以下の極薄膜である、請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
前記上側電極及び下側電極は、導電性金属の蒸着膜である、請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
前記第一の金属微粒子及び第二の金属微粒子は、金、銀、白金、銅、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム及びイリジウムよりなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第一の金属微粒子及び第二の金属微粒子は、平均粒径が1nm以上500nm以下の金属微粒子である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第一の高分子化合物及び第二の高分子化合物は、分岐状高分子化合物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第一の高分子化合物及び第二の高分子化合物は、式(1)で表される分岐状高分子化合物である、請求項1に記載の製造方法。
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2及びR3は、それぞれ、炭素原子数1乃
至5のアルキル基、炭素原子数1乃至5のヒドロキシアルキル基又は炭素原子数7乃至12のアリールアルキル基を表し、又は、R2とR3は互いに結合し、窒素原子と共に環を形成していてもよい。A1は式(2)又は式(3):
【化2】

(式中、A2はエーテル結合又はエステル結合を含んでいても良い炭素原子数1乃至30
の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、Y1、Y2、Y3又はY4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至20のアルキル基、炭素原子数1乃至20のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基又はシアノ基を表す。)を表し、nは繰り返し単位構造の数であって2乃至100,000の整数を表す。)

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−181758(P2011−181758A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45603(P2010−45603)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】