説明

有機酸生産菌及び有機酸の製造方法

【課題】コハク酸などの有機酸及びそのポリマーを効率よく生産する細菌と、それを用いた該化合物の効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼの調節に関連するとされる、cg1630遺伝子の発現が低減し、ピルビン酸カルボキシラーゼ活性が増強するように改変されたコリネ型細菌、あるいはその処理物を、炭酸イオン若しくは重炭酸イオン又は二酸化炭素ガスを含有する反応液中で、有機原料に作用させることによって有機酸を生成させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な有機酸生産菌およびそれを用いた有機酸の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コハク酸などの有機酸を発酵により生産する場合、通常、Anaerobiospirillum(アナエロビオスピリラム)属、Actinobacillus(アクチノバチルス)属等の嫌気性細菌が用いられている(例えば、特許文献1又は2、非特許文献1参照)。嫌気性細菌を用いる場合は、生産物の収率が高いが、その一方では、増殖するために多くの栄養素を要求するために、培地中に多量のCSL(コーンスティープリカー)などの有機窒素源を添加する必要がある。これらの有機窒素源を多量に添加することは培地コストの上昇をもたらすだけでなく、生産物を取り出す際の精製コストの上昇にもつながり経済的でない。
【0003】
また、コリネ型細菌のような好気性細菌を好気性条件下で一度培養し、菌体を増殖させた後、集菌、洗浄し、静止菌体として酸素を通気せずに有機酸を生産する方法も知られている(例えば、特許文献3又は4参照)。この場合、菌体を増殖させるに当たっては、有機窒素の添加量が少なくてよく、簡単な培地で十分増殖できるため経済的ではあるが、目的とする有機酸の生成量、生成濃度、及び菌体当たりの生産速度の向上、製造プロセスの簡略化等、改善の余地があった。また、好気性細菌を用いた場合に、目的の有機酸以外にアミノ酸が副生するということも、有機酸の収量をさらに向上させる上での改善すべき点であった。また、有機酸の製造に用いる微生物については、遺伝子改変微生物(特許文献4又は5参照)も報告されていたが、有機酸の収量などのさらなる改善のために、新たな微生物の創出が求められていた。
【0004】
cg1630遺伝子はコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株のゲノム配列を示したGenBankのアクセション番号NC_006958の配列中にcg1630の番号(塩基番号は1521068-1521499)で登録されている遺伝子である。この遺伝子についてはほとんど研究がなされておらずその機能は不明であったが、最近、この遺伝子産物であるOdhIのリン酸化が2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性の調節に関連するという報告がなされた(非特許文献2)。しかしながら、この遺伝子と有機酸生産との関わりは全く不明であった。
【特許文献1】米国特許第5,143,834号公報
【特許文献2】米国特許第5,504,004号公報
【特許文献3】特開平11−113588号公報
【特許文献4】特開平11−196888号公報
【特許文献5】特開平11−206385号公報
【非特許文献1】International Journal of Systematic Bacteriology, vol. 49, p207-216、 1999年
【非特許文献2】Journal of Biological Chemistry, vol. 281, no. 18, p12300-12307, 2006年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、コハク酸などの有機酸を効率よく製造する新規な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、cg1630遺伝子の発現が
低減するように改変された細菌あるいはその処理物を、炭酸イオン、重炭酸イオンまたは二酸化炭素ガスを含有する反応液中で有機原料に作用させることにより、有機酸の生成量が増大することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)有機酸生産能を有し、cg1630遺伝子の発現が非改変株と比較して低減するように改変された細菌。
(2)染色体上のcg1630遺伝子が破壊された(1)の細菌。
(3)cg1630遺伝子が配列番号17の塩基配列と80%以上の相同性を有する遺伝子である、(1)または(2)の細菌。
(4)さらに、ラクテートデヒドロゲナーゼ活性が非改変株と比較して低減するように改変された、(1)〜(3)のいずれかの細菌。
(5)さらに、ピルビン酸カルボキシラーゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変された、(1)〜(4)のいずれかの細菌。
(6)さらに、アセテートキナーゼ、ホスフォトランスアセチラーゼ、ピルベートオキシダーゼおよびアセチルCoAハイドロラーゼから選択される1種類以上の酵素の活性が非改変株と比較して低減するように改変された、(1)〜(5)のいずれかの細菌。
(7)コリネ型細菌である、(1)〜(6)のいずれかの細菌。
(8)(1)〜(7)のいずれかの細菌、あるいはその処理物を、炭酸イオン、重炭酸イオン又は二酸化炭素ガスを含有する反応液中で有機原料に作用させることによって有機酸を生成させ、該有機酸を採取することを特徴とする有機酸の製造方法。
(9)有機原料を嫌気的雰囲気下で作用させることを特徴する、(8)の有機酸の製造方法。
(10)有機原料がグルコースまたはシュークロースである、(8)または(9)の有機酸の製造方法。
(11)有機酸がコハク酸である、(8)〜(10)のいずれかの有機酸の製造方法。
(12)(8)〜(11)のいずれかの方法により有機酸を製造する工程、及び前記工程で得られた有機酸を原料として重合反応を行う工程を含む、有機酸含有ポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
cg1630遺伝子の発現が低減するように改変された細菌あるいはその処理物を用いて有機酸を製造することにより、副生物を減少させ、有機酸の生成量を増大させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の細菌は、cg1630遺伝子の発現が低減するように改変された細菌であり、有機酸生産能を有する細菌である。
ここで、「有機酸生産能を有する」とは、該細菌を培地中で培養したときに該培地中に有機酸を生成蓄積することができることをいう。
有機酸としては、例えば、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、オキザロ酢酸、クエン酸、イソクエン酸、2−オキソグルタル酸、シス−アコニット酸、ピルビン酸、酢酸、アミノ酸などが挙げられるが、この中では、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、クエン酸、イソクエン酸、2−オキソグルタル酸、シス−アコニット酸およびピルビン酸が好ましく、コハク酸が特に好ましい。
【0010】
本発明の細菌は、本来的に有機酸生産能を有する細菌又は育種により有機酸生産能を付与された細菌において、cg1630遺伝子の発現を低減させる改変を行ったものでもよいし、
cg1630遺伝子の発現を低減させる改変を行うことにより有機酸生産能を有するようになったものでもよい。育種により有機酸生産能を付与する手段としては、変異処理、遺伝子組換え処理などが挙げられ、各有機酸について生合成酵素遺伝子の発現強化など公知の方法を採用することができるが、例えば、コハク酸生産能を付与する場合は、後述するようなラクテートデヒドロゲナーゼ活性を低減するような改変やピルビン酸カルボキシラーゼ活性を増強するような手段などが挙げられる。
【0011】
本発明に用いる細菌は、以下に示すような細菌を親株として用い、該親株を改変することによって得ることができる。親株の種類はcg1630遺伝子を保持し、有機酸を生産しうる細菌であれば特に限定されないが、コリネ型細菌(Coryneform Bacterium)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属細菌、ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌、ノカルディア(Nocardia)属細菌、又はストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌などが挙げられるが、コリネ型細菌がより好ましい。
コリネ型細菌は、これに分類されるものであれば特に制限されないが、コリネバクテリウム属に属する細菌、ブレビバクテリウム属に属する細菌又はアースロバクター属に属する細菌などが挙げられ、このうち好ましくは、コリネバクテリウム属又はブレビバクテリウム属に属するものが挙げられ、更に好ましくは、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)又はブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)に分類される細菌が挙げられる。
【0012】
本発明に用いる細菌の親株の特に好ましい具体例としては、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP−1497)、同MJ−233 AB−41(FERM BP−1498)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス ATCC6872、コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC31831、及びブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムATCC13869等が挙げられる。なお、ブレビバクテリウム・フラバムは、現在、コリネバクテリウム・グルタミカムに分類される場合もあることから(Lielbl, W., Ehrmann, M., Ludwig, W. and Schleifer, K. H., International Journal of
Systematic Bacteriology, 1991, vol. 41, p255-260)、本発明においては、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233株、及びその変異株MJ−233 AB−41株はそれぞれ、コリネバクテリウム・グルタミカムMJ−233株及びMJ−233 AB−41株と同一の株であるものとする。
ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233は、1975年4月28日に通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所(現独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)(〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受託番号FERM P-3068として寄託され、1981年5月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、FERM BP-1497の受託番号で寄託されている。
また、親株として用いられる上記細菌は、野生株だけでなく、UV照射やNTG処理等の通常の変異処理により得られる変異株、細胞融合もしくは遺伝子組換え法などの遺伝学的手法により誘導される組換え株などのいずれの株であってもよい。
【0013】
本発明に用いる細菌は、上記のような株を、cg1630遺伝子の発現が低減するように改変することによって得ることができる。
「cg1630遺伝子」とは、GenBankのアクセション番号NC_006958の配列中にcg1630の番号で登録されている遺伝子またはそのホモログ遺伝子であって、その発現を低下させることにより、宿主細菌の有機酸生産能を向上させることができる遺伝子をいう。なお、本明細書では、「cg1630遺伝子」を「OdhI遺伝子」とも称する。
「cg1630遺伝子の発現が低減する」とは、野生株や親株などの非改変株と比較してこの遺伝子の発現が低減されていることをいう。cg1630遺伝子の発現は、非改変株の30%以
下に低減されていることが好ましく、10%以下に低減されていることがより好ましい。cg1630遺伝子の発現は検出限界以下に低減されていてもよい。
cg1630遺伝子の発現が低減したことは、ノーザンハイブリダイゼーションやRT-PCRなどによってmRNAの量を測定することなどによって確認することができる
【0014】
cg1630遺伝子の発現が低減した株は、親株をN−メチル−N'−ニトローN−ニトロソグアニジン(NTG)や亜硝酸等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理し、cg1630遺伝子の発現が低減した株を選択することによって得ることができる。
また、cg1630遺伝子を用いて改変してもよい。具体的には、染色体上のcg1630遺伝子を破壊したり、プロモーターやシャインダルガルノ(SD)配列等の発現調節配列を改変したりすることなどによって達成される。
【0015】
以下に、コリネ型細菌においてcg1630遺伝子を破壊する方法について説明する。染色体上のcg1630遺伝子としては、例えば、配列番号17に示す塩基配列を含むDNAを挙げることができる。cg1630遺伝子の取得は、例えば、上記配列に基づき、合成オリゴヌクレオチドを合成し、コリネバクテリウム・グルタミカムの染色体DNAを鋳型としてPCR反応を行うことによってクローニングできる。染色体DNAは、DNA供与体である細菌から、例えば、斎藤、三浦の方法(H. Saito and K.Miura, Biochem.B iophys. Acta, 72, 619 (1963)、生物工学実験書、日本生物工学会編、97〜98頁、培風館、1992年参照)等により調製することができる。
【0016】
上記のようにして調製したcg1630遺伝子又はその一部を遺伝子破壊に使用することができる。ただし、遺伝子破壊に用いる遺伝子は破壊対象の細菌の染色体DNA上のcg1630遺伝子と相同組換えを起こす程度の相同性を有していればよいため、配列番号17と相同性を有する相同遺伝子も使用することができる。ここで、相同組換えを起こす程度の相同性とは、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。また、上記遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAであれば、相同組換えは起こり得る。ここで、ストリンジェントな条件としては、通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。
【0017】
上記のような遺伝子を使用し、例えば、cg1630遺伝子の部分配列を欠失し、正常Cg1630タンパク質を産生しないように改変した欠失型cg1630遺伝子を作製し、該遺伝子を含むDNAでコリネ型細菌を形質転換し、欠失型遺伝子と染色体上の遺伝子で組換えを起こさせることにより、染色体上のcg1630遺伝子を破壊することが出来る。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は既に確立しており、直鎖状DNAを用いる方法や温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法などがある(米国特許第6303383号明細書、又は特開平05-007491号公報)。また、上述のような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は、宿主上で複製能力を持たないプラスミドを用いても行うことが出来、コリネ型細菌内で複製能を持たないプラスミドとしては、エシェリヒア・コリで複製能力を持つプラスミドが好ましく、例えば、pHSG299(宝バイオ社製)pHSG399(宝バイオ社製)等が挙げられる。
【0018】
本発明の細菌は、cg1630遺伝子の発現低下に加えて、ラクテートデヒドロゲナーゼ(LDHともよぶ)活性が低減するように改変された細菌であってもよい。ここで、「LDH活性が低減された」とは、非改変株と比較してLDH活性が低下していることをいう。LDH活性は、非改変株と比較して、単位菌体重量当たり10%以下に低減化されていることが好ましい。また、LDH活性は完全に消失していてもよい。LDH活性が低下したことは、公知の方法(L.Kanarek and R.L.Hill, J. Biol. Chem.239, 4202 (1964))によりLDH活性を測定する
ことによって確認することができる。コリネ型細菌のLDH活性の低減した株の具体的な作製方法としては、特開平11−206385号公報に記載されている染色体への相同組換えによる方法、あるいは、sacB遺伝子を用いる方法(Schafer, A. et al. Gene 145 (1994) 69-73)等が挙げられる。LDH活性が低減し、かつ、cg1630遺伝子の発現が低減したコリネ型細菌は、例えば、LDH遺伝子が破壊された細菌を作製し、該細菌においてcg1630遺伝子の発現を低減させることにより得ることができる。ただし、LDH活性低減のための改変操作とcg1630遺伝子発現低減のため改変操作はどちらを先に行ってもよい。
【0019】
また、本発明に用いる細菌は、cg1630遺伝子の発現低下に加えて、ピルビン酸カルボキシラーゼ(以下、PCとも呼ぶ)の活性が増強するように改変された細菌であってもよい。「PC活性が増強される」とは、PC活性が野生株又は親株等の非改変株に対して、単位菌体重量あたり好ましくは1.5倍以上、より好ましくは3倍以上増加していることをいう。PC活性が増強されたことは、公知の方法(Magasanikの方法[J.Bacteriol., 158, 55-62, (1984)])によりPC活性を測定することによって確認することができる。
このような細菌は、例えば、cg1630遺伝子の発現が低減されたコリネ型細菌に、pc遺伝子を導入することにより得ることができる。なお、PC活性増強とcg1630遺伝子発現低減のための改変操作はいずれを先に行ってもよい。
【0020】
pc遺伝子の導入は、例えば、特開平11-196888号公報に記載の方法と同様にして、pc遺伝子を宿主細菌中で高発現させることにより行うことができる。具体的なpc遺伝子としては、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のpc遺伝子(Peters-Wendisch, P.G. et al. Microbiology, vol.144 (1998) p915-927)(配列番号19)などを用いることができる。また、pc遺伝子は、配列番号19の塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA、または配列番号19の塩基配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNAであって、PC活性を有するタンパク質をコードするDNAも好適に用いることができる。
【0021】
さらに、コリネバクテリウム・グルタミカム以外のコリネ型細菌、または他の微生物又は動植物由来のpc遺伝子を使用することもできる。特に、以下に示す微生物または動植物由来のpc遺伝子は、その配列が既知(以下に文献を示す)であり、上記と同様にしてハイブリダイゼーションにより、あるいはPCR法によりそのORF部分を増幅することによって、取得することができる。
ヒト [Biochem.Biophys.Res.Comm., 202, 1009-1014, (1994)]
マウス[Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 90, 1766-1779, (1993)]
ラット[GENE, 165, 331-332, (1995)]
酵母;サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)
[Mol.Gen.Genet., 229, 307-315, (1991)]
シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)
[DDBJ Accession No.; D78170]
バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)
[GENE, 191, 47-50, (1997)]
リゾビウム・エトリ(Rhizobium etli)
[J.Bacteriol., 178, 5960-5970, (1996)]
【0022】
上述したようなpc遺伝子を含むDNA断片を、適当なプラスミド、例えば宿主細菌内でプラスミドの複製増殖機能を司る遺伝子を少なくとも含むプラスミドベクターに導入することにより、宿主細菌内でpc遺伝子の高発現が可能な組換えプラスミドを得ることができる。ここで、上記組み換えプラスミドにおいて、pc遺伝子を発現させるためのプロモーターはpc遺伝子の転写を開始させるための塩基配列であればいかなるプロモーターであって
も良いが、例えば、tacプロモーターや、trcプロモーターなどが挙げられる。
【0023】
コリネ型細菌に遺伝子を導入するために使用できるプラスミドの具体例としては、例えば、特開平3−210184号公報に記載のプラスミドpCRY30;特開平2−72876号公報及び米国特許5,185,262号明細書公報に記載のプラスミドpCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KE及びpCRY3KX;特開平1−191686号公報に記載のプラスミドpCRY2およびpCRY3;特開昭58−67679号公報に記載のpAM330;特開昭58−77895号公報に記載のpHM1519;特開昭58−192900号公報に記載のpAJ655、pAJ611及びpAJ1844;特開昭57−134500号公報に記載のpCG1;特開昭58−35197号公報に記載のpCG2;特開昭57−183799号公報に記載のpCG4およびpCG11等を挙げることができる。それらの中でもコリネ型細菌の宿主−ベクター系で用いられるプラスミドベクターとしては、コリネ型細菌内でプラスミドの複製増殖機能を司る遺伝子とコリネ型細菌内でプラスミドの安定化機能を司る遺伝子とを有するものが好ましく、例えば、プラスミドpCRY30、pCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KEおよびpCRY3KX等が好適に使用される。
【0024】
このようなプラスミドベクターの適当な部位にpc遺伝子を挿入して得られる組み換えベクターで、コリネ型細菌、例えばブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)MJ-233株(FERM BP−1497)を形質転換することにより、pc遺伝子の発現が増強されたコリネ型細菌が得られる。なお、PC活性の増強は、公知の相同組換え法によって染色体上でpc遺伝子を多コピー化させることによっても行うことができる。形質転換は、例えば、電気パルス法(Res. Microbiol., Vol.144, p.181-185, 1993)等によって行うことができる。
また、PC活性の増強は染色体上でpc遺伝子のプロモーターを強力なプロモーターに置換することによっても達成されうる。
【0025】
さらに、本発明の細菌は、cg1630遺伝子の発現低下に加えて、アセテートキナーゼ(以下、ACKとも呼ぶ)、ホスフォトランスアセチラーゼ(以下、PTAとも呼ぶ)、ピルベートオキシダーゼ(以下、POXBとも呼ぶ)およびアセチルCoAハイドロラーゼ(以下、ACHとも呼ぶ)からなる群より選ばれる1種類以上の酵素の活性が低減するように改変された細菌であってもよい。
【0026】
PTAとACKはいずれか一方を活性低下させてもよいが、酢酸の副生を効率よく低減させるためには、両方の活性を低下させることがより好ましい。
「PTA活性」とは、アセチルCoAにリン酸を転移してアセチルリン酸を生成する反応を触媒する活性をいう。「PTA活性が低減するように改変された」とは、PTA活性が、非改変株、例えば野生株よりも低くなったことをいう。PTA活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、PTA活性は完全に消失していてもよい。PTA活性が低下したことは、Klotzschらの方法(Klotzsch, H. R., Meth Enzymol. 12, 381-386(1969))により、PTA活性を測定することによって確認することができる。
【0027】
「ACK活性」は、アセチルリン酸とADPから酢酸を生成する反応を触媒する活性をいう。「ACK活性が低減するように改変された」とは、ACK活性が、非改変株、例えば野生株よりも低くなったことをいう。ACK活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、ACK活性は完全に消失していてもよい。ACK活性が低下したことは、Ramponiらの方法(Ramponi G., Meth. Enzymol. 42,409-426(1975))により、ACK活性を測定することによって確
認することができる。
【0028】
なお、コリネバクテリウム・グルタミカム(ブレビバクテリウム・フラバムに分類されるものも含む)においては、Microbiology. 1999 Feb;145 (Pt 2):503-13に記載されているように、両酵素はpta−ackオペロン(GenBank Accession No. X89084)にコードされているため、pta遺伝子を破壊した場合は、PTA及びACKの両酵素の活性を低下させることができる。
【0029】
PTAおよびACKの活性低下は、公知の方法、例えば、相同組換えを利用する方法やsacB遺伝子を用いる方法(Schafer, A. et al. Gene 145 (1994) 69-73)に従ってこれらの遺伝子を破壊することによって行うことができる。具体的には、特開2006-000091号公報や後述の実施例に開示された方法に従って行うことができる。pta遺伝子およびack遺伝子としては、上記GenBank Accession No. X89084の塩基配列を有する遺伝子のほか、宿主染色体上のpta遺伝子およびack遺伝子と相同組換えを起こす程度の相同性を有する遺伝子を用いることもできる。ここで、相同組換えを起こす程度の相同性とは、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。また、上記遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNA同士であれば、相同組換えは起こり得る。
【0030】
「POXB活性」は、ピルビン酸と水から酢酸を生成する反応を触媒する活性をいう。「POXB活性が低減するように改変された」とは、POXB活性が、非改変株、例えば野生株よりも低くなったことをいう。POXB活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。「低下」には活性が完全に消失した場合も含まれる。POXB活性は、Changらの方法(Chang Y. and Cronan J. E. JR, J.Bacteriol.151,1279-1289(1982))により、活性を測定することによって確認することができる。
【0031】
POXB活性の低下は、公知の方法、例えば、相同組換えを利用する方法やsacB遺伝子を用いる方法(Schafer, A. et al. Gene 145 (1994) 69-73)に従ってpoxB遺伝子を破壊することにより行うことができる。具体的には、WO2005/113745や後述の実施例に開示された方法に従って行うことができる。poxB遺伝子としては、例えば、GenBank Accession No.Cgl2610(GenBank Accession No. BA000036の2776766-2778505番目の相補鎖)の塩基配列を有する遺伝子が挙げられるが、宿主細菌の染色体DNA上のpoxB遺伝子と相同組換えを起こす程度の相同性を有していればよいため、該配列の相同遺伝子も使用することができる。ここで、相同組換えを起こす程度の相同性とは、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。また、上記遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNA同士であれば、相同組換えは起こり得る。
【0032】
「ACH活性」は、アセチルCoAと水から酢酸を生成する反応を触媒する活性をいう。「ACH活性が低減するように改変された」とは、ACH活性が、非改変株、例えば野生株よりも低くなったことをいう。ACH活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。尚、「低下」には活性が完全に消失した場合も含まれる。ACH活性は、Gergely,J.,らの方法(Gergely,J., Hele,P. & Ramkrishnan,C.V. (1952) J.Biol.Chem. 198 p323-334)により測定することが出来る。
【0033】
ACH活性の低下は、公知の方法、例えば、相同組換えを利用する方法やsacB遺伝子を用いる方法(Schafer, A. et al. Gene 145 (1994) 69-73)に従ってach遺伝子を破壊することによって行うことができる。具体的には、WO2005/113744や後述の実施例に開示された方法に従って行うことができる。ach遺伝子としては、例えば、GenBank Accession No
.Cgl2569(GenBank Accession No.BA000036の2729376..2730917番目の相補鎖)の塩基配列を有する遺伝子が挙げられるが、宿主細菌の染色体DNA上のach遺伝子と相同組換えを起こす程度の相同性を有していればよいため、該配列の相同遺伝子も使用することができる。ここで、相同組換えを起こす程度の相同性とは、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。また、上記遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNA同士であれば、相同組換えは起こり得る。
【0034】
なお、本発明において使用する細菌は、cg1630遺伝子を低減させる改変に加え、上記改変のうちの2種類以上の改変を組み合わせて得られる細菌であってもよい。複数の改変を行う場合、その順番は問わない。
【0035】
2.有機酸の製造方法
本発明の有機酸の製造方法は、上記細菌またはその処理物を、炭酸イオン、重炭酸イオンまたは二酸化炭素ガスを含有する反応液中で有機原料に作用させ、有機酸を生成させ、これを採取することを特徴とする有機酸の製造方法である。製造しうる有機酸の種類及び好ましい有機酸の例は上述したとおりである。
【0036】
有機酸の製造に上記細菌を用いるに当たっては、寒天培地等の固体培地で斜面培養したものを直接反応に用いても良いが、上記細菌を予め液体培地で培養(種培養)したものを用いるのが好ましい。種培養に用いる培地は、細菌の培養に用いられる通常の培地を用いることができる。例えば、硫酸アンモニウム、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム等の無機塩からなる組成に、肉エキス、酵母エキス、ペプトン等の天然栄養源を添加した一般的な培地を用いることができる。種培養後の菌体は、遠心分離、膜分離等によって回収した後に、有機酸の製造反応に用いることが好ましい。なお、種培養した細菌を有機原料を含む培地で増殖させながら、有機原料と反応させることによって有機酸を製造してもよいし、予め増殖させて得られた菌体を有機原料を含む反応液中で有機原料と反応させることによっても有機酸を製造してもよい。
【0037】
本発明では細菌の菌体の処理物を使用することもできる。菌体の処理物としては、例えば、菌体をアクリルアミド、カラギーナン等で固定化した固定化菌体、菌体を破砕した破砕物、その遠心分離上清、又はその上清を硫安処理等で部分精製した画分等が挙げられる。
【0038】
本発明の製造方法に用いる有機原料としては、本細菌が資化してコハク酸を生成させうる炭素源であれば特に限定されないが、通常、ガラクトース、ラクトース、グルコース、フルクトース、グリセロール、シュークロース、サッカロース、デンプン、セルロース等の炭水化物;グリセリン、マンニトール、キシリトール、リビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質が用いられ、このうちグルコース又はシュークロースが好ましく、特にグルコースが好ましい。
【0039】
また、上記発酵性糖質を含有する澱粉糖化液、糖蜜なども使用される。これらの発酵性糖質は、単独でも組み合わせても使用できる。上記有機原料の使用濃度は特に限定されないが、コハク酸の生成を阻害しない範囲で可能な限り高くするのが有利であり、通常、5〜30%(W/V)、好ましくは10〜20%(W/V)の範囲内で反応が行われる。また、反応の進行に伴う上記有機原料の減少にあわせ、有機原料の追加添加を行っても良い。
【0040】
上記有機原料を含む反応液としては特に限定されず、例えば、細菌を培養するための培地であってもよいし、リン酸緩衝液等の緩衝液であってもよい。反応液は、窒素源や無機塩などを含む水溶液であることが好ましい。ここで、窒素源としては、本細菌が資化して
コハク酸を生成させうる窒素源であれば特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物が挙げられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛等の金属塩が用いられる。また、ビオチン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加する。また、反応時の発泡を抑えるために、培養液には市販の消泡剤を適量添加しておくことが望ましい。
【0041】
反応液には、例えば上記した有機原料、窒素源、無機塩などのほかに、炭酸イオン、重炭酸イオン又は二酸化炭素ガス(炭酸ガス)を含有させる。炭酸イオン又は重炭酸イオンは、中和剤としても用いることのできる炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウムなどから供給されるが、必要に応じて、炭酸若しくは重炭酸又はこれらの塩或いは二酸化炭素ガスから供給することもできる。炭酸又は重炭酸の塩の具体例としては、例えば炭酸マグネシウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム等が挙げられる。そして、炭酸イオン、重炭酸イオンは、1~500mM、好ましくは2~300mM、さらに好ましくは3〜200mMの濃度で添加する。二酸化炭素ガスを含有させる場合は、溶液1L当たり50mg〜25g、好ましくは100mg〜15g、さらに好ましくは150mg〜10gの二酸化炭素ガスを含有させる。
【0042】
反応液のpHは、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等を添加することによって調整することができる。本反応におけるpHは、通常、pH5〜10、好ましくはpH6〜9.5であることが好ましいので、反応中も必要に応じて反応液のpHはアルカリ性物質、炭酸塩、尿素などによって上記範囲内に調節する。
【0043】
本反応に用いる細菌の生育至適温度は、通常、25℃〜35℃である。反応時の温度は、通常、25℃〜40℃、好ましくは30℃〜37℃である。反応に用いる菌体の量は、特に規定されないが、1〜700g/L、好ましくは10〜500g/L、さらに好ましくは20〜400g/Lが用いられる。反応時間は1時間〜168時間が好ましく、3時間〜72時間がより好ましい。
【0044】
細菌の種培養時は、通気、攪拌し酸素を供給することが必要である。一方、コハク酸など有機酸の生成反応は、通気、攪拌して行ってもよいが、通気せず、酸素を供給しない嫌気的雰囲気下で行ってもよい。ここで言う嫌気的雰囲気下は、例えば容器を密閉して無通気で反応させる、窒素ガス等の不活性ガスを供給して反応させる、二酸化炭素ガス含有の不活性ガスを通気する等の方法によって得ることができる。
【0045】
以上のような細菌反応により、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸又はピルビン酸などの有機酸が反応液中に生成蓄積する。反応液(培養液)中に蓄積した有機酸は、常法に従って、反応液より採取することができる。具体的には、例えば、遠心分離、ろ過等により菌体等の固形物を除去した後、イオン交換樹脂等で脱塩し、その溶液から結晶化あるいはカラムクロマトグラフィーにより精製するなどして、有機酸を採取することができる。
【0046】
さらに本発明においては、上記した本発明の方法によりコハク酸などの有機酸を製造した後に、得られた有機酸を原料として重合反応を行うことにより有機酸含有ポリマーを製造することができる。近年、環境に配慮した工業製品が数を増す中、植物由来の原料を用いたポリマーに注目が集まってきており、特に、本発明において製造されるコハク酸は、ポリエステルやポリアミドといったポリマーに加工されて用いる事が出来る。コハク酸含
有ポリマーとして具体的には、ブタンジオールやエチレングリコールなどのジオールとコハク酸を重合させて得られるコハク酸ポリエステル、ヘキサメチレンジアミンなどのジアミンとコハク酸を重合させて得られるコハク酸ポリアミドなどが挙げられる。
また、本発明の製造法により得られる有機酸または該有機酸を含有する組成物は食品添加物や医薬品、化粧品などに用いることができる。
【0047】
[実施例]
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【実施例1】
【0048】
<PoxB欠損、ACH欠損、PTA欠損、ACK欠損の作製>
(A)MJ233株ゲノムDNAの抽出
A培地[尿素 2g、(NH42SO4 7g、KH2PO4 0.5g、K2HPO4 0.5g、MgSO4・7H2O 0.5g、FeSO4・7H2O 6mg、MnSO4・4−5H2O6mg、ビオチン 200μg、チアミン 100μg、イーストエキストラクト 1g、カザミノ酸 1g、グルコース 20g、蒸留水1Lに溶解]10mLに、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233株を対数増殖期後期まで培養し、遠心分離(10000g、5分)により菌体を集めた。得られた菌体を10mg/mLの濃度にリゾチームを含む10mM NaCl/20mMトリス緩衝液(pH8.0)/1mM EDTA・2Na溶液0.15mLに懸濁した。次に、上記懸濁液にプロテイナーゼKを、最終濃度が100μg/mLになるように添加し、37℃で1時間保温した。さらにドデシル硫酸ナトリウムを最終濃度が0.5%になるように添加し、50℃で6時間保温して溶菌した。この溶菌液に、等量のフェノール/クロロフォルム溶液を添加し、室温で10分間ゆるやかに振盪した後、全量を遠心分離(5,000×g、20分間、10〜12℃)し、上清画分を分取し、酢酸ナトリウムを0.3Mとなるように添加した後、2倍量のエタノールを加え混合した。遠心分離(15,000×g、2分)により回収した沈殿物を70%エタノールで洗浄した後、風乾した。得られたDNAに10mMトリス緩衝液(pH7.5)−1mM EDTA・2Na溶液5mLを加え、4℃で一晩静置し、以後のPCRの鋳型DNAに使用した。
【0049】
(B)poxB 破壊用プラスミドの構築
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株由来poxB遺伝子の内部配列を欠失したDNA断片の取得は、上記(A)で調製したDNAを鋳型とし、全ゲノム配列が報告されているコリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13032株の該遺伝子周辺の配列(GenBank Database Accession No.BA000036)を基に設計した合成DNA(配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4)を用いたクロスオーバーPCRによって行った。poxB遺伝子の5’末端側領域のDNA断片は配列番号1と配列番号2、3’末端側領域のDNA断片は配列番号3と配列番号4の合成DNAをそれぞれプライマーとしてPCRを行った。反応液組成:鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)0.5μL、1倍濃度添付バッファー、0.4μM 各々プライマー、1mM MgSO4、0.2μM dNTPsを混合し、全量を50μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で45秒からなるサイクルを30回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は2分、最終サイクルの68℃での保温は3分とした。次に得られた二つの増幅産物を鋳型として配列番号1および配列番号4の合成DNAをプライマーとしてPCRを行った。反応液組成:鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)0.5μL、1倍濃度添付バッファー、0.4μM 各々プライマー、1mM MgSO4、0.2μM dNTPsを混合し、全量を50μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー P
TC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で1分20秒からなるサイクルを30回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は2分、最終サイクルの68℃での保温は3分とした。得られたpoxB遺伝子の内部配列が欠失したDNA断片はQIAquick PCR Purification
Kit(QIAGEN製)を用いて精製後、制限酵素XhoIおよびSa
cIで切断した。これによって生じた約1.0kbのDNA断片は0.8%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することで検出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いてゲルから回収した。このDNA断片を、pKMB1(sacB遺伝子を含むプラスミド:特開2005−95169)を制限酵素XhoIおよびSacIで切断して調製したDNAと混合し、ライゲー
ションキットver.2(宝バイオ製)を用いて連結した。得られたプラスミドDNAで大腸菌(DH5α株)を形質転換し、50μg/mLカナマシンおよび50μg/mLX−Galを含むLB寒天培地に塗抹した。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素XhoIおよびSacIで切断することにより約1.0kbの挿入断片が認められ、これをpOXB11と命名した(図1)。
【0050】
(C)ach 破壊用プラスミドの構築
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株由来ach遺伝子の内部配列を欠失したDNA断片の取得は、上記(A)で調製したDNAを鋳型とし、全ゲノム配列が報告されているコリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13032株の該遺伝子周辺の配列(GenBank Database Accession No.BA000036)を基に設計した合成DNA(配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8)を用いたクロスオーバーPCRによって行った。ach遺伝子の5’末端側領域のDNA断片は配列番号5と配列番号6、3’末端側領域のDNA断片は配列番号7と配列番号8の合成DNAをそれぞれプライマーとしてPCRを行った。反応液組成:鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)0.5μL、1倍濃度添付バッファー、0.4μM 各々プライマー、1mM MgSO4、0.2μM dNTPsを混合し、全量を50μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で45秒からなるサイクルを30回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は2分、最終サイクルの68℃での保温は3分とした。次に得られた二つの増幅産物を鋳型として配列番号5および配列番号8の合成DNAをプライマーとしてPCRを行った。反応液組成:鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)0.5μL、1倍濃度添付バッファー、0.4μM 各々プライマー、1mM MgSO4、0.2μM dNTPsを混合し、全量を50μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で1分20秒からなるサイクルを30回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は2分、最終サイクルの68℃での保温は3分とした。得られたach遺伝子の内部配列が欠失したDNA断片はQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN製)を用いて精製後、制限酵素SalIおよびSacIで
切断した。これによって生じた約1.0kbのDNA断片は0.8%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することで検出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いてゲルから回収した。このDNA断片を、pKMB1(特開2005−95169)を制限酵素XhoIおよびSa
cIで切断して調製したDNAと混合し、ライゲーションキットver.2(宝バイオ製)を用いて連結した。得られたプラスミドDNAで大腸菌(DH5α株)を形質転換し、50μg/mLカナマシンおよび50μg/mLX−Galを含むLB寒天培地に塗抹し
た。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素MluIおよびSacIで切断することにより約1.1kbの挿入断片が認められ、これをpACH22と命名した(図2)。
【0051】
(D)pta−ack 破壊用プラスミドの構築
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株由来pta−ack遺伝子の内部配列を欠失したDNA断片の取得は、上記(A)で調製したDNAを鋳型とし、全ゲノム配列が報告されているコリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13032株の該遺伝子周辺の配列(GenBank Database Accession No.BA000036)を基に設計した合成DNA(配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12)を用いたクロスオーバーPCRによって行った。pta−ack遺伝子の5’末端側領域のDNA断片は配列番号9と配列番号10、3’末端側領域のDNA断片は配列番号11と配列番号12の合成DNAをそれぞれプライマーとしてPCRを行った。反応液組成:鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)0.5μL、1倍濃度添付バッファー、0.4μM 各々プライマー、1mM MgSO4、0.2μM dNTPsを混合し、全量を50μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で45秒からなるサイクルを30回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は2分、最終サイクルの68℃での保温は3分とした。次に得られた二つの増幅産物を鋳型として配列番号9および配列番号12の合成DNAをプライマーとしてPCRを行った。反応液組成:鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)0.5μL、1倍濃度添付バッファー、0.4μM 各々プライマー、1mM MgSO4、0.2μM dNTPsを混合し、全量を50μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で1分20秒からなるサイクルを30回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は2分、最終サイクルの68℃での保温は3分とした。得られたpta−ack遺伝子の内部配列が欠失したDNA断片はQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN製)を用いて精製後、制限酵素SacIおよびSphIで切断した。これによって生じた約1.1kbの
DNA断片は0.8%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することで検出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いてゲルから回収した。このDNA断片を、pKMB1(特開2005−95169)を制限酵素SacIおよびSphIで切断して調製したDNAと混合し、ライ
ゲーションキットver.2(宝バイオ製)を用いて連結した。得られたプラスミドDNAで大腸菌(DH5α株)を形質転換し、50μg/mLカナマシンおよび50μg/mLX−Galを含むLB寒天培地に塗抹した。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素SacIおよびSphIで切断することにより約1.1kbの挿入断片が認められ、これをpTACK1と命名した(図3)。
【実施例2】
【0052】
<PoxB/ACH/PTA/ACK欠損株の作製>
(A)PoxB欠損株の作製
poxB遺伝子欠損株作製の供試菌株は、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔLDH(LDH遺伝子が破壊された株:特開2005−95169)とし、形質転換用プラスミドDNAは、上記実施例1の(B)で構築したpOXB11を用いて塩化カルシウム法(Journal of Molecular Biology,53,159,1
970)により形質転換した大腸菌JM110株から調製した。ブレビバクテリウムの形質転換は、電気パルス法(Res.Microbiol.Vol.144,p.181−185,1993)によって行い、得られた形質転換体をカナマイシン 50μg/mLを含むLBG寒天培地に塗抹した。この培地上に生育した株は、pOXB11がブレビバクテリウム・フラバムMJ233株菌体内で複製不可能なプラスミドであるため、該プラスミドのpoxB遺伝子とブレビバクテリウム・フラバムMJ233株ゲノム上の同遺伝子との間で相同組み換えを起こした結果、同ゲノム上に該プラスミドに由来するカナマイシン耐性遺伝子およびsacB遺伝子が挿入されているはずである。次に、上記相同組み換え株をカナマイシン25μg/mLを含むLBG培地にて液体培養した。この培養液の菌体数約100万相当分を10%ショ糖含有LBG培地に塗抹にした結果、2回目の相同組み換えによりsacB遺伝子が脱落しショ糖非感受性となったと考えられる株を数十個得た。この様にして得られた2回目の相同組み換え株の中には、そのpoxB遺伝子がpOXB11に由来する変異型に置き換わったものと野生型に戻ったものが含まれる。poxB遺伝子が変異型であるか野生型であるかの判定は、poxB遺伝子をPCR増幅するためのプライマー(配列番号1および配列番号4)を用いて分析することによって行うことができ、野生型では1518bp、欠失領域を持つ変異型では981bpのDNA断片を生成する。上記方法にてショ糖非感受性となった菌株を分析した結果、変異型遺伝子のみを有する株を選抜し、該株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔPoxB/ΔLDHと命名した。
【0053】
(B)ACH欠損株の作製
ach遺伝子欠損株作製の供試菌株は、上記(A)で作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔPoxB/ΔLDHとし、形質転換用プラスミドDNAは、上記実施例1の(C)で構築したpACH22を用いて塩化カルシウム法(Journal of Molecular Biology,53,159,1970)により形質転換した大腸菌JM110株から調製した。ブレビバクテリウムの形質転換および2回相同組換え体の選抜は、上記(A)示した方法で行い、数十個のショ糖非感受性コロニーを得た。これらのうちach遺伝子が変異型であるか野生型であるかの判定は、ach遺伝子をPCR増幅するためのプライマー(配列番号5および配列番号8)を用いて分析することによって行うことができ、野生型では1228bp、欠失領域を持つ変異型では1003bpのDNA断片を生成する。上記方法にてショ糖非感受性となった菌株を分析した結果、変異型遺伝子のみを有する株を選抜し、該株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔACH/ΔPoxB/ΔLDHと命名した。
【0054】
(C)PTA−ACK欠損株の作製
pta−ack遺伝子欠損株作製の供試菌株は、上記(B)で作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔACH/ΔPoxB/ΔLDHとし、形質転換用プラスミドDNAは、上記実施例1の(D)で構築したpTACK1を用いて塩化カルシウム法(Journal of Molecular Biology,53,159,1970)により形質転換した大腸菌JM110株から調製した。ブレビバクテリウムの形質転換および2回相同組換え体の選抜は、上記(A)示した方法で行い、数十個のショ糖非感受性コロニーを得た。これらのうちpta−ack遺伝子が変異型であるか野生型であるかの判定は、pta−ack遺伝子をPCR増幅するためのプライマー(配列番号9および配列番号12)を用いて分析することによって行うことができ、野生型では1645bp、欠失領域を持つ変異型では1086bpのDNA断片を生成する。上記方法にてショ糖非感受性となった菌株を分析した結果、変異型遺伝子のみを有する株を選抜し、該株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔPTA/ΔACK/ΔACH/ΔPoxB/ΔLDHと命名した。
【実施例3】
【0055】
<OdhI破壊株の作製>
(A)OdhI 破壊用プラスミドの構築
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株由来odhI遺伝子断片の取得は、上記(A)で調製したDNAを鋳型とし、全ゲノム配列が報告されているコリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13032株の該遺伝子の配列(GenBank Database Accession No.BA000036(塩基番号1519601..1520032))を基に設計した合成DNA(配列番号13および配列番号14)を用いたPCRによって行った。反応液組成:鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)0.5μL、1倍濃度添付バッファー、0.4μM各々プライマー、1mM MgSO4、0.2μMdNTPsを混合し、全量を50μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で45秒からなるサイクルを30回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は2分、最終サイクルの68℃での保温は3分とした。得られたOdhI遺伝子の内部配列のDNA断片はChargeSwitch PCR Clean−Up Kit(インビトロジェン社製)を用いて精製後、制限酵素KpnIおよび
SphIで切断した。これによって生じた約0.4kbのDNA断片は0.9%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することで検出し、DNA Fragment Purification Kit MagExtractor(東洋紡績社製)を用いてゲルから回収した。このDNA断片を、大腸菌ベクターpHSG298(宝バイオ社製)を制限酵素KpnIおよびSphIで切断して調製したDNAと混合し
、ライゲーションキットver.2(宝バイオ社製)を用いて連結した。得られたプラスミドDNAで大腸菌(DH5α株)を形質転換し、50μg/mLカナマシンおよび50μg/mLX−Galを含むLB寒天培地に塗抹した。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素KpnIおよびSphIで切断することにより約0.4kbの挿入断片が認められたものを選抜し、これをpOdhI1と命名した(図4)。
【0056】
(B)OdhI破壊株の作製
odhI遺伝子破壊株作製の供試菌株は、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔLDH(LDH遺伝子が破壊された株:特開2005−95169)と上記実施例2の(C)で作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔPTA/ΔACK/ΔACH/ΔPoxB/ΔLDHとし、形質転換に用いるプラスミドDNAは上記(A)で構築したpOdhI1を用いて形質転換した大腸菌MJ110株から調製した。ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔLDH株、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔPTA/ΔACK/ΔACH/ΔPoxB/ΔLDHの形質転換は電気パルス法(Res.Microbiol.Vol.144,p.181−185,1993)によって行い、得られた形質転換体を50μg/mLカナマイシンを含むLBG寒天培地[トリプトン10g、イーストエキストラクト5g、NaCl5g、グルコース20g、および寒天15gを蒸留水1Lに溶解]に塗抹した。この培地上に生育した株は、pOdhI1がブレビバクテリウム・フラバムMJ233株菌体内で複製不可能なプラスミドであるため、該プラスミドのOdhI遺伝子とブレビバクテリウム・フラバムMJ−233株ゲノム上の同遺伝子との間で相同組み換えを起こした結果、同ゲノム上に該プラスミドに由来するカナマイシン耐性遺伝子が挿入されているはずである。この様にして得られたカナマイシン耐性株がそのゲノム上に存在するodhI遺伝子とプラスミドpOdhI1に存在する該遺伝子との間で相同組み換えを起こしたものであるか否かの確認は、配列番号15および配列番号16を用いたコロニーPCRにより行った。鋳型DNAは、コロニーを50μLの滅菌水に懸濁した後、5分間煮沸処理した上清とした。反応液組成:鋳型DNA1μL、Ex−TaqDNAポリメラーゼ(宝バイオ社製)0.2μL、1倍濃度添付バッフ
ァー、0.2μM 各々プライマー、0.2μM dNTPsを混合し、全量を20μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社製)を用い、98℃で10秒、60℃で20秒、72℃で1分からなるサイクルを30回繰り返した。但し、1サイクル目の95℃での保温は2分、最終サイクルの72℃での保温は3分とした。上記方法にてカナマイシン耐性菌株を分析した結果、966bpのPCR増幅産物を得る株を選抜し、これをそれぞれブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔOdhI/ΔLDH、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔOdhI/ΔPTA/ΔACK/ΔACH/ΔPoxB/ΔLDHと命名した。

【実施例4】
【0057】
<OdhI破壊株の評価>
100mLの種培養培地(尿素:4g、硫酸アンモニウム:14g、リン酸1カリウム:0.5g、リン酸2カリウム0.5g、硫酸マグネシウム・7水和物:0.5g、硫酸第一鉄・7水和物:20mg、硫酸マンガン・水和物:20mg、D−ビオチン:200μg、塩酸チアミン:200μg、酵母エキス:1g、カザミノ酸:1g、及び蒸留水:1000mLの培地100mL)を500mLの三角フラスコにいれ、120℃、20分加熱滅菌した。これを室温まで冷やし、あらかじめ滅菌した50%グルコース水溶液を4mL、無菌濾過した5%カナマイシン水溶液を50μL添加し、実施例3(B)で作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔOdhI/ΔLDH株、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔOdhI/ΔPTA/ΔACK/ΔACH/ΔPoxB/ΔLDH株をそれぞれ接種して24時間30℃にて種培養した。但し、対照株となるブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔLDH株と上記実施例2の(C)で作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔPTA/ΔACK/ΔACH/ΔPoxB/ΔLDH株をそれぞれ培養する場合は、カナマイシン添加は除いた。
得られた全培養液を10000×g、5分の遠心分離により集菌し、菌体懸濁培地(硫酸マグネシウム・7水和物:1g、硫酸第一鉄・7水和物:40mg、硫酸マンガン・水和物:40mg、D−ビオチン:400μg、塩酸チアミン:400μg、リン酸一アンモニウム:0.8g、リン酸二アンモニウム:0.8g、塩化カリウム:0.3g、硫酸アンモニウム66g、及び蒸留水:1000mL)にOD660の吸光度が80になるように懸濁した。4ml反応器に前記の菌体懸濁液0.5mlに、基質溶液(グルコース:100g、炭酸マグネシウム:194g、及び蒸留水:1000mL)0.5mLを加えて、5〜6%炭酸ガス雰囲気下、35℃で22時間反応させた。
反応後、上述の条件で遠心分離し、上清の有機酸濃度を分析した結果、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔOdhI/ΔLDH株は、対照株であるブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔLDH株と比較して、消費グルコース当たりのコハク酸収率が7.5%増加し、同コハク酸当たりのジカルボン酸の副生量が84%(但し、ジカルボン酸とはリンゴ酸、フマル酸の合計値)、α−ケトグルタル酸の副生量が88%、アミノ酸の副生量が78%減少していた(但し、アミノ酸とはアラニン、バリン、グルタミン酸の合計値)。またブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔOdhI/ΔPTA/ΔACK/ΔACH/ΔPoxB/ΔLDH株は、対照株であるブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔPTA/ΔACK/ΔACH/ΔPoxB/ΔLDH株と比較して、消費グルコース当たりのコハク酸収率が15%増加し、同コハク酸当たりのジカルボン酸の副生量が39%(但し、ジカルボン酸とはリンゴ酸、フマル酸の合計値)、α−ケトグルタル酸の副生量が89%、アミノ酸の副生量が62%減少していた(但し、アミノ酸とはアラニン、バリン、グルタミン酸の合計値)。odhI遺伝子の破壊によって明らかなコハク酸収率の向上およびリンゴ酸、フマル酸、α−ケトグルタル酸、アミノ酸の副生量低減の効果が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】プラスミドpOXB11の構築手順を示す図。
【図2】プラスミドpACH22の構築手順を示す図。
【図3】プラスミドpTACK1の構築手順を示す図。
【図4】プラスミドpOdhI1の構築手順を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸生産能を有し、cg1630遺伝子の発現が非改変株と比較して低減するように改変された細菌。
【請求項2】
染色体上のcg1630遺伝子が破壊された請求項1に記載の細菌。
【請求項3】
cg1630遺伝子が配列番号17の塩基配列と80%以上の相同性を有する遺伝子である、請求項1または2に記載の細菌。
【請求項4】
さらに、ラクテートデヒドロゲナーゼ活性が非改変株と比較して低減するように改変された、請求項1〜3のいずれか一項に記載の細菌。
【請求項5】
さらに、ピルビン酸カルボキシラーゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変された、請求項1〜4のいずれか一項に記載の細菌。
【請求項6】
さらに、アセテートキナーゼ、ホスフォトランスアセチラーゼ、ピルベートオキシダーゼおよびアセチルCoAハイドロラーゼから選択される1種類以上の酵素の活性が非改変株と比較して低減するように改変された、請求項1〜5のいずれか一項に記載の細菌。
【請求項7】
コリネ型細菌である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の細菌。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の細菌、あるいはその処理物を、炭酸イオン、重炭酸イオン又は二酸化炭素ガスを含有する反応液中で有機原料に作用させることによって有機酸を生成させ、該有機酸を採取することを特徴とする有機酸の製造方法。
【請求項9】
有機原料を嫌気的雰囲気下で作用させることを特徴する、請求項8に記載の有機酸の製造方法。
【請求項10】
有機原料がグルコースまたはシュークロースである、請求項8または9に記載の有機酸の製造方法。
【請求項11】
有機酸がコハク酸である、請求項8〜10のいずれか一項に記載の有機酸の製造方法。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか一項に記載の方法により有機酸を製造する工程、及び前記工程で得られた有機酸を原料として重合反応を行う工程を含む、有機酸含有ポリマーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−67629(P2008−67629A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248279(P2006−248279)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】