説明

有機発光素子

【課題】連続駆動寿命の長い、高効率で、色純度の高い青色有機発光素子を提供する。
【解決手段】陽極2と陰極4と、陽極と陰極との間に挟持され、少なくとも発光層3を含む有機化合物層と、から構成され、発光層に、第一ホストと、第二ホストと、ゲストと、を有し、青色発光する有機発光素子であって、第二ホストが、一般式[1]で示される化合物又は一般式[1]で示される化合物にベンゼン環、ナフタレン環、フェナレン環、アントラセン環、フェナントレン環から選択される芳香環が縮合してなるベンゼン環数が7環以下の化合物であり、第二ホストの最低三重項励起エネルギーが、第一ホストの最低三重項励起エネルギーより小さく、発光層において、最低一重項励起エネルギーが最も小さい材料が、発光材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、陽極と陰極との間に発光性有機化合物を含む薄膜を配置させてなる電子素子であり、陽極と陰極との間に電圧を印加し、正孔及び電子を注入することにより駆動する。ここで陽極及び陰極からそれぞれ注入された正孔及び電子が発光性有機化合物を含む薄膜内で再結合し、発光性有機化合物の励起状態を生成させ、発光性化合物の励起状態が基底状態に戻る際に、有機発光素子は光を放出する。
【0003】
有機発光素子における最近の進歩は著しく、その特徴は、低印加電圧での高輝度、発光波長の多様性、高速応答性、薄型、軽量の発光デバイス化が可能である。このことから、有機発光素子は広汎な用途への可能性が示唆されている。
【0004】
しかしながら、フルカラーディスプレイ等への応用を考えた場合、特に、青色発光素子において、連続駆動を行うと経時的に発光効率が低下するという問題がある。また色純度や発光効率に関しても現状の素子では実用上十分でなく、さらなる性能改良が必要である。
【0005】
有機発光素子の発光効率劣化の抑制に関して様々な提案がなされている。例えば、特許文献1には、発光層に、2種類のホストとゲスト(発光ドーパント)とを含む有機発光素子が開示されている。また特許文献1の有機発光素子において、第一のホスト成分としてモノマー状態及びアグリゲート状態の両方を形成することができる有機化合物が開示されている。さらに第二のホスト成分として実質的にピンホールのない連続膜を形成することができる有機化合物が開示されている。特許文献1に開示されている有機発光素子は、第一のホスト成分が低濃度の際は、材料同士が相互作用し合わない状態(モノマー状態)が支配的である。一方、第一のホスト成分を高濃度にするに従い、2以上の分子が相互作用することによって形成される状態(アグリゲート状態)が増加する。これに伴い、発光効率劣化の抑制度合いが大きくなることが特許文献1では報告されている。
【0006】
特許文献2では、発光効率劣化の原因として、発光層中の材料の励起状態を経由した、材料劣化が示唆されている。特に、励起状態の中でも、励起寿命の長い三重項励起状態からの材料劣化が示唆されている。三重項励起状態からの材料劣化の抑制を目的として、発光層として、ホスト及び130kJ/モル未満の最低三重項励起エネルギーレベルの安定剤を含むことを特徴とする素子が開示されている。一般的に最低三重項励起エネルギーが小さいほど三重項励起状態から基底状態への変換が速くなるため、その励起寿命は短くなる。これによって材料劣化の発生確率を下げられることが特許文献2では示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−347058号公報
【特許文献2】特開2003−317967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1にて開示されている有機発光素子では、第一のホスト成分が低濃度の青色有機発光素子においては発光効率劣化の抑制が十分ではなかった。また特許文献1にて開示されている有機発光素子において、第一のホスト成分は、平面幾何学的基準を満たし、分子間相互作用を起こしやすい構造である。このため、第一のホスト成分を高濃度にするに従い、2以上の第一のホスト成分の分子が相互作用を起こすことで発光の長波長化が起こり、色純度の高い青色が得られないという問題があった。
【0009】
一方、特許文献2にて開示されている有機発光素子において、最低三重項励起エネルギーレベルが130kJ/モル未満の安定剤は、その極めて低い最低三重項励起エネルギーから、最低一重項励起エネルギーも小さくなる傾向がある。このため、青色発光材料と共に発光層に混合させると、安定剤の長波長発光により色純度が低下したり、極端に発光効率が低減したりするという問題があった。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、連続駆動寿命の長い、高効率で、色純度の高い青色有機発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、有機発光素子を構成する発光層において生じる材料劣化の発生過程を詳細に検討することにより、発光効率劣化を抑制する方法を見出し、本発明に至った。
【0012】
本発明の有機発光素子は、陽極と陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に挟持され、少なくとも発光層を含む有機化合物層と、から構成され、
前記発光層に、第一ホストと、第二ホストと、ゲストと、を有し、
青色発光する有機発光素子であって、
前記第二ホストが、下記一般式[1]で示される化合物又は下記一般式[1]で示される化合物にベンゼン環、ナフタレン環、フェナレン環、アントラセン環、フェナントレン環から選択される芳香環が縮合してなるベンゼン環数が7環以下の化合物(ベンゾ[c]フェナンスレンの1位及び12位の炭素が同一の炭素と結合する化合物を除く。)であり、
前記第二ホストの最低三重項励起エネルギーが、第一ホストの最低三重項励起エネルギーより小さく、
前記発光層において、最低一重項励起エネルギーが最も小さい材料が、発光材料であることを特徴とする。
【0013】
【化1】

【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、連続駆動寿命の長い、高効率で、色純度の高い青色有機発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の有機発光素子における実施形態の例を示す断面模式図であり、(a)は、第一の実施形態を示す模式図であり、(b)は、第二の実施形態を示す模式図である。
【図2】発光層に含まれる構成材料のエネルギー関係と、励起状態の生成から基底状態へ戻るまでの過程を表す図である。
【図3】縮合多環芳香族化合物の全ベンゼン環数に対する最低一重項励起エネルギーの平均値を示すグラフである。
【図4】全ベンゼン環数が6又は7の縮合多環芳香族化合物における各化合物が有する最低一重項励起エネルギーの個数分布を示すグラフである。
【図5】化合物2の1H−NMR(CDCl3)チャートを示す図である。
【図6】実施例1、比較例1で作製した有機EL素子のELスペクトルを示す図である。
【図7】比較例2で作製した有機EL素子のELスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の有機発光素子は、一対の電極、即ち、陽極と陰極と、前記陽極と前記陰極との間に挟持され、少なくとも発光層を含む有機化合物層と、から構成される。尚、本発明は、青色発光する有機発光素子に関する。
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の有機発光素子について説明する。図1は、本発明の有機発光素子における実施形態の例を示す断面模式図である。尚、図1において、(a)は、第一の実施形態を示し、(b)は、第二の実施形態を示す。
【0018】
図1(a)の有機発光素子11は、基板1上に、陽極2、ホール輸送層5、発光層3、電子輸送層6及び陰極4が順次設けられている。これはキャリア輸送機能と発光機能とを分離したものであり、ホールと電子との再結合領域は発光層内にある。また図1(a)の有機発光素子11は、ホール輸送性、電子輸送性、発光性の各特性を有した材料を適時組み合わせて素子を作製することができる。このため極めて材料選択の自由度が増すと共に、発光波長を異にする複数種の材料を使用することができる。このため、発光色相の多様化が可能になる。さらに、中央の発光層3に各キャリア又は励起子を有効に閉じこめて、発光効率の向上を図ることも可能になる。
【0019】
図1(b)の有機発光素子12は、図1(a)の有機発光素子11において、陽極2とホール輸送層5との間にホール注入層7が挿入されている。ホール注入層7の挿入は、陽極2とホール輸送層5との間の密着性やホール注入性の改善に効果があるため、低電圧化に効果的である。
【0020】
ただし本発明の有機発光素子は、発光層3あるいは発光機能を有する層を有してさえいれば図1(a)、(b)の構成に限定されるものではない。ここで発光機能を有する層として、例えば、ホール輸送層5、電子輸送層6等が挙げられる。
【0021】
また本発明の有機発光素子においては、電子輸送層の一種であるホールブロック層を、発光層3と電子輸送層6との間に挿入してもよい。特に、HOMOエネルギーの低い材料をホールブロック層に含ませることにより、発光層3から陰極4側へホールが移動するのを抑制することができるため、発光効率の向上に効果的な構成である。
【0022】
本発明の有機発光素子は、発光層3(あるいは発光機能を有する層)に、第一ホストと、第二ホストと、ゲストと、を有する。また本発明の有機発光素子において、発光層に含まれる材料については以下の(i)及び(ii)の関係が成り立っている。
(i)第二ホストの最低三重項励起エネルギーが、第一ホストの最低三重項励起エネルギーより小さいこと
(ii)最低一重項励起エネルギーが最も小さい材料が、発光材料であること
【0023】
上記(i)の関係が成り立つことにより、三重項励起子の生成によって生じる第一ホストの劣化を防ぐことができる。また上記(ii)の関係が成り立つことにより、最低一重項励起エネルギーが選択的に発光材料へ移動するため、発光材料由来の発光を色純度が良好な状態で取り出すことができる。以下、各材料について順を追って説明する。
【0024】
本発明において、第一ホストとは、発光層3(あるいは発光機能を有する層)において生じ得る構成材料の結晶化を阻害する材料であり、母骨格に置換基を有する材料であることが好ましい。これによって、ガラス転移温度の高い安定なアモルファス性の発光層3を形成することができると共に、発光層の結晶化による電極間の短絡等を防ぐことができる。
【0025】
本発明において、第一ホストは、ベンゼン環を縮合してなる主骨格を有する化合物であって、この主骨格が4つのベンゼン環を縮合してなる骨格(3つ以上のベンゼン環が直線的に縮合する場合は除く。)である化合物であることが好ましい。ここで主骨格とは、単結合で結ばれた複数の骨格によって形成された化合物において、最も最低一重項励起エネルギーが小さい骨格をいう。
【0026】
以上のように定義される第一ホストが好ましい理由を以下に述べる。4つのベンゼン環を縮合してなる主骨格を有する化合物は、青色発光層のホストとして適切な最低一重項励起エネルギーを有するため好ましい。ただし、この主骨格中に3つ以上のベンゼン環が直線的に縮合してなる骨格、即ち、部分構造としてアントラセンが含まれる主骨格を有する化合物は、最低三重項励起エネルギーが極めて低くなりやすいため好ましくない。
【0027】
一方、3つのベンゼン環を縮合して成る骨格である、アントラセン、フェナンスレンを主骨格とする化合物は、第一ホストとして好ましくない。なぜなら、アントラセンは著しく最低三重項励起エネルギーが低いために、第二ホストより最低三重項励起エネルギーが低くなりやすく、第二ホストとの組み合わせが難しいからである。また、フェナンスレンは最低一重項励起エネルギーが極めて大きく、ホール輸送層5や、電子輸送層6に用いられる材料よりも最低一重項励起エネルギーが大きくなりやすい。そのため、最低一重項励起状態の第一ホストから、ホール輸送層5や電子輸送層6に用いられる材料へエネルギー移動しやすく、発光効率の低下を招きやすいためである。
【0028】
他方、5つ以上のベンゼン環を縮合して成る骨格を主骨格とする化合物は、その最低一重項励起エネルギーが青色発光材料として要求される最低一重項励起エネルギーよりも低くなりやすいため、第一ホストとして好ましくない。
【0029】
特に、上述した4つのベンゼン環を縮合して成る主骨格(3つ以上のベンゼン環が直線的に縮合する場合は除く。)のうち、好ましくは、ピレン及びベンゾ[c]フェナンスレンである。下記表1に示すように、4つのベンゼン環を縮合して成る主骨格(3つ以上のベンゼン環が直線的に縮合する場合は除く。)のうち、ピレン及びベンゾ[c]フェナンスレンが、最低一重項励起エネルギーが3.3eV乃至3.7eVの範囲であるからである。
【0030】
【表1】

【0031】
この範囲は、ホストの主骨格として特に適切な最低一重項励起エネルギーの範囲である。尚、表1に示される最低一重項励起エネルギーは、溶液中における各骨格の吸収極大波長のうち最も長波長のものを示すものである。ここで吸収極大波長は文献値(化学便覧改定4版)を参照したものである。一方、各骨格の吸収スペクトルを測定する際に用いた溶媒は、ピレンとトリフェニレンにはメタノール、ベンゾ[c]フェナンスレンにはエタノール、クリセンにはシクロヘキサンである。
【0032】
本発明の有機発光素子を構成する発光層3(あるいは発光機能を有する層)に含まれる第一ホストとしては、例えば、以下に示す化合物が挙げられる。ただし本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
【化2】

【0034】
本発明において、第二ホストとは、特定の構造を有する縮合多環炭化水素化合物である。具体的には、下記一般式[1]で示される化合物又は下記一般式[1]で示される化合物にベンゼン環、ナフタレン環、フェナレン環、アントラセン環及びフェナントレン環から選択されるいずれか1つの芳香環が縮合してなるベンゼン環数が7環以下の化合物である。
【0035】
【化3】

【0036】
ただし、本発明においては、上記縮合によりベンゾ[c]フェナンスレン骨格の1位及び12位の炭素が同一の炭素と結合する化合物になる場合は除かれる。
【0037】
尚、第二ホストは、置換基を有さない縮合多環芳香族炭化水素である。ここで、第二ホストは、化合物を構成する炭素が全てsp2炭素である化合物である。一般的に、置換基と母骨格とをつなぐ炭素−炭素結合(単結合)よりも、縮合多環芳香族炭化水素を形成する炭素−炭素結合の方が結合解離エネルギーは高い。このため、第二ホストは、一般的な母骨格に置換基を有する材料に比べて、結合解離に対して耐性のある材料である。
【0038】
本発明においては、第二ホストの最低三重項励起エネルギーが、第一ホストの最低三重項励起エネルギーよりも小さくする必要がある。これにより、図2にて示される第一ホストから第二ホストへのエネルギー移動が速やかに起こるので、第一ホストよりも第二ホストの方が三重項励起状態となる確率が高くなる。また上述したように、置換基を有さない第二ホストは、第一ホストよりも結合解離に耐性があるので、無輻射失活して基底状態に戻りやすい。このため、効果的に結合解離に伴う材料の劣化を抑制することができる。
【0039】
一方、第一ホスト及び第二ホストが一重項励起状態になっている場合は、励起エネルギーが発光材料へ移動するので、一重項励起状態の発光材料を効率よく生成することができる。ここで、一重項励起状態の発光材料は、基底状態に戻るときに発光(蛍光)が行われる。
【0040】
ところで、第二ホストは、下記式[1]に示されるように、ベンズ[c]フェナンスレンあるいはベンズ[c]フェナンスレンに特定の芳香環が特定の位置に縮合してなる縮合多環芳香族炭化水素化合物である。
【0041】
【化4】

【0042】
上記式に示されるベンゾ[c]フェナンスレンは、1位の炭素と12位の炭素とが近い位置にあるために、それぞれの炭素に結合する水素原子は互いに反発しあうことになる。この水素原子同士の反発によって、ベンゾ[c]フェナンスレンは、その全体構造に三次元的なねじれが生じている。この三次元的なねじれが立体障害と同様の効果を生じるために、分子同士の相互作用によって生じるエキシマー発光等の発光波長の長波長化を抑制しやすい。またこの三次元的なねじれは、材料の結晶化を抑制する効果もある。
【0043】
一方、全体構造に三次元的なねじれが生じていない平面性の高い縮合多環炭化水素化合物は、材料の結晶化を引き起こしやすいことに加え、π電子雲が重なり合うことで分子間相互作用を引き起こしやすい。このため平面性の高い縮合多環炭化水素化合物は、発光層中の濃度を高くするに従い、蒸着可能な分子量という条件下では、発光が青色よりも長波長化しやすくなる。このため色純度の高い青色発光を得ることが難しくなる。
【0044】
ここで上述した三次元的なねじれ構造は、ベンゾ[c]フェナンスレンに、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナレン環、アントラセン環及びフェナントレン環から選択される芳香環を特定の位置に縮合してなる化合物も有している。ただし、ベンゾ[c]フェナンスレン骨格の1位及び12位の炭素が同一の炭素と結合する化合物は、上述した三次元的なねじれ構造がない極めて平面性の高い化合物となる。例えば、下記式[2]で示されるアンタントレンや、下記式[3]で示されるベンゾ[ghi]ペリレンは、化合物の平面性は極めて高い。
【0045】
【化5】

【0046】
また本発明において、第二ホストは、全ベンゼン環数が7以下の縮合多環芳香族化合物である。その理由を以下に述べる。
【0047】
図3は、本発明において第二ホストとしての構造的要件を満たす縮合多環芳香族化合物の全ベンゼン環数に対する最低一重項励起エネルギーの平均値を示すグラフである。図3のグラフより、全ベンゼン環数が多くなる従い、最低一重項励起エネルギーの平均値が小さくなっている。
【0048】
図4は、全ベンゼン環数が6又は7の縮合多環芳香族化合物における各化合物が有する最低一重項励起エネルギーの個数分布を示すグラフである。尚、図4において、白棒は、全ベンゼン環数が6の縮合多環芳香族化合物であり、黒棒は、全ベンゼン環数が7の縮合多環芳香族化合物である。
【0049】
図3及び図4を見ると、全ベンゼン環数が6の縮合多環芳香族化合物が有する最低一重項励起エネルギーの平均は、約3.1eVである。一方、全ベンゼン環数が7の縮合多環芳香族化合物が有する最低一重項励起エネルギーの平均は、約2.9eVである。ここで図3の傾向を考慮すると、全ベンゼン環数が8の縮合多環芳香族化合物が有する最低一重項励起エネルギーの平均は、約2.7eVと予測される。一方、青色発光材料の最低一重項励起エネルギーは一般的に2.9eV程度であることを考慮すると、発光層の第二ホストとして本発明の有機発光素子に含まれる縮合多環芳香族化合物は、全ベンゼン環数が7以下にするのが望ましいといえる。
【0050】
なぜなら第二ホストである縮合多環芳香族化合物を、全ベンゼン環数が7以下の縮合多環炭化水素化合物とすることにより、第二ホストの最低一重項励起エネルギーは、青色発光をする発光材料の最低一重項励起エネルギーよりも低くなりにくくなる。このため、第二ホスト自体が発光することによって生じる色純度の低下や、発光効率の低減を抑制することができる。
【0051】
ただし、図3及び図4に用いた、本発明において第二ホストとしての構造的要件を満たす縮合多環芳香族化合物の全ベンゼン環数に対する最低一重項励起エネルギーは、以下の計算手法を利用して求めた。
【0052】
(a)構造最適化
密度汎関数法(DFT)
汎関数:B3LYP
基底関数:6−31G*
(b)S1(吸収)励起エネルギー
時間依存密度汎関数法(TDDFT)
密度汎関数法(DFT)
汎関数:B3LYP
基底関数:6−31G*
【0053】
(ソフト等)
ソフト:Gaussian 03,Revision E.01:
Gaussian 03,Revision E.01,
M.J.Frisch,G.W.Trucks,H.B.Schlegel,G.E.Scuseria,M.A.Robb,J.R.Cheeseman,J.A.Montgomery,JR.,T.Vreven,K.N.Kudin,J.C.Burant,J.M.Millam,S.S.Iyengar,J.Tomasi,V.Barone,B.Mennucci,M.Cossi,G.Scalmani,N.Rega,G.A.Petersson,H.Nakatsuji,M.Hada,M.Ehara,K.Toyota,R.Fukuda,J.Hasegawa,M.Ishida,T.Nakajima,Y.Honda,O.Kitao,H.Nakai,M.Klene,X.Li,J.E.Knox,H.P.Hratchian,J.B.Cross,V.Bakken,C.Adamo,J.Jaramillo,R.Gomperts,R.E.Stratmann,O.Yazyev,A.J.Austin,R.Cammi,C.Pomelli,J.W.Ochterski,P.Y.Ayala,K.Morokuma,G.A.Voth,P.Salvador,J.J.Dannenberg,V.G.Zakrzewski,S.Dapprich,A.D.Daniels,M.C.Strain,O.Farkas,D.K.Malick,A.D.Rabuck,K.Raghavachari,J.B.Foresman,J.V.Ortiz,Q.Cui,A.G.Baboul,S.Clifford,J.Cioslowski,B.B.Stefanov,G.Liu,A.Liashenko,P.Piskorz,I.Komaromi,R.L.Martin,D.J.Fox,T.Keith,M.A.Al−Laham,C.Y.Peng,A.Nanayakkara,M.Challacombe,P.M.W.Gill,B.Johnson,W.Chen,M.W.Wong,C.Gonzalez,and J.A.Pople,Gaussian,Inc.,Wallingford CT,2004.
【0054】
また、ベンゾ[c]フェナンスレン自体が立体的ねじれ構造を形成しても、ベンゾ[c]フェナンスレンに多くの芳香環が縮合すれば、分子内の平面部分の面積が大きくなってしまい、発光波長の長波化を招きやすくなる。これを考慮しても発光層の第二ホストとして本発明の有機発光素子に含まれる縮合多環芳香族化合物は、全ベンゼン環数が7以下にするのが望ましいといえる。
【0055】
ところでベンゾ[c]フェナンスレンに芳香環を縮合させる場合、縮合される芳香環と芳香環の縮合に関与すると想定されるベンゾ[c]フェナンスレン骨格中の炭素との関係は、下記表2に示される通りである。
【0056】
【表2】

【0057】
表2に示されるように、第二ホストとして使用される化合物の中には、ベンゾ[c]フェナンスレンとフェナレン環とが縮合してなる化合物が含まれる。ここでベンゾ[c]フェナンスレンとフェナレン環とが縮合する場合、下記式[4]で示されるフェナレン環は、少なくとも1位の炭素が当該縮合に関与しなければならない。
【0058】
【化6】

【0059】
本発明において、第二ホストの最低一重項励起エネルギーは、第一ホストの最低一重項励起エネルギーより大きいことが好ましい。これにより、第一ホストにてホールと電子とが再結合することで第1ホスト内において発生した一重項励起状態の励起エネルギーが第二ホストへエネルギー移動しにくくなる。つまり、第二ホストが一重項励起状態になりにくくなる。これによって、第二ホストからのエキシマー発光を抑制することができ、色純度の高い青色を取り出すことができる。ここでエキシマー発光とは、一重項励起状態にある化合物と基底状態にある同種の化合物とが相互作用することで生じる光をいうものである。またエキシマー発光の光は、一重項励起状態にある化合物が基底状態に戻る際に発する光よりも長波長であるという特徴がある。
【0060】
また本発明においては、第二ホストのHOMO(最高被占軌道)エネルギーが、第一ホストのHOMOエネルギーより低く、かつ第二ホストのLUMO(最低空軌道)エネルギーが、第一ホストのLUMOエネルギーよりも高いことが好ましい。これにより、第二ホストよりも第一ホストの方に正孔及び電子が存在しやすくなるので、第二ホストよりも第一ホストにおいて正孔と電子とが再結合する確率が大きくなる。この結果、第二ホストが一重項励起状態になりにくくなるため、第二ホストからのエキシマー発光を抑制することができるので、色純度の高い青色を得ることができる。
【0061】
第二ホストとして使用される縮合多環炭化水素として、例えば、以下の構造式で示される材料が挙げられる。ただし本発明は、これらに限定するものではない。
【0062】
【化7】





【0063】
尚、以上に示された例示化合物は、下記表3に示されるように、特に、色純度、結晶化の抑制及び発光波長の長波長化を抑制した青色発光の出力のいずれかにおいて優れている。
【0064】
【表3】

【0065】
表3において、グループ1の化合物は、青色有機発光素子のホストとして適した一重項励起エネルギーを有し、第二ホストとして好ましい。これによって、発光材料の一重項励起エネルギーの大きな発光材料との組み合わせが可能になり、より色純度の高い青色を得るのに有利である。
【0066】
表3において、グループ2の化合物は、分子内にアントラセン骨格を含んでいるため、最低三重項励起エネルギーが小さく、第二ホストとして好ましい。これによって、最低三重項励起エネルギーが小さい第一ホストとの組み合わせが可能になる。特に、グループ2の化合物については、安定なアモルファス性の層を形成するのに適したピレン骨格を有する第一ホストと組み合わせやすくなり、材料の結晶化等による、電極間の短絡等を防ぐのに有利である。
【0067】
表3において、グループ3の化合物は、ベンゾ[c]フェナンスレン骨格に起因する三次元的ねじれ構造が2箇所以上有している。これにより、化合物全体における平面な領域が小さくなるので、第二ホストとして好ましい。これによって、材料同士の分子間相互作用による発光波長の長波化を抑制することができる。
【0068】
表3において、グループ4の化合物は、下記一般式[5]で表されるフェナントロ[3,4−c]フェナントレンに由来する骨格を有しているので、第二ホストとして好ましい。
【0069】
【化8】

【0070】
ここで、フェナントロ[3,4−c]フェナントレンの1位の炭素と14位の炭素の距離は小さく、それぞれの炭素に結合する水素原子間での反発力が大きいために、構造の三次元的ねじれが大きくなる。これによって、材料同士の分子間相互作用による発光波長の長波化を抑制することができる。
【0071】
本発明においては、三重項励起状態の第二ホストを集中的に存在させつつこれ以外の材料が三重項励起状態にさせないようにするために、発光層に含まれる第二ホストの含有量は発光層全体の25重量%以上75重量%以下とすることが好ましい。ここで、第二ホストの濃度を75重量%より高くすると、発光層の結晶化が起こりやすくなる。
【0072】
本発明において、発光材料とは、好ましくは、五員環構造を有する化合物である。五員環構造を有する材料は、LUMOエネルギーが低くなりやすいため、発光層中に分散された発光材料に電子がトラップされやすくなる。これにより、発光材料において正孔と電子とが再結合しやすくなる。ここ正孔と電子とが再結合によって生成した一重項励起状態の発光材料は、そのまま発光し基底状態に戻るため、一重項励起状態の第二ホストが存在しにくくなる。故に、第二ホストからのエキシマー発光を抑制することができるので色純度の高い青色を得ることができる。特に、フルオランテン骨格、又はベンゾ[k]フルオランテン骨格又はアセナフト[1,2−k]ベンゾ[e]アセフェナンスレン骨格を有する材料はLUMOエネルギーが低いので、好ましい。
【0073】
ここで発光材料のうち、フルオランテン骨格、又はベンゾ[k]フルオランテン骨格、又はアセナフト[1,2−k]ベンゾ[e]アセフェナンスレン骨格を有する化合物としては、例えば、以下に示される化合物が挙げられる。ただし、本発明はこれらに限定するものではない。
【0074】
【化9】

【0075】
発光層3に含まれる発光材料の含有量は、発光層3に含まれる第一ホストや、第二ホストの含有量よりも低いことが好ましい。これによって、発光材料の濃度消光を回避し、発光効率の向上を行うことができる。また含有量を低くすることで、発光材料が三重項励起状態になる確率は低く、発光効率劣化に対する影響は少ない。
【0076】
また、本発明において、第一ホストとしてベンゾ[c]フェナンスレン骨格を有する化合物を、第二ホストとして例示化合物7又は9の化合物を、発光材料としてフルオランテン骨格を部分構造に有する化合物をそれぞれ使用するのが特に好ましい。この組み合わせは本発明の条件を満たしやすいからである。
【0077】
一方、本発明において、発光層中の材料の中で最低一重項励起エネルギーが最も小さい材料を発光材料にする方が、発光層内において、発光材料が発光するために好適な条件となるので望ましい。
【0078】
他方、発光材料は、基本骨格に置換基を有する化合物が好ましい。これによって、回転可能な置換基が化合物自体の立体障害として働き、濃度消光を回避できる。このため、高発光効率を実現することができる。
【0079】
ところで、有機発光素子を構成する発光層は、一般的に発光層の大部分を占めるホストと、発光層に少量含まれる発光材料とを混合して構成されることが多い。また、発光層は、ガラス転移温度が高く安定なアモルファス性の層である。もしも発光層がアモルファス性を失い結晶化すると、結晶粒界が引き起こす電極間の短絡等の弊害がある。そのため一般的に、発光層には母骨格に置換基を有するホストを用いる。例えば、縮合多環炭化水素の母骨格に、アリール基やアルキル基を結合させた材料等が挙げられる。これらの材料は、回転可能な置換基が立体障害の要因となるため、ガラス転移温度の高い安定なアモルファス性の層を形成するのに適している。
【0080】
ここで、本発明者等は、一般的に発光層に用いられる母骨格に置換基を有するホストが劣化する過程に着目して研究を行った。その結果、新たに、以下の現象が明らかになった。具体的には、母骨格に置換基を有するホストは、励起エネルギーを得て三重項励起状態になると、そこから母骨格と置換基をつなぐ単結合が容易に解離するということである。そして、それが有機発光素子における重要な発光効率劣化の要因であることである。
【0081】
以下に、母骨格に置換基を有するホストが三重項励起状態から、結合解離劣化することの検証実験を説明する。
【0082】
(検証実験)
(1)検証実験用のサンプル作製
<サンプル1の作製>
ガラス基板上に、スパッタ法により、酸化錫インジウム(ITO)を成膜して陽極を形成した。このとき陽極の膜厚を130nmとした。次に、この陽極付基板をアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、次いでIPAで煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄した。以上のようにして処理した基板を透明導電性支持基板として以下の工程で用いた。
【0083】
次に、真空蒸着法により、陽極上に、下記サンプル化合物1(ホスト)と、下記サンプル化合物2(発光材料)とを、それぞれ別のボートから同時に真空蒸着して有機化合物層(発光層)を形成した。このときサンプル化合物1とサンプル化合物2との混合比を95:5(重量比)とし、有機化合物層の膜厚を50nmとした。
【0084】
【化10】

【0085】
次に、真空蒸着法により、有機化合物層上に、アルミニウムを成膜して陰極を形成したこのとき陰極の膜厚を150nmとした。
【0086】
最後に、サンプルが水分を吸着しないように、露点−70℃以下の窒素雰囲気下において保護用ガラス板をかぶせ、エポキシ系接着剤で封止した。尚、保護ガラスの接着面側には掘り込みを入れ、水分吸着用のシート(有機EL水分ゲッターシート、ダイニック株式会社製)を封入した。以上のようにしてサンプル1を作製した。
【0087】
<サンプル2の作成>
サンプル1を作製する際において、ホストとして、サンプル化合物1の代わりに下記サンプル化合物3を使用することを除いては、サンプル1と同様の方法でサンプル2を作製した。
【0088】
【化11】

【0089】
<サンプル3の作成>
サンプル1を作製する際において、有機化合物層を形成する際に、サンプル化合物1(ホスト)と、サンプル化合物3(ホスト)と、サンプル化合物2(発光材料)を、混合比で47.5:47.5:5(重量比)で共蒸着した。これを除いては、サンプル1と同様の方法でサンプル3を作製した。
【0090】
(2)検証実験の詳細
サンプル1に、ガラス基板側から波長365nmの光を168時間、照射した。このときの照射強度は、5.4W/cm2であった。また光を照射する際に、両電極間の電圧は0Vを維持しており、いわゆる通電されていない状態にある。また照射する光は、有機化合物層にて吸収され、励起状態(一重項励起状態のみならず、項間交差により一部、三重項励起状態となる)の分子が生成される。また有機化合物層のフォトルミネッセンスを測定したところ、照射前に対して、168時間照射後の強度が約15%となっていた。
【0091】
光照射後のサンプル1の有機化合物層に含まれる有機化合物の同定を、順層LC−APPI−FTMS/DAD/FLDによって行った。装置はAgilent製Agilent1100、thermofisher製LTQ Orbitrap XLを用いて測定した。
【0092】
この結果、サンプル化合物1やサンプル化合物2以外の化合物、具体的には、サンプル化合物1のフェニル基欠損体やサンプル化合物1のナフチル基欠損体が検出された。これらの検出物、特に、サンプル化合物1の欠損体は、サンプル化合物1の基本骨格であるアントラセン骨格と、フェニル基又はナフチル基をつなぐ炭素−炭素結合(単結合)が解離しなければ生じ得ないものである。またサンプル化合物1のフェニル基付加体やサンプル化合物1のナフチル基付加体、さらにその異性体も検出された。これらの検出物は、結合解離によって切り離されたフェニル基やナフチル基が、他のサンプル化合物1に再結合し生じるものである。また、以上の検出物は、光未照射のサンプル1からは検出されなかった。この実験から、母骨格に置換基を有する材料は、励起状態になると、母骨格と置換基とをつなぐ炭素−炭素結合(単結合)の解離が起こり、これによって化合物自体が劣化することが分かった。
【0093】
次に、サンプル1、サンプル2、サンプル3に、ガラス基板側から波長365nmの光を照射した。照射強度はそれぞれ1W/cm2、1.2W/cm2、2.7W/cm2である。また各照射強度は、各サンプルの有機化合物層が単位時間あたりに吸収する光子数が同程度になるように設定した。また光を照射する際に、両電極間の電圧は0Vを維持しており、いわゆる通電されていない状態にある。
【0094】
この結果、サンプル1のフォトルミネッセンスが初期の90%の発光輝度になる時間は約13時間後、サンプル2のフォトルミネッセンスが初期の90%の発光輝度になるのは約1.5時間後であった。
【0095】
サンプル1及びサンプル2は、発光材料が同一であるため、ホストであるサンプル化合物1とサンプル化合物3との結合解離に対する耐性の違いが、フォトルミネッセンスが初期の90%になる時間の違いに反映されていると考えられる。
【0096】
また、サンプル3のフォトルミネッセンスが初期の90%の発光輝度になるのは約14時間後であった。この時間は、サンプル2よりも、サンプル1の結果に近い時間である。
【0097】
ここでサンプル3のフォトルミネッセンスが初期の90%の発光輝度になる時間が、サンプル1の時間に近くなる理由は、ホストの励起状態、特に三重項励起状態からの結合解離劣化によるものであり、具体的には以下のように説明できる。
【0098】
サンプル1、サンプル2においては、有機化合物層にて生成された三重項励起エネルギーは、それぞれの有機化合物層の大部分を占めるホストである、サンプル化合物1又はサンプル化合物3に拡散する。一方、サンプル3は、2種類のホスト(サンプル化合物1、サンプル化合物3)を有している。ここでサンプル3の場合、三重項励起状態は、最低三重項励起エネルギーが大きい材料から小さい材料へ速やかにエネルギー移動するため、最低三重項励起エネルギーが小さい材料に存在する確率が高い。密度汎関数法による計算によって最低三重項励起エネルギーを求めると、サンプル化合物1は1.66eV、サンプル化合物3が2.34eVであったので、サンプル3ではサンプル化合物1が三重項励起状態となる確率が高い。よって、サンプル1とサンプル3では共に、サンプル化合物1の三重項励起状態から結合解離劣化が起こるために、サンプル3のフォトルミネッセンスが初期の90%になる時間が、サンプル1の時間に近いと解釈できる。この実験から、ホストが三重項励起状態になったときに結合解離劣化が起こることが分かった。
【0099】
以上の一連の実験を通じて、有機発光素子に用いられる材料の劣化過程を詳細に検討した結果、本発明者等は、母骨格に置換基を有する材料が三重項励起状態を経由して、母骨格と置換基をつなぐ結合が解離するという劣化過程を新たに明らかにした。
【0100】
本発明は以上の知見に基づいてなされたものである。また本発明により効果的に材料の結合解離劣化を抑制することができる。
【0101】
次に、本発明の有機発光素子を構成する他の構成部材について説明する。
【0102】
ホール輸送層5やホール注入層7に含まれるホール(正孔)輸送性材料としては、陽極2からのホールの注入を容易にし、また注入されたホールを発光層に輸送する優れたモビリティを有することが好ましい。ホール注入輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、オキサゾール誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、及びポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(シリレン)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0103】
電子輸送層6に含まれる電子注入輸送性材料としては、陰極4からの電子の注入を容易にし、注入された電子を発光層に輸送する機能を有するものから任意に選ぶことができ、ホール輸送材料のキャリア移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フルオレノン誘導体、アントロン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機金属錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。また、イオン化ポテンシャルの大きい材料は、ホールブロック層の構成材料として使用することができる。
【0104】
陽極2の構成材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらを複数種組み合わせてなる合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO),酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフェニレンスルフィド等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいしあるいは二種類以上を併用して使用してもよい。また陽極2は一層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
【0105】
一方、陰極4の構成材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、ルテニウム、チタニウム、マンガン、イットリウム、銀、鉛、錫、クロム等の金属単体を使用することができる。またこれらの金属単体を複数種組み合わせた合金、例えば、リチウム−インジウム、ナトリウム−カリウム、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム、マグネシウム−インジウム等も使用することができる。さらに酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいしあるいは二種類以上を併用して使用してもよい。また陰極4は一層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
【0106】
また陽極2及び陰極4は、少なくともいずれか一方が透明又は半透明であることが望ましい。
【0107】
本発明の有機発光素子で使用する基板1としては、特に限定するものではないが、金属製基板、セラミックス製基板等の不透明性基板、ガラス、石英、プラスチックシート等の透明性基板が用いられる。また、基板にカラーフィルター膜、蛍光色変換フィルター膜、誘電体反射膜等を用いて発色光をコントロールすることも可能である。
【0108】
また、素子の光取り出し方向に関しては、ボトムエミッション構成(基板側から光を取り出す構成)及び、トップエミッション(基板の反対側から光を取り出す構成)のいずれも可能である。
【0109】
本発明の有機発光素子において、有機材料からなる層(有機化合物層)、即ち、発光層3やその他の層は、種々の方法により形成することができる。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマCVDにより各層の薄膜を形成する。あるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により薄膜を形成する。特に塗布法で成膜する場合は、適当な結着樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0110】
上記結着樹脂としては、広範囲な結着性樹脂より選択できる。例えば、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリスルホン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。またこれらの樹脂は、ホモポリマーであってもよいしコポリマーであってもよい。さらにこれらの樹脂は、一種類を単独で使用してもよいし二種類以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0111】
尚、作製した素子に対して、酸素や水分等との接触を防止する目的で保護層あるいは封止層を設けることもできる。保護層としては、ダイヤモンド薄膜、金属酸化物、金属窒化物等の無機材料膜、フッ素樹脂、ポリパラキシレン、ポリエチレン、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜、さらには、光硬化性樹脂等が挙げられる。また、ガラス、気体不透過性フィルム、金属等をカバーし、適当な封止樹脂により素子自体をパッケージングすることもできる。
【実施例】
【0112】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0113】
(実施例で使用した化合物)
実施例で使用した主要な化合物を以下に示す。
【0114】
【化12】

【0115】
(合成例)
実施例1で使用する化合物1及び3乃至6の合成例を以下に説明する。
【0116】
<化合物1の合成例>
【0117】
【化13】

【0118】
(1)4−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾ[k]フルオランテンの合成
反応容器に下記に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
5−ブロモアセナフチレン:14.5g(62.8mmol)
ジフェニルイソベンゾフラン:17.1g(63.3mmol)
キシレン:200ml
【0119】
次に、反応溶液を還流させながら5時間攪拌した。次に、反応溶液を室温まで冷却した後、溶媒を減圧留去した。次に、無水トリフルオロ酢酸26ml及びクロロホルム260mlをさらに加えた後、反応溶液を還流させながら1時間攪拌した。次に、反応溶液を室温まで冷却させた後、溶媒を減圧留去することで粗生成物を得た。次に、この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;トルエン:ヘプタン=1:3)で精製することにより、4−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾ[k]フルオランテンを黄色固体として16g得た。
【0120】
(2)化合物1の合成
反応容器内を窒素雰囲気にした後、下記に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
4−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾ[k]フルオランテン:0.7g(1.45mmol)
2−(フルオランテン−3−イル)−4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン:0.48g(1.45mmol)
トルエン:100ml
エタノール:50ml
【0121】
次に、炭酸セシウム0.95g(2.90mmol)と蒸留水15mlとを混合して調製した炭酸セシウム水溶液を加えた後、反応溶液を50℃に加熱しこの温度(50℃)で30分攪拌した。
【0122】
次に、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.17g,0.145mmol)を加えた後、反応溶液を90℃に加熱したシリコーンオイルバス上で加熱しながら5時間攪拌した。次に、反応溶液を室温まで冷却した。次に、水、トルエン及び酢酸エチルを加え、溶媒抽出操作を行い、有機層を分離した。次に、水層についてトルエンと酢酸エチルとの混合溶媒による溶媒抽出操作を2回行ったときに得られる有機層を、始めに分離した有機層に加えた。次に、有機層を飽和食塩水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥した。次に、有機層の溶媒を減圧留去することで得られる残渣(粗生成物)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;トルエン:ヘプタン=1:3)で精製した。次に、精製物を120℃で真空乾燥し、さらに昇華精製を行うことにより、化合物2を淡黄色固体として0.6g得た。
【0123】
MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)によりこの材料のM+である604.2を確認した。
【0124】
さらに、1H−NMR測定により、図5に示されるNMRチャートが得られ、この材料の構造を確認した。同定結果は以下の通りである。
1H−NMR(400Hz、CDCl3)]
δ 8.01(d,1H),7.91−7.95(m,3H),7.58−7.71(m,13H),7.39−7.54(m,8H),7.22(q,1H),6.74(d,1H),6.63(d,1H)
【0125】
このようにして得られた化合物2の純度を、日本分光株式会社製高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、下記に示したサンプル濃度、分析カラム、各種測定条件により測定した。その結果、UV及び蛍光検出器において、純度は共に99.9%以上であることを確認した。
【0126】
[サンプル] (化合物2):1mg/THF:10g
[分析カラム] YMC M80
[カラム温度設定] 40℃
[注入量] 5.0μl
[展開溶媒] MeOH:CHCl3=90:10
[流速] 1.0ml/min
[測定時間]20min
[HPLC検出条件]
UV吸収波長 254nm
蛍光励起波長 350nm
蛍光検出波長 450nm
【0127】
<化合物3の合成例>
【0128】
【化14】

【0129】
50mLナスフラスコに、下記に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
3−クロロベンゾ[c]フェナンスレン:400mg(1.52mmol)
2FLPB:819mg(1.60mmol)
酢酸パラジウム(II):34mg(152μmol)
ジシクロヘキシル(2’,6’−ジメトキシビフェニル−2−イル)ホスフィン:156mg(381μmol)
りん酸カリウム:0.97g(4.57mmol)
トルエン:20mL
水:0.5mL
【0130】
次に、反応系内を窒素雰囲気下にした後、反応溶液を100℃に加熱し、この温度(100℃)で4時間半撹拌した。反応終了後、反応溶液に水を加えてさらに攪拌することで析出した生成物をろ過して灰色粉の粗生成物を得た。次に、この粗生成物を加熱したトルエンに溶解させてから、短いシリカゲルカラムに通して残存触媒を除去した後、トルエン/オクタン混合溶媒で再結晶を行うことで結晶を得た。次に、得られた結晶を150℃で真空乾燥させた後、1.0×10-4Pa、345℃の条件下で昇華精製を行うことにより、高純度の化合物3を518mg(収率56%)得た。
【0131】
得られた化合物の同定を行った。結果を以下に示す。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=612.35、計算値:C4836=612.28
1H−NMR(400MHz、CDCl3)]
δ 9.24(d,1H),9.19(d,1H),8.32(s,1H),8.15−7.95(m,3H),7.95−7.53(m,15H),7.53−7.28(m,3H),1.68(s,6H),1.58(s,6H).
【0132】
<化合物4の合成例>
【0133】
【化15】

【0134】
100mlのナスフラスコに、下記に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
N,N’−ジフェニルベンジジン:4.88g(14.5mmol)
2−ヨード−9,9−ジメチルフルオレン:6.40g(20mmol)
炭酸カリウム:4.00g
銅粉:3.0g
オルトジクロロベンゼン:30ml
【0135】
次に、ナスフラスコに冷却管をつけた後、反応溶液を還流させながら20時間撹拌した。次に、反応溶液を冷却した。次に、反応溶液を濾過し、溶媒であるオルトジクロロベンゼンを減圧除去した後、メタノールを加えたときに析出した粗製結晶を濾取した。次に、得られた粗製結晶をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン/ヘキサン混合溶媒)で精製することにより、化合物4を白色結晶として7.32g(収率70%)得た。
【0136】
<化合物5の合成例>
【0137】
【化16】

【0138】
(1)中間体化合物1−1の合成
2,7−ジターシャリブチルフルオレン(シグマアルドリッチ社)を原料として、非特許文献3に記載の方法を利用することにより、中間体化合物1−1が得られる。
【0139】
(2)化合物5の合成
200mlの三ツ口フラスコに、下記に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
中間体化合物1−1:4.56g(12.0mmol)
化合物1−2:0.828g(4.00mmol)
ナトリウムターシャリブトキシド:0.96g(10.0mmol)
キシレン:100ml
【0140】
次に、反応系内を窒素雰囲気にした。次に、反応溶液を室温で攪拌しながら、トリターシャリブチルフォスフィン34.4mg(0.17mmol)を添加した。次に、パラジウムジベンジリデンアセトン48.9mg(0.085mmol)を添加した。次に、反応溶液を125℃に昇温し、この温度(125℃)で3時間攪拌した。反応終了後、有機層をトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去することで粗生成物を得た。次に、この粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/トルエン混合溶媒)で精製することにより、化合物7を白色結晶として2.53g(収率78.0%)得た。
【0141】
質量分析法により、この材料のM+である817.5を確認した。また、DSC示差走査熱量分析法により、融点267℃及びガラス転移点143℃を確認した。
【0142】
<化合物6の合成例>
【0143】
【化17】

【0144】
300mlの三ツ口フラスコに、下記に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
2−ヨード−9,9−ジメチルフルオレン(化合物8A):5.8g(18.1mmol)
ジエチルエーテル:80ml
【0145】
次に、反応系内を窒素雰囲気にした後、反応溶液を−78℃冷却した後、この温度(−78℃)で反応溶液を撹拌しながら、n−ブチルリチウム(15%ヘキサン溶液)11.7ml(18.1mmol)を滴下した。次に、反応溶液を室温まで昇温した後、この温度(室温)で1時間撹拌した。次に、反応溶液を−20℃に冷却した後、フェナントロリン(化合物8B)0.81g(4.51mmol)とトルエン100mlとを混合して調製した分散液を滴下した。次に、反応溶液を室温で12時間撹拌した後、水を加えた。次に、有機層をクロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去することにより粗生成物を得た。次に、この粗生成物をアルミナカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/クロロホルム混合溶媒)で精製することにより、化合物6を白色結晶として2.04g(収率80%)得た。
【0146】
(実施例1)
(1)素子の作製・評価
図2に示される有機発光素子を、以下に説明する方法により作製した。まずスパッタ法により、ガラス基板(基板1)上に、陽極としての酸化錫インジウム(ITO)を成膜して陽極2を形成した。このとき陽極2の膜厚を130nmとした。次に、陽極2が形成されている基板1を、アセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、次いでIPAで煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄した。以上のようにして処理した基板を透明導電性支持基板として以下の工程で用いた。
【0147】
次に、化合物4(ホール注入性材料)とクロロホルムとを混合して0.1重量%のトルエン溶液を調製した。次に、このトルエン溶液を陽極2上に滴下し、最初に回転数500RPMで10秒、次に回転数1000RPMで1分間スピンコートを行うことで膜を形成した。次に、80℃の真空オーブンで10分間乾燥して、薄膜中の溶剤を完全に除去した。以上の方法にて形成されたホール注入層7の膜厚は11nmであった。
【0148】
次に、真空蒸着法により、ホール注入層7上に、化合物5を成膜してホール輸送層5を形成した。このときホール輸送層5の膜厚を15nmとした。
【0149】
次に、真空蒸着法により、ホール輸送層5上に、化合物3(第一ホスト)と、化合物2(第二ホスト、東京化成製)と、化合物1(ゲスト)を、それぞれ別のボートから同時蒸着して発光層3を形成した。このとき発光層3に含まれる化合物3、化合物2及び化合物1の濃度を、それぞれ50重量%、45重量%、5重量%となるように蒸着レートを調節し、発光層3の膜厚を30nmとした。
【0150】
次に、真空蒸着法により、発光層3上に、化合物6を成膜することにより電子輸送層6を形成した。このとき電子輸送層6の膜厚を30nmとした。
【0151】
尚、本実施例の有機発光素子を構成する有機化合物層(ホール注入層7、ホール輸送層5、発光層3、電子輸送層6)を形成する際には、蒸着時の真空度を7.0×10-5Pa以下とし、成膜速度を0.08nm/sec以上0.10nm/sec以下とした。ただし、発光層3はホスト及びドーパントの両者を合わせた蒸着速度である。またホール輸送層5の蒸着が完了してから発光層3の蒸着を開始するまでは真空状態を維持しており、その間の時間は10分以内であった。さらに発光層4の蒸着が完了してから電子輸送層6の蒸着を開始するまでにおいても真空状態を維持しておりその間の時間は10分以内であった。
【0152】
次に、真空蒸着法により、電子輸送層6上に、フッ化リチウム(LiF)を成膜してLiF膜を形成した。このときLiF膜の膜厚を0.5nmとし、蒸着時の真空度を1.0×10-4Paとし、成膜速度を0.05nm/secとした。次に、真空蒸着法により、LiF膜上に、アルミニウムを成膜してAl膜を形成した。このときAl膜の膜厚を150nmとし、蒸着時の真空度を1.0×10-4Paとし、成膜速度を1.0nm/sec以上1.2nm/sec以下の条件とした。尚、LiF膜及びAl膜は電子注入電極(陰極4)として機能する。
【0153】
最後に、素子が大気中の水分を吸着しないように、露点−70℃以下の窒素雰囲気下において保護用ガラス板をかぶせ、エポキシ系接着材で封止した。尚、保護ガラスの接着面側には掘り込みを入れ、水分吸着用のシート(有機EL用水分ゲッターシート、ダイニック株式会社製)を封入した。以上のようにして有機発光素子を得た。
【0154】
得られた素子について、ITO電極(陽極2)を正極、アルミニウム電極(陰極4)を負極にして、5.6Vの電圧を印加した。その結果発光輝度1917cd/m2、発光効率9.0cd/A、CIExy色度(1.51、2.6)の、化合物1に由来する最大発光波長463nmの青色発光が観測された(図6)。
【0155】
さらに、本実施例の有機発光素子に、電流密度を100mA/cm2に保ちながら電圧を印加し続けたところ、輝度半減時間(電圧の印加を開始してから初期輝度の50%の発光輝度になるまでにかかった時間)は306時間であり、耐久性能は良好であった。
【0156】
(2)ホストの最低三重項励起エネルギーの評価
次に、第一ホストの最低三重項励起エネルギーを測定した。まず、化合物5と、下記に示される化合物7(三重項増感剤)とを同時蒸着して、スライドガラス上へ薄膜を形成することで測定用サンプルを作製した。このとき薄膜中の化合物7(三重項増感剤)の濃度は10重量%であり、膜厚は100nmであった。
【0157】
【化18】

【0158】
次に、作製したサンプルについて蛍光スペクトルを測定した。具体的には、日立製蛍光光度計F4500にてサンプルのフォトルミネッセンスを測定した。
【0159】
次に、サンプルの燐光スペクトルを測定し、得られた燐光スペクトルから最低三重項励起エネルギーを求めた。ここで燐光スペクトルの測定は、液体窒素温度(77K)等の低温下において測定を行った。また最低三重項励起エネルギー(T1)は、測定された燐光スペクトルの第一の発光ピーク(最も短波長のピーク)から求めた。
【0160】
尚、燐光発光が得られないものは(燐光が弱く測れない)ものは、三重項増感剤からのエネルギー移動を考慮して求めた。また、燐光の発光効率が非常に低いために、上記の方法で燐光が測れない場合には、アクセプターへの三重項―三重項エネルギー移動を用いて最低三重項励起エネルギーが得られる方法を用いた。さらに、上記のいずれの実験方法でも最低三重項励起エネルギーが得られない場合は、以下の計算手法を利用して、最低三重項励起エネルギーを求めた。
【0161】
(a)構造最適化
密度汎関数法(DFT)
汎関数:B3−LYP
基底関数:def2−SV(P)
(b)S1(吸収)、T1(吸収)励起エネルギー
時間依存密度汎関数法(TDDFT)
密度汎関数法(DFT)
汎関数:B3−LYP
基底関数:def2−SV(P)
【0162】
(ソフト等)
ソフト:TURBOMOLE Version 5.10:
TURBOMOLE:
R.Ahlrichs,M.Baer,M.Haeser,H.Horn,and C.Koelmel,Electronic structure calculations on workstation computers:the program system TURBOMOLE Chem.Phys.Lett.162:165(1989)
【0163】
この結果、第一ホストの最低三重項励起エネルギーは、2.18eVであった。
【0164】
同様の方法で、第二ホストの最低三重項励起エネルギーを測定したところ、2.1eVであった。従って、本実施例において、第二ホストの最低三重項励起エネルギーが、第一ホストの最低三重項励起エネルギーよりも小さいことがわかった。
【0165】
(3)ホストのHOMOエネルギー及びLUMOエネルギーの評価
発光層に含まれる2種類のホスト(第一ホスト、第二ホスト)の薄膜をそれぞれ真空蒸着法により作製した。次に、作製した薄膜について、以下に示す方法で各物性を評価した。尚、同様の方法で発光材料の最低一重項励起エネルギーについても併せて評価した。
【0166】
(3−1)最低一重項励起エネルギー
日立製分光光度計U−3010を用いて、サンプルの可視光−紫外吸収スペクトルを測定し、得られた可視光−紫外吸収スペクトルの吸収端からエネルギーギャップを求めた。尚、得られたエネルギーギャップは最低一重項励起エネルギーに相当する。
【0167】
(3−2)最高被占軌道(HOMO)エネルギー
大気下光電子分光法(測定器名AC−2、理研機器製)を用いて測定した。尚、測定によって得られるものはイオン化ポテンシャルであるが、これが最高被占軌道(HOMO)エネルギーに相当する。
【0168】
(3−3)最低空軌道(LUMO)エネルギー
(3−1)及び(3−2)で得られたエネルギーギャップ及びイオン化ポテンシャルを用いて、以下の計算式で電子親和力を求めた。尚、電子親和力は最低空軌道(LUMO)エネルギーに相当する。
電子親和力=イオン化ポテンシャル−エネルギーギャップ
【0169】
この結果、第一ホストの最低一重項励起エネルギーは、3.03eVであり、第二ホストの最低一重項励起エネルギーは、3.22eVであり、発光材料の最低一重項励起エネルギーは2.81eVであった。従って、発光材料の最低一重項励起エネルギーが発光層に含まれる材料の中で最も小さく、第二ホストの最低一重項励起エネルギーが、第一ホストの最低一重項励起エネルギーよりも大きいことがわかった。
【0170】
また、第一ホストのHOMOエネルギーは、5.8eVであり、第二ホストのHOMOエネルギーは、5.93eVであった。一方、第一ホストのLUMOエネルギーは、2.77eVであり、第二ホストのLUMOエネルギーは、2.71eVであった。
【0171】
従って、第二ホストのHOMOエネルギーは、第一ホストのHOMOエネルギーより低く、第二ホストのLUMOエネルギーが、第一ホストのLUMOエネルギーよりも高い。ことがわかった。
【0172】
(比較例1)
実施例1において、発光層3を形成する際に、化合物2(第二ホスト)を使用せず、発光層3に含まれる化合物3及び化合物1の含有量を、それぞれ95重量%、5重量%となるように蒸着レートを調節した。これを除いては、実施例1と同様の方法により有機発光素子を作製した。
【0173】
得られた素子について、ITO電極(陽極)を正極、アルミニウム電極(陰極)を負極にして、5.4Vの電圧を印加した。その結果、発光輝度1288cd/m2、発光効率8.5cd/A、CIExy色度(1.52、2.52)、化合物2に由来する最大発光波長463nmの青色発光が観測された(図6)。
【0174】
次に、本比較例の素子について実施例1と同様に輝度半減時間を評価したところ、輝度半減時間は約195時間であり、実施例1に比較して耐久性能に劣る結果が得られた。
【0175】
本比較例の有機発光素子は、発光層内に第二ホストが含まれていないため、実施例1の素子と比べて、三重項励起状態の第一ホストが高い確率で存在する。これにより、第一ホストの結合解離による材料劣化がより多く起こることが想定され、これが、本比較例の有機発光素子の耐久性能が劣る原因と推察される。
【0176】
また図4より、比較例1の発光スペクトルは実施例1とほとんど変わらず、実施例1において第二ホストのエキシマー発光は発生せずに青色発光のみが行われていることがわかった。
【0177】
(実施例2)
実施例1において、発光層3を形成する際に、発光層3に含まれる化合物3、化合物2及び化合物1の濃度を、それぞれ90重量%、5重量%、5重量%となるように蒸着レートを調節した。これを除いては、実施例1と同様の方法により有機発光素子を作製した。
【0178】
得られた素子について、ITO電極(陽極)を正極、アルミニウム電極(陰極)を負極にして、5.2Vの電圧を印加した。その結果、発光輝度1423cd/m2、発光効率8.9cd/A、CIExy色度(1.48、2.5)、最大発光波長463nmの化合物2に由来する青色の発光が観測された。
【0179】
次に、実施例1と同様に輝度半減時間を評価したところ、輝度半減時間は約215時間後であった。
【0180】
(実施例3)
実施例1において、発光層3を形成する際に、発光層3に含まれる化合物3、化合物2及び化合物1の濃度を、それぞれ70重量%、25重量%、5重量%となるように蒸着レートを調節した。これを除いては、実施例1と同様の方法により有機発光素子を作製した。
【0181】
得られた素子について、ITO電極(陽極)を正極、アルミニウム電極(陰極)を負極にして、5.2Vの電圧を印加した。その結果発光輝度1571cd/m2、発光効率9.4cd/A、CIExy色度(1.48、2.55)、最大発光波長463nmの化合物3に由来する青色の発光が観測された。
【0182】
次に、実施例1と同様に輝度半減時間を評価したところ、輝度半減時間は約280時間後であった。
【0183】
実施例1乃至3及び比較例1の結果から、第二ホストの濃度を高くなるに従い輝度半減時間が長くなることがわかった。これは第二ホストの濃度が低いと、集中的に第二ホストを三重項励起状態にすることができなくなることで、三重項励起状態の第一ホストが多くなり、これにより第一ホストの結合解離劣化が起こりやすくなるためである。本発明において、集中的に第二ホストを三重項励起状態にして、優れた駆動耐久性能を得るためには、発光層3内の第二ホストの濃度を25重量%以上にすることが好ましい。
【0184】
(比較例2)
実施例1において、第二ホストとして、化合物2の代わりに下記に示す化合物8を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法により有機発光素子を作製した。
【0185】
【化19】

【0186】
化合物8は、ベンゾ[c]フェナンスレンを部分構造として有しておらず、平面性の高い構造をしている。
【0187】
得られた素子について、ITO電極(陽極)を正極、アルミニウム電極(陰極)を負極にして、4.8Vの電圧を印加した。その結果発光輝度1063cd/m2、発光効率5.5cd/A、CIExy色度(2.64、4.77)、化合物2に由来する青色の発光に加えて、それより長波長な最大発光波長524nmの緑色の発光が観測された(図7)。この緑色の発光は、第二ホスト(化合物10)の濃度が1%の素子では観測されないため、発光層中の化合物10の濃度を45%と高くしたために、化合物1と化合物8との相互作用による長波長化した発光が観測されたものである。
【0188】
この素子に窒素雰囲気下で電流密度を100mA/cm2に保ち電圧を印加したところ、駆動してから1時間経過したときに、電圧が急激に下がり、発光が行われなくなった。これは、化合物8が平面性の高い構造であるため、発光層において化合物8等の結晶化が起こり、陽極2と陰極4との短絡を引き起こしたためであると考えられる。
【符号の説明】
【0189】
1:基板、2:陽極、3:発光層、4:陰極、5:ホール輸送層、6:電子輸送層、7:ホール注入層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に挟持され、少なくとも発光層を含む有機化合物層と、から構成され、
前記発光層に、第一ホストと、第二ホストと、ゲストと、を有し、
青色発光する有機発光素子であって、
前記第二ホストが、下記一般式[1]で示される化合物又は下記一般式[1]で示される化合物にベンゼン環、ナフタレン環、フェナレン環、アントラセン環、フェナントレン環から選択される芳香環が縮合してなるベンゼン環数が7環以下の化合物(ベンゾ[c]フェナンスレン骨格の1位及び12位の炭素が同一の炭素と結合する化合物を除く。)であり、
前記第二ホストの最低三重項励起エネルギーが、第一ホストの最低三重項励起エネルギーより小さく、
前記発光層において、最低一重項励起エネルギーが最も小さい材料が、発光材料であることを特徴とする、有機発光素子。
【化1】

【請求項2】
前記発光層に含まれる前記第二ホストの濃度が、25重量%以上75重量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
前記第二ホストの最低一重項励起エネルギーが、第一ホストの最低一重項励起エネルギーより大きいことを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記第二ホストのHOMOエネルギーが、前記第一ホストのHOMOエネルギーよりも低く、
前記第二ホストのLUMOエネルギーが、前記第一ホストのLUMOエネルギーよりも高いことを特徴とする、請求項1及至3のいずれか一項に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記第一ホストが、ベンゼン環を縮合してなる主骨格を有し、
前記主骨格が4つのベンゼン環を縮合して成る骨格(3つ以上のベンゼン環が直線的に縮合する場合は除く。)であることを特徴とする、請求項1及至4のいずれか一項に記載の有機発光素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−99593(P2012−99593A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245076(P2010−245076)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】