説明

有機塩素化物分解用鉄粉、その製造方法及びそれを用いた無害化処理方法

【課題】土壌中の様な固体中での有機塩素化物の分解性能が高く、なおかつNi含有量が少ない分解用鉄粉が求められていた。
【解決手段】粒度53μm未満が40重量%未満、Ni量が0.1〜0.5重量%、炭素量が0.005〜5重量%を含んでなる有機塩素化合物の分解用鉄粉を用いる。Ni、炭素と鉄は部分合金化していることが特に好ましい。当該分解用鉄粉とNiを含有しない鉄粉や酸化鉄を混合して用いると、有機塩素化合物分解性能が低下することなく、トータルのNi含有量を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機塩素化物で汚染された土壌、産業廃棄物、汚泥、スラッジ、排水、地下水等の被処理物に対する無害化処理剤及びそれを用いた無害化処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、TCE(トリクロロエチレン)、PCE(テトラクロロエチレン)、ジクロロメタン、PCB(ポリ塩化ビフェニル)及びダイオキシン類等の有機ハロゲン化合物による環境汚染問題が大きな問題となっており、これら有機ハロゲン化合物により汚染された土壌、排水、地下水等に対する無害化用処理剤およびその処理方法が検討されている。
【0003】
例えば、汚染された排水、用水をFe粉末や、NiまたはCu化学メッキFe粉末により還元脱塩素処理する技術が報告(例えば、非特許文献1)されている。しかし、これら処理剤自体の経時的性能劣化を抑制するためには汚染排水、用水中の溶存酸素を除去することが必要であり、さらに活性を示すニッケルメッキ量の範囲が多くなければ効果が得られなかった。
【0004】
汚染土壌、スラッジ、汚泥等の処理法の場合、特に化学的処理として、限定範囲の汚染土壌に炭素を含有する鉄系処理剤を添加、処理する方法(例えば、特許文献1)、またはFeとNi、Cu、炭素を組み合わせた金属系処理剤を使用する処理法(例えば、特許文献2、3)が報告されている。しかし、分解能はまだ十分とは言えなかった。
【0005】
他にもFeと異種元素を組み合わせた金属系処理剤の有機塩素化合物の分解が報告されている(例えば、特許文献4、5)。しかし強粉砕の手法により50μm以下の微粒子の比率が多い高活性な鉄粉では、着火性等の安全性に問題があった。さらに微細な鉄粉では、水溶液では性能が高いが、土壌等の固体物と均一に混合することが難しく、十分な特性が発揮されなかった。
【0006】
これまで、Ni又は炭素を含有した有機塩素化合物分解鉄粉は知られていたが、土壌の様な固体(固液混合系)では分解速度が遅く、水溶液中であっても難分解性のPCE等の分解に長時間がかかるものしかなく、それらの性能を十分なものとするためにはNiの含有量を多くすることが必要であった。(特許文献6〜12)
【非特許文献1】先崎ら、工業用水、VOL391,(1991),29.
【特許文献1】特開平11−235577号
【特許文献2】特開2000−5740
【特許文献3】特開2002−20806
【特許文献4】特開2003−80220
【特許文献5】特開2003−136051
【特許文献6】特開2003−105313
【特許文献7】特開2004−577881
【特許文献8】特開2004−305235
【特許文献9】特開2004−305792
【特許文献10】特開2005−95750
【特許文献11】特開2005−34696
【特許文献12】特開2005−118755
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機ハロゲン化合物で汚染された土壌、産業廃棄物、汚泥、スラッジ、排水、地下水等を無害化処理する剤として、Niや炭素等の異種元素を含有する鉄系分解剤が知られていが、より高速に有機塩素化合物を分解浄化できる鉄系分解剤が求められていた。従来の微細粒子を多くして活性を高めた剤では、土壌等の固体(固液混合系)に用いた場合には、十分な分解特性が得られず、また着火性等の危険性があった。
【0008】
さらに従来のNi含有の分解用鉄粉では、分解能を高めるためにはNiの含有量を高めることが必要であった。そこで、特に土壌の様な固体に対して浄化性能が高く、なおかつNiの含有量が少ない分解用鉄粉が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、土壌中の有機塩素化合物の分解浄化について鋭意検討を重ねた結果、粗粒の鉄粉、特に粒度53μm(280メッシュアンダー)が40重量%未満で、Ni含有量が従来よりも少ない分解用鉄粉で、特に土壌処理において有機塩素化合物の分解性に優れる分解用鉄粉を見出した。
【0010】
本発明の有機塩素化合物分解用鉄粉は、難分解性のPCEの分解能も高く、またNiを含有しない鉄粉や酸化鉄と混合して用いても高い有機塩素化合物の分解能を示し、トータルNi量を低減できることを見出した。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の有機塩素化合物分解用鉄粉(以下「分解用鉄粉」という)は粒度53μm未満が40重量%未満の粗粒を主成分とするものである。従来の分解用鉄粉は活性な微粒子が多いものであり、粗粒が多いものでも53μm未満が50重量%程度のものであった。その様な鉄粉では、排水等の溶液では高い性能が発揮されるものもあるが、土壌等の固形分に用いた場合、性能が発揮されなかった。
【0013】
従来の分解用鉄粉の粒度は危険物第2類に該当する粒度53μm未満が50重量%以上で着火性等の危険性があった。本発明の分解用鉄粉は、粒度53μm以上が40重量%未満で当該規制値以下の粒度であり、危険物第2類に該当しないものである。
【0014】
本発明の分解用鉄粉は、上記の様な粗粒分布において高速に有機塩素化合物を分解するものであり、Ni量が0.1〜0.5重量%、炭素量が0.005〜5重量%である。有機塩素化合物の分解用鉄粉は、鉄と鉄の表面に存在する異種金属類が形成する局部電池が分解性能に寄与すると考えられているが、本発明者の鉄粉の粒径範囲における鉄粉の有効表面積においては、本発明の組成範囲で特に性能が優れ、優れた局部電池のマクロ構造を形成できるものと考えられる。
【0015】
本発明の分解用鉄粉はそれ単独においてNi量が0.1重量%未満では分解能が低下し、また0.5重量%を越えると部分合金化が困難となり局部電池作用は低下してしまう。炭素量が0.005重量%未満のものは分解能が低く、入手が困難であり、また5重量%を越えても分解性能の向上は見られない。
【0016】
本発明の分解用鉄粉は、Niと鉄が部分合金化していることが好ましい。Niが鉄粉上に単に点在した状態(非合金化)では局部電池作用が弱いため好ましくない。部分合金化することにより局部電池作用効果は増大し、かつ安定性を発揮する。一方、完全合金化した場合、有効な局部電池が形成されず、本発明の効果は得られ難い。また鉄とNiが分離して還元作用低下を抑制する観点からも部分合金化は効果がある。
【0017】
FeとNiの部分合金の存在部位としては、合金部分が鉄粒子の表面全体を占めるものでなく、鉄粉表面においてNi部位および合金化部位が夫々存在することが好ましい。鉄粉表面全体を合金が覆っていると、局部電池作用が起こり難く、有機塩素化物の分解が起こり難い。部分合金化はEPMA(電子線マイクロアナライザ−)やTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて、合金層(Niの拡散層)を確認することができる。
【0018】
本発明の分解用鉄粉の炭素は、Niと同様に、炭素単独部位と鉄と炭素の合金部が存在することが望ましい。一般に鉄粉としては純鉄、鋼、鋳鉄、または銑鉄等を用いることができるが、これら鉄粉内に存在する鉄部分およびセメンタイト等の鉄炭素合金部分も活性点として作用し得る。
【0019】
分解用鉄粉の粉末形状は特に限定するものではなく、球形状、樹枝状、片状、針状、角状、積層状、ロッド状、板状、海綿状等が含まれる。また分解用鉄粉の比表面積は0.05m/g以上、好ましくは0.2〜10m/gでは、分解反応速度や接触確率を向上させることができ、粗粒を用いる上で有効であり、難分解性のCis−DCE、MC、PCEをも、より短時間に分解することができる。
【0020】
本発明ではその効果を損なわない程度に他の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては特に限定するものではなく、例えば、酸化防止剤、反応促進剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素処理剤等があげられる。酸化防止剤としては亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、硫化鉄、アスコルビン酸等、反応促進剤としては塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等、分散剤としては、活性炭素、アルミナ、ゼオライト、シリカゲル、シリカ−アルミナ、鉄粉等があげられる。
【0021】
本発明では、分解用鉄粉をNiを含有しない鉄粉及び/又は酸化鉄と混合したもの(以下「混合鉄粉」という)を用いてもよい。この様な混合鉄粉でも、有機塩素化物の分解能を低減することがない上、土壌に投入されるトータルのNi量をさらに低減できる。
【0022】
本発明の混合鉄粉における分解用鉄粉と、Niを含有しない鉄粉及び/又は酸化鉄の混合比率としては、分解用鉄粉の比率が30重量%以上であることが好ましい。分解用鉄粉が30重量%未満では、分解能が低下し易い。
【0023】
本発明で用いる酸化鉄は特に限定されないが、酸化第一鉄、酸化第二鉄、マグネタイト、ベルドライト等、さらに具体的には一般的に入手が容易な砂鉄、鉄鉱物が用いられる。
【0024】
土壌中に投入する鉄粉の量が少な過ぎると土壌との均一混合、均一接触が困難となり、有機塩素化合物の分解能が低下する。本発明の分解用鉄粉も添加量が少なくなると分解能が低下する傾向がある。しかし、本発明の分解用鉄粉を混合鉄粉の態様で用いると、単位重量当りの土壌に添加する分解用鉄粉の量が少ないにもかかわらず、高い分解性能が発揮される。
【0025】
Niを含まない有機塩素化合物の分解能が低い鉄粉及び/又は酸化鉄を含有している混合鉄粉が、分解用鉄粉の場合と同様の分解性能を発揮する原因は定かではないが、分解用鉄粉とNiを含有しない鉄粉及び/又は酸化鉄が接触して土壌中又は水溶液中でネットワークを形成することによって、Niを含有しない鉄粉及び/又は酸化鉄の表面が分解能の高い分解用鉄粉と同様の電池作用を発現することが考えられる。
【0026】
本発明の混合鉄粉のトータルのNi含有量は、0.03重量%から0.5重量%であることが好ましく、さらには0.03重量%から0.1重量%未満であることが好ましい。
【0027】
本発明の混合鉄粉の粒度は特に限定されるものではないが、分解用鉄粉と同様の理由により、全体として粒度53μm未満が40重量%未満であることが好ましい。
【0028】
本発明の分解用鉄粉又は混合鉄粉(以下併せて「処理剤」という)は、従来品より特に土壌中における有機塩素化物の分解能が高いものであり、室温において、トリクロルエチレン(TCE)を10ppm、水分20重量%以上の土壌中に処理剤を1重量%添加混合した場合において環境基準(0.03ppm)までのトリクロルエチレンの分解速度定数が0.32/日以上、特に0.35/日以上、さらには0.8/日以上であることが好ましい。
【0029】
土壌中に含まれる水分が多い方が有機塩素化物は分解し易いことはよく知られているが、土壌中の水分が10重量%以上、特に15%以上あれば処理剤の持つ分解性能は十分に発揮され、分解速度は飽和する。本発明の分解速度定数は、これらの分解性能が十分に発揮される水分20重量%以上の土壌において、室温、処理剤を1重量%添加にした場合のものである。
【0030】
分解速度の関係は一般に下記の速度式で表される。
【0031】
ln(C/C)=−k・t
:トリクロルエチレンの到達濃度(ppm)
:トリクロルエチレンの初期濃度(ppm)
k:速度定数(/日、又は/時間)
t:時間(日、又は時間)
土壌中での有機塩素化物分解において、分解速度定数が0.32/日、0.35/日、0.8/日は例えば10ppmのトリクロルエチレンに汚染された土壌を環境基準(0.03ppm)まで浄化するのに要する日数がそれぞれ、18日、17日、7日に相当する。
【0032】
本発明の処理剤の分解速度定数の上限は限定されないが、活性が高過ぎて一気に分解ガスが発生すると危険性であるため、分解速度定数は2以下が好ましい。分解速度定数が2は環境基準までの分解に要する日数として約3日に相当する。
【0033】
本発明の処理剤の分解速度定数は、水溶液中での有機塩素化物の分解性能にも優れている。特に難分解性のテトラクロロエチレン(PCE)を10ppm含有する水溶液中に、室温、処理剤を1重量%添加混合した場合における環境基準(0.01ppm)までのテトラクロルエチレンの分解速度定数が0.9/日以上、特に1.1以上が好ましい。上述した理由により、上限はやはり2/日以下である。
【0034】
土壌に添加する処理剤の量を増やせば分解は速くなることは良く知られている。土壌中への処理剤の添加量が著しく少ない場合、又は多すぎる場合を除き、通常用いられる0.5〜3重量%の添加量の範囲では、添加量と分解速度定数の間には概ね以下の経験式に従った相関性が得られる。そのため、異なる添加量の試験結果から算出される分解速度定数から、異なる条件下で評価された処理剤間の性能を比較することも可能である。
【0035】
ka=kb(a/b)1/2
ka:汚染物中に分解剤をa重量%添加した場合の速度定数
kb:汚染物中に分解剤をb重量%添加した場合の速度定数
次に分解用鉄粉の製造方法について説明する。
【0036】
本発明では前記の鉄、Ni及び炭素を本発明の範囲に調整し、これら原料をNiと炭素を主に粒子表面で鉄と部分合金化させるために機械的に粉砕処理する。
【0037】
粉砕の方法としては、一般的なボ−ルミルの中で特に、振動ミルのバッチ式または連続式粉砕機を使用することができるが、特に原料が合金化する程度の機械的強度の高いものが好ましい。
【0038】
一方、粉砕は得られる分解用鉄粉が本発明の粒度を満足する範囲で部分合金化が進む条件で行うことが必要である。例えば、鉄粉とNi粉、炭素粉の混合物1重量部に対して、鋼球等の粉砕メディアを2〜10倍の仕込み割合、振動数600〜2000vpmの条件が例示できる。
【0039】
Ni及び炭素がいずれも0.1重量%より多い場合には、加工時間は5時間未満が好ましいのに対し、Ni及び炭素含有量いずれかが0.1重量%、特に0.05重量%より少ない場合には加工時間を5〜10時間とすることが好ましい。
【0040】
従来、Niの部分合金化については加工時間が長くなると、合金化が進みすぎ(即ち部分合金でなくなる)、分解性能が低下することが知られていた。本発明では、Ni量と炭素量によって高性能となる加工条件が全く異なることを見出した。従来、Niや炭素の含有量が少ない場合、合金化が進み過ぎない様に加工時間は短いほうがよいと考えられていたが、本発明の組成範囲で特に合金化されるNi或いは炭素が少ない場合には、加工時間が上述の範囲で活性が向上することを見出した。
【0041】
本発明の混合鉄粉は、上述の方法で得られた分解用鉄粉とNiを含有しない鉄粉/又は酸化鉄を均一に混合して製造することができる。
【0042】
混合方法は特に限定されないが、V型ミキサー、スクリュー式ミキサー、ボールミル、振動ミル等を用いることができる。混合が不均一であると、混合鉄粉の性能が十分発揮されないため、分解用鉄粉とNiを含有しない鉄粉/又は酸化鉄を均一に混合することが好ましい。
【0043】
次に、本発明の処理剤(分解用鉄粉又は混合鉄粉)を用いた有機ハロゲン化物の無害化処理方法を説明する。
【0044】
本発明の無害化処理方法としては、1)掘削した土壌に本発明の処理剤を添加し、ドラム型スクラバ−、改質ミキサ−、振動型ミキサー、ニ−ダ−等による連続均一混合処理する方法や振動型ミキサー、バックホウ等による回分混合処理後埋め戻す方法、2)汚染土壌中に縦または横井戸を堀り、処理剤を高圧空気または高圧水で注入する原位置処理法、3)処理剤および必要に応じ分散剤、反応促進剤、pH調整剤等と共にスラリ−状にして土壌に注入する原位置型処理方法、4)汚染地下水の周辺の処理剤を含む浄化壁を形成し浄化する方法、5)汚染地下水位置より低い部分に処理剤の層を設けた浄化ピット法等がある。
【0045】
処理剤の添加量は、浄化対象である被処理物の汚染濃度等により変動するが、本発明の処理剤では非常に高活性であることから、従来剤に比較し、少ない添加量で各有機塩素化物に対応する環境基準値以下へ浄化することができる。本発明の処理剤を用いる場合に、その分解活性及び経済性を考慮すると、湿体土壌や地下水等の被処理物に対して0.1〜10重量%、特に均質混合性を考慮すると1〜3重量%であることが好ましい。
【0046】
本発明の処理剤は、土壌等の固形分だけでなく、有機塩素化合物を含む地下水、排水に対しても同様に高い分解性能(分解速度)を発揮するものである。
【発明の効果】
【0047】
本発明の処理剤(分解用鉄粉又は混合鉄粉)は、粒度53μm(280メッシュアンダー)が40重量%未満で発火性に危険がなく、土壌等の固形物(固液混合物)との反応性に優れ、なおかつ少ないNi含有量で効果的に局部電池を形成したものであり、従来よりも土壌中での有機塩素化合物の分解速度が速く、汚染を短期間で浄化することができる。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を実施例にさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0049】
実施例1〜5および比較例1〜4
有機塩素化合物を含有する汚染土壌における無害化処理剤の評価試験を行った。
【0050】
分解用鉄粉の原料鉄粉として実施例1〜2では、還元鉄粉(炭素量0.05%)、実施例3〜5では鋳鉄粉(炭素量3〜5%)、比較例1、3、4は還元鉄粉(炭素量0.8%)、比較例2は純鉄粉(炭素量0.01%)を用いた。また原料Ni粉として、カルボニルニッケル(純度99%、粒径4〜7μm)を用いた。
【0051】
分解用鉄粉の粉砕条件として、実施例1〜5及び比較例1〜4は所定の炭素量を含有するFe粉末とNi粉末を所定量混合し、振動ミル(中央化工機(株)製、商品名V−MILL,BM−3、1200vpm,6.6Lポット)を用いて、該混合物1重量部に対して粉砕メディアを6倍の仕込み割合、振動数600vpmの条件下で処理した。加工中の窒素ガス流量は40ml/分とした。加工時間は全て2時間とした。
【0052】
10ppmのTCE汚染土壌1kg(含水率33重量%)、メタノ−ルに溶解した内標ベンゼン、そして処理剤を10g(対土壌1重量%)を入れて、振動型混合機で1分間、均質混合処理した。反応条件として、処理土壌約30gを125mlバイアル瓶に密封し、20℃、静置状態で反応させ、定期的に気層部分をガスクロで分析し、TCE濃度の経時変化を調査した。なお、土壌中の含水調整に用いた水は脱溶存酸素処理、pH調整は行
わなかった。
【0053】
次に、今回用いた分解用鉄粉の組成、粒度および分解速度定数を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例1〜5より、TCE汚染土壌中に分解用鉄粉1重量%添加、混合処理することにより6〜11日でTCE濃度が環境基準0.03ppm未満となった。また、分解生成物はエチレンが主成分であり、環境基準項目の有機塩素系化合物は生成していなかった。
【0056】
比較例1はNiを含有しておらず、4ケ月経ても環境基準以下にはならなかった。比較例2は鉄粉中の炭素量が少ない鉄剤で処理時間が2時間では、分解に23日要した。比較剤3はNiが過剰に入った剤であるが、分解能の効果は顕著には現れず浄化に21日要した。比較例4はNi量、炭素量は本発明の分解用鉄粉の範囲内にあるが、粒度が280メッシュアンダー(53μm)が65%有り、非常に微細な鉄粉である。分解日数も19日であり、鉄粉が微細なため混合がうまく進まないことが原因と考えられた。
【0057】
本発明の実施例1〜5の分解用鉄粉では、土壌中のTCEをはじめその他のVOCも分解する能力が顕著であり、短期間に法的規制値をクリアすることができる。
【0058】
実施例5の分解用鉄粉を同様の条件で同様の土壌に2重量%添加した場合、約2.7日で環境基準まで到達した。
【0059】
実施例6〜10および比較例5〜7
本発明の分解用鉄粉の評価をPCE含有汚染水溶液に対しても同様に行った。
【0060】
125mlバイアル瓶に10ppmのPCE水溶液を100ml、メタノ−ルに溶解した内標ベンゼン、そして処理剤1g(対水溶液1重量%)を添加後、密封した。反応条件として20℃、200rpm振とうした。尚、この水溶液は脱溶存酸素処理、pH調整は行わなかった。
【0061】
PCE濃度の分析方法としては、JIS K 0125(用水、排水中の揮発性有機化合物試験方法)に基づいたヘッドスペース法を用い、PCE濃度を経時的に定量分析し、PCE濃度が環境基準値未満になった分解日数を求めた。これらの結果を表2に示した。
【0062】
【表2】

【0063】
実施例6〜10はPCE濃度が7日以内に環境基準値0.01ppm未満であり、所定のNi量、炭素量を含む本発明の分解用鉄粉は粗粒であるにもかかわらず高分解能であった。
【0064】
また、本発明の実施例において,分解生成物はエチレンが主成分であり、環境基準項目の有機塩素系化合物は生成していなかった。
【0065】
一方、比較例5はNiを含有しない鉄粉末であり、3ヶ月経過しても環境基準0.01ppm未満になることはなかった。また分解生成物はエチレンの他に環境基準項目に挙げられているTCE、cis−DCEが検出された。
【0066】
比較例6は炭素(0.01%)が少ない剤に対して処理時間が短い分解剤では、分解に16日要した。
【0067】
比較例7はNi過剰であり、分解に15日を要し、本発明の分解用鉄粉に比べて性能が十分ではなかった。
【0068】
従って、実施例6〜10の分解用鉄粉を用いれば汚染地下水で多くの事例のあるPCEをはじめ各有機塩素化合物を分解する能力は顕著であり、短期間に法的規制値をクリアすることができる。
【0069】
実施例11
実施例5の分解用鉄粉(図1中実施例5鉄粉と表記)にNiを含有しない鉄粉(鋳鉄粉と記載:炭素量3%)をV型ミキサーボールミルで0.5時間混合し、混合比率を変えた混合鉄粉を合成した。
【0070】
125mlバイアル瓶に10ppmのTCE水溶液を100ml、メタノ−ルに溶解した内標ベンゼン、そして処理剤1g(対水溶液1重量%)を添加後、密封した。反応条件として20℃、200rpm振とうした。尚、この水溶液は脱溶存酸素処理、pH調整は行わなかった。
【0071】
TCE濃度の分析方法としては、JIS K 0125(用水、排水中の揮発性有機化合物試験方法)に基づいたヘッドスペース法を用い、TCE濃度を経時的に定量分析し、TCE濃度が環境基準値未満になった分解日数を求めた。これらの結果を図1に示した。
【0072】
分解用鉄粉が30重量%以上の混合鉄粉では、100%分解用鉄粉と同程度の分解性能が発揮された。この場合の混合鉄粉のNi含有量は0.033重量%であった。
【0073】
実施例12
実施例11と同様に実施例5の分解用鉄粉(図1中実施例5鉄粉と表記)にNiを含有しない鉄粉(鋳鉄粉と記載:炭素量3%)をV型ミキサーボールミルで0.5時間混合し、混合比率を変えた混合鉄粉を合成した。
【0074】
10ppmのTCE汚染土壌1kg(含水率33重量%)、メタノ−ルに溶解した内標ベンゼン、そして処理剤を10g(対土壌1重量%)を入れて、振動型混合機で1分間、均質混合処理した。反応条件として、処理土壌約30gを125mlバイアル瓶に密封し、20℃、静置状態で反応させ、定期的に気層部分をガスクロで分析し、TCE濃度の経時変化を調査した。なお、土壌中の含水調整に用いた水は脱溶存酸素処理、pH調整は行わなかった。結果を図2に示した。
【0075】
分解用鉄粉が30重量%以上の混合鉄粉では、土壌中においても100%分解用鉄粉と同程度の分解性能が発揮された。
【0076】
実施例13、14
分解鉄粉の粉砕条件において、加工時間を6時間とし、Ni0.3%、炭素0.006%とすること以外は実施例1と同様の条件で分解用鉄粉を製造した。トリクロルエチレンを10ppm含有する土壌中、及び水溶液中での1重量%添加時のTCE分解挙動を表3に示す。
【0077】
低炭素鉄粉を用いても高い分解速度が得られた。
【0078】
実施例15
Ni0.3%、炭素3%を含有した部分合金化した分解用鉄粉に、酸化鉄(砂鉄)をブレンドし、水溶液中のトリクロルエチレン(TCE)を分解した。
【0079】
10ppmのTCE水溶液に分解用鉄粉と酸化鉄の1:2混合処理剤1g(対水溶液1重量%。分解用鉄粉単独では0.33重量%相当)を添加した他は実施例11と同様の条件の処理(実施例15)において、環境基準まで7日で達した。
【0080】
実施例16
10ppmのTCE汚染土壌(含水率20重量%)に実施例15と同様の混合処理剤を1重量%(実施例16)の添加したところ、環境基準まで18日で到達した。
【0081】
それ自身では分解能がない酸化鉄と混合することによって、分解鉄粉の使用量が少ないにもかかわらず、短時間で分解が進行し、TCEに対する分解活性のある分解用鉄粉単位重量当たりの分解効率も向上した。
【0082】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】分解用鉄粉とNiを含有しない鉄粉の混合鉄粉による水溶液中のTCE分解性能。
【図2】分解用鉄粉とNiを含有しない鉄粉の混合鉄粉による土壌中のTCE分解性能。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒度53μm未満が40重量%未満、Ni量が0.1〜0.5重量%、炭素量が0.005〜5重量%を含んでなる有機塩素化物分解用鉄粉。
【請求項2】
Niが鉄と部分合金化している請求項1に記載の有機塩素化物分解用鉄粉。
【請求項3】
請求項1〜2に記載の有機塩素化物分解用鉄粉とNiを含有しない鉄粉を含んでなる有機塩素化物分解用鉄粉。
【請求項4】
請求項1〜2に記載の有機塩素化物分解用鉄粉と酸化鉄を含んでなる有機塩素化物分解用鉄粉。
【請求項5】
請求項1〜2に記載の有機塩素化物分解用鉄粉を30重量%以上含んでなる請求項3〜4に記載の有機塩素化物分解用鉄粉。
【請求項6】
Ni含有量が0.03重量%以上0.5重量%未満である請求項3〜5に記載の有機塩素化物分解用鉄粉。
【請求項7】
Ni含有量が0.03重量%以上0.1重量%未満である請求項3〜6に記載の有機塩素化物分解用鉄粉。
【請求項8】
粒度53μm未満が40重量%未満である請求項3〜7に記載の有機塩素化物分解用鉄粉。
【請求項9】
トリクロルエチレン10ppm、水分20重量%以上を含有する土壌中、室温、1重量%添加混合した際にトリクロルエチレンの環境基準(0.03ppm)到達までの分解速度定数が0.32/日以上である請求項1〜8に記載の有機塩素化物分解用鉄粉。
【請求項10】
テトラクロロエチレンを10ppm含有する水溶液中に、室温、1重量%添加混合した場合におけるテトラクロルエチレンの環境基準(0.01ppm)到達までの分解速度定数が0.9/日以上である請求項1〜9に記載の有機塩素化物分解用鉄粉。
【請求項11】
Fe100重量部とNi0.1〜0.5重量部、炭素0.005〜5重量部を含んでなる混合物を、粒度53μm未満が40重量%未満まで粉砕することを特徴とする請求項1〜2に記載の有機塩素化物分解用鉄粉の製造方法。
【請求項12】
有機塩素化物で汚染された被処理物を請求項1〜10記載の有機塩素化物分解用鉄粉で処理することを特徴とする有機塩素化物の無害化処理方法。
【請求項13】
有機塩素化物分解用鉄粉の添加量が被処理物に対し0.1〜10重量%である請求項12記載の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−142693(P2008−142693A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109051(P2007−109051)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】