説明

有機薄膜太陽電池の製造方法

【課題】バルクヘテロ接合層のドメインサイズを精度よく制御可能な有機薄膜太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に、第1電極層、光電変換層及び第2電極層の順に形成してなる有機薄膜太陽電池の製造方法であって、p型有機半導体と、n型有機半導体と、有機溶媒とを含む塗工液を、第1電極層上に塗布し、形成された塗膜を真空乾燥して有機溶媒を除去してバルクヘテロ接合層を形成し、第2電極層を形成する前、形成中及び形成後のいずれかにバルクヘテロ接合層を加熱してバルクヘテロ接合層のドメインサイズを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルクヘテロ接合層のドメインサイズが制御された有機薄膜太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料を用いた薄膜太陽電池(以下、有機薄膜太陽電池という)の一つとして、透明電極層と対向電極層との間にバルクヘテロ接合層を形成してなる、バルクヘテロ接合型の有機薄膜太陽電池がある(非特許文献1参照)。
【0003】
バルクヘテロ接合型の有機薄膜太陽電池は、例えば特許文献1に開示されるように、p型有機半導体と、n型有機半導体と、有機溶媒とを含む塗工液を、一方の電極層上に塗布してバルクへテロ接合層を形成することにより製造される。
【0004】
バルクヘテロ接合型の薄膜太陽電池においては、バルクヘテロ接合層のドメインサイズが、素子特性に大きな影響を与えることが知られており、そのドメインサイズの制御が極めて重要である。すなわち、バルクヘテロ接合層が光を吸収すると、ドメイン内に励起子が生成され、ドメイン内を拡散してpn界面に到達した後、自由電荷に分離される。バルクヘテロ接合層での励起子の拡散長は小さく、10〜20nmとされている。ドメインサイズがこの拡散長より大きい場合は、励起子はpn界面に到達する以前に失活してしまうため、自由電荷が生成されない。また、ドメインが互いに分離して存在しているような状況では、例え自由電荷が生じたとしても、電極まで伝導してゆくことが出来ない。これらの事情から、バルクヘテロ接合層の、ドメインサイズは10nm以下で、かつそれらが互いに接触してパーコレーション構造を形成していることが理想とされている。
【0005】
試料材料を溶解させた塗工液を塗布してバルクヘテロ接合層を形成する場合、塗工液の塗布後に、塗膜から溶媒を除去する工程が必要となる。溶媒の除去方法としては、ホットプレート等のヒーターを用いて塗膜を加熱して、溶媒を蒸発除去させる方法が一般的である。
【0006】
しかしながら、溶媒の共存下で塗膜を加熱すると、バルクヘテロ接合層の相分離が急速に進行して、太陽電池素子にとって不適切なサイズの大きなドメインが形成され易かった。このことは、アモルファス性の高分子材料において、より顕著な問題となる。アモルファス性の材料は、加熱しても結晶化は進行せず、ドメインは柔軟で容易に変形し易いため、加熱により相分離がより急速に進行してドメインサイズが増大し易く、特にドメインサイズの制御が困難であった。
【0007】
そこで、試料材料を溶解させる溶媒として沸点の低いものを用い、相分離の進行を顕著に進行させないような低い温度(例えば100℃以下)で加熱させる、という手段が考えられる。しかしながら、沸点の低い溶媒を用いると、溶液を塗布した直後に溶媒の大部分が除去されてしまうため、適切な構造のバルクヘテロ接合層を形成することが困難であった。適切な構造のバルクヘテロ接合層を形成するためには、溶媒は少なくとも100℃以上の沸点を持つことが必要であり、100℃以下の低い温度で加熱して溶媒を除去する、というこの手段は、現実には適用することは困難であった。
【0008】
また、塗膜を送風乾燥して塗膜から溶媒を除去する方法がある。しかしながら、送風乾燥では比較的高い沸点の溶媒を完全に除去することは困難であり、バルクヘテロ接合層に溶媒が残留し易かった。バルクヘテロ接合層に溶媒が残留すると、発電の妨げとなり、太陽電池特性(短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、FF(曲線因子)、エネルギー変換効率(PCE)など)が低下し易かった。また、特にアモルファス性の材料の場合、送風乾燥時に相分離が進行して、ドメインサイズが増大してしまうことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−252768号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】F.Padinger,R.S.Rittberger,N.S.Sariciftci,Adv.Funct.Mater.2003,13,85
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
よって、本発明の目的は、バルクヘテロ接合層のドメインサイズを精度よく制御可能で、発電特性に優れた有機薄膜太陽電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究の結果、p型有機半導体と、n型有機半導体と、有機溶媒とを含む塗工液を塗布して形成した塗膜を真空乾燥することで、p型有機半導体と、n型有機半導体とがほぼ均一に混合した状態で塗膜を乾燥固化できることを見出した。アモルファス系の材料を用いた場合であっても、両者がほぼ均一に混合した乾燥固化膜を形成できる。そして、このようにして乾燥固化した膜を加熱処理することで、分子の拡散は抑制されて相分離の進行速度が低下し、バルクヘテロ接合層のドメインサイズを精度よく制御できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明の有機薄膜太陽電池の製造方法は、基板上に、第1電極層、バルクヘテロ接合層及び第2電極層の順に形成してなる有機薄膜太陽電池の製造方法であって、p型有機半導体と、n型有機半導体と、有機溶媒とを含む塗工液を、前記第1電極層上に塗布し、形成された塗膜を真空乾燥して有機溶媒を除去して前記バルクヘテロ接合層を形成し、前記第2電極層を形成する前、形成中及び形成後のいずれかに前記バルクヘテロ接合層を加熱して、前記バルクヘテロ接合層のドメインサイズを制御することを特徴とする。
【0014】
本発明の有機薄膜太陽電池の製造方法は、前記p型有機半導体として、アモルファス性の材料を用い、前記n型半導体としてフラーレン誘導体を用いることが好ましい。
【0015】
本発明の有機薄膜太陽電池の製造方法は、前記有機溶媒の沸点が100〜300℃であることが好ましい。
【0016】
本発明の有機薄膜太陽電池の製造方法は、前記塗膜を、真空度10−2Pa以下、温度30〜70℃の条件で真空乾燥することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、p型有機半導体と、n型有機半導体と、有機溶媒とを含む塗工液を、第1電極層上に塗布し、形成された塗膜を真空乾燥して有機溶媒を除去することで、p型有機半導体とn型有機半導体との相分離が進行する前に塗膜から有機溶媒が急速に除去され、p型有機半導体と、n型有機半導体とがほぼ均一に混合した膜が形成される。そして、有機溶媒が除去された状態で適度な加熱処理を施すことにより、溶媒が除去されているため、分子の拡散は抑制されて相分離の進行速度が低下し、バルクヘテロ接合層のドメインサイズを精度よく制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】試験例1のバルクヘテロ接合層の位相像である。
【図2】試験例2のバルクヘテロ接合層の位相像である。
【図3】試験例3のバルクヘテロ接合層の位相像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の有機薄膜太陽電池の製造方法は、基板上に、第1電極層、バルクヘテロ接合層、第2電極層の順に形成する。
【0020】
基板としては、特に限定されない。例えば、ポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、アクリルフィルム、アラミドフィルム等の絶縁性プラスチックフィルム基板、ガラス基板、ステンレス基板などを用いることができる。なお、この基板が光入射側に配される場合には、光透過性の材料で構成すべきことはいうまでもない。
【0021】
基板上に第1電極層を形成する。第1電極層の形成方法としては、特に限定は無く、スパッタ法、CVD法、スプレー成膜法等、従来公知の方法を用いることができる。
【0022】
第1電極層、及び後述する第2電極層を構成する電極材料としては、特に限定はない。光入射側に配される電極層の電極材料としては、ITO(酸化インジウム+酸化スズ)、ZnO、TiO、SnO、IZO(酸化インジウム+酸化亜鉛)などの透明導電性酸化物が挙げられる。非受光側に配される電極層の電極材料としては、Al、Mg、Ca等の金属あるいはこれらの合金が挙げられる。
【0023】
次に、第1電極上に、p型有機半導体と、n型有機半導体と、有機溶媒とを含む塗工液を塗布して塗膜を形成し、これを真空乾燥してバルクヘテロ接合層を形成する。
【0024】
p型有機半導体としては、電子供与性を有する任意の有機材料を用いることができる。例えば、チオフェン、フェニレンビニレン、チエニレンビニレン、カルバゾール、ビニルカルバゾール、ピロール、イソチアナフェン、イソチアナフェンおよびヘプタジエンなどの化合物、ならびに水酸基、アルキル基、アミノ基、メチル基、ニトロ基およびハロゲン基などを有する上記化合物の誘導体の重合体が挙げられるが、これらには限定されない。なお、これらは、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、下記式(1)〜(14)の化合物が一例として挙げられる。
【0025】
【化1】

【0026】
【化2】

【0027】
【化3】

【0028】
【化4】

【0029】
【化5】

【0030】
上記式(1)〜(14)におけるnは5〜150が好ましく、10〜100がより好ましい。
【0031】
上記化合物のうち、式(1)、(6)で表される化合物は、結晶性の化合物である。また、式(7)〜(14)で表される化合物は、アモルファス性(非晶性)である。p型有機半導体は、結晶性でもアモルファス性(非晶性)であってもよく、立体規則性の程度については問われない。本発明の方法によれば、アモルファス性の材料であっても、ドメインサイズの増大を抑制でき、ドメインサイズを精度よく制御できるので、アモルファス性の材料が特に好ましく用いられる。
【0032】
p型有機半導体の重量平均分子量は、用いる材料にも依存し、一概には言及出来ないが、2,000〜150,000が望ましい。
【0033】
バルクヘテロ接合層を構成するn型有機半導体は、電子受容性を有する任意の有機材料を用いることができる。例えば、フラーレン誘導体、ペリレン誘導体等が挙げられる。なかでも、フラーレン誘導体は、p型有機半導体からの電子移動が取り分け早いので、特に好ましい。フラーレン誘導体としては、フラーレンC60の誘導体、フラーレンC70の誘導体、フラーレンC80の誘導体等が好ましく挙げられる。具体的な一例としては、Phenyl−C61−Butyric−Acid−Methyl Ester(以下、「PCBM」ともいう)、Bisadduct−Phenyl−C61−Butyric−Acid−Methyl Ester等が挙げられる。
【0034】
塗工液中におけるp型有機半導体とn型有機半導体との混合割合は、モル比で、p型有機半導体:n型有機半導体=1:0.5〜7が好ましく、1:0.7〜3がより好ましい。
【0035】
有機溶媒は、p型有機半導体及びn型有機半導体に対して、十分な溶解性を持つものが望ましい。また、有機溶媒の沸点があまり低いと、塗工液の塗布後直ちに溶媒が揮発してしまい、真空工程によって溶媒を急速に除去させる、という本来の目的を達することが出来ないことがある。そのため、有機溶媒は、一定以上の高い沸点を持つものであることが望ましく、具体的には100〜300℃が好ましく、120〜250℃がより好ましい。有機溶媒の好ましい具体例としては、クロロベンゼン(沸点:131℃)、アニソール(沸点:154℃)、1,2−ジクロロベンゼン(沸点:181℃)、1,2,3−トリクロロベンゼン(沸点:221℃)等が挙げられる。
【0036】
塗工液中における有機溶媒の含有量は、70〜99.9質量%が好ましく、80〜99質量%がより好ましい。有機溶媒の含有量が70質量%未満であると溶質である高分子化合物同士が凝集して、相分離が生じ難くなる傾向がある。99.9質量%を超えると溶液の粘度が低下して、塗布工程により適切な膜厚を有する薄膜を形成し難くなる。
【0037】
上記塗工液には、酸化防止剤、相溶化剤、結晶化促進剤等の添加剤を、物性を損なわない範囲で含有できる。
【0038】
上記塗工液の塗布方法は、特に限定はなく、スピン塗布、ディップ塗布、スプレー塗布、インクジェット印刷、スクリーン印刷など従来公知の方法を用いることができる。
【0039】
本発明では、上記塗工液を塗布して形成した塗膜を真空乾燥してバルクヘテロ接合層を形成する。上記塗工液からなる塗膜を真空乾燥することで、後述する実施例の試験例1に示すように、p型有機半導体とn型有機半導体との相分離が進行する前に塗膜から有機溶媒が急速に除去される。塗膜から溶媒が除去されることで、相分離の進行速度が低下するので、その後の加熱処理において、急速に相分離が進行することがなく、ドメインサイズの増大を抑制でき、ドメインサイズを精度よく制御できる。
【0040】
塗工液を塗布して塗膜を形成後、真空乾燥を開始するまでの時間は、塗膜から有機溶媒が自然に揮発しないようにできるだけ短時間で行うことが好ましい。具体的な時間は、溶媒の蒸気圧や作製環境にも依存するので一概には言えないが、好ましくは15分以内、より好ましくは5分以内である。例え蒸気圧の低い有機溶媒を用いたとしても、大気中に放置している間に、有機溶媒の蒸発が進行すると、p型有機半導体とn型有機半導体との相分離が進行してしまい、本発明で期待される効果が低減してしまう。
【0041】
塗膜の真空乾燥は、真空度10−2Pa以下、温度30〜150℃の条件で、30分以上行うことが好ましい。真空度は10−3Pa以下がより好ましく、10−4Pa以下が特に好ましい。乾燥温度は、50〜120℃がより好ましく、70〜100℃が特に好ましい。上記条件で真空乾燥することで、p型有機半導体とn型有機半導体との相分離が進行する前に塗膜から有機溶媒を除去し易くできる。
【0042】
なお、バルクヘテロ結合層上に、蒸着金属膜、ゾルゲル法で作製したTiO膜、ZnOナノパーティクルなどの等の溶出防止膜を挿入し、該溶出防止膜上に上記塗工液を塗布して同様に真空乾燥してバルクヘテロ結合層を形成してタンデム構造としてもよい。
【0043】
こうして形成されたバルクヘテロ接合層を加熱処理して、ドメインサイズを調整する。バルクヘテロ接合層のドメインサイズは、1〜30nmが好ましく、1〜10nmがより好ましい。1nm未満であると、隣接するドメインどうしが互いに接触したパーコレーション構造が形成され難くなる。30nmを超えると、励起子はpn界面に到達する以前に失活して、自由電荷が生成され難くなる。
【0044】
高分子の相分離では、相分離の生じる臨界温度に上限と下限が存在する場合が多く、ドメインサイズ調整のための加熱処理条件は、これらの間の値であることが必要である。調査の結果、多くのp型高分子半導体及びn型有機半導体に対して、上限は200℃、下限は50℃程度であることが明らかとなった。さらに、上記のような、最適なドメインサイズを形成するためには、100〜150℃がより好ましい。加熱時間に関しては、10分以下であると相分離が平衡構造に到達せず、30分以上続けても相分離構造はもはや変化しない。これらの事情から、ドメインサイズ調整のための加熱処理条件は50〜200℃で、10〜30分が好ましく、100〜150℃で、10〜30分がより好ましい。
【0045】
なお、バルクヘテロ接合層のドメインサイズは、原子間力顕微鏡(AFM)を用い、位相像を観察することで測定できる。
【0046】
バルクヘテロ接合層の加熱処理は、第2電極層の形成前、形成中、形成後のいずれの段階で行ってもよいが、バルクヘテロ接合層の表面が開放された状態で加熱処理を行うと、高分子成分が表面に偏析しやすいという理由から、第2電極層を形成した後に行うことが好ましい。
【0047】
バルクヘテロ接合層を形成した後、バルクヘテロ接合層上に、スパッタ法、CVD法、真空蒸着法等従来公知の方法を用いて第2電極層を形成し、必要に応じてバルクヘテロ接合層を加熱処理することで、バルクヘテロ接合層のドメインサイズが制御された有機薄膜太陽電池が得られる。
【実施例】
【0048】
(試験例1)
p型有機半導体としてポリ3−ヘキシルチオフェン(P3HT)を20mgと、n型有機半導体としてPhenyl−C61−Butyric−Acid−Methyl Ester(PCBM)を14mgを採取して、溶媒クロロベンゼン(沸点131℃)1mLに溶解させ、20時間攪拌して、塗工液を調製した。
第1電極(ITO)の形成されたガラス基板を用意して、酸素プラズマで表面をドライ洗浄した。その後、スピンコーターを用いて基板上に上記塗工液を塗布した。回転条件は2000rpm×120sとした。塗布は乾燥窒素が封入されたグローブボックス内で行った。
塗工液を塗布後、直ちに基板をグローブボックスから取り出し、ベルジャー型の真空蒸着装置にセットした。真空度は、約30分で10−3Paに到達した。その後、30分間真空引きを行い、10−3Paの真空度で、50℃の加熱条件で30分間真空乾燥を行ってバルクヘテロ接合層を形成した。
真空乾燥後のバルクヘテロ接合層を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察し、相分離構造を調べた。ドメインの成分の違いが鋭敏に検出出来るように、位相像を用いた観察を行った。結果を図1に記す。
次に、バルクヘテロ接合層上に、第2電極(Al)を蒸着形成した後に、基板をグローブボックス内に戻して、ホットプレートを用いて加熱処理(130℃×15分)を施して、有機薄膜太陽電池を製造した。
【0049】
(試験例2)
試験例1と同じ条件で、ガラス基板上に塗工液を塗布し、塗工液を塗布した基板をグローブボックス内で、60分間自然乾燥させてバルクヘテロ接合層を形成した。
自然乾燥後のバルクヘテロ接合層を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察し、相分離構造を調べた。ドメインの成分の違いが鋭敏に検出出来るように、位相像を用いた観察を行った。結果を図2に記す。
そして、バルクヘテロ接合層上に、試験例1と同様にして第2電極を形成した後に、基板をグローブボックス内に戻して、ホットプレートを用いて加熱処理(130℃×15分)を施して、有機薄膜太陽電池を製造した。
【0050】
(試験例3)
試験例1と同じ条件で、ガラス基板上に塗工液を塗布し、塗工液を塗布した基板をグローブボックス内で、ホットプレートを用いて加熱処理(130℃×15分)を施してバルクヘテロ接合層を形成した。加熱処理後のバルクヘテロ接合層を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察し、相分離構造を調べた。ドメインの成分の違いが鋭敏に検出出来るように、位相像を用いた観察を行った。結果を図3に記す。
そして、バルクヘテロ接合層上に、試験例1と同様にして第2電極を形成して、有機薄膜太陽電池を製造した。
【0051】
図1を見ると、相分離のドメインの境界は明瞭に確認することが出来ず、二つの成分は均一に混合された状態で膜が形成されたことが分かる。このように、塗膜を真空乾燥することで、相分離を抑制できた。これに対し、図2,3に示されるように、塗膜を室温で自然乾燥した後加熱処理した試験例2や、塗膜をそのまま加熱処理した試験例3では、相分離が生じていた。
【0052】
また、試験例1〜3の有機機薄膜太陽電池の受光セル(2mm×2mm)に、擬似太陽光(AM1.5)を照射して、太陽電池特性(短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、FF(曲線因子)、エネルギー変換効率(PCE))を調べた。擬似太陽光の照射には、分光計器製OTE−XLを用いた。電流密度と電圧の測定には、KEITHLEY製2400を用いた。表1に、結果をまとめて記す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、試験例1が最も高い効率を示した。一方、試験例2,3の素子は、試験例1と比較して、JscとFFがとりわけ低下していた。これらは、残留溶媒によるキャリアのトラップが影響しているものと考えられる。特に、試験例3の素子は、FFの低下は顕著であった。FFの低下は、膜表面が暴露された状態での加熱による、高分子の偏析によるものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、第1電極層、バルクヘテロ接合層、第2電極層の順に形成してなる有機薄膜太陽電池の製造方法であって、
p型有機半導体と、n型有機半導体と、有機溶媒とを含む塗工液を、前記第1電極層上に塗布し、形成された塗膜を真空乾燥して有機溶媒を除去して前記バルクヘテロ接合層を形成し、前記第2電極層を形成する前、形成中及び形成後のいずれかに前記バルクヘテロ接合層を加熱して、前記バルクヘテロ接合層のドメインサイズを制御することを特徴とする有機薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記p型有機半導体として、アモルファス性材料を用い、前記n型半導体としてフラーレン誘導体を用いる、請求項1に記載の有機薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒の沸点が100〜300℃である、請求項1又は2に記載の有機薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記塗膜を、真空度10−2Pa以下、温度30〜70℃の条件で真空乾燥する請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機薄膜太陽電池の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−21070(P2013−21070A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152023(P2011−152023)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】