説明

有機半導体レーザ装置および有機エレクトロルミネッセンス装置

【課題】大電流の注入による熱破壊を防ぎ、電流励起によるレーザ発振を実現する。大電流駆動を可能とした高輝度の有機エレクトロルミネッセンス装置を提供する。
【解決手段】この有機半導体レーザ装置は、有機半導体レーザ活性層2と、有機半導体レーザ活性層2に正孔を供給する第1透明導電膜としての陽極1と、有機半導体レーザ活性層2に電子を供給する陰極3とを備えている。陽極1を支持する透明基板10は、サファイヤ基板からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機半導体レーザ活性層を挟んで陽極および陰極を配置した有機半導体レーザ装置、および有機半導体発光層を挟んで陽極および陰極を配置した有機エレクトロルミネッセンス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体レーザ装置の構造は、たとえば、下記特許文献1に開示がある。この有機半導体レーザ装置は、基板と、この基板上に配置された陽極層と、この陽極層上に配置された発光層と、この発光層上に配置された陰極層とを備えている。この装置は、陽極層から発光層へ正孔が注入され、また、陰極層から発光層に電子が注入されることによって、発光層内で正孔および電子が再結合して発光するとともに、この光が、陽極層と発光層との接触面および発光層と陰極層との接触面で反射を繰り返すことにより増幅され、レーザ光として放出されると説明されている。
【0003】
基板材料としては、ガラスおよびプラスチックフィルムが適用可能であるとされ、さらに、陽極層の材料として、ITO(酸化インジウム錫)が挙げられ、陰極層の材料として、10nm〜1μm厚のMgAg合金等の金属が挙げられている。
【特許文献1】特開2004−186599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、電流励起によって増幅自然放出(ASE:Amplified Spontaneous Emission)を起こさせるためには、千アンペアのオーダーの電流の注入が必要になるが、このような大電流を注入することで、発光層が熱破壊に至ってしまうという問題がある。
また、有機半導体レーザ装置に限らず、有機エレクトロルミネッセンス装置においても、高輝度発光のために高電流密度による駆動を行うとすると、同様の問題に直面することになる。
【0005】
そこで、この発明の目的は、大電流の注入による熱破壊を防ぎ、これにより、電流励起によるレーザ発振を有利に行うことができる有機半導体レーザ装置を提供することである。
また、この発明の他の目的は、大電流の注入による熱破壊を防ぎ、これにより、高輝度での発光を実現した有機エレクトロルミネッセンス装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、有機半導体レーザ活性層と、第1透明導電膜を有し、前記有機半導体レーザ活性層に正孔を供給する陽極と、第2透明導電膜を有し、前記有機半導体レーザ活性層に電子を供給する陰極と、熱伝導率が40W/m・K以上の材料からなり、前記陽極または陰極を支持する基板とを含むことを特徴とする有機半導体レーザ装置である。なお、「透明」とは、有機半導体レーザ活性層の発光波長の光の透過率が50%以上(より好ましくは、80%以上)である場合を指す。
【0007】
この構成によれば、有機半導体レーザ活性層において生じた熱を良好に放熱することができる。これによって、大きな電流密度を有機半導体レーザ活性層に電流を注入することが可能となり、電流励起による増幅自然放出(ASE)を達成することができる。
請求項2記載の発明は、前記基板が透明基板であることを特徴とする請求項1記載の有機半導体レーザ装置である。この構成では、基板が透明基板であるので、有機半導体レーザ活性層内に光を良好に閉じ込めることができ、増幅自然放出を生じさせるためのしきい値(ASEしきい値)を低く維持することができる。
【0008】
請求項3記載の発明は、前記基板が不透明基板であり、この基板上に透明な光閉じこめ層を介して前記陽極または陰極が積層されていることを特徴とする請求項1記載の有機半導体レーザ装置である。この構成では、基板には不透明基板を用いているが、この基板上に透明な光閉じ込め層を配置していることにより、光伝播損失を抑制して、ASEしきい値を低く維持することができる。
【0009】
光閉じ込め層は、酸化シリコン、アルミナ、サファイヤ、ダイヤモンド、またはアモルファスカーボンで構成することができる。この光閉じ込め層は、当該光閉じ込め層の屈折率をn、発光波長をλとして、少なくともλ/2nで表される厚み以上とすることにより、効率的に光を閉じ込めることができる。
請求項4記載の発明は、前記基板がサファイヤ、シリコン、化合物半導体(GaAs、InPなど)、金属(銅、ステンレスなど)、グラファイト、ダイヤモンド、セラミックスおよびアモルファスカーボンよりなる群から選択した1種以上の材料を含むことを特徴とする請求項1記載の有機半導体レーザ装置である。
【0010】
これらの材料によって基板を構成することにより、40W/m・K以上の熱伝導率を実現することができるので、1000アンペア/cm2オーダの電流を、破壊を生じさせることなく、有機半導体レーザ活性層に注入することが可能である。これによって、電流励起による増幅自然放出を実現できる。
前記アモルファスカーボンは、いわゆるダイヤモンドライクカーボン(DLC:Diamond Like Carbon(ダイヤモンドの様なカーボン))であってもよい。ダイヤモンドライクカーボンは、炭素および水素を主体とした非晶質のカーボン薄膜を形成する。このアモルファスカーボンを基板材料として用いる場合には、支持基板の表面にアモルファスカーボン薄膜を形成して基板を構成することが好ましい。
【0011】
請求項5記載の発明は、前記有機半導体レーザ活性層は、前記陰極から電子の供給を受ける電子輸送層と、前記陽極から正孔の供給を受ける正孔輸送層と、前記電子輸送層および前記正孔輸送層の間に配置され、前記電子輸送層および正孔輸送層よりも屈折率の大きな発光層とを含むものであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の有機半導体レーザ装置である。
【0012】
この構成によれば、有機半導体レーザ活性層は、発光層を電子輸送層および正孔輸送層で挟持したダブルヘテロ構造を有していて、発光層が、電子輸送層および正孔輸送層よりも大きな屈折率を有している。そのため、この発光層内に良好に光が閉じ込められることになる。これによって、ASEしきい値を低くすることができる。
前記発光層は、前記電子輸送層および前記正孔輸送層よりも、HOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギーレベルおよびLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー間のエネルギーギャップが大きな有機半導体材料からなっていることが好ましい。これによって、発光層内にキャリヤを効率的に閉じ込めることができるので、ASEしきい値をより低くすることができる。
【0013】
前記電子輸送層を構成する有機材料としては、Alq3(8−ヒドロキシキノリンアルミニウムなどのアルミキノリノール錯体)のような金属錯体や、のPBD(2-(4-tert-Butylphenyl)-5-(4-biphenylyl)-1,3,4-oxadiazole)およびTAZ(1,2,4-トリアゾール誘導体)のようなオキサジアゾール・トリアゾール(電子輸送材料)や、BCP(2,9-dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthroline。バソキュプロイン)のようなフェナントロリン(電子輸送・正孔阻止材料)を例示することができる。
【0014】
また、前記正孔輸送層を構成する有機材料としては、α−NPD(4,4'-bis[N(1-naphthyl)-N-phenyl-amino]biphenyl。低分子量アリールアミン誘導体)、mMTDATA(4,4',4"-tris[3-methylphenyl-(phenyl)-amino]-triphenyl-amine)、TPD((N,N’-diphenyl-N,N’-(3-methylphenyl)-1,1’-biphenyl)-4,4’-diamine。トリフェニルアミン誘導体)およびCBP(4,4'-di(N-carbazolyl)biphenyl)などのアリールアミン(正孔注入・輸送材料)や、CuPc(銅フタロシアニン)のような金属錯体(正孔注入材料)を例示することができる。
【0015】
この場合に、前記発光層としては、スチリルベンゼン誘導体(たとえば、下記化学式(D-1)のBSB(1,4-dimethoxy-2,5-bis[p-[N-phenyl-N-(m-tolyl)amino]styryl]benzene)をレーザ色素(発光層用ドーパント)とし、フェニルカルバゾール誘導体(たとえば、下記化学式(H-1)のCBP、下記化学式(H-2)のmCP、下記化学式(H-3)のCDBP)をホスト材とした有機半導体混合物層を例示することができる。
【0016】
レーザ色素としては、他にも、下記化学式(D-2)のDCM2(ジアノメチレンピラン誘導体:赤色)、下記化学式(D-3)のCoumarin6(緑色)および下記化学式(D-4)のPerylene(青色)を例示できる。また、ホスト材としては、他にも、下記化学式(H-4)のUGH1や下記化学式(H-5)のUGH2などのアリールシランを例示できる。
【0017】
【化1】

【0018】
【化2】

【0019】
前記陰極は、前記有機半導体レーザ活性層側に配置された厚さ10nm未満(好ましくは、3.0nm以下、さらに好ましくは、2.5nm以下)の金属層及び金属含有薄膜層、およびこの金属含有薄膜層に積層された第2透明導電膜を有する積層構造膜からなっていてもよい。
この構成によれば、有機半導体レーザ活性層に電子を供給する陰極は、有機半導体レーザ活性層側に厚さ10nm未満の金属層及び金属含有薄膜層を配置するとともに、この金属含有薄膜層に第2透明導電膜を積層した積層構造膜で構成されている。これにより、陰極における光伝播損失を抑える一方で、第2透明導電膜の形成時における有機半導体レーザ活性層表面のダメージを抑制し、併せて、第2透明導電膜から有機半導体レーザ活性層への電子注入障壁を金属含有薄膜層によって緩和することができ、電子注入効率を高めることができる。このようにして、電流励起による増幅自然放出のためのしきい値(ASEしきい値)を小さくすることができるので、電流励起によるレーザ発振に有利な構成とすることができる。
【0020】
金属層及び金属含有薄膜層に積層される第2透明導電膜の膜厚は、この第2透明導電膜における光伝播損失を抑制するためには、40nm以下とすることが好ましく、30nm以下の膜厚とすることがより好ましい。
陽極を構成する第1透明導電膜についても同様な理由で、100nm以下の膜厚とすることが好ましく、30nm以下の膜厚とすればより好ましい。
【0021】
第1および第2透明導電膜の材料としては、たとえばITO(酸化インジウム錫)、IZO(酸化インジウム亜鉛)またはZnO(酸化亜鉛)などの透明な導電材料を例示できる。
前記金属層及び金属含有薄膜層は、MgAg合金、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの一種以上を含むことが好ましい。これらの金属は、有機半導体レーザ活性層への電子注入障壁を緩和し、電子注入効率を高めることができる材料である。アルカリ金属には、Li、Na、K、Rb、Cs、Frが含まれる。また、アルカリ土類金属には、Ca、Sr、Ba、Raが含まれる。
【0022】
また、前記金属含有薄膜層は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの一種以上と有機物との混合物を含むものであってもよい。上記有機物としては、BPC(フェナンスレン誘導体)、Bphen(バソキュプロイン誘導体)、アルミニウムキノリン誘導体、トリアゾール誘導体などを例示することができる。
このような材料も、有機半導体レーザ活性層への電子注入障壁を緩和することができ、電子注入効率を高めることができる。それとともに、第2透明導電膜を形成するときに、有機半導体レーザ活性層をダメージから保護することができる。
【0023】
請求項6記載の発明は、有機半導体発光層と、第1透明導電膜を有し、前記有機半導体発光層に正孔を供給する陽極と、第2透明導電膜を有し、前記有機半導体発光層に電子を供給する陰極と、前記陽極または陰極を支持する基板とを含み、前記基板が、シリコン、化合物半導体、金属、グラファイト、ダイヤモンド、セラミックスおよびアモルファスカーボンよりなる群から選択した1種以上の材料を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置である。この構成により、高電流密度での駆動が可能であり、したがって、高輝度発光が可能な有機エレクトロルミネッセンス装置を実現できる。有機半導体発光層は、前述の有機半導体レーザ活性層と同様に構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る有機半導体レーザ装置の構成を説明するための図解的な断面図である。この有機半導体レーザ装置は、透明基板10によって支持された第1透明導電膜としての陽極1上に有機半導体レーザ活性層2を積層し、さらに、この有機半導体レーザ活性層2上に陰極3を積層して構成されている。陰極3は、有機半導体レーザ活性層2に接する超薄膜MgAg層31とこの超薄膜MgAg層31に積層された透明導電膜(第2透明導電膜)32との積層構造膜からなっている。すなわち、透明導電膜32は、超薄膜MgAg層31を挟んで有機半導体レーザ活性層2上に配置されている。陽極1および透明導電膜32は、この実施形態では、いずれもITO(酸化インジウム錫)からなっていて、陽極1は、たとえば30nmの膜厚を有し、透明導電膜32は、たとえば20nmの膜厚とされている。そして、超薄膜MgAg層31は、たとえば2.5nmの膜厚とされている。
【0025】
透明基板10は、たとえばサファイヤ基板からなっており、その熱伝導率は、46W/m・Kである。
有機半導体レーザ活性層2は、陽極1側から順に正孔輸送層21、発光層22(活性層)、および電子輸送層22を積層して構成されており、これらはいずれも有機半導体材料からなっている。より具体的には、正孔輸送層21は、たとえば、α−NPDからなり、その膜厚は、たとえば20nmとされる。また、発光層22は、BSBをレーザ色素とし、CBPをホスト材とした有機半導体混合物層からなっており、その膜厚は、たとえば70nmとされる。BSBの含有量は、たとえば6重量%とされる。
【0026】
電子輸送層23は、この実施形態では、発光層22に接する第1電子輸送層231(正孔ブロック層)を形成するBCP層(膜厚20nm)と、この第1電子輸送層231と陰極3との間にはさまれた第2電子輸送層232を構成するAlq3(たとえば膜厚20nm)との積層構造となっている。
このように、有機半導体レーザ活性層2は、正孔輸送層21および電子輸送層23によって発光層22を挟持したダブルヘテロ構造を有している。そして、CBP:BSBからなる発光層22の屈折率はn=1.84であり、陽極1側において発光層22に接する正孔輸送層21の屈折率はn=1.81であり、陰極1側において発光層22に接合されている第1電子輸送層231を構成するBCPの屈折率nはn=1.66である。すなわち、発光層22は、その両側に配置された正孔輸送層21および第1電子輸送層231のいずれよりも屈折率nが高く、したがって、この発光層22内に光が閉じ込められ易い構造となっている。換言すれば、発光層22は、光閉じ込め層としての正孔輸送層21および第1電子輸送層231に挟持されているといえる。
【0027】
また、HOMOエネルギーレベルとLUMOエネルギーレベルとの間のエネルギーギャップは、発光層22を構成するCBP:BSBが最も大きく、この発光層22に隣接する正孔輸送層21および第1電子輸送層231のエネルギーギャップは、発光層22のエネルギーギャップよりも小さくなっている。これにより、発光層22内にキャリヤが閉じ込められ易い構造となっている。すなわち、正孔輸送層21および第1電子輸送層231は、キャリヤ閉じ込め層としての機能をも有している。
【0028】
この実施形態に係る有機半導体レーザ装置によれば、有機半導体レーザ活性層2上に超薄膜MgAg層31を挟んで透明導電膜32を配置しているため、厚い金属膜によって陰極を構成する場合に比較して、光伝播損失を格段に抑制することができる。しかも、超薄膜MgAg層31を有機半導体レーザ活性層2の表面に形成していることによって、電子注入障壁が緩和されているとともに、透明導電膜32を形成するときのダメージから有機半導体レーザ活性層2の表面を保護することができる。これによって、陰極3から有機半導体レーザ活性層2への電子注入効率を高めることができる。
【0029】
このようにして、増幅自然放出(ASE)を生じさせるためのしきい値(ASEしきい値)を低くすることができるので、陽極1から有機半導体レーザ活性層2に正孔を注入するとともに、陰極3から有機半導体レーザ活性層2に電子を注入することにより、電流励起によるレーザ発振を生じさせることができる。すなわち、陽極1から注入された正孔は、正孔輸送層21によって発光層22へと輸送され、陰極3から注入された電子は、電子輸送層23によって発光層22へと輸送される。この発光層22内では、正孔および電子の再結合が生じ、これに伴う発光が起こる。これに伴う光は、発光層22と正孔輸送層21および電子輸送層23との各界面、ならびに正孔輸送層21と陽極1との界面、ならびに陰極3と電子輸送層23との界面における反射を繰り返すことによって増幅され、端面7から放出されることになる。
【0030】
透明基板10に、高熱伝導率を有するサファイヤ基板を適用することにより、放熱性が格段に向上されているので、有機半導体レーザ活性層2に高い電流密度で電流を注入しても、有機半導体レーザ活性層2の熱破壊が生じることがなく、電流励起による増幅自然放出を生じさせることができる。
この実施形態の有機半導体レーザ装置は、電流励起ではなく、光励起によってレーザ発振を生じさせることも可能である。すなわち、透明基板10側または陰極3側から、ポンピングレーザ光8を入射することにより、有機半導体レーザ活性層2内でレーザ光が繰り返し反射されて増幅される。これにより、端面7からレーザ光を取り出すことができる。
【0031】
なお、図1の実施形態では、透明基板10上に陽極1が支持されているが、透明基板によって陰極3側を支持する構成としてもよい。
また、図1の構成は、レーザ発振のために用いるのではなく、有機エレクトロルミネッセンス装置として用いることもできる。この場合、高電流密度での駆動が可能なので、高輝度での発光を実現できる。
【0032】
図2は、この発明の他の実施形態に係る有機半導体レーザ装置の構成を説明するための図解的な断面図である。この図2において、上述の図1に示された各部に対応する部分には、図1の場合と同一の参照符号を付して示す。この実施形態では、陽極1を支持する基板15は、高熱伝導率の不透明な基板からなっている。具体的には、たとえば、基板15は、シリコン基板(熱伝導率148W/m・K)や、銅(熱伝導率390W/m・K)等の金属で構成されている。この不透明な基板15の表面には、透明な光閉じ込め層16が形成されており、この光閉じ込め層16上に陽極1が配置されている。
【0033】
光閉じ込め層16は、その基板15との間の界面における反射率を最大とするために、その膜厚がλ/2n以上(λは有機半導体レーザ活性層の発光波長、nは光閉じ込め層16の屈折率)とされることが好ましい。より具体的には、有機半導体レーザ活性層2からの発光波長λ=500nmの場合であって、光閉じ込め層16を酸化シリコン(n=1.5)で構成する場合には、光閉じ込め層16の膜厚を170nm程度とすればよい。光閉じ込め層16は、酸化シリコンの他にも、アルミナ、サファイヤ、ダイヤモンド、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、セラミックスなどで構成することができる。
【0034】
このようにして、不透明な基板15を用いる場合であっても、光閉じ込め層16を基板15と陽極1との間に介在させることによって、光伝播損失を抑制して、レーザ発振のためのしきい値を低く維持することができる。それとともに、高熱伝導率が求められる基板材料の選択の幅が広がるから、より大きな電流密度で有機半導体レーザ活性層2に電流を注入することができる。
【0035】
なお、図2の実施形態では、基板15上に光閉じ込め層16を介して陽極1が支持されているが、基板15および光閉じ込め層16を陰極3側に配置し、これらによって陰極3を支持する構成としてもよい。
また、図2の構成も、レーザ発振のために用いるのではなく、有機エレクトロルミネッセンス装置として用いることもでき、高電流密度での駆動が可能なので、高輝度での発光が可能となる。
[参考例1]
【0036】
透明基板10としてガラス基板を用いて、参考例1としての有機半導体レーザ装置を作製した。具体的には、ガラス基板の表面に、3×10-3Pa程度の真空中で、30nmの膜厚のITOを陽極1として堆積させた。このITOからなる陽極1上に、真空蒸着により、有機半導体レーザ活性層2を構成する4つの有機層21,22,231,232を順に形成した。正孔輸送層21は、膜厚20nmのα−NPDとした。発光層22は、レーザ色素としてのBSBを、ホスト材料としてのCBP中に6重量%添加するように、共蒸着によって作製し、その膜厚を70nmとした。第1電子輸送層(正孔ブロック層)231としては、20nmの膜厚のBCPを堆積し、第2電子輸送層(電子注入層)232としては、膜厚20nmのAlq3を堆積した。
【0037】
陰極3は、3×10-3Pa程度の真空中における蒸着によって膜厚2.5nmの超薄膜MgAg層31を有機半導体レーザ活性層2上に堆積させ、その後、1×10-1Paの真空中で、アルゴン(11.4sccm)および酸素(0.6sccm)のガスフロー中で、マグネトロンスパッタリングにより、ITOからなる透明導電膜32を形成した。その膜厚は、20nmとした。
【0038】
陰極3の形成に先立って、ガラスからなる透明基板10側からポンピングレーザ光8を入射して光励起によるレーザ発振を行わせたところ、ASEしきい値Eth=4.7±0.9μJ/cm2であった。陰極3を形成した後に、同様の測定を行ったところ、ASEしきい値Eth=5.1±1.0μJ/cm2であり、超薄膜MgAg層31および透明導電膜32の積層膜からなる陰極3の形成によっても、ほとんど光伝播損失が増加しないことが確認された。
【0039】
図3は、前記のようにして作製された参考例1の構成(陰極3を形成したもの)の有機半導体レーザ装置において、種々の励起光強度(Excitation intensity)における波長(Wavelength)に対する放出強度(Emission intensity)の特性(すなわち、発光スペクトル)を測定した結果を示す。また、図4には、前記の参考例1の有機半導体レーザ装置における励起光強度に対する放射光強度の測定結果が示されている。
【0040】
下記表1には、ITOからなる透明導電膜32の膜厚を複数種類に設定して、ASEしきい値を測定した結果が示されている。この測定は、超薄膜MgAg層31の膜厚を2.5nmに固定して行った。
この表1から、ITOからなる透明導電膜32の膜厚が20nmおよび30nmのときには明確なASEしきい値が観測されたのに対して、透明導電膜32の膜厚を40nmとしたときには、ASEしきい値が不明確になり、したがって、透明導電膜32の膜厚を40nmを超える値に設定すると、光伝播損失が大きくなって、光増幅が阻害されることがわかる。
【0041】
【表1】

【0042】
下記表2は、ITOからなる透明導電膜32の膜厚を30nmに固定して、超薄膜MgAg層31の膜厚を種々に変化させて、ASEしきい値を測定した結果が示されている。この表2から、超薄膜MgAg層31の膜厚を3.0nmとするとASEしきい値が不明確となり、したがって、この超薄膜MgAg層の膜厚を3.0nmを超えて設定すれば、光伝播損失が大きくなって、光増幅が阻害されることが理解される。
【0043】
【表2】

【0044】
さらに、透明基板10としてガラス基板を用いた前記の構成の有機半導体レーザ装置に対して、電流励起による増幅自然放出を試みた。比較例として、陰極電極に10nmの膜厚のAg層と100nmの膜厚のMgAg層との積層構造を用い、他の構成については上記の参考例1の通りに作製した装置を用意した。
図5には、前記参考例1の装置と、前記比較例の装置とに関して、電圧に対する電流密度の変化を測定した結果が示されている。この図5には、前記参考例1の装置および比較例の装置に関して、電流密度に対する外部量子効率を測定した結果が併せて示されている。この図5から、参考例1の装置の場合には、比較例の装置に比較して、しきい値電圧Vthが増加するものの、高い外部量子効率3.6%(電流密度J=0.1mA/cm2が達成されていることがわかる。
【0045】
光励起によるASEしきい値Eth=12.8±2.6μJ/cm2(MgAg層の膜厚を2.5nmとし、透明導電膜32の膜厚を30nmとした場合)から、電流励起による増幅自然放出を生じさせるために必要な電流密度を見積もると、3840A/cm2となる。
[参考例2]
【0046】
サファイヤ基板上に陽極としてのITO膜(膜厚110nm)、CuPc(銅フタロシアニン)層(膜厚25nm)、陰極としてのMgAg層(膜厚100nm)および同じく陰極としてのAg層(膜厚10nm)を積層して、有機半導体装置を作製した。この有機半導体装置に関して、電圧(Voltage)に対する電流密度(Current density)の特性を測定した結果を図6に示す。陰極は円形に形成し、その半径rを25μm、50μm、100μm、200μm、500μmとした場合の各特性を測定した。この図7から、電流密度4026A/cm2(陰極半径r=25μmのとき)を達成でき、素子の破壊が生じていないことが理解される。
[参考例3]
【0047】
シリコン基板上に、陽極としてのITO膜(膜厚110nm)、有機半導体層としてのCuPc層(膜厚25nm)、陰極としてのMgAg層(膜厚100nm)および同じく陰極としてのAg層(10nm)を積層して、有機半導体装置を作製した。この有機半導体装置に対して、電圧対電流密度特性を測定した。陰極は円形に形成し、その半径rを25μm、50μm、100μm、200μm、500μmとした場合の各特性を測定した。測定結果を、図7に示す。この図7から、電流密度12222A/cm2(陰極半径r=25μmのとき)が達成され、かつ、素子の破壊が生じないことが理解される。
【0048】
上記参考例2および3から、透明基板10として、サファイヤやシリコンのように高熱伝導率を示す材料を適用することによって、電流励起による増幅自然放出に必要な電流密度を、素子の破壊を生じさせることなく実現できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】この発明の一実施形態に係る有機半導体レーザ装置の構成を説明するための図解的な断面図である。
【図2】この発明の他の実施形態に係る有機半導体レーザ装置の構成を説明するための図解的な断面図である。
【図3】図1の構成の有機半導体レーザ装置において、種々の励起光強度における波長に対する放出強度の特性を測定した結果を示す特性図である。
【図4】図1の構成の有機半導体レーザ装置における励起光強度に対する放射光強度の測定結果を示す図である。
【図5】参考例の装置と比較例の装置とに関して、電圧に対する電流密度の変化を測定した結果を示す図である。
【図6】サファイヤ基板を用いた参考例の有機半導体装置に関して、電圧に対する電流密度の特性を測定した結果を示す図である。
【図7】シリコン基板を用いた参考例の有機半導体装置に関して、電圧に対する電流密度の特性を測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
1 第1透明導電膜としての陽極
2 有機半導体レーザ活性層
3 陰極
7 端面
8 ポンピングレーザ光
10 透明基板
15 基板
16 光閉じ込め層
21 正孔輸送層
22 電子輸送層
22 発光層
23 電子輸送層
231 第1電子輸送層(正孔ブロック層)
232 第2電子輸送層(電子注入層)
31 超薄膜MgAg層
32 透明導電膜(第2透明導電膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体レーザ活性層と、
第1透明導電膜を有し、前記有機半導体レーザ活性層に正孔を供給する陽極と、
第2透明導電膜を有し、前記有機半導体レーザ活性層に電子を供給する陰極と、
熱伝導率が40W/m・K以上の材料からなり、前記陽極または陰極を支持する基板とを含むことを特徴とする有機半導体レーザ装置。
【請求項2】
前記基板が透明基板であることを特徴とする請求項1記載の有機半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記基板が不透明基板であり、この基板上に透明な光閉じこめ層を介して前記陽極または陰極が積層されていることを特徴とする請求項1記載の有機半導体レーザ装置。
【請求項4】
前記基板がサファイヤ、シリコン、化合物半導体、金属、グラファイト、ダイヤモンド、セラミックスおよびアモルファスカーボンよりなる群から選択した1種以上の材料を含むことを特徴とする請求項1記載の有機半導体レーザ装置。
【請求項5】
前記有機半導体レーザ活性層は、
前記陰極から電子の供給を受ける電子輸送層と、
前記陽極から正孔の供給を受ける正孔輸送層と、
前記電子輸送層および前記正孔輸送層の間に配置され、前記電子輸送層および正孔輸送層よりも屈折率の大きな発光層とを含むものであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の有機半導体レーザ装置。
【請求項6】
有機半導体発光層と、
第1透明導電膜を有し、前記有機半導体発光層に正孔を供給する陽極と、
第2透明導電膜を有し、前記有機半導体発光層に電子を供給する陰極と、
前記陽極または陰極を支持する基板とを含み、
前記基板が、シリコン、化合物半導体、金属、グラファイト、ダイヤモンド、セラミックスおよびアモルファスカーボンよりなる群から選択した1種以上の材料を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−329141(P2007−329141A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241145(P2004−241145)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年2月23日 アメリカン・インスティテュート・オブ・フィジックス発行の「アプライド・フィジックス・レターズ 第84巻 第8号」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年3月28日 社団法人応用物理学会発行の「2004年(平成16年)春季 第51回 応用物理学関係連合講演会講演予稿集 第3分冊」に発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】