説明

有機無機複合粉末の処理方法

【課題】 重合収縮が少なく良好な流動特性を得る事が可能な有機無機複合粉末を提供する。
【解決手段】 硬化させると架橋型の重合体を与える重合性単量体組成物と無機粒子とを混合、硬化、粉砕して得た有機無機複合粉末を、繰り返し運動を行う第一部材と、該第一部材と異なる運動を行うか或いは運動しない第二部材とを備える処理空間を有する粉体処理装置に投入し、該第一部材を線速度20m/秒以上、かつ繰り返し頻度が毎秒10回以上となるように運動させ、有機無機複合粉末を処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機複合粉末の処理方法、詳しくは、重合収縮が小さく操作性に優れた歯科用複合材料を製造するのに好適な、有機無機複合粉末の機械的処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機無機複合粉末は、有機粉体や無機粉体単独では達成する事が困難な特性をもたらす機能性フィラーとして化粧料、皮膚外用剤、医科材料、歯科材料等に使用されている。
【0003】
歯科材料に用いられる有機無機複合粉末の例としては、歯牙欠損の修復材料であるコンポジットレジンへの適用が一般的に知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。このような有機無機複合粉末をフィラーとして使用することにより、微細無機フィラーを用いたときの特徴である優れた表面滑沢性や対合歯非摩損性を実現しながら、ある程度重合収縮を低減し、良好な操作性を得る事が可能となっている。
【0004】
このような有機無機複合粉末は、通常、シリカや、シリカジルコニア、シリカチタニアといった酸化物粒子等からなる無機粉体と、少なくとも一種の重合性官能基を2つ以上有する重合性単量体を含む、架橋型の重合性単量体組成物とを混合し、これを重合・硬化させたバルク体を得た後、平均粒径が数μm〜200μm程度の大きさになるまで粉砕することによって製造される。このようにして製造された有機無機複合粉末は、さらにマトリックスモノマーへの分散性を向上させるために、シランカップリング剤で処理されることが多い。
【0005】
しかしながら、近年、歯科用コンポジットレジンを含むレジン系材料においては、更なる重合収縮の低減が要求されてきている。重合収縮を低減するためには、より多量のフィラーを配合すればよい。しかしながら、フィラー配合量を増加させると、得られる複合材料ペーストの流動性は低下してゆくため、あまりに多量に配合すると操作性などに問題を生じ、よって単純に配合量を増やすだけでは限界がある。前記シランカップリング剤処理により、流動特性は改善されるが、未だ改良の余地があった。
【0006】
歯科用コンポジットレジンの中でも近年重要が増しているフロアブル型のコンポジットレジンは、良好な流動特性を得るために通常のコンポジットレジンよりも多くのマトリックスモノマーを添加する(フィラー配合量を少なくする)必要があり、重合収縮はより大きな問題である。
【0007】
【特許文献1】特開昭54−107187号公報
【特許文献2】特開昭61−241303号公報
【特許文献3】特開平10−114616号公報
【特許文献4】特開2002−255722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、歯科用複合材料用のフィラー(充填材)とした場合に、重合収縮が少なく、かつ操作性に優れる良好な流動特性を有する歯科用複合材料を得る事が可能な有機無機複合粉末を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、特定の機械的処理を経ることによって、重合収縮が小さく良好な流動特性を有する有機無機複合粉末を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、(1)硬化させると架橋型の重合体を与える重合性単量体組成物と無機粒子とを混合させた後に硬化させて有機無機複合体のバルク体を得る工程、(2)有機無機複合体のバルク体を粉砕して、有機無機複合粉末を得る工程、(3)有機無機複合粉末を、繰り返し運動を行う第一部材と、該第一部材と異なる運動が可能か或いは運動しない第二部材とを備える処理空間を有する粉体処理装置の該処理室空間内に投入する工程、(4)粉体処理装置の有する処理空間の備える第一部材を、その最も高速で運動する部分の運動速度が第二部材に対する相対速度で線速度20m/秒以上、かつ繰り返し頻度が毎秒10回以上となるように運動させることにより、前記処理空間内に投入された有機無機複合粉末を処理する工程、の各工程を備えることを特徴とする有機無機複合粉末の製造方法である。
【0011】
また本発明は、第一部材が粉体処理装置の処理空間を形成する外壁であり、かつ該外壁はその内面の断面形状が円であって、さらに該円の中心を軸として回転可能なものであり、繰り返し運動が当該外壁の回転運動である請求項1記載の有機無機複合粉末の製造方法を提供する。
【0012】
また本発明は、第二部材が粉体処理装置の処理空間を形成する外壁であり、かつ該外壁はその内面の断面形状が円であり、さらに第一部材は該処理空間断面円の中心軸と同心軸で回転するように処理空間内に配置された回転体であり、繰り返し運動が当該回転体の回転運動である請求項1記載の有機無機複合粉末の製造方法を提供する。
【0013】
更に本発明は、請求項1乃至3記載の方法で有機無機複合粉末を製造し、得られた有機無機複合粉末を重合性単量体と混合する歯科用複合材料の製造方法も提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によって製造した有機無機複合粉末は、他の製造方法で製造した有機無機複合粉末に比べて、複合材料ペーストの流動性を低下させる割合が少ない。従って本発明の製造方法で製造した有機無機複合粉末を用いた歯科用複合材料は、他の製造方法で製造した有機無機複合粉末に比べると、重合収縮が同じになるように配合した場合には、良好な流動特性を得る事ができる。一方、流動特性を同程度にすれば、より重合収縮の小さな歯科用複合材料とできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の有機無機複合粉末の製造方法は、下記(1)〜(4)の各工程を備える。
(1)硬化させると架橋型の重合体を与える重合性単量体組成物と無機粒子とを混合させた後に硬化させて有機無機複合体のバルク体を得る工程(以下、(1)工程)
(2)有機無機複合体のバルク体を粉砕して、有機無機複合粉末を得る工程(以下、(2)工程)
(3)有機無機複合粉末を、繰り返し運動を行う第一部材と、該第一部材と異なる運動が可能か或いは運動しない第二部材とを備える処理空間を有する粉体処理装置の該処理室空間内に投入する工程(以下、(3)工程)
(4)粉体処理装置の有する処理空間の備える第一部材を、その最も高速で運動する部分の運動速度が第二部材に対する相対速度で線速度20m/秒以上、かつ繰り返し頻度が毎秒10回以上となるように運動させることにより、前記処理空間内に投入された有機無機複合粉末を処理する工程(以下、(4)工程)。
【0016】
本発明における(1)工程は、有機無機複合体のバルク体を製造する工程である。当該(1)工程及び(2)工程は、前掲の特許文献1〜4等に詳しく記載されており、これら公知文献に記載の方法を適宜採用すればよいが、具体的には以下の通りである。
【0017】
硬化させると架橋型の重合体を与える重合性単量体組成物(以下、単に重合性単量体組成物と称す)としては公知の重合性単量体が使用可能であり特に制限は無いが、該重合性単量体組成物に配合する重合性単量体としては、全て重合性官能基を2個以上有する重合性単量体である事が好ましい。この場合、三次元的な網目構造の構築により、熱や溶剤に対する耐久性が高くなる。架橋型の重合体を与えない重合性単量体組成物、例えば重合性官能基を1個しか持たない重合性単量体、を用いた場合は、衝撃や圧縮等のエネルギーに対して軟化、変形しやすい性質を有する有機無機複合粉末を得る事ができるため、有機無機複合粉末の表面改質の観点からは有利ではあるが、得られる複合材料の機械的強度や耐久性の低下を招くため好ましくない。
【0018】
該重合単量体組成物に配合する重合性官能基を2個以上有する重合性単量体としては、例えば下記に示される各モノマーが挙げられる。
【0019】
2,2−ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパンおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト;無水アクリル酸、無水メタクリル酸、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エチル、ジ(2−メタクリロイルオキシプロピル)フォスフェート等、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート等のメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物とグリシドールジメタクリレートとの付加から得られるジアダクト等。
【0020】
これら重合性単量体は、単独で使用しても、異なる種類のものを混合して用いて重合性単量体組成物としてもよい。
【0021】
上記重合性単量体組成物と混合する無機粒子は特に限定されず、公知の無機粒子である非晶質シリカ、シリカジルコニア、シリカチタニア、シリカチタニア酸化バリウム、石英、アルミナ、アルミノシリケートガラス、バリウムガラス等の無機化合物の粉末を使用することができる。これら無機化合物としては、高温で焼成する際に緻密なものを得易くする等の目的から、少量の周期律表第I族金属の酸化物を添加した複合酸化物も使用することができる。無機粒子の材質としては、X線造影性を有し、より耐摩耗性に優れた硬化体が得られることから、シリカとジルコニアを主な構成成分とする複合酸化物が特に好適に用いられる。
【0022】
上記無機粒子の平均粒径は、0.001〜1μmであることが好ましい。さらに好適には0.01〜0.7μm、特に0.05〜0.5μmである。上記無機粒子の平均粒径が0.001μm未満では粘度が高くなり、取扱が困難となる。また、上記無機粒子の平均粒径が1μmを越える場合には、重合硬化後の滑沢性を得ることが困難である。なお、この無機粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡により粉体の写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子の数および粒子径を求め、その平均体積径から求めた値をいう。
【0023】
本発明の有機無機複合粉末の製造に使用する無機粒子の形状は、得られる硬化体の表面滑沢性や耐磨耗性の点から、球状または略球状が好適である。なお、ここでいう略球状とは、走査型電子顕微鏡(SEM)でフィラーの写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子が丸みを帯びており、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で除した平均均斉度が0.6以上であることを意味する。これら無機粒子は粒度分布や材質が異なるものを複数種類混合して使用してもよい。
【0024】
これら無機粒子の製造方法は特に限定されないが、例えば、加水分解可能な有機ケイ素化合物を含んだ溶液、あるいは更に周期律表第I、II、III、及び第IV族の金属よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む加水分解可能な有機化合物を含んだ混合溶液を、これら原料は溶解するが反応生成物は実質的に溶解しないアルカリ性溶媒中に添加し、加水分解を行って反応生成物を析出させる、所謂ゾルゲル法が好適に採用される。
【0025】
なお、このような方法で製造された無機粒子は、その表面安定性を保持するために乾燥後500〜1000℃の温度で焼成するのが好ましい。また焼成時に粒子が凝集するので、ジェットミル、振動ボールミル等を用いて凝集粒子を解きほぐし、粒度を調整してから使用するのが好ましい。このような操作を行なっても凝集粒子を完全に凝集前の状態にするのは困難であり、上記のような熱処理を行なった場合には、平均粒径0.001〜1μmの無機粒子とその凝集体とが混合したフィラーが得られる場合があるが、大粒子径の独立粒子を添加した場合と異なり、多少の凝集体が含まれていても重合硬化後の滑沢性や耐摩耗性に悪影響がなければ差し支えない。
【0026】
また該無機粒子としては、重合性単量体組成物への分散性を改良したり重合性単量体組成物との結合性を付与したりする目的でその表面が処理されたものである事が好ましい。かかる表面処理方法は特に限定されるものではなく、公知のいかなる方法で処理されていてもよい。代表的な表面処理方法を具体的に例示すれば、シリカ等の無機粒子及び表面処理剤としてシランカップリング剤、例えばγ−メタクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等の有機珪素化合物を、適当な溶媒中でボールミル等を用いて分散混合させ、エバポレーターやスプレードライで乾燥した後、50〜150℃に加熱する方法、無機粒子及び上記表面処理剤をアルコール等の溶剤中で数時間程度加熱還留する方法等が挙げられる。この時使用される上記表面処理剤の量に特に制限はないが、好適な範囲を例示すれば、無機粒子100質量部に対して、上記表面処理剤1〜10質量部の範囲である。
【0027】
(1)工程で製造する上記本発明における有機無機複合粉末のバルク体における、重合性単量体組成物と無機粒子との量比に特に限定はないが、得られる有機無機複合粉末の強度などから適宜決定され、通常は、重合性単量体100重量部に対し、無機粒子150〜600重量部である。
【0028】
重合性単量体組成物と無機粒子を混合する方法としては特に制限が無く、公知の混合機、攪拌機、分散機が使用可能である。
【0029】
重合性単量体組成物と無機粒子の混合物を硬化させる方法に制限は無く、公知の方法が使用可能であるが、一般的には、短時間で硬化体を得るために重合開始剤を使用する。重合方法には、紫外線、可視光線等の光エネルギーによる反応(以下、光重合という)、過酸化物と促進剤との化学反応によるもの、加熱によるもの等があり、採用する重合方法に応じて下記に示す各種重合開始剤を適宜選択して、重合性単量体組成物に配合すればよい。
【0030】
例えば、光重合開始剤としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどのベンジルケタール類、ベンゾフェノン、4,4'−ジメチルベンゾフェノン、4−メタクリロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、ジアセチル、2,3−ペンタジオンベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナントラキノン、9,10−アントラキノンなどのα-ジケトン類、2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン化合物、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)―フェニルホスフィンオキサイドなどのビスアシルホスフィンオキサイド類等を使用することができる。
【0031】
なお、光重合開始剤には、しばしば還元剤が添加されるが、その例としては、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、N−メチルジエタノールアミンなどの第3級アミン類、ラウリルアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどのアルデヒド類、2−メルカプトベンゾオキサゾール、1−デカンチオール、チオサルチル酸、チオ安息香酸などの含イオウ化合物などを挙げることができる。
【0032】
また、熱重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラキス(p−フロルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸トリエタノールアミン塩等のホウ素化合物、5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩類等が挙げられる。
【0033】
これら重合開始剤は単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。重合開始剤の添加量は重合性単量体/無機粒子の比などに応じて適宜選択されるが、通常、重合性単量体100重量部に対して0.01〜30重量部の割合であり、より好ましくは0.1〜5重量部の割合で使用される。
【0034】
また本発明の効果を阻害しない範囲で、重合前に、顔料、紫外線吸収剤等の公知の添加剤を配合することができる。
【0035】
本発明においては、上記の方法で得られた有機無機複合体のバルク体を、(2)の工程で粉砕して有機無機複合粉末を得る。粉砕方法としては特に制限が無いが、例えば、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、ハンマーミル、ジェットミル等が使用可能である。
【0036】
更に必要に応じて、フルイ、エアー分級機、あるいは水ひ分級等による分級工程を行うことによって目的の粒度分布の有機無機複合粉末が得ることも可能である。
【0037】
この有機無機複合粉末の平均粒径に特に限定はないが、べたつきやぱさつきが少なく充填操作性が良好な硬化性ペーストが得られ易いことから、平均粒径1〜100μm、さらに好適には5〜50μm、最も好適には6〜15μmである。平均粒径が小さすぎる場合、複合材料として使用した場合、フィラー充填率が低下するため重合収縮が大きくなる恐れがある。また、平均粒径が大きすぎる場合、本発明の処理を行った際に、粉砕が支配的に起こる事によって十分な表面改質処理が行われない可能性がある。
【0038】
本発明の有機無機複合粉末の製造方法は、(3)工程として上記の(2)工程で得られた有機無機複合粉末を、繰り返し運動を行う第一部材と、該第一部材と異なる運動が可能か或いは運動しない第二部材とを備える処理空間を有する粉体処理装置の該処理室空間内に投入する工程を含む。
【0039】
第一部材の行う繰り返し運動としては特に制限が無く、回転運動、往復運動、波形運動、振り子運動等のいずれの形態をとっても良いが、均一な線速度が得られる回転運動が好ましい。
【0040】
第一部材の素材としては特に制限が無いが、機械的エネルギーを効率よく伝達させるために高い弾性率を有する材料である事が好ましい。具体的には、鉄、鋼、ステンレス、チタン、及び金属酸化物、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸バリウム、窒化ホウ素などのセラミックスが好適に用いられる。特に、有機無機複合粉末による装置の磨耗で発生するコンタミネーションの影響が少ないことから、セラミックス製の部品の使用、あるいはセラミックスによる被覆を行う事が好ましい。このようなセラミックス材料としては、耐摩耗性や色調の観点から、アルミナ、ジルコニア、部分安定化ジルコニアが好適である。
【0041】
また、第二部材は運動可能でも固定されていても良いが、装置が複雑化しない事や第一部材と第二部材の相対速度の制御の観点から固定されている方が好ましい。運動をさせる場合は、回転運動、往復運動、波形運動、振り子運動等の如何なる形態をとっても良いが、前記第一部材とは、回転方向、周期、速度など条件のうち、少なくとも1つの条件が異なる運動として、後述するように第一部材を運動させたときに、該第一部材との相対速度が線速度20m/秒以上となるようにする。また第二部材の素材としては第一部材と同様の素材から特に制限無く選択する事ができる。
【0042】
本発明の製造方法における(4)工程は、上記の如き粉体処理装置の第一部材を運動させて、該粉体処理装置の処理室空間内に投入された有機無機複合粉末に衝撃、せん断、圧縮、摩擦といった機械的エネルギーを与える工程である。この際、粉体処理装置の有する処理空間の備える第一部材を、その最も高速で運動する部分の運動速度(以下、特に断らない限り、この部分の運動速度を単に「運動速度」という)が第二部材に対する相対速度で線速度20m/秒以上、かつ繰り返し頻度が毎秒10回以上となるように運動させる必要がある。
【0043】
第一部材の運動速度が遅く、第二部材に対する相対速度で20m/秒未満である場合、表面改質に十分な力学的作用を粉体に与える事ができない。より好ましい範囲は、線速度が30〜1000m/秒であり、更に好ましい範囲は、35〜300m/秒である。
【0044】
本発明の効果の得られる作用機序は明らかではないが、処理空間内に(2)工程で得た有機無機複合粉末を投入した状態で、第一部材を上記のように高速で運動させることにより、該有機無機複合粉末と、第一部材及び/又は第二部材が接触して、有機無機複合粉末に衝撃、せん断、圧縮、摩擦といった強力な力学的作用が与えられ、(2)工程の粉砕によって生じた有機無機複合粉末の鋭角部が鈍磨して丸みを帯びるとともに、微小粒子がより粒径の大きな粒子に打ち付けられて複合化され、このため、重合性単量体に配合したときに粘度を上昇させる影響が減じられ、よってフィラー充填率を向上させ、あるいは流動性・なじみ等の操作性を向上させることができるのではないかと推測される。
【0045】
本発明においては、上記のような作用を得るために、前記(3)工程において処理空間内に投入する有機無機複合粉末の量は、(4)工程において第一部材を運動させた状態で、該粉末の少なくとも一部が第一部材及び第二部材の双方に接触するだけの量とする必要がある。第一部材及び第二部材の一方のみに接触するような状態では、本発明の効果は得られない。
【0046】
本発明において、上記第一部材の運動は繰り返し運動である。繰り返し運動でない場合には、必要な処理効果を得るための部材の大きさが現実的なものとはならない。
【0047】
また第一部材の繰り返し頻度は毎秒10回以上となるように運動させる必要がある。より好ましい範囲は、繰り返し頻度が一秒間に20〜400回である。繰り返し頻度が10回未満の場合、処理される有機無機複合粉末を構成する各粒子が第一部材及び/又は第二部材に接触する頻度が少なくなり、工業的に実用的な時間で表面改質に十分な力学的作用を粉体に与える事ができないため、本発明の効果が不十分となる。
【0048】
(4)工程における処理時間は第一部材の運動速度や繰り返し頻度等により異なるが、有機無機複合粉末を構成する粒子全体に対して十分な力学的作用を与えるためには、好ましくは、0.5分以上、更に好ましくは5分以上の処理時間が好ましく、粒子の破壊や劣化を抑制する観点から考えれば、好ましくは60分以下、更に好ましくは20分以下で処理を行えばよい。繰り返し頻度が大きいほど、短い処理時間で効果を得る事ができる。
【0049】
上記のような部材を有する粉体処理装置としては、バッチ式でも連続式でも良いが、繰り返し頻度を多くさせる事が容易であることからバッチ式である事が好ましく、特に本発明の効果がより高く、また構造が簡単で扱いやすいことから、第一部材が粉体処理装置の処理空間を形成する外壁であり、かつ該外壁はその内面の断面形状が円であって、さらに該円の中心を軸として回転可能なものである粉体処理装置(以下、圧縮せん断式装置)や、第二部材が粉体処理装置の処理空間を形成する外壁であり、かつ該外壁はその内面の断面形状が円であり、さらに第一部材は該処理空間断面円の中心軸と同心軸で回転するように処理空間内に配置された回転体である粉体処理装置(以下、高速回転式装置)を用いる事が好ましい。
【0050】
圧縮せん断式装置を、より具体的に図1を参照して説明すると、有無機複合粉末が処理される処理空間は、その断面の内面形状が円形である外壁によって構成されている。この外壁は該円の中心を軸として高速で回転することが可能となっている。図1の形態では、第二部材として処理空間内に圧子が配設されている。
【0051】
処理空間内に(2)工程で得られた有機無機複合粉末を投入し、外壁を高速で回転させると、有機無機複合粉末が遠心力で外壁に押し付けられる。圧子先端と外壁内面の距離、及び投入する有機無機複合粉末の量を適切に設定することにより、圧子と外壁との間で粉体に圧縮、せん断力が加わる。この場合、第一部材の運動速度は、第一部材の内面と、第二部材(圧子)が有機無機複合粉末と接触する部分、即ち先端部との相対速度である。
【0052】
第二部材は図示されたものに限定されず、上記のような作用を奏す部材であれば、その形状や位置、数は適宜設定できる。
【0053】
圧子先端と外壁内面との距離は、処理効果、処理時間及び処理量の観点から1〜20mm、更には5〜12mmの間から選択される事が好ましい。
【0054】
このような圧縮せん断式装置において、第二部材である圧子は、運動可能でもよいし、固定状態でもよいが、装置の構造を簡単にできる点で固定のものとすることが好ましい。第二部材を固定(運動させない)場合には、外壁内面の線速度が20m/秒以上となるように回転させる。他方、第二部材を運動させる場合には、例えば、回転運動をさせる場合には、外壁と同方向に回転させるか、逆方向に回転させるかにより外壁の回転速度を調整すればよい。
【0055】
また、処理効率を向上させるために、処理空間内に、外壁内面に押し付けられた粉体をかき落とすための機構がある装置を用いることも好ましい。
【0056】
上記のような圧縮せん断式装置としては、メカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン)、ノビルタ(ホソカワミクロン)、ナノキュラ(ホソカワミクロン)、シータコンポーザ(徳寿工作所)、ミラーロ(奈良機械製作所)等の商業的に入手可能な表面改質装置や機械的粒子複合装置を用いることが可能である。
【0057】
続いて高速回転式装置を図2を参照して説明する。高速回転式装置においても、処理空間はその断面の内面形状が円形である外壁によって構成されているが、繰り返し運動を行う第一部材は、該処理空間内に配置された回転体(ローター)である。処理空間内のデッドスペースを少なくし、処理効率を高くするため、当該回転体は、処理空間断面円の中心軸と同心軸で回転するように配置される。
【0058】
当該回転体を高速で回転させることにより、処理空間内に投入された有機無機複合粉末と衝突し、該粉体に力学的作用を与える。外壁は回転させても良いが、装置構造を簡単にするために、通常は固定のものとする。
【0059】
回転体としては、単なる円筒状の回転体でもよいが、処理効率の観点から、図2に示すようなボード、ブレード、ハンマー、ピンなどがついたローターであることが好ましい。
【0060】
外壁を運動させない場合、第一部材の運動速度は、ボード、ブレード、ハンマー、ピンなどの先端の速度である。外壁を回転させる場合には、その回転速度に応じて回転体の回転速度を調整すればよい。
【0061】
このような高速回転式装置としては、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所)、クリプトロン(川崎重工業)等の商業的に入手可能な表面改質装置や機械的粒子複合装置を用いることが可能である。
【0062】
上記例示のようなバッチ式の粉体処理装置を用いた場合には、第一部材に粉体を効果的に接触させるために、処理した粉体を一度処理空間より取り出し、循環機構によって再び処理空間内に導入する方法をとっても良い。
【0063】
本発明で用いる粉体処理装置に投入する有機無機複合粉末の状態は、有機無機複合粉末をそのまま投入する乾式、水や適当な有機溶媒に分散させた分散液やスラリーを投入する湿式のいずれでも良いが、本発明の効果が得られやすい事や、分散媒と粉体の分離工程が必要ないことから、乾式が好ましい。
【0064】
本発明の製造方法で製造した有機無機複合粉末を、重合性単量体と混合することによって歯科用複合材料を製造する事ができる。当該歯科用複合材料も、前記特許文献1〜4等に記載されるような公知の方法で製造できる。
【0065】
有機無機複合粉末は上記製造方法で製造したものをそのまま使用することもできるが、マトリックスとなる重合性単量体とのなじみをよくして硬化後の歯科用修復材組成物の強度を高め、シランカップリング剤処理をすることが望ましい。表面処理方法は、前記した無機粒子のシランカップリング剤処理について記載した方法のどれを採用してもよい。
【0066】
歯科用複合材料に配合する有機無機複合粉末の含有量は特に限定されないが、硬化前ペーストの操作性や硬化体の強度の観点から、重合性単量体100重量部に対し、50〜600重量部、特に80〜300重量部が好適である。
【0067】
また本発明の歯科用複合材料に無機粒子を加えてもよい。かかる無機粒子は前記した種類のものを使用することができる。ここに無機粒子はシランカップリング剤で表面処理されたものを使用することができる。かかるシランカップリング剤の種類、表面処理条件は前記したものと同一でも異なっていてもよい。
【0068】
いずれの場合にも、ここに使用する無機粒子の平均粒径は0.1〜1μmのものであることが好ましい。0.1μm未満の場合、ペーストの粘度が高くなりがちである。1μmを越えると表面滑沢性、対摩耗性が低下する傾向にある。またさらに、硬化体の強度向上を図る目的で、表面滑沢性や耐摩耗性が低下しない範囲で、平均粒子径が1μmより大きい無機粒子及び/又は平均粒径が0.1μmより小さい無機粒子を加えてもよい。該無機粒子は、粒度分布や材質が異なるものを複数種類混合して用いることもできる。
【0069】
また重合性単量体も前記したものを適宜使用することができ、有機無機複合粉末製造時に使用した重合性単量体と同一種類、同一組成のものを使用しても、異なる種類、異なる組成のものを使用してもよい。
【0070】
本発明の歯科用複合材料における上記有機無機複合粉末を含む充填材の含有量は特に限定されないが、充填操作性及び硬化体強度の観点から、重合性単量体組成物100重量部に対し、65〜800重量部、特に100〜400重量部である事が好適である。
【0071】
歯科用複合材料には、通常、重合性単量体を重合、硬化させるために重合開始剤が配合される。使用時の操作の簡便さのため、光重合の使用が好ましく、前記した光重合開始剤を使用することができるが、特に好適なものは、カンファーキノン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)―フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)―2,4,4−トリメチルフェニルホスフィンオキサイドなどである。これら重合開始剤は単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。重合開始剤の添加量は目的に応じて適宜選択すればよいが、重合性単量体100重量部に対して通常0.01〜30重量部であり、より好ましくは0.1〜5重量部である。
【0072】
歯科用複合材料には、本発明の効果を阻害しない範囲で、さらに、顔料、紫外線吸収剤等、公知の添加剤を配合することができる。本発明の硬化性組成物は、前記各必須成分及び必要に応じて各任意成分を十分に均一に混練しペースト化し、さらに減圧下脱泡することによって得ることができる。
【0073】
このようにして製造される歯科用複合材料の用途は特に限定されないが、具体例としては歯科充填用コンポジットレジンが挙げられる。その一般的な使用方法としては、修復すべき歯の窩洞を適切な前処理剤や接着剤で処理した後に歯科充填用コンポジットレジンを直接充填した後に専用の光照射器にて強力な光を照射して重合硬化させる方法等が挙げられる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、実施例および比較例で用いた重合性単量体、及び重合開始剤は以下の通りである。
重合性単量体:
GMA: 2,2-ビス(4-(3-メタクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル)プロパン
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
重合開始剤
AIBN:アゾビスイソブチロニトリル
CQ:カンファーキノン
DMBE:ジメチル安息香酸エチルエステル
試験方法は以下のとおりである。
(1)有機無機複合粉末の調整{(1)工程及び(2)工程}
重合性単量体としてGMA30重量部、TEGDMA70重量部に、0.5重量%の重合開始剤AIBNを溶解させて重合性単量体組成物を得た。この重合性単量体組成物100重量部に、球状シリカジルコニア(平均粒径0.2μm)のγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物300重量部を混合し、乳鉢でよく練和する事でペースト状とした。このペーストを95℃窒素加圧下で一時間加熱することによって重合硬化させ、更にこの硬化体を振動ボールミルにて粉砕し、平均粒径9μmの有機無機複合粉末C−1を得た。
(2)光硬化性複合樹脂の調整
60重量部のGMAと40重量部のTEGDMAに、0.5重量%のCQと0.5重量%のDMBEを加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製して、これをマトリックスとした。
【0075】
実施例及び比較例に記載の各々の方法によって処理された有機無機複合粉末を90重量部、球状シリカジルコニア(平均粒径0.2μm)のγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物を60重量部、メノウ乳鉢に入れ、そこに上記重合性単量体組成物100重量部を徐々に加え、暗所にて十分に混練し均一な硬化性ペーストとした。さらにこのペーストを減圧下脱泡し、硬化性複合樹脂を調整した。
(3) 重合収縮率
アルキメデス法によって測定した。
(4) ペーストの流動性
ガラスプレート上に光硬化性複合樹脂0.03gを直径が5mm以内となるように載せ5秒間自然展開させた後に該ガラス平面を鉛直にして静置したときに、該ガラス平面に展開した光硬化性複合樹脂の最下端の位置が該ガラス平面を鉛直にした直後から3分間で移動した距離を測定し塑性流動距離とした。
【0076】
実施例1
有機無機複合粉末C−1の50gをハイブリダイゼーションシステム(セラミック仕様)を用いて、線速度100m/sec、処理時間5分で処理し、有機無機複合粉末処理物T−1を得た。このときの繰り返し頻度はローターの回転数から毎秒270回と見積もられた。得られた粉体の平均粒径は10μmであり、SEMによる観察では表面性状は処理前のものと比較して平滑となっていた。
【0077】
この有機無機粉体処理物T−1を用いて、前述した方法で光硬化性複合樹脂を作製し、重合収縮率と流動性の測定を行った。結果を表1に示した。流動性は良好であった。
【0078】
実施例2
有機無機複合粉末C−1の500gをメカノフュージョンシステム(セラミック仕様)を用いて、線速度39m/sec、処理時間30分で処理し、有機無機複合粉末処理物T−2を得た。このときの繰り返し頻度は、外壁の回転数から毎秒38回と見積もられた。得られた粉体の平均粒径は9μmであり、SEMによる観察では表面性状は処理前のものと比較して平滑となっていた。
【0079】
この有機無機粉体処理物T−2を用いて、前述した方法で光硬化性複合樹脂を作製し、重合収縮率と流動性の測定を行った。結果を表1に示した。流動性は良好であった。
【0080】
比較例1
有機無機複合粉末C−1をフィラーとして用い、前述した方法で光硬化性複合樹脂を作製し、重合収縮率と流動性の測定を行った。結果を表1に示した。流動性は低かった。
【0081】
比較例2
有機無機複合粉末C−1を50g、媒体としてφ5mmのジルコニア製ボール300gを容量400mlのジルコニア製ポットに入れ、回転架台にて回転数100rpmで30分回転した。このときのポット内壁の線速度は1.5m/secに相当した。これによって有機無機複合粉末処理物T−3を得た。得られた粉体の平均粒径は8μmであり、SEMによる観察では表面性状は処理前のものと比較して顕著な変化は見られなかった。
【0082】
この有機無機粉体処理物T−3を用いて、前述した方法で光硬化性複合樹脂を作製し、重合収縮率と流動性の測定を行った。結果を表1に示した。流動性は比較例1とほとんど変わらなかった。
【0083】
比較例3
有機無機複合粉末C−1を50g、媒体としてφ5mmのジルコニア製ボール300gを容量400mlのジルコニア製ポットに入れ、中央化工機製小型振動ミルにて振動数20Hzで60分処理し、有機無機複合粉末処理物T−4を得た。このときの線速度は、振幅と振動数より0.2mm/secと見積もられた。得られた粉体の平均粒径は5μmであり、SEMによる観察では処理前のものと比較して大きな粒子が減少しており大量の微粉が発生していた。
【0084】
この有機無機粉体処理物T−4を用いて、前述した方法で光硬化性複合樹脂を作製し、重合収縮率と流動性の測定を行った。結果を表1に示した。ペーストは固く、流動性はまったくなかった。
【0085】
比較例4
比較例1で作製した光硬化性複合樹脂250重量部に、マトリックスを15重量部追加して練和し、光硬化性複合樹脂を作製した。重合収縮率と流動性の測定を行った。結果を表1に示した。流動性は改善したが、重合収縮が大きくなった。
【0086】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】圧縮せん断式粉体処理装置を示す模式図である。
【図2】高速回転式粉体処理装置を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(4)、
(1)硬化させると架橋型の重合体を与える重合性単量体組成物と無機粒子とを混合させた後に硬化させて有機無機複合体のバルク体を得る工程
(2)有機無機複合体のバルク体を粉砕して、有機無機複合粉末を得る工程
(3)有機無機複合粉末を、繰り返し運動を行う第一部材と、該第一部材と異なる運動が可能か或いは運動しない第二部材とを備える処理空間を有する粉体処理装置の該処理室空間内に投入する工程
(4)粉体処理装置の有する処理空間の備える第一部材を、その最も高速で運動する部分の運動速度が第二部材に対する相対速度で線速度20m/秒以上、かつ繰り返し頻度が毎秒10回以上となるように運動させることにより、前記処理空間内に投入された有機無機複合粉末を処理する工程
の各工程を備えることを特徴とする有機無機複合粉末の製造方法。
【請求項2】
第一部材が粉体処理装置の処理空間を形成する外壁であり、かつ該外壁はその内面の断面形状が円であって、さらに該円の中心を軸として回転可能なものであり、繰り返し運動が当該外壁の回転運動である請求項1記載の有機無機複合粉末の製造方法。
【請求項3】
第二部材が粉体処理装置の処理空間を形成する外壁であり、かつ該外壁はその内面の断面形状が円であり、さらに第一部材は該処理空間断面円の中心軸と同心軸で回転するように処理空間内に配置された回転体であり、繰り返し運動が当該回転体の回転運動である請求項1記載の有機無機複合粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3記載の方法で有機無機複合粉末を製造し、得られた有機無機複合粉末を重合性単量体と混合する歯科用複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−138139(P2008−138139A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328432(P2006−328432)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】