説明

有機物含有液の処理方法

【課題】処理効率の向上と、向上された処理効率の維持という二つの要求を同時に満たすことができる、有機物含有液の処理方法を提供すること。
【解決手段】活性汚泥と有機物含有液とを混合して得られた生物処理液を曝気するとともに、該生物処理液に浸漬させた濾体を用いて生物処理液から濾液を濾過分離する有機物含有液の処理方法であって、前記生物処理液は、少なくとも濾過分離の直前に無機質粒子を含有し、生物処理液の汚泥浮遊物質量の下限値を35,000mg/Lとするとともに上限値を130,000mg/Lとする、有機物含有液の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メッキ廃液、プリント基板洗浄廃液等の有機物含有液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機物含有液の処理方法として、活性汚泥と有機物含有液とを混合して得られた生物処理液を曝気するとともに、該生物処理液に浸漬させた濾体を用いて生物処理液から濾液を濾過分離して該濾液を排出する方法が周知である。
【0003】
特許文献1では、汚泥浮遊物質量(MLSS)を5,000〜20,000mg/Lと低くしてBOD汚泥負荷を0.15〜0.40kg−BOD/kg−VSS/dayと高くすることにより、高いMLSSに対応する曝気量の増大に起因する膜寿命の劣化を抑制するとともに処理効率を高める技術が開示されている。
【0004】
特許文献2では、活性汚泥濃度の10〜45質量%の鉄塩を生物処理槽内に添加するとともに処理槽内の液体のpHを5〜6.5にすることにより、膜の目詰まりを防止する技術が開示されている。
【0005】
特許文献3では、比重1.5〜5の無機質粒子を1,000〜20,000mg/Lの濃度で生物処理槽内に存在させ、無機質粒子と好気性微生物とを一体化させることにより、汚泥濃度を高く(MLSS:5,000〜20,000mg/L)して高負荷処理を行う技術が開示されている。
【0006】
特許文献4では、膜分離槽の濃縮汚泥を曝気槽へ返送することにより、曝気槽のMLSSを50,000〜100,000mg/Lに維持するととともに曝気槽のBOD汚泥負荷を0.05〜0.01kg−BOD/(kg−MLSS・日)に調整して余剰汚泥の発生を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−53363号公報
【特許文献2】特開2008−200639号公報
【特許文献3】特開平9−38681号公報
【特許文献4】特開2002−192182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
有機物含有液の処理においては、該有機物含有液の処理効率を高めるとともに、高い処理効率を維持することが求められている。しかしながら、従来技術ではこれらの要求を同時に満たすことができなかった。これは、処理効率を高めるためにMLSSが高い条件下で処理を続けると濾体の濾過性能が低下し、結果的に高い処理効率を維持できなくなるからである。
【0009】
従って、本発明の課題は、処理効率の向上と、向上された処理効率の維持という二つの要求を同時に満たすことができる、有機物含有液の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕活性汚泥と有機物含有液とを混合して得られた生物処理液を曝気するとともに、該生物処理液に浸漬させた濾体を用いて生物処理液から濾液を濾過分離する有機物含有液の処理方法であって、
前記生物処理液は、少なくとも濾過分離の直前に無機質粒子を含有し、生物処理液の汚泥浮遊物質量の下限値を35,000mg/Lとするとともに上限値を130,000mg/Lとする、有機物含有液の処理方法、に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機物含有液の処理方法は、処理効率の向上と、向上された処理効率の維持という二つの要求を同時に満たすことができるという効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の有機物含有液(脱脂剤含有液)の処理方法の処理フローの一例を示す図である。
【図2】図2は、本発明の有機物含有液(脱脂剤含有液)の処理方法の処理フローの一例を示す図である。
【図3】図3は、実施例1における生物処理液に含まれる無機質粒子の粒子構造を示す顕微鏡写真である。
【図4】図4は、実施例2における生物処理液に含まれる無機質粒子の粒子構造を示す顕微鏡写真である。
【図5】図5は、実施例2における生物処理液(濾過槽6の沈殿物)に含まれる無機質粒子の粒子構造を示す顕微鏡写真である。
【図6】図6は、実施例2におけるSEMの観察結果を示す顕微鏡写真である。
【図7】図7は、実施例2におけるSEMの観察結果を示す顕微鏡写真である。
【図8】図8は、本発明の有機物含有液(脱脂剤含有液)の処理方法の処理フローの一例を示す図である。
【図9】図9は、実施例4における生物処理液に含まれる無機質粒子の粒子構造を示す顕微鏡写真である。
【図10】図10は、実施例4におけるSEMの観察結果を示す顕微鏡写真である。
【図11】図11は、実施例4におけるSEMの観察結果を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を有機物含有液の処理方法に具体化した実施形態を詳細に説明する。本発明に係る処理方法の対象である有機物含有液は、有機物を含有する液体であれば特に限定されない。さらに、各種金属イオン、特に2価の金属イオンを含有する有機物含有液も本発明の処理方法の対象である。
【0014】
有機物含有液の具体例としては、例えばメッキ工場、プリント基板工場等から排出される廃液、基板洗浄廃液、メッキ浴に関わる廃液(触媒付与、銅メッキ、ニッケルメッキ、金メッキ)、エッチング廃液、酸化還元剤含有廃液、食品加工工場廃液、生活排水、及び屎尿が挙げられる。基板洗浄廃液は、有機物として例えば洗浄用の薬品、浴調整剤を含有している。本願において、メッキ工場、プリント基板工場等から排出される廃液、基板洗浄廃液、メッキ浴に関わる廃液、エッチング廃液、及び酸化還元剤含有廃液を「脱脂剤含有液」とも称する。本発明に係る処理方法は、一種類の有機物含有液だけでなく、複数種類の有機物含有液の混合物も処理することができる。
【0015】
本願における有機物としては、例えばアルコール、アミド系化合物、メラミン系化合物、脂肪族系化合物、エーテル類、多糖類、スルフィド化合物、高級アルキルサルフェート化合物、アルキルチオサルフェート化合物、窒素含有アルキル化合物、及びリン酸化合物が挙げられる。より具体的には、例えばメタノール、エタノール、アセトン、1−ブタノール、ブチルセルソルブ、ブチルカルビトール、トルエンスルホンアミド、ポリオキシアルキレングリコール、ジプロピレングリコールエーテル、モノエタノールアミン、平均分子量696〜872のポリオクチルフェニルエーテル、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、N,N’−ジメチルホルムアミド、炭素数1〜4のアルキル基を有するベンズイミダゾール、及び炭素数20〜22のアルキルサルフェートが挙げられる。有機物含有液は有機物として、これらの具体例の内の一種のみを含有してもよいし、複数種類を含有してもよい。
【0016】
有機物含有液が脱脂剤含有液、例えばメッキ工場廃液である場合、有機物含有液は、金属イオンとしてメッキ由来の銅イオン、ニッケルイオン、金イオン等を含有し得る。
【0017】
本発明の処理方法においては、例えば次のような処理フローを経て有機物含有液の処理が実施される。この場合、有機物含有液が金属イオンを含有するかどうかによって処理フローが異なる。
【0018】
図1に示すように、有機物含有液(脱脂剤含有液)が金属イオンを含有する場合、例えば次のような処理フローを経て有機物含有液が処理される。
有機物含有液(脱脂剤含有液)→金属除去槽1→pH調整槽3→中継槽4→曝気槽5→濾過槽6→濾液を排出
【0019】
図2に示すように、有機物含有液(脱脂剤含有液)が金属イオンを含有しない場合、例えば次のような処理フローを経て有機物含有液が処理される。
有機物含有液(脱脂剤含有液)→貯留槽2→pH調整槽3→中継槽4→曝気槽5→濾過槽6→濾液を排出
【0020】
前記各槽について下記に説明する。
<金属除去槽1>
金属除去槽1では、金属イオンを含有する有機物含有液から金属イオンが除去される。金属イオンの除去手段としては、例えば水酸化処理(中和処理)、硫化処理、還元処理、キレート処理、及びイオン交換処理が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、互いに併用されてもよい。中和処理、硫化処理、還元処理、及びキレート処理では、金属イオンが金属塩として析出した後、該金属塩が凝集剤等により沈降し、次いで濾過等により有機物含有液から除去される。
【0021】
後述する生物処理液に無機質粒子を容易に含有させることができることから、水酸化カルシウム等の無機イオン含有薬剤を金属除去槽1に添加することが好ましい。この場合、金属除去槽1での処理工程後の有機物含有液中に無機イオンが溶解していることから、後の処理工程で得られる生物処理液にも無機イオンが溶解している。生物処理液が無機イオンとしてカルシウムイオンを含有する場合、カルシウムイオンは空気の曝気により二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムとなる。その結果、生物処理液中に無機質粒子としての炭酸カルシウム粒子が形成される。
【0022】
金属イオンとしての銅イオンを含有する有機物含有液が水酸化カルシウムを用いて中和処理される場合、銅イオンが水酸化銅として析出して有機物含有液から除去される。銅イオンをより効率的に除去して回収できることから、水酸化カルシウムと水酸化ナトリウムとを併用することが好ましい。
【0023】
また、本発明においては、硫化水素ナトリウムを用いた硫化処理により有機物含有液中の金属イオンを除去することが、一つの好ましい態様として例示できる。この態様においては、有機物含有液のpHがアルカリ側に調整された後に硫化水素ナトリウムが添加されることが好ましく、pHが9.0〜9.5に調整された後に硫化水素ナトリウムが添加されることがより好ましい。通常では有機物含有液のpHが酸性側で硫化処理が行われるが、この際には硫化水素が発生する。これに対し、本態様においては、有機物含有液のpHがアルカリ側に調整されることにより、硫化処理に伴う硫化水素が発生しなくなるという有利な効果が発揮される。更に、有機物含有液のpHを9.0以上にすることにより、pHの安定した状態で調整することができる。また、有機物含有液のpHを9.5以下にすることにより、硫化処理によって生成される硫化銅からの銅イオンの解離を防止することができる。本態様における硫化水素ナトリウムの添加量としては、有機物含有液中の金属イオンの全量を硫化処理するのに必要な量の硫化水素ナトリウムに対して過剰な量、具体的には1.1倍量が好ましい。本態様における硫化処理の時間としては、例えば30分間〜1時間である。
【0024】
<貯留槽2>
有機物含有液が金属イオンを含有しない場合、前述した金属除去が不要であることから、有機物含有液は、所定量の有機物含有液をpH調整槽3へ導入するために貯留槽2に貯留される。
【0025】
<pH調整槽3>
pH調整槽3では、例えば金属イオンが除去された有機物含有液のpHが生物処理に適した範囲に調整される。具体的には、有機物含有液の25℃におけるpHが好ましくは6〜9に調整される。pHの調整には、例えば希塩酸、希硫酸、及び水酸化ナトリウム水溶液が使用される。pH調整槽3においては、有機物含有液のpH以外のパラメータが生物処理に適した範囲に調整されなくてもよい。この場合、後の処理工程の槽で、これらのパラメータを適切な範囲に調整することができる。
【0026】
<中継槽4>
中継槽4では、一定量の有機物含有液を貯留することにより、曝気槽5への有機物含有液の導入量が安定した状態に保たれる。中継槽4には、活性汚泥中の微生物のための栄養剤が添加されてもよい。栄養剤の具体例としては、例えばマグネシウム化合物、ケイ素化合物、及び細菌培養の栄養剤が挙げられるが、これらは粉末状のままで中継槽4に添加される。栄養剤は中継槽4以外の処理槽、例えば曝気槽5及び濾過槽6で添加されてもよい。マグネシウム化合物、ケイ素化合物、及び細菌培養の栄養剤は、所定の割合で混合された状態で添加されてもよいし、別々に添加されてもよい。さらに、有機物含有液中の生物化学的酸素要求量(BOD)、窒素、及びリンの割合が経時的に変動して不均一である場合には、リン酸化合物、アンモニウム化合物を添加して有機物含有液中のBOD、窒素及びリンの割合を安定化させることが好ましい。
【0027】
前記貯留槽2、pH調整槽3及び中継槽4は必要に応じて設けられる槽であり、省略されてもよい。また、例えばpH調整槽3を省略して中継槽4がpH調整槽3の役割を併用してもよく、あるいはpH調整槽3と中継槽4との順序が入れ替わってもよい。
【0028】
<曝気槽5>
曝気槽5では、有機物含有液と活性汚泥とが曝気雰囲気下で混合される。このとき、活性汚泥中の微生物の作用により、有機物含有液の有機物が生物処理される。曝気槽5の数は限定されておらず、複数の曝気槽5が設けられてもよい。この場合、各曝気槽5は直列に接続されてもよいし、互いに並列に接続されてもよい。複数の曝気槽5が設けられている場合、本願における曝気槽5内の生物処理液に関するパラメータ(例えば、MLSS、MLVSS/MLSS、pH、温度、ORP、DO、粘度及び曝気量等)は複数の曝気槽5の内の一部の曝気槽5のみに適用されてもよいし、全ての曝気槽5に適用されてもよい。
【0029】
曝気槽5内には活性汚泥が予め導入されている。そして、中継槽4から有機物含有液が曝気槽5内に導入されて活性汚泥と混合され、生物処理液が得られる。即ち、生物処理液は有機物含有液と活性汚泥との混合液である。曝気槽5内の生物処理液は、例えば散気式曝気により曝気されるとともに撹拌される。この曝気および撹拌によって、生物処理液を構成する有機物含有液中の有機物は、活性汚泥中の微生物の作用により好気的に生物処理される。曝気8では空気が用いられてもよいし、任意のガスが選択的に用いられてもよい。
【0030】
無機イオン含有薬剤、例えば水酸化カルシウムを用いて金属除去が行われた有機物含有液由来の生物処理液は、無機イオンとしてカルシウムイオンを含有している。このカルシウムイオンは、空気を用いた曝気により、空気中の二酸化炭素と反応して溶媒(例:水)に対する溶解性が低い無機物質を形成し、生物処理液中に無機質粒子が形成される。このとき、曝気による生物処理液の撹拌により、生物処理液中に微細な無機質粒子が形成される。
【0031】
有機物含有液中の有機物の生物処理は好気的な処理に限定されず、嫌気的な処理により行われてもよいし、好気的な処理と嫌気的な処理とが併用されてもよい。無機イオンを含有する有機物含有液が嫌気的に処理される場合、例えば有機物含有液を嫌気的に生物処理した後に生物処理液を曝気して該生物処理液中に無機質粒子を形成させることができる。
【0032】
曝気槽5における生物処理液のMLSSの下限値は35,000mg/Lであり、好ましくは40,000mg/Lであり、より好ましくは45,000mg/Lである。また、生物処理液のMLSSの上限値は130,000mg/Lであり、好ましくは120,000mg/Lでり、より好ましくは110,000mg/Lある。本願において、MLSSはJIS K0102において汚濁物質として規定された値を称する。生物処理液における活性汚泥由来の微生物の割合を十分に確保し、有機物含有液の処理効率を向上させる観点から、生物処理液中のMLSSの下限値は35,000mg/Lである。生物処理液における活性汚泥の割合が過剰に高くなって適切な生物処理の状態を維持することができなくなることを防ぐ観点から、生物処理液中のMLSSの上限値は130,000mg/Lである。即ち、MLSSの下限値及び上限値を前記値に設定することにより、有機物含有液の処理効率を高めるとともに適切な生物処理の状態を維持できる。
【0033】
本願における生物処理液のMLSSの下限値および上限値は、有機物含有液の処理期間における生物処理液のMLSSの測定値の下限値および上限値のことである。従って、例えば有機物含有液の処理の立ち上げ時、各槽のメンテナンス時等の期間の生物処理液のMLSSについては除外される。
【0034】
曝気槽5における生物処理液の、MLSSに対する汚泥有機性浮遊物質量(MLVSS)の割合(MLVSS/MLSS)の下限値は、好ましくは0.2であり、より好ましくは0.25である。また、MLVSS/MLSSの上限値は、好ましくは0.5であり、より好ましくは0.4である。本願において、MLVSSは、MLSSのうちJIS K0102において強熱減量として規定された値を称する。生物処理液における活性汚泥由来の微生物の割合を十分に確保し、有機物含有液の処理効率を向上させる観点から、生物処理液中のMLVSS/MLSSの下限値は0.2が好ましい。生物処理液における活性汚泥由来の微生物の割合が過剰に高くなって適切な生物処理の状態を維持することができなくなることを防ぐ観点から、生物処理液中のMLVSS/MLSSの上限値は0.5が好ましい。即ち、MLVSS/MLSSの下限値及び上限値を前記値に設定することにより、有機物含有液の処理効率を効果的に高めることができるとともに適切な生物処理の状態を容易に維持できる。
【0035】
本願における生物処理液のMLVSS/MLSSの下限値および上限値は、有機物含有液の処理期間における生物処理液のMLSS及びMLVSSの測定値により算出されたMLVSS/MLSSの下限値および上限値のことである。従って、例えば有機物含有液の処理の立ち上げ時、各槽のメンテナンス時等の期間の生物処理液のMLVSS/MLSSについては除外される。
【0036】
曝気槽5内の生物処理液は、無機質粒子を含有してもよいし含有していなくてもよい。無機質粒子は、生物処理液中の溶媒に対する溶解性が低いとともに活性汚泥による有機物含有液の生物処理に対して不活性を有するものが好ましい。無機質粒子としては、例えば炭酸カルシウム粒子、硫酸カルシウム粒子、及びケイ素化合物粒子が挙げられる。無機質粒子は、生物処理液中の無機イオン由来のものでもよいし、系外から生物処理液中に添加されたものでもよい。
【0037】
生物処理液の25℃におけるpHは、無機質粒子の溶媒に対する溶解性を低く抑えるとともに有機物含有液の処理効率を高める観点から、好ましくは6.0〜9.0であり、より好ましくは6.5〜8.5であり、さらに好ましくは7.0〜8.5であり、最も好ましくは7.5〜8.0である。生物処理液のpHをこれらの範囲に設定することにより、無機質粒子の溶解による消失を防止するとともに有機物含有液の処理効率を効果的に高めることができる。pHの調整には、例えば希塩酸、希硫酸、及び水酸化ナトリウム水溶液が使用される。
【0038】
生物処理液の温度は、好ましくは10〜55℃であり、より好ましくは25〜37℃である。生物処理液の温度をこれらの範囲に設定することにより、有機物含有液の処理効率を効果的に高めることができる。
【0039】
生物処理液の酸化還元電位(ORP)は特に限定されないが、その下限値は、好ましくは−50mVであり、より好ましくは0mVである。また、ORPの上限値は、好ましくは250mVであり、より好ましくは150mVである。酸化還元電位の下限値及び上限値をこれらの値に設定することにより、有機物含有液の処理効率を効果的に高めることができる。生物処理液の酸化還元電位は、例えば5重量%の過酸化水素水を添加することにより調整される。
【0040】
生物処理液の溶存酸素量(DO)は特に限定されないが、好ましくは1〜8mg/Lである。生物処理液の溶存酸素量をこの範囲に設定することにより、有機物含有液の処理効率を効果的に高めることができる。
【0041】
生物処理液の25℃における粘度は特に限定されないが、好ましくは20〜200mPa・sである。生物処理液の粘度は主に生物処理液中の汚泥濃度に由来する。生物処理液における活性汚泥由来の微生物の割合を十分に確保し、有機物含有液の処理効率を向上させる観点から、生物処理液の粘度は20mPa・s以上であることが好ましい。生物処理液の撹拌および曝気を容易に実施する観点から、生物処理液の粘度は200mPa・s以下であることが好ましい。即ち、生物処理液の粘度を前記範囲に設定することにより、有機物含有液の処理効率を効果的に高めることができるとともに、適切な生物処理の状態を維持することができる。
【0042】
曝気槽5における曝気量としては、例えば曝気槽底面積(m2)当たり、好ましくは3〜7m/hrであり、より好ましくは4〜5m/hrである。曝気槽5における曝気量をこれらの範囲に設定することにより、曝気槽5中の適切な生物処理の状態を維持することができる。
【0043】
<濾過槽6>
濾過槽6では、当該濾過槽6に設けられた濾体7を用いて、生物処理液を活性汚泥と濾液とに濾過分離する。濾過槽6においても生物処理液中の活性汚泥による有機物含有液の生物処理が進行する。曝気槽5と濾過槽6とが一つの処理槽で併用されてもよい。また、濾過槽6の数は限定されておらず、複数の濾過槽6が設けられてもよい。複数の濾過槽6が設けられている場合、本願における濾過槽6内の生物処理液に関するパラメータ(例えば、MLSS、MLVSS/MLSS、pH、温度、ORP、DO、粘度、曝気量及び固形成分の粒径等)は複数の濾過槽6の内の一部の濾過槽6のみに適用されてもよいし、全ての濾過槽6に適用されてもよい。
【0044】
濾過槽6内には、例えばオーバーフローにより曝気槽5内の生物処理液が導入される。濾過槽6内には、生物処理液から濾液を濾過分離するための濾体7が設けられている。濾体7の少なくとも一部は生物処理液に浸漬されており、例えば濾体7に接続された配管に設けられたポンプの吸引により、濾液が活性汚泥から分離されて系外に排出される。生物処理液の濾過分離は、連続的または間欠的に行われる。濾体7は生物処理液を濾過分離することができるものであれば特に限定されず、濾体7として例えば浸漬膜が挙げられる。浸漬膜が用いられる場合、複数の浸漬膜が組み合わされてユニットを構成し、該ユニットが生物処理液中に浸漬されてもよい。
【0045】
濾体7を構成する浸漬膜の材質は特に限定されず、材質として例えばポリエチレン、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、及びこれらの誘導体等が挙げられる。膜分離性能および膜汚染防止効果の観点から、浸漬膜の表面に親水化処理が施されることが好ましい。浸漬膜の形状として、例えば中空糸膜、管状(チューブラー)膜、及び平膜が挙げられる。
【0046】
浸漬膜の平均孔径は、好ましくは0.05〜0.5μmであり、より好ましくは0.08〜0.4μmである。浸漬膜の平均孔径をこれらの範囲に設定することにより、生物処理液からの濾液を濾過分離を容易に行うことができる。
【0047】
濾過槽6内の生物処理液は、例えば散気式曝気により、曝気されるとともに撹拌されている。これにより、生物処理液中の無機質粒子は濾過槽6内を循環する。更に、生物処理液中の有機物が、活性汚泥中の微生物の作用により更に生物処理される。曝気8は、例えば濾体7の下方から行われる。
【0048】
濾過槽6における曝気量は、例えば濾過槽底面積(m2)当たり、好ましくは5〜10m/hrであり、より好ましくは6〜8m/hrである。濾過槽6における曝気量をこれらの範囲に設定することにより、濾体7の表面を該濾体7の下方からの曝気により洗浄することができるとともに濾過槽6中の適切な生物処理の状態を維持することができる。
【0049】
濾過槽6内の生物処理液のMLSSの下限値は35,000mg/Lであり、好ましくは40,000mg/Lである。また、生物処理液のMLSSの上限値は130,000mg/Lであり、好ましくは120,000mg/Lである。生物処理液における活性汚泥由来の微生物の割合を十分に確保し、有機物含有液の処理効率を向上させる観点から、生物処理液中のMLSSの下限値は35,000mg/Lである。生物処理液における活性汚泥の割合が過剰に高くなって濾体7の目詰まりが発生することを防ぐ観点から、生物処理液中のMLSSの上限値は130,000mg/Lである。即ち、MLSSの下限値及び上限値を前記値に設定することにより、生物処理液の処理効率を高めることができるとともに高い処理効率を維持できる。
【0050】
MLSSの上限値及び下限値を前記値に維持する方法としては、例えば必要に応じて活性汚泥を曝気槽に返送する方法、別途に設けた汚泥貯留槽へ活性汚泥を引き抜く方法、及び新たな活性汚泥を追加する方法が挙げられる。
【0051】
濾過槽6内の生物処理液のMLVSS/MLSSの下限値は、好ましくは0.2であり、より好ましくは0.25である。また、MLVSS/MLSSの上限値は、好ましくは0.5であり、より好ましくは0.4である。生物処理液における活性汚泥由来の微生物の割合を十分に確保し、生物処理液の処理効率を向上させる観点から、生物処理液中のMLVSS/MLSSの下限値は0.2が好ましい。生物処理液における無機質粒子の割合を十分に確保して濾体の性能を維持させる観点から、生物処理液中のMLVSS/MLSSの上限値は0.5が好ましい。即ち、MLVSS/MLSSの下限値及び上限値を前記値に設定することにより、生物処理液の処理効率を効果的に高めることができるとともに高い処理効率を維持できる。
【0052】
濾過槽6内の生物処理液中のその他の各種パラメータ、具体的には25℃におけるpH、温度、酸化還元電位、溶存酸素量、及び粘度についての、好ましい範囲及び好ましい理由は、曝気槽5でのそれと同じである。
【0053】
濾過槽6内の生物処理液は無機質粒子を含有している。このことにより、生物処理液は、少なくとも濾過分離の直前に無機質粒子を含有することとなる。無機質粒子は生物処理液中の無機イオン由来のものでもよいし、系外から生物処理液中に添加されたものでもよい。
【0054】
生物処理液の濾過分離の進行に伴い、濾体7の表面上に活性汚泥が堆積して濾体7が目詰まりを起こし、該濾体7の濾過性能が低下するおそれがある。本発明では、堆積した活性汚泥は濾体7の下方からの曝気により濾体7の表面から掻き落とされる。本発明では更に、濾過槽6内の生物処理液中に無機質粒子を含有させることにより、高いMLSSに起因する有機物含有液の高い処理効率を維持することができる。これは、以下の理由によるものと推察される。即ち、生物処理液中の無機質粒子は、生物処理液の曝気により、該処理液が収容された濾過槽6内を循環している。この循環している無機質粒子が、濾体7の表面上に過剰に堆積した汚泥に衝突して該汚泥を濾体7の表面から掻き落とす。その結果、濾体7の表面上に活性汚泥が過剰に堆積することが抑制される。そのため、濾体7の濾過性能を維持して長期間(例えば6〜12ヶ月間)に亘って濾体7の洗浄や交換を行うことなく、高いMLSSに起因する有機物含有液の高い処理効率を維持することができる。よって、曝気槽5及び濾過槽6の容積を小さくすることができ、有機物含有液の処理装置全体の小型化が可能となる。
【0055】
無機質粒子の形状は、好ましくは針状である。この場合、濾体7の表面上に堆積した汚泥を効果的に掻き落とすことができる。無機質粒子の形状が針状であるとは、次のようにして定義される。即ち、針状の無機質粒子とは、例えば微分干渉顕微鏡にて生物処理液を観察した際に、先端が尖った円錐形、棒状等の一方向に延びる形状が観察される粒子のことである。また、形成される無機質粒子は、複数の粒子からなる凝集体であってもよい。
【0056】
濾過槽6内における生物処理液の固形成分の粒径は特に限定されないが、例えば個数基準のメディアン径は0.3〜4.0μmが好ましい。さらに当該粒径の体積基準のメディアン径は15〜60μmが好ましい。固形成分の一種である無機質粒子による活性汚泥の掻き落としを効果的に行うという観点から、固形成分のメディアン径は個数基準で0.3μm以上、又は体積基準で15μm以上であることが好ましい。曝気により無機質粒子を十分に撹拌させる観点から、生物処理液の固形成分のメディアン径は個数基準で4.0μm以下、又は体積基準で60μm以下であることが好ましい。即ち、生物処理液の固形成分のメディアン径を前記範囲に設定することにより、濾体の濾過性能を維持して生物処理液の高い処理効率を容易に維持することができる。本願において、生物処理液の固形成分の粒径の測定は、槽から採取された生物処理液をイオン交換水で希釈して試料を調製し、レーザー回折法を利用して該試料の粒度分布を測定することにより実施される。
【0057】
濾過槽6内における生物処理液の固形成分の10%粒径は、個数基準で好ましくは0.1〜2.5μmであり、体積基準で好ましくは5.0〜15μmである。また、固形成分の90%粒径は、個数基準で好ましくは0.5〜15μmであり、体積基準で好ましくは50〜230μmである。固形成分の各粒径を前記範囲に設定することにより、濾過性能を効果的に維持することができる。固形成分の10%粒径及び90%粒径は、上記の固形成分の粒径の測定と同様にして求められる。
【0058】
有機物含有液の処理の際には、必要に応じて濾過槽6内の活性汚泥が曝気槽5内に返送される。その際、活性汚泥とともに無機質粒子も返送される。そのため、濾過槽6内における無機質粒子及び生物処理液の固形成分に関する好ましい範囲を曝気槽5における無機質粒子および生物処理機の固形成分に適用してもよい。
【0059】
生物処理液の濾過分離が長期間に亘ると、濾体7の表面に無機質粒子と活性汚泥とが付着する。このとき、濾体7の表面に活性汚泥が付着し、該活性汚泥上に無機質粒子が付着すると推察される。濾体7の表面に無機質粒子と活性汚泥とが付着したときには、濾体7を濾過槽6から取り出し、例えば濾体7を水洗することにより該濾体7の表面から無機質粒子と活性汚泥とを除去することが好ましい。濾体7の水洗の際、活性汚泥上の無機質粒子が濾体7の表面に付着した活性汚泥を掻き落としながら除去される。このため、無機質粒子と活性汚泥とが濾体7の表面から効率的に除去される。濾体7の水洗後、該濾体7の表面を更に洗浄するために、濾体7を例えば塩酸に浸漬する。洗浄後の濾体7は生物処理液に再度浸漬される。
【0060】
本発明によって処理された濾液は、下水、公共水域等に放流するに適した水質となっている。「下水、公共水域等に放流するに適した水質」とは、地域等により基準が異なる場合もあるが、例えば、2005年時点における日本国岐阜県大垣市の下水放流基準〔pH:5.0〜9.0、BOD:(河川放流BOD+2×懸濁浮遊物質量)600mg/L以下、全窒素量(T−N):240mg/L以下、全リン量(T−P):32mg/L以下〕の条件を満たす水質等が挙げられる。
【実施例】
【0061】
次に、実施例および比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
実施例1
図2に示される処理フローの処理装置を用いて有機物含有液の処理を行った。ただし、実施例1における曝気槽5は2槽であった。実施例1では、メッキ工場及びプリント工場から排出される、金属イオンを含有する有機物含有液および金属イオンを含有しない有機物含有液を用いた。具体的には、銅イオンを含有する脱脂剤含有液(1)と、銅イオンを含有しない脱脂剤含有液(1')とを用いた。
【0062】
次のようにして、銅イオンを含有する脱脂剤含有液(1)を処理した。即ち、脱脂剤含有液(1)を金属除去槽1に導入した。金属除去槽1では、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム、希硫酸、及び高分子凝集剤(アニオン性高分子凝集剤)を用いた中和反応、並びにキレート剤を用いたキレート反応を利用して、脱脂剤含有液(1)から銅イオンを除去した。銅イオン除去後の脱脂剤含有液(2)をpH調整槽3に導入した。
【0063】
また、次のようにして、銅イオンを含有しない脱脂剤含有液(1')を処理した。即ち、脱脂剤含有液(1')を貯留槽2に導入した後、貯留槽2中の脱脂剤含有液(2')をpH調整槽3に導入した。
【0064】
pH調整槽3では、各脱脂剤含有液(2)、(2')の混合を行った後、水酸化ナトリウム水溶液及び希硫酸を用いて脱脂剤含有液のpHを6.2〜8.0の間に調整した。次いで、pH調整後の脱脂剤含有液を中継槽4に導入した。
【0065】
中継槽4中の脱脂剤含有液(3)を第一曝気槽に133〜204m3/日の割合で導入し、次いで第一曝気槽中の脱脂剤含有液(4)を第二曝気槽に導入した。各曝気槽の容積の合計は300m3であった。各曝気槽中の生物処理液を空気で曝気して撹拌し、第一曝気槽及び第二曝気槽の曝気量をそれぞれ200m3/hr以下とした。
【0066】
第二曝気槽で曝気された生物処理液(4')を濾過槽6(容積:150m3)に導入して該濾過槽6中の生物処理液(5)の空気による曝気を行った。濾過槽6の曝気量を200m3/hr以下とした。処理の間中、濾過槽6から各曝気槽に活性汚泥を返送した。
【0067】
濾過槽6に設けられた濾体7としての複数の浸漬膜(平均孔径:0.08μm)のユニットから濾液(6)を吸引した。得られた濾液のpHを水酸化ナトリウム水溶液及び希硫酸を用いて7.6〜8.6に調整した後、濾液を排出した。
【0068】
前記脱脂剤含有液、生物処理液、濾液の水質、及び性状を表1に示す。下記の各表において、“TOC”欄の値は全有機炭素量を表し、“COD”欄の値は化学的酸素要求量を表し、“Cu”欄の値は銅イオンの含有量を表す。また、“T−N”欄の値は全窒素量を表し、“T−P”欄の値は全リン量を表し、“SS”欄の値は浮遊物質量を表し、“SV30”欄の値は活性汚泥沈降率を表す。これらの測定は常法に従った。“粘度”欄の値は、東機産業株式会社製のTVC−5形粘度計を用いた25℃のときの測定値を表し、“pH”欄の値は、25℃のときの測定値を表す。
【0069】
表1において、MLSS、MLVSS及びMLSS/MLVSSの各欄の値は約5ヶ月間の上限値、下限値、及び平均値を示し、これらの項目以外の各欄の値は約5ヶ月間の平均値を示す。
【0070】
【表1】

【0071】
生物処理液(5)を微分干渉顕微鏡(オリンパス社製AX80)により観察した。その結果、針状の無機質粒子を確認した(図3中の矢印)。
【0072】
生物処理液(5)のX線回折分析を行った。具体的には、採取した生物処理液(5)を自然乾燥させた後、Rigaku社製X線回折装置RINT−TTRIIIを用いて測定した。その結果、炭酸カルシウム(カルサイト:方解石)及び炭酸カルシウムの水和物を検出した。
【0073】
生物処理液(5)の固形成分の粒度分布を、島津製作所製粒度分布測定装置SALD−2000Jを用いたレーザー回折法により測定した。その結果、体積基準では、10%径が11.9μmであり、メディアン径(50%径)が36.3μmであり、90%径が85.5μmであった。また、個数基準では、10%径が2.12μmであり、メディアン径(50%径)が3.66μmであり、90%径が9.73μmであった。
【0074】
生物処理液(5)のSEM観察及び元素分析を行った。具体的には、採取した生物処理液(5)を遠心分離処理し、得られた沈殿物をエポキシ樹脂に包埋した。そして、包埋物の断面を研磨した後、JEOL社製走査電子顕微鏡JSM−6480LA及びエネルギー分散型X線分析装置JED−2300を用いて断面の観察及び分析を行った。その結果、複数の分析領域においてC、O及びCaを主に検出した。
【0075】
浸漬膜の表面への付着物のSEM観察及び元素分析を行った。具体的には、浸漬膜の表面の付着物を採取し、走査電子顕微鏡を用いたSEM観察及びEPMAを用いた元素分析を行った。その結果、浸漬膜上の付着物において、浸漬膜の表面上ではCaを検出せず、浸漬膜の表面から離間した箇所でCaを検出した。更に、浸漬膜の表面から離間するに伴い、Caの存在割合が高くなった。このことから、浸漬膜の表面上に活性汚泥が堆積し、該汚泥上に炭酸カルシウム粒子が堆積すると推察された。付着物が付いた浸漬膜の表面に水流を当てて浸漬膜を水洗したところ、該浸漬膜の表面から付着物を容易に除去することができた。
【0076】
濾液(6)は下水に放流するに適した水質となっていた。さらに、MLSSが表1に示すような高い値であっても約5ヶ月間という長期に亘って有機物含有液の生物処理を維持できることも分かった。
【0077】
実施例2
図2に示される処理フローの処理装置を用いて有機物含有液の処理を行った。ただし、実施例2における曝気槽5は6槽であった。実施例2では、メッキ工場及びプリント工場から排出される、金属イオンを含有する有機物含有液および金属イオンを含有しない有機物含有液を用いた。具体的には、銅イオンを含有する脱脂剤含有液と、銅イオンを含有しない脱脂剤含有液とを用いた。
【0078】
次のようにして、銅イオンを含有する脱脂剤含有液を処理した。即ち、脱脂剤含有液を金属除去槽1に導入した。金属除去槽1では、アニオン性高分子凝集剤、希硫酸、及び硫化水素ナトリウムを用いた硫化処理により、脱脂剤含有液から銅イオンを除去した。銅イオン除去後の脱脂剤含有液をpH調整槽3に導入した。硫化処理では、硫化水素ナトリウムの添加前に水酸化ナトリウム水溶液及び水酸化カルシウムを用いて脱脂剤含有液のpHを9.0〜9.5に調整した。更に、脱脂剤含有液中の銅イオン濃度を測定して銅イオンの除去に必要な量の硫化水素ナトリウムを算出した後、該必要な量の1.1倍量の硫化水素ナトリウムを添加した。30分〜1時間をかけて硫化処理を行った。更に、過剰な硫化水素ナトリウムによる硫化反応後、残余の硫黄を除去するためにポリ硫酸第二鉄を用いた。
【0079】
また、次のようにして、銅イオンを含有しない脱脂剤含有液を処理した。即ち、脱脂剤含有液を貯留槽2に導入した後、貯留槽2中の脱脂剤含有液をpH調整槽3に導入した。
【0080】
pH調整槽3では、各脱脂剤含有液の混合を行った後、希硫酸を用いて脱脂剤含有液のpHを6.8〜8.2の間に調整した。次いで、pH調整後の脱脂剤含有液を中継槽4に導入した。
【0081】
中継槽4中の脱脂剤含有液(3)を第一曝気槽に240〜290m3/日の割合で導入し、次いで第一曝気槽中の生物処理液(4)を第二曝気槽に、第二曝気槽から第三曝気槽にというように、順次次の曝気槽に導入した。各曝気槽の容積の合計は531m3であった。各曝気槽中の生物処理液を空気で曝気して撹拌した。
【0082】
第六曝気槽で曝気された生物処理液を濾過槽6(容積:98m3)に導入して該濾過槽6中の生物処理液(5)の空気による曝気を行った。処理の間中、濾過槽6から各曝気槽に活性汚泥を返送した。
【0083】
濾過槽6に設けられた濾体7としての複数の浸漬膜(平気孔径:0.08μm)のユニットから濾液(6)を吸引した。得られた濾液のpHを希硫酸を用いて7.6〜8.7に調整した後、濾液を排出した。
【0084】
前記脱脂剤含有液、生物処理液、濾液の水質、及び性状を表2に示す。表2において、MLSS、MLVSS及びMLSS/MLVSSの各欄の値は約1ヶ月間の上限値、下限値、及び平均値を示し、これらの項目以外の各欄の値は約1ヶ月間の平均値を示す。
【0085】
【表2】

【0086】
生物処理液(5)、及び濾過槽6の底に溜まった沈殿物を、実施例1と同様の方法により微分干渉顕微鏡を用いて観察した。生物処理液(5)の観察結果を図4に示し、沈殿物の観察結果を図5に示す。その結果、生物処理液(5)及び沈殿物の両方において、針状の無機質粒子を確認した(図4中及び図5中の矢印)。
【0087】
生物処理液(5)及び沈殿物のX線回折分析を、実施例1と同様の方法で行った。その結果、生物処理液(5)及び沈殿の両方において、炭酸カルシウム(カルサイト:方解石、アラゴナイト:あられ石)及び硫酸ナトリウムを検出した。
【0088】
生物処理液(5)及び沈殿物の固形成分の粒度分布を、実施例1と同様の方法で測定した。その結果、生物処理液(5)においては、体積基準では、10%径が11.3μmであり、メディアン径(50%径)が29.2μmであり、90%径が66.9μmであった、また、個数基準では、10%径が1.59μmであり、メディアン径(50%径)が3.25μmであり、90%径が10.3μmであった。一方、沈殿物においては、体積基準では、10%径が13.9μmであり、メディアン径(50%径)が55.1μmであり、90%径が222μmであった。また、個数基準では、10%径が0.27μmであり、メディアン径(50%径)が0.34μmであり、90%径が0.79μmであった。
【0089】
生物処理液(5)及び沈殿物のSEM観察及び元素分析を、実施例1と同様の方法で行った。生物処理液(5)に関し、互いに異なる領域でのSEM観察の結果をそれぞれ図6及び図7に示す。SEM観察の結果、生物処理液(5)において、針状粒子を確認した。また、生物処理液(5)及び沈殿物の両方に関し、複数の分析領域においてC、O、及びCaを主に検出した。
【0090】
液中の揮発性成分について、スタテイックヘッドスペース/ガスクロマトグラフィー/質量分析法により分析した。その結果、脱脂剤含有液(3)からは、アルコール(メタノール、エタノール、1−ブタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセルソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、及びアセトンを検出したが、濾液からはこれらの化合物を検出しなかった。
【0091】
液中の不揮発性成分について、クロロホルム抽出及びFT−IRにより分析した。その結果、脱脂剤含有液(3)からはトルエンスルホンアミド(又はその由来成分)、アミド系成分、メラミン系成分、及び脂肪族系成分(ポリオキシアルキレングリコール)を検出した。また、濾液からはアミド系成分、メラミン系成分、及びポリオキシアルキレングリコールを検出したが、トルエンスルホンアミド(又はその由来成分)を検出しなかった。脱脂剤含有液(3)の不揮発性成分及び濾液の不揮発性成分の定量の結果、濾液の方が不揮発性成分がより少ないことが分かった。
【0092】
液中のSO42-の量をイオンクロマトグラフ法により測定した。その結果、脱脂剤含有液(3)からは14000μg/mLのSO42-を検出し、濾液からは10000μg/mLのSO42-を検出した。
【0093】
液中の金属成分について、ICP−MSによる分析を行った。その結果、脱脂剤含有液(3)からB、Na、Mg、Al、K、Ca、Mn、Ni、Cu、Se及びSrを検出した。また、濾液からB、Na、Mg、K、Ca、Ni、Cu、及びSrを検出したが、Al、Mn、及びSeを検出しなかった。
【0094】
濾液(6)は下水に放流するに適した水質となっていた。さらに、MLSSが表2に示す高い値であっても、約1ヶ月に亘って有機物含有液の生物処理を維持できることも分かった。
【0095】
実施例3
図2に示される処理フローの処理装置を用いて有機物含有液の処理を行った。ただし、実施例3においては、pH調整槽3と中継槽4とが逆に配置されており、曝気槽5は4槽であった。実施例3では、メッキ工場及びプリント工場から排出される、金属イオンを含有する有機物含有液および金属イオンを含有しない有機物含有液を用いた。具体的には、銅イオンを含有する脱脂剤含有液と、銅イオンを含有しない脱脂剤含有液とを用いた。
【0096】
次のようにして、銅イオンを含有する脱脂剤含有液を処理した。即ち、脱脂剤含有液を金属除去槽1に導入した。金属除去槽1では、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム、及び希塩酸を用いた中和反応、並びにキレート剤、水酸化カルシウム、及び希塩酸を用いたキレート反応を利用して、脱脂剤含有液から銅イオンを除去した。銅イオン除去後の脱脂剤含有液を中継槽4に導入した。
【0097】
また、次のようにして、銅イオンを含有しない脱脂剤含有液を処理した。即ち、脱脂剤含有液を貯留槽2に導入した後、貯留槽2中の脱脂剤含有液を中継槽4に導入した。
【0098】
中継槽4において各脱脂剤含有液の混合を行った後、中継槽4中の脱脂剤含有液をpH調整槽3に導入した。pH調整槽3では、水酸化ナトリウム水溶液及び希硫酸を用いて脱脂剤含有液(3)のpHを調整した。
【0099】
pH調整槽3中の脱脂剤含有液(3)を第一曝気槽に導入し、次いで第一曝気槽中の生物処理液(4)を第二曝気槽に、第二曝気槽から第三曝気槽にというように、順次次の曝気槽に導入した。各曝気槽の容積の合計は1353m3であった。各曝気槽中の生物処理液を空気で曝気して撹拌した。
【0100】
第四曝気槽で曝気された生物処理液を濾過槽6(容積:370m3)に導入して該濾過槽6中の生物処理液(5)の空気による曝気を行った。処理の間中、濾過槽6から各曝気槽に活性汚泥を返送した。
【0101】
濾過槽6に設けられた濾体7としての複数の浸漬膜(平均孔径:0.08μm)のユニットから濾液(6)を吸引した。得られた濾液のpHを希硫酸及び水酸化ナトリウム水溶液を用いて調整した後、濾液を排出した。
【0102】
前記脱脂剤含有液、生物処理液、濾液の水質、及び性状を表3に示す。表3中において、MLSS、MLVSS及びMLSS/MLVSSの各欄の数値は約1ヶ月間の上限値、下限値、及び平均値を示し、これらの項目以外の各欄の数値は約1ヶ月間の平均値を示す。
【0103】
【表3】

【0104】
濾液は下水に放流するに適した水質となっていた。さらに、MLSSが表3に示すような高い値であっても約1ヶ月間という長期に亘って有機物含有液の生物処理を維持できることも分かった。
【0105】
実施例4
図8に示される処理フローの処理装置を用いて有機物含有液の処理を行った。ただし、実施例4においてはpH調整槽を省略し、曝気槽5及び濾過槽6での処理については、2通りの処理フロー(処理フローA及び処理フローB)に従って実施した。処理フローAにおける曝気槽5は8槽であり、処理フローBにおける曝気槽5は3槽であった。
【0106】
実施例4では、メッキ工場及びプリント工場から排出される、金属イオンを含有する有機物含有液および金属イオンを含有しない有機物含有液を用いた。具体的には、銅イオンを含有する脱脂剤含有液と、銅イオンを含有しない脱脂剤含有液とを用いた。
【0107】
次のようにして、銅イオンを含有する脱脂剤含有液を処理した。即ち、脱脂剤含有液を金属除去槽1に導入した。金属除去槽1では、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム、希塩酸及びアニオン性高分子凝集剤を用いた中和反応、並びにキレート剤、水酸化カルシウム及び希塩酸を用いたキレート反応を利用して、脱脂剤含有液から銅イオンを除去した。銅イオン除去後の脱脂剤含有液を中継槽4に導入した。
【0108】
また、次のようにして、銅イオンを含有しない脱脂剤含有液を処理した。即ち、脱脂剤含有液を貯留槽2に導入した後、貯留槽2中の脱脂剤含有液を中継槽4に導入した。
【0109】
中継槽4では、各脱脂剤含有液の混合を行った後、水酸化ナトリウム水溶液及び希塩酸を用いて中継槽4中の脱脂剤含有液(3)のpHを調整した。次いで、脱脂剤含有液(3)を処理フローA又は処理フローBのいずれかで処理するように、曝気槽5に導入した。
【0110】
処理フローAにおいては、脱脂剤含有液(3)を中継槽4から第一曝気槽に導入し、次いで第一曝気槽中の生物処理液(4)を第二曝気槽に、第二曝気槽から第三曝気槽にというように、順次次の曝気槽に導入した。各曝気槽の容積の合計は185m3であった。各曝気槽中の生物処理液を空気で曝気して撹拌した。第八曝気槽で曝気された生物処理液を濾過槽6(容積:30m3)に導入して該濾過槽6中の生物処理液(5)の空気による曝気を行った。
【0111】
処理フローBにおいては、脱脂剤含有液(3)を中継槽4から第一曝気槽に導入し、次いで第一曝気槽中の生物処理液(4')を第二曝気槽に、第二曝気槽から第三曝気槽にというように、順次次の曝気槽に導入した。各曝気槽の容積の合計は100m3であった。各曝気槽中の生物処理液を空気で曝気して撹拌した。第三曝気槽で曝気された生物処理液を濾過槽6(容積:40m3)に導入して該濾過槽6中の生物処理液(5')の空気による曝気を行った。
【0112】
各処理フローの濾過槽6に設けられた濾体7としての複数の浸漬膜(平均孔径:0.08μm)のユニットから処理フローAの濾液(6)及び処理フローBの濾液(6')をそれぞれ吸引した後にそれらを一つの槽内にまとめ、該槽中の濾液のpHを、水酸化ナトリウム水溶液及び希塩酸を用いて7.0〜8.2に調整した後、濾液を排出した。
【0113】
前記脱脂剤含有液、生物処理液、濾液の水質、及び性状を表4に示す。表4において、MLSS、MLVSS及びMLSS/MLVSSの各欄の値は約1ヶ月間の上限値、下限値、及び平均値を示し、これらの項目以外の各欄の値は約1ヶ月間の平均値を示す。
【0114】
【表4】

【0115】
生物処理液(5')を、実施例1と同様の方法により微分干渉顕微鏡を用いて観察した。その結果、針状の無機質粒子を確認した(図9中の矢印)。
【0116】
生物処理液(5')のX線回折分析を、実施例1と同様の方法で行った。その結果、炭酸カルシウム(カルサイト:方解石、アラゴナイト:あられ石)及び硫酸ナトリウムを検出した。
【0117】
生物処理液(5')の固形成分の粒度分布を、実施例1と同様の方法で測定した。その結果、体積基準では、10%径が5.74μmであり、メディアン径(50%径)が19.7μmであり、90%径が57.6μmであった。また、個数基準では、10%径が0.37μmであり、メディアン径(50%径)が0.53μmであり、90%径が1.05μmであった。
【0118】
生物処理液(5')のSEM観察及び元素分析を、実施例1と同様の方法で行った。互いに異なる領域でのSEM観察の結果をそれぞれ図10及び図11に示す。SEM観察の結果、針状粒子の凝集体を確認した。また、複数の分析領域においてC、O及びCaを主に検出した。
【0119】
濾液(6),(6')は下水に放流するに適した水質となっていた。さらに、MLSSが表4に示す高い値であっても、約1ヶ月に亘って有機物含有液の生物処理を維持できることも分かった。
【0120】
比較例1
濾過槽6を省略したこと以外は、図2に示される処理フローの処理装置を用いて有機物含有液の処理を行った。ただし、比較例1においては、pH調整槽3と中継槽4とが逆に配置されており、曝気槽5は9槽であった。更に、比較例1においては濾過槽6の代わりに、第九曝気槽に濾体を設けた。即ち、第九曝気槽が濾過槽を兼ねる処理フローであった。比較例1では、メッキ工場及びプリント工場から排出される、金属イオンを含有する有機物含有液および金属イオンを含有しない有機物含有液を用いた。具体的には、銅イオンを含有する脱脂剤含有液と、銅イオンを含有しない脱脂剤含有液とを用いた。
【0121】
次のようにして、銅イオンを含有する脱脂剤含有液を処理した。即ち、脱脂剤含有液を金属除去槽1に導入した。金属除去槽1では、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム、希塩酸及びアニオン性高分子凝集剤を用いた中和反応、並びにキレート剤、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム及びアニオン性高分子凝集剤を用いたキレート反応を利用して、脱脂剤含有液から銅イオンを除去した。銅イオン除去後の脱脂剤含有液を中継槽4に導入した。
【0122】
また、次のようにして、銅イオンを含有しない脱脂剤含有液を処理した。即ち、脱脂剤含有液を貯留槽2に導入した後、貯留槽2中の脱脂剤含有液を中継槽4に導入した。
【0123】
中継槽4において各脱脂剤含有液の混合を行った後、中継槽4中の脱脂剤含有液をpH調整槽3に導入した。pH調整槽3では、水酸化ナトリウム水溶液を用いて脱脂剤含有液(3)のpHを5.8〜8.5の間に調整した。
【0124】
pH調整後の脱脂剤含有液をpH調整槽3から第一曝気槽に導入し、次いで第一曝気槽から第二曝気槽に、第二曝気槽から第三曝気槽にというように、順次次の曝気槽に導入した。各曝気槽の容積の合計は600m3であった。各曝気槽中の生物処理液を空気で曝気して撹拌した。
【0125】
第九曝気槽に濾体7としての複数の浸漬膜(平均孔径:0.08μm)のユニットを設け、該ユニットを用いて第九曝気槽中の生物処理液(5)から濾液(6)を吸引した。得られた濾液(6)のpHを、水酸化ナトリウム水溶液及び希塩酸を用いて調整した後、濾液(6)を排出した。
【0126】
脱脂剤含有液(3)の水質は次の通りであった。即ち、TOCは1785mg/Lであり、BODは2233mg/Lであり、CODは2500mg/Lであり、T−Nは483mg/Lであり、T−Pは0.3mg/Lであり、Cuは0.8mg/Lであった。一方、濾液(6)の水質は次の通りであった。即ち、pHは7.6〜8.5であり、TOCは123mg/Lであり、BODは30mg/Lであり、CODは163mg/Lであり、T−Nは180mg/Lであり、T−Pは1.5mg/Lであり、Cuは0.2mg/Lであり、SSは320mg/であった。ここで、pH以外の水質の数値は約1ヶ月間の平均値を示す。
【0127】
生物処理液(5)を、実施例1と同様の方法により微分干渉顕微鏡を用いて観察した。その結果、無機質粒子を確認した。
【0128】
生物処理液(5)のX線回折分析を、実施例1と同様の方法で行った。その結果、炭酸カルシウム(カルサイト:方解石)及び硫酸ナトリウムを検出した。
【0129】
生物処理液(5)の固形成分の粒度分布を、実施例1と同様の方法で測定した。その結果、体積基準では、10%径が20.5μmであり、メディアン径(50%径)が67.7μmであり、90%径が154μmであった。また、個数基準では、10%径が3.33μmであり、メディアン径(50%径)は5.87μmであり、90%径は14.7μmであった。
【0130】
生物処理液(5)のSEM観察及び元素分析を、実施例1と同様の方法で行った。その結果、複数の分析領域においてC、O及びCaを主に検出した。
【0131】
比較例1では、MLSSの増加とともに濾体が目詰まりを起こして濾過性能を維持することができなかった。具体的には、濾体が目詰まりを起こさないときの曝気槽中のMLSSは、上限値で7200mg/Lであり、下限値で2700mg/Lであり、平均値で5550mg/Lであった。また、MLVSSは、上限値で6300mg/Lであり、下限値で2600mg/Lであり、平均値で3475mg/Lであった。更に、MLVSS/MLSSは、上限値で0.70、下限値で0.58であり、平均値で0.64であった。
これは、生物処理液の固形成分のメディアン径が個数基準で4.0μmを超えるとともに体積基準で60μmを超えることから、曝気槽中において無機質粒子を十分に撹拌することができなかったためと推察される。そのため、曝気槽への生物処理液の導入量を少なくして曝気槽でのMLSSの上昇を抑えつつ処理を実施せざるを得なかった。その結果、実施例1に比べて有機物含有液の処理効率が低下し、該有機物含有液の処理に長時間を要した。
【0132】
比較例2
実施例1と同様にして、有機物含有液の処理を行った。ただし、生物処理液(4)、(4')及び生物処理液(5)のMLSSがそれぞれ35,000mg/L未満の状態で有機物含有液の処理を行った。
【0133】
具体的には、例えば曝気槽5及び濾過槽6から活性汚泥を引き抜いて生物処理液(4)、(4')及び生物処理液(5)のMLSSを30,000mg/Lにしたところ、実施例1の脱脂剤含有液(3)のBODを下水に放流するのに適した値にまで低下させるのに要する時間が実施例1の約2倍にまで延びた。そのため、実施例1に比べて有機物含有液の処理効率が低下し、該有機物含有液の処理に長時間を要した。
【0134】
比較例3
実施例1と同様にして、有機物含有液の処理を行った。ただし、生物処理液(4)、(4')及び生物処理液(5)のMLSSがそれぞれ130,000mg/Lを超えた状態で有機物含有液の処理を行った。
【0135】
具体的には、例えば曝気槽5及び濾過槽6に新たな活性汚泥を追加して生物処理液(4)、(4')及び生物処理液(5)のMLSSを140,000mg/Lにしたところ、浸漬膜が目詰まりを起こして濾液(6)を吸引することができなくなり、有機物含有液の処理を続けることができなくなった。
【0136】
比較例4
実施例1と同様にして、有機物含有液の処理を行った。ただし、金属除去槽1におけるCa(OH)2の添加を省略した。その結果、生物処理液(4)、(4')及び生物処理液(5)のMLSSを実施例1と同様の範囲にまで高めることができたものの、浸漬膜が目詰まりを起こして濾液(6)を吸引することができなくなり、有機物含有液の処理を続けることができなくなった。更に、付着物が付いた浸漬膜の表面に水流を当てて水洗したとこと、浸漬膜の表面からの付着物の除去が実施例1に比べて困難であった。
【0137】
このように、生物処理液のMLSSが所定の範囲外では、有機物含有液の処理効率の低下が生じたり、処理効率を維持することができなくなったりした。さらには、濾過槽6内の生物処理液中に無機質粒子が存在しなければ、MLSSを上昇させると処理効率を維持することができなくなった。また、濾過槽6内の生物処理液中に無機質粒子が存在しなければ、濾体の表面からの付着物の除去が困難になった。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の有機物含有液の処理方法は、メッキ廃液、プリント基板洗浄廃液等の有機物含有液の処理に利用することができる。
【符号の説明】
【0139】
1 金属除去槽
2 貯留槽
3 pH調整槽
4 中継槽
5 曝気槽
6 濾過槽
7 濾体(浸漬膜)
8 曝気
A 処理フローA
B 処理フローB

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性汚泥と有機物含有液とを混合して得られた生物処理液を曝気するとともに、該生物処理液に浸漬させた濾体を用いて生物処理液から濾液を濾過分離する有機物含有液の処理方法であって、
前記生物処理液は、少なくとも濾過分離の直前に無機質粒子を含有し、生物処理液の汚泥浮遊物質量の下限値を35,000mg/Lとするとともに上限値を130,000mg/Lとする、有機物含有液の処理方法。
【請求項2】
無機質粒子の形状が針状である、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
無機質粒子が炭酸カルシウム粒子である、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
無機質粒子が、予め生物処理液中に無機イオンを溶解させ、該生物処理液を曝気することにより形成される粒子である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項5】
濾体を生物処理液から取り出し、該濾体の表面に付着した無機質粒子と活性汚泥とを除去する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−227737(P2010−227737A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75052(P2009−75052)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】