説明

有機性廃棄物の堆肥化プロセス

【課題】 畜糞又はそれを含有する有機性廃棄物の堆肥化方法として、酸性で推移し臭気発生が既往の方法に比べて格段に少ないこと。
【解決手段】 pHが4.9の生ごみ起源の種菌A30kgに、バーク5トン及びゼリー菓子100kgとパン粉600kgを混合し、10日間放置し、切り返しを数回行なって種菌Bを調製する。大型の開放レーンを用い、その入口側端部に、畜糞10トン、生ごみ10トン、バーク5トン、種菌B1.5トン、戻し堆肥0.5トンを毎日投入する。開放レーンで攪拌手段を2往復/日で動作させ、かつその底部の通気手段により、被処理物1m3当たり毎分100リットルの通気を行う。被処理物は攪拌手段で少しずつ出口側端部に送られ、その間に微生物の働きで分解され、65〜83℃の高温が発生する。被処理物は酸性状態に維持され、臭気の発生は最小限であり不快感がない。25日で堆肥になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物を堆肥に変換する畜糞含有の有機性廃棄物の堆肥化プロセスに関し、大型の開放レーン式堆肥化設備で実施でき、得られる堆肥が酸性(pH4からpH7)を示し、堆肥化の過程での悪臭発生が既往の方法に比べて著しく少ない有機性廃棄物の堆肥化プロセスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
わが国では家庭やレストラン、或いは養鶏場、養豚場、若しくは酪農家等から毎年大量の生ごみや畜糞等が排出されている。これらの廃棄物はリサイクル可能な有機資源でもあり、事実、そのかなりの量が堆肥の原料として使用されている。
【0003】
これらの有機性廃棄物を堆肥化する際に問題となるのが悪臭の発生である。特に畜糞を主体とする有機性廃棄物の堆肥化は弱アルカリ性からアルカリ性(pH8〜10)で進行し、その過程でアンモニア、低級脂肪酸、メルカプタン、インドール化合物等の発生により悪臭を放つ。そのコントロールは処理の規模が大きくなればなるほど困難になる。特に一日当たりの処理量が20〜30トンにもおよぶ大型の開放レーン式堆肥化設備では、堆肥化プロセスが悪臭の強い腐敗状態に陥ると、その回復には長時間を要し、その間、悪臭や害虫発生などの問題により、その作業に携わる者に多大な苦痛をもたらし、近隣の大気環境にも多大な悪影響を与えることになる。
【0004】
臭気発生の少ない有機性廃棄物の堆肥化処理の分野に特許文献1の提案がある。これは、組立型コンクリート堆肥盤に土を盛り締め固めた後、穴を掘り水産系残渣を投入し、かつ乳酸菌を添加し、次いでこれらを混合した後、覆土し空気を遮断し嫌気発酵を行い、さらに土壌と混合させた後切り返しにより好気発酵させることで悪臭を発生させることなく堆肥化する水産系残渣の土壌埋設型堆肥化方法である。
【0005】
臭気発生の少ない他の堆肥化プロセスとしては、生ごみを処理対象とした特許文献2の有機廃棄物の堆肥化方法が提案され、すでに実用化されるに至っている。特に実用化された堆肥化プロセスでは、スルフォロバス属細菌、アリサイクロバチルス属細菌、若しくは乳酸菌を含有する基材を生ごみと混在させ、かつ撹拌して空気に接触させ、更に継続的に50℃以上に加温する処理が行われている。
【0006】
通常の生ごみ処理では堆肥化が弱アルカリ性で進行するのに対し、以上の堆肥化プロセスでは弱酸性(pH4〜7)で進行するのが大きな特徴であり、この特徴と臭気発生の少ないこととの関連が指摘されている。この堆肥化処理の過程では乳酸菌を主体とする微生物叢が形成されることが明らかになっており、この生ごみ処理プロセスが安定に維持される原因となっていると考えられている。
【0007】
しかしながらこの堆肥化プロセスの実施には電気駆動等による攪拌と加温とが必須であり、加温装置と攪拌装置を登載した比較的小型の装置(処理容量500kg程度まで)に限られてきた。またこの堆肥化プロセスは生ごみの堆肥化には有用であるものの、畜糞、或いはそれを主体とする有機性廃棄物の堆肥化には、悪臭発生やプロセスの安定性の点から適用困難であり、とりわけ加温装置を登載しない大型の開放レーン式堆肥化設備では全く適用不可能であった。
【0008】
【特許文献1】特開2004−299949号公報
【特許文献2】特許第3592174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物の堆肥化プロセスとして、処理過程が酸性で推移し、臭気発生が既往の方法に比べて格段に少ない大型の開放レーン式堆肥化プロセス、例えば、1日処理量約25トン等に適用可能な堆肥化プロセスを提供することを解決の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1は、畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物を開放レーンの入口側端部に投入し、その開放レーンの出口側端部に向かって攪拌移送させつつ微生物によって処理し、出口側端部で処理を完了させる畜糞含有の有機性廃棄物の堆肥化プロセスに於いて、
前記入口側端部に畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物を投入する際に、pHが4〜7の範囲内にある生ごみ起源の堆肥に、適量のバークと糖類を単独又は任意の組み合わせで添加して4〜10日間放置することにより得られる酸性堆肥状種菌を同時に投入することとした有機性廃棄物の堆肥化プロセスである。
【0011】
本発明の2は、本発明の1の有機性廃棄物の堆肥化プロセスに於いて、前記生ごみ起源の堆肥として、生ごみと好酸性微生物を担持した基材とを混在させ、かつ撹拌して空気に接触させ、更に継続的に加温することにより作成したそれを採用したものである。
【0012】
本発明の3は、本発明の2の有機性廃棄物の堆肥化プロセスに於いて、前記好酸性微生物として、スルフォロバス アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius ATCC49426)、アリサイクロバチルス センダイエンシス(Alicyclobacillus sendaiensis JCM11817)、バチルス(Bacillus)属細菌、乳酸菌を採用したものである。
【0013】
本発明の4は、本発明の1、2又は3の有機性廃棄物の堆肥化プロセスに於いて、前記酸性堆肥状種菌を、前記畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物に対して、3〜15%の割合で投入することとしたものである。
【0014】
本発明の5は、本発明の1、2、3又は4の有機性廃棄物の堆肥化プロセスに於いて、前記入口側端部に、畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物を投入する際に、前記酸性堆肥状種菌と共に、戻し堆肥を投入することとしたものである。
【0015】
本発明の6は、請求項1、2、3、4又は5の有機性廃棄物の堆肥化プロセスに於いて、前記畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物の投入時及び処理完了時を除いて、被処理物の温度が65℃以上を保持するように制御することとしたものである。
【0016】
本発明の7は、本発明の1、2、3、4、5又は6の有機性廃棄物の堆肥化プロセスに於いて、前記開放レーンの底部に通気手段を配し、該通気手段による通気量を被処理物の1m3当たり毎分50〜300リットルに設定することとしたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の1の有機性廃棄物の堆肥化プロセスは、大型の開放レーン堆肥化設備を使用し、その開放レーンの入口側端部で畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物を投入して処理するものであるが、入口側端部では、該有機性廃棄物等と共に、前記酸性堆肥状種菌を投入し、適切に攪拌してその中に空気を導入し、良好な好気性発酵を進行させつつ該開放レーンの出口側端部まで送るものである。
【0018】
そのため、処理過程を通じて畜糞等の被処理物は酸性状態に保持され、かつ前記のような良好な空気の導入により高温ともなり、このような酸性及び高温の処理過程で種々の雑菌、回虫卵、有鉤条虫又は蝿の卵等を効果的に死滅又は不活化させ、被処理物の腐敗化や衛生害虫の発生等による種々の弊害を予め除去することができる。また処理過程は、前記のように、最後まで酸性状態が維持され、最終的に得られる堆肥のpHも4〜7の範囲内にあるものとなり、加えて、同様に処理過程を通じて、臭気の発生を最小限に抑え得ることとなり、作業従事者を悪臭発生による多大な苦痛から解放し、近隣の大気環境への悪影響を回避することが可能となったものである。
【0019】
本発明の2の有機性廃棄物の堆肥化プロセスによれば、前記生ごみ起源の堆肥として適切な処理過程で作成したそれを採用したため、より品質の良い酸性堆肥状種菌を確実に作成して、これを使用することにより、その処理過程で臭気の発生を一層減少させ、処理途上の畜糞又はこれを含む有機性廃棄物及び得られる堆肥のpHを4〜7の範囲内に導くことができることになる。
【0020】
本発明の3の有機性廃棄物の堆肥化プロセスによれば、前記好酸性微生物として、適切な微生物を選択して使用するものであるため、前記生ごみ起源の堆肥として、より適切なそれが容易に作成し得、本発明の2と同様に、堆肥化処理の過程で臭気の発生を一層減少させ、処理途上の畜糞又はこれを含む有機性廃棄物及び得られる堆肥のpHを4〜7の範囲内に導くことができることになる。
【0021】
本発明の4の有機性廃棄物の堆肥化プロセスによれば、前記酸性堆肥状種菌を無駄なく適切に用いて、堆肥化処理の過程に於ける臭気の発生を減少させ、処理過程の畜糞又はこれを含む有機性廃棄物及び得られる堆肥のpHを4〜7の範囲内に導くことができることになる。
【0022】
本発明の5の有機性廃棄物の堆肥化プロセスによれば、投入する畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物の状態を、その後の微生物処理のために適切な状態に調整することが可能であり、これによって、発酵プロセスを、臭気の発生を極力抑制し、被処理物のpHを4〜7に維持しながら良好に進行させることができるようになる。
【0023】
本発明の6の有機性廃棄物の堆肥化プロセスによれば、畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物等の被処理物の温度を65℃以上に保持することを目標として、該被処理物への通気量や攪拌処理の回数を調整すれば、発酵過程を、臭気の発生を極力抑制し、被処理物のpHを4〜7に維持しながら良好に進行させることができるようになる。
【0024】
本発明の7の有機性廃棄物の堆肥化プロセスによれば、畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物等の被処理物の発酵が良好に進行し、臭気の発生が抑制され、被処理物のpHが4〜7に維持されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の有機性廃棄物の堆肥化プロセスは、大型の開放レーン式堆肥化設備を用い、その開放レーンの入口側端部で、畜糞又はこれを含む有機性廃棄物を投入する際に、これに酸性堆肥状種菌(種菌B)を混合し、また必要に応じてこれに更に戻し堆肥も混合した上で、この被処理物を、該開放レーンの出口側端部に向かって攪拌移動させつつ微生物によって好気性発酵処理し、出口側端部に到達するまでに処理を完了させるものである。
【0026】
前記開放レーンは開放直線型で、単列でも良いが、複列とするのが相互に隣接するレーンからの発酵熱の供給又は受給のために好都合である。開放レーンの上部には雨よけの屋根が設置されていることが望ましい。
【0027】
また床には被処理物に対する空気の供給のための通気手段を配することとするのが好ましい。このように通気手段を配した場合は、例えば、通気量を被処理物1m3当たり毎分50〜300リットル程度に設定するのが好都合である。もっともこの通気量は前記攪拌手段の攪拌動作をどの程度に行うかによって調整すべきであり、攪拌動作が頻繁に行われるならば、その通気量は低下させても良いし、攪拌動作が少なくしか行われないならば、通気量を上昇させる必要があることになる。
【0028】
前記被処理物を攪拌移動させる手段は、一般には、ロータリー式及びスクープ式のそれが提供されているが、そのいずれを採用することも可能である。その他の手段を採用しても被処理物を攪拌しながら入口側から出口側に移動させることが可能であれば、不都合ではない。被処理物の攪拌は、その投入時及び処理完了時を除いて、その温度が65℃以上を保持するように行うのが適当であり、好ましくは、80℃を越えるように行うべきである。
【0029】
なおこの攪拌動作は、前記のように、前記通気手段の単位時間当たりの通気量とも関係しており、結局、通気手段による通気動作と攪拌手段による攪拌移送動作の双方により、被処理物が先に述べた温度を確保できるようにすれば良い訳である。
【0030】
前記種菌B(酸性堆肥状種菌)は、pHが4〜7の範囲内にある生ごみ起源の堆肥(種菌A)を用いて作成する。そこでこの種菌Aの作成方法から説明する。
【0031】
この種菌Aは、生ごみと好酸性微生物(スルフォロバス アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius ATCC49426)、アリサイクロバチルス センダイエンシス(Alicyclobacillus sendaiensis JCM11817)、バチルス(Bacillus)属細菌、乳酸菌など)を担持した基材とを混在させ、かつ撹拌して空気に接触させ、更に継続的に加温することにより作成することができる。こうして得られる種菌Aは、酸敗状態とならずにpHが4〜7の範囲内に維持されるものである。乳酸菌を主体とする微生物叢が形成されること等により、そのような結果となる。
【0032】
この生ごみと基材との混合物は、以上のように、攪拌して空気に接触させながら継続的に加温すべきものであるが、このような処理は、次のような装置を用いて行うのが適当である。
【0033】
例えば、生ごみ及び前記基材を入れる処理容器と、該処理容器中に入れた生ごみ及び基材を撹拌する撹拌手段と、それらを加温する加温手段と、該撹拌手段の動作を制御しかつ加温手段の加温動作を制御する制御手段とを備えた生ごみ処理装置である。
【0034】
前記処理容器や攪拌手段等の各部の具体的な構成は自由であり、特定のそれに限定されない。なお、前記加温は、対象とするスルフォロバス アシドカルダリウス、アリサイクロバチルス センダイエンシス、バチルス属細菌、乳酸菌が30〜80℃の温度範囲で生育し得るものであるから、その範囲内とすれば良い。40〜80℃の範囲に保持することとすれば、その活動をより一層活発にし得る。50〜80℃の範囲に保持することとした場合は更にその活動が活発になるため好ましい。
【0035】
前記種菌B(酸性堆肥状種菌)は、前記のように、こうして作成した種菌Aを用いて作成する。即ち、種菌Bは、種菌Aに適量のバーク(樹皮片)と糖類を単独又は任意の組み合わせで混合し、4〜10日間放置することにより作成できる。バークは50mm程度の目開きの篩にかけ、その篩を通過したものだけを使用することが好ましい。糖類としてはブドウ糖、果糖などの単糖類、スクロースや麦芽糖などの二糖類、デンプンなどの多糖類、或いはそれらを含有する廃糖蜜、乳清(ホエー)、廃糖飼料、はちみつ、ゼリー、シロップ、パン粉、破砕脱水した野菜くずなどを利用することができる。
【0036】
以上の混合物の処理には特段の設備を必要としないが、4〜10日間放置する期間中、必要に応じて切り返しを行なうことが望ましい。そのため、混合物の処理に攪拌機能をもつ混合装置を用いてもよく、その場合にはそれに加温機構が配されており、適温に保持できるようになっているのがより望ましい。
【0037】
前記畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物の内、畜糞は、各種畜産業から排出される豚糞、馬糞、牛糞、鶏糞等である。またこれを含有する有機性廃棄物は、上記豚糞のような畜糞を含有する有機性廃棄物である。有機性廃棄物は、種々の生ごみ等である。該生ごみとしては、例えば、各種の食品工場、レストラン又は各種の学校の給食センター、或いは家庭等から排出される動物性又は植物性の食品残渣等である。
【0038】
前記畜糞は、例えば、牛糞等だけでは多くの場合嵩比重が大きすぎることになるので、種々の有機性廃棄物、例えば、生ごみ類を混合するのが適当である。有機性廃棄物は、いずれかの畜糞を含むことが前提であるが、その条件の下で、それ自体は単独で或いは二種以上を混合して用いることができる。例えば、有機性廃棄物が生ごみである場合は、多くの場合は、それ単独でも不都合ではないが、油分の多いフライ類や肉類が多く含まれる場合は発酵を阻害しないようにするために同時にバークを添加するのが適当である。いずれにしても得られる堆肥の品質や発酵過程の進行具合を考慮して混合態様を種々に決定することができる。
【0039】
前記のようにして、本発明によれば、前記大型の開放レーン式堆肥化設備を使用し、開放レーンの入口側端部に、畜糞又はこれを含む有機性廃棄物を、前記種菌B及び必要に応じて含める戻し堆肥と共に投入し、これらを、攪拌させつつ移動させる手段で、適切に攪拌してその中に空気を導入し、良好な好気性発酵を進行させつつ該開放レーンの出口側端部まで移送し、出口側端部に至るまで、酸性条件下で悪臭発生をきわめて低レベルに維持したまま該被処理物の必要な発酵を完了させることができる。こうして本発明によれば、作業従事者を悪臭発生による多大な苦痛から解放し、近隣の大気環境への悪影響を回避することができる。
【0040】
以上のように、前記開放レーンに投入した畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物に前記種菌Bを添加することにより、酸性で堆肥化が進行し、臭気の発生が著しく少なくなるものであり、これが本発明の最大の特徴である。前述のように、畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物の開放レーン式堆肥化設備に於けるプロセスは、弱アルカリ性からアルカリ性(pH8〜10)で進行するのがこれまでの常識であった。堆肥化処理が酸性で推移する場合には、悪臭が著しく強いいわゆる酸敗状態であり、堆肥化処理の失敗であるとされてきた。本発明の有機性廃棄物の堆肥化プロセスはそれらとは明らかに異なり、堆肥化が酸性(pH4〜7)で推移しながら臭気の発生がきわめて少ないというこれまでの常識を打ち破るものである。
【実施例】
【0041】
まず種菌Aを、生ごみを原料として、生ごみ処理装置を利用して製造する。
この生ごみ処理装置は、図1及び図2に示すように、処理槽1と、その内部に配した攪拌手段4と、処理槽1の外底部に配した加温手段5とで構成したものである。該攪拌手段4は、水平に配した回転軸2に直角に3本の撹拌棒3、3、3を配して構成したもので、該回転軸2を回転させて撹拌動作を行う。該処理槽1の容積は30リットルから1キロリットルまで様々なタイプのものを用いることができるが、この実施例1では、30リットルのそれを用いた。前記加温手段5は処理槽1内を外底部から加温するシート状の電気ヒータである。
【0042】
アリサイクロバチルス センダイエンシスを48時間しんとう培養し、その培養物を前記生ごみ処理装置の処理槽1内に投入し、更におがくずを投入してこれと均一に混合して種菌A製造用の微生物基材を作った。生ごみは給食センター(学校給食用)から排出されたものを選別し、野菜屑、米飯又は麺類、魚又は肉類を5:5:1(重量比)の割合に調整し、その11.5kgを、前記生ごみ処理装置の処理槽1内の微生物基材中に投入して該装置の運転を開始した。なお上記生ごみは予めザル状容器を用いて水分を充分に切ってから上記のように計量した上で投入した。この生ごみ処理装置の攪拌手段4を、撹拌動作が約8分間継続した後に約24分間停止し、撹拌動作中は正逆回転を2分ごとに繰り返すように制御した。またその回転軸2の回転速度は2rpmに制御した。また前記加温手段5は、図示しない制御手段により、前記処理槽1内を60℃付近に制御した。このように生ごみを処理して2日間の経過後に内容物を取り出し、種菌Aを得た。該種菌Aはカラメル様のにおいを発し、そのpHは4.9であった。
【0043】
次に種菌Bを製造する。種菌A30kgに、バーク5トン、糖類としてゼリー菓子100kgとパン粉600kgを混合し、10日間放置した。この間、切り返しを数回行なった。10日後、処理物はアルコール発酵様のにおいを発し、得られた種菌BのpHは4.8であった。
【0044】
図3に概要を示す示す大型の開放レーン式堆肥化設備を用いて、畜糞と食品廃棄物を堆肥化する有機性廃棄物の堆肥化プロセスを実施した。開放レーン6は幅7m、長さ90mであり、開放レーン6内の被処理物7の高さは約1.5mとした。開放レーン6はロータリー式の攪拌手段8を備え、該開放レーン6の底部には通気手段9が配してある。該通気手段9は、レーンの底部に配した、多数のノズルを上向きに配した通気管9aと、該通気管9aに空気を送給するブロワ手段9bからなるものである。
【0045】
前記開放レーン6の入口側端部6aに、畜糞10トン、生ごみ10トン、バーク5トン、前記種菌B1.5トン、戻し堆肥0.5トンを毎日投入した。前記ロータリー式の攪拌手段8は1日あたり2往復で動作させ、前記通気手段9は、被処理物7の1m3当たり毎分100リットルの通気を行なった。入口側端部6aから出口側端部6bに被処理物7が到達するまでに25日を要し、25日目以降から毎日、1日あたり10〜15トンの酸性低臭の堆肥が得られた。
【0046】
前記開放レーン6で処理されている被処理物7の温度は、該開放レーン6の入口側端部6aから出口側端部6bまでの間で、温度計を被処理物7の表面から20cmの深さまで挿入して測定した。該開放レーン6の入口側端部6aでは、該位置への被処理物7の投入時点から30分後には65℃以上になり、前記ロータリー式の攪拌手段8の動作後には短時間の内に83℃に昇温した。入口側端部6aと出口側端部6bの間の部位では、概ね65℃以上を維持し、該ロータリー式の攪拌手段8の通過後には同様に温度が上昇した。被処理物7の温度は、以上のように、出口側端部6bの近傍までは概ね65℃以上を維持し、出口側端部6bに到達する時点では30℃程度に低下した。
【0047】
被処理物7を、入口側端部6aから出口側端部6bまでの間でサンプリングし、各サンプルを10倍容量の蒸留水に懸濁して静置した。これらの懸濁液の上澄みのpHをpH計を用いて各々測定し、これらを被処理物7のpHとした。その結果、入口側端部6aから出口側端部6bに至るまで、被処理物7のpHは4.3〜6.5の間にあった。
【0048】
臭気は、カルモア社製臭気測定装置カルモアΣを用いて測定した。臭気をまったく感じない屋外のΣ値が180であるときに、開放レーン6の中央部分(入口側端部6aから45m地点)で被処理物7から10cmの距離で測定したΣ値は329、出口側端部6bにおいて被処理物7から10cmの距離で測定したΣ値は689、出口側端部6bから5m離れた地点で測定したΣ値は286であった。なお、臭気を感じない事務室内で測定したΣ値は232であり、風のない室内の火の付いたタバコから1m 離れたところで測定したΣ値は1526であった。開放レーン6の各所において、官能的に不快な臭気は感じられなかった。
【0049】
<考察>
以上の実施例の処理過程では、官能的に感知できる悪臭は殆ど出ていなかった。開放レーンでの畜糞及び生ごみ等の処理過程で、これらの被処理物のpHは酸性を示し、また臭気の発生もほとんど気にならないことを数値によって確認することができた。被処理物の温度は概ね65℃以上を維持し、最高では83℃に達した。いずれも実施中にハエ等の衛生害虫の発生はなかったが、このような高い温度の中で処理が進行したため、それらの衛生害虫卵が死滅し又は不活化したためと思われる。
【0050】
以上を要約すると、大型の開放レーン式堆肥化設備を使用する畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物の堆肥化プロセスに於いて、そのプロセスの進行中に、被処理物が酸性で推移し臭気発生が既往の方法に比べて格段に少ない、有機性廃棄物の堆肥化プロセスを提供することができたといえる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例の種菌Aの製造に用いた生ごみ処理装置の一部切欠正面説明図。
【図2】実施例の種菌Aの製造に用いた生ごみ処理装置の一部切欠側面説明図。
【図3】実施例で使用した開放レーン式堆肥化設備の説明図。
【符号の説明】
【0052】
1 処理槽
2 回転軸
3 撹拌棒
4 撹拌手段
5 加温手段
6 開放レーン
7 被処理物
8 ロータリー式の攪拌手段
9 通気手段
9a 通気管
9b ブロワ手段
6a 入口側端部
6b 出口側端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物を開放レーンの入口側端部に投入し、その開放レーンの出口側端部に向かって攪拌移送させつつ微生物によって処理し、出口側端部で処理を完了させる畜糞含有の有機性廃棄物の堆肥化プロセスに於いて、
前記入口側端部に畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物を投入する際に、pHが4〜7の範囲内にある生ごみ起源の堆肥に、適量のバークと糖類を単独又は任意の組み合わせで添加して4〜10日間放置することにより得られる酸性堆肥状種菌を同時に投入することとした有機性廃棄物の堆肥化プロセス。
【請求項2】
前記生ごみ起源の堆肥として、生ごみと好酸性微生物を担持した基材とを混在させ、かつ撹拌して空気に接触させ、更に継続的に加温することにより作成したそれを採用した請求項1の有機性廃棄物の堆肥化プロセス。
【請求項3】
前記好酸性微生物として、スルフォロバス アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius ATCC49426)、アリサイクロバチルス センダイエンシス(Alicyclobacillus sendaiensis JCM11817)、バチルス(Bacillus)属細菌、乳酸菌を採用した請求項2の有機性廃棄物の堆肥化プロセス。
【請求項4】
前記酸性堆肥状種菌を、前記畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物に対して、3〜15%の割合で投入することとした請求項1、2又は3の有機性廃棄物の堆肥化プロセス。
【請求項5】
前記入口側端部に、畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物を投入する際に、前記酸性堆肥状種菌と共に、戻し堆肥を投入することとした請求項1、2、3又は4の有機性廃棄物の堆肥化プロセス。
【請求項6】
前記畜糞又はこれを含有する有機性廃棄物の投入時及び処理完了時を除いて、被処理物の温度が65℃以上を保持するように制御することとした請求項1、2、3、4又は5の有機性廃棄物の堆肥化プロセス
【請求項7】
前記開放レーンの底部に通気手段を配し、該通気手段による通気量を被処理物の1m3当たり毎分50〜300リットルに設定することとした請求項1、2、3、4、5又は6の有機性廃棄物の堆肥化プロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−137799(P2009−137799A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316396(P2007−316396)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(594133858)スターエンジニアリング株式会社 (20)
【Fターム(参考)】