説明

有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法

【課題】機器内に残留する有機ハロゲン化合物を、ダイオキシン類を副生することなく、また、機器等を解体することなく無害化処理することができ、しかも、有機ハロゲン化合物の残留濃度を高精度に予測することが可能な、有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法を提供する。
【解決手段】有機ハロゲン化合物を含む絶縁油を内蔵する機器内に、水素供与体とアルカリ化合物の混合溶液を充填し、該機器内に残留する有機ハロゲン化合物を混合溶液に溶出させた処理液を触媒充填装置に流通させながら、断続的にマイクロ波を照射し、該処理液を機器に循環させることで有機ハロゲン化合物を溶出分解する。マイクロ波照射を停止した直後と再度開始する直前の有機ハロゲン化合物濃度の測定から、有機ハロゲン化合物の溶出速度を算出し、該溶出速度が所定の基準値以下に保たれ、かつ減少していくことを確認しながら洗浄を実施する。洗浄工程終了後に処理液を抜き出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ハロゲン化合物を含む絶縁油を内蔵する機器(変圧器、油絶縁ケーブルの油槽等)を解体前に無害化処理する方法に関し、詳細には、高濃度のPCBを含有する絶縁油を内蔵する機器を解体前に無害化処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種有機ハロゲン化合物のなかでも、ポリ塩化ビフェニール(以下PCBと略称する。)は人体を含む生体に極めて有害であることから、1973年に特定化学物質に指定され、その製造、輸入、使用が禁止されている。しかし、その後適切な廃棄方法が決まらないまま数万トンのPCBが未処理の状態で放置されている。PCBは、高温(30〜750℃)分解では強毒性のダイオキシン類である塩素化ジベンゾ−p−ダイオキシン(PCDD)とジベンゾフラン(PCDF)が副生するため、PCBを安全に分解することは技術的に難しく、永年にわたりPCBの安全で効率的な各種分解法が検討されてきた。
【0003】
変圧器、油絶縁ケーブルの油槽、コンデンサ、蛍光灯用安定器などの場合、有機ハロゲン化合物を含む絶縁油を抜き出した後も機器内には絶縁油が残ってしまうため、有機ハロゲン化合物が残留する。特に、大型機器の場合には無害化処理の実施場所まで移動させること自体が困難であり、また、複雑な内部構造を有する機器の場合、有機ハロゲン化合物が残留する機器を解体することで発生する絶縁紙や木片などの部材に染み込んだ有機ハロゲン化合物を抽出除去しなければならない。したがって、機器を移動させずに現場での処理が可能で、しかも作業の安全性に優れ、経済的かつ簡便に機器を無害化するために、機器を解体することなく無害化する技術が求められていた。
【0004】
特許文献1には、機器内に充填されていた、PCBを含有する絶縁油を抜き出した後、再生絶縁油で粗洗浄する工程と、仕上げ洗浄液で洗浄する工程と、洗浄液を金属ナトリウムで脱塩素化する工程を有する無害化方法が提案されている。しかし、この方法では、機器から抜き出した絶縁油、粗洗浄で使用した再生絶縁油ならびに仕上げ洗浄液の大量の廃液を処理する工程が必要になるという問題点がある。
【0005】
特許文献2には、有機ハロゲン化合物を含有する静止誘導機を水及び酸化剤とともに圧力容器中に設置し、加圧及び加熱により圧力容器中の水を超臨界状態にして、有機ハロゲン化合物を分解する無害化方法が提案されている。しかし、この方法は高温(430℃)及び高圧(25MPa)で反応させるため、装置が大掛かりになり設置場所が制限されるとともに、経済性に劣る問題点がある。
【0006】
特許文献3には、PCBを含有する絶縁油を抜き出した後の機器内に、イソプロピルアルコールとKOHの混合溶液を充填してPCBを溶出させ、該混合液(以下、処理液という。)を、断続的にマイクロ波を照射して触媒を加熱する構造の触媒充填装置に流通させ、機器と触媒充填装置間を循環させることにより機器及びその内部の付属部材に残留するPCBが卒業基準を満たすまで溶出分解する、PCB内蔵機器の無害化処理方法が記載されている。即ち、容器を解体することなく、機器から抜き取れなかった絶縁油中のPCBと、機器内部の部材中に残留するPCBを、一括して無害化処理している。
【0007】
特許文献3記載の方法では、処理液中のPCBの分解反応の進行状況の確認は、処理液を機器と触媒充填装置間を循環させた状態で、マイクロ波の照射を停止し、適宜処理液中のPCB濃度をモニタリングすることで、実施している。
【0008】
しかしながら、マイクロ波が照射されていればPCBが分解するので処理液中のPCB濃度は時間と共に低下していくが、マイクロ波の照射を停止すると、PCBの分解が進行しなくなるため、機器内から新たに処理液中にPCBが溶出するにつれ、処理液中のPCB濃度は増加する傾向がある。そのため、特許文献3の方法では、分解の進捗状況を正確に把握し、機器及びその内部の付属部材中に残留するPCBの濃度が卒業基準を満たしたか否かを的確に判断するためには、PCB濃度のモニタリング方法に課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−008842号公報
【特許文献2】特開2000−116814号公報
【特許文献3】特開2009−011848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、抜油後の変圧器や油絶縁ケーブルの油槽等の機器内に残留する絶縁油に含まれている有機ハロゲン化合物を、有害なダイオキシン類を副生することなく、かつ機器及びその内部部材を解体することなく無害化処理することができ、しかも、有機ハロゲン化合物の残留濃度を高精度に予測することが可能な、有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、マイクロ波照射停止中に、機器及びその内部の付属部材に残留する有機ハロゲン化合物が処理液中へ溶出する溶出速度を求め、この溶出速度が所定の基準値以下に保たれ、かつ減少していくことを確認しながら、有機ハロゲン化合物の分解反応の進行状況を確認することにより、有機ハロゲン化合物を含む絶縁油を内蔵する機器の無害化処理を効率よく実施できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0013】
(1)有機ハロゲン化合物を含む絶縁油を内蔵する機器内に、
水素供与体とアルカリ化合物の混合溶液を充填する充填工程と、
該機器及びその内部の付属部材に残留する有機ハロゲン化合物を前記混合溶液に溶出させた処理液を触媒充填装置に流通させながら、該触媒充填装置内の処理液へ断続的にマイクロ波を照射して有機ハロゲン化合物を分解し、該処理液を機器と触媒充填装置間を循環させることにより機器及びその内部の付属部材に残留する有機ハロゲン化合物が卒業基準を満たすまで溶出分解を実施する洗浄工程と、を有し、
該洗浄工程において、マイクロ波照射を停止した直後及び再度開始する直前に、処理液を機器と触媒充填装置間を循環させた状態で、処理液中の有機ハロゲン化合物濃度を測定し、
該測定結果から、前記混合溶液への、前記機器及びその内部の付属部材に残留する有機ハロゲン化合物の溶出速度を算出し、
該溶出速度が所定の基準値以下に保たれ、かつ減少していくことを確認しながら、有機ハロゲン化合物の分解反応の進行状況を確認し、
洗浄工程終了後に処理液を抜き出すことを特徴とする有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。
【0014】
(2)前記充填工程の後に、機器に残留する有機ハロゲン化合物を、前記混合溶液に溶出させる処理液調製工程を有することを特徴とする、前記(1)に記載の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。
【0015】
(3)前記洗浄工程における処理液温度が常温以上60℃以下であることを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。
【0016】
(4)前記機器が、柱上変圧器、大型変圧器又は油絶縁ケーブルの油槽のいずれかであることを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。
【0017】
(5)前記機器及びその内部の付属部材の材料が、鉄、銅、碍子、紙又は木であることを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。
【0018】
(6)前記有機ハロゲン化合物を含む絶縁油が、有機ハロゲン化合物からなる絶縁油であることを特徴とする、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。
【0019】
(7)前記有機ハロゲン化合物がPCBであることを特徴とする、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。
【0020】
(8)前記水素供与体が、複素環式化合物、アミン系化合物、アルコール系化合物、ケトン系化合物及び脂環式化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物であることを特徴とする、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。
【0021】
(9)前記アルカリ化合物が、苛性ソーダ、苛性カリ、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド及び水酸化カルシウムからなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物であることを特徴とする、前記(1)〜(8)のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。
【0022】
(10)前記触媒が、炭素結晶化合物、金属担持炭素化合物、金属担持酸化物及び金属担持複合酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物であることを特徴とする、前記(1)〜(9)のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法によれば、機器に残留する有機ハロゲン化合物濃度を高精度に予測することが可能となるため、有機ハロゲン化合物が、その内壁や付属部材に付着或いは染み込んでいる機器を、効率よく洗浄することができると共に、当該機器を解体することなく無害化処理できる。濃度測定時期を、マイクロ波照射を停止した直後及び再度開始する直前に限定しているので、測定を標準化できる。
【0024】
また、処理時に有害なダイオキシン類が副生しないので安全であり、さらに、常圧下でも実施できるので、移動が困難な大型機器であっても、工場や変圧器貯蔵所などの現場で無害化処理することができるので、実用的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の無害化処理方法を説明するフロー図である。
【図2】本発明の無害化処理方法の一実施形態を示す概略図である。
【図3】マイクロ波照射が、PCB分解処理時間とPCB濃度に及ぼす影響を説明したグラフである。
【図4】PCB分解処理時間とPCB溶出速度の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態である、有機ハロゲン化合物を含む絶縁油を内蔵する機器の無害化処理方法を説明するフロー図である。
【0028】
本発明で言う、「有機ハロゲン化合物を含む絶縁油を内蔵する機器」とは、機器内に充填されていた絶縁油が、開口部などを通して抜き取られた機器であって、当該絶縁油抜き取り後の機器内部(機器本体及びその内部の付属部材)に、有機ハロゲン化合物を含む絶縁油が残留している機器を言う。なお、絶縁油の抜き取り方法は、開口部から流下させる方法、ポンプ等により吸い出す方法など、任意である。
【0029】
図1に示した無害化処理フローでは、先ず充填工程において、有機ハロゲン化合物を含む絶縁油が抜き取られた機器内に、水素供与体とアルカリ化合物の混合溶液を充填する。次に、洗浄工程を実施する。この洗浄工程では、機器本体及び機器内部に存在する付属部材(コイル、絶縁紙等)に残留する有機ハロゲン化合物を、混合溶液に溶出させて、処理液を調製する。この処理液を、別途設置する触媒充填装置に流通させながら、該触媒充填装置内の処理液へマイクロ波を照射して、有機ハロゲン化合物を分解する。該処理液を機器と触媒充填装置間を循環させることにより、機器本体及び内部の付属部材に残留する有機ハロゲン化合物が卒業基準を満たすまで溶出分解を実施する。有機ハロゲン化合物の分解を促進するために、触媒充填装置内の処理液にマイクロ波を断続的に照射する。
【0030】
本発明の無害化処理方法が適用可能な機器としては、例えば、変圧器(柱上、大型)、油絶縁ケーブルの油槽等が挙げられる。特に、機器内部に細部に入り組んだ種々の付属部材が存在し、かつその付属部材の素材である紙や木等に有機ハロゲン化合物が染み込んでいる可能性がある、柱上変圧器及び大型変圧器の処理に適用するのが好ましい。ここで、大型変圧器とは、絶縁油容量が100L〜30万Lのものを言う。
【0031】
本発明において、有機ハロゲン化合物を含む絶縁油としては、有機ハロゲン化合物を含む鉱油等をベースにした絶縁油、有機ハロゲン化合物/芳香族炭化水素からなる絶縁油、有機ハロゲン化合物からなる絶縁油などが挙げられる。これらの有機ハロゲン化合物としては、PCB、ダイオキシン類等があり、絶縁油の種類は特に限定されない。
【0032】
PCB市販品としては、例えば、鐘淵化学(株)のKC−200(主成分:2塩化ビフェニール)、KC−300(主成分:3塩化ビフェニール)、KC−400(主成分:4塩化ビフェニール)、KC−500(主成分:5塩化ビフェニール)、KC−600(主成分:6塩化ビフェニール)や、三菱モンサイト(株)のアロクロール1254(54% Chlorine)等を挙げることができる。
【0033】
次に、本発明の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法を、工程ごとに順に説明する。
【0034】
[充填工程]
充填工程では、機器に水素供与体とアルカリ化合物の混合溶液を充填する。図2は、本発明の無害化処理方法の一実施形態を示す概略図であり、充填工程と併せて、有機ハロゲン化合物を混合溶液に溶出させた処理液を、機器と触媒充填装置間を循環させながら、触媒充填装置内の処理液へマイクロ波を照射し、機器及びその内部の付属部材に残留する有機ハロゲン化合物を溶出分解する洗浄工程を説明した図である。図2において、1は有機ハロゲン化合物を含有する絶縁油を内蔵する機器、2は処理液、3は機器内部の付属部材、10はマイクロ波照射装置、15は触媒充填装置である。
【0035】
本発明において用いる「水素供与体」としては、複素環式化合物、アミン系化合物、アルコール系化合物、ケトン系化合物、脂環式化合物等が挙げられる。これらの化合物の中でも、安全性の観点より、アルコール系化合物、ケトン系化合物、脂環式化合物が好ましく、特に、安全性が高く、低コストで入手可能であり、しかも反応制御が容易で、有機ハロゲン化合物分解効率が高い点より、アルコール系化合物が好ましい。これらの水素供与体は、単独で用いても2種以上を任意に組合せて用いてもよい。
【0036】
上記したアルコール系化合物としては、脂肪族アルコール、芳香族アルコールのいずれであってもよく、具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール等の脂肪族アルコール、シクロプロピルアルコール、シクロブチルアルコール、シクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、シクロヘプチルアルコール、シクロオクチルアルコール等の脂環式アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、デカリンジオール等の多価アルコール等が挙げられる。これらの中でも、分解効率の点から2−プロパノール、シクロヘキサノールが好ましく、2−プロパノールが特に好ましい。
【0037】
また、アルカリ化合物としては、有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化反応を促進しうるものであれば限定されないが、脱ハロゲン化効率を高める観点より、苛性ソーダ、苛性カリ、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド、水酸化カルシウム等が好ましく用いられる。中でも、コストやハンドリング性の観点より、苛性ソーダ、苛性カリが特に好ましい。アルカリ化合物は、単独で用いても2種以上を任意に組合せて用いてもよい。アルカリ化合物は有機ハロゲン化合物に対し、1.0〜1.5倍当量以上用いればよい。
【0038】
混合溶液における水素供与体とアルカリ化合物の割合は任意であるが、アルカリ化合物濃度が低すぎると有機ハロゲン化合物の分解が進みにくくなり、高すぎても分解速度が平衡に達して経済性が悪くなる。そのため、水素供与体とアルカリ化合物の合計質量に対するアルカリ化合物の濃度が、0.1〜20質量%となる範囲で選択するのが好ましい。水素供与体とアルカリ化合物の混合溶液は、あらかじめ、アルカリ化合物を水素供与体に溶解させたものを使用することが好ましい。
【0039】
[処理液調製工程]
混合溶液の充填を開始すると、該混合溶液には、機器本体及び機器内部に存在する付属部材に残留する有機ハロゲン化合物が徐々に溶出されてくる。残留するPCBを前記混合溶液にある程度溶出させて処理液を調製し、この処理液を、次の洗浄工程に供給する。混合溶液の充填が終了するまでの間に処理液を調製することも可能であるが、充填終了後、混合溶液を充填した状態で所定時間放置しておくことが、残留PCBの溶出を促すことができるので好ましい。処理液調製の所要時間は、拡散シミュレーションによって求めてもよい。処理液調製に要する時間は、短い方が無害化処理時間の短縮という点からは好ましいが、通常、一昼夜ないし数週間浸漬させることにより、機器細部のコイル等に入り込んでいるPCBを混合溶液中に溶出させる。処理液の液温は特に限定されないが、60℃以下とすることが好ましい。
【0040】
機器内に残留する有機ハロゲン化合物を、水素供与体とアルカリ化合物の混合溶液へ溶出させるために、振とうによる外部からの攪拌、攪拌子による内部からの攪拌、超音波によるミクロ的な攪拌など、溶出を促進させる公知の方法を用いてもよい。振とうによる外部からの攪拌としては、例えば、柱上変圧器などの容器を、振動式攪拌機、振動台、振とう機等を用いて加振する方法(例えば、垂直及び/又は水平方向へ平行振動させる方法、回旋振動させる方法など)などが挙げられる。攪拌子による内部からの攪拌としては、例えば、攪拌羽根やマグネチックスターラー等の攪拌子を用いて処理液を攪拌する方法などが挙げられる。攪拌する場合は、連続攪拌、間欠攪拌のいずれの方法を採用してもよい。
【0041】
[洗浄工程]
洗浄工程では、図2に示したように、調製された処理液2を、ポンプ11によりマイクロ波装置10内に設置された触媒充填装置15へ供給する。機器には、処理液2を、ポンプ11を介して触媒充填装置15に供給するための供給ライン12、及び、触媒充填装置から回収する回収ライン13が備えられている。これにより、機器内の処理液を触媒充填装置15に供給し、処理液中の有機ハロゲン化合物を触媒と接触させた後、処理液を機器1に循環させることができる。かくして、処理液が触媒と接触することにより、処理液中の有機ハロゲン化合物が分解することで、有機ハロゲン化合物の分解反応が進行する。
【0042】
図2に示す触媒充填装置15には、図示を省略しているが、有機ハロゲン化合物を分解するために、後述する触媒が充填された触媒充填層が形成されている。処理液2は、図中の矢印で示すようにポンプ11、供給ライン12を介して触媒充填装置15に導入され、触媒充填層を流通した後、回収ライン13により機器本体1内へ戻されることで、循環される。
【0043】
処理液2が触媒充填装置15を流通する際には、マイクロ波装置10から、処理液2にマイクロ波を断続的に照射する。マイクロ波を断続的に照射するのは、連続的な照射によって処理液の温度が上昇するのを回避すると共に、運転の安全性を確保するためである。照射するマイクロ波の出力、周波数は、設定する洗浄条件に応じて適宜決定することができるが、周波数1〜300GHzのマイクロ波を電気的に制御しながら10W〜20kWの範囲で照射するのが好ましい。
【0044】
洗浄工程における処理液の液温、即ち、処理液を循環する際の処理液の液温は、常温以上、60℃以下が好ましく、常温未満ではPCBの分解が遅いため処理時間が長くなり、60℃を超えると副生物が生成しやすくなる。
【0045】
本発明において触媒充填装置に充填する触媒としては、有機ハロゲン化合物(特に、PCB)の脱ハロゲン化反応を促進しうるものであれば限定されないが、無機系触媒は触媒寿命が長く、かつ、アルカリ化合物存在下でも安定であるため、好ましい。無機系触媒としては、脱ハロゲン化効率を高める観点より、複合金属酸化物、炭素結晶化合物、金属担持炭素化合物、金属担持酸化物、金属担持複合金属酸化物及び金属酸化物等が好ましく用いられる。中でも、アルカリ性雰囲気で安定性が高い点より、炭素結晶化合物、金属担持炭素化合物、金属担持酸化物及び金属担持複合酸化物が好ましく、特に金属担持炭素化合物が好ましい。これらの触媒は、単独で又は2種以上を任意に組合せて用いることができる。また、使用後の再生触媒を使用してもよい。
【0046】
上記の金属担持炭素化合物としては、金属を担持した炭素化合物であればよく、その金属担持量は、触媒全量に対して0.1〜20質量%、より好ましくは0.1〜10質量%である。担持される金属としては、例えば、鉄、銀、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム等が挙げられ、脱ハロゲン化効率を高める観点からは、パラジウム、ルテニウム、白金が好ましい。金属担持炭素化合物の具体例としては、例えば、Pd/C(パラジウム担持炭素化合物)、Ru/C(ルテニウム担持炭素化合物)、Pt/C(白金担持炭素化合物)等が挙げられる。
【0047】
触媒の形状は特に限定されないが、粒状の場合はカラムの上下をメッシュ等で固定する必要があり、触媒粒子径は75μm〜10mmが好ましい。10mmを超える場合は比表面積が不足し、75μm未満の場合はメッシュが詰まり差圧が高くなる。触媒粒子は、できるだけ粒子径のそろったものがよい。
【0048】
(処理液中の有機ハロゲン化合物の濃度測定)
洗浄工程においては、マイクロ波照射を停止した直後及び再度開始する直前に、処理液を機器と触媒充填装置間を循環させた状態で、適宜処理液中の有機ハロゲン化合物濃度を測定する。濃度測定用の処理液は、容器1出口からマイクロ波装置10手前の位置(図2のライン12)からサンプリングすることが、マイクロ波停止中の溶出による有機ハロゲン化合物濃度の上昇を的確に確認出来る点より、好ましい。
【0049】
なお、処理液中の有機ハロゲン化合物濃度は、GC−MSなどの公知の方法にて測定できる。
【0050】
図3は、洗浄工程における、処理液中のPCB濃度と処理時間との関係を示したグラフである。図3の実線を付した部分はマイクロ波を照射した時間帯であり、それ以外の時間帯はマイクロ波照射を停止している。図3からわかるとおり、マイクロ波照射中は、処理液中のPCB濃度は時間と共に低下するが、マイクロ波照射停止中は、処理液中のPCB濃度は時間と共に増加する傾向がある。
【0051】
(有機ハロゲン化合物の溶出速度)
有機ハロゲン化合物の溶出速度は、マイクロ波照射を停止した直後(時間:P1)と、再度開始する直前(時間:P2)に、処理液中の有機ハロゲン化合物濃度(C1、C2)を測定することにより、求めることができる。この間はマイクロ波照射を停止しており、有機ハロゲン化合物の分解よりも溶出が優先して起こるために、有機ハロゲン化合物の溶出量がわかれば、機器内部に残留する有機ハロゲン化合物の量を間接的に推定することが可能になるからである。また、処理液は循環されているため、処理液中の有機ハロゲン化合物の濃度分布も僅かである。
【0052】
マイクロ波照射を停止した時間(P2とP1の差で求められる)と、P1で求めた有機ハロゲン化合物濃度とP2で求めた有機ハロゲン化合物濃度の差と、を用いて、次式により、有機ハロゲン化合物の処理液中への溶出速度(V)を算出する。
溶出速度(V)=(C2−C1)/(P2−P1)
【0053】
(分解反応の進行状況の確認)
上記の溶出速度の算出をマイクロ波の照射と停止を繰り返す度に実施する。図4は、上記の式を用いて算出した有機ハロゲン化合物(PCB)の溶出速度と分解処理時間との関係を示したグラフである。処理時間が増加するに従い、有機ハロゲン化合物の溶出・分解が繰り返されることで、機器内に残留する有機ハロゲン化合物は減少する。そのため、有機ハロゲン化合物の溶出速度は、処理時間と共に低下する。この溶出速度が、所定の基準値以下に保たれていれば、機器内に残留する有機ハロゲン化合物が一定量以下になったことを示している。また、溶出速度が減少していくことを確認しながら、有機ハロゲン化合物の分解反応の進行状況を確認することで、機器内に残留する有機ハロゲン化合物の量が経時的に減少していくことがわかり、進行状況の把握の精度を上げることができる。イレギュラーにサンプリングした場合、たまたまPCB濃度が低い値を示すこともあり得るので、判定ミスが起きる恐れがあるが、本発明の方法では進行状況を把握することでこの判断ミスを回避している。
【0054】
以上のように、有機ハロゲン化合物の溶出速度が、所定の基準値以下に保たれ、かつ減少していくことを確認しながら、有機ハロゲン化合物の分解反応の進行状況を確認することにより、機器内に残留する有機ハロゲン化合物の量を間接的に把握することが可能になる。
【0055】
そして、有機ハロゲン化合物の溶出速度が、所定の基準値以下に保たれ、かつ減少していくことを確認した後は、機器及びその内部の付属部材に残留する有機ハロゲン化合物が所定の卒業基準値を満たしているものと推定し、洗浄工程を終了する。一方、有機ハロゲン化合物濃度の溶出速度が、所定の基準値を超える場合は、洗浄工程を継続する。
【0056】
洗浄工程終了後は、機器から処理液を抜き出し、機器を解体する。解体後の機器は、鉄製の機器本体、鉄製のコイル、銅、絶縁紙等の紙、木等に分別し、それぞれ卒業基準を満たしているか定められた方法により分析して最終確認をした後、リサイクルする。なお、卒業基準を満たしていない場合は、対象の部材のみを洗浄工程にもどして再度処理を行えばよい。
【0057】
以上説明したように、本発明の無害化処理方法によれば、機器本体に付着した有機ハロゲン化合物や付属部材に残留する有機ハロゲン化合物が、洗浄工程において溶出分解される状況を、処理液の分析により把握出来るため、反応途中で機器の解体や、部材に残留する有機ハロゲン化合物濃度の分析を行うことなく、反応を終了させることができる。洗浄工程終了後に機器を解体処理する際には、高い確率で既に機器及びその内部の付属部材が無害化処理済みであるため、作業時の安全性が確保される。
【0058】
なお、これまでの説明では、有機ハロゲン化合物の溶出速度から洗浄工程の終了を判断するが、さらに処理液中の有機ハロゲン化合物濃度も考慮して洗浄工程の終了を判断してもよい。有機ハロゲン化合物濃度の変化量からなる溶出速度に加えて、有機ハロゲン化合物濃度の絶対量も考慮してダブルチェックすることで、機器に残留する有機ハロゲン化合物濃度をさらに高精度に予測することが可能となり、正確に洗浄工程の終了を判断できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の無害化処理方法は、柱上変圧器、大型変圧器、油絶縁ケーブルの油槽の他、蛍光灯安定器等の有機ハロゲン化合物を含む絶縁油を内蔵する機器に幅広く適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 機器本体
2 処理液
3 コイル(鉄心)
4 混合溶液
10 マイクロ波装置
11 ポンプ
12 供給ライン
13 回収ライン
15 触媒充填装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ハロゲン化合物を含む絶縁油を内蔵する機器内に、
水素供与体とアルカリ化合物の混合溶液を充填する充填工程と、
該機器及びその内部の付属部材に残留する有機ハロゲン化合物を前記混合溶液に溶出させた処理液を触媒充填装置に流通させながら、該触媒充填装置内の処理液へ断続的にマイクロ波を照射して有機ハロゲン化合物を分解し、該処理液を機器と触媒充填装置間を循環させることにより機器及びその内部の付属部材に残留する有機ハロゲン化合物が卒業基準を満たすまで溶出分解を実施する洗浄工程と、を有し、
該洗浄工程において、マイクロ波照射を停止した直後及び再度開始する直前に、処理液を機器と触媒充填装置間を循環させた状態で、処理液中の有機ハロゲン化合物濃度を測定し、
該測定結果から、前記混合溶液への、前記機器及びその内部の付属部材に残留する有機ハロゲン化合物の溶出速度を算出し、
該溶出速度が所定の基準値以下に保たれ、かつ減少していくことを確認しながら、有機ハロゲン化合物の分解反応の進行状況を確認し、
洗浄工程終了後に処理液を抜き出すことを特徴とする有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。
【請求項2】
前記充填工程の後に、機器に残留する有機ハロゲン化合物を、前記混合溶液に溶出させる処理液調製工程を有することを特徴とする、請求項1に記載の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。
【請求項3】
前記洗浄工程における処理液温度が常温以上60℃以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。
【請求項4】
前記機器が、柱上変圧器、大型変圧器又は油絶縁ケーブルの油槽のいずれかであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。
【請求項5】
前記機器及びその内部の付属部材の材料が、鉄、銅、碍子、紙又は木であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。
【請求項6】
前記有機ハロゲン化合物を含む絶縁油が、有機ハロゲン化合物からなる絶縁油であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。
【請求項7】
前記有機ハロゲン化合物がPCBであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。
【請求項8】
前記水素供与体が、複素環式化合物、アミン系化合物、アルコール系化合物、ケトン系化合物及び脂環式化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。
【請求項9】
前記アルカリ化合物が、苛性ソーダ、苛性カリ、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド及び水酸化カルシウムからなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。
【請求項10】
前記触媒が、炭素結晶化合物、金属担持炭素化合物、金属担持酸化物及び金属担持複合酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−227390(P2010−227390A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79922(P2009−79922)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】