説明

有機蛍光色素内包シリカナノ粒子、その製造方法、及びそれを用いた生体物質標識剤

【課題】光退色の少ない有機蛍光色素内包シリカナノ粒子及びその製造方法を提供する。また、それを用いた生体物質標識剤を提供する。
【解決手段】シリカ粒子中に有機蛍光色素を内包した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子であって、シリカ骨格内にジスルフィド結合を有する化学構造部分と当該ジスルフィド結合が還元されて生じたメルカプト基を有する化学構造部分とを含むことを特徴とする有機蛍光色素内包シリカナノ粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機蛍光色素内包シリカナノ粒子及びそれを用いた生体物質標識剤に関する。より詳しくは、シリカ骨格中にジスルフィド結合をもち、かつ有機蛍光色素を内包したシリカナノ粒子及びそれを用いた生体物質標識剤に関する。
【背景技術】
【0002】
疾病の診断あるいは病態の把握を目的に、血液などに含まれる特定の生体分子(バイオマーカー)の検出が注目されている。現在、生体分子の検出のために抗原抗体反応を利用した免疫分析(イムノアッセイ)が主に用いられている。酵素反応を利用した化学発光法が高感度とされ、現在主流である。
【0003】
しかしながら、生体物質である酵素を用いるため温度管理などを厳密にするなど煩雑な操作が要求され、より簡便なシステムが求められている。
【0004】
その一つとして予め蛍光物質で標識された生体物質標識剤を用いる蛍光イムノアッセイ法が知られている。蛍光物質としては、有機色素や、量子ドットを使用することができる。化学発光法に比べ、簡便な操作で行えるものの、用いる蛍光物質の蛍光強度が非常に小さいため、検出感度が十分でなかった。
【0005】
近年より超早期での疾病の診断を行うため、すなわち、極微量のバイオマーカーの検出を行うため、より高蛍光強度を有する蛍光物質で標識された生体物質標識剤が求められている。その一つとして、複数の蛍光物質を一つのシリカナノ粒子に内包させる技術が開示されている(例えば特許文献1及び2参照)。
【0006】
一方、特に近年、小動物を対象としたin vivo光イメージングが注目されており、小動物の生体内の細胞を外部より、生体を傷つけることなく(非侵襲で)観察するような光学系装置が各メーカから販売され始めている。これは、生体内の観察したい部位に選択的に集まるような標識をつけた蛍光材料を生体内に注入し、外部より励起光を照射し出てきた発光を外部でモニターする方法である。
【0007】
このように、生体内の蛍光材料を励起し、発光を外部に取り出すためには、励起光及び発光が生体を透過する必要がある。紫外光及び可視光は、生体の吸収が高く、ほとんど透過することができないので好ましくない。また、1000nm以上の波長では、水の吸収が立ち上がり、透過率が低くなるため好ましくない。
【0008】
しかしながら、赤〜近赤外線の650〜1000nmは、「生体の窓」及び「分光領域の窓」と呼ばれる生体の透過率が特異的に高い領域であり、この範囲内で励起及び発光を示す蛍光材料が求められている。従って有機蛍光色素内包シリカ粒子を本用途に用いるにあたり、その蛍光波長が、650〜1000nmにある有機蛍光色素を選択する必要がある。
【0009】
ところが、本発明者らが特許文献1に開示されている方法により、蛍光波長が670nmであるCy5(商品名GEヘルスケア社製品)を内包するシリカナノ粒子を作製し、その蛍光測定を行ったところ、非常に短時間の励起光照射で退色が起こってしまい、さらなる改善が必要であった。
【0010】
蛍光色素の退色を低減する方法は古くから知られており、たとえば非特許文献1に記載されているようにメルカプトエタノールなどメルカプト基を有する分子の添加が広く行われている。メルカプト基はジスルフィド結合をつくることで還元性を示す。ここでは、活性な酸素を還元し、失活させることで、酸素による退色を防止できると考えられている。
【0011】
しかしながら、メルカプトエタノールなどメルカプト基を有する分子はたんぱく質を変性する可能性があり、適用範囲が限られる。
【0012】
一方、特許文献2には、メルカプト基を有するメルカプトプロピルトリメトキシシランを含み、かつ蛍光性物質を内包するシリカ粒子が開示されている。
【0013】
そこで、本発明者らが、特許文献1及び2に開示されている方法により、メルカプトプロピルトリメトキシシランを原料に、Cy5を内包するシリカナノ粒子を作製し、その蛍光測定を行ったところ、短時間の励起光照射で退色が起こってしまい、さらなる改善が必要であることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2007/074722号
【特許文献2】国際公開第2007/142316号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】非侵襲・可視化技術ハンドブック 710ページ NTS出版(2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記問題・状況にかんがみなされたものであり、その解決課題は、光退色の少ない有機蛍光色素内包シリカナノ粒子及びその製造方法を提供することである。また、それを用いた生体物質標識剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0018】
1.シリカ粒子中に有機蛍光色素を内包した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子であって、シリカ骨格内にジスルフィド結合を有する化学構造部分と当該ジスルフィド結合が還元されて生じたメルカプト基を有する化学構造部分とを含むことを特徴とする有機蛍光色素内包シリカナノ粒子。
【0019】
2.前記ジスルフィド結合を有する化学構造部分が、下記一般式(1)で表されることを特徴とする前記第1項に記載の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子。
一般式(1): O−SiR−X−S−S−Y−SiR−O
式中、R、R、R及びRは、各々独立に、酸素原子又は炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。X及びYは、各々独立に、直鎖状又は途中に枝分かれ構造を有する、炭素数1〜12の炭化水素鎖を表し、途中に、酸素原子、硫黄原子、又は窒素原子のいずれかのヘテロ元素を含んでよく、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0020】
3.前記第1項又は第2項に記載の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子を製造する有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の製造方法であって、少なくとも下記工程(a)及び工程(b)を有することを特徴とする有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の製造方法。
工程(a):ジスルフィド結合及び加水分解性置換基を有するシリル基を有する化合物を、有機蛍光色素及び含ケイ素アルコキシドと混合し、塩基性条件下、加水分解反応を行う工程
工程(b):還元反応を行う工程
4.前記ジスルフィド結合及び加水分解性置換基を有するシリル基を有する化合物が、下記一般式(2)で表されるシラン化合物であることを特徴とする前記第3項に記載の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の製造方法。
一般式(2): R5n(RO)Si−X−S−S−Y−SiR7l(OR
式中、n及びmはn+m=3を満たし、mは0〜2の整数、nは1〜3の整数を表す。l及びkはl+k=3を満たし、lは0〜2の整数、kは1〜3の整数を表す。R及びRは非加水分解性の置換基を表す。RO及びROは、加水分解性の炭素数1〜6のアルコキシ基を表し、複数ある場合互いに同一でも異なっていてもよい。X及びYは、各々独立に、直鎖状又は途中に枝分かれ構造を有する、炭素数1〜12の炭化水素鎖を表し、途中に、酸素原子、硫黄原子、又は窒素原子のいずれかのヘテロ元素を含んでよく、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0021】
5.前記第1項又は第2項に記載の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子を用いた生体物質標識剤であって、当該有機蛍光色素内包シリカナノ粒子と分子標識物質とが、有機分子を介して結合されていることを特徴とする生体物質標識剤。
【発明の効果】
【0022】
本発明の上記手段により、光退色の少ない有機蛍光色素内包シリカナノ粒子及びその製造方法を提供することができる。また、それを用いた生体物質標識剤を提供することができる。
【0023】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、ジスルフィド結合を有する骨格をシリカ骨格内に有し、そのジスルフィド基が還元されてなるメルカプト基を有することを特徴とする有機蛍光色素内包シリカナノ粒子を用いた場合、光退色が飛躍的に抑制可能となることを見出した。
【0024】
従来法で得られるメルカプト基を有する有機蛍光色素内包シリカナノ粒子では、メルカプト基同士が離れており、ジスルフィド結合が形成できず、酸素を還元できなかったため光退色が起こると考察している。
【0025】
すなわち、ジスルフィド結合をシリカ骨格内に有し、そのジスルフィド基が還元されてなるメルカプト基を特徴とする有機蛍光色素内包シリカナノ粒子、及びそれを用いた生体物質標識剤を得ることができることを見出し、本発明に至った次第である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子は、シリカ粒子中に有機蛍光色素を内包した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子であって、シリカ骨格内にジスルフィド結合を有する化学構造部分と当該ジスルフィド結合が還元されて生じたメルカプト基を有する化学構造部分とを含むことを特徴とする。この特徴は、請求項1から請求項5に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0027】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記ジスルフィド結合を有する化学構造部分が、前記一般式(1)で表されることが好ましい。
【0028】
また、本発明の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の製造方法としては、少なくとも前記工程(a)及び工程(b)を有する態様の製造方法であることが好ましい。この場合、前記ジスルフィド結合及び加水分解性置換基を有するシリル基を有する化合物が、前記一般式(2)で表されるシラン化合物であることが好ましい。
【0029】
本発明の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子は、当該有機蛍光色素内包シリカナノ粒子と分子標識物質とが、有機分子を介して結合されてなる生体物質標識剤に好適に用いることができる。
【0030】
以下、本発明とその構成要素、及び発明を実施するための形態について詳細な説明をする。
【0031】
〔有機蛍光色素〕
本発明の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子に用いられる有機蛍光色素としては、特に制限はないが、200〜700nmの範囲内の波長の紫外〜近赤外光により励起されたときに、400〜900nmの範囲内の波長の可視〜近赤外光の発光を示す態様の有機蛍光色素を用いることができる。なかでもin vivo光イメージング用途を想定し、「生体の窓」及び「分光領域の窓」と呼ばれる生体の透過率が特異的に高い領域である赤〜近赤外線の650〜1000nmの範囲内にあることが好ましい。
【0032】
有機色素としてフルオレセイン系色素分子、ローダミン系色素分子、Alexa Fluor(インビトロジェン社製)系色素分子、BODIPY(インビトロジェン社製)系色素分子、カスケード系色素分子、クマリン系色素分子、エオジン系色素分子、NBD系色素分子、ピレン系色素分子、Texas Red系色素分子、シアニン系色素分子等を挙げることができる。
【0033】
具体的には、5−カルボキシ−フルオレセイン、6−カルボキシ−フルオレセイン、5,6−ジカルボキシ−フルオレセイン、6−カルボキシ−2′,4,4′,5′,7,7′−ヘキサクロロフルオレセイン、6−カルボキシ−2′,4,7,7′−テトラクロロフルオレセイン、6−カルボキシ−4′,5′−ジクロロ−2′,7′−ジメトキシフルオレセイン、ナフトフルオレセイン、5−カルボキシ−ローダミン、6−カルボキシ−ローダミン、5,6−ジカルボキシ−ローダミン、ローダミン 6G、テトラメチルローダミン、X−ローダミン、及びAlexa Fluor 350,Alexa Fluor 405、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 488、AlexaFluor 500、Alexa Fluor 514、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 555、AlexaFluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 610、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 635、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、Alexa Fluor 700、Alexa Fluor 750、BODIPYFL,BODIPY TMR、BODIPY 493/503、BODIPY 530/550、BODIPY 558/568、BODIPY 564/570、BODIPY576/589、BODIPY 581/591、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665(以上インビトロジェン社製)、メトキシクマリン、エオジン、NBD、ピレン、Cy5、Cy5.5、Cy7(以上GEヘルスケア社製)等を挙げることができる。なかでも蛍光波長が650〜1000nmと「生体の窓」及び「分光領域の窓」にあたるAlexa Fluor 647、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、Alexa Fluor 700、Alexa Fluor 750BODIPY 650/665、Cy5、Cy5.5、Cy7が好ましい。
【0034】
それぞれアミノ基、メルカプト基、マレイミド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、カルボキシル基、N−ヒドロキシスクシンイミド基など活性エステル基誘導体として用いてもよい。この場合、含ケイ素アルコキシド化合物としてアミノ基を有するもの、例えばアミノプロピルトリエトキシシランを用いて、カルボン酸又は活性エステル基と反応させたものを用いることもできる。
【0035】
〔有機蛍光色素内包シリカナノ粒子とその作製方法〕
本発明の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子は、シリカ粒子中に有機蛍光色素を内包した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子であって、シリカ骨格内にジスルフィド結合を有する化学構造部分と当該ジスルフィド結合が還元されて生じたメルカプト基を有する化学構造部分を含むことを特徴とする。
【0036】
当該ジスルフィド結合を有する化学構造部分は、下記一般式(1)で表されるものであることが好ましい。
一般式(1): O−SiR−X−S−S−Y−SiR−O
式中、R、R、R及びRは、各々独立に、酸素原子又は炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0037】
X及びYは、各々独立に、直鎖状又は途中に枝分かれ構造を有する、炭素数1〜12の炭化水素鎖を表し、途中に、酸素原子、硫黄原子、又は窒素原子のいずれかのヘテロ元素を含んでよく、この場合、エステル結合、アミド結合などとなってもよい。また、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0038】
好ましい例としては、後述する一般式(2)で表される化学物由来の構造である。
【0039】
シリカナノ粒子は、公知の方法、例えば、ジャーナルオブコロイドサイエンス 26巻、62ページ(1968年)に記載されている、アンモニア水などを用いたアルカリ性条件下でテトラエトキシシランなどの含ケイ素アルコキシド化合物の加水分解を行う「ストーバー法」と呼ばれる方法により製造することが好ましい。
【0040】
粒径は、添加する水、エタノール、アルカリ量などについて公知の反応条件を適用することで自在に調整でき、平均粒径30〜800nm程度にできる。また、粒径のばらつきを示す変動係数は20%以下とすることができる。
【0041】
本発明において、平均粒径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電子顕微鏡写真を撮影し十分な数の粒子について断面積を計測し、その計測値を相当する円の面積としたときの直径を粒径として求めた。本願においては、1000個の粒子の粒径の算術平均を平均粒径とした。変動係数も、1000個の粒子の粒径分布から算出した値とした。
【0042】
本発明の蛍光体内包シリカナノ粒子は、公知の方法例えば、非特許文献(ラングミュア8巻、2921ページ(1992年))に記載されている方法を参考にすることができる。
【0043】
本発明の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の製造方法としては、少なくとも下記工程(a)及び工程(b)を有する態様の製造方法であることが好ましい。
【0044】
工程(a):ジスルフィド結合及び加水分解性置換基を有するシリル基を有する化合物を、有機蛍光色素及び含ケイ素アルコキシドと混合し、塩基性条件下、加水分解反応を行う工程
工程(b):還元反応を行う工程
当該製造方法を、より詳しく説明するならば、下記工程(1)〜(6)を有する態様の製造方法であることが好ましい。
【0045】
工程(1):ジスルフィド結合及び加水分解性置換基を有するシリル基を有する化合物、テトラエトキシシランなどの含ケイ素アルコキシド化合物及び有機蛍光色素(上述)を混合する。
【0046】
工程(2):エタノールなどの有機溶媒、水及び塩基を混合する。
【0047】
工程(3):工程(2)で調製した混合液を撹拌しているところに、工程(2)で得られた有機蛍光色素含有液を添加し、反応を進行させる。
【0048】
工程(4):ジスルフィド結合をメルカプト基に還元する。
【0049】
工程(5):反応混合物から生成した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子を、ろ過若しくは遠心分離により回収する。
【0050】
工程(6):工程(5)で得られた有機蛍光色素内包シリカナノ粒子を分子標識物質と結合させ、生体物質標識剤を得る。
【0051】
上記工程(1)で用いられるジスルフィド結合及び加水分解性置換基を有するシリル基を有する化合物は、後工程の還元で生成したメルカプト基が還元性を示すようジスルフィド結合をあらかじめシリカ粒子骨格内にもたせる目的がある。
【0052】
また、加水分解性置換基を有するシリル基をもつことは、加水分解反応によりシリカ粒子を製造する際に、同時に加水分解され、シリカ粒子骨格内に、ジスルフィド結合を固定する役割がある。これがないとジスルフィド結合を持つ分子が粒子内に内包されず、酸素の失活すなわち光退色の抑制効果がなくなる。
【0053】
ジスルフィド結合及び加水分解性置換基を有するシリル基を有する化合物の例としては、下記一般式(2)で表される化合物を用いることができる。
一般式(2): R5n(RO)Si−X−S−S−Y−SiR7l(OR
式中、n及びmはn+m=3を満たし、mは0〜2の整数、nは1〜3の整数を表す。
【0054】
l及びkはl+k=3を満たし、lは0〜2の整数、kは1〜3の整数を表す。R及びRは非加水分解性の置換基を表す。RO及びROは、加水分解性の炭素数1〜6のアルコキシ基を表し、複数ある場合互いに同一でも異なっていてもよい。X及びYは、各々独立に、直鎖状又は途中に枝分かれ構造を有する、炭素数1〜12の炭化水素鎖を表し、途中に、酸素原子、硫黄原子、又は窒素原子のいずれかのヘテロ元素を含んでよく、この場合、エステル結合、アミド結合などとなってもよい。また、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0055】
具体的には、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]ジスルフィド、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]テトラスルフィド(以上GELEST社製)を挙げることができる。
【0056】
上記工程(1)で用いられる含ケイ素アルコキシド化合物としては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランといったテトラアルコキシドシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルエトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどのトリアルコキシシランなどを挙げることができる。また有機官能基を有する含ケイ素アルコキシド化合物をあげることができる。具体的にはグリシジルプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0057】
含ケイ素アルコキシド化合物は、上記の一種若しくは二種以上を併用することもできる。
【0058】
含ケイ素アルコキシド化合物と工程(1)で得られる有機蛍光色素結合分子の混合比に制限はないが、最終的に得られるシリカナノ粒子中に1×10−6〜1×10−2mol/Lの範囲内になるように混合することが好ましい。濃度を1×10−6mol/L以上とすることで十分な蛍光が得られる。また1×10−2mol/L以下とすることで、シリカ内で均一に分散でき、かつ濃度消光を防止できる点で好ましい。
【0059】
含ケイ素アルコキシド化合物とジスルフィド結合及び加水分解性置換基を有するシリル基を有する分子の混合比に制限はないが、モル比で2:1以上1000:1以下になるように混合することが好ましい。ジスルフィド結合及び加水分解性置換基を有するシリル基を有する分子が多すぎると生成する粒子がいびつな形状となる。また低すぎる場合、ジスルフィド結合及びその酸化でできるメルカプト基が少なく、還元力が弱くなり光退色を抑制する点で不利になる。
【0060】
上記工程(2)で用いられる有機溶媒としては、通常の含ケイ素アルコキシド化合物の加水分解反応で用いられるものであればよく、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが用いられる。一種若しくは二種以上の混合としてもよい。
【0061】
また、上記工程(2)で用いられる塩基としては、通常の含ケイ素アルコキシド化合物の加水分解反応で用いられるものであればよく、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いることができ、それぞれ水溶液として用いてもよい。
【0062】
含ケイ素アルコキシド化合物としてテトラエトキシシラン、有機溶媒としてエタノール、塩基としてアンモニア水を用いた場合のそれぞれの仕込みモル比を以下にあげる。
【0063】
テトラエトキシシランを1molとした場合、エタノールをa mol、水をr mol、アンモニアをb molとすると、aは20以上400以下、rは10以上200以下、bは10以上40以下で混合する。具体的には、ジャーナルオブコロイドサイエンス26巻、62ページ(1968年)に記載されている条件を適用することができる。
【0064】
上記工程(3)において、反応温度は通常の含ケイ素アルコキシド化合物の加水分解反応で適用される条件でよく、室温から50℃の間で行うことができる。
【0065】
蛍光色素含有液を添加する方法としては、限定されるものはなくシリンジポンプ、滴下ロートなど用いればよい。
【0066】
上記工程(3)における反応時間は、通常の含ケイ素アルコキシド化合物の加水分解反応で適用される条件でよく、収率、不溶性副生成物の生成防止等の観点から、1時間以上50時間以下であることが好ましい。
【0067】
上記工程(4)により、ジスルフィド結合をメルカプト基に還元する。ジスルフィド結合方法としては公知の方法、たとえば高温又は高濃度の変性剤(6M塩酸グアニジン、8M尿素、1%SDS(硫酸ドデシルナトリウム)などを用いることができる。反応条件は、例えば、室温から50℃の間で、30分から2時間撹拌する。
【0068】
上記工程(5)における反応混合物から生成した蛍光物質内包シリカナノ粒子の回収方法は、通常ナノ粒子の回収で行われるろ過、若しくは遠心分離などを用いることができる。回収した蛍光色素内包シリカナノ粒子は必要に応じて、未反応原料などを除くため、有機溶媒若しくは水による洗浄をしてもよい。
【0069】
〔有機蛍光色素内包シリカナノ粒子と、分子標識物質とを結合する有機分子〕
本発明に係る生体物質標識剤は、有機分子修飾された有機蛍光色素内包シリカナノ粒子と、分子標識物質とが有機分子により結合されている。上記結合の態様としては特に限定されず、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合、物理吸着及び化学吸着等が挙げられる。結合の安定性から共有結合などの結合力の強い結合が好ましい。
【0070】
有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の表面に結合し、分子標識物質とも結合しうる有機分子として、例えば無機物と有機物を結合させるために広く用いられている化合物であるシランカップリング剤を用いることができる。このシランカップリング剤は、分子の一端に加水分解でシラノール基を与えるアルコキシシリル基を有し、他端に、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、アルデヒド基などの官能基を有する化合物であり、上記シラノール基の酸素原子を介して無機物と結合する。具体的には、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシランなどがあげられる。
【0071】
また、後述する生体物質標識剤として用いる場合、生体物質との非特異的吸着を抑制するためポリエチレングリコール鎖をもつシランカップリング剤(例えば、Gelest社製PEG−silane no.SIM6492.7)を用いることができる。
【0072】
シランカップリング剤を用いる場合、二種以上を併用してもよい。
【0073】
有機蛍光色素内包シリカナノ粒子とシランカップリング剤との反応手順は、公知の手法を用いることができる。例えば、得られた蛍光色素内包シリカナノ粒子を純水中に分散させ、アミノプロピルトリエトキシシランを添加し、室温で12時間反応させる。反応終了後、遠心分離又はろ過により表面がアミノプロピル基で修飾された蛍光物質内包シリカナノ粒子を得ることができる。
【0074】
〔生体物質標識剤〕
本発明に係る生体物質標識剤は、上述した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子と、分子標識物質と有機分子を介して結合させて得られる。
【0075】
本発明に係る生体物質標識剤は分子標識物質が目的とする生体物質と特異的に結合及び/又は反応することにより、生体物質の標識が可能となる。
【0076】
当該分子標識物質としては、例えば、ヌクレオチド鎖、タンパク質、抗体等が挙げられる。
【0077】
具体例として、アミノプロピルトリエトキシシランで修飾した蛍光物質内包シリカナノ粒子のアミノ基と抗体中のカルボキシル基とを反応させることで、アミド結合を介し抗体を有機蛍光色素内包シリカナノ粒子と結合させることができる。必要に応じEDC(1−Ethyl−3−[3−Dimethylaminopropyl]carbodiimide Hydrochloride:Pierce社製)のような縮合剤を用いることもできる。
【0078】
必要により有機分子修飾された有機蛍光色素内包シリカナノ粒子と直接結合しうる部位と、分子標的物質と結合しうる部位とを有するリンカー化合物を用いることができる。具体例としてアミノ基と選択的に反応する部位とメルカプト基と選択的に反応する部位の両方をもつsulfo−SMCC(Sulfosuccinimidyl 4[N−maleimidomethyl]−cyclohexane−1−carboxylate:Pierce社製)を用いると、アミノプロピルトリエトキシシランで修飾した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子のアミノ基と、抗体中のメルカプト基を結合させることで、抗体結合した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子ができる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0080】
《有機蛍光色素内包シリカナノ粒子》
〔シリカ骨格内にジスルフィド結合を有する有機蛍光色素内包シリカナノ粒子1の作製〕
ジスルフィド結合及び加水分解性置換基を有するシリル基同一分子内にもつ化合物を用いて、下記工程(1)〜(4)の方法により、シリカナノ粒子1を作製した。
【0081】
工程(1):Cy5のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(GEヘルスケア社製) 1mg(0.00126mmol)、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]ジスルフィド(GELEST社製)10μL(0.021mmol)及びテトラエトキシシラン 400μL(1.796mmol)を混合した。
【0082】
工程(2):エタノール40mL、14%アンモニア水10mLを混合した。
【0083】
工程(3):工程2で作製した混合液を室温下撹拌しているところに、工程(1)で調製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
【0084】
工程(4):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
【0085】
得られたシリカナノ粒子1の走査型電子顕微鏡(SEM;日立社製S−800型)観察を行ったところ、平均粒径110nm、変動係数は12%であった。
【0086】
〔シリカ骨格内にジスルフィド結合を有する有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の還元物(シリカナノ粒子2)の作製〕
工程(5):工程(4)で得られたシリカナノ粒子1 1nM水分散液を調製したところに、8M尿素を添加、室温下2時間撹拌した。反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
【0087】
得られたシリカナノ粒子2のSEM観察を行ったところ、平均粒径108nm、変動係数は11%であり、シリカナノ粒子1と変化なかった。
【0088】
得られたシリカナノ粒子2のFT−IR(日本分光社製 FT/IR−4100)測定を行ったところ、メルカプト基に由来する吸収が観測でき、ジスルフィド結合をメルカプト基に還元できたことを確認した。
【0089】
〔ジスルフィド結合なし、メルカプト基なしシリカナノ粒子3の作製〕
特許文献1にならい下記工程(1)〜(5)の方法により、ジスルフィド結合もメルカプト基のどちらも有しないCy5内包シリカナノ粒子3を作製した。
【0090】
工程(1):Cy5のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体1mg(0.00126mmol)をジメチルホルムアミド1mLに溶解させたところに、室温下3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製)1μL添加し、30分撹拌した。
【0091】
工程(2):上記工程(1)で得られたDMF溶液及びテトラエトキシシラン400μLを混合した。
【0092】
工程(3):エタノール40mL、14%アンモニア水10mLを混合した。
【0093】
工程(4):上記工程(3)で作製した混合液を室温下、撹拌しているところに、工程(3)で作製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
【0094】
工程(5):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
【0095】
得られたシリカナノ粒子3のSEM観察を行ったところ、平均粒径120nm、変動係数は13%であった。
【0096】
〔ジスルフィド結合なし、メルカプト基ありシリカナノ粒子4の作製〕
特許文献2にならい下記工程(1)〜(5)の方法により、ジスルフィド結合をもたず、メルカプト基を有するCy5内包シリカ粒子4を作製した。
【0097】
工程(1):Cy5のマレイミド誘導体(GEヘルスケア社製)1mgをジメチルスルホキシド0.05mLに溶解させたところに、メルカプト基を有する3−メルカプトプロピルトリメトキシシランをCy5のマレイミド誘導体と等モルになるよう添加混合し、2時間撹拌した。
【0098】
工程(2):上記工程(1)で得られたジメチルスルホキシド溶液と、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン7.5μLを混合した。
【0099】
工程(3):上記工程(2)で作製した混合液に、28質量%アンモニア水溶液675μLを添加混合の後、100度で11時間反応させた。
【0100】
工程(4):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
【0101】
得られたシリカナノ粒子4のSEM観察を行ったところ、平均粒径360nm、変動係数は19%であった。
【0102】
〔シリカ骨格内にジスルフィド結合を有する有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の作製及びその還元物(シリカナノ粒子5)の作製〕
Cy5のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体の代わりに、Alexa Fluor 647のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(インビトロジェン社製)を用いた他はシリカナノ粒子1と同様の手順によりシリカ骨格内にジスルフィド結合を有する有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の作製、及びその還元物の作製を行った。
【0103】
工程(1):Alexa Fluor 647のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(インビトロジェン社製)1.6mg(0.00126mmol)、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]ジスルフィド(GELEST社製)10μL(0.021mmol)及びテトラエトキシシラン400μL(1.796mmol)を混合した。
【0104】
工程(2):エタノール40mL、14%アンモニア水10mLを混合した。
【0105】
工程(3):工程2で作製した混合液を室温下撹拌しているところに、工程(1)で調製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
【0106】
工程(4):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
【0107】
工程(5):工程(4)で得られたシリカナノ粒子1nM水分散液を調製したところに、8M尿素を添加、室温下2時間撹拌した。反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
【0108】
得られたシリカナノ粒子5のSEM観察を行ったところ、平均粒径110nm、変動係数は10%であった。
【0109】
得られたシリカナノ粒子5のFT−IR測定を行ったところ、メルカプト基に由来する吸収が観測でき、ジスルフィド結合をメルカプト基に還元できたことを確認した。
【0110】
〔シリカ骨格内にジスルフィド結合を有する有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の作製及びその還元物(シリカナノ粒子6)の作製〕
Cy5のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体の代わりに、HiLyte Fluor 647のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(AnaSpec社製)を用いた他はシリカナノ粒子1と同様の手順によりシリカ骨格内にジスルフィド結合を有する有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の作製、及びその還元物の作製を行った。
【0111】
工程(1)HiLyte Fluor 647のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(AnaSpec社製)1.6mg(0.00126mmol)、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]ジスルフィド(GELEST社製)10μL(0.021mmol)及びテトラエトキシシラン400μL(1.796mmol)を混合した。
【0112】
工程(2):エタノール40mL、14%アンモニア水10mLを混合した。
【0113】
工程(3):工程2で作製した混合液を室温下撹拌しているところに、工程(1)で調製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
【0114】
工程(4):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
【0115】
工程(5):工程(4)で得られたシリカナノ粒子1nM水分散液を調製したところに、8M尿素を添加、室温下2時間撹拌した。反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
【0116】
得られたシリカナノ粒子6のSEM観察を行ったところ、平均粒径103nm、変動係数は12%であった。
【0117】
得られたシリカナノ粒子6のFT−IR測定を行ったところ、メルカプト基に由来する吸収が観測でき、ジスルフィド結合をメルカプト基に還元できたことを確認した。
【0118】
〔シリカ骨格内にジスルフィド結合を有する有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の作製及びその還元物(シリカナノ粒子7)の作製〕
Cy5のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体の代わりに、DyLight649のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(ThermoScientific社製)を、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]ジスルフィドの代わりに、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]テトラスルフィド(GELEST社製)を用いた他はシリカナノ粒子1と同様の手順によりシリカ骨格内にジスルフィド結合を有する有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の作製、及びその還元物の作製を行った。
【0119】
工程(1)DyLight 649のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(ThermoScientific社製)1.3mg(0.00126mmol)、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]テトラスルフィド(GELEST社製)11μL(0.021mmol)及びテトラエトキシシラン400μL(1.796mmol)を混合した。
【0120】
工程(2):エタノール40mL、14%アンモニア水10mLを混合した。
【0121】
工程(3):工程2で作製した混合液を室温下撹拌しているところに、工程(1)で調製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
【0122】
工程(4):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
【0123】
工程(5):工程(4)で得られたシリカナノ粒子1nM水分散液を調製したところに、8M尿素を添加、室温下2時間撹拌した。反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
【0124】
得られたシリカナノ粒子7のSEM観察を行ったところ、平均粒径108nm、変動係数は11%であった。
【0125】
得られたシリカナノ粒子7のFT−IR測定を行ったところ、メルカプト基に由来する吸収が観測でき、ジスルフィド結合をメルカプト基に還元できたことを確認した。
【0126】
得られたシリカナノ粒子の1nMPBS(リン酸緩衝生理食塩水)分散液をそれぞれ調製し、日立分光光度計F−7000を使用し、光退色実験を行った。サンプルホルダーにシリカナノ粒子PBS分散液を石英セルにいれ、サンプルホルダーに固定した。励起波長633nmとし、波長670nmの蛍光強度を測定した。その後サンプルホルダーにセルを備えたまま励起光を10分間照射し、再度蛍光強度を測定した。光照射前の蛍光強度を100とし、3分間光照射後の蛍光強度を求めた。
【0127】
測定結果を表1に示す。
【0128】
【表1】

【0129】
表1に示した結果から明らかなように、本発明に係るジスルフィド結合をシリカ骨格内に有し、そのジスルフィド結合の還元によりメルカプト基を形成したシリカナノ粒子の5分後の蛍光強度は、公知技術のジスルフィド結合もメルカプト基もないものや、メルカプト基があってもジスルフィド結合の還元ではないもののそれに比べ、著しく大きい。このことは、本発明において、メルカプト基を空間的に近づけることができたことで、酸素を失活させることができ、光退色を抑制したと考えられる。
【0130】
《生体物質標識剤》
シリカナノ粒子2及び4を用い、分子修飾シリカナノ粒子A及びBを各々調製し、更にこれを用いて生体物質標識剤1及び2を調製して、生体物質標識剤の長期保存性を評価した。
【0131】
〔分子修飾シリカナノ粒子Aの調製〕
(分子修飾シリカナノ粒子A:シリカ骨格内のジスルフィド結合の還元によるメルカプト基もつシリカナノ粒子2のアミノ基修飾)
シリカナノ粒子2 1mgを純水5mLに分散させた。アミノプロピルトリエトキシシラン水分散液100μLを添加し、室温で12時間撹拌した。
【0132】
反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を行った。
【0133】
得られたアミノ基修飾したシリカナノ粒子AのFT−IR測定を行ったところ、アミノ基に由来する吸収が観測でき、アミノ基修飾できたことを確認できた。
【0134】
〔分子修飾シリカナノ粒子Bの調製〕
(分子修飾シリカナノ粒子B:ジスルフィド結合の還元ではないメルカプト基をもつシリカナノ粒子4のアミノ基修飾)
シリカナノ粒子4について、分子修飾シリカナノ粒子Aの調製と同様の手順で、アミノ基修飾を行った。
【0135】
得られたアミノ基修飾したシリカナノ粒子BのFT−IR測定を行ったところ、アミノ基に由来する吸収が観測でき、アミノ基修飾できたことを確認できた。
【0136】
〔生体物質標識剤1の調製〕
(生体物質標識剤1:アミノ基修飾シリカ骨格内のジスルフィド結合の還元によるメルカプト基もつシリカナノ粒子への抗体結合体)
分子修飾シリカナノ粒子Aの調製で得られたアミノ基修飾シリカ骨格内のジスルフィド結合の還元によるメルカプト基もつシリカナノ粒子へ0.5mgを純水0.5mLに分散させたもの0.1mLをDMSO2mLに添加した。そこへ、sulfo−SMCC(Pierce社製)をいれ1時間反応させた。過剰のsulfo−SMCCなどを遠心分離により除去する、一方で、抗hCG抗体を1Mジチオスレイトール(DTT)で還元処理を行い、ゲルろ過カラムにより過剰のDTTを除去した。
【0137】
sulfo−SMCC処理したシリカ骨格内のジスルフィド結合の還元によるメルカプト基もつシリカナノ粒子と、DTT処理した抗hCG抗体を混合し、1時間反応させた。10mMメルカプトエタノールを添加し、反応を停止させた。ゲルろ過カラムにより未反応物を除去し、抗hCG抗体が結合したシリカ骨格内のジスルフィド結合の還元によるメルカプト基もつシリカナノ粒子(生体物質標識剤1)を得た。
【0138】
〔生体物質標識剤2の調製〕
(生体物質標識剤2:アミノ基修飾ジスルフィド結合の還元ではないメルカプト基をもつシリカナノ粒子への抗体結合体)
分子修飾シリカナノ粒子Bの調製で得られたアミノ基修飾ジスルフィド結合の還元ではないメルカプト基をもつシリカナノ粒子について、生体物質標識剤1の調製と同様の手順で、抗hCG抗体が結合したジスルフィド結合の還元ではないメルカプト基をもつシリカナノ粒子(生体物質標識剤2)を得た。
【0139】
生体物質標識剤1及び2を用いたイムノアッセイを下記の手順で行った。
1)マイクロプレート上ウェル内にアンチ−hαサブニットを固定化した。
2)抗原であるhCGを各ウェルに濃度を変えて入れた。
3)過剰のhCGを洗浄により除去後、各ウェルに生体物質標識剤分散液を入れた。
4)過剰の生体物質標識剤を洗浄により除去した。
5)マイクロプレートリーダーにより各ウェルの蛍光強度を測定した。励起光を3分間連続的に照射し、連続的に検出した蛍光強度を積算した。
【0140】
生体標識剤1を用い、hCG抗体濃度が10ng/mLの時の蛍光強度積算値を1000としたときの、それぞれの生体標識剤について各hCG抗体濃度で測定した蛍光強度積算値を表2に示す。
【0141】
【表2】

【0142】
生体物質標識剤1又は生体物質標識剤2を用いたところ、どちらも抗原濃度に応じて蛍光強度が上昇した。すなわち、生体物質標識剤1及び生体物質標識剤2はいずれもB、抗原認識能を損なっていないことが言える。しかし、本発明の生体物質標識剤1は、従来技術により得られた生体物質標識剤2に比べ、極めて低濃度の抗体濃度であっても検出できることがわかった。
【0143】
このことは、励起光を連続照射しても本発明の生体物質標識剤1は光退色が少ないため、蛍光強度を積算することで積算値を上昇させるができたのに対し、生体物質標識剤2では光退色が大きいため励起光を連続照射して蛍光強度を積算しても蛍光強度積算値が上昇しないためといえる。すなわち、この結果により、本発明により高感度検出が可能な生体物質標識剤を提供することができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子中に有機蛍光色素を内包した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子であって、シリカ骨格内にジスルフィド結合を有する化学構造部分と当該ジスルフィド結合が還元されて生じたメルカプト基を有する化学構造部分とを含むことを特徴とする有機蛍光色素内包シリカナノ粒子。
【請求項2】
前記ジスルフィド結合を有する化学構造部分が、下記一般式(1)で表されることを特徴とする請求項1に記載の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子。
一般式(1): O−SiR−X−S−S−Y−SiR−O
式中、R、R、R及びRは、各々独立に、酸素原子又は炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。X及びYは、各々独立に、直鎖状又は途中に枝分かれ構造を有する、炭素数1〜12の炭化水素鎖を表し、途中に、酸素原子、硫黄原子、又は窒素原子のいずれかのヘテロ元素を含んでよく、互いに同一でも異なっていてもよい。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子を製造する有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の製造方法であって、少なくとも下記工程(a)及び工程(b)を有することを特徴とする有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の製造方法。
工程(a):ジスルフィド結合及び加水分解性置換基を有するシリル基を有する化合物を、有機蛍光色素及び含ケイ素アルコキシドと混合し、塩基性条件下、加水分解反応を行う工程
工程(b):還元反応を行う工程
【請求項4】
前記ジスルフィド結合及び加水分解性置換基を有するシリル基を有する化合物が、下記一般式(2)で表されるシラン化合物であることを特徴とする請求項3に記載の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の製造方法。
一般式(2): R5n(RO)Si−X−S−S−Y−SiR7l(OR
式中、n及びmはn+m=3を満たし、mは0〜2の整数、nは1〜3の整数を表す。l及びkはl+k=3を満たし、lは0〜2の整数、kは1〜3の整数を表す。R及びRは非加水分解性の置換基を表す。RO及びROは、加水分解性の炭素数1〜6のアルコキシ基を表し、複数ある場合互いに同一でも異なっていてもよい。X及びYは、各々独立に、直鎖状又は途中に枝分かれ構造を有する、炭素数1〜12の炭化水素鎖を表し、途中に、酸素原子、硫黄原子、又は窒素原子のいずれかのヘテロ元素を含んでよく、互いに同一でも異なっていてもよい。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子を用いた生体物質標識剤であって、当該有機蛍光色素内包シリカナノ粒子と分子標識物質とが、有機分子を介して結合されていることを特徴とする生体物質標識剤。

【公開番号】特開2011−231200(P2011−231200A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101866(P2010−101866)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】