説明

有機性廃棄物の前処理方法及び有機性廃棄物からの異物分離方法

【課題】 繊維質に富む野菜の芯等を固形物(異物)に仕分けることなく、且つ、より低圧でのプレスで異物を分離するための生ごみ等の有機性廃棄物の前処理方法と、当該前処理工程を含む有機性廃棄物からの異物分離方法の提供。
【解決手段】 有機性廃棄物からの異物分離方法は、含水有機性廃棄物中で、セルラーゼ、プロテアーゼ及びアミラーゼからなる群から選択される少なくとも一種の酵素を生成する微生物を、その耐熱温度以下にて4時間以上培養してスラリー状の含水有機性廃棄物を得る工程(I)、得られた含水有機性廃棄物を、一端が閉鎖された円筒状の容器であってその閉鎖部の近傍には当該含水有機性廃棄物の排出孔が形成されている容器に入れる工程(II)、円筒状の容器の開放端から閉鎖部に向かって当該含水有機性廃棄物を押圧する工程(III)及び円筒状の容器内に残った異物を除去する工程(IV)を含む。工程(I)が前処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生ごみ等の有機性廃棄物からの異物分離を容易にする有機性廃棄物の前処理方法と、そのような前処理工程を含む有機性廃棄物からの異物分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、多量の生ごみ等の有機性廃棄物の処理は、処理装置内において、有機性廃棄物を粉砕や加圧プレス等の手段によって微細化し、微細化物と有機性廃棄物に由来する水分とで有機性廃棄物をペースト又はスラリー状の流体とし、その流体のみを処理装置外に排出し、その後、処理装置内に残った異物を除去することによって行われてきた。
【0003】
特許文献1には、金属探知機を備える生ごみ加圧分別処理装置の発明が記載されている。この装置では、生ごみを加圧プレスして、固形物(異物)と液状ペーストとに分離する。なお、この液状ペーストは、生ごみに由来し、加圧プレスされて発生した液体と、加圧プレスされて微細化された生ごみとからなる。
【0004】
特許文献1に先行技術文献として記載されている特許文献2には、金属探知機を備えていないこと以外は特許文献1に係る発明と同様の生ごみ加圧分別処理装置が記載されている。この装置では、横置きされた円筒状の高圧容器内の生ごみは、加圧プランジャと円筒状容器との微細間隙を通過する際に、剪断流によってより細かく粉砕される。また、特許文献2には、加圧プレス時の圧力は、70kg/cm以上とすることが好ましく、150kg/cm以上とすることがさらに好ましい旨が記載されている。
【0005】
特許文献3には、有機性廃棄物をスラリー状とし、このスラリー状有機性廃棄物に含まれる固形物を破砕粉砕し、次いで、有機性廃棄物を流体と固体とに分別することが記載されている(請求項2)。有機性廃棄物をスラリー状とする手段としては、廃棄物を撹拌しながら破砕すること(段落番号[0044])が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−75783
【特許文献2】特開2002−191998
【特許文献3】特開2000−334431
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、多量の有機性廃棄物の処理には、加圧プレス方式の処理装置が採用されている。特許文献2には、生ごみは、前記処理装置の加圧部において、加圧プランジャと円筒状容器との微細間隙を通過する際に剪断流によってより細かく粉砕されると記載されている。しかし、例えば野菜、野菜の芯、魚肉及び畜肉等は、水分を含有しており且つ繊維質に富むので、弾力性があり、粉砕されにくい。そのため、液状ペーストではなく、固形物(異物)の方に仕分けされてしまう。また、特許文献2に記載されているように、生ごみの加圧プレス時の圧力は高く、従って、加圧プレス方式の処理装置の加圧部には高耐圧性容器が使用されており、よって、その製造コストは高い。さらに、特許文献3には、有機性廃棄物をスラリー状にする旨の記載があるが、スラリー状とする方法は、廃棄物を撹拌しながらの破砕であり、よって、このスラリーの状態は、実質的には特許文献1や2に記載の装置において粉砕されたものと変わらないと考えられる。
【0008】
本発明は、繊維質に富む野菜、野菜の芯、魚肉及び畜肉等を固形物(異物)に仕分けることなく、且つ、より低圧でのプレスで異物を分離するための、生ごみ等の有機性廃棄物の前処理方法と、そのような前処理工程を含む、有機性廃棄物からの異物分離方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、含水有機性廃棄物中において、セルラーゼ、プロテアーゼ及びアミラーゼからなる群から選択される少なくとも一種の酵素を生成する微生物からなる群から選択される少なくとも一種の微生物を、当該微生物の耐熱温度以下にて4時間以上培養することを特徴とする有機性廃棄物の前処理方法に関する。
【0010】
前記微生物の培養開始時において、含水有機性廃棄物の水含有量は70乃至98重量%であることが好ましい。
【0011】
セルラーゼ、プロテアーゼ及びアミラーゼからなる群から選択される少なくとも一種の酵素を生成する微生物が、麹菌、乳酸菌及び枯草菌からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0012】
前記微生物が麹菌であり、当該麹菌は、培養開始時において、含水有機性廃棄物中の水性媒体1mlあたりの胞子数もしくは細胞数が1×10個以上となるように添加されたものであることが好ましい。
【0013】
前記微生物が乳酸菌であり、当該乳酸菌は、培養開始時において、含水有機性廃棄物中の水性媒体1mlあたりの細胞数もしくは胞子数が1×10個以上となるように添加されたものであることが好ましい。なお、乳酸菌は大気中に大量に存在するので、含水有機性廃棄物に通気することにより、大気中から含水有機性廃棄物中に乳酸菌を取り込み、その取り込まれた乳酸菌を培養してもよい。
【0014】
前記微生物が枯草菌であり、当該枯草菌は、培養開始時において、含水有機性廃棄物中の水性媒体1mlあたりの胞子数もしくは細胞数が1×10個以上となるように添加されたものであることが好ましい。なお、枯草菌は大気中に大量に存在するので、含水有機性廃棄物に通気することにより、大気中から含水有機性廃棄物中に枯草菌を取り込み、その取り込まれた枯草菌を培養してもよい。
【0015】
また、本発明は、前記した有機性廃棄物の前処理方法を行い、スラリー状の含水有機性廃棄物を得る工程(I)、スラリー状の含水有機性廃棄物を、一端が閉鎖された円筒状の容器であって、その閉鎖部の近傍には、スラリー状の含水有機性廃棄物の排出孔が形成されている容器に入れる工程(II)、円筒状の容器の開放端から閉鎖部に向かってスラリー状の含水有機性廃棄物を押圧する工程(III)及び円筒状の容器内に残った異物を除去する工程(IV)を含むことを特徴とする有機性廃棄物からの異物分離方法に関する。
【0016】
有機性廃棄物からの異物分離方法を、麹菌、乳酸菌、納豆菌等の食品の製造に使用されている微生物を使用して実施すれば、その方法は、液体飼料の製造方法にもなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、繊維質に富む野菜、野菜の芯、魚肉及び畜肉等を固形物(異物)に仕分けることなく、且つ、より低圧でのプレスで異物を分離することができる、生ごみ等の有機性廃棄物の前処理方法及び有機性廃棄物からの異物分離方法が提供される。
【0018】
本発明の方法では、飼料等として再利用できないもの、例えばプラスチック・フィルム、割り箸、爪楊枝等のみを、異物として分離することができる。従って、本発明により、高効率の異物分離が達成される。また、本発明の方法では、従来の1/2以下の加圧圧力で異物分離を行うことが出来るので、異物分離装置の加圧部に、従来のような高耐圧性容器を使用する必要がなく、よって、本発明方法の実施に用いる装置は、従来よりも製造コストの低いものでよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の異物分離方法における、スラリー状の有機性廃棄物を押圧する工程(III)を説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の前処理方法又は異物分離方法の工程(I)では、含水有機性廃棄物中において、セルラーゼ、プロテアーゼ及びアミラーゼからなる群から選択される少なくとも一種の酵素を生成する微生物からなる群から選択される少なくとも一種の微生物を、当該微生物の耐熱温度以下にて10時間以上培養を行う。
【0021】
「有機性廃棄物」とは、本発明において処理に供される、生ごみや食品製造残渣(具体的には、野菜、果実、魚肉、畜肉等の残渣やおから、米糠)等の有機性物質を含む廃棄物をいう。「有機性廃棄物」には、飼料等として再利用できないもの、例えばプラスチック・フィルム、割り箸、爪楊枝等が混入している場合が多い。「含水有機性廃棄物」とは、文字通り、水を含む有機性廃棄物を指す。水は、生ごみ等の有機性廃棄物に元々含有されているものであってもよいし、有機性廃棄物に添加されたものであってもよい。
【0022】
「含水有機性廃棄物」の水含有量は特に限定されないが、30乃至98重量%であることが好ましく、50乃至98重量%であることがより好ましく、70乃至98重量%であることがさらにより好ましく、80乃至98重量%であることが特に好ましい。水分含有量が多いほど、処理後、即ち工程(I)終了後において、粘度の低い含水有機性廃棄物スラリーが得られる。当然のことながら、被処理物である廃棄物が多くの水分を含有するものである場合には、添加する水の量は少なくてよく、場合によっては水を添加しなくてよく、一方、廃棄物があまり水を含有していない場合には、多くの水を添加することが好ましい。
【0023】
本発明では、前処理方法又は工程(I)において、有機性廃棄物に由来する有機性物質を、微生物が産生するセルラーゼ、プロテアーゼ及びアミラーゼからなる群から選択される少なくとも一種の酵素によって分解する。これにより、含水有機性廃棄物はスラリー状となる。有機性物質中の繊維質のもの、具体的には、野菜や果物、及びそれらの芯の部分や、魚肉、畜肉等は、未処理の場合には、弾力性があるために剪断力では粉砕され難く、そのために異物として分離されてしまう。しかし、本発明の前処理方法又は工程(I)では、このような繊維質のものが分解され、含水有機性廃棄物スラリーの構成要素となる。
【0024】
セルラーゼの生成は、子嚢菌類(Ascomycota)や担子菌類(Basidiomycota)等の真菌類(Fungi)に分類される微生物に多く見られる。子嚢菌類に属するのは、酵母、カビ、及び一部のキノコである。また、担子菌類に属するのは、多くのキノコである。トリコデルマ菌の一種であるTrichoderma reeseiのように、セルラーゼ高産生菌として知られているものもある。
【0025】
プロテアーゼを生成する微生物は、マイタケ、麹、ケカビ、クモノスカビ等の真菌類(Fungi)や、枯草菌(Bacillus subtilis)の一種である納豆菌である。また、アミラーゼを生成する微生物は多いが、工業的に利用されている微生物としては、枯草菌や麹菌の一種であるニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)が知られている。
【0026】
本発明では、前記のような酵素を生成する微生物の中、麹菌、乳酸菌及び枯草菌からなる群から選択される少なくとも一種を使用することが好ましい。また、枯草菌としては納豆菌を使用することが好ましい。麹菌や乳酸菌には、食品工業や医薬品工業において従来から使用されているものが多々あり、容易に入手できるからである。
【0027】
麹菌とは、その学名でいうと、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)及びモナスカス(Monascus)等である。アスペルギルス・ニガーに属する麹菌の例としては、黒麹菌(Aspergillus awamori)及び白麹菌(Aspergillus usamiiやAspergillus kawachii)が挙げられる。アスペルギルス・オリザエに属する麹菌の例としては、黄麹菌、醤油麹菌(Aspergillus soya又はAspergillus sojae)及びたまり麹菌(Aspergillus tamari)が挙げられる。モナスカス属の麹菌の例としては、紅麹菌が挙げられる。
【0028】
麹菌は、例えば、予め水に種麹を分散させておき、その種麹を含有する水を有機性廃棄物に添加することにより、含水有機性廃棄物中に導入する。種麹は、米などを原料として麹菌を5日間程度培養し、胞子を充分に着生させたものを、乾燥したものである。原料に胞子が着生したままのもの(例えば、麹菌胞子が多量に着生した米を乾燥させたもの)を「粒状種麹」といい、例えば篩を用いて胞子のみを回収したものを、「粉状種麹」という。
【0029】
培養開始時における、含水有機性廃棄物中の種麹の量は、培養により、有機性物質を適切に分解できるような量の酵素を生成するような量であれば特に限定されない。有機性物質の効率的な分解のためには、含水有機性廃棄物中に存在する水系媒体(主として水)1mlあたり、麹菌の胞子数が1×10個以上となる量であることが好ましく、1×10個以上となる量であることがさらに好ましく、5×10個以上となる量であることがさらにより好ましい。また、その量に上限はないが、含水有機性廃棄物中に存在する水系媒体1mlあたりの麹菌の胞子数が1×1010個を超えると、有機性物質の分解効率の上昇割合は小さくなる。したがって、培養開始時における麹菌の胞子数は、経済性の観点から、含水有機性廃棄物中に存在する水系媒体1mlあたり、1×1010個程度が上限である。
【0030】
胞子数の数え方は、次の通りである。麹菌が含有されてなる水系媒体を適当量取り、それを適宜希釈する。その希釈液を適当量取り、その中の胞子数を数え、水系媒体1mlあたりの胞子数に換算する。また細胞数の数え方は麹菌が含有されてなる水系媒体を適当量取り、それを適宜希釈しこれを寒天培地に塗布して30℃にて48時間培養後に発生するコロニーの数を数え、水系媒体1mlあたりの細胞数に換算する。
【0031】
種麹の使用に代わって、好ましくは培養開始後6時間以上が経過した固形発酵麹や液体発酵麹を使用することもできる。このような発酵麹を使用する場合には、その量は、含水有機性廃棄物中に存在する水系媒体(主として水)1mlあたり、麹菌の細胞数が1×10個以上となる量であることが好ましく、1×10個以上となる量であることがさらに好ましく、5×10個以上となる量であることがさらにより好ましい。また、その量に上限はないが、含水有機性廃棄物中に存在する水系媒体1mlあたりの麹菌の細胞数が1×1010個を超えると、有機性物質の分解効率の上昇割合は小さくなる。したがって、培養開始時における麹菌の細胞数は、経済性の観点から、含水有機性廃棄物中に存在する水系媒体1mlあたり、1×1010個程度が上限である。
【0032】
麹菌の細胞数の数え方は、次の通りである。麹菌が含有されてなる水系媒体を適当量取り、それを適宜希釈し、その希釈液の適当量を寒天培地に塗布する。この培地を30℃にて48時間培養し、発生したコロニーの数を数え、水系媒体1mlあたりのコロニー数に換算し、それを細胞数とする。麹菌の細胞数の数え方は、次の通りである。麹菌が含有されてなる水系媒体を適当量取り、それを適宜希釈し、その希釈液中の細胞数を数え、水系媒体1mlあたりの細胞数に換算する。
【0033】
乳酸菌とは、細菌の生物学的な分類上の特定の菌種を指すのではなく、発酵によって糖類から多量の乳酸を産生し、腐敗物質を作らないものをいう。乳酸菌には、細菌の生物学的な分類では、ラクトバシラス(Lactobaxillus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ペディオラクトコッカス(Pediococcus)属及びリューコノストック(Leuconostoc)属に属するものが知られている。
【0034】
乳酸菌は、例えば、121℃にて30分間殺菌した麹汁培養液に一白金耳の乳酸菌を加え、30℃にて48時間培養し、得られた乳酸菌培養液を所望の乳酸菌数(細胞数)となるように水で希釈し、得られた希釈液を、適当量、有機性廃棄物に添加することにより、含水有機性廃棄物中に導入する。麹汁培養液に添加された乳酸菌の培養は、20乃至60℃の温度で行うことが好ましく、25乃至35℃の温度がより好ましく、30℃近辺の温度が最も好ましい。通気は、してもしなくてもよい。
【0035】
培養開始時における、含水有機性廃棄物中の乳酸菌の量は、培養により、有機性物質を適切に分解できるような量の酵素を生成するような量であれば特に限定されない。有機性物質の効率的な分解のためには、含水有機性廃棄物中に存在する水系媒体(主として水)1mlあたり、乳酸菌の細胞数が1×10個以上となる量であることが好ましく、1×10個以上となる量であることがさらに好ましく、5×10個以上となる量であることがさらにより好ましい。また、その量に上限はないが、含水有機性廃棄物中に存在する水系媒体1mlあたりの乳酸菌の細胞数が1×10108個を超えると、有機性物質の分解効率の上昇割合は小さくなる。したがって、培養開始時における乳酸菌の細胞数は、経済性の観点から、含水有機性廃棄物中に存在する水系媒体1mlあたり、1×10108個程度が上限である。なお、乳酸菌の細胞数の数え方は、麹菌の細胞数の数え方と同様である。
【0036】
乳酸菌の中には、胞子を形成するものもある。そのような乳酸菌の場合には、胞子状態のものを使用してもよい。胞子状態の乳酸菌を使用する場合には、その量は、含水有機性廃棄物中に存在する水系媒体(主として水)1mlあたり、乳酸菌の胞子数が1×10個以上となる量であることが好ましく、1×10個以上となる量であることがさらに好ましく、5×10個以上となる量であることがさらにより好ましい。また、その量に上限はないが、含水有機性廃棄物中に存在する水系媒体1mlあたりの乳酸菌の胞子数が1×10108個を超えると、有機性物質の分解効率の上昇割合は小さくなる。したがって、培養開始時における乳酸菌の胞子数は、経済性の観点から、含水有機性廃棄物中に存在する水系媒体1mlあたり、1×10108個程度が上限である。なお、乳酸菌の胞子数の数え方は、麹菌の胞子数の数え方と同様である。
【0037】
枯草菌は、その学名でいうと、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)である。その代表例が、納豆菌である。枯草菌は、例えば、予め水に、市販されている胞子状納豆菌を分散させておき、その胞子状納豆菌を含有する水を有機性廃棄物に添加することにより、含水有機性廃棄物中に導入する。胞子状納豆菌は、低温及び高温に対して耐性があり、−100℃程度乃至+100℃程度でも死滅しない。また、酸やアルカリに対しても耐性があり、pH1.0乃至10.0の環境下で生き延びることができる。したがって、その保存条件はシビアではない。本発明では、もちろん、胞子状納豆菌を培養した発芽・増殖させたものを使用することもできる。
【0038】
培養開始時における、含水有機性廃棄物中の枯草菌の量は、培養により、有機性物質を適切に分解できるような量の酵素を生成するような量であれば特に限定されない。有機性物質の効率的な分解のためには、含水有機性廃棄物中に存在する水系媒体(主として水)1mlあたり、枯草菌の胞子数もしくは細胞数が1×10個以上となる量であることが好ましく、1×10個以上となる量であることがさらに好ましく、5×10個個以上となる量であることがさらにより好ましい。また、その量に上限はないが、含水有機性廃棄物中に存在する水系媒体1mlあたりの枯草菌の胞子数もしくは細胞数が1×1010個を超えると、有機性物質の分解効率の上昇割合は小さくなる。したがって、培養開始時における枯草菌の胞子数もしくは細胞数は、経済性の観点から、含水有機性廃棄物中に存在する水系媒体1mlあたり、1×1010個程度が上限である。なお、枯草菌の胞子数や細胞数の数え方は、麹菌におけるそれらの数え方と同様である。
【0039】
本発明では、麹菌、乳酸菌、枯草菌以外の微生物も使用できることは、前記したとおりである。本発明の前処理方法又は異物分離方法の工程(I)で添加する微生物の好ましい濃度(培養開始時における含水有機性廃棄物中に存在する水系媒体1mlあたりの数)は、微生物の種類によって異なるが、麹菌、乳酸菌もしくは枯草菌を使用する場合の濃度が大凡の目安となる。
【0040】
本発明の前処理方法又は異物分離方法の工程(I)では、二種以上の微生物を使用してもよい。二種以上の微生物を使用する場合、それらの微生物の至適pHや至適培養温度が近い場合には、それらの微生物を、含水有機性廃棄物中に共存させてよい。
【0041】
互いに至適pHや至適培養温度が異なる二種以上の微生物を使用する場合には、先ず、一方の微生物のみが含水有機性廃棄物中に存在する状態において培養を行い、ある程度の時間が経過した後、次の微生物を添加して培養を行うことが好ましい。例えば、至適pHが異なる場合には、初めに至適pHがより高い微生物を培養し、その後に至適pHがより低い微生物を添加して培養を行う。また、至適温度が異なる場合には、初めに至適温度がより低い微生物を培養し、その後に至適温度がより高い微生物を培養する。
【0042】
なお、本発明の前処理方法又は異物分離方法の工程(I)は、好ましくは、適切な微生物を、それが適当量で存在するように外部から添加して、微生物を含有する含水有機性廃棄物を調製し、得られた含水有機性廃棄物中で添加した微生物を培養するが、次の方法も、本発明の範囲に包含される。即ち、本発明の異物分離方法を実施して得られたスラリー状の生ごみであって、培養に供された微生物が生存しているものを、新たな有機性廃棄物と混合し、含水有機性廃棄物を調製する。そして、得られた含水有機性廃棄物中で、その中に生存している微生物を培養する。
【0043】
また、大気中には大量の乳酸菌や枯草菌が浮遊しているので、あえて乳酸菌や枯草菌を添加しなくても、含水有機性廃棄物に通気を行うだけで乳酸菌や枯草菌が増殖する場合もある。含水有機性廃棄物中において、大気中に存在した乳酸菌や枯草菌が増殖し、それらがセルラーゼ、プロテアーゼ及びアミラーゼからなる群から選択される少なくとも一種の酵素を生成し、生成された酵素によって有機性物質が分解される場合も、本発明に包含される。
【0044】
含水有機性廃棄物中における微生物の培養は、存在する微生物の耐熱温度以下で行う。したがって、例えば麹菌の場合には10乃至45℃程度、乳酸菌の場合には10乃至60℃程度、枯草菌の場合には20乃至50℃程度で行う。より好ましい温度は、25乃至45℃であり、特に好ましい温度は、30℃付近である。なお、例えば発酵熱によって温度が上昇しすぎる場合には、適宜冷却を行う。
【0045】
本発明においては、培養時間は4時間以上であり、10時間以上であることが好ましく、12時間以上であることがより好ましく、24時間以上であることがさらにより好ましい。培養時間の上限は、分解効率が停滞し落ち始める時であり、通常は40時間程度である。また、特に麹菌の培養に際しては、通気等の手段により、酸素を供給することが好ましい。培養時間は、胞子状態のものを添加した場合と細胞状態のものを添加した場合とでは異なる。前者の場合、発芽に要する時間(大凡6時間)を追加する必要があるからである。したがって、
胞子状の微生物を添加する場合には、培養時間は10時間以上であることが好ましい。
【0046】
培養時、微生物は、セルロース、蛋白質、澱粉等を分解する酵素を生成し、体外に排出する。それらの酵素により、有機性物質が分解され、含水有機性廃棄物は、粘度の低いスラリー状となる。なお、培養終了後に加熱を行い、培養した微生物を死滅させたり、それらが生成した酵素を失活させてもよい。
【0047】
麹菌や乳酸菌を使用した場合には、培養終了後のスラリーは、通常はpH4乃至6程度であるが、有機性物質として澱粉が多量に存在した場合等においては、pH2.5程度まで低下することもある。また、枯草菌の代表例である納豆菌を使用した場合には、培養終了後のスラリーは、通常はpH5.5乃至6.5程度である。
【0048】
本発明の有機性廃棄物からの異物分離方法では、上記した有機性廃棄物の前処理方法を、工程(I)として行う。その後、工程(II)乃至(IV)を実施する。図1を参照しながら、工程(II)乃至(IV)を説明する。
【0049】
工程(II)乃至(IV)では、一端が閉鎖された円筒状の容器10であって、その閉鎖部1の近傍には、スラリー状の含水有機性廃棄物の排出孔3が形成されている容器を用いる。図1においては、円筒状の容器10は横置きされているが、閉鎖部1を下にして、縦置きしてもよい。また、排出孔3は、円筒状の容器10の側面であって、閉鎖部1に近い部分の一部にのみ形成されているが、閉鎖部1に近い部分の全周に排出孔3が形成されていてもよい。
【0050】
工程(II)では、工程(I)で得られたスラリー状の含水有機性廃棄物20を、上記の円筒状の容器10に入れる。円筒状の容器10の一部に装入口が設けられていれば、その装入口から、また、設けられていない場合には、円筒状の容器10の開放端(閉鎖部1に対向する、反対側の端部)から、スラリー状の含水有機性廃棄物20を入れる。
【0051】
工程(III)では、円筒状の容器10の開放端から閉鎖部1に向かって、スラリー状の含水有機性廃棄物20を押圧する。押圧には、例えば加圧プランジャ30を用いる。図1において、矢印aの方向に加圧プランジャ30を押すことにより、スラリー状の含水有機性廃棄物20は、排出孔3から矢印bの方向に排出され、異物40のみが、円筒状の容器10の閉鎖部1に接触するように残留する。
【0052】
押圧時の圧力は、特に限定されないが、スラリー状の含水有機性廃棄物20が低粘度であるため、好ましくは40乃至100kg/cm、より好ましくは40乃至90kg/cm、さらにより好ましくは40乃至80kg/cmでよい。なお、図1には、加圧プランジャ30を押す態様を記載したが、加圧プランジャ30は移動せず、円筒状の容器10が矢印aとは逆の方向に移動するような態様であってもよい。
【0053】
スラリー状の含水有機性廃棄物20の排出が終了したら、加圧プランジャ30を取り除き、円筒状の容器10内に残った異物40を除去する(工程(IV))。異物40を除去するための具体的方法は、特に限定されない。スクレーパでの除去等、この分野で通常行われている方法を適用することができる。
【0054】
図1には、本発明の有機性廃棄物からの異物分離方法の実施に用いる装置の加圧部のみを記載したが、この装置の加圧部以外の部分は、この分野で通常用いられている構成でよい。
【0055】
本発明の有機性廃棄物からの異物分離方法で得られる、異物が除去されてなるスラリー状の含水有機性廃棄物は、液体飼料として使用することができる。したがって、上記した有機性廃棄物からの異物分離方法は、液体飼料の製造方法ということもできる。なお、「液体飼料」における「液体」の概念には、化学用語でいう液体のものの他、懸濁状態等の、飼料の分野において「液体」と呼称される状態のものが包含される。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
【0057】
(実施例1)
100kgの食品残渣(生ごみ)を、図1に示す装置(内径:30cm;排出孔の大きさ:内径2mm;排出孔の数:2,000)にて、187kg/cmの圧力で押圧したところ、80kgが排出孔3から排出され、20kgが異物として容器内に残存していた。この異物の内容は、割り箸、ビニール袋、野菜屑等であった。また、この異物の水分含有量は約60重量%であった。得られた異物20kgを等分に分け、以下の試験を行った。
【0058】
(A)試料の調製
(1)対照区
異物10kgに水10リットル(=10kg)を加え、125℃にて24時間静置した。
(2)試験区
10リットル(=10kg)の水に、黒麹の種麹(原料の米を含む)を、水1mlあたりの胞子数が1×10個となる量で加えた。この種麹を含む水10リットルを異物10kgに添加した。したがって、このように調製された含水有機性廃棄物の麹菌の胞子数は、10×10×10=10×1010個であり、含水有機性廃棄物中の水1mlあたり、6.25×10個であった。このように調製された含水有機性廃棄物に、20リットル/分の容量で通気させながら、常温にて麹菌の培養を24時間行った。培養中に温度は35℃まで上昇したが、特に冷却は行わなかった。含水有機性廃棄物中の有機性物質は、麹菌によって生成された酵素の働きにより分解され、含水有機性廃棄物は、非常にさらさらとしたスラリーとなった。
【0059】
(B)加圧プレス試験
対照区と試験区の試料各々を、図1に示す装置にて押圧した。対照区の押圧力は187kg/cm、試験区の押圧力は79kg/cmであった。
【0060】
(C)結果
(C−1)対照区
9.2kgの異物が残った。即ち、1回目の押圧で残った異物の中、0.8kgのみが、排出孔から排出された。
(C−2)試験区
残った異物の量は、1.5kgであった。即ち、1回目の押圧で残った異物の中、8.5kgが排出孔から排出された。また、排出孔から排出されたスラリー状の生ごみは、液体飼料として使用可能なものであった。
【0061】
(実施例2)
100kgの食品残渣(生ごみ)を、図1に示す装置(内径:30cm;排出孔の大きさ:内径2mm;排出孔の数:2,000)にて、187kg/cmの圧力で押圧したところ、25kgの固形状の生ごみが異物として容器内に残存した。この異物の内容は、割り箸、ビニール袋、野菜屑等であった。また、この異物の水分含有量は約60重量%であった。
【0062】
得られた異物25kgに、実施例1の試験区と同様の処理を行って得られたスラリー状の生ごみ(水分含有率:約80重量%;一度培養に供された麹菌が生存しているもの)50kgを添加し、得られた混合物中において、品温20℃以上で、20リットル/分の容量で通気させながら麹菌の培養を行った。培養開始から4時間後には、非常にさらさらとしたスラリーとなっていた。
【0063】
培養を24時間行った後、得られた試料を、図1に示す装置にて押圧した。押圧力は79kg/cmであった。残った異物の量は、3.0kgであった。排出孔から排出されたスラリー状の生ごみは、液体飼料として使用可能なものであった。
【0064】
(実施例3)
100kgの食品残渣(生ごみ)を、図1に示す装置(内径:30cm;排出孔の大きさ:内径2mm;排出孔の数:2,000)にて、187kg/cmの圧力で押圧したところ、74kgが排出孔3から排出され、26kgが異物として容器内に残存していた。この異物の内容は、割り箸、ビニール袋、野菜屑等であった。また、この異物の水分含有量は約60重量%であった。得られた異物26kgを等分に分け、以下の試験を行った。
【0065】
(A)試料の調製
(1)対照区
異物13kgに水26リットル(=26kg)を加え、25℃にて24時間静置した。
(2)試験区
26リットル(=26kg)の水に、乳酸菌を、水1mlあたりの細胞数が10個となる量で加えた。この乳酸菌を含む水26リットルを異物13kgに添加した。したがって、このように調製された含水有機性廃棄物の乳酸菌数は、10×10×26=26×10個であり、含水有機性廃棄物中の水1mlあたり、7.7×10個であった。このように調製された含水有機性廃棄物に、20リットル/分の容量で通気させながら、常温にて乳酸菌の培養を18時間行った。培養中に温度は35℃まで上昇したが、特に冷却は行わなかった。含水有機性廃棄物中の有機性物質は、乳酸菌発酵により生成された酵素の働きにより分解され、含水有機性廃棄物は、非常にさらさらとしたスラリーとなった。
【0066】
(B)加圧プレス試験
対照区と試験区の試料各々を、図1に示す装置にて押圧した。対照区の押圧力は187kg/cm、試験区の押圧力は79kg/cmであった。
【0067】
(C)結果
(C−1)対照区
腐敗して使いものにならなかった。
(C−2)試験区
残った異物の量は、2kgであった。即ち、1回目の押圧で残った異物の中、11kgが排出孔から排出された。また、排出孔から排出されたスラリー状の生ごみは、液体飼料として使用可能なものであった。
【0068】
(実施例4)
100kgの食品残渣(生ごみ)を、図1に示す装置(内径:30cm;排出孔の大きさ:内径2mm;排出孔の数:2,000)にて、187kg/cmの圧力で押圧したところ、74kgが排出孔3から排出され、26kgが異物として容器内に残存していた。この異物の内容は、割り箸、ビニール袋、野菜屑等であった。また、この異物の水分含有量は約60重量%であった。得られた異物26kgを等分に分け、以下の試験を行った。
【0069】
(A)試料の調製
(1)対照区
異物13kgに水26リットル(=26kg)を加え、25℃にて12時間静置した。
(2)試験区
26リットル(=26kg)の水に、納豆菌の胞子を、水1mlあたりの胞子数が10個となる量で加えた。この納豆菌の胞子を含む水26リットルを異物13kgに添加した。したがって、このように調製された含水有機性廃棄物の納豆菌胞子数は、10×10×26=26×10個であり、含水有機性廃棄物中の水1mlあたり、7.7×10個であった。このように調製された含水有機性廃棄物に、20リットル/分の容量で通気させながら、常温にて納豆菌の培養を12時間行った。培養中に温度は35℃まで上昇したが、特に冷却は行わなかった。含水有機性廃棄物中の有機性物質は、納豆菌発酵により生成された酵素の働きにより分解され、含水有機性廃棄物は、非常にさらさらとしたスラリーとなった。
【0070】
(B)加圧プレス試験
対照区と試験区の試料各々を、図1に示す装置にて押圧した。対照区の押圧力は187kg/cm、試験区の押圧力は79kg/cmであった。
【0071】
(C)結果
(C−1)対照区
腐敗して使いものにならなかった。
(C−2)試験区
残った異物の量は、3.5kgであった。即ち、1回目の押圧で残った異物の中、9.5kgが排出孔から排出された。また、排出孔から排出されたスラリー状の生ごみは、液体飼料として使用可能なものであった。
【符号の説明】
【0072】
1 閉鎖部
3 排出口
10 円筒状の容器
20 スラリー状の含水有機性廃棄物
30 加圧プランジャ
40 異物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水有機性廃棄物中において、セルラーゼ、プロテアーゼ及びアミラーゼからなる群から選択される少なくとも一種の酵素を生成する微生物からなる群から選択される少なくとも一種の微生物を、当該微生物の耐熱温度以下にて4時間以上培養することを特徴とする有機性廃棄物の前処理方法。
【請求項2】
前記微生物の培養開始時において、含水有機性廃棄物の水含有量が70乃至98重量%である、請求項1に記載の有機性廃棄物の前処理方法。
【請求項3】
セルラーゼ、プロテアーゼ及びアミラーゼからなる群から選択される少なくとも一種の酵素を生成する微生物が、麹菌、乳酸菌及び枯草菌からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の有機性廃棄物の前処理方法。
【請求項4】
前記微生物が麹菌であり、当該麹菌は、培養開始時において、含水有機性廃棄物中の水性媒体1mlあたりの胞子数もしくは細胞数が1×10個以上となるように添加されたものである、請求項3記載の有機性廃棄物の前処理方法。
【請求項5】
前記微生物が乳酸菌であり、当該乳酸菌は、培養開始時において、含水有機性廃棄物中の水性媒体1mlあたりの胞子数もしくは細胞数が1×10個以上となるように添加されたものである、請求項3記載の有機性廃棄物の前処理方法。
【請求項6】
前記微生物が枯草菌であり、当該枯草菌は、培養開始時において、含水有機性廃棄物中の水性媒体1mlあたりの胞子数もしくは細胞数が1×10個以上となるように添加されたものである、請求項3記載の有機性廃棄物の前処理方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の有機性廃棄物の前処理方法を行い、スラリー状の含水有機性廃棄物を得る工程(I)、スラリー状の含水有機性廃棄物を、一端が閉鎖された円筒状の容器であって、その閉鎖部の近傍には、スラリー状の含水有機性廃棄物の排出孔が形成されている容器に入れる工程(II)、円筒状の容器の開放端から閉鎖部に向かってスラリー状の含水有機性廃棄物を押圧する工程(III)及び円筒状の容器内に残った異物を除去する工程(IV)を含むことを特徴とする有機性廃棄物からの異物分離方法。
【請求項8】
液体飼料の製造方法である、請求項7に記載の有機性廃棄物からの異物分離方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−250217(P2012−250217A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126962(P2011−126962)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(500220245)霧島高原ビール株式会社 (3)
【出願人】(596045926)
【Fターム(参考)】