説明

有機溶剤可溶性のジルコノシロキサンの製造方法

【課題】有機ポリマーとのハイブリッド化に汎用的に使用でき、しかも、得られるハイブリッド樹脂の性能に悪影響を及ぼすような化合物を含有しない有機溶剤可溶性のジルコノシロキサンの簡便な製造方法を提供すること。
【解決手段】アルコキシシシラン化合物(a)またはアルコキシシラン化合物(a)を含有する混合物(A)に、アルコキシジルコニウム化合物(b)またはアルコキシジルコニウム化合物(b)を含有する混合物(B)ならびに水または水と水溶性有機溶剤の混合物(C)を添加することによりアルコキシシラン化合物(a)とアルコキシジルコニウム化合物(b)の部分共加水分解縮合を行うことを特徴とする有機溶剤可溶性のジルコノシロキサンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤可溶性のジルコノシロキサンの製造方法に関する。さらに詳しくはアルコキシシシラン化合物またはアルコキシシラン化合物を含有する混合物に、アルコキシジルコニウム化合物またはアルコキシジルコニウム化合物を含有する混合物ならびに水または水と水溶性有機溶剤の混合物を添加することによりアルコキシシラン化合物とアルコキシジルコニウム化合物の部分共加水分解縮合を行うことを特徴とする有機溶剤可溶性のジルコノシロキサンの製造方法に関するものである。
【0002】
有機ポリマーに耐熱性、耐候性等の無機成分に特有の特性を付与するために、有機ポリマーとシリコン、チタン、ジルコニウム等の金属の酸化物とのハイブリッド化が幅広く検討されてきた。ジルコニウムとのハイブリッド化に際しては、非常に加水分解されやすいジルコニウム原子に結合したアルコキシ基(Zr−OR)を多く含有するアルコキシジルコニウム化合物に加えて、加水分解に対してより安定な化合物である、Zr−O−Si結合を有するジルコノシロキサンも使用されるようになってきた。
【0003】
かかる、ジルコノシロキサンであって有機ポリマーの変性用に適した有機溶剤可溶性の化合物の調製には、例えば(1)アルコキシシラン化合物とアルコキシジルコニウム化合物に塩酸、水およびエタノールの混合物を滴下して部分加水分解する方法(例えば、特許文献1参照。)、(2)カルボン酸、フェノール類およびジケトン類から選ばれる少なくとも1種の化合物の存在下にアルコキシジルコニウム化合物を部分加水分解縮合させた後に溶媒可溶性のシリケート化合物およびトリアルキルモノアルコキシシランを順次反応させる方法(例えば、特許文献2参照。)等が報告されている。前記(1)の方法により得られるジルコノシロキサンは塩酸のような強酸を含有し、(2)の方法は工程が煩雑であり、且つ、得られるジルコノシロキサンはカルボン酸、フェノールあるいはジケトンを含有する。そのために、これらの方法で調製されるジルコノシロキサンと有機ポリマーとのハイブリッド化に際しては、前記した化合物の残留を考慮して適切なハイブリッド化処方を選択する必要がある。また、有機ポリマーと前記した方法により調製されたジルコノシロキサンとのハイブリッド化により得られる有機−無機ハイブリッド樹脂中にも前記した化合物が残留するために、有機−無機ハイブリッド樹脂の性能に悪影響を及ぼす等の問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2001−329018号公報
【0005】
【特許文献2】特開平7−286045号公報第5頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明が解決しようとする課題は、有機ポリマーとのハイブリッド化に汎用的に使用でき、しかも、得られるハイブリッド樹脂の性能に悪影響を及ぼすような化合物を含有しない有機溶剤可溶性のジルコノシロキサンの簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、アルコキシシシラン化合物またはアルコキシシラン化合物を含有する混合物に、アルコキシジルコニウム化合物またはアルコキシジルコニウム化合物を含有する混合物ならびに水または水と水溶性有機溶剤の混合物を添加してアルコキシシラン化合物とアルコキシジルコニウム化合物の部分共加水分解縮合を行うことにより、有機ポリマーとのハイブリッド化に汎用的に使用でき、しかも、得られるハイブリッド樹脂の性能に悪影響を及ぼすような化合物を含有しない有機溶剤可溶性のジルコノシロキサンを簡便に製造できることを見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、アルコキシシシラン化合物(a)またはアルコキシシラン化合物(a)を含有する混合物(A)に、アルコキシジルコニウム化合物(b)またはアルコキシジルコニウム化合物(b)を含有する混合物(B)ならびに水または水と水溶性有機溶剤の混合物(C)を添加することによりアルコキシシラン化合物(a)とアルコキシジルコニウム化合物(b)の部分共加水分解縮合を行うことを特徴とする有機溶剤可溶性のジルコノシロキサンの製造方法に関するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の製造方法において使用されるアルコキシシラン化合物(a)の代表的なものとしては、テトラアルコキシシラン類、モノオルガノトリアルコキシシラン類、ジオルガノジアルコキシシラン類、トリオルガノモノアルコキシシラン類等が挙げられる。
【0010】
かかるアルコキシシラン類が有するアルコキシ基の代表的なものとしては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクトキシ基等の非置換アルコキシ基;シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の非置換シクロアルコキシ基;前記したアルコキシ基、シクロアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基等の基を置換基として有する置換アルコキシ基あるいは置換シクロアルコキシ基等が挙げられる。そしてかかる各種のアルコキシ基の中で特に好ましいものは、炭素数1〜4の非置換アルコキシ基、または、メトキシ基もしくはエトキシ基を置換基として有する炭素数が2〜4のアルコキシ基である。
【0011】
アルコキシシラン化合物(a)のうち、テトラアルコキシラン類の代表的なものとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラキス(2−メトキシエトキシ)シラン、テトラキス(2−エトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。
【0012】
モノオルガノトリアルコキシシラン類の代表的なものとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−ブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリ−n−ブトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン類:シクロペンチルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン等のシクロアルキルトリアルコキシシラン類;フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、4−メチルフェニルトリメトキシシラン等のアリールトリアルコキシシラン類;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ−n−ブトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス(2−エトキシエトキシ)シラン、アリルトリメトキシシラン等の一般的にシランカップリング剤と称される官能基を有するシラン化合物などが挙げられる。
【0013】
ジオルガノジアルコキシシラン類の代表的なものとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ−n−ブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン等のジアルキルジアルコキシシラン類;シクロペンチルメチルジメトキシシラン、シクロペンチルメチルジエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン等のシクロアルキル基を有するジアルコキシシラン類;ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジ−n−ブトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン等のアリール基を有するジアルコキシシラン類;ビニルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、等のアルコキシ基を有するシランカップリング剤類などが挙げられる。
【0014】
トリオルガノモノアルコキシシラン類の代表的なものとしては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン等が挙げられる。
【0015】
前記した各種のアルコキシシラン化合物(a)のなかで、主成分として使用するものとして好ましいアルコキシシラン化合物は、テトラアルコキシシラン類、モノオルガノトリアルコキシシラン類、ジオルガノジアルコキシシラン類である。そして、モノオルガノトリアルコキシシラン類、ジオルガノジアルコキシシラン類のなかで主成分として使用するものとして特に好ましいシランは、それぞれ、モノアルキルトリアルコキシシランおよびジアルキルジアルコキシシランである。そして、各種のアルコキシシラン化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
前記した各種のアルコキシシラン化合物(a)は、主として単量体のままで使用されるが、それらを部分加水分解縮合して得られるSi−O−Si結合(シロキサン結合)を介して連なったオリゴマーを一部分併用してもよい。
【0017】
本発明の製造方法において使用されるアルコキシジルコニウム化合物(b)の代表的なものとしては、テトラアルコキシジルコニウムおよびテトラアルコキシジルコニウム(b)を部分加水分解縮合して得られるZr−O−Zr結合を介して連なったテトラアルコキシジルコニウム化合物のオリゴマー類である。
【0018】
かかるアルコキシジルコニウム化合物(b)が有するアルコキシ基の代表的なものとしては、前記アルコキシシラン類が有するものとして例示したアルコキシ基が挙げられる。そしてかかる各種のアルコキシ基の中で特に好ましいものは、炭素数1〜4の非置換アルコキシ基、または、メトキシ基もしくはエトキシ基を置換基として有する炭素数が2〜4のアルコキシ基である。
【0019】
かかるアルコキシ基を有するアルコキシジルコニウム化合物(b)の代表的なものとしては、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、テトライソブトキシジルコニウム、テトラ−tert−ブトキシジルコニウム、テトラ−sec−ブトキシジルコニウム、テトラキス(2−エチルヘキサノキシ)ジルコニウム、テトラキス(2−メトキシエトキシ)ジルコニウム、テトラキス(2−エトキシエトキシ)ジルコニウム等のテトラアルコキシジルコニウム;テトラ−n−ブトキシジルコニウムを部分加水分解縮合して得られるテトラ−n−ブトキシジルコニウムの2量体、3量体、4量体等で代表されるZr−O−Zr結合を介して連なったテトラアルコキシジルコニウム化合物のオリゴマー類が挙げられる。
【0020】
また、アルコキシジルコニウム化合物(b)として、前記した各種のテトラアルコキシジルコニウムあるいはその部分加水分解縮合物であるオリゴマー中のアルコキシ基の一部分が、アセチルアセトンやアセト酢酸エステル等の1,3−ジカルボニル化合物、モノカルボン酸あるいはヒドロキシカルボン酸等のカルボン酸で置換された化合物を使用することもできる。こうしたアルコキシジルコニウム化合物の具体的なものとしては、トリイソプロポキシジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジ−n−ブトキシジルコニウムビスアセチルアセトネート、トリイソプロポキシジルコニウムモノエチルアセトアセテート、トリイソプロポキシジルコニウムモノアセテート、トリ−n−ブトキシジルコニウムモノアセテート等が挙げられる。
【0021】
前記した各種のアルコキシジルコニウム化合物(b)の中では、テトラアルコキシジルコニウムを主成分として使用することが特に好ましい。
【0022】
前記したアルコキシシラン化合物(a)、アルコキシジルコニウム化合物(b)および水から、有機溶剤可溶性のジルコノシロキサン化合物(B)を調製する本発明の方法においては、初期仕込み成分としてアルコキシシラン化合物(a)またはアルコキシシラン化合物(a)を含有する混合物(A)を予め反応容器に仕込み、次いで、アルコキシジルコニウム化合物(b)またはアルコキシジルコニウム化合物(b)を含有する混合物(B)ならびに水または水と水溶性有機溶剤の混合物(C)を添加する処方が採用される。この処方によると、アルコキシジルコニウム化合物(b)と水ともに低濃度の条件で反応させることができるので、アルコキシジルコニウム化合物(b)の単独加水分解縮合物に由来する不溶解物の生成を抑制して有機溶剤可溶性のジルコノシロキサンを得ることが出来る。
【0023】
かかる反応を行うに際して、初期仕込み成分はアルコキシシラン化合物(a)単独であってもよいし、アルコキシシラン化合物(a)と有機溶剤の混合物であってもよい。また、初期仕込み成分の一部としてアルコキシジルコニウム化合物(b)の一部分を加えることもできる。即ち、アルコキシシラン化合物(a)を含有する混合物(A)は、アルコキシシラン化合物(a)と有機溶剤の混合物であってもよいし、アルコキシシラン化合物(a)とアルコキシジルコニウム化合物(b)の混合物であってもよいし、また、アルコキシシラン化合物(a)、アルコキシジルコニウム化合物(b)および有機溶剤からなる3成分の混合物であってもよい。そして、アルコキシシラン化合物(a)はその全量を初期仕込みしてもよいし、その一部分を初期仕込みし、残りをアルコキシジルコニウム化合物(b)またはアルコキシジルコニウム化合物(b)を含有する混合物ならびに水または水と水溶性有機溶剤の混合物を添加する過程で添加してもよい。アルコキシシラン化合物(a)の一部分を初期仕込みする場合には、アルコキシジルコニウム化合物(b)の単独加水分解縮合物に由来する不溶解物の生成を抑制する点から、使用するアルコキシシラン化合物の少なくとも60モル%を、さらには、少なくとも80モル%を、初期仕込みすることが好ましい。
【0024】
アルコキシシラン化合物(a)と混合して使用される有機溶剤の代表的なものとしては、n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の炭化水素類;ジクロルメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロルエタン等のハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングルコールモノメチルエーテル、エチレングルコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルのエステル類;ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のジグリコールエーテルのエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド化合物;ジメチルスルホキサイド、スルホラン、N,N−ジメチルエチレン尿素等各種の非プロトン性極性溶剤が挙げられる。これらの中で、有機溶剤に不溶解性のアルコキシジルコニウム化合物(b)の加水分解縮合物の生成を抑制できることから、アルコール類、グリコールエーテルのエステル類、非プロトン性極性溶剤等の親水性の有機溶剤類を使用することが好ましく、これらの親水性有機溶剤の中では水溶性有機溶剤を使用することが特に好ましい。
【0025】
かかる有機溶剤をアルコキシシラン化合物(a)と混合して使用する場合の有機溶剤の使用量は、アルコキシシラン化合物(a)の種類やアルコキシシラン化合物(a)、アルコキシジルコニウム化合物(b)および水なる3成分の使用比率に応じて適宜設定すればよいが、部分共加水分解縮合反応の速度を低下させないことおよび不溶解物の生成を抑制する観点から、アルコキシシラン化合物(a)の100重量部に対して10〜1,000重量部、さらに好ましくは、20〜700重量部である。
【0026】
アルコキシジルコニウム化合物(b)は、当該化合物が常温で液状である場合には、溶剤で希釈せずに添加することができるが、当該化合物が常温で固形である場合には有機溶剤で希釈して添加する必要がある。また、アルコキシジルコニウム化合物(b)が常温で液状である場合にも、粘度が低下して添加しやすくなること、および不溶解物の生成を抑制できることから、有機溶剤で希釈して添加することが好ましい。そして、有機溶剤で希釈する場合に使用される有機溶剤の代表的なものとしては、アルコキシシラン化合物(a)と混合して使用される有機溶剤の代表的なものとして前記した各種のものが挙げられる。そして、これらの中で、有機溶剤に不溶解性のアルコキシジルコニウム化合物(b)の加水分解縮合物の生成を抑制する点から、上記した親水性有機溶剤を使用することが好ましく、これらの親水性有機溶剤の中では水溶性有機溶剤を使用することが特に好ましい。
【0027】
かかる有機溶剤をアルコキシジルコニウム化合物(b)と混合して使用する場合の有機溶剤の使用量は、アルコキシジルコニウム化合物(b)の種類やアルコキシシラン化合物(a)、アルコキシジルコニウム化合物(b)および水なる3成分の使用比率に応じて適宜設定すればよいが、アルコキシジルコニウム化合物(b)と有機溶剤との混合物の粘度を低減する効果および不溶解物の生成を抑制する観点から、アルコキシジルコニウム化合物(b)の100重量部に対して10〜600重量部、さらに好ましくは、20〜400重量部である。
【0028】
アルコキシジルコニウム化合物(b)は、その全量を添加することができるし、前記した様に、その一部分を初期仕込み成分に加えることもできる。初期仕込み成分に加える場合の添加量は、不溶解性のアルコキシジルコニウム化合物(b)の加水分解縮合物の生成を抑制する点から、使用するアルコキシジルコニウム化合物(b)全量のうちの30モル%以下、さらには20モル%以下、にとどめることが好ましい。
【0029】
前記したように、アルコキシシラン化合物(a)は、その一部分を、アルコキシジルコニウム化合物(b)またはアルコキシジルコニウム化合物(b)を含有する混合物ならびに水または水と水溶性有機溶剤の混合物を添加する過程で添加(後添加)することができる。かかる後添加されるアルコキシシラン化合物(a)の一部分は、アルコキシジルコニウム化合物(b)と混合して添加することもできる。即ち、アルコキシジルコニウム化合物(b)を含有する混合物(B)は、アルコキシジルコニウム化合物(b)と有機溶剤の混合物であってもよいし、アルコキシジルコニウム化合物(b)とアルコキシシラン化合物(a)との混合物であってもよいし、また、アルコキシジルコニウム化合物(b)、アルコキシシラン化合物(a)および有機溶剤からなる3成分の混合物であってもよい。
【0030】
水は、単独で添加することができるし、水溶性有機溶剤との混合物(C)として添加することもできる。不溶解性のアルコキシジルコニウム化合物単独の加水分解縮合物の生成を抑制する点から、前記した各種の有機溶剤のうちの水溶性有機溶剤との混合物として添加することが好ましい。
【0031】
水を水溶性有機溶剤との混合物として添加する場合のそれらの比率は、不溶解性のアルコキシジルコニウム化合物単独の加水分解縮合物の生成を抑制する点から、水の100重量部に対して、有機溶剤が50〜1,500重量部、好ましくは100〜1,000重量部となるように両者を混合すればよい。
【0032】
本発明で用いる水溶性有機溶剤としては、水との適度な混和性を有していれば特に限定されないが、これらの中でも、20℃の水100重量部に対して30重量部以上溶解する有機溶剤が好ましい。水と完全に混和する有機溶剤が更に好ましい。
【0033】
各種の有機溶剤の中で水溶性有機溶剤の代表的なものとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、tert−ブタノール、エチレングルコールモノメチルエーテル、エチレングルコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルあるいはジグリコールエーテルのエステル類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド化合物;ジメチルスルホキサイド、スルホラン、N,N−ジメチルエチレン尿素等の非プロトン性極性溶剤が挙げられる。
【0034】
また、本発明の方法において、不溶解性のゲル状物の生成を抑制し、汎用的に利用できる有機溶剤可溶性のジルコノシロキサンを調製できることから、アルコキシシラン化合物(a)、アルコキシジルコニウム化合物(b)ならびに水の使用比率が、下記(イ)〜(ハ)の3条件を満足するように設定して部分共加水分解縮合を行うことにより、ジルコノシロキサンを調製することが好ましく、なかでも、下記(イ)〜(ニ)の4条件を満足するように設定して部分共加水分解縮合を行うことによりジルコノシロキサンを調製することが特に好ましい。
【0035】
即ち、
(イ)アルコキシシラン化合物(a)と水のモル比(アルコキシシラン化合物/水)を0.3〜5.0、好ましくは0.3〜4.0、特に好ましくは0.5〜3.0なる範囲に設定する。
(ロ)水とアルコキシジルコニウム化合物(b)に含有されるジルコニウム原子に結合したアルコキシ基(Zr結合アルコキシ基)のモル比(水/Zr結合アルコキシ基)を0.05〜5.0、好ましくは0.1〜4.0、特に好ましくは0.3〜3.0なる範囲に設定する
(ハ)ジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)を0.01〜5.0、好ましくは0.03〜4.0、特に好ましくは0.05〜3.0なる範囲に設定する。
(ニ)水と、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基(Zr結合アルコキシ基)およびシリコン原子に結合したアルコキシ基(Si結合アルコキシ基)の合計(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)とのモル比〔水/(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)〕を0.03〜0.8、好ましくは0.05〜0.6、特に好ましくは0.1〜0.45なる範囲に設定する。
【0036】
本発明の方法によりジルコノシロキサンを調製するに際して、加水分解縮合を促進する触媒を添加しなくても目的物を調製することができるが、反応を促進するために各種の塩基性触媒や酸性触媒を添加することもできる。酸性触媒として塩酸、硫酸、硝酸等の強酸類を使用すると、これらの酸が得られるジルコノシロキサン中に残留し、有機ポリマーとのハイブリッド化に使用した場合、得られるハイブリッド樹脂の性能に悪影響を及ぼしたり、当該ハイブリッド樹脂を適用できる用途を制約したりするので、これらの強酸の使用は避けることが好ましい。酸触媒を使用する場合には、燐酸、酸性燐酸エステル等の比較的酸性度が低い酸の使用にとどめることが好ましい。
【0037】
前記した原料類を使用して有機溶剤可溶性のジルコノシロキサンを調製するには、予め反応容器にアルコキシシラン化合物(a)を含有する初期仕込み成分を仕込み、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で撹拌しながら、アルコキシジルコニウム化合物(b)またはアルコキシジルコニウム化合物(b)を含有する混合物(B)ならびに水または水と水溶性有機溶剤の混合物(C)の両者を添加する。これらの添加方法としては、分割添加法、連続滴下法、分割滴下法、分割添加と連続滴下法を組み合わせた方法等、各種の添加方法を採用することができる。これらの添加方法の中では、有機溶剤に不溶解性のアルコキシジルコニウム化合物単独の加水分解縮合物の生成を抑制することから、両者の少なくとも70%以上、好ましくは80%以上を同時に連続的に滴下する方法が特に好ましい。滴下に際しては、初期仕込み成分を十分に撹拌しながら、徐々に滴下することが好ましい。撹拌が不十分であったり、両者の滴下速度が速すぎると、不溶解性のアルコキシジルコニウム化合物単独の加水分解縮合物が生成しやすくなるので好ましくない。
【0038】
そして、不溶解性のアルコキシジルコニウム化合物単独の加水分解縮合物の生成を抑制する点から、両者を滴下する際の初期仕込み成分および反応混合物の温度としては、概ね−30〜90℃、好ましくは−10〜70℃程度が好ましく、滴下時間としては、30分〜8時間、好ましくは1時間〜6時間程度である。滴下時間が8時間を超えて長時間に亘っても問題はないが、製造効率を考慮して8時間程度にとどめるのが好ましい。また、必要に応じて、両者の滴下終了後に、滴下時に設定した温度で、あるいは、より高い温度で撹拌を継続して反応を進めることができる。滴下終了後の反応温度としては−10〜120℃程度、好ましくは0〜100℃程度である。滴下開始から反応終了までの時間は、滴下時および滴下終了後の反応温度ならびに滴下時間に応じて、適宜設定する必要があるが、概ね、1〜15時間程度、好ましくは2〜10時間程度である。
【0039】
かくして、ジルコノシロキサンは、反応により生成するアルコール類および必要に応じて使用される有機溶剤との混合物溶液として得られるが、この溶液をそのまま次工程で使用してもよいし、アルコール類および必要に応じて使用される有機溶剤等の揮発性成分を蒸留により除去してジルコノシロキサンの含有率を高めて使用することもできる。
【0040】
こうして調製される有機溶剤可溶性のジルコノシロキサンは、アルコキシシラン化合物(a)とアルコキシジルコニウム化合物(b)の部分共加水分解縮合物であることからジルコニウム原子に結合したアルコキシ基および/またはシリコン原子に結合したアルコキシ基を反応性官能基として含有するものであり、かかる反応性官能基を有機ポリマーとのハイブリッド化に有効に活用できる。また、各種ポリマーや低分子量化合物の変性剤として使用できるし、ジルコノシロキサンを加水分解縮合してバルクのゲル体や薄膜として各種の用途に利用することもできる。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を、実施例により、一層具体的に説明をするが、本発明は、これらの例のみに限定されるものではない。なお、以下において、部および%は、すべて重量基準である。
【0042】
実施例1(ジルコノシロキサンの調製)
撹拌装置、温度計、コンデンサー、滴下ロート2本および窒素ガス導入口を備えた反応容器に、メチルトリメトキシシラン(MTMS)749.1部を仕込み、窒素雰囲気下に空冷下で激しく撹拌しながらオルガチックスZA−60〔マツモトファインケミカル(株)製テトラ−n−ブトキシジルコニウムとn−ブタノールの混合物、テトラ−n−ブトキシジルコニウムの含有率85.6%〕 448.2部とイソプロピルアルコール(IPA)100.0部の混合物ならびに脱イオン水99.0部とIPA297.0部の混合物を同時に2時間で滴下した。この間、反応混合物の温度は26℃から37℃まで上昇した。次いで、70℃に昇温し、同温度で4.5時間加熱撹拌を行って、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基ならびにシリコン原子に結合したアルコキシ基を含有するジルコノシロキサンの淡黄色透明溶液を得た。この溶液から、溶剤および生成したアルコール等の揮発分を減圧下に留去して778.4部の淡黄色透明液状のジルコノシロキサンを得た。以下、これをジルコノシロキサン(ZS−1)と略称する。
【0043】
IR(KBr液膜):1,267cm−1(Si−CH)、1,041〜1,140cm−1(Si−O)、897cm−1(Zr−O−Si)。
【0044】
13C NMR(溶媒 CDCl、TMS基準):65.0ppm(Si−OCH=イソプロピル基メチン炭素原子)、62.2ppm(Si−OCH−)、59.2ppm(Zr−OCH−)、49.9ppm(Si−O−CH)、−8.3〜−2.0ppm(Si−CH)。
【0045】
ブリキ製シャーレに入れたジルコノシロキサン(ZS−1)をIPAで希釈した後、110℃の熱風乾燥機中にシャーレを静置し解放状態で2時間加熱して当該ジルコノシロキサンの加水分解縮合物である薄片状の固体を得た。当該薄片状固体をエネルギー分散型X線分析装置(SEM・EDS)で分析を行ったところ、含有されるジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)は0.21であった。
【0046】
ジルコノシロキサン(ZS−1)に含有されるジルコニウム原子とシリコン原子の計算値は、それぞれ、ZrOおよびCHSiO1.5に換算して、15.8%および47.4%である。尚、本実施例において、水とジルコニウム原子に結合したアルコキシ基のモル比(水/Zr結合アルコキシ基)は1.38、アルコキシシラン化合物と水のモル比(アルコキシシラン化合物/水)は1.00、ジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)は0.18、水と、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基およびシリコン原子に結合したアルコキシ基の合計(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)とのモル比〔水/(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)〕は0.27、なる条件で部分共加水分解縮合を行った。
【0047】
実施例2(ジルコノシロキサンの調製)
実施例1と同様の反応器に、MTMS408.6部、フェニルトリメトキシシラン198.3部、IPA300.0部を仕込み、混合物を窒素雰囲気下に空冷下で激しく撹拌しながらオルガチックスZA−60 448.2部とIPA100.0部の混合物ならびに脱イオン水72.0部とIPA216.0部の混合物を同時に2時間で滴下した。この間、反応混合物の温度は10℃から22℃まで上昇した。次いで、70℃に昇温し、同温度で4時間加熱撹拌を行って、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基ならびにシリコン原子に結合したアルコキシ基を含有するジルコノシロキサンの淡黄色透明溶液を得た。得られた溶液から、溶剤および生成したアルコール等の揮発分を減圧下に留去して715.8部の淡黄色透明液状のジルコノシロキサンを得た。以下、これをジルコノシロキサン(ZS−2)と略称する。
【0048】
IR(KBr液膜):1,267cm−1(Si−CH)、1,042〜1,129cm−1(Si−O)、894cm−1(Zr−O−Si)、701cm−1(C)。
【0049】
13C NMR(溶媒 CDCl、TMS基準):127.5〜134.5ppm(C)、65.0ppm(Si−OCH=イソプロピル基メチン炭素原子)、62.2ppm(Si−OCH−)、59.2ppm(Zr−OCH−)、49.9ppm(Si−O−CH)、−8.3〜−2.0ppm(Si−CH)。
【0050】
ブリキ製シャーレに入れたジルコノシロキサン(ZS−2)をIPAで希釈した後、110℃の熱風乾燥機中にシャーレを静置し解放状態で2時間加熱して、当該ジルコノシロキサンの加水分解縮合物である薄片状の固体を得た。当該薄片状固体をSEM・EDSで分析を行ったところ、含有されるジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)は0.27であった。
【0051】
ジルコノシロキサン(ZS−2)に含有されるジルコニウム原子とシリコン原子の計算値は、それぞれ、ZrO、CHSiO1.5およびCSiO1.5に換算して、17.2%、28.1%および18.1%である。尚、本合成例において、水とジルコニウム原子に結合したアルコキシ基のモル比(水/Zr結合アルコキシ基)は1.00、アルコキシシラン化合物と水のモル比(アルコキシシラン化合物/水)は1.00、ジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)は0.25、水と、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基およびシリコン原子に結合したアルコキシ基の合計(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)とのモル比〔水/(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)〕は0.25、なる条件で部分共加水分解縮合を行った。
【0052】
実施例3(ジルコノシロキサンの調製)
実施例1と同様の反応器に、テトラエトキシシラン937.4部およびジオキサン250.0部を仕込み、混合物を窒素雰囲気下に空冷下で激しく撹拌しながらオルガチックスZA−60 448.2部とジオキサン100.0部の混合物ならびに脱イオン水81.0部とジオキサン243.0部の混合物を同時に2時間で滴下した。この間、反応混合物の温度は21℃から27℃まで上昇した。次いで、70℃に昇温し、同温度で3.5時間加熱撹拌を行って、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基ならびにシリコン原子に結合したアルコキシ基を有するジルコノシロキサンを含有する淡黄色透明溶液を得た。得られた溶液から、溶剤、生成したアルコール、副生成物であるテトラエトキシシランのエトキシ基の一部分がメトキシ基ならびにn−ブトキシキ基で置換された構造を有するテトラアルコキシシラン等の揮発分を減圧下に留去して666.0部の淡黄色透明液状のジルコノシロキサン化合物を得た。以下、これをジルコノシロキサン(ZS−3)と略称する。
【0053】
IR(KBr液膜):1,042〜1,150cm−1(Si−O)、903cm−1(Zr−O−Si)。
【0054】
ブリキ製シャーレに入れたジルコノシロキサン(ZS−3)をIPAで希釈した後、110℃の熱風乾燥機中にシャーレを静置し解放状態で2時間加熱して、当該ジルコノシロキサンの加水分解縮合物である薄片状の固体を得た。当該薄片状固体をSEM・EDSで分析を行ったところ、含有されるジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)は1/2.7であった。従って、このジルコノシロキサン(ZS−3)に含有されるジルコニウム原子とシリコン原子の計算値は、それぞれ、ZrOおよびSiOとに換算して、18.5%および24.4%である。尚、本合成例において、水とジルコニウム原子に結合したアルコキシ基のモル比(水/Zr結合アルコキシ基)は1.13、アルコキシシラン化合物と水のモル比(アルコキシシラン化合物/水)は1.00、ジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)は0.22、水と、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基およびシリコン原子に結合したアルコキシ基の合計(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)とのモル比〔水/(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)〕は0.38、なる条件で部分共加水分解縮合を行った。
【0055】
実施例4(ジルコノシロキサンの調製)
実施例1と同様の反応器に、MTMS408.6部、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン248.4部、ジオキサン300.0部、重合禁止剤としてのハイドロキノンモノメチルエーテル2.0部を仕込み、混合物を窒素雰囲気下に空冷下で激しく撹拌しながらオルガチックスZA−60 448.2部とジオキサン100.0部の混合物ならびに脱イオン水72.0部とジオキサン216.0部の混合物を同時に2時間で滴下した。この間、反応混合物の温度は20℃から30℃まで上昇した。次いで、70℃に昇温し、同温度で4時間加熱撹拌を行って、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基ならびにシリコン原子に結合したアルコキシ基を含有するジルコノシロキサンの淡黄色透明溶液を得た。得られた溶液から、溶剤および生成したアルコール等の揮発分を減圧下に留去して778.0部の黄色透明液状のジルコノシロキサンを得た。以下、これをジルコノシロキサン(ZS−4)と略称する。
【0056】
IR(KBr液膜):1,721cm−1(エステルカルボニル基)、1,638cm−1〔CH2=C(CH3)−〕、1,267cm−1(Si−CH)、1,042〜1,129cm−1(Si−O)、899cm−1(Zr−O−Si)。
【0057】
13C NMR(溶媒 CDCl、TMS基準):167.3ppm(エステルカルボニル炭素原子)136.5ppm(二重結合炭素原子)、124.8ppm(二重結合炭素原子)、62.2ppm(Si−OCH−)、59.2ppm(Zr−OCH−)、49.9ppm(Si−O−CH)、6.0〜8.5ppm(Si−CH−)、−8.3〜−2.0ppm(Si−CH)。
【0058】
ブリキ製シャーレに入れたジルコノシロキサン(ZS−4)をIPAで希釈した後、110℃の熱風乾燥機中にシャーレを静置し解放状態で2時間加熱して、当該ジルコノシロキサンの加水分解縮合物である薄片状の固体を得た。当該薄片状固体をSEM・EDSで分析を行ったところ、含有されるジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)は0.28であった。
【0059】
ジルコノシロキサン(ZS−4)に含有されるジルコニウム原子とシリコン原子の計算値は、それぞれ、ZrO、CHSiO1.5およびC11SiO1.5に換算して、15.8%、25.9%および23.1%である。尚、本合成例において、水とジルコニウム原子に結合したアルコキシ基のモル比(水/Zr結合アルコキシ基)は1.00、アルコキシシラン化合物と水のモル比(アルコキシシラン化合物/水)は1.00、ジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)は0.25、水と、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基およびシリコン原子に結合したアルコキシ基の合計(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)とのモル比〔水/(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)〕は0.25、なる条件で部分共加水分解縮合を行った。
【0060】
実施例5(ジルコノシロキサンの調製)−−SMX−219
実施例1と同様の反応器に、MTMS476.7部、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン118.2部、テトラヒドロフラン200.0部を仕込み、混合物を窒素雰囲気下に空冷下で激しく撹拌しながらオルガチックスZA−60 448.2部とテトラヒドロフラン100.0部の混合物ならびに脱イオン水72.0部とテトラヒドロフラン216.0部の混合物を同時に2時間で滴下した。この間、反応混合物の温度は18℃から27℃まで上昇した。次いで、50℃に昇温し、同温度で5時間加熱撹拌を行って、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基ならびにシリコン原子に結合したアルコキシ基を含有するジルコノシロキサンの淡黄色透明溶液を得た。得られた溶液から、溶剤および生成したアルコール等の揮発分を減圧下に留去して713.3部の黄色透明液状のジルコノシロキサンを得た。以下、これをジルコノシロキサン(ZS−5)と略称する。
【0061】
IR(KBr液膜):1,267cm−1(Si−CH)、1,042〜1,129cm−1(Si−O)、899cm−1(Zr−O−Si)。
【0062】
13C NMR(溶媒 CDCl、TMS基準):62.2ppm(Si−OCH−)、59.2ppm(Zr−OCH−)、50.8ppm(エポキシ基のメチン炭素原子)、49.9ppm(Si−O−CH)、44.0ppm(エポキシ基のメチレン炭素原子)、5.2〜8.5ppm(Si−CH−)、−8.3〜−2.0ppm(Si−CH)。
【0063】
ブリキ製シャーレに入れたジルコノシロキサン(ZS−5)をIPAで希釈した後、110℃の熱風乾燥機中にシャーレを静置し解放状態で2時間加熱して、当該ジルコノシロキサンの加水分解縮合物である薄片状の固体を得た。当該薄片状固体をSEM・EDSで分析を行ったところ、含有されるジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)は0.27であった。
【0064】
ジルコノシロキサン(ZS−5)に含有されるジルコニウム原子とシリコン原子の計算値は、それぞれ、ZrO、CHSiO1.5およびC11SiO1.5に換算して、17.3%、33.0%および11.7%である。尚、本合成例において、水とジルコニウム原子に結合したアルコキシ基のモル比(水/Zr結合アルコキシ基)は1.00、アルコキシシラン化合物と水のモル比(アルコキシシラン化合物/水)は1.00、ジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)は0.25、水と、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基およびシリコン原子に結合したアルコキシ基の合計(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)とのモル比〔水/(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)〕は0.25、なる条件で部分共加水分解縮合を行った。
【0065】
実施例6(ジルコノシロキサンの調製)
実施例1と同様の反応容器に、MTMS1,362.0部とIPA500.0部を仕込み、窒素雰囲気下に空冷下で激しく撹拌しながらオルガチックスZA−60 448.2部とIPA100.0部の混合物ならびに脱イオン水180.0部とIPA540.0部の混合物を同時に2時間で滴下した。この間、反応混合物の温度は20℃から32℃まで上昇した。次いで、70℃に昇温し、同温度で4.5時間加熱撹拌を行って、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基ならびにシリコン原子に結合したアルコキシ基を含有するジルコノシロキサンの淡黄色透明溶液を得た。この溶液から、溶剤および生成したアルコール等の揮発分を減圧下に留去して1077.1部の淡黄色透明液状のジルコノシロキサンを得た。以下、これをジルコノシロキサン(ZS−6)と略称する。
【0066】
IR(KBr液膜):1,268cm−1(Si−CH)、1,041〜1,130cm−1(Si−O)、891cm−1(Zr−O−Si)。
【0067】
ブリキ製シャーレに入れたジルコノシロキサン(ZS−6)をIPAで希釈した後、110℃の熱風乾燥機中にシャーレを静置し解放状態で2時間加熱して、当該ジルコノシロキサンの加水分解縮合物である薄片状の固体を得た。当該薄片状固体をSEM・EDSで分析を行ったところ、含有されるジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)は0.12であった。
【0068】
ジルコノシロキサン(ZS−6)に含有されるジルコニウム原子とシリコン原子の計算値は、それぞれ、ZrOおよびCHSiO1.5に換算して、11.4%および62.3%である。尚、本実施例において、水とジルコニウム原子に結合したアルコキシ基のモル比(水/Zr結合アルコキシ基)は2.50、アルコキシシラン化合物と水のモル比(アルコキシシラン化合物/水)は1.00、ジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)は0.10、水と、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基およびシリコン原子に結合したアルコキシ基の合計(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)とのモル比〔水/(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)〕は0.29、なる条件で部分共加水分解縮合を行った。
【0069】
実施例7(ジルコノシロキサンの調製)
実施例1と同様の反応器に、MTMS1,090.0部とIPA1,090.0部を仕込み、混合物を窒素雰囲気下に空冷下で激しく撹拌しながらオルガチックスZA−60 1,345.0部とIPA500.0部の混合物ならびに脱イオン水180.0部とIPA900.0部の混合物を同時に2時間で滴下した。この間、反応混合物の温度は22℃から29℃まで上昇した。次いで、70℃に昇温し、同温度で4時間加熱撹拌を行って、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基ならびにシリコン原子に結合したアルコキシ基を含有するジルコノシロキサンの淡黄色透明溶液を得た。以下、この溶液をジルコノシロキサン溶液(ZS−7)と略称する。
【0070】
ブリキ製シャーレに入れたジルコノシロキサン溶液(ZS−7)をIPAで希釈した後、110℃の熱風乾燥機中にシャーレを静置し解放状態で2時間加熱して、当該ジルコノシロキサンの加水分解縮合物である薄片状の固体を得た。当該薄片状固体をSEM・EDSで分析を行ったところ、含有されるジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)は0.38であった。
【0071】
このジルコノシロキサン溶液(ZS−7)に含有されるジルコニウム原子とシリコン原子の計算値は、それぞれ、ZrOおよびCHSiO1.5に換算して、7.2%および10.5%である。尚、本実施例において、水とジルコニウム原子に結合したアルコキシ基のモル比(水/Zr結合アルコキシ基)は0.83、アルコキシシラン化合物と水のモル比(アルコキシシラン化合物/水)は0.80、ジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)は0.38、水と、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基およびシリコン原子に結合したアルコキシ基の合計(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)とのモル比〔水/(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)〕は0.28、なる条件で部分共加水分解縮合を行った。
【0072】
実施例8(ジルコノシロキサンの調製)
実施例1と同様の反応器に、MTMS61.8部とIPA300.0部を仕込み、混合物を窒素雰囲気下に空冷下で激しく撹拌しながらオルガチックスZA−60 448.2部とIPA100.0部の混合物ならびに脱イオン水18.0部とIPA90.0部の混合物を同時に2時間で滴下した。この間、反応混合物の温度は16℃から23℃まで上昇した。次いで、70℃に昇温し、同温度で4.5時間加熱撹拌を行って、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基ならびにシリコン原子に結合したアルコキシ基を含有するジルコノシロキサンの淡黄色透明溶液を得た。得られた溶液から、溶剤および生成したアルコール等の揮発分を減圧下に留去して308.0部の淡黄色透明な高粘度液状のジルコノシロキサンを得た。以下、これをジルコノシロキサン(ZS−8)と略称する。
【0073】
ブリキ製シャーレに入れたジルコノシロキサン(ZS−8)をIPAで希釈した後、110℃の熱風乾燥機中にシャーレを静置し解放状態で2時間加熱して、当該ジルコノシロキサンの加水分解縮合物の薄片状の固体を得た。当該薄片状固体をSEM・EDSで分析を行ったところ、含有されるジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)は2.22であった。
【0074】
ジルコノシロキサン(ZS−8)に含有されるジルコニウム原子とシリコン原子の計算値は、それぞれ、ZrOおよびCHSiO1.5に換算して、40.0%および10.9%である。尚、本実施例において、水とジルコニウム原子に結合したアルコキシ基のモル比(水/Zr結合アルコキシ基)は0.25、アルコキシシラン化合物と水のモル比(アルコキシシラン化合物/水)は0.50、ジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)は2.00、水と、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基およびシリコン原子に結合したアルコキシ基の合計(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)とのモル比〔水/(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)〕は0.18、なる条件で部分共加水分解縮合を行った。
【0075】
実施例9(ジルコノシロキサンの調製)
実施例1と同様の反応器に、MTMS136.2部とIPA200.0部を仕込み、混合物を窒素雰囲気下に空冷下で激しく撹拌しながらオルガチックスZA−40〔マツモトファインケミカル(株)製テトラn−プロポキシジルコニウムとn−プロピルアルコールの混合物、テトラn−プロポキシジルコニウムの含有率74.5%〕439.7部とIPA100部の混合物ならびに脱イオン水36.0部とIPA180.0部の混合物を同時に1時間で滴下した。この間、反応混合物の温度は20℃から31℃まで上昇した。次いで、70℃に昇温し、同温度で4時間加熱撹拌を行って、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基ならびにシリコン原子に結合したアルコキシ基を含有するジルコノシロキサンの黄色透明溶液を得た。得られた溶液から、溶剤および生成したアルコール等の揮発分の一部を減圧下に留去した後、n−ブタノール125.0部を加えて十分混合し488.0部の黄褐色で透明なジルコノシロキサンの溶液得た。以下、この溶液をジルコノシロキサン溶液(ZS−9)と略称する。
【0076】
ブリキ製シャーレに入れたジルコノシロキサン溶液(ZS−9)をIPAで希釈した後、110℃の熱風乾燥機中にシャーレを静置し解放状態で2時間加熱して、当該ジルコノシロキサンの加水分解縮合物である薄片状の固体を得た。当該薄片状固体をSEM・EDSで分析を行ったところ、含有されるジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)は1.03であった。
【0077】
ジルコノシロキサン溶液(ZS−9)に含有されるジルコニウム原子とシリコン原子の計算値は、それぞれ、ZrOおよびCHSiO1.5に換算して、25.2%および13.8%である。尚、本合成例において、水とジルコニウム原子に結合したアルコキシ基のモル比(水/Zr結合アルコキシ基)は0.50、アルコキシシラン化合物と水のモル比(アルコキシシラン化合物/水)は0.50、ジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)は1.00、水と、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基およびシリコン原子に結合したアルコキシ基の合計(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)とのモル比〔水/(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)〕は0.29、なる条件で部分共加水分解縮合を行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシシラン化合物(a)またはアルコキシシラン化合物(a)を含有する混合物(A)に、アルコキシジルコニウム化合物(b)またはアルコキシジルコニウム化合物(b)を含有する混合物(B)ならびに水または水と水溶性有機溶剤の混合物(C)を添加することによりアルコキシシラン化合物(a)とアルコキシジルコニウム化合物(b)の部分共加水分解縮合を行うことを特徴とする有機溶剤可溶性のジルコノシロキサンの製造方法。
【請求項2】
前記混合物(A)が、有機溶剤を含有する請求項1に記載の溶剤可溶性のジルコノシロキサンの製造方法。
【請求項3】
前記混合物(B)が、有機溶剤を含有する請求項1または2に記載の有機溶剤可溶性のジルコノシロキサンの製造方法。
【請求項4】
前記有機溶剤が、親水性有機溶剤である請求項2または3に記載の有機溶剤可溶性のジルコノシロキサンの製造方法。
【請求項5】
前記親水性有機溶剤が、水溶性有機溶剤である請求項4に記載の有機溶剤可溶性のジルコノシロキサンの製造方法。
【請求項6】
前記部分共加水分解縮合を、水とジルコニウム原子に結合したアルコキシ基(Zr結合アルコキシ基)のモル比(水/Zr結合アルコキシ基)が0.05〜5.0なる範囲、アルコキシシラン化合物(a)と水のモル比(アルコキシシラン化合物/水)が0.3〜5.0なる範囲、および、ジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)が0.01〜5.0なる範囲をいずれも満足する比率で、行う請求項1、2、3、4または5に記載の有機溶剤可溶性のジルコノシロキサンの製造方法。
【請求項7】
前記部分共加水分解縮合を、水とジルコニウム原子に結合したアルコキシ基(Zr結合アルコキシ基)のモル比(水/Zr結合アルコキシ基)が0.05〜5.0なる範囲、アルコキシシラン化合物(a)と水のモル比(アルコキシシラン化合物/水)が0.3〜5.0なる範囲、ジルコニウム原子とシリコン原子の原子数比(Zr/Si)が0.01〜5.0なる範囲、および、水と、ジルコニウム原子に結合したアルコキシ基(Zr結合アルコキシ基)およびシリコン原子に結合したアルコキシ基(Si結合アルコキシ基)の合計(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)とのモル比〔水/(Zr結合アルコキシ基+Si結合アルコキシ基)〕が0.03〜0.8なる範囲をいずれも満足する比率で、行う請求項1、2、3、4または5に記載の有機溶剤可溶性のジルコノシロキサンの製造方法。

【公開番号】特開2009−286986(P2009−286986A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144323(P2008−144323)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】