説明

有機フッ素化合物の合成方法

【課題】TFE等の含フッ素オレフィンのsp2混成炭素原子に結合したフッ素原子を、簡便かつ安全に他の原子又は原子団で置換することができる製造方法を提供する。
【解決手段】有機パラジウム錯体又は有機ニッケル錯体の存在下に、含フッ素オレフィン中のsp2混成炭素原子に結合したフッ素原子を、他の原子又は原子団で置換する、有機フッ素化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機パラジウム錯体又は有機ニッケル錯体を触媒として用い、含フッ素オレフィンのC−F結合を選択的に置換することによる、有機フッ素化合物の合成法に関する。さらに詳しくは、新規含フッ素オレフィン化合物の合成法に関する。
【背景技術】
【0002】
置換基を有する含フッ素オレフィンの製造方法として、
方法1:CF=CFX(X:フッ素原子以外)のC−X結合を、ブチルリチウム等の強塩基性の有機金属試薬により、炭素−金属結合に置換してから(非特許文献1)、又はここで得られた金属試薬からさらにSn(非特許文献2)、Si(非特許文献3)等の金属試薬に再変換してから、C−C結合生成反応を行う方法
方法2:テトラフルオロエチレン(TFE)のフッ素原子1つを選択的に置換する方法として、アルキルリチウム試薬(非特許文献4)及びアルキルマグネシウム試薬(非特許文献5)における、付加脱離反応(それぞれ以下の式1)及び2))
1)PhLi+CF=CF→PhCF=CF(Ph:フェニル基)
2)PhMgBr+CF=CF→PhCF=CF(Ph:フェニル基)
方法3:HFC134a(CFCFH)から、アルキルリチウムによる脱離反応による含フッ素ビニルリチウムの発生とそのカップリング反応(非特許文献6)
等が知られている。
【0003】
しかしながら、方法1では、(1)原料のCF=CFXの入手が比較的困難又は高価であり、(2)第一段階に発生する含フッ素有機リチウム試薬が非常に不安定であるため、反応が−100℃程度の冷却下において実施する必要がある。
【0004】
また、方法2では、有機リチウム、有機マグネシウム以外の緩和な求核試薬による置換反応は知られていないので、構造の複雑な系へのトリフルオロエチレン単位の導入は困難である。
【0005】
さらに、方法3では、高価なアルキルリチウムを過剰量用いるだけでなく、先に挙げた試薬の不安定性から、反応温度のコントロールが困難である。
【0006】
このような既存手法に対し、工業的に入手が容易なテトラフルオロエチレン(TFE)やヘキサフルオロプロペン(HFP)等を原料とし、この分子内のC−F結合の、遷移金属等を用いた触媒存在下での置換反応が、理想的な含フッ素オレフィンの合成方法として望まれている。
【0007】
しかしながら、含フッ素化合物のC−F結合の結合エネルギーは、他の結合に比較して非常に高いことと、フッ素原子が非常に小さくハードであることから、C−F結合の解裂及びこの結合への金属の酸化的付加反応は起こり難く、遷移金属による含フッ素オレフィンの置換反応例は非常に限られており、さらには、これを触媒的に達成できた例は知られていない。
【0008】
以下に、含フッ素オレフィンのC−F結合への金属の酸化的付加による含フッ素金属錯体の発生と、得られた金属錯体の反応例を挙げる。
【0009】
1)テトラフルオロエチレン−ニッケル錯体にLewis酸(BF3)を作用させることによる、1つのC−F結合の置換反応(非特許文献7)
【0010】
【化1】

【0011】
2)Rh−ヘキサフルオロブタジエン錯体の加水分解(非特許文献8)
【0012】
【化2】

【0013】
3)ペンタフルオロプロペン−Ir錯体におけるIrのC−F結合への酸化的付加による、ビニル−Ir錯体への変換(非特許文献9)。
【0014】
【化3】

【0015】
4)テトラフルオロエチレン−Rh錯体の加水分解(非特許文献10)
【0016】
【化4】

【0017】
5)テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン又はヘキサフルオロプロペン−Pt錯体(0)のLewis酸共存下でC−F結合へのPtの酸化的付加が進行して、トリフルオロビニル錯体(II)及びその類縁体の生成(非特許文献11、12)。
【0018】
【化5】

【0019】
6)テトラフルオロエチレン−Pt(II)錯体からHF脱離による、トリフルオロビニル錯体の生成(非特許文献13)
【0020】
【化6】

【0021】
7)テトラフルオロエチレン−Ru二核錯体から、分子内脱HF−CC結合反応(非特許文献14)
【0022】
【化7】

【0023】
8)ジフルオロエチレン−ジルコニウム錯体から、分子内脱フッ素CC結合生成(非特許文献15)
【0024】
【化8】

【0025】
9)ヘキサフルオロプロペンのC−F結合へのロジウム錯体の酸化的付加と、得られた付加体の還元(非特許文献16)
【0026】
【化9】

【0027】
10)ルテニウム錯体によるヘキサフルオロプロペンの脱フッ素還元(非特許文献17)
Ru (dmpe)2H2+ CF2=CFCF3 → CFH=CFCF3 + CH2=CFCF3etc
【0028】
11)ジルコニウムヒドリドによるフッ素オレフィンの還元反応(非特許文献18)
Cp2ZrH2+ CF2=CH2 (CF2=CFCF3) →Cp2ZrFH + CFH=CF2 (CFH=CFCF3)
テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)等の含フッ素オレフィンは、フッ素ポリマーなどの原料であるなど、フッ素化学工業における基幹化合物であるが、確立された工業的プロセスは非常に限られており、例えば、非フッ素工業では非常に重要な存在である遷移金属を触媒とする工業プロセス等は全く知られていない。上記の様に、フッ素化オレフィンへの金属錯体によるC−F結合の活性化と引続いたC−C結合生成反応例は極めて少なく、分子内での等量反応が2例報告されているに過ぎず、これを触媒的に進行させた例は存在しない。
【0029】
さらに、1,1−二置換オレフィンについては、Wittig反応によるカルボニル化合物のジフルオロメチレン化反応で製造されてきた(非特許文献19)。しかしながら、カルボニル化合物がケトンである場合には、Wittig試薬を過剰量(4〜5等量以上)用いても収率が低いこと、さらにはリン化合物として、ヘキサメチル亜リン酸トリアミドの使用が必須であることが問題となっている。ヘキサメチル亜リン酸トリアミドの使用が問題となっているのは、ヘキサメチル亜リン酸トリアミドを使用すると、発癌性を強く発現するヘキサメチルリン酸トリアミドが発生するからである。
【0030】
【化10】

【0031】
このように、安全かつ効率よく1,1−二置換オレフィンを製造する方法も知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0032】
【非特許文献1】P.Tarrantら, J.Org.Chem.1968年, 33巻, 286頁
【非特許文献2】F.G.A.Stone1ら、J.Am.Chem.Soc., 1960年, 82巻, 6232頁
【非特許文献3】J-F.Normantら、J.Organomet.Chem. 1989年, 367巻, 1頁
【非特許文献4】S.Dixon, J.Org.Chem.1956年、21巻、400頁
【非特許文献5】J.Xikuiら、Huaxue Xuebao, 1983年、41巻、637頁
【非特許文献6】J.Burdonら、J.Fluorine Chem., 1999年, 99巻, 127頁
【非特許文献7】BurchらOrganometallics1988年7巻1642頁
【非特許文献8】Hughes,R.P.ら、Organomet.1993年12巻3109頁
【非特許文献9】Bekerら、Chem.Rev.1994年94巻412頁
【非特許文献10】Kemmittら、J.Chem.Soc.A.1969年, 1577頁
【非特許文献11】Kemmittら, J.Organomet.Chem.,1973年, 47巻, 189頁
【非特許文献12】Stoneら、J.Chem.Soc. Perkin trans 2, 1973年, 2069頁
【非特許文献13】Clarkら、J.Am.Chem.Soc.,1967年, 89巻, 529頁
【非特許文献14】Knoxら、Chem.Commun.1989年、640頁
【非特許文献15】Buchwald、Chem.Rev.1994年、94巻、373頁
【非特許文献16】Braumら、Angew.Chem.2002年、41巻、2745頁
【非特許文献17】Whittleseyら、Chem.Commun.2001年、813頁
【非特許文献18】W.D.Jonesら、J.Am.Chem.Soc. 2004年、126巻、5647頁
【非特許文献19】L.S.Jeongら、Organic Letters, 2002年, 4巻, 529頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
本来、電子不足アルケンであるテトラフルオロエチレン(TFE)等の含フッ素オレフィンは、比較的原子半径が小さく、電子豊富な遷移金属であるニッケル等に対して反応性に富んだ基質であり、例示したように、二分子のTFEはニッケルとの酸化的環化反応により環状ニッケル錯体(ニッケラサイクル)を与えることが知られている。しかし、TFEを取り込んだ有機化合物への変換反応は全く報告なされていなかった。これは、TFEが非常に反応性に富み、そのため一段階で二分子が反応してしまうために錯体が安定化され、次のプロセスへと展開できないことが大きな理由であると考えられる。
【0034】
したがって、本発明は、TFE等の含フッ素オレフィンのsp2混成炭素原子に結合したフッ素原子を、簡便かつ安全に他の原子又は原子団で置換することができる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0035】
本発明者らは、ニッケル錯体の配位子の選択により、TFEとニッケル錯体から得られる含フッ素ニッケル錯体中のTFE−Ni構成比の制御と、その反応性の制御の可能性に着目した。これにより、構成比が1:1の錯体(例えば、スキーム(1)の化合物1)を選択的に生成させること、さらにこの1:1錯体からC−F結合へのニッケルの酸化的付加を経由したトリフルオロビニル錯体(スキーム(1)の化合物2)の発生と求核試薬の反応によるC−F結合の置換反応の確立に成功した(スキーム(1)の化合物3の生成)。
【0036】
【化11】

【0037】
また、本発明者らは、ニッケル錯体の代わりにパラジウム錯体を使用することによっても、同様の反応により、C−F結合の置換反応の確立に成功した。
【0038】
【化12】

【0039】
すなわち、本発明は、以下の有機フッ素化合物の製造方法に係る。
【0040】
項1.有機パラジウム錯体の存在下に、含フッ素オレフィン中のsp2混成炭素原子に結合したフッ素原子を、他の原子又は原子団で置換する、有機フッ素化合物の製造方法。
【0041】
項2.有機パラジウム錯体が、0価パラジウム錯体;II価パラジウム錯体と塩基により系中で発生した0価パラジウム錯体;又はこれらと、ホスフィン、ジアミン及びビピリジルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを混合して得られる錯体である、項1に記載の製造方法。
【0042】
項3.0価のパラジウム錯体が、Pd(DBA)(DBAはジベンジリデンアセトン)、Pd(COD)(CODはシクロオクタ−1,5−ジエン)、Pdエチレン錯体、Pd(DPPE)(DPPEは1,2−ビスジフェニルホスフィノエタン)、Pd(PCy(Cyはシクロヘキシル基)及びPd(PPh(Phはフェニル基)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、ホスフィンが、トリアリールホスフィン又はトリアルキルホスフィンである、項2に記載の製造方法。
【0043】
項3−1.ホスフィンが、トリアルキルホスフィンである、項2又は3に記載の製造方法。
【0044】
項3−2.有機パラジウム錯体が、0価パラジウム錯体とトリアルキルホスフィンとを混合して得られる、項1〜3−1のいずれかに記載の製造方法。
【0045】
項3−3.0価のパラジウム錯体が、Pd(DBA)(DBAはジベンジリデンアセトン)、Pd(COD)(CODはシクロオクタ−1,5−ジエン)、Pdエチレン錯体、Pd(DPPE)(DPPEは1,2−ビスジフェニルホスフィノエタン)、Pd(PCy(Cyはシクロヘキシル基)及びPd(PPh(Phはフェニル基)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
トリアルキルホスフィンが、トリシクロヘキシルホスフィン、トリt−ブチルホスフィン、トリテキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリアダマンチルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、ジt−ブチルメチルホスフィン、トリビシクロ[2,2,2]オクチルホスフィン及びトリノルボルニルホスフィンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項3−1又は3−2に記載の製造方法。
【0046】
項3−4.ホスフィンが、トリアリールホスフィンである、項2又は3に記載の製造方法。
【0047】
項3−5.有機パラジウム錯体が、0価パラジウム錯体とトリアリールホスフィンとを混合して得られる、項1〜3及び3−4のいずれかに記載の製造方法。
【0048】
項3−6.0価のパラジウム錯体が、Pd(DBA)(DBAはジベンジリデンアセトン)、Pd(COD)(CODはシクロオクタ−1,5−ジエン)、Pdエチレン錯体、Pd(DPPE)(DPPEは1,2−ビスジフェニルホスフィノエタン)、Pd(PCy(Cyはシクロヘキシル基)及びPd(PPh(Phはフェニル基)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
トリアリールホスフィンが、トリメシチルホスフィン及び/又はトリ(o−トリル)ホスフィンである、項3−4又は3−5に記載の製造方法。
【0049】
項4.有機パラジウム錯体の存在下に、含フッ素オレフィンと求核試薬とを反応させることで、含フッ素オレフィン中のsp2混成炭素原子に結合したフッ素原子を、他の原子又は原子団で置換する、項1〜3−6のいずれかに記載の製造方法。
【0050】
項5.求核試薬が有機金属試薬である、項4に記載の製造方法。
【0051】
項6.有機金属試薬の金属種がスズ、亜鉛、ケイ素、銅、アルミニウム又はガリウムである、項5に記載の製造方法。
【0052】
項7.さらに、金属ハロゲン化試薬を添加して反応させる、項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【0053】
項8.テトラフルオロエチレンと、有機パラジウム錯体とを反応して得られる、Pd−トリフルオロビニル錯体。
【0054】
項9.テトラフルオロエチレンと有機パラジウム錯体とを加熱することによる、項8に記載のPd−トリフルオロビニル錯体の製造方法。
【0055】
項10.さらに、有機亜鉛試薬を触媒として用いる、項9に記載の製造方法。
【0056】
項11.さらに、リチウム塩試薬を触媒として用いる、項9又は10に記載の製造方法。
【0057】
項12.式(3)及び/又は(4):
【0058】
【化13】

【0059】
(式中、Rは、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、
有機パラジウム錯体の存在下、テトラフルオロエチレンと、求核試薬とを反応させることを特徴とする、項1に記載の製造方法。
【0060】
項13.式(4’):
【0061】
【化14】

【0062】
(式中、R及びR’は同じか又は異なり、いずれも置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、
(i)有機パラジウム錯体の存在下、テトラフルオロエチレンと、求核試薬とを反応させて、式(3):
【0063】
【化15】

【0064】
(式中、Rは前記に同じ。)
で表される化合物を製造する工程、及び
(ii)有機パラジウム錯体の存在下、テトラフルオロエチレンと、求核試薬とを反応させて、式(4’):
【0065】
【化16】

【0066】
(式中、R及びR’は前記に同じ。)
で表される化合物を製造する工程
を含む、項1に記載の製造方法。
【0067】
項14.式(3a):
【0068】
【化17】

【0069】
(式中、Rは、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、
有機パラジウム錯体の存在下、トリフルオロエチレンと、求核試薬とを反応させることを特徴とする、項1に記載の製造方法。
【0070】
項15.有機ニッケル錯体の存在下に、含フッ素オレフィン中のsp2混成炭素原子に結合したフッ素原子を、他の原子又は原子団で置換する、有機フッ素化合物の製造方法。
【0071】
項16.有機ニッケル錯体が、コーンアングルが170〜190°である配位子を有する、0価ニッケル錯体又はII価ニッケル錯体と塩基により系中で発生した0価ニッケル錯体である、項15に記載の製造方法。
【0072】
項17.有機ニッケル錯体が、0価ニッケル錯体又はII価ニッケル錯体と塩基により系中で発生した0価ニッケル錯体と、ホスフィン、ジアミン及びビピリジルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを混合して得られる、項15又は16に記載の製造方法。
【0073】
項18.0価のニッケル錯体が、Ni(COD)(CODはシクロオクタ−1,5−ジエン)、Ni(CDD)(CDDはシクロデカ−1,5−ジエン)、Ni(CDT)(CDTはシクロドデカ−1,5,9−トリエン)、Ni(VCH)(VCHは4−ビニルシクロヘキセン)、Ni(CO)、(PCyNi−N≡N−Ni(PCy(Cyはシクロヘキシル基)及びNi(PPh(Phはフェニル基)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、ホスフィンが、トリアリールホスフィン又はトリアルキルホスフィンである、項16又は17に記載の製造方法。
【0074】
項18−1.ホスフィンが、トリアルキルホスフィンである、項17又は18に記載の製造方法。
【0075】
項18−2.有機ニッケル錯体が、0価ニッケル錯体とトリアルキルホスフィンとを混合して得られる、項15〜18−1のいずれかに記載の製造方法。
【0076】
項18−3.0価のニッケル錯体が、Ni(COD)(CODはシクロオクタ−1,5−ジエン)、Ni(CDD)(CDDはシクロデカ−1,5−ジエン)、Ni(CDT)(CDTはシクロドデカ−1,5,9−トリエン)、Ni(VCH)(VCHは4−ビニルシクロヘキセン)、Ni(CO)、(PCyNi−N≡N−Ni(PCy(Cyはシクロヘキシル基)及びNi(PPh(Phはフェニル基)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
トリアルキルホスフィンが、トリシクロヘキシルホスフィン、トリt−ブチルホスフィン、トリテキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリアダマンチルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、ジt-ブチルメチルホスフィン、トリビシクロ[2,2,2]オクチルホスフィン及びトリノルボルニルホスフィンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項18−1又は18−2に記載の製造方法。
【0077】
項18−4.ホスフィンが、トリアリールホスフィンである、項17又は18に記載の製造方法。
【0078】
項18−5.有機ニッケル錯体が、0価ニッケル錯体とトリアリールホスフィンとを混合して得られる、項15〜18及び18−4のいずれかに記載の製造方法。
【0079】
項18−6.0価のニッケル錯体が、Ni(COD)(CODはシクロオクタ−1,5−ジエン)、Ni(CDD)(CDDはシクロデカ−1,5−ジエン)、Ni(CDT)(CDTはシクロドデカ−1,5,9−トリエン)、Ni(VCH)(VCHは4−ビニルシクロヘキセン)、Ni(CO)、(PCyNi−N≡N−Ni(PCy(Cyはシクロヘキシル基)及びNi(PPh(Phはフェニル基)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
トリアリールホスフィンが、トリメシチルホスフィン及び/又はトリ(o−トリル)ホスフィンである、項18−4又は18−5に記載の製造方法。
【0080】
項19.有機ニッケル錯体の存在下に、含フッ素オレフィンと求核試薬とを反応させることで、含フッ素オレフィン中のsp2混成炭素原子に結合したフッ素原子を、他の原子又は原子団で置換する、項15〜18−6のいずれかに記載の製造方法。
【0081】
項20.求核試薬が有機金属試薬である、項19に記載の製造方法。
【0082】
項21.有機金属試薬の金属種がスズ、亜鉛、ケイ素、銅、アルミニウム又はガリウムである、項20に記載の製造方法。
【0083】
項22.さらに、金属ハロゲン化試薬を添加して反応させる、項15〜21のいずれかに記載の製造方法。
【0084】
項23.テトラフルオロエチレンと、有機ニッケル錯体とを反応して得られる、Ni−トリフルオロビニル錯体。
【0085】
項24.テトラフルオロエチレンと有機ニッケル錯体とを加熱することによる、項23に記載のNi−トリフルオロビニル錯体の製造方法。
【0086】
項25.さらに、有機亜鉛試薬を触媒として用いる、項24に記載の製造方法。
【0087】
項26.さらに、リチウム塩試薬を触媒として用いる、項24又は25に記載の製造方法。
【0088】
項27.式(3)及び/又は(4):
【0089】
【化18】

【0090】
(式中、Rは、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、
有機ニッケル錯体の存在下、テトラフルオロエチレンと、求核試薬とを反応させることを特徴とする、項15に記載の製造方法。
【0091】
項28.式(4’):
【0092】
【化19】

【0093】
(式中、R及びR’は異なり、いずれも置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、
(i)有機ニッケル錯体の存在下、テトラフルオロエチレンと、求核試薬とを反応させて、式(3):
【0094】
【化20】

【0095】
(式中、Rは前記に同じ。)
で表される化合物を製造する工程、及び
(ii)有機ニッケル錯体の存在下、テトラフルオロエチレンと、求核試薬とを反応させて、式(4’):
【0096】
【化21】

【0097】
(式中、R及びR’は前記に同じ。)
で表される化合物を製造する工程
を含む、項15に記載の製造方法。
【0098】
項29.式(3a):
【0099】
【化22】

【0100】
(式中、Rは、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、
有機ニッケル錯体の存在下、トリフルオロエチレンと、求核試薬とを反応させることを特徴とする、項15に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0101】
本発明によれば、含フッ素オレフィンのsp2混成炭素原子に結合したフッ素原子を、簡便かつ安全に他の原子又は原子団で置換することができる。さらには、含フッ素オレフィンの1,1−二置換オレフィンを安全かつ効率的に合成することも出来る。また、触媒として有機パラジウム錯体を使用すれば、より収率よく、目的の含フッ素オレフィンが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0102】
本発明の有機フッ素化号物の製造方法は、有機パラジウム錯体又は有機ニッケル錯体を触媒として用い、その存在下に、含フッ素オレフィン中のsp2混成炭素原子に結合したフッ素原子を、他の原子又は原子団で置換することを含む。
【0103】
ここで、有機パラジウム錯体又は有機ニッケル錯体としては、試薬として投入するものであってもよいし、反応系中で生成されるものであってもよい。
【0104】
本発明で、基質として使用する含フッ素オレフィンは、少なくとも2つのsp2混成炭素原子に少なくとも1つのフッ素原子が結合していればよく、例えば、以下の式(2)で表されるものである。
【0105】
【化23】

【0106】
(式中、R〜Rは同じか又は異なり、いずれも水素原子、フッ素原子、塩素原子又はCFである。)
具体的には、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、1,1−ジフルオロエチレン(ビニリデンフロリド)が挙げられ、フッ素化学における普遍性から、TFE、トリフルオロエチレン等が好ましい。
【0107】
有機パラジウム錯体又は有機ニッケル錯体としては、例えば、ジケトン、ホスフィン、ジアミン、ビピリジル等を配位子に有するものが挙げられ、ホスフィン、ジアミン、ビピリジルを配位子に有するものが好ましく、特にホスフィンを配位子に有するものが好ましい。なお、有機パラジウム錯体の場合、ホスフィンのようにかさ高い配位子を有さなくても、目的とする有機化合物が収率よく得られる。ただし、ホスフィンのようにかさ高い配位子を有する有機パラジウム錯体を用いたほうが、より収率よく目的の有機化合物を得られる。
【0108】
ここで、ジケトンとしては、アセチルアセトン、1−フェニル−1,3−ブタンジオン、1,3−ジフェニルプロパンジオン等のβジケトン等が挙げられる。
【0109】
ホスフィンとしては、ハロゲン−リン結合を有するホスフィン類では、それ自身が求核試薬である有機金属試薬と反応してしまうので、トリアルキルホスフィン又はトリアリールホスフィンが好ましい。トリアルキルホスフィンとしては、具体的には、トリシクロヘキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリt−ブチルホスフィン、トリテキシルホスフィン、トリアダマンチルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、ジt−ブチルメチルホスフィン、トリビシクロ[2,2,2]オクチルホスフィン、トリノルボルニルホスフィン等のトリ(C3−20アルキル)ホスフィン等が挙げられ、トリアリールホスフィンとしては、具体的には、トリフェニルホスフィン、トリメシチルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン等のトリ(単環アリール)ホスフィン等が挙げられる。これらのなかでも、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリt−ブチルホスフィン等が好ましい。またこれ以外にも、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン等のような二座配位子等も有効である。
【0110】
さらに、ジアミンとしては、テトラメチルエチレンジアミン、1,2−ジフェニルエチレンジアミン等が挙げられる。
【0111】
以下、本発明で使用できる具体的な錯体について、説明する。
【0112】
本発明で用いられる0価のパラジウム錯体は、具体的には、0価パラジウム錯体;II価パラジウム錯体と塩基により系中で発生した0価パラジウム錯体;又はこれらと、ホスフィン、ジアミン及びビピリジルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを混合して得られる錯体が挙げられる。なお、ホスフィン、ジアミンは上記で説明したとおりである。
【0113】
0価パラジウム錯体又はII価パラジウム錯体と塩基により系中で発生した0価パラジウム錯体と、ホスフィン、ジアミン及びビピリジルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを混合する場合には、基質との反応前又は基質と同時に混合され、系内で、必要に応じて添加されるジケトン、ホスフィン、ジアミン、ビピリジル等の化合物(配位子)と作用して、反応に関与する0価のパラジウム錯体に変換されることで調製される。なお、ジケトン、ホスフィン、ジアミンは上記で説明したとおりである。ここで、用いられる0価パラジウム錯体とは、具体的には、Pd(DBA)、Pd(COD)、Pdエチレン錯体、Pd(DPPE)、Pd(Pcy及びPd(PPh等が挙げられる。ここで、DBAはジベンジリデンアセトン(Dibenzylideneacetone)、CODはシクロオクタ−1,5−ジエン(Cycloocta-1,5-diene)、DPPEは1,2−ビスジフェニルホスフィノエタン(1,2-bis(Diphenylphosphinoethane))、Cyはシクロヘキシル基(Cyclohexyl group)を意味する。
【0114】
また、II価パラジウム錯体とは、例えば、塩化パラジウム、臭化パラジウム、酢酸パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、ジクロロ(η−1,5−シクロオクタジエン)パラジウム(II)、又はこれらにトリフェニルホスフィン等のホスフィン配位子が配位した錯体等が挙げられる。これらのII価パラジウム錯体を亜鉛、有機金属試薬等の塩基により還元して0価錯体とした後、必要に応じて、ホスフィン、ジアミン、ビピリジル等の化合物とを混合して調製される。なお、パラジウム0価錯体にこれらの配位子がいくつ配位しているかは必ずしも明らかでは無い。
【0115】
また、本発明で用いられる0価のニッケル錯体は、具体的には、0価ニッケル錯体又はII価ニッケル錯体と塩基により系中で発生した0価ニッケル錯体と上記の配位子(ホスフィン、ジアミン、ビピリジル等)から、基質との反応前又は基質と同時に混合され、系内で調製される錯体が挙げられる。なお、ホスフィン、ジアミンは上記で説明したとおりである。ここで、用いられる0価ニッケル錯体とは、具体的には、Ni(COD)、Ni(CDD)、Ni(CDT)、Ni(VCH)、Ni(CO)、(PCyNi−N≡N−Ni(PCy及びNi(PPh等が挙げられる。ここで、CODはシクロオクタ−1,5−ジエン(Cycloocta-1,5-diene)、CDDはシクロデカ−1,5−ジエン(Cyclodeca-1,5-diene)、CDTはシクロドデカ−1,5,9−トリエン(Cyclododeca-1,5,9-triene)、VCHは4−ビニルシクロヘキセン(4-Vinylcyclohexene)を意味する。
【0116】
また、II価ニッケル錯体とは、例えば、塩化ニッケル、臭化ニッケル、酢酸ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)、又はこれらにトリフェニルホスフィン等のホスフィン配位子が配位した錯体等が挙げられる。これらのII価ニッケル錯体を亜鉛、有機金属試薬等の塩基により還元して0価錯体とした後、ホスフィン、ジアミン、ビピリジル等の化合物とを混合して調製される。なお、ニッケル0価錯体にこれらの配位子がいくつ配位しているかは必ずしも明らかでは無い。
【0117】
本発明では、触媒として有機ニッケル錯体を使用する場合には、系中で生じる0価のニッケル錯体を安定化させると同時に、基質である含フッ素オレフィンが、同時に二分子以上がニッケルを中心に酸化的環化してしまうことを抑制するために、配位子がかさ高いもの、例えばコーンアングルが170〜190°程度のものが好ましい。具体的には、ホスフィン、ジアミン、ビピリジル等を配位子に有するものが好ましく、特にホスフィンを配位子に有するものが好ましい。
【0118】
上記の有機パラジウム錯体と有機ニッケル錯体としては、目的とする含フッ素オレフィンのsp2混成炭素原子に結合したフッ素原子を他の原子又は原子団で置換した化合物を、より収率よく合成できる点から、有機パラジウム錯体、特に0価のパラジウムのホスフィン錯体(トリフェニルホスフィン錯体等)が好ましい。
【0119】
有機パラジウム錯体又は有機ニッケル錯体の使用量は特に制限されるわけではないが、試薬として投入する有機パラジウム錯体又は有機ニッケル錯体の量は、後述する求核試薬1モルに対して、通常0.001〜1モル程度、好ましくは0.01〜0.2モル程度とすればよい。
【0120】
なお、配位子となる化合物を投入する場合には、その投入量は、後述する求核試薬1モルに対して、通常0.002〜2モル程度、好ましくは0.02〜0.4モル程度とすればよい。
【0121】
本発明の製造方法によれば、どのような原子又は原子団であっても、フッ素原子と置換できるが、生成物の有用性から、炭素数1〜20程度のアルキル基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、トリル基、メシチル基、アニシル基等のアリール基;ビニル基、アリル基、プロパルギル基等で置換することが好ましい。
【0122】
本発明では、含フッ素オレフィン中のsp2混成炭素原子に結合したフッ素原子を、他の原子又は原子団で置換する際、有機パラジウム錯体又は有機ニッケル錯体の存在下に、含フッ素オレフィンと求核試薬とを反応させることが好ましい。
【0123】
求核試薬としては、C−F結合へのパラジウム又はニッケルの酸化的付加によるトリフルオロビニル錯体の生成が進みやすく、また、これからのC−F結合の置換反応の進行し易さの面から、有機金属試薬が好ましい。有機金属試薬を使用する場合には、金属種としては、C−F結合へのパラジウム又はニッケルの酸化的付加の促進が可能で有りながら、含フッ素オレフィンへの直接付加が進行しにくい程度の求核性を有する点で、スズ、亜鉛、ケイ素、銅、アルミニウム、ガリウム等が好ましい。また、この有機金属試薬は、ハロゲン化されていてもよい。このような条件を満たす求核試薬としては、例えば、アリルトリブチルスズ、水素化トリブチルスズ、ジフェニル亜鉛、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、フェニル亜鉛ブロミド、トリメチルアリルシラン、トリフェニルアリルシラン、トリメチルアルミニウム、トリフェニルアルミニウム、ジメチル銅リチウム、ブチル銅、メチル銅、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム等が好ましく使用される。
【0124】
この求核試薬の投入量は、含フッ素オレフィンにおいて置換反応するフッ素原子の数に応じ適宜設定できる。通常、含フッ素オレフィン1モルに対して0.01〜10モル程度、好ましくは0.1〜2モル程度とすればよい。
【0125】
一方で、金属ハロゲン化試薬を添加することで、トリフルオロビニル錯体の生成を加速させつつ、C−F結合の置換反応を容易にすることができる。具体的には、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のリチウム塩;臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム等のマグネシウム塩等の共役カチオンがルイス酸性を有する塩類は、フッ素原子を活性化することで、C−F結合へのニッケルの酸化的付加を促進することができる。
【0126】
金属ハロゲン化物を投入する場合、その投入量は、通常、求核試薬1モルに対して、0.5〜10モル程度、好ましくは1〜1.5モル程度とすればよい。
【0127】
なお、有機パラジウム錯体又は有機ニッケル錯体は、有機パラジウム錯体又は有機ニッケル錯体を作製してから含フッ素オレフィン及び求核試薬と混合してもよいし、有機パラジウム錯体又は有機ニッケル錯体の原料と含フッ素オレフィン及び求核試薬とを同時に混合してもよい。
【0128】
反応雰囲気は、特に限定されないが、パラジウム錯体及びニッケル錯体の活性を考慮して、通常アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行われる。また、加圧下でも、常圧下でもよいし、減圧下でもよい。
【0129】
反応温度は、特に制限されないが、C−F結合へのパラジウム又はニッケルの酸化的付加反応は、0〜200℃程度が好ましい。一方、ここで得られたトリフルオロビニル錯体から、求核試薬を用いた反応は、−100〜150℃程度が好ましい。また、反応時間も特に制限されないが、10分〜72時間程度が好ましい。なお、高温では、生成物である含フッ素オレフィン誘導体の2量化が進行する場合がある。そのため、反応温度を低めに設定することで、2量化が進行しないようにすることが望ましい。
【0130】
この反応の際に使用する溶媒としては、特に制限はなく、例えば、ベンゼン、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ヘキサン、トルエン、キシレン等を使用することができる。なかでも、ベンゼン、THF、トルエン等が好ましい。
【0131】
なお、本発明の製造方法における反応の詳細は、以下のスキーム(2)で示されるとおりである。
【0132】
有機パラジウム錯体を使用する場合:
【0133】
【化24】

【0134】
有機ニッケル錯体を使用する場合:
【0135】
【化25】

【0136】
スキーム(2)では、まず、有機パラジウム錯体又は有機ニッケル錯体と含フッ素オレフィンを反応させ、構成比が1:1の錯体(化合物4)を経由し、この1:1錯体から、C−F結合へのパラジウム又はニッケルの酸化的付加を経由した含フッ素置換基を有するビニル錯体(化合物5)を生成する。次に、求核試薬を供給し、これと上述のビニル錯体とを反応させることで、含フッ素オレフィンのフッ素原子が置換される(化合物6の生成)。
【0137】
この際、有機パラジウム錯体又は有機ニッケル錯体は、パラジウム錯体又はニッケル錯体を生成してから含フッ素オレフィンと反応させてもよいし、有機パラジウム錯体又は有機ニッケル錯体の原料を含フッ素オレフィンと混合してもよい。
【0138】
また、求核試薬は、どのタイミングで混入してもよい。化合物5を生成してから混入してもよいし、パラジウム錯体又はニッケル錯体、並びに含フッ素オレフィンと同時に混入してもよい。
【0139】
特にこれに限定されるわけではないが、例えば、含フッ素オレフィンとしてテトラフルオロエチレン(TFE)を使用し、求核試薬を、パラジウム錯体又はニッケル錯体、並びにTFEと同時に混入した場合には、1−置換体だけでなく、1,1−置換体、シス−1,2−置換体及びトランス−1,2−置換体を得ることも可能である。
【0140】
なお、この反応工程により生成されるビニル錯体(化合物5、基質としてテトラフルオロエチレンを使用した場合にはPd−トリフルオロビニル錯体又はNi−トリフルオロビニル錯体)は、文献未記載の新規化合物である。
【0141】
本発明の典型例であるTFEを原料に用いた場合について、以下説明する。
【0142】
式(3)及び/又は(4)で表される化合物(1置換体及び/又は1,1−2置換体)は、有機パラジウム錯体又は有機ニッケル錯体の存在下、TFEと求核試薬(例えば、ジフェニル亜鉛、ジメチル亜鉛等)とを反応させることにより製造することができる。反応条件は上述の条件を採用することができる。
【0143】
【化26】

【0144】
(式中、Rは置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。)
【0145】
また、式(4’)で表される化合物(1,1−2置換体)は、(i)有機パラジウム錯体又は有機ニッケル錯体の存在下、TFEと求核試薬(例えば、ジフェニル亜鉛、ジメチル亜鉛等)を反応させて、式(4)で表される化合物を製造した後、さらに(ii)有機パラジウム錯体又は有機ニッケル錯体の存在下、式(4)で表される化合物と求核試薬(例えば、ジフェニル亜鉛、ジメチル亜鉛等)を反応させることにより製造することができる。
【0146】
【化27】

【0147】
(式中、R及びR’は同じか又は異なり、いずれも置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。)
【0148】
工程(i)及び(ii)で用いられる求核試薬は同一のものでもよいし、異なったものでもよい。
【0149】
また、工程(i)及び(ii)における反応条件も、所望の目的物が得られる限り特に限定はなく、同一のものでもよいし、異なったものでもよい。
【0150】
なお、本発明では、工程(i)により式(3)で表される化合物を取得した後、該式(3)で表される化合物を工程(ii)に供して式(4’)で表される化合物を製造する場合、或いは、TFEから工程(i)及び(ii)をワンポットで実施する場合のいずれも包含する。
【0151】
特に、R及びR’が異なる場合には、多様性のある式(4’)で表される化合物を製造することができるため、極めて有効である。
【0152】
さらに、本発明の製造方法では、入手容易なTFE等の含フッ素オレフィンから、簡便に1−置換含フッ素オレフィンや1,1−二置換含フッ素オレフィン等を製造することができる。特に1,1−二置換含フッ素オレフィンを製造できる点が興味深い。例えば、非特許文献4等に記載のように、テトラフルオロエチレンにアルキル金属試薬を2分子付加させる反応からは、1,2−二置換体のみが得られ、1,1−二置換体を得ることが出来ない。この点において、本発明の製造方法は、TFE等の1,1−含フッ素オレフィンから1,1−二置換含フッ素オレフィンを製造する有効な方法である。
【0153】
本発明の他の典型例であるトリフルオロエチレンを原料に用いた場合について、以下説明する。
【0154】
式(3a)で表される化合物は、有機パラジウム錯体又は有機ニッケル錯体の存在下、トリフルオロエチレンと、求核試薬(例えば、ジフェニル亜鉛、ジメチル亜鉛等)を反応させることにより製造することができる。反応条件は上述の条件を採用することができる。
【0155】
【化28】

【0156】
(式中、Rは前記に同じ。)
【0157】
本反応では、トリフルオロエチレンから式(3a)で表される化合物のみが生成し、他の位置のフッ素原子の置換は進行しない。この点が本発明の有機パラジウム錯体又は有機ニッケル錯体と求核試薬とを用いる利点でもある。これまでに式(3a)で表される化合物の合成報告は極めて少ない。そのため、本発明の方法は、式(3a)で表される化合物の有効な製造方法である。
【0158】
このように、本発明の製造方法により得られた置換基を有する含フッ素オレフィンは、例えば、フッ素ゴム、反射防止膜材料、イオン交換膜、燃料電池用電解質膜、液晶材料、圧電素子材料、酵素阻害薬、殺虫剤等の原料として有用である。
【実施例】
【0159】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。なお、以下全ての操作は窒素雰囲気下で行った。
【0160】
<Ni錯体>
実施例1:テトラフルオロエチレン−ニッケルビストリシクロヘキシルホスフィン錯体1の合成
トルエン10mLにNi(COD)(134mg,487μmol)とPCy(280mg,998μmol)を溶解して得られる薄赤色溶液をグリスレスバルブ付きのガラス製密閉容器(容量:20mL)に移し、脱気減圧した後に1気圧のテトラフルオロエチレンガス(0.089mmol;容器容量と導入圧力から算出した)を封入した。この溶液を室温で攪拌し続けたところ、溶液の色は徐々に赤橙色に変化するとともに、橙色の微結晶が析出した。16時間後、反応溶液の上澄みを取り除いて得られた橙色結晶性固体をペンタン(5mL×3)で洗浄することにより、テトラフルオロエチレン−ニッケルビストリシクロヘキシルホスフィン錯体1を125mg(173μmol,36% yield)得た。先に取り除いた上澄みを3mL程度まで濃縮した後にヘキサンを7mL加えることにより、テトラフルオロエチレン−ニッケルビストリシクロヘキシルホスフィン錯体をさらに橙色微粉末として析出させ、これを回収した(99mg,138μmol,28% yield)。
【0161】
【化29】

【0162】
【化30】

【0163】
31P−NMR(C):δ 32.6(m).
H−NMR(tol−d):δ 1.14−1.33(m,18H),1.56−1.68(m,18H),1.72−1.80(m,12H),2.02−2.12(m,18H).
19F−NMR(tol−d):δ −112.8(m,2F),−140.0(m,2F).
Anal. Calcd for C3866NiP・(C)C,66.25;H,9.10.Found:C,65.17;H,9.10.
【0164】
実施例2:テトラフルオロエチレン−ニッケルビストリイソプロピルホスフィン錯体の合成
耐圧ガラスチューブ(容量:2mL)中に重ベンゼン0.5mLにNi(COD)(14.5mg,51μmol)とP i−Pr(トリイソプロピルホスフィン)(16mg,100μmol)を溶解した。これを脱気減圧した後に、3気圧のテトラフルオロエチレンガス(0.268mmol;容器容量と導入圧力から算出した)を封入した。この溶液を室温で攪拌しつつNMR測定により、テトラフルオロエチレン−ニッケルビストリイソプロピルホスフィン錯体の生成を確認した。
【0165】
【化31】

【0166】
31P−NMR(C):δ 43.4(m).
H−NMR(C):δ 1.15(dd,J=7.8,12.8Hz,36H),2.09(dsept,J=7.2,14.4Hz,6H).
19F−NMR(C):δ −132.0(m,2F),−140.0(m).
【0167】
実施例3:テトラフルオロエチレン−ニッケル錯体1からトリフルオロビニル錯体2の合成
テトラフルオロエチレン−ニッケル錯体1(28.8mg、0.04mmol)を耐圧チューブ内に重ベンゼンを溶媒として封じて、100℃で15時間加熱した。31P−NMRの測定により、Niη錯体1のピーク(32〜33ppm)が消失し、トリフルオロビニル錯体2の2本ピーク(22.14ppm,22.45ppm)の発現により、NiのC−F結合への酸化的付加の進行を確認した。31P−NMRピーク面積比から収率を81%と見積もった。また、トリフルオロビニル錯体2は単離してX線結晶回折によりその構造を確認することが出来た。
【0168】
【化32】

【0169】
【化33】

【0170】
31P−NMR(C):δ 22.14(bs),22.45(bs).
19F−NMR(C):δ −92.43(dd,J=113,30Hz,1F),−133.13(dd,J=113,107Hz,1F),−159.18(dd,J=107,30Hz,1F).
【0171】
実施例4:有機亜鉛試薬によるテトラフルオロエチレン−ニッケル錯体1からトリフルオロビニル錯体2生成の加速効果
テトラフルオロエチレン−ニッケル錯体1(28.8mg、0.04mmol)とジフェニル亜鉛(9.5mg,0.04mmol)を耐圧チューブ内に重ベンゼンを溶媒として封じて、室温下で3.5日間放置した。
【0172】
反応液の31P−NMR及び19F−NMR測定による解析から、トリフルオロビニル錯体2が定量的に得られていることが判った。以上の結果から、亜鉛試薬の共存下では、C−F結合へのNiの酸化的付加反応が加速されることが判った。
【0173】
【化34】

【0174】
実施例5:LiIによるテトラフルオロエチレン−ニッケル錯体1からトリフルオロビニル錯体生成の加速効果
窒素雰囲気下、THF(0.5mL)とC(0.1mL)の混合溶媒にテトラフルオロエチレン−ニッケル錯体1(28.8mg,40μmol)とLiI(5.4mg,40μmol) を溶解したところ、速やかに溶液の色は黄色から濃紫色に変化した。19F及び31P−NMRで反応を追跡したところ、50分後には原料錯体1が消失し、トリフルオロビニル錯体 trans-(PCy3)2Ni(I)(CF=CF2)が定量的に生じていることを確認した。この際に、LiFに相当する析出物を目視で確認した。
【0175】
31P{H}NMR(109MHz,THF+C,rt,δ/ppm):20.1(m,P(C6H11)3).
19F−NMR(376.5MHz,THF+C,rt,δ/ppm):−89.3(dd,JFF=32.3,111.1Hz,1F,Ftrans),−129.2(dd,JFF=107.3,111.1Hz,1F,Fcis),−154.1(dd,JFF=32.3,107.3Hz,1F,Fgem).
【0176】
【化35】

【0177】
実施例6:1,1,2−トリフルオロスチレンの合成
グローブボックス中で、耐圧チューブ(容量:2mL)内にビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(Ni(cod))(11mg;0.04mmol)、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy)(22.4mg;0.08mmol)を秤量し、これに重ベンゼンを加えて溶解させた。さらにここに、ジフェニル亜鉛(PhZn)(95.5mg;0.40mmol)を加えた。チューブ内を減圧にし、テトラフルオロエチレン(TFE)を5気圧(0.522mmol;容器容量と導入圧力から算出した)まで導入した。これを60℃で4日間放置した。反応液のNMR測定により、1,1,2−トリフルオロスチレンが生成していることを確認した。
【0178】
反応系中に添加した内部標準物質(α, α, α-trifluorotoluene;0.114mol)との積分比から、収率を6%と見積もった。
【0179】
【化36】

【0180】
1,1,2−トリフルオロスチレン
19F−NMR(C):δ −103.5(dd,J=72,32Hz,1F),−118.0(dd,J=72,107Hz,1F),−179.2(dd,J=107,32Hz,1F).
【0181】
実施例7:1,1−ジフルオロ−2,2−ジフェニルエチレン及び1,1,2−トリフルオロスチレンの合成
グローブボックス中で、耐圧チューブ(容量:2mL)内にビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(Ni(cod))(2.7mg;0.01mmol)、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy)(5.6mg;0.02mmol)を秤量し、これにテトラヒドロフラン(THF)を加えて溶解させた。さらにここに、ジフェニル亜鉛(PhZn)(23.9mg;0.10mmol)を加えた。チューブ内を減圧にし、テトラフルオロエチレン(TFE)を2気圧(0.179mmol;容器容量と導入圧力から算出した)まで導入した。これを室温で1.5日間さらに60℃で3日間放置した。反応液のNMR測定により、1,1−ジフルオロ−2,2−ジフェニルエチレンを主生成物として生成しており(α, α, α-trifluorotoluene0.114molを内部標準として収率2%)、さらに1,1,2−トリフルオロスチレンも少量生成していることを確認した。反応液を濃縮後、シリカゲルカラムクロマト(n−ヘキサン)により生成物を単離し、NMR及びGC−MSにより構造を確認した。
【0182】
【化37】

【0183】
1,1−ジフルオロ−2,2−ジフェニルエチレン
19F−NMR(CDCl):δ −91.5(s).MS m/z 216(M+),166(M−CF),50(CF).
【0184】
実施例8:1,1−ジフルオロ−2,2−ジメチルエチレン及び1,1,2−トリフルオロプロペンの合成
グローブボックス中で、耐圧チューブ(容量:2mL)内にビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(Ni(cod))(2.7mg;0.01mmol)、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy)(5.6mg;0.02mmol)を秤量し、これにテトラヒドロフラン(THF)を加えて溶解させた。さらにここに、ジメチル亜鉛(MeZn)(1M n−hexane溶液;0.1mL;0.10mmol)を加えた。チューブ内を減圧にし、テトラフルオロエチレン(TFE)を2気圧まで導入した。これを100℃で17時間放置した。反応液のNMR測定により、1,1−ジフルオロ−2,2−ジメチルエチレン(α, α, α-trifluorotoluene0.114molを内部標準として1%)と1,1,2−トリフルオロプロペン(同様にして3%)が生成していることを確認した。
【0185】
【化38】

【0186】
1,1−ジフルオロ−2,2−ジメチルエチレン
19F−NMR(C):δ −101.3(s).
1,1,2−トリフルオロプロペン
19F−NMR(C):δ −109.8(dd,J=92,32Hz,1F),−129.7(dd,J=92,114Hz,1F),−170.8(dd,J=114,32Hz,1F).
【0187】
<Pd錯体>
実施例9:1,1−ジフルオロ−2,2−ジメチルエチレン及び1,1,2−トリフルオロプロペンの合成
グローブボックス中、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd(dba))(0.5mg,0.005mmol),トリフェニルホスフィン(PPh)(5.3mg,0.02mmol)のDioxane(0.4mL)/重ベンゼン(C)(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ(容量:2mL)中に調製し、これにジメチル亜鉛(MeZn)のヘキサン溶液(1M,0.1mL,0.1mmol)とα, α, α-trifluorotoluene(14μL、0.114mol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol;3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を60℃で15時間、さらに100℃で3.5時間加熱した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロプロペンが18%、1,1−ジフルオロ−2,2−ジメチルエチレンが4%の収率で得られたことを確認した。
【0188】
【化39】

【0189】
1,1−ジフルオロ−2,2−ジメチルエチレン
19F−NMR(C):δ −101.3(s).
1,1,2−トリフルオロプロペン
19F−NMR(C):δ −109.8(dd,J=92,32Hz,1F),−129.7(dd,J=92,114Hz,1F),−170.8(dd,J=114,32Hz,1F).
【0190】
実施例10:1,1−ジフルオロ−2,2−ジメチルエチレン及び1,1,2−トリフルオロプロペンの合成
同様にして、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd(dba))(0.5mg,0.005mmol),トリシクロヘキシルホスフィン(PCy)(5.6mg,0.02mmol)のDioxane(0.4mL)/重ベンゼン(C)(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ(容量:2mL)中に調製し、これにジメチル亜鉛(MeZn)のヘキサン溶液(1M,0.115mL,0.115mmol)とα, α, α-trifluorotoluene(14μL、0.114mol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol;3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を60℃で4時間、さらに100℃で17時間加熱した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロプロペンが15%、1,1−ジフルオロ−2,2−ジメチルエチレンが4.5%の収率で得られたことを確認した。
【0191】
【化40】

【0192】
1,1−ジフルオロ−2,2−ジメチルエチレン
19F−NMR(C):δ −101.3(s).
1,1,2−トリフルオロプロペン
19F−NMR(C):δ −109.8(dd,J=92,32Hz,1F),−129.7(dd,J=92,114Hz,1F),−170.8(dd,J=114,32Hz,1F).
【0193】
実施例11:1,1−ジフルオロ−2,2−ジメチルエチレン及び1,1,2−トリフルオロプロペンの合成
同様にして、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd(dba))(0.5mg,0.005mmol),トリ−tert−ブチルホスフィン(4.0mg,0.02mmol)のDioxane(0.4mL)/重ベンゼン(C)(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ(容量:2mL)中に調製し、これにジメチル亜鉛(MeZn)のヘキサン溶液(1M,0.15mL,0.115mmol)とα, α, α-trifluorotoluene(14μL、0.114mol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol;3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を60℃で4時間、さらに100℃で17時間加熱した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロプロペンが13%、1,1−ジフルオロ−2,2−ジメチルエチレンが1.2%の収率で得られたことを確認した。
【0194】
【化41】

【0195】
1,1−ジフルオロ−2,2−ジメチルエチレン
19F−NMR(C):δ −101.3(s).
1,1,2−トリフルオロプロペン
19F−NMR(C):δ −109.8(dd,J=92,32Hz,1F),−129.7(dd,J=92,114Hz,1F),−170.8(dd,J=114,32Hz,1F).
【0196】
実施例12:1,1,2−トリフルオロスチレンの合成
同様にして、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd(dba))(0.5mg,0.005mmol),トリフェニルホスフィン(PPh)(5.3mg,0.02mmol)のTHF(0.4mL)/重ベンゼン(C)(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ(容量:2mL)中に調製し、これにフェニル亜鉛ブロミド(PhZnBr)のTHF溶液(0.5M,0.23mL,0.115mmol)とα, α, α-trifluorotoluene(14μL、0.114mol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol;3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で3時間さらに60℃で17時間加熱した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロスチレンが35%の収率で得られたことを確認した。
【0197】
【化42】

【0198】
1,1,2−トリフルオロスチレン
19F−NMR(C):δ −103.5(dd,J=72,32Hz,1F),−118.0(dd,J=72,107Hz,1F),−179.2(dd,J=107,32Hz,1F).
【0199】
実施例13:1,1,2−トリフルオロスチレンの合成
同様にして、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd(dba))(0.5mg,0.005mmol),トリシクロヘキシルホスフィン(PCy)(5.6mg,0.02mmol)のTHF(0.4mL)/重ベンゼン(C)(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ(容量:2mL)中に調製し、これにフェニル亜鉛ブロミド(PhZnBr)のTHF溶液(0.5M,0.23mL,0.115mmol)とα, α, α-trifluorotoluene(14μL、0.114mol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol;3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で3時間さらに60℃で17時間加熱した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロスチレンが33%の収率で得られたことを確認した。
【0200】
【化43】

【0201】
1,1,2−トリフルオロスチレン
19F−NMR(C):δ −103.5(dd,J=72,32Hz,1F),−118.0(dd,J=72,107Hz,1F),−179.2(dd,J=107,32Hz,1F).
【0202】
実施例14:1,1,2−トリフルオロスチレンの合成
同様にして、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd(dba))(0.5mg,0.005mmol),トリシクロヘキシルホスフィン(PCy)(5.6mg,0.02mmol)のTHF(0.4mL)/重ベンゼン(C)(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ(容量:2mL)中に調製し、これにジフェニル亜鉛(PhZn)(27.5mg,0.115mmol)とα, α, α-trifluorotoluene(14μL、0.114mol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol;3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で16時間反応させた。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロスチレンが21%の収率で得られたことを確認した。
【0203】
【化44】

【0204】
1,1,2−トリフルオロスチレン
19F−NMR(C):δ −103.5(dd,J=72,32Hz,1F),−118.0(dd,J=72,107Hz,1F),−179.2(dd,J=107,32Hz,1F).
【0205】
実施例15:LiIによる1,1,2−トリフルオロプロペンの合成の加速効果
同様にして、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd(dba))(0.5mg,0.005mmol),トリフェニルホスフィン(PPh)(5.3mg,0.02mmol)のDioxane(0.4mL)/重ベンゼン(C)(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ(容量:2mL)中に調製し、これにジメチル亜鉛(MeZn)のヘキサン溶液(1M,0.115mL,0.115mmol)、ヨウ化リチウム(16.1mg,0.12mmol)、α, α, α-trifluorotoluene(14μL、0.114mol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol;3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で21時間さらに60℃で59時間加熱した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロプロペンが36%の収率で得られたことを確認した。
【0206】
【化45】

【0207】
1,1,2−トリフルオロプロペン
19F−NMR(C):δ −109.8(dd,J=92,32Hz,1F),−129.7(dd,J=92,114Hz,1F),−170.8(dd,J=114,32Hz,1F).
【0208】
実施例16:LiIによる1,1,2−トリフルオロプロペンの合成の加速効果
同様にして、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd(dba))(0.5mg,0.005mmol),トリシクロヘキシルホスフィン(PCy)(5.6mg,0.02mmol)のDioxane(0.4 mL)/重ベンゼン(C)(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ(容量:2mL)中に調製し、これにジメチル亜鉛(MeZn)のヘキサン溶液(1M,0.115mL,0.115mmol)、ヨウ化リチウム(16.1mg,0.12mmol)、α, α, α-trifluorotoluene(14μL、0.114mol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol;3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で3時間さらに60℃で16時間加熱した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロプロペンが56%、1,1−ジフルオロ−2,2−ジメチルエチレンが1%の収率で得られたことを確認した。
【0209】
【化46】

【0210】
1,1−ジフルオロ−2,2−ジメチルエチレン
19F−NMR(C):δ −101.3(s).
1,1,2−トリフルオロプロペン
19F−NMR(C):δ −109.8(dd,J=92,32Hz,1F),−129.7(dd,J=92,114Hz,1F),−170.8(dd,J=114,32Hz,1F).
【0211】
実施例17:LiIによる1,1,2−トリフルオロプロペンの合成の加速効果
同様にして、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd(dba))(0.5mg,0.005mmol),トリフェニルホスフィン(PPh)(5.3mg,0.02mmol)のTHF(0.4mL)/重ベンゼン(C)(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ(容量:2mL)中に調製し、これにジメチル亜鉛(MeZn)のヘキサン溶液(1M,0.115mL,0.115mmol)、ヨウ化リチウム(16.1mg,0.12mmol)、α, α, α-trifluorotoluene(14μL、0.114 mol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol;3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で5時間さらに60℃で16時間加熱した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロプロペンが57%の収率で得られたことを確認した。
【0212】
【化47】

【0213】
1,1,2−トリフルオロプロペン
19F−NMR(C):δ −109.8(dd,J=92,32Hz,1F),−129.7(dd,J=92,114Hz,1F),−170.8(dd,J=114,32Hz,1F).
【0214】
実施例18:LiIによる1,1,2−トリフルオロスチレンの合成の加速効果
同様にして、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd(dba))(0.5mg,0.005mmol),トリフェニルホスフィン(PPh)(5.3mg,0.02mmol)のTHF(0.4mL)/重ベンゼン(C)(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ(容量:2mL)中に調製し、これにジフェニル亜鉛(PhZn)(27.5mg,0.115mmol)、ヨウ化リチウム(16.1mg,0.12mmol)、α, α, α-trifluorotoluene(14μL、0.114mol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol;3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で19時間さらに60℃で72時間加熱した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロスチレンが41%の収率で得られたことを確認した。
【0215】
【化48】

【0216】
1,1,2−トリフルオロスチレン
19F−NMR(C):δ −103.5(dd,J=72,32Hz,1F),−118.0(dd,J=72,107Hz,1F),−179.2(dd,J=107,32Hz,1F).
【0217】
ここで示した実施例15〜18から、ヨウ化リチウムの様なルイス酸性の添加剤を加えると、収率が向上することが判った。
【0218】
実施例19:1,1,2−トリフルオロスチレンの合成
同様にして、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd(dba))(0.5mg,0.005mmol)のTHF(0.4mL)/重ベンゼン(C)(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ(容量:2mL)中に調製し、これにフェニル亜鉛ブロミド(PhZnBr)のTHF溶液(0.5M,0.23mL,0.115mmol)とα, α, α-trifluorotoluene(14μL、0.114mol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol;3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で3時間加熱した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロスチレンが28%の収率で得られたことを確認した。
【0219】
【化49】

【0220】
1,1,2−トリフルオロスチレン
19F−NMR(C):δ −103.5(dd,J=72,32Hz,1F),−118.0(dd,J=72,107Hz,1F),−179.2(dd,J=107,32Hz,1F).
【0221】
ここで得られた結果から、パラジウムの配位子としてはリンだけでは無く、dbaの様なジケトン構造体でも有効に機能することが判った。
【0222】
実施例20:トリフルオロビニルパラジウム錯体の合成
同様にして、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd(dba))(19.9mg,0.02mmol),トリフェニルホスフィン(PPh)(21.1mg,0.08mmol)、ヨウ化リチウム(5.4mg,0.04mmol)のTHF(0.4mL)/重ベンゼン(C)(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ(容量:2mL)中に調製し、ここにTFE(0.089mmol;1.0atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で48時間放置した。反応をH−NMR、19F−NMR及び31P−NMRで追跡し、トリフルオロビニルパラジウム錯体が単一にかつ定量的に生成していることを確認した。
【0223】
【化50】

【0224】
H−NMR(C):δ 7.04(m,18H),7.90(q,J=6.0Hz,12H).
19F−NMR(C):δ −98.7(ddt,J=103.0,41.6,6.8Hz,1F),δ −131.6(ddt,J=105.0,102.0,4.7Hz,1F),δ −149.7(ddt,J=105.0,42.2,6.5Hz,1F).
31P−NMR(C):δ 22.7(ddd,J=5.8,5.7,5.7Hz).
【0225】
実施例21:1,1−ジフルオロ−2−フェニルエチレンの合成
耐圧チューブ(容量:2mL)中に、トリフルオロエチレン(0.313mmol)、Pd(dba)(5mg,0.005mmol),PPh(5.3mg,0.02mmol),LiI(16.1mg,0.12mmol),PhZnBr(0.5M,0.23mL,0.115mmol)のTHF―d(0.5mL)溶液を調製し、これを60℃で放置した。反応を19F―NMRにて反応を追跡し、1,1−ジフルオロ−2−フェニルエチレンの生成を確認した。
【0226】
【化51】

【0227】
1,1−ジフルオロ−2−フェニルエチレン
19F−NMR(THF−d):δ −86.5(dd,J=37.0,29.2Hz,1F),−83.4(dd,J=37.0,4.4Hz,1F).
【0228】
実施例22:テトラフルオロエチレン−パラジウムビストリシクロヘキシルホスフィン錯体の合成
トルエン10mLにPd(PCy(700mg,1.05mmol)を溶解して得られる淡黄色溶液をグリスレスバルブ付きのガラス製密閉容器(容量:20mL)に移し、脱気減圧した後に1気圧のテトラフルオロエチレンガス(0.89mmol;容器容量と導入圧力から算出した)を封入した。この溶液を室温で攪拌し続けたところ、溶液の色はすぐに白濁するとともに10分以内に白色固体が析出した。
【0229】
さらに1時間攪拌後、反応溶液の上澄みを取り除いて得られた白色結晶性固体をヘキサン(10mL×2)で洗浄することにより、テトラフルオロエチレン−パラジウムビストリシクロヘキシルホスフィン錯体を740mg(0.95mmol,92% yield)得た。
【0230】
【化52】

【0231】
31P−NMR(in C):δ 33.6(m).
H−NMR(in C):δ 1.10−1.35(m,18H),1.50−1.68(m,18H),1.70−1.80(m,12H),2.00−2.15(m,18H).
19F−NMR(in C):δ −128.6(m,4F).
13C−NMR(in C):δ 26.8(s,PCy),28.1(d,10.2Hz,PCy),30.9(s,PCy),36.7(d,11.7Hz,PCy).
【0232】
実施例23:テトラフルオロエチレン−パラジウムビストリフェニルホスフィン錯体の合成
トルエンに(η−CH=CH)Pd(PPh(40mg,1.05mmol) をグリスレスバルブ付きのガラス製密閉容器(容量:100mL)に移し、脱気減圧した。別のグリスレスバルブ容器に重水素化トルエン(1.0mL)を加え、凍結脱気した後にTFEガスを1気圧充填し(4.47mmol)、重水素化トルエンをTFEで飽和させた。両者を高真空ラインに接続し、減圧下液体窒素を用い重水素化トルエン/TFEを上記エチレン錯体を含む前述のチューブに凝集させた。
【0233】
反応溶液をゆっくり室温まで昇温すると、徐々に溶液は褐色を帯びるとともに白色沈殿の生成が確認された。NMRを測定したところ、標題の錯体が定量的に得られることと、遊離のエチレンの発生を確認した。NMR測定後、減圧下で余剰のTFE及び重水素化トルエンを全て留去した後に残った固体をトルエン/ヘキサン混合溶媒で洗浄した。その後、減圧下で乾燥後、あらためて重ベンゼンに溶解しNMRを測定したところ、標題の錯体が減圧下においても分解(配位したTFE分子が遊離)することなく存在することを確認した。
【0234】
【化53】

【0235】
テトラフルオロエチレン−パラジウムビストリフェニルホスフィン錯体
31P−NMR(in C):δ 23.4(m).
H−NMR(in C):δ 6.85−6.97(m,18H),7.36−7.45(m,12H).
19F−NMR(in C):δ −129.6(m,4F).
13C−NMR(in C):δ 128.6(d,9.8Hz,meta−C),129.9(s,para−C),134.2(d, 15.2 Hz,ortho−C),134.7(d,32.5Hz,ipso−C).
【0236】
比較例1
同様にして、耐圧チューブ(容量:2mL)中に調製した、ジメチル亜鉛(MeZn)(1Mヘキサン溶液,0.1mL,0.1mmol)とα, α, α-trifluorotoluene(14μL、0.114mol:19F−NMR測定時の内部標準)のDioxane(0.4mL)/重ベンゼン(C)(0.1mL)混合溶媒溶液に、TFE(0.313mmol;3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を100℃で75時間加熱した。反応を19F−NMRで追跡したところ、内部標準以外に目的物とは異なるフッ素のピークが痕跡観測できたが、1,1,2−トリフルオロプロペン及び1,1−ジフルオロ−2,2−ジメチルエチレンはまったく生成していないことを確認した。
【0237】
比較例2
同様にして、耐圧チューブ(容量:2mL)中に調製した、フェニル亜鉛ブロミド(PhZnBr)(0.5MTHF溶液,0.2mL,0.1mmol)とα, α, α-trifluorotoluene(14μL、0.114mol:19F−NMR測定時の内部標準)のTHF(0.4mL)/重ベンゼン(C)(0.1mL)混合溶媒溶液に、TFE(0.313mmol;3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を100℃で75時間加熱した。反応を19F−NMRで追跡し、1,1,2−トリフルオロスチレンを0.9%検出した。
【0238】
以上の2つの比較例から、本発明の遷移金属触媒が存在しないと、目的とするTFEの置換反応はほとんど進行しないことが判った。
【0239】
上記の実施例及び比較例について、一部を抽出して以下の表1〜3に示す。なお、Ni錯体を使用した場合についても、表1〜3に示している。
【0240】
【表1】

【0241】
【表2】

【0242】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機パラジウム錯体の存在下に、含フッ素オレフィン中のsp2混成炭素原子に結合したフッ素原子を、他の原子又は原子団で置換する、有機フッ素化合物の製造方法。
【請求項2】
有機パラジウム錯体が、0価パラジウム錯体;II価パラジウム錯体と塩基により系中で発生した0価パラジウム錯体;又はこれらと、ホスフィン、ジアミン及びビピリジルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを混合して得られる錯体である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
0価のパラジウム錯体が、Pd(DBA)(DBAはジベンジリデンアセトン)、Pd(COD)(CODはシクロオクタ−1,5−ジエン)、Pdエチレン錯体、Pd(DPPE)(DPPEは1,2−ビスジフェニルホスフィノエタン)、Pd(PCy(Cyはシクロヘキシル基)及びPd(PPh(Phはフェニル基)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、ホスフィンが、トリアリールホスフィン又はトリアルキルホスフィンである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
有機パラジウム錯体の存在下に、含フッ素オレフィンと求核試薬とを反応させることで、含フッ素オレフィン中のsp2混成炭素原子に結合したフッ素原子を、他の原子又は原子団で置換する、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
求核試薬が有機金属試薬である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
有機金属試薬の金属種がスズ、亜鉛、ケイ素、銅、アルミニウム又はガリウムである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
さらに、金属ハロゲン化試薬を添加して反応させる、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
テトラフルオロエチレンと、有機パラジウム錯体とを反応して得られる、Pd−トリフルオロビニル錯体。
【請求項9】
テトラフルオロエチレンと有機パラジウム錯体とを加熱することによる、請求項10に記載のPd−トリフルオロビニル錯体の製造方法。
【請求項10】
さらに、有機亜鉛試薬を触媒として用いる、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
さらに、リチウム塩試薬を触媒として用いる、請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
式(3)及び/又は(4):
【化1】

(式中、Rは、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、
有機パラジウム錯体の存在下、テトラフルオロエチレンと、求核試薬とを反応させることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項13】
式(4’):
【化2】

(式中、R及びR’は同じか又は異なり、いずれも置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、
(i)有機パラジウム錯体の存在下、テトラフルオロエチレンと、求核試薬とを反応させて、式(3):
【化3】

(式中、Rは前記に同じ。)
で表される化合物を製造する工程、及び
(ii)有機パラジウム錯体の存在下、テトラフルオロエチレンと、求核試薬とを反応させて、式(4’):
【化4】

(式中、R及びR’は前記に同じ。)
で表される化合物を製造する工程
を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項14】
式(3a):
【化5】

(式中、Rは、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、
有機パラジウム錯体の存在下、トリフルオロエチレンと、求核試薬とを反応させることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項15】
有機ニッケル錯体の存在下に、含フッ素オレフィン中のsp2混成炭素原子に結合したフッ素原子を、他の原子又は原子団で置換する、有機フッ素化合物の製造方法。
【請求項16】
有機ニッケル錯体が、コーンアングルが170〜190°である配位子を有する、0価ニッケル錯体又はII価ニッケル錯体と塩基により系中で発生した0価ニッケル錯体である、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
有機ニッケル錯体が、0価ニッケル錯体又はII価ニッケル錯体と塩基により系中で発生した0価ニッケル錯体と、ホスフィン、ジアミン及びビピリジルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを混合して得られる、請求項15又は16に記載の製造方法。
【請求項18】
0価のニッケル錯体が、Ni(COD)(CODはシクロオクタ−1,5−ジエン)、Ni(CDD)(CDDはシクロデカ−1,5−ジエン)、Ni(CDT)(CDTはシクロドデカ−1,5,9−トリエン)、Ni(VCH)(VCHは4−ビニルシクロヘキセン)、Ni(CO)、(PCyNi−N≡N−Ni(PCy(Cyはシクロヘキシル基)及びNi(PPh(Phはフェニル基)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、ホスフィンが、トリアリールホスフィン又はトリアルキルホスフィンである、請求項16又は17に記載の製造方法。
【請求項19】
有機ニッケル錯体の存在下に、含フッ素オレフィンと求核試薬とを反応させることで、含フッ素オレフィン中のsp2混成炭素原子に結合したフッ素原子を、他の原子又は原子団で置換する、請求項15〜18のいずれかに記載の製造方法。
【請求項20】
求核試薬が有機金属試薬である、請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
有機金属試薬の金属種がスズ、亜鉛、ケイ素、銅、アルミニウム又はガリウムである、請求項20に記載の製造方法。
【請求項22】
さらに、金属ハロゲン化試薬を添加して反応させる、請求項15〜21のいずれかに記載の製造方法。
【請求項23】
テトラフルオロエチレンと、有機ニッケル錯体とを反応して得られる、Ni−トリフルオロビニル錯体。
【請求項24】
テトラフルオロエチレンと有機ニッケル錯体とを加熱することによる、請求項23に記載のNi−トリフルオロビニル錯体の製造方法。
【請求項25】
さらに、有機亜鉛試薬を触媒として用いる、請求項24に記載の製造方法。
【請求項26】
さらに、リチウム塩試薬を触媒として用いる、請求項24又は25に記載の製造方法。
【請求項27】
式(3)及び/又は(4):
【化6】

(式中、Rは、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、
有機ニッケル錯体の存在下、テトラフルオロエチレンと、求核試薬とを反応させることを特徴とする、請求項15に記載の製造方法。
【請求項28】
式(4’):
【化7】

(式中、R及びR’は異なり、いずれも置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、
(i)有機ニッケル錯体の存在下、テトラフルオロエチレンと、求核試薬とを反応させて、式(3):
【化8】

(式中、Rは前記に同じ。)
で表される化合物を製造する工程、及び
(ii)有機ニッケル錯体の存在下、テトラフルオロエチレンと、求核試薬とを反応させて、式(4’):
【化9】

(式中、R及びR’は前記に同じ。)
で表される化合物を製造する工程
を含む、請求項15に記載の製造方法。
【請求項29】
式(3a):
【化10】

(式中、Rは、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、
有機ニッケル錯体の存在下、トリフルオロエチレンと、求核試薬とを反応させることを特徴とする、請求項15に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−229129(P2010−229129A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48416(P2010−48416)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】