説明

有機質正特性サーミスタ

互いに対向して配置された1対の電極と、該電極間に配置された正の抵抗−温度特性を有するサーミスタ素体と、を備え、前記サーミスタ素体が可撓性エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂、硬化剤及び導電性粒子を含有する混合物の硬化物からなることを特徴とする有機質正特性サーミスタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば温度センサーや加熱や過電流保護素子などに用いられ、温度上昇とともに抵抗値が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient:正温度係数)特性を有する有機質正特性サーミスタに関する。
【背景技術】
【0002】
有機質正特性サーミスタは、高分子有機化合物中に導電性粒子を分散させた抵抗体(サーミスタ素体)と、それを挟むように配設された対向する1対の電極からなる。1対の電極間に電流を流すことにより、過電流・過熱保護素子、自己制御型発熱体、温度センサーとして利用されている。
【0003】
有機質正特性サーミスタの特性としては、室温抵抗値が低く、抵抗変化率が高く、かつ、抵抗値再現性等の信頼性が高いことが要求されている。
これらの要求に応える有機質正特性サーミスタとして、米国特許第3243753号明細書や米国特許第3351882号明細書には、高分子有機化合物に結晶性高分子を用いた有機質正特性サーミスタが開示されている。また、米国特許第4966729号明細書には、熱硬化性樹脂を用いた有機質正特性サーミスタが開示されている。
【0004】
さらに、特開平5−198403号公報や特開平5−198404号公報には、導電性粒子としてスパイク状の突起を有する導電性粒子を用いた有機質正特性サーミスタが開示されている。また、特開平5−198404号公報には、導電性短繊維を用いた有機質正特性サーミスタが開示されている。
【0005】
さらに、特開平5−198404号公報には、導電性粒子としてスパイク状の突起を持つ金属粉やフレーク状の金属粉を用い、高分子有機化合物として低分子量の3官能以上のアルコールやアミンを混合することで、低い室温抵抗値及び大きい抵抗変化率が得られるとされている。さらに、加熱冷却した後の室温抵抗値の変化が小さい高抵抗値再現性を有した有機質正特性サーミスタが得られることが開示されている。
【0006】
近年の電子機器の小型化に伴い、有機質正特性サーミスタ素子の小型化がさらに要求されている。有機質正特性サーミスタの小型化は、主に電極面方向の小型化、すなわち、電極面積の減少によって達成されている。
【発明の開示】
【0007】
しかしながら、従来の有機質正特性サーミスタの電極面積を小さくすると、室温抵抗値が増加する傾向にある。また、外気に触れるサーミスタ素体の割合が増えるため、サーミスタ素体の変質が加速され、信頼性の急激な低下が起こっていた。特に、熱サイクル環境下や熱衝撃環境下に曝されると、サーミスタ素体に含まれる高分子有機化合物の変質が加速され、室温抵抗値が元に戻らなくなるという、抵抗値再現性の低下が顕著に現れるようになっていた。
【0008】
室温抵抗を小さくするためには、次の2つの方法が用いられる。第1の方法は、電極間距離を小さくすることで達成される。第2の方法は、サーミスタ素体中の導電性粒子の割合を増加させることで達成される。
【0009】
しかしながら、これら2つの方法には、それぞれ、以下の理由により有機質正特性サーミスタの抵抗変化率が低下してしまう問題があった。
【0010】
第1の方法では、サーミスタ素体の全温度域において抵抗を小さくする。しかし、有機質正特性サーミスタの抵抗は、サーミスタ素体の抵抗と、電極−サーミスタ素体間の接触抵抗の和である。このため、電極間距離を小さくすると、低温下すなわち低抵抗状態において電極−サーミスタ素体間の接触抵抗を無視できなくなる。その結果、有機質正特性サーミスタの抵抗変化率が低下してしまう。一方、第2の方法では、高分子有機化合物の割合が減るため、抵抗変化率が低下してしまう。
【0011】
これらの問題を解決するため、高分子有機化合物として、熱による膨張・収縮率の高いエポキシ樹脂が用いられている。しかし、熱膨張・収縮性の高い従来のエポキシ樹脂は、加熱・減熱による膨張・収縮を繰り返すと、徐々に樹脂構造が変化し、熱膨張率・収縮率が低下してしまう。特に、膨張したまま収縮しなくなる現象が顕著に現れる。そのため、熱膨張性の高いエポキシ樹脂を用いた有機質正特性サーミスタは、抵抗値の再現性が問題となっていた。
【0012】
そこで本発明は、上記問題を解決すべく、低い室温抵抗値と、高い抵抗変化率を維持し、かつ、抵抗値再現性が高い有機質正特性サーミスタを提供することを目的とする。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の有機質正特性サーミスタは、互いに対向して配設された1対の電極と、その電極間に配設された正の抵抗−温度特性を有するサーミスタ素体とを備え、可撓性エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂、硬化剤及び導電性粒子を含有する混合物の硬化物からなることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、低い室温抵抗値と、高い抵抗変化率を維持し、かつ、抵抗値再現性が高い有機質正特性サーミスタとすることができる。
【0015】
ここで、本発明における可撓性エポキシ樹脂とは、鎖状構造を有するエポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、エポキシ化ポリオレフィン、ウレタン変性エポキシ樹脂、ポリチオール系のエポキシ樹脂、ポリオール系のエポキシ樹脂や、ポリカルボキシル化合物の構造を有するエポキシ樹脂をいう。
【0016】
また、本発明に係るサーミスタ素体においては、上記エポキシ樹脂の全質量に対して、上記可撓性エポキシ樹脂を3〜100質量%含有すると好ましい。これにより、本発明の有機質正特性サーミスタは、低い室温抵抗値及び大きな抵抗変化率を維持し、かつ、抵抗値再現性を大きく向上させることができる。
【0017】
また、本発明の有機質正特性サーミスタは、互いに対向して配設された1対の電極と、その電極間に配設された正の抵抗−温度特性を有するサーミスタ素体とを備え、上記サーミスタ素体が2700MPa以下の曲げ弾性率を有する可撓性エポキシ樹脂及び導電性粒子を含有する混合物の硬化物からなることを特徴としてもよい。ここで、本発明における曲げ弾性率(MPa)とは、JIS K 6911に準拠して測定した値をいう。本発明の効果を一層発揮する観点から、上記曲げ弾性率は2550MPa以下であると好ましい。
【0018】
また、本発明においては、上記導電性粒子が表面に突起を有すると好ましい。こうすれば、有機質正特性サーミスタの室温抵抗値を一層低く保つことができる。また、真球状の導電性粒子に比べて、粒子の中心間距離が大きくなるため、より急峻なPTC特性を呈することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1は、有機質正特性サーミスタの模式斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の有機質正特性サーミスタについて詳細に説明する。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
図1は、本発明の有機質正特性サーミスタの好適な一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【0022】
図1に示す有機質正特性サーミスタ(以下、場合によって「サーミスタ」ともいう。)1は、互いに対向した状態で配設された1対の電極3と、この電極3間に配設された正の抵抗−温度特性を有するサーミスタ素体2(以下、場合によって「サーミスタ素体」ともいう。)とから構成されている。また、必要に応じて電極3に電気的に接続されたリード(図示せず)を備えていてもよい。
【0023】
電極3は、サーミスタの電極として機能する電子伝導性を有するものであれば、その形状や材質について特に限定されない。また、リードは、それぞれ電極2及び電極3から外部に電荷を放出又は注入することが可能な電子伝導性を有していれば、その形状や材質について特に限定されない。
【0024】
サーミスタ素体2は、可撓性エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂、硬化剤及び導電性粒子を含有する混合物の硬化物から形成されている。
【0025】
可撓性エポキシ樹脂としては、上述のように、鎖状構造を有するエポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、エポキシ化ポリオレフィン、ウレタン変性エポキシ樹脂、ポリチオール系のエポキシ樹脂、ポリオール系のエポキシ樹脂や、ポリカルボキシル化合物から得られるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0026】
ここで、鎖状構造を有するエポキシ樹脂とは、平均して1分子あたり2個以上のエポキシ基(グリシジルエーテル基)と、その骨格に下記式(i)〜(vi)で表される2価の有機基を有するようなエポキシ樹脂、つまり、グリシジルエーテル基に結合した下記式(i)〜(vi)で表される2価の有機基を有するようなエポキシ樹脂を意味する。
−[CH(CH)CHO]− …(i)
−[CH(CH)CHO]− …(ii)
−(CH− …(iii)
−(CHCHO)− …(iv)
−CHC(C)(CH)CH− …(v)
−[(CHO]− …(vi)
上記式(i)〜(v)中、mは1〜20の整数を示し、nは1〜20の整数を示す。エポキシ樹脂がその骨格に上述した鎖状基を有することで、エポキシ樹脂に可撓性を付与することができる。このような可撓性エポキシ樹脂をサーミスタ素体に含有せしめることで、サーミスタは所望のPCT特性を有することができる。
【0027】
ゴム変性エポキシ樹脂としては、例えば、液状ゴムの微粒子を分散したエポキシ樹脂が挙げられる。液状ゴムとしては、例えば、末端にカルボキシル基、水酸基又はエポキシ基を有する、ポリブチレン(BR)、ポリブタジエン(PBR)、ブタジエン−アクリロニトリル(NBR)が挙げられる。液状ゴムの重量平均分子量(Mw)は、例えば1000程度である。ここで、Mwとは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0028】
シリコーン変性エポキシ樹脂としては、例えば、末端に反応性基を有するシリコーンゴムの微粒子を含有するエポキシ樹脂、分子内にシロキサン結合(−Si−O−Si−結合)を有するエポキシ樹脂が挙げられる。シリコーンゴムの微粒子としては、例えば、下記1)〜4)に記載の方法で得られたものが挙げられる。
1)末端にアミノプロピル基を有する(ポリ)ジメチルシロキサンにエポキシ樹脂を反応させたものを微粒子化したもの。
2)末端にエポキシ基を有する(ポリ)ジメチルシロキサンにビスフェノールAを反応させたものを微粒子化したもの。
3)油滴として分散剤を用い、エポキシ樹脂中に反応性基を有するシリコーンオイルを分散させ、該シリコーンオイルを油滴内で架橋反応させたものを微粒子化したもの。
4)界面活性剤を用いてノボラック樹脂中に熱硬化性シリコーンゴムを分散させたものを微粒子化したもの。
【0029】
ウレタン変性エポキシ樹脂としては、例えば、分子内にウレタン結合を有するエポキシ樹脂が挙げられる。当該エポキシ樹脂としては、例えば、ポリエーテルポリオール又はポリエステルポリオールにポリイソシアネートを反応させて得られるウレタンプレポリマーと、分子内に水酸基を有するエポキシ樹脂とを反応させて得られるものが挙げられる。
【0030】
ポリカルボキシル化合物の構造を有するエポキシ樹脂としては、例えば、ダイマー酸等のポリカルボン酸にエピクロロヒドリンを反応させて得られるものが挙げられる。
【0031】
これらの中でも、ゴム変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂が好ましい。ゴム変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂は、これらの変性樹脂が有する水酸基とエポキシ樹脂のエポキシ基との脱水縮合反応が可能である。これにより、これらの変性樹脂は、エポキシ樹脂と化学結合を形成することができるため、特に断続負荷試験の室温抵抗値の変化を小さくすることができる。
【0032】
また、上述した可撓性エポキシ樹脂の代わりに、脂環構造を有するエポキシ樹脂を用いてサーミスタ素体2を形成してもよい。脂環構造を有するエポキシ樹脂としては、上述のように、例えば、シクロヘキサン骨格やシクロペンタジエン骨格などを有し、かつ、平均して1分子あたり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が挙げられる。
【0033】
なお、上述した可撓性エポキシ樹脂、及び脂環構造を有するエポキシ樹脂の含有割合は、エポキシ樹脂の全質量に対して3〜100質量%とすることが好ましい。これらの樹脂の含有量が3質量%未満であると、室温抵抗値と抵抗変化率が低下する傾向になり、抵抗値再現性が不十分となる傾向になる。
【0034】
また、好ましくは2700MPa以下、より好ましくは2550MPa以下の曲げ弾性率を有する可撓性エポキシ樹脂を用いてサーミスタ素体2を形成してもよい。かかる可撓性エポキシ樹脂は商業的に入手することができ、例えば、リカレジンBPO20E、リカレジンBPO60E、リカレジンDME100、リカレジンDME200(以上、新日本理化社製、商品名)、EP4000、EP4005、EP4085(以上、旭電化工業社製、商品名)、YD−171、YD−716、YH−300、PG202(以上、東都化成(株)社製、商品名)が挙げられる。
【0035】
サーミスタ素体2には、可撓性エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂が含まれていてもよい。可撓性エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂としては、平均して1分子あたり2個以上のエポキシ基を有するものであれば、分子量や骨格構造等は、特に限定されるものではない。例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、カテコール、レゾルシノール等の多価フェノール、または、グリセリンやポリエチレングリコール等の多価アルコールと、エピクリルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジルエーテルが挙げられる。また、p−ヒドロキシ安息香酸やβ−ヒドロキシナフトエ酸などのヒドロキシカルボン酸と、エピクリルヒドリンとを反応させて得られるグリシジルエーテルエステル、あるいは、フタル酸やテレフタル酸などのポリカルボン酸と、エピクリルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジルエステルが挙げられる。さらに、エポキシ化フェノールノボラック樹脂、エポキシ化クレゾールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0036】
サーミスタ素体2の形成に用いられる硬化剤は、一般に使用される硬化剤を用いればよいが、その中でも、アミン系硬化剤よりも初期抵抗値を下げる効果を有する酸無水物系が好ましい。酸無水物系硬化剤として、例えば、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸、無水コハク酸、無水トリメット酸、無水ピロメリット酸、無水メチルナジック酸、無水マレイン酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物アルキルスチレン−無水マレイン酸共重合体、クロレンド酸無水物、テトラブロム無水フタル酸、ポリアゼライン酸無水物、ドデセニル無水コハク酸(DDSA)、オクテニル無水コハク酸(OSA)、ペンタデセニル無水コハク酸、オクチル無水コハク酸が挙げられる。
【0037】
これらの中でも、ドデセニル無水コハク酸(DDSA)、オクテニル無水コハク酸(OSA)、ペンタデセニル無水コハク酸、オクチル無水コハク酸を用いると、エポキシ樹脂に可撓性を付与することができる。
【0038】
さらに、サーミスタ素体2を形成する際に硬化促進剤を添加しても良い。硬化促進剤を加えることで、製造時において、硬化温度の低下や硬化に要する時間を短縮することが可能となる。硬化促進剤は、特に限定されるものではなく、例えば、第三アミン、アミンアダクト化合物、イミダゾールアダクト化合物、ほう酸エステル、ルイス酸、有機金属化合物、有機酸金属塩、イミダゾール等が挙げられる。
【0039】
また、本実施形態においては、エポキシ樹脂に可撓性を付与するために、反応性希釈剤、可塑剤等の添加剤を使用することができる。反応性希釈剤としては、例えば、モノエポキサイド化合物が挙げられる。モノエポキサイド化合物としては、n−ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p−sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、3級カルボン酸グリシジルエステルが挙げられる。可塑剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールが挙げられる。
【0040】
硬化剤の含有割合は、エポキシ樹脂に対する当量比(エポキシ樹脂:硬化剤)で、好ましくは1:0.5〜1:1.5、より好ましくは1:0.8〜1:1である。硬化剤の含有割合が1:0.5未満であると、硬化剤の不足により硬化反応が不十分となる傾向があり、一方、1:1.5を超えると、未反応の硬化剤が残存することにより所望の機能を有するエポキシ樹脂の硬化体が得難くなる傾向がある。
【0041】
さらに、サーミスタ素体2を構成する導電性粒子としては、表面に突起を有する導電性粒子を使用することが好ましい。突起の形状は、スパイク状が好ましい。スパイク状の突起を有する導電性粒子を使用すると、隣接粒子間におけるトンネル電流が流れやすくなるため、室温抵抗値を低く保つことが可能となる。さらに、真球状の導電性粒子に比べて、粒子の中心間距離が大きくなるため、急峻なPTC特性を呈することができる。また、上記特開平5−198404号公報に記載されている繊維状の導電性物質を使用した場合に比べ、抵抗値のばらつきを抑えることができる。
【0042】
また、導電性粒子の材質は、導電性の観点から、金属が好ましく、特に化学的安定性から、ニッケル金属が好ましい。導電性粒子の粒径は、高分子有機化合物との混合性、温度−抵抗特性、および、室温状態における低抵抗化を考慮し、0.5〜4μmが好ましい。0.5μm未満では、抵抗変化率が低下し、4μmを超えると、導電性粒子の分散性の低下や、室温抵抗値が大きくなるため、実用に適さなくなる。
【0043】
導電粒子の含有割合は、混合物の全質量に対して、好ましくは50〜90質量%、より好ましくは60〜80質量%である。導電粒子の含有割合が50質量%未満であると、導電パスが形成され難く抵抗値が増加する傾向にあり、一方、90質量%を超えると、導電パスが切断され難く動作温度における抵抗変化が起こり難くなる傾向にある。
【0044】
次に、本発明の有機正特性サーミスタ1の製造方法の一例を示す。
【0045】
まず、所定量のエポキシ樹脂、硬化剤、導電性粒子、及び、必要に応じて硬化促進剤などの添加剤を混合する(混合工程)。この混合工程の際に用いられる装置は、各種撹拌機、分散機、ミル等の公知のものが挙げられる。混合する時間は、特に限定されないが、通常、10〜60分間混合することで、各成分を分散させることができる。
【0046】
混合中に気泡が混入した場合は、真空脱泡を行うことが好ましい。また、粘度調節のために、反応性希釈剤やアルコールなどの一般的な有機溶媒を用いてもよい。
【0047】
次に、得られた混合物をスクリーン印刷等の方法により電極としての金属箔上に塗布する。さらに、別の金属箔で挟み、プレス成形することによりシート状にする。また、混合物をニッケルや銅等の金属箔電極間に流し込むことによりシート状にしてもよい。
【0048】
次に、得られたシートを加熱処理して硬化させる(硬化工程)。
【0049】
硬化工程において、硬化処理はオーブンを用いて100〜180℃で30〜300分間加熱することにより行うことができる。また、混合物のみをドクターブレード法やスクリーン印刷法などによりシート状に成形し、これを硬化したものに導電性ペースト等を塗布して電極を形成することもできる。
【0050】
得られたシート状の硬化体を所望の形状(例えば、3.6mm×9mm)に打ち抜くことにより、サーミスタを得ることができる(打ち抜き工程)。打ち抜き方法としては、通常の有機正特性サーミスタを打ち抜く方法であれば特に限定されることなく用いることができる。
【0051】
また、必要に応じて、打ち抜き工程によって得られたサーミスタの電極の表面に、それぞれリードを接合することにより、リードを有するサーミスタを作製できる。リード接合方法としては、通常の有機正特性サーミスタの製造方法において用いられるものであれば特に限定されることなく用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の好適な実施例について更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
本実施例の有機質正特性サーミスタは、図1のように少なくとも1対の対向する電極3と、その電極の間に配設されたサーミスタ素体2とからなる。エポキシ樹脂として、ビスフェノールAタイプの商品名EPICLON850(大日本インキ化学工業製、エポキシ当量190g/eq、曲げ弾性率2800MPa)を用いた。また、可撓性エポキシ樹脂として、商品名E4005(旭電化工業(株)製、エポキシ当量510g/eq)とゴム変性エポキシ樹脂の商品名EPR4023(旭電化工業(株)製、エポキシ当量222g/eq)と商品名EPR−21(旭電化工業(株)製、エポキシ等量210g/eq)を使用した。さらに、硬化剤としてメチルテトラヒドロ無水フタル酸系の商品名B570(大日本インキ化学工業製、酸無水物当量168g/eq)を用い、硬化促進剤として商品名PN−40J(味の素ファインテクノ製)を使用した。さらにまた、導電性粒子として、スパイク状の突起を有するフィラメント状ニッケル粒子の商品名Type255ニッケルパウダ(INCO社製、平均粒径2.2〜2.8μm、見かけ密度0.5〜0.65g/cm、比表面積0.68m/g)を使用した。
【0054】
有機質正特性サーミスタの作製方法、および、評価方法について以下に記す。
【0055】
可撓性エポキシ樹脂を含んだエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂に対し当量比で1:1の硬化剤と、エポキシ樹脂に対し1質量%の硬化促進剤とを、攪拌機を用いて攪拌混合し、混合物を作製した。この混合物に導電性粒子を60質量%添加し、再び混合攪拌を行ってサーミスタ素体の原料を作製した。
【0056】
このサーミスタ素体の原料をNi箔上に塗布し、さらにその上にもう一枚のNi箔を重ね合わせ、150℃に加熱してシート状の硬化物を得た。
【0057】
このシート状硬化物を3.6×9.0mmの形状に打ち抜き、本実施例の有機質正特性サーミスタを作製した。サーミスタ素体の厚みは、初期室温抵抗値が5〜6mΩとなるよう微調整した。このときのサーミスタ素体の厚みは、いずれも約0.25mmであった。
【0058】
この有機質正特性サーミスタを、電極−測定端子間の接触抵抗による測定誤差を除去するため4端子法により抵抗値測定を行い、抵抗値をモニターしながら、室温(25℃)から180℃まで2℃/minで加熱、その後2℃/minで室温まで冷却し、温度−抵抗曲線を測定した。この測定から、加熱前の室温状態における抵抗値(初期抵抗値)と抵抗変化率(初期抵抗値に対する180℃の抵抗値)を算出した。
【0059】
また、抵抗値再現性を評価するため、この素子に6V10Aの負荷を10秒間課し、その後、無負荷状態で350秒間放置することを1サイクルとする断続負荷を5回行い、負荷後の素子の室温抵抗値を測定した。
【0060】
さらに、有機質正特性サーミスタの信頼性評価として、約200℃の高温中に放置した後、室温に取り出し、素子の変形を観察した。いずれの実施例および比較例ともに、変形は全く見られなかった。
【0061】
次に各実施例、比較例の詳細について説明する。
【0062】
表1に実施例1〜12および比較例1〜7の有機質正特性サーミスタの詳細な条件および評価結果を示す。
【表1】

【0063】
表1に示す実施例および比較例の有機質正特性サーミスタの抵抗変化率は、10の7乗以上の特性が得られた。一方、すべての可撓性エポキシ樹脂に関して、可撓性エポキシ樹脂の配合比(質量)が大きくなるに伴い、断続負荷試験後の抵抗値が小さくなった。特に、可撓性エポキシ樹脂の配合比(質量)が、3質量%以上の実施例1〜12と2質量%以下の比較例1〜7とでは、断続負荷試験後の抵抗値の差が顕著であった。このことから、エポキシ樹脂に可撓性エポキシ樹脂を配合すると、可撓性エポキシ樹脂の種類によらず、抵抗値再現性が高くなることわかり、さらに、その配合比を3質量%以上にすると、その効果が顕著になることがわかった。
【0064】
次に、可撓性を有していないエポキシ樹脂を、商品名EPICLON830(大日本インキ化学工業製、エポキシ等量172g/eq)、商品名AER250(旭化成社製、エポキシ等量185g/eq)に変えて、実施例13〜18および比較例8〜13の有機質正特性サーミスタを作製し、特性評価を行った。実施例13〜18および比較例8〜13の詳細な条件と評価結果を表2に示す。
【表2】

【0065】
実施例13〜18の抵抗変化率は、10の7乗以上の特性が得られた。一方、比較例8〜13の抵抗変化率は、10の6乗と十分な特性は得られなかった。これは、サーミスタ素体の中に含まれる高分子有機化合物の主成分であるエポキシ樹脂の熱膨張性に依存して、抵抗変化率が変化したものであり、可撓性エポキシ樹脂の配合比が増大すると、可撓性エポキシ樹脂の熱膨張性により、抵抗変化率が大きくなることに起因していると考えられる。
【0066】
さらに、すべての可撓性エポキシ樹脂に関して、可撓性エポキシ樹脂の配合比(質量)が大きくなるに伴い、断続負荷試験後の抵抗値が小さくなった。特に、可撓性エポキシ樹脂の配合比(質量)が、3質量%以上の実施例13〜18と2質量%以下の比較例8〜13とでは、断続負荷試験後の抵抗値の差が顕著であった。このことから、エポキシ樹脂に可撓性エポキシ樹脂を配合すると、エポキシ樹脂の種類によらず、抵抗値再現性が高くなることがわかり、さらに、その配合比は、3質量%以上であるとその効果が顕著になることがわかった。
【0067】
以上の実施例1〜18から、本発明の有機質正特性サーミスタは、可撓性エポキシ樹脂であれば、本実施例に挙げたエポキシ樹脂に限らず、可撓性構造、例えば
−(CH(CH)CHO)−、
−(CH(CH)CHO)−、
−(CH−、
−(CHCHO)−、
−CHC(C)(CH)CH−、
−[(CHO]−、
のような鎖状構造を分子内に有するエポキシ樹脂や、ゴム変性エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、エポキシ化ポリオレフィン、ウレタン変性エポキシ樹脂、ポリチオール系、ポリオール系、ポリカルボキシル化合物の構造を有するエポキシ樹脂でも同様の効果が得られることは容易に推測できる。
【0068】
さらに、本発明の有機質正特性サーミスタは、可撓性を有する高分子有機化合物であれば、エポキシ樹脂に限らず同様の効果が得られることは、容易に推測できる。
【0069】
次に、エポキシ樹脂として、ビスフェノールAタイプ樹脂の商品名EPICLON850(大日本インキ化学工業製、エポキシ当量190g/eq、曲げ弾性率2800MPa)を使用した。また、脂環構造を有するエポキシ樹脂として、商品名E4080(旭電化工業製、エポキシ当量240g/eq)、商品名E4088S(旭電化工業製、エポキシ当量167g/eq)、および、商品名AK−601(日本化薬社製、153g/eq)を使用した。さらに、硬化剤としてメチルテトラヒドロ無水フタル酸である商品名B570(大日本インキ化学工業製、酸無水物当量168g/eq)を使用し、硬化促進剤として商品名PN−40J(味の素ファインテクノ製)を使用した。さらにまた、導電性粒子としてフィラメント状ニッケル粒子の商品名Type255ニッケルパウダ(INCO社製、平均粒径2.2〜2.8μm、見かけ密度0.5〜0.65g/cm、比表面積0.68m/g)を使用した。これらの混合物を用いて、実施例19〜30および比較例14〜19の有機質正特性サーミスタを作製した。実施例19〜30および比較例14〜19の有機質正特性サーミスタの詳細な条件と特性評価結果を表3に示す。
【表3】

【0070】
表3のように、実施例19〜30および比較例14〜19の有機質正特性サーミスタの抵抗変化率は、10の7乗以上の特性が得られた。さらに、すべての脂環構造を有するエポキシ樹脂に関して、脂環構造を有するエポキシ樹脂の配合比(質量)が大きくなるに伴い、断続負荷試験後の抵抗値が小さくなった。特に、脂環構造を有するエポキシ樹脂の配合比(質量)が、3質量%以上の実施例19〜30と2質量%以下の比較例14〜30とでは、断続負荷試験後の抵抗値の差が顕著であった。このことから、エポキシ樹脂に脂環構造を有するエポキシ樹脂を配合すると、脂環構造を有するエポキシ樹脂の種類によらず、抵抗値再現性が高くなることがわかり、さらに、その配合比は、3質量%以上であるとその効果が顕著になることがわかった。
【0071】
以上、実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、種々変形することができる。例えば、上記実施の形態および実施例では、副成分として、硬化促進剤としてPN−40Jのみを用いたが、他の成分を更に添加してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本発明によれば、低い室温抵抗値と、高い抵抗変化率を維持し、かつ、抵抗値再現性が高い有機質正特性サーミスタを提供することが可能になる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向して配置された1対の電極と、該電極間に配置された正の抵抗−温度特性を有するサーミスタ素体と、を備え、前記サーミスタ素体が可撓性エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂、硬化剤及び導電性粒子を含有する混合物の硬化物からなる、有機質正特性サーミスタ。
【請求項2】
前記サーミスタ素体が、前記エポキシ樹脂の全質量に対して、前記可撓性エポキシ樹脂を3〜100質量%含有する、請求項1記載の有機質正特性サーミスタ。
【請求項3】
互いに対向して配置された1対の電極と、該電極間に配置された正の抵抗−温度特性を有するサーミスタ素体と、を備え、前記サーミスタ素体が、2700MPa以下の曲げ弾性率を有する可撓性エポキシ樹脂と、導電性粒子と、を含有する混合物の硬化物からなる、有機質正特性サーミスタ。
【請求項4】
前記導電性粒子が表面に突起を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機質正特性サーミスタ。

【国際公開番号】WO2004/086421
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504103(P2005−504103)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004197
【国際出願日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】