説明

有機溶媒系バインダー組成物、電極、および電池

【課題】 初期容量が大きく、充放電を繰り返しても炭素質活物質が電極から剥離しにくく、活物質を多量が電極に固定した電池を製造できるバインダーを得る。
【解決手段】 炭素と水素以外の元素を含有しない芳香族ビニル系単量体(例えば、スチレンなど)25〜60重量%、炭素と水素以外の元素を含有しない共役ジエン系単量体(例えば、ブタジエンなど)15〜50重量%、エチレン性不飽和カルボン酸エステル0〜40重量%(例えば、メタクリル酸メチルなど)、および不飽和カルボン酸系単量体(例えば、イタコン酸など)0〜40重量%、かつエチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体と不飽和カルボン酸系単量体の合計量が15〜40重量%の単量体を共重合したラテックス粒子と極性有機溶媒(好ましくは、N−メチルピロリドン)からなる有機溶媒系バインダー組成物に活物質を分散させ、電極基体に塗布し、乾燥させて、活物質層を形成した電極を用いて電池を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用バインダー組成物に関し、さらに詳しくは、活物質を多量に用いることができ、電池の初期容量を大きくでき、充放電を繰り返しても活物質が脱落し難いため、電池の容量低下が小さい電池用有機溶媒系バインダー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電池用バインダーは、電極に活物質を固定するのに用いられる。電池の容量は、活物質の種類、量、電解液の種類、量などの複数の要因によって決められるが、バインダーが充分量の活物質を電極に固定できないと初期容量の大きな電池が得られず、また、充放電を繰り返すことなどによって電極から活物質が脱落するに従って電池の容量は低下する。
【0003】
電池用バインダーは、通常、バインダーを溶媒に溶解したバインダー組成物に活物質を分散させて、電極に塗布し、溶媒を揮発させ、バインダー構造中に活物質が固定された状態にすることにより、電極表面に活物質を固定する。
【0004】
バインダー組成物には、有機溶媒系バインダー組成物と水系バインダー組成物の二種類がある。有機溶媒系バインダー組成物としては、通常、ポリビニリデンフルオライドをN−メチルピロリドンに溶解したものが用いられいる(例えば、特開平4−249860号公報など)。この有機溶媒系バインダー組成物にに活物質を分散させたスラリーを電極基体に塗布して、N−メチルピロリドンを除去して製造した電極を用いると電池の初期容量を大きくすることができるが、この電極を用いた電池で充放電を繰り返すと電極に固定された活物質が脱落しやすいという問題がある。
【0005】
一方、水系バインダー組成物としては、通常、SBRラテックス(スチレン、ブタジエンを共重合したゴムのラテックス)の水分散液に増粘剤としてカルボキシルメチルセルロースなどを添加したものが用いられており(例えば、特開平5−21068号公報、特開平5−74461号公報など)、これを用いて電極に活物質を固定した電池では充放電を繰り返しても活物質が脱落しにくいが、十分量の増粘剤を使用するとそれだけ活物質の割合が減り、固定される活物質の量が経る。また、多くの電池に用いられている炭素質活物質では、水と炭素が接触するために、炭素表面に水酸基が多く結合し、その影響で初期容量が低下するという問題があった。
【0006】
また、スチレンとブタジエンからなるSBRラテックスは、水分散系で製造されるが、水分を除去した後はゲル化してしまい、非極性有機溶媒では膨潤するが分散せず、極性有機溶媒では固体のままで分散しなかいため、有機溶媒系バインダー組成物には用いられなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、初期容量が大きく、充放電を繰り返しても炭素質活物質が電極から剥離しにくく、活物質を多量が電極に固定した電池を製造できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意努力の結果、特定のSBR系ラテックスが有機溶媒に分散でき、また、バインダーとして活物質を十分強固に電極基体に固定できることを見い出し、本発明を完成させるに至った。かくして、本発明によれば、芳香族ビニル系単量体25〜60重量%、共役ジエン系単量体15〜50重量%、エチレン性不飽和カルボン酸エステル0〜40重量%、および不飽和カルボン酸系単量体0〜40重量%、かつエチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体と不飽和カルボン酸系単量体の合計量が15〜40重量%の単量体を共重合したラテックス粒子と極性有機溶媒からなる有機溶媒系バインダー組成物、該バインダー組成物と活物質を混合し電極基体表面に塗布し有機溶媒を除去した電極、および電極が該電極である電池が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のバインダー組成物を用いた場合、電池の初期容量を大きくでき、充放電を繰り返しても活物質が脱落し難いため、電池の容量低下が小さい電池が製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(SBR系ラテックス)本発明に用いるSBR系ラテックスは、芳香族ビニル系単量体25〜60重量%、共役ジエン系単量体15〜50重量%、エチレン性不飽和カルボン酸エステル0〜40重量%、および不飽和カルボン酸系単量体0〜40重量%、かつエチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体と不飽和カルボン酸系単量体の合計量が15〜40重量%の単量体を共重合したものである。
【0011】
本発明に用いる芳香族ビニル系単量体は、炭素、水素以外の元素を含有していないものであり、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレンなどが例示される。炭素、水素以外の元素を含有している場合は重合が阻害されたり、電池の充放電の機能を阻害したりする。共重合させる全単量体中の割合は、25重量%以上、好ましくは30重量%以上、かつ60重量%以下、好ましくは55重量%以下である。芳香族ビニル系単量体の共重合割合が小さすぎるとSBR系ラテックスの強度が不足し、活物質が脱落しやすくなり、大きすぎるとSBR系ラテックスの柔軟性が低下するため、充放電の際の電極表面の体積変化などによって活物質が脱落しやすくなる。
【0012】
本発明に用いる共役ジエン系単量体は、炭素、水素以外の元素を含有していないものであり、ブタジエン、ピペリレンなどが例示される。炭素、水素以外の元素を含有していると、通常共役しておらず、またクロロプレンのように共役している場合には電池の充放電の機能を阻害することがある。また、α位の炭素に水素が結合していないものを用いたSBR系ラテックスをバインダーとすると、電解液と反応して分解することがあり、バインダーとしての機能が低下し、また、電池としての機能も阻害することがあるので、α位の炭素に水素が結合したものを用いることが好ましい。共重合させる全単量体中の割合は、15重量%以上、好ましくは25重量%以上、かつ50重量%以下、好ましくは45重量%以下である。共役ジエン系単量体の共重合割合が小さすぎるとSBR系ラテックスの柔軟性が不足し、活物質が脱落しやすくなり、大きすぎるとSBR系ラテックスの強度が低下するため、やはり活物質が脱落しやすくなる。
【0013】
本発明に用いるエチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、クロトン酸エチル、イソクロトン酸エチル、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレートなどが例示され、共重合させる全単量体中の割合は、0重量%以上、40重量%以下、好ましくは30重量%以下である。エチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体の共重合割合が大きすぎるとSBR系ラテックスの柔軟性が低下するため、活物質が脱落しやすくなる。
【0014】
本発明に使用する不飽和カルボン酸系単量体としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸系単量体; アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸系単量体;などが例示され、SBR系ラテックスの強度、柔軟性の点から不飽和ジカルボン酸系単量体が好ましい。共重合させる全単量体中の割合は、0重量%以上、かつ40重量%以下、好ましくは35重量%以下である。やはり、不飽和カルボン酸も共重合割合が小さすぎるとSBR系ラテックスの柔軟性が不足し、活物質が脱落しやすくなる。
【0015】
また、アクリロニトリルなどのニトリル基を有するものを全単量体中好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上用いると、後述のように最も広く使用されている極性有機溶媒であるN−メチルピロリドンにSBR系ラテックスが分散させやすくなる。なお、アクリロニトリルは好ましくは30重量%以下用いる。アクリロニトリルが多すぎるとSBR系ラテックスの柔軟性が低下するため、活物質が脱落しやすくなる場合がある。
【0016】
また、エチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体と不飽和カルボン酸系単量体の合計量、アクリロニトリルを用いる場合は、エチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体、不飽和カルボン酸系単量体及びアクリロニトリルの合計量が15重量%以上、好ましくは20重量%以上、40重量%以下、好ましくは35重量%以下である。この合計量が大きすぎるとSBR系ラテックスの柔軟性が不足し、活物質が脱落しやすくなり、小さすぎるとSBR系ラテックスが有機溶媒中に分散しにくく、電極基体に塗布し難く、活物質も脱落しやすく、使用に適さない。
【0017】
本発明においてはSBR系ラテックスの合成方法は特に限定されず、通常は乳化重合法により重合され、その粒径も特に限定されず、平均で、好ましくは0.01μm以上、かつ好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.3μm以下である。小さすぎるとバインダーとして性能が低下し、大きすぎると活物質層の表面に不活性な部分が多くなり電池の性能が低下する。
【0018】
また、SBR系ラテックスは、ゲル含量が好ましくは75重量%以上、より好ましくは80重量%以上、かつ100重量%以下のものである。ここでゲル含量はトルエンに対する不溶分をいう。ゲル含量が少なすぎると電極基体に固定しにくくなり、電解液に膨潤しやすくなる。
【0019】
(極性有機溶媒)本発明に用いる極性有機溶媒は、炭素、水素以外の元素を含有する有機溶媒であって、活物質の機能を低下させにくいことから、活性水素を有していないものが好ましく、具体的には、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、アセチルピリジン、シクロペンタノン、ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルフォキシド、メチルフォルムアミド、メチルエチルケトン、フルフラール、エチレンジアミンなどが例示される。これらの中でも、バインダー組成物用の溶媒として、SBR系ラテックスの分散性、取扱いやすさ、安全性、合成の容易さなどのバランスから、N−メチルピロリドンが最も好ましい。
【0020】
(バインダー組成物)本発明のバインダー組成物は、SBR系ラテックスを極性有機溶媒に分散させたものであって、SBR系ラテックスの濃度が10重量%以上、好ましくは20重量%以上、かつ60重量%以下、好ましくは50重量%以下のものである。SBR系ラテックス濃度が小さすぎると塗布しやすい濃度に調整しにくく、大きすぎると粘度が高くなりすぎ、SBR系ラテックスが凝集しやすくなる。
【0021】
なお、SBR系ラテックスは、通常水系溶媒中で製造する。そのため、水系溶媒を除去する必要がある。用いる極性有機溶媒の沸点が水よりも高いものであれば、極性有機溶媒を加えてエバポレーターなどを用いて水を蒸発させて除去すればよい。用いる極性有機溶媒の沸点が水より低い場合は、例えば、極性有機溶媒を加えて水と共沸させてエバポレーターなどによりある程度水の量を減らした後にモレキュラーシーブなど吸水剤を用いたり、逆浸透膜を用いて水分を除去すればよい。
【0022】
(電極)本発明の電極は、本発明のバインダー組成物に活物質を配合してスラリーを調製し、電極基体に塗布し、溶媒を除去して、電極基体表面に形成された活物質層のマトリックス中に活物質を固定したものである。
【0023】
本発明で用いる活物質は、活物質として機能する限り特に限定されず、通常は、負極活物質として炭素を用い、正極活物質としてモリブデン、バナジウム、チタン、ニオブなどの酸化物、硫化物、セリン化物などのほか、リチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウム鉄酸化物などのリチウム含有複合酸化物などが用いられる。
【0024】
本発明に用いるスラリーの活物質量も特に限定されないが、SBR系ラテックス量に対して、重量基準で好ましくは10倍以上、より好ましくは15倍以上、かつ1000倍以下、より好ましくは100倍以下になるようバインダー組成物に活物質を配合したものである。活物質量が少なすぎると活物質層表面に不活性な部分が多くなり、電極としての機能が不十分となることがあり、活物質量が多すぎると活物質が電極基体に十分に固定されずに脱落しやすくなる。なお、スラリーは、溶媒を追加して、塗布しやすい濃度にして使用する。
【0025】
本発明に用いる電極基体は導電性材料からなるものであれば特に限定されないが、一般には鉄、銅、アルミニウムなどの金属製のものを用いる。形状も特に限定されないが、電極表面積が大きいものが好ましいことから、通常、厚さ0.05〜0.5mm程度のシートを用いる。
【0026】
塗布する方法は特に限定されない。例えば、浸漬、ハケ塗りなどによって塗布される。塗布する量は、有機溶媒を除去した後に形成される活物質層の厚さが好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.5mm以上、好ましくは5mm以下、より好ましくは2mm以下になるようにする。有機溶媒を除去する方法も特に限定されないが、通常は、応力集中が起こって活物質層に亀裂がはいったり、電極基体から剥離したりしない程度の速度範囲で、できるだけ早く有機溶媒が揮発するように、減圧の程度、加熱の程度を調整して有機溶媒を除去する。
【0027】
(電池)本発明の電池は電極として本発明の電極を用いたものである。大型の電池の場合には、電極をテープ状のものとし、負電極と正電極の間にセパレーター・シートを挟みこんで巻回し、電解液に満たしたケース中に浸漬するなどの方法で、また小型電池の場合には、電極を円状のシートにして電解液を満たしたコイン型ケース中に浸漬するなどの方法で電池として使用しやすく、かつ大きな容量のものが得られるようにすることができる。
【0028】
電解液も特に限定されず、負極活物質、正極活物質の種類に応じて、電池としての機能を発揮するものを選択すればよい。例えば、電解質として、LiClO、LiBF、CFSOLi、LiI、LiAlCl、LiPF、NaClO、NaBF、NaI、(n−Bu)NClOなどが例示され、溶媒として、エーテル類、ケトン類、ラクトン類、ニトリル類、アミン類、アミド類、硫黄化合物類、塩素化炭化水素類、エステル類、カーボネート類、ニトロ化合物類、リン酸エステル系化合物類、スルホラン系化合物類などが例示され、一般には、エチレンカーボネートやジエチルカーボネートなどが広く使用されている。
【0029】
(態様)本発明の態様としては、(1)芳香族ビニル系単量体25〜60重量%、共役ジエン系単量体15〜50重量%、エチレン性不飽和カルボン酸エステル0〜40重量%、および不飽和カルボン酸系単量体0〜40重量%、かつエチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体と不飽和カルボン酸系単量体の合計量が15〜40重量%の単量体を共重合したラテックス粒子と極性有機溶媒からなる有機溶媒系バインダー組成物、(2)芳香族ビニル系単量体が、炭素、水素以外の元素を含有していないものである(1)記載の組成物、(3)共役ジエン系単量体が、炭素、水素以外の元素を含有していないものである(1)〜(2)記載の組成物、(4)共役ジエン系単量体が、α位の炭素に水素が結合したものである(1)〜(3)記載の組成物、(5)エチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体量が全単量体中5〜40重量%共重合させ、その内のニトリル基を有するもの全単量体に対して5〜40重量%である(1)〜(4)記載の組成物、(6)不飽和カルボン酸系単量体が不飽和ジカルボン酸系単量体である(1)〜(5)記載の組成物、(7)芳香族ビニル系単量体25〜60重量%、共役ジエン系単量体15〜50重量%、エチレン性不飽和カルボン酸エステル0〜40重量%、不飽和カルボン酸系単量体0〜40重量%、およびアクリロニトリル5〜30重量%、かつエチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体、不飽和カルボン酸系単量体、アクリロニトリルの合計量が15〜40重量%の単量体を共重合したラテックス粒子と極性有機溶媒からなる有機溶媒系バインダー組成物、さらに、アクリロニトリルを5〜30重量%共重合し、(8)SBR系ラテックスが平均粒径0.01〜0.5μmのものである(1)〜(7)記載の組成物、(9)SBR系ラテックスがゲル含量が75〜100重量%のものである(1)〜(8)記載の組成物、(10)極性有機溶媒が炭素、水素以外の元素を含有する有機溶媒である(1)〜(9)記載の組成物、(11)極性有機溶媒が活性水素を有していないものである(1)〜(10)記載の組成物、(12)極性有機溶媒がアセトニトリル、N−メチルピロリドン、アセチルピリジン、シクロペンタノン、ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルフォキシド、メチルフォルムアミド、メチルエチルケトン、フルフラール、およびエチレンジアミンから選ばれたものである(1)〜(11)記載の組成物、(13)極性有機溶媒がN−メチルピロリドンである(1)〜(12)記載の組成物、(14)(1)〜(13)記載の組成物に、該組成物中のSBR系ラテックス量に対して、重量基準で10〜1000倍活物質を添加したスラリー、(15)さらに極性有機溶媒を追加した(14)記載のスラリー、(16)(14)〜(15)記載のスラリーを、電極基体表面に塗布し、極性有機溶媒を除去して活物質層を形成した電極、(17)電極基体が金属製のものである(16)記載の電極、(18)電極基体が厚さ0.05〜0.5mmのシートである(17)記載に電極、(19)活物質層が厚さ0.05〜2mmのものである(18)記載の電極、(20)電極が(16)〜(19)記載のものである電池、などが挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例、および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0031】
実施例1
攪拌機付きの3リットルのオートクレーブに、水1リットル、スチレン800g、ブタジエン600g、メタクリル酸メチル400g、アクリロニトリル100g、ラウリル硫酸アンモニウム4g、重炭酸ナトリウム10gを入れてモノマーエマルジョンを調製した。
【0032】
攪拌機付きの10リットルのオートクレーブに、水3.4リットル、エチレンジアミン四酢酸10g、ラウリル硫酸アンモニウム10g、過硫酸カリウム20gを入れ、モノマーエマルジョンの10容量%を加え、80℃に加熱し、攪拌しながら1時間反応させた。ついで、過硫酸カリウム80gをミス200mlと共に加え、80℃を維持し、攪拌したまま、残りのモノマーエマルジョン全量を4時間に渡って連続的に加えた。モノマーエマルジョンを全て加えた後、80℃を維持し、攪拌したまま、さらに4時間反応させた。なお、収率は99%で、得られたSBR系ラテックス粒子の平均粒径は0.14μmあった。
【0033】
残留モノマーを水蒸気蒸留によって除去し、水酸化リチウムでpHを7に調整し、得られたラテックスの重量の3倍の量のN−メチルピロリドンを加え、エバポレーターで水分を蒸発させ、固形分濃度37重量%の本発明のバインダー組成物を得た。
【0034】
負極活物質(ロンザ製、KS−23、カーボン)をこのバインダー組成物に重量基準でバインダー組成物中のSBR系ラテックス量の20倍加え、さらにN−メチルピロリドンを加え、25℃の粘度が約3000cpsのスラリーを調製した。このスラリーを厚さ0.1mmの銅箔の片面に塗布し、120℃で3時間放置して乾燥し、厚さ0.4mmの活物質層を形成した。
【0035】
また、正極活物質LiCoO90重量部とアセチレンブラック10重量部の混合物を、重量基準でバインダー組成物中のSBR系ラテックス量の20倍をバインダー組成物に加えて、さらにN−メチルピロリドンを加え、25℃での粘度が約2000cpsのスラリーを調製した。このスラリーを厚さ0.2mmのアルミ箔の片面に塗布し、120で3時間放置して乾燥し、厚さ0.4mmの活物質層を形成した。
【0036】
活物質層を形成した銅箔とアルミ箔を直径15mmの円形に切り抜き、直径16mm、厚さ50μm(0.5mm)の円形のポリプロピレン製微多孔膜(繊維不織布)からなるセパレーターを介在させて、互いに活物質層を対向させて、ポリプロピレン製パッキンを配置したステンレス鋼製の外装容器中(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.2mm)に収納した。容器中に、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを容積比で1:1に混合した溶媒に電解質を1mol/リットルの濃度に溶解した電解液を空気が残らないように注入して、厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて、プリプロピレン製パッキンを介して外装容器とキャップを固定し、それぞれキャップに銅箔が、容器低面にアルミ箔が接触するように内容物を封止して、直径20mm、厚さ2.0mmのコイン型電池を製造した。
【0037】
この電池に、定電流法(電流密度:0.1mA/cm)で4.2Vに充電し、3.2Vまで放電する充放電を行い、容量の変化を測定した。1回目の充電での容量は19.6mAh(100%)であり、50回目の充電では17.8mAh(約91%に低下)、200回目の充電では17.5mAh(約89%に低下)であった。
【0038】
実施例2
スチレンを1000g、ブタジエンを500g、メタクリル酸メチルを300g、アクリロニトリルを100gに変え、イタコン酸を加えない以外は実施例1と同様にして、収率99%で、平均粒径15μmのSBR系ラテックス粒子を得、さらに同様にして固形分濃度40重量%の本発明のバインダー組成物を得た。
【0039】
このバインダー組成物を用いる以外は実施例1と同様に電池を製造し、充放電を行ったところ、1回目の充電での容量は19.0mAhであり、50回目の充電では17.2mAh(約91%に低下)、200回目の充電では16.8mAh(約88%に低下)であった。
【0040】
実施例3
スチレンを700g、ブタジエンを400g、メタクリル酸メチルを400g、アクリロニトリルを200g、イタコン酸を200gに変え、さらにフマル酸を10g加える以外は実施例1と同様にして、収率99%で、平均粒径14μmのSBR系ラテックス粒子を得、さらに同様にして固形分濃度42重量%の本発明のバインダー組成物を得た。
【0041】
このバインダー組成物を用いる以外は実施例1と同様に電池を製造し、充放電を行ったところ、1回目の充電での容量は18.6mAhであり、50回目の充電では17.4mAh(約94%に低下)、200回目の充電では17.0mAh(約91%に低下)であった。
【0042】
比較例1
N−メチルピロリドンを加えず、エバポレータで水分を蒸発させない以外は実施例1と同様にして固形分濃度45重量%の水系バインダー組成物を得た。
【0043】
負極活物質(ロンザ製、KS−23)をこのバインダー組成物に重量基準でバインダー組成物中のSBR系ラテックス量の20倍加え、粘度が約800cpsのスラリーを調製した。このスラリーを厚さ0.1mmの銅箔の片面に塗布し、110℃で3時間放置して乾燥し、厚さ0.4mmの活物質層を形成した。
【0044】
また、正極活物質LiCoO90重量部とアセチレンブラック10重量部の混合物を、実施例1のバインダー組成物に重量基準でバインダー組成物中のSBR系ラテックス量の20倍加え、さらに水を加え、粘度が約400cpsのスラリーを調製した。このスラリーを厚さ0.2μmのアルミ箔の片面に塗布し、110℃で3時間放置して乾燥し、厚さ0.4μmの活物質層を形成した。
【0045】
このスラリーを用いる以外は実施例1と同様に電池を製造し、充放電を行ったところ、1回目の充電での容量は17.4mAhであり、50回目の充電では15.9mAh(約91%に低下)、200回目の充電では14.8mAh(約85%に低下)であった。
【0046】
比較例2
スチレンを200g、ブタジエンを200g、メタクリル酸メチルを600g、アクリロニトリルを150gに変え、イタコン酸を加えない以外は実施例1と同様にして、収率99%で、平均粒径0.18μmのSBR系ラテックス粒子を得、さらに同様にして固形分濃度52重量%の本発明のバインダー組成物を得た。
【0047】
このバインダー組成物を用いる以外は実施例1と同様に、25℃での粘度が約2000cpsのスラリーを調製して電池を製造し、充放電を行ったところ、1回目の充電での容量は17.6mAhであったが、50回目の充電では3.2mAh(約18%に低下)であった。
【0048】
比較例3
スチレンを800g、ブタジエンを600g、メタクリル酸メチルを20gに変え、アクリロニトリル、イタコン酸を加えない以外は、実施例1と同様にして、収率99%で、平均粒径0.12μmのSBR系ラテックス粒子を得、残留モノモーを水蒸気蒸留によって除去し、水酸化リチウムでpHを7に調整し、得られたラテックスの重量の3倍の量のN−メチルピロリドンを加え、エバポレーターで水分を蒸発させたところ凝集した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル系単量体25〜60重量%、共役ジエン系単量体15〜50重量%、エチレン性不飽和カルボン酸エステル0〜40重量%、および不飽和カルボン酸系単量体0〜40重量%、かつエチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体と不飽和カルボン酸系単量体の合計量が15〜40重量%の単量体を共重合したラテックス粒子と極性有機溶媒からなる有機溶媒系バインダー組成物。
【請求項2】
請求項1記載のバインダー組成物と活物質を混合し、電極基体表面に塗布し、極性有機溶媒を除去した電極。
【請求項3】
電極が請求項2記載のものである電池。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル系単量体25〜60重量%、共役ジエン系単量体15〜50重量%、エチレン性不飽和カルボン酸エステル0〜40重量%、および不飽和カルボン酸系単量体0〜40重量%、かつエチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体と不飽和カルボン酸系単量体の合計量が15〜40重量%の単量体を共重合したラテックス粒子極性有機溶媒に分散してなる有機溶媒系バインダー組成物。
【請求項2】
前記ラテックス粒子が、さらにニトリル基を有する単量体を全単量体中5〜30重量%共重合したものである、請求項1記載の有機溶媒系バインダー組成物。
【請求項3】
前記ラテックス粒子を水系溶媒中で製造し、次いで極性有機溶媒を加え、水を蒸発させて除去する請求項1または2記載の有機溶媒系バインダー組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−66400(P2006−66400A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246826(P2005−246826)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【分割の表示】特願平7−270621の分割
【原出願日】平成7年9月25日(1995.9.25)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】