説明

有機廃棄物の堆肥化方法

【課題】 有機廃棄物中に含まれるアンモニアを除去するに際し、ストリッピングの条件を簡単にコントロールすることができ、且つ、それによってその後の野積み方式による有機廃棄物のコンポストプロセスにおいて問題となっていた悪臭の発生を効果的に防止することを可能とする有機廃棄物の堆肥化方法を提供する。
【解決手段】 内部に撹拌手段15を備えた密封可能な処理槽10内に有機廃棄物を収容し、有機廃棄物のpHを7.5〜9.5で、85℃〜120℃の温度で20分〜3時間の間曝露することにより有機廃棄物に含まれるアンモニアを遊離させ、処理槽10内で発生する水蒸気又は外部より供給する空気若しくは水蒸気によって予め所定量のアンモニアをストリッピングする一次処理工程S1と、一次処理が終わった有機廃棄物を微生物によって堆肥化する二次処理工程S2とを含み構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機廃棄物の堆肥化方法に関し、さらに詳しくは、微生物を利用して有機廃棄物を堆肥化する有機物廃棄物の堆肥化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンポスト化技術は、畜産廃棄物、都市ゴミ廃棄物および下水汚泥のような有機廃棄物を利用可能な肥料や土壌改良材へと変換する成熟した技術として認知されており、環境にやさしく経済的にも好ましい技術であるともいえる。これらの有機廃棄物の分解、腐植化および良質なコンポストを製造する過程には、様々な微生物が関与していることが知られている。コンポストの原材料となるような有機廃棄物の持続的な使用のためには、原材料中の病原性微生物を管理する必要があるともに、他にも人の健康に関係するような問題を回避する手段を講じることが非常に重要であるといえる。
【0003】
特に、牛・豚・鳥糞尿のような畜産廃棄物から作製された原材料を基にコンポストを製造する際、野積み方式によるコンポストプロセスは、近隣住民に対して病気を招いたり、悪臭による精神的な不快感に起因する健康を悪化させる深刻な影響を与えることが知られている。コンポスト過程において発生する刺激的な臭気成分に長時間曝露されることにより、気管支炎を引き起こすことが報告されていることはもちろんのこと、近隣住民にとって逃れることの出来ないこのような悪臭問題は、公然と身体的なダメージを強要させられているともいえる。畜産廃棄物を用いたコンポスト製造工程において発生する臭気成分としてはアンモニア、揮発性脂肪酸、インドール類、硫化化合物及びアミン類などが挙げられるが、特にアンモニアが主要な臭気成分を占めておりその対策を講じることが重要となる。しかしながら、畜産廃棄物は農作物に必要な必須元素をバランスよく含んでおり、良好なコンポストとして利用できる有機質資材の原料となることが知られている。
【0004】
また、ヨーロッパ諸国では、畜産廃棄物の圃場還元、焼却やコンポスト化に伴って発生するアンモニアガスが大気中のアンモニアガスの主要な供給源となっており、待機中に拡散したアンモニアガスが雨に含まれて降雨することにより土壌で酸化されて酸性雨と同様の影響をもたらしたり、富栄養化問題を引き起こすことも報告されている。従って、アンモニアガス対策は地球環境保全の観点からも解決すべき大きな課題となっており、周辺地域環境および地球環境に配慮した環境保全型コンポスト製造技術の開発が必要となっている。
【0005】
一般的に用いられている物理化学的及び生物学的なアンモニアの臭気対策としては、アンモニアを酸性薬液によって洗浄する方法、生物脱臭装置内の通気性のある充填材に高密度に硝化細菌などを担持させて処理させる方法や強制的に臭気を吸引・通気しながらコンポスト化を行うことにより、コンポスト製造過程で生じるアンモニアを捕集する吸引通気式堆肥化処理などが研究されている。
【0006】
例えば、特許文献1に開示されているのは、有機性固形廃棄物の発酵時に発生する臭気を緩和する方法であり、装置内で微生物による発酵処理の過程において有機性固形廃棄物の重量が初期量の10%に達した時にアンモニア臭気を緩和する易分解性有機物を投入することを特徴としている。
また、特許文献2に開示されているのは、有機性廃棄物の堆肥化設備において発生するガスの脱臭方法及び脱臭装置であり、ガスに含まれるアンモニアを接触液に吸収させて除去しようとするものである。
【0007】
また、装置や施設を必要としない方法としては、臭気低減微生物の堆肥山への直接添加法(バイオオーグメンテーション)がある。
【0008】
一方、本願の一部発明者は、有機廃棄物の堆肥化に関して鋭意検討を重ね、微生物によって有機廃棄物を短時間に堆肥化することが可能な有機廃棄物の処理方法及びその装置(特許文献3)、有機廃棄物の発酵により生じた発酵熱が外部に漏れないよう断熱材で覆ってなる有機廃棄物発酵処理装置(特許文献4)、処理槽内の全ての高さ位置でほぼ同一の進行状態で発酵処理することができる生ゴミ処理装置(特許文献5)をそれぞれ発明し、本願特許出願人がそれらについて特許出願している。
【0009】
【特許文献1】特開2002−86195号公報
【特許文献2】特開2001−293331号公報
【特許文献3】特開2001−276777号公報
【特許文献4】特開2001−047019号公報
【特許文献5】特開平11−199356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
悪臭の原因の一つは、コンポスト過程における原材料からの強烈なアンモニアの生成と揮散である。アンモニアは嫌気条件および好気条件において生成される最も共通な臭気成分である。コンポスト製造施設では、アンモニアの揮発はごく少量のN2Oやアミンとともに大気中に放出される窒素の99%以上を占めている。言うまでもないが、作物の生育のためには、コンポスト内に適度なアンモニアを保持させることは非常に重要であるといえる。そのため、アンモニアの揮散を適切に制御するための有効な技術の開発が求められている。
【0011】
上述したアンモニアを酸性薬液によって洗浄する方法などの技術はアンモニアの飛散防止対策として有効性は高いが特殊な装置や施設を必要とすることからその設置や運転コストが高く普遍的に用いられるには至っていないのが現状である。また、臭気低減微生物の堆肥山への直接添加法(バイオオーグメンテーション)はコンポスト過程で生じる揮発性脂肪酸由来の臭気を低減させることを目的とするものが大半を占めており、アンモニアの飛散を軽減させるために用いられた事例はほとんどない。これは、コンポスト製造過程の高温期(60℃〜80℃)においてアンモニアが遊離し揮散しやすくそれを抑止する上で必要な高温性硝化細菌が存在しないかあるいは十分に利用できないことが主な理由とされている。
【0012】
現在、様々な物理化学的および生物学的なアンモニア処理技術が存在している一方、コンポスト内に適度なアンモニアを保持させることも良好なコンポストを製造する上で重要な要素となっている。物理化学的な処理プロセスの一つであるアンモニアストリッピング法は、畜産排水などに含まれる高濃度のアンモニアを効率よく除去することが可能であり、適切なpH、温度および空気や蒸気の流入の条件によってその除去率を調節できることが知られている。
【0013】
しかし、畜産廃棄物のアンモニアを除去するためにアンモニアストリッピング法を適用する場合には、pH、温度、空気や蒸気の流入などの条件を同時にコントロールしなければならず、その操作は非常に煩雑である。
また、従来の有機廃棄物の堆肥化装置やそれを用いた有機廃棄物の堆肥化方法は、有機廃棄物の堆肥化を装置内において完結させようとするものであった。そのため、有機廃棄物の投入から堆肥化完了までの長期間にわたって堆肥化装置が占有されてしまうという問題があった。有機廃棄物を大量に処理しようとすればより大きな容量を有する装置を製造するか又は装置の数を増やすしかなくコスト及び処理量に限界があった。
【0014】
一方、コンポストプロセスで発生する悪臭は処理すべき有機廃棄物中の高濃度のアンモニアのためであることから、これを予め除去しておくことでコンポストプロセスで発生する臭気の発生を抑制できると考えられる。
【0015】
そこで、本発明は、畜産廃棄物をはじめとする有機廃棄物中に含まれるアンモニアをアンモニアストリッピング法によって除去するに際し、ストリッピングの条件を簡単にコントロールすることができ、且つ、それによってその後のコンポスト化過程において生じる発酵熱に対してアンモニアの揮散が起きない(化学的平衡が保たれる)程度まで有機廃棄物中のアンモニア濃度を予め調整することで後段の野積み方式による有機廃棄物のコンポストプロセスにおいて大きな問題となっていた悪臭の発生を効果的に防止することを可能とする有機廃棄物の堆肥化方法を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明は、処理装置が有機廃棄物の堆肥化完了まで占有されることなく、処理槽での有機廃棄物の処理を短時間で終了させて処理槽を効率よく使用することを可能とする有機廃棄物の堆肥化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために請求項1に記載の本発明は、微生物を利用して有機廃棄物を堆肥化する有機物廃棄物の堆肥化方法において、内部に撹拌手段を備えた密封可能な処理槽内に有機廃棄物を収容し、有機廃棄物のpHを7.5〜9.5に調整しつつ、85℃〜120℃の温度で20分〜3時間の間曝露することにより有機廃棄物に含まれる窒素分をアンモニアとして遊離させ、発生したアンモニアを処理槽内で発生する水蒸気又は外部より供給する空気若しくは水蒸気によってストリッピングすることにより有機廃棄物に含まれる窒素分を予め所定量除去する一次処理工程と、一次処理が終わった有機廃棄物を微生物によって堆肥化する二次処理工程とを含み構成されてなることを特徴とする。
【0018】
アンモニアストリッピング法をコンポスト化を行う前の原材料である有機廃棄物、特に、畜産廃棄物中に含まれる高濃度アンモニアの処理に適用することにより、後工程におけるコンポストプロセスで発生するアンモニア臭を確実に抑止する。しかも加温によって有機廃棄物中に含まれる水分が蒸発し、その蒸気によって有機廃棄物中のアンモニアを同時に除去できるから有機廃棄物のpHと温度をコントロールして20分〜3時間の間保持するという操作だけでよいので非常に簡単に行うことができる。
【0019】
上記課題を解決するために請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の有機廃棄物の堆肥化方法において、一次処理工程におけるストリッピングによって除去されたアンモニアを酸によって回収することを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決するために請求項3に記載の本発明は、請求項1又は2に記載の有機廃棄物の堆肥化方法において、処理槽内の温度は、有機廃棄物を撹拌することによって有機廃棄物同士の接触、有機廃棄物と処理槽内壁との接触、あるいは有機廃棄物と撹拌手段との接触による摩擦熱を発生させるように撹拌手段を動作させ、それによって85℃〜120℃に加温することを特徴とする。
【0021】
上記課題を解決するために請求項4に記載の本発明は、請求項1又は2に記載の有機廃棄物の堆肥化方法において、処理槽内の温度は、熱水又は蒸気による熱交換によって85℃〜120℃に加温することを特徴とする。
【0022】
上記課題を解決するために請求項5に記載の本発明は、請求項1又は2に記載の有機廃棄物の堆肥化方法において、処理槽内の温度は、処理槽内へ水蒸気を直接供給することによって85℃〜120℃に加温することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る有機廃棄物の堆肥化方法によれば、処理槽内に有機廃棄物を収容して撹拌しながら有機廃棄物のpHと温度をコントロールして20分〜3時間の間保持するという操作だけでよいので非常に簡単であり、しかも処理槽を長期間にわたって占有しないので処理槽を効率よく使用することができるという効果がある。
【0024】
また、本発明に係る有機廃棄物の堆肥化方法によれば、畜産廃棄物のような有機廃棄物のコンポストプロセスにおけるアンモニア臭の発生を効果的に抑制することができるという効果がある。
【0025】
さらに、本発明に係る有機廃棄物の堆肥化方法によれば、最終的に出来上がったコンポストは高い腐植化を示す良質なコンポストであるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明に係る有機廃棄物の堆肥化方法について図面を参照しつつ以下詳細に説明する。図1は本発明に係る有機廃棄物の堆肥化方法の一実施形態のフローチャート、図2は本発明に係る有機廃棄物の堆肥化方法の一実施形態の概念図である。
【0027】
図示された有機廃棄物の堆肥化方法は、牛・豚・鳥糞尿のような畜産廃棄物、生ゴミなどの廃棄物などの有機廃棄物から所定量のアンモニアをストリッピングする一次工程(ステップS1)と所定量のアンモニアがストリッピングされた有機廃棄物を微生物によってコンポスト化する二次工程(ステップS2)を備えており、さらに一次工程(S1)は、さらに、処理すべき有機廃棄物を処理槽内へ収容する工程(ステップS11)と、処理槽内に収容された有機廃棄物のpH及び温度を調整する工程(ステップS12)と、処理槽内の有機廃棄物から所定量のアンモニアをストリッピングする工程(ステップS13)と、ストリッピングされたアンモニアを回収する工程(ステップS14)とを備えている。一方、二次工程(S2)は、一次工程(S1)で所定量のアンモニアが除去された有機廃棄物を微生物を用いて堆肥化(コンポスト化)する工程(ステップS21)を備えている。
【0028】
処理槽10は、内部に有機廃棄物を収容するための収容部11を備える共に、収容部11の下部側には排出口13が設けられている。また、処理槽10の底板上には収容部11の内部に配置された撹拌羽15(図3参照)を回転させるためのモータ17が配置されている。処理槽10は、例えば、鉄や鋼等の金属製材料によって形成され、収容部11が複数の支持柱10aによって支持されている。収容部11は、略円筒形状を有しており、その上面には有機廃棄物を投入するために開閉可能な蓋部11aが設けられている。収容部11及び蓋部11aは内部の圧力の上昇にも耐えるように耐圧設計されており、有機廃棄物から発生するアンモニアや蒸気による収容部11内の圧力の上昇に伴ってその内部温度が120℃にも達するようになっている。尚、処理槽10の周囲を断熱材で覆うことにより収容部11内の熱の損失を防止するようにすることもできる。また、収容部11の内部には撹拌羽15の回転軸となる軸15aが立設され、この軸15aをモータ17によって回転させることで撹拌羽15を回転させるようになっている。
【0029】
排出口13の内部にはスクリュウコンベヤ等の排出機構が設けられており所定量のアンモニアの除去が終わった処理済みの有機廃棄物を外部に排出する。尚、図示されていないが、処理槽10には、温度センサとpHセンサが設けられており、また、スクリュウコンベアやモータ17の回転などを制御する制御パネルが取り付けられている。また、処理槽10には照明装置、内部観察用の覗き窓などを設けることもできる。一方、処理槽10には、収容部11内のアンモニアを外部に排出するための排気ダクト12が設けられており、排気ダクト12はアンモニア回収用のスクラバ20と連結されている。スクラバ20は上端部が窄まった円筒体形状をなし、処理槽10からの排気ダクト12はスクラバ20の下部側に連結され、スクラバ20内に導入されたアンモニアに対して上部から硫酸溶液のシャワーを降り注ぐようになっている。これによりアンモニアは中和されて硫酸アンモニウムとなる。尚、この硫酸アンモニウムを適宜回収される。
【0030】
撹拌羽15は、図3に示すように、回転軸15aの上部付近から水平方向に突出するようにして設けられた板状の上部回転羽根15bと、回転軸15aの下部側にに設けられた略コの字状の下部回転羽根15cを備えて構成されている。上部回転羽根15b及び下部回転羽根15cはそれぞれ対向する位置の2か所に設けられると共に、上部回転羽根15bと下部回転羽根15cとは互いに90°ずれた位置に配置されている。下部回転羽根15cの上段側先端部と下段側先端部を縦方向に連結する部分は収容部11の内壁面の内面形状に即して形成されており、収容部11の内壁面に付着する有機廃棄物を掻き取るように動作すると共に、下部回転羽根15cの前記連結部分が有機廃棄物を収容部11の内壁面に押しつけるようにして撹拌動作を行うため摩擦熱を発生させやすい構造となっている。また、上部回転羽15bは撹拌羽15の回転に伴って収容部11の内壁を伝わって盛り上がってくる有機廃棄物を掻き取り、有機廃棄物を均一な状態に維持する。撹拌羽15による撹拌により有機廃棄物は有機廃棄物同士、下側回転羽根15bと収容部11の内壁との接触、さらには上部回転羽根15b及び下部回転羽根15cとの直接の接触によって擦られて摩擦熱を発生する。この摩擦熱によって収容部11内の温度を85℃〜120℃に加温する。尚、収容部11内の温度を85℃〜120℃に加温するためには収容部11の外周を熱水又は蒸気による熱交換によって行うことや、収容部11内へ水蒸気を直接供給することによっても行うことができる。
【実施例】
【0031】
以下、具体的な実施例に基づいて本発明に係る有機廃棄物の堆肥化方法について説明する。
まず、処理対象となる有機廃棄物としては牛糞(80%)とオガコ(20%)からなるコンポストサンプルを使用した。コンポストサンプルは適度にアンモニアが残留するようにpH9.0、水分含量51%に調整した。そして、コンポストサンプルを約0.6mの収容部11を備えた処理槽10において一次処理(S1)を行い、その後、長さ:2m、幅:1.8m、高さ1.2mの堆肥山30を形成して二次処理(S2)を行った。
【0032】
一次処理工程(S1)では、処理すべきコンポストサンプルを収容部11内へ収容し(S11)、収容部11内に設置されている撹拌羽15によって約120kgのコンポストサンプルを機械的に撹拌した。本実施例においては、収容部11内の温度は収容部11内において発生させた摩擦熱によって2時間内に100℃まで上昇させた。すなわち、コンポストサンプルを撹拌することによってコンポストサンプル同士、コンポストサンプルと収容部11の内壁、あるいはコンポストサンプルと撹拌羽15とが接触して摩擦熱が発生するが、この摩擦熱を積極的に利用することとして撹拌速度:60rpm/minで撹拌羽15を動作させた。コンポストサンプルを100℃で熱処理することは有機廃棄物、特に、畜産廃棄物に由来する害虫や病原性微生物等を駆除し、衛生学的に安全なコンポストを製造する上できわめて有効である。そして、コンポストサンプル中の過剰のアンモニアの除去や水分含量の調整のために、その最高温度(100℃)を少なくとも30分以上持続させた。また、この間、コンポストサンプルのpHが7.5〜9.5の範囲を超えないように保持した(S12)。pHをその範囲内に保持するのはそれを超えるとアンモニアの除去効率が悪くなるからである。pHが7.5〜9.5の範囲を超えるような場合には酸剤やアルカリ剤を添加してそのpHを適宜調整する。
【0033】
収容部11内のpHを7.5〜9.5、温度を85℃〜120℃の温度で20分〜3時間の間コンポストサンプルを曝露することで所定量のアンモニアがストリッピングされる(S13)。ストリッピングされたアンモニアは排気ダクト12を介してスクラバ20へ送り、硫酸溶液のシャワーによって硫酸アンモニウムとして回収した(S14)。
そして、処理が終了したコンポストサンプルは処理槽10の排出口13か排出し、長さ:2m、幅:1.8m、高さ1.2mの堆肥山30を形成し、野積み方式による二次処理工程(S2)、すなわち、微生物による堆肥化(コンポスト化)を6週間行った(S21)。
【0034】
ここで、本発明に係る有機廃棄物の堆肥化方法の物理化学的および微生物学的な特徴を比較解析するために、上述の二次処理工程(S2)における堆肥山30と同じ容積の堆肥山を別途形成し、それぞれコンポスト化を進めた。二次処理工程(S2)の堆肥山30と比較例の堆肥山は、それぞれ一週間に一回混ぜ合わせ、それぞれのコンポストサンプルは、1.5ヶ月間に渡って毎週採取した。また、一次処理工程(S1)中における収容部11内のコンポストサンプルは、収容部11内の温度が、25、50、75、85、100℃に達したときに採取した。そして、最終的な両者のコンポストサンプルの物理化学的な特徴を比較するために、それらのコンポストサンプルのpH、揮発性残留物、含水率、C/N比、全窒素、無機態窒素、全リン、全カリおよび腐植化指標(Organic Matter Evolution Index (OMEI))の解析を行った。
【0035】
本実施例と比較例の解析結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
本実施例において、収容部11の温度は処理槽10の撹拌羽15の機械的な撹拌によって生じるコンポストサンプルとの摩擦熱によって上昇させた。アンモニア性窒素の約53%は、収容部11内の温度が50℃に到達するまでに除去され、最終的にその除去率は、3時間以内に100℃になるまでに80%に達した。処理槽10の運転の間、少量の硝酸性窒素および亜硝酸性窒素が検出された(図4−A)。そして、その後の二次処理工程(S2)においてもコンポストサンプル中のアンモニア性窒素の濃度はコンポスト化が終了するまで変化がなかった(図4−B)。また、二次処理工程(S2)の間、アンモニアの揮散が起因となるような臭気問題は起こらなかった。これは原料中に含まれていた過剰のアンモニアを事前にストリッピングしたことにより原材料中のアンモニアの濃度が二次処理工程(S2)で生じる発酵熱やpHの変化に対して化学的平衡が保たれていたためと考えられる。尚、図4において、「反応器内温度」とあるのは収容部11内の温度のことである。また、「超高温前処理反応器」とあるのは処理槽10のことであり、処理槽10による有機廃棄物の処理の際の無機体窒素濃度の変化を示している。また、「超高温前処理無臭堆積化法」とあるのは本発明方法における二次処理工程(S2)のことであり、「単純野積み法」とあるのは比較例である野積み方式のことである。
【0038】
一方、野積み方式によるコンポスト化方式による比較例においては、初期のコンポストサンプル中の約78%のアンモニア性窒素が放出され、アンモニア臭による悪臭問題が1.5ヶ月に渡って続いた(図4−B)。さらに、開始から1ヶ月間にわたって、硝酸性窒素および亜硝酸性窒素がコンポストサンプル内に徐々に蓄積した。しかしながら、実施例及び比較例のコンポストサンプル内の最終的なアンモニア濃度は両者ともほとんど変わらなかった。
【0039】
ここで、実施例では比較例よりも非常に多くのフミン酸がコンポストサンプル内に形成されることが確認された。OMEI値を基にした解析から、フミン酸は、収容部11内のコンポストサンプルにおいても生成されることが分かった(図5−A)。一次処理工程(S1)では、はじめの3週間でコンポストサンプル中に多くのフミン酸が生成され、OMEI値はコンポスト化終了まで概ね一定を維持した (図5−B)。本実施例によって製造された最終的なコンポストは土の臭気を放ち、そのコンポストの形状もかなり細かくなっていた。一方、比較例のコンポストサンプルのOMEI値は、本実施例のコンポストサンプルのOMEI値よりも低く推移していた。最終的な比較例のコンポストサンプル内には、大きな粒子を持つ物質がいまだ数多く観察されていた。尚、図5において、「反応器内温度」とあるのは収容部11内の温度のことである。また、「超高温前処理反応器」とあるのは処理槽10のことであり、処理槽10による有機廃棄物の処理の際の腐植化率(OMEI)の変化を示している。また、「超高温前処理無臭堆積化法」とあるのは本発明方法における二次処理工程(S2)のことであり、「単純野積み法」とあるのは比較例である野積み方式のことである。
【0040】
次に、水によって最終的な本実施例のコンポストサンプル及び比較例のコンポストサンプルの含水率を50%に調整し、それぞれの堆肥山30をかき混ぜることを試みた。その結果、培養1日後の体積山のうち、本実施例の堆肥山30の温度は上昇しなかったのに対し、比較例の堆肥山の温度は、60℃付近まで上昇した。このことは、本実施例によるコンポストサンプル内の易分解性有機物は完全に分解していることを示している。
【0041】
表1に示されているように、本実施例及び比較例では、pHが8.8〜9.2の間を推移していた。本実施例の一次工程(S1)では収容部11内の原材料のC/N比は、アンモニアの揮発のために26.6から34.8に著しく上昇し、二次工程(S2)後には、最終的に30.3で安定した。一方、比較例のコンポストサンプルのC/N比は、実施例のコンポストサンプルのC/N比よりも低く、最終的に21.5となった。
【0042】
さらに、本実施例によって製造されたコンポストの特徴を明らかにするために、他の原材料や方法で製造された様々なコンポストの物理化学的特徴を解析した。表2にその結果を示す。
【0043】
【表2】

【0044】
本実施例によって製造されたコンポストのOMEI値は、主に牛糞から製造された他のコンポストよりも非常に高いことが判明した。また、本実施例によって製造されたコンポストは、他のコンポストと比較して最も高いC/N比を示している。
【0045】
以上のように、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る有機廃棄物の堆肥化方法の一実施形態のフローチャートである。
【図2】本発明に係る有機廃棄物の堆肥化方法の一実施形態の概念図である。
【図3】撹拌羽の一例を示す図である。
【図4】Aは一次処理における処理槽内での窒素濃度の変化を示すグラフ、Bは二次処理における窒素濃度の変化を示すグラフである。
【図5】Aは一次処理における処理槽内での腐植化を示すグラフ、Bは二次処理における腐植化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
10 処理槽
10a 支持柱
11 収容部
11a 蓋部
12 排気ダクト
13 排出口
15 撹拌羽
15a 回転軸
15b 上部回転羽根
15c 下部回転羽根
17 モータ
20 スクラバ
30 堆肥山

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を利用して有機廃棄物を堆肥化する有機物廃棄物の堆肥化方法において、
内部に撹拌手段を備えた密封可能な処理槽内に有機廃棄物を収容し、前記有機廃棄物のpHを7.5〜9.5に調整しつつ、85℃〜120℃の温度で20分〜3時間の間曝露することにより当該有機廃棄物に含まれる窒素分をアンモニアとして遊離させ、発生したアンモニアを前記処理槽内で発生する水蒸気又は外部より供給する空気若しくは水蒸気によってストリッピングすることにより前記有機廃棄物に含まれる窒素分を予め所定量除去する一次処理工程と、
一次処理が終わった有機廃棄物を微生物によって堆肥化する二次処理工程と、
を含み構成されてなることを特徴とする有機廃棄物の堆肥化方法。
【請求項2】
請求項1に記載の有機廃棄物の堆肥化方法において、
前記一次処理工程におけるストリッピングによって除去されたアンモニアを酸によって回収することを特徴とする有機廃棄物の堆肥化方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の有機廃棄物の堆肥化方法において、
前記処理槽内の温度は、前記有機廃棄物を撹拌することによって有機廃棄物同士の接触、有機廃棄物と処理槽内壁との接触、あるいは有機廃棄物と撹拌手段との接触による摩擦熱を発生させるように前記撹拌手段を動作させ、それによって85℃〜120℃に加温することを特徴とする有機廃棄物の堆肥化方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の有機廃棄物の堆肥化方法において、
前記処理槽内の温度は、熱水又は蒸気による熱交換によって85℃〜120℃に加温することを特徴とする有機廃棄物の堆肥化方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の有機廃棄物の堆肥化方法において、
前記処理槽内の温度は、前記処理槽内へ水蒸気を直接供給することによって85℃〜120℃に加温することを特徴とする有機廃棄物の堆肥化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−234855(P2009−234855A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83062(P2008−83062)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)社団法人日本生物工学会 「ジャーナル オブ バイオサイエンス アンド バイオエンジニアリング」第104巻第5号 平成19年11月25日発行(2)環境バイオテクノロジー学会 「環境バイオテクノロジー学会誌」 第7巻 第2号平成19年12月28日発行
【出願人】(397028832)有限会社日本ライフセンター (1)
【Fターム(参考)】