説明

有機溶剤系導電性高分子分散液の製造方法およびその応用

【課題】 導電性高分子を水系相から有機溶剤相へ容易に移行させ、有機溶剤系導電性高分子分散液を容易に製造する。
【解決手段】
(1)チオフェンまたはその誘導体をドーパントとなる高分子スルホン酸の存在下で水中または水性液中で酸化重合して導電性高分子を合成することにより導電性高分子の水系分散液を得る工程と、
(2)導電性高分子の水系分散液に炭素数が11〜30の非水溶剤アミンもしくは炭素数が12〜42のアミンオキサイドを添加して、導電性高分子を水系相から有機溶剤相へ移行させる工程と、
(3)導電性高分子を含有する有機溶剤液を回収する工程と、
を経由して、水分含有量が20質量%以下の有機溶剤系導電性高分子分散液を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤系導電性高分子分散液およびその応用、すなわち、上記製造方法によって製造された有機溶剤系導電性高分子分散液、上記有機溶剤系導電性高分子分散液を乾燥して得られる導電性高分子、上記有機溶剤系導電性高分子分散液とバインダ用樹脂とを混合して得られた有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液、および上記有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を乾燥して得られた導電性高分子含有樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子は、その高い導電性により、例えば、帯電防止フィルムや固体電解コンデンサの固体電解質として用いられている。
【0003】
そして、この用途における導電性高分子としては、例えば、チオフェンまたはその誘導体などの重合性モノマーを酸化重合することによって合成したものが用いられている。
【0004】
上記チオフェンまたはその誘導体などの重合性モノマーの酸化重合、特に化学酸化重合を行う際のドーパントとしては、主として有機スルホン酸が用いられ、その中でも、芳香族スルホン酸が適しているといわれており、酸化剤としては遷移金属が用いられ、その中でも、第二鉄が適しているといわれていて、通常、芳香族スルホン酸の第二鉄塩がチオフェンまたはその誘導体などの重合性モノマーの化学酸化重合にあたっての酸化剤兼ドーパント剤として用いられてきた。
【0005】
そして、その芳香族スルホン酸の第二鉄塩の中でも、トルエンスルホン酸第二鉄塩やメトキシベンゼンスルホン酸第二鉄塩などが特に有用であるとされていて、それらを用いた導電性高分子の合成は、それらの酸化剤兼ドーパントをチオフェンまたはその誘導体などの重合性モノマーと混合することにより行うことができ、簡単で、工業化に向いていると報告されている(特許文献1、特許文献2)。
【0006】
しかしながら、トルエンスルホン酸第二鉄塩を酸化剤兼ドーパントとして用いて得られた導電性高分子は、初期抵抗値や耐熱性において、充分に満足できる特性を有さず、また、メトキシベンゼンスルホン酸第二鉄塩を酸化剤兼ドーパントとして用いて得られた導電性高分子は、トルエンスルホン酸第二鉄塩を用いた導電性高分子に比べれば、初期抵抗値が低く、耐熱性も優れているが、それでも、充分に満足できる特性は得られなかった。
【0007】
そこで、本発明者らは、ドーパントとなる有機スルホン酸として、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂などの高分子スルホン酸を用い、導電性が高く、かつ耐熱性が優れた導電性高分子を開発し、それについて既に特許出願をしてきた(PCT/JP2009/57241、PCT/JP2009/57242)。
【0008】
しかしながら、高分子スルホン酸をドーパントとする場合には、重合性モノマーの酸化重合は水中または水と水混和性の溶剤との混合物からなる水性液中などの水系で行われるため、導電性高分子は水中または水性液中に分散した状態で得られることになる。
【0009】
そこで、上記のようにして得られた導電性高分子をベースに帯電防止フィルムを作製しようとして、上記導電性高分子の水系分散液にバインダ用樹脂を混合すると、非水溶性のバインダ用樹脂が凝集してしまい、導電性高分子とバインダ用樹脂との充分な混合が短時間内に行えないという問題があった、
【0010】
また、得られた導電性高分子は、固体電解コンデンサの固体電解質として用いるなど、電子デバイスの有機導電性部材の構成にあたって使用されることが多いが、そのような電子デバイス系用途では、水が電子デバイスの金属製部材を腐食させ、電流漏れを生じさせて電力ロスを引き起こす原因になるため、水系分散液では、その取り扱いに細心の注意を払わなければならないという問題があった。
【0011】
そこで、得られた導電性高分子の水系分散液を有機溶剤系分散液へ変える試みがなされている(特許文献3〜5)。
【0012】
しかしながら、これら特許文献3〜5に記載の方法は、濃縮や溶剤置換などを経て導電性高分子の分散液を水系から有機溶剤系に変換していくものであるため、作業効率が充分とは言えず、そのため、コスト高を招くという問題があった。
【0013】
【特許文献1】特開2003−160647号公報
【特許文献2】特開2004−265927号公報
【特許文献3】特許第4038696号公報
【特許文献4】特許第4225785号公報
【特許文献5】特開第4208720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記のような事情に鑑み、導電性高分子の水系分散液から有機溶剤系分散液へ容易に変換し、有機溶剤系導電性高分子分散液を容易に製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、導電性高分子の水系分散液に、炭素数が11〜30の非水溶性アミンもしくは炭素数が12〜42のアミンオキサイドを非水混和性の有機溶剤に溶解させて調製した溶液を添加して混合するか、または、上記導電性高分子の水系分散液に、非水混和性の有機溶剤を添加し、次いで、炭素数が11〜30の非水溶性アミンもしくは炭素数が12〜42のアミンオキサイドを添加して混合することにより、上記導電性高分子を水系相から非水混和性の有機溶剤相へ移行させることができることを見出し、それに基づいて本発明を完成するにいたった。
【0016】
すなわち、本発明は、
(1)チオフェンまたはその誘導体を、ドーパントとなる高分子スルホン酸の存在下で水中または水と水混和性溶剤との混合物からなる水性液中で酸化重合して導電性高分子を合成することにより導電性高分子の水系分散液を得る工程と、
(2)上記導電性高分子の水系分散液に、炭素数が11〜30の非水溶性アミンもしくは炭素数が12〜42のアミンオキサイドを非水混和性の有機溶剤に溶解させて調製した溶液を添加して混合するか、または、上記導電性高分子の水系分散液に、非水混和性の有機溶剤を添加し、次いで炭素数が11〜30の非水溶性アミンもしくは炭素数が12〜42のアミンオキサイドを添加して混合することにより、上記導電性高分子を水系相から非水混和性の有機溶剤相へ移行させる工程と、
(3)導電性高分子を含有する非水混和性の有機溶剤液を回収する工程と、
を経由して製造することを特徴とする、水分含有量が20質量%以下の有機溶剤系導電性高分子分散液の製造方法に関する。
【0017】
また、本発明は、上記製造方法によって製造される有機溶剤系導電性高分子分散液、上記有機溶剤系導電性高分子分散液を乾燥して得られる導電性高分子、上記有機溶剤系導電性高分子分散液とバインダ用樹脂とを混合して得られる有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液および上記有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を乾燥して得られる導電性高分子含有樹脂組成物に関する。
【0018】
そして、上記非水溶性アミンとしては、次の一般式(1)で表される非水溶性アミンが好ましい。
R−NH (1)
(式中、Rは炭素数が11〜30のアルキル基または炭素数が11〜30のアルコキシアルキル基であり、上記アルキル基またはアルコキシアルキル基は、直鎖状のものであってもよく、また、分岐鎖のものであってもよい)
【0019】
また、上記アミンオキサイドとしては、次の一般式(2)で表されるアミンオキサイドが好ましい。
【0020】
【化1】

(式中、Rは炭素数が10〜30のアルキル基であり、RとRは、炭素数が1〜6のアルキル基であって、上記RとRは同一でもよく、また、異なっていてもよい。そして、それらのアルキル基は、いずれも、直鎖状のものであってもよく、また、分岐鎖状のものであってもよい)
【0021】
また、非水混和性の有機溶剤としては、メチルエチルケトン、ノルマルブタノールなどが好ましい。
そして、上記非水溶性アミンもしくはアミンオキサイドの添加量は、導電性高分子に対して、モル比で、1:0.2〜10(ただし、導電性高分子のモル値は、導電性高分子の水系分散液の105℃での乾燥重量をチオフェンまたはその誘導体の分子量で割った値と規定する)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、有機溶剤系導電性高分子分散液を容易に製造することができる。すなわち、本発明によれば、導電性高分子の水系分散液に、炭素数が11〜30の非水溶性アミンもしくは炭素数が12〜42のアミンオキサイドを非水混和性の有機溶剤に溶解させて調製した溶液を添加して混合するか、または、上記導電性高分子の水系分散液に、非水混和性の有機溶剤を添加し、次いで炭素数が11〜30の非水溶性アミンもしくは炭素数が12〜42のアミンオキサイドを添加して混合することにより、上記導電性高分子を水系相から非水混和性の有機溶剤相へ容易に移行させることができる。これは、非水溶性アミンもしくはアミンオキサイドが、導電性高分子のドーパントとして機能する高分子スルホン酸に対し、部分的に結合することにより、導電性高分子が非水溶性になり、導電性高分子が水系相から非水混和性の有機溶剤相へ容易に移行させることができることによるものと考えられる。いわば、抽出という簡単な操作を利用することにより、導電性高分子を水系相から有機溶剤系相に移行させることができるので、有機溶剤系導電性高分子分散液を容易に製造することができる。
【0023】
また、上記有機溶剤系導電性高分子分散液を乾燥して得られる導電性高分子は、導電性が高く、かつ耐熱性が優れている。これは、導電性高分子の合成にあたってドーパントとして用いた高分子スルホン酸が、導電性高分子の合成時、優れた分散剤としても機能し、重合性モノマーとしてのチオフェンまたはその誘導体や必要に応じて添加される触媒などを水中または水性液中を均一に分散させ、かつ合成されるポリマー中にドーパントとして取り込まれ、導電性高分子を高い導電性を有するものにさせるとともに、優れた分散剤として機能することが、耐熱性の優れたものにする要因になっているものと考えられる。
【0024】
また、本発明により得られた有機溶剤系導電性高分子分散液は、非水溶性のバインダ用樹脂と混合する際に、バインダ用樹脂を凝集させることがないので、導電性高分子とバインダ用樹脂とを短時間で充分に混合することができ、導電性高分子とバインダ用樹脂とが充分に混合した有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を容易に得ることができる。
【0025】
さらに、本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液や有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液は、有機溶剤系なので、固体電解コンデンサの固体電解質層の形成などの電子デバイスの有機導電性部材の構成にあたって、電子デバイスに水による不都合を生じさせることがない。つまり、水系導電性高分子分散液のように、水が電子デバイスの金属製部材を腐食させて漏れ電流を生じさせ、電子デバイスの駆動にあたって電力ロスを生じさせることがない。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明においては、導電性高分子の水系分散液に、炭素数が11〜30の非水溶性アミンもしくは炭素数が12〜42のアミンオキサイドを非水混和性の有機溶剤に溶解させて調製した溶液を添加して混合するか、または、上記導電性高分子の水系分散液に、非水混和性の有機溶剤を添加し、次いで、炭素数が11〜30の非水溶性アミンもしくは炭素数が12〜42のアミンオキサイドを添加して混合することにより、上記導電性高分子を水系相から非水混和性の有機溶剤相へ移行させたことに最大の特徴があるので、まず、これらの非水溶性アミン、アミンオキサイドおよび非水混和性の有機溶剤について説明する。
【0027】
まず、非水溶性アミンとしては、例えば、次の一般式(1)で表される非水溶性アミンが好ましい。
R−NH (1)
(式中、Rは炭素数が11〜30のアルキル基または炭素数が11〜30のアルコキシアルキル基であり、上記アルキル基またはアルコキシアルキル基は、直鎖状のものであってもよく、また、分岐鎖のものであってもよい)
【0028】
本発明において、非水溶性アミンとして好ましいとしているアミンは一般式(1)で表されるように第一級アミンであるが、これは、第一級アミンが、第二級アミンや第三級アミンに比べて、導電性高分子を水系相から非水混和性の有機溶剤相を移行させる作用が強いからであり、また、一般式(1)において、Rは炭素数が11〜30のものとしているのは、アミンのアルキル基またはアルコキシアルキル基の炭素数が小さすぎると、導電性高分子を非水混和性の有機溶剤相へ移行させることができなくなり、また、アルキル基またはアルコキシアルキル基の炭素数が大きくなりすぎると、非水溶性アミンの添加量の増大を招き、経済性を欠くようになるからである。つまり、非水溶性アミンのアルキル基またはアルコキシアルキル基の炭素数が大きくなっても導電性高分子を非水混和性の有機溶剤相へ移行させる特性そのものは保持し続けるものの、アルキル基またはアルコキシアルキル基の炭素数の増加に伴なって非水溶性アミン中における−NH部分の比率が低下してくるため、使用する非水溶性アミンの質量を多くしなければ、導電性高分子を非水混和性の有機溶剤相へ移行させる作用が充分に発揮されなくなるからである。そして、上記一般式(1)で表される非水溶性アミンの具体例としては、例えば、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ステアリルアミン、N−メチルヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、ドデシルオキシプロピルアミン、オレイルアミンなどが挙げられるが、それらの中でも、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、ドデシルオキシプロピルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルアミンが好ましく、特に3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、ドデシルオキシプロピルアミンが好ましい。そして、3−(2−エチルへキシルオキシ)プロピルアミンやドデシルオキシプロピルアミンを特に好ましいとしているのは、それらが水になじみやすいエーテル結合を有していて、導電性高分子を水系相から非水混和性の有機溶剤相へ移行させる作用が特に強いからである。
【0029】
そして、アミンオキサイドとしては、次の一般式(2)で表されるアミンオキサイドが好ましい。
【化2】

(式中、Rは炭素数が10〜30のアルキル基であり、RとRは、炭素数が1〜6のアルキル基であって、上記RとRは同一でもよく、また、異なっていてもよい。そして、それらのアルキル基は、いずれも、直鎖状のものであってもよく、また、分岐鎖状のものであってもよい)
【0030】
これは、上記アミンオキサイドが導電性高分子を水系相から非水混和性の有機溶剤相へ移行させる作用が強いからである。そして、上記一般式(2)において、Rを炭素数10〜30のアルキル基としているのは、このアルキル基における炭素数が小さい場合は、導電性高分子を非水混和性の有機溶剤相へ移行させることができなくなるからであり、炭素数が大きすぎる場合は、非水溶性アミンの場合と同様に、添加量の増大を招き経済性を欠くようになるからであるからである。また、RとRのアルキル基の炭素数の上限を6としているのは、それより炭素数が大きいものは入手しがたく、コストの増加を招くおそれがあるからである。
【0031】
そして、上記一般式(2)で表されるアミンオキサイドの具体例としては、例えば、デシルジメチルアミンオキサイド、ジメチルデシルアミンオキサイド、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ラウリルポリオキシエチレンジメチルアミンオキサイド、ジメチルミルスチルアミンオキサイドなどが挙げられ、それらの中でも、特にデシルジメチルアミンオキサイドが好ましい。
【0032】
非水混和性の有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン化合物、ノルマルブタノール、イソブタノールなどのアルコール化合物などが挙げられ、特にメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ノルマルブタノール、イソブタノールなどが好ましい。
【0033】
本発明において、この有機溶剤を非水性とせず、非水混和性としているのは、たとえ水に多少溶けても、水と任意に混ざりあうことなく、水と分離できるものであればよいという意味に基づいている。
【0034】
本発明において、上記非水溶性アミンもしくはアミンオキサイドの添加量は、導電性高分子に対して、モル比で、1:0.2〜10(ただし、導電性高分子のモル値は、導電性高分子の水系分散液の105℃での乾燥重量をチオフェンまたはその誘導体の分子量で割った値と規定する)が好ましい。すなわち、上記非水溶性アミンもしくはアミンオキサイドの添加量が上記より少ない場合は、導電性高分子を有機溶剤相へ移行させることができなくなるおそれがあり、上記より多い場合は、アルカリ成分が過剰になり、それによって、脱ドープ化を起こすおそれがあるからである。ただし、過剰なアルカリ成分を取り除く手間をいとわなければ、非水溶性アミンもしくはアミンオキサイドの添加量は上記より多くなってもさしつかえない。なお、上記導電性高分子のモル値を算出する際のチオフェンまたはその誘導体の分子量は、当該導電性高分子の合成にあたって使用されたモノマーの分子量であり、導電性高分子が3,4−エチレンジオキシチオフェンを用いて合成されたものである場合は、チオフェンまたはその誘導体の分子量は、3,4−エチレンジオキシチオフェンの分子量142になる。そして、この非水溶性アミンもしくはアミンオキサイドの添加量は、上記範囲内で、導電性高分子に対して、モル比で0.5以上がより好ましく、0.8以上がさらに好ましく、また、4以下がより好ましく、2.5以下がさらに好ましく、とりわけ、2.2以下が好ましい。
【0035】
上記非水溶性アミンもしくはアミンオキサイドは、非水溶性アミン、アミンオキサイドのいずれか一方を用いてもよいし、また、両者を併用してもよく、両者を併用する場合、上記の非水溶性アミンもしくはアミンオキサイドの添加量は、非水溶性アミンの量とアミンオキサイドの量の合計量である。
【0036】
得られる有機溶剤系導電性高分子分散液は、例えば、帯電防止フィルムや帯電防止シートの導電層の作製にあたって、バインダ用樹脂と混合し、有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液とされるが、その際には、幾分かの水分を含んでいても、バインダ用樹脂の凝集を招かないので、水分含有量は20質量%以下であればよいが、この水分含有量は、少ない方が好ましく、10質量%以下が好ましい。
【0037】
この有機溶剤系導電性高分子分散液における導電性高分子の濃度は、特に限定されることはないが、均一な分散液を得るという観点からは、導電性高分子の濃度は5質量%以下が好ましく、特に3質量%以下が好ましい。また、導電性高分子の濃度があまりにも低すぎると、この有機溶剤系導電性高分子分散液を用いる場合の作業効率が悪くなるので、0.2質量%以上が好ましく、特に0.5質量%以上が好ましい。
【0038】
ただし、電子デバイスへの応用にあたっては、水分は少ない方が望ましく、水分含有量はできるかぎり少なくすることが好ましい。そして、そのような水分含有量が少ない有機溶剤系導電性高分子分散液にすることによって、固体電解コンデンサの固体電解質の作製にあたって好適に使用することができるし、さらには、リチウムイオン電池の導電性向上剤、有機ELのホール輸送層、デバイスの電極、非水系の導電性高分子塗料の導電剤などとしての使用が期待できる。
【0039】
上記有機溶剤系導電性高分子分散液のベースとなる導電性高分子の水系分散液は、重合性モノマーであるチオフェンまたはその誘導体をドーパントとなる高分子スルホン酸の存在下で水中または水性液中で酸化重合することによって得られるが、本発明において、導電性高分子を製造するにあたってのモノマーとして、チオフェンまたはその誘導体が用いられるのは、前記したように、チオフェンまたはその誘導体を重合して得られる導電性高分子が導電性および耐熱性のバランスがとれていて、他のモノマーに比べて、コンデンサの特性の優れた固体電解コンデンサが得られやすいなどという理由に基づいている。
【0040】
そして、そのチオフェンまたはその誘導体におけるチオフェンの誘導体としては、例えば、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3−アルキルチオフェン、3−アルコキシチオフェン、3−アルキル−4−アルコキシチオフェン、3,4−アルキルチオフェン、3,4−アルコキシチオフェンや、上記の3,4−エチレンジオキシチオフェンをアルキル基で修飾したアルキル化エチレンジオキシチオフェンなどが挙げられ、そのアルキル基やアルコキシ基の炭素数としては1〜16が好ましく、特に1〜4が好ましい。
【0041】
上記の3,4−エチレンジオキシチオフェンをアルキル基で修飾したアルキル化エチレンジオキシチオフェンについて詳しく説明すると、上記3,4−エチレンジオキシチオフェンやアルキル化3,4−エチレンジオキシチオフェンは、下記の一般式(3)で表される化合物に該当する。
【0042】
【化3】

(式中、Rは水素またはアルキル基である)
【0043】
そして、上記一般式(3)中のRが水素の化合物が、3,4−エチレンジオキシチオフェンであり、これをIUPAC名称で表示すると、「2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン(2,3−Dihydro−thieno〔3,4−b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、この化合物は、IUPAC名称で表示されるよりも、一般名称の「3,4−エチレンジオキシチオフェン」で表示されることが多いので、本書では、この「2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン」を「3,4−エチレンジオキシチオフェン」と表示している。そして、上記一般式(3)中のRがアルキル基の場合、該アルキル基としては、炭素数が1〜4のもの、つまり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が好ましく、それらを具体的に例示すると、一般式(3)中のRがメチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2−メチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン(2−Methyl−2,3−dihydro−thieno〔3,4−b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、以下、これを簡略化して「メチル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。一般式(3)中のRがエチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2−エチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン(2−Ethyl−2,3−dihydro−thieno〔3,4−b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、以下、これを簡略化して「エチル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。一般式(3)中のRがプロピル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2−プロピル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン(2−Propyl−2,3−dihydro−thieno〔3,4−b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、以下、これを簡略化して「プロピル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。そして、一般式(3)中のRがブチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2−ブチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン(2−Butyl−2,3−dihydro−thieno〔3,4−b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、以下、これを簡略化して「ブチル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。また、「2−アルキル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン」を、以下、簡略化して「アルキル化エチレンジオキシチオフェン」で表わす。そして、これらのアルキル化エチレンジオキシチオフェンの中でも、メチル化エチレンジオキシチオフェン、エチル化エチレンジオキシチオフェン、プロピル化エチレンジオキシチオフェン、ブチル化エチレンジオキシチオフェンが好ましく、特にエチル化エチレンジオキシチオフェン、プロピル化エチレンジオキシチオフェンが好ましい。
【0044】
そして、3,4−エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)とアルキル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2−アルキル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)とは、混合して用いることが好ましく、その混合比は、モル比で0.1:1〜1:0.1、特に0.2:1〜1:0.2、とりわけ0.3:1〜1:0.3が好ましい。
【0045】
ドーパントとなる高分子スルホン酸としては、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂、スチレンスルホン酸とアクリル酸エステルとの共重合体などが好適に用いられ、これらの高分子スルホン酸は、それぞれ単独で用いることもできるし、また、2種以上併用してもよい。
【0046】
そして、これらの高分子スルホン酸を単独で用いる場合には、特にポリスチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸とアクリル酸エステルとの共重合体が好ましく、2種以上併用する場合には、ポリスチレンスルホン酸と、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂およびスチレンスルホン酸とアクリル酸エステルとの共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種との混合物として用いることが好ましい。
【0047】
上記ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂、スチレンスルホン酸とアクリル酸エステルとの共重合体などの高分子スルホン酸は、導電性高分子のドーパントとなるものであるが、これらは、導電性高分子の合成時、優れた分散剤としても機能し、酸化剤や重合性モノマーとしてのチオフェンまたはその誘導体などを水中または水性液中に均一に分散させ、かつ合成されるポリマー中にドーパントとして取り込まれ、得られる導電性高分子を帯電防止フィルムや固体電解コンデンサの固体電解質として用いるのに適した高い導電性を有するものにさせるとともに、上記高分子スルホン酸が、優れた分散剤として機能することが、得られる導電性高分子を固体電解コンデンサの固体電解質として用いるのに適した優れた耐熱性を有させるようにし、また、帯電防止フィルムとして用いるのに適した高い透明性を有させるようにするものと考えられる。
【0048】
上記ポリスチレンスルホン酸としては、その重量平均分子量が10,000〜1,000,000のものが好ましい。
【0049】
すなわち、上記ポリスチレンスルホン酸の重量平均分子量が10,000より小さい場合は、得られる導電性高分子の導電性が低くなり、また、透明性も悪くなるおそれがある。また、上記ポリスチレンスルホン酸の重量平均分子量が1,000,000より大きい場合は、導電性高分子の分散液の粘度が高くなり、固体電解コンデンサの作製にあたって使用しにくくなる。そして、上記ポリスチレンスルホン酸としては、その重量平均分子量が上記範囲内で、20,000以上のものが好ましく、40,000以上のものがより好ましく、また、800,000以下のものが好ましく、300,000以下のものがより好ましい。
【0050】
また、上記スルホン化ポリエステルは、スルホイソフタル酸またはそのジエステルやスルホテレフタル酸またはそのジエステルなどのジカルボキシベンゼンスルホン酸またはそのジエステルとアルキレングリコールとを酸化アンチモンや酸化亜鉛などの触媒の存在下で縮重合させたものであり、このスルホン化ポリエステルとしては、その重量平均分子量が5,000〜300,000のものが好ましい。
【0051】
すなわち、スルホン化ポリエステルの重量平均分子量が5,000より小さい場合は、得られる導電性高分子の導電性が低くなり、透明性も悪くなるおそれがある。また、スルホン化ポリエステルの重量平均分子量が300,000より大きい場合は、導電性高分子の分散液の粘度が高くなり、固体電解コンデンサなどの作製にあたって使用しにくくなる。そして、このスルホン化ポリエステルとしては、その重量平均分子量が上記範囲内で、10,000以上のものが好ましく、20,000以上のものがより好ましく、また、100,000以下のものが好ましく、80,000以下のものがより好ましい。
【0052】
また、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂としては、その重量平均分子量が5,000〜500,000のものが好ましい。
【0053】
すなわち、上記フェノールスルホン酸ノボラック樹脂の重量平均分子量が5,000より小さい場合は、得られる導電性高分子の導電性が低くなり、また、透明性も悪くなるおそれがある。また、上記フェノールスルホン酸ノボラック樹脂の重量平均分子量が500,000より大きい場合は、導電性高分子の分散液の粘度が高くなり、固体電解コンデンサの作製にあたって使用しにくくなる。そして、このフェノールスルホン酸ノボラック樹脂としては、その重量平均分子量が上記範囲内で、5,000以上のものが好ましく、10,000以上のものがより好ましく、また、400,000以下のものが好ましく、80,000以下のものがより好ましい。
【0054】
また、スチレンスルホン酸とアクリル酸エステルとの共重合体は、スチレンスルホン酸とアルキル酸エステルとを過酸化物などの存在下で共重合させたものであり、その重量平均分子量が10,000〜1,000,000のものが好ましい。
【0055】
すなわち、スチレンスルホン酸とアクリル酸エステルとの共重合体の重量平均分子量が10,000より小さい場合は、得られる導電性高分子の導電性が低くなり、透明性も悪くなるおそれがある。また、ポリスチレンスルホン酸とアクリル酸エステルとの共重合体の重量平均分子量が1,000,000より大きい場合は、導電性高分子の分散液の粘度が高くなり、固体電解コンデンサなどの作製にあたって使用しにくくなる。そして、このポリスチレンスルホン酸とアクリル酸エステルとの共重合体としては、その重量平均分子量が上記範囲内で、20,000以上のものが好ましく、40,000以上のものがより好ましく、また、800,000以下のものが好ましく、400,000以下のものがより好ましい。
【0056】
ドーパントとなるポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂、ポリスチレンスルホン酸とアクリル酸エステルとの共重合体は、いずれも、水や水と水混和性溶剤との混合物からなる水性液に対して溶解性を有していることから、酸化重合は水中または水性液中で行うことができる。
【0057】
上記水性液を構成する水混和性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、アセトニトリルなどが挙げられ、これらの水混和性溶剤の水との混合割合としては、水性液全体中の50質量%以下が好ましい。
【0058】
導電性高分子を合成するにあたっての酸化重合は、化学酸化重合、電解酸化重合のいずれも採用することができる。
【0059】
化学酸化重合を行うにあたっての酸化剤としては、例えば、過硫酸塩が用いられるが、その過硫酸塩としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸カルシウム、過硫酸バリウムなどが用いられる。
【0060】
化学酸化重合において、ドーパント、重合性モノマー、酸化剤の使用量は、特に限定されることはないが、例えば、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を用い、重合性モノマーとして3,4−エチレンジオキシチオフェンを用い、酸化剤として過硫酸アンモニウムを用いた場合、それらの使用比率としては、質量比で、ドーパント:重合性モノマー:酸化剤=1:0.1〜10:0.1〜10が好ましく、特に、ドーパント:重合性モノマー:酸化剤=1:0.2〜4:0.2〜4が好ましい。そして、このような使用比率は、ドーパント、重合性モノマー、酸化剤に関して、他のものを用いた場合でも、ほぼ同様である。化学酸化重合時の温度としては、5〜95℃が好ましく、10〜30℃がより好ましく、また、重合時間としては、1時間〜72時間が好ましく、8時間〜24時間がより好ましい。
【0061】
電解酸化重合は、定電流でも定電圧でも行い得るが、例えば、定電流で電解酸化重合を行う場合、電流値としては0.05mA/cm〜10mA/cmが好ましく、0.2mA/cm〜4mA/cmがより好ましく、定電圧で電解酸化重合を行う場合は、電圧としては0.5V〜10Vが好ましく、1.5V〜5Vがより好ましい。電解酸化重合時の温度としては、5〜95℃が好ましく、特に10〜30℃が好ましい。また、重合時間としては、1時間〜72時間が好ましく、8時間〜24時間がより好ましい。なお、電解酸化重合にあたっては、触媒として硫酸第一鉄または硫酸第二鉄を添加してもよい。
【0062】
上記のようにして得られる導電性高分子は、重合直後、水中または水性液中に分散した状態で得られ、酸化剤としての過硫酸塩や触媒として用いた硫酸鉄塩やその分解物などを含んでいる。そこで、その不純物を含んでいる導電性高分子の水分散液を超音波ホモジナイザーや遊星ボールミルなどの分散機にかけて不純物を分散させた後、カチオン交換樹脂で金属成分を除去する。このときの導電性高分子の粒径としては、100μm以下が好ましく、特に10μm以下が好ましい。その後、エタノール沈殿法、限外濾過法、陰イオン交換樹脂などにより、酸化剤や触媒の分解により生成した硫酸などをできるかぎり除去するのが好ましい。
【0063】
本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液を乾燥して得られる導電性高分子は、帯電防止フィルムや固体電解コンデンサの固体電解質として用いることができる。そして、固体電解コンデンサの固体電解質として用いる際には、タンタル固体電解コンデンサ、ニオブ固体電解コンデンサ、アルミニウム固体電解コンデンサなどの固体電解質として好適に用いられ、ESRが小さく、かつ高温条件下における信頼性が高い固体電解コンデンサを提供することができる。
【0064】
上記のように、本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液を乾燥して得られる導電性高分子を帯電防止フィルムとして用いる場合や固体電解コンデンサの固体電解質として用いる際は、有機溶剤系導電性高分子分散液を乾燥して導電性高分子としたものをそのまま使用することもできるが、導電性高分子が有機溶剤中に分散した有機溶剤系導電性高分子分散液の状態で使用し、その後、乾燥して得られる導電性高分子を帯電防止フィルムや固体電解コンデンサの固体電解質として使用に供する方が適している。そして、その際、帯電防止フィルムの強度を高めたり、導電性高分子とコンデンサ素子との密着性を高めるために、導電性高分子の分散液にバインダ用樹脂を添加しておくことが好ましい。
【0065】
そのようなバインダ樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリロニトリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ノボラック樹脂、シランカップリング剤などが挙げられ、特にポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂などが好ましい。また、スルホン化ポリアリル、スルホン化ポリビニル、スルホン化ポリスチレンのように、スルホン基が付加されていると、導電性高分子の導電性を向上させることができるので、より好ましい。
【0066】
上記のようなバインダ用樹脂は、水と混ざりにくいものが多く、導電性高分子の分散液が水系であると、添加時にバインダ用樹脂が凝集して、導電性高分子とバインダ用樹脂との均一な混合物を得るには、混合に長時間を要することになるが、本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液によれば、添加したバインダ用樹脂が凝集を起こすことがないので、導電性高分子とバインダ用樹脂との均一な混合が容易に達成でき、導電性高分子とバインダ用樹脂が均一に混合した有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物の分散液が容易に得られる。
【0067】
そして、これら本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液や有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を用いて固体電解コンデンサの固体電解質を構成することによって固体電解コンデンサを作製する例を説明する。ただし、本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液を用いる場合も、有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を用いる場合も同様に行い得るので、有機溶剤系導電性高分子分散液を代表させて説明する。
【0068】
まず、タンタル固体電解コンデンサ、ニオブ固体電解コンデンサ、積層型アルミニウム固体電解コンデンサなどを作製する場合、タンタル、ニオブ、アルミニウムなどの弁金属の多孔体からなる陽極と、それら弁金属の酸化皮膜からなる誘電体層とを有するコンデンサ素子を、本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液に浸漬し、取り出した後、乾燥し、この分散液への浸漬と乾燥する工程を繰り返すことによって、導電性高分子からなる固体電解質層を形成した後、カーボンペースト、銀ペーストを付け、乾燥した後、陽極端子や陰極端子を取り付け、樹脂で外装することによって、タンタル固体電解コンデンサ、ニオブ固体電解コンデンサ、積層型アルミニウム固体電解コンデンサなどを作製することができる。
【0069】
また、例えば、ポリスチレンスルホン酸を分散剤兼ドーパントとして用い、重合性モノマー、酸化剤を含む液に、前記のコンデンサ素子を浸漬し、取り出した後、重合を行い、水に浸漬し、取り出し、洗浄した後、乾燥することで導電性高分子を合成した後、それら全体を本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液に浸漬し、取り出して乾燥する操作を繰り返して固体電解質層を形成してもよい。
【0070】
そして、上記のようにしてコンデンサ素子上に導電性高分子からなる固体電解質層を形成した後、上記と同様にカーボンペーストや銀ペーストのコーティングなどを経て、タンタル固体電解コンデンサ、ニオブ固体電解コンデンサ、積層型アルミニウム固体電解コンデンサなどを作製することもできる。
【0071】
また、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製する場合は、アルミニウム箔の表面をエッチング処理した後、化成処理を行って誘電体層を形成した陽極にリード端子を取り付け、また、アルミニウム箔からなる陰極にリード端子を取り付け、それらのリード端子付き陽極と陰極とをセパレータを介して巻回して作製したコンデンサ素子を本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液に浸漬し、取り出し、乾燥した後、アルミニウム箔のエッチングにより形成された細孔に入っていない導電性高分子を取り除くため、有機溶剤に浸漬し、取り出した後、乾燥し、これらの操作を繰り返したのち、外装材で外装して、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製することができる。
【0072】
なお、上記例示では、コンデンサ素子を本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液に浸漬する方法によって固体電解コンデンサを作製する場合を説明したが、コンデンサ素子を有機溶剤系導電性高分子分散液に浸漬することに代えて、本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液をコンデンサ素子を塗布する方法によっても固体電解コンデンサを作製することができる。
【0073】
上記のように本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液を用いて固体電解コンデンサを作製する場合、分散液が有機溶剤系なので、水系の分散液に比べて、乾燥が容易であり、また、水系分散液を用いた場合のような残存水分による固体電解コンデンサの不都合が生じない。
【0074】
帯電防止フィルムや帯電防止シートの作製にあたっては、有機溶剤系導電性高分子分散液よりも、有機溶剤系導電性高分子分散液にバインダ用樹脂を混入させた有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を用いる方が好ましく、例えば、基材シートに本発明の有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を塗布するか、基材シートを有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液に浸漬し、引き上げた後、乾燥して、フィルムを形成し、そのフィルムを基材シートから剥離して、それを帯電防止フィルムとして用いればよいし、また、基材シートの一方の面または両面に形成したフィルムを基材シートから剥がさずに、それを導電層とし、基材シートを支持材として帯電防止シートとすればよい。
【実施例】
【0075】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に例示のもののみに限定されることはない。なお、以下の実施例などにおいて、濃度や使用量を示す際の%は、特にその基準を付記しないかぎり、質量基準による%である。
【0076】
実施例1
ポリスチレンスルホン酸(テイカ社製、重量平均分子量100,000)の4%水溶液600gを内容積1Lのステンレス鋼製容器に入れ、硫酸第一鉄・7水和物0.3gを添加し、その中に3,4−エチレンジオキシチオフェン4mLをゆっくり滴下した。その容器に横3cm×縦20cmのステンレス鋼製のメッシュ(口径:2mm)を、液中に下端から上方に縦5cmの部分までが浸かるところで、攪拌棒を挟むような形で2本向かい合うようにしてセットした。上記ステンレス鋼製メッシュの一方に陽極、他方に陰極をつけ、1mA/cmの定電流で、攪拌しながら18時間かけて、3,4−エチレンジオキシチオフェンの電解酸化重合を行った。
【0077】
上記電解酸化重合後、水で6倍に希釈した後、超音波ホモジナイザー(日本精機社製、US−T300)で30分間分散処理を行った。その後、オルガノ社製のカチオン交換樹脂アンバーライト120B(商品名)を100g添加し、1時間攪拌機で攪拌した。次いで、東洋濾紙社製の濾紙No.131で濾過し、このカチオン交換樹脂による処理と濾過を3回繰り返して、液中の鉄イオンなどのカチオン成分をすべて除去した。その液を限外濾過装置〔ザルトリウス社製Vivaflow200(商品名)、分子量分画5万〕で濃縮処理を行った。この導電性高分子の水系分散液の105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、1.5%であった。
【0078】
これとは別に、メチルエチルケトン120gに、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン(分子量187)〔一般式(1)において、Rで表されるアルコキシアルキル基の炭素数は11である〕を2.4g添加し、撹拌して混合し、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンのメチルエチルケトン溶液を調製した。
【0079】
次に、上記のようにして得られた導電性高分子の水系分散液100gを撹拌機で撹拌しながら、その中に上記の3−(2−エチルへキシルオキシ)プロピルアミンのメチルエチルケトン溶液を122.4g添加し、撹拌した後、静置したところ、2層に分離した。この場合の導電性高分子に対する非水溶性アミンの添加比率は、モル比で、1:1.2であった。なお、導電性高分子のモル値は、導電性高分子の水系分散液中の固形分質量を3,4−エチレンジオキシチオフェンの分子量142で割った値とした。これは、以後において、モノマーとして3,4−エチレンジオキシチオフェンを用いる実施例などにおいても、同様である。
【0080】
上層のメチルエチルケトン相を取り出し、このメチルエチルケトン相に、2−メトキシエタノールを25g添加した後、該有機溶剤液をGA100ガラスフィルター(アドバンテック東洋社製)で濾過し、その濾液を実施例1の有機溶剤系導電性高分子分散液として得た。この分散液の105℃の乾燥条件で測定した乾燥固形分濃度は1.1%であり、カールフィッシャー法により測定した水分含有量は7.1%であった。そして、この実施例1の有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、3カ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0081】
実施例2
実施例1と同様にポリスチレンスルホン酸をドーパントとする導電性高分子の水系分散液を得た。この導電性高分子の水系分散液の105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、実施例1と同様に、1.5%であった。
【0082】
これとは別に、スルホン化ポリエステル〔互応化学工業社製プラスコートZ−561(商品名)、重量平均分子量27,000〕の3%水溶液200gを内容積1Lの容器に入れ、酸化剤として過硫酸アンモニウムを2g添加した後、撹拌機で撹拌して溶解した。次いで。硫酸第二鉄の40%水溶液を0.4g添加し、撹拌しながら、その中に3,4−エチレンジオキシチオフェン3mLをゆっくり滴下し、24時間かけて、3,4−エチレンジオキシチオフェンの化学酸化重合を行った。
【0083】
上記化学酸化重合後の反応液にオルガノ社製のカチオン交換樹脂アンバーライト120B(商品名)を100g添加し、1時間撹拌した。次いで、東洋濾紙社製の濾紙No.131で濾過し、このカチオン交換樹脂による処理と濾過を3回繰り返して、液中の鉄イオンなどのカチオン成分をすべて除去した。その液を限外濾過装置〔ザルトリウス社製Vivaflow200(商品名)、分子量分画5万〕で濃縮処理を行った。このようにして得た導電性高分子の水系分散液の105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、1.5%であった。
【0084】
上記のようにして得られたポリスチレンスルホン酸をドーパントとする導電性高分子の水系分散液とスルホン化ポリエステルをドーパントとする導電性高分子の水系分散液とを質量比4:1の割合で混合して、ポリスチレンスルホン酸をドーパントとする導電性高分子とスルホン化ポリエステルをドーパントとする導電性高分子の水系混合分散液100gを得た。
【0085】
上記導電性高分子の水系混合分散液100gに実施例1と同様の3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンのメチルエチルケトン溶液〔メチルエチルケトン120gに、3−(2―エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンを2.4g溶解させた溶液〕を122.4g添加し、撹拌した後、静置したところ、2層に分離した。この場合の導電性高分子に対する非水溶性アミンの添加比率は、モル比で、1:1.2であった。
【0086】
上層のメチルエチルケトン相を取り出し、このメチルエチルケトン相に2−メトキシエタノールを25g添加した後、該有機溶剤液をGA100ガラスフィルター(アドバンテック東洋社製)で濾過し、その濾液を実施例2の有機溶剤系導電性高分子分散液として得た。この分散液の105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、1.1%であり、カールフィッシャー法により測定した水分含有量は、6.9%であった。そして、この実施例2の有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、3カ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0087】
実施例3
実施例1で用いたポリスチレンスルホン酸の4%水溶液600gに硫酸第一鉄・7水和物を0.3g添加した液に代えて、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂〔小西化学工業社製lotEG0727(商品名)、重量平均分子量20,000〕の4%水溶液60gとポリスチレンスルホン酸(テイカ社製、重量平均分子量100,000)の4%水溶液540gとを混合した混合液600gに硫酸第一鉄・7水和物0.05g添加した液を用いた以外は、実施例1と同様に、限外濾過操作まで行って、導電性高分子の水系分散液を得た。この水系分散液の105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、1.5%であった。
【0088】
上記導電性高分子の水系分散液100gに対して、実施例1と同様の3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンのメチルエチルケトン溶液〔メチルエチルケトン120gに、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンを2.4g溶解させた溶液〕を122.4g添加し、撹拌した後、静置したところ、2層に分離した。この場合の導電性高分子に対する非水溶性アミンの添加比率は、1:1.2であった。
【0089】
上層のメチルエチルケトン相を取り出し、このメチルエチルケトン相に2−メトキシエタノールを25g添加した後、該有機溶剤液をGA100ガラスフィルター(アドバンテック東洋社製)で濾過し、その濾過を実施例3の有機溶剤系導電性高分子分散液として得た。この分散液の105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、1.1%であり、カールフィッシャーにより測定した水分含有量は、7.2%であった。そして、この実施例3の有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、3カ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0090】
実施例4
実施例1で用いたポリスチレンスルホン酸の4%水溶液600gに硫酸第一鉄・7水和物を0.3g添加した液に代えて、スチレンスルホン酸とメタクリル酸エチルとをモル比75:25で共重合させた共重合体〔東ソー有機化学株式会社製のHM−2510(商品名)、重量平均分子量68,900〕の4%水溶液600gに硫酸第一鉄・7水和物0.05gを添加した液を用いた以外は、実施例1と同様に限外濾過操作まで行って、導電性高分子の水系分散液を得た。この分散液の105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、1.5%であった。
【0091】
上記導電性高分子の水系分散液100gに対し、実施例1と同様の3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンのメチルエチルケトン溶液〔メチルエチルケトン120gに、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンを2.4g溶解させた溶液〕を122.4g添加し、撹拌した後、静置したところ、2層に分離した。この場合の導電性高分子に対するアミンの添加比率は、モル比で、1:1.2であった。
【0092】
上層のメチルエチルケトン相を取り出し、このメチルエチルケトン相に2−メトキシエタノールを25g添加した後、該有機溶剤液をGA100ガラスフィルター(アドバンテック東洋社製)で濾過し、その濾液を実施例4の有機溶剤系導電性高分子分散液として得た。この分散液の105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、1.1%であり、カールフィッシャーにより測定した水分含有量は、7.2%であった。そして、この実施例4の有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、3カ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0093】
実施例5
実施例1で用いた3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンに代えて、ドデシルオキシプロピルアミン(分子量243)〔一般式(1)において、Rで表されるアルコキシアルキル基の炭素数は15である〕を用いた以外は、実施例1と同じ操作を行って、実施例5の有機溶剤系導電性高分子分散液を得た。
【0094】
この実施例5において、導電性高分子に対する非水溶性アミンの添加比率は、モル比で1:0.9であった。この実施例5の有機溶剤系導電性高分子分散液の105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、1.1%であり、カールフィッシャー法により測定した水分含有量は。6.9%であった。そして、この実施例5の有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、3ヵ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0095】
実施例6
実施例1で用いた3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンに代えて、ミリスチルアミン(分子量213)〔一般式(1)において、Rで表されるアルキル基の炭素数は14である〕を用いた以外は、実施例1と同じ操作を行って、実施例6の有機溶剤系導電性高分子分散液を得た。
【0096】
この実施例6において、導電性高分子に対する非水溶性アミンの添加比率は、モル比で、1:1.1であった。この実施例6の有機溶剤系導電性高分子分散液の105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、0.9%であり、カールフィッシャー法により測定した水分含有量は、9.1%であった。そして、この実施例6の有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、3ヵ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0097】
実施例7
実施例1で用いた3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンに代えて、ステアリルアミン(分子量269)〔一般式(1)において、Rで表されるアルキル基の炭素数は18である〕を用いた以外は、実施例1と同じ操作を行って、実施例7の有機溶剤系導電性高分子分散液を得た。
【0098】
この実施例7において、導電性高分子に対する非水溶性アミンの添加比率は、モル比で1:0.8であった。この実施例7の有機溶剤系導電性高分子分散液の105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、1.0%であり、カールフィッシャー法により測定した水分含有量は、8.4%であった。そして、この実施例7の有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、3カ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0099】
実施例8
3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンの添加量を2.4gから3.4gに変更した以外は、実施例1と同じ操作を行って、実施例8の有機溶剤系導電性高分子分散液を得た。
【0100】
この実施例8において、導電性高分子に対する非水溶性アミンの添加比率は、モル比で1:1.7であった。この実施例8の有機溶剤系導電性高分子分散液の105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、1.2%であり、また、カールフィッシャー法により測定した水分含有量は、6.2%であった。そして、この実施例8の有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、3カ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0101】
実施例9
実施例1で用いた3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンに代えて、デシルジメチルアミンオキサイド(分子量229)〔一般式(2)において、Rで表されるアルキル基の炭素数は10であり、Rで表されるアルキル基の炭素数は1であり、Rで表されるアルキル基の炭素数は1である〕を添加した以外は、実施例1と同じ操作を行って、実施例9の有機溶剤系導電性高分子分散液を得た。
【0102】
この実施例9において、導電性高分子に対するアミンオキサイドの添加比率は、モル比で1:1.1であった。この実施例9の有機溶剤系導電性高分子分散液の105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、1.0%であり、カールフィッシャー法により測定した水分含有量は、8.8%であった。そして、この実施例9の有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、3カ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0103】
実施例10
実施例2で用いた3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンに代えて、ドデシルオキシプロピルアミン(分子量243)〔一般式(1)において、Rで表されるアルキル基の炭素数は12である〕を用いた以外は、実施例2と同じ操作を行って、実施例10の有機溶剤系導電性高分子分散液を得た。
【0104】
この実施例10において、導電性高分子に対する非水溶性アミンの添加比率は、モル比で1:1.2であった。この実施例10の有機溶剤系導電性高分子分散液の105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、1.1%であり、カールフィッシャー法により測定した水分含有量は、6.6%であった。そして、この実施例10の有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、3カ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0105】
実施例11
3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンの添加量を2.4gから3.4gに変更した以外は、実施例2と同じ操作を行って、実施例11の有機溶剤系導電性高分子分散液を得た。
【0106】
この実施例11において、導電性高分子に対する非水溶性アミンの添加比率は、モル比で1:1.7であった。この実施例11の有機溶剤系導電性高分子分散液の105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、1.2%であり、カールフィッシャー法により測定した水分含有量は、6.0%であった。そして、この実施例11の有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、3カ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0107】
実施例12
3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンの添加量を2.4gから4.4gに変更した以外は、実施例2と同じ操作を行って、実施例12の有機溶剤系導電性高分子分散液を得た。
【0108】
この実施例12において、導電性高分子に対するアミンの添加比率は、モル比で、1:2.2であった。この実施例12の有機溶剤系導電性高分子分散液の105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、1.2%であり、カールフィッシャー法により測定した水分含有量は、6.0%であった。そして、この実施例12の有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、3カ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0109】
実施例13
実施例2で用いたメチルエチルケトンに代えて、ノルマルブタノールを用いた以外は、実施例2と同様な操作を行って、実施例13の有機溶剤系導電性高分子分散液を得た。
【0110】
この実施例13における導電性高分子に対するアミンの添加比率は、実施例2と同様に、モル比で1:1.2であった。この実施例13の105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、0.9%であり、カールフィッシャー法により測定した水分含有量は、9.1%であった。この実施例13の有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件が、3カ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0111】
実施例14
実施例2で用いた3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンに代えて、デシルジメチルアミンオキサイド(分子量229)〔一般式(2)において、Rで表されるアルキル基の炭素数は10であり、Rで表されるアルキル基の炭素数は1であり、Rで表されるアルキル基の炭素数は1である〕を用いた以外は、実施例2と同じ操作を行って、実施例14の有機溶剤系導電性高分子分散液を得た。
【0112】
この実施例14において、導電性高分子に対するアミンオキサイドの添加比率は、モル比で、1:1であった。この実施例14の有機溶剤系導電性高分子分散液の105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、0.9%であり、カールフィッシャー法により測定した水分含有量は、8.4%であった。そして、この実施例14の有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、3カ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0113】
実施例15
実施例1において、メチルエチルケトン120gに3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンを2.4g添加し、撹拌して混合し、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンのメチルエチルケトン溶液を調製し、その溶液を導電性高分子の水系分散液100gに撹拌しながら添加したことに代えて、メチルエチルケトン120gを導電性高分子の水系分散液100gに添加した後、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンを2.4g添加し、撹拌する操作を行った以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例15の有機溶剤系導電性高分子分散液を得た。
【0114】
この実施例15において、導電性高分子に対する非水溶性アミンの添加比率は、実施例1と同様に、モル比で1:1.2であった。この実施例15の有機溶剤系導電性高分子分散液の105℃の乾燥条件で測定した乾燥固形分は1.1%であり、カールフィッシャー法により測定した水分含有量は、7.1%であった。そして、この実施例15の有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、3ヵ月放置しても、凝集が見られず、安定していた。
【0115】
実施例16
実施例2において、メチルエチルケトン120gに3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンを2.4g添加し、撹拌して混合し、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンのメチルエチルケトン溶液を調製し、その溶液を導電性高分子の水系分散液100gに撹拌しながら添加したことに代えて、メチルエチルケトン120gを導電性高分子の水系分散液100gに添加した後、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンを2.4g添加し、撹拌する操作を行った以外は、実施例2と同様の操作を行って、実施例16の有機溶剤系導電性高分子分散液を得た。
【0116】
この実施例16において、導電性高分子に対する非水溶性アミンの添加比率は、実施例2と同様に、モル比で1:1.2であった。この実施例16の有機溶剤系導電性高分子分散液の105℃の乾燥条件で測定した乾燥固形分は1.1%であり、カールフィッシャー法により測定した水分含有量は、6.9%であった。そして、この実施例16の有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、3ヵ月放置しても、凝集が見られず、安定していた。
【0117】
比較例1
実施例1で用いた3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンに代えて、n−ヘプチルアミン(分子量115、アルキル基の炭素数:7)2.0gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行ったが、導電性高分子が抽出溶剤のメチルエチルケトン側に移行しなかった。なお、この比較例1における導電性高分子に対する非水溶性アミンの添加比率は、モル比で1:1.6であった。
【0118】
比較例2
実施例2で用いた3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンに代えて、n−ヘプチルアミン(分子量115、アルキル基の炭素数:7)2.0gを用いた以外は、実施例2と同様の操作を行ったが、導電性高分子が抽出溶剤のメチルエチルケトン側に移行しなかった。なお、この比較例2における導電性高分子に対する非水溶性アミンの添加比率は、モル比で1:1.9であった。
【0119】
比較例3
実施例1で用いた3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンに代えて、ジプロピルアミン(分子量101、アルキル基の炭素数:6)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行ったが、導電性高分子が抽出溶剤のメチルエチルケトン側に移行しなかった。なお、この比較例3における導電性高分子に対する非水溶性アミンの添加比率は、モル比で1:1.9であった。
【0120】
比較例4
実施例2で用いた3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンに代えて、ジプロピルアミン(分子量101、アルキル基の炭素数:6)を用いた以外は、実施例2と同様の操作を行ったが、導電性高分子が抽出溶剤のメチルエチルケトン側に移行しなかった。なお、この比較例4における導電性高分子に対する非水溶性アミンの添加比率は、モル比で1:1.9であった。
【0121】
〔帯電防止フィルムとしての評価〕
実施例17〜32
前記実施例1〜16で調製した有機溶剤系導電性高分子分散液のそれぞれ15gに対し、バインダ樹脂としてアクリディックA801(DIC社製)を1.5gとジメチルスルホキシド1gを添加し、撹拌混合したところ、添加したバインダーが凝集することなく有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液が得られた。その有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を基材シートとしての10cm×20cmのポリエチレンシートの上に400μL滴下し、No.12のバーコーターで均一にした後、150℃で2分間乾燥して、実施例1〜16の有機溶剤系導電性高分子分散液のそれぞれに基づく実施例17〜32の帯電防止フィルムを作製した。
【0122】
比較例5
ポリスチレンスルホン酸をドーパントとする導電性高分子の水系分散液を得るところまでは、実施例1と同様の操作を行った。
【0123】
この水系導電性高分子分散体溶液15gに対し、バインダ樹脂としてアクリディックA801(前出)を1.5gとジメチルスルホキシド1gを添加し、撹拌混合したところ、混合直後にバインダ樹脂のアクリディックA801の凝集が生じ、均一な有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を得ることができず、その結果、帯電防止フィルムの作製ができなかった。
【0124】
得られた実施例17〜32の帯電防止フィルムの表面抵抗を室温(約25℃)下でJIS K 7194に準じて4探針方式の電導度測定器〔三菱化学社製MCP−T600(商品名)〕により測定し、また、全光透過率をスガ試験機株式会社製ダブルビーム方式ヘーズコンピューターHZ−2と用いて測定した。その結果を使用した有機溶剤系導電性高分子分散液の種類ともに表1に示す。なお、測定は、各試料とも、5点ずつについて行い、表1に示す数値はその5点の平均値を求め、小数点以下を四捨五入して示したものである。また、表1ではスペースの関係で使用した有機溶剤系導電性高分子分散液を簡略化して「使用した分散液」と表示する。
【0125】
【表1】

【0126】
表1に示すように、実施例17〜32の帯電防止フィルムは、タッチパネル用途などの透明導電性フィルムに要求される表面抵抗が1,000Ω以下で、全光透過率が90%以上という要求特性を満たしていて、実用性を有していることが明らかであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)チオフェンまたはその誘導体を、ドーパントとなる高分子スルホン酸の存在下で水中または水と水混和性溶剤との混合物からなる水性液中で酸化重合して導電性高分子を合成することにより導電性高分子の水系分散液を得る工程と、
(2)上記導電性高分子の水系分散液に、炭素数が11〜30の非水溶性アミンもしくは炭素数が12〜42のアミンオキサイドを非水混和性の有機溶剤に溶解させて調製した溶液を添加して混合するか、または、上記導電性高分子の水系分散液に、非水混和性の有機溶剤を添加し、次いで炭素数が11〜30の非水溶性アミンもしくは炭素数が12〜42のアミンオキサイドを添加して混合することにより、上記導電性高分子を水系相から非水混和性の有機溶剤相へ移行させる工程と、
(3)導電性高分子を含有する非水混和性の有機溶剤液を回収する工程と、
を経由して製造することを特徴とする、水分含有量が20質量%以下の有機溶剤系導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項2】
非水溶性アミンが、次の一般式(1)で表される非水溶性アミンであることを特徴とする請求項1記載の有機溶剤系導電性高分子分散液の製造方法。
R−NH (1)
(式中、Rは炭素数が11〜30のアルキル基または炭素数が11〜30のアルコキシアルキル基であり、上記アルキル基またはアルコキシアルキル基は、直鎖状のものであってもよく、また、分岐鎖のものであってもよい)
【請求項3】
一般式(1)で表される非水溶性アミンが、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、ドデシルオキシプロピルアミン、ミリスチルアミンおよびステアリルアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項2記載の有機溶剤系導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項4】
アミンオキサイドが、次の一般式(2)で表されるアミンオキサイドであることを特徴とする請求項1記載の有機溶剤系導電性高分子分散液の製造方法。
【化1】

(式中、Rは炭素数が10〜30のアルキル基であり、RとRは、炭素数が1〜6のアルキル基であって、上記RとRは同一でもよく、また、異なっていてもよい。そして、それらのアルキル基は、いずれも、直鎖状のものであってもよく、また、分岐鎖状のものであってもよい)
【請求項5】
一般式(2)で表されるアミンオキサイドが、デシルジメチルアミンオキサイドである請求項4記載の有機溶剤系導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項6】
非水混和性の有機溶剤が、メチルエチルケトンおよびノルマルブタノールよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の有機溶剤系導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項7】
非水溶性アミンもしくはアミンオキサイドの添加量が、導電性高分子に対して、モル比で、1:0.2〜10(ただし、導電性高分子のモル値は、導電性高分子の水系分散液の105℃での乾燥重量をチオフェンまたはその誘導体の分子量で割った値と規定する)であることを特徴とする請求項1記載の有機溶剤系導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項8】
ドーパントとなる高分子スルホン酸が、ポリスチレンスルホン酸であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の有機溶剤系導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項9】
ドーパントとなる高分子スルホン酸が、スチレンスルホン酸とアクリル酸エステルとの共重合体であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の有機溶剤系導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項10】
ドーパントとなる高分子スルホン酸が、ポリスチレンスルホン酸と、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂およびスチレンスルホン酸とアクリル酸エステルとの共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種との混合物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の非水溶剤系導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項11】
導電性高分子の水系分散液が、ポリスチレンスルホン酸をドーパントとする導電性高分子の水系分散液と、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂およびスチレンスルホン酸とアクリル酸エステルとの共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種をドーパントとする導電性高分子の水系分散液との混合物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の有機溶剤系導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法で製造されたことを特徴とする有機溶剤系導電性高分子分散液。
【請求項13】
請求項12記載の有機溶剤系導電性高分子分散液に、沸点が150℃以上の高沸点溶剤を添加したことを特徴とする有機溶剤系導電性高分子分散液。
【請求項14】
請求項12または13記載の有機溶剤系導電性高分子分散液を乾燥して得られたことを特徴とする導電性高分子。
【請求項15】
請求項12または13記載の有機溶剤系導電性高分子分散液にバインダ用樹脂を添加したことを特徴とする有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液。
【請求項16】
請求項16記載の有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を乾燥して得られたことを特徴とする導電性高分子含有樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−252055(P2011−252055A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125670(P2010−125670)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【特許番号】特許第4573363号(P4573363)
【特許公報発行日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】